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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 19/38 20060101AFI20240605BHJP
   F16C 33/36 20060101ALI20240605BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20240605BHJP
   B60B 27/02 20060101ALI20240605BHJP
   B60B 35/18 20060101ALI20240605BHJP
【FI】
F16C19/38
F16C33/36
F16C33/58
B60B27/02 F
B60B35/18 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020080439
(22)【出願日】2020-04-30
(65)【公開番号】P2021173397
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松下 知樹
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-163454(JP,A)
【文献】特開昭54-089147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/38
F16C 33/36
F16C 33/58
B60B 27/02
B60B 35/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、
外周に前記複列の外側軌道面と対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、
前記外側軌道面と前記内側軌道面との間に転動自在に収容された複数の円錐ころとを備え、
前記円錐ころの大径側端面は所定の曲率半径を有する凸球面に形成され、
前記内側軌道面には、前記大径側端面が点接触にて摺接し、前記円錐ころを案内する円錐面状の案内面を有する大鍔部が一体的に形成された車輪用軸受装置において、
前記大鍔部は、
前記大鍔部の外径面と連続する面取り部と、
所定の曲率半径を有する断面視円弧状に形成され、径方向の一方において前記面取り部と連続し、且つ径方向の他方において前記案内面と連続するダラシ部とを有し、
前記大鍔部の根本部には、前記案内面と連続する大鍔部側盗み部が形成され、
前記円錐ころの前記大径側端面には、円形状の円錐ころ側盗み部が、前記大径側端面と同軸上に形成され、
前記大径側端面と前記案内面との接触点から見た前記大径側端面の逃げ量は、15μm以上であり、
前記車輪用軸受装置の許容最大アキシアル荷重下において、
前記大径側端面と前記案内面とが点接触することで得られる最大接触楕円の短軸半径をRiとした場合、
前記大径側端面と前記案内面との接触点から、前記ダラシ部と前記案内面との境界位置までの最短長さをX1とすると、X1≧2×Riを満たし、且つ
前記大径側端面と前記案内面との接触点から、前記大鍔部側盗み部と前記案内面との境界位置までの最短長さをX2とすると、X2>Riを満たす
ことを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記大鍔部において、
前記ダラシ部の曲率半径は2mm未満であり、且つ前記ダラシ部のダラシ量は10μmm以上である、
ことを特徴とする、請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記円錐ころ側盗み部の外縁端部は、前記ダラシ部と前記案内面との境界位置に比べて、前記大鍔部側盗み部側に位置する、
ことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記車輪用軸受装置は、長距離輸送用車両の車輪を支承する軸受である、
ことを特徴とする、請求項1~請求項の何れか一項に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪用軸受装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばトラックやバス、ピックアップ系トラックなどのような、主に車体重量が嵩む長距離輸送用の車両の車輪を回転自在に支承するための軸受装置として、複列タイプの円錐ころ軸受からなる車輪用軸受装置が知られている。
前記車輪用軸受装置は、例えば特許文献1に開示されるように、外方部材の内周に形成される複列の外側転走面(外側軌道面)と、内方部材の外周に形成される複数の内側転走面(内側軌道面)との間に複数の円錐ころが転動自在に収容され、前記内側軌道面(または外側軌道面)に、凸球面に形成された円錐ころの大端面(大径側端面)が摺接する案内面が設けられた大鍔部が、一体的に形成されている。
