(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】摺動部材
(51)【国際特許分類】
F16C 33/20 20060101AFI20240605BHJP
F16C 9/02 20060101ALI20240605BHJP
F16C 9/04 20060101ALI20240605BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240605BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20240605BHJP
【FI】
F16C33/20 Z
F16C9/02
F16C9/04
C08L101/00
C08K3/01
(21)【出願番号】P 2019218760
(22)【出願日】2019-12-03
【審査請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】小川 徹也
(72)【発明者】
【氏名】安田 絵里奈
(72)【発明者】
【氏名】二村 健治
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-071581(JP,A)
【文献】特開2017-115920(JP,A)
【文献】特開2018-146060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/20
F16C 9/02- 9/04
C08L 101/00
C08K 3/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受合金層の摺動面側に樹脂オーバレイ層を備える摺動部材であって、
前記樹脂オーバレイ層は、
樹脂バインダと、
前記樹脂バインダに分散する20体積%以上の異方性の形状の固体潤滑剤の粒子と、を有し、
前記摺動面と平行な仮想的な直線を0°、前記摺動面に垂直な仮想的な軸を90°、前記直線と前記粒子の長軸とがなす角度をθ、前記樹脂バインダの任意の観察領域に含まれる前記粒子の総数をNとしたとき、
前記粒子のうち前記角度θが70°≦θ≦90°となる第一粒子の数N1の割合R1=N1/Nは、3%≦R1≦20%であり、
前記粒子のうち前記角度θがθ≦20°となる第二粒子の数N2の割合R2=N2/Nは、35%≦R2≦65%である摺動部材。
【請求項2】
前記割合R1は、6%≦R1≦15%であり、
前記割合R2は、40%≦R2≦60%である請求項1記載の摺動部材。
【請求項3】
前記粒子のうち前記角度θが40°≦θ≦50°となる第三粒子の数N3の割合R3=N3/Nは、5%≦R3≦15%である請求項1又は2記載の摺動部材。
【請求項4】
前記粒子の垂直成分率Rxは、0.20≦Rx≦0.50である請求項1から3のいずれか一項記載の摺動部材。
【請求項5】
前記垂直成分率Rxは、0.25≦Rx≦0.40である請求項4記載の摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸受合金層の摺動面側に樹脂オーバレイ層を備える摺動部材が公知である(特許文献1)。樹脂オーバレイ層は、固体潤滑剤が添加され、摩擦の軽減及びなじみ性の向上に寄与する。特許文献1は、固体潤滑剤のX線回折による回折面の強度比を特定することにより、特性の向上を図っている。つまり、特許文献1の場合、樹脂オーバレイ層に含まれる固体潤滑剤の劈開方向を設定することにより、摺動性能を高めている。
【0003】
しかしながら、近年、内燃機関には、さらなる高出力及び高回転が求められている。そのため、従来の摺動部材は、高出力化及び高回転化にともない耐摩耗性が不足する傾向にある。耐摩耗性が不足すると、樹脂オーバレイ層は短期間で摩滅するという問題がある。一方、耐摩耗性を高める側に固体潤滑剤の劈開方向を設定すると、樹脂オーバレイ層の摩擦係数の増大を招くという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、摩擦係数の増大を招くことなく、樹脂オーバレイ層の強度を高めて耐摩耗性が向上する摺動部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために本実施形態の摺動部材は、軸受合金層の摺動面側に樹脂オーバレイ層を備える。樹脂オーバレイ層は、樹脂バインダと、樹脂バインダに分散する20体積%以上の異方性の形状の固体潤滑剤の粒子と、を有する。
