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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】トランスアクスルの油温推定装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 59/72 20060101AFI20240605BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20240605BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20240605BHJP
   F16H 59/14 20060101ALI20240605BHJP
   F16H 59/36 20060101ALI20240605BHJP
   F16H 59/74 20060101ALI20240605BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20240605BHJP
   F16H 59/64 20060101ALI20240605BHJP
【FI】
F16H59/72
B60K6/442 ZHV
B60W20/00
F16H59/14
F16H59/36
F16H59/74
F16H61/02
F16H59/64
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021050168
(22)【出願日】2021-03-24
(65)【公開番号】P2022148469
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174366
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 史郎
(72)【発明者】
【氏名】清水 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】山村 卓也
(72)【発明者】
【氏名】大野 裕輝
(72)【発明者】
【氏名】森 純平
(72)【発明者】
【氏名】川井 慎也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 昌也
【審査官】鈴木 貴晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-054633(JP,A)
【文献】特開2017-109532(JP,A)
【文献】特開平10-122341(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/253429(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00-61/12,
61/16-61/24,
61/66-61/70,
63/40-63/50
B60K 6/20- 6/547,
B60W 10/00,10/02,
10/06,10/08,
10/10,10/18,
10/26,10/28,
10/30-20/50
B60L 1/00- 3/12,
7/00-13/00,
15/00-58/40
F16D 25/00-39/00,
48/00-48/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン、モータ、発電機、及びドライブシャフトの間で動力を伝達するトランスアクスルを有し、前記トランスアクスルの内部のクラッチを断接して動力伝達経路を切り替えることで複数の走行モードを選択可能な車両に備えられ、前記トランスアクスルの潤滑油の温度を推定する油温推定装置であって、
前記トランスアクスル内で区分された動力伝達経路毎に、前記車両の走行駆動系の運転状態に基づいて前記動力伝達経路におけるトルク損失による発熱量を演算し、前記走行モードに応じて前記動力伝達経路における発熱量を加算して、前記トランスアクスル内での発熱量を演算する発熱量演算部と、
前記トランスアクスルにおける発熱量に基づいて、前記トランスアクスル内の潤滑油の温度を推定する油温推定部と、
を備えたことを特徴とするトランスアクスルの油温推定装置。
【請求項2】
前記動力伝達経路は、
前記エンジンと前記ドライブシャフトとの間の第1動力伝達経路と、
前記エンジンと前記発電機との間の第2動力伝達経路と、
前記モータと前記ドライブシャフトとの間の第3動力伝達経路と、
前記クラッチと、
の4つに区分されることを特徴とする請求項1に記載のトランスアクスルの油温推定装置。
【請求項3】
前記トランスアクスルは、ケース内に動力伝達経路を備えるとともに潤滑油が封入されて構成され、
