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  • 特許-銅粉の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】銅粉の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/28 20060101AFI20240605BHJP
【FI】
B22F9/28 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020110702
(22)【出願日】2020-06-26
(65)【公開番号】P2022007624
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】小林 諒太
(72)【発明者】
【氏名】吉田 貢
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特許第6704083(JP,B2)
【文献】特開2015-030886(JP,A)
【文献】国際公開第2019/009136(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/189411(WO,A1)
【文献】特開2006-188726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00-9/30
B22F 1/00-8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅と塩素ガスとを反応させて塩化銅ガスを生成し、
前記塩化銅ガスと還元性ガスとを反応させ、還元反応により銅粉を生成することを含み、
前記還元反応における前記塩化銅ガスの分圧は、10%以上40%以下であり、
生成された前記銅粉は、2000℃/秒以上9000℃/秒以下の冷却速度で冷却されることを特徴とする銅粉の製造方法。
【請求項2】
前記塩化銅ガスの分圧が20%以上30%以下である請求項1に記載の銅粉の製造方法。
【請求項3】
前記冷却速度が3000℃/秒以上5000℃/秒以下である請求項1または請求項2に記載の銅粉の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細な金属粒子の集合体である金属粉や金属粉を含む導電性ペーストは、低温同時焼成セラミックス(LTCC)基板の配線や端子、積層セラミックコンデンサ(MLCC)の内部電極や外部電極など、各種電子部品を製造するための原材料として幅広く利用されている。特に、銅粉は、銅の高い導電性に起因し、MLCCの内部電極の薄膜化や外部電極の小型が可能であること、周波数特性の大幅な改善が可能であることから、従来多用されてきたニッケル粉や銀粉に替わる材料として期待されている(特許文献1~特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-36439号公報
【文献】国際公開第2015/137015号
【文献】特開2018-076597号公報
【文献】特開2016-108649号公報
【文献】特開2004-211108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、銅の融点(約1083度)はニッケルの融点(約1455度)よりも低い。また、銅粉の微細化に伴って、銅粉の比表面積が増加するため、銅粉の融点(焼結開始温度)はさらに低下する。そのため、MLCCの電極層として微細な銅粉を用いた場合、ニッケル粉よりも低温で溶融が開始されることになる。この場合、MLCCの誘電層の焼結開始温度と電極層の焼結温度との温度差が大きくなり、降温時の電極層の収縮によって電極層にクラックが発生する問題や誘電層と電極層との剥離(デラミネーション)が発生する問題があった。したがって、銅粉をMLCCの電極層に用いるためには、電極層の焼結開始温度を誘電層の焼結開始温度に近づける、すなわち、焼結開始温度が高く、かつ、塗膜の平滑性に優れる銅粉が要求されていた。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑み、高い焼結開始温度を有し、かつ、塗膜の平滑性に優れた銅粉の製造方法を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態に係る銅粉の製造方法は、銅と塩素ガスとを反応させて塩化銅ガスを生成し、塩化銅ガスと還元性ガスとを反応させ、還元反応により銅粉を生成することを含み、還元反応における塩化銅ガスの分圧は、10%以上40%以下であり、生成された銅粉は、2000℃/秒以上9000℃/秒以下の冷却速度で冷却される。
【0007】
塩化銅ガスの分圧が20%以上30%以下であってもよい。また、冷却速度が3000℃/秒以上5000℃/秒以下であってもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施形態に係る銅粉の製造方法によれば、高い焼結開始温度を有し、かつ、塗膜の平滑性に優れた銅粉を製造することができる。また、本発明に係る銅粉の製造方法によって製造された銅粉をMLCCの電極層に用いれば、電極層の焼結開始温度と誘電層の焼結開始温度との温度差が小さくなるため、電極層のクラックやデラミネーションを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る銅粉の製造方法を示すフローチャートである。
