IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ グンゼ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-人工血管及び人工血管の製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】人工血管及び人工血管の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/16 20060101AFI20240605BHJP
   A61F 2/06 20130101ALI20240605BHJP
【FI】
A61L27/16
A61F2/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019231642
(22)【出願日】2019-12-23
(65)【公開番号】P2021097909
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】中山 英隆
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/022750(WO,A1)
【文献】特開2018-186903(JP,A)
【文献】特開2017-029300(JP,A)
【文献】特開2018-102422(JP,A)
【文献】特表2016-502426(JP,A)
【文献】特開2018-102652(JP,A)
【文献】特開2007-268239(JP,A)
【文献】特開平01-091857(JP,A)
【文献】特開平04-122252(JP,A)
【文献】特開平06-189984(JP,A)
【文献】米国特許第04319363(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/16
A61F 2/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質のスポンジ層を不織布層及びメッシュ層で強化したチューブ状の人工血管であって、
前記スポンジ層、前記不織布層及び前記メッシュ層は前記人工血管の中心側からこの順番で積層しており、
前記スポンジ層及び前記不織布層は生体吸収性材料からなり、
前記不織布層は繊維径が0.5μm以上10μm以下であり、
前記メッシュ層は加熱処理されたポリフッ化ビニリデンからなるメッシュからなり、
前記加熱処理の温度が134℃以上185℃以下である
人工血管。
【請求項2】
メッシュ層を構成するポリフッ化ビニリデンからなる糸の太さが1μm以上700μm以下である請求項1記載の人工血管。
【請求項3】
生体吸収性材料からなる多孔質のチューブ状の人工血管を製造する方法であって、
生体吸収性材料と、前記生体吸収性材料に対して相対的に溶解度の低い溶媒1と、前記生体吸収性材料に対して相対的に溶解度が高く、かつ、前記溶媒1と相溶しない溶媒2と、前記溶媒1及び溶媒2と相溶する共溶媒3とを用いて、前記生体吸収性材料を溶解した均一溶液を調製する溶解工程と、
前記均一溶液を、棒状体の表面に塗工する塗工工程と、
前記棒状体の表面の均一溶液を冷却し、凍結乾燥することで、棒状体の周りに生体吸収性材料からなるチューブ状のスポンジ層を形成するスポンジ層形成工程と、
前記スポンジ層の表面に、電界紡糸法により生体吸収性材料からなる極細繊維を吐出して、前記スポンジ層上に繊維径が0.5μm以上10μm以下の不織布層を形成する不織布層形成工程と、
ポリフッ化ビニリデンからなる糸を編んでメッシュのチューブ状とし、134℃以上185℃以下の温度で加熱してメッシュ層を得るメッシュ層製造工程と、
前記メッシュ層を前記スポンジ層と前記不織布層との積層体上にかぶせるメッシュ層形成工程とを有す
工血管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動脈等の負荷が大きい部位に用いた場合であっても拡張が起き難い人工血管に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の細胞工学技術の進展によって、ヒト細胞を含む数々の動物細胞の培養が可能となり、また、それらの細胞を用いてヒトの組織や器官を再構築しようとする、いわゆる再生医療の研究が急速に進んでいる。
例えば、臨床において人工血管として最も使用されているのはゴアテックス等の非吸収性高分子を用いたものであるが、非吸収性高分子を用いた人工血管は、移植後長期にわたって異物が体内に残存することから、継続的に抗凝固剤等を投与しなければならないという問題があり、小児に使用した場合には成長に伴って改めて手術する必要が生じるという問題もあった。これに対して、再生医療による血管組織の再生が試みられている。
【0003】
