(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】有機溶媒の精製方法及び精製有機溶媒の製造方法、並びに有機溶媒の精製システム
(51)【国際特許分類】
B01J 45/00 20060101AFI20240605BHJP
B01J 39/05 20170101ALI20240605BHJP
B01J 39/07 20170101ALI20240605BHJP
B01J 39/19 20170101ALI20240605BHJP
B01J 47/026 20170101ALI20240605BHJP
B01J 47/04 20060101ALI20240605BHJP
【FI】
B01J45/00
B01J39/05
B01J39/07
B01J39/19
B01J47/026
B01J47/04
(21)【出願番号】P 2023154166
(22)【出願日】2023-09-21
【審査請求日】2023-09-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】398045865
【氏名又は名称】室町ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100195327
【氏名又は名称】森 博
(74)【代理人】
【識別番号】100229389
【氏名又は名称】香田 淳也
(72)【発明者】
【氏名】村本 賢一
(72)【発明者】
【氏名】島村 宗孝
(72)【発明者】
【氏名】出水 丈志
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/131629(WO,A1)
【文献】特開2001-228635(JP,A)
【文献】特開2022-070585(JP,A)
【文献】特開2008-031009(JP,A)
【文献】国際公開第2020/130005(WO,A1)
【文献】特開2018-167223(JP,A)
【文献】国際公開第2020/217911(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/030380(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01J
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒及び不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を第1イオン交換体に接触させて前記不純物カチオンを除去する工程を含み、
前記第1イオン交換体がN-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂
からなることを特徴とする有機溶媒の精製方法。
【請求項2】
前記N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂が、基体ポリマーにN-メチルグルカミン基が結合したキレート樹脂であり、
前記基体ポリマーが、スチレン系架橋共重合体、又は(メタ)アクリル系架橋共重合体である請求項1に記載の有機溶媒の精製方法。
【請求項3】
前記N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂が、式(2)に示すN-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂である請求項1に記載の有機溶媒の精製方法。
【化2】
【請求項4】
前記不純物カチオンが、多価金属カチオンである請求項1に記載の有機溶媒の精製方法。
【請求項5】
前記有機溶媒が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからなる群から選択される1種以上の有機溶媒である請求項1に記載の有機溶媒の精製方法。
【請求項6】
請求項1に記載の有機溶媒の精製方法であって、
前記第1イオン交換体と、カチオン交換樹脂を含む第2イオン交換体とを用い、下記(A)から(C)のいずれかの処理を含む有機溶媒の精製方法。
(A)先に、前記不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を前記第1イオン交換体の単床に接触させ、次いで、前記第2イオン交換体の単床に接触させる処理
(B)先に、前記不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を前記第2イオン交換体の単床に接触させ、次いで、前記第1イオン交換体の単床に接触させる処理
(C)前記不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を前記第1イオン交換体及び前記第2イオン交換体の混床に接触させる処理
【請求項7】
前記第2イオン交換体が、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、フェノキシド基及び亜ヒ酸基からなる群から選択される1種以上の官能基を有するカチオン交換樹脂を含む請求項
6に記載の有機溶媒の精製方法。
【請求項8】
請求項1から
7のいずれかに記載の有機溶媒の精製方法を用いる工程を含む精製有機溶媒の製造方法。
【請求項9】
前記精製有機溶媒が、半導体基板洗浄用溶媒である請求項
8に記載の精製有機溶媒の製造方法。
【請求項10】
有機溶媒及び不純物カチオンを含む被処理有機溶媒が通液される第1イオン交換体を具備する精製手段を有し、
前記第1イオン交換体がN-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂
からなることを特徴とする有機溶媒の精製システム。
【請求項11】
前記N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂が、基体ポリマーにN-メチルグルカミン基が結合したキレート樹脂であり、
前記基体ポリマーが、スチレン系架橋共重合体、又は(メタ)アクリル系架橋共重合体である請求項10に記載の有機溶媒の精製システム。
【請求項12】
前記N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂が、式(2)に示すN-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂である請求項10に記載の有機溶媒の精製システム。
【化2】
【請求項13】
請求項
10から12のいずれかに記載の有機溶媒の精製システムであって、
第1イオン交換体と、カチオン交換樹脂を含む第2イオン交換体とを用い、下記(A)から(C)のいずれかの精製手段を含む有機溶媒の精製システム。
(A)前記被処理有機溶媒が通液される前記第1イオン交換体の単床と、該第1イオン交換体の単床の処理液が通液される前記第2イオン交換体の単床を有する精製手段
(B)前記被処理有機溶媒が通液される前記第2イオン交換体の単床と、該第2イオン交換体の単床の処理液が通液される前記第1イオン交換体の単床を有する精製手段
