(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】ダイヤモンドの表面平坦化処理方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/04 20060101AFI20240605BHJP
C30B 33/12 20060101ALI20240605BHJP
【FI】
C30B29/04 V
C30B33/12
(21)【出願番号】P 2020093187
(22)【出願日】2020-05-28
【審査請求日】2023-03-23
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.刊行物 令和元年度応用物理学会北陸・信越支部学術講演会講演予稿案,D10(第90ページ),発行日 令和1年12月7日 2.集会名 令和元年度応用物理学会北陸・信越支部学術講演会,開催日 令和1年12月7日 開催場所 福井大学 文教キャンパス(福井県福井市文京3-9-1) 3.ウェブサイト http://hashi.shinsyu-u.ac.jp/emnano/prog-abs.html.ウェブサイトの掲載日 令和1年5月31日 4.集会名 「EM-NANO 2019」,開催日 令和1年6月21日,開催場所 信州大学 長野(工学)キャンパス 国際科学イノベーションセンター(長野県長野市若里4-17-1)
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】徳田 規夫
(72)【発明者】
【氏名】猪熊 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】松本 翼
(72)【発明者】
【氏名】坂内 和斗
(72)【発明者】
【氏名】長井 雅嗣
(72)【発明者】
【氏名】莨谷 平
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特公平01-039966(JP,B2)
【文献】特開昭62-041800(JP,A)
【文献】特開2016-098129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/04
C30B 33/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンドの表面を平坦化する処理方法であって、
炭素固溶性を有する基材を用いて、
前記基材の表面とダイヤモンドの表面とを接触させた状態で、不活性ガス又は真空下にて加熱処理する
ものであり、前記基材は鏡面仕上げ後に還元処理したニッケル基材であることを特徴とするダイヤモンドの表面平坦化処理方法。
【請求項2】
前記不活性ガス又は真空下において水素ガス又は/及び水蒸気を所定濃度添加したことを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンドの表面平坦化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンドの表面の平坦化処理方法に関し、特に研磨によらない平坦化方法に係る。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは物質の中で最も硬い分類に属し、アルミナ等の一般的な砥粒では研磨ができないため、ダイヤモンド砥粒をスラリーに含有させたスカイフ研磨方法が用いられている。
しかし、このような機械的な研磨方法では、ダイヤモンド表面に微小のキズが生じ、いわゆる表面ダメージが大きい。
また、プラズマを用いた研磨技術も知られているが、プラズマ装置が必要で装飾ダイヤモンド等の大きいものには対応が困難である。
特許文献1は、ダイヤモンドの表面にこのダイヤモンドと異なる材料からなる平坦な被膜を形成した後に、被膜との双方をエッチングし得る条件でドライエッチングする研磨方法を開示する。
しかし、同公報に開示する方法も、工程が複雑であり、処理費用も高価になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、表面のダメージが少なく、大面積の平坦化が可能なダイヤモンドの表面平坦化処理方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るダイヤモンドの表面平坦化処理方法は、ダイヤモンドの表面を平坦化する処理方法であって、炭素固溶性を有する基材を用いて、前記基材の表面とダイヤモンドの表面とを接触させた状態で、不活性ガス又は真空下にて加熱処理することを特徴とする。
ここで炭素固溶性を有する基材は、ニッケル、鉄、コバルト、チタン、クロム、銅及びそれらの酸化物又は合金のいずれかが好ましい。
このような基材をダイヤモンドの表面に接触させることで、その炭素固溶反応を利用したものである。
この点において、ニッケルは炭素を最大で2.7at%固溶できるため、最も平坦化効果が期待できる。
本発明における加熱処理は、炭素固溶反応を促進させるのが目的であって、800℃~1200℃の範囲が好ましい。
例えばニッケルで説明すると、結晶面(100)のダイヤモンド表面に有する凹凸部に対して平坦なニッケル基材を接触させると、凸部にニッケル基材の表面が接触し、ダイヤモンドの凸部の結晶欠陥に沿って選択的な異方性エッチング作用が生じることで、凸部が固溶化されて平坦化が進行すると推定される。
そのため、ニッケルの固溶によるエッチングは平坦な結晶面(100)が形成されるように進行するので、ダイヤモンドの表面に従来の研磨方法に見られるような表面ダメージが少ない。
また、ニッケル等の基材の表面にならってダイヤモンドの表面がエッチングされることになるため、基材の表面を平坦化する必要があるが、ニッケル、鉄、コバルト、チタン、クロム、銅及びそれらの酸化物又は合金にあってはダイヤモンドの表面よりも容易に研磨しやすく、又はシリコン等の鏡面研磨された表面に堆積すること等により容易に平坦化することができる。
なお、基材による炭素固溶反応を高めるために、予め基材の表面を還元処理しておいてもよい。
【0006】
本発明において、不活性ガスとはアルゴン、窒素、ヘリウム等をいい、真空とは本発明における平坦化処理に影響がないレベルに減圧されていることをいう。
