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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】レンチ、および、電動回転駆動機
(51)【国際特許分類】
   B25B 23/12 20060101AFI20240605BHJP
【FI】
B25B23/12
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024016603
(22)【出願日】2024-02-06
【審査請求日】2024-02-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306015397
【氏名又は名称】S.P.エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】泉 富栄
(72)【発明者】
【氏名】泉 栄人
(72)【発明者】
【氏名】山川 康彦
(72)【発明者】
【氏名】申 偉東
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-142617(JP,A)
【文献】特開2023-132958(JP,A)
【文献】特開2018-149623(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0184853(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 23/08 - 23/12
B23P 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動回転駆動機に装着されるレンチであって、
樹脂製または非磁性金属製であり、略円筒状のシリンダーと、
前記シリンダーの外周面を軸方向および周方向に摺動可能であり、永久磁石を内蔵した略円筒状のカラーと、を備え、
前記シリンダーは、先端側に中空の締結部材保持部を有するとともに、前記締結部材保持部より奥側に前記締結部材保持部と連通する軸方向に長い円柱状空間部を有し、
前記永久磁石と前記締結部材保持部が対向する位置に前記カラーを配置した場合、前記締結部材保持部内の締結部材が前記永久磁石により磁力保持されることを特徴とするレンチ。
【請求項2】
請求項1に記載のレンチにおいて、
前記永久磁石と前記締結部材保持部が対向しない位置に前記カラーを配置した場合、前記磁力保持が解除されることを特徴とするレンチ。
【請求項3】
請求項1に記載のレンチにおいて、
前記締結部材はボルトまたはナットであり、
前記締結部材保持部は、略六角柱状の空間であることを特徴とするレンチ。
【請求項4】
請求項3に記載のレンチにおいて、
前記締結部材は一対の把持部を有する蝶ボルトまたは蝶ナットであり、
前記締結部材保持部の側面には前記一対の把持部と嵌合する溝を有することを特徴とするレンチ。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のレンチにおいて、
前記永久磁石と前記締結部材保持部が対向する位置に向けて前記カラーを付勢するバネを有することを特徴とするレンチ。
【請求項6】
請求項5に記載のレンチにおいて、
前記バネの外周を覆う円筒状のバネカバーを有することを特徴とするレンチ。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載のレンチと
カラー操作具と、を装着した電動回転駆動機であって、
前記カラー操作具は、
前記カラーの外周に装着するカラー接続部と、
前記電動回転駆動機の本体に装着する本体接続部と、
前記電動回転駆動機のハンドルに装着するトリガーと、
前記カラー接続部と前記トリガーを接続するコントロールワイヤーと、を備え、
前記トリガーを引いたときに、前記コントロールワイヤーと前記カラー接続部を介して前記カラーをスライドさせる力が伝達され、前記締結部材保持部内の締結部材の磁力保持が解除されることを特徴とする電動回転駆動機
【請求項8】
請求項に記載の電動回転駆動機において、
前記コントロールワイヤーの前端部に、前記カラー接続部を前方に付勢するバネを有することを特徴とする電動回転駆動機
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動回転駆動機に装着可能であり、磁力保持した状態で締結部材を締緩することができるレンチ、および、電動回転駆動機に関する。
【背景技術】