(C)前記被処理有機溶媒が通液される前記第1イオン交換体及び前記第2イオン交換体を含む混床を有する精製手段
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理有機溶媒から不純物カチオンを除去する有機溶媒の精製方法及び精製有機溶媒の製造方法、並びに有機溶媒の精製システムに関する。
【背景技術】
【0002】
有機溶媒は様々な工業分野で用いられており、有機溶媒が使用される用途や目的に応じて、有機溶媒に含まれる不純物を取り除く必要がある。例えば、半導体製造工程において、半導体ウエハの洗浄にイソプロパノール等の有機溶媒が用いられる。この洗浄用有機溶媒に不純物が含まれると、半導体ウエハに悪影響を及ぼす可能性があり、有機溶媒中の不純物を除去する必要がある。
【0003】
有機溶媒中の不純物を除去し、有機溶媒を精製する方法として、特許文献1に、有機溶媒中の金属不純物の除去性に優れる有機溶媒の精製方法が示されている。この有機溶媒の精製方法では、H型キレート交換体、アニオン交換体及びH型強酸性カチオン交換体を用いて、有機溶媒に含まれる金属不純物(1価及び多価の金属カチオン等)を除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2020/217911号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の有機溶媒の精製方法では、種々のイオン交換体が充填された充填塔を用い、有機溶媒中の様々な金属不純物を除去する。特に、多価金属カチオンの除去性を高めるために、H形キレート交換体(イオン交換体)の官能基として、イミノジ酢酸基、アミノメチルリン酸基、又はイミノプロピオン酸基が用いられていた。H形キレート交換体は、官能基が有する水素イオンが脱離し、替わりに多価金属カチオンを配位して捕捉することにより、多価金属カチオンを除去することができる。
しかしながら、有機溶媒中における不純物カチオンの除去性能に関して改善の余地があった。
【0006】
かかる状況下、本発明は、有機溶媒中の不純物カチオンの除去性能に優れ、従来用いられてきたH形キレート交換体とは異なる官能基を用い、有機溶媒に含まれる不純物カチオンを除去する精製有機溶媒の製造方法及び有機溶媒の精製システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、従来、ホウ素を選択的に吸着するイオン交換樹脂として用いられているN-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂が、有機溶媒中の不純物カチオン(特には多価金属カチオン)の除去性能に優れていることを見出し、本発明に至った。
【0008】
本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 有機溶媒及び不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を第1イオン交換体に接触させて前記不純物カチオンを除去する工程を含み、前記第1イオン交換体がN-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂を含むことを特徴とする有機溶媒の精製方法。
<2> 前記不純物カチオンが、多価金属カチオンである<1>に記載の有機溶媒の精製方法。
<3> 前記有機溶媒が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからなる群から選択される1種以上の有機溶媒である<1>又は<2>に記載の有機溶媒の精製方法。
<4> <1>から<3>のいずれかに記載の有機溶媒の精製方法であって、前記第1イオン交換体と、カチオン交換樹脂を含む第2イオン交換体とを用い、下記(A)から(C)のいずれかの処理を含む有機溶媒の精製方法。
(A)先に、前記不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を前記第1イオン交換体の単床に接触させ、次いで、前記第2イオン交換体の単床に接触させる処理
(B)先に、前記不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を前記第2イオン交換体の単床に接触させ、次いで、前記第1イオン交換体の単床に接触させる処理
(C)前記不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を前記第1イオン交換体及び前記第2イオン交換体の混床に接触させる処理
<5> 前記第2イオン交換体がスルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、フェノキシド基及び亜ヒ酸基からなる群から選択される1種以上の官能基を有するカチオン交換樹脂を含む<4>に記載の有機溶媒の精製方法。
<6> <1>から<5>のいずれかに記載の有機溶媒の精製方法を用いる工程を含む精製有機溶媒の製造方法。
<7> 前記精製有機溶媒が、半導体基板洗浄用溶媒である<6>に記載の精製有機溶媒の製造方法。
【0009】
<1A> 有機溶媒及び不純物カチオンを含む被処理有機溶媒が通液される第1イオン交換体を具備する精製手段を有し、前記第1イオン交換体がN-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂を含む有機溶媒の精製システム。
<2A> 前記不純物カチオンが、多価金属カチオンである<1A>に記載の有機溶媒の精製システム。
<3A> <1A>又は<2A>のいずれかに記載の有機溶媒の精製システムであって、前記第1イオン交換体と、カチオン交換樹脂を含む第2イオン交換体とを用い、下記(A)から(C)のいずれかの精製手段を含む有機溶媒の精製システム。
(A)前記被処理有機溶媒が通液される前記第1イオン交換体の単床と、該第1イオン交換体の単床の処理液が通液される前記第2イオン交換体の単床を有する精製手段
(B)前記被処理有機溶媒が通液される前記第2イオン交換体の単床と、該第2イオン交換体の単床の処理液が通液される前記第1イオン交換体の単床を有する精製手段
(C)前記被処理有機溶媒が通液される前記第1イオン交換体及び前記第2イオン交換体を含む混床を有する精製手段
<4A> 前記第2イオン交換体がスルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、フェノキシド基及び亜ヒ酸基からなる群から選択される1種以上の官能基を有するカチオン交換樹脂を含む<3A>に記載の有機溶媒の精製システム。
<5A> 前記有機溶媒がメタノール、イソプロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからなる群から選択される1種以上の有機溶媒である<1A>から<4A>のいずれかに記載の有機溶媒の精製システム。
<6A> <1A>から<5A>のいずれかに記載の有機溶媒の精製システムを用いる精製有機溶媒の製造方法。
