(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】運転支援装置、車両、運転支援方法及び運転支援プログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20240605BHJP
【FI】
G08G1/16 D
(21)【出願番号】P 2022007351
(22)【出願日】2022-01-20
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊田 浩史
(72)【発明者】
【氏名】池澤 佑太
(72)【発明者】
【氏名】栃木 康平
【審査官】小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-129013(JP,A)
【文献】特開2002-260190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30、30/00-60/00
G01C 21/00-21/36、23/00-25/00
G08G 1/00-99/00
G09B 23/00-29/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前方の路面を含む領域である前方領域に存在する路面標示及び交差点に関する情報を周囲情報として取得可能な周囲情報取得装置と、
前記車両の運転者による操舵操作の有無を含む情報を操舵情報として取得可能な操舵情報取得装置と、
記憶装置を有する制御ユニットであって、
前記周囲情報に基づいて交差点が検出された場合において前記車両が走行している車線である走行車線又は前記走行車線に隣接している車線である隣接車線にて路面矢印標示が検出されたとき、前記路面矢印標示及びこれにより示される車線の進行可能方向を含む情報である路面矢印情報を車線毎に前記検出された交差点に関連付けて前記記憶装置に記憶
し、
所定の第1実行条件が成立している場合に、前記車両の減速度が目標減速度に一致するように前記車両に自動的に制動力を付与し、これにより前記検出された交差点にて右折又は左折する前に前記車両が所定の目標車速にまで減速することを支援する右左折前減速支援制御と、前記運転者に警報し、これにより前記検出された交差点にて右折又は左折する前に前記運転者に減速操作を促す右左折前警報制御と、の少なくとも一方を含む運転支援制御を実行し、
前記周囲情報に基づいて交差点が検出され且つ前記操舵情報に基づいて前記運転者により操舵操作が実行されていると判定された場合に成立する前提条件が成立して
おり、
且つ、前記記憶装置に前記走行車線の前記路面矢印情報である走行車線矢印情報が記憶されている第1の場合において、
前記実行されている操舵操作に対応する方向が、前記走行車線矢印情報により示される前記走行車線の進行可能方向に含まれている場合に成立する第1方向条件が成立しているときは、前記第1実行条件が成立していると判定し、
前記前提条件が成立しており、前記記憶装置に前記走行車線矢印情報が記憶されていないか又は前記第1方向条件が成立していないかの何れかであり、且つ、前記記憶装置に前記隣接車線の前記路面矢印情報である隣接車線矢印情報が記憶されている第2の場合において、
前記実行されている操舵操作に対応する方向が、前記隣接車線矢印情報のうち前記操舵操作に対応する方向に対応する隣接車線矢印情報により示される前記隣接車線の進行可能方向に含まれており且つ当該進行可能方向に直進方向が含まれていない場合に成立する第2方向条件が成立しているとき、前記第1実行条件が成立していると判定し、
前記第2方向条件が成立していないとき、前記第1実行条件が成立していないと判定する、
ように構成された制御ユニットと、
を備える、
運転支援装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の運転支援装置において、
前記制御ユニットは、
更に、前記周囲情報に基づいて交差点が検出されていることを含む所定の第2実行条件が成立している場合に、前記右左折前減速支援制御と比較して前記車両が前記目標車速にまで減速する度合いが軽減された右左折前軽度減速支援制御と、前記右左折前警報制御と比較して前記運転者への警報の度合いが軽減された右左折前軽度警報制御と、の少なくとも一方を含む軽度運転支援制御を実行可能であり、
前記第2の場合において、
前記実行されている操舵操作に対応する方向が、前記
隣接車線矢印情報のうち前記操舵操作に対応する方向に対応する隣接車線矢印情報により示される前記隣接車線の進行可能方向に含まれており且つ当該進行可能方向に直進方向が含まれていることにより前記第2方向条件が成立していないとき、前記第2実行条件が成立していると判定する、
ように構成された、
運転支援装置。
【請求項3】
請求項
1又は請求項
2に記載の運転支援装置において、
前記制御ユニットは、
更に、前記周囲情報に基づいて交差点が検出されていることを含む所定の第2実行条件が成立している場合に、前記右左折前減速支援制御と比較して前記車両が前記目標車速にまで減速する度合いが軽減された右左折前軽度減速支援制御と、前記右左折前警報制御と比較して前記運転者への警報の度合いが軽減された右左折前軽度警報制御と、の少なくとも一方を含む軽度運転支援制御を実行可能であり、
前記前提条件が成立しており、且つ、前記記憶装置に前記走行車線矢印情報及び前記隣接車線矢印情報の何れも記憶されていない第3の場合、前記第2実行条件が成立していると判定する、
ように構成された、
運転支援装置。
【請求項4】
請求項
3に記載の運転支援装置において、
前記制御ユニットは、
前記前提条件が成立しており、前記第1方向条件が成立しておらず、且つ、前記記憶装置に前記隣接車線矢印情報が記憶されていない第4の場合、前記第1実行条件及び前記第2実行条件が何れも成立していないと判定する、
ように構成された、
運転支援装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項
4の何れか一項に記載の運転支援装置において、
前記操舵情報取得装置は、方向指示器を作動させるために前記運転者により操作される操作器の操作状態を検出可能な方向指示器スイッチであり、前記運転者により前記操作器が操作されている状態にあるか否かを前記操舵情報として取得する、
ように構成された、
運転支援装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項
5の何れか一項に記載の運転支援装置を備える車両。
【請求項7】
制御ユニットが、車両の前方の路面を含む領域である前方領域に存在する路面標示及び交差点に関する情報を周囲情報として周囲情報取得装置に取得させることと、
前記制御ユニットが、前記車両の運転者による操舵操作の有無を含む情報を操舵情報として操舵情報取得装置に取得させることと、
前記周囲情報に基づいて交差点が検出された場合において前記車両が走行している車線である走行車線又は前記走行車線に隣接している車線である隣接車線にて路面矢印標示が検出されたとき、
前記制御ユニットが、前記路面矢印標示及びこれにより示される車線の進行可能方向を含む情報である路面矢印情報を車線毎に前記検出された交差点に関連付けて記憶装置に記憶
させること
と、
所定の第1実行条件が成立している場合に、
前記制御ユニットが、前記車両の減速度が目標減速度に一致するように前記車両に自動的に制動力を付与し、これにより前記検出された交差点にて右折又は左折する前に前記車両が所定の目標車速にまで減速することを支援する右左折前減速支援制御と、前記運転者に警報し、これにより前記検出された交差点にて右折又は左折する前に前記運転者に減速操作を促す右左折前警報制御と、の少なくとも一方を含む運転支援制御を実行することと、
前記周囲情報に基づいて交差点が検出され且つ前記操舵情報に基づいて前記運転者により操舵操作が実行されていると判定された場合に成立する前提条件が成立して
おり、
且つ、前記記憶装置に前記走行車線の前記路面矢印情報である走行車線矢印情報が記憶されている第1の場合において、
前記実行されている操舵操作に対応する方向が、前記走行車線矢印情報により示される前記走行車線の進行可能方向に含まれている場合に成立する第1方向条件が成立しているときは、前記制御ユニットが前記第1実行条件が成立していると判定することと、
前記前提条件が成立しており、前記記憶装置に前記走行車線矢印情報が記憶されていないか又は前記第1方向条件が成立していないかの何れかであり、且つ、前記記憶装置に前記隣接車線の前記路面矢印情報である隣接車線矢印情報が記憶されている第2の場合において、
前記実行されている操舵操作に対応する方向が、前記隣接車線矢印情報のうち前記操舵操作に対応する方向に対応する隣接車線矢印情報により示される前記隣接車線の進行可能方向に含まれており且つ当該進行可能方向に直進方向が含まれていない場合に成立する第2方向条件が成立しているとき、前記制御ユニットが前記第1実行条件が成立していると判定することと、
前記第2方向条件が成立していないとき、前記制御ユニットが前記第1実行条件が成立していないと判定することと、
を含む運転支援方法。
【請求項8】
車両の前方の路面を含む領域である前方領域に存在する路面標示及び交差点に関する情報を周囲情報として周囲情報取得装置に取得させる処理と、
前記車両の運転者による操舵操作の有無を含む情報を操舵情報として操舵情報取得装置に取得させる処理と、
前記周囲情報に基づいて交差点が検出された場合において前記車両が走行している車線である走行車線又は前記走行車線に隣接している車線である隣接車線にて路面矢印標示が検出されたとき、前記路面矢印標示及びこれにより示される車線の進行可能方向を含む情報である路面矢印情報を車線毎に前記検出された交差点に関連付けて記憶装置に記憶する処理