【0002】
磁力保持した状態で締結部材を締緩するレンチとして、特許文献1の治具(以下、単に「治具」と称する)や、特許文献2のソケット(以下、単に「ソケット」と称する)が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1の図3から図6等には、電動回転駆動機(インパクトレンチ)に装着可能であり、保持部内の締結部材(ナットやボルト等)を磁力保持する状態と磁力保持しない状態を、円柱状のマグネット部材の位置を操作することで切り替え可能な治具が図示されている。
【0004】
また、特許文献2の図7Aから図7C等には、ラチェットハンドルに装着可能であり、嵌合孔内のナットやボルト頭部を磁力保持する状態と磁力保持しない状態を、円環状の永久磁石の位置を操作することで切り替え可能なソケットが図示されている。
【0005】
このように、特許文献1の治具を使用すれば、円柱状のマグネット部材と締結部材を接触させることで締結部材を磁力保持することができ、特許文献2のソケットを使用すれば、円環状の永久磁石とナットやボルト頭部を接触させることでナットやボルト頭部を磁力保持することができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-167791号公報
【文献】特開2023-17284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1や特許文献2の技術を使用して締結部材を締緩する場合には次のような問題があった。
【0008】
まず、図1に示すように、磁性金属性のボルト3とナット4を用いて2枚の板5が締結されており、ナット4の端面からボルト3の先端が突出している状況下で、ナット4を緩める場合を考える。なお、以下では、ナット4から突出したボルト3の先端部位を突出部31と称する。
【0009】
特許文献1のマグネット部材は治具と同期して回転するものであり、特許文献2の永久磁石もソケットと同期して回転するものである。そのため、治具やソケットを用いて図1のナット4を緩める場合には、治具内のマグネット部材やソケット内の永久磁石はナット4の回転と同期して回転することになる。ここで、図1のナット4が緩むことと、ボルト3とナット4が同期回転しないことは等価であるため、ナット4が緩んだのであれば、ナット4と同期回転するマグネット部材や永久磁石と、ナット4と同期回転しない突出部31の間で回転速度差が発生したことになる。従って、両者の接触部では、相対的に硬い突出部31によって相対的に軟らかいマグネット部材や永久磁石が削られることになる。その結果、治具やソケットの使用期間が長くなると、マグネット部材や永久磁石が徐々に削られて変形し、治具やソケットの本来の機能が徐々に損なわれる可能性があった。
【0010】
また、特許文献1の治具では、マグネット部材を移動させるための操作片が側面に突出しており(同文献の図3から図6等を参照)、特許文献2のソケットでも、永久磁石を移動させるための解除部材が側面に突出しているため(同文献の図2A図2B等を参照)、磁力保持機能の有効無効を切り替えたい場合には、操作片や解除部材の位置を視認してからそれらの部位を操作する必要があり、磁力保持機能の切り替え操作が煩雑であった。
【0011】
さらに、特許文献1の操作片は治具と同期して回転するものであり、特許文献2の解除部材もソケットと同期して回転するものであるため、電動回転駆動機の駆動中に操作片や解除部材に作業者の手などが触れると、作業者が怪我をする惧れがあった。
【0012】
そこで、本発明は、締結部材を磁力保持する永久磁石の経年劣化がなく、かつ、操作性および安全性を高めたレンチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、本発明のレンチは、電動回転駆動機に装着されるものであって、樹脂製または非磁性金属製であり、略円筒状のシリンダーと、前記シリンダーの外周面を軸方向および周方向に摺動可能であり、永久磁石を内蔵した略円筒状のカラーと、を備え、前記シリンダーは、先端側に中空の締結部材保持部を有するとともに、前記締結部材保持部より奥側に前記締結部材保持部と連通する軸方向に長い円柱状空間部を有し、前記永久磁石と前記締結部材保持部が対向する位置に前記カラーを配置した場合、前記締結部材保持部内の締結部材が前記永久磁石により磁力保持されるレンチとした。
【発明の効果】
【0014】