<7A> 前記精製有機溶媒が、半導体基板洗浄用溶媒である<6A>に記載の精製有機溶媒の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、被処理有機溶媒から不純物カチオンを除去する有機溶媒の精製方法及び精製有機溶媒の製造方法、並びに有機溶媒の精製システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る有機溶媒の精製システムを示す図である(第1イオン交換体の単床)。
【
図2】本発明の他の実施形態に係る有機溶媒の精製システムを示す図である(前段:第1イオン交換体の単床、後段:第2イオン交換体の単床)。
【
図3】本発明の他の実施形態に係る有機溶媒の精製システムを示す図である(前段:第2イオン交換体の単床、後段:第1イオン交換体の単床)。
【
図4】本発明の他の実施形態に係る有機溶媒の精製システムを示す図である(第1イオン交換体及び第2イオン交換体の混床)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、本明細書において、「~」とはその前後の数値又は物理量を含む表現として用いるものとする。また、本明細書において、「A及び/又はB」という表現には、「Aのみ」、「Bのみ」、「A及びBの双方」が含まれる。
【0013】
<1.有機溶媒の精製方法>
本発明の有機溶媒の精製方法は、有機溶媒及び不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を第1イオン交換体に接触させて前記不純物カチオンを除去する工程を含み、前記第1イオン交換体がN-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂を含むことを特徴とする。
なお、以下において、「N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂」を「N-メチルグルカミン型キレート樹脂」と称する場合がある。
【0014】
本発明において、「不純物カチオン」とは、有機溶媒に含まれるカチオン性不純物である。不純物カチオンの詳細については後述する。
また、本発明において、「(有機溶媒及び不純物カチオンを含む)被処理有機溶媒」とは、「不純物カチオンを含む処理対象の有機溶媒」を意味する。また、本発明において、「有機溶媒」とは、溶媒として使用される有機化合物である。
なお、本明細書において、「不純物カチオンを除去する」とは、被処理有機溶媒から不純物カチオンを完全に取り去ることのみを意味するものではなく、被処理有機溶媒から不純物カチオンの一部を取り去ることを含む。
【0015】
本発明の有機溶媒の精製方法の特徴のひとつは、N-メチルグルカミン型キレート樹脂を含む第1イオン交換体に被処理有機溶媒を接触させる工程を有することにある。この工程を経ることによって、被処理有機溶媒から不純物カチオン(特には多価金属カチオン)を効率的に除去することが可能になる。
【0016】
N-メチルグルカミン型キレート樹脂は水溶液中のホウ素を吸着する作用を有することが知られており、対象とする被処理液に含まれるホウ素除去を目的に広く用いられている。例えば、ホウ素含有水からホウ酸性ホウ素(アニオン)を吸着して除去するために、N-メチルグルカミン型キレート樹脂が用いられる。
【0017】
他方、本発明は、N-メチルグルカミン型キレート樹脂が、有機溶媒中において、不純物カチオンを吸着する作用を有していることを見出したことに基づく。N-メチルグルカミン型キレート樹脂が、有機溶媒中において、不純物カチオンを吸着するメカニズムの詳細について、現時点で明らかではないが、N-メチルグルカミン基に対する有機溶媒の影響、特に有機溶媒の物性(例えば、極性、親水性等)が影響しているものと推測される。
本発明の有機溶媒の精製方法では、キレート樹脂のN-メチルグルカミン基が有機溶媒中でカチオンを吸着するため、被処理有機溶媒から不純物カチオンを除去することができるものと推測される。
【0018】
以下、本発明について、より詳細に説明する。
【0019】
[N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂]
N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂(N-メチルグルカミン型キレート樹脂)は、基体ポリマーに下記式(1)に示すN-メチルグルカミン基が結合したキレート樹脂を含むものである。
【0020】
【0021】
基体ポリマーとしては、本発明の目的を損なわない限り任意のポリマーが使用でき、例えば、スチレン系架橋共重合体、(メタ)アクリル系架橋共重合体等が挙げられる。
なお、本発明において「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」と「メタクリル」を合わせて表現するものである。
【0022】
本発明において、「スチレン系架橋共重合体」とは、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとを共重合させて得られる架橋共重合体を意味するものであり、また、「(メタ)アクリル系架橋共重合体」とは、(メタ)アクリルモノマーと架橋性(メタ)アクリルモノマーとを共重合させて得られる架橋共重合体を意味するものである。
【0023】
モノビニル芳香族モノマーとしては、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン等のアルキル置換スチレン類、ブロモスチレン等のハロゲン置換スチレン類が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。モノビニル芳香族モノマーとしては、中でも、スチレンまたはスチレンを主体とするモノマーが好ましい。
【0024】
また、架橋性芳香族モノマーとしては、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、ジビニルキシレン、ジビニルビフェニル、ビス(ビニルフェニル)メタン、ビス(ビニルフェニル)エタン、ビス(ビニルフェニル)プロパン、ビス(ビニルフェニル)ブタン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。架橋性芳香族モノマーとしては、中でも、ジビニルベンゼンが好ましい。なお、工業的に製造されるジビニルベンゼンは、通常、副生物であるエチルビニルベンゼン(エチルスチレン)を多量に含有しているが、本発明においてはこのようなジビニルベンゼンも使用することができる。
【0025】
(メタ)アクリルモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、iso-(メタ)アクリレート、iso-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-クロロプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
