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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】高分解能多重反射飛行時間型質量分析器
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/40 20060101AFI20240604BHJP
   H01J 49/06 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
H01J49/40 600
H01J49/06 700
H01J49/06 100
【請求項の数】 23
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023035444
(22)【出願日】2023-03-08
(65)【公開番号】P2023131159
(43)【公開日】2023-09-21
【審査請求日】2023-03-28
(31)【優先権主張番号】2203183.5
(32)【優先日】2022-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】2300355.1
(32)【優先日】2023-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】508306565
【氏名又は名称】サーモ フィッシャー サイエンティフィック (ブレーメン) ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】ハミッシュ スチュワート
(72)【発明者】
【氏名】ドミトリー グリンフェルド
(72)【発明者】
【氏名】ベルント ハーゲドルン
(72)【発明者】
【氏名】ロバート オスターマン
【審査官】後藤 慎平
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-141063(JP,A)
【文献】特表2007-526596(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 40/00-49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多重反射飛行時間型質量分析器を動作させる方法であって、前記多重反射飛行時間型質量分析器は、
第1の方向Xに互いに離間して対向する2つのイオンミラーであって、各ミラーは、第1の端部と第2の端部との間でドリフト方向Yに概ね沿って細長く、前記ドリフト方向Yは前記第1の方向Xに直交する、2つのイオンミラーと、
イオンを前記イオンミラー間の空間内に注入するためのイオン注入器であって、前記イオン注入器は、前記イオンミラーの前記第1の端部の近傍に位置する、イオン注入器と、
イオンが前記イオンミラー間で複数回の反射を完了した後に、前記イオンを検出するための検出器であって、前記検出器は、前記イオンミラーの前記第1の端部の近傍に位置する、検出器と、
前記イオンミラーの前記第1の端部の近傍に位置する偏向器と、を備え、
前記方法は、
(i)イオンを前記イオン注入器から前記イオンミラー間の前記空間内に注入することであって、前記イオンは、前記イオンが(a)前記偏向器から前記イオンミラーの前記第2の端部に向かって前記ドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度を前記イオンミラーの前記第2の端部の近傍で反転させ、(c)前記ドリフト方向Yに沿って前記偏向器に戻るようにドリフトする間に、前記イオンミラー間で前記方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる第1のサイクルを完了する、注入することと、
(ii)前記イオンが、(a)前記偏向器から前記イオンミラーの前記第2の端部に向かって前記ドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度を前記イオンミラーの前記第2の端部の近傍で反転させ、(c)前記ドリフト方向Yに沿って前記偏向器に戻るようにドリフトする間に、前記イオンミラー間で前記方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる更なるサイクルを前記イオンに完了させるように、前記偏向器を使用して、前記イオンの前記ドリフト方向速度を反転させることと、
(iii)工程(ii)を1回以上繰り返すことと、次いで、
(iv)前記イオンを検出のために前記偏向器から前記検出器に移動させることと、を含み、
前記方法は、前記イオンが合計で奇数回のサイクルを完了した後にのみ、前記イオンを検出のために前記偏向器から前記検出器に移動させること、及び、合計で偶数回のサイクルを完了したイオンが前記偏向器から前記検出器に移動することを防止することを含む、方法。
【請求項2】
前記偏向器は、イオンビームに隣接して配置された1つ以上の台形又はプリズム状の電極を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法は、前記イオンの前記ドリフト方向速度が前記偏向器によって合計で偶数回反転された後にのみ、前記イオンを検出のために前記偏向器から前記検出器に移動させることを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記分析器は、前記偏向器内に配置されたドリフト集束レンズを備え、前記方法は、
前記イオンが前記イオンミラー間の前記空間内に注入されるときに、第1の電圧を前記ドリフト集束レンズに印加することと、
前記偏向器が前記イオンの前記ドリフト方向速度を反転させるために使用されるときに、異なる第2の電圧を前記ドリフト集束レンズに印加することと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
多重反射飛行時間型質量分析器を動作させる方法であって、前記多重反射飛行時間型質量分析器は、
第1の方向Xに互いに離間して対向する2つのイオンミラーであって、各ミラーは、第1の端部と第2の端部との間でドリフト方向Yに概ね沿って細長く、前記ドリフト方向Yは前記第1の方向Xに直交する、2つのイオンミラーと、
イオンを前記イオンミラー間の空間内に注入するためのイオン注入器であって、前記イオン注入器は、前記イオンミラーの前記第1の端部の近傍に位置する、イオン注入器と、
イオンが前記イオンミラー間で複数回の反射を完了した後に、前記イオンを検出するための検出器であって、前記検出器は、前記イオンミラーの前記第1の端部の近傍に位置する、検出器と、
前記イオンミラーの前記第1の端部の近傍に位置する偏向器と、
前記偏向器内に配置されたドリフト集束レンズと、を備え、
前記方法は、
(i)イオンを前記イオン注入器から前記イオンミラー間の前記空間内に注入することであって、前記イオンは、前記イオンが(a)前記偏向器から前記イオンミラーの前記第2の端部に向かって前記ドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度を前記イオンミラーの前記第2の端部の近傍で反転させ、(c)前記ドリフト方向Yに沿って前記偏向器に戻るようにドリフトする間に、前記イオンミラー間で前記方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる第1のサイクルを完了する、注入することと、
(ii)前記イオンが、(a)前記偏向器から前記イオンミラーの前記第2の端部に向かって前記ドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度を前記イオンミラーの前記第2の端部の近傍で反転させ、(c)前記ドリフト方向Yに沿って前記偏向器に戻るようにドリフトする間に、前記イオンミラー間で前記方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる更なるサイクルを前記イオンに完了させるように、前記偏向器を使用して、前記イオンの前記ドリフト方向速度を反転させることと、
(iii)任意選択的に、工程(ii)を1回以上繰り返すことと、次いで、
(iv)前記イオンを検出のために前記偏向器から前記検出器に移動させることと、を含み、
前記偏向器を使用して、前記イオンの前記ドリフト方向速度を反転させること(ii)は、偏向電圧を前記偏向器に印加し、それにより前記イオンが最初に前記偏向器に入った前記ドリフト方向速度と反対のドリフト方向速度でイオンを前記偏向器から出させることを含み、
前記方法は、
前記イオンが前記イオンミラー間の前記空間内に注入されるときに、前記イオン注入器からの拡大するイオンビームをコリメートするように構成された第1の電圧を前記ドリフト集束レンズに印加することと、
前記偏向器が前記イオンの前記ドリフト方向速度を反転させるために使用されるときに、更なるサイクルごとに前記イオンビームのコリメーションを維持するように構成された異なる第2の電圧を前記ドリフト集束レンズに印加することと、を更に含む、方法。
【請求項6】
前記イオンが検出のために前記偏向器から前記検出器に移動させられるときに、前記第2の電圧又は異なる第3の電圧を前記ドリフト集束レンズに印加することを更に含む、請求項又はに記載の方法。
【請求項7】
偏向電圧が、前記イオンが前記偏向器に入った前記ドリフト方向速度と反対のドリフト方向速度でイオンを前記偏向器から出させる、請求項1又はに記載の方法。
【請求項8】
偏向電圧が、前記イオンの前記ドリフト方向速度をおよそゼロに低減させることにより、イオンが前記第1の方向Xに前記偏向器を出て、イオンミラーから前記偏向器内に戻るように反射され、前記偏向器が、前記イオンの前記ドリフト方向速度をゼロから、前記イオンが最初に前記偏向器に入ったときの前記ドリフト方向速度と反対のドリフト方向速度に変化させるように作用する、請求項1又はに記載の方法。
【請求項9】
多重反射飛行時間型質量分析器を動作させる方法であって、前記多重反射飛行時間型質量分析器は、
第1の方向Xに互いに離間して対向する2つのイオンミラーであって、各ミラーは、第1の端部と第2の端部との間でドリフト方向Yに概ね沿って細長く、前記ドリフト方向Yは前記第1の方向Xに直交する、2つのイオンミラーと、
イオンを前記イオンミラー間の空間内に注入するためのイオン注入器であって、前記イオン注入器は、前記イオンミラーの前記第1の端部の近傍に位置する、イオン注入器と、
イオンが前記イオンミラー間で複数回の反射を完了した後に、前記イオンを検出するための検出器であって、前記検出器は、前記イオンミラーの前記第1の端部の近傍に位置する、検出器と、
前記イオンミラーの前記第1の端部の近傍に位置する偏向器と、を備え、
前記方法は、
(i)イオンを前記イオン注入器から前記イオンミラー間の前記空間内に注入することであって、前記イオンは、前記イオンが(a)前記偏向器から前記イオンミラーの前記第2の端部に向かって前記ドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度を前記イオンミラーの前記第2の端部の近傍で反転させ、(c)前記ドリフト方向Yに沿って前記偏向器に戻るようにドリフトする間に、前記イオンミラー間で前記方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる第1のサイクルを完了する、注入することと、
(ii)前記イオンが、(a)前記偏向器から前記イオンミラーの前記第2の端部に向かって前記ドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度を前記イオンミラーの前記第2の端部の近傍で反転させ、(c)前記ドリフト方向Yに沿って前記偏向器に戻るようにドリフトする間に、前記イオンミラー間で前記方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる更なるサイクルを前記イオンに完了させるように、前記偏向器を使用して、前記イオンの前記ドリフト方向速度を反転させることと、
