(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置の回転トルク検査方法、および車輪用軸受装置の回転トルク検査装置
(51)【国際特許分類】
G01L 5/00 20060101AFI20240605BHJP
F16C 19/08 20060101ALI20240605BHJP
F16C 43/04 20060101ALI20240605BHJP
F16C 23/06 20060101ALI20240605BHJP
G01M 13/04 20190101ALI20240605BHJP
B23P 19/00 20060101ALI20240605BHJP
【FI】
G01L5/00 K
F16C19/08
F16C43/04
F16C23/06
G01M13/04
B23P19/00 303B
(21)【出願番号】P 2020138871
(22)【出願日】2020-08-19
【審査請求日】2023-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉置 峻
【審査官】松山 紗希
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-098163(JP,A)
【文献】特開2000-009562(JP,A)
【文献】特開2013-198949(JP,A)
【文献】特開2000-275122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 5/00-5/28
F16C 19/08
F16C 43/04
F16C 23/06
G01M 13/04
B23P 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、
外周に軸方向に延びる小径段部を有したハブ輪、および前記ハブ輪の小径段部に圧入された内輪からなり、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
を備えた車輪用軸受装置の回転トルク検査方法であって、
前記ハブ輪の前記小径段部に対して、前記内輪を、軸方向において前記内輪が前記ハブ輪に当接する位置まで圧入する圧入工程と、
前記圧入工程後に前記内方部材と前記外方部材とを相対的に回転させたときの前記車輪用軸受装置の圧入後回転トルクを測定する圧入後回転トルク測定工程と、
前記圧入後回転トルク測定工程において測定した前記圧入後回転トルクが、基準値の範囲内であるか否かによって、前記圧入後回転トルクの適否を判定する圧入後回転トルク判定工程と、を備え
、
前記圧入後回転トルク測定工程においては、前記内方部材と前記外方部材とを10回転/min~30回転/minの回転数で相対回転させて前記回転トルクを測定することを特徴とする車輪用軸受装置の回転トルク検査方法。
【請求項2】
前記圧入後回転トルク測定工程においては、前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間のアウター側開口端にアウター側シール部材が嵌合している請求項1に記載の車輪用軸受装置の回転トルク検査方法。
【請求項3】
前記圧入後回転トルク測定工程においては、前記圧入後回転トルクが測定される前記車輪用軸受装置の温度に応じて、測定した前記圧入後回転トルクの値を補正する請求項1
または請求項2に記載の車輪用軸受装置の回転トルク検査方法。
【請求項4】
前記ハブ輪と前記外方部材との間にはグリースが充填されており、
少なくとも前記圧入工程と前記圧入後回転トルク測定工程との間において実施され、前記内方部材と前記外方部材とを相対的に回転させることにより、前記グリースを前記転動体になじませるなじみ工程を、さらに備える請求項1~請求項
3の何れか一項に記載の車輪用軸受装置の回転トルク検査方法。
【請求項5】
内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、
外周に軸方向に延びる小径段部を有したハブ輪、および前記ハブ輪の小径段部に圧入された内輪からなり、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
を備えた車輪用軸受装置の回転トルク検査方法であって、
前記内輪が圧入された前記小径段部のインナー側端部を前記内輪に加締める加締工程と、
前記加締工程後に前記内方部材と前記外方部材とを相対的に回転させたときの前記車輪用軸受装置の加締後回転トルクを測定する加締後回転トルク測定工程と、
前記加締後回転トルク測定工程において測定した前記加締後回転トルクが、基準値の範囲内であるか否かによって、前記加締後回転トルクの適否を判定する加締後回転トルク判定工程と、を備え
、
前記加締後回転トルク測定工程においては、前記内方部材と前記外方部材とを10回転/min~30回転/minの回転数で相対回転させて前記回転トルクを測定することを特徴とする車輪用軸受装置の回転トルク検査方法。
【請求項6】
前記加締後回転トルク測定工程においては、前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間のアウター側開口端にアウター側シール部材が嵌合している請求項
5に記載の車輪用軸受装置の回転トルク検査方法。
【請求項7】
前記加締後回転トルク測定工程においては、前記加締後回転トルクが測定される前記車輪用軸受装置の温度に応じて、測定した前記加締後回転トルクの値を補正する請求項
5または請求項6に記載の車輪用軸受装置の回転トルク検査方法。
【請求項8】
前記ハブ輪と前記外方部材との間にはグリースが充填されており、
少なくとも前記加締工程と前記加締後回転トルク測定工程との間において実施され、前記内方部材と前記外方部材とを相対的に回転させることにより、前記グリースを前記転動体になじませるなじみ工程を、さらに備える請求項
5~請求項
7の何れか一項に記載の車輪用軸受装置の回転トルク検査方法。
【請求項9】
内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、
外周に軸方向に延びる小径段部を有したハブ輪、および前記ハブ輪の小径段部に圧入された内輪からなり、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
を備えた車輪用軸受装置の回転トルク検査装置であって、
前記ハブ輪の前記小径段部に対して、前記内輪を、軸方向において前記内輪が前記ハブ輪に当接する位置まで圧入する圧入工程と、
前記圧入工程後に前記内方部材と前記外方部材とを相対的に回転させたときの前記車輪用軸受装置の圧入後回転トルクを測定する圧入後回転トルク測定工程と、
前記圧入後回転トルク測定工程において測定した前記圧入後回転トルクが、基準値の範囲内であるか否かによって、前記圧入後回転トルクの適否を判定する圧入後回転トルク判定工程と、を実施可能であ
り、
前記圧入後回転トルク測定工程においては、前記内方部材と前記外方部材とを10回転/min~30回転/minの回転数で相対回転させて前記回転トルクを測定することを特徴とする車輪用軸受装置の回転トルク検査装置。
【請求項10】
内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、
外周に軸方向に延びる小径段部を有したハブ輪、および前記ハブ輪の小径段部に圧入された内輪からなり、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
を備えた車輪用軸受装置の回転トルク検査装置であって、
前記内輪が圧入された前記小径段部のインナー側端部を前記内輪に加締める加締工程と、
前記加締工程後に前記内方部材と前記外方部材とを相対的に回転させたときの前記車輪用軸受装置の加締後回転トルクを測定する加締後回転トルク測定工程と、
前記加締後回転トルク測定工程において測定した前記加締後回転トルクが、基準値の範囲内であるか否かによって、前記加締後回転トルクの適否を判定する加締後回転トルク判定工程と、を実施可能であ
り、
前記加締後回転トルク測定工程においては、前記内方部材と前記外方部材とを10回転/min~30回転/minの回転数で相対回転させて前記回転トルクを測定することを特徴とする車輪用軸受装置の回転トルク検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用軸受装置の回転トルク検査方法、および車輪用軸受装置の回転トルク検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の懸架装置において車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている。このような車輪用軸受装置においては、軸受装置を構成する転動体と軌道輪との間に予圧が付与されている。