架橋性(メタ)アクリルモノマーとしては、ポリメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0027】
N-メチルグルカミン型キレート樹脂は、有機溶媒中において、不純物カチオン、特に多価金属カチオンを吸着除去する能力に優れる。
N-メチルグルカミン型キレート樹脂の中でも、特にスチレン系架橋共重合体にN-メチルグルカミン基が結合した、下記式(2)に示すN-メチルグルカミン型キレート樹脂が好適である。
【0028】
【0029】
N-メチルグルカミン型キレート樹脂の市販品として、具体的には、MUROMAC(登録商標)XMS-5119-FB(室町ケミカル株式会社製)、MUROMAC(登録商標)XMS-515B-FB(室町ケミカル株式会社製)、MUROMAC(登録商標)XMS-519B-FB(室町ケミカル株式会社製)、DIAION(登録商標)CRB03(三菱ケミカル株式会社製)、DIAION(登録商標)CRB05(三菱ケミカル株式会社製)、AMBERLITE(登録商標)IRA743(オルガノ株式会社製)、AMBERTEC UP7530(デュポン社製)等が挙げられる。
【0030】
また、N-メチルグルカミン型キレート樹脂は、ゲル型であってもポーラス型であってもよい。なお、一般的に「ハイポーラス型」と呼ばれる樹脂についても、本発明においては「ポーラス型」に含まれる意味で用いることとする。
【0031】
本発明に用いるN-メチルグルカミン型キレート樹脂は、本発明の目的を損なわない限り、粒径の均一性の高いものであっても、低いものであってもよい。具体的には本発明に用いるN-メチルグルカミン型キレート樹脂の平均粒径は通常、200μm~1000μmである。
【0032】
なお、平均粒径は、既知の方法で測定することができる。例えば、画像処理法(シャーレにキレート樹脂を広げデジタルカメラを接続した顕微鏡でキレート樹脂の画像を撮影した後、画像の外形を画像処理して粒径を求める。)で測定することができる。
【0033】
[被処理有機溶媒]
本発明に係る被処理有機溶媒は、精製処理前の有機溶媒であり、有機溶媒及び不純物カチオンを含む。
本明細書において、精製処理とは、有機溶媒及び不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を第1イオン交換体に接触させて前記不純物カチオンを除去する処理を意味する。
【0034】
本発明において、有機溶媒は、本発明の目的を損なわない限り任意であり、極性有機溶媒及び非極性有機溶媒のいずれであってもよいが、極性有機溶媒が好ましい。
極性有機溶媒は、分子内に極性基(親水基)を有する有機溶媒であり、極性基(親水基)がN-メチルグルカミン基に対して作用することによって、金属カチオンの吸着能を向上させるものと推測される。
【0035】
極性有機溶媒は極性基を有する化合物である限り制限はないが、例えば、極性基を有するアルコール類、エーテル類、ホルムアミド類、ピロリドン類、ケトン類、ラクトン類、エステル類及びスルホキシド類などが挙げられる。
【0036】
N-メチルグルカミン型キレート樹脂による不純物カチオンの除去性能の観点から、極性有機溶媒が、アルコール類、エーテル類、エステル類であることが好ましい。
アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール等、
エーテル類としては、プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、エチレングリコールプロピルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールプロピルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル等、
エステル類としては、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、トリプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールプロピルエーテルアセテート、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート等、
が挙げられる。
【0037】
有機溶媒の中でも、アルコール類のメタノール、エタノール、イソプロパノール及び1-メトキシ-2-プロパノール、エステル類のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを、好適な対象として挙げることができる。これら有機溶媒の好適な対象のうち、少なくとも1種以上を選択して用いることができる。
【0038】
また、極性有機溶媒が、1-メトキシ-2-プロパノール及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートであると、実施例に示すように、多価金属カチオンのみならず、1価の金属カチオン(アルカリ金属イオン)について除去が可能である。
【0039】
[不純物カチオン]
本発明において、不純物カチオンは、カチオン性の不純物であり、N-メチルグルカミン型キレート樹脂によって吸着除去されるものであれば特に限定されず、金属カチオン、有機金属カチオン、非金属カチオンのいずれも除去対象になる。
【0040】
本発明において、不純物カチオンの典型例は金属カチオンである。
金属カチオンとして、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム等がイオン化した1価の金属カチオン、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、錫、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、鉛、カドミウム、マンガン、クロム、バナジウム、モリブデン、クロム、ジルコニウム、銀、水銀、アンチモン、チタン、ビスマス、ガリウム、タリウム等がイオン化した多価金属カチオンが挙げられる。被処理有機溶媒にはこれらの金属カチオンが1種又は2種以上含まれていてもよい。
N-メチルグルカミン型キレート樹脂による除去性能の観点から、多価金属カチオン(2価以上の金属カチオン)が本発明の好適な対象である。
【0041】
有機溶媒中において、N-メチルグルカミン型キレート樹脂は、不純物カチオンの中でも多価金属カチオンを除去する能力に優れる。多価金属カチオンの中でも、アルミニウム、カルシウム、クロム、チタン、マンガン、鉄、ニッケル、コバルト、銅、亜鉛、カドミウム、鉛等の重金属カチオンが本発明の好適な対象となる。
【0042】
被処理有機溶媒中の各金属カチオン(不純物カチオン)の含有量は、特に制限されないが、典型的には、100質量ppt~300質量ppbである。
【0043】
なお、本発明において、有機溶媒に含まれる各金属カチオン(不純物カチオン)の含有量は誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)により測定することができる。
