(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】空中ディスプレイ
(51)【国際特許分類】
G02B 30/56 20200101AFI20240605BHJP
G02B 5/12 20060101ALI20240605BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20240605BHJP
G02B 5/08 20060101ALI20240605BHJP
C08F 20/18 20060101ALI20240605BHJP
【FI】
G02B30/56
G02B5/12
G02B5/30
G02B5/08 A
C08F20/18
(21)【出願番号】P 2020168268
(22)【出願日】2020-10-05
【審査請求日】2023-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2020135226
(32)【優先日】2020-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100186761
【氏名又は名称】上村 勇太
(72)【発明者】
【氏名】平間 進
【審査官】近藤 幸浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/136200(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0039090(US,A1)
【文献】特開2008-158114(JP,A)
【文献】特開2009-276699(JP,A)
【文献】国際公開第2018/139141(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/152646(WO,A1)
【文献】特開2011-081300(JP,A)
【文献】特開2019-105744(JP,A)
【文献】特開2020-063437(JP,A)
【文献】国際公開第2013/005634(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/095933(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0124237(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 30/56
G02B 5/30
G02B 1/04
C08F 20/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源から出射した光が入射される第1のλ/4板と、
前記第1のλ/4板を透過した前記光が入射されるパッシブ光学素子と、
前記パッシブ光学素子を透過した前記光が入射される第2のλ/4板と、
前記第2のλ/4板を透過した前記光が入射される偏光子と、
を備え、
前記パッシブ光学素子は、第1反射面と、前記第1反射面に対して直角をなす第2反射面とを含む2面コーナーリフレクタを有し、
前記パッシブ光学素子は、ガラス転移温度が110℃以上であり、且つ、応力光学係数の絶対値が15×10
-11Pa
-1以下であるアクリル系ポリマーの成形体を有し、
前記アクリル系ポリマーの主鎖が、N-置換マレイミド単量体に由来する構造及びグルタルイミド構造から選択される少なくとも1つの環状イミド構造を有し、
温度230℃、荷重37Nで測定した前記アクリル系ポリマーのメルトフローレートは、3.0g/10分以上8.0g/10分以下であり、
前記2面コーナーリフレクタは、前記成形体に設けられ、
前記光源から出射してから前記第1のλ/4板に到達するまでの前記光は、直線偏光である、
空中ディスプレイ(但し、前記アクリル系ポリマーの主鎖がラクトン環構造を有する空中ディスプレイを除く。)。
【請求項2】
光源と、
前記光源から出射した光が入射されるパッシブ光学素子と、
前記パッシブ光学素子を透過した前記光が入射されるλ/4板と、
前記λ/4板を透過した前記光が入射される偏光子と、
を備え、
前記パッシブ光学素子は、第1反射面と、前記第1反射面に対して直角をなす第2反射面とを含む2面コーナーリフレクタを有し、
前記パッシブ光学素子は、ガラス転移温度が110℃以上であり、且つ、応力光学係数の絶対値が15×10
-11Pa
-1以下であるアクリル系ポリマーの成形体を有し、