【0003】
軸受装置に予圧を付与することにより、軸受装置の剛性を高めるとともに振動および騒音を抑制することができる。しかし、予圧を過大に付与すると回転トルクの増加や寿命の低下を招く原因となり得るため、軸受装置に適正な予圧が付与されているかどうかを確認することが好ましい。特に、近年では、軸受装置が取り付けられる自動車等において低燃費化が進んでいることから、軸受装置の予圧に関連する回転トルクを管理する要求が高まっている。
【0004】
軸受装置に付与されている予圧を確認する方法としては、例えば特許文献1に開示されるように、複列に転動体が設けられた転がり軸受において、軸方向における予圧隙間を測定することによって、当該軸受に付与された予圧を測定する予圧測定方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示される予圧測定方法においては軸受に付与された予圧を測定することが可能であるが、軸受の完成品状態において予圧の適否を判定するため、軸受の製造工程の途中で軸受の組み立て等に異常が発生した場合、どの部品またはどの工程に起因して異常が生じたのかの検証が困難である。また、完成品状態の軸受に異常が見つかった場合、異常が生じている部品以外も廃棄する必要があり無駄があった。
【0007】
そこで、本発明においては、車輪用軸受装置の製造途中で生じた部品または工程の異常を容易に検出することができ、廃棄される部品を減少することが可能な車輪用軸受装置の回転トルク検査方法、および車輪用軸受装置の回転トルク検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、車輪用軸受装置の回転トルク検査方法は、内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、外周に軸方向に延びる小径段部を有したハブ輪、および前記ハブ輪の小径段部に圧入された内輪からなり、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、を備えた車輪用軸受装置の回転トルク検査方法であって、前記ハブ輪の前記小径段部に対して、前記内輪を、軸方向において前記内輪が前記ハブ輪に当接する位置まで圧入する圧入工程と、前記圧入工程後に前記内方部材と前記外方部材とを相対的に回転させたときの前記車輪用軸受装置の圧入後回転トルクを測定する圧入後回転トルク測定工程と、圧入後回転トルク測定工程において測定した前記圧入後回転トルクが、基準値の範囲内であるか否かによって、前記圧入後回転トルクの適否を判定する圧入後回転トルク判定工程と、を備える。
【0009】
また、車輪用軸受装置の回転トルク検査方法は、内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、外周に軸方向に延びる小径段部を有したハブ輪、および前記ハブ輪の小径段部に圧入された内輪からなり、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、を備えた車輪用軸受装置の回転トルク検査方法であって、前記内輪が圧入された前記小径段部のインナー側端部を前記内輪に加締める加締工程と、前記加締工程後に前記内方部材と前記外方部材とを相対的に回転させたときの前記車輪用軸受装置の加締後回転トルクを測定する加締後回転トルク測定工程と、前記加締後回転トルク測定工程において測定した前記加締後回転トルクが、基準値の範囲内であるか否かによって、前記加締後回転トルクの適否を判定する加締後回転トルク判定工程と、を備える。
【0010】
また、車輪用軸受装置の回転トルク検査装置は、内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、外周に軸方向に延びる小径段部を有したハブ輪、および前記ハブ輪の小径段部に圧入された内輪からなり、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、を備えた車輪用軸受装置の回転トルク検査装置であって、前記ハブ輪の前記小径段部に対して、前記内輪を、軸方向において前記内輪が前記ハブ輪に当接する位置まで圧入する圧入工程と、前記圧入工程後に前記内方部材と前記外方部材とを相対的に回転させたときの前記車輪用軸受装置の圧入後回転トルクを測定する圧入後回転トルク測定工程と、前記圧入後回転トルク測定工程において測定した前記圧入後回転トルクが、基準値の範囲内であるか否かによって、前記圧入後回転トルクの適否を判定する圧入後回転トルク判定工程と、を実施可能である。
【0011】
また、車輪用軸受装置の回転トルク検査装置は、内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、外周に軸方向に延びる小径段部を有したハブ輪、および前記ハブ輪の小径段部に圧入された内輪からなり、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、を備えた車輪用軸受装置の回転トルク検査装置であって、前記内輪が圧入された前記小径段部のインナー側端部を前記内輪に加締める加締工程と、前記加締工程後に前記内方部材と前記外方部材とを相対的に回転させたときの前記車輪用軸受装置の加締後回転トルクを測定する加締後回転トルク測定工程と、前記加締後回転トルク測定工程において測定した前記加締後回転トルクが、基準値の範囲内であるか否かによって、前記加締後回転トルクの適否を判定する加締後回転トルク判定工程と、を実施可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0013】
即ち、本発明によれば、車輪用軸受装置の製造途中で生じた部品または工程の異常を容易に検出することができ、廃棄される部品を減少することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】回転トルク検査方法が実施される車輪用軸受装置の第一実施形態を示す側面断面図である。
【
図2】第一実施形態に係る回転トルク検査方法のフローを示す図である。
【
図3】内輪がハブ輪の小径段部に仮圧入された状態の第一実施形態に係る車輪用軸受装置を示す側面断面図である。
【
図4】内輪がハブ輪の小径段部に圧入された状態の第一実施形態に係る車輪用軸受装置を示す側面断面図である。
【
図5】ハブ輪と外輪とを相対的に回転させたときの時間とトルクとの関係を示す図である。
【
図6】ハブ輪と外輪とを相対的に回転させたときの回転数とトルクとの関係を示す図である。
【
図7】ハブ輪の小径段部を内輪に加締めた状態の第一実施形態に係る車輪用軸受装置を示す側面断面図である。
【
図8】外輪のインナー側端部にインナー側シール部材を装着した状態の第一実施形態に係る車輪用軸受装置を示す側面断面図である。
【
図9】回転トルク検査方法が実施される車輪用軸受装置の第二実施形態を示す側面断面図である。
【
図10】第二実施形態に係る回転トルク検査方法のフローを示す図である。
【
図11】内輪がハブ輪の小径段部に仮圧入された状態の第二実施形態に係る車輪用軸受装置を示す側面断面図である。
【
図12】内輪がハブ輪の小径段部に圧入された状態の第二実施形態に係る車輪用軸受装置を示す側面断面図である。
【
図13】外輪のインナー側端部にインナー側シール部材を装着した状態の第二実施形態に係る車輪用軸受装置を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[車輪用軸受装置の第一実施形態]
以下に、
図1を用いて、本発明に係る回転トルク検査方法が実施される車輪用軸受装置の第一実施形態である車輪用軸受装置1について説明する。
【0016】
図1に示す車輪用軸受装置1は、自動車等の車両の懸架装置において従動輪を回転自在に支持するものである。車輪用軸受装置1は第3世代と称呼される構成を備えており、外方部材である外輪2と、内方部材であるハブ輪3および内輪4と、転動列である二列のインナー側ボール列5およびアウター側ボール列6と、インナー側シール部材9およびアウター側シール部材10とを具備する。ここで、インナー側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、アウター側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。また、軸方向とは、車輪用軸受装置1の回転軸に沿った方向を表す。