と、
所定の第1実行条件が成立している場合に、前記車両の減速度が目標減速度に一致するように前記車両に自動的に制動力を付与し、これにより前記検出された交差点にて右折又は左折する前に前記車両が所定の目標車速にまで減速することを支援する右左折前減速支援制御と、前記運転者に警報し、これにより前記検出された交差点にて右折又は左折する前に前記運転者に減速操作を促す右左折前警報制御と、の少なくとも一方を含む運転支援制御を実行する処理と、
前記周囲情報に基づいて交差点が検出され且つ前記操舵情報に基づいて前記運転者により操舵操作が実行されていると判定された場合に成立する前提条件が成立して
おり、
且つ、前記記憶装置に前記走行車線の前記路面矢印情報である走行車線矢印情報が記憶されている第1の場合において、
前記実行されている操舵操作に対応する方向が、前記走行車線矢印情報により示される前記走行車線の進行可能方向に含まれている場合に成立する第1方向条件が成立しているときは、前記第1実行条件が成立していると判定する処理と、
前記前提条件が成立しており、前記記憶装置に前記走行車線矢印情報が記憶されていないか又は前記第1方向条件が成立していないかの何れかであり、且つ、前記記憶装置に前記隣接車線の前記路面矢印情報である隣接車線矢印情報が記憶されている第2の場合において、
前記実行されている操舵操作に対応する方向が、前記隣接車線矢印情報のうち前記操舵操作に対応する方向に対応する隣接車線矢印情報により示される前記隣接車線の進行可能方向に含まれており且つ当該進行可能方向に直進方向が含まれていない場合に成立する第2方向条件が成立しているとき、前記第1実行条件が成立していると判定する処理と、
前記第2方向条件が成立していないとき、前記第1実行条件が成立していないと判定する処理と、
をコンピュータに実行させる運転支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交差点での右左折前に、車両の減速を支援する右左折前減速支援制御及び/又は車両の運転者に警報する右左折前警報制御を含む運転支援制御を実行可能な運転支援装置、車両、運転支援方法及び運転支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交差点での右左折前に車両の速度(車速)を所定の目標車速にまで減速することを支援する運転支援制御を実行する技術が研究開発されている。運転支援制御は、右左折前減速支援制御、及び、右左折前警報制御の少なくとも一方を含む。右左折前減速支援制御は、車両の減速度が目標減速度に一致するように車両に自動的に制動力を付与し、これにより車両の減速を支援する制御である。右左折前警報制御は、車両の運転者に警報し、これにより運転者に減速操作を促す制御である。
【0003】
例えば、特許文献1には、車両が交差点にて右左折する前に車速が所定の車速(当該交差点を安全に旋回できる車速)を超えている場合、車両が交差点に進入する前に警報を発するように構成された走行支援装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
係る走行支援装置は、車両が交差点にて右左折する意図があるか否かを、例えば、方向指示器スイッチ(ウインカーレバーの操作状態を検出可能なスイッチ)と、走行車線(車両が走行している車線)上の路面矢印標示と、に基づいて判定し、右左折意図がある場合には上記運転支援制御を実行するように構成され得る。具体的には、走行支援装置は、方向指示器スイッチにより検出されたウインカーレバーの操作状態に対応する方向(即ち、右方向又は左方向)が、走行車線の路面矢印標示の進行可能方向に含まれる場合に、右左折意図があると判定するように構成され得る。
【0006】
しかしながら、この構成によれば、運転支援制御を実行するタイミングが遅くなる可能性がある。例えば、車両が車線変更をした後で交差点を右左折する意図を有しており、車線変更する前からウインカーレバーが操作されていると仮定する。この場合、車線変更する前から運転支援制御を実行することにより、車両が交差点にて右左折する前に目標車速にまで適切に減速できるようにすることが望ましい。しかしながら、走行支援装置は、車両に右左折意図があるか否かを走行車線の路面矢印標示に基づいて判定する。このため、走行車線の路面矢印標示を認識できない場合(典型的には、路面矢印標示が擦れている場合、又は、路面矢印標示上に他車両が位置している場合)は右左折意図の有無を適切に判定できない。また、走行車線の路面矢印標示が直進矢印しか含んでいない場合、ウインカーレバーの操作状態に対応する方向が路面矢印標示の進行可能方向(直進方向)に含まれないため、右左折意図がないと判定される。これらの場合、走行支援装置は、車線変更した後の新たな走行車線の路面矢印標示を認識した時点で初めて右左折意図の有無を判定することになるため、運転支援制御を実行するタイミングが遅くなる可能性がある。これは、車線変更後の車線が右折専用車線又は左折専用車線の場合に顕著である。
【0007】
本発明は、上述した問題に対処するためになされたものである。即ち、本発明の目的の一つは、適切なタイミングで運転支援制御を実行可能な技術を提供することにある。
【0008】
本発明による運転支援装置(以下、「本発明装置」とも称する。)は、
車両の前方の路面を含む領域である前方領域に存在する路面標示及び交差点に関する情報を周囲情報として取得可能な周囲情報取得装置(11、12)と、
前記車両の運転者による操舵操作の有無を含む情報を操舵情報として取得可能な操舵情報取得装置(15)と、
記憶装置を有する制御ユニット(10)であって、
前記周囲情報に基づいて交差点が検出された場合(ステップ905:Yes)において前記車両が走行している車線である走行車線又は前記走行車線に隣接している車線である隣接車線にて路面矢印標示が検出されたとき(ステップ1010:Yes)、前記路面矢印標示及びこれにより示される車線の進行可能方向を含む情報である路面矢印情報を車線毎に前記検出された交差点に関連付けて前記記憶装置に記憶し(ステップ1020)、
所定の第1実行条件が成立している場合に、前記車両の減速度が目標減速度に一致するように前記車両に自動的に制動力を付与し、これにより前記検出された交差点にて右折又は左折する前に前記車両が所定の目標車速にまで減速することを支援する右左折前減速支援制御と、前記運転者に警報し、これにより前記検出された交差点にて右折又は左折する前に前記運転者に減速操作を促す右左折前警報制御と、の少なくとも一方を含む運転支援制御を実行し、
前記周囲情報に基づいて交差点が検出され且つ前記操舵情報に基づいて前記運転者により操舵操作が実行されていると判定された場合に成立する前提条件が成立しており(ステップ915:Yes)、且つ、前記記憶装置に前記走行車線の前記路面矢印情報である走行車線矢印情報が記憶されている第1の場合(ステップ920:Yes)において、
前記実行されている操舵操作に対応する方向が、前記走行車線矢印情報により示される前記走行車線の進行可能方向に含まれている場合に成立する第1方向条件が成立しているとき(ステップ925:Yes)は、前記第1実行条件が成立していると判定し、
前記前提条件が成立しており、前記記憶装置に前記走行車線矢印情報が記憶されていないか(ステップ920:No)又は前記第1方向条件が成立していないか(ステップ925:No)の何れかであり、且つ、前記記憶装置に前記隣接車線の前記路面矢印情報である隣接車線矢印情報が記憶されている第2の場合(ステップ935:Yes、ステップ940:Yes)において、
前記実行されている操舵操作に対応する方向が、前記隣接車線矢印情報のうち前記操舵操作に対応する方向に対応する隣接車線矢印情報により示される前記隣接車線の進行可能方向に含まれており且つ当該進行可能方向に直進方向が含まれていない場合に成立する第2方向条件が成立しているとき(ステップ950:No)、前記第1実行条件が成立していると判定し、
前記第2方向条件が成立していないとき(ステップ945:No、ステップ950:Yes)、前記第1実行条件が成立していないと判定する、
ように構成された制御ユニット(10)と、
を備える。
【0009】
本発明装置では、走行車線矢印情報だけではなく、隣接車線矢印情報にも基づいて第1実行条件(運転支援制御の実行条件)が成立しているか否かが判定される。このため、走行車線矢印情報に基づいて第1実行条件が成立していないと判定された場合であっても、隣接車線矢印情報に基づいて第1実行条件の成立可否を判定することが可能となる。従って、走行車線矢印情報のみに基づいて判定する構成と比較して、第1実行条件の成立可否を判定するタイミングが遅れる事態が発生し難くなり、結果として、適切なタイミングで運転支援制御を実行することが可能となる。
【0011】
第1方向条件が成立している場合、車両は交差点を右左折する意図(右左折意図)を有している可能性が高い。このため、第1方向条件が成立している場合は第1実行条件が成立していると判定することにより、運転支援制御が必要とされる状況で当該制御を適切に実行できる。
第2方向条件が成立している場合、隣接車線は右折専用車線又は左折専用車線である。このため、車両は当該隣接車線へ車線変更した後で右左折意図を有している可能性が高い。このため、第2方向条件が成立している場合にも第1実行条件が成立していると判定することにより、運転支援制御が必要とされる状況で当該制御を適切に実行できる。