(iii)任意選択的に、工程(ii)を1回以上繰り返すことと、次いで、
(iv)前記イオンを検出のために前記偏向器から前記検出器に移動させることと、を含み、
前記偏向器を使用して、前記イオンの前記ドリフト方向速度を反転させること(ii)は、電圧を前記偏向器に印加し、それにより前記イオンの前記ドリフト方向速度をおよそゼロに低減させることであって、前記低減させることにより、イオンが、前記第1の方向Xに前記偏向器を出て、イオンミラーから前記偏向器内に戻るように反射されると、前記偏向器が、前記イオンの前記ドリフト方向速度をゼロから、前記イオンが最初に前記偏向器に入ったときの前記ドリフト方向速度と反対のドリフト方向速度に変化させるように作用する、低減させること、を含む、方法。
【請求項10】
前記イオンミラーは、前記ドリフト方向Yにおけるそれらの長さの少なくとも一部分に沿って、前記方向Xにおいて互いから一定でない距離にあり、前記イオンミラーの前記第2の端部に向かうイオンの前記ドリフト方向速度は、前記2つのミラーの互いからの前記一定でない距離から生じる電界によって対抗され、前記電界は、前記イオンに、前記イオンミラーの前記第2の端部の近傍で前記イオンのドリフト方向速度を反転させ、前記偏向器に向かって前記ドリフト方向に沿って戻るようにドリフトさせる、請求項1、又はに記載の方法。
【請求項11】
前記偏向器は、第1の偏向器であり、前記分析器は、前記イオンミラーの前記第2の端部の近傍に位置する第2の偏向器を備え、前記第2の偏向器は、前記イオンに、前記イオンミラーの前記第2の端部の近傍で前記イオンのドリフト方向速度を反転させ、前記第1の偏向器に向かって前記ドリフト方向に沿って戻るようにドリフトさせるように構成されている、請求項1、又はに記載の方法。
【請求項12】
前記方法は、
電圧を前記第2の偏向器に印加し、それにより前記イオンの前記ドリフト方向速度をおよそゼロに低減させることであって、前記低減させることにより、イオンが前記第1の方向Xに前記第2の偏向器を出て、イオンミラーから前記第2の偏向器内に戻るように反射され、前記第2の偏向器が、前記イオンの前記ドリフト方向速度をゼロから、前記イオンが最初に前記第2の偏向器に入ったときの前記ドリフト方向速度とは反対のドリフト方向速度に変化させるように作用する、低減させること、によって、前記第2の偏向器を使用して、前記イオンの前記ドリフト方向速度を反転させること、を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記イオンを前記偏向器から前記検出器に移動させること(iv)は、電圧を前記偏向器に印加し、それにより前記イオンを前記検出器に向かう方向に前記偏向器から出させることを含む、請求項1、又はに記載の方法。
【請求項14】
イオンを前記分析器の上流で選択又はフィルタリングし、それにより、前記注入器によって受け取られ、前記分析器に注入される前記イオンが、選択された質量電荷比(m/z)範囲内にあるようにすること、を更に含む、請求項1、又はに記載の方法。
【請求項15】
前記分析器を別の動作モードで動作させることを更に含み、
イオンを前記イオン注入器から前記イオンミラー間の前記空間内に注入することであって、前記イオンは、(a)前記偏向器から前記イオンミラーの前記第2の端部に向かって前記ドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度を前記イオンミラーの前記第2の端部の近傍で反転させ、(c)前記ドリフト方向Yに沿って前記偏向器に戻るようにドリフトする間に、前記イオンミラー間で前記方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる、注入することと、次いで、
前記イオンを検出のために前記偏向器から前記検出器に移動させることと、を含む、請求項1、又はに記載の方法。
【請求項16】
前記偏向器に印加される電圧を制御することによって、前記分析器の動作をズーム動作モードと他の動作モードとの間で切り替えることを更に含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
プロセッサ上で実行されたとき、請求項1、又はに記載の方法を実行するコンピュータソフトウェアコードを記憶している、非一時的コンピュータ可読記憶媒体。
【請求項18】
質量分析計のための制御システムであって、前記制御システムは、前記質量分析計に請求項1、又はに記載の方法を実行させるように構成されている、制御システム。
【請求項19】
多重反射飛行時間型質量分析器であって、
第1の方向Xに互いに離間して対向する2つのイオンミラーであって、各ミラーは、第1の端部と第2の端部との間でドリフト方向Yに概ね沿って細長く、前記ドリフト方向Yは前記第1の方向Xに直交する、2つのイオンミラーと、
イオンを前記イオンミラー間の空間内に注入するためのイオン注入器であって、前記イオン注入器は、前記イオンミラーの前記第1の端部の近傍に位置する、イオン注入器と
イオンが前記イオンミラー間で複数回の反射を完了した後に、前記イオンを検出するための検出器であって、前記検出器は、前記イオンミラーの前記第1の端部の近傍に位置する、検出器と、
前記イオンミラーの前記第1の端部の近傍に位置する偏向器と、
制御システムであって、
(i)前記イオン注入器から前記イオンミラー間の前記空間内へのイオンの注入を引き起こすことであって、前記注入を引き起こすことにより、前記イオンは、前記イオンが(a)前記偏向器から前記イオンミラーの前記第2の端部に向かって前記ドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度を前記イオンミラーの前記第2の端部の近傍で反転させ、(c)前記ドリフト方向Yに沿って前記偏向器に戻るようにドリフトする間に、前記イオンミラー間で前記方向Xに複数の反射を有するジグザグイオン経路をたどる第1のサイクルを完了する、注入を引き起こすことと、
(ii)前記イオンが、(a)前記偏向器から前記イオンミラーの前記第2の端部に向かって前記ドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度を前記イオンミラーの前記第2の端部の近傍で反転させ、(c)前記ドリフト方向Yに沿って前記偏向器に戻るようにドリフトする間に、前記イオンミラー間で前記方向Xに複数の反射を有するジグザグイオン経路をたどる更なるサイクルを前記イオンに完了させるように、前記偏向器に前記イオンの前記ドリフト方向速度を反転させることと、
(iii)工程(ii)を1回以上繰り返すことと、次いで、
(iv)前記イオンを検出のために前記偏向器から前記検出器に移動させることと、を行うように構成された、制御システムと、を備え、
前記制御システムは、前記イオンが合計で奇数回のサイクルを完了した後にのみ、前記イオンを検出のために前記偏向器から前記検出器に移動させるように構成されており、
前記制御システムは、合計で偶数回のサイクルを完了したイオンが前記偏向器から前記検出器に移動することを防止するように構成されている、多重反射飛行時間型質量分析器。
【請求項20】
複数の可能な異なる電圧のうちの選択された電圧を前記偏向器に印加するように構成された電圧源を更に備え、
前記制御システムは、電圧供給部に第1の電圧を前記偏向器に印加させることによって、前記偏向器に前記イオンの前記ドリフト方向速度を反転させるように構成されており、
制御システムは、前記電圧供給部に第2の異なる電圧を前記偏向器に印加させることによって、前記イオンを前記偏向器から前記検出器に移動させるように構成されている、請求項19に記載の分析器。
【請求項21】
前記偏向器は、イオンビームに隣接して配置された1つ以上の台形又はプリズム状の電極を備える、請求項19又は20に記載の分析器。
【請求項22】
質量分析計であって、
イオン源、並びに
請求項19又は20に記載の多重反射飛行時間型質量分析器、を備える、質量分析計。
【請求項23】
前記イオン源と前記分析器との間に配置された質量選択器又はフィルタであって、前記質量選択器又はフィルタは、イオンを選択又はフィルタリングし、それにより、前記注入器によって受け取られ、前記分析器に注入されるイオンは、選択された質量電荷比(m/z)範囲内にあるようにするように構成されている、質量選択器又はフィルタを、更に備える、
請求項22に記載の質量分析計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛行時間型質量分析(time-of-flight mass spectrometry、ToF-MS)及び飛行時間型(time-of-flight、ToF)分析器の分野に関し、特に、多重反射飛行時間型(multi-reflection time-of-flight、MR-ToF)分析器に関する。
【背景技術】
【0002】
多重反射飛行時間(MR-ToF)分析器は、典型的には、ドリフト方向Yに沿って各々配置された2つの細長いイオンミラーを含み、イオンミラーは、直交するX方向に離間されている。イオンは、分析器に沿ってドリフト方向Yに通過するとき、2つのイオンミラー間でX方向に複数回反射する。イオンは、最終的に検出器によって検出され、それらの質量電荷比(m/z)は、分析器を通るそれらのドリフト時間から決定される。
【0003】
分析物イオンの分離を増加させ、かつそれらの正確な質量割り当てを改善するために、分析器の分解能を増加させることが望ましいことがある。一般に、分析器の分解能は、分析器を通るイオン飛行経路の長さ、及び検出器におけるイオンの到着時間分散によって制限される。
【0004】
文献A.Verenchikov,et al.,Journal of Applied Solution Chemistry and Modelling,2017,6,1-22には、一組の周期レンズを使用してイオンビームを集束させることにより、イオンに分析器内でドリフト方向Yに複数のサイクルを行わせることができる、MR-ToF分析器のための「ズームモード」が記載されている。サイクル数Nを増加させると、分析器内でイオンが通るイオン飛行経路の長さが増加し、それによって、分析器の分解能が増加する。
【0005】
多重反射飛行時間型(MR-ToF)分析器の改善の余地が残っていると考えられる。
【発明の概要】
【0006】
第1の態様は、多重反射飛行時間型(MR-ToF)質量分析器を動作させる方法を提供し、本分析器は、
第1の方向Xに互いに離間して対向する2つのイオンミラーであって、各ミラーは、第1の端部と第2の端部との間でドリフト方向Yに概ね沿って細長く、ドリフト方向Yは第1の方向Xに直交する、2つのイオンミラーと、
イオンをイオンミラー間の空間内に注入するためのイオン注入器であって、イオン注入器は、イオンミラーの第1の端部の近傍に位置する、イオン注入器と、
イオンがイオンミラー間で複数回の反射を完了した後に、イオンを検出するための検出器であって、検出器は、イオンミラーの第1の端部の近傍に位置する、検出器と、
イオンミラーの第1の端部の近傍に位置する偏向器と、を備え、
本方法は、
(i)イオンをイオン注入器からイオンミラー間の空間内に注入することであって、イオンは、イオンが(a)偏向器からイオンミラーの第2の端部に向かってドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、(c)ドリフト方向Yに沿って偏向器に戻るようにドリフトする間に、イオンミラー間で方向Xに複数(K)回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる第1のサイクルを完了する、注入することと、
(ii)イオンが(a)偏向器からイオンミラーの第2の端部に向かってドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、(c)ドリフト方向Yに沿って偏向器に戻るようにドリフトする間に、イオンミラー間で方向Xに複数(K)回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる更なるサイクルをイオンに完了させるように、偏向器を使用して、イオンのドリフト方向速度を反転させることと、