図2】本発明の一実施形態に係る銅粉の製造方法に用いる金属塩化物生成装置の概略図である。
図3】本発明の一実施形態に係る銅粉の製造方法に用いる還元装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。但し、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態または実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0011】
また、以下の実施形態または実施例においては、銅粉の利用として、MLCCの電極層への適用を例示するが、本発明の一実施形態に係る銅粉製造方法によって製造された銅粉は、これに限られず、その他の電子部品へ適用することも可能である。
【0012】
[1.銅粉の製造方法]
図1を参照して、本発明の一実施形態に係る銅粉の製造方法の概要について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る銅粉の製造方法を示すフローチャートである。本実施形態に係る銅粉の製造方法は、塩素ガスの生成工程(S100)、塩化銅の還元工程(S200)、塩素成分の低減工程(S300)、酸素成分の低減工程(S400)、および表面処理工程(S500)を含む。なお、各工程は、必ずしも明確に分離されていなくてもよく、例えば、塩素ガスの生成工程(S100)と塩化銅の還元工程(S200)とが同時に行われるような構成であってもよい。また、一部の工程を省略する構成であってもよい。
【0013】
以下、各工程について詳細に説明する。
【0014】
[1-1.塩化銅ガスの生成工程(S100)]
本実施形態に係る銅粉の製造方法では、塩化銅ガスと還元性ガスとの還元反応を利用して銅粉を生成する。ここでは、還元反応で用いる塩化銅ガスの製造方法について説明する。
【0015】
塩化銅ガスは、金属銅を原料として、金属銅と塩素含有ガスとを反応させることにより生成する。具体的には、金属銅を加熱して塩素含有ガスと反応させることによって、塩化銅ガスを生成させることができる。生成された塩化銅ガスは、原料として塩化銅ではなく、塩化銅よりも安価な金属銅を用いているため、塩化銅ガスの製造コストを抑制することができる。また、金属銅を用いることで塩化銅ガスの生成量を制御することができるため、塩化銅ガスの供給量を安定化させることができる。
【0016】
図2は、本発明の一実施形態に係る銅粉の製造方法に用いる金属塩化物生成装置10の概略図である。金属塩化物生成装置10は、塩化炉100、投入口110、導入管120、回収管130、およびヒータ140を含む。投入口110、導入管120、および回収管130の各々は、塩化炉100に連結されている。金属銅は投入口110から投入され、塩素含有ガスは導入管120から供給される。すなわち、投入された金属銅と供給された塩素含有ガスとが塩化炉100内で反応し、その反応によって生成された塩化銅ガスが回収管130を通じて回収される。
【0017】
塩化炉100は、ヒータ140によって加熱することができる。塩化炉100の加熱温度は、塩化炉100内で金属銅が溶融しない温度、すなわち、銅の融点(約1083度)以下である。
【0018】
ここで、塩化炉100の加熱温度とは、加熱された塩化炉100内の温度をいうが、塩化炉100内の温度を直接測定することが困難である場合は、金属塩化物生成装置10において設定した塩化炉100の設定温度とすることもできる。
【0019】
供給された塩素含有ガスは、塩化炉100に充満し、自然流によって回収管130の方向に流れる。そのため、塩素含有ガスの流量を調整することにより、塩化炉100内に滞留する塩素含有ガスの量を調整し、生成される塩化銅ガスの量を制御することができる。
【0020】
塩素含有ガスは、塩素ガスのみであってもよく、塩素ガスに希釈用の不活性ガスを含有した混合ガスであってもよい。不活性ガスとしては、窒素ガスまたはアルゴンガスなどを用いることができる。また、生成される塩化銅ガスの量は、不活性ガスの量を調整することにより、塩化炉100内の塩素ガスの量を調整し、生成される塩化銅ガスの量を制御することができる。
【0021】
塩素含有ガスは、加熱されて塩化炉100に導入されてもよい。塩素含有ガスの加熱は、塩素含有ガスが導入管120に供給される前に行われてもよく、塩素含有ガスが導入管120に供給された後、導入管120を加熱することによって行われてもよい。また、塩素含有ガスが塩素ガスと不活性ガスとの混合ガスである場合、加熱した不活性ガスと塩素ガスとを混合してもよい。
【0022】
ここで、塩素含有ガスの加熱温度とは、加熱された塩素含有ガスの温度をいうが、塩素含有ガスの温度を直接測定することが困難である場合は、塩素含有ガスを加熱するヒータの設定温度とすることもできる。
【0023】
以上、塩化銅ガスの生成工程(S100)では、塩化炉100の加熱温度、塩素含有ガスの流量、塩素含有ガスに占める不活性ガスの割合、または塩素含有ガスの加熱温度などの条件を調整することで、塩化銅ガスの生成量を精密に制御することが可能となる。
【0024】
[1-2.塩化銅の還元工程(S200)]
次に、生成された塩化銅ガスと還元性ガスとを反応させて塩化銅を還元し、銅粉を生成する。
