(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】SNHG12遺伝子に由来するncRNAの発現抑制剤を有効成分とするがん増殖抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7105 20060101AFI20240605BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240605BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240605BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240605BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20240605BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240605BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240605BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240605BHJP
A61K 31/711 20060101ALI20240605BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240605BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20240605BHJP
A61K 45/00 20060101ALN20240605BHJP
【FI】
A61K31/7105
A61P35/00
A61P43/00 111
A61P43/00 105
A61K48/00
A61P1/18
A61P11/00
A61P13/12
A61P25/00
A61K31/711
A61K31/7088
C12N15/113 Z ZNA
A61K45/00
(21)【出願番号】P 2020567732
(86)(22)【出願日】2020-01-24
(86)【国際出願番号】 JP2020002639
(87)【国際公開番号】W WO2020153503
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2022-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2019010706
(32)【優先日】2019-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】519310953
【氏名又は名称】小胞体ストレス研究所株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118382
【氏名又は名称】多田 央子
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【氏名又は名称】上代 哲司
(72)【発明者】
【氏名】親泊 政一
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】WANG X. et al.,DNA and Cell Biology,2017年,Vol.36, No.11,pp.892-900
【文献】SUN Y. et al.,Long noncoding RNA SNHG12 facilitates the tumorigenesis of glioma through miR-101-3p/FOXP1 axis.,Gene,2018年,Vol.676,pp.315-321
【文献】WANG O. et al.,Am J Transl Res,2017年,Vol.9, No.2,pp.533-545
【文献】井上貴雄,RNAを標的とする核酸医薬品の開発動向,医学のあゆみ,2018年,Vol.267, No.8,pp.591-597
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、3、6、22、23、29、30、31、若しくは32の塩基配列を含む30個以下の塩基からなるDNA配列に対応するRNA配列からなるsiRNA、shRNA、若しくはアンチセンスRNA、又は配列番号1、3、6、22、23、29、30、31、若しくは32の塩基配列に相補的な塩基配列を含む30個以下の塩基からなるDNA配列からなるアンチセンスDNAを有効成分とする、がんの増殖抑制剤。
【請求項2】
上記がんが、snhg12の高発現のがん細胞である、請求項
1に記載のがんの増殖抑制剤。
