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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用微多孔膜
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/417 20210101AFI20240605BHJP
   B29C 67/20 20060101ALI20240605BHJP
   C08J 9/00 20060101ALI20240605BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20240605BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20240605BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20240605BHJP
   H01M 50/494 20210101ALI20240605BHJP
   B29K 23/00 20060101ALN20240605BHJP
   B29K 105/04 20060101ALN20240605BHJP
【FI】
H01M50/417
B29C67/20 B
C08J9/00 A CES
H01G11/06
H01G11/52
H01M50/489
H01M50/494
B29K23:00
B29K105:04
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020019518
(22)【出願日】2020-02-07
(65)【公開番号】P2020136268
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2019026858
(32)【優先日】2019-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】張 シュン
(72)【発明者】
【氏名】高橋 真生
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-203145(JP,A)
【文献】特開平09-216964(JP,A)
【文献】特開2016-040354(JP,A)
【文献】国際公開第2007/015416(WO,A1)
【文献】特開2010-265414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンを含む蓄電デバイス用微多孔膜であって、
前記ポリオレフィンが1種又は2種以上の官能基を有し、かつ
蓄電デバイスへの収納後に、(1)前記官能基同士が縮合反応するか、(2)前記官能基が前記蓄電デバイス内部の化学物質と反応するか、又は(3)前記官能基が他の種類の官能基と反応して、架橋構造が形成され、
前記ポリオレフィンが、下記要件(A)~(C):
(A)温度230℃及び質量2.16kgの条件下で測定した際のメルトフローレイト(MFR)が、3.0g/10min以下である;
(B)重量平均分子量Mwを数平均分子量Mnで除した値(Mw/Mn)が、15以下である;及び
(C)密度が0.85g/cm以上である;
を満たし、かつ
前記蓄電デバイス用微多孔膜が、下記要件(D):
(D)広角X線散乱で測定した際の機械方向(MD)に対する幅方向(TD)の配向割合の比MD/TDが、1.3以上である;
を満たすことを特徴とする蓄電デバイス用微多孔膜。
【請求項2】
前記架橋構造は、(1)前記官能基同士が縮合反応することにより形成される、請求項1に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
【請求項3】
前記架橋構造は、(2)前記官能基が前記蓄電デバイス内部の化学物質と反応することにより形成される、請求項1に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
【請求項4】
前記化学物質が、前記蓄電デバイスに含まれる電解質、電解液、電極活物質、添加剤又はそれらの分解物のいずれかである、請求項1又は3に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
【請求項5】
前記架橋構造は、(3)前記官能基が他の種類の官能基と反応することにより形成される、請求項1に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
【請求項6】
前記蓄電デバイス用微多孔膜は、下記式(I):
E’X=E’/E’Z0 (I)
{式中、E’は、前記蓄電デバイス用微多孔膜の架橋反応が前記蓄電デバイス内で進行した後に、160℃~300℃の温度領域で測定された貯蔵弾性率であり、かつ
E’Z0は、前記蓄電デバイス用微多孔膜が前記蓄電デバイスに組み込まれる前に、160℃~300℃の温度領域で測定された貯蔵弾性率であり、そしてE’又はE’Z0である貯蔵弾性率の測定条件は、下記構成(i)~(iv)で規定される。
(i)動的粘弾性測定を以下の条件:
・雰囲気:窒素
・使用測定装置:RSA-G2(TAインスツルメンツ社製)
・サンプル膜厚:5μm~50μmの範囲(サンプルの膜厚によらず1枚で測定を実施する)
・測定温度範囲:-50~300℃
・昇温速度:10℃/min
・測定周波数:1Hz
・変形モード:正弦波引張モード(Linear tension)
・静的引張荷重の初期値:0.5N
・初期(25℃時)のギャップ間距離:25mm
・Auto strain adjustment:Enabled(範囲:振幅値0.05~25%、正弦波荷重0.02~5N)
で行なった。
(ii)静的引張荷重とは、各周期運動での最大応力と最小応力の中間値を指し、かつ正弦波荷重とは、静的引張荷重を中心とした振動応力を指す。
(iii)正弦波引張モードとは、固定振幅0.2%で周期運動を行いながら振動応力を測定することを指し、その際に、静的引張荷重と正弦波荷重の差が20%以内となるようにギャップ間距離及び静的引張荷重を変動して振動応力を測定した。なお、正弦波荷重が0.02N以下になった場合、正弦波荷重が5N以内かつ振幅値の増加量が25%以内になるように振幅値を増幅させて振動応力を測定した。
(iv)得られた正弦波荷重と振幅値の関係、及び下記式:
σ=σ・Exp[i(ωt+δ)]、
ε=ε・Exp(iωt)、
σ=E・ε
=E’+iE’’
(式中、σ:振動応力、ε:歪み、i:虚数単位、ω:角振動数、t:時間、δ:振動応力と歪みの間の位相差、E:複素弾性率、E’:貯蔵弾性率、E’’:損失弾性率
振動応力:正弦波荷重/初期断面積
静的引張荷重:各周期での振動応力の最小点(各周期でのギャップ間距離の最小点)の荷重
正弦波荷重:測定された振動応力と静的引張荷重の差)
から貯蔵弾性率を算出する。}
により定義される混合貯蔵弾性率比(RE’x)が、1.2倍~20倍である、請求項1~5のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
【請求項7】
前記ポリオレフィンは、MFRが0.25g/10min以上であり、Mw/Mnが4.0以上であり、かつ密度が1.1g/cm以下であり、かつ
前記蓄電デバイス用微多孔膜の配向割合の比MD/TDが、3.0以下である、
請求項1~のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
【請求項8】
前記ポリオレフィンが、ポリプロピレンである、請求項1~のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
【請求項9】
ポリプロピレンを含む蓄電デバイス用微多孔膜であって、
前記ポリプロピレンが、1種又は2種以上の官能基を有し、かつβ晶活性であり、
前記蓄電デバイス用微多孔膜の蓄電デバイスへの収納後に、(1)前記官能基同士が縮合反応するか、(2)前記官能基が前記蓄電デバイス内部の化学物質と反応するか、又は(3)前記官能基が他の種類の官能基と反応して、架橋構造が形成される蓄電デバイス用微多孔膜。
【請求項10】
前記架橋構造は、(1)前記官能基同士が縮合反応することにより形成される、請求項に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
【請求項11】
前記架橋構造は、(2)前記官能基が前記蓄電デバイス内部の化学物質と反応することにより形成される、請求項に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
【請求項12】
前記化学物質が、前記蓄電デバイスに含まれる電解質、電解液、電極活物質、添加剤又はそれらの分解物のいずれかである、請求項又は1に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
【請求項13】
前記架橋構造は、(3)前記官能基が他の種類の官能基と反応することにより形成される、請求項に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
【請求項14】
前記蓄電デバイス用微多孔膜は、下記式(I):
E’X=E’/E’Z0 (I)
{式中、E’は、前記蓄電デバイス用微多孔膜の架橋反応が蓄電デバイス内で進行した後に、160℃~300℃の温度領域で測定された貯蔵弾性率であり、かつ
E’Z0は、前記蓄電デバイス用多孔膜が前記蓄電デバイスに組み込まれる前に、160℃~300℃の温度領域で測定された貯蔵弾性率であり、そしてE’又はE’Z0である貯蔵弾性率の測定条件は、下記構成(i)~(iv)で規定される。
(i)動的粘弾性測定を以下の条件:
・雰囲気:窒素
・使用測定装置:RSA-G2(TAインスツルメンツ社製)
・サンプル膜厚:5μm~50μmの範囲(サンプルの膜厚によらず1枚で測定を実施する)
・測定温度範囲:-50~300℃
・昇温速度:10℃/min
・測定周波数:1Hz
・変形モード:正弦波引張モード(Linear tension)
・静的引張荷重の初期値:0.5N
・初期(25℃時)のギャップ間距離:25mm
・Auto strain adjustment:Enabled(範囲:振幅値0.05~25%、正弦波荷重0.02~5N)
で行なった。
(ii)静的引張荷重とは、各周期運動での最大応力と最小応力の中間値を指し、かつ正弦波荷重とは、静的引張荷重を中心とした振動応力を指す。
(iii)正弦波引張モードとは、固定振幅0.2%で周期運動を行いながら振動応力を測定することを指し、その際に、静的引張荷重と正弦波荷重の差が20%以内となるようにギャップ間距離及び静的引張荷重を変動して振動応力を測定した。なお、正弦波荷重が0.02N以下になった場合、正弦波荷重が5N以内かつ振幅値の増加量が25%以内になるように振幅値を増幅させて振動応力を測定した。
(iv)得られた正弦波荷重と振幅値の関係、及び下記式:
σ=σ・Exp[i(ωt+δ)]、
ε=ε・Exp(iωt)、
σ=E・ε
=E’+iE’’
(式中、σ:振動応力、ε:歪み、i:虚数単位、ω:角振動数、t:時間、δ:振動応力と歪みの間の位相差、E:複素弾性率、E’:貯蔵弾性率、E’’:損失弾性率
振動応力:正弦波荷重/初期断面積
静的引張荷重:各周期での振動応力の最小点(各周期でのギャップ間距離の最小点)の荷重
正弦波荷重:測定された振動応力と静的引張荷重の差)
から貯蔵弾性率を算出する。}
により定義される混合貯蔵弾性率比(RE’x)が、1.2倍~20倍である、請求項~1のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
【請求項15】
前記蓄電デバイス用微多孔膜が、前記ポリプロピレンとして、
下記要件(P1)~(P3):
(P1)温度230℃及び質量2.16kgの条件下で測定した際のMFRが、2.5g/10min以下である;
(P2)重量平均分子量Mwを数平均分子量Mnで除した値(Mw/Mn)が、10以下である;及び
(P3)密度が0.89g/cm以上である:
を満たすホモポリプロピレン(A)と、
前記要件(P1)~(P3)の少なくとも1つを満たさず、かつ官能基を有するポリプロピレン(B)と、
を含む、請求項14のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
【請求項16】
前記ポリプロピレン(B)の含有割合が、4質量%以上30質量%以下である、請求項15に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