【0017】
外輪2のインナー側端部には、インナー側シール部材9が嵌合可能なインナー側開口部2aが形成されている。外輪2のアウター側端部には、アウター側シール部材10が嵌合可能なアウター側開口部2bが形成されている。外輪2の内周面には、インナー側の外側軌道面2cと、アウター側の外側軌道面2dとが形成されている。外輪2の外周面には、外輪2を車体側部材に取り付けるための車体取り付けフランジ2eが一体的に形成されている。車体取り付けフランジ2eには、車体側部材と外輪2とを締結する締結部材(ここでは、ボルト)が挿入されるボルト孔2gが設けられている。
【0018】
ハブ輪3のインナー側端部には、外周面にアウター側端部よりも縮径された小径段部3aが形成されている。小径段部3aは軸方向に延びており、ハブ輪3における小径段部3aのアウター側端部には肩部3eが形成されている。ハブ輪3のアウター側端部には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ3bが一体的に形成されている。車輪取り付けフランジ3bには、ハブ輪3と車輪又はブレーキ部品とを締結するためのハブボルトが圧入されるボルト孔3fが設けられている。
【0019】
ハブ輪3には、外輪2のアウター側の外側軌道面2dに対向するようにアウター側の内側軌道面3cが設けられている。ハブ輪3における車輪取り付けフランジ3bの基部側には、アウター側シール部材10が摺接するリップ摺動面3dが形成されている。アウター側シール部材10は、外輪2とハブ輪3とによって形成された環状空間のアウター側開口端に嵌合している。ハブ輪3は、車輪取りつけフランジ3bよりもアウター側の端部にアウター側端面3gを有している。
【0020】
ハブ輪3の小径段部3aには、内輪4が設けられている。内輪4は、圧入および加締加工によりハブ輪3の小径段部3aに固定されている。内輪4は、転動列であるインナー側ボール列5およびアウター側ボール列6に予圧を付与している。内輪4は、インナー側端部にインナー側端面4bを有しており、アウター側端部にアウター側端面4cを有している。ハブ輪3のインナー側端部には、内輪4のインナー側端面4bに加締められた加締部3hが形成されている。
【0021】
ハブ輪3のインナー側において、内輪4の外周面には内側軌道面4aが形成されている。内側軌道面4aは、外輪2のインナー側の外側軌道面2cに対向している。
【0022】
転動列であるインナー側ボール列5とアウター側ボール列6とは、転動体である複数のボール7が保持器8によって保持されることにより構成されている。インナー側ボール列5は、内輪4の内側軌道面4aと、外輪2のインナー側の外側軌道面2cとの間に転動自在に挟まれている。アウター側ボール列6は、ハブ輪3の内側軌道面3cと、外輪2のアウター側の外側軌道面2dとの間に転動自在に挟まれている。
【0023】
車輪用軸受装置1においては、外輪2と、ハブ輪3および内輪4と、インナー側ボール列5と、アウター側ボール列6とによって複列アンギュラ玉軸受が構成されている。なお、車輪用軸受装置1は複列円錐ころ軸受によって構成されていてもよい。
【0024】
[回転トルク検査方法の第一実施形態]
次に、本発明に係る回転トルク検査方法の第一実施形態である車輪用軸受装置1の回転トルク検査方法について説明する。
図2に示すように、本実施形態における回転トルク検査方法は、主に車輪用軸受装置1の組立を行う途中において実施される。具体的には、回転トルク検査方法は、仮圧入工程(S01)、圧入工程(S02)、なじみ工程(S03)、圧入後回転トルク測定工程(S04)、圧入後回転トルク判定工程(S05)、加締工程(S06)、加締後回転トルク測定工程(S07)、加締後回転トルク判定工程(S08)、インナー側シール部材装着工程(S09)、シール部材装着後回転トルク測定工程(S10)、およびシール部材装着後回転トルク判定工程(S11)を備えている。回転トルク検査方法の各工程について、以下に説明する。
【0025】
(仮圧入工程)
図3に示すように、ハブ輪3は、軸方向が垂直方向となり、アウター側端面3gが下方に位置する姿勢で、支持台11に載置されている。支持台11にはハブ輪3のアウター側端面3gが接地している。支持台11に載置されたハブ輪3には、外輪2がインナー側ボール列5およびアウター側ボール列6を介して回転可能に装着されている。外輪2のアウター側端部には、アウター側シール部材10が嵌合されている。ハブ輪3と外輪2との間にはグリースが充填されている。
【0026】
仮圧入工程(S01)においては、まず支持台11に載置されたハブ輪3の小径段部3aに、内輪4を仮圧入する。内輪4の仮圧入は、内輪4を上方から小径段部3aに圧入し、内輪4のアウター側端面4cがハブ輪3の肩部3eに当接する手前で圧入を停止することにより行われる。ここで、内輪4の圧入作業は、例えば、油圧シリンダ又はエアシリンダ等の押込装置13を用いて所定の圧力を作用させた状態で行われる。つまり、押込装置13は、内輪4を小径段部3aに圧入可能に構成されており、押込装置13を用いて仮圧入工程(S01)を実施することが可能である。内輪4の仮圧入が完了した時点では、内輪4のアウター側端面4cとハブ輪3の肩部3eとの間には軸方向正隙間Gaが存在している。
【0027】
(圧入工程)
仮圧入工程(S01)の後に圧入工程(S02)を実施する。
図4に示すように、圧入工程(S02)においては、内輪4のアウター側端面4cがハブ輪3の肩部3eに当接する位置まで、内輪4を小径段部3aに圧入する。ここで、内輪4の圧入作業は、例えば、油圧シリンダ又はエアシリンダ等の押込装置13を用いて所定の圧力を作用させた状態で行われる。つまり、圧入工程(S02)は、押込装置13を用いて実施することが可能である。圧入工程(S02)において内輪4を小径段部3aに圧入した後は、インナー側ボール列5とインナー側外輪軌道面2c、内輪軌道面4aとの間、及びアウター側ボール列6とアウター側外輪軌道面2d、ハブ輪軌道面3cとの間には軸方向負隙間が生じている。
【0028】
(なじみ工程)
圧入工程(S02)の後になじみ工程(S03)を実施する。なじみ工程(S03)においては、内輪4が圧入されたハブ輪3と、外輪2とを相対的に回転させることにより、ハブ輪3と外輪2との間に充填されているグリースをインナー側ボール列5およびアウター側ボール列6のボール7になじませる。なじみ工程(S03)においては、外輪2を固定しておいて、ハブ輪3を回転させてもよいし、ハブ輪3を固定しておいて外輪2を回転させてもよい。なじみ工程(S03)においては、例えば、モータ等の駆動源14によって支持台11を回転駆動することで、ハブ輪3と外輪2とを相対的に回転させることができる。つまり、駆動源14は、ハブ輪3と外輪2とを相対的に回転させることが可能であり、駆動源14を用いてなじみ工程(S03)を実施することが可能である。
【0029】
なじみ工程(S03)を実施することで、ハブ輪3と外輪2とを相対的に回転させたときに、グリースとボール7との間に生じる抵抗を一定にすることができる。これにより、後に実施される圧入後回転トルク測定工程(S04)、加締後回転トルク測定工程(S07)、およびシール部材装着後回転トルク測定工程(S10)において車輪用軸受装置1の回転トルクを測定したときに、測定した回転トルクにばらつきが生じることを抑制することが可能となる。
【0030】
グリースとボール7との間に生じる抵抗を一定にする観点からは、ハブ輪3と外輪2とを相対的に30回転以上回転させることが好ましい。ハブ輪3と外輪2とを相対的に30回転以上回転させることで、測定した回転トルクにばらつきが生じることを効果的に抑制することができる。
【0031】
(圧入後回転トルク測定工程)