一方、操舵操作に対応する方向が隣接車線の進行可能方向に含まれていないことにより第2方向条件が成立していない場合、車両は車線変更する意図(車線変更意図)しか有していない(即ち、右左折意図を有していない)可能性が高い。また、操舵操作に対応する方向が隣接車線の進行可能方向に含まれているものの当該進行可能方向に直進方向も含まれている場合、車両が車線変更後に右左折意図を有しているのか、車線変更意図しか有していないのか判別し難い。このため、これらの場合には第1実行条件が成立していないと判定することにより、運転支援制御の不要作動の発生を抑制できる。
【0012】
この場合、
前記制御ユニット(10)は、
更に、前記周囲情報に基づいて交差点が検出されていることを含む所定の第2実行条件が成立している場合に、前記右左折前減速支援制御と比較して前記車両が前記目標車速にまで減速する度合いが軽減された右左折前軽度減速支援制御と、前記右左折前警報制御と比較して前記運転者への警報の度合いが軽減された右左折前軽度警報制御と、の少なくとも一方を含む軽度運転支援制御を実行可能であり、
前記第2の場合(ステップ935:Yes、ステップ940:Yes)において、
前記実行されている操舵操作に対応する方向が、前記隣接車線矢印情報のうち前記操舵操作に対応する方向に対応する隣接車線矢印情報により示される前記隣接車線の進行可能方向に含まれており且つ当該進行可能方向に直進方向が含まれていることにより前記第2方向条件が成立していないとき(ステップ950:Yes)、前記第2実行条件が成立していると判定する、
ように構成されている。
【0013】
操舵操作に対応する方向が隣接車線の進行可能方向に含まれているものの当該進行可能方向に直進方向も含まれている場合、車両が車線変更後に右左折意図を有しているのか、車線変更意図しか有していないのか判別し難い。このため、このような場合には運転支援制御の代わりに軽度運転支援制御が実行されることにより、車両が車線変更後に右左折意図を有している場合には車線変更を行う前から車両をある程度減速させることができ、一方、車両が車線変更意図しか有していない場合には、運転者が不要な減速感を覚える度合いを低減することができる。
【0014】
本発明の一側面では、
前記制御ユニット(10)は、
更に、前記周囲情報に基づいて交差点が検出されていることを含む所定の第2実行条件が成立している場合に、前記右左折前減速支援制御と比較して前記車両が前記目標車速にまで減速する度合いが軽減された右左折前軽度減速支援制御と、前記右左折前警報制御と比較して前記運転者への警報の度合いが軽減された右左折前軽度警報制御と、の少なくとも一方を含む軽度運転支援制御を実行可能であり、
前記前提条件が成立しており、且つ、前記記憶装置に前記走行車線矢印情報及び前記隣接車線矢印情報の何れも記憶されていない第3の場合(ステップ935:No)、前記第2実行条件が成立していると判定する、
ように構成されている。
【0015】
第3の場合、制御ユニットの記憶装置には走行車線矢印情報が記憶されていない。これは、任意の或る交差点が初めて検出された時点から現時点までの期間において、走行車線の路面矢印標示が他車両の存在又は擦れ等に起因して認識不可能となっているためである。このため、実際には、操舵操作に対応する方向が走行車線の進行可能方向に含まれている可能性がある。別言すれば、車両が走行車線での右左折意図を有している可能性がある。従って、第3の場合には軽度運転支援制御が実行されることにより、車両が走行車線での右左折意図を有している場合には車両をある程度減速させることができ、一方、車両がそのような意図を有していない(別言すれば、車線変更意図しか有していない)場合には運転者が不要な減速感を覚える度合いを低減することができる。
【0016】
本発明の一側面では、
前記制御ユニット(10)は、
前記前提条件が成立しており、前記第1方向条件が成立しておらず、且つ、前記記憶装置に前記隣接車線矢印情報が記憶されていない第4の場合(ステップ940:No)、前記第1実行条件及び前記第2実行条件が何れも成立していないと判定する、
ように構成されている。
【0017】
第4の場合、記憶装置には走行車線矢印情報が記憶されており、当該情報に含まれる走行車線の進行可能方向には操舵操作に対応する方向が含まれていない。このため、少なくとも走行車線においては車両が右左折意図を有している可能性は極めて低い。従って、第4の場合には減速支援制御及び軽度減速支援制御の何れも実行されないことにより、これらの制御の不要作動の発生を抑制できる。
【0018】
本発明の一側面では、
操舵情報取得装置は、方向指示器(18)を作動させるために前記運転者により操作される操作器(WL)の操作状態を検出可能な方向指示器スイッチ(15)であり、前記運転者により前記操作器(WL)が操作されている状態にあるか否かを前記操舵情報として取得する、
ように構成されている。
【0019】
この構成によれば、操作器の操作状態を適切に検出できるため、高い信頼性を有する操舵情報を取得できる。
【0020】
本発明による車両は、本発明装置を備える。
【0021】
本発明による運転支援方法は、
制御ユニットが、車両の前方の路面を含む領域である前方領域に存在する路面標示及び交差点に関する情報を周囲情報として周囲情報取得装置(11、12)に取得させることと、
前記制御ユニットが、前記車両の運転者による操舵操作の有無を含む情報を操舵情報として操舵情報取得装置(15)に取得させることと、
前記周囲情報に基づいて交差点が検出された場合(ステップ905:Yes)において前記車両が走行している車線である走行車線又は前記走行車線に隣接している車線である隣接車線にて路面矢印標示が検出されたとき(ステップ1010:Yes)、前記制御ユニットが、前記路面矢印標示及びこれにより示される車線の進行可能方向を含む情報である路面矢印情報を車線毎に前記検出された交差点に関連付けて記憶装置に記憶させること(ステップ1020)と、
所定の第1実行条件が成立している場合に、前記制御ユニットが、前記車両の減速度が目標減速度に一致するように前記車両に自動的に制動力を付与し、これにより前記検出された交差点にて右折又は左折する前に前記車両が所定の目標車速にまで減速することを支援する右左折前減速支援制御と、前記運転者に警報し、これにより前記検出された交差点にて右折又は左折する前に前記運転者に減速操作を促す右左折前警報制御と、の少なくとも一方を含む運転支援制御を実行することと、
前記周囲情報に基づいて交差点が検出され且つ前記操舵情報に基づいて前記運転者により操舵操作が実行されていると判定された場合に成立する前提条件が成立しており(ステップ915:Yes)、且つ、前記記憶装置に前記走行車線の前記路面矢印情報である走行車線矢印情報が記憶されている第1の場合(ステップ920:Yes)において、
前記実行されている操舵操作に対応する方向が、前記走行車線矢印情報により示される前記走行車線の進行可能方向に含まれている場合に成立する第1方向条件が成立しているとき(ステップ925:Yes)は、前記制御ユニットが前記第1実行条件が成立していると判定することと、
前記前提条件が成立しており、前記記憶装置に前記走行車線矢印情報が記憶されていないか(ステップ920:No)又は前記第1方向条件が成立していないか(ステップ925:No)の何れかであり、且つ、前記記憶装置に前記隣接車線の前記路面矢印情報である隣接車線矢印情報が記憶されている第2の場合(ステップ935:Yes、ステップ940:Yes)において、
前記実行されている操舵操作に対応する方向が、前記隣接車線矢印情報のうち前記操舵操作に対応する方向に対応する隣接車線矢印情報により示される前記隣接車線の進行可能方向に含まれており且つ当該進行可能方向に直進方向が含まれていない場合に成立する第2方向条件が成立しているとき(ステップ950:No)、前記制御ユニットが前記第1実行条件が成立していると判定することと、
前記第2方向条件が成立していないとき(ステップ945:No、ステップ950:Yes)、前記制御ユニットが前記第1実行条件が成立していないと判定することと、
を含む。
【0022】
この運転支援方法によれば、運転支援制御を適切に実行できる。
【0023】
本発明による運転支援プログラムは、
車両の前方の路面を含む領域である前方領域に存在する路面標示及び交差点に関する情報を周囲情報として周囲情報取得装置(11、12)に取得させる処理と、
前記車両の運転者による操舵操作の有無を含む情報を操舵情報として操舵情報取得装置(15)に取得させる処理と、
前記周囲情報に基づいて交差点が検出された場合(ステップ905:Yes)において前記車両が走行している車線である走行車線又は前記走行車線に隣接している車線である隣接車線にて路面矢印標示が検出されたとき(ステップ1010:Yes)、前記路面矢印標示及びこれにより示される車線の進行可能方向を含む情報である路面矢印情報を車線毎に前記検出された交差点に関連付けて記憶装置に記憶する処理(ステップ1020)と、
所定の第1実行条件が成立している場合に、前記車両の減速度が目標減速度に一致するように前記車両に自動的に制動力を付与し、これにより前記検出された交差点にて右折又は左折する前に前記車両が所定の目標車速にまで減速することを支援する右左折前減速支援制御と、前記運転者に警報し、これにより前記検出された交差点にて右折又は左折する前に前記運転者に減速操作を促す右左折前警報制御と、の少なくとも一方を含む運転支援制御を実行する処理と、
前記周囲情報に基づいて交差点が検出され且つ前記操舵情報に基づいて前記運転者により操舵操作が実行されていると判定された場合に成立する前提条件が成立しており(ステップ915:Yes)、且つ、前記記憶装置に前記走行車線の前記路面矢印情報である走行車線矢印情報が記憶されている第1の場合(ステップ920:Yes)において、
前記実行されている操舵操作に対応する方向が、前記走行車線矢印情報により示される前記走行車線の進行可能方向に含まれている場合に成立する第1方向条件が成立しているとき(ステップ925:Yes)は、前記第1実行条件が成立していると判定する処理と、