【請求項17】
前記ポリプロピレン(B)が、シラン変性ポリプロピレンである、請求項15又は16に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
【請求項18】
前記ホモポリプロピレン(A)は、MFRが0.25g/10min以上であり、Mw/Mnが4.9以上であり、かつ密度が0.96g/cm以下である、請求項1517のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス用微多孔膜などに関する。
【背景技術】
【0002】
微多孔膜は、種々の物質の分離又は選択透過分離膜、及び隔離材等として広く用いられており、その用途例としては、精密ろ過膜、燃料電池用、コンデンサー用セパレータ、又は機能材を孔の中に充填させて新たな機能を発現させるための機能膜の母材、蓄電デバイス用セパレータ等が挙げられる。中でも、ポリオレフィン製微多孔膜は、ノート型パーソナルコンピュータ又は携帯電話、デジタルカメラ等に広く使用されているリチウムイオン電池用セパレータとして好適に使用されている。
【0003】
電池安全性を確保するために、セパレータ内に架橋構造を形成することによって、シャットダウン機能の発動と破膜温度の向上の両立を図ることが提案されている(特許文献1~8)。例えば、特許文献1~6には、シラン変性ポリオレフィン含有セパレータと水との接触などにより形成されるシラン架橋構造が記述されている。特許文献7には、紫外線、電子線などの照射によるノルボルネンの開環から形成される架橋構造が記述されている。特許文献8には、セパレータの絶縁層が、架橋構造を有する(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-ブタジエンゴムバインダなどを有することが記述されている。
【0004】
リチウムイオン電池用の部材については正極、負極材料、電解液及びセパレータが用いられている。これらの部材のうち、セパレータについては、その絶縁材料としての適格から電気化学反応又は周辺部材に対して不活性であることが求められてきた。一方で、リチウムイオン電池の負極材料は、その開発当初から初充電時の化学反応による固体電解質界面(SEI)形成によって負極表面の電解液の分解を抑制する技術が確立されている(非特許文献1)。また、セパレータにポリオレフィン樹脂を用いたとしても、正極表面では高電圧下において酸化反応が誘起され、セパレータの黒色化、表面劣化などの事例も報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-216964号公報
【文献】国際公開第97/44839号
【文献】特開平11-144700号公報
【文献】特開平11-172036号公報
【文献】特開2001-176484号公報
【文献】特開2000-319441号公報
【文献】特開2011-071128号公報
【文献】特開2014-056843号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】リチウムイオン二次電池(第2版) 日刊工業新聞社 発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、モバイルデバイス搭載用途又は車載用リチウムイオン二次電池の高出力化と高エネルギー密度化が進んでいる一方、電池セルの小型化と長期使用時の安定なサイクル放充電性能が求められている。そのため、電池用セパレータとして使用可能な微多孔膜の製造には、強度及び開孔性が必要とされている。さらに、電池安全性の水準についても、以前より厳格となっており、特許文献1,2にも記載されるように、シャットダウン機能と高温破膜性を有するセパレータ、及びその安定な製造方法が期待されている。これに関連して、シャットダウン温度の水準として150℃より低いほど望ましく、また破膜温度の水準としては高温であるほど望ましい。
【0008】
しかしながら、特許文献1~8に記載される架橋方法は、いずれも微多孔膜のインプロセスで、又は微多孔膜の作製直後のバッチで行われるものである。したがって、特許文献1~8に記載される架橋構造の形成後には、セパレータとして使用するために微多孔膜の塗工加工及びスリットを行わなければならず、その後の電極との積層・捲回工程では内部応力が増加するため、作製された蓄電デバイスが変形することがある。例えば、加温により架橋構造を形成すると、その架橋構造を有するセパレータの内部応力が常温又は室温で増加することがある。また、微多孔膜への紫外線、電子線等の光照射により架橋構造を形成すると、光の照射が不均一になり、架橋構造が不均質になることがある。これは、微多孔膜を構成する樹脂の結晶部周辺が電子線により架橋され易いためであると考えられる。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みて、微多孔膜の強度及び開孔性を損なうことなく、微多孔膜の高温下での耐破膜性を向上させ、そして微多孔膜をセパレータとして用いる蓄電デバイスのデバイス特性と釘刺し試験での高い安全性を両立させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題は、次の技術的手段により解決される。
[1]
ポリオレフィンを含む蓄電デバイス用微多孔膜であって、
前記ポリオレフィンが1種又は2種以上の官能基を有し、かつ
蓄電デバイスへの収納後に、(1)前記官能基同士が縮合反応するか、(2)前記官能基が前記蓄電デバイス内部の化学物質と反応するか、又は(3)前記官能基が他の種類の官能基と反応して、架橋構造が形成され、
前記ポリオレフィンが、下記要件(A)~(C):
(A)温度230℃及び質量2.16kgの条件下で測定した際のメルトフローレイト(MFR)が、3.0g/10min以下である;
(B)重量平均分子量Mwを数平均分子量Mnで除した値(Mw/Mn)が、15以下である;及び
(C)密度が0.85g/cm以上である;
を満たし、かつ
前記蓄電デバイス用微多孔膜が、下記要件(D):
(D)広角X線散乱で測定した際の機械方向(MD)に対する幅方向(TD)の配向割合の比MD/TDが、1.3以上である;
を満たすことを特徴とする蓄電デバイス用微多孔膜。
[2]
前記架橋構造は、(1)前記官能基同士が縮合反応することにより形成される、項目1に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
[3]
前記架橋構造は、(2)前記官能基が前記蓄電デバイス内部の化学物質と反応することにより形成される、項目1に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
[4]
前記化学物質が、前記蓄電デバイスに含まれる電解質、電解液、電極活物質、添加剤又はそれらの分解物のいずれかである、項目1又は3に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
[5]
前記架橋構造は、(3)前記官能基が他の種類の官能基と反応することにより形成される、項目1に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
[6]
前記蓄電デバイス用微多孔膜は、下記式(I):
E’X=E’/E’Z0 (I)
{式中、E’は、前記蓄電デバイス用微多孔膜の前記架橋反応が前記蓄電デバイス内で進行した後に、160℃~300℃の温度領域で測定された貯蔵弾性率であり、かつ
E’Z0は、前記蓄電デバイス用微多孔膜が前記蓄電デバイスに組み込まれる前に、160℃~300℃の温度領域で測定された貯蔵弾性率であり、そしてE’又はE’Z0である貯蔵弾性率の測定条件は、下記構成(i)~(iv)で規定される。
(i)動的粘弾性測定を以下の条件:
・雰囲気:窒素
・使用測定装置:RSA-G2(TAインスツルメンツ社製)
・サンプル膜厚:5μm~50μmの範囲(サンプルの膜厚によらず1枚で測定を実施する)
・測定温度範囲:-50~300℃
・昇温速度:10℃/min
・測定周波数:1Hz
・変形モード:正弦波引張モード(Linear tension)
・静的引張荷重の初期値:0.5N
・初期(25℃時)のギャップ間距離:25mm
・Auto strain adjustment:Enabled(範囲:振幅値0.05~25%、正弦波荷重0.02~5N)
で行なった。
(ii)静的引張荷重とは、各周期運動での最大応力と最小応力の中間値を指し、かつ正弦波荷重とは、静的引張荷重を中心とした振動応力を指す。
(iii)正弦波引張モードとは、固定振幅0.2%で周期運動を行いながら振動応力を測定することを指し、その際に、静的引張荷重と正弦波荷重の差が20%以内となるようにギャップ間距離及び静的引張荷重を変動して振動応力を測定した。なお、正弦波荷重が0.02N以下になった場合、正弦波荷重が5N以内かつ振幅値の増加量が25%以内になるように振幅値を増幅させて振動応力を測定した。
(iv)得られた正弦波荷重と振幅値の関係、及び下記式:
σ=σ・Exp[i(ωt+δ)]、
ε=ε・Exp(iωt)、
σ=E・ε
=E’+iE’’
(式中、σ:振動応力、ε:歪み、i:虚数単位、ω:角振動数、t:時間、δ:振動応力と歪みの間の位相差、E:複素弾性率、E’:貯蔵弾性率、E’’:損失弾性率
振動応力:正弦波荷重/初期断面積
静的引張荷重:各周期での振動応力の最小点(各周期でのギャップ間距離の最小点)の荷重
正弦波荷重:測定された振動応力と静的引張荷重の差)
から貯蔵弾性率を算出する。}
により定義される混合貯蔵弾性率比(RE’x)が、1.2倍~20倍である、項目1~5のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
[7]
ポリオレフィンを含む蓄電デバイス用微多孔膜であって、前記蓄電デバイス用微多孔膜は、前記ポリオレフィンの非晶部が架橋された非晶部架橋構造を有し、
前記ポリオレフィンが、下記要件(A)~(C):
(A)温度230℃及び質量2.16kgの条件下で測定した際のメルトフローレイト(MFR)が、3.0g/10min以下である;
(B)重量平均分子量Mwを数平均分子量Mnで除した値(Mw/Mn)が、15以下である;及び
(C)密度が0.85g/cm以上である;
を満たし、かつ
前記蓄電デバイス用微多孔膜が、下記要件(D):
(D)広角X線散乱で測定した際の機械方向(MD)に対する幅方向(TD)の配向割合の比MD/TDが1.3以上である;
を満たすことを特徴とする蓄電デバイス用微多孔膜。
[8]
前記非晶部が、選択的に架橋された、項目7に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
[9]
前記蓄電デバイス用微多孔膜は、下記式(II):
E’mix=E’/E’ (II)
{式中、E’は、前記蓄電デバイス用微多孔膜が前記非晶部架橋構造を有するときに160℃~300℃で測定された貯蔵弾性率であり、かつ
E’は、非晶部架橋構造を有しない蓄電デバイス用微多孔膜の160℃~300℃で測定された貯蔵弾性率であり、そしてE’又はE’である貯蔵弾性率の測定条件は、下記構成(i)~(iv)で規定される。
(i)動的粘弾性測定を以下の条件:
・雰囲気:窒素
・使用測定装置:RSA-G2(TAインスツルメンツ社製)
・サンプル膜厚:5μm~50μmの範囲(サンプルの膜厚によらず1枚で測定を実施する)
・測定温度範囲:-50~300℃
・昇温速度:10℃/min
・測定周波数:1Hz
・変形モード:正弦波引張モード(Linear tension)
・静的引張荷重の初期値:0.5N
・初期(25℃時)のギャップ間距離:25mm
・Auto strain adjustment:Enabled(範囲:振幅値0.05~25%、正弦波荷重0.02~5N)
で行なった。
(ii)静的引張荷重とは、各周期運動での最大応力と最小応力の中間値を指し、かつ正弦波荷重とは、静的引張荷重を中心とした振動応力を指す。
(iii)正弦波引張モードとは、固定振幅0.2%で周期運動を行いながら振動応力を測定することを指し、その際に、静的引張荷重と正弦波荷重の差が20%以内となるようにギャップ間距離及び静的引張荷重を変動して振動応力を測定した。なお、正弦波荷重が0.02N以下になった場合、正弦波荷重が5N以内かつ振幅値の増加量が25%以内になるように振幅値を増幅させて振動応力を測定した。
(iv)得られた正弦波荷重と振幅値の関係、及び下記式:
σ=σ・Exp[i(ωt+δ)]、
ε=ε・Exp(iωt)、
σ=E・ε
=E’+iE’’
