(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】歩行指導システム
(51)【国際特許分類】
A61H 3/00 20060101AFI20240605BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20240605BHJP
【FI】
A61H3/00 Z
A61B5/11 230
(21)【出願番号】P 2019201299
(22)【出願日】2019-11-06
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】富崎 真澄
(72)【発明者】
【氏名】須藤 元喜
(72)【発明者】
【氏名】植田 智也
【審査官】小野田 達志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0058649(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0080181(US,A1)
【文献】特開2017-217266(JP,A)
【文献】特開2018-166640(JP,A)
【文献】特開2016-073630(JP,A)
【文献】特開2002-336396(JP,A)
【文献】特開2015-084868(JP,A)
【文献】特開2015-202141(JP,A)
【文献】特開2018-050989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 3/00
A61B 5/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
演算
装置が、被験者が目標とすべき歩行指標を有する、足跡画像(以下、目標足跡画像ともいう)
と立脚期の足圧の経時的変化を示すグラフ(以下、目標足圧波形ともいう)を歩行面に表示する画像信号を表示装置に出力する、歩行指導のための足跡画像表示方法であって、歩行指標として歩幅、歩隔、つま先角度、立脚期の足圧について時間軸を3等分して第1区間、第2区間、第3区間とした場合の次式で算出される第1区間中央比及び第3区間中央比
第1区間中央比=(P1/P2)×100
第3区間中央比=(P3/P2)×100
(式中、P1は第1区間の圧力の最大値、P2は第2区間の圧力の平均値、P3は第3区間の圧力の最大値P3である
)
を含
み、第1区間中央比の数値及び第3区間中央比の数値が歩行面又はアドバイスシートに表示される足跡画像表示方法。
【請求項2】
目標足跡画像
及び目標足圧波形と共に被験者の歩行の足跡画像(以下、被験者足跡画像ともいう)
及び足圧波形(以下、被験者足圧波形ともいう)を歩行面に表示する請求項1記載の足跡画像表示方法。
【請求項3】
目標足跡画像が実寸で歩行面に表示される請求項1又は2記載の足跡画像表示方法。
【請求項4】
演算
装置が、足圧分布を含む目標足跡画像の画像信号を形成する請求項1~3のいずれかに記載の足跡画像表示方法。
【請求項5】
目標足跡画像を動画で表示する請求項1~4のいずれかに記載の足跡画像表示方法。
【請求項6】
被験者の歩行から歩行指標を計測する計測装置、
被験者の歩行指標に対して目標とすべき歩行指標が指定されると、その目標とすべき歩行指標を有する目標足跡画像
及び目標足圧波形の画像信号を形成する演算装置、及び
演算装置から出力された目標足跡画像
及び目標足圧波形の画像信号に基づき、歩行面に目標足跡画像
及び目標足圧波形を表示する表示装置
を備え、
歩行指標として歩幅、歩隔、つま先角度、立脚期の足圧について時間軸を3等分して第1区間、第2区間、第3区間とした場合の次式で算出される第1区間中央比及び第3区間中央比
第1区間中央比=(P1/P2)×100
第3区間中央比=(P3/P2)×100
(式中、P1は第1区間の圧力の最大値、P2は第2区間の圧力の平均値、P3は第3区間の圧力の最大値P3である)
を含
み、第1区間中央比の数値及び第3区間中央比の数値が歩行面又はアドバイスシートに表示される歩行指導システム。
【請求項7】
演算装置が被験者足跡画像
及び被験者足圧波形の画像信号を形成し、
表示装置が歩行面に目標足跡画像