前記前提条件が成立しており、前記記憶装置に前記走行車線矢印情報が記憶されていないか(ステップ920:No)又は前記第1方向条件が成立していないか(ステップ925:No)の何れかであり、且つ、前記記憶装置に前記隣接車線の前記路面矢印情報である隣接車線矢印情報が記憶されている第2の場合(ステップ935:Yes、ステップ940:Yes)において、
前記実行されている操舵操作に対応する方向が、前記隣接車線矢印情報のうち前記操舵操作に対応する方向に対応する隣接車線矢印情報により示される前記隣接車線の進行可能方向に含まれており且つ当該進行可能方向に直進方向が含まれていない場合に成立する第2方向条件が成立しているとき(ステップ950:No)、前記第1実行条件が成立していると判定する処理と、
前記第2方向条件が成立していないとき(ステップ945:No、ステップ950:Yes)、前記第1実行条件が成立していないと判定する処理と、
をコンピュータに実行させる。
【0024】
この運転支援プログラムをコンピュータに実行させることにより、運転支援制御を適切に実行できる。
【0025】
上記説明においては、発明の理解を助けるために、実施形態に対応する発明の構成要件に対して、実施形態で用いた符号を括弧書きで添えているが、発明の各構成要件は、前記符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施形態に係る運転支援装置(本実施装置)の概略構成図である。
【
図3】右左折前減速支援制御及び右左折前軽度減速支援制御が実行される際の車両の減速度の時間推移を示すグラフである。
【
図4】右左折前減速支援制御及び右左折前軽度減速支援制御が実行される際の車両の減速度の時間推移を示す別のグラフである。
【
図5】走行車線矢印情報に基づいて第1実行条件が成立していると判定される状況を例示した図である。
【
図6A】比較例であり、走行車線矢印情報に基づいて第1実行条件が成立していないと判定される状況を例示した図である。
【
図6B】比較例であり、走行車線矢印情報に基づいて第1実行条件が成立していないと判定される別の状況を例示した図である。
【
図7A】隣接車線矢印情報に基づいて第1実行条件が成立していると判定される状況を例示した図である。
【
図7B】隣接車線矢印情報に基づいて第1実行条件が成立していると判定される別の状況を例示した図である。
【
図8A】隣接車線矢印情報に基づいて第2実行条件が成立していると判定される状況を例示した図である。
【
図8B】隣接車線矢印情報に基づいて第2実行条件が成立していると判定される別の状況を例示した図である。
【
図9】本実施装置の右左折前減速支援ECUのCPUが実行するルーチンを示すフローチャートである。
【
図10】CPUが実行するルーチンを示すフローチャートである。
【
図11】CPUが実行するルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(実施形態)
(構成)
以下、本発明の実施形態に係る運転支援装置(以下、「本実施装置」とも称する。)について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、本実施装置は、右左折前減速支援ECU10、及び、これに接続されたカメラセンサ11、レーダセンサ12、車速センサ13、加速度センサ14、ウインカースイッチ15、駆動装置16、制動装置17、及び、ウインカー18を備える。右左折前減速支援ECU10は、マイクロコンピュータを主要部として備える。ECUは、Electronic Control Unitの略である。マイクロコンピュータは、CPU、ROM、RAM及びインターフェース(I/F)等を含み、CPUはROMに格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実行することにより各種機能を実現するようになっている。なお、一部の機能は他のECUにより実現されてもよい。以下では、本実施装置が搭載された車両(別言すれば、本実施装置を備える車両)を「自車両」と称する。
【0028】
右左折前減速支援ECU10は、上記センサ及びスイッチ11乃至15が出力、発生又は検出する情報又は信号を所定時間が経過する毎に取得し、取得した信号に基づいて要素16乃至18を制御するように構成されている。以下では、右左折前減速支援ECU10を、単に「ECU10」とも称する。
【0029】
カメラセンサ11は、自車両のルームミラー(インナーミラー/リアビューミラー)の裏面に設置されている。カメラセンサ11は、自車両の前方の路面を含む領域である前方領域の風景を撮像し、撮像された画像データに基づいて、前方領域に存在する路面標示を認識(検出)する。路面標示は、自車両の前方に延在する区画線、並びに、走行車線及び隣接車線上の路面矢印標示を含む。走行車線は、自車両が走行している車線である。隣接車線は、走行車線に隣接している車線であり、走行車線にその右側で隣接している右側隣接車線と、その左側で隣接している左側隣接車線と、を含む。車線は、隣接する2つの区画線の間の領域として規定される。路面矢印標示は、車線の進行可能方向を示す矢印形状の路面標示であり、通常、交差点の手前において、車線の延在方向に沿って間隔を置いて複数個設置されている。路面矢印標示は、「進行方向別通行区分」及び「進行方向」を含む。「進行方向別通行区分」は、通常、片側二車線以上の道路の各車線に設置される。一方、「進行方向」は、車両が進行することができる方向を示す必要がある地点に設置されるため、設置される車線の種類は問わない。
【0030】
図2は、主な路面矢印標示の種類を示す図である。
図2に示すように、路面矢印標示E1は、矢印が左方向を示しているので、当該矢印標示E1が設置された車線の進行可能方向は左折方向である(即ち、当該車線は左折専用車線である)。路面矢印標示E2は、矢印が前方向及び左方向を示しているので、当該矢印標示E2が設置された車線の進行可能方向は直進方向及び左折方向である。路面矢印標示E3は、矢印が前方を示しているので、当該矢印標示E3が設置された車線の進行可能方向は直進方向である。路面矢印標示E4は、矢印が前方向及び右方向を示しているので、当該矢印標示E4が設置された車線の進行可能方向は直進方向及び右折方向である。路面矢印標示E5は、矢印が右方向を示しているので、当該矢印標示E5が設置された車線の進行可能方向は右折方向である(即ち、当該車線は右折専用車線である)。
【0031】
図1に戻って説明を続ける。カメラセンサ11は、図示しない画像認識ECUを備えており、機械学習により路面矢印標示を認識する。具体的には、画像認識ECUは、路面上に標示され得るあらゆる路面矢印標示を含む学習データを予め学習しておく。学習データに含まれる路面矢印標示は、例えば、地域ごとに異なる大きさ及び/又は形状を有する矢印標示や、様々なかすれ度合いの矢印標示を含む。路面矢印標示は、当該矢印標示によって示される進行可能方向と関連付けて学習データに保存されている。画像認識ECUは、学習データの学習結果を利用して、画像データから路面矢印標示を認識し、その進行可能方向を演算する。
加えて、カメラセンサ11は、画像データに基づいて、路面標示に加え、自車両の前方領域に存在する信号機を認識(検出)し、自車両と信号機との相対関係を演算する。ここで、「自車両と信号機との相対関係」とは、自車両から信号機までの距離、及び、自車両に対する信号機の方位等を含む。
また、カメラセンサ11は、信号機の他に、他車両及び歩行者等の移動物、並びに、中央分離帯及びガードレール等の静止物を認識可能に構成されていてもよい。カメラセンサ11によって演算される「自車両と信号機との相対関係」は、「交差点に関する情報」の一例に相当する。
【0032】
カメラセンサ11は、このようにして得られた情報を「カメラ周囲情報」として取得し、ECU10に出力する。カメラセンサ11は、「周囲情報取得装置」の一例に相当する。なお、ECU10は、図示しないナビゲーションシステムから自車両の前方領域に存在する路面標示及び交差点に関する情報を取得してもよい。この場合、ナビゲーションシステムが「周囲情報取得装置」の一例に相当する。
【0033】
レーダセンサ12は、自車両のフロントグリルの中央部に設置されている。レーダセンサ12は、ミリ波帯の電波を自車両の前方領域に照射し、立体物が存在する場合、その立体物からの反射波を受信する。レーダセンサ12は、電波の照射タイミングと受信タイミングと等に基づいて、立体物の有無、及び、自車両と立体物との相対関係を演算する。レーダセンサ12は、このようにして得られた情報を「レーダ周囲情報」として取得し、ECU10に出力する。レーダセンサ12は、「周囲情報取得装置」の一例に相当する。
なお、レーダセンサ12の設置位置はフロントグリルの中央部に限られず、例えば、フロントバンパーの中央部、或いは、フロントバンパーの左右の角部の少なくとも一方に設置されてもよい。
【0034】
ECU10は、カメラ周囲情報に基づいて走行車線の路面矢印標示を検出し、当該矢印標示により示される走行車線の進行可能方向を特定する。また、ECU10は、カメラ周囲情報及びレーダ周囲情報に基づいて信号機を検出することにより交差点を検出する。カメラ周囲情報に加えてレーダ周囲情報にも基づいて信号機を検出することにより、自車両と信号機との相対関係の演算精度が向上する。即ち、交差点の検出精度が向上する。カメラ周囲情報及びレーダ周囲情報が「周囲情報」の一例に相当する。但し、本実施装置は、レーダセンサ12を備えていなくてもよい。この場合、カメラ周囲情報が単独で「周囲情報」の一例に相当する。
【0035】