(式中、σ:振動応力、ε:歪み、i:虚数単位、ω:角振動数、t:時間、δ:振動応力と歪みの間の位相差、E:複素弾性率、E’:貯蔵弾性率、E’’:損失弾性率
振動応力:正弦波荷重/初期断面積
静的引張荷重:各周期での振動応力の最小点(各周期でのギャップ間距離の最小点)の荷重
正弦波荷重:測定された振動応力と静的引張荷重の差)
から貯蔵弾性率を算出する。}
により定義される混合貯蔵弾性率比(RE’mix)が、1.2倍~20倍である、項目7又は8に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
[10]
前記ポリオレフィンは、MFRが0.25g/10min以上であり、Mw/Mnが4.0以上であり、かつ密度が1.1g/cm以下であり、かつ
前記蓄電デバイス用微多孔膜の配向割合の比MD/TDが、3.0以下である、
項目1~9のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
[11]
前記ポリオレフィンが、ポリプロピレンである、項目1~10のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
[12]
ポリプロピレンを含む蓄電デバイス用微多孔膜であって、
前記ポリプロピレンが、1種又は2種以上の官能基を有し、かつβ晶活性であり、
前記蓄電デバイス用微多孔膜の蓄電デバイスへの収納後に、(1)前記官能基同士が縮合反応するか、(2)前記官能基が前記蓄電デバイス内部の化学物質と反応するか、又は(3)前記官能基が他の種類の官能基と反応して、架橋構造が形成される蓄電デバイス用微多孔膜。
[13]
前記架橋構造は、(1)前記官能基同士が縮合反応することにより形成される、項目12に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
[14]
前記架橋構造は、(2)前記官能基が前記蓄電デバイス内部の化学物質と反応することにより形成される、項目12に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
[15]
前記化学物質が、前記蓄電デバイスに含まれる電解質、電解液、電極活物質、添加剤又はそれらの分解物のいずれかである、項目12又は14に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
[16]
前記架橋構造は、(3)前記官能基が他の種類の官能基と反応することにより形成される、項目12に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
[17]
前記蓄電デバイス用微多孔膜は、下記式(I):
E’X=E’/E’Z0 (I)
{式中、E’は、前記蓄電デバイス用微多孔膜の前記架橋反応が蓄電デバイス内で進行した後に、160℃~300℃の温度領域で測定された貯蔵弾性率であり、かつ
E’Z0は、前記蓄電デバイス用多孔膜が前記蓄電デバイスに組み込まれる前に、160℃~300℃の温度領域で測定された貯蔵弾性率であり、そしてE’又はE’Z0である貯蔵弾性率の測定条件は、下記構成(i)~(iv)で規定される。
(i)動的粘弾性測定を以下の条件:
・雰囲気:窒素
・使用測定装置:RSA-G2(TAインスツルメンツ社製)
・サンプル膜厚:5μm~50μmの範囲(サンプルの膜厚によらず1枚で測定を実施する)
・測定温度範囲:-50~300℃
・昇温速度:10℃/min
・測定周波数:1Hz
・変形モード:正弦波引張モード(Linear tension)
・静的引張荷重の初期値:0.5N
・初期(25℃時)のギャップ間距離:25mm
・Auto strain adjustment:Enabled(範囲:振幅値0.05~25%、正弦波荷重0.02~5N)
で行なった。
(ii)静的引張荷重とは、各周期運動での最大応力と最小応力の中間値を指し、かつ正弦波荷重とは、静的引張荷重を中心とした振動応力を指す。
(iii)正弦波引張モードとは、固定振幅0.2%で周期運動を行いながら振動応力を測定することを指し、その際に、静的引張荷重と正弦波荷重の差が20%以内となるようにギャップ間距離及び静的引張荷重を変動して振動応力を測定した。なお、正弦波荷重が0.02N以下になった場合、正弦波荷重が5N以内かつ振幅値の増加量が25%以内になるように振幅値を増幅させて振動応力を測定した。
(iv)得られた正弦波荷重と振幅値の関係、及び下記式:
σ=σ・Exp[i(ωt+δ)]、
ε=ε・Exp(iωt)、
σ=E・ε
=E’+iE’’
(式中、σ:振動応力、ε:歪み、i:虚数単位、ω:角振動数、t:時間、δ:振動応力と歪みの間の位相差、E:複素弾性率、E’:貯蔵弾性率、E’’:損失弾性率
振動応力:正弦波荷重/初期断面積
静的引張荷重:各周期での振動応力の最小点(各周期でのギャップ間距離の最小点)の荷重
正弦波荷重:測定された振動応力と静的引張荷重の差)
から貯蔵弾性率を算出する。}
により定義される混合貯蔵弾性率比(RE’x)が、1.2倍~20倍である、項目12~16のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
[18]
ポリプロピレンを含む蓄電デバイス用微多孔膜であって、前記ポリプロピレンがβ晶活性であり、かつ前記蓄電デバイス用微多孔膜は、前記ポリプロピレンの非晶部が架橋された非晶部架橋構造を有する蓄電デバイス用微多孔膜。
[19]
前記非晶部が、選択的に架橋された、項目18に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
[20]
前記蓄電デバイス用微多孔膜は、下記式(II):
E’mix=E’/E’ (II)
{式中、E’は、前記蓄電デバイス用微多孔膜が前記非晶部架橋構造を有するときに160℃~300℃で測定された貯蔵弾性率であり、かつ
E’は、非晶部架橋構造を有しない蓄電デバイス用微多孔膜の160℃~300℃で測定された貯蔵弾性率であり、そしてE’又はE’である貯蔵弾性率の測定条件は、下記構成(i)~(iv)で規定される。
(i)動的粘弾性測定を以下の条件:
・雰囲気:窒素
・使用測定装置:RSA-G2(TAインスツルメンツ社製)
・サンプル膜厚:5μm~50μmの範囲(サンプルの膜厚によらず1枚で測定を実施する)
・測定温度範囲:-50~300℃
・昇温速度:10℃/min
・測定周波数:1Hz
・変形モード:正弦波引張モード(Linear tension)
・静的引張荷重の初期値:0.5N
・初期(25℃時)のギャップ間距離:25mm
・Auto strain adjustment:Enabled(範囲:振幅値0.05~25%、正弦波荷重0.02~5N)
で行なった。
(ii)静的引張荷重とは、各周期運動での最大応力と最小応力の中間値を指し、かつ正弦波荷重とは、静的引張荷重を中心とした振動応力を指す。
(iii)正弦波引張モードとは、固定振幅0.2%で周期運動を行いながら振動応力を測定することを指し、その際に、静的引張荷重と正弦波荷重の差が20%以内となるようにギャップ間距離及び静的引張荷重を変動して振動応力を測定した。なお、正弦波荷重が0.02N以下になった場合、正弦波荷重が5N以内かつ振幅値の増加量が25%以内になるように振幅値を増幅させて振動応力を測定した。
(iv)得られた正弦波荷重と振幅値の関係、及び下記式:
σ=σ・Exp[i(ωt+δ)]、
ε=ε・Exp(iωt)、
σ=E・ε
=E’+iE’’
(式中、σ:振動応力、ε:歪み、i:虚数単位、ω:角振動数、t:時間、δ:振動応力と歪みの間の位相差、E:複素弾性率、E’:貯蔵弾性率、E’’:損失弾性率
振動応力:正弦波荷重/初期断面積
静的引張荷重:各周期での振動応力の最小点(各周期でのギャップ間距離の最小点)の荷重
正弦波荷重:測定された振動応力と静的引張荷重の差)
から貯蔵弾性率を算出する。}
により定義される混合貯蔵弾性率比(RE’mix)が、1.2倍~20倍である、項目18又は19に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
[21]
前記蓄電デバイス用微多孔膜が、前記ポリプロピレンとして、
下記要件(P1)~(P3):
(P1)温度230℃及び質量2.16kgの条件下で測定した際のMFRが、2.5g/10min以下である;
(P2)重量平均分子量Mwを数平均分子量Mnで除した値(Mw/Mn)が、10以下である;及び
(P3)密度が0.89g/cm以上である:
を満たすホモポリプロピレン(A)と、
前記要件(P1)~(P3)の少なくとも1つを満たさず、かつ官能基を有するポリプロピレン(B)と、
を含む、項目12~20のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
[22]
前記ポリプロピレン(B)の含有割合が、4質量%以上30質量%以下である、項目21に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
[23]
前記ポリプロピレン(B)が、シラン変性ポリプロピレンである、項目21又は22に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
[24]
前記ホモポリプロピレン(A)は、MFRが0.25g/10min以上であり、Mw/Mnが4.9以上であり、かつ密度が0.96g/cm以下である、項目21~23のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用微多孔膜。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、蓄電デバイス用微多孔膜の強度及び開孔性を損なうことなく、高温下での耐破膜性の向上を達成することでき、微多孔膜をセパレータとして備える蓄電デバイスの電池特性と釘刺し試験での高い安全性を両立することができる。また、本発明によれば、製膜プロセス中又はその直後に架橋構造を形成しなくてもよいので、セパレータの内部応力の増加及び蓄電デバイス作製後の変形を抑制することができ、かつ/又は光照射若しくは加温などの比較的高いエネルギーを用いなくてもセパレータに架橋構造を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、結晶構造のラメラ(結晶部)、非晶部およびそれらの間の中間層部に分かれた高次構造を有する結晶性高分子を説明するための模式図である。
図2】ポリオレフィン分子の結晶成長を説明するための模式図である。
図3図3は、温度と貯蔵弾性率の関係を説明するためのグラフの一例であり、-50℃~310℃の温度範囲内の基準膜と架橋後膜の貯蔵弾性率を対比して、ゴム状平坦領域と結晶融解流動領域の転移温度を示す。
図4図4は、温度と損失弾性率の関係を説明するためのグラフの一例であり、-50℃~310℃の温度範囲内の基準膜と架橋後膜の損失弾性率を対比して、ゴム状平坦領域と結晶融解流動領域の転移温度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」と略記する。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
〔蓄電デバイス用微多孔膜〕
微多孔膜は、単数又は複数の種類のポリオレフィン系樹脂で形成されるか、又はポリオレフィン系樹脂とそれ以外の樹脂とを有する複合樹脂膜であることができ、かつ多数の微細な孔を有する。ポリオレフィン系樹脂を主成分として含む微多孔膜(以下、ポリオレフィン系微多孔膜ともいう)は、膜の質量に対して、ポリオレフィン系樹脂を50質量%以上含む。
【0015】
ポリオレフィン系微多孔膜は、酸化還元劣化耐性及び緻密で均一な多孔質構造の観点から、蓄電デバイスの形成に使用されることが好ましく、蓄電デバイスの構成材料として使用されることがより好ましく、蓄電デバイス用セパレータとして使用されることがさらに好ましく、リチウムイオン電池用セパレータとして使用されることが特に好ましい。本明細書では、蓄電デバイス用セパレータ(以下、「セパレータ」として略記することがある)とは、蓄電デバイスにおいて複数の電極の間に配置され、かつイオン透過性及び必要に応じてシャットダウン特性を有する部材をいう。セパレータは、微多孔膜を含み、所望により、任意の機能層をさらに備えてよい。
【0016】
〔第一及び第二の実施形態〕