及び目標足圧波形と共に被験者足跡画像
及び被験者足圧波形を表示する請求項6記載の歩行指導システム。
【請求項8】
表示装置が目標足跡画像を実寸で歩行面に表示する請求項6又は7記載の歩行指導システム。
【請求項9】
演算
装置が、足圧分布を含む目標足跡画像の画像信号を形成する請求項6~8のいずれかに記載の歩行指導システム。
【請求項10】
表示装置が目標足跡画像を動画で表示する請求項6~9のいずれかに記載の歩行指導システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行指導システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、加齢に伴って筋力や平衡感覚が衰え、歩行速度が遅くなり、歩容も変化する。また、歩容によって転倒のリスクが高まり、足腰に障害が発生しやすくなる。そこで、被験者の歩行時の足圧分布から算出される足角、同時接地時間、重心位置等の歩行パラメータと、身長と性別に応じて定まる理想的な歩行状態での歩行パラメータとを対比して被験者の歩行状態を特定し、特定された歩行状態やその歩行状態に対応するアドバイスをディスプレイに表示するシステムが提案されている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、このシステムでは、特定された歩行状態やアドバイスが簡単な文言と挿絵でディスプレイに表示されるにすぎないため、実際の歩行特徴を感覚的に理解することが難しい。
【0004】
これに対し、歩行時の足圧分布の計測に基づいて算出した歩行特徴を、足跡画像のアニメ画像で表示する方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006―218202号公報
【文献】特開2015-84868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載されているように、被験者の歩行特徴を足跡画像のアニメ画像という動画で表示することにより、被験者は自分の歩行特徴が理解しやすくなり、歩行特徴の改善や悪化を容易に認識することができる。
【0007】
しかしながら、被験者の歩行特徴を表す足跡画像のアニメ画像をディスプレイに表示しても、さらには被験者の歩行特徴を表す足跡画像のアニメ画像と、該被験者が目標とすべき歩行特徴を表す足跡画像のアニメ画像とを一つのディスプレイ内に並列して表示させたとしても、被験者は、どのように歩いたら目標とすべき歩き方になるかを具体的に体感することができず、依然として正しい歩き方を身につけることが難しいという問題がある。
【0008】
これに対し、本発明は、歩行指導において被験者が目標とすべき歩き方を被験者が体感できるようにわかりやすく表示することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、被験者が目標とすべき歩き方の足跡画像の表示先を床面等の歩行面とすると、被験者は足跡画像が表示された歩行面を歩くことで、被験者のそれまでの歩き方と目標とすべき歩き方との違いを体感できるので、歩き方をどのように修正したらよいかがわかり、目標とすべき歩き方が容易に身につくことを想到し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は、被験者の歩行から歩行指標を計測し、被験者の目標とすべき歩行指標を定め、目標とすべき歩行指標を有する足跡画像を歩行面に表示する歩行指導方法を提供する。
【0011】
また本発明は、上述の歩行指導方法を実現する歩行指導システムとして、被験者の歩行から歩行指標を計測する計測装置、
被験者の歩行指標に対して目標とすべき歩行指標が指定されると、その目標とすべき歩行指標を有する目標足跡画像の画像信号を形成する演算装置、及び
演算装置から出力された目標足跡画像の画像信号に基づき、歩行面に目標足跡画像を表示する表示装置
