(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】建具
(51)【国際特許分類】
E05D 15/06 20060101AFI20240605BHJP
E06B 3/46 20060101ALI20240605BHJP
【FI】
E05D15/06 119
E06B3/46
(21)【出願番号】P 2020125611
(22)【出願日】2020-07-22
【審査請求日】2023-06-23
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 広浜建材株式会社 販売日 令和2年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】390005267
【氏名又は名称】YKK AP株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長 晃司
(72)【発明者】
【氏名】小林 靖幸
(72)【発明者】
【氏名】松村 心互
【審査官】河本 明彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平1-256678(JP,A)
【文献】実開平3-113080(JP,U)
【文献】特開2004-218383(JP,A)
【文献】特開平6-129179(JP,A)
【文献】登録実用新案第3106153(JP,U)
【文献】特開2002-206366(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05D 15/00 - 15/58
E06B 3/04 - 3/46
E06B 3/50 - 3/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠体及び扉体を備え、
前記扉体には支持ブラケットを介して戸車が設けられ、前記枠体の横枠にはレール部が設けられ、前記扉体の一部が前記横枠の見付け方向に沿った基準面に対向した状態で前記戸車を介して前記扉体が前記レール部に支持される建具であって、
前記支持ブラケットは、位置決めの対象となる位置決め対象縁部を前記基準面に近接させた状態で前記扉体の端面に
当接させた状態で取り付けられるものであり、
前記扉体の端面には、前記支持ブラケットによって少なくとも一部が覆われる位置に、前記位置決め対象縁部の位置決め基準となる位置決め部が設けられ
、
前記位置決め部は、前記支持ブラケットにおいて前記扉体の端面に当接する部分よりも小さい大きさの孔によって構成されていることを特徴とする建具。
【請求項2】
前記位置決め対象縁部は、直線状に延在したものであり、前記支持ブラケットは、前記位置決め対象縁部が前記扉体の前記基準面に近接した稜線に沿う状態で前記扉体の端面に取り付けられ、前記位置決め部は、前記位置決め対象縁部の両端部に対応する部分にそれぞれ個別に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の建具。
【請求項3】
前記位置決め対象縁部は、直線状に延在したものであり、前記支持ブラケットは、前記位置決め対象縁部が前記扉体の前記基準面に近接した稜線に沿う状態で前記扉体の端面に取り付けられ、前記位置決め部は、前記位置決め対象縁部に沿って延在する一連の長尺状に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の建具。
【請求項4】
前記位置決め部には、前記扉体の前記基準面に近接する稜線に沿って延在し、かつ前記稜線からの距離が互いに異なる複数の位置決め線が階段状に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の建具。
【請求項5】
前記扉体の端面には、前記支持ブラケットにおいて前記基準面から離隔する側の縁部を対象とする追加の位置決め部が設けられ、前記追加の位置決め部には、前記基準面に近接する稜線からの距離が互いに異なる複数の位置決め線が階段状に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の建具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玄関ドアや引き違い窓等のように枠体に設けられたレール部に戸車を支持させることにより扉体がスライド可能に配設された建具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