再生医療においては、細胞が増殖分化して三次元的な生体組織様の構造物を構築できるかがポイントであり、例えば、基材を患者の体内に移植し、周りの組織又は器官から細胞を基材中に侵入させ増殖分化させて組織又は器官を再生する方法が行われている。
再生医療用の基材として、生体吸収性材料からなる多孔質基材が提案されている。(例えば、特許文献1~3)生体吸収性材料からなる多孔質基材を再生医療の基材として用いることにより、その空隙部分に細胞が侵入して増殖し、早期に組織が再生される。そして一定期間経過後には分解して生体に吸収されることから、再手術により取り出す必要もない。
【0004】
一方、人工血管には血行動態に耐えることができる強度及び柔軟性が要求される。人工血管の強度や耐久性が不足すると、人工血管が負荷に耐えきれず拡張を始め、最終的にはバーストしてしまう。特に生体吸収性材料を用いた人工血管は、生体内へ吸収されるにつれて強度が低下していくことが避けられない一方で、血管再生の速度は体質、現病、既往歴等によって異なってくることから、非生体吸収性の人工血管よりも長期間血行動態に耐えられるだけの強度を安定的に確保することが困難となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-49018号公報
【文献】特開2006-291180号公報
【文献】特開2010-260952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、動脈等の負荷が大きい部位に用いた場合であっても拡張が起き難い人工血管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、多孔質のスポンジ層を不織布層及びメッシュ層で強化したチューブ状の人工血管であって、前記スポンジ層、前記不織布層及び前記メッシュ層は前記人工血管の中心側からこの順番で積層しており、前記スポンジ層及び前記不織布層は生体吸収性材料からなり、前記不織布層は繊維径が0.5μm以上10μm以下であり、前記メッシュ層は加熱処理されたポリフッ化ビニリデンからなるメッシュからなる人工血管である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者らは、チューブ状の多孔質のスポンジ層上を不織布層で補強し、ポリフッ化ビニリデンからなるメッシュのチューブ状体で更に補強することを検討した。従来の生体吸収性材料からなる人工血管を非生体吸収性材料であるポリフッ化ビニリデンのメッシュで補強することで、生体吸収性材料が体内へ吸収されて強度が低下しても血行動態に耐えられる強度を確保できると考えられた。しかしながら、このような人工血管であっても血管の拡張が生じてしまうことがあった。そこで、本発明者らは、更に検討した結果、ポリフッ化ビニリデンからなるメッシュのチューブ状体に加熱処理を施すことで、メッシュ層の引張応力が高まり、負荷の大きな部位に用いた場合であっても人工血管の拡張を抑えられることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の人工血管は、多孔質のスポンジ層を不織布層及びメッシュ層で強化したチューブ状の人工血管であって、上記スポンジ層、上記不織布層及び上記メッシュ層は上記人工血管の中心側からこの順番で積層している。
多孔質のスポンジ層を強度及び柔軟性が高い不織布層及びメッシュ層で強化することで、人工血管の強度を向上させることができる。なお、一部の層が内側の層に埋入している場合も本発明に含まれる。
【0010】
上記スポンジ層は、生体吸収性材料からなる。
上記スポンジ層は、侵入した細胞の足場となり、血管の再生を促進させる役割を有する。また、スポンジ層が生体吸収性材料からなることで、侵入した細胞が増殖して血管が再生するにつれてスポンジ層が体内へ吸収されていき、最終的に再生した血管と入れ替わる。
【0011】
上記スポンジ層を構成する生体吸収性材料は特に限定されず、例えば、ポリグリコリド、ポリラクチド、ポリ-ε-カプロラクトン、ラクチド-グリコール酸共重合体、グリコリド-ε-カプロラクトン共重合体、ラクチド-ε-カプロラクトン共重合体、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリ-α-シアノアクリレート、ポリ-β-ヒドロキシ酸、ポリトリメチレンオキサレート、ポリテトラメチレンオキサレート、ポリオルソエステル、ポリオルソカーボネート、ポリエチレンカーボネート、ポリ-γ-ベンジル-L-グルタメート、ポリ-γ-メチル-L-グルタメート、ポリ-L-アラニン、ポリグリコールセバスチン酸等の合成高分子や、デンプン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、ペクチン酸及びその誘導体等の多糖類や、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、フィブリン等のタンパク質等の天然高分子等が挙げられる。これらの生体吸収性材料は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0012】