車速センサ13は、自車両の走行速度(以下、「車速」と称する。)に応じた信号を発生する。ECU10は、車速センサ13が発生した信号を取得し、当該信号に基づいて車速を演算する。
【0036】
加速度センサ14は、自車両の加速度及び減速度に応じた信号を発生する。ECU10は、加速度センサ14が発生した信号を取得し、当該信号に基づいて加速度及び減速度を演算する。減速度は負の値を有する。減速度が小さいほど減速の度合いは大きい。
【0037】
ウインカースイッチ15は、図示しないウインカーレバーWLに設けられている。ウインカーレバーWLは、ウインカーを作動(点滅)させるために運転者によって操作される操作器であり、ステアリングコラムに設けられている。ウインカーレバーWLは、運転者自身による運転操作により左折又は右折したり車線変更したりする場合に操作される。
【0038】
具体的には、ウインカーレバーWLは、支軸を中心として中立位置から所定の角度だけ左回り又は右回りにそれぞれ回動した位置である右位置PR又は左位置PLに移動可能に構成されている。ウインカースイッチ15は、右スイッチ15Rと、左スイッチ15Lと、を含む。右スイッチ15Rは、ウインカーレバーWLが右位置PRにある場合にオンし(オン信号を発生し)、それ以外の場合にオフする(オフ信号を発生する)。左スイッチ15Lは、ウインカーレバーWLが左位置PLにある場合にオンし(オン信号を発生し)、それ以外の場合にオフする(オフ信号を発生する)。即ち、ウインカースイッチ15は、ウインカーレバーWLが操作されている状態(即ち、右位置PR又は左位置PLに位置している状態)にあるか否かを操舵情報として取得する。ECU10は、操舵情報に基づいて(即ち、ウインカースイッチ15から取得される信号に基づいて)ウインカーレバーWLの操作状態を検出する。ウインカーレバーWLは「操作器」の一例に相当する。ウインカースイッチ15は「操舵情報取得装置」又は「方向指示器スイッチ」の一例に相当する。
【0039】
駆動装置16は、自車両を走行させるための駆動力をその駆動輪に付与するための装置である。制動装置17は、自車両を制動するための制動力をその車輪に付与するための装置である。
ECU10は、駆動装置16及び/又は制動装置17の作動を制御することにより駆動力及び/又は制動力を制御し、これにより駆動装置16及び/又は制動装置17に右左折前減速支援制御又は右左折前軽度減速支援制御を実行させる。右左折前減速支援制御及び右左折前軽度減速支援制御は、何れも運転支援制御の一種である。
【0040】
右左折前減速支援制御は、自車両の減速度が目標減速度(後述)に一致するように自車両に自動的に制動力を付与し、これにより、交差点にて右折又は左折する前に自車両の減速を支援する制御である。目標減速度は、車速を所定の目標車速まで減少させるために必要な減速度であり、ECU10により演算され得る。目標車速は、車両が交差点にて適切に(安全に)右折又は左折し得る車速の上限値であり、実験又はシミュレーションにより予め設定され得る。
右左折前軽度減速支援制御は、右左折前減速支援制御と比較して車両が目標車速にまで減速する度合いが軽減された制御である。
以下では、右左折前減速支援制御を「減速支援制御」とも称し、右左折前軽度減速支援制御を「軽度減速支援制御」とも称する。
【0041】
図3は、減速支援制御及び軽度減速支援制御が実行される際の自車両の減速度Gの時間推移を示すグラフである。減速支援制御には、目標減速度の下限値Gth1(<0)が設定されており、軽度減速支援制御には、目標減速度の下限値Gth2(<0)が設定されている。下限値Gth2は、下限値Gth1よりも大きい。
図3に示すように、本実施形態では、何れの制御が実行される場合においても、目標減速度が演算されると、自車両の減速度Gは、一定のジャークで目標減速度に到達するまで減少していき、目標減速度に到達した時点でその値を減速度Gとして維持する。なお、ジャークとは、減速度の時間変化率であり、実線20の傾きに等しい。但し、目標減速度が下限値Gth(減速支援制御の実行中においてはGth=Gth1、軽度減速支援制御の実行中においてはGth=Gth2)未満の場合は、減速度Gは、下限値Gthに到達した時点で減少を停止し、下限値Gthを減速度Gとして維持する。この構成によれば、軽度減速支援制御が実行される場合において、目標減速度が下限値Gth2以上のときは減速支援制御と比較して減速度合いに差はないが、目標減速度が下限値Gth2未満のときは減速支援制御と比較して減速度合いが軽減される。
【0042】
なお、減速支援制御及び軽度減速支援制御が実行される際の自車両の減速度Gの時間推移は、
図3に示される態様に限られない。例えば、
図4に示すように、減速支援制御と軽度減速支援制御の目標減速度の下限値は同じ値Gth1に設定されてもよい。そして、軽度減速支援制御が実行される際のジャーク(実線22の傾き)を、減速支援制御が実行される際のジャーク(実線21の傾き)よりも大きくしてもよい(別言すれば、減速度合いを緩やかにしてもよい)。この構成によっても、軽度減速支援制御は、減速支援制御と比較して減速度合いが軽減される。
【0043】
ウインカー18は、右ウインカー18Rと、左ウインカー18Lと、を有する。右ウインカー18Rは、自車両の右前方角部及び右後方角部に設置されている。左ウインカー18Lは、自車両の左前方角部及び左後方角部に設置されている。ECU10は、ウインカーレバーWLが右位置PR又は左位置PLに位置している期間中(即ち、右スイッチ15R又は左スイッチ15Lがオン信号を発生している期間中)、対応するウインカー18(18R,18L)を点滅させる。なお、ウインカー18の制御は、他のECU(例えば、メータECU)により行われてもよい。ウインカー18は、「方向指示器」の一例に相当する。
【0044】
(作動の詳細)
次に、ECU10の作動の詳細について説明する。ECU10は、第1実行条件が成立している場合に減速支援制御を実行し、第2実行条件が成立している場合に軽度減速支援制御を実行する。第1実行条件は、以下の条件1乃至条件4が全て成立している場合に成立する。
【0045】
(条件1)交差点が検出されている。
(条件2)ウインカースイッチ15がオン状態にある。
(条件3)ECU10のRAMに走行車線の路面矢印情報(後述)が記憶されている。
(条件4)走行車線の路面矢印情報に含まれる走行車線の進行可能方向に、ウインカースイッチ15のオン方向が含まれている。
【0046】
ECU10は、カメラ周囲情報及びレーダ周囲情報に基づいて信号機が検出されている場合、条件1が成立していると判定する。なお、カメラセンサ11は、道路交差点の警戒標識を認識することにより自車両と警戒標識との相対関係を演算するように構成されてもよい。ECU10は、当該相対関係を含むカメラ周囲情報(及びレーダ周囲情報)に基づいて警戒標識を検出することにより交差点を検出してもよい。
【0047】
ECU10は、条件1が成立している場合において、ウインカースイッチ15から取得された信号に、右スイッチ15R又は左スイッチ15Lのオン信号が含まれているとき、条件2が成立していると判定する。条件1及び条件2は、「前提条件」の一例に相当する。
【0048】
なお、条件2は、操舵角センサ及び/又は操舵トルクセンサの検出値の大きさが所定の閾値以上の場合に成立するように構成されてもよい。操舵角センサ及び/又は操舵トルクセンサは、運転者による操舵操作に基づく入力値を検出するセンサである。
【0049】
ECU10は、条件1が成立している場合においてカメラ周囲情報に基づいて検出された各車線の路面矢印標示により示される進行可能方向を特定すると、「路面矢印標示及びこれにより示される対応する車線の進行可能方向を含む情報」である路面矢印情報を、車線毎に交差点(条件1の成立により検出された交差点)に関連付けてRAMに記憶する。ECU10は、走行車線及び隣接車線の路面矢印標示についての路面矢印情報を記憶するように構成されている。以下では、走行車線の路面矢印標示についての路面矢印情報を「走行車線矢印情報」と称し、右側隣接車線の路面矢印標示についての路面矢印情報を「右側隣接車線矢印情報」と称し、左側隣接車線の路面矢印標示についての路面矢印情報を「左側隣接車線矢印情報」と称する。また、右側隣接車線矢印情報と左側隣接車線矢印情報とを区別する必要がない場合、単に「隣接車線矢印情報」と称する。更に、走行車線矢印情報と隣接車線矢印情報とを区別する必要がない場合、単に「路面矢印情報」と称する。
【0050】
ECU10は、路面矢印標示が検出された場合、RAMに記憶されている路面矢印情報を、検出された路面矢印標示についての路面矢印情報で車線毎に上書きし、路面矢印標示が検出されなかった場合、RAMに記憶されている路面矢印情報を保持するように構成されている。
条件1及び条件2が成立している場合においてRAMに走行車線矢印情報が記憶されているとき、ECU10は、条件3が成立していると判定する。「条件1乃至条件3が成立している場合」は、「第1の場合」の一例に相当する。
【0051】
なお、ECU10は、任意の或る交差点が検出されている状態(検出状態)から検出されていない状態(非検出状態)に変化した時点(典型的には、交差点を通過した時点)にて、RAMから路面矢印情報を消去するように構成されている。
【0052】
ECU10は、条件1乃至条件3が成立している場合(第1の場合)において、オン状態にあるウインカースイッチ15の方向(以下、「ウインカーオン方向」とも称する。)が、走行車線矢印情報に含まれる走行車線の進行可能方向に含まれているとき、条件4が成立していると判定する。例えば、条件4は、走行車線矢印情報に含まれる進行可能方向が「直進方向及び左折方向」であり、且つ、左スイッチ15Lがオン状態にある場合に成立する。条件4は、「第1方向条件」の一例に相当する。また、ウインカーオン方向は、「実行されている操舵操作に対応する方向」の一例に相当する。