なじみ工程(S03)の後に圧入後回転トルク測定工程(S04)を実施する。圧入後回転トルク測定工程(S04)においては、小径段部3aに内輪4が圧入されたハブ輪3と、外輪2とを相対的に回転させたときの回転トルクT1を、トルク測定器12により測定する。圧入後回転トルク測定工程(S04)においては、例えば駆動源14によってハブ輪3と外輪2とを相対的に回転させることができ、駆動源14およびトルク測定器12を用いて圧入後回転トルク測定工程(S04)を実施することが可能である。回転トルクT1は、圧入後回転トルクの一例であり、圧入工程(S02)の後、かつ加締工程(S06)の前において測定された回転トルクである。圧入後回転トルク測定工程(S04)においては、外輪2を固定しておいてハブ輪3を回転させてもよいし、ハブ輪3を固定しておいて外輪2を回転させてもよい。
【0032】
ハブ輪3を回転させた場合は、外輪2を回転させた場合よりもインナー側ボール列5およびアウター側ボール列6におけるボール7の公転速度が遅くなり、ハブ輪3の回転速度が変化したときに測定される回転トルク値のばらつきが小さくなるため、回転トルク測定工程では、ハブ輪3を回転させるほうが好ましい。なお、ハブ輪3を回転させる場合には、ハブ輪3が載置されている支持台11を回転させることにより、ハブ輪3を回転させることができる。
【0033】
また、圧入後回転トルク測定工程(S04)においては、軸受の起動トルクではなく、回転トルクを測定している。
図5に示すように、起動トルクは軸受の回転を開始したときの初動トルクのピーク値であるが、時間の経過に伴って低下していき、経時的な変化が大きい。よって、繰り返し再現性に乏しい。これに対し、回転トルクは軸受が回転を開始した後のトルクであり、経時的な変化が殆どなく一定の値を示す。従って、圧入後回転トルク測定工程(S04)においては、回転トルクT1を測定することにより、軸受のトルク値を高精度に測定することが可能となっている。
【0034】
図6に示すように、ハブ輪3と外輪2とを相対的に回転させたときの軸受の回転トルクは、ハブ輪3または外輪2の回転数が一定値以上の範囲においては回転数が増えるに従って増加していくが、ハブ輪3または外輪2の回転数が極小さいときには回転数が上昇するにつれて減少し、その後に増加に転じている。つまり、軸受の回転トルクは、回転数の上昇に伴って減少から増加に転じる領域があり、その領域においては、回転数の変化に対する回転トルクの変動度合いが小さくなっている。
【0035】
圧入後回転トルク測定工程(S04)においては、ハブ輪3または外輪2は、測定される回転トルクにばらつきが生じないように一定回転数で回転させている。また、ハブ輪3または外輪2の回転数は、回転トルクが減少から増加に転じる領域における回転数N1~N2の範囲に設定している。これにより、回転トルクT1の測定中に仮に回転数が変化したとしても、回転トルクの変動を小さくすることが可能である。
【0036】
圧入後回転トルク測定工程(S04)においては、内方部材3、4と外方部材2との間に動摩擦力が発生している状態で回転トルクを測定している。具体的には、内方部材3、4と転動体7との間、ハブ輪3とアウター側シール部材10との間、および外輪2と転動体7、アウター側シール部材10との間に動摩擦力が発生している状態で、回転トルクの測定を行っている。一般的に、動摩擦係数は、静摩擦係数と比較して小さく、かつ、ばらつきが小さいので、回転トルクを高精度に測定することができる。
【0037】
本実施形態では、回転数の範囲の下限値となる回転数N1は、動摩擦力が生じている状態で回転トルクの測定が可能となる10回転/minに設定される。回転数の範囲の上限値となる回転数N2は、ハブ輪3と外輪2との間に充填されるグリースの撹拌抵抗が極力小さくなる回転数である30回転/minに設定される。これにより、回転トルクT1の測定中に仮に回転数が変化したとしても、回転トルクT1の変動を小さくすることができ、回転トルクを安定して測定することが可能である。
【0038】
圧入後回転トルク測定工程(S04)においては、ハブ輪3または外輪2を、回転数の変化に対する回転トルクの変動度合いが小さくなる、小さな回転数N1~N2の範囲にて回転させることで、仮にハブ輪3または外輪2の回転数が変化した場合でも、回転トルクの変動を最小限に抑えることができ、回転トルクを高精度で測定することが可能となっている。
【0039】
また、圧入後回転トルク測定工程(S04)においては、外輪2とハブ輪3とによって形成された環状空間のアウター側開口端にアウター側シール部材10が嵌合された状態で、車輪用軸受装置1の回転トルクT1が測定されている。ここで、アウター側シール部材10は、内輪4の固定のために加締められるハブ輪3の小径段部3aとは軸方向反対側に位置しているため、次に述べる加締工程(S06)において、仮に内輪軌道面4a等に異常が生じても、アウター側シール部材10のシールトルクに影響が生じ難く、車輪用軸受装置1の回転トルクにも変化が生じ難い。
【0040】
(圧入後回転トルク判定工程)
圧入後回転トルク測定工程(S04)の後に圧入後回転トルク判定工程(S05)を実施する。圧入後回転トルク判定工程(S05)においては、圧入後回転トルク測定工程(S04)において測定した回転トルクT1が、基準値S1の範囲内であるか否かによって、回転トルクT1の適否を判定する。基準値S1は、圧入後回転トルクの適否を判定する際に用いる基準値の一例である。圧入後回転トルク判定工程(S05)においては、例えば、トルク測定器12に接続された判定装置15によって回転トルクT1の適否を判定することができる。つまり、判定装置15は、回転トルクT1の適否を判定可能であり、判定装置15を用いて圧入後回転トルク判定工程(S05)を実施することができる。圧入後回転トルク判定工程(S05)においては、回転トルクT1が基準値S1の範囲内であれば、回転トルクT1は適正であると判定し、回転トルクT1が基準値S1の範囲を超えていれば、回転トルクT1は適正でないと判定する。基準値S1は、所定の範囲における下限値と上限値とを有しており、予め設定しておくことができる。
【0041】
このように、圧入工程(S02)の後、かつ加締工程(S06)の前に実施される圧入後回転トルク測定工程(S04)において測定された回転トルクT1を用いて、車輪用軸受装置1の回転トルクの適否を判定することにより、車輪用軸受装置1の製造工程の途中において、アウター側シール部材10等の部品および圧入工程(S02)等の工程に異常が生じたか否かを検知すること可能となる。これにより、車輪用軸受装置1が完成状態となった後に回転トルクの適否を判定した場合に比べて、どの部品またはどの工程において異常が発生したかを容易に検出することができ、廃棄される部品を減少することが可能となる。
【0042】
また、ハブ輪3と外輪2とを相対的に回転させたときの軸受の回転トルクは、アウター側シール部材10の寸法、硬度、および外輪2とハブ輪3とに対する嵌合状態、グリースの粘度および塗布量、ならびに回転トルクが測定される車輪用軸受装置1の温度等の諸条件のばらつきによって変化する。従って、基準値S1は、これらの諸条件のばらつきを考慮して設定することができる。
【0043】
特に、車輪用軸受装置1の温度が変化した場合に、回転トルクの測定値の変動が大きいため、測定した回転トルクT1の値を車輪用軸受装置1の温度に応じて補正した上で、回転トルクT1の適否を判定することができる。このように、回転トルクT1が測定される車輪用軸受装置1の温度に応じて、測定した回転トルクT1の値を補正することで、回転トルクT1の適否の判定を高精度に行うことが可能となる。
【0044】
(加締工程)
圧入後回転トルク判定工程(S05)の後に加締工程(S06)を実施する。加締工程(S06)においては、
図7に示すように、ハブ輪3における小径段部3aのインナー側端部を内輪4のインナー側端面4bに加締める加締加工を行う。加締加工は、例えば加締め型16等の加締め具を用いた揺動加締め加工により行うことができる。つまり、加締め型16は、駆動源14によってハブ輪3を回転させた状態で小径段部3aのインナー側端部を内輪4に加締めることが可能であり、加締め型16および駆動源14を用いて加締工程(S06)を実施することができる。加締工程(S06)を実施することにより、ハブ輪3のインナー側端部に加締部3hが形成される。加締工程(S06)後は、内輪4とハブ輪3との間には軸方向負隙間が生じている。
【0045】
(加締後回転トルク測定工程)
