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特許7498568加圧防排煙システム及びそれを備えた建物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】加圧防排煙システム及びそれを備えた建物
(51)【国際特許分類】
   A62B 13/00 20060101AFI20240605BHJP
   E04H 1/04 20060101ALI20240605BHJP
   A62B 3/00 20060101ALI20240605BHJP
   F24F 7/06 20060101ALI20240605BHJP
   F24F 13/02 20060101ALI20240605BHJP
   E06B 7/02 20060101ALI20240605BHJP
【FI】
A62B13/00 B
E04H1/04 B
A62B3/00 C
F24F7/06 D
F24F13/02 C
E06B7/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020014790
(22)【出願日】2020-01-31
(65)【公開番号】P2021121259
(43)【公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】石崎 翔
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 寛徳
【審査官】森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-180840(JP,A)
【文献】特開2000-145176(JP,A)
【文献】特開2002-097806(JP,A)
【文献】特開平04-368534(JP,A)
【文献】特開2000-014812(JP,A)
【文献】特開2011-103916(JP,A)
【文献】特開2001-104499(JP,A)
【文献】特開平06-054918(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0178862(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62B 1/00-99/00
A62C 2/00-99/00
E04H 1/04
E06B 7/02
F24F 7/06
F24F 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各階を上下に貫通するボイド空間を中央部に有すると共に各階において当該ボイド空間の周囲に内部廊下を挟んで居室が配置された建物に設置され、
火災発生時に、前記内部廊下に通じる避難空間に対して加圧給気を行う加圧給気手段と、
前記加圧給気手段による加圧給気の実行に連動して前記内部廊下と大気側とを接続する空気逃し口を開放して当該内部廊下の空気を大気側へ逃す空気逃し手段と、を備えた加圧防排煙システムであって、
前記ボイド空間が、少なくとも上端部が大気開放された空間であり、
前記空気逃し口として、前記内部廊下と前記ボイド空間とを接続するボイド側空気逃し口が設けられており、
前記内部廊下と前記ボイド空間とを接続するボイド側給排気口が前記空気逃がし口とは別に設けられており、
前記加圧給気手段による加圧給気の実行に連動して前記ボイド側給排気口を閉鎖する給排気口閉鎖手段を備えた加圧防排煙システム。
【請求項2】
各階を上下に貫通するボイド空間を中央部に有すると共に各階において当該ボイド空間の周囲に内部廊下を挟んで居室が配置された建物に設置され、
火災発生時に、前記内部廊下に通じる避難空間に対して加圧給気を行う加圧給気手段と、
前記加圧給気手段による加圧給気の実行に連動して前記内部廊下と大気側とを接続する空気逃し口を開放して当該内部廊下の空気を大気側へ逃す空気逃し手段と、を備えた加圧防排煙システムであって、
前記ボイド空間が、少なくとも上端部が大気開放された空間であり、
前記空気逃し口として、前記内部廊下と前記ボイド空間とを接続するボイド側空気逃し口が設けられており、