前記摺動面と平行な仮想的な直線を0°、前記摺動面に垂直な仮想的な軸を90°、前記直線と前記粒子の長軸とがなす角度をθ、前記樹脂バインダの任意の観察領域に含まれる前記粒子の総数をNとしたとき、
前記粒子のうち前記角度θが70°≦θ≦90°となる第一粒子の数N1の割合R1=N1/Nは、3%≦R1≦20%であり、
前記粒子のうち前記角度θがθ≦20°となる第二粒子の数N2の割合R2=N2/Nは、35%≦R2≦65%である。
【0007】
このように、樹脂オーバレイ層に含まれる固体潤滑剤の粒子は、割合R1及び割合R2が規定される。第一粒子は、固体潤滑剤の粒子のうち、長軸の角度θが70°≦θ≦90°となる粒子である。このような第一粒子は、樹脂オーバレイ層において厚さ方向へ立ち上がった状態となる。そのため、第一粒子は、樹脂オーバレイ層の厚さ方向で荷重を受けるとともに、この荷重に対する耐性が大きくなる。これにより、第一粒子は、樹脂オーバレイ層を厚さ方向で支持し、樹脂オーバレイ層の強度の向上に寄与する。一方、第二粒子は、固体潤滑剤の粒子のうち、長軸の角度θがθ≦20°となる粒子である。このような第二粒子は、樹脂オーバレイ層において摺動面に沿って寝た状態となる。そのため、第二粒子は、摺動面に露出したとき、相手部材と比較的大きな面で接する。これにより、第二粒子は、樹脂オーバレイ層の摩擦係数の低減に寄与する。そして、本実施形態では、これら第一粒子の割合R1及び第二粒子の割合R2は、適切な範囲に制御される。したがって、摩擦係数の増大を招くことなく、樹脂オーバレイ層の強度を高めて耐摩耗性を向上することができる。
【0008】
また、本実施形態では、前記割合R1は、6%≦R1≦15%であり、前記割合R2は、40%≦R2≦60%であることが好ましい。
このように、割合R1及び割合R2を規定することにより、摩擦係数をより低減しつつ、樹脂オーバレイ層の強度を高めて耐摩耗性をさらに向上することができる。
【0009】
本実施形態では、前記粒子のうち前記角度θが40°≦θ≦50°となる第三粒子の数N3の割合R3=N3/Nは、5%≦R3≦15%であることが好ましい。
第三粒子は、固体潤滑剤の粒子のうち、長軸の角度θが40°≦θ≦50°となる粒子である。このような第三粒子は、樹脂オーバレイ層において第一粒子と第二粒子との中間の姿勢となる。そのため、第三粒子は、樹脂オーバレイ層の内側において筋交いのような役割を果たす。これにより、第三粒子は、樹脂オーバレイ層の強度の向上に寄与する。したがって、樹脂オーバレイ層の強度を高めて耐摩耗性をさらに向上することができる。
【0010】
本実施形態では、前記粒子の垂直成分率Rxは、0.20≦Rx≦0.50であることが好ましい。
固体潤滑剤の粒子は、例えば板状や楕円形状などの異方性形状を有している。このような異方性形状を有する固体潤滑剤の粒子は、角度θだけでなく、水平成分の長さ、及び垂直成分の長さもオーバレイ層の性能に寄与する。ここで、垂直成分の長さL1は、固体潤滑剤の粒子における長軸の全長をLとしたとき、L1=L×sinθで算出される。また、水平成分の長さL2は、L2=L×cosθで算出される。そして、垂直成分率Rxは、これら垂直成分の長さL1及び水平成分の長さL2を用いて、下記の式(2)で算出される。この垂直成分率Rxは、0.25≦Rx≦0.40となるとき、オーバレイ層の性能をさらに向上することができる。
Rx=ΣLsinθ/{Σ(Lsinθ+Lcosθ)}
=ΣL1/Σ(L1+L2) 式(2)
【0011】
本実施形態では、分布のパラメータをaとし、
前記直線から前記軸までの0°~90°の範囲を、10°刻みであるA-10°<x≦A°(A=10、20、30、・・・、90)の角度範囲に区分し、前記粒子の長軸の角度が前記角度範囲のいずれに含まれるか分類するとともに、前記角度範囲に含まれる前記粒子の数nをそれぞれカウントしたとき、
前記樹脂バインダに含まれる前記粒子の分布割合n/N(%)は、下記の式(1)で示される。
【0012】
【0013】
固体潤滑剤の粒子は、角度範囲ごとに式(1)で示すような式を満たす分布となるとき、オーバレイ層の耐摩耗性が向上する。