前記アクリル系ポリマーの主鎖が、N-置換マレイミド単量体に由来する構造及びグルタルイミド構造から選択される少なくとも1つの環状イミド構造を有し、
温度230℃、荷重37Nで測定した前記アクリル系ポリマーのメルトフローレートは、3.0g/10分以上8.0g/10分以下であり、
前記2面コーナーリフレクタは、前記成形体に設けられ、
前記光源から出射してから前記λ/4板に到達するまでの前記光は、円偏光である、
空中ディスプレイ(但し、前記アクリル系ポリマーの主鎖がラクトン環構造を有する空中ディスプレイを除く。)。
【請求項3】
前記光源は、液晶表示装置を含む、請求項1または2に記載の空中ディスプレイ。
【請求項4】
前記パッシブ光学素子は、前記光源から出射した前記光の出射方向から見て、マトリックス状もしくは千鳥状に配置される複数の前記2面コーナーリフレクタを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の空中ディスプレイ。
【請求項5】
前記アクリル系ポリマーは、正の位相差を与える環構造と、負の位相差を与える構成単位とを含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載の空中ディスプレイ。
【請求項6】
前記成形体の黄色度が2以下である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の空中ディスプレイ。
【請求項7】
前記成形体の全光線透過率が85%以上である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の空中ディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空中ディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置の一つとして、結像光学素子を用いることによって空間上に映像を投影する空中ディスプレイが挙げられる。当該空中ディスプレイとしては、例えば、結像光学素子として2面コーナーリフレクタアレイ(DCRA: Double Corner Reflector Array)を用いる方式が挙げられる。
【0003】
2面コーナーリフレクタアレイを用いる方式の一例として、下記特許文献1に開示される空中像表示装置が挙げられる。下記特許文献2には、像形成面と、当該像形成面に沿って互いに直交して配置された第1の反射面及び第2の反射面とを有し、画像を表示領域に結像させる結像光学パネルと、当該結像光学パネルよりも表示ユニット側に配置されるルーバーフィルムとを備える空中像表示装置が開示される。下記特許文献2では、結像光学パネルとして2面コーナーリフレクタアレイが用いられており、ルーバーフィルムによって結像光学パネルに入射する光の入射角が制限されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
結像光学素子として2面コーナーリフレクタアレイを用いる場合、空中ディスプレイにて表示される空中映像には、意図した映像とは異なる複数の映像(偽像)が発生することがある。加えて上記空中映像は、外光の影響を受けやすい。例えば、外光が空中ディスプレイの内部に入射することによって、空中映像がぼやけてしまう傾向にある。
【0006】
本発明の一側面の目的は、偽像の発生抑制と外光の影響低減を実現可能な空中ディスプレイの提供である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明者等は鋭意検討を重ねた結果、以下の[1]~[9]に示す発明を完成させた。
[1] 光源と、光源から出射した光が入射される第1のλ/4板と、第1のλ/4板を透過した光が入射されるパッシブ光学素子と、パッシブ光学素子を透過した光が入射される第2のλ/4板と、第2のλ/4板を透過した光が入射される偏光子と、を備え、
パッシブ光学素子は、第1反射面と、第1反射面に対して直角をなす第2反射面とを含む2面コーナーリフレクタを有し、
光源から出射してから第1のλ/4板に到達するまでの光は、直線偏光である、
空中ディスプレイ。
[2] 光源と、
光源から出射した光が入射されるパッシブ光学素子と、パッシブ光学素子を透過した光が入射されるλ/4板と、λ/4板を透過した光が入射される偏光子と、を備え、
パッシブ光学素子は、第1反射面と、第1反射面に対して直角をなす第2反射面とを含む2面コーナーリフレクタを有し、
光源から出射してからλ/4板に到達するまでの光は、円偏光である、
空中ディスプレイ。