加締工程(S06)の後に加締後回転トルク測定工程(S07)を実施する。加締後回転トルク測定工程(S07)においては、圧入後回転トルク測定工程(S04)と同様に、内方部材3、4と外方部材2との間に動摩擦力が発生している状態で回転トルクを測定している。加締後回転トルク測定工程(S07)においては、小径段部3aが内輪4に加締められたハブ輪3と外輪2とを駆動源14によって相対的に回転させたときの回転トルクT2を、トルク測定器12により測定する。このように、駆動源14およびトルク測定器12を用いて加締後回転トルク測定工程(S07)を実施することが可能である。回転トルクT2は、加締後回転トルクの一例であり、加締工程(S06)の後、かつインナー側シール部材装着工程(S09)の前において測定された回転トルクである。加締後回転トルク測定工程(S07)においては、外輪2を固定しておいてハブ輪3を回転させてもよいし、ハブ輪3を固定しておいて外輪2を回転させてもよい。
【0046】
但し、圧入後回転トルク測定工程(S04)の場合と同様に、ハブ輪3を回転させた方が、ハブ輪3の回転速度が変化したときに測定される回転トルク値のばらつきが小さくなるため好ましい。また、加締後回転トルク測定工程(S07)においても、圧入後回転トルク測定工程(S04)の場合と同様に、軸受の起動トルクではなく回転トルクを測定し、ハブ輪3または外輪2を低速の回転数N1~N2において一定回転数で回転させながら回転トルクT2を測定することで、回転トルクを高精度で測定することが可能となっている。
【0047】
この場合、回転数N1および回転数N2は、圧入後回転トルク測定工程(S04)の場合と同様に、回転数N1を10回転/minに設定し、回転数N2を30回転/minに設定することができる。これにより、回転トルクT2の測定中に仮に回転数が変化したとしても、回転トルクT2の変動を小さくすることができ、回転トルクを安定して測定することが可能である。
【0048】
また、加締後回転トルク測定工程(S07)においても、外輪2とハブ輪3とによって形成された環状空間のアウター側開口端にアウター側シール部材10が嵌合された状態で、車輪用軸受装置1の回転トルクT2が測定されている。しかし、アウター側シール部材10は、内輪4の固定のために加締められるハブ輪3の小径段部3aとは軸方向反対側に位置しているため、加締後回転トルク測定工程(S07)の前に実施される加締工程(S06)において、仮に内輪軌道面4a等に異常が生じても、アウター側シール部材10のシールトルクに影響が生じ難く、車輪用軸受装置1の回転トルクにも変化が生じ難い。
【0049】
また、加締工程(S06)と加締後回転トルク測定工程(S07)との間には、なじみ工程(S03)と同様の工程、つまりハブ輪3と外輪2との間に充填されているグリースをインナー側ボール列5およびアウター側ボール列6のボール7になじませるなじみ工程を実施することができる。このなじみ工程は、なじみ工程(S03)の場合と同様に、駆動源14を用いて実施することが可能である。これにより、ハブ輪3と外輪2とを相対的に回転させたときのグリースとボール7との間に生じる抵抗を一定にすることができ、加締後回転トルク測定工程(S07)において車輪用軸受装置1の回転トルクT2を測定したときに、測定した回転トルクT2にばらつきが生じることをより抑制することが可能となる。
【0050】
ただし、なじみ工程(S03)を実施することにより、グリースとボール7とが十分になじんでいて、グリースとボール7との間に生じる抵抗が一定になっている場合は、加締工程(S06)と加締後回転トルク測定工程(S07)との間のなじみ工程を省略することができる。
【0051】
(加締後回転トルク判定工程)
加締後回転トルク測定工程(S07)の後に加締後回転トルク判定工程(S08)を実施する。加締後回転トルク判定工程(S08)においては、加締後回転トルク測定工程(S07)において測定した回転トルクT2が、基準値S2の範囲内であるか否かによって、回転トルクT2の適否を判定する。基準値S2は、加締後回転トルクの適否を判定する際に用いる基準値の一例である。加締後回転トルク判定工程(S08)は、圧入後回転トルク判定工程(S05)の場合と同様に、判定装置15を用いて実施することができる。加締後回転トルク判定工程(S08)においては、回転トルクT2が基準値S2の範囲内であれば、回転トルクT2は適正であると判定し、回転トルクT2が基準値S2の範囲を超えていれば、回転トルクT2は適正でないと判定する。基準値S2は、所定の範囲における下限値と上限値とを有しており、予め設定しておくことができる。基準値S2は、基準値S1と同じ値に設定することができ、基準値S1と異なる値に設定することもできる。
【0052】
このように、加締工程(S06)の後に実施される加締後回転トルク測定工程(S07)において測定された回転トルクT2を用いて、車輪用軸受装置1の回転トルクの適否を判定することにより、車輪用軸受装置1の製造工程の途中において、アウター側シール部材10等の部品および加締工程(S06)等の工程に異常が生じたか否かを検知すること可能となる。これにより、車輪用軸受装置1が完成状態となった後に回転トルクの適否を判定した場合に比べて、車輪用軸受装置の製造途中で生じた部品または工程の異常を容易に検出することができ、廃棄される部品を減少することが可能となる。
【0053】
また、ハブ輪3と外輪2とを相対的に回転させたときの軸受の回転トルクは、アウター側シール部材10の寸法、硬度、および外輪2とハブ輪3とに対する嵌合状態、グリースの粘度および塗布量、ならびに回転トルクが測定される車輪用軸受装置1の温度等の諸条件のばらつきによって変化する。従って、基準値S2は、これらの諸条件のばらつきを考慮して設定することができる。
【0054】
特に、車輪用軸受装置1の温度が変化した場合に、回転トルクの測定値の変動が大きいため、測定した回転トルクT2の値を車輪用軸受装置1の温度に応じて補正した上で、回転トルクT2の適否を判定することができる。例えば、加締工程(S06)においてハブ輪3の小径段部3aを内輪4のインナー側端面4bに加締めた場合には、内輪4の温度が上昇して車輪用軸受装置1の回転トルクが高くなるため、測定した回転トルクT2の値を、温度上昇分に対応する回転トルク値だけ補正することができる。このように、回転トルクT2が測定される車輪用軸受装置1の温度に応じて、測定した回転トルクT2の値を補正することで、回転トルクT2の適否の判定を高精度に行うことが可能となる。
【0055】
(インナー側シール部材装着工程)
加締後回転トルク判定工程(S08)の後にインナー側シール部材装着工程(S09)を実施する。
図8に示すように、インナー側シール部材装着工程(S09)においては、外輪2のインナー側開口部2aにインナー側シール部材9を嵌合することにより、外輪2のインナー側端部と内輪4のインナー側端部との間にインナー側シール部材9を装着する。この場合、例えばインナー側シール部材9は、シール部材の装着具(不図示)を用いてインナー側開口部2aに装着することができる。つまり、インナー側シール部材装着工程(S09)は、シール部材の装着具を用いて実施することができる。
【0056】
インナー側シール部材9を加締工程(S06)の前に装着すると、加締工程(S06)におけるハブ輪3の加締め度合等によってインナー側シール部材9の外輪2および内輪4との間の摺動抵抗が変化する。また、加締工程(S06)の後であっても加締後回転トルク測定工程(S07)の前にインナー側シール部材9を装着すると、インナー側シール部材9の装着状態によってインナー側シール部材9の外輪2および内輪4との間の摺動抵抗が変化する。
【0057】
従って、インナー側シール部材9を加締工程(S06)または加締後回転トルク測定工程(S07)の前に装着すると、加締後回転トルク測定工程(S07)において測定される回転トルクT2のばらつきに影響を及ぼすおそれがある。同様に、圧入後回転トルク測定工程(S04)の前にインナー側シール部材9を装着した場合は、インナー側シール部材9の装着状態によって、圧入後回転トルク測定工程(S04)において測定される回転トルクT1のばらつきに影響を及ぼすおそれがある。
【0058】
しかし、本実施形態においては、加締後回転トルク測定工程(S07)の後にインナー側シール部材装着工程(S09)を実施するようにしているので、圧入後回転トルク測定工程(S04)および加締後回転トルク測定工程(S07)において車輪用軸受装置1の回転トルクT1および回転トルクT2を測定する際に、インナー側シール部材9の影響による回転トルクのばらつきが生じることがなく、車輪用軸受装置1の回転トルクを高精度に測定することが可能となっている。
【0059】
(シール部材装着後回転トルク測定工程)