(iii)任意選択的に、工程(ii)を1回以上繰り返すことと、次いで、
(iv)イオンを検出のために偏向器から検出器に移動させることと、を含む。
【0007】
本方法は、イオンが合計で奇数回のサイクルを完了した後にのみ、イオンを検出のために偏向器から検出器に移動させることを含み得る。
【0008】
実施形態は、多重反射飛行時間(MR-ToF)質量分析器を動作させる方法を提供する。分析器は、第1の方向Xに離間して互いに対向する2つの細長いイオンミラーを備え、各ミラーは、イオンミラーの第1の端部と第2の端部との間のドリフト方向Yに沿って細長く、ドリフト方向Yは第1の方向Xに直交する。質量分析器はまた、イオン注入器と、検出器と、イオンミラーの第1の端部の近傍に位置する偏向器とを備える。
【0009】
特定の実施形態は、傾斜ミラー型MR-ToF及び単一集束レンズ型MR-ToF(以下でより詳細に記載する)など、イオンビームがその飛行経路の大部分にわたって比較的広く(ドリフト方向Yに)広がることが可能なMR-ToF質量分析器に関する。イオンビームをその飛行経路に沿って集束された状態に保つように構成された一組の周期レンズを含むMR-ToFと比較すると、これらの分析器は、分析器内の空間電荷効果が著しく低減されるという利点を有する。
【0010】
分析器は、「通常」動作モードで動作され得、それによって、イオンは、イオン注入器から分析器のイオンミラー間の空間内に注入される。イオンは、イオンミラーのうちの1つで反射され得、次いで、偏向器に移動し得る。次いで、イオンは、(a)偏向器からイオンミラーの第2の端部に向かってドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、(c)ドリフト方向Yに沿って偏向器に戻るようにドリフトする間に、イオンミラー間で方向Xに複数(K)回の反射を有するジグザグイオン経路を採り得る。次いで、イオンは、検出のために偏向器から検出器に移動させられ得る。
【0011】
実施形態は、本明細書で「ズーム」動作モードと称される追加の動作モードで分析器を動作させる方法を提供する。本方法では、イオンは、分析器内で複数(N)サイクルを完了させられ、各サイクルにおいて、イオンは、偏向器からイオンミラーの反対側の(第2の)端部に向かってドリフト方向Yにドリフトし、次いで、偏向器に戻る。各サイクルにおいて、イオンはまた、イオンミラー間でX方向に複数(K)回の反射を完了する。そのため、各サイクルにおいて、イオンは、イオンミラー間の空間を通るジグザグイオン経路を採る。
【0012】
本方法では、初期サイクルは、イオンをイオンミラー間の空間内に注入することによって開始される。イオンは、イオンミラーのうちの1つで反射され得、次いで、偏向器に移動し得る。次いで、イオンは、(a)偏向器からイオンミラーの第2の端部に向かってドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、(c)ドリフト方向Yに沿って偏向器に戻るようにドリフトする間に、イオンミラー間で方向Xに複数(K)回の反射を有するジグザグイオン経路を採る。
【0013】
イオンがこの初期サイクルを完了した後、偏向器を使用して、(イオンミラーの第1の端部の近傍で)イオンのドリフト方向速度を反転させることによって、各更なるサイクルが開始される。これを行うために、イオンが最初に偏向器に入ったときのドリフト方向速度とは反対のドリフト方向速度でイオンを偏向器から出させる適切な電圧が偏向器に印加され得る。
【0014】
イオンが分析器内で所望の(複数の)回数(N)のサイクルを完了した後、イオンは、検出のために偏向器から検出器に移動することが可能になる。これを行うために、イオンが検出器に向かう方向に偏向器を出されるように、偏向器から電圧が除去され得る(又は適切な電圧が偏向器に印加され得る)。イオンは、検出器に移動する(及び検出器によって検出される)前に、イオンミラーのうちの(他方の)一方で反射され得る。
【0015】
この「ズーム」動作モードは、分析器内で(注入器と検出器との間で)イオンが通るイオン経路の長さを増加させ、それによって、有益なことに、分析器の分解能を増加させる効果を有する。
【0016】
しかしながら、上述したように、分析器の分解能は、分析器を通るイオン飛行経路の長さだけでなく、検出器におけるイオンの到着時間分散によっても制限される。この点に関して、本発明者らは、偏向器における各反射が、イオンの集束面の傾斜として現れる飛行時間摂動を生み出すことがあることを認識した。これは、次に、分析器の分解能を厳しく制限することがある。この問題は、一組の周期レンズを含むMR-ToF分析器では生じなかったが、それは、これらの分析器では、イオンビームがその飛行経路に沿って集束されたままであるからである。
【0017】
この点に関して、本発明者らは、分析器がドリフト集束される場合(「通常」動作モードを容易にする場合のように)、第2のドリフト反射が、第1のドリフト反射を相殺する飛行時間誤差を生じさせ、より一般的には、飛行時間誤差が偶数回の反射で相殺されることを更に認識した。
【0018】
そのため、いくつかの実施形態によれば、ズームモードでは、イオンは、イオンが合計で奇数回のサイクル(偶数回のサイクルではない)を完了した後にのみ、すなわち、イオンのドリフト方向速度が偏向器によって合計で偶数回(奇数回ではない)反転された後にのみ、検出のために検出器に送られる。
【0019】
更なる実施形態では、偏向器を使用して、イオンのドリフト方向速度を偶数回反転させることによって飛行時間摂動を相殺するのではなく、ドリフト方向速度の各反転によって引き起こされる飛行時間摂動は、代わりに、イオンのドリフト方向速度をおよそゼロに低減させる効果を有する電圧を偏向器に印加することによって源において除去される。これにより、イオンが第1のX方向に偏向器を出て、イオンがイオンミラーから偏向器に戻るように反射される。イオンが偏向器に戻ると、偏向器上の(同じ)電圧は、イオンのドリフト方向速度をゼロから、イオンが最初に偏向器に入ったときのドリフト方向速度と反対のドリフト方向速度に変化させるように作用する。このようにして、イオンのドリフト方向速度は、飛行時間摂動を導入することなく、「2工程」モードで偏向器によって反転される。
【0020】
しかしながら、これらの実施形態のうちのいくつかでは、各サイクル後、イオンは、反対側から(X方向に)偏向器に戻ることになる。これは、イオンのドリフト方向速度が偏向器によって1回だけ(又はより一般的には奇数回)反転された後、イオンは検出器に取り出され得ず、注入器には役に立たないことを意味する。そのため、再び、いくつかの実施形態によれば、ズームモードでは、イオンは、イオンが合計で奇数回のサイクル(偶数回のサイクルではない)を完了した後にのみ、すなわち、イオンのドリフト方向速度が偏向器によって合計で偶数回(奇数回ではない)反転された後にのみ、検出のために検出器に送られる。
【0021】
なおも更なる実施形態では、分析器は、イオンミラーのいずれかの端部に位置する第1の偏向器及び第2の偏向器を備え、両方の偏向器は、この「2工程」ドリフト方向速度反転モードを使用して動作される。これにより、イオンは、正しい側から(X方向に)第1の偏向器に戻り、任意の(奇数又は偶数)サイクルの後に検出器に取り出されることが可能になる。
【0022】
実施形態は、MR-ToF分析器(例えば、イオンビームが比較的広く拡散することを可能なタイプの)をズームモードで動作させる方法を提供し、ズームモードでは、偏向器における反射によって誘発された飛行時間摂動は相殺又は除去され、それにより、飛行時間摂動は、検出器におけるイオンの到着時間分散の有意な増加を引き起こさないことが理解されよう。そのため、これは、ズームモードにおける分析器の高分解能動作を容易にする。更に、これは、分析器がドリフト集束されたままであることを可能にする方法で行われ、このことは、分析器が、例えば、偏向器に印加される電圧の適切な制御によって、その通常動作モードとズーム動作モードとの間で直接的かつシームレスに切り替えることができることを意味する。
【0023】
実施形態は、改善された多重反射飛行時間型(MR-ToF)分析器を提供することが理解されよう。
【0024】
分析器は、例えば、米国特許第9,136,101号に記載のタイプの、傾斜ミラー型多重反射飛行時間型質量分析器であってもよく、当該特許の内容が参照により本明細書に組み込まれる。そのため、イオンミラーは、ドリフト方向Yのそれらの長さの少なくとも一部分に沿って、X方向に互いから一定でない距離であってもよい。イオンミラーの第2の端部に向かうイオンのドリフト方向速度は、2つのミラーの互いからの一定でない距離から生じる電界によって対抗され得る。この電界は、イオンに、イオンミラーの第2の端部の近傍でイオンのドリフト方向速度を反転させ、ドリフト方向に沿って偏向器に向かって戻るようにドリフトさせ得る。
【0025】
代替的に、分析器は、例えば、英国特許第2,580,089号に記載のタイプの、単一集束レンズ型多重反射飛行時間型質量分析器であってもよく、当該特許の内容が参照により本明細書に組み込まれる。そのため、偏向器は、第1の偏向器であってもよく、分析器は、イオンミラーの第2の端部の近傍に位置する第2の偏向器を備え得る。第2の偏向器は、イオンに、イオンミラーの第2の端部の近傍でそれらのドリフト方向速度を反転させ、ドリフト方向に沿って偏向器に向かって戻るようにドリフトさせるように構成され得る。これを行うために、例えば、英国特許第2,580,089号に記載のように、好適な電圧を第2の偏向器に印加し得る。
【0026】
偏向器は、第1のイオンミラーと第2のイオンミラーとの間で(X方向に)およそ等距離に位置し得る。偏向器は、イオンビームが注入器から注入された後に受ける第1のイオンミラー反射(第1のイオンミラーにおける)の後であるが、第2のイオンミラー反射(第2のイオンミラーにおける)の前に、イオン経路に沿って配置され得る。これに対応して、偏向器は、イオンビームが検出器に到達する前に受ける最後のイオンミラー反射(第2のイオンミラーにおける)の前であるが、最後から2番目のイオンミラー反射(第1のイオンミラーにおける)の後に、イオン経路に沿って配置され得る。
【0027】
偏向器は、イオンビームに隣接して配置された1つ以上の台形又はプリズム状の電極を備え得る。この偏向器設計は、好適に広い受容性を有し、それにより、ドリフト方向に比較的幅広く拡散されるイオンビームは、偏向器によって適切に受け取られ、かつ偏向され得る。偏向器は、イオンビームの上方に配置された第1の台形又はプリズム状の電極と、イオンビームの下方に配置された第2の台形又はプリズム状の電極とを備え得る。電極は、イオンビームに対して角度付けられ得、それにより、好適な(DC)電圧が電極に印加されると、結果として生じる電界は、イオンビームの偏向を誘発する。好適な偏向電圧は、±数ボルト、±数十ボルト、又は±数百ボルトの電圧である。
【0028】
偏向器は、イオンビームを所望の(選択された)角度だけ偏向させることができるように構成されるべきである(実施形態ではそのように構成されている)。イオンビームが偏向器によって偏向される角度は、例えば、偏向器に印加される(DC)電圧の大きさを調節することによって調節可能であり得る。偏向器は、イオンビームを任意の所望の角度で偏向させることができるように構成され得る。
【0029】
本方法は、イオンをイオン注入器からイオンミラー間の空間内に注入することを含む。次いで、イオンは、第1のイオンミラーで反射され得、次いで、偏向器に移動し得る。イオンが偏向器に到達すると、偏向器は、イオンビームを偏向させないように(又は好適に小さい角度だけイオンビームを偏向させるように)、例えば、イオンのドリフト方向速度を実質的に変化させず、それにより、イオンは、偏向器を越えて進み続け、第2のイオンミラーで反射されるように構成され得る。これは、例えば、偏向器からの電圧を印加しないこと又は除去すること(又は好適に小さい電圧を偏向器に印加すること)を含み得る。次いで、イオンが、(a)偏向器からイオンミラーの第2の端部に向かってドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、(c)ドリフト方向Yに沿って偏向器に戻るようにドリフトする間に、イオンミラー間で方向Xに複数(K)回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる第1のサイクルをイオンに完了させる。