第一の実施形態に係る微多孔膜は、1種又は2種以上の官能基を有するポリオレフィンを含み、蓄電デバイスへ収納された後には、(1)ポリオレフィンの官能基同士が縮合反応するか、(2)ポリオレフィンの官能基が蓄電デバイス内部の化学物質と反応するか、又は(3)ポリオレフィンの官能基が他の種類の官能基と反応して、架橋構造が形成される。第一の実施形態では、微多孔膜は、上記(1)~(3)のいずれかの反応により架橋構造を形成することができ、それにより強度を保ち、150℃以上の高温下での耐破膜性を向上させることでき、例えばセパレータとして、蓄電デバイスに収納されたときにデバイス特性と安全性を両立する傾向にある。
【0017】
さらに、第一の実施形態では、微多孔膜に含まれるポリオレフィンが、下記要件(A)~(C):
(A)温度230℃及び質量2.16kgの条件下で測定した際のメルトフローレイト(MFR)が、3.0g/10min以下である;
(B)重量平均分子量Mwを数平均分子量Mnで除した値(Mw/Mn)が、15以下である;及び
(C)密度が0.85g/cm以上である;
を満たし、かつ微多孔膜が、下記要件(D):
(D)広角X線散乱で測定した際の機械方向(MD)に対する幅方向(TD)の配向割合の比MD/TDが、1.3以上である;
を満たす。第一の実施形態では、ポリオレフィン及び微多孔膜が、要件(A)~(D)を満たすと、微多孔膜の強度、製膜性、生産性及び開孔性が向上する傾向にある。
【0018】
要件(A)については、温度230℃及び質量2.16kgの条件下で測定した際のポリオレフィン(PO)のMFRが、3.0g/10min以下であると、得られる微多孔膜の強度が合格水準に達し易い。同様の観点から、POのMFRは、好ましくは、0.25~2.9g/10min、より好ましくは0.3~2.7g/10min、さらに好ましくは0.4~2.5g/10minである。温度230℃及び質量2.16kgの条件下で測定した際のポリオレフィン(PO)のMFRは、0.5g/10min以上でもよく、0.6g/10min以上でもよく、0.7g/10min以上でもよく、0.8g/10min以上でもよく、0.9g/10min以上でもよく、1.0g/10min以上でもよい。温度230℃及び質量2.16kgの条件下で測定した際のポリオレフィン(PO)のMFRは、2.3g/10min以下でもよく、2.0g/10min以下でもよく、1.8g/10min以下でもよく、1.5g/10min以下でもよい。
【0019】
要件(B)については、POの分散度(Mw/Mn)が、15以下であると、得られるPO成形時の製膜性と強度を両立できる傾向にある。製膜性と強度の両立という観点から、POの分散度(Mw/Mn)は、好ましくは4.0~13、より好ましくは4.9~11、さらに好ましくは5.2~9.0である。POの分散度(Mw/Mn)は、5.5以上でもよく、5.8以上でもよく、6.0以上でもよく、6.2以上でもよく、6.5以上でもよい。POの分散度(Mw/Mn)は、8.0以下であってもよく、7.0以下であってもよく、6.5以下であってもよい。
【0020】
要件(C)については、PO密度はPO結晶性を密接に関連するため、0.85g/cm以上のPO密度の場合には、微多孔膜の生産性が向上し、特に乾式多孔化法に有効である。生産性及び開孔性の観点から、PO密度は、0.85g/cm以上が好ましく、0.88g/cm以上が好ましく、又は0.90g/cm以上が好ましい。また、PO密度は、1.1g/cm以下が好ましく、1.0g/cm以下が好ましく、0.98g/cm以下が好ましく、0.97g/cm以下が好ましく、0.96g/cm以下が好ましく、0.95g/cm以下が好ましく、0.94g/cm以下が好ましく、0.93g/cm以下が好ましく、又は0.92g/cm未満が好ましい。POとしては、例えば、ポリプロピレンやポリエチレンが挙げられる。
【0021】
要件(D)については、微多孔膜の広角X線散乱測定時に、配向割合の比MD/TDが、1.3以上であると、膜の微多孔性、架橋構造、及びイオン透過性が、所望のデバイス特性に適合する傾向にある。配向割合の比MD/TDの下限値は、膜物性とデバイス特性の適合の観点から、好ましくは1.4以上又は1.5以上であり、より好ましくは1.6以上である。配向割合の比MD/TDの上限値は、例えば、製膜プロセスに応じて、4.0以下、3.5以下、又は3.1以下であることができる。
【0022】
第二の実施形態に係る微多孔膜は、1種又は2種以上の官能基を有するβ晶活性ポリプロピレンを含み、蓄電デバイスへ収納された後には、(1)ポリプロピレンの官能基同士が縮合反応するか、(2)ポリプロピレンの官能基が蓄電デバイス内部の化学物質と反応するか、又は(3)ポリプロピレンの官能基が他の種類の官能基と反応して、架橋構造が形成される。第二の実施形態では、β晶活性を有するポリプロピレンの溶融押出時にβ晶を有する未延伸シートを作製し、作製された未延伸シートを延伸することにより比較的結晶密度の高いα晶に結晶転移させ、両者の結晶密度差により微多孔を形成して微多孔膜を得ると、得られた微多孔膜は、上記(1)~(3)のいずれかの反応により架橋構造を形成することができ、それにより強度を保ち、150℃以上の高温下での耐破膜性を向上させることでき、蓄電デバイスのデバイス特性と安全性を両立する傾向にある。第二の実施形態に係る微多孔膜は、単数又は複数の種類のポリプロピレンを含んでよく、複数種のポリプロピレンを含む場合には、そのうちの少なくとも1種が、1種又は2種以上の官能基とβ晶活性を有する。
【0023】
第一及び第二の実施形態では、ポリプロピレンなどのポリオレフィンに含まれる官能基は、ポリオレフィンの結晶部に取り込まれず、非晶部において架橋されると考えられるので、第一及び第二の実施形態に係る微多孔膜は、蓄電デバイスへ収納された後に、周囲の環境又は蓄電デバイス内部の化学物質を利用して、架橋構造を形成し、それにより内部応力の増加又は作製された蓄電デバイスの変形を抑制し、安全性に寄与することができる。
他方、微多孔膜が蓄電デバイスへ収納される前に架橋反応を行い、巻取り・スリットなどの工程を経た場合には、その工程の際に発生した張力等の応力の影響が残留する。このとき、当該応力が蓄電デバイス組み立て後に開放された場合には、電極捲回物等のデフォーム又は応力集中による破損の原因となることが考えられるため好ましくない。
【0024】
また、第一及び第二の実施形態では、製膜プロセス中又はその直後に架橋構造を形成しなくてもよいので、微多孔膜をセパレータとして使用するときに、内部応力の増加及び蓄電デバイス作製後の変形を抑制することができ、かつ/又は架橋構造を形成するための光照射若しくは加温などを用いずに省エネルギーに寄与することができる。
【0025】
〔第三及び第四の実施形態〕
第三の実施形態に係る微多孔膜は、ポリオレフィンを含み、かつポリオレフィンの非晶部が架橋された非晶部架橋構造を有する。第三の実施形態では、ポリオレフィンの非晶部架橋構造が、150℃以上の高温下での耐破膜性を向上させることでき、微多孔膜がセパレータとして蓄電デバイスに組み込まれたときに、デバイス特性と安全性を両立する傾向にある。
【0026】
さらに、第三の実施形態では、微多孔膜に含まれるポリオレフィンが、下記要件(A)~(C):
(A)温度230℃及び質量2.16kgの条件下で測定した際のメルトフローレイト(MFR)が、3.0g/10min以下である;
(B)重量平均分子量Mwを数平均分子量Mnで除した値(Mw/Mn)が、15以下である;及び
(C)密度が0.85g/cm以上である;
を満たし、かつ微多孔膜が、下記要件(D):
(D)広角X線散乱で測定した際の機械方向(MD)に対する幅方向(TD)の配向割合の比MD/TDが、1.3以上である;
を満たす。第三の実施形態では、ポリオレフィン及び微多孔膜が要件(A)~(D)を満たすと、第一の実施形態において説明された要件(A)~(D)と同じ理由のために、微多孔膜の強度、製膜性、生産性、開孔性及びイオン透過性、並びに蓄電デバイス特性が向上する傾向にある。
【0027】
第四の実施形態に係る微多孔膜は、β晶活性を有するポリプロピレンを含み、かつポリプロピレンの非晶部が架橋された非晶部架橋構造を有する。第四の実施形態では、β晶活性を有するポリプロピレンの溶融押出時にβ晶を有する未延伸シートを作製し、作製された未延伸シートを延伸することにより比較的結晶密度の高いα晶に結晶転移させ、両者の結晶密度差により微多孔を形成して微多孔膜を得ると、得られた微多孔膜は、非晶部架橋構造を有するので、150℃以上の高温下での耐破膜性を向上させることでき、蓄電デバイスのデバイス特性と安全性を両立する傾向にある。第四の実施形態に係る微多孔膜は、単数又は複数の種類のポリプロピレンを含んでよく、複数種のポリプロピレンを含む場合には、そのうちの少なくとも1種が、β晶活性を有する。
【0028】
第三及び第四の実施形態では、ポリプロピレンなどのポリオレフィンに含まれる官能基は、ポリオレフィンの結晶部に取り込まれず、非晶部において架橋されると考えられるので、第三及び第四の実施形態に係る微多孔膜は、結晶部及びその周辺が架橋し易い従来の架橋型微多孔膜と比べて、シャットダウン機能と高温耐破膜性を両立しながら内部応力の増加又は作製された蓄電デバイスの変形を抑制することができ、ひいては蓄電デバイスの安全性を確保することができる。同様の観点から、第三及び第四の実施形態に係る微多孔膜に含まれるポリオレフィンの非晶部は、好ましくは、選択的に架橋されており、より好ましくは、結晶部よりも有意に架橋されている。
【0029】
〔架橋反応機構〕
第一、第二、第三及び第四の実施形態では、架橋反応機構・架橋構造について明らかではないが、本発明者らは下記(ア)~(エ)のように考える。
【0030】
(ア)ポリオレフィン系微多孔膜における結晶構造
ポリエチレン等に代表されるポリオレフィン樹脂は、図1に示すように、一般に結晶性高分子であり、結晶構造のラメラ(結晶部)、非晶部およびそれらの間の中間層部に分かれた高次構造を有する。結晶部、及び結晶部と非晶部の間の中間層部においては、高分子鎖の運動性は低く、切り分けができないが、固体粘弾性測定では0℃~120℃領域に緩和現象が観測できる。他方、非晶部は、高分子鎖の運動性が非常に高く、固体粘弾性測定では-150℃~-100℃領域に観測される。この点が、後述されるラジカルの緩和又はラジカルの移動反応、架橋反応等に関係する。
【0031】
また、結晶を構成するポリオレフィン分子は、単一ではなく、図2に例示されるように、複数の高分子鎖が小さなラメラを形成した後、ラメラが集合化し、結晶となる。このような現象は、直接的に観測することが難しく、近年、シミュレーションにより、学術的に研究が進められ、明らかになってきた。なお、本明細書では、結晶とは、X線構造解析により計測される最小結晶の単位であり、結晶子サイズとして算出できる単位である。このように、結晶部(ラメラ内部)といえども、結晶中にも一部拘束されずに、運動性がやや高い部分が存在すると予測される。
【0032】
(イ)電子線による架橋反応機構
次に、高分子への電子線架橋(以下、EB架橋という)の反応機構は、以下のとおりである。
(i)数十kGyから数百kGyの電子線の照射、
(ii)反応対象物(高分子)への電子線の透過と二次電子発生、
(iii)二次電子による高分子鎖中の水素の引き抜き反応とラジカル発生、
(iv)ラジカルによる隣接水素の引き抜きと活性点の移動、(v)ラジカル同士の再結合による架橋反応またはポリエン形成。
ここで、結晶部に発生したラジカルについては、運動が乏しいため、長期間に亘り存在し、かつ不純物等が結晶内へ進入できないため、反応・消光の確率が低い。このようなラジカル種は、Stable Radicalと呼ばれており、数ヶ月という長い期間で残存し、ESR測定によって寿命が明らかになる。結果として、結晶内における架橋反応は乏しいと考えられる。しかしながら、結晶内部に僅かに存在する、拘束されていない分子鎖又は周辺の結晶-非晶中間層部では、発生したラジカルは、やや長い寿命を有する。このようなラジカル種は、Persistent Radicalと呼ばれており、運動性のある環境下では、高い確率で分子鎖間の架橋反応が進行すると考えられる。一方、非結晶部は運動性が非常に高いため、発生したラジカル種は寿命が短く、分子鎖間の架橋反応だけではなく、一本の分子鎖内のポリエン反応も高確率で進行すると考えられる。
以上の様に、結晶レベルのミクロな視野においては、EB架橋による架橋反応は結晶内部又はその周辺が局在していると推測できる。
【0033】
(ウ)化学反応による架橋反応機構
前述のように、ポリオレフィン樹脂には結晶部と非晶部が存在する。しかし、前述の官能基は、立体障害のため結晶内部には存在せず、非晶部に局在する。このことは、一般的に知られており、ポリエチレン鎖状に僅かに含まれるメチル基のようなユニットは結晶中に取り込まれることはあるが、エチル基より嵩高いグラフトは取り込まれることはない(「基礎高分子化学」東京化学同人 発行)。このため、電子線架橋と異なる反応による架橋点は、非晶部のみに局在する。
