(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】接合構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/26 20060101AFI20240605BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20240605BHJP
【FI】
E04B1/26 G
E04B1/58 508L
(21)【出願番号】P 2023196943
(22)【出願日】2023-11-20
【審査請求日】2023-11-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523438935
【氏名又は名称】株式会社i-Fix
(73)【特許権者】
【識別番号】523438946
【氏名又は名称】若松 彌千男
(74)【代理人】
【識別番号】110004174
【氏名又は名称】弁理士法人エピファニー特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若松 彌千男
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 喜智
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特許第3355552(JP,B2)
【文献】特開2022-113877(JP,A)
【文献】特許第7279987(JP,B1)
【文献】実開平07-010106(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/26
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造建築の仕口を緊結する接合構造であって、
側面に開口した挿通孔を備えた柱と、
前記柱の対向する2つの側面のそれぞれに取り付けられた、
軸方向の端面から
内部に延びる挿入穴及び
前記挿入穴に対し交差するように延び前記挿入穴と連通する作業穴が設けられた少なくとも2つの横架材と、
前記2つの横架材のそれぞれの前記挿入穴に端部が挿通される引張部材と、
前記引張部材に設置される係合部材と、
前記作業穴に挿入される板状の荷重伝達部材と、を備え、
前記挿通孔と前記挿入穴とは、
前記引張部材が挿入可能なように連通し、
前記引張部材は、
前記柱を貫通するように配置され、中央部が可撓性を有する部材で構成され、
両端部のそれぞれに前記係合部材が設けられ、
前記荷重伝達部材は、
前記作業穴の内部において、前記係合部材より前記柱側に位置し、前記係合部材に当接し、
前記係合部材を介して前記引張部材に張力を生じさせ、前記2つの横架材を軸方向に引っ張るように前記引張部材を作用させる、
接合構造。
【請求項2】
請求項1に記載の接合構造であって、
前記2つの横架材に設けられた前記挿入穴は、
当該2つの横架材の軸方向に対し傾斜して設けられ、
前記柱に設けられた前記挿通孔は、
前記2つの横架材の前記挿入穴同士を連通するように設けられた、
接合構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の接合構造であって、
前記係合部材は、
前記引張部材の端部に設けられた第1雄ねじ部に螺合するナットであり、
前記ナットは、
前記引張部材に螺合した状態で締め込まれ、前記引張部材に張力を生じさせる、
接合構造。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の接合構造であって、
前記係合部材は、
少なくとも一部が前記作業穴の内部に配置され、
前記荷重伝達部材は、
前記係合部材に当接するフィラー及び前記作業穴に向かって打ち込まれるウェッジ部品を含み、
前記ウェッジ部品は、
前記作業穴の内側の壁面のうち前記柱側に位置する壁面と前記フィラーとの間に打ち込まれ、前記引張部材に張力を発生させる、
接合構造。
【請求項5】
請求項4に記載の接合構造であって、
前記係合部材は、
前記引張部材の端部に設けられた第1雄ねじ部に螺合するナットであり、
前記ナットは、
軸方向の一端から設けられた切り欠き部を有し、
前記引張部材の端部に設けられた雄ねじ部に螺合し、
切り欠きが設けられている部分が前記作業穴の内部に配置されている、
接合構造。
【請求項6】
木造建築の仕口を緊結する接合構造であって、
側面に開口した挿通孔を備えた柱と、
端面から軸方向に延びる挿入穴及び軸方向に対し交差するように延び前記挿入穴と連通する作業穴が設けられた横架材と、
前記横架材の前記挿入穴に一方の端部が挿通される引張部材と、
前記引張部材の一方の端部に設けられた第1雄ねじ部に螺合したナットと、
前記作業穴に挿入される板状の荷重伝達部材と、
前記引張部材と螺合する金具であるクロスジョイントと、を備え、
前記挿通孔と前記挿入穴とは、
前記引張部材が挿入可能なように連通し、
前記荷重伝達部材は、
前記作業穴の内部において、前記ナットより前記柱側に位置
する平板である木製のプレート及び金属製のフィラーを備え、
前記フィラーは、前記ナットに当接し、
前記ナットは、
前記引張部材に螺合した状態で締め込まれ、前記引張部材に張力を生じさせ、前記横架材を軸方向に引っ張るように前記引張部材を作用させる、
接合構造。
【請求項7】
請求項
6に記載の接合構造であって、
前記クロスジョイントは、
略直方体であって、
長手方向に対向する1組の第1面に設けられた穴に形成された第1雌ねじ部と、
前記第1面に直交する1組の第2面に設けられた穴に形成された第2雌ねじ部と、
を備え、
前記柱の前記挿通孔内に配置され、
前記引張部材は、
螺合による接続のない一体の部材で形成されたシャフトを含み、
前記シャフトは、
前記第1雄ねじ部が設けられた端部に対し反対の端部に設けられた第2雄ねじ部を備え、
前記クロスジョイントに設けられた前記第1雌ねじ部又は前記第2雌ねじ部に一前記第2雄ねじ部が螺合し、前記ナットを介して前記クロスジョイントとの間で張力が発生し、前記横架材を前記柱側に引っ張るように作用する、
接合構造。
【請求項8】
請求項
7に記載の接合構造であって、
前記横架材は、
前記柱の対向する2つの側面に取り付けられる2つの横架材を含み、
前記引張部材は、
前記柱を貫通するように配置されるロングシャフトを含み、
前記ロングシャフトの両端部は、
前記2つの横架材に設けられた前記挿入穴のそれぞれの内部に配置され、
それぞれに前記ナットが設けられ、
前記クロスジョイントは、
残りの1組の第3面のそれぞれに設けられた溝部と、
前記溝部の底に設けられ、当該クロスジョイントを貫通する第2孔と、を更に備え、
前記ロングシャフトは、
前記第2孔よりも外径が小さい、
接合構造。
【請求項9】
請求項
7に記載の接合構造であって、
複数の前記引張部材と、
板材をコの字形に折り曲げて形成されたドライビングジョイントと、を備え、
複数の前記引張部材は、
少なくとも2本のシャフト、又は1本のロングシャフトと少なくとも1本のシャフトから構成され、
前記シャフトのうち1本のシャフトは、
前記クロスジョイントの前記第2雌ねじ部に螺合し、
前記ドライビングジョイントは、
前記柱の前記挿通孔内に配置され、コの字形の開放部を前記第2雌ねじ部に螺合した前記シャフトが延びる方向に向けた状態で前記クロスジョイントの溝部に嵌合する、
接合構造。
【請求項10】
請求項3に記載の接合構造であって、
前記第1雄ねじ部の先端に螺合した袋ナットを更に備える、
接合構造。
【請求項11】