【0030】
イオンがこの第1のサイクルを完了した後、偏向器は、イオンが、(a)偏向器からイオンミラーの第2の端部に向かってドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、(c)ドリフト方向Yに沿って偏向器に戻るようにドリフトする間に、イオンミラー間で方向Xに複数(K)回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる更なるサイクルをイオンに完了させるように、イオンのドリフト方向速度を反転させるために使用される。これを行うために、偏向器は、イオンビームが偏向されるように、例えば、イオンのドリフト方向速度が反転されるように構成され得る。これは、例えば、イオンが偏向器に戻ることになると予想される期間中に、好適な電圧を偏向器に印加することを含み得る。イオンのドリフト方向を反転させるのに好適な偏向電圧は、数百ボルトの電圧である。
【0031】
偏向器を使用して、イオンのドリフト方向速度を反転させることは、電圧を偏向器に印加し、それによりイオンが偏向器に入ったときのドリフト方向速度と反対のドリフト方向速度でイオンを偏向器から出させることを含み得、例えば、イオンのドリフト方向速度の反転は、偏向器がイオンを1回だけ偏向させることによって達成される。本明細書で使用されるように、これは、「単一工程」偏向と称され得る。
【0032】
代替的に、偏向器を使用して、イオンのドリフト方向速度を反転させることは、電圧を偏向器に印加し、それによりイオンのドリフト方向速度をおよそゼロに低減させることであって、低減させることにより、イオンが第1のX方向に偏向器を出て、イオンミラーから偏向器に戻るように反射され、偏向器が、イオンのドリフト方向速度をゼロから、イオンが最初に偏向器に入ったときのドリフト方向速度と反対のドリフト方向速度に変化させるように作用する、低減させること、を含み得る。そのため、イオンのドリフト方向速度の反転は、偏向器がイオンを2回偏向させることによって達成され得る。本明細書で使用されるように、これは、「2工程」偏向と称され得る。
【0033】
本方法では、偏向器を使用して、イオンのドリフト方向速度を反転させる工程は、1回以上繰り返される。そのため、本方法は、イオンに分析器内で複数(N)回のサイクルを完了させることを含み、各サイクルにおいて、イオンが、(a)偏向器からイオンミラーの第2の端部に向かってドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、(c)ドリフト方向Yに沿って偏向器に戻るようにドリフトする間に、イオンは、イオンミラー間で方向Xに複数(K)回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる。第1のサイクルは、イオンをイオンミラー間の空間内に注入することによって開始され、イオンが第1のサイクルを完了した後、各更なるサイクルは、偏向器を使用して、イオンのドリフト方向速度を反転させることによって開始される。
【0034】
本方法は、イオンに検出のために偏向器から検出器に移動させることを含む。すなわち、イオンが分析器内で所望の(複数の)数(N)回のサイクルを完了した後、イオンは、検出のために偏向器から検出器に移動することが可能になる。これを行うために、偏向器は、イオンビームを偏向させないように(又は好適に小さい角度だけイオンビームを偏向させるように)、例えば、イオンのドリフト方向速度を実質的に変化させず、それにより、イオンは、偏向器を越えて進み続け、第2のイオンミラーで反射され、検出器に進み続けるように構成され得る。これは、例えば、イオンが検出器に向かう方向に偏向器を出されるように、偏向器からの電圧を印加しないこと又は除去すること(又は好適に小さい電圧を偏向器に印加すること)を含み得る。イオンは、検出器に移動する前にイオンミラーのうちの1つで反射され得る。
【0035】
検出器に到達すると、イオンは検出器によって検出され得、例えば、イオンの到達時間が検出器によって記録され得る。次いで、イオンの飛行時間及び/又は質量電荷比が決定され得、任意選択的に、他のイオンの飛行時間及び/又は質量電荷比情報と組み合わせられ得、例えば、質量スペクトルを生じさせ得る。なお、例えば、注入器と検出器との間の種々の点における不可避的損失及び/又は検出器非効率性に起因して、分析器に注入されたイオンの全てが検出器によって検出され得るわけではないことに留意されたい。そのため、本明細書で使用される場合、「イオン」という用語は、「イオンの一部、大部分、又は全て」を意味するものとして理解されるべきである。
【0036】
本方法は、イオンが合計で奇数回のサイクル(偶数回のサイクルではない)を完了した後にのみ、イオンを検出のために偏向器から検出器に移動させることを含み得る。すなわち、第1のサイクル及び2つ以上の更なるサイクルからなるサイクルの総数は、奇数回のサイクルであり得る(偶数回のサイクルではない)。換言すれば、イオンは、注入されることと検出されることとの間に、合計で奇数回のサイクル(偶数回のサイクルではない)を完了させられ得、各サイクルにおいて、イオンは、偏向器からイオンミラーの第2の端部に向かってドリフトし、次いで、偏向器に戻る。そのため、例えば、イオンは、注入されることと検出されることとの間に、合計で3サイクル、5サイクル、7サイクル、9サイクルなど、そのようなサイクル(2サイクル、4サイクル、6サイクル、8サイクルなどではなく)を完了させられ得る。
【0037】
これに対応して、本方法は、イオンのドリフト方向速度が偏向器によって合計で偶数回(奇数回ではない)反転された後にのみ、イオンを検出のために偏向器から検出器に移動させることを含み得る。すなわち、注入されることと検出されることとの間に、イオンのドリフト方向速度は、偏向器によって合計で偶数回(奇数回ではなく)反転され得る。そのため、例えば、注入されることと検出されることとの間に、イオンのドリフト方向速度は、偏向器によって合計2回、4回、6回、8回など(1回、3回、5回、7回などではなく)反転され得る。
【0038】
上述のように、偏向器における各反射が飛行時間摂動を生み出す場合(単一工程偏向の場合のように)、偶数回の反射は、飛行時間摂動が相殺されることになり、それによって、ズームモードにおける分析器の高分解能動作を確実にすることを意味する。上述のように、この飛行時間摂動がイオン源において除去される場合(2工程偏向の場合のように)、各サイクルの後、イオンは反対側(X方向に)から偏向器に戻る。そのため、偶数回の反射は、イオンが検出のために検出器に適切に取り出され得ることを意味する。
【0039】
本方法は、合計で偶数回のサイクルを完了したイオンが偏向器から検出器に移動することを防止することを含み得る。それに対応して、本方法は、ドリフト方向速度が偏向器によって合計で奇数回反転されたイオンが偏向器から検出器に移動することを防止することを含み得る。これは、これらのイオンが検出器に到達することを物理的に防止されることに起因して、例えば、上述のように2工程偏向が使用される場合に、生じ得る。
【0040】
追加的に又は代替的に、本方法は、例えば、分析器の上流に配置された質量フィルタを使用して、イオンをそれらの質量電荷比(m/z)に従ってフィルタリング又は選択し、それにより、注入器によって受け取られ分析器に注入されるイオンは、選択された質量電荷比(m/z)範囲内にあるようにすることを含み得る。質量電荷比(m/z)範囲は、分析器に注入されるイオンが、偏向器から検出器に移動する前に、合計で奇数回のサイクル(偶数回のサイクルではない)しか完了できないように、(偏向器に印加される電圧に対する変化のタイミングと組み合わせて)選択され得る。
【0041】
更なる実施形態では、分析器が、イオンミラーの第1の端部の近傍に位置する第1の偏向器と、イオンミラーの第2の端部の近傍に位置する第2の偏向器とを備える場合、第2の偏向器は、電圧を第2の偏向器に印加し、それによりイオンのドリフト方向速度をおよそゼロに低減させることであって、低減させることにより、イオンが第1のX方向に第2の偏向器を出て、イオンミラーから第2の偏向器に戻るように反射され、第2の偏向器がイオンのドリフト方向速度をゼロから、イオンが最初に第2の偏向器に入ったときのドリフト方向速度と反対のドリフト方向速度に変化させるように作用する、低減させること、によってイオンのドリフト方向速度を反転させるために使用され得る。第1の偏向器もまた、この「2工程」ドリフト方向速度反転モードで動作される場合、本方法は、イオンが任意の(奇数又は偶数回の)回数のサイクルを完了した後、イオンを検出のために第1の偏向器から検出器に移動させることを含み得る。そのため、例えば、イオンは、注入されることと検出されることとの間に、合計で2サイクル、3サイクル、4サイクル、5サイクル、6サイクル、7サイクル、8サイクル、9サイクルなどを完了させられ得る。
【0042】
本方法は、分析器を別の(「通常」、非ズーム)動作モードで動作させることを含み得、別の動作モードは、
イオンをイオン注入器からイオンミラー間の空間内に注入し、イオンを、(a)偏向器からイオンミラーの第2の端部に向かってドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、(c)ドリフト方向Yに沿って偏向器に戻るようにドリフトする間に、イオンミラー間で方向Xに複数回の反射を有するジグザグイオン経路をたどらせることと、
イオンを検出のために偏向器から検出器に移動させることと、を含む。
【0043】
この他の動作モードでは、偏向器は、イオンのドリフト方向速度を反転させるために使用されない(使用される以外である)。すなわち、本方法は、他の動作モードでは、イオンが合計で単一のサイクルのみを完了した後に、イオンを検出のために偏向器から検出器に移動させることを含む。これを行うために、偏向器は、イオンビームを偏向させないように(又は好適に小さい角度だけイオンビームを偏向させるように)、例えば、イオンのドリフト方向速度を著しく変化させず、それにより、イオンは、偏向器を越えて進み続け、第2のイオンミラーで反射され、検出器に進み続けるように構成され得る。これは、例えば、イオンが検出器に向かう方向に偏向器から出されるように、偏向器への電圧を印加しないこと若しくは除去すること(又は好適に小さい電圧を偏向器に印加すること)を含み得る。イオンは、検出器に移動する(及び検出器によって検出される)前に、イオンミラーのうちの1つで反射され得る。
【0044】
分析器は、例えば、他の動作モードでは、イオンが比較的狭い到達時間分散で検出器に到達するように、ドリフト集束され得る。分析器をドリフト集束するための好適な方法は、米国特許第9,136,101号及び英国特許第2,580,089号に詳細に記載されている。
【0045】
そのため、例えば、(例えば傾斜ミラー型)分析器は、ドリフト方向の少なくとも一部分に沿って延在する1つ以上の電気的にバイアスされた補償電極を更に備え得、各電極は、ミラー間の空間内又は空間に隣接して位置する。補償電極は、ミラー間のイオン振動の周期がドリフト長の全体に沿って実質的に一定になるように、電気的にバイアスされ得る。補償電極は、例えば、米国特許第9,136,101号に記載のように、一対の「ストライプ」電極を備え得る。
【0046】
追加的に又は代替的に、分析器は、対向するイオンミラー間に少なくとも部分的に位置し、ドリフト方向Yにおけるイオンビームの集束を提供し、それにより、ドリフト方向Yにおけるイオンビームの空間的拡散は、例えば、英国特許第2,580,089号に記載のように、0.25K~0.75Kの数を有する反射において、又はその直後に単一の最小値を通過するように構成された、イオン集束装置を備え得る。そのため、例えば、イオン集束装置は、イオンをドリフト方向Yに集束させるように構成されたドリフト集束レンズを備え得る。ドリフト集束レンズは、偏向器内に配置された1つ以上のレンズ電極を含み得る。