を備えた歩行指導システムを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、目標足跡画像が歩行面に表示されるので、被験者はその歩行面を歩くことで目標とすべき歩き方と現在の自分の歩き方とがどのように違うかを体感することができ、例えば、歩き方を改善するためには歩幅をどれほど広げ、つま先をどちらにどれほど向ければよいか等の歩行指標の修正を実際の歩行時の感覚として認識することができる。したがって、被験者は、目標とする歩き方を身につけやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】
図1Aは、実施例の歩行指導システムの全体構成図である。
【
図1B】
図1Bは、実施例の歩行指導システムにおいて、シート式圧力センサに被験者足跡画像が表示された状態の全体構成図である。
【
図1C】
図1Cは、実施例の歩行指導システムにおいて、歩行面に目標足跡画像が表示された状態の全体構成図である。
【
図1D】
図1Dは、実施例の歩行指導システムにおいて、歩行面に異なる態様で目標足跡画像が表示された状態の全体構成図である。
【
図2】
図2は、歩幅、歩隔、つま先角度、歩行角度の説明図である。
【
図4】
図4は、足圧分布を含む被験者足跡画像と目標足跡画像の表示例である。
【
図5】
図5は、足圧分布を含む被験者足跡画像と目標足跡画像に歩行指標の数値等を表示した表示例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明を詳細に説明する。なお、各図中、同一符号は同一又は同等の構成要素を表している。
【0015】
(概要)
図1Aは、本発明の歩行指導方法に使用する一実施例の歩行指導システム1の全体構成図であって、被験者の歩行から歩行指標を計測する計測装置2、目標足跡画像の画像信号を形成する演算装置3、演算装置3から出力された目標足跡画像の画像信号に基づき、歩行面Sに目標足跡画像を表示する表示装置4を備えている。
【0016】
本発明の歩行指導方法では、被験者の歩行から歩行指標を計測し、被験者の歩行指標に対して被験者が目標とすべき歩行指標を定め、その歩行指標を有する足跡画像(即ち、目標足跡画像)を歩行面に表示し、被験者にその歩行面を歩いてもらうことで目標とすべき歩行指標を被験者に理解してもらう。
【0017】
(歩行指標)
歩行指標は歩行に影響を及ぼすパラメータのうち、歩行から計測できるものをいい、例えば、歩幅、歩隔、つま先角度、歩行角度、ケーデンス(テンポ)、立脚期割合、両脚支持期割合、歩行速度、蹴り出し力、踏み込み力、足指活用力等がある。
【0018】
ここで、歩幅は
図2に示すように左右の一方の踵接地から左右の他方の踵接地までの距離L1である。軸足になっている足の左右で歩幅の左右を定める。左右双方の歩幅の平均を歩行指標としても良い。また、歩幅は身長によって異なるので、計測値を身長で除した値を基準化した歩幅の値として用いることが好ましい。
【0019】
歩隔は、
図2に示すように左右の一方の踵接地から左右の他方の踵接地までの水平方向(進行方向と垂直な方向)の距離L2であり、軸足になっている足の左右で歩隔の左右を定める。左右双方の歩隔の平均を歩行指標としても良い。歩隔も、計測値を身長で除した値を基準化した歩隔の値として用いることが好ましい。
【0020】
つま先角度は、
図2に示すように、踵とつま先を結ぶ直線が進行方向となす角度θ1(°)であり、外側がプラスで内側がマイナスである。
【0021】
歩行角度は
図2に示すように、左右一方の踵と左右の他方の踵を結ぶ直線が進行方向となす角度θ2(°)である。
【0022】
ケーデンスは1分間当たりの歩数である。テンポともいう。
【0023】
立脚期割合は、立脚期時間の1歩行周期に対する割合であり、立脚期時間は、左右一方の踵接地から、その一方の足が地面から離れるまでの時間である。
【0024】
両脚支持期割合は、左右両方の足が地面に接地している両脚支持期時間の1歩行周期に対する割合である。したがって、走行行為ではゼロとなる。両脚支持期割合は、通常の歩行行為では約20%となるが、加齢に応じて長くなる。
【0025】
足指活用力(足指得点)は、足裏全体の面積に対する足指面積の割合であり、足指得点は足指活用力を得点化したものである。足裏全体の面積は圧力センサーで、閾値以上の値を示したセル数により計測される面積であり、足指面積は足指部分のみのセル数により計測される面積である。
【0026】
足圧に関する歩行指標は、