前記ボイド側空気逃し口が、閉鎖時において前記ボイド空間側から前記内部廊下側への採光が可能な構造を有する加圧防排煙システム。
【請求項3】
記ボイド空間が、上端部及び下端部の両方が大気開放された空間であり、
前記ボイド空間の上端部が、前記建物の屋上に開口しており、
前記ボイド空間の下端部が、前記建物の外壁面に開口している請求項1又は2に記載の加圧防排煙システム。
【請求項4】
前記内部廊下が屋外に対して前記居室を挟んで隔離されてい請求項1~3の何れか1項に記載の加圧防排煙システム。
【請求項5】
各階を上下に貫通して上端部が大気開放されたボイド空間を中央部に有すると共に各階において当該ボイド空間の周囲に内部廊下を挟んで居室が配置された建物であって、
請求項1~4の何れか1項に記載の加圧防排煙システムが設置されており、
前記空気逃し口として、前記内部廊下と前記ボイド空間とを接続するボイド側空気逃し口を備えた建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各階を上下に貫通するボイド空間を中央部に有すると共に各階において当該ボイド空間の周囲に内部廊下を挟んで居室が配置された建物に設置される加圧防排煙システムに関する。
【背景技術】
【0002】
各階を上下に貫通して内部にボイド空間が形成されたセンターコアを中央部に有すると共に各階において当該センターコアの周囲に内部廊下を挟んで居室が配置された所謂センターコア型と呼ばれる建物が知られている。このような建物では、火災発生時に、内部廊下に通じる非常用エレベータホールや避難階段付室などの避難空間を利用した消火活動や避難行動を容易とするために、当該避難空間に対して外気の加圧供給(以下「加圧給気」と呼ぶ。)を行う加圧防排煙システムが設置される(例えば、特許文献1を参照。)。加圧防排煙システムでは、加圧給気手段による加圧給気の実行において、居室と内部廊下との間に過度の差圧が生じることでその間に設けられた扉の開放に支障が生じることがないように、内部廊下と大気側とを接続する空気逃し口を開放して当該内部廊下の空気を大気側へ逃すダンパー等の空気逃し手段が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4117414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のセンターコア型の建物では内部廊下が建物外周の屋外に対して隔離されているため、特許文献1に記載の加圧防排煙システムでは、内部廊下から直接建物外周の屋外に通じるバルコニー(避難用バルコニー)を設けて、内部廊下とバルコニーとの間に上記空気逃し手段を設置している。しかしながら、このようなバルコニーを設ける場合には、内部廊下の外周に配置される居室の専有面積や形状等が制限されるという問題が生じる。
【0005】
また、換気用ダクトの口径を拡大してそれを上記空気逃し手段で利用することも考えられる。しかしながら、その場合には、換気用ダクトが収納される設備シャフト面積の拡大に伴って、居室の専有面積や内部廊下の一部の天井高さに大きな影響を与えることが懸念される。
【0006】
このような実情に鑑み、本発明の主たる課題は、各階を上下に貫通するボイド空間を中央部に有すると共に各階において当該ボイド空間の周囲に内部廊下を挟んで居室が配置された建物及びそれに設置される加圧防排煙システムにおいて、床面積有効率の低下を回避しながら火災発生時の加圧給気に連動して内部廊下の空気を大気側へ逃すことができる技術を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1特徴構成は、各階を上下に貫通するボイド空間を中央部に有すると共に各階において当該ボイド空間の周囲に内部廊下を挟んで居室が配置された建物に設置され、
火災発生時に、前記内部廊下に通じる避難空間に対して加圧給気を行う加圧給気手段と、
前記加圧給気手段による加圧給気の実行に連動して前記内部廊下と大気側とを接続する空気逃し口を開放して当該内部廊下の空気を大気側へ逃す空気逃し手段と、を備えた加圧防排煙システムであって、