なお、式(1)において、左辺のn/N[%]は、百分率として換算した値を意味する。また、摺動面に平行な仮想的な直線から軸までの0°~90°の範囲は、10°刻みでA-10°<x≦A°(A=10、20、30、・・・、90)の角度範囲に区分される。すなわち、直線から軸までの範囲は、0°≦x≦10°、10°<x≦20°、20°<x≦30°、30°<x≦40°、40°<x≦50°、50°<x≦60°、60°<x≦70°、70°<x≦80°、80°<x≦90にそれぞれ分割される。この場合、A=10のときに限り、下限となるθ=0°は0°~10°の角度範囲に含むものとする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態による摺動部材の樹脂オーバレイ層に含まれる固体潤滑剤の粒子を示す模式図
【
図2】一実施形態による摺動部材を示す模式的な断面図
【
図3】一実施形態による摺動部材において樹脂オーバレイ層に設定される観察領域を示す模式図
【
図4】一実施形態による摺動部材の樹脂オーバレイ層に含まれる固体潤滑剤の粒子を示す模式図
【
図5】一実施形態による摺動部材の製造方法を説明するための模式図
【
図6】一実施形態による摺動部材の実施例及び比較例における試験条件を示す概略図
【
図7】一実施形態による摺動部材の実施例及び比較例の試験結果を示す概略図
【
図8】一実施形態による摺動部材の実施例の試験結果を示す概略図
【
図9】一実施形態による摺動部材の実施例の試験結果を示す概略図
【
図10】一実施形態による摺動部材の実施例の試験結果を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、摺動部材の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図2に示すように摺動部材10は、裏金層11、軸受合金層12及び樹脂オーバレイ層13を備えている。なお、摺動部材10は、裏金層11と軸受合金層12との間に図示しない中間層を備えていてもよい。また、摺動部材10は、
図2に示す例に限らず、裏金層11と樹脂オーバレイ層13との間に、複数の軸受合金層12や中間層、その他の機能を有する層を備えていてもよい。摺動部材10は、樹脂オーバレイ層13側の端部に相手部材と摺動する摺動面14を形成する。
図2に示す本実施形態の場合、摺動部材10は、裏金層11の摺動面14側に軸受合金層12及び樹脂オーバレイ層13が順に積層されている。裏金層11は、例えば鉄や鋼などの金属又は合金で形成されている。軸受合金層12は、例えばAl若しくはCu又はそれらの合金などで形成されている。
【0016】
樹脂オーバレイ層13は、
図3に示すように樹脂バインダ20と、固体潤滑剤の粒子21とを備えている。樹脂バインダ20は、樹脂オーバレイ層13を構成する主成分であり、例えばポリアミドイミド、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂及びエラストマー樹脂から選択される一種以上が用いられる。また、樹脂バインダ20は、ポリマーアロイであってもよい。本実施形態では、樹脂バインダ20として、ポリアミドイミドを用いている。また、固体潤滑剤は、例えば二硫化モリブデン、二硫化タングステン、h-BN、フッ化黒鉛、グラファイト、マイカ、タルク、メラミンシアヌレートなどのように、劈開性又は層状構造を有するものから選択される一種以上が用いられる。また、固体潤滑剤の粒子21は、耐荷重性の高いものが好ましい。本実施形態の場合、固体潤滑剤は、耐荷重性の高い二硫化モリブデンを用いている。
【0017】
樹脂オーバレイ層13は、例えば充填剤をはじめとする添加剤を加えてもよい。この場合、添加剤は、フッ化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化シリコン、酸化マグネシウムなどの酸化物、モリブデンカーバイド、炭化ケイ素などの炭化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、立方晶窒化ホウ素、ダイヤモンドなどから選択される一種以上が用いられる。
【0018】