図3に示すように、足の接地から離床までの立脚期の足裏の圧力の時系列データを使用しても算出される。この立脚期には、踵が歩行面に接地することで始まる踏込期と、重心が進行方向に移動していく移動期と、つま先で歩行面を蹴ることにより進行方向への駆動力を生じさせる蹴出期がある。
【0027】
足圧の時系列データに関する歩行指標としては、平均足圧、第1区間中央比、第3区間中央比等をあげることができる。このうち第1区間中央比は、立脚期の時間軸を3等分して第1区間、第2区間、第3区間とした場合の、第1区間の圧力の最大値P1の第2区間の圧力の平均値P2に対する割合(%)であり、次式で算出される。第1区間中央比は踏み込み力ともいう。
第1区間中央比=(P1/P2)×100
また、第3区間中央比は、第3区間の圧力の最大値P3の第2区間の圧力の平均値P2に対する割合(%)であり、次式で算出される。第3区間中央比は蹴り出し力ともいう。
第3区間中央比=(P3/P2)×100
【0028】
第1区間中央比と第3区間中央比が100%を超える場合、即ち、P1>P2、P2<P3の場合、踵の踏み込みとつま先の蹴り出しに十分な力がでており、歩行にめりはりがあると評価できる。
【0029】
一方、第1区間中央比が100%以上で第3区間中央比が100%未満の場合、又は第1区間中央比が100%を超え第3区間中央比が100%の場合、即ち、P1>P2、P2>P3の場合、P1=P2、P2>P3の場合、又はP1>P2、P2=P3の場合、踵で踏み込む力は出ているが、つま先で蹴り出す力が不十分であると評価できる。この歩容は、通常ふくらはぎの筋力が低下しているときに観察される。また、つまずいた後にもう片方の足を素早く着く筋瞬発力の低下が懸念される歩容である。
【0030】
第1区間中央比が100%以下で第3区間中央比が100%を超える場合、又は第1区間中央比が100%未満で第3区間中央比が100%の場合、即ち、P1<P2、P2<P3の場合、P1=P2、P2<P3の場合、又はP1<P2、P2=P3の場合、踵で踏み込む力は不十分であるが、つま先で蹴り出す力は十分であると評価できる。この歩容は、通常すねの筋力が低下しているときに観察される。これは、転倒のきっかけとなるつまずき頻度の増加が懸念される歩容である。
【0031】
第1区間中央比が100%未満で第3区間中央比も100%未満の場合、又は第1区間中央比と第3区間中央比が100%の場合、即ち、P1<P2、P2>P3の場合又はP1=P2=P3の場合、踵で踏み込む力もつま先で蹴り出す力も不十分であると評価できる。これは、つまずきの増加と、筋瞬発力の低下をともなうすり足の歩容であり、転倒が懸念される。
【0032】
(歩行指標の規格化)
歩行指標のうち歩幅、歩隔等のように身長の影響を受けるものは計測値を身長で除することにより規格化した数値とすることが好ましい。したがって、被験者の歩行指標と目標とすべき歩行指標との対比も規格化した数値で行うことが好ましい
【0033】
(計測装置)
本実施例において歩行指標を計測する計測装置2としては、歩行により歩行面が受ける足圧の分布画像や、足圧の2次元データを出力することのできるシート式圧力センサを使用することができる。より具体的には、例えば、アニマ株式会社製シート式下肢加重計シリーズウォークWay、AMTI社製床反発力計、株式会社シクロ製LLセンサ等をあげることができる。
【0034】
歩行指標の計測装置として、モーションキャプチャシステムで計測してもよい。具体的には、複数のビデオカメラを使用する3次元動作解析システム(インターリハ株式会社製3次元動作分析装置VICON、VICON MXシステム、VICON NEXSUS)等を使用することができる。この他、足の裏にインクをつけて歩行することにより形成された足跡の距離や角度を測定することにより歩行指標を計測してもよい。
【0035】
(目標とすべき歩行指標)