前記油温推定装置は、更に、
前記ケース内の潤滑油から前記ケースへの放熱量を演算する第1放熱量演算部と、
前記ケースから外気への放熱量を演算する第2放熱量演算部と、
を有し、
前記油温推定部は、前記発熱量演算部において演算した発熱量と、第1放熱量演算部において演算した放熱量と、第2放熱量演算部において演算した放熱量とに基づいて、前記トランスアクスル内の潤滑油の温度を推定することを特徴とする請求項1または2に記載のトランスアクスルの油温推定装置。
【請求項4】
第1放熱量演算部は、前記動力伝達経路における動力伝達に伴う前記潤滑油の攪拌速度に基づいて、前記潤滑油から前記ケースへの放熱量を演算することを特徴とする請求項3に記載のトランスアクスルの油温推定装置。
【請求項5】
前記第2放熱量演算部は、少なくとも前記車両の走行速度に基づく前記ケースの外壁面に沿って通過する風速と、前記車両のラジエータファンの作動により前記ケースの外壁面に沿って通過する風速と、に基づいて前記ケースから外気への放熱量を演算することを特徴とする請求項3または4に記載のトランスアクスルの油温推定装置。
【請求項6】
前記第2放熱量演算部は、更に、前記エンジンの温度及び前記発電機の温度に基づいて演算された前記ケースの雰囲気温度に基づいて、前記ケースから外気への放熱量を演算することを特徴とする請求項5に記載のトランスアクスルの油温推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車に備えられたトランスアクスルの潤滑油温度を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のトランスアクスル等の変速機には、潤滑油(作動油)が封入されている。変速機は、封入されている潤滑油の粘性によって作動特性が変化するため、潤滑油の温度を精度良く検出することが必要である。潤滑油の温度は、一般的に温度センサによって検出されている。
しかしながら、車両の変速機内の油温は大きく変化する可能性があるため、広い温度範囲で精度良く温度を検出することが困難であり、また広範囲の温度に対応する温度センサは高価になるといった問題点があった。
【0003】
このような問題点に対し、特許文献1には、変速機の潤滑油に浸したソレノイド弁を設け、ソレノイド弁のコイルへの印可電圧値とコイルに流れる電流値に基づいて、潤滑油の温度を推定する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-316848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、変速機に新にソレノイド弁を設けなければならないので、依然として部品コストの増加を招いてしまうといった問題点がある。また、変速機にソレノイド弁を設置することで変速機の大型化を招く虞もある。
ところで、EVモード、パラレルモード、シリーズモードといった複数の走行モードを切り替え可能なハイブリッド車が開発されている。このようなハイブリッド車においては、エンジンやモータといった走行駆動源と、エンジンによって駆動される発電機と、ドライブシャフトと、の間に変速機及びデフを含むトランスアクスルが備えられている。
【0006】
そして、このような複数の走行モードを切り替え可能なハイブリッド車においても、トランスアクスル内の潤滑油の温度変化によって作動特性が変化するため、各走行モードでのトランスアクスル内の潤滑油の温度を精度良くかつ安価に推定することが要求されている。
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、温度センサを用いずに、安価なシステムでハイブリッド車におけるトランスアクスル内の油温を推定できる油温推定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明のトランスアクスルの油温推定装置は、エンジン、モータ、発電機、及びドライブシャフトの間で動力を伝達するトランスアクスルを有し、前記トランスアクスルの内部のクラッチを断接して動力伝達経路を切り替えることで複数の走行モードを選択可能なハイブリッド車に備えられ、前記トランスアクスルの潤滑油の温度を推定する油温推定装置であって、前記トランスアクスル内で区分された動力伝達経路毎に、前記車両の走行駆動系の運転状態に基づいて前記動力伝達経路におけるトルク損失による発熱量を演算し、前記走行モードに応じて前記動力伝達経路における発熱量を加算して、前記トランスアクスルにおける発熱量を演算する発熱量演算部と、前記トランスアクスルにおける発熱量に基づいて、前記トランスアクスル内の潤滑油の温度を推定する油温推定部と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