本実施形態の摺動部材10は、樹脂オーバレイ層13に、固体潤滑剤の粒子21を20体積%以上含んでいる。この場合、樹脂オーバレイ層13は、固体潤滑剤の含有量の上限を60体積%程度にすることが好ましい。固体潤滑剤の含有量が60体積%を超えると、樹脂バインダ20の不足により樹脂オーバレイ層13の物理的な強度の低下を招くおそれがあるからである。但し、この固体潤滑剤の含有量の上限値は、樹脂オーバレイ層13を構成する樹脂バインダ20及び固体潤滑剤の組み合わせによって調整可能である。
【0019】
本実施形態の場合、固体潤滑剤の粒子21は、
図1に示すように長軸31及び短軸32を有する異方性の形状を有している。この固体潤滑剤の粒子21は、樹脂バインダ20に分散している。樹脂オーバレイ層13に含まれる固体潤滑剤の粒子21は、摺動面14と平行な仮想的な直線33を0°、摺動面14に対して垂直に厚さ方向へ伸びる仮想的な軸34を90°と定義したとき、長軸31はこの0°から90°の範囲で角度θとして傾斜している。具体的には、
図3に示すように樹脂オーバレイ層13を厚さ方向へ任意の断面で切断し、この断面に任意の観察領域Sを設定する。そして、この観察領域Sに含まれる粒子21の総数は、総数Nと定義する。本実施形態では、観察領域Sを区画する境界線を跨ぐ粒子21は計測しない。また、この観察領域Sに含まれる粒子21から
図1に示すように各粒子21の長軸31が抽出される。この場合、観察領域Sは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)で観察された画像を解析ソフトによって解析している。本実施形態では、解析ソフトとして、「Image-pro plus ver.4.5」を用いている。具体的には、得られた画像に含まれる固体潤滑剤の粒子21は、楕円に近似され、近似された楕円からこの粒子21の長軸31の角度θを検出する。楕円への近似は、例えば対象とする粒子21と同一の面積、同一の1次モーメント及び2次モーメントを有する楕円を算出することにより行なう。本実施形態では、観察領域Sに含まれる粒子21のうち、長軸31が0.3μm以上のものを観察対象としている。なお、当然ながら長軸の角度θは、直線33と軸34との間に2つ計測されるとき、より小さい方を採用する。
【0020】
観察領域Sに含まれる粒子21は、抽出した長軸31の角度θから、70°≦θ≦90°となる第一粒子と、θ≦20°となる第二粒子とに分類される。そして、観察領域Sに含まれる第一粒子の数はN1とし、第二粒子の数はN2とする。これにより、観察領域Sに含まれる第一粒子の数N1の割合R1はR1=N1/Nと算出され、第二粒子の数N2の割合R2はR2=N2/Nと算出される。本実施形態の場合、第一粒子の数N1の割合R1は、3%≦R1≦20%である。これとともに、第二粒子の数N2の割合R2は、35%≦R2≦65%である。また、これらの場合、第一粒子の数N1の割合R1は6%≦R1≦15%であることが望ましく、第二粒子の数N2の割合R2は40%≦R2≦60%であることが望ましい。さらに、観察領域Sに含まれる粒子21は、上記の第一粒子及び第二粒子に加え、角度θが40°≦θ≦50°となる第三粒子にも分類される。観察領域Sに含まれる第三粒子の数をN3とすると、第三粒子の数N3の割合R3はR3=N3/Nと算出される。そして、この第三粒子の数N3の割合R3は、5%≦R3≦15%であることが望ましい。
【0021】
樹脂バインダ20に含まれる固体潤滑剤の粒子21は、上述のように角度θを有している。このとき、粒子21の長軸31の長さをLとすると、粒子21は、
図4に示すように垂直方向成分の長さL1=L×sinθと、水平方向成分の長さL2=L×cosθとを有する。この垂直方向成分の長さL1と水平方向成分の長さL2との関係を示す値は、下記の式(2)によって算出される。このとき、垂直成分率Rxは、0.20≦Rx≦0.50であることが望ましく、0.25≦Rx≦0.40であることがより望ましい。この垂直成分率Rxは、観察領域Sに含まれる固体潤滑剤の粒子21から次の式(2)を用いて算出している。
Rx=ΣLsinθ/{Σ(Lsinθ+Lcosθ)}
=ΣL1/Σ(L1+L2) 式(2)
【0022】