上記スポンジ層は、最内層に相対的に孔径が小さなスキン層を有し、該スキン層の周りに相対的に孔径が大きな多孔質層を有することが好ましい。
スポンジ層の内径側(血流と接する側)の孔径が外径側の孔径より小さいことで、肥厚化や石灰化の起こりにくい、極めて正常な血管を再生することができる。上記スキン層及び多孔質層は後述する製造方法によって形成することができる。
【0013】
スキン層と多孔質層を有することにより極めて正常に血管を再生できる理由は不明であるが、以下のような理由ではないかと考えられる。血管が再生されるためには、人工血管全体としては細胞が侵入できる充分な孔径の孔が形成されている必要がある一方、直接血流と接する内径側部分では、肥厚化や石灰化の原因となる血小板の付着を防止することが重要である。上記スポンジ層の内径側に外径側と比べて相対的に孔径が小さなスキン層が形成されることにより、血流と接する内径側部分では血小板の付着を防止でき、かつ、その他の部分では細胞が容易に侵入できるため、正常な血管が再生されるのではないかと考えられる。
【0014】
上記スキン層の孔構造を構成する孔の孔径の好ましい下限は0.5μm、好ましい上限は20μmである。上記スキン層の孔構造を構成する孔の孔径がこの範囲内であると、肥厚化や石灰化をより抑えることができる。上記スキン層の孔構造を構成する孔の孔径のより好ましい下限は1μm、より好ましい上限は18μmであり、更に好ましい下限は3μm、更に好ましい上限は15μmである。
【0015】
上記スキン層の厚みは、上記多孔質層との境界が必ずしも明確ではないが、好ましい下限は0.1μm、好ましい上限は30μmである。スキン層の厚みがこの範囲内であると、肥厚化や石灰化の起こりにくい、極めて正常な血管を再生できる。上記スキン層の厚みが0.1μm以上であると、スキン層の周りに上記多孔質層をより均一に形成させることができ、30μm以下であると、細胞浸潤性がより向上して、血管の再生速度をより向上させることができる。上記スキン層の厚さのより好ましい下限は0.5μm、より好ましい上限は20μmである。
【0016】
上記多孔質層の孔構造を構成する孔の孔径の好ましい下限は1μm、好ましい上限は500μmである。上記多孔質層の孔構造を構成する孔の孔径が1μm以上であると、細胞浸潤性がより向上し、500μm以下であると、人工血管を通過して排出されてしまう細胞を減少させることができるため、血管の再生速度をより向上させることができる。上記多孔質層の孔構造を構成する孔の孔径のより好ましい下限は5μm、好ましい上限は400μmであり、更に好ましい下限は10μm、更に好ましい上限は300μmである。
【0017】
上記多孔質層の孔壁自体の少なくとも1つ以上の孔や穴の最大径は、上記多孔質層の孔構造を構成する孔径と同じか、それ以下であることが好ましい。上記多孔質層の孔壁自体の少なくとも1つ以上の孔や穴の最大径の好ましい上限は500μmであり、より好ましい上限は400μm、更に好ましい上限は300μmである。
【0018】
上記不織布層は生体吸収性材料からなる。
上記不織布層は、上記スポンジ層を補強するとともに、血流の圧力によって血液が漏れ出すことを防止する役割を有する。更に、移植後に外部からの圧迫に対して充分な強度を発揮して、キンキング(折れる現象)によって血管が閉塞するのを防止することができる。また、上記スポンジ層と同様に、上記不織布層が生体吸収性材料からなることで、侵入した細胞が増殖して血管が再生するにつれてスポンジ層が体内へ吸収されていき、最終的に再生した血管と入れ替わる。上記不織布層を構成する生体吸収性材料は、上記スポンジ層と同様のものを用いることができる。また、上記スポンジ層と上記不織布層は、同じ生体吸収性材料を用いてもよく、異なる生体吸収性材料を用いてもよい。
【0019】
上記不織布層は、繊維径が0.5μm以上10μm以下である。
従来の人工血管の不織布層は繊維径が小さいものが主流であり、繊維径の小さい不織布は繊維の密度が高く、繊維同士の接触する点が多くなることから、柔軟性が低下する原因となっていた。特に、強度を高めるために不織布層を厚くした場合は、柔軟性低下の問題がより顕著となっていた。また、繊維の密度が高いことから孔径も小さくなり、血管外からの細胞侵入性も低下してしまっていた。本発明の人工血管は、不織布層の繊維径を従来より太くすることで、繊維単位の剛性が高まり、人工血管の強度が向上する一方で、繊維径が太くなると、繊維の密度が低下して繊維同士の接触点が少なくなることから、不織布層を厚くしても柔軟性を確保することができる。更に、繊維径を太くすると孔径が大きくなることから、血管外からの細胞侵入性を高めることもできる。上記不織布層の繊維径の好ましい下限は1.0μm、より好ましい下限は1.5μm、好ましい上限は8.0μm、より好ましい上限は5.0μmである。