本発明のレンチによれば、締結部材を磁力保持する永久磁石の経年劣化がなく、かつ、操作性および安全性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ボルトとナットを用いて2枚の板を締結した状況を示す図。
図2】実施例1のソケットレンチを装着した電動回転駆動機を示す図。
図3】実施例1のソケットレンチの斜視図。
図4】実施例1のソケットレンチの側面図と断面図。
図5】実施例2のソケットレンチの側面図と断面図。
図6】蝶ボルトと蝶ナットを用いて2枚の板を締結した状況を示す図。
図7】実施例3のソケットレンチの斜視図。
図8】実施例3のソケットレンチの断面図。
図9】ネジを用いて2枚の板を締結した状況を示す図。
図10】実施例4のドライバーレンチの断面図。
図11】実施例5のカラー操作具を装着した電動回転駆動機を示す図。
図12】実施例6のカラー操作具を装着した電動回転駆動機を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用いて、本発明のレンチの実施例であるソケットレンチまたはドライバーレンチを説明する。
【実施例1】
【0017】
まず、図2から図4を用いて、本発明の実施例1に係るソケットレンチ1を説明する。
【0018】
図2は、本実施例のソケットレンチ1を装着した電動回転駆動機2を示す図である。ここに例示する電動回転駆動機2は、磁性金属性の締結部材(ボルト3やナット4など)を締緩する際に利用するインパクトレンチ等の電動工具であり、ソケットレンチ1を装着するためのソケット装着部21と、回転駆動をオンオフしたり回転方向を切り替えたりするための操作部22と、締結部材の締緩中に作業者が把持するためのハンドル23などを備えている。
【0019】
図3は、本実施例のソケットレンチ1を根本側から見た斜視図と先端側から見た斜視図である。また、図4は、本実施例のソケットレンチ1の側面図と断面図である。各図に示すように、本実施例のソケットレンチ1は、アダプタ11と、シリンダー12と、カラー13を備えている。以下、各構成を順次説明する。
【0020】
<アダプタ11>
アダプタ11は、略六角柱状の挿入部11aと、挿入部11aより大径の連結部11bを有する柱状金具である。なお、ソケットレンチ1を電動回転駆動機2に装着する際には、ソケット装着部21の先端側に設けた略六角柱状の孔に挿入部11aを挿入固定すれば良い。
【0021】
<シリンダー12>
シリンダー12は、アダプタ11の連結部11bに固定した、樹脂または非磁性金属の略円筒状部材であり、締結部材保持部12aと、円柱状空間部12bと、フランジ12c、12dを有する。なお、締結部材を締緩する際に必要なトルク仕様が小さい場合には、シリンダー12を樹脂製とすることができ、トルク仕様が大きい場合には、シリンダー12を非磁性金属製とすることが望ましい。
【0022】
締結部材保持部12aは、シリンダー12の先端側に形成された中空部であり、図3(b)に示すように、締緩対象のボルト3の頭部やナット4と嵌合する断面形状の空間である。従って、本実施例のソケットレンチ1は、締緩対象の締結部材の種類毎に用意されるものである。
【0023】
円柱状空間部12bは、シリンダー12の奥側に形成された中空部であり、ナット4の締緩時にボルト3の突出部31を収納できるように軸方向に長い空間となっている。
【0024】
フランジ12c、12dは、カラー13の摺動範囲を制限するために、シリンダー12の外周面の先端側と奥側に形成した一対の環状部材である。
【0025】
<カラー13>
カラー13は、樹脂製または非磁性金属製の略円筒状部材であり、シリンダー12の外周面のフランジ12c、12dで挟まれた領域内を、軸方向および周方向に摺動できるように設置されている。また、このカラー13の先端側には、全周に亘り複数の永久磁石13aが分散配置されている。このカラー13により以下の作用効果を得ることができる。
【0026】
本実施例のカラー13は、シリンダー12の外周面を軸方向に摺動可能なものである。そのため、図4(b)のように、カラー13を先端側(フランジ12c側)にスライドして、永久磁石13aと締結部材保持部12aを対向させた場合には、締結部材保持部12a内の磁性金属性の締結部材を永久磁石13aで磁力保持して、締緩中の締結部材の脱落を防止することができる。一方、カラー13を奥側(フランジ12d側)にスライドした場合には、永久磁石13aによる磁力保持が解除されるため、締結部材保持部12a内の締結部材を容易に取り外すことができる。
【0027】