これにより、発熱量演算部において、車両の走行駆動系の運転状態に基づいてトランスアクスル内の動力伝達経路での発熱量が演算され、走行モードに応じて動力伝達経路における発熱量が加算されてトランスアクスル内での発熱量が演算されるので、油温推定部において、温度センサを用いずに各走行モードにおけるトランスアクスル内の潤滑油の温度を精度良く推定可能になる。
【0009】
好ましくは、前記動力伝達経路は、前記エンジンと前記ドライブシャフトとの間の第1動力伝達経路と、前記エンジンと前記発電機との間の第2動力伝達経路と、前記モータと前記ドライブシャフトとの間の第3動力伝達経路と、前記クラッチと、の4つに区分されるとよい。
これにより、ハイブリッド車におけるトランスアクスル内の動力伝達経路が4つに区分され、発熱量演算部において走行モードに応じてハイブリッド車におけるトランスアクスル内の動力伝達経路での発熱量が演算される。したがって、油温推定部においてハイブリッド車の各走行モードでのトランスアクスル内の潤滑油の温度を精度良く推定できる。
【0010】
好ましくは、前記トランスアクスルは、ケース内に動力伝達経路を備えるとともに潤滑油が封入されて構成され、前記油温推定装置は、更に、前記ケース内の潤滑油から前記ケースへの放熱量を演算する第1放熱量演算部と、前記ケースから外気への放熱量を演算する第2放熱量演算部と、を有し、前記油温推定部は、前記発熱量演算部において演算した発熱量と、第1放熱量演算部において演算した放熱量と、第2放熱量演算部において演算した放熱量とに基づいて、前記トランスアクスル内の潤滑油の温度を推定するとよい。
【0011】
これにより、ケース内の潤滑油からケースへの放熱量と、ケースから外気への放熱量が演算され、トランスアクスル内での発熱量と合わせて、トランスアクスル内の潤滑油の温度を精度良く推定できる。
好ましくは、第1放熱量演算部は、前記動力伝達経路における動力伝達に伴う前記潤滑油の攪拌速度に基づいて、前記潤滑油から前記ケースへの放熱量を演算するとよい。
【0012】
これにより、第1放熱量演算部において、ケース内の潤滑油からケースへの放熱量を精度よく演算できる。
好ましくは、前記第2放熱量演算部は、少なくとも前記車両の走行速度に基づく前記ケースの外壁面に沿って通過する風速と、前記車両のラジエータファンの作動により前記ケースの外壁面に沿って通過する風速と、に基づいて前記ケースから外気への放熱量を演算するとよい。
【0013】
これにより、第2放熱量演算部において、ケースから外気への放熱量を精度良く演算できる。
好ましくは、前記第2放熱量演算部は、更に、前記エンジンの温度及び前記発電機の温度に基づいて演算された前記ケースの雰囲気温度に基づいて、前記ケースから外気への放熱量を演算するとよい。
【0014】
これにより、第2放熱量演算部において、ケースから外気への放熱量を更に精度良く演算できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の車両用変速機の油温推定装置によれば、走行モードに応じて動力伝達経路における発熱量が加算されてトランスアクスル内での発熱量が演算されるので、各走行モードにおいてトランスアクスル内の潤滑油の温度を、温度センサを用いずに安価でかつ精度よく推定可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態のトランスアクスルの油温推定装置が採用された車両の全体構成図である。
図2】トランスアクスル油温推定部にて実行される油温推定制御のブロック図である。
図3】発熱量演算部におけるトランスアクスル内での発熱量の演算手順を示すブロック図である。
図4】トランスアクスル内の動力伝達経路の説明図である。
図5】第1放熱量演算部におけるトランスアクスル内の潤滑油からケースへの放熱量の演算手順を示すブロック図である。
図6】第2放熱量演算部におけるトランスアクスルのケースから外気への放熱量の演算手順を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をプラグインハイブリッド車両(以下、車両1という)に適用した実施形態を説明する。
図1は本実施形態の油温推定装置が採用された車両1の全体構成図である。
本実施形態の車両1は、走行駆動源としてフロントモータ2、リヤモータ5及び及びエンジン3を備えたプラグインハイブリッド車である。
【0018】
車両1は、フロントモータ2の出力またはフロントモータ2及びエンジン3の出力により前輪4を駆動し、リヤモータ5の出力により後輪6を駆動するように構成された4輪駆動車である。