インナー側シール部材装着工程(S09)の後にシール部材装着後回転トルク測定工程(S10)を実施する。シール部材装着後回転トルク測定工程(S10)においては、圧入後回転トルク測定工程(S04)および加締後回転トルク測定工程(S07)の場合と同様に、内方部材3、4と外方部材2との間に動摩擦力が発生している状態で回転トルクの測定を行う。シール部材装着後回転トルク測定工程(S10)においては、小径段部3aが内輪4に加締められたハブ輪3と外輪2とを駆動源14によって相対的に回転させたときの回転トルクT3を、トルク測定器12により測定する。このように、駆動源14およびトルク測定器12を用いてシール部材装着後回転トルク測定工程(S10)を実施することが可能である。回転トルクT3は、インナー側シール部材装着工程(S09)の後において測定されたシール部材装着後回転トルクである。シール部材装着後回転トルク測定工程(S10)においては、外輪2を固定しておいてハブ輪3を回転させてもよいし、ハブ輪3を固定しておいて外輪2を回転させてもよい。
【0060】
但し、圧入後回転トルク測定工程(S04)および加締後回転トルク測定工程(S07)の場合と同様に、ハブ輪3を回転させた方が、ハブ輪3の回転速度が変化したときに測定される回転トルク値のばらつきが小さくなるため好ましい。また、シール部材装着後回転トルク測定工程(S10)においても、圧入後回転トルク測定工程(S04)および加締後回転トルク測定工程(S07)の場合と同様に、軸受の起動トルクではなく回転トルクを測定し、ハブ輪3または外輪2を低速の回転数N1~N2において一定回転数で回転させながら回転トルクT3を測定することで、回転トルクを高精度で測定することが可能となる。
【0061】
また、インナー側シール部材装着工程(S09)とシール部材装着後回転トルク測定工程(S10)との間には、なじみ工程(S03)と同様の工程、つまりハブ輪3と外輪2との間に充填されているグリースをインナー側ボール列5およびアウター側ボール列6のボール7になじませるなじみ工程を実施することができる。このなじみ工程は、なじみ工程(S03)の場合と同様に、駆動源14を用いて実施することが可能である。これにより、ハブ輪3と外輪2とを相対的に回転させたときのグリースとボール7との間に生じる抵抗を一定にすることができ、シール部材装着後回転トルク測定工程(S10)において車輪用軸受装置1の回転トルクT3を測定したときに、測定した回転トルクT3にばらつきが生じることをより抑制することが可能となる。
【0062】
ただし、なじみ工程(S03)を実施することにより、グリースとボール7とが十分になじんでいて、グリースとボール7との間に生じる抵抗が一定になっている場合は、インナー側シール部材装着工程(S09)とシール部材装着後回転トルク測定工程(S10)との間のなじみ工程を省略することができる。
【0063】
(シール部材装着後回転トルク判定工程)
シール部材装着後回転トルク測定工程(S10)の後にはシール部材装着後回転トルク判定工程(S11)を実施する。シール部材装着後回転トルク判定工程(S11)においては、シール部材装着後回転トルク測定工程(S10)において測定した回転トルクT3が、基準値S3の範囲内であるか否かによって、回転トルクT3の適否を判定する。基準値S3は、シール部材装着後回転トルクの適否を判定する際に用いる基準値である。シール部材装着後回転トルク判定工程(S11)は、圧入後回転トルク判定工程(S05)の場合と同様に、判定装置15を用いて実施することができる。シール部材装着後回転トルク判定工程(S11)においては、回転トルクT3が基準値S3の範囲内であれば、回転トルクT3は適正であると判定し、回転トルクT3が基準値S3の範囲を超えていれば、回転トルクT3は適正でないと判定する。基準値S3は、所定の範囲における下限値と上限値とを有しており、予め設定しておくことができる。
【0064】
このように、インナー側シール部材装着工程(S09)の後に実施されるシール部材装着後回転トルク測定工程(S10)において測定された回転トルクT3を用いて、車輪用軸受装置1の回転トルクの適否を判定することにより、インナー側シール部材9等の部品およびインナー側シール部材装着工程(S09)等の工程に異常が生じたか否かを検知すること可能となる。これにより、どの部品またはどの工程において異常が発生したかを容易に検出することが可能となる。
【0065】
シール部材装着後回転トルク判定工程(S11)においては、基準値S3を、外輪2のインナー側開口部2aにインナー側シール部材9を嵌合することによって増加する車輪用軸受装置1の回転トルクを考慮して設定することができる。このように、インナー側シール部材9によって増加する回転トルクを考慮して基準値S3を設定することで、回転トルクT3の適否を高精度に判定することが可能となる。
【0066】
また、シール部材装着後回転トルク判定工程(S11)においては、圧入後回転トルク判定工程(S05)および加締後回転トルク判定工程(S08)の場合と同様に、アウター側シール部材10、グリース、および車輪用軸受装置1の温度等の諸条件のばらつきを考慮して基準値S3を設定することができる。これにより、回転トルクT3の適否の判定を高精度に行うことが可能となる。
【0067】
さらに、回転トルクT3が測定される車輪用軸受装置1の温度に応じて、測定した回転トルクT3の値を補正することができる。これにより、回転トルクT3の適否の判定を高精度に行うことが可能となる。
【0068】
なお、本実施形態における回転トルク検査方法では、圧入後回転トルク判定工程(S05)、加締後回転トルク判定工程(S08)、およびシール部材装着後回転トルク判定工程(S11)を実施しているが、圧入後回転トルク判定工程(S05)および加締後回転トルク判定工程(S08)のみを実施することも可能である。また、圧入後回転トルク判定工程(S05)および加締後回転トルク判定工程(S08)の何れか一方のみを実施することも可能である。
【0069】
[回転トルク検査装置の第一実施形態]
上述の第一実施形態にかかる回転トルクの検査方法は、トルク測定器12、押込装置13、駆動源14、判定装置15、および加締め型16を備えた回転トルク検査装置によって実施することができる。
【0070】
例えば、回転トルク検査装置は、押込装置13を用いて、ハブ輪3の小径段部3aに対して、内輪4を、軸方向において内輪4がハブ輪3に当接する位置まで圧入する圧入工程(S02)を実施することができる。また、回転トルク検査装置は、駆動源14およびトルク測定器12を用いて、圧入工程(S02)後に内方部材3、4と外方部材2とを相対的に回転させたときの車輪用軸受装置1の圧入後回転トルクである回転トルクT1を測定する圧入後回転トルク測定工程(S04)を実施可能である。さらに、回転トルク検査装置は、判定装置15を用いて、圧入後回転トルク測定工程(S04)において測定した回転トルクT1が、基準値S1の範囲内であるか否かによって、回転トルクT1の適否を判定する圧入後回転トルク判定工程(S05)を実施可能である。
【0071】
また、回転トルク検査装置は、加締め型16を用いて、内輪4が圧入された小径段部3aのインナー側端部を内輪4に加締める加締工程(S06)を実施することができる。さらに、回転トルク検査装置は、判定装置15を用いて、加締工程(S06)後に内方部材3、4と外方部材2とを相対的に回転させたときの車輪用軸受装置1の加締後回転トルクである回転トルクT2を測定する加締後回転トルク測定工程(S07)を実施することができる。また、回転トルク検査装置は、判定装置15を用いて、加締後回転トルク測定工程(S07)において測定した回転トルクT2が、基準値S2の範囲内であるか否かによって、回転トルクT2の適否を判定する加締後回転トルク判定工程(S08)を実施可能である。
【0072】
[車輪用軸受装置の第二実施形態]
以下に、
図9を用いて、本発明に係る回転トルク検査方法が実施される車輪用軸受装置の第二実施形態である車輪用軸受装置1Aについて説明する。
【0073】
図9に示す車輪用軸受装置1Aは、自動車等の車両の懸架装置において駆動輪を回転自在に支持するものである。車輪用軸受装置1Aは第3世代と称呼される構成を備えており、外方部材である外輪2と、内方部材であるハブ輪30および内輪4と、転動列である二列のインナー側ボール列5およびアウター側ボール列6と、インナー側シール部材9およびアウター側シール部材10とを具備する。
【0074】
車輪用軸受装置1Aは、車両の駆動軸が貫通する貫通孔30iが形成されたハブ輪30を備えている点で、貫通孔が形成されていないハブ輪3を備えた車輪用軸受装置1と異なっている。車輪用軸受装置1Aにおけるハブ輪30以外の構成は、車輪用軸受装置1の場合と同様であるため、説明を省略する。