また、大鍔部においては、当該大鍔部の外径面(または内径面)と連続する面取り部と、当該大鍔部の根本部に設けられる研削盗み(大鍔部側盗み部)とが形成されるとともに、前記面取り部と前記大鍔部側盗み部との少なくとも一方に断面視円弧状のダラシ部が形成されている。
【0003】
そして、車両が走行する際には、前記ダラシ部を通じて、円錐ころの大径側端面と、大鍔部の案内面との間に形成される隙間に潤滑油が入り込んで、くさび効果による油膜が形成されるようになっており、これらの大径側端面と案内面との接触部に潤滑油を容易に引き込み、潤滑性能を高めて耐久性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-163454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような複列タイプの円錐ころ軸受からなる車輪用軸受装置に負荷されたアキシアル荷重は、主に円錐ころの大径側端面と、大鍔部の案内面との間で支持されることとなり、これらの大径側端面と案内面との接触部には、ヘルツの弾性接触理論によって、円錐ころが転動する際の円形軌跡の接線方向を長軸方向とする接触楕円が形成される。
よって、円錐ころの大径側端面と、大鍔部の案内面との接触部は、軸受の構造から大きな滑りを伴う転がり接触となるため、これらの大径側端部と案内面との間では摩耗が発生し易い。
【0006】
しかしながら、前記特許文献1における車輪用軸受装置においては、円錐ころの大径側端部と、大鍔部の案内面との間の摩耗量に対する許容値について、予め具体的に設定されていないため、例えば車両の走行距離が100万Km相当の長距離に到達した時点において、これらの大径側端部と案内面との間の隙間(案内面から見た大径側端部の逃げ量)が十分に確保されずに極小となってしまう虞がある。
その結果、円錐ころの大径側端面と、大鍔部の案内面との接触部に潤滑油を十分に引き込むことが困難となり、くさび効果が得られず油膜形成能力が低下し、金属接触による異常発熱等を引き起こす要因となり得る。
【0007】
本発明は、例えば車体重量が嵩む長距離輸送用の車両に用いられる車輪用軸受装置であって、金属接触による異常発熱等の発生を抑制し、耐焼付き性を向上させた車輪用軸受装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、車輪用軸受装置は、内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、外周に前記複列の外側軌道面と対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、前記外側軌道面と前記内側軌道面との間に転動自在に収容された複数の円錐ころとを備え、前記円錐ころの大径側端面は所定の曲率半径からなる凸球面に形成され、前記内側軌道面には、前記大径側端面が点接触にて摺接し、前記円錐ころを案内する円錐面状の案内面を有する大鍔部が一体的に形成された車輪用軸受装置において、前記大鍔部は、前記大鍔部の外径面と連続する面取り部と、所定の曲率半径からなる断面視円弧状に形成され、一方において前記面取り部と連続し、且つ他方において前記案内面と連続するダラシ部とを有し、前記大鍔部の根本部には、前記案内面と連続する大鍔部側盗み部が形成され、前記円錐ころの前記大径側端面には、円形状の円錐ころ側盗み部が、前記大径側端面と同軸上に形成され、未使用の初期状態における、前記大径側端面と前記案内面との接触点から見た前記大径側端面の逃げ量は、15μm以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0011】
即ち、本発明に係る車輪用軸受装置によれば、円錐ころの大径側端面と大鍔部の案内面との間の隙間を十分に確保して、くさび効果による油膜形成能力を保持することができ、金属接触による異常発熱等の発生を抑制し、耐焼付き性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る車輪用軸受装置の全体的な構成を示した断面図である。
図2】円錐ころの大端面と内輪の大鍔部との接触箇所の詳細を示した図であって、図1中の領域Xによって示された箇所の拡大断面図である。
図3】円錐ころの大端面における摩耗の進行を経時的に示した図であって、(a)は未だ摩耗の発生が見られない初期状態における円錐ころの大端面を示した拡大断面図であり、(b)は予め定められた摩耗限度に対して中程度の摩耗が進行した状態における円錐ころの大端面を示した拡大断面図であり、(c)は予め定められた摩耗限度まで摩耗が進行した状態における円錐ころの大端面を示した拡大断面図である。
図4】作動中の車輪用軸受装置における円錐ころと内輪との関係を示した図であって、(a)は円錐ころがスキューした状態を外径側から径方向に見た概略図であり、(b)は円錐ころにおける内輪の大鍔部との接触楕円がスキューに伴い移動した状態を、図4(a)中の矢印Yの方向に見た概略図である。