上記のように摺動面14に平行な直線33を0°とし、これに垂直な仮想的な軸34を90°としたとき、この直線33から軸34までの0°~90°の範囲は、10°刻みでA-10°<x≦A°(A=10、20、30、・・・、90)の角度範囲に区分される。すなわち、直線33から軸34までの範囲は、0°≦x≦10°、10°<x≦20°、20°<x≦30°、30°<x≦40°、40°<x≦50°、50°<x≦60°、60°<x≦70°、70°<x≦80°、80°<x≦90にそれぞれ分割される。この場合、A=10のときに限り、下限となるθ=0°は0°~10°の角度範囲に含むものとする。観察領域Sに含まれる粒子21の長軸31の角度θは、この10°の角度範囲のいずれに属するか分類される。そして、区分された10°の角度範囲ごとに、長軸31が当該角度範囲となる粒子21の数をカウントし、その数はnとする。このとき、観察領域Sに含まれる粒子21の分布割合n/N(%)は、下記の式(1)で示される分布を示すことが好ましい。式(1)において、eは自然対数であり、aは分布のパラメータである。分布のパラメータaは、例えば10≦a≦160であることが望ましい。なお、式(1)において、左辺のn/N[%]は、百分率として換算した値を意味する。
【0023】
【0024】
次に、本実施形態による摺動部材10の製造方法を説明する。
図5に示すように裏金層11の一方の面側に軸受合金層12が形成されたバイメタル40は、円筒形状に成形される。この場合、バイメタル40は、裏金層11を円筒形状とした後、内周側に軸受合金層12を形成してもよい。また、バイメタル40は、円筒形状に限らず、半円筒形状又は円筒を周方向へ複数に分割した形状であってもよい。バイメタル40は、内周側である軸受合金層12と対向する位置にスプレー部41及び熱源42が配置される。スプレー部41は、ノズル43を有している。ノズル43は、樹脂オーバレイ層13を形成するための固体潤滑剤の粒子21を含む樹脂バインダ20を噴射する。また、熱源42は、噴射された樹脂バインダ20を乾燥するためにバイメタル40の内周側を加熱する。
【0025】
本実施形態の場合、円筒形状に形成されたバイメタル40は、
図5の矢印で示すように周方向へ回転される。これにより、スプレー部41のノズル43は、回転するバイメタル40の内周側へ固体潤滑剤の粒子21を含む樹脂バインダ20を噴射する。バイメタル40の内周側に付着した樹脂バインダ20は、熱源42によって加熱され、乾燥される。
【0026】
単にスプレー部41のノズル43から固体潤滑剤の粒子21を含む樹脂バインダ20をバイメタル40の内周側に噴射する場合、樹脂バインダ20に含まれる固体潤滑剤の粒子21は不規則な姿勢となる。つまり、固体潤滑剤の粒子21は、姿勢が制御されることなく、角度θの分布がランダムとなる不規則な姿勢で樹脂バインダ20に含まれる。これに対し、本実施形態では、樹脂オーバレイ層13を形成するとき、バイメタル40は高速で回転されながら樹脂バインダ20が吹き付けられるとともに乾燥される。これにより、樹脂バインダ20は、吹き付けられた層の内部に先行して表面つまりノズル43に近い側が固化する。そのため、バイメタル40に付着した樹脂バインダ20は、表面が固化するとともに、内部が半乾き状態となる。これにより、樹脂バインダ20に含まれる固体潤滑剤の粒子21は、長軸31の表面に近い側が他の部分に先行して固化した樹脂バインダ20に捕捉されて姿勢の変化が制限される。一方、固体潤滑剤の粒子21は、樹脂バインダ20の内部が固化するまで、半乾きの樹脂バインダ20の内部で姿勢の変化が可能である。そのため、固体潤滑剤の粒子21は、バイメタル40の回転によって加わる遠心力によって、半乾きの樹脂バインダ20の内部で摺動面14に対する角度θが変化する。そして、樹脂バインダ20が内側まで完全に乾燥することにより、固体潤滑剤の粒子21はその姿勢が固定される。
【0027】
このように、本実施形態では、例えばバイメタル40の回転数、熱源42の温度、熱源42から形成される樹脂バインダ20までの距離などを調整することにより、樹脂バインダ20に含まれる固体潤滑剤の粒子21の角度θが制御される。なお、バイメタル40の回転数は、樹脂オーバレイ層13を形成する初期から終期まで一定であってもよく、形成の途中に加速及び減速してもよい。
【0028】
以上のように、固体潤滑剤の粒子21を含む樹脂バインダ20をバイメタル40に噴射し、固化した樹脂バインダ20が所望の厚さまで形成されると、樹脂オーバレイ層13を備える摺動部材10が形成される。