【0044】
[有機溶媒の精製方法(1)及び(2)]
上述の通り、N-メチルグルカミン型キレート樹脂は、有機溶媒中の多価金属カチオンの除去性能に優れるが、多価金属カチオンと比較して1価の金属カチオン(アルカリ金属イオン)の除去性能が劣る場合がある。
より効果的に1価の金属カチオン(アルカリ金属イオン)を除去するために、本発明の有機溶媒の精製方法は、前記第1イオン交換体に加えて、カチオン交換樹脂を含む第2イオン交換体を用いてもよい。
【0045】
以下、本発明の有機溶媒の精製方法において、第1イオン交換体のみを使用する方法を「本発明の有機溶媒の精製方法(1)」、第1イオン交換体及び第2イオン交換体を使用する方法(上記(A)~(C))を「本発明の有機溶媒の精製方法(2)」と称することとする。
【0046】
本発明の有機溶媒の精製方法(1)は、N-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂を含む第1イオン交換体を用い、被処理有機溶媒から不純物カチオンを除去する。本発明の有機溶媒の精製方法(1)は、第1イオン交換体のみを用いるため、工程を簡素にすることができる。
【0047】
本発明の有機溶媒の精製方法(1)における処理条件は、目的とする不純物カチオンが除去できる条件であればよく、第1イオン交換体の種類及び使用量、有機溶媒の種類及び処理量、不純物カチオンの種類及び含有量(濃度)等により、適宜決定することができる。被処理有機溶媒の流量SVは、例えば、0.1~50h-1、好ましくは1~10h-1とすることができる。被処理有機溶媒の温度は、例えば、0~50℃とすることができる。
【0048】
本発明の有機溶媒の精製方法(2)は、前記第1イオン交換体と、カチオン交換樹脂を含む第2イオン交換体とを用い、下記(A)から(C)のいずれかの処理を含む。
(A)先に、前記不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を前記第1イオン交換体の単床に接触させ、次いで、前記第2イオン交換体の単床に接触させる処理
(B)先に、前記不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を前記第2イオン交換体の単床に接触させ、次いで、前記第1イオン交換体の単床に接触させる処理
(C)前記不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を前記第1イオン交換体及び前記第2イオン交換体の混床に接触させる処理
【0049】
本発明の有機溶媒の精製方法(2)は、前記第1イオン交換体と共に、カチオン交換樹脂を含む第2イオン交換体をさらに用いることにより、N-メチルグルカミン型キレート樹脂を含む第1イオン交換体だけでは十分除去できない被処理有機溶媒中の不純物カチオン、特に1価の金属カチオン(アルカリ金属イオン)を効果的に除去することができる。
【0050】
本発明の有機溶媒の精製方法(2)において、カチオン交換樹脂を含む第2イオン交換体は、本発明の目的を損なわない限り任意であり、処理対象となる有機溶媒に応じて適宜選択すればよい。
【0051】
第2イオン交換体に含まれるカチオン交換樹脂の構造は、ゲル型であっても、ポーラス型(MP型(マクロポーラス型)、またはMR型(マクロレティキュラー型))であってもよく、スチレン系やアクリル系等のカチオン交換樹脂を用いるのが好ましい。
【0052】
第2イオン交換体に含まれるカチオン交換樹脂には、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、フェノキシド基及び亜ヒ酸基等の官能基が含まれ、官能基の種類によって強酸性陽イオン交換樹脂、弱酸性陽イオン交換樹脂に区別される。
第2イオン交換体に含まれるカチオン交換樹脂は、強酸性陽イオン交換樹脂、弱酸性陽イオン交換樹脂のいずれでもよいが、より1価の金属カチオン(アルカリ金属イオン)の除去性能に優れる強酸性陽イオン交換樹脂が好ましく使用される。
【0053】
強酸性陽イオン交換樹脂としては、市販品を使用してもよく、例えば、MUROMAC(登録商標)XSCシリーズ(室町ケミカル株式会社製)、MUROMAC(登録商標)XMCシリーズ(室町ケミカル株式会社製)、AMBERLITE(登録商標)HPRシリーズ(デュポン社製)、ダイヤイオン(登録商標)SKシリーズ、PKシリーズ、UBKシリーズ(三菱ケミカル株式会社製)、オルライト(登録商標)DSシリーズ(オルガノ株式会社製)、レバチット(登録商標)モノプラスシリーズ(ランクセス株式会社製)などが挙げられる。
【0054】
本発明の有機溶媒の精製方法(2)の態様(A)は、先に、前記不純物カチオンを含む有機溶媒を前記第1イオン交換体の単床に接触させ、次いで、前記第2イオン交換体の単床に接触させる処理を含む。
【0055】
本発明の有機溶媒の精製方法(2)の態様(B)は、先に、前記不純物カチオンを含む有機溶媒を前記第2イオン交換体の単床に接触させ、次いで、前記第1イオン交換体の単床に接触させる処理を含む。
【0056】
また、本発明の有機溶媒の精製方法(2)の態様(C)は、前記不純物カチオンを含む有機溶媒を前記第1イオン交換体及び前記第2イオン交換体の混床に接触させる処理を含む。
【0057】
本発明の有機溶媒の精製方法(2)の態様(A)~(C)は、後述する本発明の有機溶媒の精製システムにて説明する。
【0058】
本発明の有機溶媒の精製方法(2)における処理条件は、目的とする不純物カチオンが除去できる条件であればよく、第1イオン交換体及び第2イオン交換体の種類及び使用量、有機溶媒の種類及び処理量、不純物カチオンの種類及び含有量(濃度)等により、適宜決定することができる。被処理有機溶媒の流量SVは、例えば、0.1~50h-1、好ましくは1~10h-1とすることができる。被処理有機溶媒の温度は、例えば、0~50℃とすることができる。
【0059】
[精製有機溶媒の製造方法]
本発明の精製有機溶媒の製造方法は、被処理有機溶媒から不純物カチオンを除去するために、本発明の有機溶媒の精製方法を用いる。すなわち、本発明の精製有機溶媒の製造方法は、本発明の有機溶媒の精製方法を用いる工程を含む。以下、本発明の有機溶媒の精製方法を用いる工程を、「本発明の精製工程」と称する場合がある。
【0060】
本発明の精製有機溶媒の製造方法は、目的とする精製有機溶媒を製造できる限り、本発明の精製工程のみでもよく、本発明の精製工程に加えて、本発明の精製工程以外の任意の処理工程を含んでもよい。
本発明に係る精製有機溶媒は、少なくとも本発明の精製工程を経て不純物カチオンが除去された有機溶媒である。
本発明に係る精製有機溶媒は、用途や目的に応じて、本発明の精製工程以外の任意の処理工程を経た有機溶媒であってもよい。
本発明の精製工程以外の処理工程として、例えば、濾過工程、沈澱工程、添加工程、中和工程、脱水工程などが挙げられる。
【0061】