なお、図4(b)から自明なように、締結部材保持部12a内の締結部材を磁力保持する場合、締結部材と永久磁石13aの間にシリンダー12が配置されるが、永久磁石13aをネオジム磁石など強磁力の磁石とすることで、締結部材と永久磁石13aが直接接触しない状況であっても、永久磁石13aの磁力で締結部材を磁力保持することができる。
【0028】
図1のナット4を本実施例のソケットレンチ1を用いて緩める状況を考える。この場合、シリンダー12の締結部材保持部12a内にナット4を収容し、円柱状空間部12b内に突出部31を収容し、かつ、締結部材保持部12a内のナット4にカラー13の永久磁石13aを対向させた状態とすることで、磁力保持しながらナット4を緩めることができる。この際、ボルト3と永久磁石13aが接触することはないので、回転速度の異なるボルト3との接触による永久磁石13aの破損や変形を回避することができる。従って、本実施例のソケットレンチ1を長期間使用しても、永久磁石13aの破損や変形に起因するソケットレンチ1の機能劣化が生じることはない。
【0029】
本実施例のカラー13は、ソケットレンチ1の回転軸が中心軸となるように配置した略円筒である。そのため、カラー13の外周面の任意位置を掴んで軸方向にスライドさせるだけで、ソケットレンチ1の磁力保持機能の有効無効を切り替えることができ、締緩作業の前後に締結部材を容易に着脱することができる。
【0030】
本実施例のカラー13は、外周面に突起の存在しない滑らかな略円筒形状をしている。そのため、電動回転駆動機2の駆動に伴い回転するカラー13の外周面に作業者の手や手袋などが接触しても怪我をしたり手袋が巻き込まれたりする可能性は極めて低い。
【0031】
本実施例のカラー13は、シリンダー12の外周面を周方向に摺動可能なものであり、シリンダー12の回転とカラー13の回転を独立させることができる。そのため、状況に応じて、作業者の右手で電動回転駆動機2のハンドル23を把持し、左手でソケットレンチ1のカラー13を把持した状態で締結部材を締緩することもでき、ハンドル23だけを把持する場合より安定した状態で締結部材の締緩作業を実施することができる。
【0032】
<本実施例の効果>
以上で説明したように、本実施例のソケットレンチによれば、締結部材を磁力保持する永久磁石の経年劣化がなく、かつ、操作性および安全性を高めることができる。
【実施例2】
【0033】
次に、図5を用いて、本発明の実施例2に係るソケットレンチ1を説明する。なお、実施例1との共通点については重複説明を省略する。
【0034】
実施例1では、作業者が手動でカラー13をスライドさせることで締結部材保持部12a内の締結部材を磁力保持する状態と磁力保持しない状態を切り替えていたが、カラー13が意図せずにスライドする可能性もあり、作業者が望む状態を維持できない可能性もあった。
【0035】
そこで、本実施例では、図5に示すように、カラー13とフランジ12dの間にバネ14を配置してカラー13を常時先端方向に付勢することで、通常時は締結部材を磁力保持可能な状態を維持し、作業者が手動でカラー13を奥側にスライドさせた場合にのみ締結部材の磁力保持を解除するようにした。
【0036】
なお、図示を省略しているが、円筒状のバネカバー15でバネ14の外周を覆う構成としても良い。この構成によれば、ソケットレンチ1の回転中に作業者がバネ14に触れることがないので、回転するバネ14との接触による作業者の怪我を回避することができる。
【0037】
また、本実施例のソケットレンチ1のように、カラー13の脇にバネ14を設けると、シリンダー12の回転時に、カラー13が共回りしたり、カラー13とバネ14の間で擦れが発生することが懸念されるが、カラー13とバネ14の間、または、バネ14とフランジ12dの間に、スラストベアリング16やスラストパット17等を具備することで、上記の共回りや擦れの発生を防止することができる。
【実施例3】
【0038】
次に、図6から図8を用いて、本発明の実施例3に係るソケットレンチ1を説明する。なお、上記の実施例との共通点については重複説明を省略する。
【0039】
上記の実施例における締緩対象の締結部材は、図1に例示するような一般的なボルト3とナット4であったが、本実施例における締緩対象の締結部材は、蝶ボルト3Aと蝶ナット4Aである。蝶ボルト3Aと蝶ナット4Aは、工具を使用することなく手作業で締緩できる締結部材であり、図6に示すように、蝶ボルト3Aには一対の把持部32Aが設けられており、蝶ナット4Aにも一対の把持部41Aが設けられている。なお、図6の符号31Aは蝶ボルト3Aの突出部である。
【0040】
