(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】導電性シート
(51)【国際特許分類】
H01B 5/16 20060101AFI20240605BHJP
D04H 1/413 20120101ALI20240605BHJP
D04H 1/4218 20120101ALI20240605BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20240605BHJP
【FI】
H01B5/16
D04H1/413
D04H1/4218
H01M4/86 M
(21)【出願番号】P 2020110643
(22)【出願日】2020-06-26
【審査請求日】2023-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】若元 佑太
(72)【発明者】
【氏名】田中 政尚
(72)【発明者】
【氏名】多羅尾 隆
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 芳徳
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-103030(JP,A)
【文献】特開2009-037933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/16
D04H 1/413
D04H 1/4218
H01M 4/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部熱融着型の複合繊維による繊維接着によって構成繊維同士の交点部分が一体化している繊維集合体の空隙中
のみに導電性粒子が存在している、導電性シートであって、
前記導電性粒子は平均粒子径が異なる二種類以上の導電性粒子を含んでおり、
前記二種類以上の導電性粒子のうち、最も平均粒子径が大きい導電性粒子は黒鉛であり、
厚さ方向へ貫通孔を有する、導電性シート。
【請求項2】
燃料電池の触媒層とガス拡散層との間に配置される水分管理シートとして使用する、請求項1に記載の導電性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、配線材やシールド材あるいは燃料電池など電気化学用素子の構成部材として、導電性シートの開発が活発化している。このような導電性シートとして、例えば、特開2010-192361号公報(特許文献1)、特開2011-233274号公報(特許文献2)、特開2012-074319号公報(特許文献3)、特開2013-093189号公報(特許文献4)に開示されているように、繊維集合体の空隙中に導電性粒子が存在してなる導電性シートが知られている。なお、当該構造を有する導電性シートにおいて、繊維集合体の空隙中に存在する導電性粒子は、導電性シートの両主面間を橋渡しするように互いに接触して、導電性シートの両主面間における通電経路の役割を担うことができる。
【0003】
そして、このような構成を備える導電性シートは、特許文献1~4に開示されているように、燃料電池の触媒層とガス拡散層との間に配置される水分管理シートとして、好適に使用できることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-192361号公報
【文献】特開2011-233274号公報
【文献】特開2012-074319号公報
【文献】特開2013-093189号公報
【0005】
上述した構成を備える導電性シートは、例えば水分管理シートなど用途によっては、厚さ方向(両主面間)における通電抵抗が低く導電性が優れていることに加え、ガーレ値が低く通気性に優れていることが求められる。しかし、従来技術を参考とするだけでは、上述の要望を満足する導電性シートを提供することは困難なものであった。
【0006】
つまり、導電性シートにおける厚さ方向の通電抵抗を低下して導電性を向上するため、繊維集合体の空隙中に存在する導電性粒子の量を多くすると、繊維集合体の空隙が閉塞するため、導電性シートのガーレ値は上昇し通気性が低下する。
【0007】
一方、導電性シートにおける厚さ方向のガーレ値を低下させ通気性を向上するため、繊維集合体の空隙中に存在する導電性粒子の量を少なくすると、導電性シートの両主面間における通電経路の役割を担う導電性粒子が少なくなるため、導電性シートにおける厚さ方向の通電抵抗は上昇し導電性が低下する。
【0008】
このように、上述した構成を備える導電性シートにおいて導電性と通気性とはトレードオフの関係にあることから、厚さ方向における導電性と通気性に共に優れている導電性シートを提供することは困難なものであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、厚さ方向における導電性と通気性が共に優れている導電性シートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第一の発明は、「一部熱融着型の複合繊維による繊維接着によって構成繊維同士の交点部分が一体化している繊維集合体の空隙中のみに導電性粒子が存在している、導電性シートであって、前記導電性粒子は平均粒子径が異なる二種類以上の導電性粒子を含んでおり、前記二種類以上の導電性粒子のうち、最も平均粒子径が大きい導電性粒子は黒鉛であり、厚さ方向へ貫通孔を有する、導電性シート。」である。
【0011】
第二の発明は、「燃料電池の触媒層とガス拡散層との間に配置される水分管理シートとして使用する、請求項1に記載の導電性シート。」である。
【発明の効果】
【0012】