目標とすべき歩行指標は、被験者の歩行状態を踏まえて被験者ごとに最適の目標を定めることが好ましい。一般に理想とされる歩行の歩行指標の数値をそのまま被験者が目標とすべき歩行指標の数値とするのではない。被験者ごとに定める歩行指標の目標の立て方としては、例えば、腰痛、膝痛等の症状の有無ごとに性別年代ごとの歩行指標のデータを予め取得しておき、被験者の腰痛、膝痛等の症状の有無に対応する同性同年代同症状の歩行指標の平均値を一つの基準値とし、基準値に所定の幅をもたせた基準範囲と被験者の歩行指標の数値とを対比する。被験者の歩行指標の数値が基準範囲よりも劣っていた場合には基準値に近づけることを目標とし、被験者の歩行指標の数値が基準範囲以上であった場合には、その歩行指標の数値の維持を目標とするか、または基準範囲の上限の数値又は被験者よりも若い世代の同様の歩行指標の平均値を目標とする。ここで、基準範囲は、例えば平均値±標準偏差の範囲、四分位範囲(25~75%)等とすることができる。なお、基準値としては、平均値に変えて中央値を用いても良い。
【0036】
被験者の歩行指標の数値が基準範囲より劣っていた場合の目標として、被験者の歩行指標の数値と基準値との差に応じて基準値をそのまま目標としてもよく、向上させる数値幅を抑えても良い。例えば、基準範囲の下限値を目標としてもよい。
【0037】
一方、被験者が腰痛もちで、被験者の歩行指標の数値が同症状の基準範囲以上の場合に、健常者の同様の歩行指標の平均値を目標としてもよい。
【0038】
なお、歩行指標のうち加齢変化をするものについては、目標とすべき歩行指標では、全て加齢変化と逆方向となるように定めることが好ましい。一方、歩隔、つま先角度等では、基準範囲から外れている場合には基準範囲内に収まるように定め、基準範囲内にある場合には、それが維持されるように目標とすべき歩行指標を定める。
【0039】
(目標とすべき歩行指標の修正)
目標とすべき歩行指標の例示として同性同年代同症状の歩行指標の平均値をあげたように、被験者の目標とする歩行指標を定める際には、歩き方に影響を及ぼすが、歩行からは計測できないパラメータによって歩行指標を修正することが好ましい。このようなパラメータとしては、例えば、性別、年齢、身長、体重、BMI、病気(腰痛、膝痛、尿漏れ、認知症、転倒傾向等)の有無等がある。したがって、被験者から、性別、年齢、身長、体重、BMI、病気(腰痛、膝痛、尿漏れ、認知症、転倒傾向等)の有無等の情報を得ておくことが好ましい。
【0040】
また、前述のように、身長の影響を受ける歩行指標は計測値を身長で除した値で被験者の数値と基準値とを対比することが好ましい。したがって、例えば、予め性別年代ごとに多数の健常者の歩幅と身長を計測し、各人の歩幅を身長で除した数値の平均を歩幅の基準値として得ておき、この基準値と、被験者の歩幅を被験者の身長で除した数値とを比較する。また、歩行面に表示する足跡画像の歩幅は、被験者と同性及び同年代の基準値に被験者の身長を掛け合わせて得られる数値とする。
【0041】
本発明において、目標とすべき歩行指標は、歩行指導者が当該被験者の歩行指標や性別、年齢、身長、体重、BMI、病気(腰痛、膝痛、尿漏れ、認知症、転倒傾向等)の有無等を踏まえ、被験者に無理のない範囲で、歩行指標の数値が加齢と逆方向となるように定めても良く、あるいは演算装置3に、予め、性別、年代、病気の有無ごとに歩行指標の基準値と基準範囲を登録しておき、被験者の歩行指標の数値が基準範囲よりも劣る場合には基準値を目標とし、基準範囲にある場合には数値の維持、または被験者よりも若い世代の歩行指標の数値が目標となるようにプログラムを設定してもよい。また、目標とすべき歩行指標には、被験者の希望を反映させてもよい。
【0042】
(演算装置)
演算装置3は、シート式圧力センサ等の計測装置2と接続しており、計測装置2から歩行指標が入力されると、それを記憶する。また、計測装置2がシート式圧力センサであった場合に、シート式圧力センサが
図1Bに示すように、歩行面2sに足跡画像を表示すると、演算装置3は、その足跡画像の画像信号を記憶し、被験者の歩行の足跡画像(以下、被験者足跡画像と称する)の画像信号を表示装置4に出力できることが好ましい。
【0043】
また、演算装置3は、歩行指導者により被験者が目標とすべき歩行指標の数値を指定されると、あるいは、被験者の歩行から計測された歩行指標の数値から上述のプログラムにより被験者が目標とすべき歩行指標の数値が定まると、その目標とすべき歩行指標の数値を有する目標足跡画像の画像信号を形成し、表示装置4に出力する。この画像信号の形成では、各歩行指標の定義にならい、各歩行指標の目標値を満たす足跡画像が歩行面で実寸大の表示となるように形成する。この場合、全ての歩行指標の目標値を足跡画像に反映させたものでもよいし、項目ごとに反映させたものでもよい。