【0025】
図3は、本発明の一実施形態に係る銅粉の製造方法に用いる還元装置20の概略図である。還元装置20は、還元炉200、第1導入管210、第2導入管220、回収管230、およびヒータ240を含む。第1導入管210、第2導入管220、および回収管230の各々は、還元炉200に連結されている。塩化銅ガスは第1導入管210から供給され、還元性ガスは第2導入管220から供給される。すなわち、供給された塩化銅ガスと還元性ガスとが還元炉200内で反応し、その反応によって生成された銅粉が回収管230を通じて回収される。なお、金属塩化物生成装置10の回収管130と還元装置20の第1導入管210とが連結され、金属塩化物生成装置10で生成された塩化銅ガスを還元装置20に直接供給することもできる。
【0026】
還元炉200は、ヒータ240によって加熱することができる。
【0027】
ここで、還元炉200の加熱温度とは、加熱された還元炉200内の温度をいうが、還元炉200内の温度を直接測定することが困難である場合は、還元装置20において設定した還元炉200の設定温度とすることもできる。
【0028】
還元性ガスとしては、例えば、水素、ヒドラジン、アンモニア、またはメタンなどを用いることができる。
【0029】
塩化銅ガスに対する還元性ガスの比率は、第1導入管210からの塩化銅ガスの流量と、第2導入管220からの還元性ガスの流量とを調整することにより可能である。
【0030】
気相成長法の塩化銅ガスと還元性ガスとの還元反応において、塩化銅ガスの分圧とは、還元反応時に塩化炉から供給されるガス全体に対する塩化銅ガスの分圧のことをいう。例えば、反応系に存在するガスが塩化銅ガスおよび窒素ガスである場合における塩化銅ガスの分圧は、塩化銅ガスおよび窒素ガスの合計のモル数に対して占める塩化銅ガスのモル数の割合として得られる。
【0031】
塩化銅ガスの分圧は、例えば、10%以上40%以下であり、好ましくは20%以上30%以下である。塩化銅ガスの分圧が40%超である場合には、還元反応が十分に進行せず、未反応の粗粒が発生するため、後述する銅粉の個数50%径(D50SEM)が大きくなり、塗膜の平滑性が悪くなるという問題が生じることがある。一方、塩化銅ガスの分圧が10%未満である場合には、個数50%径(D50SEM)が小さくなり、銅粉の焼結開始温度が低下するという問題が生じることがある。また、凝集性が強くなるため、塗膜の平滑性が悪くなるという問題が生じることがある。
【0032】
塩化銅ガスと還元性ガスとの還元反応によって生成された銅粉は回収管230を通じて回収されるが、冷却ガスを供給して銅粉を冷却してから回収してもよい。冷却ガスは、銅粉に対して不活性なガスであればよく、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、ネオンガス、または水素ガス、もしくはこれらの混合ガスである。冷却ガスの温度は、通常、0℃以上100℃以下、好ましくは0℃以上50℃以下、より好ましくは0℃以上30℃以下である。
【0033】
還元反応によって生成された銅粉の冷却速度は、銅粉の連結粒子や粗大粒子の形成に影響を及ぼすため、銅粉の冷却速度の調整は重要である。銅粉の冷却速度は、例えば、2000℃/秒以上9000℃/秒以下であり、好ましくは3000℃/秒以上5000℃/秒以下である。銅粉の冷却速度が9000℃/秒超である場合には、結晶性が悪くなるため、銅粉の焼結開始温度が低下するという問題が生じることがある。一方、銅粉の冷却速度が2000℃/秒未満である場合には、冷却が不十分であるため、連結粒子や粗大粒子が多く発生し、塗膜の平滑性が悪くなるという問題が生じることがある。
【0034】
ここで、銅粉の冷却速度とは、還元反応で生成された銅粉の温度と、冷却ガスに接触させて温度が低下した銅粉の温度との温度差を、当該温度差を得るのに要した時間で除した値をいう。
【0035】
以上、塩化銅の還元工程(S200)では、還元性ガスの種類、塩化銅ガスの分圧、冷却ガスの種類、または銅粉の冷却速度などの条件を調整することで、高い焼結開始温度を有する銅粉を製造することが可能となる。
【0036】
[1-3.塩素成分の低減工程(S300)]
塩化銅の還元工程(S200)においては、銅粉とともに塩化水素が生成される。また、未反応の塩素が還元性ガスと反応することによっても塩化水素が生成される。これらの塩化水素は、塩化水素に由来する塩素が塩化銅として銅粉の中に残留することになり、銅粉の純度を低下させる。また、銅粉の中に残留した塩化銅は、MLCCの電極層にも取り込まれ、MLCCの電極層の劣化を加速させる要因となり得る。そこで、塩化銅の還元工程(S200)によって得られた銅粉に対し、銅紛が含有する塩素成分を低減するための処理を行ってもよい。
【0037】
具体的には、銅紛を塩基の水溶液あるいは懸濁液で処理することで、塩素成分の除去を行うことができる。塩基の水溶液としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物が挙げられる。塩基濃度は、0.1モル/L以上、あるいは0.5モル/L以上でよく、1.5モル/L以下、あるいは1.2モル/L以下とすることができる。
【0038】
[1-4.酸素成分の低減工程(S400)]