本願出願人が検討を続けた結果、繊維集合体の空隙中に導電性粒子が存在している導電性シートにおいて、当該導電性シートが、平均粒子径の異なる二種類以上の導電性粒子を含んでいると共に厚さ方向へ貫通孔を有していることによって、厚さ方向における導電性と通気性が共に優れている導電性シートを提供できることを見出した。この理由は完全に明らかとなっていないが、以下の効果が発揮されているためだと考えられる。
【0013】
繊維集合体の空隙中に平均粒子径が異なる二種類以上の導電性粒子(平均粒子径の大きい導電性粒子と、平均粒子径の小さい導電性粒子)が存在していることによって、導電性粒子同士の分布状態が不均一化され、導電性粒子同士の間ならびに繊維集合体と導電性粒子の間に空隙が形成され易くなると考えられる。その結果、導電性シートのガーレ値が増加するのを防止でき、通気性の高い導電性シートを提供できる。
【0014】
また、平均粒子径の大きい導電性粒子の存在によって、導電性シートの両主面間を橋渡しするために必要となる導電性粒子の数を少なくでき、導電性シートの両主面間にわたり存在する、導電性粒子同士の接触部分を電気が通過する際に生じる通電抵抗の総抵抗量が低下していると考えられる。更に、平均粒子径の大きい導電性粒子同士がなす空隙に平均粒子径の小さい導電性粒子が存在しており、平均粒子径の小さい導電性粒子が電気を通過させるバイパスとして働いていると考えられる。その結果、厚さ方向における導電性に優れる導電性シートを提供できる。
【0015】
更に、導電性シートが厚さ方向へ貫通孔を有していることで、導電性シートの通気性がより一層向上している。なお、本発明にかかる構成を満たす導電性シートは上述した通り導電性に優れているため、本発明にかかる導電性シートは、導電性粒子が存在しておらず導電性の向上に寄与するものではないと考えられる貫通孔を有しているにも関わらず、導電性が低下し難いと考えられる。
【0016】
以上から、本発明によって厚さ方向における導電性と通気性に共に優れている導電性シートを提供できる。
【0017】
そして、本発明に係る導電性シートは、厚さ方向における導電性と通気性に共に優れていることから、燃料電池の触媒層とガス拡散層との間に配置される水分管理シートとして好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明では、例えば以下の構成など、各種構成を適宜選択できる。なお、本発明で説明する各種測定は特に記載のない限り、常圧のもと25℃(室温)温度条件下で測定を行った。また、本発明で説明する各種測定結果は特に記載のない限り、求める値よりも一桁小さな値まで測定で求め、当該値を四捨五入することで求める値を算出した。具体例として、小数第一位までが求める値である場合、測定によって小数第二位まで値を求め、得られた小数第二位の値を四捨五入することで小数第一位までの値を算出し、この値を求める値とした。 そして、本発明で例示する各上限値および各下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0019】
本発明でいう繊維集合体とは、例えば、繊維ウェブや不織布、あるいは、織物や編み物などの、空隙を有するシート状の布帛であり、主として導電性シートの骨格を担う。本発明の導電性シートは、繊維集合体(特に、不織布)を含んでいるため柔軟であり、形状安定性や寸法安定性に優れる。
【0020】
繊維集合体を構成する繊維の種類は適宜選択できるが、ガラス繊維やアルミナなどの金属酸化物繊維、および/または、有機樹脂で構成された繊維であることができる。繊維集合体を構成する繊維の種類や混在比率は適宜選択でき、一種類の繊維のみで構成された繊維集合体であっても、複数種類の繊維が混在してなる繊維集合体であってもよい。柔軟性に優れる導電性シートを提供し易いことから、繊維集合体の構成繊維は、有機樹脂で構成された繊維のみであるのが好ましい。
【0021】
有機樹脂の種類は適宜選択できるが、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をニトリル基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリエーテル系樹脂(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ユリア系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリ乳酸、全芳香族ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、アラミド樹脂などの芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、パーフルオロスルホン酸樹脂など)、ビニルアルコール系樹脂(ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルなど)、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、ポリビニルピロリドン、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知の有機樹脂を備えた繊維であることができ、一種類の有機樹脂のみで構成された繊維であっても、混合するなどして複数種類の有機樹脂であってもよい。
【0022】
これらの有機樹脂は、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、また有機樹脂がブロック共重合体やランダム共重合体でもよい。また、有機樹脂の立体構造や結晶性の有無がいかなるものでもよい。
【0023】
また、繊維は単繊維であっても、フィブリル状の繊維であっても、複合繊維でもよい。複合繊維として、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型、バイメタル型などの繊維であることができる。