【請求項3】
上記がんが、膵臓がん、肺がん、腎がん、グリオーマがんのいずれかである、請求項
2に記載のがんの増殖抑制剤。
【請求項4】
上記がんが、腎がんである、請求項
2又は
3に記載のがんの増殖抑制剤。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれかに記載のがんの増殖抑制剤を有効成分とする、がん治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核小体低分子RNA(small nucleolar RNA:snoRNA)の一つである、SNHG12遺伝子に由来するncRNAの発現を抑制する化合物を有効成分とする新規ながん増殖抑制剤、更にはがんの治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
小胞体ストレス(ERストレス)は、糖尿病、神経変性疾患、脳卒中、ウイルス感染、心臓疾患等の多くの病気の原因となっている。これまでの成果から、慢性的な小胞体ストレスが、黒色皮膚がん、多発的骨髄腫、乳癌、肝細胞癌などの多種の癌種に顕著に見出されている。小胞体ストレスは、小胞体膜に局在する3つのシグナル変換因子(PERK、IREI、ATF6)が引き金になって起きる3つのシグナル経路で特徴付けられている(非特許文献1)。これらの因子には分子シャペロンであるBiPが結合していて通常は不活性になっている。ERストレスが起きると、これらの因子からBiPが脱離し、その後、これらの因子の立体構造が変化して活性化し、それぞれのシグナル経路でシグナル情報を伝達して行く。 特にPERKに基づくシグナル情報は、がんの生存と増殖を助長することが知られている。最近の研究では、PERKに基づくシグナル情報がlncRNA(long non-cording RNA、>200bp)の発現と関連していることが明らかにされており、例えばlncRNAのMalatIは、PERKのシグナル情報で発現すると報告されており、このMalatIは、がんの増殖と転移を助長するlncRNAであることが知られている(非特許文献1)。従って、がん細胞でPERKのシグナル情報を受けて発現するlncRNAは、がんの悪性化を助長するものであると考えられる。 また、がん細胞でPERKのシグナル情報を受けて発現すると考えられるlncRNAとして、SNHG12遺伝子に由来するsnhg12(non-coding small nucleolar RNA host gene 12)がある。lncRNAであるsnhg12は、乳癌、骨肉腫、肝細胞癌などの癌に顕著に発現していることが知られており、このlncRNAの発現亢進は、癌の大きさに密接に関係し、癌のステージを悪化させると共に、大腸がん患者の5年生存率を悪化させていることが報告されている(非許文献2)。
【0003】
また、snhg12は、脳腫瘍グリオーマ細胞の増殖と転移を促進することが明らかとなっている(非特許文献3)。また、snhg12は、Notchシグナル経路を調節することによって細胞増殖および転移を調節することから、snhg12の発現が増加すると、鼻咽頭癌の予後不良を予測できると報告されている(非特許文献4)。しかしながら、snhg12の作用機序の報告が多く(非特許文献5)、snhg12の発現抑制によるがん治療については、ほとんど報告されていない状況である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】YIWEN BU et al,J.Cell.Physiol.231:2088-2096,2016
【文献】Heng Deng et al,Tumor Biology June 2017:1-11
【文献】Lei W.et al,Int J.Oncol.2018 Sep;53(3):1374-1384.
【文献】Liu ZB et al,Cancer biomarkers 2018 Nov 4. doi: 10.3233/CBM-181873.
【文献】Pei Wang et al,Oncotarget,2017,Vol.8,(No.48),pp:84086-84101
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、がん細胞の生体内での定着、増殖を抑制する、新たな作用機序のがんの治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、がん細胞で起こる小胞体ストレスに対応して発現するlncRNAの研究を鋭意検討してきた。そして、
図1のようにSNHG12遺伝子が各種のがん細胞で高発現することを見出した。 更に本発明者がSNHG12遺伝子に由来するlncRNAの中で、snhg12に着目して検討を進めたところ、snhg12が高発現するがん患者では、患者生存率が低いことを見出した。