前記ボイド空間が、少なくとも上端部が大気開放された空間であり、
前記空気逃し口として、前記内部廊下と前記ボイド空間とを接続するボイド側空気逃し口が設けられており、
前記内部廊下と前記ボイド空間とを接続するボイド側給排気口が前記空気逃がし口とは別に設けられており、
前記加圧給気手段による加圧給気の実行に連動して前記ボイド側給排気口を閉鎖する給排気口閉鎖手段を備えた点にある。
【0008】
本構成によれば、建物の中央部に設けられたボイド空間の上端部が大気開放されており、当該ボイド空間とその周囲の内部廊下とを接続するボイド側空気逃し口が設けられており、火災発生時には、上記加圧給気手段により上記避難空間に対して加圧給気が行われ、居室と内部廊下との間の差圧のバランスを保つために、その加圧給気と連動して上記空気逃し手段により上記ボイド側空気逃し口が開放される。
しかも、火災発生時において、内部廊下からボイド側空気逃し口を通じてボイド空間に漏れ出た比較的高温の煙を、その比重差を利用して上昇させて、ボイド空間の上端部から大気側へ放出することができる。
このような構成では、内部廊下に対して上記空気逃し手段を設けるためのバルコニーや専用ダクトを設ける必要がないため、内部廊下の外周において居室を効率良く比較的自由に配置することができる。
従って、本発明により、各階を上下に貫通するボイド空間を中央部に有すると共に各階において当該ボイド空間の周囲に内部廊下を挟んで居室が配置された建物において、内部廊下に対して居室の専有面積確保等の制限となるバルコニーや専用ダクトを設けることなく、火災発生時の加圧給気に連動して内部廊下の空気を大気側へ逃すことができる加圧防排煙システムを提供することができる。
更に、本構成によれば、火災発生時以外の通常時においては、上記ボイド側給排気口が開放状態で維持されているので、当該ボイド側給排気口を通じて内部廊下をボイド空間に連通させ、当該内部廊下の換気を行うことができる。
一方、火災発生時においては、上記給排気口閉鎖手段がボイド側給排気口を自動的に閉鎖させるので、火災発生階の内部廊下からボイド側空気逃し口を通じてボイド空間に漏れ出た煙がボイド側給排気口を通じて他の階の内部廊下に流入することを確実に防止できる。
【0009】
本発明の第2特徴構成は、各階を上下に貫通するボイド空間を中央部に有すると共に各階において当該ボイド空間の周囲に内部廊下を挟んで居室が配置された建物に設置され、
火災発生時に、前記内部廊下に通じる避難空間に対して加圧給気を行う加圧給気手段と、
前記加圧給気手段による加圧給気の実行に連動して前記内部廊下と大気側とを接続する空気逃し口を開放して当該内部廊下の空気を大気側へ逃す空気逃し手段と、を備えた加圧防排煙システムであって、
前記ボイド空間が、少なくとも上端部が大気開放された空間であり、
前記空気逃し口として、前記内部廊下と前記ボイド空間とを接続するボイド側空気逃し口が設けられており、
前記ボイド側空気逃し口が、閉鎖時において前記ボイド空間側から前記内部廊下側への採光が可能な構造を有する点にある。
本構成によれば、建物の中央部に設けられたボイド空間の上端部が大気開放されており、当該ボイド空間とその周囲の内部廊下とを接続するボイド側空気逃し口が設けられており、火災発生時には、上記加圧給気手段により上記避難空間に対して加圧給気が行われ、
居室と内部廊下との間の差圧のバランスを保つために、その加圧給気と連動して上記空気逃し手段により上記ボイド側空気逃し口が開放される。
しかも、火災発生時において、内部廊下からボイド側空気逃し口を通じてボイド空間に漏れ出た比較的高温の煙を、その比重差を利用して上昇させて、ボイド空間の上端部から大気側へ放出することができる。
このような構成では、内部廊下に対して上記空気逃し手段を設けるためのバルコニーや専用ダクトを設ける必要がないため、内部廊下の外周において居室を効率良く比較的自由に配置することができる。
従って、本発明により、各階を上下に貫通するボイド空間を中央部に有すると共に各階において当該ボイド空間の周囲に内部廊下を挟んで居室が配置された建物において、内部廊下に対して居室の専有面積確保等の制限となるバルコニーや専用ダクトを設けることなく、火災発生時の加圧給気に連動して内部廊下の空気を大気側へ逃すことができる加圧防排煙システムを提供することができる。