【0024】
なお、繊維集合体は一部熱融着型の複合繊維を備えているのが好ましい。一部熱融着型の複合繊維による繊維接着によって、バインダなど不要な成分を用いることなく、繊維集合体の構成繊維同士の交点部分を一体化でき、剛性に富む導電性シートを提供できる。特に、当該複合繊維が一部熱融着型の高強度芯鞘型複合繊維などの引張り強さに富む繊維であると、耐貫通性能に優れる導電性シートを提供でき好ましい。このような繊維として、引張り強さが3cN/dtex以上の一部熱融着型の高強度ポリオレフィン系芯鞘型複合繊維(例えば、芯成分がポリプロピレン、鞘成分が高密度ポリエチレン)を採用することができる。
【0025】
繊維は横断面の形状が、略円形の繊維や楕円形の繊維以外にも異形断面繊維であってもよい。なお、異形断面繊維として、中空形状、三角形形状などの多角形形状、Y字形状などのアルファベット文字型形状、不定形形状、多葉形状、アスタリスク形状などの記号型形状、あるいはこれらの形状が複数結合した形状などの繊維断面を有する繊維を例示できる。
【0026】
繊維の調製方法は適宜選択できるが、例えば、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、紡糸液に電界を作用させ紡糸する方法である静電紡糸法、遠心力を用いて紡糸する方法、特開2011-012372号公報などに記載の随伴気流を用いて紡糸する方法、特開2005-264374号公報などに記載の静電紡糸法の一種である中和紡糸法など)、複合繊維から一種類以上の樹脂成分を除去することで繊維径が細い繊維を抽出する方法など公知の方法を使用することができる。
【0027】
上述した方法によって調製された繊維を、例えば、乾式法、湿式法へ供することで繊維ウェブを調製でき、調製した繊維ウェブの構成繊維を絡合および/または一体化させて不織布を調製できる。構成繊維同士を絡合および/または一体化させる方法として、例えば、ニードルや水流あるいは水蒸気/気体などの流体流によって絡合する方法、繊維ウエブを加熱処理へ供するなどしてバインダあるいは上述したような接着繊維によって構成繊維同士を接着一体化あるいは溶融一体化させる方法などを挙げることができる。
【0028】
加熱処理の方法は適宜選択できるが、例えば、ロールにより加熱または加熱加圧する方法、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機などの加熱機へ供し加熱する方法、無圧下で赤外線を照射する方法などを用いることができる。
【0029】
使用可能なバインダの種類は適宜選択するが、例えば、ポリオレフィン(変性ポリオレフィンなど)、エチレンビニルアルコール共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体などのエチレン-アクリレート共重合体、各種ゴムおよびその誘導体(スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリエチレンオキシド(PEO)、フッ素ゴム、ウレタンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)など)、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF-HFP)、アクリル系樹脂などを使用できる。
【0030】
繊維集合体を構成する繊維の平均繊維径は適宜選択でき、0.1~20μmであることができ、0.5~15μmであることができ、1~10μmであることができる。ここでいう「平均繊維径」は、繊維集合体など対象物の断面や表面などを撮影した5000倍の電子顕微鏡写真をもとに測定した、50点の繊維における各繊維径の算術平均値をいう。また、繊維径が細過ぎて測定が困難である場合には、5000倍よりも高い倍率の電子顕微鏡写真をもとに測定することができる。なお、繊維の断面形状が非円形である場合には、断面積と同じ面積の円の直径を繊維径とみなす。
【0031】
繊維集合体を構成する繊維の繊維長は適宜選択するが、特定長を有する短繊維や長繊維、あるいは、実質的に繊維長を測定することが困難な程度の長さの繊維長を有する連続繊維であることができる。ここでいう「繊維長」は、繊維集合体など対象物の断面や表面などを撮影した5000倍の電子顕微鏡写真をもとに測定できる。繊維の繊維長が長すぎて測定が困難である場合には、5000倍より低い倍率の電子顕微鏡写真をもとに測定することができる。
【0032】
繊維集合体が織物や編物である場合、前述のようにして調製した繊維を織るあるいは編むことで、織物や編物を調製できる。
【0033】
繊維集合体は、構成繊維同士が絡合することで一体化していても、バインダで一体化していても、構成繊維の一部が溶融し繊維同士の交点部分が一体化していてもよい。直接紡糸法を用いて、紡糸を行うと共に繊維を捕集してなる不織布であると、バインダなど不要な成分を用いることなく繊維集合体を構成でき好ましい。なお、繊維ウェブ以外にも不織布あるいは織物や編物など繊維集合体を、前述した構成繊維同士を絡合および/または一体化させる方法へ供しても良い。
【0034】
繊維集合体の目付や厚さなどの各種物性は、適宜選択できる。目付は、0.1~200g/m2であることができ、0.3~100g/m2であることができ、0.5~20g/m2であることができる。この「目付」はJIS P8124(紙及び板紙―坪量測定法)に規定されている方法に基づいて得られる坪量をいう。また、厚さは0.5~100μmであることができ、1~70μmであることができ、2~60μmであることができる。この「厚さ」は、JIS B7502に規定されている外側マイクロメータ―(測定可能厚さ:0~25mm)を用いて測定した値をいう。