図2~5に示されるように、膵臓がん、肺がん、腎がん、グリオーマがんの担癌患者の場合、snhg12が高発現のがん患者は、snhg12が低発現のがん患者と比較して、治療開始後の予後が悪いこと(患者生存率が低いこと)を見出した。 そこで、本発明者は、snhg12の発現を抑制できれば、がん細胞の増殖と転移が抑制できると考え、核酸を用いてsnhg12の発現を抑制することを検討した。776個の塩基対のsnhg12の4つの部位(Region)をターゲットとして選択し、その部分にハイブリダイズしてRNAの発現を抑制する1本鎖又は2本鎖の核酸を作製した。snhg12の元となるDNAの塩基配列を
図6に示す。作製した核酸(実施例の項目に示したのはsiRNA、アンチセンスDNA)は、
図7~8に示されるように、snhg12の発現抑制効果を示した。
【0007】
この知見に基づき、本発明者は、siRNA番号22(対応するDNA配列は配列番号22)を使用し、ラットに移植された増殖抑制試験を
図9のスケジュールで実施したところ、移植したヒト腎がん細胞は、
図10に示すように増殖し、番号22のsiRNAの投与でヒト腎がん細胞の増殖が顕著に抑制されることを見出した。 本発明者は、以上の知見に基づいて本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)snhg12の発現抑制剤を有効成分とする、がんの増殖抑制剤。
(2)上記snhg12の発現抑制剤が、1本鎖又は2本鎖の核酸であって、snhg12の4つの部位(127~147位、352~428位、458~480位、535~735位)のいずれかにハイブリダイズできる一つ以上の核酸であることを特徴とする、上記(1)に記載のがんの増殖抑制剤。
(3)上記核酸が、4つの部位の内、535~735位の領域(Region4)にハイブリダイズできる一つ以上の核酸であることを特徴とする、上記(2)に記載のがんの増殖抑制剤。
(4)上記核酸が、配列番号1(tcgagatggtggtgaatgt)、配列番号3(ccggcgtacttaagcagat)、配列番号22(aggtagaaacaacagcatg)、配列番号23(aacaacagcatgctaatgcaa)、配列番号30(agaggtgatcaataaaaga)、配列番号31(agaggtgatcaataaaaga)、又は配列番号32(acagcatgctaatgcaaaa)に対応するRNA配列からなるRNA;配列番号1、配列番号3、配列番号22、配列番号23、配列番号30、配列番号31、又は配列番号32に対応するRNA配列と相補的なRNA配列からなるRNA;配列番号1、配列番号3、配列番号22、配列番号23、配列番号30、配列番号31、又は配列番号32のDNA配列からなるDNA;及び配列番号1、配列番号3、配列番号22、配列番号23、配列番号30、配列番号31、又は配列番号32と相補的なDNA配列からなるDNAの中から選択される一つ以上である、上記(2)又は(3)に記載のがんの増殖抑制剤。
(5)上記核酸が、配列番号22若しくは配列番号31に対応するRNA配列からなるRNAであるか、配列番号22若しくは配列番号31に対応するRNA配列と相補的なRNA配列からなるRNAであるか、配列番号22若しくは配列番号31のDNA配列からなるDNAであるか、又は配列番号22若しくは配列番号31と相補的なDNA配列からなるDNAである、上記(2)~(4)のいずれかに記載のがんの増殖抑制剤。
(6)上記がんが、snhg12の高発現のがん細胞である、上記(1)~(5)のいずれかに記載のがんの増殖抑制剤。
(7)上記がんが、膵臓がん、肺がん、腎がん、グリオーマがんのいずれかである、上記(6)に記載のがんの増殖抑制剤。
(8)上記がんが、腎がんである、上記(6)又は(7)に記載のがんの増殖抑制剤。
(9)上記(1)~(7)のいずれかに記載のがんの増殖抑制剤を有効成分とする、がん治療剤。
(10)がんの増殖抑制に有効な量のsnhg12の発現抑制剤をがん患者に投与する、がんの増殖抑制方法。
(11)がん治療に有効な量のsnhg12の発現抑制剤をがん患者に投与する、がん治療方法。
(12)snhg12の発現抑制剤のがんの増殖抑制剤の製造のための使用。
(13)snhg12の発現抑制剤のがん治療剤の製造のための使用。
(14)がんの増殖抑制における使用のためのsnhg12の発現抑制剤。