【0047】
これらの実施形態では、本方法は、電圧をドリフト集束レンズ(の電極)に印加することを含み得、結果として生じる電界は、イオンをドリフト方向Yに集束(コリメート)させる。レンズに印加される電圧は、例えば、±数百ボルトの範囲内で制御(調整)され得る。第1の電圧は、イオンがイオンミラー間の空間内に注入されるときに、ドリフト集束レンズ(の電極)に印加され得、第2の異なる電圧は、偏向器がイオンのドリフト方向速度を反転させるために使用されるときに、ドリフト集束レンズ(の電極)に印加され得る。このように異なる電圧をレンズに印加することにより、ズームモードにおけるイオンビームのコリメーションを改善することがあるが、それは、注入器からの拡大ビームをコリメートするのに必要な電圧は、更なるサイクルごとにコリメーションを維持するのに必要な電圧と非常に異なることがあるからである。例えば、第1の電圧は数百ボルトの電圧であり得、第2の電圧は数十ボルトの電圧であり得る。第2の電圧又は第3の(異なる)電圧(例えば、数十ボルトの)のいずれかが、イオンが検出のために偏向器から検出器に移動させられるときに、ドリフト集束レンズ(の電極)に印加され得る。第3の電圧は、イオンが検出器上に適切に集束されるように構成され得る。
【0048】
実施形態では、本方法は、例えば他の電圧を調整することなく、かつ分析器のドリフト集束に影響を及ぼすことなく、偏向器(に印加される電圧)のみを制御(調整)することによって、分析器の動作をズーム動作モードと他の(「通常」、非ズーム)動作モードとの間で切り替えることを含み得る。
【0049】
更なる態様は、多重反射飛行時間型質量分析器を備える質量分析計を動作させる方法であって、多重反射飛行時間型質量分析器を上述のように動作させることを含む、方法を提供する。
【0050】
更なる態様は、プロセッサ上で実行されたときに上述の方法を実行するコンピュータソフトウェアコードを記憶する非一時的コンピュータ可読記憶媒体を提供する。
【0051】
更なる態様は、多重反射飛行時間型質量分析器のための、又は多重反射飛行時間型質量分析器を備える質量分析計のための制御システムであって、多重反射飛行時間型質量分析器に上述の方法を実行させるように構成された、制御システムを提供する。
【0052】
更なる態様は、上述の制御システムを備える多重反射飛行時間型質量分析器、又は多重反射飛行時間型質量分析器を備える質量分析計を提供する。
【0053】
更なる態様は、多重反射飛行時間型質量分析器を提供し、本多重反射飛行時間型質量分析器は、
第1の方向Xに互いに離間して対向する2つのイオンミラーであって、各ミラーは、第1の端部と第2の端部との間でドリフト方向Yに概ね沿って細長く、ドリフト方向Yは第1の方向Xに直交する、2つのイオンミラーと、
イオンをイオンミラー間の空間内に注入するためのイオン注入器であって、イオン注入器は、イオンミラーの第1の端部の近傍に位置する、イオン注入器と、
イオンがイオンミラー間で複数回の反射を完了した後に、イオンを検出するための検出器であって、検出器は、イオンミラーの第1の端部の近傍に位置する、検出器と、
イオンミラーの第1の端部の近傍に位置する偏向器と、
制御システムであって、
(i)イオン注入器からイオンミラー間の空間内へのイオンの注入を引き起こすことであって、注入を引き起こすことにより、イオンは、イオンが(a)偏向器からイオンミラーの第2の端部に向かってドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、(c)ドリフト方向Yに沿って偏向器に戻るようにドリフトする間に、イオンミラー間で方向Xに複数(K)回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる第1のサイクルを完了する、注入を引き起こすことと、
(ii)イオンが(a)偏向器からイオンミラーの第2の端部に向かってドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)ドリフト方向速度をイオンミラーの第2の端部の近傍で反転させ、(c)ドリフト方向Yに沿って偏向器に戻るようにドリフトする間に、イオンミラー間で方向Xに複数(K)回の反射を有するジグザグイオン経路をたどる更なるサイクルをイオンが完了するように、偏向器にイオンのドリフト方向速度を反転させることと、
(iii)任意選択的に、工程(ii)を1回以上繰り返すること、次いで、
(iv)イオンを検出のために偏向器から検出器に移動させることと、を行うように構成された制御システムと、を備える。
【0054】
制御システムは、イオンが合計で奇数回のサイクルを完了した後にのみ、イオンを検出のために偏向器から検出器に移動させるように構成され得る。
【0055】
これらの態様及び実施形態は、本明細書に記載される任意選択の特徴のうちのいずれか1つ以上又は各々を含むことができ、実施形態では真に含む。
【0056】
分析器は、偏向器(の電極)に電圧を印加するように構成された電圧源を備え得る。電圧源は、偏向器に印加される電圧が、例えば、±数百ボルトの範囲内で制御(調整)することができるように構成され得る。制御システムは、電圧源に電圧を偏向器に印加させることによって、偏向器にイオンのドリフト方向速度を反転させるように構成され得、結果として生じる電界は、イオンのドリフト方向速度を反転させる(例えば、上述の様式で)。制御システムは、電圧源に偏向器への電圧を除去させるか、又は印加させない(又は好適に小さい電圧を印加させる)ことによって、イオンを偏向器から検出器に移動させるように構成され得、結果として生じる電界(又は電界の不存在)は、イオンのドリフト方向速度を実質的に変化させない。
【0057】
更なる態様は、上述の多重反射飛行時間型質量分析器を備える質量分析計を提供する。
【0058】
質量分析計は、イオン源を備え得る。イオンは、イオン源において試料から生成され得る。イオンは、イオン源と分析器との間に配置された1つ以上のイオン光学デバイスを介して、イオン源から分析器へと通過され得る。
【0059】
1つ以上のイオン光学デバイスは、1つ以上のイオンガイド、1つ以上のレンズ、1つ以上のゲートなどの任意の好適な配列を備え得る。1つ以上のイオン光学デバイスは、イオンを移送するための1つ以上の移送イオンガイド、及び/又はイオンを質量選択するための1つ以上の質量セレクタ又はフィルタ、及び/又はイオンを冷却するための1つ以上のイオン冷却イオンガイド、及び/又はイオンを断片化若しくは反応させるための1つ以上の衝突セル若しくは反応セルなどなどを含み得る。1つ以上の又は各イオンガイドは、四重極イオンガイド、六重極イオンガイドなどの多重極イオンガイド、セグメント化多重極イオンガイド、積層リング型イオンガイドなどを含み得る。
【0060】
特定の実施形態では、質量分析計は、イオン源と分析器との間に配置された質量フィルタを備える。質量フィルタは、イオンを質量選択し、それにより、注入器によって受け取られ、分析器に注入されるイオンが、選択された質量電荷比(m/z)範囲内にあるようにするように構成され得る。質量電荷比(m/z)範囲は、分析器に注入されるイオンが、偏向器から検出器に移動する前に、合計で奇数回のサイクル(偶数回のサイクルではない)しか完了することができないように選択され得る。
【0061】
次に、添付の図面を参照して、様々な実施形態をより詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1】実施形態による質量分析計を概略的に示す。
図2】実施形態による多重反射飛行時間型質量分析器を概略的に示す。
図3】実施形態による多重反射飛行時間型質量分析器を概略的に示す。
図4】実施形態による、多重反射飛行時間型質量分析器のための偏向器を概略的に示す。
図5】実施形態による、多重反射飛行時間型質量分析器の偏向器のための電源を概略的に示す。
図6】実施形態による、多重反射飛行時間型質量分析器の偏向器のための電源を概略的に示す。
図7】実施形態に従って多重反射飛行時間型質量分析器を動作させる方法を概略的に例示する。
図8図8Aは、実施形態に従って信号ドリフト反射のみで動作させた場合の、図2の多重反射飛行時間型質量分析器の検出器の長さにわたるm/z 200イオンの到着時間分布を示し、図8Bは、実施形態に従って2つのドリフト反射で動作させた場合の、図2の多重反射飛行時間型質量分析器の検出器の長さにわたるm/z 200イオンの到着時間分布を示す。
図9】実施形態に従って多重反射飛行時間型質量分析器を動作させる方法を概略的に例示する。
図10図10Aは、図7の方法に従って動作している多重反射飛行時間型質量分析器を通るm/z 200イオンのシミュレートされた軌道を示し、図10Bは、図9の方法に従って動作している多重反射飛行時間型質量分析器を通るm/z 200イオンのシミュレートされた軌道を示す。
図11図11Aは、図7の方法に従って動作している多重反射飛行時間型質量分析器を使用して決定されたm/z 200イオンのシミュレートされたイオンピークを示し、図11Bは、図9の方法に従って動作している多重反射飛行時間型質量分析器を使用して決定されたm/z 200イオンのシミュレートされたイオンピークを示す。
図12図12Aは、実施形態に従って図2の計器がズームモードなしで動作したときに取得されたm/z 524イオンの測定されたイオンピークを示し、図12B図12Dは、実施形態に従って図2の計器の計器がズームモードで動作したときに取得されたm/z 524イオンの測定されたイオンピークを示す。
図13】実施形態に従ってズームモードを使用して取得された較正溶液の質量スペクトルを示す。
図14】実施形態に従って多重反射飛行時間型質量分析器を動作させる方法を概略的に例示する。
図15図14の方法に従って動作している多重反射飛行時間型質量分析器を通るイオンのシミュレートされた軌道を示す。
図16】通過回数を変化させてズームモードで動作している多重反射飛行時間型質量分析器の分解能及び透過率のプロットを示す。
図17図17Aは、単一通過モードで動作する多重反射飛行時間型質量分析器を用いて決定されたシミュレートされたイオンピークを示し、図17Bは、2xズームモードで動作する多重反射飛行時間型質量分析器を用いて決定されたシミュレートされたイオンピークを示し、図17Bは、3xズームモードで動作する多重反射飛行時間型質量分析器を用いて決定されたシシミュレートされたイオンピークを示し、図17Bは、4xズームモードで動作する多重反射飛行時間型質量分析器を用いて決定されたシミュレートされたイオンピークを示す。
図18】2つのレンズ/偏向器組立体を備える多重反射飛行時間型質量分析器を概略的に示す。
図19図18のシステムの集束距離の関数としての位相空間回転の比率のプロットを示す。
図20】実施形態に従って多重反射飛行時間型質量分析器を動作させる方法を概略的に例示する。
【発明を実施するための形態】
【0063】
図1は、実施形態に従って動作され得る質量分析計を概略的に示している。図1に示すように、質量分析計は、イオン源10、1つ以上のイオン移送ステージ20、及び多重反射飛行時間型(MR-ToF)質量分析器30を含む。
【0064】
イオン源10は、試料からイオンを生成するように構成されている。イオン源10は、エレクトロスプレーイオン化(electrospray ionisation、ESI)イオン源、MALDIイオン源、大気圧イオン化(atmospheric pressure ionisation、API)イオン源、プラズマイオン源、電子イオン化イオン源、化学イオン化イオン源など、任意の好適な連続又はパルスイオン源とすることができる。2つ以上のイオン源が提供され、使用されてもよい。イオンは、分析される任意の好適なタイプのイオン、例えば、小型及び大型の有機分子、生体分子、DNA、RNA、タンパク質、ペプチド、それらの断片などであってもよい。