本発明の精製有機溶媒の製造方法によって精製有機溶媒は製造されるが、本発明に係る精製有機溶媒には、本発明の目的を損なわない限り、目的とする有機溶媒に任意の成分(界面活性剤等の添加成分等)が含まれていてもよい。
【0062】
本発明において、目的とする精製有機溶媒の好適例のひとつは、半導体基板洗浄用溶媒である。本発明に係る精製有機溶媒は本発明の精製工程を経て不純物カチオンが除去されているため、精製有機溶媒を半導体基板洗浄用溶媒として用いられた場合でも、不純物カチオンが半導体基板等に悪影響を及ぼすことはなく、支障なく半導体基板を洗浄することができる。
【0063】
<2.有機溶媒の精製システム>
本発明の有機溶媒の精製方法を実行する有機溶媒の精製システムは、本発明の目的を損なわなければ任意の精製システムを使用することができ、有機溶媒の種類及び処理量、不純物カチオンの種類及び含有量(濃度)等により、適宜決定することができる。
例えば、以下に説明する本発明の有機溶媒の精製システムにより好適に実行できる。
【0064】
本発明の有機溶媒の精製システムは、有機溶媒及び不純物カチオンを含む被処理有機溶媒が通液される第1イオン交換体を具備する精製手段を有し、前記第1イオン交換体がN-メチルグルカミン型キレート樹脂を含む有機溶媒の精製システムである。
【0065】
本発明の有機溶媒の精製システムは、本発明の有機溶媒の精製方法を実行するためのシステムである。なお、以下の本発明の有機溶媒の精製システムの説明において、上述した本発明の有機溶媒の精製方法と重複する説明(第1イオン交換体、第2イオン交換体、被処理有機溶媒等)については省略する場合がある。
【0066】
本発明の有機溶媒の精製システムは、有機溶媒及び不純物カチオンを含む被処理有機溶媒が通液される第1イオン交換体を具備する精製手段を有し、前記第1イオン交換体がN-メチルグルカミン型キレート樹脂を含むシステムである。本発明の有機溶媒の精製システムは、有機溶媒及び不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を第1イオン交換体に通液し、不純物カチオンを除去できる限り、任意の構成をとることができる。
すなわち、本発明の有機溶媒の精製システムは、本発明の有機溶媒の精製方法(1)を行うために精製手段として第1イオン交換体のみを使用してもよいし、本発明の有機溶媒の精製方法(2)を行うために、第1イオン交換体及び第2イオン交換体を使用してもよい。
【0067】
上述した本発明の有機溶媒の精製方法(1)を実施する場合、本発明の精製有機溶媒の精製システムは、第1イオン交換体の単床を有する精製手段を使用することができる。
【0068】
また、上述した本発明の精製有機溶媒の精製方法(2)を実施する場合、本発明の有機溶媒の精製システムは、下記(A)から(C)のいずれかの精製手段を含む。
(A)前記被処理有機溶媒が通液される前記第1イオン交換体の単床と、該第1イオン交換体の単床の処理液が通液される前記第2イオン交換体の単床を有する精製手段
(B)前記被処理有機溶媒が通液される前記第2イオン交換体の単床と、該第2イオン交換体の単床の処理液が通液される前記第1イオン交換体の単床を有する精製手段
(C)前記被処理有機溶媒が通液される前記第1イオン交換体及び前記第2イオン交換体を含む混床を有する精製手段
【0069】
以下、図面を参照しながら、カチオン交換樹脂を含む第2イオン交換体をさらに用いる本発明の実施形態に係る有機溶媒の精製システムについて説明する。
なお、実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。また、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0070】
[第1の実施形態]
図1に本発明の第1の実施形態に係る有機溶媒の精製システム1を示す。
有機溶媒の精製システム1は、第1イオン交換体の単床である充填塔10と、充填塔10に被処理有機溶媒を供給する供給手段(図示せず)と、充填塔10で精製処理された精製有機溶媒を回収する回収手段(図示せず)とを含む。
【0071】
第1の実施形態は、本発明の有機溶媒の精製方法(1)を行うために精製手段として第1イオン交換体の単床を使用した例である。
【0072】
第1の実施形態において、第1イオン交換体、被処理有機溶媒、精製有機溶媒については、上述した<1.本発明の有機溶媒の精製方法>に記載の通りであるため、説明を省略する。
【0073】
充填塔10は、第1イオン交換体を使用することを除いて、液体の精製技術で使用される従来公知の充填塔が使用される。充填塔10は第1イオン交換体の単床が充填された塔である。被処理有機溶媒を充填塔10に通液することで、被処理有機溶媒を第1イオン交換体に接触させることができる。
また、供給手段及び回収手段については、液体の精製技術で使用される従来公知の装置が使用される。例えば、供給手段としては、被処理有機溶媒を貯留する貯留タンク、被処理有機溶媒を送液するポンプ、被処理有機溶媒が流通する送液管等を備えるものを使用することができる。回収手段としては、精製有機溶媒が流通する送液管、精製有機溶媒を貯留する貯留タンク等を備えるものを使用することができる。
【0074】
第1の実施形態に係る有機溶媒の精製システム1は、被処理有機溶媒に1価の不純物カチオン(アルカリ金属イオン)が含まれない、若しくは、含まれていても極めて低濃度である場合、または、精製有機溶媒に含まれる1価の不純物カチオン(アルカリ金属イオン)を極めて低濃度まで除去する必要がない場合に適している。
【0075】
[第2の実施形態]
図2に本発明の第2の実施形態に係る有機溶媒の精製システム1Aを示す。
有機溶媒の精製システム1Aは、第1イオン交換体の単床である充填塔10と、充填塔10と配管を介して直列に接続された第2イオン交換体の単床である充填塔20と、充填塔10に被処理有機溶媒を供給する供給手段(図示せず)と、充填塔10及び充填塔20を経て精製処理された有機溶媒を回収する回収手段(図示せず)とを含む。
【0076】
第2の実施形態は、本発明の有機溶媒の精製方法(2)の態様(A)を行うために、精製手段として、被処理有機溶媒が通液される第1イオン交換体の単床と、第1イオン交換体の単床の処理液が通液される前記第2イオン交換体の単床を有する精製手段を使用した例である。
【0077】
第2の実施形態において、第1イオン交換体、第2イオン交換体、被処理有機溶媒、精製有機溶媒については、上述した<1.本発明の有機溶媒の精製方法>に記載の通りであるため、説明を省略する。
【0078】
充填塔10、充填塔20は、それぞれ第1イオン交換体、第2イオン交換体を使用することを除いて、液体の精製技術で使用される従来公知の充填塔が使用される。充填塔10は第1イオン交換体の単床が充填された塔であり、充填塔20は第2イオン交換体の単床が充填された塔である。被処理有機溶媒を充填塔10及び充填塔20に通液することで、被処理有機溶媒を第1イオン交換体及び第2イオン交換体に接触させることができる。
また、供給手段及び回収手段については、上述の(第1の実施形態)に記載の通りであるため、説明を省略する。