このような把持部32A、41Aを備えた締結部材の締緩に対応すべく、本実施例のソケットレンチ1には、図7の斜視図や図8の断面図に示すように、シリンダー12の先端側に把持部32A、41Aと嵌合する形状の溝12eを設けた。従って、本実施例のソケットレンチ1を利用すれば、蝶ボルト3Aや蝶ナット4Aを磁力保持しながら締緩することができる。
【0041】
なお、カラー13をソケットレンチ1の先端側に配置した場合であっても、カラー13に内蔵する永久磁石13aの数が少なければ、カラー13の向き次第では、溝12eに嵌合した把持部32A、41Aと永久磁石13aが離れてしまい、把持部32A、41Aを磁力保持する力が弱まる状況も考えられる。そこで、カラー13の向きに拘わらず把持部32A、41Aを確実に磁力保持できるように、本実施例のソケットレンチ1では、カラー13に配置する永久磁石13aの数を上記実施例より増やしたり、カラー13の先端に環状永久磁石を配置する構成としたり、カラー13全体を環状永久磁石で構成したりしても良い。
【実施例4】
【0042】
次に、図9図10を用いて、本発明の実施例4に係るドライバーレンチ1Aを説明する。なお、上記の実施例との共通点については重複説明を省略する。
【0043】
上記の実施例のソケットレンチ1では雌雄一対の締結部材を締緩対象としていたが、本実施例のドライバーレンチ1Aでは、図9に例示するようなネジ6を締緩対象とする。
【0044】
図10は、本実施例のドライバーレンチ1Aの断面図である。図から自明なように、本実施例のドライバーレンチ1Aは、アダプタ11の先端側にドライバー部11cを設けたものである。このドライバー部11cの先端は、締結部材保持部12a内まで延伸しているため、本実施例のドライバーレンチ1Aを用いることで、カラー13の永久磁石13aによる磁力保持状態でネジ6を締緩することができる。
【0045】
本実施例のドライバーレンチ1Aは、締緩対象のネジ6の仕様に応じた、専用のドライバー部11cを備えたものでなければならないことは言うまでもない。すなわち、締緩対象のネジ6がプラスネジであればドライバー部11cの先端をプラスドライバー形状とすれば良く、締緩対象のネジ6がマイナスネジであればドライバー部11cの先端をマイナスドライバー形状にすれば良い。
【0046】
なお、図10では、実施例3のソケットレンチ1の構造を流用した結果、締結部材保持部12a内のネジ6と永久磁石13aの間にある程度の距離が生じているが、磁力保持力をより強固にしたい場合は、シリンダー12の外径を小さくして、カラー13の永久磁石13aをより内側に配置できるようにすることが望ましい。
【実施例5】
【0047】
次に、図11を用いて、本発明の実施例5に係るカラー操作具7を説明する。なお、上記の実施例との共通点については重複説明を省略する。
【0048】
上記の実施例のソケットレンチ1またはドライバーレンチ1Aを使用して締結部材を締緩する場合、作業者は一方の手でカラー13を所望の方向にスライドさせることで締結部材を磁力保持する状態とそうでない状態を切り替えることができたが、それと同時に他方の手でハンドル23を把持して電動回転駆動機2の位置(すなわち、シリンダー12の位置)を固定しておく必要もあった。そのため、例えば、図1のナット4を緩める状況であれば、一方の手で把持したスパナ等を用いてボルト3の回転を防止し、他方の手で電動回転駆動機2を操作してナット4を緩めつつ、さらに、ナット4の磁力保持状態を切り替えることはできなかった。
【0049】
そこで、本実施例では、カラー13の位置(すなわち、締結部材の磁力保持状態)と電動回転駆動機2の駆動の両方を片手で操作できるように、以下の構成のカラー操作具7を利用することとした。
【0050】
図11は、実施例2のソケットレンチ1と本実施例のカラー操作具7を装着した電動回転駆動機2を示す図であり、図11(a)は磁力保持可能状態を示し、図11(b)は磁力保持解除状態を示す。これらに示すように、本実施例のカラー操作具7は、カラー13の外周に装着するカラー接続部71と、電動回転駆動機2のハンドル23に装着するトリガー72と、カラー接続部71とトリガー72を接続するコントロールワイヤー73と、電動回転駆動機2の本体に装着してコントロールワイヤー73を保持する本体接続部74と、を有している。
【0051】