【0034】
(エ)架橋構造の違いと効果との関係
微多孔膜中に架橋構造を形成するためには、ポリオレフィン樹脂中の官能基と蓄電デバイス中に含まれる化学物質との組み合わせを用いるか、又は蓄電デバイス中に含まれる化学物質を、触媒として用いることが好ましい。蓄電デバイス内部の化学反応による架橋反応では、使用原料又は触媒等に応じて、反応生成物のモルフォロジーが相違する。本発明に至るまでの研究では、架橋構造の解明及び構造変化に伴うに微多孔膜の物性変化を明らかにするために、以下の実験により現象解明に至った。
【0035】
EB架橋または化学架橋(前)未実施の膜と、化学架橋膜とについて、ヒューズ/メルトダウン特性試験により、両者の結晶融解時の挙動を調べた。結果、EB架橋処理した膜は、ヒューズ温度が著しく高くなり、メルトダウン温度は200以上まで上昇する。一方、化学架橋膜は、架橋処理前後において、ヒューズ温度は変化が見られず、メルトダウン温度は200℃以上まで上昇したことが確認された。このことから、結晶融解によって発生するヒューズ特性において、EB架橋膜は、結晶部周辺が架橋したため、融解温度の上昇、融解速度の低下が原因であったと考えられる。一方、化学架橋膜は、結晶部に架橋構造がないため、ヒューズ特性へ変化を及ぼさないと断定した。また、200℃前後の高温領域では、両者とも結晶融解後、架橋構造を有するため、樹脂物全体がゲル状態で安定化でき、良いメルトダウン特性を得られる。
【0036】
上記の知見を下表1にまとめる。
【表1】

【0037】
第一及び第三の実施形態では、(1)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンの官能基同士の縮合反応は、例えば、ポリオレフィンに含まれる2つ以上の官能基Aの共有結合を介した反応であることができる。また、(3)ポリオレフィンの官能基と他の種類の官能基との反応は、例えば、ポリオレフィンに含まれる官能基Aと官能基Bの共有結合を介した反応であることができる。
【0038】
第一及び第三の実施形態では、(2)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンの官能基と蓄電デバイス内部の化学物質との反応において、例えば、ポリオレフィンに含まれる官能基Aは、蓄電デバイスに含まれる電解質、電解液、電極活物質、添加剤又はそれらの分解物のいずれかと共有結合又は配位結合を形成することができる。また、反応(2)によれば、セパレータ内部だけでなく、セパレータと電極の間又はセパレータと固体電解質界面(SEI)の間にも架橋構造を形成して、蓄電デバイスの複数の部材間の強度を向上させることができる。
【0039】
第一、第二、第三及び第四の実施形態に係る微多孔膜は、非晶部架橋構造の形成、シャットダウン機能と高温耐破膜性の両立などの観点から、下記式(I):
E’X=E’/E’z0 (I)
{式中、E’は、微多孔膜の架橋反応が蓄電デバイス内で進行した後に、160℃~300℃の温度領域で測定された貯蔵弾性率であり、かつ
E’z0は、微多孔膜が蓄電デバイスに組み込まれる前に、160℃~300℃の温度領域で測定された貯蔵弾性率である。}
により定義される混合貯蔵弾性率比(RE’x)、及び/又は下記式(III):
E’’X=E’’/E’’Z0 (III)
{式中、E’’は、微多孔膜の架橋反応が蓄電デバイス内で進行した後に、160℃~300℃の温度領域で測定された損失弾性率であり、かつ
E’’Z0は、微多孔膜が蓄電デバイスに組み込まれる前に、160℃~300℃の温度領域で測定された損失弾性率である。}
により定義される混合損失弾性率比(RE’’x)が、好ましくは1.2倍~20倍、より好ましくは2.0倍~18倍、さらに好ましくは3.0倍~16.5倍である。なお、E’及びE’z0とE’’及びE’’z0とは、それぞれ160℃~300℃を最も広い温度領域としたときに、測定装置の設定温度範囲内で測定された貯蔵弾性率又は損失弾性率の平均値である。また、積層膜の場合には、積層膜からポリオレフィン系微多孔膜のみを取り外して貯蔵弾性率E’及びE’z0と損失弾性率E’’及びE’’z0を測定するものとする。E’、E’z0、E’’又はE’’z0である弾性率の測定条件は、実施例に記載される。
【0040】
第一、第二、第三及び第四の実施形態に係るセパレータは、非晶部架橋構造の形成、シャットダウン機能と高温耐破膜性の両立などの観点から、下記式(II):
E’mix=E’/E’ (II)
{式中、E’は、非晶部架橋構造を有する微多孔膜の160℃~300℃で測定された貯蔵弾性率であり、かつ
E’は、非晶部架橋構造を有しない微多孔膜の160℃~300℃で測定された貯蔵弾性率である。}
により定義される混合貯蔵弾性率比(RE’mix)、及び/又は下記式(IV):
E’’mix=E’’/E’’ (IV)
{式中、E’’は、微多孔膜が非晶部架橋構造を有するときに160℃~300℃で測定された損失弾性率であり、かつ
E’’は、非晶部架橋構造を有しない微多孔膜の160℃~300℃で測定された損失弾性率である。}
により定義される混合損失弾性率比(RE’’mix)が、好ましくは1.2倍~20倍、より好ましくは2.0倍~18倍、さらに好ましくは3.0倍~17倍である。なお、E’及びE’とE’’及びE’’は、それぞれ160℃~300℃を最も広い温度領域としたときに、測定装置の設定温度範囲内で測定された貯蔵弾性率又は損失弾性率の平均値である。また、積層膜の場合には、積層膜からポリオレフィン系微多孔膜のみを取り外して貯蔵弾性率E’及びE’と損失弾性率E’’及びE’’を測定するものとする。E’、E’、E’’又はE’’である弾性率の測定条件は、実施例に記載される。
【0041】
第一、第二、第三及び第四の実施形態に係る微多孔膜の構成要素について以下に説明する。
【0042】
〔ポリオレフィン〕
微多孔膜を構成するポリオレフィンとしては、特に限定されないが、例えば、エチレン若しくはプロピレンのホモ重合体、又はエチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、及びノルボルネンから成る群より選ばれる少なくとも2つのモノマーから形成される共重合体などが挙げられる。この中でも、湿式又は乾式での多孔化が容易であるという観点から、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、ポリプロピレン、ポリブテン、又はそれらの組み合わせが好ましく、ポリプロピレンがより好ましい。一般に、UHMWPEの重量平均分子量は、1,000,000以上であることが知られている。なお、ポリオレフィンは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0043】
また、ポリオレフィンの重量平均分子量(Mw)は、上記で説明された要件(B)の分散度(Mw/Mn)が15以下になるように任意に決定されることができ、そして微多孔膜の熱収縮性及び蓄電デバイスの安全性の観点から、好ましくは10,000~2,000,000であり、より好ましくは20,000~1,500,000であり、さらに好ましくは30,000~1,000,000である。同様の観点から、微多孔膜は、10,000~2,000,000のMwを有するポリオレフィンを、原料ポリオレフィン全体に対して、好ましくは3~25質量%含み、より好ましくは5~20質量%含む。
【0044】
〔1種又は2種以上の官能基を有するポリオレフィン〕
微多孔膜は、架橋構造の形成、耐酸化還元劣化及び緻密で均一な多孔質構造の観点から、1種又は2種以上の官能基を有するポリオレフィンとして、官能基変性ポリオレフィン、又は官能基を有する単量体を共重合されたポリオレフィンを含むことが好ましい。なお、本明細書では、官能基変性ポリオレフィンとは、ポリオレフィンの製造後に官能基を結合させた物をいう。官能基は、ポリオレフィン骨格に結合するか、又はコモノマーに導入可能なものであり、好ましくは、ポリオレフィン非晶部の選択的な架橋に関与するものであり、例えば、カルボキシル基、ヒドロキシ基、カルボニル基、重合性不飽和炭化水素基、イソシアネート基、エポキシ基、シラノール基、ヒドラジド基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、アセトアセチル基、アジリジン基、エステル基、活性エステル基、カーボネート基、アジド基、鎖状又は環状ヘテロ原子含有炭化水素基、アミノ基、スルフヒドリル基、金属キレート基、及びハロゲン含有基から成る群から選択される少なくとも1つであることができる。
【0045】
〔複数の種類のポリプロピレン〕
微多孔膜の強度、イオン透過性、耐酸化還元劣化及び緻密で均一な多孔質構造などの観点から、微多孔膜は、1種又は2種以上の官能基を有するポリオレフィンと、その他のポリオレフィンとの両方を含むことが好ましく、より好ましくは、第一のポリプロピレン(A)と、ポリプロピレン(A)とは区別されることができて官能基を有する第二のポリプロピレン(B)との両方を含む。
【0046】
第一のポリプロピレン(A)は、微多孔膜の強度、製膜性、生産性及び開孔性の観点から、下記要件(P1)~(P3):
(P1)温度230℃及び質量2.16kgの条件下で測定した際のMFRが、2.5g/10min以下である;
(P2)重量平均分子量Mwを数平均分子量Mnで除した値(Mw/Mn)が、10以下である;及び
(P3)密度が0.89g/cm以上である:
を満たすホモポリプロピレン(A)であることが好ましい。ホモポリプロピレン(A)の要件(P1)については、MFRは、より好ましくは、0.25~2.4g/10minである。要件(P2)については、ホモポリプロピレン(A)の分散度(Mw/Mn)は、より好ましくは4.9~9.0である。要件(P3)については、ホモポリプロピレン(A)の密度は、より好ましくは、0.90g/cm以上かつ0.96g/cm以下、又は0.90g/cm以上かつ0.93g/cm以下である。
【0047】
他方、官能基を有する第二のポリプロピレン(B)は、上記要件(P1)~(P3)の少なくとも1つを満たさず、かつ少なくとも1種の官能基を有するポリプロピレンであり、ホモポリマーでもコポリマーでもよい。ポリプロピレン(B)は、官能基として、例えば、カルボキシル基、ヒドロキシ基、カルボニル基、重合性不飽和炭化水素基、イソシアネート基、エポキシ基、シラノール基、ヒドラジド基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、アセトアセチル基、アジリジン基、エステル基、活性エステル基、カーボネート基、アジド基、鎖状又は環状ヘテロ原子含有炭化水素基、アミノ基、スルフヒドリル基、金属キレート基、及びハロゲン含有基から成る群から選択される少なくとも1つを有してよく、中でも、架橋構造の形成の観点からシラン変性ポリプロピレンであることが好ましい。
【0048】
微多孔膜においてポリプロピレン(A)と(B)を併用する場合には、微多孔膜中のポリプロピレン(B)の含有割合が、強度と架橋性のバランスの観点から、30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは4~25質量%、さらに好ましくは5~20質量%である。
【0049】
〔架橋反応〕
微多孔膜の架橋構造は、セパレータとして使用されたときのシャットダウン機能と高温耐破膜性の両立及び耐蓄電デバイスの安全性に寄与し、好ましくはポリオレフィンの非晶部に形成される。架橋構造は、例えば、共有結合、水素結合又は配位結合のいずれかを介した反応により形成されることができる。中でも、共有結合を介した反応は、下記反応(I)~(IV):
(I)複数の同一官能基の縮合反応
(II)複数の異種官能基間の反応
(III)官能基と電解液の連鎖縮合反応
(IV)官能基と添加剤の連鎖縮合反応
から成る群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
また、配位結合を介した反応は、下記反応(V):
(V)複数の同一官能基が、溶出金属イオンとの配位結合を介して架橋する反応
であることが好ましい。
【0050】
反応(I)
微多孔膜の第一官能基をAとして、反応(I)の模式的スキーム及び具体例を以下に示す。
【化1】
{式中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基又はヘテロアルキル基である。}
【0051】