【0065】
イオン源10は、液体クロマトグラフィー分離デバイス又はキャピラリー電気泳動分離デバイス(図示せず)などの分離デバイスに結合され得、それにより、イオン源10においてイオン化される試料は、分離デバイスからもたらされる。
【0066】
イオン移送ステージ20は、イオン源10の下流に配置され、大気圧インターフェースと、イオン源10によって生成されたイオンの一部又は全部をイオン源10から分析器30に移送することができるように構成された1つ以上のイオンガイド、レンズ及び/又は他のイオン光学デバイスとを含み得る。イオン移送ステージ20は、任意の好適な数及び構成のイオン光学デバイスを含み得、例えば、任意選択的に、1つ以上のRF及び/又は多重極イオンガイド、イオンを冷却するための1つ以上のイオンガイド、1つ以上の質量選択イオンガイドなどを含み得る。
【0067】
質量分析器30は、イオン移送ステージ20の下流に配置され、イオン移送ステージ20からイオンを受け取るように構成されている。質量分析器は、イオンの質量電荷比及び/又は質量を決定するために、すなわちイオンの質量スペクトルを生成するために、イオンを分析するように構成されている。質量分析器30は、多重反射飛行時間型(MR-ToF)質量分析器である(以下で更に記載する)。
【0068】
図1は、単に概略図であり、質量分析計は、1つ以上の追加の構成要素のうちの任意の数を含むことができ、実施形態では真に含むことに留意されたい。例えば、特定の実施形態では、質量分析計は、衝突セル又は反応セルを含む。計器は、単一の質量分析器、又は2つ以上(例えば、2つ)の質量分析器を含み得る。
【0069】
また、図1に示すように、質量分析計は、適切にプログラムされたコンピュータなどの制御ユニット50の制御下にあり、制御ユニット50は、分析計の種々の構成要素の動作を制御し、例えば、分析器30を含む分析計の種々の構成要素に印加される電圧を設定する。制御ユニット50はまた、検出器を含む種々の構成要素からデータを受け取り、処理し得る。
【0070】
図2及び図3は、質量分析器30の実施形態の詳細を概略的に例示している。図2及び図3に示すように、多重反射飛行時間型分析器30は、第1の方向Xに互いに離間して対向する一対のイオンミラー31、32を含む。イオンミラー31、32は、直交するドリフト方向Yに沿って細長い。
【0071】
イオントラップの形態であり得るイオン源(注入器)33は、分析器の一端(「第1の」端部)に配置される。イオン源33は、イオン移送ステージ20からイオンを受け取るように配置され、かつ構成され得る。イオンは、イオンミラー31、32の間の空間内に注入される前に、イオン源33に蓄積され得る。図2及び図3に示すように、イオンは、比較的小さい注入角度又はドリフト方向速度でイオン源33から注入されて、ジグザグイオン軌道を生み出し得、それによって、ミラー31、32間の異なる振動は、空間において分離される。
【0072】
1つ以上のレンズ及び/又は偏向器が、イオン源33とイオンが最初に遭遇するイオンミラー32との間で、イオン経路に沿って配置され得る。例えば、図2及び図3に示すように、第1の面外レンズ34、注入偏向器35、及び第2の面外レンズ36は、イオン源33とイオンが最初に遭遇するイオンミラー32との間で、イオン経路に沿って配置され得る。他の構成も可能であろう。一般に、1つ以上のレンズ及び/又は偏向器は、イオンビームを好適に調整し、集束させ、及び/又は偏向させるように、すなわち、イオンビームが分析器30を通る所望の軌道をとるようにされるように、構成され得る。
【0073】
分析器はまた、イオンミラー31、32の間で、イオン経路に沿って配置された別の偏向器37を含む。図2及び図3に示すように、偏向器37は、その第1のイオンミラー反射(イオンミラー32における)の後、かつその第2のイオンミラー反射(他方のイオンミラー31における)の前に、イオン経路に沿って、イオンミラー31、32の間でおよそ等距離に配置され得る。
【0074】
分析器はまた、検出器38を含む。検出器38は、イオンを検出し、例えば、検出器へのイオンの到着に関連付けられた強度及び到着時間を記録するように構成された任意の好適なイオン検出器であってもよい。好適な検出器としては、例えば、1つ以上の変換ダイノードが挙げられ、任意選択的に、1つ以上の電子増倍管などが後に続く。
【0075】
「通常」動作モードでは、イオンが、(a)偏向器37からイオンミラー31、32の反対(第2の)端部に向かってドリフト方向Yに沿ってドリフトし、(b)イオンミラー31、32の第2の端部の近傍でドリフト方向速度を反転させ、次いで(c)ドリフト方向Yに沿って偏向器37に向かって戻るようにドリフトする間に、イオンは、イオンミラー31、32の間でX方向に複数の反射を有するジグザグイオン経路をとるように、イオン源33からイオンミラー31、32の間の空間内にイオンが注入される。次いで、イオンは、検出のために偏向器37から検出器38に移動するようにされる。
【0076】
図2の分析器では、イオンミラー31、32は両方とも、X方向及び/又はドリフトY方向に対して傾斜している。代わりに、イオンミラー31、32のうちの一方のみを傾斜させ、例えば、イオンミラー31、32のうちの他方をドリフトY方向に平行に配置することも可能であろう。一般に、イオンミラーは、ドリフト方向Yのそれらの長さに沿ってX方向に互いに一定でない距離にある。イオンミラーの第2の端部に向かうイオンのドリフト方向速度は、2つのミラーの互いからの距離が一定でないことから生じる電界によって対抗され、この電界は、イオンに、イオンミラーの第2の端部の近傍でドリフト方向速度を反転させ、ドリフト方向に沿って偏向器に向かって戻るようにドリフトさせる。
【0077】
図2に示す分析器は、一対の補正ストライプ電極39を更に備える。ドリフト長を下って移動するイオンは、各々がミラー31、32を通過するたびにわずかに偏向され、追加のストライプ電極39は、ミラー間の距離の変化によって生じる飛行時間誤差を補正するために使用される。例えば、ストライプ電極39は、ミラー間のイオン振動の周期がドリフト長の全体に沿って実質的に一定であるように(2つのミラー間の距離が一定でないにもかかわらず)、電気的にバイアスされ得る。イオンは、最終的に、ドリフト空間を下って戻るように反射され、検出器38に集束される。
【0078】
図2の傾斜ミラー型多重反射飛行時間型質量分析器の更なる詳細は、米国特許第9,136,101号に記載されており、当該特許の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0079】
図3の分析器では、イオンミラー31、32は互いに平行である。この実施形態では、イオンに、イオンミラーの第2の端部の近傍でイオンのドリフト方向速度を反転させ、ドリフト方向に沿って偏向器に向かって戻るようにドリフトさせるために、分析器は、イオンミラー31、32の第2の端部に第2の偏向器40を含む。
【0080】
また、図3に示すように、この実施形態では、レンズ41を、注入偏向器35及び/又は偏向器37に含めることができる。イオンビームは、長集束レンズ41に衝突する前に、分析器内への短い経路を拡張することができ、長集束レンズ41は、イオンビームをその長さに沿って集束させる効果を有する。レンズ41は、偏向器37内に取り付けられた楕円ドリフト集束(収束)レンズであってもよい。第2の偏向器40は、レンズをも含み得るが、集束特性の制御を維持する間にビーム方向を反転させるために使用される。
【0081】
図3の単一レンズ型多重反射飛行時間型質量分析器の更なる詳細は、英国特許第2,580,089号に記載されており、当該特許の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0082】
図2及び図3に示す分析器はともに、イオンビームがその飛行経路の大部分にわたって比較的広く拡散することが可能であるという点で、論文A.Verenchikovらに記載された分析器とは異なる。対照的に、Verenchikov分析器は、イオンビームをその飛行経路に沿って集束させた状態を保つように機能する一組の周期レンズを含む。イオンビームがその飛行経路の大部分にわたって広く拡散することを可能にすることの重要な利点は、空間電荷効果が低減されることであり、これは、飛行時間型分析器にとって重要な問題であり得る。
【0083】
分析物イオンの分離を増加させ、かつそれらの正確な質量割り当てを改善するために、分析器の分解能を増加させることが望ましいことがある。一般に、分析器の分解能は、分析器を通るイオン飛行経路の長さ、及び検出器におけるイオンの到着時間分散によって制限される。より長いイオン飛行経路は、より高い分解能を可能にする。低m/zイオンの場合、この利点は、通常は低m/zで分解能の実質的な低下を引き起こす検出器時間応答の影響を最小限に抑えるので、特に重要である。
【0084】
実施形態は、特に図2及び図3に示す分析器タイプのための、多重通過「ズーム」方法を提供する。分析器の前部にある偏向器37は、通常、注入角度を低減させ、かつ/又は単一ドリフト通過内の振動の数(K)を最適化するために使用されるが、多重通過「ズーム」動作モードを可能にするために(も)使用される。この偏向器37に印加される電圧は、「通常」イオン注入/抽出モードとドリフト反転トラップモードとの間で切り替えられる。
【0085】
上述のように、これらのクラスの分析器では、イオンビームは、集束品質に応じて、ドリフト寸法Yが比較的広く、多くの場合、約10mmである。これは、偏向器37が、クリッピング又は不均一な偏向を導入することなく、そのような幅広いビームを受容することが可能であるべきであるという要件につながる。
【0086】
図4に示すように、好適な偏向器の設計は、台形又はプリズム状の偏向器である。偏向器37は、イオンビームの上方に配置された台形又はプリズム状の電極と、イオンビームの下方に配置された台形又はプリズム状の電極とを備える。電極は、イオンビームに対して角度付けされている。イオンは、角度付き電極の縁部において比較的強い電界を受け、偏向を誘発する。電極は、偏向の面外に位置し、それによって、(少なくとも、ビームのいずれかの側に位置するであろう、より従来的な偏向板と比較して)幅広いイオンビームを受容するのに十分に広くなるように電極を容易に作製することを可能にする。
【0087】
偏向器37への印加電圧は、通常のイオン注入/抽出モードとドリフト反転トラップモードとの間で切り替えられる。これは、偏向器37を駆動する電源が極めて高速であるべきであることを必要とする。電圧切り替え期間中に偏向器37内にあるイオンは、誤って偏向され、散乱されるか、又は失われる場合がある。トラップモードへの及びトラップモードからの切り替え時間は、飛行時間スペクトルにおいてデッドマージンを生み出し、アクセス可能な質量範囲を減少させる。0.1~2msの典型的なドリフト通過時間に対して、切り替えにミリ秒を必要とする典型的な電源では十分ではない。
【0088】
高速電圧増幅器は、数百ボルトにわたって数十から数百ミリ秒で実現可能に切り替わり得、最適化するために慎重な設計及び同調を必要とし得る。トランジスタベースの切替器は、最も速く利用可能であり、数十ナノ秒の切り替え時間が達成可能になる。
【0089】
図5に示すように、このような電源のための1つの好適な解決策は、AB型増幅器であろう。これらのタイプの増幅器は、良好な線形性を有し、必要な時間内にプリズム偏向器37によって形成される負荷容量を駆動するために、それらのプッシュプル設計を通して十分な電流を送達することができる。加えて、それらは、バイポーラ設計を有し、バイポーラ設計は、正又は負のイオンモードに必要とされる正及び負の両方の出力電圧を提供することができる。それにもかかわらず、他の増幅器設計を代わりに使用することができる。
【0090】
更に、供給される電圧は、プリズム偏向器37の適切な関数及び切り替え速度のために調整されるべきである。プリズム偏向器37の電圧がより高い場合、所望の電圧範囲に到達するために、カスケード接続されたトランジスタを有する増幅器出力段を使用することができる。