銅は比較的酸化されやすい金属であるため、銅粉の酸化は、銅粒子の表面だけでなく内部まで進行しやすい。酸化が進行すると銅粒子の表面に酸化銅の層が形成されるとともに、凹凸が発生する。このような酸化に起因する凹凸は、MLCCの電極層の導電性を低下させ、または電極層の表面の平坦性を低下させる要因となり得る。すなわち、酸素成分の多い銅粉を用いた電極層は、電気抵抗の増大し、接触不良を誘発する。また、銅粒子の表面に凹凸があると、電極層の焼結時において収縮率が増大するため、デラミネーションが生じやすくなる。そこで、塩素成分の低減工程(S300)によって得られた銅粉に対して、銅粉の酸素成分を低減するために、酸化銅を除去し、または酸素含有量を低減する処理を行ってもよい。
【0039】
具体的には、塩素成分の低減工程(S300)によって得られた銅粉を、アスコルビン酸、ヒドラジン、またはクエン酸などを含む溶液、もしくは懸濁液を洗浄液として用いて処理する。その後、銅粉を水で洗浄し、ろ過し、乾燥する。
【0040】
[1-5.表面処理工程(S500)]
上述したように、銅は比較的酸化されやすい金属である。そこで、銅粒子の表面の酸化を抑制するため、酸素成分の低減工程(S400)によって得られた銅粉に対して、表面処理を行ってもよい。
【0041】
具体的には、表面処理剤を含む溶液または懸濁液で銅紛を処理する。表面処理剤としては、ベンゾトリアゾールとその誘導体、トリアゾールとその誘導体、チアゾールとその誘導体、ベンゾチアゾールとその誘導体、イミダゾールとその誘導体、およびベンズイミダゾールとその誘導体などの含窒素ヘテロ芳香族化合物に例示される材料を使用することができる。
【0042】
[1-6.その他の工程]
その他の任意の工程として、得られる銅粉を乾燥、分級、解砕、または篩別などの工程を行ってもよい。分級は乾式分級でも湿式分級でもよく、乾式分級では、気流分級、重力場分級、慣性力場分級、遠心力場分級など、任意の方式を採用できる。解砕は、例えば、ジェットミルを用いて行うことができる。篩別は、所望のメッシュサイズを有する篩を振動させ、これに銅粉を通過させることで行うことができる。分級、解砕、または篩別などの工程を行うことで、銅粉の粒子径分布をより小さくすることが可能である。
【0043】
以上、本実施形態に係る銅粉の製造方法によれば、上述した各工程の条件を調整することにより、高い焼結開始温度を有し、かつ、塗膜の平滑性に優れた銅粉を製造することができる。また、本実施形態に係る銅粉の製造方法によって製造された銅粉をMLCCの電極層に用いれば、電極層の焼結開始温度と誘電層の焼結開始温度との温度差が小さくなるため、電極層のクラックやデラミネーションを抑制することができる。
【0044】
[2.銅粉の評価]
本発明の一実施形態に係る銅粉の製造方法によって製造された銅粉の評価における定義と測定方法は、以下の通りである。
【0045】
[2-1.個数50%径(D50SEM)]
銅粉の個数50%径(D50SEM)とは、銅粉の粒子径ヒストグラムにおける累積頻度が50%になるときの粒子径のことをいう。銅粉の個々の銅粒子の粒子径は、銅粉を電子顕微鏡で観察したときに得られる個々の銅粒子の像に内接する最小円の直径、あるいは最小長方形の長辺として得られる。銅粉の個数50%径(D50SEM)は、100個から10000個、典型的には500個の銅粒子を観測した結果の粒子径ヒストグラムにおける累積頻度が50%になるときの粒子径として得られる。例えば、銅粉の個数50%径(D50SEM)は、走査型電子顕微鏡(SEM:株式会社日立ハイテクノロジーズ製、SU5000)の倍率15000倍におけるSEM像の一つの視野中に存在する約500個の銅粒子を、画像解析ソフト(株式会社マウンテック製Macview4.0)を用いて解析することによって得ることができる。
【0046】
本実施形態に係る銅粉の製造方法によって製造された銅粉の個数50%径(D50SEM)は、例えば、100nm以上400nm以下であり、好ましくは200nm以上300nm以下である。また、個数50%径(D50SEM)の下限は100nm以上であることが必要である。個数50%径(D50SEM)の下限が小さい銅粉は、製造することが困難であり、個数50%径(D50SEM)が小さすぎると、銅粒子同士が凝集し易くなり、取り扱いが困難になる場合がある。個数50%径(D50SEM)が100nm以上400nm以下の銅粉は、上述した本実施形態に係る銅粉の製造方法において、各工程の条件を適正に調整することで得られる。
【0047】
[2-2.平均結晶子径]
結晶子径とは、単結晶とみなせる領域の長さを表す指標である。個々の銅粒子は、単一または複数の結晶子を有している。平均結晶子径は、個々の銅粒子の結晶子の大きさの平均値である。平均結晶子径は、銅粉に対してX線回折の測定によって得られる各種のパラメータ(使用するX線の波長λ、回折X線の広がりの半値幅β、ブラッグ角θ)を、下記の(式1)に示すシェラーの式に代入して計算することで得られる値として定義される。ここで、Kはシェラー定数である。
【0048】
【数1】
【0049】
平均結晶子径の具体的な測定条件としては、加速電圧45kV、放電電流40mAの条件を用いることができ、例えば、X線回折装置(スペクトリス株式会社製、X’PertPro)を用いて、CuKα線で銅結晶の(111)面の回折ピークの半値幅を求め、上記(式1)のシェラーの式により平均結晶子径を算出することができる。なお、本明細書においては、平均結晶子径を、(式1)に示すようにDとして記載する。
【0050】