【0035】
繊維集合体が備える空隙が多い程、厚さ方向における導電性と通気性が共に優れている導電性シートを提供し易い傾向がある。そのため、繊維集合体の空隙率は40%以上が好ましく、50%以上であるのが好ましく、70%以上であるのがより好ましく、80%以上であるのがより好ましい。一方、繊維集合体が備える空隙が多過ぎると強度に劣る導電性シートとなる恐れがあるため、空隙率は99%以下であるのが好ましく、95%以下であるのがより好ましく、90%以下であるのが更に好ましい。
【0036】
この「空隙率」は次の式により得られる値をいう。ここで、Mは繊維集合体の目付(単位:g/m2)、Tは繊維集合体の厚さ(単位:μm)、dは繊維集合体を構成する成分の平均密度(単位:g/cm3)を、それぞれ意味する。
P=[1-M/(T×d)]×100
【0037】
本発明にかかる導電性シートは導電性粒子を含んでいる。ここでいう導電性粒子とは、導電性を有する成分を含有する粒子であって、金属粒子や炭素成分で構成された粒子であることができる。炭素成分の種類は適宜選択できるが、例えば、グラファイト(黒鉛)、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャコールブラックなどを採用できる。また、カーボンナノファイバーやカーボンナノチューブなどを導電性粒子として採用してもよい。
【0038】
導電性粒子の粒子形状は適宜選択でき、繊維状、扁平状、球状、数珠状、柱状や棒状などであることができ、中実粒子でも中空粒子でもよく多孔を有する形状であってもよい。
【0039】
導電性シートが含む導電性粒子の質量は適宜調整できるが、1~100g/m2であることができ、2~90g/m2であることができ、3~80g/m2であることができる。
【0040】
本発明にかかる導電性シートは、平均粒子径が異なる二種類以上の導電性粒子を含んでいる。導電性シートが、平均粒子径が異なる二種類以上の導電性粒子を含んでいるか否かは、導電性シートを以下の判断方法へ供することで判断できる。
【0041】
(平均粒子径が異なる二種類以上の導電性粒子を含んでいるか否かの判断方法)
1.電子顕微鏡を用いて、測定対象物(導電性シートなど)の断面や表面などを10万倍に拡大した映像を入手する。
2.映像中に写る粒子のうちから導電性粒子を選出する。なお、導電性粒子か否かは各種分析方法や分析手段を用いることで判断でき、具体例としてエネルギー分散型X線分析(EDX)、原子間力顕微鏡(AFM)、ラマン分光法を用いて判断できる。なお、測定対象物から無作為に50個の粒子を採取し、当該50個の粒子を各種分析方法や分析手段へ供した結果、当該50個の粒子がいずれも導電性粒子であった場合には、測定対象物は粒子として導電性粒子のみを含んでいると判断できる。
そして、当該選出した導電性粒子のうち、輪郭全体が写る導電性粒子を選び出し(選び出す当該導電性粒子の個数:50個、輪郭全体が写る導電性粒子の個数が50個未満であった場合には、輪郭全体が写る導電性粒子全て)、その粒子径を各々測定する。なお、導電性粒子の形状が球形でない場合は、導電性粒子の外接円の直径をその粒子径とする。また、導電性粒子がカーボンナノファイバーなどの、繊維直径に対する繊維長のアスペクト比が50以上の繊維形状をしている場合には、繊維直径が分かる繊維形状の導電性粒子を選び出し、その繊維直径を各々測定し粒子径とする。
3.測定し得られた粒子径の平均値を、一種類目の導電性粒子の平均粒子径とする。
4.映像中に、一種類目の導電性粒子以外にも、別の種類の導電性粒子が存在していた場合、項目1における電子顕微鏡の視野位置(映像の中心点)を変更せず、電子顕微鏡の倍率を変更して倍率が3万倍の映像を入手する。
5.映像中に写る導電性粒子のうち、輪郭全体が写る前述した別の種類の導電性粒子を選び出し、その粒子径を各々測定する。なお、導電性粒子の形状が球形でない場合は、導電性粒子の外接円の直径をその粒子径とする。
6.測定し得られた粒子径の平均値を、二種類目の導電性粒子の平均粒子径とする。
7.映像中に、一種類目および二種類目の導電性粒子以外にも、更に別の種類の導電性粒子が存在していた場合、項目4における電子顕微鏡の視野位置(映像の中心点)を変更せず、電子顕微鏡の倍率を変更して倍率が2千倍の映像を入手する。
8.映像中に写る導電性粒子のうち、輪郭全体が写る前述した更に別の種類の導電性粒子を選び出し、その粒子径を各々測定する。なお、導電性粒子の形状が球形でない場合は、導電性粒子の外接円の直径をその粒子径とする。
9.測定し得られた粒子径の平均値を、三類目の導電性粒子の平均粒子径とする。
10.上述した項目1~項目9までの操作を、測定対象物の他の2箇所(他の断面や他の表面など)においても行い、測定対象物に含まれている導電性粒子の種類と各平均粒子径を求める。
【0042】
上述した判断の結果、測定対象物の3箇所の測定箇所全てにおいて、各映像中に一種類目の導電性粒子のみが写っていた場合には、当該導電性シートは一種類の導電性粒子のみを含んでいると判断する。また、測定対象物の3箇所の測定箇所全てにおいて、各映像中に一種類目と二種類目の導電性粒子が写っていた場合には、当該導電性シートは二種類以上の導電性粒子を含んでいると判断する。更に、測定対象物の3箇所の測定箇所全てにおいて、各映像中に一種類目~三種類目の導電性粒子が写っていた場合には、当該導電性シートは三種類以上の導電性粒子を含んでいると判断する。
【0043】
なお、導電性シートの製造工程が判明しているなど、導電性シートが含む導電性粒子の種類が判明しており、その平均粒子径がカタログや仕様書などに記載されている場合は、記載されている値を導電性粒子の平均粒子径と判断できる。そのため、導電性シートの製造工程が判明している場合にも、平均粒子径が異なる二種類以上の導電性粒子を含んでいるか否か(また、各導電性粒子の種類や平均粒子径)が判断できる。