【0053】
図5を参照して具体的に説明する。
図5は、前方領域に存在する交差点(図示省略)を右折する意図を有する自車両Vの挙動の経時変化を示す図である。
図3の例では、ECU10は、位置P1にて前方領域に存在する信号機(図示省略)を初めて検出することにより、交差点を初めて検出している。これにより、位置P1にて条件1が成立する。なお、後述するその他の例(
図6A乃至
図9B)についても、位置P1にて条件1が成立すると想定する。
【0054】
続いて、自車両Vの運転者は、位置P2にてウインカーレバーWLを右回りに操作して右位置PRに移動させる。これにより、位置P2にて右スイッチ15Rがオフ状態からオン状態に変化するため、ECU10は、右ウインカー18Rの点滅を開始する。その結果、条件2が成立する。なお、後述するその他の例(
図6A乃至
図9B)についても、位置P2にて条件2が成立すると想定する。
【0055】
ここで、ECU10は、交差点が検出されると、走行車線L1の路面矢印標示A1と、右側隣接車線L2の路面矢印標示A2と、左側隣接車線L3の路面矢印標示A3と、をそれぞれ検出する。路面矢印標示A1及びA2は、
図2の路面矢印標示E5と同じ種類であり、路面矢印標示A3は、
図2の路面矢印標示E3と同じ種類である。このため、ECU10は、「路面矢印標示A1及びこれにより示される走行車線L1の進行可能方向(右折方向)を含む情報」である走行車線矢印情報を交差点に関連付けてRAMに記憶する。また、ECU10は、「路面矢印標示A2及びこれにより示される右側隣接車線L2の進行可能方向(右折方向)を含む情報」である右側隣接車線矢印情報と、「路面矢印標示A3及びこれにより示される左側隣接車線L3の進行可能方向(直進方向)を含む情報」である左側隣接車線矢印情報と、をそれぞれ交差点に関連付けてRAMに記憶する。ECU10は、カメラ周囲情報に基づいて路面矢印標示が検出される限り、RAMに記憶されている路面矢印情報を、最新の路面矢印情報で車線毎に上書きする。この構成によれば、位置P1にて走行車線矢印情報と、右側及び左側隣接車線矢印情報と、のRAMへの記憶が開始され、位置P2ではこれらの路面矢印情報が上書きされるため、条件3が成立する。
【0056】
位置P2では、走行車線矢印情報に含まれる走行車線L1の進行可能方向(右折方向)にウインカーオン方向(右方向)が含まれている。これにより、条件4が成立する。
【0057】
その結果、第1実行条件が成立するため、ECU10は、位置P2にて減速支援制御を開始する。
図5の例によれば、交差点を右折する前に自車両Vの減速が支援されるため、車速を目標車速にまで減少させることができ、自車両Vは適切に(安全に)右折することができる。
【0058】
ここで、
図6A及び
図6Bを参照して比較例としての運転支援装置について説明する。この運転支援装置は、カメラ周囲情報に基づいて走行車線の路面矢印標示のみを検出し、これにより、走行車線矢印情報のみを交差点に関連付けてRAMに記憶するように構成されている。また、この運転支援装置は、上記条件1乃至条件4が全て成立している場合に第1実行条件が成立していると判定して減速支援制御を実行するように構成されている。
【0059】
図6A及び
図6Bは、何れも自車両Vc(比較例の運転支援装置が搭載された車両)の挙動の経時変化を示す図である。自車両Vcは、右側隣接車線へ車線変更した後で前方領域に存在する交差点(図示省略)を右折する意図を有している。
図6A及び
図6Bの例では、何れも、位置P1にて条件1が成立しており、位置P2にて条件2が成立している。
【0060】
図6Aの例では、他車両Voが車線L1上の複数の路面矢印標示のうち最も手前に設置されている路面矢印標示A1上に位置しており、これにより、矢印標示A1が他車両Voの車体に覆われて視認不可能な状態となっている。交差点が初めて検出された時点から自車両Vcが位置P2に到達する時点までの期間において他車両Voが当該位置で停止している場合、運転支援装置は走行車線L1の路面矢印標示A1を検出することができないため、RAMには走行車線矢印情報が記憶されない。従って、
図6Aの例では、位置P2にて条件1及び条件2が成立していても条件3が成立していないため、第1実行条件が成立せず、減速支援制御は実行されない。
【0061】
一方、
図6Bの例では、運転支援装置は、交差点が初めて検出された時点から自車両Vcが位置P2に到達する時点までの期間中、走行車線L1上の路面矢印標示A4を検出し、当該矢印標示A4についての走行車線矢印情報を交差点に関連付けて記憶(上書き)している。このため、条件3が成立している。
しかしながら、位置P2では、走行車線矢印情報に含まれる走行車線L1の進行可能方向(直進方向)にはウインカーオン方向が含まれていない。このため、
図6Bの例では、位置P2にて条件1乃至条件3が成立していても条件4が成立していないため、第1実行条件が成立せず、減速支援制御は実行されない。
【0062】
図6A及び
図6Bの例において、その後、自車両Vcが走行車線L1から右側隣接車線L2の位置P3へと車線変更すると、車線L2が新たな走行車線となる。このため、運転支援装置は、車線変更により自車両Vcが位置P3に到達した時点にて走行車線L2の路面矢印標示A2を検出し、当該矢印標示A2についての走行車線矢印情報を交差点に関連付けてRAMに記憶し、以後、交差点が検出されている期間中、走行車線矢印情報を上書きする。これにより、位置P3にて条件3が成立する。
また、位置P3では、走行車線矢印情報に含まれる走行車線L2の進行可能方向(右折方向)にウインカーオン方向が含まれている。これにより、条件4が成立する。
その結果、第1実行条件が成立するため、運転支援装置は、位置P3にて減速支援制御を実行する。
【0063】
この構成によれば、減速支援制御は自車両Vcが位置P3に到達した時点にて初めて実行されるため、
図5の例と比較して、減速支援制御を実行するタイミングが遅くなる。その結果、目標車速まで減速できなかったり、急な減速により乗員が違和感を覚えたりする可能性がある。
【0064】
そこで、本実施装置では、ECU10は、カメラ周囲情報に基づいて走行車線の路面矢印標示に加え、隣接車線の路面矢印標示も検出し、これにより、走行車線矢印情報に加え、隣接車線矢印情報もRAMに記憶するように構成されている。そして、走行車線矢印情報に基づいて第1実行条件が成立しないと判定された場合には、隣接車線矢印情報に基づいて第1実行条件の成立可否を判定するように構成されている。
【0065】
具体的には、第1実行条件は、上記条件1及び条件2(前提条件)に加え、以下の条件5乃至条件7が全て成立している場合にも成立する。
(条件5)条件3又は条件4が成立していない。
(条件6)ECU10のRAMに隣接車線矢印情報が記憶されている。
(条件7)隣接車線矢印情報に含まれる隣接車線の進行可能方向に、ウインカースイッチ15のオン方向が含まれており且つ当該進行可能方向に直進方向が含まれていない。
【0066】
ECU10は、条件1及び条件2が成立している場合において、交差点が初めて検出された時点から現時点までの期間において走行車線の路面矢印標示が検出されず、これによりRAMに走行車線矢印情報が記憶されていないときは、条件3の不成立により条件5が成立していると判定する。なお、条件3の不成立により条件5が成立する場合とは、
図6Aに例示される場合に加えて、走行車線上の路面矢印標示がカメラセンサ11が認識不可能な程度まで擦れている場合等である。
また、ECU10は、条件1乃至条件3が成立している場合において、走行車線矢印情報に含まれる走行車線の進行可能方向にウインカーオン方向が含まれていないときは、条件4の不成立により条件5が成立していると判定する。例えば、条件4は、走行車線矢印情報に含まれる進行可能方向が「直進方向」であり、且つ、右スイッチ15Rがオン状態にある場合に不成立となる。
【0067】
条件1、2及び5が成立している場合において、RAMにウインカーオン方向に対応する隣接車線矢印情報が記憶されているとき、ECU10は、条件6が成立していると判定する。「条件1、2、5及び6が成立している場合」は、「第2の場合」の一例に相当する。なお、「ウインカーオン方向に対応する隣接車線矢印情報」とは、例えば、ウインカーオン方向が右方向である場合に、隣接車線矢印情報が少なくとも右側隣接車線矢印情報を含んでいることを意味する。
【0068】
条件1、2、5及び6が成立している場合(第2の場合)において、隣接車線矢印情報に含まれる隣接車線の進行可能方向がウインカーオン方向と一致している場合、ECU10は、条件7が成立していると判定する。ここで、「隣接車線の進行可能方向がウインカーオン方向と一致している」とは、隣接車線の進行可能方向が右折方向又は左折方向の何れかであり(即ち、直進方向を含んでおらず)、ウインカーオン方向と同じであることを意味する。即ち、条件7は、隣接車線が右折専用車線又は左折専用車線の場合に成立し得る。条件7は、「第2方向条件」の一例に相当する。
【0069】
図7A及び
図7Bを参照して具体的に説明する。
図7A及び
図7Bは、何れも自車両Vの挙動の経時変化を示す図である。自車両Vは、右側隣接車線へ車線変更した後で前方領域に存在する交差点(図示省略)を右折する意図を有している。
図7Aは、
図6Aと同一の状況を示し、
図7Bは、
図6Bと同一の状況を示す。このため、
図7A及び
図7Bの例では、何れも、位置P1にて条件1が成立しており、位置P2にて条件2が成立している。
【0070】
図7Aの例では、位置P2にて条件1及び条件2が成立していても条件3が成立していないため、条件5が成立している。
一方、