図5】円錐ころにおける内輪の大鍔部との接触楕円がスキューに伴い移動した状態を周方向に見た概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明に係る車輪用軸受装置を具現化する実施形態について、図1乃至図5を用いて説明する。
なお、本明細書においては便宜上、車輪用軸受装置1の回転軸G(図1を参照)と平行な方向を「軸方向」、回転軸Gと直交する方向を「径方向」、回転軸Gを中心とする円弧に沿う方向を「周方向」と規定して記述する。
また、前記径方向における回転軸G側を「内径側」と規定し、前記径方向における内径側との反対側を「外径側」と規定して記述する。
【0014】
[車輪用軸受装置1の全体構成]
先ず、本実施形態における車輪用軸受装置1の全体構成について、図1及び図2を用いて説明する。
図1に示すように、車輪用軸受装置1は、第1世代と称される構成を有しており、主に、外方部材の一例であって内周に複列(本実施形態においては2列)の外側軌道面21・21を有する外輪2、内方部材の一例であって外周に外側軌道面21・21と対向する複列(本実施形態においては2列)の内側軌道面31・31を有する一対の内輪3・3、外側軌道面21・21と内側軌道面31・31との間に転動自在に収容された複数の円錐ころ4・4・・・、これら複数の円錐ころ4・4・・・を転動自在に保持する一対の保持器5・5、及び外輪2における軸方向の両端部に装着されたシール6・6などを備える。
【0015】
外輪2において、一対の外側軌道面21・21は、軸方向の中央部側から両端部側に向かって各々拡径したすり鉢状に形成されている。また、各内輪3の内側軌道面31は、軸方向において車輪用軸受装置1の中央部側から端部側に向かって拡径した円錐状に形成されている。
そして、一対の内輪3・3は、外輪2の内径側において、互いに突き合せた状態で外輪2と同軸上に配置されており、車輪用軸受装置1は、背面合せタイプの複列の円錐ころ軸受として構成される。
【0016】
内輪3において、内側軌道面31における大径側の端部には、外径側に突出する大鍔部32が一体的に形成されている。また、内側軌道面31における小径側の端部には、外径側に突出し、且つ大鍔部32に比べて内径側に位置する小鍔部33が一体的に形成されている。
ここで、「大径側」とは、内側軌道面31の拡径側を意味する。また、「小径側」とは、内側軌道面31の縮径側を意味する。
【0017】
そして、保持器5に保持された複数の円錐ころ4・4・・・は、内側軌道面31上に配置されている。
これにより、各円錐ころ4は、大鍔部32と摺動可能に当接し、大鍔部32によって径方向への移動を案内されるとともに、軸方向の大径側(即ち、内輪大鍔部側)への移動を規制される。
また、各円錐ころ4は、軸方向の小径側に僅かに移動した場合に小鍔部33と当接し、小鍔部33によって軸方向の小径側(即ち、内輪小鍔部側)への移動を規制される。
【0018】
外輪2、内輪3、及び円錐ころ4は、例えばSUJ2等の高炭素クロム軸受鋼からなり、ズブ焼入れにより芯部まで58~64HRCの範囲で硬化処理されているが、これに限定されることはなく、例えば、SCr420等の構造用合金鋼からなり、浸炭焼入れにより表面が58~64HRCの範囲で硬化処理されていてもよい。
また、保持器5は、例えば、PA(ポリアミド)66等のエンジニアリングプラスチック、若しくはPPS(ポリフェニレンサルファイド)等のスーパーエンジニアリングプラスチック、或いはこれらの熱可塑性合成樹脂をベースにしてGF(グラスファイバー)等の強化材を適量含有させたものを、射出成形することにより形成されている。
【0019】
ここで、図2に示すように、円錐ころ4の大径側端面41は、所定の曲率半径Rからなる凸球面に形成されるとともに、大径側端面41の外周側の角部(周縁部)には、面取り部42が形成されている。
また、大径側端面41の内周側には、円形状の円錐ころ側盗み部43が、例えばヘッダー加工によって大径側端面41と同軸上に形成されている。
【0020】
そして、大径側端面41の曲率半径Rは、内輪3の内側軌道面31である円錐面の頂点から、円錐ころ4の大径側端面41と内輪3の大鍔部32(より具体的には、後述する案内面32a)との接触点Pまでの距離R0(図示せず)に対して、0.75~0.95倍の範囲内に設定されている(R=0.75~0.95R0)。
【0021】
なお、本実施形態においては、後述するように、案内面32aに対する大径側端面41の逃げ量が所定値となるように、大径側端面41の曲率半径Rが設定されている。
【0022】
一方、内輪3の大鍔部32は、円錐ころ4を案内する円錐面状の案内面32aを有し、各円錐ころ4は、大径側端面41を案内面32aに点接触にて摺接させた状態で、内側軌道面31上に配置される。
【0023】
また、大鍔部32の外径面32bから案内面32aにかけて、面取り部32c、及びダラシ部32dが、順に連続して形成されており、周方向断面視において、面取り部32cは、所定の曲率半径r1からなり緩やかに湾曲する円弧状に形成されるとともに、ダラシ部32dは、面取り部32cの曲率半径r1に比べて十分小さな所定の曲率半径r2からなる円弧状に形成される。