本実施形態に係る銅紛の製造方法によって製造された銅粉の平均結晶子径Dは、個数50%径(D50SEM)に対する平均結晶子径Dの比(D/D50SEM)で評価する。個数50%径(D50SEM)が小さくなると平均結晶子径Dも小さくなるため、平均結晶子径Dは、個数50%径(D50SEM)で規格化したD/D50SEMで評価する。本実施形態に係る銅粉の製造方法によって製造された銅粉の個数50%径(D50SEM)に対する平均結晶子径Dの比D/D50SEMは、0.50以上0.75以下であることが好ましく、0.60以上0.70以下であることがさらに好ましい。D/D50SEMが0.50以上であると平均結晶子径Dが大きく、焼結開始温度が高くなる効果があるので好ましい。個数50%径(D50SEM)に対する平均結晶子径Dの比D/D50SEMが0.50以上0.75以下である銅粉は、上述した本実施形態に係る銅粉の製造方法において、各工程の条件を適正に調整することで得られる。また、気相成長法は、高温で成長させることができるため、銅粉の平均結晶子径Dが大きくなりやすい。
【0051】
[2-3.連結粒子]
銅粉には、凝集のない独立した一次粒子に加え、一次粒子が凝集した二次粒子も含まれ得る。「連結粒子」とは、例えば、ジェットミル等の公知の解砕装置によって解砕してもなお、銅粉中に残留する二次粒子であり、典型的には、一次粒子同士が互いに融着してなる二次粒子のことを意味する。このような連結粒子のなかでも、球形度(真球度ともいう)が低い粒子、特に、複数の一次粒子が一列に連なった、特定の基準の長さを超える細長い形状の連結粒子の割合が、塗膜の平滑性に大きな影響を与えることが分かった。
【0052】
なお、本明細書中では、特に説明がない限り、便宜上、「連結粒子」とは、銅粉を走査電子顕微鏡により撮影したSEM像中の粒子のうち、当該SEM像において「アスペクト比」が1.2以上であり、「円形度」が0.675以下であり、「長径」が銅粉の個数50%径の3倍以上である二次粒子をいう。
【0053】
ここで、「長径」とは、銅粒子の投影像に外接する最小面積の長方形の長辺の長さであり、「アスペクト比」とは、当該長方形における長辺の長さを短辺の長さで除した値である。
【0054】
また、「円形度」は、下記の(式2)により求められる値である。円形度が1のとき、粒子の投影像は真円であり、当該粒子の立体形状は真球状に近いと予想できる。また、円形度が0に近づくにつれて、撮影された粒子の立体形状には、凹凸が多く存在し、複雑な形状であると予想できる。
【0055】
【数2】
【0056】
銅粉中の連結粒子の割合(以下、「連結粒子率」と表記することもある)は、走査電子顕微鏡により銅粉のSEM像を撮影し、そのSEM像に撮影された約40,000個の銅粒子から、画像解析ソフトを使用して、アスペクト比が1.2以上であり、円形度が0.675以下であり、長径が金属粉末の個数50%径の3倍以上である銅粒子の数を計測して得られる。すなわち、連結粒子の割合は、計測した全ての銅粒子の数に対する連結粒子の数の割合を意味する。なお、銅粉のSEM像を撮影するための試料を調製する条件等は、後述する実施例を参照することができる。
【0057】
本実施形態において、銅粉に含まれる連結粒子の割合は、個数基準で500ppm以下であることが好ましい。連結粒子の割合がこの範囲であることにより、銅粉の電極ペースト中での分散性を改善し、電極中の銅粉の充填率を高くすることができるため、塗膜の平滑性が向上するという効果を得ることができる。銅粉の個数50%径が400nm以下の超微粉であっても、上記の効果が得られる。したがって、この銅粉を内部電極用導電ペーストのフィラーとして用いることにより、電極の欠陥によるコンデンサの容量の低下を防ぐことができる。
【0058】
[2-4.粗大粒子]
銅粉には、連結粒子だけでなく、粗大粒子が含まれ得る。ここで、「粗大粒子」とは、アスペクト比が1.2未満、または円形度が0.675を超える球状または略球状粒子であって、長径が銅粉の個数50%径の3倍以上である銅粒子をいう。つまり、粗大粒子とは、アスペクト比または円形度が連結粒子の要件を満たしていないが、連結粒子と同様に長径が大きく、球形状に近い一次粒子または二次粒子である。銅粉中に含まれる粗大粒子の割合は、個数基準で15ppm以下であることが好ましい。連結粒子率が500ppm以下である銅粉において、粗大粒子の割合がこの範囲であることにより、積層セラミックコンデンサの内部電極の導電ペーストフィラーとして用いるときに、電極層を平滑にすることができ、電極間のショート等の不良を防止することができる。
【0059】
銅粉中の「粗大粒子」の割合(以下、「粗大粒子率」と表記することもある)は、走査電子顕微鏡により銅粉のSEM像を撮影し、そのSEM像に撮影された銅粒子約60,000個から、画像解析ソフトを使用して、アスペクト比が1.2未満、または円形度が0.675以上であり、長径が銅粉の個数50%径の3倍以上である銅粒子の数を計測して得られる。すなわち、粗大粒子の割合は、計測した全ての銅粒子の数に対する粗大粒子の数の割合を意味する。
【0060】
[2-3.焼結開始温度]
銅粉の焼結開始温度とは、銅粉を加熱し、銅粉の溶融が開始される温度をいう。銅粉の焼結開始温度は、例えば、熱機械分析装置(株式会社 リガク製、商品名 TMA8310)を用いて、1.5体積%水素-窒素の還元性ガス雰囲気下、大気圧、昇温速度5℃/分の条件で測定することができる。なお、銅粉の焼結開始温度は、銅粉の体積が5%収縮する温度としてもよい。