(15)がん治療における使用のためのsnhg12の発現抑制剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明のがん増殖抑制剤及びがん治療剤は、snhg12が高発現するがん細胞の増殖を抑制し、がんの治療を行うものである。がん細胞でのsnhg12の高発現を抑制するために、siRNA、shRNA、アンチセンス、miRNAや、アプタマー、デコイのような公知の手段を使用することができる。siRNAなどの核酸がハイブリダイズする部位としては、snhg12の4つの部位(127~147位、352~428位、458~480位、535~735位)を使用することができる。 siRNAなどのsnhg12発現抑制剤を使用することによって、腎がんの増殖を顕著に抑制できることから、本発明のがん増殖抑制剤は、腎がんを始めとする多くのsnhg12高発現のがんの治療剤として有効である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】SNHG12遺伝子が高発現である各種のがん細胞の実情を表した図である。
【
図2】膵臓がん患者でのsnhg12の発現量と患者の生存率を表した図である。
【
図3】肺がん患者でのsnhg12の発現量と患者の生存率を表した図である。
【
図4】腎がん患者でのsnhg12の発現量と患者の生存率を表した図である。
【
図5】グリオーマがん患者でのsnhg12の発現量と患者の生存率を表した図である。
【
図6】lncRNAであるsnghRNAに対してこれの発現を抑制する核酸がハイブリダイズする部位とその部位に使用する核酸の塩基配列を記載した図である。
【
図7】
図6に記載された核酸(siRNA)を使用して得られる、snhg12の発現抑制効果を表した図である。
【
図8】snhg12に対するsiRNAによる腎がん細胞株でのsnhg12の発現量の抑制効果を表した図である。
【
図9】
図8で使用したsiRNA(対応するDNA配列は配列番号22)を使用した、異種移植腎がん細胞の増殖抑制試験法のプロトコールを表した図である。
【
図10】
図9のプロトコールで実施されたがん細胞の増殖抑制試験の結果を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の「snhg12」とは、SNHG12遺伝子から派生するlncRNA(long noncording RNA)であり、その元となるDNAは
図6で示される776個の塩基対で構成されている。SNHG12遺伝子は、染色体の1p35.3に存在し、6つのエキソンを持つ遺伝子である。この遺伝子から、snhg12と共に、SNODR44、SNODR61、SNODR16A、SNODR99の合計5種のncRNAが発現される。SNHG12遺伝子の発現は、lncRNAのsnhg12と共に、SNODR44、SNODR61、SNODR16A、SNODR99の合計5種のncRNAの発現により確認することができる。 これらncRNAは、乳癌、骨肉腫、肝細胞癌などの癌に顕著に発現していることが知られており、これらncRNAの発現亢進は、癌の大きさに密接に関係し、癌のステージを悪化させると共に、大腸がん患者の5年生存率を悪化させていることが報告されている(非特許文献2)。
【0012】
本発明の「発現抑制剤」とは、snhg12の発現を抑制する試剤であれば特に限定はされない。snhg12の発現抑制剤は、核酸(1本鎖又は2本鎖のDNA、RNA、又はそれらのハイブリッド)であり、snhg12に対してRNA干渉作用を有するsiRNA、shRNAや、アンチセンス(DNA、RNA)、miRNA、デコイ、アプタマー等が挙げられる。
使用されるアンチセンスやsiRNA等の核酸化合物の塩基数は、14~45個とすればよく、核酸化合物の種類によって適宜好ましい塩基数のものを使用することができる。例えばアンチセンスの塩基数は14~30個、siRNAの塩基数は19~25個、miRNAの塩基数は19~25個、デコイの塩基数は16~24個、アプタマーの塩基数は26~45個が、それぞれ望ましい。
【0013】
snhg12の発現を抑制するために、例えば、siRNAなどの核酸を標的領域にハイブリダイズさせることができる。snhg12のターゲット部位に対応するDNAの部位としては、
図6で示される4つの部位(Region1~4)を挙げることができる。Region1は、127~147位の部位であり、Region2は、352~428位の部位である。Region3は、458~480位の部位であり、Region4は、535~735位の部位である。
【0014】
snhg12にハイブリダイズする核酸としては、
図6で示される4つの部位(Region1~4)に対応するRNA部位の何れかにハイブリダイズする30個以下、好ましくは14~30個、より好ましくは15~25個、さらにより好ましくは18~21個の塩基からなる核酸を挙げることができる。