換言すると、内輪3の大鍔部32は、自身(大鍔部32)の外径面32bと連続する面取り部32c、及び所定の曲率半径r2からなる断面視円弧状に形成され、一方において面取り部32cと連続し、且つ他方において案内面32aと連続するダラシ部32dを有する。
【0024】
なお、本実施形態においては、後述するように、曲率半径r2、及びダラシ量が所定値となるように、ダラシ部32dの形状が設定されている。
また、ダラシ部32dの開始点位置が所定の位置となるように、設定されている。
【0025】
そして、円錐ころ4を内輪3に組み込んだ状態において、円錐ころ側盗み部43の開始点、つまり外周端43aは、大鍔部32の外径面32bに比べて、内径側に位置するように設定されている。
また、円錐ころ側盗み部43の外周端43aは、大鍔部32における案内面32aとダラシ部32dとの境界近傍に位置しており、円錐ころ4の大径側端面41と、大鍔部32の案内面32aとの間には、周方向断面視において外径面32b側に開口するくさび状の隙間からなる環状空間qが形成されている。
これにより、円錐ころ4の大径側端面41と、内輪3の大鍔部32との接触部において、くさび効果によって環状空間q内に潤滑油が引き込まれ、容易に油膜が形成されることとなり、潤滑性能が高められ、車輪用軸受装置1における耐久性の向上を図ることができる。
【0026】
なお、本実施形態においては、後述するように、円錐ころ側盗み部43の開始点位置が所定の位置となるように、設定されている。
【0027】
内輪3において、大鍔部32の根本部、即ち内側軌道面31と大鍔部32との隅部には、案内面32aと連続する大鍔部側盗み部34が形成されている。
大鍔部側盗み部34における案内面32a側の縁部34aは、円錐ころ4における大径側端面41と面取り部42との角部に比べて外径側に位置するように設定されている。
これにより、円錐ころ4の大径側端面41との接触により大鍔部32の摩耗が進行しても、円錐ころ4における上記角部が案内面32aと当接し難くなり、大鍔部側盗み部34の縁部34aに有害な突条が形成されるのを抑制することができる。
【0028】
なお、大鍔部32の根元部において、周方向断面視にて、案内面32aに外接する所定の曲率半径を有した円弧からなるダラシ部を、大鍔部側盗み部34の縁部34aから外径側に向って別途設けてもよい。
このような構成を有することにより、大鍔部32の摩耗によって、大鍔部側盗み部34の縁部34aに有害な突条が形成されるのを、より確実に抑制することができる。
【0029】
以上のような構成からなる車輪用軸受装置1は、高荷重や衝撃荷重に対する耐久性に優れ、例えばトラックやバス、ピックアップ系トラックなどのような、主に車体重量が嵩む長距離輸送用車両の車輪を回転自在に支承する軸受として利用するのに適している。
【0030】
ところで、従来の複列円錐ころ軸受からなる車輪用軸受装置においては、このような長距離輸送用車両の軸受として利用される場合、車両の走行距離が数十万Km程度である状況下では問題ないものの、例えば100万Km相当の長距離に到達した時点で、円錐ころ4の大径側端面41と、内輪3における大鍔部32の案内面32aとの間で摩耗が進み、上述したくさび状の隙間からなる環状空間q内に、潤滑油が十分に引き込まれ難くなる虞があった。
その結果、円錐ころ4の大径側端面41と、内輪3における大鍔部32の案内面32aとの接触部(接触点P)において、油膜形成能力が低下し、金属接触による異常発熱等を引き起こす要因となり得ることから、たとえ車両の走行距離が100万Km相当の長距離に到達した状況下であっても、環状空間q内に潤滑油を十分に引き込むための改善策に対する要望が高かった。
【0031】
また、円錐ころ4の大径側端面41と、内輪3における大鍔部32の案内面32aとの接触部(接触点P)には、ヘルツの弾性接触理論による接触楕円Eが生じるところ、この接触楕円Eは、軸受使用時のアキシアル荷重の増加に伴い拡大し、例えば車両の最大旋回時に最大となることが知られている。
従って、従来の複列円錐ころ軸受からなる車輪用軸受装置においては、円錐ころ4の大径側端面41と、内輪3の大鍔部32との間に発生するかじりを抑制するために、少なくとも最大となった接触楕円Eが、大鍔部32の外径面32b側に乗り上げることのないように、大鍔部32における案内面32aとダラシ部32dとの境界(後述するダラシ部32dの開始点、即ちダラシ部32dにおける案内面32a側の内周端a1)が、最大となった接触楕円Eの外縁近傍に位置するように、ダラシ部32dの形状が設定されている。
しかしながら後述するように、回転動作中の車輪用軸受装置においては、潤滑油等の油膜の影響によって円錐ころ4が自身の回転軸g(図4(a)を参照)に対して周方向に傾き、スキューする場合があり、この際、接触楕円Eの位置も円錐ころ4のスキューに伴い移動することから、ダラシ部32dの設定については、最大となった接触楕円Eによる影響を考慮するだけでは不十分である。
【0032】