エンジン3の出力軸はトランスアクスル7を介して前輪4の駆動軸であるドライブシャフト8と連結されている。トランスアクスル7は、ケース7a内にデフ7bと動力伝達経路を断接可能なクラッチ9とが内蔵されるとともに、潤滑油が封入されている。クラッチ9の接続時にはエンジン3の駆動力がトランスアクスル7及びドライブシャフト8を経て前輪4に伝達され、クラッチ9の切断時にはエンジン3と前輪4との連結が切り離される。
【0019】
トランスアクスル7のクラッチ9より動力伝達方向の下流側(前輪4側)にはフロントモータ2が連結され、その駆動力がトランスアクスル7からドライブシャフト8を経て前輪4に伝達されるように構成されている。また、トランスアクスル7のクラッチ9より動力伝達方向の上流側(エンジン3側)にはモータジェネレータ10が連結され、クラッチ9の切断時において、モータジェネレータ10はエンジン3の駆動により発電したり、或いはエンジン3を始動するスタータモータとして機能したりする。また、リヤモータ5は減速機11を介して後輪6のドライブシャフト12と連結され、その駆動力が減速機11からドライブシャフト12を経て後輪6に伝達されるようになっている。
【0020】
エンジン3には、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央演算処理装置(CPU)等から構成されたエンジンコントロールユニット14が接続され、このエンジンコントロールユニット14によりエンジン3のスロットル開度、燃料噴射量、点火時期等が制御される。また、エンジンコントロールユニット14は、図示しないラジエータファンの回転速度等の作動制御を行う。なお、ラジエータファンは、車両1のエンジンルームの前部に設けられ、冷却風を供給することでラジエータを冷却するとともにエンジンルーム内のエンジン3及びトランスアクスル7といった機器を冷却する。
【0021】
フロントモータ2、リヤモータ5及びモータジェネレータ10は三相交流電動機であり、それらの電源として走行駆動用の蓄電池15が備えられている。蓄電池15は、例えばリチウムイオン電池等の二次電池から構成され、その充電率の算出や温度の検出を行うバッテリモニタリングユニット15aを内蔵している。
フロントモータ2及びモータジェネレータ10はフロントモータコントロールユニット16を介して蓄電池15に接続されている。フロントモータコントロールユニット16には、フロントモータ用インバータ16a及びモータジェネレータ用インバータ16bが備えられている。蓄電池15の直流電力は、フロントモータ用インバータ16a及びモータジェネレータ用インバータ16bにより三相交流電力に変換されてフロントモータ2やモータジェネレータ10に供給される。また、フロントモータ2による回生電力やモータジェネレータ10による発電電力は、フロントモータ用インバータ16a及びモータジェネレータ用インバータ16bにより直流電力に変換されて蓄電池15に充電される。
【0022】
同様に、リヤモータ5はリヤモータコントロールユニット17を介して蓄電池15に接続されている。リヤモータコントロールユニット17には、リヤモータ用インバータ17aが備えられている。蓄電池15の直流電力は、リヤモータ用インバータ17aにより三相交流電力に変換されてリヤモータ5に供給され、リヤモータ5による回生電力は、リヤモータ用インバータ17aにより直流電力に変換されて蓄電池15に充電される。
【0023】
また、車両1には、蓄電池15を外部電源によって充電する充電機13が備えられている。
車両1には、車両1の総合的な制御を行うための制御装置であるハイブリッドコントロールユニット18が備えられている。ハイブリッドコントロールユニット18は、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央演算処理装置(CPU)等から構成されている。このハイブリッドコントロールユニット18により、エンジン3、フロントモータ2、モータジェネレータ10、リヤモータ5の各運転状態、及びトランスアクスル7のクラッチ9の断接状態等が制御される。ハイブリッドコントロールユニット18の入力側には、バッテリモニタリングユニット15a、フロントモータコントロールユニット16、リヤモータコントロールユニット17、エンジンコントロールユニット14、車速VEH SPDを検出する車速センサ20、及び図示しないアクセル開度を検出するアクセル開度センサが接続されており、これらの機器からの検出及び作動情報が入力される。
【0024】
また、ハイブリッドコントロールユニット18の出力側には、フロントモータコントロールユニット16、リヤモータコントロールユニット17、トランスアクスル7のクラッチ9、及びエンジンコントロールユニット14が接続されている。