吊り下げ式の玄関ドア等のように、枠体の上枠に設けられたレール部をガイドとして扉体がスライド可能となるように配設された建具では、扉体の端面に戸車が設けられており、戸車を介して扉体がレール部に支持されている。戸車は、支持ブラケットに回転可能に支持されたものである。支持ブラケットは、挿通孔を有しており、挿通孔を介して戸車のネジ孔に取付ネジを螺合することによって扉体の上端面に取り付けられている。
【0003】
支持ブラケットの挿通孔は、扉体のスライド方向に対して直交する方向に沿った長孔状に形成されている。従って、長孔に対する取付ネジを位置を変更することで枠体に対する扉体の支持位置を調整することができる(例えば、特許文献1参照)。これにより、枠体と扉体の表面との隙間を均一に設定することができ、外部光が室内に進入する事態を防止したり、枠体に設けられたタイト材を全長にわたって確実に扉体の表面に当接させることも可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した戸車は、レール部に沿って複数並設されている場合が多い。これらの戸車は、それぞれの支持ブラケットを介して個別に扉体に取り付けられている。このため、扉体に支持ブラケットを取り付ける際には、枠体との隙間を考慮しつつ、複数の戸車が一直線上に揃うように調整する必要があり、作業がきわめて煩雑化する懸念がある。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みて、戸車の取付作業を容易に、かつ正確に実施することのできる建具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る建具は、枠体及び扉体を備え、前記扉体には支持ブラケットを介して戸車が設けられ、前記枠体の横枠にはレール部が設けられ、前記扉体の一部が前記横枠の見付け方向に沿った基準面に対向した状態で前記戸車を介して前記扉体が前記レール部に支持される建具であって、前記支持ブラケットは、位置決めの対象となる位置決め対象縁部を前記基準面に近接させた状態で前記扉体の端面に当接させた状態で取り付けられるものであり、前記扉体の端面には、前記支持ブラケットによって少なくとも一部が覆われる位置に、前記位置決め対象縁部の位置決め基準となる位置決め部が設けられ、前記位置決め部は、前記支持ブラケットにおいて前記扉体の端面に当接する部分よりも小さい大きさの孔によって構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、位置決め部を基準として支持ブラケットの位置を規定すれば、扉体に対する戸車の位置及び向きを正確に規定して取り付けることが可能となる。これにより、戸車相互間で直接位置調整したり向きを調整する作業が不要になり、また枠体との隙間調整を行う必要もなくなり、戸車の取付作業を容易化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施の形態である建具の縦断面図である。
【
図2】
図1に示した建具を室外側から見た図である。
【
図3】
図1に示した建具に適用する扉体の要部拡大縦断面図である。
【
図4】
図1に示した建具に適用する扉体の平面図である。
【
図5】
図1に示した建具の扉体に取り付けられる戸車及び支持ブラケットを示すもので、(a)は平面図、(b)は室外側から見た側面図である。
【
図6】
図1に示した建具の扉体に適用される表面材の要部展開図である。
【
図7】
図1に示した建具の扉体の要部を示す分解斜視図である。
【
図8】
図1に示した建具において扉体に設けた位置決め部と戸車及び支持ブラケットとの相対位置を示すもので、(a)は扉体の要部平面図、(b)は戸車及び支持ブラケットを省略した扉体の要部平面図である。
【