【0091】
図6に示すように、プリズム偏向器37に必要とされる異なる急速に変化する電圧を供給する別の選択肢は、複数の異なる事前調整された電圧源を使用し、それらの間で切り替えることである。例えば、国際公開特許第2009/144469号(当該特許の内容は、参照により本明細書に組み込まれる)は、制御された切替器を介して質量分析器に接続された2つの連続的に動作する電源を記載している。一方の電源は正電圧を提供し、第2の電源は負電圧を提供する。プリズム偏向器37の場合、2つ以上の電圧が必要とされ、全ての電源は、互いに独立した任意の電圧及び極性を有することができる。更に、タイミング、又は1つの特定の電源が切替器を介してプリズム偏向器37に接続される時間は、限定又は事前定義されるべきではなく、切替器の制御によって動的に設定されるべきである。
【0092】
偏向器37においてイオンドリフト速度を反転させるために2つの方法が提供される。
【0093】
第1の方法を図7に図示する。この実施形態では、偏向器37は、イオンが偏向器37を通る単一通過内で完全に方向転換されるような電圧に切り替えられ、次いで、イオンが取り出されることを可能にするように規定された期間の後に戻るように切り替えられる。これは、本明細書では「単一工程」法と称される。4KVイオンの場合、偏向器電圧は、イオン注入/抽出に対しておよそ+150Vであり、トラップに対しておよそ+300Vである。
【0094】
しかしながら、この動作モードに伴う特定の問題は、飛行時間摂動が各偏向によって生み出され、これは、イオンの集束面の傾斜として現れ、分解能を厳しく制限することである。偏向器37をその最も幅広い部分で横切るイオンは、偏向器37をその最も狭い部分で横切るイオンよりも大きな飛行時間シフトを受ける。その結果、偏向器37は、イオンのドリフト座標Yと検出器38へのその到達時間との間に相関関係をもたらす。ビームが常に非常に狭いので、Verenchikov分析器は、この問題を被らない。
【0095】
ToFフロントが傾斜することに対抗するために、いくつかの方法が可能である。
【0096】
第一に、傾き補正デバイスを検出器38に設置することができる。これらは、例えば、英国特許第2,575,169号及び英国特許第2,543,036号器の明細書に、偏向器37の飛行時間誤差とは反対の飛行時間誤差を誘発する同調可能な偏向器として記載されている。これは、偶数回のドリフト通過の誤差を補償することができるが、奇数回の誤差を誘発することになるという欠点を有する。
【0097】
第2の方法は、偏向器37に隣接してレンズを設置して、その中にビームを集束させ、これにより、誤差源を排除することである。しかしながら、これは、イオンビームを移動させる自由度を大幅に減少させ、同調を阻害し、すでに非常に厳密な機械的公差を厳しくするという犠牲を払うことになる。
【0098】
第3の方法は、分析器を意図的に離調することによって補償ToF誤差を誘発することである。例えば、ミラー傾きにおける小さな位置合わせ不良の影響は、傾き及びストライプ電極39によって生み出されるToF摂動を不均衡にすることであり、ビームの幅に沿った正味の時間誤差をもたらす。ミラー31、32の意図的なミスチルト、ドリフトサイクル当たりの不正確な数の振動を誘発するようにプリズム/ストライプ電圧を設定すること、又は追加された線形補正ストライプの効果は、各サイクル内の偏向器のToF摂動を補償することが可能であるべきである。しかしながら、欠点は、第1のドリフト通過が補償されない誤差を有し、傾き補正器又は検出器の回転のいずれかが整合することを必要とすることである。
【0099】
これらの3つの方法は、「通常」(非ズーム)動作モードに影響を及ぼし、したがって、通常モードとズームモードとの間の分析器の切り替えを妨げるか又は複雑にすることが認識されている。
【0100】
いくつかの実施形態によれば、分析器はドリフト集束され、第2のドリフト反射が、第1のドリフト反射を相殺する飛行時間誤差を生じさせるために使用される。これは、偏向器37に注入するイオンの相対的なドリフト位置がドリフト反射後に逆転されるために発生する。換言すれば、列内の2つの偏向(イオンミラー31、32の第2の端部におけるドリフト反射によって分離された)は、互いの対応する収差を実質的に相殺するために使用される。この補償は、ドリフト反射がイオンのY階数を反転させ、したがって、第1の通過で偏向器37をその狭い部分で横断したイオンが、第2の通過で偏向器37のより幅広い部分を横断する(逆もまた同様である)ために起こる。そのため、実施形態では、イオンは、合計で奇数回のサイクルを完了するように、すなわち、イオンのドリフト方向速度が、偏向器37によって合計で偶数回反転させられるようにされる。
【0101】
図2に示す分析器は、MASIM3Dにおいてモデル化され、図8は、1つ又は2つのドリフト反射が行われたときの検出器の全長にわたるシミュレートされたイオン到着時間分布を示している。単一の反射では、イオン到着分散は広く(低分解能)、検出器位置Yと高度に相関し、ToFフロントの強い傾きを示すことが明らかである。2回反射の例では、時間分布は非常に狭く(高分解能)、検出器上の位置との相関は弱い。
【0102】
イオンドリフト速度を反転させる第2の方法は、偏向器37を、イオンのドリフト速度を除去する電圧に設定することである。次いで、イオンはミラー内を通過して、偏向器37内に真っ直ぐに反射され、偏向器37において、イオンは、ドリフト反射を完了するように偏向を受ける。イオンは、偏向器37を出た十分近くで偏向器37に再び入るので、第1の工程によって誘発された飛行時間摂動は、第2の工程によって補償される。
【0103】
本方法を図9に図示する。本方法は、大きなToF摂動(「イオン源における」)の問題に対処するが、ミラー31、32間に追加の半振動を生み出すという点で新しい問題を追加する。この結果、1回目のドリフト反射の後、イオンは、X方向の反対側から偏向器37に戻り、検出器38に取り出されることができず、イオン源33には役に立たない。そのため、イオンが抽出のための正しい向きでプリズム37に接近することを可能にするために、2回目のドリフト反射が必要とされる。そのため、本方法もまた、奇数回のドリフト通過に限定され、偶数回のドリフト通過でイオンを除去することになる。
【0104】
上述のように、偏向器37は、偏向器37内に取り付けられた楕円ドリフト集束(収束)レンズ41を含むことができる。この場合、レンズ41の電極に印加される電圧は、偏向器37の電極に印加される電圧とは独立して制御され得る。この目的のために、例えば、図5及び図6に関して上述したように構成された第2の電圧源が設けられ得る。レンズ41に印加される電圧は、注入モード、ズームモード、及び抽出モードの間で切り替えられ得る。これは、イオン源33からの急速に拡大するビームをほぼコリメートするのに必要とされる電圧が、更なるサイクルの間そのコリメーションを維持するのに必要とされる電圧と非常に異なることがあるからである。例えば、ズームモード中に約60Vの電圧がレンズ41に印加されてもよく、初期コリメーションのために約100~250Vの電圧がレンズ41に印加されてもよい。レンズ41に印加される電圧はまた、例えば、ビームが検出器38において非常に小さいスポットに対して崩壊しないように、又は任意選択の傾き補正器がうまく機能するには小さすぎるスポットに対して崩壊しないように、抽出ステージのために変更されてもよい。
【0105】
2つのズーム方法の軌道を、20mの飛行経路を3回通過する卓上サイズの傾斜ミラー分析器用のMASIM3Dでシミュレートし、図10に示す。同調におけるわずかなずれは、異なるドリフト通過の不完全な重複を引き起こすが、難なくシステムの許容範囲内である。
【0106】
2つのプロセスのシミュレートされたm/z 200ピークを図11に示す。両方の場合において、長さ10mmの小さな絞りがプリズム偏向器で使用され、透過率はそこで失われたイオンから計算される。伝送損失の大部分は注入時に発生する。両方のプロセスは、非常に高い分解能、すなわち、半値全幅に基づいて、単一工程方法では280K、及び2工程方法では450Kを生成するが、いくらかのプレパルスフロンティングを生じさせる。
【0107】
上述したように、分析器をズームモードで動作させるために、偏向器37に印加される電圧は、「通常」イオン注入/抽出モードとドリフト反転トラップモードとの間で切り替えられる。これは、イオンが検出器38に取り出される前に所望の回数のサイクルを完了することを確実にするために、正確なタイミングで行われなければならない。
【0108】
図10Aに図示するイオン経路(単一工程方法)は、(m/z)1~(m/z)2の範囲の質量電荷比を有する全てのイオンによって形成される。偏向器37は、モード1(イオン源33からループへの偏向)からモード2(ループからループへ戻る偏向)へ、最後にモード3(ループから検出器38への偏向)へ切り替えられる。切り替え時間は、それぞれt12及びt23として表される。ゼロ時間を、注入の瞬間であると仮定する。
【0109】
モード1とモード2との間の最初の切り替えは、最も重いイオン(m/z)2が偏向器37を最初に通過するよりも早くないように、かつ最も軽いイオン(m/z)1がa0+K振動を生じさせるよりも遅くないように行われるべきであり、ここで、Kはループ(偏向器37の次の通過とその次の通過との間)当たりの振動の数であり、a0はイオン源33及び偏向器37の最初の通過の前の振動の一部を表す。そうでなければ、最も軽いイオンは次のループに適切に設定されないことになる。これは、二重不等式を与える。
02≦t12≦(a0+K)T1 (a)
ここで、T1及びT2は、対応する最も軽いイオン及び最も重いイオンの振動の時間である。図7の実施形態では、a0≒1/2である。
【0110】
モード2からモード3への第2の切り替えは、最も重いイオンがa0+(N-1)K振動を生じさせるよりも早くならないように行われるべきであり、ここで、Nは意図されたループの数である。そうでなければ、最も重いイオンは、全てのループが形成される前にループを出ることになる。一方、第2の切り替えは、最も軽いイオンがa_0+NK振動を生じさせるよりも遅くならないようにすべきであり、そうでなければ、このイオンは、次の望ましくないループのために分析器内に留まることになる。この二重不等式は、以下のように表される。
(a0+NK-K)T2≦t23≦(a0+NK)T1 (b)
【0111】
両方の不等式(a)及び(b)は、T2及びT1の比について上限を課し、その下に対t12及びt23が存在し、(b)からの制限は、任意のN>1に対して(a)からの制限よりも強い(低い)。
【0112】
【数1】
【0113】
飛行時間はm/zの平方根に比例するので、この不等式は、次式のように最大の一義的質量範囲(unambiguous mass range、UMR)に直接変換される。
【0114】
【数2】
【0115】
完全なUMRを実現するために、切り替え時間t23は、以下のようでなければならない。
23=(a0+NK)T1=(a0+NK-K)T2
【0116】
第1の切り替え時間は、定義するためのいくらかの自由度を残す。例えば、その最小可能値t12=a02をとり得、それにより、最も軽いイオンが次の時間のために偏向器に到達する前に電子リップルが可能になると仮定され得る。
【0117】
表1は、1.25mの有効振動距離及びループ当たり20回の振動を有する質量分析器のシミュレーションを示している。分解能は、ピーク半値全幅に関して計算される。分解能は、偏向器の偶数回の通過を含む奇数回のループ毎に有利である。しかしながら、m/z範囲における崩壊は、ループの数が増加するにつれて、むしろ顕著である。
【0118】
【表1】
【0119】
実施形態では、分析器に入るイオンのm/z範囲は、切替可能偏向器、質量フィルタ(例えば、四重極質量フィルタ)の使用を介して、又は別様に(イオン移送ステージ20において)、それらのm/z範囲をズーム方法のUMRに略整合させ、m/z割り当てにおける曖昧さを除去するように制限される。
【0120】
