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特許7498542ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/02 20190101AFI20240605BHJP
   C12C 5/02 20060101ALI20240605BHJP
   C12C 12/00 20060101ALI20240605BHJP
【FI】
C12G3/02
C12C5/02
C12C12/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018206574
(22)【出願日】2018-11-01
(65)【公開番号】P2020068732
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【弁理士】
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 未知子
(72)【発明者】
【氏名】土屋 友理
(72)【発明者】
【氏名】太田 拓
(72)【発明者】
【氏名】竹村 仁志
(72)【発明者】
【氏名】神代 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】稲留 弘乃
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-125205(JP,A)
【文献】特開昭63-287474(JP,A)
【文献】特開2018-064503(JP,A)
【文献】特表2002-516115(JP,A)
【文献】特開2006-212024(JP,A)
【文献】国際公開第2006/022250(WO,A1)
【文献】Acta Alimentalia,Vol.35(1),2006年,pp.17-24
【文献】B. VECSERI-HEGYES et al.,THE ROLE OF ZINC IN BEER PRODUCTION II.FERMENTATION,Acta Alimentaria,2006年,Vol.35, No.1,p.17-24
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G
C12C
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JdreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キサンチン濃度が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法であって、麦芽使用比率が0~20%未満であり、発酵開始時点の亜鉛濃度が0.1ppm以上の仕込液を用いて発酵を行い、かつ、キサンチン濃度が0.5mg/100mL未満であることを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
キサンチン濃度が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法であって、麦芽使用比率が50%超~80%未満であり、発酵開始時点の亜鉛濃度が0.2ppm以上の仕込液を用いて発酵を行い、かつ、キサンチン濃度が0.5mg/100mL未満であることを特徴とする、製造方法。
【請求項3】
キサンチン濃度が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法であって、麦芽使用比率が80%以上~100%であり、発酵開始時点の亜鉛濃度が0.2ppm以上の仕込液を用いて発酵を行い、かつ、キサンチン濃度が2.0mg/100mL未満であることを特徴とする、製造方法。
【請求項4】
麦芽使用比率が0~20%未満の場合には発酵開始時点における仕込液の亜鉛濃度が0.1ppm以上となるように仕込液の亜鉛濃度を調整し、麦芽使用比率が50%超~80%未満または80%以上~100%の場合には発酵開始時点における仕込液の亜鉛濃度が0.2ppm以上となるように仕込液の亜鉛濃度を調整する工程を含んでなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
仕込液の亜鉛濃度の調整を、発酵開始時点よりも前における亜鉛源の添加により行う、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
亜鉛源が、硫酸亜鉛である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
仕込液の亜鉛濃度の調整を、発酵開始時点よりも前におけるプロテアーゼ処理により行う、請求項4に記載の製造方法。
【請求項8】
ビールテイスト発酵アルコール飲料のプリン体濃度が、10.0mg/100mL未満である、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造における発酵液のキサンチン濃度の上昇を抑制する方法であって、麦芽使用比率が0~50%の場合には発酵開始時点の亜鉛濃度が0.1ppm以上の仕込液を用いて発酵を行い、麦芽使用比率が50%超~100%の場合には発酵開始時点の亜鉛濃度が0.2ppm以上の仕込液を用いて発酵を行うことを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法に関する。本発明はまた、ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造における発酵液のキサンチン濃度の上昇抑制方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