更に、本構成によれば、火災発生時以外の通常時には閉鎖されているボイド側空気逃し口が、例えば排煙窓のようにガラスなどの透光性材料で弁体を構成するなどして、閉鎖時においてもボイド空間側から内部廊下側への採光が可能に構成されているので、内部廊下において通常は困難な自然光の採光を実現することができる。
本発明の第3特徴構成は、前記ボイド空間が、上端部及び下端部の両方が大気開放された空間であり、
前記ボイド空間の上端部が、前記建物の屋上に開口しており、
前記ボイド空間の下端部が、前記建物の外壁面に開口している点にある。
【0010】
構成によれば、ボイド空間が上端部だけではなく下端部についても大気に開放された空間として構成されている。そして、建物の屋上に開口するボイド空間の上端部では、その屋上に沿って風が通過することによる負の風圧力が作用し、一方、建物の外壁面に開口するボイド空間の下端部では、その外壁面に向かって風があたることによる正の風圧力が作用する。よって、ボイド空間において、下端部から上端部に向かう良好な上昇気流を発生させることができ、この上昇気流により、火災発生時に内部廊下からボイド側空気逃し口を通じてボイド空間に漏れ出た比較的高温の煙を良好に上端部から大気側へ放出することができる。
【0011】
本発明の第特徴構成は、前記内部廊下が屋外に対して前記居室を挟んで隔離されている点にある。
【0015】
本発明の第5特徴構成は、各階を上下に貫通して上端部が大気開放されたボイド空間を中央部に有すると共に各階において当該ボイド空間の周囲に内部廊下を挟んで居室が配置された建物であって、
上記第1乃至第4特徴構成を有する加圧防排煙システムが設置されており、
前記空気逃し口として、前記内部廊下と前記ボイド空間とを接続するボイド側空気逃し口を備えた点にある。
【0016】
本構成によれば、建物の中央部に設けられたボイド空間の上端部が大気開放されており、当該ボイド空間とその周囲の内部廊下とを接続するボイド側空気逃し口が設けられており、火災発生時には、上記加圧給気手段により上記避難空間に対して加圧給気が行われ、居室と内部廊下との間の差圧のバランスを保つために、その加圧給気と連動して上記空気逃し手段により上記ボイド側空気逃し口が開放される。すると、火災発生時において、内部廊下からボイド側空気逃し口を通じてボイド空間に漏れ出た比較的高温の煙を、その比重差を利用して上昇させて、ボイド空間の上端部から大気側へ放出することができる。
このような構成では、内部廊下に対して上記空気逃し手段を設けるためのバルコニーや専用ダクトを設ける必要がないため、内部廊下の外周において居室を効率良く比較的自由に配置することができる。
従って、本発明により、各階を上下に貫通するボイド空間を中央部に有すると共に各階において当該ボイド空間の周囲に内部廊下を挟んで居室が配置された建物であって、内部廊下に対して居室の専有面積確保等の制限となるバルコニーや専用ダクトを設けることなく、火災発生時の加圧給気に連動して内部廊下の空気を大気側へ逃すことができる建物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態の加圧防排煙システムが設置された建物の構成を示す平面図
図2】本実施形態の加圧防排煙システムが設置された建物の構成を示す立断面図
図3】空気逃し手段の概略構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1及び図2に示すように、本実施形態の建物1は、集合住宅やホテルやオフィスビル等として利用される高層建物であり、1階を除く各階を上下に貫通するボイド空間50が中央部に設けられている。建物1の各階には、ボイド空間50の周囲に内部廊下10を挟んで居室2が配置されている。また、内部廊下10の内側には、ボイド空間50と隣接して、エレベータ30、階段35、及びそれらに通じる附室20(避難空間の一例)が配置されている。
【0019】