このような核酸として、配列番号1~32の何れかの塩基配列を含む30個以下、好ましくは25個以下、より好ましくは23個以下の塩基からなるDNA配列に対応するRNA配列からなるRNA、特に配列番号1~32の何れかの塩基配列に対応するRNA配列からなるRNAを挙げることができる。また、配列番号1~32の何れかの塩基配列に相補的な塩基配列を含む30個以下、好ましくは25個以下、より好ましくは23個以下の塩基からなるDNA配列に対応するRNA配列からなるRNA、特に配列番号1~32の何れかに相補的な塩基配列からなるDNA配列に対応するRNA配列からなるRNAを挙げることができる。また、配列番号1~32の何れかの塩基配列を含む30個以下、好ましくは25個以下、より好ましくは23個以下の塩基からなるDNA、特に、配列番号1~32の何れかの塩基配列からなるDNAを挙げることができる。また、配列番号1~32の何れかの塩基配列に相補的な塩基配列を含む30個以下、好ましくは25個以下、より好ましくは23個以下の塩基からなるDNA、特に、配列番号1~32の何れかに相補的な塩基配列からなるDNAを挙げることができる。
【0015】
中でも好ましい核酸としては、
図7で示されるように、snhg12の発現抑制率が50%以上のものを挙げることができ、配列番号1、3、22、23、30、31、若しくは32の塩基配列を含む30個以下、好ましくは25個以下、より好ましくは23個以下の塩基からなるDNA配列に対応するRNA配列からなるRNA、特に配列番号1、3、22、23、30、31、若しくは32の塩基配列に対応するRNA配列からなるRNAを挙げることができる。また、配列番号1、3、22、23、30、31、若しくは32の塩基配列に相補的な塩基配列を含む30個以下、好ましくは25個以下、より好ましくは23個以下の塩基からなるDNA配列に対応するRNA配列からなるRNA、特に配列番号1、3、22、23、30、31、若しくは32に相補的な塩基配列からなるDNA配列に対応するRNA配列からなるRNAを挙げることができる。また、配列番号1、3、22、23、30、31、若しくは32の塩基配列を含む30個以下、好ましくは25個以下、より好ましくは23個以下の塩基からなるDNA、特に、配列番号1、3、22、23、30、31、若しくは32の塩基配列からなるDNAを挙げることができる。また、配列番号1、3、22、23、30、31、若しくは32の塩基配列に相補的な塩基配列を含む30個以下、好ましくは25個以下、より好ましくは23個以下の塩基からなるDNA、特に、配列番号1、3、22、23、30、31、若しくは32に相補的な塩基配列からなるDNAを挙げることができる。
核酸は単独で使用してもよく、2種以上の核酸を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
また、発現抑制剤がRNA分子である場合は、生体内で生成し得るようにデザインされたものであってもよい。具体的には、当該RNA分子をコードしているDNAを哺乳動物細胞用の発現ベクターに挿入したものであってもよい。このような発現ベクターとしては、例えば、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクターや、動物細胞発現プラスミド等が挙げられる。
【0017】
また、核酸は、安定性改善のために化学修飾が施されたものであってもよい。化学修飾核酸として、例えば、ホスホロチオエート、モルフォリノホスホロジアミデート、ボラノホスフェート、LNA(Locked Nucleic Acid)のような核酸アナログを含む核酸や、2’-O-メチル化核酸、2’-O-メトキシエチル化核酸等が挙げられる。
【0018】
本発明の「がんの増殖抑制剤」とは、がんの増殖を抑制できる試剤のことであり、snhg12の発現を抑制する試剤を有効成分として使用することによって達成することができるものを言う。
本発明の「がん治療剤」とは、がんの増殖を抑制することにより、がん細胞のアポトーシスを惹起するか、あるいは増殖が止まったがん細胞を生体の免疫反応によって死滅させる治療剤のことを言う。
【0019】
増殖抑制や治療対象のがん細胞としては、
図1に記載の17種のがん細胞を含む、SNHG12遺伝子の発現が高いがん細胞33種(胸腺腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、子宮頸がん、精巣がん、膀胱尿路上皮がん、膀胱がん、急性骨髄性白血病、中皮腫、膵臓がん、眼内黒色腫、子宮体がん、子宮体がん肉腫、肉腫、肺がん、胆管がん、大腸がん、多形性謬芽腫、肺扁平上皮がん、卵巣がん、食道がん、乳頭型腎がん、腎がん、胃がん、頭頸部がん、皮膚がん、甲状腺がん、前立腺がん、乳がん、グリオーマがん、傍神経節腫、腺様膿胞がん、肝がん、嫌色素性腎細胞がん)が挙げられる。好ましくは、膵臓がん、肺がん、腎がん、グリオーマがんを挙げることができる。
本発明のがんの増殖抑制剤及びがんの治療剤は、担癌患者の治療に使用されるだけでなく、担癌患者から癌を切除した後に、再発や転移を予防する目的で投与してもよく、癌の切除後の患者における予後の改善剤又は癌の転移予防剤としても使用することもできる。