反応(I)のための官能基Aがシラノール基である場合には、微多孔膜に含まれるポリオレフィンは、シラングラフト変性されていることが好ましい。シラングラフト変性ポリオレフィンは、主鎖がポリオレフィンであり、その主鎖にアルコキシシリルをグラフトとして有する構造で構成されている。なお、前記アルコキシシリルに置換したアルコキシドは、例えば、メトキシド、エトキシド、ブトキシドなどが挙げられる。例えば、上記式中、Rは、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチルなどであることができる。また、主鎖とグラフト間は共有結合で繋いでおり、アルキル、エーテル、グリコール又はエステルなどの構造が挙げられる。本実施形態に係る微多孔膜の製造プロセスを考慮すると、シラングラフト変性ポリオレフィンは、架橋処理工程の前の段階では、炭素に対するケイ素の割合(Si/C)が、0.2~1.8%であることが好ましく、0.5~1.7%であることがより好ましい。
【0052】
反応(II)
微多孔膜の第一官能基をA、かつ第二官能基をBとして、反応(II)の模式的スキーム及び具体例を以下に示す。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【0053】
反応(I)と反応(II)は、触媒作用を受けることができ、例えば、微多孔膜がセパレータとして組み込まれる蓄電デバイス内部の化学物質により触媒的に促進されることができる。化学物質は、例えば、蓄電デバイスに含まれる電解質、電解液、電極活物質、添加剤又はそれらの分解物のいずれかであることができる。
【0054】
反応(III)
微多孔膜の第一官能基をA、かつ電解液をSolとして、反応(III)の模式的スキーム及び具体例を以下に示す。
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【0055】
反応(IV)
微多孔膜の第一官能基をA、所望により組み込まれる第二官能基をB、かつ添加剤をAddとして、反応(IV)の模式的スキームを以下に示す。
【化10】
【0056】
反応(IV)は、上記スキームにおいて点線で表される共有結合の形成の観点から、微多孔膜を構成する化合物Rxと添加剤(Add)を構成する化合物Ryとの求核置換反応、求核付加反応又は開環反応であることが好ましい。化合物Rxは、微多孔膜に含まれるポリオレフィン、例えばポリエチレン又はポリプロピレンなどでよく、好ましくは、ポリオレフィンは、官能基xにより、例えば、-OH、-NH、-NH-、-COOH及び-SHから成る群から選択される少なくとも1つにより変性される。
【0057】
複数の化合物Rxは、添加剤としての化合物Ryを介して架橋されるので、化合物Ryは、2つ以上の連結反応ユニットyを有することが好ましい。複数の連結反応ユニットyは、化合物Rxの官能基xと求核置換反応、求核付加反応又は開環反応を起こすことができる限り、任意の構造又は基でよく、置換又は非置換でよく、ヘテロ原子又は無機物を含んでよく、互いに同一でも異なってもよい。また、化合物Ryは鎖状構造を有するときには、複数の連結反応ユニットyは、それぞれ独立に、末端基であるか、主鎖に組み込まれるか、又は側鎖若しくはペンダントであることができる。
【0058】
反応(IV)が求核置換反応である場合、あくまでも一例として、化合物Rxの官能基xを求核性基と見なし、かつ化合物Ryの連結反応ユニットyを脱離基と見なして以下に説明するが、本実施形態では、官能基xと連結反応ユニットyは、求核性に応じて、いずれも脱離基になることができるものとする。
【0059】
求核試剤の観点から、化合物Rxの官能基xは、酸素系求核基、窒素系求核基、硫黄系求核基であることが好ましい。酸素系求核基としては、水酸基、アルコキシ基、エーテル基、カルボキシル基などが挙げられ、中でも-OH及び-COOHが好ましい。窒素系求核基としては、アンモニウム基、第一アミノ基、第二アミノ基などが挙げられ、中でも-NH及び-NH-が好ましい。硫黄系求核基としては、例えば、-SH、チオエーテル基などが挙げられ、-SHが好ましい。
【0060】
反応(IV)が求核置換反応である場合には、脱離基の観点から、化合物Ryの連結反応ユニットyとしては、CHSO-、CHCHSO-などのアルキルスルホニル基;アリールスルホニル基(-ArSO-);CFSO-、CClSO-などのハロアルキルスルホニル基;CHSO -、CHCHSO -などのアルキルスルホネート基;アリールスルホネート基(ArSO -);CFSO -、CClSO -などのハロアルキルスルホネート基;及び複素環式基が好ましく、これらを単独で又は複数種の組み合わせとして使用することができる。複素環に含まれるヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子などが挙げられ、中でも、脱離性の観点から、窒素原子が好ましい。複素環に窒素原子が含まれている脱離基としては、下記式(y-1)~(y-6):
【化11】
{式中、Xは、水素原子又は1価の置換基である。}
【化12】
{式中、Xは、水素原子又は1価の置換基である。}
【化13】
{式中、Xは、水素原子又は1価の置換基である。}
【化14】
{式中、Xは、水素原子又は1価の置換基である。}
【化15】
{式中、Xは、水素原子又は1価の置換基である。}
【化16】
{式中、Xは、水素原子又は1価の置換基である。}
で表される1価の基が好ましい。
【0061】
式(y-1)~(y-6)において、Xは、水素原子又は1価の置換基である。1価の置換基としては、例えば、アルキル基、ハロアルキル基、アルコキシル基、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0062】
反応(IV)が求核置換反応であり、かつ化合物Ryが鎖状構造を有する場合には、化合物Ryは、連結反応ユニットyに加えて、鎖状ユニットyとして、下記式(y-1)~(y-6):
【化17】
{式中、mは、0~20の整数であり、かつnは、1~20の整数である。}
【化18】
{式中、nは、1~20の整数である。}
【化19】
{式中、nは、1~20の整数である。}
【化20】
{式中、nは、1~20の整数である。}
【化21】
{式中、Xは、炭素数1~20のアルキレン基、又はアリーレン基であり、かつnは、1~20の整数である。}
【化22】
{式中、Xは、炭素数1~20のアルキレン基、又はアリーレン基であり、かつnは、1~20の整数である。}
で表される2価の基から成る群から選択される少なくとも1つを有することが好ましい。また、化合物Ryに複数の鎖状ユニットyが含まれる場合には、それらは、互いに同一でも異なっていてもよく、それらの配列はブロックでもランダムでもよい。
【0063】
式(y-1)において、mは、0~20の整数であり、架橋網目の観点から、好ましくは1~18である。式(y-1)~(y-6)において、nは、1~20の整数であり、架橋網目の観点から、好ましくは2~19又は3~16である。式(y-5)~(y-6)において、Xは、炭素数1~20のアルキレン基、又はアリーレン基であり、鎖状構造の安定性の観点から、好ましくは、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、n-ブチレン基、n-ヘキシレン基、n-ヘプチレン基、n-オクチレン基、n-ドデシレン基、о-フェニレン基、m-フェニレン基、又はp-フェニレン基である。
【0064】
反応(IV)が求核置換反応である場合について、化合物Rxの官能基xと、化合物Ryの連結反応ユニットy及び鎖状ユニットyとの好ましい組み合わせを下記表2~4に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
求核置換反応の具体例1として、ポリオレフィンの官能基xが-NHであり、添加剤(化合物Ry)の連結反応ユニットyが、スクシンイミドに由来する骨格であり、かつ鎖状ユニットyが-(O-C-である場合の反応スキームを以下に示す。
【化23】
【0069】
求核置換反応の具体例2として、ポリオレフィンの官能基xが-SH及び-NHであり、添加剤(化合物Ry)の連結反応ユニットyが、窒素含有環状骨格であり、かつ鎖状ユニットyがо-フェニレンである場合の反応スキームを以下に示す。
【化24】
【0070】
反応(IV)が求核付加反応である場合、化合物Rxの官能基xと化合物Ryの連結反応ユニットyとが付加反応を起こすことができる。求核付加反応において、化合物Rxの官能基xは、酸素系求核基、窒素系求核基、硫黄系求核基であることが好ましい。酸素系求核基としては、水酸基、アルコキシ基、エーテル基、カルボキシル基などが挙げられ、中でも-OH及び-COOHが好ましい。窒素系求核基としては、アンモニウム基、第一アミノ基、第二アミノ基などが挙げられ、中でも-NH及び-NH-が好ましい。硫黄系求核基としては、例えば、-SH、チオエーテル基などが挙げられ、-SHが好ましい。
【0071】
求核付加反応において、化合物Ryの連結反応ユニットyは、付加反応性又は原料の入手容易性の観点から、下記式(Ay-1)~(Ay-6):
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
{式中、Rは、水素原子又は1価の有機基である。}
【化29】
【化30】
で表される基から成る群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0072】
式(Ay-4)において、Rは、水素原子又は1価の有機基であり、好ましくは、水素原子、C1~20アルキル基、脂環式基、又は芳香族基であり、より好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、シクロヘキシル基又はフェニル基である。
【0073】
反応(IV)が求核付加反応である場合について、化合物Rxの官能基xと化合物Ryの連結反応ユニットyの好ましい組み合わせを下記表5及び6に示す。
【0074】
【表5】
【0075】
【表6】
【0076】
求核付加反応の具体例として、微多孔膜の官能基xが-OHであり、添加剤(化合物Ry)の連結反応ユニットyが-NCOである場合の反応スキームを以下に示す。
【化31】
【0077】
反応(IV)が開環反応である場合、化合物Rxの官能基xと化合物Ryの連結反応ユニットyとが開環反応を起こすことができ、原料の入手容易性の観点から、連結反応ユニットy側の環状構造が開くことが好ましい。同様の観点から、連結反応ユニットyは、エポキシ基であることがより好ましく、化合物Ryが、少なくとも2つのエポキシ基を有することがさらに好ましく、ジエポキシ化合物であることがよりさらに好ましい。
【0078】
反応(IV)が開環反応である場合、化合物Rxの官能基xは、-OH、-NH、-NH-、-COOH及び-SHから成る群から選択される少なくとも1つであることが好ましく、かつ/又は化合物Ryの連結反応ユニットyが、下記式(ROy-1):
【化32】
{式中、複数のXは、それぞれ独立に、水素原子又は1価の置換基である。}
で表される少なくとも2つの基であることが好ましい。式(ROy-1)において、複数のXは、それぞれ独立に、水素原子又は1価の置換基であり、好ましくは、水素原子、C1~20アルキル基、脂環式基、又は芳香族基であり、より好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、シクロヘキシル基又はフェニル基である。エポキシ開環反応について、化合物Rxの官能基xと化合物Ryの連結反応ユニットyの好ましい組み合わせを下記表7に示す。
【0079】
【表7】
【0080】
反応(V)
微多孔膜の第一官能基をA、かつ金属イオンをMn+として、反応(V)の模式的スキーム、及び官能基Aの例を以下に示す。
【化33】
【0081】
上記スキーム中、金属イオンMn+は、蓄電デバイスから溶出したもの(以下、溶出金属イオンともいう。)であることが好ましく、例えば、Zn2+、Mn2+、Co3+、Ni2+及びLiから成る群から選択される少なくとも1つであることができる。官能基Aが-COOの場合の配位結合を以下に例示する。
【化34】
【0082】
官能基Aが-COOHであり、かつ溶出金属イオンがZn2+である場合の反応(V)の具体的なスキームを以下に示す。
【化35】
【0083】
上記スキームにおいて、フッ酸(HF)は、例えば、蓄電デバイスの充放電サイクルに応じて、蓄電デバイスに含まれる電解質、電解液、電極活物質、添加剤又はそれらの分解物若しくは吸水物のいずれかに由来することができる。
【0084】
(その他の含有物)