【0020】
上記不織布層は、孔径が3μm以上100μm以下であることが好ましい。
不織布層の孔径が上記範囲であることで、得られる人工血管の細胞侵入性をより向上させることができる。上記不織布層の孔径の好ましい下限は4.0μm、より好ましい下限は5.0μm、好ましい上限は80μm、より好ましい上限は50μmである。
なお、上記不織布層の繊維径及び孔径は、不織布層表面の電子顕微鏡写真を撮影し、任意の10点で測定した値を平均することで求めることができる。
【0021】
上記不織布層の厚みの好ましい下限は10μm、好ましい上限は600μmである。上記不織布層の厚みがこの範囲内であると、細胞侵入性と心血管系に用いた場合であっても血行動態に耐えられる強度及び柔軟性を兼ね備えた人工血管とすることができる。
【0022】
上記メッシュ層は、加熱処理されたポリフッ化ビニリデンからなるメッシュからなる。
上記メッシュ層は人工血管の強度を長期間安定的に保持する役割を有する。上記メッシュ層がポリフッ化ビニリデンからなる糸によって構成されていることで、人工血管が体内へ吸収されていってもメッシュ層は体内へ吸収されないことから、人工血管の強度を維持することができる。また、上記メッシュ層はポリフッ化ビニリデンからなるため安全性が高く、メッシュ状であるため柔軟性も確保することができる。更に、上記メッシュ層が加熱処理されていることによって、得られる人工血管を動脈等の負荷が大きい部位に用いた場合であっても拡張が起き難い高い強度とすることができる。加熱処理によってメッシュ層の強度が向上する理由は明らかではないが、加熱処理によって、ポリフッ化ビニリデンが収縮し、メッシュの編み目が締まることが原因の1つではないかと考えられる。
なお、上記メッシュ層は、加熱処理によって高い強度を発揮するものの、強度は様々な要素によって決定されるため、それらを直接特定することは、不可能であるか、又はおよそ実際的でないと言わざるを得ない。即ち、本発明のメッシュ層を記載するにあたって、製造方法を用いることは許容されるべきである。
【0023】
上記加熱処理の温度は134℃以上185℃以下であることが好ましい。
上記範囲の温度は、ポリフッ化ビニリデンの融点に近いため、ポリフッ化ビニリデンが効果的に収縮することから、得られる人工血管の強度をより高めることができる。上記加熱処理の温度は 170℃以上180℃以下であることがより好ましい。
【0024】
上記メッシュ層は上記不織布層に埋入されていることが好ましい。
メッシュ層が不織布層に埋入されていることで、メッシュ層をずれ難くすることができ、強度の長期的な安定性を向上させることができる。メッシュ層は上記不織布層の外側の表面から50μm以上500μm以下の深さに埋入されていることが好ましく、15μm以上100μm以下の深さに埋入されていることがより好ましい。
【0025】
上記メッシュ層を構成するポリフッ化ビニリデンからなる糸の太さは特に限定されないが1μm以上700μm以下であることが好ましい。
ポリフッ化ビニリデンからなる糸の太さが上記範囲であることで、強度と柔軟性のバランスに優れた人工血管とすることができる。上記ポリフッ化ビニリデンからなる糸の太さは10μm以上350μm以下であることがより好ましい。
【0026】
上記メッシュ層は、メッシュの孔径が30μm以上500μm以下であることが好ましい。
メッシュの孔径が上記範囲であることで、強度と柔軟性を確保しながらも人工血管外からの細胞の侵入を阻害し難くすることができる。上記メッシュの孔径は50μm以上200μm以下であることがより好ましい。
【0027】
上記メッシュ層は上記ポリフッ化ビニリデンからなる糸をメッシュ編みすることで得ることができる。上記ポリフッ化ビニリデンからなる糸をメッシュ編みする方法は従来公知の方法を特に限定なく用いることができる。
【0028】
ここで、加熱を行う前後のメッシュ層の写真を図1に示した。図1(a)に示すように、加熱を行う前のメッシュ層は、編み目が緩く、力が加わった際にメッシュ層が拡張してしまう余地が残されていることから、動脈等の負荷が大きい部位に用いた場合に人工血管が拡張してしまう原因となっていた。一方で、図1(b)に示すように、加熱処理を行った後のメッシュ層は、加熱によって熱可塑性材料からなる糸が収縮することで、メッシュの編み目が締まることから、力が加わってもメッシュ層が伸びることがなく、血管の拡張を起き難くすることができると考えられる。
【0029】