図9】本発明の変形例を示すもので、(a)は変形例1を示す扉体の要部平面図、(b)は変形例2を示す扉体の要部平面図、(c)は変形例3を示す扉体の要部平面図、(d)は変形例4を示す扉体の要部平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明に係る建具の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下の説明においては便宜上、見込み方向及び見付け方向という用語を用いる。見込み方向とは、図中の矢印Aで示すように、建具の奥行きに沿った方向である。見込み方向に沿った面については、見込み面という場合がある。見付け方向とは、後述する枠体10の上枠11や下枠12等のように水平に沿った部材の場合、見込み方向に直交した上下に沿う方向である。枠体10の縦枠13,14のように上下に沿った部材の場合には、見込み方向に直交した水平に沿う方向が見付け方向となる。見付け方向に沿った面については、見付け面という場合がある。
【0011】
図1及び
図2は、本発明の実施の形態である建具を示したものである。ここで例示する建具は、玄関に設けられるアウトセット型の片引き戸と称されるもので、枠体10及び扉体20を備えている。
【0012】
枠体10は、上枠(横枠)11、下枠12及び左右の縦枠13,14を備えて構成したもので、建物の躯体Bに設けた開口B1の周縁部に沿って配設してある。これらの枠11,12,13,14は、アルミニウム合金等の金属によって成形した押し出し形材であり、長手に沿った全長にわたる部分がほぼ一様の断面形状を有するように構成してある。枠体10のうち、下枠12及び左右の縦枠13,14については、それぞれの長手寸法が、開口B1の下縁部及び左右両側縁部とほぼ同じ寸法を有するように構成してある。これに対して上枠11の長手寸法については、開口B1の上縁部に対してほぼ2倍の長さを有するように構成してある。本実施の形態では、
図2に示すように、室外から見た場合、右側に位置する縦枠(以下、区別する場合に戸先枠13という)から左側に向けて上枠11及び下枠12が互いに平行となるようにほぼ水平に延在し、下枠12の左側端部から上枠11の中間部までの間に左側の縦枠(以下、戸尻枠14という)が設けてある。
図1からも明らかなように、本実施の形態では躯体Bの室外に臨む外壁面BWに上枠11が取り付けてあり、この上枠11に対向する位置に下枠12が設けてある。図には明示していないが、左右の縦枠13,14についても、上枠11同様、外壁面BWに取り付けてある。また、上枠11、下枠12及び戸先枠13は、見込み方向に沿った寸法が互いにほぼ同じとなるように構成してある。これに対して戸尻枠14は、扉体20が閉じた状態から左側にスライドして開くのを可能とするため、外壁面BWからの突出寸法が小さくなるように、戸先枠13よりも見込み方向に沿った寸法が小さく構成してある。
【0013】
図示の例では、上枠11が、本体上部11a、本体下部11b、上方カバー部11c、外方カバー部11dを備えて構成してある。本体上部11a及び本体下部11bは、それぞれ複数の中空部を有した略矩形状の断面を有したもので、互いに上下に連結した状態で外壁面BWに取り付けてある。上方カバー部11cは、本体上部11aの上面から室外に向けて突出するように延在したものである。外方カバー部11dは、上方カバー部11cの延在縁部から鉛直方向に沿って下方に延在するものである。この外方カバー部11dは、本体上部11a、本体下部11b及び上方カバー部11cとの間に、下方に開口する収容凹部11eを構成している。この上枠11には、本体上部11aの室外に臨む表面11a1にレール部材30が設けてあり、本体下部11bの見付け方向に沿った室外に臨む表面(以下、基準面11b1という)に上方タイト材31が設けてある。レール部材30は、見付け方向に沿って上下に延在する取付板部30aと、取付板部30aの下縁から見込み方向に沿ってほぼ水平となるように室外に延在する支持板部30bと、支持板部30bの上面から上枠11の延在方向に沿って上方に突出したレール部30cとを一体に成形したもので、取付板部30aを介して本体上部11aに取り付けてある。上方タイト材31は、本体下部11bの下縁となる部分から室外に突出するように設けたものである。図には明示していないが、これらレール部材30及び上方タイト材31は、上枠11のほぼ全長にわたる部分にそれぞれ一連となるように設けてある。
【0014】