【0044】
また、足跡画像に歩行指標を反映させる際には、足の重心で各足の距離、角度を反映させても良いし、踵の位置やつま先の位置など特定の同一の場所で各足の距離、角度を反映させても良い。
【0045】
個々の足跡画像は、シート式圧力センサの歩行面に表示される足跡画像と同様の足跡画像としてもよく、例えば特許文献2に記載されているような足跡画像のイラストとしてもよく、足裏の荷重中心の位置のみを任意の符号等で表示してもよい。
【0046】
(表示装置)
表示装置4は、演算装置3から出力された被験者足跡画像や目標足跡画像を歩行面Sに表示する。表示装置4としては、被験者足跡画像や目標足跡画像を歩行面Sに実寸で表示できるものが好ましい。このような表示装置としては、例えば、
図1Aに示したように、歩行面への映像投写を適切にできる台形補正が可能な市販のプロジェクターを使用することができる。また、シート状ディスプレイを表示装置とし、その上を被験者が歩行できるように透明板を配置してもよい。
【0047】
歩行面Sは、扁平な床でもよく、そこにシート式圧力センサの歩行面が存在していてもよい。また、歩行面Sはトレッドミルの歩行面でもよい。歩行面Sをスリガラスとし、その背面から足跡画像を投写してもよい。
【0048】
表示装置4により歩行面Sに表示される被験者足跡画像や目標足跡画像は、それぞれ静止画でもよく動画でも良い。静止画とする場合には、被験者の歩行テンポや目標とすべき歩行テンポを、音又は光で発し、被験者が自身の歩行テンポや目標とすべき歩行テンポを感じながら歩行できるようにすることが好ましい。また、動画とする場合には、被験者の歩行テンポ又は目標とすべき歩行テンポで足跡画像が表示されるようにすることが好ましい。
【0049】
目標足跡画像は、例えば
図1Cに示すように、被験者の歩行ラインA上に表示して被験者が目標足跡画像を踏んで歩行できるようにし、これにより目標とすべき歩行を体得できるようにしてもよく、
図1Dに示すように、目標足跡画像を被験者の歩行ラインAに平行に表示し、被験者が目標足跡画像に沿って歩行できるようにし、これにより被験者が目標とすべき歩行を体得できるようにしてもよい。このように目標とすべき歩行を被験者の歩行面に表示することにより、被験者は、歩幅、歩隔、つま先角度等の歩行指標をどれほどにして歩くべきかを実感することができるので、目標とすべき歩き方を容易に身につけることができる。
【0050】
計測装置2としてシート式足圧センサを使用し、そのシート式足圧センサにより表示される足跡画像が足の圧力分布を含む画像であり、演算装置3が被験者足跡画像に足の圧力分布を表示できる場合に、
図4に示すように目標足跡画像にも足の圧力分布を表示してもよい。目標足跡画像における足の圧力分布としては、歩行指導時に適宜シート式足圧センサで表示された被験者の足の圧力分布を表示しても良く、予め性別、年代別に作成しておいた足の圧力分布の平均値を表示してもよい。
【0051】
図5に示すように、足跡画像の表示と共に、歩幅、歩隔、つま先角度、立脚期の足圧の経時的時変化を示すグラフ(足圧波形)、足指得点等の歩行指標の数値を歩行面Sに表示してもよい。これにより、被験者は歩行指標の数値と歩行時の感覚とを結びつけて認識することができる。
【0052】
また、歩行速度と実年齢の回帰式から算出される歩行スピード年齢、特許第6127454号に記載の方法で右歩行角度、左歩行角度、歩行周期、両脚支持期時間及び歩幅から算出される歩行バランス年齢、特許文献2に記載の方法により歩行から計測される左右の歩幅、歩隔等の歩行パラメータと歩行から計測できない年齢、BMI等の歩行パラメータの主成分分析によって求められる大股・小股、一直線歩行・二直線歩行、左向き・右向き、内股・がに股、左脚負担・右脚負担等の歩行特徴の評価結果を歩行面Sに投影してもよい。なお、これらの数値や評価結果は、歩行面Sに投影するのとは別に、歩行指導上のアドバイスが記載されたアドバイスシートに表示し、被験者に提供することが好ましい。
【0053】
(歩行指導)