【0061】
本実施形態に係る銅粉の製造方法によって製造された銅粉の焼結開始温度は、680℃以上であることが好ましい。銅の融点(約1083℃)はニッケルの融点(約1455℃)よりも低いことから、銅粉の焼結開始温度はニッケル粉の焼結開始温度より低くなる。そのため、可能な限りニッケル粉の焼結開始温度に近づけるため、銅粉の焼結開始温度は、好ましくは680℃以上であり、さらに好ましくは720℃以上である。焼結開始温度が680℃以上である銅粉は、上述した本実施形態に係る銅粉の製造方法において、各工程の条件を適正に調整することで得られる。
【0062】
本実施形態に係る銅粉の製造方法によって製造された銅粉は、焼結開始温度が高く、かつ、塗膜の平滑性に優れているため、デラミネーションが発生しにくい。焼結開始温度が高く、かつ、塗膜の平滑性に優れている銅粉は、上述した本実施形態に係る銅粉の製造方法において、各工程の条件を適正に調整することで得られる。
【実施例
【0063】
以下に実施例をあげて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
塩化炉に、原料として平均直径1.5cmの球状の金属銅を設置し、塩化炉の温度を900℃に加熱した。塩化炉の上部の塩素導入管から導入された混合ガスの塩素ガスと窒素ガスの体積比は29:61であった。また、塩化炉の下部の塩素導入管から導入された混合ガスの塩素ガスと窒素ガスの体積比は2:98であった。その結果、塩化炉の上部の塩素導入菅および下部の塩素導入管から導入された混合ガスの塩素ガスと窒素ガスの体積比は1:0.17であった。このような条件の下で、金属銅と塩素ガスとを反応させて、塩化銅ガスを生成させた。また、塩化銅ガスの分圧は、10%であった。
【0065】
生成させた塩化銅ガスを1150℃に加熱した還元炉に導入した。また、塩化銅ガスに対して4600モル%の水素ガス、および塩化銅ガスに対して24600モル%の窒素ガスを還元炉に導入した。塩化銅が還元され、銅を生成させた。生成させた銅を窒素ガスで冷却速度2000℃/秒で冷却して個々の銅粒子とし、銅粒子の集合体として銅粉を得た。
【0066】
その後、表面安定化処理を行った。具体的には、アスコルビン酸水溶液で処理した銅紛に対し、室温で0.33重量%のベンゾトリアゾールを表面処理剤として含む水溶液(約300mL)を加え、得られた混合物を30分間攪拌した。攪拌終了後、混合物を静置し、上澄みを除去し、乾燥することにより、実施例1の銅粉を得た。
【0067】
[個数50%径(D50SEM)]
実施例1の銅粉を走査型電子顕微鏡(SEM:株式会社 日立ハイテクノロジーズ製、商品名 SU5000)を用いて、倍率15000倍におけるSEM像の一つの視野中に存在する500個の銅粒子を画像解析ソフト(株式会社 マウンテック製、商品名 Macview4.0)を用いて解析した結果、個数50%径(D50SEM)は100nmであった。
【0068】
[D/D50SEM
実施例1の銅粉をX線回折装置(株式会社 スペクトリス製、商品名 X’PertPro)を用いて、加速電圧45kV、放電電流40mAの条件で発生させたCuKα線で得られた銅結晶の(111)面の回折ピークの半値幅とシェラーの式により平均結晶子径(D)を算出した結果、65nmであった。また、D/D50SEMは0.65であった。
【0069】
[連結粒子率]
走査電子顕微鏡(株式会社 日本電子製、商品名 JSM-7800F)により銅粉のSEM像を撮影し、そのSEM像から画像解析ソフト(株式会社 マウンテック製、商品名 MacView4.0)を使用して、約40,000個の銅粒子のうち、アスペクト比が1.2以上かつ円形度が0.675以下の連結粒子であって、長径が個数50%径の3倍以上である粒子の数を数えて算出した。その結果、連結粒子率は500ppmであった。
【0070】
[粗大粒子率]
走査電子顕微鏡(株式会社 日本電子製、商品名 JSM-7800F)により金属銅粉末の写真を撮影し、その写真から画像解析ソフト(株式会社 マウンテック製、商品名 MacView4.0)を使用して、粒子約600,000個のうち、アスペクト比が1.2未満、もしくは円形度が0.675を超える球状または略球状粒子で、個数50%径の3倍以上の長径を持つ粒子の数を算出した。その結果、粗大粒子率は14ppmであった。
【0071】
[焼結開始温度]
実施例1の銅粉末1g、樟脳3重量%、およびアセトン3重量%を混合し、この混合物を内径5mm、長さ10mmの円柱状金属容器に充填し、500MPaで圧縮して試験ペレットを作製した。この試験ペレットの熱収縮挙動を、熱機械分析装置(株式会社 リガク製、商品名 TMA8310)を使用し、1.5体積%水素-窒素の還元性ガス雰囲気下、大気圧、昇温速度5℃/分の条件で測定した。試験ペレットの体積が5%収縮した温度、すなわち、焼結開始温度は680℃であった。
【0072】
[塗膜の平滑性の評価]
実施例1の銅粉末0.5gにポリカルボン酸系分散剤5重量%水溶液100mlを加え、超音波分散機(株式会社 ギンセン製、商品名 GSD600AT)を使用して出力600W、振幅幅30μmで60秒分散した。分散したスラリーを10分間静置して沈降させた後、上澄みを捨て、沈降したスラリー約100mgを5μmのアプリケータで石英板上に塗布した。石英板上の銅塗膜を電気炉(株式会社 モトヤマ製、商品名 SLT-2035D)を使用して、1.5体積%水素-窒素の還元性ガス雰囲気下、大気圧、昇温速度5℃/分の条件で昇温し、1,000℃で1時間焼成した。焼成した塗膜の表面粗さ(Sz:最大高さ;最高ピークと最深谷との間の高さ)をデジタルマイクロスコープ(株式会社 キーエンス製、商品名 VHX-1000)で測定し、塗膜の平滑性を(Sz値/銅粉の個数50%径)の値で表1のように評価した。