下枠12は、下方基部12a及び上方基部12bを備えて構成してある。下方基部12aは、見込み方向に沿った寸法が上枠11の上方カバー部11cとほぼ同じとなるように構成したもので、戸先枠13及び戸尻枠14との間において上方カバー部11cに対向する部分に配設してある。上方基部12bは、見込み方向に沿った寸法が上枠11の本体上部11a及び本体下部11bとの連結体とほぼ同じとなるように構成したもので、下方基部12aの上面12a1において室内側となる部分に配設してある。この下枠12には、下方基部12aの上面12a1にガイドローラ32が設けてあり、上方基部12bにおいて室外に臨む表面12b1に下方タイト材33が設けてある。ガイドローラ32は、上下に沿った軸心を中心として回転可能となるように支持軸部材34の上端部に配設したものである。このガイドローラ32は、下方基部12aの上面12a1において戸尻枠14に対向し、かつ上方基部12bとの間に隙間を確保した位置に、支持軸部材34の下端部を介して唯一取り付けてある。下方タイト材33は、下方基部12aの上縁となる部分から室外に突出するように設けたものである。図には明示していないが、下方タイト材33は、下枠12のほぼ全長にわたる部分に一連となるように設けてある。
【0015】
扉体20は、
図1~
図3に示すように、四周枠組みした骨材21の両面にそれぞれ表面材22,23を配設することによって略矩形の厚板状に構成した、いわゆるフラッシュパネルと称されるものである。図示の例では、表面材22,23の相互間に断熱材24が充填してある。扉体20の上下に沿った寸法は、上枠11の上方タイト材31及び下枠12の下方タイト材33の相互間隔よりも大きく、室内に臨む表面(枠側表面)23cに対してこれらのタイト材31,32が同時に当接することが可能となるように設定してある。扉体20の左右に沿った寸法は、上枠11、下枠12及び左右の縦枠13,14によって構成される枠開口を覆うことができ、かつ閉じた場合にもガイドローラ32よりも左側に突出するように戸先枠13からガイドローラ32までの距離よりも大きく設定してある。
【0016】
骨材21は、例えば樹脂によって成形した押し出し形材である。図示の例では、上方の上骨材21A及び下方の下骨材21Bとして、それぞれ平板状を成す基壁部21aの両側縁部に直角方向に延在する側壁部21bを有したものを適用し、側壁部21bが下方に延在する状態で枠組みしてある。すなわち、上骨材21Aでは基壁部21aが外周側に位置する一方、下骨材21Bでは側壁部21bが外周側に位置した状態となっている。上骨材21Aにおいて側壁部21bの相互間となる部分には、補強材25が設けてある。これに対して下骨材21Bにおいて側壁部21bの相互間となる部分には、下方ガイド部材26が設けてある。下方ガイド部材26は、下方に向けて開口するガイド溝26aを有したものである。ガイド溝26aの幅は、下枠12に設けたガイドローラ32を転動可能に挿入することのできる寸法に形成してある。
【0017】
表面材22,23は、例えば鋼材によって薄板状に成形したもので、表面板部22a,23aと、表面板部22a,23aの上縁部に設けた折り曲げ部22b,23bとを有して構成してある。表面板部22a,23aは、扉体20の表面となる部分であり、矩形状に構成してある。折り曲げ部22b,23bは、表面板部22a,23aと一体に成形した横長の矩形状を成すもので、表面板部22a,23aに対してほぼ90°折り曲げた状態で上骨材21Aに取り付けてある。折り曲げ部22b,23bの見込み方向に沿った寸法は、扉体20の板厚に対して1/2よりもわずかに小さい。上骨材21Aの両側に表面材22,23を配設した場合には、それぞれの折り曲げ部22b,23bが相互に重ならない状態で上骨材21Aの上面を覆った状態となり、折り曲げ部22b,23bが扉体20の上端面20aを構成している。図には明示していないが、これらの折り曲げ部22b,23bは、骨材21及び補強材25との間がリベット等の連結具によって連結してある。なお、表面材22,23の下縁部にも折り曲げ部22d,23dが設けてある。下縁部の折り曲げ部22d,23dは、上述した下方ガイド部材26よりも内周側に位置し、かつガイド溝26aが覆い隠されることがないように、その寸法が短く設定してある。
【0018】
図1に示すように、この扉体20には、上端面20aに戸車40が設けてある。戸車40は、上枠11に設けたレール部30cを転動することにより、枠体10に対して扉体20を左右にスライドさせるためのもので、
図4及び