【0029】
以下、本実施形態による摺動部材10の実施例を比較例と対比しながら説明する。
上記の手順によって製造した摺動部材10の実施例及び比較例の試料は、
図6に示す条件を用いて摩耗量から耐摩耗性を評価するとともに、摩擦係数を測定した。
図6に示す試験条件において、回転数は、500rpmで一定ではなく、5秒ごとに0rpmと500rpmとを繰り返す「起動-停止」試験である。
【0030】
図7に示すように、割合R1及び割合R2の双方を充足する実施例1~実施例5は、いずれも摩擦係数の増大を招くことなく、樹脂オーバレイ層13の強度が向上し、耐摩耗性が向上している。これに対し、比較例1は、割合R1及び割合R2をいずれも充足しておらず、実施例1~実施例5と比較して摩耗量が増大している。同様に、割合R1を充足しない比較例2及び比較例3は、実施例1~実施例5と比較して摩耗量が増大している。これにより、粒子21のうち角度θが70°~90°となる第一粒子の割合R1が増加すると、厚さ方向の荷重をこの第一粒子が受け止め、この荷重に対する耐性が大きくなると考えられる。これにより、厚さ方向で支持する第一粒子が増加した樹脂オーバレイ層13は、強度が向上し、耐摩耗性が向上する。一方、割合R1が過大となる比較例5及び比較例6は、耐摩耗性が向上するものの、摩擦係数が悪化している。これは、樹脂オーバレイ層13に含まれる固体潤滑剤の粒子21のうち立ち上がった状態の第一粒子の割合R1が過大になると、摺動面14に露出する固体潤滑剤の粒子21の露出面積が減少するためと考えられる。同様に、粒子21のうち第二粒子の割合R2が減少した比較例4及び比較例6は、摩擦係数が悪化することが分かる。第二粒子は、樹脂オーバレイ層13において摺動面14に沿って寝た状態となる。そのため、摺動面14に露出したとき、相手部材と比較的大きな面で接する。そのため、第二粒子は、樹脂オーバレイ層13の摩擦係数の低減に寄与する。
以上、
図7に示すように第一粒子の割合R1及び第二粒子の割合R2を適切な範囲に制御することにより、樹脂オーバレイ層13は摩擦係数の増大を招くことなく、耐摩耗性の向上を図ることができる。
【0031】
図8は、樹脂オーバレイ層13に含まれる固体潤滑剤の粒子21のうち第三粒子の割合R3について検証している。第三粒子の割合R3が5%≦R3≦15%となる実施例7~実施例9は、割合R1及び割合R2を充足するものの割合R3がこれらの範囲に属していない実施例6と比較して摩耗量が顕著に減少している。これは、第三粒子は、樹脂オーバレイ層13において第一粒子と第二粒子との中間の姿勢となる。そのため、第三粒子は、樹脂オーバレイ層13の内側において筋交いのような役割を果たす。これにより、第三粒子は、樹脂オーバレイ層13の強度の向上に寄与すると考えられる。一方、割合R1及び割合R2を充足するものの第三粒子の割合R3が上限を超えた実施例10は、摩耗量が減少するものの、摩擦係数がやや悪化している。このことからも、第三粒子の割合R3は、適切な範囲に制御することが好ましいことが分かる。
【0032】
図9は、樹脂オーバレイ層13に含まれる固体潤滑剤の粒子21の垂直成分率Rxについて検証している。垂直成分率Rxが0.20≦Rx≦0.50となる実施例12~実施例18は、耐摩耗性が向上するとともに、摩擦係数が維持又は減少することが分かる。特に、垂直成分率Rxが0.25≦Rx≦0.40となる実施例13~実施例16は、耐摩耗性と摩擦係数とを両立していることが分かる。このことから、垂直成分率Rxは、耐摩耗性の向上と摩擦係数の減少との両立に寄与していることが分かる。
【0033】
図10は、固体潤滑剤の粒子21の分布について検証している。
図10に示すように、固体潤滑剤の粒子21の分布が式(1)を充足している実施例21及び実施例22は、摩擦係数が維持されたまま、摩耗量のさらなる顕著な減少が図られている。このことから、固体潤滑剤の粒子21の分布が式(1)を充足するとき、摩擦係数を維持しつつ、耐摩耗性の向上が図られることが分かる。
【0034】
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0035】
図面中、10は摺動部材、12は軸受合金層、13は樹脂オーバレイ層、14は摺動面、20は樹脂バインダ、21は粒子を示す。