請求項
6に記載の接合構造であって、
前記第1雄ねじ部の先端に螺合した袋ナットを更に備える、
接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造建築の接合構造であって、引張部材を用いて緊結する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
木造建築において、柱と梁や桁などの横架材を接合する仕口加工では柱と梁などの表面に金物を掛け渡して取り付けている構造が知られているが、日本の木造建築が持つ本来の美しさが損なわれていた。特に、木造建築物に吹き抜けなどを作る場合には柱と梁との仕口部分が露出することが多くなるので、その外観は重要なポイントとなる。また、従来の仕口接合金物は一旦、取り付けると調整ができない構造であり、取り付けた後に木材収縮が生じた場合、仕口に隙間が生じるという不都合が生じていた。
【0003】
このような不都合を解決すべく、柱に貫通穴、柱に当接する梁の端面から当該梁の軸方向に延びる横穴を設け、貫通穴及び横穴の内部に接合金物部材を配置した構造が知られている。接合金物部材は、梁に設けられた楔導入路に楔を差し込むことにより横架材の端部を柱の接合溝部に接合するように保持する(例えば、特許文献1を参照)。これにより、木造建築において、柱および梁などへの金物の表出をなくし、さらに部材の断面欠損を最小限に抑え、構造材として高い強度と剛性を確保するとともに取り付け後の木材収縮に対応した追締めが可能となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、実施の形態1に係る仕口接合金物は、複数のボルトをつなぎ合わせて構成されており、経年及び地震などの振動により各螺合部が微小に緩むことがある。仕口接合金物は、追い締めが可能な構造であるが、各螺合部が微小に緩み、その緩みが蓄積すると、仕口の密着が緩むという課題があった。これにより、仕口接合金物は、頻繁に追い締めする必要がある。
【0006】
本発明の目的は、木造建築において、追締めが幾度となく可能で、経年及び振動に対する耐力の高い接合構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る接合構造は、木造建築の仕口を緊結する接合構造であって、側面に開口した挿通孔を備えた柱と、前記柱の対向する2つの側面のそれぞれに取り付けられた、端面から軸方向に延びる挿入穴及び軸方向に対し交差するように延び前記挿入穴と連通する作業穴が設けられた少なくとも2つの横架材と、前記2つの横架材のそれぞれの前記挿入穴に端部が挿通される引張部材と、前記引張部材に設置される係合部材と、前記作業穴に挿入される板状の荷重伝達部材と、を備え、前記挿通孔と前記挿入穴とは、前記引張部材が挿入可能なように連通し、前記引張部材は、前記柱を貫通するように配置され、中央部が可撓性を有する部材で構成され、両端部のそれぞれに前記係合部材が設けられ、前記荷重伝達部材は、前記作業穴の内部において、前記係合部材より前記柱側に位置し、前記係合部材に当接し、前記係合部材を介して前記引張部材に張力を生じさせ、前記2つの横架材を軸方向に引っ張るように前記引張部材を作用させるものである。
【0008】
本発明に係る接合構造は、木造建築の仕口を緊結する接合構造であって、側面に開口した挿通孔を備えた柱と、端面から軸方向に延びる挿入穴及び軸方向に対し交差するように延び前記挿入穴と連通する作業穴が設けられた横架材と、前記横架材の前記挿入穴に一方の端部が挿通される引張部材と、前記引張部材の一方の端部に設けられた第1雄ねじ部に螺合したナットと、前記作業穴に挿入される板状の荷重伝達部材と、前記引張部材と螺合する金具であるクロスジョイントと、を備え、前記挿通孔と前記挿入穴とは、前記引張部材が挿入可能なように連通し、前記ナットは、軸方向の一端から設けられた切り欠き部を有し、少なくとも切り欠きが設けられている部分が前記作業穴の内部に配置され、前記荷重伝達部材は、前記ナットに当接するフィラー及び前記作業穴に向かって打ち込まれるウェッジ部品を含み、前記フィラーは、前記作業穴の内部において、前記ナットより前記柱側に位置し、前記ナットに当接し、前記ウェッジ部品は、前記作業穴の内側の壁面のうち前記柱側に位置する壁面と前記フィラーとの間に打ち込まれ、前記ナットを介して前記引張部材に張力を生じさせ、前記横架材を軸方向に引っ張るように前記引張部材を作用させるものである。
【0009】
木造建築の仕口を緊結する接合構造であって、側面に開口した挿通孔を備えた柱と、端面から軸方向に延びる挿入穴及び軸方向に対し交差するように延び前記挿入穴と連通する作業穴が設けられた横架材と、前記横架材の前記挿入穴に一方の端部が挿通される引張部材と、前記引張部材の一方の端部に設けられた第1雄ねじ部に螺合したナットと、前記作業穴に挿入される板状の荷重伝達部材と、前記引張部材と螺合する金具であるクロスジョイントと、を備え、前記挿通孔と前記挿入穴とは、前記引張部材が挿入可能なように連通し、前記荷重伝達部材は、前記作業穴の内部において、前記ナットより前記柱側に位置し、前記ナットに当接し、前記ナットは、前記引張部材に螺合した状態で締め込まれ、前記引張部材に張力を生じさせ、前記横架材を軸方向に引っ張るように前記引張部材を作用させるものである。
【発明の効果】
【0010】
上記の接合構造は、柱および横架材の下面および側面からは金物が見えにくいデザインにでき、木材の収縮に応じ取り付け後も係合部材又は荷重伝達部材を調整することにより幾度となく、さらに締め付ける(追い締めする)ことができる。また、構成部品が少ないため、経年及び振動による各部の緩みが少なく、追い締めの頻度を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1に係る接合構造100の斜視図である。
【
図2】
図1に示す接合構造100のxy平面に平行な断面構造の説明図である。
【
図3】
図1に示す接合構造100のxz平面に平行な断面構造の説明図である。
【
図4】実施の形態1に係る荷重伝達部材30の斜視図である。
【
図5】実施の形態1に係る荷重伝達部材30が作業穴96内に設置された状態の斜視図である。
【
図6】
図1に示す接合構造100のyz平面に平行な断面構造の説明図である。
【
図7】実施の形態1に係る接合構造100のクロスジョイント20の斜視図である。
【
図8】実施の形態1に係る接合構造100における係合部材の構成を変更したものである。
【
図9】実施の形態1の接合構造100の変形例である接合構造100aの斜視図である。
【
図10】
図9に示す接合構造100aのクロスジョイント20及びドライビングジョイント60を組み合わせた状態の斜視図である。
【
図11】実施の形態1の接合構造100の変形例である接合構造100bの斜視図である。
【
図12】実施の形態2に係る接合構造200の斜視図である。
【
図13】
図1に示す接合構造100のxz平面に平行な断面構造の説明図である。
【
図14】実施の形態2に係る接合構造200の設置方法の一例のフローチャートである。
【
図15】実施の形態2の接合構造200の変形例の断面構造の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、接合構造100の好ましい実施の形態が図面を参照して詳しく説明されている。なお、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、これらの態様に限られるものではない。
【0013】
実施の形態1.