【0073】
【表1】
【0074】
実施例1の銅粉の(Sz値/銅粉の個数50%径)の値は1.0以上1.5未満であった。そのため、実施例1の銅粉の塗膜の平滑性は、〇(良)であった。
【0075】
(実施例2)
塩化銅の分圧を40%とした以外は、実施例1と同様の条件で製造し、実施例2の銅粉を得た。実施例2の銅粉を評価したところ、個数50%径(D50SEM)は400nm、平均結晶子径(D)は260nm、D/D50SEMは0.65、連結粒子率は500ppm、粗大粒子率は14ppm、焼結開始温度は700℃、塗膜の平滑性は、〇(良)であった。
【0076】
(実施例3)
塩化銅の分圧を20%、冷却速度を3000℃/秒とした以外は、実施例1と同様の条件で製造し、実施例3の銅粉を得た。実施例3の銅粉を評価したところ、個数50%径(D50SEM)は200nm、平均結晶子径(D)は130nm、D/D50SEMは0.65、連結粒子率は400ppm、粗大粒子率は12ppm、焼結開始温度は720℃、塗膜の平滑性は、◎(最良)であった。
【0077】
(実施例4)
塩化銅の分圧を30%、冷却速度を3000℃/秒とした以外は、実施例1と同様の条件で製造し、実施例4の銅粉を得た。実施例4の銅粉を評価したところ、個数50%径(D50SEM)は300nm、平均結晶子径(D)は195nm、D/D50SEMは0.65、連結粒子率は400ppm、粗大粒子率は12ppm、焼結開始温度は750℃、塗膜の平滑性は、◎(最良)であった。
【0078】
(実施例5)
塩化銅の分圧を20%、冷却速度を4000℃/秒とした以外は、実施例1と同様の条件で製造し、実施例5の銅粉を得た。実施例5の銅粉を評価したところ、個数50%径(D50SEM)は200nm、平均結晶子径(D)は130nm、D/D50SEMは0.65、連結粒子率は300ppm、粗大粒子率は10ppm未満、焼結開始温度は720℃、塗膜の平滑性は、◎(最良)であった。
【0079】
(実施例6)
塩化銅の分圧を30%、冷却速度を4000℃/秒とした以外は、実施例1と同様の条件で製造し、実施例6の銅粉を得た。実施例6の銅粉を評価したところ、個数50%径(D50SEM)は300nm、平均結晶子径(D)は195nm、D/D50SEMは0.65、連結粒子率は300ppm、粗大粒子率は10ppm、焼結開始温度は750℃、塗膜の平滑性は、◎(最良)であった。
【0080】
(実施例7)
塩化銅の分圧を20%、冷却速度を5000℃/秒とした以外は、実施例1と同様の条件で製造し、実施例7の銅粉を得た。実施例7の銅粉を評価したところ、個数50%径(D50SEM)は200nm、平均結晶子径(D)は130nm、D/D50SEMは0.65、連結粒子率は200ppm、粗大粒子率は8ppm、焼結開始温度は720℃、塗膜の平滑性は、◎(最良)であった。
【0081】
(実施例8)
塩化銅の分圧を30%、冷却速度を5000℃/秒とした以外は、実施例1と同様の条件で製造し、実施例8の銅粉を得た。実施例8の銅粉を評価したところ、個数50%径(D50SEM)は300nm、平均結晶子径(D)は195nm、D/D50SEMは0.65、連結粒子率は200ppm、粗大粒子率は8ppm、焼結開始温度は750℃、塗膜の平滑性は、◎(最良)であった。
【0082】
(実施例9)
冷却速度を7000℃/秒とした以外は、実施例1と同様の条件で製造し、実施例9の銅粉を得た。実施例9の銅粉を評価したところ、個数50%径(D50SEM)は100nm、平均結晶子径(D)は60nm、D/D50SEMは0.60、連結粒子率は150ppm、粗大粒子率は7ppm、焼結開始温度は680℃、塗膜の平滑性は、◎(最良)であった。
【0083】
(実施例10)
塩化銅の分圧を40%、冷却速度を7000℃/秒とした以外は、実施例1と同様の条件で製造し、実施例10の銅粉を得た。実施例10の銅粉を評価したところ、個数50%径(D50SEM)は400nm、平均結晶子径(D)は240nm、D/D50SEMは0.60、連結粒子率は150ppm、粗大粒子率は7ppm、焼結開始温度は690℃、塗膜の平滑性は、◎(最良)であった。
【0084】
(実施例11)
冷却速度を9000℃/秒とした以外は、実施例1と同様の条件で製造し、実施例11の銅粉を得た。実施例11の銅粉を評価したところ、個数50%径(D50SEM)は100nm、平均結晶子径(D)は60nm、D/D50SEMは0.60、連結粒子率は100ppm、粗大粒子率は6ppm、焼結開始温度は685℃、塗膜の平滑性は、◎(最良)であった。
【0085】
(実施例12)
塩化銅の分圧を40%、冷却速度を9000℃/秒とした以外は、実施例1と同様の条件で製造し、実施例12の銅粉を得た。実施例12の銅粉を評価したところ、個数50%径(D50SEM)は400nm、平均結晶子径(D)は240nm、D/D50SEMは0.60、連結粒子率は100ppm、粗大粒子率は6ppm、焼結開始温度は690℃、塗膜の平滑性は、◎(最良)であった。