図7Bの例では、位置P2にて条件1乃至条件3が成立していても条件4が成立していないため、条件5が成立している。
【0071】
図7A及び
図7Bの例では、何れも、ECU10は、交差点が初めて検出された時点から自車両Vが位置P2に到達する時点までの期間中、隣接車線L2上の路面矢印標示A2を検出し、当該矢印標示A2についての隣接車線矢印情報を交差点に関連付けて記憶(上書き)している。このため、条件6が成立している。更に、隣接車線L2は右折専用車線であるため、位置P2では、隣接車線矢印情報に含まれる隣接車線L2の進行可能方向(右折方向)がウインカーオン方向と一致している。このため、条件7が成立している。
【0072】
その結果、第1実行条件が成立するため、ECU10は、位置P2にて減速支援制御を実行する。この構成によれば、条件1及び条件2が成立していても条件3又は条件4が成立しないことにより第1実行条件が成立していないと判定された場合であっても、条件5乃至条件7が成立しているときは第1実行条件が成立していると判定される。別言すれば、走行車線矢印情報に基づいて第1実行条件が成立していないと判定された場合であっても、隣接車線矢印情報に基づいて第1実行条件の成立可否が判定される。このため、
図5の例と比較して減速支援制御を同じタイミングで実行することができる。その結果、目標車速まで適切に減速でき、急な減速により乗員が違和感を覚える事態が発生し難くなる。従って、適切なタイミングで減速支援制御を実行することができる。
【0073】
なお、条件1、2、5及び6が成立している場合において、「隣接車線矢印情報に含まれる隣接車線の進行可能方向にウインカーオン方向が含まれており且つ当該進行可能方向に直進方向が含まれている」ことにより条件7が成立していないとき、ECU10は、第1実行条件は成立していないが第2実行条件は成立していると判定して軽度減速支援制御を実行する。
【0074】
図8A及び
図8Bを参照して具体的に説明する。
図8A及び
図8Bは、何れも自車両Vの挙動の経時変化を示す図である。
図8Aは、
図7Aと同一の状況を示し、
図8Bは、
図7Bと同一の状況を示す。但し、
図8A及び
図8Aでは、右側隣接車線には路面矢印標示A2の代わりに路面矢印標示A5(
図2の路面矢印標示E4と同じ種類)が設置されている。このため、
図8A及び
図8Bの例では、何れも、位置P1にて条件1が成立しており、位置P2にて条件2、5及び6が成立している。なお、
図8Aの例では、条件5は、条件3の不成立により成立しており、
図8Bの例では、条件5は、条件4の不成立により成立している。
【0075】
図8A及び
図8Bの例では、何れも、「右側隣接車線矢印情報に含まれる右側隣接車線の進行可能方向(直進方向及び右折方向)にウインカーオン方向が含まれており且つ当該進行可能方向に直進方向が含まれている」ことにより条件7が成立していない。
【0076】
その結果、第2実行条件が成立するため、ECU10は、位置P2にて軽度減速支援制御を実行する。
図8A及び
図8Bの例のように、隣接車線(厳密には、ウインカーオン方向側の隣接車線)の路面矢印標示により示される進行可能方向がウインカーオン方向だけでなく直進方向も含んでいる場合、自車両Vが車線変更後に交差点を右左折する意図を有しているのか、単に隣接車線へ車線変更する意図しか有していないのか、判別し難い。このため、このような場合には減速支援制御の代わりに軽度減速支援制御が実行されることにより、自車両Vが車線変更後に交差点を右左折する意図を有している場合には車線変更を行う前から自車両Vをある程度減速させることができ、一方、自車両Vが単に隣接車線へ車線変更する意図しか有していない場合には、運転者が不要な減速感を覚える度合いを低減することができる。
【0077】
一方、条件1、2、5及び6が成立している場合において、「隣接車線矢印情報に含まれる隣接車線の進行可能方向にウインカーオン方向が含まれていない」ことにより条件7が成立していないとき、ECU10は、第1実行条件及び第2実行条件は何れも成立していないと判定して減速支援制御及び軽度減速支援制御を実行しない。
「隣接車線の進行可能方向にウインカーオン方向が含まれていない」場合とは、例えば、隣接車線の進行可能方向が直進方向であり且つウインカーオン方向が右方向又は左方向の場合である。このような場合、自車両Vが単に隣接車線へと車線変更するためだけにウインカーレバーWLが操作されている可能性が高い。別言すれば、自車両Vは交差点を右左折する意図を有していない可能性が高い。このため、このような場合には減速支援制御及び軽度減速支援制御が何れも実行されないことにより、これらの制御の不要作動の発生を抑制できる。
【0078】
また、条件1、2及び5が成立している場合において条件6が成立していないとき、ECU10は、第1実行条件は成立していないと判定して減速支援制御は実行しない。ここで、「条件1、2及び5が成立している場合において条件6が成立していないとき」には、「条件3の不成立により条件5が成立している場合」と「条件4の不成立により条件5が成立している場合」の2通りがある。ECU10は、前者の場合、第1実行条件は成立していないが第2実行条件は成立していると判定して軽度減速支援制御を実行し、後者の場合、第1実行条件及び第2実行条件は何れも成立していないと判定して減速支援制御及び軽度減速支援制御を実行しない。
【0079】
前者の場合、RAMには走行車線矢印情報が記憶されていない。一方、後者の場合、RAMには走行車線矢印情報が記憶されており、当該情報に含まれる走行車線の進行可能方向にウインカーオン方向が含まれていない。即ち、後者の場合は、少なくとも走行車線においては自車両Vが交差点を右左折する意図を有している可能性は極めて低いが、前者の場合は、走行車線の路面矢印標示が他車両の存在又は擦れ等に起因して認識不可能となっているに過ぎないため、実際には、走行車線の進行可能方向にウインカーオン方向が含まれている可能性がある。別言すれば、自車両Vが走行車線において交差点を右左折する意図を有している可能性がある。
【0080】
このため、前者の場合には軽度減速支援制御が実行されることにより、自車両Vが走行車線において交差点を右左折する意図を有している場合には自車両Vをある程度減速させることができ、一方、自車両Vがそのような意図を有していない(別言すれば、車線変更する意図しか有していない)場合には運転者が不要な減速感を覚える度合いを低減することができる。
また、後者の場合には減速支援制御及び軽度減速支援制御の何れも実行されないことによりこれらの制御の不要作動の発生を抑制できる。
なお、「前者の場合」は「第3の場合」の一例に相当し、「後者の場合」は「第4の場合」の一例に相当する。
【0081】
(具体的作動)
続いて、ECU10の具体的作動について説明する。ECU10のCPUは、イグニッションスイッチがオン位置にある期間中、所定の演算時間が経過する毎に
図9及び
図10にフローチャートにより示したルーチンと、
図11にフローチャートにより示したルーチンと、を並行して繰り返し実行するように構成されている。
【0082】
所定のタイミングになると、CPUは、
図9のステップ900から処理を開始してステップ905に進み、カメラ周囲情報及びレーダ周囲情報に基づいて、交差点(本実施形態では、信号機)が検出されたか否かを判定する(条件1(前提条件の構成要素))。
【0083】
交差点が検出されていない場合(ステップ905:No)、CPUは、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
一方、交差点が検出された場合(ステップ905:Yes)、CPUは、ステップ910に進んで路面矢印情報上書き/保持処理を実行する。
図10を参照して当該処理について説明する。CPUは、ステップ910に進むと、
図10のステップ1000から処理を開始してステップ1010に進み、カメラ周囲情報に基づいて路面矢印標示が検出されたか否かを判定する。
【0084】
路面矢印標示が検出された場合(ステップ1010:Yes)、CPUは、ステップ1020に進み、RAMに記憶されている路面矢印情報を、ステップ1010にて検出された路面矢印標示についての路面矢印情報で車線毎に上書きする。なお、RAMに路面矢印情報が記憶されていない場合は、ステップ1010にて検出された路面矢印標示についての路面矢印情報を車線毎に交差点に関連付けてRAMに記憶する(即ち、上書き処理は行われない)。
一方、路面矢印標示が検出されていない場合(ステップ1010:No)、CPUは、ステップ1030に進み、RAMに記憶されている路面矢印情報を保持する。なお、RAMに路面矢印情報が記憶されていない場合は、保持処理は行われない。
【0085】
ステップ1020又はステップ1030の処理を終了すると、CPUは、ステップ1095を経て
図9のステップ915に進む。ステップ915では、CPUは、ウインカースイッチ15から取得された信号に基づいて、ウインカースイッチ15(右スイッチ15R又は左スイッチ15L)がオン状態にあるか否かを判定する(条件2(前提条件の構成要素))。
【0086】
ウインカースイッチ15がオフ状態にある場合(ステップ915:No)、CPUは、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
一方、ウインカースイッチ15がオン状態にある場合(ステップ915:Yes)、CPUは、ステップ920に進み、路面矢印情報上書き/保持処理(
図10参照)の結果に基づいて、走行車線矢印情報がRAMに記憶されているか否かを判定する(条件3)。
【0087】