以下、図面を参照して実施の形態を詳しく説明する。
図1は、実施の形態1に係る接合構造100の斜視図である。
図1においては、柱91及び梁92の内部に設置されている接合金具10を透視した状態を示している。実施の形態1に係る接合構造100は、例えば木造建築の柱91と梁92及び桁などの横架材とを緊結して接合させるためのものである。ただし、接合構造100は、
図1に示すような柱91及び梁92を緊結して接合するものに限定されず、軸方向が交差して接合される部材を緊結して接合できるものである。
【0014】
実施の形態1に係る接合構造100は、z方向に延びる柱91に対しx方向及びy方向に延びる梁92が接合されている。柱91及び梁92の内部には接合金具10が設置されている。接合金具10は、梁92を柱91側に引っ張り、梁92の端面を柱91の側面に押し付けるように緊結して固定する。なお、実施の形態1においてz方向は垂直方向であり、x方向及びy方向は水平方向であるが、これに限定されるものではない。例えば、z方向は、垂直方向から傾斜していても良い。また、梁92が延びる方向は、必ずしも直交していなくともよく、例えば1つの梁92がy方向に対し水平方向に傾斜して設置されていても良い。
【0015】
接合金具10は、x方向に延びる2本のシャフト21及びy方向に延びるロングシャフト22を備えている。2本のシャフト21は、柱91の内部に設置されたクロスジョイント20によって接続されている。それぞれのシャフト21は、柱91側の端部がクロスジョイント20に螺合し、他方の端部がx方向に延びる梁92の内部に配置されている。ロングシャフト22は、クロスジョイント20に設けられた貫通孔である第2孔20gに挿通され、両端部がy方向に延びる2つの梁92のそれぞれの内部に配置されている。
【0016】
x方向及びy方向に延びる梁92は、z方向を向いた面から内部に向かって作業穴96が設けられている。作業穴96の内部には、荷重伝達部材30が設置されている。実施の形態1において荷重伝達部材30は、作業穴96に打ち込まれる楔部品(ウェッジ部品)及び板状部材などの複数の部品から構成されている。荷重伝達部材30は、柱91側を向いた面が作業穴96の柱91側に位置する面及びシャフト21又はロングシャフト22に設けられているキャッスルナット41と当接し、シャフト21及びロングシャフト22を軸方向に引っ張り、かつ梁92を押すように作用する。つまり、シャフト21及びロングシャフト22は、キャッスルナット41及び荷重伝達部材30を介して梁92を柱91側に引っ張るように作用する。そのため、シャフト21及びロングシャフト22は、まとめて引張部材と呼ばれる場合がある。
【0017】
図2は、
図1に示す接合構造100のxy平面に平行な断面構造の説明図である。この断面は、柱91の内部に設けられたクロスジョイント20が配置される挿通孔93及び94と、梁92の内部に設けられた引張部材が配置される挿入穴95と、を通る断面を示している。
【0018】
柱91は、柱91の側面91bに設けられた溝91aの底面から反対側の溝91aのそ底面まで貫通する挿通孔93及び94を備える。挿通孔93及び94は、それぞれx方向及びy方向に延び、中央で交わっている。挿通孔93及び94は、両方とも内部にクロスジョイント20が配置できる程度の大きさであり、後で説明するドライビングジョイント60も配置可能になっている。
【0019】
4本の梁92は、x方向又はy方向に延びる挿入穴95を備える。挿入穴95は、梁92が柱91に取り付けられた状態で、柱91に設けられた挿通孔93又は94と連通するように設けられている。梁92に設けられた挿入穴95は、内部にシャフト21又はロングシャフト22が挿入される程度の大きさに形成されている。なお、シャフト21及びロングシャフト22は、梁92の内部に位置する先端に袋ナット44が螺合されている。袋ナット44は、頭部が丸く形成されており、シャフト21又はロングシャフト22を挿入穴95に挿入する際に、挿入穴95の内面に引っかかりにくくなる。
【0020】
挿入穴95は、柱91からある程度離れた位置に設けられたz方向に延びる作業穴96と交わっている。挿入穴95内に配置されたシャフト21及びロングシャフト22は、キャッスルナット41を備える。キャッスルナット41は、シャフト21及びロングシャフト22の端部に設けられている第1雄ねじ部23に螺合している。第1雄ねじ部23に螺合したキャッスルナット41は、少なくとも一部が作業穴96と挿入穴95とが交わっている空間に位置している。キャッスルナット41の作業穴96内に侵入している一部分の端面は、荷重伝達部材30に当接している。
【0021】
図3は、
図1に示す接合構造100のxz平面に平行な断面構造の説明図である。この断面は、柱91の内部に設けられた挿通孔93と、梁92の内部に設けられた引張部材が配置される挿入穴95と、を通る断面を示している。
【0022】
梁92に設けられた作業穴96は、z方向に延び、x方向に延びる挿入穴95と交わり、さらに梁92の内部に向かって延びている。作業穴96の内部には、荷重伝達部材30が配置されている。実施の形態1において荷重伝達部材30は、柱91側から上ウェッジ31、下ウェッジ32、フィラー33及びシムライナー34を備える。上ウェッジ31、下ウェッジ32、及びフィラー33は、キャッスルナット41と作業穴96の柱91側の壁面96aとの間にx方向に重ねられて配置されている。上ウェッジ31及び下ウェッジ32は、一方の端面側が厚く、他方の端面側が薄い構造になっており、x方向を向いた一方の面が他方の面に対し傾斜している。上ウェッジ31と下ウェッジ32とは、傾斜した面同士を当接させた状態で作業穴96内に配置される。上ウェッジ31は、作業穴96の開口側から木槌などで下ウェッジ32と壁面96aとの間に打ち込まれ、下ウェッジ32と壁面96aとをx軸に沿った方向に押す。
【0023】