建物1には、火災発生時において、内部廊下10から附室20に至る経路への煙の滞留を防止して当該経路による避難行動や消火活動を容易にするための加圧防排煙システムが設置されている。かかる加圧防排煙システムは、火災発生時に、内部廊下10に通じる附室20に対して加圧給気を行う加圧給気手段Xと、当該加圧給気手段Xによる加圧給気の実行に連動して内部廊下10と大気側とを接続する空気逃し口12Aを開放して当該内部廊下10の空気を大気側へ逃す空気逃し手段Yとを有して構成されている。
【0020】
加圧給気手段Xは、各階の附室20に通じる給気ライン21と、各階の附室20に対する給気ライン21の接続を遮断し手動開放可能なダンパー22と、外気を給気ライン21に圧送する給気ファン25と、当該給気ファン25の作動を制御する制御装置26とを備えて構成されている。
一方、空気逃し手段Yは、空気逃し口12Aを開閉可能なダンパー12で構成されている。
【0021】
このような加圧防排煙システムでは、建物1において火災が発生した火災発生階の附室20を通じて消火活動や避難行動を行う場合において、その附室20に設けられた排煙スイッチ(図示省略)の押圧操作等に連動して、制御装置26が、火災が発生している階の附室20に接続されたダンパー22を開放状態とし、他の階の附室20に接続されたダンパー22を閉鎖状態として、給気ファン25を稼働させる。すると、火災発生階では、給気ライン21から附室20に外気が加圧供給されて、附室20に通じる内部廊下10の圧力が上昇する。また、居室2と内部廊下10との間に過度の差圧が生じることでその間に設けられた扉の開放に支障が生じることがないように、空気逃し手段Yは、上記排煙スイッチの押圧操作に連動してダンパー12を作動させて空気逃し口12Aを開放する。すると、附室20やそれに通じる内部廊下10に充満する煙が空気逃し口12Aを通じて大気側へ排出されると共に、火災が発生している居室2から内部廊下10への煙の流入が防止されることになる。よって、この火災発生階の附室20や内部廊下10における消火活動や避難行動が容易になる。
【0022】
建物1の中央部に設けられたボイド空間50は、少なくとも上端部が建物1の屋上に開口する上端開口部50aを通じて大気開放された空間として構成されており、更には下端部が建物1の外壁面に開口する下端開口部50bを通じて大気開放された空間として構成されている。尚、この下端開口部50b及びそれに向けて水平に伸びるボイド空間50のダクト部分は下層階の共用部分に設けられている。
【0023】
上述した加圧防排煙システムの空気逃し手段Yが開放する空気逃し口12Aは、内部廊下10とボイド空間50とを接続するボイド側空気逃し口12Aとされている。
そして、火災発生時において、加圧給気手段Xによる加圧給気の実行中に居室2と内部廊下10との間の差圧のバランスを保つために、当該加圧給気の実行に連動して空気逃し手段Yのダンパー12がボイド側空気逃し口12Aを開放することになる。すると、内部廊下10からボイド側空気逃し口12Aを通じてボイド空間50に漏れ出た比較的高温の煙は、その比重差を利用して上昇して、ボイド空間50の上端開口部50aから大気側へ放出されることになる。よって、内部廊下10に対して建物1の外壁側へ通じる別の空気逃し手段を設ける必要がないため、その内部廊下10の外周において居室2を効率良く比較的自由に配置することができる。
【0024】
更に、ボイド空間50が上端開口部50aだけではなく下端開口部50bについても大気側に開放されている。よって、上端開口部50aでは、その屋上に沿って風が通過することによる負の風圧力が作用し、一方、下端開口部50bでは、その外壁面に向かって風があたることによる正の風圧力が作用する。すると、ボイド空間50において、下端開口部50bから上端開口部50aに向かう良好な上昇気流が発生する。よって、火災発生時に内部廊下10からボイド側空気逃し口12Aを通じてボイド空間50に漏れ出た比較的高温の煙は、その比重差と上記上昇気流の両方を利用して良好に上端開口部50aから大気側へ放出されることになる。
【0025】