発酵麦芽飲料であるビール中には、プリン体が40~100mg/L程度存在するといわれている。プリン体は、食餌として摂取された場合、尿酸に分解される。高尿酸血症における食餌制限では、このプリン体の摂取の制限がなされる場合があるが、肉、卵、肝等のプリン体高含有食物に加えて、ビール等の発酵麦芽飲料も食餌制限を受けることがある。このため、ビール等の発酵麦芽飲料についてもプリン体を低減した製品が望まれる。
【0003】
これまでに、ビール等の発酵麦芽飲料においてプリン体を低減化する技術としては、ビールの麦汁にヌクレオシド・フォスフォリラーゼおよび/またはヌクレオシダーゼを作用させて、麦汁中のヌクレオシドを分解させ、プリン体の濃度を低減させる技術(特許文献1)が知られている。また、発酵麦芽飲料の製造工程において、プリン体を選択的に吸着する吸着剤で仕込液からプリン体を吸着、除去することにより、発酵麦芽飲料のプリン体濃度を低減させる技術(特許文献2)も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第96/25483号
【文献】特開2004-290071号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは今般、ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造において、所定の亜鉛濃度の仕込液を用いることにより、発酵中に生成されるキサンチン量を低減することができ、キサンチン濃度が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料を製造できることを見出した。本発明者らはまた、この知見は麦芽使用比率によらずにビールテイスト発酵アルコール飲料の製造に適用可能であることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0006】
本発明は、キサンチン濃度が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法と、ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造における発酵液中のキサンチン濃度の上昇を抑制する方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法であって、麦芽使用比率が0~50%の場合には発酵開始時点の亜鉛濃度が0.1ppm以上の仕込液を用いて発酵を行い、麦芽使用比率が50%超~100%の場合には発酵開始時点の亜鉛濃度が0.2ppm以上の仕込液を用いて発酵を行うことを特徴とする、製造方法。
[2]麦芽使用比率が0~50%の場合には発酵開始時点における仕込液の亜鉛濃度が0.1ppm以上となるように仕込液の亜鉛濃度を調整し、麦芽使用比率が50%超~100%の場合には発酵開始時点における仕込液の亜鉛濃度が0.2ppm以上となるように仕込液の亜鉛濃度を調整する工程を含んでなる、上記[1]に記載の製造方法。
[3]仕込液の亜鉛濃度の調整を、発酵開始時点よりも前における亜鉛源の添加により行う、上記[2]に記載の製造方法。
[4]亜鉛源が、硫酸亜鉛である、上記[3]に記載の製造方法。
[5]仕込液の亜鉛濃度の調整を、発酵開始時点よりも前におけるプロテアーゼ処理により行う、上記[2]に記載の製造方法。
[6]ビールテイスト発酵アルコール飲料のプリン体濃度が、10.0mg/100mL未満である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造における発酵液のキサンチン濃度の上昇を抑制する方法であって、麦芽使用比率が0~50%の場合には発酵開始時点の亜鉛濃度が0.1ppm以上の仕込液を用いて発酵を行い、麦芽使用比率が50%超~100%の場合には発酵開始時点の亜鉛濃度が0.2ppm以上の仕込液を用いて発酵を行うことを特徴とする、方法。
【0008】
本発明によれば、プリン体濃度が2.0mg/100mL未満に低減されつつもビールテイスト発酵アルコール飲料としての風味や香味を保持したビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる。このため本発明は、消費者の健康志向等、多様なニーズに応えることができる点で有利である。
【発明の具体的説明】
【0009】
本発明において「ビールテイスト」は、通常にビールを製造した場合、すなわち、酵母等による発酵に基づいてビールを製造した場合に得られるビール特有の味わい、香りを意味する。
【0010】
本発明において「ビールテイスト発酵アルコール飲料」は、炭素源、窒素源および水等を原料として酵母により発酵させた飲料を意味し、ビール、発泡酒、その他の醸造酒および原料として麦芽を使用するビールや発泡酒にアルコールを添加してなる飲料(例えば、酒税法上、「リキュール(発泡性)(1)」に分類されるリキュール系新ジャンル飲料)が挙げられる。