本発明の人工血管の内径は特に限定されないが、一般的な血管の内径から、好ましい下限は0.5mm、好ましい上限は8.0mm程度である。また、本発明の人工血管の外径は特に限定されないが、一般的な血管の外径から、好ましい下限は1.0mm、好ましい上限は10.0mm程度である。
特に後述する人工血管の製造方法によれば、心血管系に用いるような内径の大きな人工血管も、内径が2.0~5.0mm程度の抹消血管の再生に用いるような人工血管も容易に製造することができる。
【0030】
本発明の人工血管は、更に、ヘパリン等の血栓の形成を防止する剤や、bFGF等の血管の再生を促進する成長因子等を含有してもよい。更に、移植に先立って、間葉系幹細胞等の細胞を播種してもよい。
【0031】
生体吸収性材料からなる多孔質のチューブ状の人工血管を製造する方法であって、生体吸収性材料と、前記生体吸収性材料に対して相対的に溶解度の低い溶媒1と、前記生体吸収性材料に対して相対的に溶解度が高く、かつ、前記溶媒1と相溶しない溶媒2と、前記溶媒1及び溶媒2と相溶する共溶媒3とを用いて、前記生体吸収性材料を溶解した均一溶液を調製する溶解工程と、前記均一溶液を、棒状体の表面に塗工する塗工工程と、前記棒状体の表面の均一溶液を冷却し、凍結乾燥することで、棒状体の周りに生体吸収性材料からなるチューブ状のスポンジ層を形成するスポンジ層形成工程と、前記スポンジ層の表面に、電界紡糸法により生体吸収性材料からなる極細繊維を吐出して、前記スポンジ層上に繊維径が0.5μm以上10μm以下の不織布層を形成する不織布層形成工程と、ポリフッ化ビニリデンからなる糸を編んでメッシュのチューブ状とし、134℃以上185℃以下の温度で加熱してメッシュ層を得るメッシュ層製造工程と、前記メッシュ層を前記スポンジ層と前記不織布層との積層体上にかぶせるメッシュ層形成工程とを有する人工血管の製造方法もまた、本発明の1つである。
【0032】
本発明の人工血管の製造方法は、まず、生体吸収性材料と溶媒1と溶媒2と共溶媒3とを用いて、生体吸収性材料を溶解した均一溶液を調製する溶解工程を行う。
上記生体吸収性材料は、本発明の人工血管のスポンジ層を構成する生体吸収性材料と同様のものを用いることができる。
【0033】
上記溶媒1は、上記生体吸収性材料に対して相対的に溶解度の低い、いわゆる貧溶媒である。ここで相対的に溶解度の低いとは、上記溶媒2よりも上記生体吸収性材料を溶解しにくい性質を有することを意味する。上記溶媒1としては、上記生体吸収性材料が合成高分子である場合には、例えば、水、メタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール等を用いることができる。なかでも、取り扱い性に優れることから、水が好適である。
【0034】
上記溶媒2は、上記生体吸収性材料に対して相対的に溶解度の高い、いわゆる良溶媒である。
上記溶媒2は、上記溶媒1と相溶しないものである。ここで相溶しないとは、25℃の室温下で混合、撹拌しても相分離することを意味する。
上記溶媒2としては、上記生体吸収性材料が合成高分子であって、上記溶媒1として水を選択した場合には、例えば、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミノケトン、シクロヘサノン、クロロホルム、酢酸エチル、トルエン等の有機溶媒を用いることができる。なかでも、比較的毒性が低いことから、メチルエチルケトン、クロロホルム、等が好適である。
【0035】
上記共溶媒3は、上記溶媒1と溶媒2とのいずれとも相溶する。このような共溶媒3を組み合わせることにより、上記溶媒1と溶媒2とが非相溶であっても相分離法による人工血管を製造することが可能となり、溶媒1と溶媒2との組み合わせの選択肢が飛躍的に広がる。ここで相溶するとは、25℃の室温下で混合、撹拌しても相分離しないことを意味する。
【0036】
上記共溶媒3としては、上記生体吸収性材料が合成高分子であって、上記溶媒1として水を、上記溶媒2として有機溶媒を選択した場合には、例えば、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、テトラヒドロフラン等を用いることができる。
【0037】
上記溶媒1と溶媒2との配合比は特に限定されないが、溶媒1と溶媒2とが重量比で1:1~1:100の範囲内であることが好ましい。この範囲内であると、均一な人工血管を製造することができる。より好ましくは、1:10~1:50の範囲内である。上記溶媒1と溶媒2との合計と上記共溶媒3の配合比は特に限定されないが、溶媒1と溶媒2との合計と共溶媒3が重量比で1:0.01~1:0.5の範囲内であることが好ましい。この範囲内であると、均一な人工血管を製造することができる。より好ましくは、1:0.02~1:0.3の範囲内である。
【0038】