【0044】
厚さ方向における導電性と通気性が共に優れている導電性シートを提供できるよう、繊維集合体の空隙中には、平均粒子径が異なる二種類以上の導電性粒子が混在した状態で存在しているのが好ましい。
【0045】
本発明にかかる導電性シートが含む、平均粒子径が異なる二種類以上の導電性粒子の組み合わせとして、例えば、アセチレンブラックとそれよりも平均粒子径の大きいグラファイト(黒鉛)、ケッチェンブラックならびにアセチレンブラックとこれらよりも平均粒子径の大きいグラファイト(黒鉛)、カーボンナノファイバーとそれよりも平均粒子径の大きいアセチレンブラック更にはこれらよりも平均粒子径の大きいグラファイト(黒鉛)などの組み合わせを挙げられる。
【0046】
導電性シートに含まれている、平均粒子径が異なる二種類以上の導電性粒子の質量比率は適宜調整できる。一例として、導電性シートが導電性粒子Aとそれよりも平均粒子径の大きい導電性粒子Bを含んでいる場合、導電性粒子Aの質量と導電性粒子Bの質量の質量比率は、99質量%:1質量%~1質量%:99質量%であることができ、95質量%:5質量%~5質量%:95質量%であることができ、10質量%:90質量%~90質量%:10質量%であることができる。また、別の一例として、導電性シートが前記導電性粒子Aと前記導電性粒子Bならびにこれらよりも平均粒子径の小さい導電性粒子C(例えば、カーボンナノファイバー)を含んでいる場合、導電性粒子Aと導電性粒子Bを合わせた質量と導電性粒子Cの質量の質量比率は、99.9質量%:0.1質量%~60質量%:40質量%であることができ、99.7質量%:0.3質量%~70質量%:30質量%であることができ、99.5質量%:0.5質量%~80質量%:20質量%であることができる。
【0047】
上述にて例示したような導電性粒子A~Cにおいて、導電性粒子Aと導電性粒子Bの平均粒子径は適宜選択できるが、例えば、導電性粒子Aの平均粒子径は0.05~1.0μmであることができ、0.1~0.8μmであることができ、0.2~0.6μmであることができ、導電性粒子Bの平均粒子径は1~20μmであることができ、2~10μmであることができ、3~9μmであることができ、導電性粒子Cの平均粒子径は0.005~0.1μmであることができ、0.008~0.05μmであることができ、0.01~0.03μmであることができる。
【0048】
特に、導電性シートが導電性粒子Aとそれよりも平均粒子径の大きい導電性粒子Bを含んでいる場合、導電性粒子Aの平均粒子径は導電性粒子Bの平均粒子径の0.4倍よりも小さいのが好ましい。このような平均粒子径の関係を有する導電性粒子Aと導電性粒子Bを備えている場合には、4個の導電性粒子Bが正方形状に並び、正方形の中心を通る垂線上に2個の導電性粒子Aが配列できるため、導電性粒子Aおよび導電性粒子Bが最密充填してなる導電性シートを提供でき好ましい。あるいは、導電性粒子Aの平均粒子径は導電性粒子Bの平均粒子径の0.16倍よりも小さいのがより好ましい。このような平均粒子径の関係を有する導電性粒子Aと導電性粒子Bを備えている場合には、4個の導電性粒子Bが正三角すいの頂点をそれぞれの中心として配列すると共に、導電性粒子Bと最多の接触点を有して導電性粒子Aが配列できるため、導電性粒子Aおよび導電性粒子Bがより最密充填してなる導電性シートを提供でき好ましい。
【0049】
繊維集合体の空隙中に導電性粒子が存在している態様は適宜調整できるが、バインダによって導電性粒子が繊維や導電性粒子の表面に接着担持され存在している態様、導電性粒子が繊維や導電性粒子の表面にただ付着し存在している態様、繊維集合体が繊維表面に熱可塑性樹脂が露出する繊維を含んでいる場合であって、前記熱可塑性樹脂の熱融着によって繊維の表面に導電性粒子が固着している態様などを挙げることができる。バインダによって導電性粒子が繊維の表面に接着担持されている場合、当該バインダの質量は適宜調整できる。バインダの量が少な過ぎると取扱い時に導電性粒子が脱落することや、燃料電池等の使用環境下で液体と接した際に粒子が脱落し、狙った効果が得られない恐れがある。一方、バインダの量が多過ぎると導電性や通気性が低下して高性能の導電性シートを得られない恐れがある。そのため、導電性粒子の総質量Aとバインダの総質量Bの質量比率は、99質量%:1質量%~90質量%:10質量%であることができ、98質量%:2質量%~92質量%:8質量%であることができ、97質量%:3質量%~94質量%:6質量%であるのが好ましい。
【0050】
本発明にかかる導電性シートは、その厚さ方向へ貫通孔を有する。導電性シートが、その厚さ方向へ貫通孔を有するか否かは、導電性シートを以下の判断方法へ供することで判断できる。
【0051】
(貫通孔の有無の判断方法)
1.中央を5cm角の四角形状にくり抜いた、光を透過しない厚紙を用意する。
2.測定対象物(導電性シートなど)の主面上に厚紙の主面を重ね固定する。なお、本発明において主面とは、最も広い面積を有する面をいい、主面に対向し存在する裏面をもう一方の主面と称する。
3.測定対象物と厚紙を、暗室の中に置く。
4.厚紙のくり抜かれた部分に露出している測定対象物における、もう一方の主面にA3サイズのLEDトレースボードの発光部分を接触させた状態のまま、もう一方の主面から一方の主面へ向かい、明るさ1000ルクスの光を照射する。
5.厚紙のくり抜かれた部分に露出している測定対象物における5cm角の中に、光が測定対象物のもう一方の主面から一方の主面へ向かい透過する部分が、一点以上存在しているか否かを目視にて確認する。