本実施形態における車輪用軸受装置1は、このような従来の車輪用軸受装置に対する改善点に鑑み鋭意検討を重ねた結果、以下に示す様々な改良を施すことで、例えば車体重量が嵩む長距離輸送用の車両に用いられる場合であっても、金属接触による異常発熱等の発生を抑制し、耐焼付き性を向上させた車輪用軸受装置を実現するものである。
【0033】
なお、本実施形態における車輪用軸受装置1は、上述したように、背面合せタイプの複列の円錐ころ軸受として構成されるが、これに限定されるものではなく、単列の円錐ころ軸受として構成されていてもよい。
また、本実施形態における車輪用軸受装置1は、上述したように、第1世代と称される構成からなるが、これに限定されるものではなく、例えば、外輪にフランジを有する第2世代、或いはハブ輪の外周において直接的に内側軌道面が形成される第3世代と称される構成を有していてもよい。
【0034】
[車輪用軸受装置1の改良点]
次に、従来の車輪用軸受装置に対して改善された、本実施形態における車輪用軸受装置1の改良点について、図2乃至図5を用いて説明する。
【0035】
<円錐ころ4における大径側端面41の形状>
図2において、円錐ころ4の大径側端面41は、前述したように所定の曲率半径Rからなる凸球面に形成されており、内輪3における大鍔部32の案内面32aと、接触点Pにおいて点接触にて摺接した状態となっている。
従って、大径側端面41と案内面32aとの間において、接触点Pの近傍には、周方向断面視にて外径面32b側に開口するくさび状の隙間からなる環状空間qが形成されている。
【0036】
ここで、円錐ころ4の大径側端面41と、内輪3における大鍔部32の案内面32aとは滑り接触することから摩耗が生じ易く、車輪用軸受装置1の総回転数が増加するのにつれて、大径側端面41と案内面32aとの間では徐々に摩耗が進行し、これに伴い上記環状空間qも徐々に減少し、最終的には消滅する。
【0037】
具体的には、図3(a)に示すように、車輪用軸受装置1が未使用の状態、或いは総回転数が比較的少ない状態である場合には、円錐ころ4の大径側端面41と、内輪3における大鍔部32の案内面32aとは所定の位置(接触点P)にて点接触しており、大径側端面41と案内面32aとの間に存在する環状空間qは、予め設定された所定形状の隙間を十分に確保した状態となっている。
【0038】
車輪用軸受装置1の総回転数が増加するにつれて、円錐ころ4の大径側端面41と、内輪3における大鍔部32の案内面32aとの間では徐々に摩耗が進行し、円錐ころ側盗み部43の外周端43aは案内面32aに接近する。
これにより、環状空間qによる隙間は徐々に縮小し、例えば図3(b)に示すように、大径側端面41及び/または案内面32aの摩耗の程度が中程度になると、環状空間qによる隙間は極小となる。
【0039】
そして、車輪用軸受装置1の総回転数がさらに増加して、例えば図3(c)に示すように、円錐ころ4の大径側端面41、及び/または内輪3における大鍔部32の案内面32aの摩耗の程度が、予め設定された限界領域に到達すると、円錐ころ側盗み部43の外周端43aは案内面32aに到達し、環状空間qは消滅する。
【0040】
環状空間qによる隙間が縮小して極小になると、くさび効果によって十分に潤滑油を引き込むことが困難となり、円錐ころ4の大径側端面41と、内輪3における大鍔部32の案内面32aとの接触部(接触点P)における油膜形成能力は低下する。
その結果、例えば図3(b)に示すように、大径側端面41及び/または案内面32aの摩耗の程度が中程度にまで進行し、環状空間qによる隙間が極小となると、もはや十分なくさび効果が得られず油膜を形成することが困難となり、金属接触による異常発熱等を引き起こす要因となり得る。また、円錐ころ4は容易にスキューし、スキューの程度(スキュー量)も増加することから、大径側端面41と大鍔部32との間において、かじりが発生し易くなる。
【0041】
従って、例えば後述するように、円錐ころ4の大径側端面41と、内輪3の大鍔部32との間に発生するかじりを抑制するために、円錐ころ4がスキューした状態を予め考慮しつつ、ダラシ部32dの開始点位置、即ちダラシ部32dにおける案内面32a側の内周端a1の位置(図2を参照)を設定したとしても、大径側端面41及び/または案内面32aの摩耗の程度が進行するにつれて、円錐ころ4のスキュー量は徐々に増加することから、何れかの時点において、かじりが発生する可能性が高い。
【0042】
このようなことから、円錐ころ4の大径側端面41と、内輪3における大鍔部32の案内面32aとの接触部(接触点P)において、たとえ摩耗が進行しても十分な油膜形成能力を確保できる摩耗量を予め考慮し、環状空間qによる隙間の形状、即ち案内面32aに対する大径側端面41の逃げ量(より具体的には、案内面32aと、円錐ころ側盗み部43の外周端43aとの間隙寸法)を設定することが、大径側端面41と大鍔部32との間に発生するかじりを抑制するうえで重要である。
【0043】