つまり、下ウェッジ32及びフィラー33は、キャッスルナット41と壁面96aとの間に予め配置され、上ウェッジ31は、下ウェッジ32と壁面96aとの間に打ち込まれることによって、下ウェッジ32と壁面96aとを押す。下ウェッジ32と壁面96aとの間に形成される隙間は、上ウェッジ31と比較して狭く、上ウェッジ31を作業穴96の内部に打ち込むことにより、隙間が徐々に押し広げられる。このように、上ウェッジ31が隙間を押し広げる力により、キャッスルナット41を介してロングシャフト22が引っ張られ、張力が生じる。ロングシャフト22に生じた張力は、フィラー33、下ウェッジ32及び上ウェッジ31を介して梁92を柱91側に押し付ける力になる。
【0024】
図2及び
図3に示されるように、ロングシャフト22の両端は、柱91の対向する2つの側面92bに当接する2つの梁92の内部に配置されており、それぞれにキャッスルナット41が取り付けられている。対向して配置されている2つの梁92に荷重伝達部材30が配置され、ロングシャフト22はその両端においてキャッスルナット41を介して荷重伝達部材30により引っ張られる。つまり、ロングシャフト22に生じる張力は、両端において、荷重伝達部材30を介して2つの梁92を柱91側に引っ張ることになる。
【0025】
また、梁92は、柱91に形成された溝91aに嵌合する突出部92aを備える。突出部92aは、柱91に対する梁92の位置決め及び固定のために用いられるものであり、15mm程度の突出量に設定されている。
【0026】
図4は、実施の形態1に係る荷重伝達部材30の斜視図である。実施の形態1に係る荷重伝達部材30は、上ウェッジ31、下ウェッジ32、フィラー33及びシムライナー34を備える。上ウェッジ31、下ウェッジ32、フィラー33及びシムライナー34は、梁92の軸方向(
図1においてx方向又はy方向)に重ねられて配置され、上ウェッジ31及び下ウェッジ32が楔として作用し、引張部材に張力を生じさせるものである。また、上ウェッジ31及び下ウェッジ32は、経年及び振動が加わることにより柱91及び梁92の緊結が緩んだ場合に、上ウェッジ31をさらに打ち込むか、打ち込み直すことにより、再度緊結させることができる。少なくとも上ウェッジ31は、木製の梁92に当接するため、梁92と同様に木製であることが望ましい。また、フィラー33は、キャッスルナット41と当接するためステンレス鋼などの金属製であることが望ましい。
【0027】
また、上ウェッジ31は、打ち込み方向に直交するように目盛りが設けられていても良い。目盛りが設けられていることにより、作業者は、上ウェッジ31の打ち込み量を精度良く管理できる。例えば、
図1に示すように柱91に複数の梁92が取り付けられている場合において、それぞれの梁92に打ち込まれた上ウェッジ31は、それぞれ打ち込み量が等しくなることが望ましい。上ウェッジ31の打ち込み作業において目盛りを見ながら行うことによって、作業効率が向上する。なお、上ウェッジ31の打ち込み量は、梁92から突出した量を管理することによっても可能である。
【0028】
荷重伝達部材30は、シムライナー34が無くても梁92と柱91とを緊結することができる。シムライナー34は、キャッスルナット41と作業穴96の壁面96aとの間に挟まれておらず、フィラー33と作業穴96の壁面96bとの隙間を埋めるようにして配置されている。シムライナー34は、フィラー33がキャッスルナット41から荷重を受けたときにフィラー33が変形するのを抑制させるものである。
【0029】
図5は、実施の形態1に係る荷重伝達部材30が作業穴96内に設置された状態の斜視図である。この図においては、梁92の構造を省略されている。上ウェッジ31、下ウェッジ32及びフィラー33は、引張部材であるロングシャフト22をまたぐように配置される。したがって、上ウェッジ31、下ウェッジ32及びフィラー33及びシムライナー34は、梁92に設けられた作業穴96の底を向いた先端に切り欠き31a、32a、又は33aを備える。切り欠き31a、31b及び33aは、ロングシャフト22を通せる程度の幅に形成されている。特にフィラー33に設けられている切り欠き33aは、ロングシャフト22を挿通でき、かつ面33bにキャッスルナット41の端面が当接できるような幅に形成されている。つまり、
図5に示されているフィラー33の切り欠き33aの幅Wは、ロングシャフト22よりも若干大きく形成されているが、キャッスルナット41の幅よりは小さい。キャッスルナット41は、一般的なナットと同様に、シャフト21及びロングシャフト22に設けられた第1雄ねじ部23に螺合でき、シャフト21及びロングシャフト22の軸方向から見たときに六角形になっている。なお、ここでは、ロングシャフト22と荷重伝達部材30との関係について説明したが、シャフト21と荷重伝達部材30との関係も同様に構成されている。
【0030】
シムライナー34は、キャッスルナット41をまたぐように配置されている。そのため、シムライナー34の切り欠き34aの幅W1は、少なくともキャッスルナット41が有する対向する2つの側面間の幅よりも大きく形成されている。または、シムライナー34の切り欠き34aの幅W1は、キャッスルナット41の最外径よりも大きく形成されている。なお、シムライナー34の切り欠き34aの幅W1は、キャッスルナット41が有する対向する2つの側面間の幅以上かつキャッスルナット41の最外径よりも小さく設定することにより、切り欠き34aがキャッスルナット41の回転を止めることができる。これにより、接合構造100は、経年や振動によりキャッスルナット41の動きが抑制されるため、緊結が緩むのを抑制できる。
【0031】
キャッスルナット41は、一般的な六角ナットよりも軸方向に長く形成されており、一方の端面から切り欠き41aが設けられている。切り欠き41aは、6つの側面のそれぞれに対応して配置されている。キャッスルナット41の切り欠き41aは、荷重伝達部材30が設置されていない状態の作業穴96を覗き込んだときに、見える程度の位置に配置されており、切り欠き41aに工具を差し込むことにより、キャッスルナット41が作業穴96に配置されている状態であっても回転させることができる。
【0032】
図6は、