6.項目4~5の操作を測定対象物における他の部分でも3回繰り返し行い、全ての箇所(合計4か所)のいずれの5cm角の中にも、光が測定対象物のもう一方の主面から一方の主面へ向かい透過する部分が、一点以上存在していた場合、当該測定対象物は厚さ方向へ貫通孔を有すると判断する。
【0052】
なお、本発明にかかる厚さ方向へ貫通孔を有する導電性シートは、以下の少なくとも一種類以上の構成を満たすことによって実現し得る。
・大きい開孔径を有する繊維集合体を備えているという構成。
・空隙率の高い繊維集合体を備えているという構成。
・繊維集合体の空隙が導電性粒子(あるいは導電性粒子とバインダ)によって閉塞しないよう、導電性粒子(あるいは導電性粒子とバインダ)の含有量が適度に調整されているという構成。
・繊維集合体の空隙が導電性粒子(あるいは導電性粒子とバインダ)によって閉塞し難いよう、繊維集合体が親水化処理をされているという構成。
・繊維集合体の空隙がバインダによって閉塞し難いよう、導電性粒子が粒子状のバインダにより繊維集合体を構成する繊維の表面へ担持されているという構成。
【0053】
導電性シートの目付や厚さ、ガーレ値や厚さ方向の通電抵抗などの各種物性は、適宜選択できる。目付は、5~100g/m2であることができ、6~80g/m2であることができ、7~60g/m2であることができる。厚さは10~300μmであることができ、15~200μmであることができ、20~180μmであることができる。ガーレ値は低い方が通気性に優れていることを意味する。そのため、導電性シートのガーレ値は180(秒/100ml)未満であるのが好ましく、140(秒/100ml)以下であるのが好ましく、100(秒/100ml)以下であるのがより好ましく、60(秒/100ml)以下であるのがより好ましい。
【0054】
なお、ガーレ値は、導電性シートを以下の測定方法へ供することで判断できる。
【0055】
(ガーレ値の測定方法)
測定対象物(導電性シートなど)から試験片を採取し、「JIS P8117:2009(紙及び板紙-透気度及び透気抵抗度試験方法(中間領域)-ガーレ法)a)ガーレ試験機法」において規定されている方法へ供することで、ガーレ値(秒/100ml)を算出する。
【0056】
厚さ方向の通電抵抗は低い方が導電性に富むことを意味する。そのため、導電性シートにおける厚さ方向の通電抵抗は45(Ω/cm)未満であるのが好ましく、15(Ω/cm)以下であるのが好ましく、12(Ω/cm)以下であるのがより好ましく、10(Ω/cm)以下であるのがより好ましい。
【0057】
なお、厚さ方向の通電抵抗は、導電性シートを以下の測定方法へ供することで判断できる。
【0058】
(厚さ方向の通電抵抗の測定方法)
1.測定対象物(導電性シートなど)から、直径2.5cmの円形状(面積4.9cm2)の試料を採取する。
2.試料の両主面に金メッキを施した金属プレート(大きさは直径2.5cm以上)を当て挟み込む。このとき、金属プレート間の加圧力が2MPaとなるように調整する。
3.金属プレート間に1Aの電流を流した際の金属プレート間に印加されている電圧(単位:V)と、電流値(1A)から、抵抗値(単位:Ω)を算出する。
4.抵抗値を4.9で除し算出された値を、更に、試料の厚さ(単位:cm)で除することにより、測定対象物(導電性シートなど)における厚さ方向の通電抵抗(単位:Ω/cm)を算出する。
【0059】
本発明にかかる導電性シートは単体で使用できるが、必要であれば、導電性シートに別途基材を積層して積層体を調製してもよい。
【0060】
以上のようにして製造した導電性シートあるいは積層体は、その用途や使用態様に合わせて、リライアントプレス処理などの加圧処理する工程へ供し厚さを調整する、形状を打ち抜く、成型するなどの各種二次工程へ供しても良い。
【0061】
本発明に係る導電性シートは、厚さ方向における導電性と通気性に共に優れていることから、燃料電池の触媒層とガス拡散層との間に配置される水分管理シートとして好適に使用できるものである。
【0062】
次いで、本発明にかかる導電性シートの製造方法について、例示し説明する。なお、既に説明した項目と構成を同じくする点については説明を省略する。
【0063】
本発明にかかる導電性シートの製造方法は適宜選択できるが、一例として、
(1)繊維集合体を用意する工程、
(2)平均粒子径が異なる二種類以上の導電性粒子が分散媒中に混在している、塗工液を用意する工程、
(3)繊維集合体へ塗工液を付与する工程、
(4)塗工液を付与した繊維集合体から、前記分散媒を除去する工程、
を備える導電性シートの製造方法を用いることができる。
【0064】
工程(2)について説明する。
【0065】
分散媒の種類は適宜選択するものであるが、水、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,4-ジオキサン、ピリジン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、アセトニトリル、ギ酸、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエタン、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネートなどを挙げることができる。なお、分散媒は一種類であっても、複数種類混合してなる分散媒であってもよい。
【0066】
繊維集合体や導電性粒子に溶解や意図しない物性の変化が発生し難いよう、また、塗工液にバインダ粒子を分散させる場合には、加えてバインダ粒子が溶解や意図しない物性の変化が発生し難いよう、分散媒を選択するのが好ましい。また、塗工液中に含まれる導電性粒子の質量(固形分質量)は、適宜選択するが、5~50質量%であることができ、8~40質量%であることができ、10~30質量%であることができる。塗工液はバインダ粒子ならびに界面活性剤や消泡剤などの添加剤を含んでいても良い。塗工液に含まれる添加剤の質量(固形分質量)は、適宜選択するが、0.1~30質量%であることができ、0.5~20質量%であることができ、1~15質量%であることができる。