そして、ハイブリッドコントロールユニット18は、アクセル開度センサや車速センサ20等の各種検出量等に基づき、車両1の走行モードをEVモード、シリーズモード、パラレルモードの間で切り換える。例えば、高速領域のようにエンジン3の効率が高い領域では、走行モードをパラレルモードとする。また、中低速領域では、蓄電池15の充電率SOCや車両走行駆動用の要求トルク等に基づきEVモードとシリーズモードとの間で切り換える。
【0025】
EVモードでは、トランスアクスル7のクラッチ9を切断すると共にエンジン3を停止し、蓄電池15からの電力によりフロントモータ2やリヤモータ5を駆動して車両1を走行させる。
シリーズモードでは、トランスアクスル7のクラッチ9を切断した上で、エンジン3を運転してモータジェネレータ10を駆動し、その発電電力及び蓄電池15からの電力によりフロントモータ2やリヤモータ5を駆動して車両1を走行させる。なお、モータジェネレータ10による発電電力のうち余剰電力は、蓄電池15に充電される。
【0026】
パラレルモードでは、トランスアクスル7のクラッチ9を接続した上で、エンジン3を運転して駆動力をトランスアクスル7から前輪4に伝達すると共に、エンジン駆動力に余剰があるときには、フロントモータ2で回生し、エンジン駆動力が足りないときには、蓄電池15の電力を使ってフロントモータ2でアシストする。
また、ハイブリッドコントロールユニット18は、上記各種検出量及び作動情報に基づき車両1の走行に必要な総要求出力を算出し、その総要求出力を、EVモード及びシリーズモードではフロントモータ2側とリヤモータ5側とに配分し、パラレルモードではフロントモータ2側とエンジン3側とリヤモータ5側とに配分する。そして、それぞれに配分した要求出力、及びフロントモータ2から前輪4までのトランスアクスル7のギヤ比、エンジン3から前輪4までのトランスアクスル7のギヤ比、リヤモータ5から後輪6までの減速機11のギヤ比に基づき、フロントモータ2、エンジン3、リヤモータ5のそれぞれの要求トルクを設定し、各要求トルクを達成するようにフロントモータコントロールユニット16、リヤモータコントロールユニット17及びエンジンコントロールユニット14に指令信号を出力する。
【0027】
フロントモータコントロールユニット16及びリヤモータコントロールユニット17ではハイブリッドコントロールユニット18からの指令信号に基づき、要求トルクを達成するためにフロントモータ2及びリヤモータ5の各相のコイルに流すべき目標電流値を算出する。そして、目標電流値に基づきフロントモータ用インバータ16a及びリヤモータ用インバータ17aをスイッチング制御して各コイルの電流値を目標電流値に制御し、それぞれの要求トルクを達成する。尚、モータジェネレータ10の発電時も同様であり、負側の要求トルクから求めた目標電流値に基づきモータジェネレータ用インバータ16bをスイッチング制御し、これにより目標電流値を達成する。
【0028】
エンジンコントロールユニット14ではハイブリッドコントロールユニット18からの指令信号に基づき、要求トルクの達成のためのスロットル開度、燃料噴射量、点火時期等の目標値を算出し、それらの目標値に基づく制御により要求トルクを達成する。
本実施形態のハイブリッドコントロールユニット18には、トランスアクスル7内の潤滑油温度(油温)を推定するトランスアクスル油温推定部30(油温推定部、油温推定装置)が備えられている。トランスアクスル7の油温は、例えばクラッチ9の作動を制御する際のパラメータの1つとして利用される。
【0029】
以下、図2~6を用いて、トランスアクスル油温推定部30における油温推定制御について説明する。
図2は、トランスアクスル油温推定部30にて実行される油温推定制御のブロック図である。
トランスアクスル油温推定部30には、上記の走行モード(MODE STAT)と、エンジンコントロールユニット14を介してエンジン回転速度(ENG SPD)、エンジントルク(ENG_TRQ)、ラジエータファンDuty (Rad. FAN_Duty:ラジエータファン回転速度に相関する)と、フロントモータコントロールユニット16を介してモータジェネレータ10の入出力トルク(GEN TRQ)、フロントモータ2のモータ回転速度(MOT_SPD)及びモータトルク(MOT TRQ)と、車速センサ20より車速(VEH SPD)と、後述するトランスアクスル7の周囲温度であるトランスアクスル雰囲気温度(TA_Ambient_T)とが入力し、更にトランスアクスル油温推定部30において前回推定したトランスアクスル7内の潤滑油温度((Prev)TA_Oil_T)及びトランスアクスルケース温度((Prev)TA_Case_T)を使用して、現在のトランスアクスルケース温度(T/A Case Temp.)及びトランスアクスル油温(T/A Oil Temp.)を出力する。