【0011】
本発明においてビールテイスト発酵アルコール飲料は、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするものや、麦芽および麦類を使用しないものとすることができ、好ましくは、麦由来の原料として少なくとも麦芽(例えば、小麦麦芽、大麦麦芽)を使用するものとすることができる。その場合の麦芽使用比率は、例えば、10%未満、10%以上、20%未満、20%以上、25%未満、25%以上、50%未満、50%以上、60%未満、60%以上、70%未満、70%以上、80%未満、80%以上、90%未満、90%以上、3分の2未満あるいは3分の2以上とすることができる。本発明において「麦芽使用比率」とは、醸造用水を除く全原料の質量に対する麦芽質量の割合をいう。
【0012】
本発明において「仕込液」は、醸造用水および醸造原料(例えば、麦芽、副原料等)の混合物を糖化し、濾過して得られた溶液(醸造原料が麦芽または麦を含む場合は「麦汁」ということがある)に場合によりホップを添加した後、煮沸し、煮沸した溶液を冷却することにより得られる溶液を意味する。仕込液とは、酵母を添加すれば発酵を開始できる状態の溶液であり、発酵前液または麦汁ともよばれる。
【0013】
本発明で使用される「亜鉛源」は、亜鉛を含む原材料であれば特に限定されず、亜鉛および亜鉛を含む化合物(以下、「亜鉛化合物」ということがある。)並びに亜鉛または亜鉛化合物を含有する天然由来の素材が挙げられる。亜鉛化合物とは、亜鉛原子を含む化合物であり、無機亜鉛塩、有機亜鉛塩並びにこれらの水和物等のいずれの形態であってもよい。亜鉛源は、1種単独で使用しても、複数種を組み合わせて使用してもよい。本発明の製造方法において使用する亜鉛源のうち亜鉛化合物としては、例えば、硫酸亜鉛(ZnSO)、塩化亜鉛(ZnCl)、酢酸亜鉛(ZnC)、リン酸亜鉛(Zn(PO)およびグルコン酸亜鉛(C122214Zn)並びにこれらの溶媒和物(例えば、水和物)が挙げられ、好ましくは硫酸亜鉛およびその水和物である。また本発明の製造方法において使用する亜鉛源のうち天然由来の素材としては、酵母、酵母エキス並びに酒税法で定める原料および副原料のうち亜鉛を豊富に含むものが挙げられ、好ましくは酵母、酵母エキス、牡蠣、小麦、小麦麦芽、大麦、大麦麦芽、米、コーングリッツであり、より好ましくは酵母、酵母エキス、米、コーングリッツおよび牡蠣である。
【0014】
本発明の製造方法は、麦芽使用比率に従って所定の亜鉛濃度の仕込液を発酵に用いること以外は、通常のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造手順に従って実施することができる。すなわち、麦芽、ホップ、副原料、醸造用水等の醸造原料から調製された所定の亜鉛濃度の仕込液に発酵用ビール酵母を添加して発酵を行い、場合によっては得られた発酵液を低温にて貯蔵し、次いで、濾過工程により酵母を除去することにより、キサンチン濃度が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる。
【0015】
本発明の製造方法において、所定の亜鉛濃度の仕込液の調製は、特に限定されることなく、亜鉛源の添加により実施することができる。例えば、亜鉛源を仕込液に添加することにより所定の亜鉛濃度の仕込液を調製することができる。あるいは、亜鉛源を、醸造用水、醸造原料およびこれらの混合物の少なくともいずれかに添加することにより所定の亜鉛濃度の仕込液を調製してもよく、これを亜鉛源の仕込液への添加と組み合わせてもよい。本発明の製造方法において亜鉛源を添加するタイミングは、発酵工程の開始前が望ましく、発酵工程の開始前であれば特に限定されない。亜鉛源の添加は、例えば、調製が完了した仕込液への添加だけでなく、仕込液の調製中、すなわち、醸造原料の配合、混合、糖化、濾過、煮沸、冷却等の仕込工程のいずれの段階における添加であってもよい。また、亜鉛はタンパク質に結合しており、タンパク質の分解を促進することにより、遊離の亜鉛量は増加することから、本発明の製造方法においては、タンパク質の分解促進処理(例えば、プロテアーゼ処理、タンパク休止工程の導入、タンパク休止時間の延長)により亜鉛濃度を調整してもよく、これらの方法を亜鉛源の添加と組み合わせてもよい。タンパク質の分解促進処理は、例えば、仕込液の調製中(例えば、糖化段階)に実施することができる。
【0016】
本発明の製造方法において亜鉛源の仕込液等への配合量は、所定の亜鉛濃度の仕込液が調製される限り、特に限定されることなく、醸造用水および醸造原料に含まれる亜鉛量に参照しつつ、適宜定めることができる。
【0017】