歩行指導者は、まず、被験者に歩いてもらう。このとき被験者の歩行から歩行指標を計測し、被験者足跡画像を記録すると共に、被験者の歩行に基づいて定められた目標足跡画像を歩行面に表示し、目標足跡画像を手本として被験者に歩いてもらう。この場合、被験者には目標足跡画像の足跡を踏むように歩いてもらうことが好ましい。あるいは被験者がその足跡に沿って歩くようにしてもよい。こうして歩行面に表示された目標足跡画像を手本として被験者が歩くことで、被験者は目標とすべき歩き方の歩幅、歩隔、つま先角度等の歩行指標を体得することができる。
【0054】
次に、目標足跡画像を歩行面から消し、再度被験者に歩行面を歩いてもらう。このときも被験者の歩行指標を計測し、被験者足跡画像を随時歩行面に表示できるようにすることが好ましい。そして、このときの被験者足跡画像と目標足跡画像とを並べて、あるいは重ねて歩行面に表示し、被験者の歩き方が目標とすべき歩き方に近づいているか否かを確認する。
【0055】
こうして目標足跡画像を手本とする歩行と、被験者の歩き方の確認を繰り返すことにより、被験者は容易に目標とすべき歩き方を身につけることができる。
【0056】
歩行指導者は、被験者が目標とすべき歩き方を見つけた後は、新たに目標とすべき歩行指標を設定し、その目標足跡画像を歩行面に表示し、これを手本にして被験者に歩いてもらうことが好ましい。こうして被験者は歩き方を改善することができる。
【0057】
なお、歩行指導の際に、被験者足跡画像や目標足跡画像とこれらの基になっている歩行指標の数値を紙に出力したアドバイスシートを被験者に提供することが好ましい。このアドバイスシートには、上述の歩行スピード年齢、歩行バランス年齢、大股・小股等の歩行特徴の評価結果を記載してもよい。これにより、歩行指導者は、被験者に目標をもたせながら歩き方についてアドバイスすることが容易になる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
(1)歩行指標のデータ取得
健診参加者2505名のうち健常者2419名と、膝痛保持者86名を対象として表1に示す歩行指標を計測し、基準値と基準範囲を求めた。この場合、歩行速度以外の歩行指標は左右の歩行指標の平均とした。歩行指標の計測装置としては、シート式圧力センサ(アニマ株式会社製シート式下肢加重計シリーズウォークWay)を使用した。また、基準値は中央値とし、基準範囲は、四分位範囲(25~75%)とした。
【0059】
【0060】
(2)歩行指導
80歳代で膝痛持ちの女性(身長155cm)を被験者とし、(1)と同様にして歩行指標を計測した。なおこの計測に先立ち、
図6の質問シートに記入してもらい、性別、年齢、身長、体重、症状について情報を得た。
【0061】
次に、被験者にシート式圧力センサ上を歩行してもらい、歩行指標を計測した。この結果を表2に示す。この場合、各歩行指標は左右の歩行指標の平均を示した。また、被験者の歩行指標を表1の基準範囲と対比した結果、及びそれに基づく歩行指導における目標も表2に合わせて示した。
【0062】
【0063】
即ち、この被験者の歩幅は、80歳代で膝痛ありの女性の基準値と比べると基準範囲よりも数値が小さいため歩行指導における目標は基準値とした。具体的には表1に示した目標足跡画像における歩幅の設定値が基準値である33.9%であることから、それに身長の155cmを掛け合わせた53cmを歩幅の目標値に設定した。以下、同様にして目標足跡画像における歩行指標の数値を表2に示すように決定した。
【0064】
被験者には、まず、表2に示した目標足跡画像の歩行指標をめざすように、アドバイスし、歩いてもらった。次に、歩行面に目標足跡画像を表示し、その上を歩いてもらった。その結果、被験者は、単に目標指標を提示されたときには、歩幅や歩隔を目標値に近づけようと、歩き方を過剰に補正していたが、歩行面に目標足跡画像を表示することにより過剰な補正がなくなり、目標足跡画像を踏む歩き方となった。したがって、目標足跡画像を踏む歩行指導により、被験者の日常の歩き方が目標指標を有する歩き方に補正されることが期待される。
【符号の説明】
【0065】
1 歩行指導システム
2 計測装置
2s シート式圧力センサの歩行面
3 演算装置
4 表示装置
A 歩行ライン
L1 歩幅
L2 歩隔
S 歩行面
θ1 つま先角度
θ2 歩行角度