【0030】
トランスアクスル油温推定部30は、発熱量演算部31と、第1放熱量演算部32と、第2放熱量演算部33と、を備えている。なお、トランスアクスル油温推定部30における、発熱量演算部31、第1放熱量演算部32及び第2放熱量演算部33を除く構成が本願発明の油温推定部に該当する。
発熱量演算部31は、トランスアクスル7内での発熱量を演算する。
【0031】
第1放熱量演算部32は、トランスアクスル7内の潤滑油からトランスアクスル7のケース7aへの放熱量を演算する。
第2放熱量演算部33は、トランスアクスル7のケース7aの外気(大気)への放熱量を演算し、更にトランスアクスルケース温度(T/A Case Temp.)を演算する。
図3は、発熱量演算部31におけるトランスアクスル7内での発熱量の演算手順を示すブロック図である。図4は、トランスアクスル7内の動力伝達経路A~Dの説明図である。
【0032】
図3、4に示すように、発熱量演算部31には、動力伝達経路A~D毎に損失エネルギを算出するための4つのマップA~Dが記憶装置に記憶されている。
マップA(MAP A)は、エンジン回転速度(ENG SPD)及びエンジントルク(モータジェネレータ10への出力トルクを除く)に基づき、エンジン3とドライブシャフト8との間の第1動力伝達経路Aにおける損失エネルギを演算するための3次元マップである。マップAは、エンジン回転速度(ENG SPD)やエンジントルクが増加するに伴って第1動力伝達経路Aにおける損失エネルギが増加するように設定されている。
【0033】
マップB(MAP B)は、エンジン回転速度(ENG SPD)及びエンジントルク(ドライブシャフト8へのトルクを除く)に基づき、エンジン3とモータジェネレータ10との間の第2動力伝達経路Bにおける損失エネルギを演算するための3次元マップである。マップBは、エンジン回転速度(ENG SPD)やエンジントルクが増加するに伴って第2動力伝達経路Bにおける損失エネルギが増加するように設定されている。
【0034】
マップC(MAP C)は、モータ回転速度(MOT_SPD)及びモータトルク(MOT TRQ)に基づき、フロントモータ2とドライブシャフト8との間の第3動力伝達経路Cにおける損失エネルギを演算するための3次元マップである。マップCは、モータ回転速度(MOT_SPD)やモータトルク(MOT TRQ)が増加するに伴って第3動力伝達経路Cにおける損失エネルギが増加するように設定されている。
【0035】
マップD(MAP D)は、クラッチ9における回転速度差に基づき、クラッチ9(第4動力伝達経路D)での損失エネルギを演算するためのマップである。マップDは、クラッチ9における回転速度差が例えば2000rpm付近で損失エネルギが最大になるように設定されている。
走行モードがEVモード(モード0)である場合には、マップA及びBでの演算結果が0となり、マップC及びDを使用した演算結果に基づき、トランスアクスル7内での損失エネルギを演算する。
【0036】
走行モードがシリーズモードである場合には、マップAでの演算結果が0となり、マップB、C及びDを使用した演算結果に基づき、トランスアクスル7内での損失エネルギを演算する。
走行モードがパラレルモードである場合には、クラッチ9が接続されているのでマップDを使用した演算結果が0となり、マップA、B及びCの演算結果に基づき、トランスアクスル7内での損失エネルギを演算する。
【0037】
なお、図4に示すギヤ比aはエンジン3とモータジェネレータ10との間のギヤ比であり、ギヤ比bはエンジン3とクラッチ9との間のギヤ比であり、ギヤ比cは、フロントモータ2とクラッチ9との間のギヤ比であって、ギヤ比a~cは夫々定数である。
マップA~Dの演算結果である損失エネルギに対し、走行モード毎にあらかじめ設定されている係数(K(0)1~K(2)1、K(0)2~K(2)2、K(0)3~K(2)3、K(0)4~K(2)4)を積算することで、動力伝達経路A~D毎の発熱量が個別に演算され、これらを加算することで、トランスアクスル7内での発熱量が演算される。
【0038】
図5は、第1放熱量演算部32におけるトランスアクスル7内の潤滑油からケース7aへの放熱量の演算手順を示すブロック図である。