ところで、トラック等のような長距離輸送用車両においては、乗用車と比べて一般的に走行距離が長く、例えば100万Km相当の長距離に及ぶこともあり、このような長距離輸送用車両に用いられた場合であっても、十分な油膜形成能力を確保できるように、上記逃げ量を最適な値に予め設定しておくことが重要である。
しかしながら、従来の車輪用軸受装置においては、上記逃げ量について十分な管理が行われておらず、走行距離が100万Km相当の長距離に及んだ場合であっても十分な油膜形成能力を確保可能とする、上記逃げ量の最適値が明らかになっていないことから、近年、このような上記逃げ量の最適値を見出そうとする要望が高まっていた。
【0044】
そこで、本発明者は、鋭意検討を遂行した結果、内輪3における大鍔部32の案内面32aに対して、円錐ころ4における大径側端面41の逃げ量が15μm以上となるように予め設定することで、たとえ走行距離が100万Km相当の長距離に及んだ場合であっても、十分な油膜形成能力を確保可能であることを見出した。
このように、車輪用軸受装置1において、円錐ころ4の大径側端面41と、内輪3における大鍔部32の案内面32aとの接触点Pから見た当該大径側端面41の逃げ量が、15μm以上となるように、予め設定されることにより、十分な油膜形成能力を確保可能であることは、以下に示す調査結果に基づく検討結果によっても明らかである。
【0045】
即ち、複列円錐ころ軸受からなる車輪用軸受装置を備える長距離輸送用車両に対して、走行距離が10万Km、25万Km、50万Km、100万Km、及び150万Kmに到達した時点における、内輪3の大鍔部32の摩耗量(単位:μm)、及び円錐ころ4の大径側端面41の逃げ量(単位:μm)を各々調査したところ、以下の[表1]に示す結果を得た。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示すように、長距離輸送用車両の走行距離が凡そ50万Kmに到達するまでの間、内輪3における大鍔部32の摩耗量は、走行距離が長くなるにつれて徐々に増加の程度が増していき、例えば、走行距離が10万Kmから25万Kmに到達するまでの間では、摩耗量が2μm増加しているのに対して、走行距離が25万Kmから50万Kmに到達するまでの間では、摩耗量が5μm増加していた。
【0048】
一方、長距離輸送用車両の走行距離が50万Kmを超えると、内輪3における大鍔部32の摩耗量は、走行距離と無関係に増加の程度が縮小し、例えば、走行距離が50万Kmから100万Kmに到達するまでの間、及び100万Kmから150万Kmに到達するまでの間の何れの場合においても、摩耗量の増加は1μmであった。
【0049】
上記の結果は、長距離輸送用車両の走行距離が凡そ50万Kmに到達し、円錐ころ4の大径側端面41、及び/または内輪3における大鍔部32の案内面32aの摩耗がある程度進行すると、大径側端面41と、大鍔部32の案内面32aとの間がなじみ、案内面32aに対する大径側端面41の「すわり」がよくなることから、摩耗の進行度合いが抑制されるためであると考えられる。
【0050】
このようなことから、上記逃げ量が15μm以上となるように予め設定しておくことにより、例えば、車輪用軸受装置1が備えられた長距離輸送用車両の走行距離が、100万Kmを超えたとしても、図3(b)に示すような、環状空間qによる隙間が極小となることはなく、円錐ころ4の大径側端面41と、内輪3における大鍔部32の案内面32aとの間の隙間を十分に確保して、くさび効果による油膜形成能力を保持することができる。
従って、金属接触による異常発熱等の発生を抑制し、耐焼付き性を向上させることができるとともに、円錐ころ4のスキュー量の増加を抑制し、円錐ころ4の大径側端面41と、内輪3における大鍔部32の大鍔部32との間における、かじりの発生を抑制することができる。
【0051】
<ダラシ部32dの曲率半径r2及びダラシ量>
前述したように、回転動作中の車輪用軸受装置1においては、潤滑油等の油膜の影響によって円錐ころ4が自身の回転軸g(図4(a)を参照)に対して周方向に傾き、スキューする場合がある。
具体的には、図4(a)に示すように、内輪3に対して相対的に、円錐ころ4が一方向(図4(a)中における矢印Aの方向。以下、適宜「転動方向A」と記載する)に向かって転動する場合、円錐ころ4が受けるスラスト力によるモーメントと、油膜反力によるモーメントとが釣り合うようにスキューする。
【0052】
その結果、円錐ころ4の大径側端面41と、内輪3における大鍔部32の案内面32aとの接触点Pは、転動方向Aとは逆向きの方向に移動し、図4(b)に示すように、大鍔部32の案内面32aにおいて、外径面32bの近傍付近(図4(b)中の接触点P1の位置)に位置することとなる。
【0053】
円錐ころ4のスキューによって上記接触点Pの位置が接触点P1の位置に移動することにより、当該接触点Pに生じる接触楕円Eの位置も移動する。
具体的には、図5に示すように、周方向断面視において、接触楕円Eは、接触点Pの移動に伴って内輪3における大鍔部32の外径面32b側へと移動し、上述した接触点P1の位置(図5中の接触楕円E1の位置)に生じることとなる。