【0086】
(比較例1)
冷却速度を1000℃/秒とした以外は、実施例1と同様の条件で製造し、比較例1の銅粉を得た。比較例1の銅粉を評価したところ、個数50%径(D50SEM)は100nm、平均結晶子径(D)は65nm、D/D50SEMは0.65、連結粒子率は2000ppm、粗大粒子率は100ppm、焼結開始温度は650℃、塗膜の平滑性は、×(不良)であった。
【0087】
(比較例2)
塩化銅の分圧を40%、冷却速度を1000℃/秒とした以外は、実施例1と同様の条件で製造し、比較例2の銅粉を得た。比較例2の銅粉を評価したところ、個数50%径(D50SEM)は400nm、平均結晶子径(D)は260nm、D/D50SEMは0.65、連結粒子率は2000ppm、粗大粒子率は100ppm、焼結開始温度は650℃、塗膜の平滑性は、×(不良)であった。
【0088】
(比較例3)
冷却速度を10000℃/秒とした以外は、実施例1と同様の条件で製造し、比較例3の銅粉を得た。比較例3の銅粉を評価したところ、個数50%径(D50SEM)は100nm、平均結晶子径(D)は45nm、D/D50SEMは0.45、連結粒子率は80ppm、粗大粒子率は5ppm、焼結開始温度は400℃、塗膜の平滑性は、◎(最良)であった。
【0089】
(比較例4)
塩化銅の分圧を40%、冷却速度を10000℃/秒とした以外は、実施例1と同様の条件で製造し、比較例4の銅粉を得た。比較例4の銅粉を評価したところ、個数50%径(D50SEM)は400nm、平均結晶子径(D)は180nm、D/D50SEMは0.45、連結粒子率は80ppm、粗大粒子率は5ppm、焼結開始温度は450℃、塗膜の平滑性は、◎(最良)であった。
【0090】
(比較例5)
塩化銅の分圧を5%とした以外は、実施例1と同様の条件で製造し、比較例5の銅粉を得た。比較例5の銅粉を評価したところ、個数50%径(D50SEM)は50nm、平均結晶子径(D)は32.5nm、D/D50SEMは0.65、連結粒子率は1500ppm、粗大粒子率は60ppm、焼結開始温度は600℃、塗膜の平滑性は、×(不良)であった。
【0091】
(比較例6)
塩化銅の分圧を45%とした以外は、実施例1と同様の条件で製造し、比較例6の銅粉を得た。比較例6の銅粉を評価したところ、個数50%径(D50SEM)は450nm、平均結晶子径(D)は292.5nm、D/D50SEMは0.65、連結粒子率は1500ppm、粗大粒子率は60ppm、焼結開始温度は680℃、塗膜の平滑性は、×(不良)であった。
【0092】
(比較例7)
塩化銅の分圧を5%、冷却速度を9000℃/秒とした以外は、実施例1と同様の条件で製造し、比較例7の銅粉を得た。比較例7の銅粉を評価したところ、個数50%径(D50SEM)は50nm、平均結晶子径(D)は25nm、D/D50SEMは0.50、連結粒子率は300ppm、粗大粒子率は24ppm、焼結開始温度は400℃、塗膜の平滑性は、×(不良)であった。
【0093】
(比較例8)
塩化銅の分圧を45%、冷却速度を9000℃/秒とした以外は、実施例1と同様の条件で製造し、比較例8の銅粉を得た。比較例8の銅粉を評価したところ、個数50%径(D50SEM)は450nm、平均結晶子径(D)は225nm、D/D50SEMは0.50、連結粒子率は300ppm、粗大粒子率は24ppm、焼結開始温度は480℃、塗膜の平滑性は、×(不良)であった。
【0094】
実施例1~実施例12および比較例1~比較例8の評価結果を表2に示す。
【0095】
【表2】
【0096】
表2からわかるように、実施例1~実施例12においては、焼結開始温度が680℃以上と高く、かつ、塗膜の平滑性が優れていることが確認された。また、その中でも、実施例3~実施例8においては、焼結開始温度が720℃以上と非常に高く、かつ、塗膜の平滑性が非常に優れていることが確認された。
【0097】
一方、比較例1および比較例2においては、焼結開始温度が650℃であり、かつ、塗膜の平滑性は不良であることが確認された。比較例3および比較例4においては、塗膜の平滑性は優れてはいるものの、焼結開始温度が450℃以下と低いことが確認された。比較例5は、塗膜の平滑性が不良であることが確認された。比較例6は、焼結開始温度が680℃と高いものの、塗膜の平滑性が不良であることが確認された。比較例7および比較例8においては、焼結開始温度が480℃以下と低く、かつ、塗膜の平滑性も不良であることが確認された。
【0098】
本発明の一実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜構成要素を組み合わせて実施することができる。また、本発明の一実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除または設計変更を行ったもの、もしくは工程の追加、省略または条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0099】
また、本発明の一実施形態によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明による銅粉は、焼結開始温度が高く、かつ、塗膜の平滑性に優れている特徴を有する。そのため、MLCCの電極に利用すれば、降温時の電極層の収縮による誘電層と電極層との剥離(デラミネーション)を抑制することができる。
図1
図2
図3