図1に示す接合構造100のyz平面に平行な断面構造の説明図である。この断面は、柱91の内部に設けられたクロスジョイント20が配置される挿通孔94と、梁92の内部に設けられた引張部材が配置される挿入穴95と、を通る断面を示している。
図6においては、
図4に示されているロングシャフト22が柱91を貫通している構造と異なり、2本のシャフト21が柱91の内部に配置されたクロスジョイント20により接続された構造になっている。
図6に示されている2本のシャフト21は、クロスジョイント20に設けられた第1雌ねじ部20e(
図8参照)に螺合して接続して、
図4に示されているロングシャフト22と同様に機能する。つまり、クロスジョイント20により接続された2本のシャフト21に生じる張力が、キャッスルナット41及び荷重伝達部材30を介して梁92を柱91側に押し、柱91と梁92とを緊結する。
図6に示す構造においても、荷重伝達部材30及びキャッスルナット41は、上記のロングシャフト22を用いて説明したのと同様に機能する。
【0033】
図7は、実施の形態1に係る接合構造100のクロスジョイント20の斜視図である。クロスジョイント20は、略直方体であって、長手方向に対向する1組の第1面20aに設けられた穴に形成された第1雌ねじ部20eと、第1面20aに直交する1組の第2面20bに設けられた穴に形成された第2雌ねじ部20fと、を備える。また、クロスジョイント20は、第1面20a及び第2面20b以外の残りの1組の第3面20cを備える。第3面20cは、中央部に溝部20dが設けられている。溝部20dは、対向する第2面20bに貫通するように設けられた溝であり、当該クロスジョイント20を第2面20bに垂直な方向から見たときにI字形になるように形成されている。溝部20dの底には、対向する面まで貫通している第2孔20gが設けられている。第2孔20gは、ロングシャフト22が挿通できる程度の大きさに形成されている。
【0034】
図1、
図2、
図3及び
図6に示す接合構造100においては、クロスジョイント20は、長手方向の端面である第1面20aをy方向に向け、溝部20dが設けられた第3面20cをx方向に向けて、柱91の挿通孔94に挿入されている。クロスジョイント20の2つの第1面20aに設けられた第1雌ねじ部20eには、それぞれシャフト21の一端に設けられた第2雄ねじ部24が螺合する。クロスジョイント20の第2孔20gは、ロングシャフト22が挿通可能であるため、接合金具10は、柱91に取り付けられた直交する4本の梁92を柱91に緊結できる。
【0035】
(係合部材の変形例)
図8は、実施の形態1に係る接合構造100における係合部材の構成を変更したものである。上記においては、係合部材としてキャッスルナット41を単独で使用する構造について説明したが、
図8に示す変形例においては、係合部材として、キャッスルナット41だけでなく、ロックワッシャ42及びロックナット43も使用し、ダブルナット構造40を適用した例を示している。この構造の場合、キャッスルナット41とロックナット43とがいわゆるダブルナットの構成になっているため、シャフト21又はロングシャフト22の第1雄ねじ部23に螺合した状態で固定され、容易に動かない。
【0036】
(シャフト21の配置の変形例)
図9は、実施の形態1の接合構造100の変形例である接合構造100aの斜視図である。
図9においては、柱91及び梁92の内部に設置されている接合金具10aを透視した状態を示している。このように実施の形態1に係る接合構造100は、クロスジョイント20の使い方を変えて、T字形に組まれた梁92を固定することも可能である。
【0037】
変形例に係る接合構造100aにおいては、クロスジョイント20は、第3面20cをz方向に向け、第2面20bをy方向に向けて配置されている。クロスジョイント20の第3面20cに形成された溝部20dには、コ字形(U字形)のドライビングジョイント60がはめ込まれている。柱91の内部の十字に交差した挿通孔93及び94において、ドライビングジョイント60は、一方の挿通孔93に配置されクロスジョイント20と嵌合することにより、クロスジョイント20が挿通孔94から抜け出さないように固定するものである。
【0038】
図10は、
図9に示す接合構造100aのクロスジョイント20及びドライビングジョイント60を組み合わせた状態の斜視図である。ドライビングジョイント60が溝部20dに嵌合しかつ挿通孔93に引っかかることにより、クロスジョイント20は、シャフト21から荷重を受けても柱91の挿通孔94の内部において長手方向にずれない。
【0039】
ドライビングジョイント60は、コ字形に形成されていることにより、開放部側からシャフト21を挿入し、かつクロスジョイント20に設けられた第2雌ねじ部20fと螺合させることができる。クロスジョイント20は、柱91の挿通孔94に嵌合しているため、
図10(a)に示した矢印R方向から取り付けられたシャフト21から荷重を受けることができる。これにより、接合金具10aは、T字形に組まれた梁92を柱に緊結することが可能となる。
【0040】
図11は、実施の形態1の接合構造100の変形例である接合構造100bの斜視図である。
図11においては、柱91及び梁92の内部に設置されている接合金具10bを透視した状態を示している。このように、実施の形態1に係る接合構造100は、クロスジョイント20の使い方を変えて、L字形に組まれた梁92を固定することも可能である。
【0041】
接合構造100bにおいてもクロスジョイント20の使い方は上記で説明した接合構造100aと同様である。接合構造100bのクロスジョイント20は、ドライビングジョイント60により柱91の挿通孔94の内部において長手方向にずれないように構成されているため、
図9に示した接合構造100aの一方のシャフト21が存在しなくともシャフト21からの荷重を受けることができる。
【0042】