【0075】
ハブ輪30のインナー側端部には、外周面にアウター側端部よりも縮径された小径段部30aが形成されている。小径段部30aは軸方向に延びており、ハブ輪30における小径段部30aのアウター側端部には肩部30eが形成されている。ハブ輪30のアウター側端部には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ30bが一体的に形成されている。車輪取り付けフランジ30bには、ハブ輪30と車輪又はブレーキ部品とを締結するためのハブボルトが圧入されるボルト孔30fが設けられている。
【0076】
ハブ輪30には、外輪2のアウター側の外側軌道面2dに対向するようにアウター側の内側軌道面30cが設けられている。ハブ輪30における車輪取り付けフランジ30bの基部側には、アウター側シール部材10が摺接するリップ摺動面30dが形成されている。アウター側シール部材10は、外輪2とハブ輪30とによって形成された環状空間のアウター側開口端に嵌合している。ハブ輪30は、車輪取りつけフランジ30bよりもアウター側の端部にアウター側端面30gを有している。
【0077】
ハブ輪30の小径段部30aには、内輪4が設けられている。内輪4は、ハブ輪30の小径段部30aに圧入されることにより固定されている。ハブ輪30の小径段部30aは内輪4のインナー側端面4bに加締められていない。つまり、車輪用軸受装置1Aは、ハブ輪30のインナー側端部に加締加工が施されない仕様に構成された、駆動輪用の軸受装置である。
【0078】
[回転トルク検査方法の第二実施形態]
次に、本発明に係る回転トルク検査方法の第二実施形態である車輪用軸受装置1Aの回転トルク検査方法について説明する。
図10に示すように、本実施形態における回転トルク検査方法は、主に車輪用軸受装置1Aの組立を行う途中において実施される。具体的には、回転トルク検査方法は、仮圧入工程(S21)、圧入工程(S22)、なじみ工程(S23)、圧入後回転トルク測定工程(S24)、圧入後回転トルク判定工程(S25)、インナー側シール部材装着工程(S26)、シール部材装着後回転トルク測定工程(S27)、およびシール部材装着後回転トルク判定工程(S28)を備えている。回転トルク検査方法の各工程について、以下に説明する。
【0079】
(仮圧入工程)
図11に示すように、ハブ輪30は、軸方向が垂直方向となり、アウター側端面30gが下方に位置する姿勢で、支持台11に載置されている。支持台11にはハブ輪30のアウター側端面30gが接地している。支持台11に載置されたハブ輪30には、外輪2がインナー側ボール列5およびアウター側ボール列6を介して回転可能に装着されている。外輪2のアウター側端部には、アウター側シール部材10が嵌合されている。ハブ輪30と外輪2との間にはグリースが充填されている。
【0080】
仮圧入工程(S21)においては、仮圧入工程(S01)の場合と同様に、ハブ輪30の小径段部30aに内輪4を仮圧入する。内輪4の仮圧入が完了した時点では、内輪4のアウター側端面4cとハブ輪30の肩部30eとの間には軸方向正隙間Gbが存在している。仮圧入工程(S21)は、仮圧入工程(S01)の場合と同様に、押込装置13を用いて実施することができる。
【0081】
(圧入工程)
仮圧入工程(S21)の後に圧入工程(S22)を実施する。
図12に示すように、圧入工程(S22)においては、圧入工程(S02)の場合と同様に内輪4をハブ輪30の小径段部30aに圧入する。圧入工程(S22)は、圧入工程(S02)の場合と同様に、押込装置13を用いて実施することが可能である。圧入工程(S22)において内輪4を小径段部30aに圧入した後は、インナー側ボール列5とインナー側外輪軌道面2c、内輪軌道面4aとの間、及びアウター側ボール列6とアウター側外輪軌道面2d、ハブ輪軌道面30cとの間には軸方向負隙間が生じている。
【0082】
(なじみ工程)
圧入工程(S22)の後になじみ工程(S23)を実施する。なじみ工程(S23)においては、なじみ工程(S03)の場合と同様に、内輪4が圧入されたハブ輪30と、外輪2とを相対的に回転させることにより、ハブ輪30と外輪2との間に充填されているグリースをインナー側ボール列5およびアウター側ボール列6のボール7になじませる。なじみ工程(S23)は、なじみ工程(S03)の場合と同様に、駆動源14を用いて実施することができる。
【0083】
なじみ工程(S23)を実施することで、ハブ輪30と外輪2とを相対的に回転させたときに、グリースとボール7との間に生じる抵抗を一定にすることができる。これにより、後に実施される圧入後回転トルク測定工程(S24)およびシール部材装着後回転トルク測定工程(S27)において車輪用軸受装置1Aの回転トルクを測定したときに、測定した回転トルクにばらつきが生じることを抑制することが可能となる。また、ハブ輪30と外輪2とを相対的に30回転以上回転させることで、測定した回転トルクにばらつきが生じることを効果的に抑制することができる。
【0084】
(圧入後回転トルク測定工程)
なじみ工程(S23)の後に圧入後回転トルク測定工程(S24)を実施する。圧入後回転トルク測定工程(S24)においては、圧入後回転トルク測定工程(S04)の場合と同様に、小径段部30aに内輪4が圧入されたハブ輪30と、外輪2とを駆動源14によって相対的に回転させたときの回転トルクT4を、トルク測定器12により測定する。このように、圧入後回転トルク測定工程(S24)は、駆動源14およびトルク測定器12を用いて実施することが可能である。回転トルクT4は、圧入後回転トルクの一例である。また、回転トルクT4は、圧入工程(S22)の後、かつインナー側シール部材装着工程(S26)の前において、ハブ輪30のインナー側端部に加締加工が施されていない状態で測定された回転トルクである。
【0085】
圧入後回転トルク測定工程(S24)においては、ハブ輪30または外輪2の回転数は、回転トルクが減少から増加に転じる領域における回転数N1~N2の範囲に設定している。本実施形態では、回転数の範囲の下限値となる回転数N1は、10回転/minに設定される。回転数の範囲の上限値となる回転数N2は、30回転/minに設定される。これにより、回転トルクT4の測定中に仮に回転数が変化したとしても、回転トルクT4の変動を小さくすることができ、回転トルクを安定して測定することが可能である。
【0086】
また、圧入後回転トルク測定工程(S24)においては、外輪2とハブ輪30とによって形成された環状空間のアウター側開口端にアウター側シール部材10が嵌合された状態で、車輪用軸受装置1Aの回転トルクT4が測定されている。ここで、アウター側シール部材10は、内輪4が圧入されるハブ輪30の小径段部30aとは軸方向反対側に位置しているため、仮に内輪軌道面4a等に異常が生じても、アウター側シール部材10のシールトルクに影響が生じ難く、車輪用軸受装置1Aの回転トルクにも変化が生じ難い。
【0087】
(圧入後回転トルク判定工程)
圧入後回転トルク測定工程(S24)の後に圧入後回転トルク判定工程(S25)を実施する。圧入後回転トルク判定工程(S25)においては、圧入後回転トルク判定工程(S05)の場合と同様に、圧入後回転トルク測定工程(S24)において測定した回転トルクT4が、基準値S4の範囲内であるか否かによって、回転トルクT4の適否を判定する。圧入後回転トルク判定工程(S25)は、判定装置15を用いて実施することが可能である。基準値S4は、圧入後回転トルクの適否を判定する際に用いる基準値の一例である。基準値S4は、所定の範囲における下限値と上限値とを有しており、予め設定しておくことができる。
【0088】
このように、圧入後回転トルク測定工程(S24)において測定された回転トルクT4を用いて、車輪用軸受装置1Aの回転トルクの適否を判定することにより、車輪用軸受装置1Aの製造工程の途中において、アウター側シール部材10等の部品および圧入工程(S22)等の工程に異常が生じたか否かを検知すること可能となる。これにより、車輪用軸受装置1Aが完成状態となった後に回転トルクの適否を判定した場合に比べて、どの部品またはどの工程において異常が発生したかを容易に検出することができ、廃棄される部品を減少することが可能となる。
【0089】