本発明の製造方法において発酵工程開始時点の仕込液の亜鉛濃度は、ビールテイスト発酵アルコール飲料の麦芽使用比率に応じて定めることができる。麦芽使用比率が50%以下のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造における発酵工程開始時点の仕込液の亜鉛濃度の下限値は、0.1ppmとすることができ、好ましくは0.15ppm、より好ましくは0.2ppm、さらに好ましくは0.3ppm、特に好ましくは0.4ppmであり、上記亜鉛濃度の上限値は、100ppmとすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記亜鉛濃度の範囲は、例えば、0.1~100ppmとすることができる。麦芽使用比率が50%を超えるビールテイスト発酵アルコール飲料における発酵工程開始時点の仕込液の亜鉛濃度の下限値は、0.2ppmとすることができ、好ましくは0.25ppm、より好ましくは0.3ppm、さらに好ましくは1.0ppmであり、上記亜鉛濃度の上限は、100ppmとすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記亜鉛濃度の範囲は、例えば、0.2~100ppmとすることができる。
【0018】
本発明において亜鉛(Zn)の濃度は、ICP発光分光分析装置により測定することができる。
【0019】
本発明の製造方法では、所定の亜鉛濃度の仕込液を使用して発酵用ビール酵母を添加して発酵を行った場合、通常の仕込液を使用して発酵を行った場合と比較して、発酵中に生成されるキサンチン量が低減され。本発明において「キサンチン」とは、プリン体を構成するプリン体塩基4種のうちの1種であ
【0020】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料において、キサンチン濃度およびプリン体濃度の低減は、例えば、本発明の所定の亜鉛濃度の仕込液を使用して発酵を行った発酵液と、通常の亜鉛濃度の仕込液(例えば、亜鉛源の添加や亜鉛濃度を上昇させる手段を講じていない仕込液)を使用して発酵を行った発酵液とについて、キサンチン濃度およびプリン体濃度を測定し、比較することにより確認することができる。キサンチン濃度およびプリン体の測定は、プリン体の測定に用いられる公知の方法によって行うことができ、例えば、過塩素酸による加水分解後にLC-MS/MS(液体クロマトグラフィー質量分析法)を用いて検出する方法(「酒類中のプリン体の微量分析のご案内」、一般財団法人・日本食品分析センター、URL:http://www.jfrl.or.jp/item/nutrition/post-31.html 参照)により測定することができる。なお、本明細書中、「プリン体濃度」とは、アデニン、キサンチン、グアニン、ヒポキサンチンのプリン体塩基4種の総量を指す。
【0021】
本発明の製造方法により製造されたビールテイスト発酵アルコール飲料は、キサンチン濃度が低減されており、その濃度は、例えば、2.0mg/100mL未満であり、これよりも低い濃度(例えば、1.5mg/100mL未満、1.0mg/100mL未満、0.5mg/100mL未満、0.4mg/100mL未満、0.3mg/100mL未満、0.2mg/100mL未満、0.1mg/100mL未満、0.05mg/100mL未満)に設定することができる。
【0022】
本発明の製造方法により製造されたビールテイスト発酵アルコール飲料のプリン体濃度は、例えば、10.0mg/100mL未満であり、これよりも低い濃度(例えば、8.0mg/100mL未満、6.0mg/100mL未満、3.0mg/100mL未満、2.0mg/100mL未満、1.5mg/100mL未満、1.0mg/100mL未満、0.5mg/100mL未満、0.1mg/100mL未満、0.05mg/100mL未満)に設定することができる。なお、プリン体濃度が0.5mg/100mL未満の飲料は「プリン体ゼロ飲料」に対応する。
【0023】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造では、麦芽以外の醸造原料を使用してもよい。使用可能な醸造原料としては、未発芽の麦類(例えば、未発芽大麦(エキス化したものを含む)、未発芽小麦(エキス化したものを含む));米、とうもろこし、こうりゃん、馬鈴薯、でんぷん、糖類(例えば、液糖)、果実(例えば、乾燥果実、煮詰めた果実、果汁、濃縮果汁)、コリアンダーまたはその種、香辛料またはその原料(例えば、こしょう、シナモン、クローブ、さんしょう)、ハーブ(例えば、カモミール、セージ、バジル、レモングラス)、野菜(例えば、かんしょ、かぼちゃ等の乾燥野菜または煮詰めた野菜)、そばまたはごま、含糖質物(例えば、ハチミツ、黒糖)、食塩、みそ、花、茶、コーヒー、ココア(茶、コーヒーおよびココアはその調製品を含む)、海産物(例えば、牡蠣、こんぶ、わかめ、かつお節)等の副原料;タンパク質分解物や酵母エキス等の窒素源;香料、色素、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤、発酵助成剤等のその他の添加物等が挙げられる。
【0024】
本発明の製造方法では、醸造用水以外の使用原料を少なくとも麦芽およびホップとすることができ、場合によっては更に糖類、米、とうもろこし、でんぷん等を使用原料とすることができる。なお、製造されるビールテイスト発酵アルコール飲料のうちオールモルトビールは、麦芽、ホップ、水から製造できることはいうまでもない。本発明の製造方法ではまた、麦芽および/または未発芽の麦類を原料として含まないものとするものとすることができ、この場合に製造されるビールテイスト発酵アルコール飲料は麦芽使用比率0%となる。
【0025】