図5に示すように、支持ブラケット41を介して上端面20aの2カ所に取り付けてある。支持ブラケット41は、平板状を成すベース板部41aと、ベース板部41aの一側縁部から上方に延在した支持板部41bとを有し、支持板部41bに戸車40を回転可能に支持したものである。戸車40の回転軸心は、支持板部41bに対して直交する方向である。支持ブラケット41のベース板部41aは、左右に沿った寸法が扉体20の板厚に沿った方向に比べて大きな横長矩形状を成すもので、長手の両側部分にそれぞれ挿通孔41cを有している。挿通孔41cは、ベース板部41aの短手に沿って長孔状となるように構成した貫通孔である。上述の戸車40は、
図3に示すように、挿通孔41c、上骨材21Aのネジ貫通孔21Aa、補強材25のネジ貫通孔25aを介してナット部材42のネジ孔42aに取付ネジ43を螺合することによって扉体20の上端面20aに取り付けてある。図示の例では、ベース板部41aにおいて室外側に配置される縁部41a1に支持板部41bが設けてあり、支持板部41bにおいて室内に臨む側に戸車40が配設してある。
【0019】
上記のように構成した扉体20は、
図1に示すように、戸車40を上枠11のレール部30cに載置させるとともに、下方ガイド部材26のガイド溝26aに下枠12のガイドローラ32を挿入した状態で枠体10に支持され、戸車40がレール部30cを転動することにより、枠体10を開閉する状態でスライドすることになる。このとき、扉体20の室内に臨む表面23cの上縁部は、上枠11において上方タイト材31が設けられた基準面11b1に対向した状態となる。
【0020】
ここで、上述したように支持ブラケット41の挿通孔41cは、ベース板部41aの短手に沿って長孔状となるように構成したものである。従って、この建具によれば、扉体20に螺合した取付ネジ43に対して挿通孔41cの位置を適宜調整することにより、枠体10に対する扉体20の見込み方向に沿った位置を調整することが可能となる。これにより、扉体20の室内に臨む表面23cに対して上枠11の基準面11b1に設けた上方タイト材31を確実に当接させることが可能となる等の利点がある。
【0021】
但し、実際に枠体10に対する扉体20の位置を調整するには、例えば枠体10から扉体20を取り外した状態で扉体20に対する戸車40の位置調整を実施し、その後、扉体20を枠体10に支持させた状態で隙間の状態を確認する必要がある等、作業としては必ずしも容易ではない。さらに、扉体20に対して戸車40が複数設けてあるため、扉体20をスムーズにスライドさせるためには、戸車40が相互に一直線上に揃うように調整する必要もあり、上述の調整作業が一層煩雑化するおそれがある。
【0022】
そこで、この実施の形態の建具では、室内側に配置される表面材23において表面板部23aの上縁部に設けられる折り曲げ部23bに位置決め部50を形成することにより、上述の問題を解決するようにしている。すなわち、この建具では、折り曲げ部23bにおいて支持ブラケット41を取り付ける位置にそれぞれ略矩形状の貫通孔となる位置決め部50が2個ずつ設けてある。位置決め部50は、
図3、
図7、
図8に示すように、ベース板部41aにおいて室内側に配置される縁部(以下、単に位置決め対象縁部41a2という)の位置決め基準となるもので、扉体20の上端面20aに支持ブラケット41を配置した場合に位置決め対象縁部41a2の両側隅部に対応する部分に形成してある。より詳細に説明すると、ベース板部41aの位置決め対象縁部41a2が位置決め部50の矩形において室内側に位置する直線部(以下、位置決め線部51という)が位置決め対象縁部41a2の位置決め基準となるもので、上端面20aにおいて基準面11b1に近接する側の稜線20a1と平行となるように形成してある。この位置決め線部51に対してベース板部41aの位置決め対象縁部41a2を合致させた場合、つまり、2つの位置決め部50がベース板部41aによって過不足無く覆われた場合に、扉体20に対して戸車40が見込み方向において所望の位置に配置されるように位置決め部50の位置決め線部51が形成してある。これらの位置決め部50は、表面材23を所望の形状に加工する際に同時に形成することにより、折り曲げ部23bを折り曲げる位置(
図6中の2点鎖線Xで示す位置であって扉体20の稜線20a1となる部分)からの距離d、つまり表面材23の室内に臨む表面23cからの距離d、を容易に、かつ正確に規定することが可能である。
【0023】