また、圧入後回転トルク判定工程(S25)においては、圧入後回転トルク判定工程(S05)の場合と同様に、アウター側シール部材10、グリース、および車輪用軸受装置1Aの温度等の諸条件のばらつきを考慮して基準値S4を設定することができる。さらに、回転トルクT4が測定される車輪用軸受装置1Aの温度に応じて、測定した回転トルクT4の値を補正することができる。これにより、回転トルクT4の適否の判定を高精度に行うことが可能となる。
【0090】
(インナー側シール部材装着工程)
圧入後回転トルク判定工程(S25)の後にインナー側シール部材装着工程(S26)を実施する。
図13に示すように、インナー側シール部材装着工程(S26)においては、インナー側シール部材装着工程(S09)の場合と同様に、外輪2のインナー側端部と内輪4のインナー側端部との間にインナー側シール部材9を装着する。この場合、例えばインナー側シール部材9は、シール部材の装着具(不図示)を用いて、外輪2のインナー側端部と内輪4のインナー側端部との間に装着することができる。つまり、インナー側シール部材装着工程(S26)は、シール部材の装着具を用いて実施することができる。
【0091】
(シール部材装着後回転トルク測定工程)
インナー側シール部材装着工程(S26)の後にシール部材装着後回転トルク測定工程(S27)を実施する。シール部材装着後回転トルク測定工程(S27)においては、圧入後回転トルク測定工程(S24)の場合と同様に、内方部材30、4と外方部材2との間に動摩擦力が発生している状態で回転トルクの測定を行う。シール部材装着後回転トルク測定工程(S27)においては、小径段部30aに内輪4が圧入されたハブ輪30と、外輪2とを駆動源14によって相対的に回転させたときの回転トルクT5を、トルク測定器12により測定する。このように、駆動源14およびトルク測定器12を用いてシール部材装着後回転トルク測定工程(S27)を実施することが可能である。回転トルクT5は、インナー側シール部材装着工程(S26)の後において測定されたシール部材装着後回転トルクである。
【0092】
シール部材装着後回転トルク測定工程(S27)においては、圧入後回転トルク測定工程(S24)の場合と同様に、軸受の起動トルクではなく回転トルクを測定し、ハブ輪30または外輪2を低速の回転数N1~N2において一定回転数で回転させながら回転トルクT5を測定することで、回転トルクを高精度で測定することが可能となる。
【0093】
また、インナー側シール部材装着工程(S26)とシール部材装着後回転トルク測定工程(S27)との間には、なじみ工程(S23)と同様の工程、つまりハブ輪30と外輪2との間に充填されているグリースをインナー側ボール列5およびアウター側ボール列6のボール7になじませるなじみ工程を実施することができる。このなじみ工程は、なじみ工程(S23)の場合と同様に、駆動源14を用いて実施することが可能である。これにより、ハブ輪30と外輪2とを相対的に回転させたときのグリースとボール7との間に生じる抵抗を一定にすることができ、シール部材装着後回転トルク測定工程(S27)において車輪用軸受装置1Aの回転トルクT5を測定したときに、測定した回転トルクT5にばらつきが生じることをより抑制することが可能となる。
【0094】
ただし、なじみ工程(S23)を実施することにより、グリースとボール7とが十分になじんでいて、グリースとボール7との間に生じる抵抗が一定になっている場合は、インナー側シール部材装着工程(S26)とシール部材装着後回転トルク測定工程(S27)との間のなじみ工程を省略することができる。
【0095】
(シール部材装着後回転トルク判定工程)
シール部材装着後回転トルク測定工程(S27)の後にはシール部材装着後回転トルク判定工程(S28)を実施する。シール部材装着後回転トルク判定工程(S28)においては、圧入後回転トルク判定工程(S25)の場合と同様に、シール部材装着後回転トルク測定工程(S27)において測定した回転トルクT5が、基準値S5の範囲内であるか否かによって、回転トルクT5の適否を判定する。基準値S5は、シール部材装着後回転トルクの適否を判定する際に用いる基準値である。シール部材装着後回転トルク判定工程(S28)は、判定装置15を用いて実施することができる。基準値S5は、所定の範囲における下限値と上限値とを有しており、予め設定しておくことができる。基準値S5は、基準値S4と同じ値に設定することができ、基準値S4と異なる値に設定することもできる。
【0096】
このように、インナー側シール部材装着工程(S26)の後に実施されるシール部材装着後回転トルク測定工程(S27)において測定された回転トルクT5を用いて、車輪用軸受装置1Aの回転トルクの適否を判定することにより、インナー側シール部材9等の部品およびインナー側シール部材装着工程(S26)等の工程に異常が生じたか否かを検知すること可能となる。これにより、どの部品またはどの工程において異常が発生したかを容易に検出することが可能となる。
【0097】
シール部材装着後回転トルク判定工程(S28)においては、基準値S5を、外輪2のインナー側開口部2aにインナー側シール部材9を嵌合することによって増加する車輪用軸受装置1Aの回転トルクを考慮して設定することができる。このように、インナー側シール部材9によって増加する回転トルクを考慮して基準値S5を設定することで、回転トルクT5の適否を高精度に判定することが可能となる。
【0098】
また、シール部材装着後回転トルク判定工程(S28)においては、圧入後回転トルク判定工程(S25)の場合と同様に、アウター側シール部材10、グリース、および車輪用軸受装置1の温度等の諸条件のばらつきを考慮して基準値S5を設定することができる。さらに、回転トルクT5が測定される車輪用軸受装置1Aの温度に応じて、測定した回転トルクT5の値を補正することができる。これにより、回転トルクT5の適否の判定を高精度に行うことが可能となる。
【0099】
なお、本実施形態における回転トルク検査方法では、圧入後回転トルク判定工程(S25)およびシール部材装着後回転トルク判定工程(S28)を実施しているが、圧入後回転トルク判定工程(S25)のみを実施することも可能である。
【0100】
[回転トルク検査装置の第二実施形態]
上述の第二実施形態にかかる回転トルクの検査方法は、トルク測定器12、押込装置13、駆動源14、および判定装置15を備えた回転トルク検査装置によって実施することができる。
【0101】
例えば、回転トルク検査装置は、押込装置13を用いて、ハブ輪3の小径段部3aに対して、内輪4を、軸方向において内輪4がハブ輪3に当接する位置まで圧入する圧入工程(S22)を実施することができる。また、回転トルク検査装置は、駆動源14およびトルク測定器12を用いて、圧入工程(S22)後に内方部材3、4と外方部材2とを相対的に回転させたときの車輪用軸受装置1の圧入後回転トルクである回転トルクT4を測定する圧入後回転トルク測定工程(S24)を実施可能である。さらに、回転トルク検査装置は、判定装置15を用いて、圧入後回転トルク測定工程(S24)において測定した回転トルクT4が、基準値S4の範囲内であるか否かによって、回転トルクT4の適否を判定する圧入後回転トルク判定工程(S25)を実施可能である。
【0102】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0103】
1、1A 車輪用軸受装置
2 外輪
2c (インナー側の)外側軌道面
2d (アウター側の)外側軌道面
3、30 ハブ輪
3a、30a 小径段部
3c、30c 内側軌道面
3h 加締め部
4 内輪
4a 内側軌道面
4b 内輪インナー側端部
4c 内輪インナー側端部
5 インナー側ボール列
6 アウター側ボール列
7 ボール
9 インナー側シール部材
10 アウター側シール部材
12 トルク測定器
Ga、Gb 軸方向正隙間
N1、N2 回転数
T1、T4 回転トルク(圧入後回転トルク)
T2 回転トルク(加締後回転トルク)
T3、T5 回転トルク(シール部材装着後回転トルク)
S1、S4 基準値(圧入後回転トルクを判定する際の基準値)
S2 基準値(加締後回転トルクを判定する際の基準値)
S3、S5 基準値(シール部材装着後回転トルクを判定する際の基準値)
S01、S21 仮圧入工程
S02、S22 圧入工程
S03、S23 なじみ工程
S04、S24 圧入後回転トルク測定工程
S05、S25 圧入後回転トルク判定工程
S06 加締工程
S07 加締後回転トルク測定工程
S08 加締後回転トルク判定工程