本発明の別の面によれば、麦芽使用比率に従って所定の亜鉛濃度の仕込液を発酵に用いることを特徴とする、ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造における発酵液のキサンチン濃度の上昇を抑制する方法が提供される。本発明の方法は、本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法についての記載に従って実施することができる。
【実施例
【0026】
以下の例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0027】
例1:亜鉛のキサンチン低減効果
(1)ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造
スプレーモルト(Muntons社)12%を含む仕込液を調製することにより、麦芽比率100%の仕込液を調製した。また、スプレーモルト(Muntons社)6%、マルトース4.8%、グルコース1.2%を含む仕込液を調製することにより麦芽比率50%の仕込液を調製した。さらに、スプレーモルト(Muntons社)3%、マルトース7.2%、グルコース1.8%を含む仕込み液を調製することにより、麦芽比率25%の仕込液を調製した。これらの仕込液のキサンチン濃度(仕込液キサンチン濃度)を測定した。
【0028】
次いで、各種麦芽使用比率の仕込液それぞれに表1~3に示す濃度に対応する量の硫酸亜鉛(ZnSO)を添加し、仕込液の亜鉛濃度(仕込液亜鉛濃度)を測定した。この仕込液に酵母を添加して15℃で7日間発酵を行い、得られた発酵終了時の発酵液のキサンチン濃度(発酵液キサンチン濃度)を測定した。この発酵液から酵母を除去することにより各種ビールテイスト発酵アルコール飲料(試験区1~14)を得た。また、発酵液キサンチン濃度から仕込液キサンチン濃度を引くことにより、発酵中のキサンチン濃度の増加量を算出した。
【0029】
(2)亜鉛濃度の測定
仕込液の亜鉛(Zn)の濃度は、ICP発光分光分析装置720 ICP-OES(Agilent Technologies社製)を用いて測定した。
【0030】
(3)キサンチン濃度およびプリン体濃度の測定
BCOJビール分析法(ビール酒造組合、8.30 プリン体;HPLC-UV法によるビール、発泡酒、新ジャンルの総プリン体定量)を参考に、試料を70%過塩素酸で分解し、キサンチン濃度(ppm)および遊離型のプリン体濃度(ppm)を液体クロマトグラフィー質量分析計により測定した。
【0031】
(4)結果
結果は、表1~3に示す通りであった。
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【0034】
例2:キサンチン濃度が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料の製造
(1)ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造
小麦麦芽および液糖を含む仕込液を調製することにより、麦芽使用比率56%の仕込液を調製した。また、大麦麦芽、大麦、コーンスターチおよび液糖を含む仕込液を調製することにより、麦芽使用比率24%の仕込液を調製した。さらに、大豆タンパク分解物の溶解液に、果糖ブドウ糖液糖、ショ糖および水溶性食物繊維を添加して資化性糖の量を調整した発酵前液(モルトエキス含有)を調製することにより、麦芽使用比率0.1%の仕込液を調製した。これらの仕込液のキサンチン濃度(仕込液キサンチン濃度)を測定した。
【0035】
次いで、各種麦芽使用比率の仕込液それぞれに表4~6に示す濃度に対応する量の硫酸亜鉛(ZnSO)を添加し、仕込液の亜鉛濃度(仕込液亜鉛濃度)を測定した。また、表4の試験区15~18、表5の試験区20~24はプロテアーゼ処理を行い、タンパク質の分解促進による亜鉛量の増強を行った。さらに、上記試験区においてプリンヌクレオシダーゼ処理も同時に行い、プリンヌクレオシドをプリン塩基へ分解した麦汁を調製した。この仕込液に酵母を添加して15℃で7日間発酵を行い、得られた発酵終了時の発酵液のキサンチン濃度(発酵液キサンチン濃度)を測定した。さらにこの発酵液から酵母を除去し、目標エキス濃度に希釈することにより各種ビールテイスト発酵アルコール飲料(試験区15~30)を得た。得られた製品飲料中のプリン体濃度(製品プリン体濃度)を測定した。
【0036】
(2)亜鉛濃度の測定
例1(2)と同様の方法で測定した。
【0037】
(3)キサンチン濃度およびプリン体濃度の測定
例1(3)と同様の方法で測定した。
【0038】
(4)結果
結果は、表4~6に示す通りであった。
【表4】
【0039】
【表5】
【0040】
【表6】
【0041】
例1および2の考察
表1~6の結果から、仕込液の亜鉛濃度を、麦芽使用比率が0~50%のビールテイスト発酵アルコール飲料の仕込液においては0.1ppm以上となるように、また、麦芽使用比率が50%を超えるビールテイスト発酵アルコール飲料の仕込液においては0.2ppm以上となるように調整することにより、発酵中のキサンチン濃度の増大を低減できることが示された。従って、所定の亜鉛濃度の仕込液を用いることにより、キサンチン濃度が低減されたビールテイスト発酵アルコール飲料を製造できることが確認された。なお、試験区1~30の製品飲料は、ビールテイスト発酵アルコール飲料として遜色ない風味・香味を有していた。