不活性ガス又は真空下において水素ガス又は/及び水蒸気を所定濃度添加するのが好ましい。
ニッケル等の基材にてダイヤモンドの表面が固溶化される際にグラファイト層が生じる。
不活性ガス中で加熱処理すると、その後に表面のグラファイト層を熱混酸洗浄等により除去する必要がある。
そこで、不活性ガス又は真空下において水素ガスを所定の濃度添加すると、グラファイト層をメタンガス化して平坦化処理と同時又は連続的に除去することができる。
ここで、水素ガスの代わりに水蒸気を用いると、ニッケル基材の表面に酸化膜を形成し、ニッケル中の固溶炭素と反応することで一酸化炭素又は/及び二酸化炭素が生成し、グラファイト層の形成を抑制する。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、炭素固溶性を有する基材の表面をダイヤモンドの表面に接触させ、所定の温度に加熱するだけでこのダイヤモンドの表面を平坦化するため、デバイス用のダイヤモンドだけでなく、装飾ダイヤモンド等の大きな面も容易に平坦化できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係るダイヤモンドの表面平坦化処理方法を説明する概念図を示す。
【
図3】実施例の方法にて得られたダイヤモンド表面のレーザー顕微鏡像を示し、(a)は処理前、(b)は処理後である。
【
図4】実施例の方法にて得られたダイヤモンド表面のSEM像を示し、(a)は処理前、(b)は処理後である。
【
図5】実施例の方法による処理回数と、得られるダイヤモンド表面の粗さとの関係を評価した結果を示す。
【
図6】参考例の方法による処理回数と、得られるダイヤモンド表面の粗さとの関係を評価した結果を示す。
【
図7】従来の機械的研磨をした表面を水素プラズマ処理した表面写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係るダイヤモンドの表面平坦化処理方法の実施例を具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
本発明は、ダイヤモンドと炭素固溶反応を示す基材が用いられる。
図1に示すように、基材20は予め平坦に研磨加工した平坦面20aを有し、ダイヤモンド1の表面の凸部1aに対して接触させた状態で加熱処理する。
【0010】
基材20の平坦面20aをダイヤモンド1の表面に接触させるのに、
図2に示すような実験方法を用いた。
基材20とダイヤモンド1に対し、重し30を積み重ねる。
これにより、ダイヤモンド1の表面に対し基材20の平坦面20aを押し付けた状態が維持される。
加熱処理として、上記状態を維持した基材20とダイヤモンド1とを所定の温度に制御可能な加熱装置に入れる。
【0011】
(実施例)
赤外線加熱方式のアニール炉を用い、
図2の状態で約900℃、約3時間の加熱処理をした。
ダイヤモンド1は結晶面(100)のダイヤモンドを、基材20には多結晶のニッケル基材を用いた。
本実施例においては、ニッケル基材の表面をラフネスSa=0.021μmに鏡面仕上げし、ニッケル基材は水素約4vol%のアルゴンガス中にて還元処理をして用いた。
また、加熱処理後にダイヤモンドの表面を熱混酸でグラファイトの除去洗浄をした。
図3に処理前(a)と上記処理後(b)のダイヤモンド表面のレーザー顕微鏡像を示し、
図4に処理前(a)と処理後(b)のSEM(走査型電子顕微鏡)像を示す。
図3のマクロ的な観察からは、上記ニッケル基材をダイヤモンドの表面に接触させて加熱処理したことで、ダイヤモンドの表面形態が大きく変化したことが分かる。
図4に示したSEM像の観察からは、
図4(a)に現われている略四角い表面構造はダイヤモンドの結晶構造における結晶面(100)に見られる特有の構造であり、本発明に係る処理後のSEM像
図4(b)の表面状態からして、異方性エッチングによる炭素固溶反応により平坦化が進行したことが分かる。
本発明において、加熱処理するのは炭素固溶反応を促進するのが目的であり、用途に応じて適宜、設定されるが、800℃以上が好ましく、1200℃を超えると基材の表面に炭化物が形成され易くなる。
【0012】
次に、上記加熱処理を繰り返すことによるダイヤモンドの表面変化を調査した。
表面の粗さは、レーザー顕微鏡像(130μm×130μm)で各6~8点測定した平均ラフネスSa(凸部の高さ)を用いて評価した。
その結果を
図5に示す。
図5中に示した鏡面NiラフネスSaは、ニッケル基材の表面粗さを示す。
図5の結果から、本実施例の方法による処理を施すことによってダイヤモンド表面の平均ラフネスSaは大きく低減され、処理を繰り返すごとにラフネスSaがより低減し、ニッケルのラフネスSaに漸近することが観察された。
【0013】
参考例として、鏡面研磨を施さないニッケル基材を用いてダイヤモンドの表面を処理した。
ニッケル基材の表面粗さは、Sa=0.214μmである。
本参考例は約1150℃、約1時間の加熱処理を繰り返した。
その結果を
図6に示す。
この場合も処理回数が増すことでニッケル基材の表面粗さに近づいている。
本発明は、ニッケル基材をダイヤモンド表面に接触させて加熱処理するだけであるため、大面積のダイヤモンド表面を粗仕上げするのにも有効であるといえる。
【0014】
本発明に係る平坦化処理によるダイヤモンド表面のダメージの有無を確認すべく、本発明に係る平坦化処理後のダイヤモンド表面に水素プラズマ処理を行ってみたが、大きな変化が見られなかった。
これに対して、従来のスカイフ研磨法にて機械的に研磨した表面を水素プラズマ処理したダイヤモンドの表面写真を
図7に示す。
図7の写真には、複数のピットが現われている。
ダメージを受けた欠陥が優先的にエッチングされ、ピットとして出現したものと思われる。
このことからも、本発明に係る平坦化処理方法は、表面ダメージが少ないといえる。
【0015】
なお、本実施例では平坦化処理したダイヤモンドの表面を熱混酸で洗浄し、グラファイト層を除去したが、本発明に係る加熱処理の際に不活性ガス中に2~10vol%の水素ガスを加えると、グラファイト層をメタンガスとして除去できる。
【符号の説明】
【0016】
1 ダイヤモンド
20 基材
30 重し
40 加熱装置