なお、図5中において、矢印Sによって示される領域は、接触楕円E1が生じる領域を意味する。
【0054】
従って、本実施形態における車輪用軸受装置1においては、円錐ころ4の大径側端面41と、内輪3の大鍔部32との間に発生するかじりを抑制するために、接触点P1の位置に移動した接触楕円E1を対象として、少なくとも最大となった接触楕円E1が、大鍔部32の外径面32b側に乗り上げることのないように、ダラシ部32dが形成されている。
【0055】
一方、ダラシ部32dによるダラシ量(ダラシ部32dにおける面取り部32c側の外周端a2と、円錐ころ4の大径側端面41との離間寸法)は、ダラシ部32dの曲率半径r2と深く関係し、曲率半径r2が大きな値に設定されるにつれて、ダラシ量は減少する。
【0056】
ダラシ量が小さく設定され過ぎると、円錐ころ4がスキューした場合に、当該円錐ころ4の大径側端面41がダラシ部32dと接触し易くなり、円錐ころ4の大径側端面41と、内輪3の大鍔部32との間に発生するかじりを抑制することが困難となる。
よって、適正なダラシ量となるように、ダラシ部32dの曲率半径r2を設定することが重要である。
【0057】
そこで、ダラシ部32dの曲率半径r2を0.5mm、1.0mm、2.0mm、及び5.0mmに設定した場合のダラシ量(単位:μm)を各々確認したうえで、円錐ころ4をスキューさせた状態でそれぞれの車輪用時受け装置を回転動作させた後に、円錐ころ4の大径側端面41及び/または内輪3の大鍔部32に生じるかじり痕の有無を確認し、品質についての検証実験を行ったところ、以下の[表2]に示す結果を得た。
なお、品質判定については、かじり痕が見られない場合には「〇」と記載し、僅かにかじり痕が見られるが品質に大きな影響を与えない場合には「△」と記載し、品質に影響を及ぼすほどのかじり痕が見られる場合には「×」と記載することとした。
【0058】
【表2】
【0059】
表2に示すように、ダラシ部32dの曲率半径r2を0.5mm、及び1.0mmに設定した場合、ダラシ量はそれぞれ56μm、および22μmとなり、円錐ころ4の大径側端面41及び/または内輪3の大鍔部32には、ともにかじり痕が見られず、品質判定は「〇」であった。
また、ダラシ部32dの曲率半径r2を2.0mmに設定した場合、ダラシ量は10μmとなり、円錐ころ4の大径側端面41及び/または内輪3の大鍔部32には、僅かな接触痕が見られたが、品質判定は「△」であった。
一方、ダラシ部32dの曲率半径r2を5.0mmに設定した場合、ダラシ量は4μmとなり、円錐ころ4の大径側端面41及び/または内輪3の大鍔部32には、かじり痕が見られ、品質判定は「×」であった。
【0060】
上記の結果から、本実施形態における車輪用軸受装置1においては、内輪3の大鍔部32において、ダラシ部32dの曲率半径r2を2mm未満に設定し、且つダラシ部32dのダラシ量を10μmm以上となるように設定している。
【0061】
このような構成を有することにより、たとえ円錐ころ4がスキューした場合であっても、ダラシ部32dによって、少なくとも最大となった接触楕円Eが大鍔部32の外径面32b側に乗り上げるのを、より確実に抑制することができ、円錐ころ4の大径側端部41と、内輪3の大鍔部32との間でかじりが発生するのを抑制し、当該かじりによる異常発熱等の発生に対する、耐焼付き性をより向上させることができる。
【0062】
<内輪3の大鍔部32におけるダラシ部32dの開始点位置>
前述したように、円錐ころ4の大径側端面41と、内輪3の大鍔部32との間に発生するかじりを抑制するためには、円錐ころ4がスキューした状態を予め考慮し、ダラシ部32dの開始点(内周端a1)の位置を設定することが必要である。
具体的には、接触点P1の位置に移動した接触楕円E1を対象として、少なくとも最大となった接触楕円E1が、大鍔部32の外径面32b側に乗り上げることのないように、ダラシ部32dの開始点(内周端a1)の位置を設定することが必要である。
【0063】
ここで、図2に示すように、円錐ころ4の大径側端面41と、内輪3における大鍔部32の案内面32aとの接触点Pに生じる接触楕円Eは、一般的に、円錐ころ4が転動する際の円形軌跡(より具体的には、接触点Pが描く円形軌跡)の接線方向を長軸方向とし、且つ案内面32a上における長軸方向との直交方向を短軸方向とする楕円状に生じる。
また、内輪3における大径部32の外径面32b側に移動した接触点P1に生じる接触楕円E1(図5を参照)も、上記接触楕円Eと略同等の楕円形状になると考えられる。
【0064】
そこで、鋭意検討を重ねた結果、接触点P1の位置、即ち接触点Pの移動量は、車輪用軸受装置1全体としての諸元や荷重条件、或いは周辺部品の変形等による影響が複雑に絡み合うため、予め厳密に想定することが困難であるものの、円錐ころ4の大径側端面41と、内輪3における大鍔部32の案内面32aとの接触点Pから、最大アキシアル荷重が付加された際における接触楕円Eの短軸半径Riの2倍以上離間した位置に、ダラシ部32dの開始点(内周端a1)の位置を設定することで、たとえ円錐ころ4がスキューしたとしても、接触楕円E1が大鍔部32の外径面32b側に乗り上げるのを、十分に抑制できることが明らかとなった。