以上のように、実施の形態1に係る接合構造100、100a、100bは、上記のような構造により引張部材であるシャフト21又はロングシャフト22に張力を発生させて梁92(横架材)を柱91に緊結させることが可能である。また、実施の形態1に係る接合構造100、100a、100bの各部材は、適宜変更することができる。例えば、シャフト21に設けられている凹部26は、シャフト21の中心軸に対し対称な位置に設けられ、シャフト21を工具を用いて回転させ易くしているが、廃止しても良いし、同一円周上において更に多数設けることもできる。また、係合部材であるキャッスルナット41は、通常のナットに置換することもできる。または、キャッスルナット41を使用せずに、予めシャフト21又はロングシャフト22上に係合部材を溶接固定しても良い。さらには一部の外径が大きく形成されたシャフト21又はロングシャフト22を用い、外径が大きい部分を係合部材として使用することもできる。
【0043】
また、実施の形態1に係る接合構造100、100a、100bは、以上に説明したように構成されているので、柱91および梁92,桁等の横架材の内部に接合金具10を仕込むことにより横架材の下面および両側面に金物が一切露出しない。これにより木造建築において、強度及び剛性を高くすることができ、かつ木質感を損なうことなく、高い意匠性を可能とした。また、接合構造100、100a、100bは、単純同一加工形態のため、建方の効率手順が良く、かつ、建方全体の様子を調整しながら建方作業ができる。つまり、荷重伝達部材30を構成する楔部品(上ウェッジ31)の打ち込みにより、フィラー33が拡張に荷重を受け、部材を強固に締め付け、それによって楔部品に生じるスプリングバックが各部材に有効に働き、非常に高い剛性と強度を確保しながらも、楔部品を打ち込むことにより、何度でも締め付け、調整が可能となり、強い耐力を長く持続することができる。
【0044】
また、接合構造100、100a、100bは、引張部材として接合部の無い一体の部材であるシャフト21、ロングシャフト22を用い、螺合による接続を最小限にしたため、経時的にも緩みが発生しにくい。また、引張部材であるシャフト21及びロングシャフト22を設置するために、梁92及び柱91には最小限の孔が設けられており、木造軸組における仕口部の断面欠損を最小限に抑えることができ、構造材としての強度を確保することができる。
【0045】
さらに、接合構造100、100a、100bは、統一された仕口の加工および取付方法により、初めてでも容易に施工でき、作業性,施工性に優れている。また、特殊な工具を一切必要としないため従来の工具で施工できる。また、特にシャフト21は、クロスジョイント20と螺合するため、中央部(第1雄ねじ部23と第2雄ねじ部24との間の部分)の側面に凹部26が形成されており、スパナ等の工具を使用し、容易に回転させることができる。また、楔部品の打ち込みによる部材の締め付けは、伝統的手法に基づいており、そのため職人からの信頼性も高くなる。
【0046】
実施の形態2.
実施の形態2に係る接合構造200は、実施の形態1に係る接合構造100で使用していたロングシャフト22の代わりに引張部材222を使用した接合金具210を適用して柱91と梁92とを緊結させる構造である。また、実施の形態2に係る接合構造200は、引張部材222に張力を発生させる構造である荷重伝達部材30の構成を変更している。実施の形態2においては、実施の形態1との相違点を中心に説明する。
【0047】
図12は、実施の形態2に係る接合構造200の斜視図である。
図13は、
図1に示す接合構造100のxz平面に平行な断面構造の説明図である。実施の形態2においては、引張部材222の両端に荷重伝達部材230及び緊結ナット241が設置され、緊結ナット241を締め付けることにより、引張部材222は、張力が生じ引張部材222が梁92を柱91側に引っ張る。荷重伝達部材230は、比較的厚い平板であるプレート231と薄い平板であるフィラー233から構成されている。厚いプレート231は、梁92と直接当接するため木製であることが望ましい。フィラー233は、緊結ナット241に当接するため金属製であることが望ましい。
【0048】
実施の形態2に係る梁92は、傾斜した挿入穴295が設けられている。挿入穴295は、梁92の上面から柱91と当接する端面の突出部92aに向かって斜めに削孔され、柱91に設けられている挿通孔294と連通している。挿通孔294は、挿入穴295と実質的に同じ傾斜角度で設けられている。挿入穴295と挿通孔294とは、柱91を挟んで対向する位置に配置された梁92からも削孔されており、柱91の中央で互いに交差している。
【0049】
実施の形態2に係る接合構造200は、主に既設の柱91及び梁92を補強するために用いられるものであり、柱91から梁92を取り外すことなく設置できるものである。つまり、実施の形態2に係る柱91及び梁92は、既設の梁92に対し、梁92の上面から斜めに削孔し、挿入穴295と挿通孔294を設け、対向する2つの梁92の間に貫通孔を設けることにより、引張部材222を挿通できるように構成されている。引張部材222の先端には袋ナット45が取り付けられている。袋ナット45は、引張部材222を挿入穴295に挿通するときに先端が引っ掛かるのを抑制している。
【0050】
引張部材222は、中央部が鋼製の可撓性を有するワイヤー224で構成され、
図13に示すようなV字形状の貫通孔に挿通できるように構成されている。引張部材222は、ワイヤー224の両端に端部シャフト225が固定され、端部シャフト225には雄ねじ部223が設けられている。端部シャフト225は、荷重伝達部材230を構成するプレート231及びフィラー233に設けられた貫通穴に挿通され、荷重伝達部材230よりも外側に緊結ナット241が設置できるように構成されている。
【0051】
緊結ナット241は、引張部材222の端部の雄ねじ部223に螺合し、荷重伝達部材230に当接した状態でレンチなどの工具で締め付けられることにより、引張部材222に張力を発生させる。引張部材222の張力は、緊結ナット241及び荷重伝達部材230を介して梁92を柱91側に引っ張る。緊結ナット241は、実施の形態1において説明したロックワッシャ42及びロックナット43によって固定されていても良い。
【0052】