微多孔膜は、所望により、ポリオレフィンに加えて、脱水縮合触媒、ステアリン酸カルシウム又はステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、着色顔料等の公知の添加剤を含んでよい。
【0085】
〔微多孔膜の特性〕
以下の微多孔膜の特性は、蓄電デバイス用微多孔膜が平膜の場合について記載されているが、蓄電デバイス用微多孔膜が積層膜の形態である場合には積層膜から微多孔膜以外の層を除いてから測定されることができる。
【0086】
微多孔膜の気孔率は、好ましくは20%以上であり、より好ましくは30%以上であり、さらに好ましくは39%以上又は42%以上である。微多孔膜の気孔率が20%以上であることにより、リチウムイオン蓄電デバイスのセパレータとして使用されるとき、リチウムイオンの急速な移動に対する追従性がより向上する傾向にある。一方、微多孔膜の気孔率は、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下、さらに好ましくは50%以下である。微多孔膜の気孔率が90%以下であることにより、膜強度がより向上し、自己放電がより抑制される傾向にある。
【0087】
微多孔膜の透気抵抗度は、膜の体積100ml当たり、好ましくは1秒以上であり、より好ましくは50秒以上であり、さらに好ましくは100秒以上、よりさらに好ましくは、150秒以上又は200秒以上である。微多孔膜の透気抵抗度が1秒以上であることにより、膜厚と気孔率と平均孔径のバランスがより向上する傾向にある。また、微多孔膜の透気抵抗度は、好ましくは450秒以下であり、より好ましくは420秒以下である。微多孔膜の透気抵抗度が450秒以下であることにより、イオン透過性がより向上する傾向にある。
【0088】
微多孔膜の引張強度は、上記で説明された要件(D)の配向割合の比MD/TDと関連して、MDについて、好ましくは900~3000kg/cm、より好ましくは1000~2500kg/cm、さらに好ましくは1210~2270kg/cmであり、TD(MDと直交する方向、膜幅方向)について、好ましくは100~1500kg/cm、より好ましくは129~1310kg/cmである。
【0089】
微多孔膜の膜厚は、好ましくは1.0μm以上であり、より好ましくは2.0μm以上であり、さらに好ましくは3.0μm以上、4.0μm以上、又は5.5μm以上である。微多孔膜の膜厚が1.0μm以上であることにより、膜強度がより向上する傾向にある。また、微多孔膜の膜厚は、好ましくは500μm以下であり、より好ましくは100μm以下であり、さらに好ましくは80μm以下、22μm以下又は19μm以下である。微多孔膜の膜厚が500μm以下であることにより、イオン透過性がより向上する傾向にある。微多孔膜をリチウムイオン二次電池用セパレータとして使用する場合、微多孔膜の膜厚は、好ましくは1.0~25μm、より好ましくは3.0~22μm、さらに好ましくは13~18μmである。
【0090】
微多孔膜の突刺強度は、耐破膜性及びデバイス安全性とのバランスを取るという観点から、好ましくは200~500gf、より好ましくは、218~481gf又は227~450gfである。
【0091】
[微多孔膜の製造方法]
微多孔膜の製造方法は、以下の:
ポリオレフィン樹脂組成物の形成工程;及び
ポリオレフィン樹脂組成物の開孔化工程;
開孔化物の熱処理工程;
を含むことができる。微多孔膜(平膜)の場合について以下に説明するが、平膜以外の形態を除く意図ではない。
【0092】
ポリオレフィン樹脂組成物は、ポリオレフィン樹脂と、その他の材料とを用いて、単軸又は2軸押出機の溶融混練法によって製造されることができる。
【0093】
混練工程において混錬される材料は、その後に行われる開孔化工程に応じて、決定されることができる。これは、開孔化工程が、既知の乾式法及び/又は湿式法によって行われることができるからである。
【0094】
乾式法としては、無機粒子などの非相溶性粒子とポリオレフィンを含む未延伸シートを延伸及び抽出に供することにより異種素材界面を剥離させて孔を形成する方法、ラメラ開孔法、β晶開孔法等がある。
【0095】
ラメラ開孔法は、樹脂の溶融押出によるシート化時に溶融結晶化条件を制御することにより結晶ラメラ構造を有する未延伸シートを得て、得られた未延伸シートを延伸することによりラメラ界面を開裂させて孔を形成する方法である。ラメラ開孔法において、例えば、サーキュラーダイ押出法を使用することができる。サーキュラーダイ押出法では、例えば、ポリプロピレン樹脂組成物の溶融混練物を環状ダイから主としてMDにブローアップすることにより高結晶性MD配向原反を得ることができる。
【0096】
β晶開孔法は、ポリプロピレン(PP)の溶融押出時に比較的結晶密度の低いβ晶を有する未延伸シートを作製し、作製された未延伸シートを延伸することにより比較的結晶密度の高いα晶に結晶転移させ、両者の結晶密度差により孔を形成する方法である。β晶核剤としては、例えば、1:2,6-ナフタレンジカルボン酸ジシクロヘキシルアミドなどを使用することができ、好ましくは、β晶核剤と酸化防止剤を併用する。第二及び第四の実施形態では、β晶活性PPを使用することができるので、β晶開孔法が好ましい。
【0097】
湿式法としては、混錬機を用いて、ポリオレフィンと、所望により他の樹脂と、可塑剤又は無機材とを混錬してシート状に成形し、必要に応じて延伸した後、シートから孔形成材を抽出する方法、ポリオレフィン樹脂組成物の溶解後、ポリオレフィンに対する貧溶媒に浸漬させてポリオレフィンを凝固させると同時に溶剤を除去する方法等を使用することができる。
【0098】
可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、沸点以下の温度でポリオレフィンと均一な溶液を形成し得る有機化合物が挙げられる。より具体的には、デカリン、キシレン、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、デシルアルコール、ノニルアルコール、ジフェニルエーテル、n-デカン、n-ドデカン、パラフィン油等が挙げられる。これらの中でも、パラフィン油、ジオクチルフタレートが好ましい。可塑剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0099】
乾式法と湿式法のいずれを使用するとしても、蓄電デバイスに収納されるときまで微多孔膜の架橋性を維持するという観点から、微多孔膜の製造方法は、潜在的架橋性ポリオレフィンを、架橋剤、その他の反応性化合物、その他の化合物の官能基、架橋促進触媒などと接触させる工程を含まないことが好ましい。また、ポリオレフィン樹脂組成物は、微多孔膜の架橋性を維持する限り、添加剤としては、例えば、フッ素系流動改質材、ワックス類、結晶核材、酸化防止剤、脂肪族カルボン酸金属塩等の金属石鹸類、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、着色顔料等を含むことができる。
【0100】
開孔化物の熱処理工程は、微多孔膜の収縮を抑制するために、延伸工程後又は孔形成後に熱固定を目的として行われることができる。熱処理としては、物性の調整を目的として、所定の温度雰囲気及び所定の延伸率で行う延伸操作、及び/又は、延伸応力低減を目的として、所定の温度雰囲気及び所定の緩和率で行う緩和操作が挙げられる。延伸操作を行った後に緩和操作を行ってもよい。これらの熱処理は、テンター又はロール延伸機を用いて行うことができる。
【0101】
〔蓄電デバイス〕
第一、第二、第三及び第四の実施形態に係る微多孔膜は、蓄電デバイスにおいて使用されることができる。一般に、蓄電デバイスは、外装体と、正極と、負極と、正負極間に配置されたセパレータと、電解液とを備える。これらの実施形態に係る微多孔膜が、デバイス外装体に収納されると、微多孔膜の製造プロセス中に形成された官能基変性ポリオレフィン又は官能基グラフト共重合ポリオレフィンと、電解液又は添加剤に含まれる化学物質とが反応し、架橋構造が形成されるため、作製された蓄電デバイスには架橋構造がある。微多孔膜は、蓄電デバイスに収納されるときまで微多孔膜の架橋性を維持し、その後に蓄電デバイスの安全性を向上させるという観点から、セパレータとして正負極間に配置されることが好ましい。微多孔膜がセパレータとして蓄電デバイスに収納されると、架橋構造が形成されるため、従来の蓄電デバイスの製造プロセスに適合しながら、デバイス製造後に架橋反応を起こして蓄電デバイスの安全性を向上させることができる。
【0102】
蓄電デバイスとしては、具体的には、リチウム電池、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、ナトリウム二次電池、ナトリウムイオン二次電池、マグネシウム二次電池、マグネシウムイオン二次電池、カルシウム二次電池、カルシウムイオン二次電池、アルミニウム二次電池、アルミニウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、レドックスフロー電池、リチウム硫黄電池、リチウム空気電池、亜鉛空気電池などが挙げられる。これらの中でも、実用性の観点から、リチウム電池、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、又はリチウムイオンキャパシタが好ましく、リチウム電池又はリチウムイオン二次電池がより好ましい。
【0103】
〔リチウムイオン二次電池〕
リチウムイオン二次電池は、正極として、コバルト酸リチウム、リチウムコバルト複合酸化物等のリチウム遷移金属酸化物、負極として、グラファイト、黒鉛等の炭素材料、そして電解液としてLiPF等のリチウム塩を含む有機溶媒を使用した蓄電池である。リチウムイオン二次電池の充電・放電の時には、イオン化したリチウムが電極間を往復する。また、電極間の接触を抑制しながら、前記イオン化したリチウムが、電極間の移動を比較的高速に行う必要があるため、電極間にセパレータが配置される。
【実施例
【0104】
実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、用いた原材料及び微多孔膜の各種特性の評価方法は下記のとおりである。
【0105】
[メルトフローレート(MFR)の測定]
メルトフローレート(MFR)は、JIS K 7210に準拠し、ポリプロピレン樹脂を230℃及び2.16kgの条件下で測定した値で示した(単位はg/10分である)。
【0106】
[GPC(ゲルパーミッションクロマトグロフィー)の測定]
アジレント PL-GPC220を用い、標準ポリスチレンを以下の条件で測定して較正曲線を作成した。また、下記各ポリマーについても同様の条件でクロマトグラフを測定し、較正曲線に基づいて、下記方法により各ポリマーの重量平均分子量Mwを数平均分子量Mnで除した値を算出した。
カラム :TSKgel GMHHR-H(20) HT(7.8mmI.D.×30 cm) 2本
移動相 :1,2,4-トリクロロベンゼン
検出器 :RI
カラム温度:160℃
試料濃度 :1mg/ml
校正曲線 :ポリスチレン
【0107】
[広角X線散乱の測定]
測定には、リガク社製Ultima-IVを用いた。Cu-Kα線を、試料であるセパレータに入射し、D/tex Uitraにより回折光を検出した。測定条件は、試料と検出器間との距離が285mm、励起電圧が40kV、電流が40mAの条件であった。光学系には集中光学系を採用し、スリット条件は、DS=1/2°、SS=解放、縦スリット=10mmであった。計測したMD方向の配向結晶割合をTD方向の配向結晶割合で除した値をMD/TDの配向割合として算出した。
【0108】
[厚み(μm)]
ミツトヨ社製のデジマチックインジケータIDC112を用いて室温23±2℃で多孔性フィルムの厚さを測定した。
【0109】
[気孔率(%)]
多孔性フィルムから5cm×5cm角のサンプルを切り出し、そのサンプルの体積と質量から下記式を用いて気孔率を算出した。
気孔率(%)=(体積(cm)-質量(g)/樹脂組成物の密度(g/cm))/体積(cm)×100
【0110】
[透気抵抗度(秒/100ml)]
JIS P-8117に準拠したガーレー式透気度計で微多孔膜の透気抵抗度を測定した。
【0111】
[突刺強度]
先端が半径0.5mmの半球状である針を用意し、直径(dia.)11mmの開口部を有するプレート2つの間に微多孔膜を挟み、針、微多孔膜及びプレートをセットした。株式会社イマダ製「MX2-50N」を用いて、針先端の曲率半径0.5mm、微多孔膜保持プレートの開口部直径11mm及び突刺速度25mm/分の条件下で突刺試験を行い、針と微多孔膜を接触させ、最大突刺荷重(すなわち、突刺強度(gf))を測定した。