得られる人工血管の孔径は、上記溶媒1と溶媒2との配合比を調整することにより制御することができる。具体的には、上記溶媒1の比率を高くすると得られる人工血管の孔径が大きくなり、上記溶媒2の比率を高くすると得られる人工血管の孔径が小さくなる。しかしながら、溶媒1と溶媒2との配合比を調整する方法では、同時にかさ密度も変動してしまい、任意の孔径とかさ密度を有する人工血管を製造することは困難である。
そこで本発明の人工血管の製造方法では、上記共溶媒3を2種以上組み合わせて用いることが好ましい(以下、用いる複数の共溶媒3のことをそれぞれ「共溶媒3-1」、「共溶媒3-2」、・・・といい、これらの全体のことを共溶媒3ともいう。)。上記共溶媒3を2種以上組み合わせて、例えば、共溶媒3-1と共溶媒3-2の配合比を調整することにより、得られる人工血管の孔径を制御することができる。即ち、上記溶媒1と溶媒2と共溶媒3の配合比を一定としたまま、共溶媒3に含まれる共溶媒3-1と共溶媒3-2の配合比を調整することにより、得られる多孔質体の孔径を制御することができる。これは、得られる人工血管のかさ密度をほぼ一定として、孔径のみを調整可能なことを意味する。このような本発明の人工血管の製造方法によれば、任意の孔径とかさ密度を有する人工血管を製造することが容易になる。
【0039】
上記生体吸収性材料と各溶媒の組み合わせとしては特に限定されないが、例えば、上記生体吸収性材料がラクチド-ε-カプロラクトン共重合体に対して、上記溶媒1が水、溶媒2がメチルエチルケトン、共溶媒3-1がアセトン、共溶媒3-2がエタノールである組み合わせや、上記生体吸収性材料がポリラクチドに対して、上記溶媒1が水、溶媒2がクロロホルム、共溶媒3-1がテトラヒドロフラン、共溶媒3-2がエタノールである組み合わせや、上記生体吸収性材料がポリラクチドに対して、上記溶媒1が水、溶媒2がクロロホルム、共溶媒3-1がアセトン、共溶媒3-2がエタノールである組み合わせ等が挙げられる。
【0040】
上記溶解工程においては、生体吸収性材料と溶媒1と溶媒2と共溶媒3とを用いて、生体吸収性材料を溶解した均一溶液を調製する。
より具体的に上記均一溶液を調製する方法としては、例えば、生体吸収性材料と、上記溶媒1、溶媒2及び共溶媒3を含む混合溶媒(以下、単に「混合溶媒」ともいう。)を混合した後、加熱する方法が挙げられる。また、より容易に均一溶液を調製する方法として、例えば、上記混合溶媒を予め加熱し、該加熱した混合溶媒に生体吸収性材料を加える方法や、生体吸収性材料をいったん溶媒2に溶解した後、加熱しながら溶媒1及び共溶媒3を加える方法等も挙げられる。
上記混合方法は特に限定されず、例えば、スターラチップ、撹拌棒等を用いた公知の混合方法を用いることができる。
【0041】
上記溶解工程における加熱の温度としては、上記生体吸収性材料が均一に溶解する温度であれば特に限定されないが、上記溶媒1、溶媒2及び共溶媒3のいずれの沸点よりも低い温度であることが好ましい。沸点以上の温度にまで加熱すると、各溶媒の配合比が変動して、得られる人工血管の孔径、かさ密度を制御できなくなることがある。
【0042】
本発明の人工血管の製造方法は、次いで上記均一溶液を、棒状体の表面に塗工する塗工工程を行う。
上記棒状体は、多孔質体をチューブ状に成形するための部材であり、チューブ状の人工血管の内径に略該当する。塗工工程の際に、上記棒状体として特にステンレスや樹脂被覆ステンレス等の金属からなる棒状体を用いることで、上記スキン層及び多孔質層を有するスポンジ層を形成することができる。また、棒状体の種類や冷却方法を調整することにより、内径側にスキン層を有し、かつ、該スキン層の周りの多孔質層の孔径が外径側にいくに従い大きくなる形態の人工血管も製造することができる。なお、逆に、外径側にスキン層を有し、かつ、該スキン層の内径側の多孔質層の孔径が内径側にいくに従い大きくなる形態の人工血管も製造することも可能である。
【0043】
上記均一溶液を棒状体の表面に塗工する方法としては特に限定されず、例えば、棒状体を均一溶液中に1回又は複数回ディップする方法や、上記棒状体の直径よりも内径の大きな筒状体の中に棒状体を配置し、棒状体と筒状体との隙間に上記均一溶液を流し込む方法等が挙げられる。
なお、得られるスポンジ層は、析出の際に若干収縮することから、棒状体や筒状体の抜き取りは容易であるが、予め棒状体や筒状体の表面にコーティング等の滑り加工を施しておいてもよい。
【0044】
本発明の人工血管の製造方法では、次いで、上記棒状体の表面の均一溶液を冷却し、凍結乾燥することで、棒状体の周りに生体吸収性材料からなるチューブ状のスポンジ層を形成するスポンジ層形成工程を行う。
冷却することにより、不溶となった上記生体吸収性材料からなるスキン層及び多孔質層を有するスポンジ層が析出する。これは、上記生体吸収性材料が結晶化され析出する前に、上記生体吸収性材料が結晶化する温度以上で、液体状態の生体吸収性材料と各溶媒とがまず熱力学的不安定性により相分離(液-液相分離)するためと考えられる。