【0067】
塗工液の温度や粘度は適宜選択する。塗工液の温度は5~40℃であることができ、10~35℃であることができ、15~30℃であることができる。また、紡糸液の粘度は0.05~8Pa・sであることができ、0.1~6Pa・sであることができ、0.2~5Pa・sであることができる。なお、この「粘度」は粘度測定装置を用い、温度25℃で測定したシェアレート100s-1時の値をいう。
【0068】
次いで、工程(3)について説明する。
【0069】
繊維集合体へ塗工液を付与する方法は適宜選択できるが、繊維集合体の一方の主面あるいは両主面に塗工液をそのまま、あるいは塗工液を泡立てた状態で、スプレーや含浸ロールなどを用いて付与する方法、繊維集合体を塗工液に浸漬する方法などを採用できる。なお、繊維集合体へ付与する塗工液の量は、適宜調整する。
【0070】
そして、工程(4)について説明する。
【0071】
塗工液を付与した繊維集合体から分散媒を除去する方法は適宜選択できるが、一例として、加熱処理へ供する方法を採用できる。なお、加熱装置の種類は適宜選択でき、例えば、ロールにより加熱または加熱加圧する装置、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機、赤外線を照射し加熱できる装置などを用いた方法を採用できる。加熱装置による加熱温度は適宜選択するが、残留している分散媒を揮発させ除去可能であると共に、繊維や導電性粒子などの構成成分が意図せず分解や変性しない温度であるように適宜調整する。
【0072】
なお、繊維中に接着成分や架橋可能な樹脂が存在する場合は、加熱処理へ供することで接着成分による繊維接着を行っても、当該架橋可能な樹脂を架橋させても良い。
【0073】
また、本工程において、バインダ(特にバインダ粒子)の少なくとも一部を軟化させ、バインダによって導電性粒子を繊維の表面に接着担持しても良い。
【0074】
以上の製造方法によって、繊維集合体の空隙中に、平均粒子径が異なる二種類以上の導電性粒子が存在している本発明に係る導電性シートを製造できる。
【0075】
本発明にかかる導電性シートは単体で使用できるが、必要であれば、上述の工程の後に、導電性シートに別途基材を積層して積層体を調製してもよい。
【0076】
以上のようにして製造した導電性シートあるいは積層体は、その用途や使用態様に合わせて、リライアントプレス処理などの加圧処理する工程へ供し厚さを調整する、形状を打ち抜く、成型するなどの各種二次工程へ供しても良い。
【実施例】
【0077】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0078】
(繊維集合体の調製)
Eガラス繊維(平均繊維径:7μm、繊維長:10mm)を分散させた白水を用意し、湿式抄造して湿式ウェブを形成した。その後、アクリル樹脂を主成分とするバインダとポリ酢酸ビニルバインダとを固形分質量比1:1で混合してなるディスパージョン中に湿式ウェブを含浸し、乾熱乾燥機(加熱温度:140℃)へ供することで乾燥させて、湿式不織布A(目付:11g/m2、厚さ:110μm、バインダの固形分付着量:15質量%)を調製した。
【0079】
ポリプロピレン(高融点成分、融点:168℃)を芯成分とし、高密度ポリエチレン(低融点成分、融点:135℃)を鞘成分とする、一部熱融着型の高強度ポリオレフィン系芯鞘型複合繊維(引張り強さ:6.5cN/dtex、繊度:0.8dtex、繊維径:10μm、繊維長:5mm)を分散させた白水を用意し、湿式抄造して湿式ウェブを形成した。その後、乾熱乾燥機(加熱温度:140℃)へ供することで乾燥させて、湿式不織布B(目付:7g/m2、厚さ:40μm)を調製した。
【0080】
(塗工液の調製)
塗工液A
アセチレンブラックを純水中へ加え、ディスパータイプの攪拌翼を用いて混合した。そして、バインダ成分となるポリフッ化ビニリデン粒子のディスパージョンを加えて攪拌を続け、塗工液A(固形分濃度:15質量%)を調製した。なお、混合比率は以下に記載する通りであった。
・アセチレンブラック(平均粒子径:50nm):97質量部。
・ポリフッ化ビニリデン粒子のディスパージョン(平均粒子径:0.4μm、ポリフッ化ビニリデンの融点:170℃、固形分濃度:30質量%):3質量部。
【0081】
塗工液B
アセチレンブラックとグラファイトを純水中へ加え、ディスパータイプの攪拌翼を用いて混合した。そして、バインダ成分となるポリフッ化ビニリデン粒子のディスパージョンを加えて攪拌を続け、塗工液B(固形分濃度:15質量%)を調製した。なお、混合比率は以下に記載する通りであった。
・アセチレンブラック(平均粒子径:50nm):33質量部。
・グラファイト(平均粒子径:6μm):64質量部、
・ポリフッ化ビニリデン粒子のディスパージョン(平均粒子径:0.4μm、ポリフッ化ビニリデンの融点:170℃、固形分濃度:30質量%):3質量部。
【0082】
塗工液C
アセチレンブラックとグラファイトならびにケッチェンブラックを純水中へ加え、ディスパータイプの攪拌翼を用いて混合した。そして、バインダ成分となるポリフッ化ビニリデン粒子のディスパージョンを加えて攪拌を続け、塗工液C(固形分濃度:15質量%)を調製した。なお、混合比率は以下に記載する通りであった。
・アセチレンブラック(平均粒子径:50nm):23質量部。
・グラファイト(平均粒子径:6μm):44質量部、
・ケッチェンブラック(平均粒子径:40nm):30質量部、