挿入穴295は、梁92の上面に開口している。また、挿入穴295の開口は、広く形成されており、レンチなどの工具で緊結ナット241を締め付ける際に作業がし易い。
【0053】
引張部材222は、
図13においてV字形の孔に挿通された状態で、緊結ナット241の締め付けが行われるため、中央部がz方向に移動し、柱91の挿通孔293aの内部の角部98に当接する。つまり、引張部材222は、設置が完了した状態では、
図13の挿入穴295及び挿通孔293aの内部に示された二点鎖線の位置まで中央部が移動し、角部98を押圧する。
【0054】
引張部材222のワイヤー224の中央部には、保護管226が設置されていても良い。保護管226は、引張部材222を内部に挿通できる管であり、例えば銅管である。保護管226は、ワイヤー224を覆った状態で角部98に当接する。ワイヤー224は、角部で折り曲げられるが、保護管226により保護される。また、保護管226は、当初は真っ直ぐな円管形状であるが、比較的柔らかい材料で形成されているため、ワイヤー224の形状に合わせて変形される。また、保護管226は、比較的柔らかい材料で形成されているため、柱91の角部98を保護する効果もある。
【0055】
(接合構造200の設置方法の一例)
図14は、実施の形態2に係る接合構造200の設置方法の一例のフローチャートである。以下に、
図13に示された既設の柱91及び梁92に接合構造200を設置する場合の工程について説明する。
【0056】
まず、既設の梁92から柱91の中央部に向かって斜めに削孔する(ステップS1)。削孔は、柱91を挟んで対向して配置された梁92のそれぞれの上面からホルソー等を用いて行う。また、削孔は、梁92及び柱91に対し行われ、挿入穴295と挿通孔294とが連通するように行う。柱91の挿通孔294は、貫通させず、中央部に至ったところで削孔を止める。挿通孔294は、他方の梁92から削孔された孔と交差することにより、V字形状の貫通孔となる。
【0057】
削孔が完了し、一方の梁92から他方の梁92に貫通するV字形状の孔が開いたら、次に引張部材を削孔した孔に通す(ステップS2)。引張部材222は、一方の梁92に形成された孔の開口から挿入され、他方の梁92の開口に先端が見える程度まで挿入される。このとき、挿入する引張部材222の先端に袋ナット45を螺合させておくと、孔の内部で先端が引っ掛かるのを抑制できる。
【0058】
更に、ステップS2においては、保護管226の内側に引張部材222を通し、引張部材222に沿って柱91の中央部に保護管226を挿入する工程を備えていても良い。保護管226は、挿入穴295及び挿通孔294に挿入でき、かつ内部に引張部材222を通せる程度の大きさの金属管を用いて、孔の内部に押し込まれる。保護管226の位置は、孔に金属管を挿入する長さを目安として調整される。
【0059】
挿入穴295及び挿通孔294の内部に引張部材222が挿通されたら、引張部材222の端部シャフト225に荷重伝達部材230を設置する(ステップS3)。木製の比較的厚いプレート231及び金属製の比較的薄いフィラー233は、例えば端部シャフト225が通せる程度の貫通孔が設けられ、貫通孔に端部シャフト225を通しながら、作業穴296の壁面296aに当接する位置に配置される。荷重伝達部材230は、引張部材222の両端に設置される。
【0060】
荷重伝達部材230が設置されたら、端部シャフト225に緊結ナット241が螺合され、緊結ナット241は、荷重伝達部材230に当接する程度の位置に設置される(ステップS4)。緊結ナット241は、この時点において仮締めされる。
【0061】
次に、緊結ナット241がレンチなどを用いて締結される(ステップS5)。締結は、一方の緊結ナット241に対し行われるだけでなく、他方の緊結ナット241に対しても交互に行い、所定のトルクで締め付けると良い。緊結ナット241の締結は、トルクレンチなどを用い、締付けトルクを管理できるように行うと良い。また、トルクレンチは、緊結ナット241の追い締め時にも用いられる。
【0062】
緊結ナット241の締結が完了したら、ロックワッシャ42及びロックナット43を端部シャフト225に螺合させ締結する(ステップS6)。これにより、緊結ナット241が経時的に緩むのを抑制する。
【0063】
実施の形態2に係る接合構造200は、以上のように行われる。ただし、上記の設置方法は一例であり、構成部品などは適宜変更できるものである。なお、
図12及び
図13は、柱91の対向する側面に2つの梁92を配置した構造を示しているが、接合構造200は、柱91に対し4本の梁92を接合させた場合であっても適用できる。この場合、
図12及び
図13のx方向に延びる梁92についても
図14の手順で引張部材222などが設置される。
【0064】
(接合構造200の変形例)
図15は、実施の形態2の接合構造200の変形例の断面構造の説明図である。柱91に4本の梁92が取り付いた構造の場合、2本の引張部材222は、柱91の中央部において異なる高さに挿通孔293a及び293bを設けて挿通される。
【0065】
図15に示した構造においては、挿入穴295と挿通孔293bとは、
図13に示した場合よりも傾斜角度を大きくして設けられている。このように形成されることにより、2本の引張部材222を設置することが可能となる。
【0066】
図15に示した構造においては、挿通孔293bの内部には保護管226が設置されていないが、この場合においても保護管226を設置し、角部98を保護しても良い。
【0067】
なお、
図15に示した構造においては、実施の形態1において説明した、荷重伝達部材30を用いて緊結を行っている。実施の形態2に係る接合構造200においても、荷重伝達部材30のように楔による緊結を行っても良い。また、
図15に示した構造にも、
図13などに示した荷重伝達部材230を適用し、緊結ナット241を用いて緊結を行う事ができる。さらには、実施の形態1の接合構造100、100a及び100bにも緊結ナット241を用いた緊結構造を適用することもできる。この場合、実施の形態1に係る接合構造100、100a及び100bは、梁92に設けられた作業穴96の形状を変更して、緊結ナット241を締め付ける作業が可能なようにする必要がある。