図5に示すように、第1放熱量演算部32では、エンジン回転速度(ENG SPD)に基づきマップEを用いて、エンジン3及びモータジェネレータ10の回転による潤滑油攪拌速度補正係数を演算する。また、モータ回転速度(MOT SPD)に基づきマップFを用いて、フロントモータ2及びデフ7bの回転による潤滑油攪拌速度補正係数を演算する。そして、これらの補正係数により、あらかじめ設定されている潤滑油からケース7aへの基本熱伝達係数(Heat Transfer Coeff.(inside))(定数)を補正する。なお、マップEは、エンジン回転速度(ENG SPD)が増加するに伴ってエンジン3及びモータジェネレータ10による潤滑油攪拌速度補正係数が増加するように設定されている。また、マップFは、モータ回転速度(MOT SPD)が増加するに伴ってフロントモータ2及びデフ7bによる潤滑油攪拌速度補正係数が増加するように設定されている。
【0039】
そして、この補正後の潤滑油からケース7aへの熱伝達係数にトランスアクスル7の潤滑油が接触する内壁面積(TA surface(inside) Area)(定数)を積算し、これにトランスアクスル油温推定部30において前回演算したトランスアクスル油温((Prev)TA Oil T)とケース温度((Prev)TA Case T)との温度差を積算して、トランスアクスル7内の潤滑油からケース7aへの放熱量(放熱エネルギ)が演算される。
【0040】
図6は、第2放熱量演算部33におけるトランスアクスル7のケース7aから外気への放熱量の演算手順を示すブロック図である。
図6に示すように、第2放熱量演算部33では、車速(VEH SPD)に基づきマップGを用いて、車速による雰囲気流速補正係数を演算する。また、ラジエータファンDuty(Rad.FAN_Duty)に基づきマップHを用いて、ラジエータファンによる雰囲気流速補正係数を演算する。なお、マップGは、車速(VEH SPD)が増加するに伴って車速による雰囲気流速補正係数が増加するように設定されている。マップHは、ラジエータファンDutyが増加するに伴って、即ちラジエータファンの回転速度が増加するに伴って、ラジエータファンによる雰囲気流速補正係数が増加するように設定されている。そして、これらの補正係数により、あらかじめ設定されているケース7aから外気への基本熱伝達係数(Heat Transfer Coeff.(outside))(定数)を補正する。そして、この補正後のケース7aから外気への基本熱伝達係数に、外気が接触するトランスアクスル7の外壁面積(TA surface(outside) Area)(定数)を積算し、更に前回演算したケース温度((Prev)TA Case T)とトランスアクスル雰囲気温度(TA Ambient T)との温度差を積算して、トランスアクスル7のケース7aから外気への放熱量(放熱エネルギ)が演算される。
【0041】
更に、第1放熱量演算部32において演算された潤滑油からケース7aへの放熱量から、このケース7aから外気への放熱量を減算することで、ケース7aに溜まる熱量(エネルギ)が演算される。
ケース7aに溜まる熱量を演算周期(定数)とケース熱容量の逆数(定数)を積算し、前回推定したケース温度((Prev)TA Case T)に加算して、現在のケース温度(TA Case Temp.)を演算する。このケース温度(TA Case Temp.)は、次回の第1放熱量演算部32での演算において、前回のケース温度((Prev)TA Case T)として使用される。
【0042】
なお、トランスアクスル雰囲気温度(TA Ambient T)は、重回帰分析によって相関の強い引数(エンジン水温、発電機油温、モータコイル温度等)と夫々の係数を決定して、これらの引数より演算すればよい。
また、トランスアクスル油温推定部30において使用する、前回推定したトランスアクスル油温((Prev)TA Oil T)については、車両1のIG-ON時の初回演算時には初期値((ST)TA Oil T)が使用される。
【0043】
トランスアクスル油温推定部30は、IG-OFF(電源OFF)直前に演算したトランスアクスル油温度(T/A Oil Temp.)を、IG-OFF直前のトランスアクスル油温((END)TA Oil T)として、記憶装置に記憶しておく。
そして、トランスアクスル油温推定部30は、IG-ON時において、前回のIG-OFF直前のトランスアクスル油温((END)TA Oil T)を読出して、トランスアクスル油温の初期値((ST)TA Oil T)を演算する。
【0044】
トランスアクスル油温推定部30は、IG-ON時に各種温度センサの検出値(例えばモータジェネレータ温度、モータジェネレータ油温度、エンジン冷却水温度、モータコイル温度、モータ油温)を入力し、IG-OFF直前のトランスアクスル油温((END)TA Oil T)と各種温度センサの検出値との差を、IG-OFFからIG-ONまでの経過時間であるソーク時間によって重みづけをして、ソーク時間経過による放熱温度を演算する。
【0045】
そして、IG-OFF直前のトランスアクスル油温((END)TA Oil T)に、このソーク時間経過による放熱温度を加算して、トランスアクスル油温の初期値((ST)TA Oil T)を演算する。