【0045】
上記冷却の温度としては、スポンジ層を析出できる温度であれば特に限定されないが、4℃以下であることが好ましく、-24℃以下であることがより好ましい。
なお、得られる人工血管の孔径は冷却速度にも影響される。具体的には、冷却速度が速いと孔径が小さくなり、冷却速度が遅いと孔径が大きくなる傾向がある。従って、特に孔径の小さい人工血管を得る場合には、冷却温度を低く設定して急速に冷却することが考えられる。
【0046】
上記凍結乾燥の条件としては特に限定されず、従来公知の条件で行うことができる。上記凍結乾燥は、上記冷却後にそのまま行ってもよいが、溶媒として用いた各種有機溶媒を除去する目的で、予めエタノールや水等に多孔質体を浸漬して置換してから、凍結乾燥を行ってもよい。
【0047】
本発明の人工血管の製造方法では、次いで、上記スポンジ層の表面に、電界紡糸法により生体吸収性材料からなる極細繊維を吐出して、前記スポンジ層上に繊維径が0.5μm以上10μm以下の不織布層を形成する不織布層形成工程を行う。
電界紡糸法は、ノズルとコレクタ電極の間に高電圧をかけた状態で、ノズルから生体吸収性材料を溶解した溶液をターゲットに向けて吐出する方法である。ノズルから発射された溶液は、電気力線に沿って繊維状となり、ターゲット上に付着する。
【0048】
本発明の人工血管の製造方法では、上記棒状体として金属からなる導電性の棒状体を用いることにより、該棒状体をコレクタ電極とすることができる。このとき、チューブ状の人工血管が形成された棒状体を回転させ、ノズルを複数回往復させながら吐出することにより、上記不織布層を形成することができる。なお、上記不織布層は、本発明の人工血管における不織布層と同様のものを用いることができる。
【0049】
上記不織布層は、生体吸収性材料を生体吸収性材料に対して若干溶けづらい溶媒(以下、溶媒4という)に溶解させた溶液を用いて電界紡糸法によって形成することが好ましい。
生体吸収性材料を溶かす溶媒として溶解度がやや低い溶媒を用いることで、繊維径が0.5μm以上10μm以下の不織布層を形成しやすくすることができる。
【0050】
上記溶媒4は、用いる生体吸収性材料に応じて適宜選択される。例えば、生体吸収性材料がポリ-ε-カプロラクトンである場合は、ヘキサフルオロ-2-プロパノール、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロホルム/メタノール混合溶媒等が挙げられる。なかでも、不織布層の繊維径及び孔径を上記範囲に調節しやすいことから、生体吸収性材料がポリ-ε-カプロラクトンである場合は、クロロホルム/メタノール混合溶媒であることが好ましい。
【0051】
上記クロロホルム/メタノール混合溶媒は、混合比(クロロホルム:メタノール)が体積比で1:9~9:1であることが好ましい。
クロロホルムとメタノールの混合比を上記範囲とすることで、不織布層の繊維径を上記範囲に調節しやすくすることができる。上記クロロホルムとメタノールの混合比は7:3~9:1であることがより好ましく、5:5~6:4であることが更に好ましい。
【0052】
上記クロロホルム/メタノール混合溶媒に上記生体吸収性材料を溶解させた溶液は、溶液中の生体吸収性材料の濃度が3~25重量%であることが好ましい。
生体吸収性材料の濃度を上記範囲とすることで、スポンジ層上に不織布層を形成した際に繊維がほぐれにくく、正常な不織布層を形成することができる。また、不織布層の繊維径及び孔径を上記範囲に調節しやすくすることができる。上記生体吸収性材料の濃度のより好ましい下限は3重量%、更に好ましい下限は4重量%、より好ましい上限は25重量%、更に好ましい上限は20重量%である。
【0053】
本発明の人工血管の製造方法は、次いで、ポリフッ化ビニリデンからなる糸を編んでメッシュのチューブ状とし、134℃以上185℃以下の温度で加熱してメッシュ層を得るメッシュ層製造工程を行う。
メッシュ層は人工血管の生体吸収性部位が体内に吸収されたときに強度を維持する役目を有する。本発明の人工血管の製造方法は、メッシュに加熱を行うことでメッシュの編み目を締めているため、加熱処理を行わないものと比べて血管の拡張を抑えることができる。上記加熱の温度は170℃以上180℃以下であることが好ましい。上記ポリフッ化ビニリデンからなる糸は本発明の人工血管のポリフッ化ビニリデンからなる糸と同様のものを用いることができる。また、ポリフッ化ビニリデンからなる糸を編んでメッシュのチューブ状とする方法及び加熱方法は従来公知の方法を特に限定なく用いることができる。
【0054】
本発明の人工血管の製造方法は、次いで、上記メッシュ層を上記スポンジ層と上記不織布層との積層体上にかぶせるメッシュ層形成工程を行う。
【0055】