・ポリフッ化ビニリデン粒子のディスパージョン(平均粒子径:0.4μm、ポリフッ化ビニリデンの融点:170℃、固形分濃度:30質量%):3質量部。
【0083】
塗工液D
アセチレンブラックとグラファイトならびにカーボンナノファイバーを純水中へ加え、ディスパータイプの攪拌翼を用いて混合した。そして、バインダ成分となるポリフッ化ビニリデン粒子のディスパージョンを加えて攪拌を続け、塗工液D(固形分濃度:15質量%)を調製した。なお、混合比率は以下に記載する通りであった。
・アセチレンブラック(平均粒子径:50nm):32.5質量部。
・グラファイト(平均粒子径:6μm):64質量部、
・カーボンナノファイバー(平均繊維径(平均粒子径):20nm、平均繊維長:1μm):0.5質量部、
・ポリフッ化ビニリデン粒子のディスパージョン(平均粒子径:0.4μm、ポリフッ化ビニリデンの融点:170℃、固形分濃度:30質量%):3質量部。
【0084】
(比較例1)
表面に斜線形状の溝を設けたグラビアロールを用いて、湿式不織布Aの一方の主面に塗工液Aを付与した。その後、100℃で乾燥して塗工液中の分散媒を除去することで、導電性シートを調製した。
【0085】
(比較例2~4)
表面に斜線形状の溝を設けたグラビアロールを用いて、湿式不織布Bの一方の主面に塗工液Aを付与した。なお、比較例2~4では塗工液の塗工量を各々変更した。その後、100℃で乾燥して塗工液中の分散媒を除去することで、導電性シートを調製した。
【0086】
上述のようにして調製した各導電性シートの諸構成と評価結果を表1にまとめた。なお、以降の表において、含まれている項目については表中に「〇」印を、含まれていない項目については表中に「-」印を記載した。
【0087】
【0088】
従来技術にかかる比較例1の導電性シートならびに比較例2~4の導電性シートはいずれも、厚さ方向(両主面間)における導電性と通気性が共に優れている導電性シートではなかった。具体的には、後述する各実施例のような、厚さ方向における導電性が45(Ω/cm)未満であると共にガーレ値が180(秒/100ml)未満の導電性シートではなかった。
【0089】
また、比較例2~4を比較した結果、導電性シートに含まれている導電性粒子の質量を増減することによって、導電性シートの導電性(厚さ方向の通電抵抗)と通気性(ガーレ値)は変更可能であったものの、導電性シートの導電性と通気性(ガーレ値)とはトレードオフの関係にあった。
【0090】
以上から、導電性粒子の質量を増減するだけでは、導電性と通気性に共に優れている導電性シートを提供することが困難であることが判明した。
【0091】
(実施例1)
塗工液Bを用いたこと以外は、比較例4と同様にして導電性シートを調製した。
【0092】
上述のようにして調製した各導電性シートの諸構成と評価結果を表2にまとめた。なお、理解をし易くするため、表には比較例4の結果も併せて記載した。
【0093】
【0094】
比較例4の導電性シートに対し実施例1の導電性シートは、導電性に優れている(厚さ方向の通電抵抗が低い)と共に、通気性に優れている(ガーレ値が小さい)ものであった。この理由として、実施例1の導電性シートは、平均粒子径が異なる二種類以上の導電性粒子を含んでいると共に貫通孔を有しているためだと考えられた。
【0095】
(実施例2~3)
塗工液の塗工量を各々変更したこと以外は、実施例1と同様にして導電性シートを調製した。
【0096】
上述のようにして調製した各導電性シートの諸構成と評価結果を表3にまとめた。なお、理解をし易くするため、表には比較例2~3の結果も併せて記載した。
【0097】
【0098】
この結果から、本発明の構成を満足することによって、導電性シートに含まれている導電性粒子の質量を増量することで導電性シートの導電性(厚さ方向の通電抵抗)を向上した場合であっても、通気性(ガーレ値)が上昇するのを防止できることが判明した。
【0099】
そのため、本発明によって従来技術よりも、導電性に優れている(厚さ方向の通電抵抗が低い)と共に、通気性に優れている(ガーレ値が小さい)導電性シートを容易に提供できることが判明した。
【0100】
(実施例4~5)
塗工液を塗工液Cに変更したこと以外は、実施例1と同様にして導電性シートを調製した。なお、実施例4~5では塗工液の塗工量を各々変更した。
【0101】
(実施例6)
塗工液を塗工液Dに変更したこと以外は、実施例1と同様にして導電性シートを調製した。なお、実施例6では塗工液の塗工量を変更した。
【0102】
上述のようにして調製した各導電性シートの諸構成と評価結果を表4にまとめた。
【0103】
【0104】
実施例4~6の導電性シートは、導電性に優れている(厚さ方向の通電抵抗が低い)と共に、通気性に優れている(ガーレ値が小さい)ことが判明した。この理由として、実施例4~6の導電性シートは、平均粒子径が異なる二種類以上の導電性粒子を含んでいると共に貫通孔を有しているためだと考えられた。
【0105】
そのため、本発明によって、導電性に優れている(厚さ方向の通電抵抗が低い)と共に、通気性に優れている(ガーレ値が小さい)導電性シートを提供できることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明によって、配線材やシールド材、あるいは、燃料電池やリチウムイオン電池(一次電池や二次電池)など電気化学用素子の構成部材として使用可能な導電性シートを提供できる。特に、リチウムイオン電池などの電極、電気二重層キャパシタなどの電極、それらの支持体として使用できる。更に、本発明に係る導電性シートは、厚さ方向(両主面間)における導電性と通気性に共に優れていることから、燃料電池の触媒層とガス拡散層との間に配置される水分管理シートとして好適に使用できる。