【0020】
また、本発明の増殖抑制剤及び治療剤は、以下のように使用される。
(用量、用法)
投与経路としては、本発明の増殖抑制剤及び治療剤を生体内で癌にデリバリーできることを限度として特に制限されないが、例えば、血管内(動脈内又は静脈内)、筋肉内、皮下、局所(特に、腫瘍内)、リンパ管又はリンパ節内、髄腔内、直腸内、経粘膜、経皮、鼻腔、肺内、子宮内等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは血管内(動脈内又は静脈内)、局所(特に、腫瘍内)が挙げられる。投与方法は剤形により異なるが、注入(ボーラス注入、点滴注入)が好ましい。
【0021】
投与量は、がんの増殖抑制剤では、がんの増殖抑制に有効な量とすればよく、がん治療剤では、がんの治療に有効な量とすればよい。使用する有効成分の種類、患者の症状の程度、患者の性別、年齢等に応じて、標的分子の発現抑制及び/又は機能阻害が可能な範囲で、当業者が適宜設定できる。
がんの増殖抑制又はがん治療に有効な、snhg12の発現抑制剤の量は、上記の種々の条件により異なるが、例えば、1日当たり、0.00001mg~100g、中でも0.0001mg~10g、中でも0.001mg~1g、0.01mg~100mg、中でも0.1mg~10mgとすることができる。この投与量は、snhg12の発現抑制剤が修飾されたRNAである場合は、RNAに換算した量である。また、毎日投与しない場合や投与頻度が経時的に変化する場合は、総投与量から算出した1日当たりの投与量である。
【0022】
投与頻度又はスケジュールは、上記の種々の条件により異なるが、例えば、1日多数回(すなわち1日2、3、4回、または5回以上)、1日1回、数日毎(すなわち2、3、4、5、6、7日毎など)、1週間に数回(例えば、1週間に2、3、4回など)、1週間毎、数週間毎(すなわち2、3、4週間毎など)であってよい。また、症状に応じて経時的に投与頻度が変わってもよい。
投与期間は、例えば、がんが治癒または寛解するまでとすることができる。
【0023】
本発明の増殖抑制剤及び治療剤は、単独で使用してもよいが、1種又は2種以上の抗腫瘍作用を有する他の薬剤及び/又は放射線療法と併用してもよい。
【0024】
(製剤形態)
本発明の増殖抑制剤及び治療剤は、その製剤形態に応じて、薬学的に許容される担体や添加剤を加えて製剤化される。例えば、固形製剤の場合であれば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等を用いて製剤化することができる。また、液状製剤の場合であれば、生理食塩水、緩衝液等を用いて製剤化することができる。好ましい剤型は、注射剤である。
【0025】
また、本発明の増殖抑制剤及び治療剤において、有効成分として核酸分子を使用する場合であれば、当該核酸分子が癌細胞内に移行され易いように、核酸導入補助剤と共に製剤化されていることが望ましい。核酸導入補助剤としては、具体的には、リポフェクタミン、オリゴフェクタミン、RNAiフェクト、リポソーム、ポリアミン、DEAEデキストラン、リン酸カルシウム、デンドリマー等が挙げられる。
【0026】
本発明は、がんの増殖抑制に有効な量の、snhg12の発現抑制剤を、がん患者に投与する、がんの増殖抑制方法を提供する。
また、本発明は、がん治療に有効な量の、snhg12の発現抑制剤を、がん患者に投与する、がん治療方法を提供する。がん治療は、がんの増殖を抑制することにより、がん細胞のアポトーシスを惹起するか、あるいは増殖が止まったがん細胞を生体の免疫反応によって死滅させることを言う。
【実施例】
【0027】
以下、実施例および試験例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれによってなんら限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)担がん患者におけるSNHG12遺伝子の発現量の測定
a)材料・試薬:
米国国立がん研究所米国国立ヒトゲノム研究所によるがんゲノムアトラスプロジェクトで収集した、さまざまな組織におけるがんのゲノムやエピゲノム、トランスクリプトーム、変異情報などの公開データ
b)方法:
公開データ内のRNA-seqにより解析されたSNHG12遺伝子のRNA発現データ(RPKM値:Reads per kilobase of exon per million mapped reads)を取得し、全遺伝子の発現量からSNHG1
2RNA発現量の相対値(AU)を正規化法により算出し、患者毎でのSNHG12遺伝子発現量をlog2表示した。
c)結果:
図1に記載のように、多くのがんで高発現していることが明らかとなった。
【0029】
(実施例2)lncRNAのsnhg12が高発現と低発現の担がん患者における生存率の相違