上記のように扉体20の上端面20aに位置決め部50を設けた建具によれば、扉体20を枠体10に取り付ける以前の単体の状態において、戸車40を正確な位置に取り付けることが可能となる。すなわち、位置決め部50を基準としてベース板部41aを位置決めすれば、ベース板部41aの位置決め対象縁部41a2が扉体20の稜線20a1に沿い、かつ扉体20の表面23cから距離dの位置に正確に配置されることになる。従って、上述したような煩雑な調整作業を要することなく、単にレール部材30のレール部30cに戸車40を載置させれば、枠体10の上枠11と扉体20の相対位置が正確に配置されることになり、例えば、扉体20を閉じた場合に、上枠11に設けた上方タイト材31を全長にわたって扉体20の室内に臨む表面23cに当接させることが可能となる。また、2つの戸車40の相対位置を調整する作業も不要であり、
図4に示すように、2つの戸車40が同一の直線上に配置されることになり、枠体10に対する扉体20のスライドに支障が生じる懸念もない。
【0024】
なお、上述した実施の形態では、建具として、扉体20の上端面20aに戸車40を支持させた上吊り式の引き戸を例示しているが、扉体20の下端面に戸車40を支持させた引き戸であっても構わない。また、必ずしもアウトセット型である必要はなく、扉体を複数枚備えた引き戸であっても良い。もちろん、建具が玄関用である必要もない。さらに、扉体20として四周枠組みした骨材の両面に表面材22,23を配設したフラッシュパネルと称されるものを例示しているが、四周に框を有した扉体にも適用することは可能である。框を有した扉体の場合には、框において戸車の支持ブラケットが取り付けられる部分に位置決め部が設けられることになる。
【0025】
また、上述した実施の形態では、戸車40の支持ブラケット41としてベース板部41aが矩形状を成すものを例示しているが、ベース板部41aの形状は必ずしも矩形状である必要はない。
【0026】
さらに、上述した実施の形態では、位置決め部50として矩形状の貫通孔を例示しているが、本発明はこれらに限定されず、矩形以外の形状の貫通孔であっても良いし、凹部や溝、引掛き線等、貫通孔以外のものであっても構わない。また、ベース板部41aの両側隅部に位置決め部50を設けるようにしているが、両側隅部からずれた位置に位置決め部を設けるようにしても構わない。
図9(a)~
図9(d)は、扉体20に設ける位置決め部の変形例を示したものである。以下、これらの変形例について説明するが、実施の形態と共通となる構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0027】
図9(a)に示す変形例1の位置決め部50Aは、ベース板部41aの位置決め対象縁部41a2の全長にわたる部分に唯一設けた長孔状を成すものである。この変形例1においてもベース板部41aによって過不足無く覆われた場合に、扉体20に対して戸車40が見込み方向において所望の位置に配置されるように位置決め部50Aが形成してある。この変形例1によれば、位置決め部50Aとしては一つであるが、目安となる位置決め線部51Aの寸法が長いため、ベース板部41aを合致させる際の作業を容易に、かつ正確に実施することが可能である。なお、位置決め部50Aとしては、必ずしも長手に沿った寸法がベース板部41aの全長に一致している必要はない。
【0028】
図9(b)に示す変形例2の位置決め部50Bは、ベース板部41aの位置決め基準となる位置決め線部51Bを階段状に複数形成したものである。複数の位置決め線部51Bは、扉体20の稜線20a1に対してそれぞれ平行、かつ稜線20a1からの距離が互いに異なるように形成してある。この変形例2によれば、ベース板部41aの位置決めの際に目安が複数あるため、戸車40の位置を微調整する際の作業を容易に、かつ正確に実施することが可能となる。すなわち、この変形例2は、ベース板部41aによって位置決め部50Bをすべて覆うのではなく、位置決め部50Bの一部を覆うことによっても戸車40の位置決めが可能となるように構成したものである。なお、この変形例2では、複数の位置決め線部51Bを互いに同一の長さとなるように形成してあるが、例えば、標準位置となる位置決め線部51Bを他の位置決め線部51Bよりも長く形成しても良い。
【0029】
図9(c)に示す変形例3は、実施の形態に対して、ベース板部41aの室外側に配置される縁部41a1の両隅部に、換言すれば上枠11の基準面11b1から離隔する縁部41a1の両隅部に、それぞれ変形例2の位置決め部50Bを追加したものである。また、