[3] 光源は、液晶表示装置を含む、[1]または[2]に記載の空中ディスプレイ。
[4] パッシブ光学素子は、光源から出射した光の出射方向から見て、マトリックス状もしくは千鳥状に配置される複数の2面コーナーリフレクタを有する、[1]~[3]のいずれか一つに記載の空中ディスプレイ。
[5] パッシブ光学素子は、ガラス転移温度が110℃以上であり、且つ、応力光学係数の絶対値が15×10-11Pa-1以下であるアクリル系ポリマーの成形体を有し、
2面コーナーリフレクタは、成形体に設けられる、[1]~[4]のいずれか一つに記載の空中ディスプレイ。
[6] 温度230℃、荷重37Nで測定したアクリル系ポリマーのメルトフローレートは、3.0g/10分以上8.0g/10分以下である、[5]に記載の空中ディスプレイ。
[7] アクリル系ポリマーは、正の位相差を与える環構造と、負の位相差を与える構成単位とを含む、[5]または[6]に記載の空中ディスプレイ。
[8]成形体の黄色度が2以下である、[5]~[7]のいずれか一つに記載の空中ディスプレイ。
[9]成形体の全光線透過率が85%以上である、[5]~[8]のいずれか一つに記載の空中ディスプレイ。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一側面によれば、偽像の発生抑制と外光の影響低減を実現可能な空中ディスプレイを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1(a)は、第1実施形態に係る空中ディスプレイの模式図であり、
図1(b)は、
図1(a)の空中ディスプレイ内部における偏光の変化を示す模式図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係るパッシブ光学素子の一部を示す模式斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2のパッシブ光学素子を用いた結像様式を示す模式図である。
【
図4】
図4は、
図2のパッシブ光学素子の一つの形状を示す概略斜視図である。
【
図5】
図5(a)は、第2実施形態に係る空中ディスプレイの模式図であり、
図5(b)は、
図5(a)の空中ディスプレイ内部における偏光の変化を示す模式図である。
【
図6】
図6(a)は、変形例に係るパッシブ光学素子を示す概略斜視図であり、
図6(b)は、
図6(a)の一部を拡大した概略斜視図である。
【
図7】
図7は、実施例における第1空中ディスプレイの構成要件及び光路を示す模式図である。
【
図8】
図8は、第1空中ディスプレイを斜めから観察したときの空中映像、鏡面反射像の見え方を示す模式図である。
【
図9】
図9は、実施例における第2空中ディスプレイの構成要件及び光路を示す模式図である。
【
図10】
図10は、参考例1における空中映像の観察結果を表示する写真である。
【
図11】
図11は、実施例11における空中映像の観察結果を表示する写真である。
【
図12】
図12は、比較例11における空中映像の観察結果を表示する写真である。
【
図13】
図13は、参考例2における空中映像の観察結果を表示する写真である。
【
図14】
図14は、実施例12における空中映像の観察結果を表示する写真である。
【
図15】
図15は、比較例12における空中映像の観察結果を表示する写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の一側面に係る実施形態が詳細に説明される。図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号が用いられ、重複する説明は省略される。
【0011】
(第1実施形態)
以下では、まず、第1実施形態に係る空中ディスプレイについて説明する。なお、本明細書における空中ディスプレイは、結像光学素子を用いることによって空間上に像または映像を投影する装置である。空間上に投影される像または映像は、例えば、光源の像または映像が空間上に転写されたものである。
【0012】
図1(a)は、第1実施形態に係る空中ディスプレイの模式図であり、
図1(b)は、
図1(a)の空中ディスプレイ内部における偏光の変化を示す模式図である。
図1(a),(b)に示されるように、空中ディスプレイ1は、光源2と、第1のλ/4板3と、パッシブ光学素子4と、第2のλ/4板5と、偏光子6とを有する。光源2と、第1のλ/4板3と、パッシブ光学素子4と、第2のλ/4板5と、偏光子6とは、光路D1に沿って順に配置される。光路D1は、空中ディスプレイ1の内部から発生した光が空中ディスプレイ1の外部に到達するまでの経路である。なお、光路D1は直線に限られない。