なお、接触点Pの位置については、内輪3における大鍔部側盗み部34に接触楕円Eが乗り上げることがないように、大鍔部側盗み部34の縁部34aから、最大アキシアル荷重が付加された際における接触楕円Eの短軸半径Riを超えて離間した位置に設定することが望ましい。
【0065】
これらのことから、本実施形態における車輪用軸受装置1においては、許容最大アキシアル荷重下において、円錐ころ4の大径側端面41と、内輪3における大鍔部32の案内面32aとが点接触することで得られる、最大の接触楕円Eの短軸半径をRiとした場合、大径側端面41と案内面32aとの接触点Pから、ダラシ部32dと案内面32aとの境界位置(即ち、ダラシ部32dの開始点である内周端a1の位置)までの最短長さをX1とすると、X1≧2×Riを満たし、且つ大径側端面41と案内面32aとの接触点Pから、大鍔部側盗み部34と案内面32aとの境界位置(即ち、大鍔部側盗み部34の縁部34aの位置)までの最短長さをX2とすると、X2>Riを満たすように設定されている。
【0066】
このような構成を有することにより、たとえば円錐ころ4がスキューして、接触楕円Eの位置が大鍔部32の外径面32b側へと移動した場合であっても、移動後の接触楕円E1が大鍔部32の外径面32b側に乗り上げるのを防止して、円錐ころ4の大径側端部41と、内輪3の大鍔部32との間でかじりが発生するのを抑制することができ、当該かじりによる異常摩耗や異常発熱等の発生を抑制し、耐焼付き性をより向上させることができる。
また、円錐ころ4の挙動に依拠することなく、接触楕円Eは常に大鍔部側盗み部34に乗り上げることがないため、円錐ころ4の大径側端部41と、内輪3の大鍔部32との間でかじりが発生するのを抑制することができ、当該かじりによる異常摩耗や異常発熱等の発生を抑制し、耐焼付き性をより向上させることができる。
【0067】
<円錐ころ4における円錐ころ側盗み部43の開始点位置>
前述したように、円錐ころ4を内輪3に組み込んだ状態において、円錐ころ側盗み部43の開始点、つまり外周端43aは、大鍔部32の外径面32bに比べて、内径側に位置するように設定されている。
これは、主に、円錐ころ4の大径側端面41と、内輪3における大鍔部32の案内面32aとの間で徐々に摩耗が進行し、大径側端面41が案内面32aに食み出して接触することによって、当該大径側端面41に段付き状の偏摩耗が生じるのを防止することを目的としている。
【0068】
しかしながら、円錐ころ側盗み部43の開始点(外周端43a)が、ダラシ部32dの開始点(内周端a1)に比べて外径側に位置する場合、上記摩耗の進行によって、やはり大径側端面41が案内面32aに食み出して接触する可能性があり、当該大径側端面41に段付き状の偏摩耗が生じるのを、十分に防止することは困難である。
【0069】
そこで、本実施形態における車輪用軸受装置1においては、円錐ころ4における円錐ころ側盗み部43の開始点、つまり外周端43a(外縁端部)が、内輪3の大鍔部32におけるダラシ部32dの開始点、つまりダラシ部32dと案内面32aとの境界位置である内周端a1に比べて、大鍔部側盗み部34側に位置するように設定されている。
具体的には、大鍔部側盗み部34の縁部34aから、円錐ころ側盗み部43の外周端43aまでの最短長さをY1とし、且つ大鍔部側盗み部34の縁部34aから、ダラシ部32dの内周端a1までの最短長さをY2とした場合、常にY1<Y2を満たすように設定されている。
【0070】
このような構成を有することにより、たとえ円錐ころ4の大径側端面41と、内輪3における大鍔部32の案内面32aとの間で摩耗が進んだとしても、これらの大径側端部41と案内面32aとの接触部は、常に安定して当該案内面32a上に位置することとなり、円錐ころ4の大径側端面41に段付き状の偏摩耗が生じて、大径側端面41と大鍔部32との間でかじりが発生するのを抑制することができ、かじり痕や当該かじりによる異常発熱等の発生を抑制し、耐焼付き性をより向上させることができる。
【0071】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0072】
1 車輪用軸受装置
2 外輪(外方部材)
3 内輪(内方部材)
4 円錐ころ
21 外側軌道面
31 内側軌道面
32 大鍔部
32a 案内面
32b 大鍔部の外径面
32c 大鍔部の面取り部
32d ダラシ部
34 大鍔部側盗み部
34a 大鍔部側盗み部の縁部(大鍔部側盗み部と案内面との境界位置)
41 大径側端面
43 円錐ころ側盗み部
43a 円錐ころ側盗み部の外周端(外縁端部)
a1 ダラシ部の内周端(ダラシ部と案内面との境界位置)
E 接触楕円
P 大径側端面と案内面32aとの接触点
R 大径側端面の曲率半径
Ri 接触楕円の短軸半径
r2 ダラシ部の曲率半径
図1
図2
図3
図4
図5