図9(d)に示す変形例4は、変形例2に対して、ベース板部41aの室外側に配置される縁部41a1の両隅部にさらに変形例2の位置決め部50Bを追加したものである。これら変形例3及び変形例4では、ベース板部41aの両側縁部41a1,41a2に対してそれぞれ位置決め部50,50Bが設けられるため、位置決め作業をより容易に実施することが可能となる。
【0030】
なお、実施の形態や変形例1、変形例3、変形例4のように位置決め部50,50Bを両側に個別に設ける場合に互いに共通形状となるように形成しているが、必ずしもこれに限らない。
【0031】
以上のように、本発明に係る建具は、枠体及び扉体を備え、前記扉体には支持ブラケットを介して戸車が設けられ、前記枠体の横枠にはレール部が設けられ、前記扉体の一部が前記横枠の見付け方向に沿った基準面に対向した状態で前記戸車を介して前記扉体が前記レール部に支持される建具であって、前記支持ブラケットは、位置決めの対象となる位置決め対象縁部を前記基準面に近接させた状態で前記扉体の端面に取り付けられるものであり、前記扉体の端面には、前記支持ブラケットによって少なくとも一部が覆われる位置に、前記位置決め対象縁部の位置決め基準となる位置決め部が設けられていることを特徴としている。
この発明によれば、位置決め部を基準として支持ブラケットの位置を規定すれば、扉体に対する戸車の位置及び向きを正確に規定して取り付けることが可能となる。これにより、戸車相互間で直接位置調整したり向きを調整する作業が不要になり、また枠体との隙間調整を行う必要もなくなり、戸車の取付作業を容易化することができる。
【0032】
また本発明は、上述した建具において、前記位置決め対象縁部は、直線状に延在したものであり、前記支持ブラケットは、前記位置決め対象縁部が前記扉体の前記基準面に近接した稜線に沿う状態で前記扉体の端面に取り付けられ、前記位置決め部は、前記位置決め対象縁部の両端部に対応する部分にそれぞれ個別に設けられていることを特徴としている。
この発明によれば、支持ブラケットの位置決め対象縁部に対して位置決め部が両端部に設けられるため、寸法精度の点で有利となる。
【0033】
また本発明は、上述した建具において、前記位置決め対象縁部は、直線状に延在したものであり、前記支持ブラケットは、前記位置決め対象縁部が前記扉体の前記基準面に近接した稜線に沿う状態で前記扉体の端面に取り付けられ、前記位置決め部は、前記位置決め対象縁部に沿って延在する一連の長尺状に設けられていることを特徴としている。
この発明によれば、支持ブラケットの位置決め対象縁部に対して位置決め部が一連の長尺状に設けられるため、寸法精度の点で有利となる。
【0034】
また本発明は、上述した建具において、前記位置決め部には、前記扉体の前記基準面に近接する稜線に沿って延在し、かつ前記稜線からの距離が互いに異なる複数の位置決め線が階段状に設けられていることを特徴としている。
この発明によれば、位置決め部に対して支持ブラケットの位置を微調整する際の作業をより正確に実施することが可能となる。
【0035】
また本発明は、上述した建具において、前記扉体の端面には、前記支持ブラケットにおいて前記基準面から離隔する側の縁部を対象とする追加の位置決め部が設けられ、前記追加の位置決め部には、前記基準面に近接する稜線からの距離が互いに異なる複数の位置決め線が階段状に設けられていることを特徴としている。
この発明によれば、横枠の基準面に近接する側の縁部及び横枠の基準面から離隔する側の縁部にそれぞれ位置決め部が設けてあるため、扉体の両側から戸車の位置決め作業を行うことができる。従って、例えば扉体を枠体に吊り込んだ状態においても戸車の位置調整を行うことも可能となる等、作業性の点で有利となる。
【符号の説明】
【0036】
10 枠体、11 上枠、11b1 基準面、20 扉体、20a 上端面、20a1 稜線、21A 上骨材、21Aa ネジ貫通孔、23 表面材、23c 表面、25 補強材、25a ネジ貫通孔、30 レール部材、30c レール部、31 上方タイト材、40 戸車、41 支持ブラケット、41a ベース板部、41a2 位置決め対象縁部、41c 挿通孔、42 ナット部材、42a ネジ孔、43 取付ネジ、50,50A,50B 位置決め部、51,51A,51B 位置決め線部