本発明の人工血管の製造方法は、上記メッシュ層形成工程の後に更に上記不織布層形成工程を行ってもよい。
メッシュ層形成工程後に更に不織布層形成工程を行うことで、不織布層中にメッシュ層を埋入させることができるため、メッシュ層をずれ難くすることができ、強度の長期的な安定性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0056】
本発明によれば、動脈等の負荷が大きい部位に用いた場合であっても拡張が起き難い人工血管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】加熱を行う前後のメッシュ層の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0059】
(実施例1)
(1)スポンジ層の形成
25℃の室温下にて、L-ラクチド-ε-カプロラクトン共重合体(モル比50:50)0.25gを、溶媒1として水0.2mL、溶媒2としてメチルエチルケトン2.5mL、共溶媒3としてアセトン0.8mL及びエタノール0.2mLを含有する混合溶液に混合することで、L-ラクチド-ε-カプロラクトン共重合体を溶解しない不均一溶液が得られた。
次いで、得られた不均一溶液を60℃に加熱したところ、L-ラクチド-ε-カプロラクトン共重合体が溶解した均一溶液が得られた。
直径0.6mmのフッ素コーティングを施したステンレスからなる棒状体を、内径1.1mmのガラス管の中に配置し、該棒状体とガラス管との隙間に得られた均一溶液を流し込んだ。その状態で、冷凍庫内に入れることにより-30℃に冷却したところ、棒状体の周りにL-ラクチド-ε-カプロラクトン共重合体からなる多孔質体が析出した。ガラス管を取り外した後、得られた多孔質体を、50mLのエタノール槽中に-30℃、12時間浸漬し、次いで、50mLの水槽中に25℃、12時間浸漬して洗浄を行った。
その後、-40℃の条件で凍結乾燥を行い、厚み505μmのスポンジ層を得た。
【0060】
(2)不織布層の形成
ポリ-ε-カプロラクトンポリマー(アルドリッチ社製、440744-250G、数平均分子量:80000)をクロロホルム/メタノール混合溶媒(クロロホルム:メタノール=7:1(体積比))に溶解させ、ポリマー濃度9重量%のクロロホルム/メタノール溶液を調製した。次いで、回転するマンドレルに上記スポンジ層が形成された棒状体をコレクタ電極として、電界紡糸装置を用いてスポンジ層の表面に得られたクロロホルム/メタノール溶液を吐出した。このとき、クロロホルム/メタノール溶液を2つのノズルに充填し、棒状体を回転させながら複数回往復して吐出することにより厚み314μmの不織布層を形成した。なお、電界紡糸の条件は、電圧-30kV、ノズル径23Gとした。
不織布層の電子顕微鏡写真を倍率2000倍にて撮影し、任意の10点の繊維径を測定して平均することで繊維径を求めたところ、2.07μmであった。繊維径と同様の方法で不織布層の孔径を測定したところ、10μmであった。
一方で、
【0061】
(3)メッシュ層の形成
ポリフッ化ビニリデン(融点:134~180℃)からなる6-0号の糸をメッシュ編みすることで口径 5.0mmのチューブ状のメッシュを得た。次いで、電気炉を用いて170℃30分、175℃15分、176℃15分の順番で得られたメッシュを加熱することでメッシュ層を得た。その後、メッシュ層を得られたスポンジ層及び不織布層の積層体にかぶせることでメッシュ層を形成した。
【0062】
(4)人工血管の製造
メッシュ層上に更に不織布層の形成と同条件で厚み50μmの不織布層を形成することでメッシュ層を不織布層中に埋入させた。その後、棒状体を引き抜いて、人工血管を得た。得られた人工血管の内径をテーパーゲージ(新潟精機社製、710A)にて、外径をデジタルノギス(CD-20CP)にて測定したところ、内径は5.0mm、外径は6.05mmであった。
【0063】
(比較例1)
メッシュ層を形成しなかった以外は実施例1と同様にして人工血管を得た。
【0064】
(比較例2)
メッシュ層の形成において、PVDFの糸の太さを8-0号とし、加熱処理を行わなかった以外は実施例1と同様にして人工血管を得た。
【0065】
<評価>
実施例及び比較例で得られた人工血管について、以下の評価を行った。結果を表1に示した。
【0066】
(引張応力の評価)
ISO7198の8.3.1.項に従ってリング引張試験を行うことで、人工血管の引張応力を測定した。結果を表1に示した。なお、参考例として、羊(体重約30kg)の頸動脈を用いた結果も参考例1として表1に示した。
【0067】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、動脈等の負荷が大きい部位に用いた場合であっても拡張が起き難い人工血管を提供することができる。

図1