【0079】
第2の実施形態に係る有機溶媒の精製システム1Aは、被処理有機溶媒に高濃度の1価の不純物カチオン(アルカリ金属イオン)が含まれる場合、または、精製有機溶媒に含まれる1価の不純物カチオン(アルカリ金属イオン)を極めて低濃度まで除去する必要がある場合に適している。
【0080】
図2に示すように、有機溶媒の精製システム1Aにおいて、先に、不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を充填塔10(第1イオン交換体)に接触させ、次いで、充填塔20(第2イオン交換体)に接触させる処理を行う。
【0081】
このような構成によると、先に、N-メチルグルカミン型キレート樹脂を含む第1イオン交換体の単床(充填塔10)に被処理有機溶媒が通液され、第1イオン交換体で不純物カチオンが除去されることにより、後段にあるカチオン交換樹脂を含む第2イオン交換体の単床(充填塔20)へのイオン負荷を軽減することができる。
【0082】
特に、多価の不純物カチオンの除去に適したキレート樹脂を含む第1イオン交換体で、先に被処理有機溶媒中の不純物カチオンを除去した後に、カチオン交換樹脂を含む第2イオン交換体を用いることにより、カチオン交換樹脂の不純物カチオンの除去効率を高めることができる。
加えて、N-メチルグルカミン型キレート樹脂を含む第1イオン交換体が比較的除去しづらい1価の不純物カチオン(アルカリ金属イオン)を、カチオン交換樹脂を含む第2イオン交換体が確実に除去することができる。
【0083】
[第3の実施形態]
図3に本発明の第3の実施形態に係る有機溶媒の精製システム1Bを示す。
有機溶媒の精製システム1Bは、第2イオン交換体の単床である充填塔20と、充填塔10と配管を介して直列に接続された第1イオン交換体の単床である充填塔10と、充填塔20に被処理有機溶媒を供給する供給手段(図示せず)と、充填塔20及び充填塔10を経て精製処理された精製有機溶媒を回収する回収手段(図示せず)とを含む。
【0084】
第3の実施形態は、本発明の有機溶媒の精製方法(2)の態様(B)を行うために、精製手段として、被処理有機溶媒が通液される第2イオン交換体の単床と、第2イオン交換体の単床の処理液が通液される第1イオン交換体の単床を有する精製手段を使用した例である。
【0085】
第3の実施形態において、第1イオン交換体、第2イオン交換体、被処理有機溶媒、精製有機溶媒については、上述した<1.本発明の有機溶媒の精製方法>に記載の通りであるため、説明を省略する。
【0086】
充填塔10、充填塔20は、上述の(第2の実施形態)に記載の通りであるため、説明を省略する。
また、供給手段及び回収手段については、上述の(第1の実施形態)に記載の通りであるため、説明を省略する。
【0087】
第3の実施形態に係る有機溶媒の精製システム1Bは、被処理有機溶媒に高濃度の1価の不純物カチオン(アルカリ金属イオン)が含まれる場合、または、精製有機溶媒に含まれる1価の不純物カチオン(アルカリ金属イオン)を極めて低濃度まで除去する必要がある場合に適している。
【0088】
図3に示すように、有機溶媒の精製システム1Bにおいて、先に、不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を充填塔20(第2イオン交換体)に接触させ、次いで、充填塔10(第1イオン交換体)に接触させる処理を行う。
【0089】
このような構成によると、先に、カチオン交換樹脂を含む第2イオン交換体の単床(充填塔20)に被処理有機溶媒が通液され、不純物カチオンが除去されることにより、後段にあるN-メチルグルカミン型キレート樹脂を含む第1イオン交換体の単床(充填塔10)へのイオン負荷を軽減することができる。
【0090】
特に、被処理有機溶媒が不純物カチオンとして1価及び多価の不純物カチオンを含み、1価の不純物カチオンの除去に適したカチオン交換樹脂を含む第2イオン交換体であらかじめ不純物カチオンを除去した後に、キレート樹脂を含む第1イオン交換体を用いることで、キレート樹脂の不純物カチオンの除去効率を高めることができる。
加えて、N-メチルグルカミン型キレート樹脂を含む第1イオン交換体が比較的除去しづらい1価の不純物カチオン(アルカリ金属イオン)を、カチオン交換樹脂を含む第2イオン交換体が確実に除去することができる。
【0091】
[第4の実施形態]
図4に本発明の第4の実施形態に係る有機溶媒の精製システム1Cを示す。
有機溶媒の精製システム1Cは、第1イオン交換体及び第2イオン交換体の混床である充填塔30と、充填塔30に被処理有機溶媒を供給する供給手段(図示せず)と、充填塔30を経て精製処理された有機溶媒を回収する回収手段(図示せず)とを含む。
第3の実施形態において、第1イオン交換体、第2イオン交換体、被処理有機溶媒、精製有機溶媒については、上述した<1.本発明の有機溶媒の精製方法>に記載の通りであるため、説明を省略する。
【0092】
充填塔30は、第1イオン交換体及び第2イオン交換体を使用することを除いて、液体の精製技術で使用される従来公知の充填塔が使用される。充填塔30は第1イオン交換体及び第2イオン交換体の混床が充填された塔である。被処理有機溶媒を充填塔30に通液することで、被処理有機溶媒を第1イオン交換体及び第2イオン交換体に接触させることができる。
また、供給手段及び回収手段については、上述の(第1の実施形態)に記載の通りであるため、説明を省略する。
【0093】
第4の実施形態に係る有機溶媒の精製システム1Cは、被処理有機溶媒に高濃度の1価の不純物カチオン(アルカリ金属イオン)が含まれる場合、または、精製有機溶媒に含まれる1価の不純物カチオン(アルカリ金属イオン)を極めて低濃度まで除去する必要がある場合に適している。
【0094】
図4に示すように、有機溶媒の精製システム1Cにおいて、不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を第1イオン交換体及び前記第2イオン交換体の混床である充填塔30に接触させる処理を行う。
【0095】
このような構成によると、不純物カチオンとして1価及び多価の不純物カチオンを含む被処理有機溶媒が、第1イオン交換体及び前記第2イオン交換体の混床である充填塔30に通液され、多価の不純物カチオンの除去に適したキレート樹脂(第2イオン交換体)が多価の不純物カチオンを、カチオン交換樹脂(第1イオン交換体)が1価の不純物カチオンを効率的に除去することができる。
加えて、本実施形態の有機溶媒の精製システム1Cは、複数の充填塔を用いずとも、第1イオン交換体及び前記第2イオン交換体の混床が充填された充填塔30のみで被処理有機溶媒中の不純物カチオンを除去することができるため、設備をよりコンパクトで簡素な構成とすることが可能となる。
【0096】
なお、本発明に係る第1イオン交換体及び前記第2イオン交換体を含む混床の混合割合は、本発明の目的を損なわない限り任意であり、例えば、第1イオン交換体と第2イオン交換体の比率(体積)は、1:0.1~10である。
【0097】