建物1の各階において内部廊下10の換気を行うために、内部廊下10とボイド空間50とを接続するボイド側給気口15A(ボイド側給排気口の一例)が設けられている。更に、このボイド側給気口15Aには、火災発生時において自動的に閉鎖される煙感連動式の防火・防煙ダンパー15が設けられており、更には、ボイド空間50側からボイド側給気口15Aを通じて内部廊下10側へ外気を取り込む給気ファン16が設けられている。
即ち、この防火・防煙ダンパー15は、火災発生時に実行される加圧給気手段Xによる加圧給気の実行に連動してボイド側給気口15Aを閉鎖する給排気口閉鎖手段として機能する。
【0026】
火災発生時以外の通常時には、防火・防煙ダンパー15が開放状態に維持されてボイド側給気口15Aが開放されているので、当該ボイド側給気口15Aを通じて内部廊下10がボイド空間50に連通し、給気ファン16が稼働されることで当該内部廊下10の換気が行われている。
一方、火災発生時には、火災発生階の内部廊下10からボイド側空気逃し口12Aを通じてボイド空間50に煙が漏れ出るが、給排気口閉鎖手段として機能する防火・防煙ダンパー15が自動的にボイド側給気口15Aを閉鎖されることでボイド空間50に漏れ出た煙がボイド側給気口15Aを通じて他の階の内部廊下10に流入することが好適に阻止される。よって、ボイド空間50に漏れ出た煙は、良好に上端開口部50aから大気側へ放出されることになる。更に、ボイド側給気口15Aの閉鎖に連動して自動的に給気ファン16を停止することができる。
【0027】
図3に示すように、ボイド側空気逃し口12Aは、ボイド空間50と内部廊下10とを区画する壁部51に形成されており、そのボイド側空気逃し口12Aに設けられたダンパー12は、例えば排煙窓のように上端部で揺動自在に支持された弁体12aで構成されている。即ち、このダンパー12は、排煙スイッチの押圧操作に連動して、弁体12aがボイド空間50側に揺動することでボイド側空気逃し口12Aが開放されて、内部廊下10側の空気Aがボイド側空気逃し口12Aを通じてボイド空間50に逃すように構成されている。このダンパー12の弁体12aは、ガラスなどの透光性材料で構成されており、閉鎖時においてもボイド空間50側から内部廊下10側への採光が可能な構造を有する。よって、内部廊下10では、通常は困難な自然光の採光が実現されている。
【0028】
〔別実施形態〕
本発明の他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用することに限らず、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0029】
(1)上記実施形態では、加圧給気手段Xによる加圧給気対象となる避難空間を、エレベータ30と階段35とに通じる附室20としたが、内部廊下10に通じる別の避難空間を加圧給気手段Xによる加圧給気対象としても構わない。
【0030】
(2)上記実施形態では、ボイド空間50を、上端部と下端部との両方が大気開放された空間として構成したが、上端部のみが大気開放されて下端部が閉鎖された空間であってもよい。
【0031】
(3)上記実施形態では、ボイド空間50側からボイド側給気口15Aを通じて内部廊下10側へ外気を取り込む給気ファン16を設けたが、かかる給気ファン16を省略して自然にボイド側給気口15Aを通じて換気を行うように構成したり、排気ファンにより内部廊下10の空気をボイド側排気口(ボイド側給排気口の一例)を通じてボイド空間50側へ排出するように構成しても構わない。また、内部廊下10とボイド空間50とを接続するボイド側給排気口に代えて、内部廊下10の換気を行うための別の給排気口を設けても構わない。
【0032】
(4)上記実施形態では、ボイド側空気逃し口12Aを、弁体12aを透光性材料とすることにより閉鎖時においてボイド空間50から内部廊下10への採光が可能な構造を有するものとして構成したが、ボイド側空気逃し口12Aの構成については適宜変更可能であり、閉鎖時において採光できない構成としても構わない。
【符号の説明】
【0033】
1 建物
2 居室
10 内部廊下
12A 空気逃し口(ボイド側空気逃し口)
15A ボイド側給排気口
20 附室(避難空間)
50 ボイド空間
50a 上端開口部(上端部)
50b 下端開口部(下端部)
X 加圧給気手段
Y 空気逃し手段
図1
図2
図3