RAMに走行車線矢印情報が記憶されている場合(ステップ920:Yes(第1の場合))、CPUは、ステップ925に進み、走行車線矢印情報に含まれる走行車線の進行可能方向に、ウインカースイッチ15のオン方向(ウインカーオン方向)が含まれているか否かを判定する(条件4(第1方向条件))。
【0088】
走行車線の進行可能方向にウインカーオン方向が含まれている場合(ステップ925:Yes)、CPUは、第1実行条件が成立している(即ち、自車両は右左折意図を有している)と判定し、ステップ930に進んで減速支援制御を実行する(
図5参照)。その後、CPUは、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0089】
これに対し、RAMに走行車線矢印情報が記憶されていない場合(ステップ920:No)、CPUは、条件5が成立していると判定し、ステップ935に進む。ステップ935では、CPUは、RAMに隣接車線矢印情報が記憶されているか否かを判定する(条件6)。
RAMに隣接車線矢印情報が記憶されている場合(ステップ935:Yes(第2の場合))、CPUは、ステップ945に進む。
【0090】
また、走行車線の進行可能方向にウインカーオン方向が含まれていない場合(ステップ925:No)、CPUは、条件5が成立していると判定し、ステップ940に進む。ステップ940では、CPUは、RAMに隣接車線矢印情報が記憶されているか否かを判定する(条件6)。
RAMに隣接車線矢印情報が記憶されている場合(ステップ940:Yes(第2の場合))、CPUは、ステップ945に進む。
【0091】
CPUは、ステップ945に進むと、隣接車線矢印情報に含まれる隣接車線の進行可能方向にウインカーオン方向が含まれているか否かを判定する。
隣接車線の進行可能方向にウインカーオン方向が含まれている場合(ステップ945:Yes)、CPUは、ステップ950に進んで隣接車線の進行可能方向に直進方向が含まれているか否かを判定する(条件7(第2方向条件))。
【0092】
隣接車線の進行可能方向に直進方向が含まれていない(別言すれば、隣接車線の進行可能方向がウインカーオン方向と一致している)場合(ステップ950:No)、CPUは、第1実行条件が成立している(即ち、自車両は車線変更後に右左折意図を有している)と判定し、ステップ930に進んで減速支援制御を実行する。その後、CPUは、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
一方、隣接車線の進行可能方向に直進方向が含まれている場合(ステップ950:Yes)、CPUは、第1実行条件は成立していないが第2実行条件が成立している(即ち、自車両が車線変更後に右左折意図を有しているのか、車線変更意図しか有していないのか判別し難い)と判定し、ステップ955に進んで軽度減速支援制御を実行する。その後、CPUは、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0093】
また、隣接車線の進行可能方向にウインカーオン方向が含まれていない場合(ステップ945:No)、CPUは、第1実行条件及び第2実行条件は何れも成立していない(即ち、自車両は車線変更意図しか有していない)と判定し、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。この場合、減速支援制御及び軽度減速支援制御は何れも実行されない。
【0094】
これに対し、RAMに走行車線矢印情報が記憶されておらず(ステップ920:No)且つ隣接車線矢印情報も記憶されていない場合(ステップ935:No(第3の場合))、CPUは、第1実行条件は成立していないが第2実行条件が成立している(即ち、自車両が走行車線での右左折意図を有している可能性がある)と判定し、ステップ960に進んで軽度減速支援制御を実行する。その後、CPUは、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
一方、走行車線の進行可能方向にウインカーオン方向が含まれておらず(ステップ925:No)且つRAMに隣接車線矢印情報が記憶されていない場合(ステップ940:No(第4の場合))、CPUは、第1実行条件及び第2実行条件は何れも成立していない(即ち、自車両は少なくとも走行車線での右左折意図は有していない)と判定し、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。この場合、減速支援制御及び軽度減速支援制御は何れも実行されない。
【0095】
これと並行して、CPUは、
図11のステップ1100から処理を開始してステップ1110に進み、カメラ周囲情報及びレーダ周囲情報に基づいて、交差点が検出されている状態(検出状態)から検出されていない状態(非検出状態)に変化したか否かを判定する。
【0096】
検出状態から非検出状態に変化した場合(ステップ1110:Yes)、CPUは、交差点を通過したと判定し、ステップ1120に進んでRAMに記憶されている路面矢印情報を消去する。その後、CPUは、ステップ1195に進んで本ルーチンを一旦終了する。
一方、検出状態が維持されている場合、及び、交差点がそもそも検出されていない場合(ステップ1110:No)、CPUは、ステップ1195に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0097】
以上説明したように、本実施装置では、走行車線矢印情報だけではなく、隣接車線矢印情報にも基づいて第1実行条件が成立しているか否かが判定される。このため、走行車線矢印情報に基づいて第1実行条件が成立していないと判定された場合であっても、隣接車線矢印情報に基づいて第1実行条件の成立可否を判定することが可能となる。従って、走行車線矢印情報のみに基づいて判定する構成と比較して、第1実行条件の成立可否を判定するタイミングが遅れる事態が発生し難くなり、結果として、適切なタイミングで運転支援制御を実行することが可能となる。
【0098】
以上、実施形態に係る運転支援装置、車両、運転支援方法及び運転支援プログラムについて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限り種々の変更が可能である。
【0099】
例えば、上記実施形態では、条件1、2、5及び6が成立している場合において、隣接車線矢印情報に含まれる隣接車線の進行可能方向にウインカーオン方向が含まれており且つ当該進行可能方向に直進方向が含まれていることにより条件7が成立していないときは第2実行条件が成立していると判定されて軽度減速支援制御が実行されたが、この構成に限られない。例えば、ECU10は、このような場合、第2実行条件は成立していないと判定し、軽度減速支援制御を実行しないように構成されてもよい。
【0100】
また、運転支援装置は、右左折前減速支援スイッチを備えていてもよい。このスイッチは、減速支援制御の実行条件が成立した場合に当該制御の実行を希望するか否かを運転者が選択することができるスイッチであり、運転者により操作され得る。減速支援制御は、このスイッチがオン状態にある場合において当該制御の実行条件が成立したときに実行されるように構成されてもよい。
【0101】
更に、減速支援制御の実行条件の構成条件は、「アクセルペダル操作及びブレーキペダル操作が何れも行われていない」という条件、「アクセルペダル操作が行われていない」という条件、又は、「ブレーキペダル操作が行われていない」という条件の何れかを含んでいてもよい。或いは、減速支援制御の実行条件の構成条件は、「運転者による加速操作又は減速操作が行われていない」という条件を含んでいてもよい。この条件は、例えば、ワンペダル式の車両に搭載される運転支援装置に適用され得る。ここで、ワンペダル式の車両とは、加速操作と減速操作とを単一のペダルで行うことが可能な車両であり、典型的には、ペダルを踏込むと加速し、ペダルを開放すると減速する車両である。
【0102】
更に、第1実行条件が成立した場合、右左折前減速支援制御に代えて、又は、加えて、右左折前警報支援制御が実行されてもよい。右左折前警報支援制御は、運転者に警報し、これにより、交差点にて右折又は左折する前に自車両の減速操作を運転者に促す制御である。警報は、スピーカに発話させて音声により行われてもよいし、ブザーを鳴動させて振動により行われてもよい。
また、第2実行条件が成立した場合、右左折前軽度減速支援制御に代えて、又は、加えて、右左折前軽度警報支援制御が実行されてもよい。右左折前軽度警報支援制御は、右左折前警報制御と比較して運転者への警報の度合いが軽減された制御である。ここで、「警報の度合いを軽減する」とは、例えば、スピーカの音量を低減したり、ブザーの振動を軽減したりすることを意味する。
【0103】
更に、カメラセンサ11は、画像データに基づいて信号機を認識する代わりに、又は、信号機を認識することに加えて、横断歩道を認識し、自車両と横断歩道との相対関係を演算するように構成されてもよい。ECU10は、当該相対関係に基づいて交差点を検出してもよい。或いは、カメラセンサ11は、画像データに基づいて信号機を認識する代わりに、又は、信号機を認識することに加えて、中央分離帯を認識し、自車両と中央分離帯との相対関係を演算するように構成されてもよい。ECU10は、当該相対関係に基づいて、中央分離帯が途切れた地点を交差点として検出してもよい。なお、ECU10は、カメラ周囲情報とレーダ周囲情報とに基づいて中央分離帯を検出してもよい。
【0104】
更に、本実施装置は、右側通行が規定されている国で使用される自車両にも搭載され得る。
【符号の説明】
【0105】
10:右左折前減速支援ECU、11:カメラセンサ、12:レーダセンサ、13:車速センサ、14:加速度センサ、15:ウインカースイッチ、16:駆動装置、17:制動装置、18:ウインカー