そして、図2に示すように、前回演算したトランスアクスル7内の潤滑油温度((Prev)TA_Oil_T)に基づきマップIを用いて潤滑油の比熱を演算し、この潤滑油の比熱に潤滑油の質量(定数)を積算して、潤滑油の熱容量を演算する。なお、マップIは、トランスアクスル7内の潤滑油温度と比熱との関係を示すマップであり、例えばトランスアクスル7内の潤滑油温度(絶対温度)が上昇するに伴って比熱が上昇するように設定されている。
【0046】
また、発熱量演算部31で演算したトランスアクスル7内での発熱量と、第1放熱量演算部32で演算したトランスアクスル7内の潤滑油からケース7aへの放熱量を減算して演算周期(定数)を積算して、潤滑油の温度変化に関与する熱量を演算し、この値に前述の潤滑油の熱容量を除算して潤滑油の温度変化量を演算する。更に、この潤滑油の温度変化量に前回演算したトランスアクスル7内の潤滑油温度((Prev)TA Oil T)を加算して、トランスアクスル7内の潤滑油温度(TA Oil Temp.)が演算される。
【0047】
以上のように、本実施形態の車両1は、EVモード、シリーズモード、パラレルモードといった3種類の走行モードが可能なハイブリッド車であり、これらの走行モードに応じて、エンジン3、フロントモータ2、モータジェネレータ10及びドライブシャフト8との間に備えられたトランスアクスル7内の動力伝達経路が切り替えられる。
本実施形態に係る車両1では、トランスアクスル油温推定部30の発熱量演算部31において、エンジン3、フロントモータ2、モータジェネレータ10の回転速度や入出力トルク、車速といった車両1の走行駆動系の運転状態に基づいて、各動力伝達経路A~Dにおけるトルク損失による発熱量(発熱エネルギ)が夫々演算される。そして、走行モードに応じて動力伝達経路における発熱量が加算されてトランスアクスル7内での発熱量が演算されるので、温度センサを用いずに各走行モードにおけるトランスアクスル7内の潤滑油の温度を精度良く推定可能になる。
【0048】
車両1のトランスアクスル7内の動力伝達経路が、第1~第3動力伝達経路A~C及びクラッチ9(D)の4つに区分され、トランスアクスル7内の各動力伝達経路A~Dでの発熱量が夫々演算されるので、車両1の各走行モードでのトランスアクスル7内の潤滑油の温度を精度良く推定できる。
また、トランスアクスル油温推定部30は、ケース7a内の潤滑油からケース7aへの放熱量(放熱エネルギ)を演算する第1放熱量演算部32と、ケース7aから外気への放熱量を演算する第2放熱量演算部33と、更に有し、発熱量演算部31において演算した発熱量と、第1放熱量演算部32において演算した放熱量と、第2放熱量演算部33において演算した放熱量に基づいてトランスアクスル7内の潤滑油の温度を推定するので、トランスアクスル7内の潤滑油の温度を更に精度良く推定できる。
【0049】
また、第2放熱量演算部33は、少なくとも車両1の走行速度に基づくケース7aの外壁面に沿って通過する風速に相関する値である車速による雰囲気流速補正係数と、車両1のラジエータファンの作動によりケース7aの外壁面に沿って通過する風速に相関する値であるラジエータファンによる雰囲気流速補正係数と、に基づいてケース7aから外気への放熱量を演算するので、ケース7aから外気への放熱量を精度良く演算できる。
【0050】
また、第2放熱量演算部33は、更に、エンジン3の温度及びモータジェネレータ10の温度に基づくケース7aの雰囲気温度であるトランスアクスル雰囲気温度(TA_Ambient_T)を用いてケース7aから外気への放熱量を演算するので、ケース7aから外気への放熱量を更に精度良く演算できる。
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば、発熱量演算部31、第1放熱量演算部32、第2放熱量演算部33における演算の詳細については適宜変更してもよい。
【0051】
また、上記実施形態は、EVモード、シリーズモード、パラレルモードを切り替え可能なプラグインハイブリッド車に本発明を適用しているが、走行モードの切り替えにより、トランスアクスルにおける動力伝達経路が切り替わるハイブリッド車に本発明を広く適用できる。
【符号の説明】
【0052】
1 車両
2 フロントモータ(モータ)
3 エンジン
7 トランスアクスル
8 ドライブシャフト
9 クラッチ(第4動力伝達経路 D)
10 モータジェネレータ(発電機)
30 トランスアクスル油温推定部(油温推定部)
31 発熱量演算部
32 第1放熱量演算部
33 第2放熱量演算部
A 第1動力伝達経路
B 第2動力伝達経路
C 第3動力伝達経路
図1
図2
図3
図4
図5
図6