また、本発明の有機溶媒の精製システムの第1から第4の実施形態における処理条件は、目的とする不純物カチオンが除去できる条件であればよく、第1イオン交換体及び第2イオン交換体の種類及び使用量、有機溶媒の種類及び処理量、不純物カチオンの種類及び含有量(濃度)等により、適宜決定することができる。被処理有機溶媒の流量SVは、例えば、0.1~50h-1、好ましくは1~10h-1とすることができる。被処理有機溶媒の温度は、例えば、0~50℃とすることができる。第1イオン交換体及び第2イオン交換体の樹脂層高(充填層長さ)は、例えば、10~300cm、好ましくは20~200cmとすることができる。
【0098】
以上、図面等を用いて本発明の有機溶媒の精製システムを説明してきたが、本発明は上記形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。また、上記形態において、明示的に開示されていない事項は、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用することができる。
【0099】
例えば、本発明の有機溶媒の精製システムにおいて、第1イオン交換体の単床、第2イオン交換体の単床、並びに、第1イオン交換体及び前記第2イオン交換体を含む混床の構成は、本発明の目的を損なわない限り任意である。
【0100】
第1イオン交換体の単床のみを用いる場合、第1イオン交換体の単床のみを1または2以上用いてもよい。第1イオン交換体の単床のみを2以上組み合わせるときは、直列及び/又は並列に、任意の単床数で構成してもよい。
【0101】
第1イオン交換体の単床及び第2イオン交換体の単床を組み合わせて用いる場合、それぞれの単床を1または2以上用いてもよい。第1イオン交換体の単床及び第2イオン交換体の単床を組み合わせて用いるときは、直列及び/又は並列に、任意の単床数で構成してもよい。
【0102】
第1イオン交換体及び前記第2イオン交換体を含む混床のみを用いる場合、第1イオン交換体及び前記第2イオン交換体を含む混床のみを1または2以上用いてもよい。第1イオン交換体及び前記第2イオン交換体を含む混床のみを2以上組み合わせるときは、直列及び/又は並列に、任意の混床数で構成してもよい。
第1イオン交換体の単床、第2イオン交換体の単床、並びに、第1イオン交換体及び前記第2イオン交換体を含む混床を組み合わせて用いる場合、直列及び/又は並列に、任意の単床及び/又は混床数で構成してもよい。
【実施例】
【0103】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0104】
<1.被処理有機溶媒とイオン交換体>
有機溶媒に、模擬不純物カチオン(以下、金属カチオン)を添加した被処理有機溶媒A~Cを調製した。
(被処理有機溶媒A)
有機溶媒:1-メトキシ-2-プロパノール
(被処理有機溶媒B)
有機溶媒:メタノール
(被処理有機溶媒C)
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
【0105】
使用したカラム、キレート樹脂、カチオン交換樹脂は以下の通りである。
・カラム:テフロン(登録商標)製、内径16mmφ、長さ50cm
・キレート樹脂:N-メチルグルカミン型キレート樹脂(Muromac XMS-5119-FB、室町ケミカル株式会社製)
・カチオン交換樹脂:強酸性陽イオン交換樹脂(Muromac XSC-1191-H、室町ケミカル株式会社製)
【0106】
<2.評価及び結果>
[2-1.実験例1]
キレート樹脂50mLをカラムに充填し、被処理有機溶媒Aを流量SV5h-1(1時間当たりに樹脂の5倍量)で通液した。被処理有機溶媒Aを10BV流したところで被処理有機溶媒のサンプリングを行い、カラム通液後の精製有機溶媒中の金属カチオンの含有量をICP-MS(Agilent Technologies社製、Agilent8900 ICP-QQQ)により測定した。その結果を表1に示す。
【0107】
【0108】
表1に示す通り、添加した金属カチオンのうち、アルカリ金属イオン(Li,Na,K)及びPbを除いた全ての金属カチオンを除去することができた。精製有機溶媒で検出されたアルカリ金属イオン(Li,Na,K)及びPbは、被処理有機溶媒に含まれる濃度の半分以下まで低下した。
【0109】
[2-2.実験例2]
カチオン交換樹脂50mLを充填したカラムを、キレート樹脂50mLを充填したカラムの後段に直列に接続した以外は実験例1と同様に実施した。その結果を表2に示す。
【0110】
【0111】
表2に示す通り、添加した全ての金属カチオンを除去することができた。
【0112】
[2-3.実験例3]
カチオン交換樹脂50mLを充填したカラムを、キレート樹脂50mLを充填したカラムの前段に直列に接続した以外は実験例1と同様に実施した。その結果を表3に示す。
【0113】
【0114】
表3に示す通り、添加した全ての金属カチオンを除去することができた。
【0115】
[2-4.実験例4]
キレート樹脂50mLを充填したカラムの代わりに、カチオン交換樹脂50mLを充填したカラムを用いた以外は実験例1と同様に実施した。その結果を表4に示す。
【0116】
【0117】
表4に示す通り、添加した金属カチオンのうち、アルカリ金属イオン(Li,Na,K)等を除去することができたが、CrやFe等の一部金属カチオンに関しては、キレート樹脂充填カラムに通液した実験例1~3よりも多く残存していた。
【0118】
[2-5.実験例5]
被処理有機溶媒Aの代わりに被処理有機溶媒Bを用いた以外は実験例1と同様に実施した。その結果を表5に示す。
【0119】
【0120】
表5に示す通り、添加した金属カチオンのうち、アルカリ金属イオン(Li,Na,K)、アルカリ土類金属(Mg,Ca)及びPbを除いた全ての金属カチオンを除去することができた。精製有機溶媒で検出されたアルカリ土類金属(Mg,Ca)及びPbは、被処理有機溶媒に含まれる濃度の半分以下まで除去することができた。アルカリ金属イオン(Li,Na,K)は、被処理有機溶媒の濃度と精製有機溶媒の濃度がほぼ同等であった。
【0121】
[2-6.実験例6]
被処理有機溶媒Aの代わりに被処理有機溶媒Cを用いた以外は実験例1と同様に実施した。その結果を表6に示す。
【0122】
【0123】
表6に示す通り、添加した全ての金属カチオンを除去することができた。
【符号の説明】
【0124】
1,1A,1B,1C 有機溶媒の精製システム
10 充填塔(第1イオン交換体の単床)
20 充填塔(第2イオン交換体の単床)
30 充填塔(第1イオン交換体及び第2イオン交換体の混床)
【要約】
【課題】被処理有機溶媒から不純物カチオンを除去する有機溶媒の精製方法及び精製有機溶媒の製造方法、並びに有機溶媒の精製システムを提供する。
【解決手段】有機溶媒及び不純物カチオンを含む被処理有機溶媒を第1イオン交換体に接触させて前記不純物カチオンを除去する工程を含み、前記第1イオン交換体がN-メチルグルカミン基を有するキレート樹脂を含むことを特徴とする有機溶媒の精製方法。
【選択図】
図1