a)材料・試薬:
米国国立がん研究所米国国立ヒトゲノム研究所によるがんゲノムアトラスプロジェクトで収集した、さまざまな組織におけるがんのゲノムやエピゲノム、トランスクリプトーム、変異情報などの公開データ
b)方法:
公開データ内の担がん患者におけるsnhg12の発現量と治療開始後の生存日数を収集した。
snhg12発現量の中央値を算出し、中央値以上をhigh、それより低い量をlowと区分した。各がん患者をhigh群とlow群に分類し、各郡患者の治療開始後の生存率と生存日数をカプランマイヤー法によりグラフ化した。コックス比例ハザードモデルによる統計解析を行った。
c)結果:
図2~5に示されるように、膵臓がん、肺がん、腎がん、グリオーマがんの担がん患者において、snhg12発現量の高い担がん患者の生存率が良くないことが示された。
【0030】
(実施例3)siRNAを用いたsnhg12の発現抑制評価試験
(1)材料・試薬
・評価細胞株:ヒト腎癌細胞株786O mock
・siRNA:
snhg12の元となるDNAの
図6に記載の4つの部位にハイブリダイズする30種のsiRNAと2種のアンチセンスDNAを作製した。各siRNAがハイブリダイズする領域の元となるDNAの塩基配列は表1~4の配列番号1~30の塩基配列であり、各アンチセンスDNAがハイブリダイズする領域の元となるDNAの塩基配列は表4の配列番号31、32の塩基配列である。各RNAは配列番号1~30の各DNA配列に対応するRNA配列からなる。
【0031】
1)部位1(Region1、127~147位)
【表1】
【0032】
2)部位2(Region2、352~428位)
【表2】
【0033】
【0034】
【0035】
(2)方法
腎がん7860株を24穴プレートに培養後、配列番号1~30の各DNA配列に対応するRNA配列からなるsiRNA、又は配列番号31、32のDNA配列と相補的な塩基配列からなるアンチセンスDNAの5μMのそれぞれを5μLのDharmafect試薬(GE-healthcare)に溶解し細胞内に導入した。72時間培養後、RNAを抽出しRT-qPCRによりsnhg12の発現量を解析した。
(3)結果
図8に示されるように、腎癌細胞株からのsnhg12の発現は、使用したsiRNAによって抑制されることが明らかとなった。
腎がん7860株におけるsiRNA又はアンチセンスDNAによるsnhg12の50%以上の発現抑制率をまとめると、例えば
図7~8と表5で示すことができる。
【0036】
【表5】
snhg12の発現抑制のために用いられる好ましい核酸の標的となるDNA配列としては、配列番号1、配列番号3、配列番号22、配列番号23、配列番号30、配列番号31、配列番号32を挙げることができる。特に好ましい核酸の標的となるDNAとしては、配列番号22、配列番号31を挙げることができる。
【0037】
(実施例4)snhg12の発現抑制による異種移植腎細胞がんの増殖抑制試験
(1)材料・試薬
・異種移植用のヒト腎がん細胞株:786O mock
・配列番号22(aggtagaaacaacagcatg)に対応するRNA配列からなるsiRNA
(2)方法
ヌードマウス(雄性、4週令)の皮下に、ヒト腎がん細胞株(786O mock)を、5x10
6個注入した。
図9に示されるスケジュールで配列番号22のsiRNA(1nM)を投与した。また、コントロールとして、その反対側の体側に同様にヒト腎がん細胞株を投与し、EGFPsiRNA(1nM)を投与した。siRNAの投与開始当日、その後5日目、10日目、17日目、25日目、32日目の移植腎細胞の直径を計測した。
(3)結果
図10に示されるように、配列番号22に対応するRNA配列からなるsiRNAを投与した場合、顕著に腎がんの生着と増殖が抑制されていた。一方、コントロールとしてEGFPsiRNAを投与した場合には、移植腎がんが増殖していた。
以上のように、配列番号22に対応するRNA配列からなるsiRNAを投与すると、snhg12の発現を抑制して、ヌードマウスに対する腎がん細胞の生着・増殖を顕著に抑制することができた。
このことは、snhg12を高発現するがん細胞において、snhg12の発現抑制により、がん細胞の増殖抑制ができることを示している。即ち、snhg12の発現抑制剤を使用することにより、がん治療が可能であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のがん増殖抑制剤及びがん治療剤は、snhg12が高発現のがん細胞において、snhg12を発現抑制することによって、効果的にがん細胞の増殖を抑制し、がん治療を行える。本発明のがん増殖抑制剤は、単剤で使用することができ、更には免疫賦活化のがん治療剤と併用して、その効果を高めることができる。
【配列表】