【0068】
また、実施の形態2に係る接合構造200は、以上に説明したように構成されているので、実施の形態1と同様の効果を得られるだけでなく、既設の柱91及び梁92に対し設置するのに適している。例えば、寺社仏閣などの古い木造建築に対しても、柱91から梁92を取り外すことなく、接合金具210を設置することができる。なお、柱91に4本の梁92が十字に取り付けられた構造の場合、接合金具210は、梁92と同じように十字に配置されることが望ましい。十字に配置された梁92のうち一組の梁92に接合金具210が配置された場合、接合金具210が設置された一組の梁92と設置されていない一組の梁92との間に強度及び剛性の差が大きくなるため、設置されていない一組の梁92に負担が掛るおそれがあるからである。
【0069】
(接合構造200の検査について)
接合構造200は、以上に説明したように引張部材222に張力を発生させ、張力により梁92を柱91側に引っ張り、柱91と梁92とを緊結させるものである。よって、引張部材222に適正に張力が発生していない場合、柱91と梁92とは適切に緊結されていない。以下に、接合構造200の設置が行われた後、接合構造200が適切な状態であるか検査する方法について説明する。
【0070】
例えば
図12、
図13及び
図15のように接合構造200が設置された状態で、外観から視認できる引張部材222の端部をハンマー等の検査道具で叩き、どのような音が生じるかを確認する。引張部材222に張力が適正に生じている場合には、比較的甲高い音が生じる。また、引張部材222が緩んでいる場合には鈍い音が生じる。この検査を行うに当たっては、適正な状態に組み立てられた接合構造200を予め準備し、検査道具で叩くことによって、正常な状態の音を確認すると良い。また、適正な状態に組み立てられた接合構造200は、緊結ナット241の締め付けトルクを管理した上で、打音検査が行われる。このように締め付けトルクと生じる音との関係を予め把握することにより、接合構造200を設置した現場において精度の高い検査が可能となる。
【0071】
打音検査により緊結が適正でないと判断された場合、再度緊結ナット241の締め直しなどを行い、再度打音検査を行う。適正な音がでるまで繰り返しこの作業を繰り返すことが望ましい。なお、この打音検査は、実施の形態1に係る構造にも適用できる。
【0072】
以上に本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上述した実施の形態の構成のみに限定されるものではない。例えば、実施の形態1に係る接合構造100、100a、100bに示された構造の一部と実施の形態2に係る接合構造200に示された構造の一部とを組み合わせて1つの柱91に適用しても良い。すなわち、
図1に示した接合構造100のうちx方向に延びる2本のシャフト21及びクロスジョイント20を廃止し、
図14に示した引張部材222及びそれに取り付ける周辺部品を適用しても良い。また、
図9に示した接合構造100aにおいて、y方向に延びる2本のシャフト21を廃止し、
図14に示した構造を適用しても良い。また、接合構造100及び200を構成する各部品は、適宜構造を変更できる。例えば、
図1に示したロングシャフト22は、中央部が可撓性を有する引張部材222を代用しても良い。要するに、いわゆる当業者が必要に応じてなす種々なる変更、応用、利用の範囲をも本発明の要旨(技術的範囲)に含むことを念のため申し添える。
【符号の説明】
【0073】
10 :接合金具
10a :接合金具
10b :接合金具
20 :クロスジョイント
20a :第1面
20b :第2面
20c :第3面
20d :溝部
20e :第1雌ねじ部
20f :第2雌ねじ部
20g :第2孔
21 :シャフト
22 :ロングシャフト
23 :第1雄ねじ部
24 :第2雄ねじ部
26 :凹部
30 :荷重伝達部材
31 :上ウェッジ
31a :切り欠き
31b :切り欠き
32 :下ウェッジ
32a :切り欠き
33 :フィラー
33a :切り欠き
33b :面2
34 :シムライナー
34a :切り欠き
40 :ダブルナット構造
41 :キャッスルナット
41a :切り欠き
42 :ロックワッシャ
43 :ロックナット
44 :袋ナット
45 :袋ナット
60 :ドライビングジョイント
91 :柱
91a :溝
91b :側面
92 :梁
92a :端面
92b :側面
93 :挿通孔
94 :挿通孔
95 :挿入穴
96 :作業穴
96a :壁面
96b :壁面
98 :角部
100 :接合構造
100a :接合構造
100b :接合構造
200 :接合構造
210 :接合金具
222 :引張部材
223 :雄ねじ部
224 :ワイヤー
225 :端部シャフト
226 :保護管
230 :荷重伝達部材
231 :プレート
233 :フィラー
241 :緊結ナット
293a :挿通孔
293b :挿通孔
294 :挿通孔
295 :挿入穴
296 :作業穴
296a :壁面
【要約】
【課題】追締めが幾度となく可能で、経年及び振動に対する耐力の高い接合構造を提供する。
【解決手段】木造建築の仕口を緊結する接合構造であって、側面に開口した挿通孔を備えた柱と、柱の側面に取り付けられた、端面から軸方向に延びる挿入穴及び軸方向に対し交差するように延び挿入穴と連通する作業穴が設けられた少なくとも2つの横架材と、2つの横架材のそれぞれの挿入穴に端部が挿通される引張部材と、引張部材に設置される係合部材と、作業穴に挿入される板状の荷重伝達部材と、を備え、挿通孔と挿入穴とは、引張部材が挿入可能なように連通し、引張部材は、柱を貫通するように配置され、中央部が可撓性を有する部材で構成され、両端部のそれぞれに係合部材が設けられ、荷重伝達部材は、作業穴の内部において、係合部材より柱側に位置し、係合部材に当接し、引張部材に張力を生じさせ、2つの横架材を軸方向に引っ張るように引張部材を作用させるものである。
【選択図】
図12