図11(b)に示すように、ハンドル23を把持した作業者の人差し指等でトリガー72を引くと、コントロールワイヤー73のケーシング73a内のインナーワイヤー73bとカラー接続部71を介して伝達された力によりカラー13が図中右方向に移動して、永久磁石13aによる締結部材の磁力保持が解除される。従って、締結部材保持部12a内にナット4が磁力保持されていた場合であれば、図中に例示したように、ナット4が締結部材保持部12aから排出される。一方、トリガー73を引いていた指を離すと、バネ14の復元力によりカラー13を図中左方向に移動させる力が作用し、図11(a)のように、締結部材を磁力保持可能な状態に復帰する。
【0052】
電動回転駆動機2の操作部22は元よりハンドル23を把持した状態で操作できる位置に設けられているので、本実施例のカラー操作具7をソケットレンチ1と電動回転駆動機2に装着すれば、ハンドル23を把持した手だけで操作部22もトリガー72も操作できるため、もう一方の手で他の作業(例えば、スパナでボルトの回転を防止するなど)を実施できるようになる。
【0053】
なお、カラー操作具7の装着方法は、ソケットレンチ1のカラー13の寸法や、電動回転駆動機2の寸法、締結部材の締緩に要するトルクの大きさなどを考慮して適当なものを選択すればよく、必ずしも図11に示す形態を採用しなければならないわけはない。
【実施例6】
【0054】
次に、図12を用いて、本発明の実施例6に係るカラー操作具7を説明する。なお、実施例5との共通点については重複説明を省略する。
【0055】
実施例5では、実施例2のソケットレンチ1が備えるバネ14がカラー13を前方に付勢することで、トリガー72を引く前であればカラー13を磁力保持可能位置に留めたり、引いたトリガー72を離した後であればカラー13を磁力保持解除位置から磁力保持可能位置へ復帰させたりしていた。
【0056】
この構成を採る場合、図5に示すように、バネ14の端部とフランジ12dまたはカラー13と接触するため、両者の回転速度に差が生じれば、相対的に硬いバネ14により相対的に柔らかいフランジ12dやカラー13が削られる可能性があった。また、バネカバー15を設けずバネ14が露出した状態であれば、回転するバネ14との接触により作業者が怪我をする可能性もあった。
【0057】
これに対し、本実施例では、実施例2のソケットレンチ1に代え実施例1のソケットレンチ1を使用するとともに、カラー操作具7のコントロールワイヤー73の前端部にバネ75を設け、このバネ75に実施例2のバネ14に相当する機能を担わせた。このような構成の本実施例によれば、以下の効果を得ることができる。
【0058】
すなわち、相対的に大きなバネ14を相対的に小さなバネ75に置換した本実施例では、構造簡略化による低コスト化を図りつつ、実施例5と同等の機能を確保することができる。また、フランジ12dやカラー13がバネ14と接触することがないので、バネ14に起因するフランジ12dやカラー13の破損が発生することはない。さらに、ソケットレンチ1が回転してもカラー操作具7のバネ75は回転しないので、バネ75が他部材を損傷したり、バネ75との接触により作業者が怪我をすることもない。
【符号の説明】
【0059】
1 ソケットレンチ
11 アダプタ
11a 挿入部
11b 連結部
11c ドライバー部
12 シリンダー
12a 締結部材保持部
12b 円柱状空間部
12c、12d フランジ
12e 溝
13 カラー
13a 永久磁石
14 バネ
15 バネカバー
16 スラストベアリング
17 スラストパット
1A ドライバーレンチ
2 電動回転駆動機
21 ソケット装着部
22 操作部
23 ハンドル
3 ボルト
31 突出部
3A 蝶ボルト
31A 突出部
32A 把持部
4 ナット
4A 蝶ナット
41A 把持部
5 板
6 ネジ
7 カラー操作具
71 カラー接続部
72 トリガー
73 コントロールワイヤー
73a ケーシング
73b インナーワイヤー
74 本体接続部
75 バネ
【要約】
【課題】 締結部材を磁力保持する永久磁石の経年劣化がなく、かつ、操作性および安全性を高めたレンチを提供する。
【解決手段】 電動回転駆動機に装着されるレンチ1であって、樹脂製または非磁性金属製であり、略円筒状のシリンダー12と、前記シリンダーの外周面を軸方向および周方向に摺動可能であり、永久磁石を内蔵した略円筒状のカラー13と、を備え、前記シリンダーは、先端側に締結部材保持部12aを有するとともに、前記締結部材保持部より奥側に軸方向に長い空間部12bを有し、前記永久磁石と前記締結部材保持部が対向する位置に前記カラーを配置した場合、前記締結部材保持部内の締結部材が前記永久磁石により磁力保持されるレンチ。
【選択図】 図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12