2工程法では、偶数通過イオンが失われることになり、したがって曖昧さがより少なくなることに留意されたい。言い換えれば、2工程ズームモードは、隣接する重なり合うドリフト反射を除去し、m/z割り当ての信頼性を改善する。
【0121】
図2の分析器設計を組み込んだ質量分析計を構築した。エレクトロスプレー源から生成された分析物イオン、m/z 524、は、四重極によって単離され、抽出イオントラップ内に蓄積されて冷却され、330V/mmパルス電界によって分析器に放出され、そのパルス電界の下で4KV飛行エネルギーまで急速に加速された。
【0122】
イオン分散は、一対のレンズによって制御され、イオンの方向は、イオンがイオンミラー32からの反射を介して第2のプリズム偏向器37を通過するように、第1のプリズム偏向器35によって設定された。イオンを分析器に入れるために、第2のプリズム偏向器37を-160Vに設定した。約200μs後、このプリズム偏向器を+280Vトラップモードに切り替え、イオンが第2のドリフト通過を行うのに十分な800μsの間、そこに保持した。次いで、プリズム37を-160V透過モードに切り戻し、トラップされたイオンを電子増倍管検出器38に取り出された。
【0123】
図12は、計器を単一通過モード及びズームモードで動作したときに得られたm/z 524ピークを示している。3xズームモードでは、信号の大きな損失なしにはるかに高い分解能が観察されたが、より多くの回数のドリフト通過が、透過をより大幅に低減することが観察された。
【0124】
図13は、Pierce Flexmix(RTM)較正溶液の注入された、MRFA及びUltramarkを含有する一般的な較正混合物のズームモード質量スペクトルを示している。本実施例では、ToF分析器に送達されるイオン質量範囲は、最初に、曖昧なピークを除去するために分解四重極によって単離された。第1の質量390から、およそ1.6x m/z範囲が観察された。
【0125】
上述のように、実施形態では、イオン注入/抽出モードとイオントラップモードとの間の切り替えは、偏向器37の電圧を、例えば、およそ-140からおよそ+300Vに切り替えることによって行われる。
【0126】
また、上述のように、いくつかの実施形態では、例えば、図3に示すように、偏向器37は、偏向器37内に取り付けられたドリフト集束(収束)レンズ又は「分散レンズ」41を含む。これらの実施形態では、追加の切替電圧がドリフト集束レンズ41に印加され得る。これにより、分散レンズ41は、拡大パルス抽出イオンビームをほぼコリメートするのに必要な(周囲に対して)電位(例えば、およそ-145Vの)から、別の通過のためにコリメーションを単に維持するのに必要な電位(例えば、およそ-15Vの)に切り替えることが可能になる。
【0127】
これらの電位のいずれかは、イオンを検出器38に放出するのに適しているが、後者のより低い電位(例えば、およそ-15V)は、ビーム反転が利用されるときに分解能を維持するのに有益であることが分かっている傾き補正デバイスにビームを厳密に集束させないようにするのに有益であり得る。
【0128】
図14は、図3に示す分析器の簡略化された概略図を示している。分析器は、検出器38に隣接して配置された傾き補正デバイス42を更に含む。傾き補正器42は、例えば、米国特許第11,158,494号に記載されているような楔形偏向器であってもよく、当該特許の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0129】
上述のように、通常動作では、イオンは、わずかな角度(例えば、およそ2°)でイオントラップ33からパルス抽出され、(例えば、およそ4KeVの)飛行エネルギーに加速され、プリズム状偏向器35(例えば、およそ+125Vの電位に保持される)は、イオン時間フロントがドリフト軸に対して比較的平坦に偏向器37に入ることを確実にする目的で、角度を(例えば、およそ4°まで)増加させる。注入光学系の角部の周囲を通過した後、偏向器37(例えば、およそ-140Vの電位に保持される)は、注入角度を多重振動により適したレベル(例えば、およそ2.2°)まで減少させる。
【0130】
代替的に、イオントラップ33は、実質的に負の角度(例えば、およそ-3°)に折り返されてもよく、それにより、イオン時間フロントは、平坦に入るのではなく、ドリフト軸に対して平坦に偏向器37を出る。これにより、戻りイオンが出るときに偏向器37が自己補償する必要がなくなり、集束面品質が改善される。しかしながら、それはまた、イオンが傾斜した時間フロントでドリフト領域を出ることを意味し、傾き補正器42又は検出器38の意図的な角度付け位置合わせのいずれかの使用を必要とする。
【0131】
パルス抽出されたイオンは、注入光学系に組み込まれた一対の矩形アインツェルレンズによって面外に集束される。注入プリズム35に組み込まれたドリフト集束レンズ(例えば、およそ+750Vの電位に保持される)は、最初は狭い(例えば、およそ約1mm)イオンビームを拡大された幅(例えば、およそ約12mm)に拡大するように機能し、それにより、ドリフト集束レンズ41(例えば、およそ-145Vの電位に保持される)は、イオンビームをより完全にコリメートし得る。真のコリメーションを達成することはできず、実際には、ビームは、わずかに収束するように設定され、最小幅を通過し、次いで、反転偏向器40に遭遇するドリフト領域の遠端に到達するまで再拡大する。この偏向器(例えば、およそ+300Vの電位に保持される)は、ビーム方向を戻すように設定し、一方、第3の偏向器40に組み込まれたドリフト集束レンズ(例えば、およそ-15Vの電位に保持される)は、コリメートされたビームをゆっくりと拡大する状態からゆっくりと収束する状態に戻す。このレンズは、ドリフトを安定化させるために一次レンズのみが必要とされるので、厳密には必要ではないが、ドリフト集束が達成され得る利用可能な飛行経路を2倍にする。
【0132】
次いで、イオンビームは、偏向器37及びドリフト集束レンズ41に戻る。通常の単一通過モードでは、偏向器37は、イオンを加速してドリフト領域から出し、傾き補正器42及び任意選択のポスト加速器を通って検出器38に至る。ポスト加速器は、例えば、抵抗分割器によって分離された4つの開口電極のスタックであってもよい。検出器38は、二次電子生成を改善するために、強い加速電位(例えば、およそ-10KV)でこのスタックの背面に取り付けられ得る。
【0133】
ズームモードでは、偏向器37及びドリフト集束レンズ41の電圧は、反転偏向器40組立体の電位と同様又は同一のビーム反転及び集束維持モードに切り替えられている。次いで、イオンは、偏向器37がその通常の注入/抽出電位に切り替わることによって放出されるまで、ドリフト次元において前後に振動する。
【0134】
図3のMR-ToF分析器のモデルが、MASIM3Dで構築され、適切なm/z 200イオン軌道が、計器を通る1~4回のドリフト通過の間に生成され、最適化された。図15は、4回通過の主軌道を示している。なお、各ドリフト通過の軌道は概ね重なり合うが、誤差にはある程度の許容範囲があったことに留意されたい。過度に発散するイオンをクリップし、伝送損失の緩い近似を与えるために、10×1mmの開口がドリフト分散レンズ41内でシミュレートされた。
【0135】
表2及び図16は、様々な回数のドリフト通過について、検出器平面におけるシミュレートされたピーク特性を示している。傾き補正器42は、2回及び3回のドリフト通過では強く同調(約2KV+)されなければならないが、1回及び4回の通過では弱く同調(<500V)されるだけでよい。この構成を有する単一通過は、明らかに不十分に補償されたレンズ及び偏向器配置にもかかわらず、ほぼ100Kの分解能を達成することができたが、分解能は、2回の通過では>300Kに不釣り合いに増加した。明らかに、レンズを複数回通過させたときに発生する収差の自己補償がある程度ある。次いで、3回の通過では性能が大きく低下し、4回の通過で450Kに回復した。プリズム37を通して最初に注入した後に測定した透過率は、通過毎に76%から58%に低下したが、重大な損失はなかった。
【0136】
【表2】
【0137】
図17は、これらの結果のイオン到着時間ヒストグラム、実質的にシミュレートされたピーク形状を示している。1回の通過はガウスプロファイルからわずかしか逸脱しなかったが、ピークフロントは2回の通過で顕著に増加し、3回の通過で許容できなくなり、4回の通過はわずかに良好に見えたことが観察された。3回の通過での不十分な結果は、最適化の関数であることがあり得るが、4回の通過で補償されるように見えるので、それはより基本的であり得る。
【0138】
図18は、MR-ToFにおける2レンズドリフト集束構成の簡略化された概略図を示している。
【0139】
ドリフト行列
【数3】
及びベクトル
【数4】
に作用する集束行列
【数5】
を考慮し、ここで、lはレンズ間の有効飛行経路であり、fが集束距離である。偏向角は、レンズ/偏向器LD1及びLD2の両方について2θ0に設定される。
【0140】
完全ループ
【数6】
【数7】
【0141】
安定性条件は、|B|<1であり、弱い収束レンズに対して満たされる場合、
【数8】
である。
【0142】
Mの固有値は、eであり、ここで、
【数9】
である。
【0143】
LD1及びLD2は、互いのTOF誤差を補償しないことに留意されたい。それにもかかわらず、LD1の収差はその中の複数の通過で補償されることが可能であり、LD2についても同様である。フルループの数がKに設定される場合、集束力の最適値(最適比
【数10】
)は、β=2π/Kを与えるべきである。
【0144】
図19は、飛行経路Lを集束距離fで割ったものに対する、集束距離の関数としての位相空間回転の比のプロットである。異なる回数の通過(点線3、4及び5)と線との交点は、補償された点を示す。
【0145】
これらの実施形態は、図3の長集束ToF設計に対して、ズームモード及びその分解能増倍の利点を提供することが理解されよう。長集束ToFは、良好な空間電荷性能のために十分に幅広いビームを、ミラーにおける機械的誤差の容易な電子的補償と組み合わせるという利点を有する。
【0146】
上述の実施形態は、偏向器37を通る単一通過におけるビーム反転を示している。図9に示す代替形態は、偏向器37を、ドリフト速度をゼロに減少させるのに必要とされるより低い電位に設定する。次いで、イオンは、単一振動を生じさせ、偏向器37に再び入り、次いで、偏向器37は、ドリフト反転を完了する。
【0147】
図20は、分散レンズ41が含まれる場合のこの概念を示している。これらの実施形態では、分散レンズ41はまた、2回の通過において、通常は1回で行われるものと同じ効果を達成するために、わずかに低い値、例えばおよそ-7.5Vに設定され得る。
【0148】
上述のように、いくつかの実施形態では、このタイプのドリフト方向反転は、奇数回の通過を有するイオンが、分析器から、検出器38にではなく、イオントラップ33に跳ね返されることを意味する。しかしながら、分析器の両側に2つの反転偏向器37、40が存在するこの長集束型分析器では、両方が図20に示すモードで動作する場合、この問題はもはや発生しない。このように、分析器は、任意の回数(奇数回又は偶数回)の通過を使用してズームモードで動作させることができる。
【0149】
上記から、実施形態が改善された多重反射飛行時間型質量分析器を提供することが理解されよう。分析器(イオンビームが比較的広く拡散することを可能にされるタイプの)へのズームモードの統合は、高分解能動作を提供する一方で、分析器がドリフト集束されたままであることを可能にし、これは、分析器がその通常動作モードとズーム動作モードとの間でシームレスに切り替えられ得ることを意味する。
【0150】
本発明を様々な実施形態を参照して記載してきたが、添付の特許請求の範囲に記載の本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更を行い得ることが理解されよう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図16
図17
図18
図19
図20