【0112】
[貯蔵弾性率と損失弾性率と転移温度の測定]
動的粘弾性測定装置を用いてセパレータの動的粘弾性測定を行い、貯蔵弾性率(E’)、損失弾性率(E’’)、及びゴム状平坦領域と結晶融解流動領域の転移温度を算出した。貯蔵弾性率変化比(RE’X)は下記式(I)、混合貯蔵弾性率比(RE’mix)は下記式(II)に従い、損失弾性率比(RE’’X)は下記式(III)に従い、混合損失弾性率比(RE’’mix)は下記式(IV)に従い、それぞれ算出した。なお、測定条件は下記(i)~(iv)のとおりであった。
(i)動的粘弾性測定を以下の条件:
・雰囲気:窒素
・使用測定装置:RSA-G2(TAインスツルメンツ社製)
・サンプル膜厚:5μm~50μmの範囲(サンプルの膜厚によらず1枚で測定を実施する)
・測定温度範囲:-50~300℃
・昇温速度:10℃/min
・測定周波数:1Hz
・変形モード:正弦波引張モード(Linear tension)
・静的引張荷重の初期値:0.5N
・初期(25℃時)のギャップ間距離:25mm
・Auto strain adjustment:Enabled(範囲:振幅値0.05~25%、正弦波荷重0.02~5N)
で行なった。
(ii)静的引張荷重とは、各周期運動での最大応力と最小応力の中間値を指し、かつ正弦波荷重とは、静的引張荷重を中心とした振動応力を指す。
(iii)正弦波引張モードとは、固定振幅0.2%で周期運動を行いながら振動応力を測定することを指し、その際に、静的引張荷重と正弦波荷重の差が20%以内となるようにギャップ間距離及び静的引張荷重を変動して振動応力を測定した。なお、正弦波荷重が0.02N以下になった場合、正弦波荷重が5N以内かつ振幅値の増加量が25%以内になるように振幅値を増幅させて振動応力を測定した。
(iv)得られた正弦波荷重と振幅値の関係、及び下記式:
σ=σ・Exp[i(ωt+δ)]、
ε=ε・Exp(iωt)、
σ=E・ε
=E’+iE’’
{式中、σ:振動応力、ε:歪み、i:虚数単位、ω:角振動数、t:時間、δ:振動応力と歪みの間の位相差、E:複素弾性率、E’:貯蔵弾性率、E’’:損失弾性率
振動応力:正弦波荷重/初期断面積
静的引張荷重:各周期での振動応力の最小点(各周期でのギャップ間距離の最小点)の荷重
正弦波荷重:測定された振動応力と静的引張荷重の差}
から貯蔵弾性率及び損失弾性率を算出した。
E’及びE’Z0とE’’及びE’’Z0は、動的粘弾性測定データ中、160℃~300℃における各貯蔵弾性率又は各損失弾性率の最大値とした。E’及びE’とE’’及びE’’は、動的粘弾性測定データ中、160℃~300℃における各貯蔵弾性率又は各損失弾性率の平均値とした。
E’X=E’/E’Z0 (I) セルへの投入の前後の対比
E’mix=E’/E’ (II) 非晶部架橋構造の有無の対比
E’’X=E’’/E’’Z0 (III) セルへの投入の前後の対比
E’’mix=E’’/E’’ (IV) 非晶部架橋構造の有無の対比
【0113】
温度と貯蔵弾性率の関係を説明するためのグラフの一例を図3に示す。図3に示すように、-50℃~310℃の温度範囲内の基準膜(非晶部架橋構造を有しない蓄電デバイス用セパレータ)と架橋後膜の貯蔵弾性率を対比し、図3においてゴム状平坦領域と結晶融解流動領域の転移温度を確認することができる。なお、転移温度は高温側のベースラインを低温側に延長した直線と、結晶融解変化部分の曲線の変曲点で引かれた接線との交点の温度とする。
温度と損失弾性率の関係を説明するためのグラフの一例を図4に示す。図4には、-50℃~310℃の温度範囲内の基準膜(シラングラフト変性ポリオレフィンを含まない蓄電デバイス用セパレータ)と架橋後膜の損失弾性率が対比され、図3と同様の方法により定められた転移温度が示される。本技術分野では、貯蔵弾性率と損失弾性率は、下記式:
tanδ=E’’/E’
{式中、tanδは、損失正接を表し、E’は、貯蔵弾性率を表し、かつE’’は、損失弾性率を表す。}
に従って互換可能である。
なお、混合貯蔵弾性率比(RE’mix)又は混合損失弾性率比(RE’’mix)の測定では、非晶部架橋構造を有しない蓄電デバイス用セパレータとして、ゲル化度が約0%であるシラン非変性ポリオレフィン系微多孔膜を使用した。また、E’、E’0、E’’及びE’’については、160℃~300℃において、サンプルの破断(弾性率の急な低下)が観察されない場合には、160℃~300℃の平均値より算出し、160℃~300℃においてサンプルの破断が見られた場合には、160℃から破断点の温度までの平均値より算出した。
本明細書では、非晶部架橋構造を有しない蓄電デバイス用セパレータは、ポリエチレン:X(粘度平均分子量10万~40万)、超高分子量PE:Y(粘度平均分子量40万~80万)及び超高分子量PE:Z(粘度平均分子量80万~900万)から成る群から選択される任意の一種類、またはX、Y及びZから成る群から選択される2種類若しくは3種類を用いて、任意の割合で混合した組成で製造されるセパレータであることができる。なお、低密度ポリエチエレン:LDPE、直鎖状低密度ポリエチレン:LLDPE、ポリプロピレン:PP、オレフィン系熱可塑性エラストマー等の炭化水素骨格のみで構成したポリオレフィンを混合組成物に添加してもよい。より詳細には、非晶部架橋構造を有しない蓄電デバイス用セパレータは、デカリン溶液中の160℃での加熱前後の固形分の変化率(以下「ゲル化度」という)が10%以下であるポリオレフィン系微多孔膜を意味することができる。なお、ゲル化度の測定時に、固形分は、樹脂のみを意味し、無機物などの他の材料を含まないものとする。
他方、シラン架橋構造などの非晶部架橋構造を有するポリオレフィン系微多孔膜のゲル化度は、好ましくは30%以上、より好ましくは70%以上である。
【0114】
[引張試験]
MDおよびTD方向の引張強度は、ASTM-882の手順に従い、Instron Model 4201を使用して測定し、破断強度として求めた。
【0115】
[ヒューズ/メルトダウン(F/MD)特性]
a.正極の作製
正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物LiCoOを92.2質量%、導電材としてリン片状グラファイトとアセチレンブラックをそれぞれ2.3質量%、及びバインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)3.2質量%をN-メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターで塗布し、130℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、正極の活物質塗布量は250g/m、活物質嵩密度は3.00g/cmになるように調整した。
【0116】
b.負極の作製
負極活物質として人造グラファイト96.9質量%、及びバインダーとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%とスチレン-ブタジエン共重合体ラテックス1.7質量%を精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗布し、120℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、負極の活物質塗布量は106g/m、活物質嵩密度は1.35g/cmになるように調整した。
【0117】
c.非水電解液の調製
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPFを濃度1.0mol/Lとなるように溶解させて調製した。直径200mmの円形状に、アルミニウム箔の裏に導電性銀ペーストで抵抗測定用電線を接着した正極、セパレータ及び負極を切出し、重なり合わせし、得られた積層体にc.電解質含有電解液を加え、全体に染渡す。直径600mmの円形状アルミヒーターで前記積層体を中心部に挟み、油圧ジャッキでアルミヒーターを上下から0.5Mpaに加圧し、測定の準備を完了とする。昇温速度を2℃/minの速度で、アルミヒーターで前記積層体を加熱しながら、電極間の抵抗(Ω)を測定する。セパレータのヒューズともに電極間の抵抗が上昇し、抵抗が初めて1000Ωを超えた時の温度をヒューズ温度(シャットダウン温度)とする。また、さらに加熱を続け、抵抗が1000Ω以下に下がる時の温度をメルトダウン温度(破膜温度)とする。
【0118】
[実施例1]
<シラングラフト変性ポリオレフィンの製法>
シラングラフト変性ポリオレフィンに用いる原料ポリオレフィンは、粘度平均分子量(Mv)が10万以上かつ100万以下であり、重量平均分子量(Mw)が3万以上かつ92万以下、数平均分子量は1万以上かつ15万以下でよく、プロピレン又はブテン共重合αオレフィンでもよい。原料ポリオレフィンを押出機で溶融混練しながら、有機過酸化物(ジ-t-ブチルパーオキサイド)を添加し、αオレフィンポリマー鎖内でラジカルを発生させた後、トリメトキシアルコキシド置換ビニルシランを注液し、付加反応により、αオレフィンポリマーへアルコキシシリル基を導入し、シラングラフト構造を形成させる。また、同時に系中のラジカル濃度を調整するために、酸化防止剤(ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-テトラ-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート])を適量添加し、αオレフィン内の鎖状連鎖反応(ゲル化)を抑制する。得られたシラングラフトポリオレフィン溶融樹脂を水中で冷却し、ペレット加工を行った後、80℃で2日間に亘って加熱乾燥し、水分又は未反応のトリメトキシアルコキシド置換ビニルシランを除く。なお、未反応のトリメトキシアルコキシド置換ビニルシランのペレット中の残留濃度は、1000~1500ppm程度である。
上記の製法により得られたシラングラフト変性ポリオレフィンを以降の実施例及び表1において「シラン変性ポリプロピレン」として示す。
【0119】
<微多孔膜の作製(単層)>
高分子量のポリプロピレン樹脂(PP、MFR=0.25)と上記シラン変性ポリプロピレンをPP:シラン変性ポリプロピレン=95:5(質量%)の質量比率でドライブレンドした後、2.5インチの押出機で溶融し、環状ダイへとギアポンプを使って供給した。ダイの温度は230℃に設定されており、かつ溶融したポリマーを、吹込空気によって冷却された後、ロールに巻き取った。押出された前駆体(原反フィルム)は、15μmの厚さを有し、次いで、原反フィルムを130℃で15分間アニールした。次いで、アニールされたフィルムを、室温で21%まで冷間延伸し、次いで123℃で158%まで熱間延伸し、126℃で128%まで緩和することにより、微多孔を形成して微多孔膜を得た。上記延伸開孔の後、微多孔膜の物性測定を行った。結果を表8に示す。
【0120】
[実施例2~6、実施例8~10、比較例1、2、4]
表8に示されるとおりに原料を変更させたこと以外は実施例1と同じ方法に従って微多孔膜を得て、得られた微多孔膜を評価した。
【0121】
[実施例7]
MFR2.4のポリプロピレンに対して、β晶核剤として1:2,6-ナフタレンジカルボン酸ジシクロヘキシルアミド0.2質量%、及び酸化防止剤0.1質量%を配合し、同方向二軸押出機に投入し、設定温度270℃で溶融混練した。得られたストランドを水槽で冷却固化し、ペレタイザーでカットし、ペレットを作製した。
得られたβ晶活性ポリプロピレンペレットと上記シラン変性ポリプロピレンをβ晶活性ポリプロピレン:シラン変性ポリプロピレン=95:5(質量%)の質量比率でドライブレンドした後、2.5インチの押出機で溶融し、環状ダイへとギアポンプを使って供給した。ダイの温度は230℃に設定されており、かつ溶融したポリマーを、吹込空気によって冷却した後、ロールに巻き取った。押出された前駆体(原反フィルム)は、15μmの厚さを有し、次いで、原反フィルムを130℃で15分間アニールした。次いで、アニールされたフィルムを、室温で21%まで冷間延伸し、次いで123℃で158%まで熱間延伸し、126℃で128%まで緩和することにより、微多孔を形成して微多孔膜を得た。上記延伸開孔の後、微多孔膜の物性測定を行った。結果を表8に示す。
【0122】
[比較例3]
表8に示されるとおりに原料を変更させたこと以外は実施例7と同じ方法に従って微多孔膜を得て、得られた微多孔膜を評価した。
【0123】
【表8】
図1
図2
図3
図4