【0013】
光源2は、空中ディスプレイ1の内部にて光を発生させる装置であり、例えば面発光可能な液晶表示装置を含む。光源2は、液晶表示装置の代わりに、偏光子が設けられた有機EL表示装置、偏光子が設けられたμLED表示装置等を含んでもよい。第1実施形態では
図1(b)に示されるように、光源2は、直線偏光として例えばS偏光(光L1A,L1B)を出射する(以下、光源2がS偏光を出射する場合を例に説明する)。
図1(b)において、光L1Aは、光源2から出射する光の一部であり、パッシブ光学素子4にて2回固定端反射する光に相当する。光L1Bは、光源2から出射する光の別の一部であり、パッシブ光学素子4にて奇数回固定端反射する光に相当する。光源2から出射する光は、光L1A,L1Bに限られない。例えば、光源2から出射する光として、パッシブ光学素子4にて2回反射を除く偶数回反射する光(不図示)が挙げられる。
【0014】
第1のλ/4板3は、光源2から出射する光L1A,L1Bが入射される光学素子であり、光路D1において光源2とパッシブ光学素子4との間に配置される。第1のλ/4板3と光源2との間には、光L1A,L1Bの偏光状態を変化させる光学素子は設けられない。このため、光源2を出射してから第1のλ/4板3に到達するまでの光L1は、直線偏光(S偏光)である。第1のλ/4板3は、例えばパッシブ光学素子4の表面に形成されてもよいし、光源2とパッシブ光学素子4との間で独立に配置されてもよい。後者の場合、第1のλ/4板3は、偏光状態を変化させない部材(例えばガラス製の部材、複屈折性を有しない樹脂製の部材など)に貼合されてもよい。もしくは、第1のλ/4板3として、位相差及び自立性を有する程度の厚みを有する単一の板状部材が配置されてもよい。
図1(b)に示されるように、光L1A,L1Bのそれぞれは、第1のλ/4板3を透過することによって円偏光(光L2A,L2B)になる。
【0015】
パッシブ光学素子4は、入射した光を集中、発散、反射及び/又は屈折させる結像光学素子である。パッシブ光学素子4は、第1のλ/4板3を透過した光L2A,L2Bが入射される部材であり、例えば板状成形体である。パッシブ光学素子4は、1つの板状成形体でもよいし、複数の成形体の集合体でもよい。このため、「パッシブ光学素子4である成形体」は、「パッシブ光学素子4に含まれる成形体」の態様も含む。光路D1において、パッシブ光学素子4は、第1のλ/4板3と第2のλ/4板5との間に配置される。光L2A,L2Bは、パッシブ光学素子4を透過すると共に、パッシブ光学素子4にて固定端反射する。光L2A,L2Bの少なくとも一部は、後述するようにパッシブ光学素子4にて複数回反射する。パッシブ光学素子4である成形体の物性は、例えば、成形体を形成するための材料の物性と同様である(材料の詳細については、後述する)。例えば、パッシブ光学素子4である成形体のガラス転移温度は110℃以上でもよいし、当該成形体の全光線透過率は85%以上でもよい。また、パッシブ光学素子4である成形体の黄色度は、例えば、2以下である。当該黄色度は、1.7以下でもよく、1.5以下でもよく、1.4以下でもよく、1.3以下でもよく、1.2以下でもよく、1.1以下でもよく、1.0以下でもよい。
【0016】
以下では
図2及び
図3を参照しながら、パッシブ光学素子4の詳細な構造について説明する。
図2は、パッシブ光学素子を示す模式斜視図である。
図3は、
図2のパッシブ光学素子を用いた結像様式を示す模式図である。
図2及び
図3に示されるように、パッシブ光学素子4は、被観察物Oから当該被観察物Oの実像までの光路中に配置される板状成形体であり、素子面4sを構成する。素子面4sの一方側に被観察物Oが配置されたとき、実像Pは、素子面4sの他方側の空間に結像される。実像Pは、被観察物Oと、素子面4sに関して面対称になっている。このため第1実施形態では、パッシブ光学素子4は、面対称型結像光学素子である。被観察物Oは、例えば光源にて表示される画像もしくは映像である。実像Pは、実鏡映像でもよい。
【0017】
パッシブ光学素子4は、基板11及び複数の2面コーナーリフレクタ12を有する2面コーナーリフレクタアレイであり、被観察物Oから発せられる光は、パッシブ光学素子4にて2回固定端反射される。パッシブ光学素子4は、例えば矩形板形状を有するが、これに限られない。パッシブ光学素子4の厚さは、例えば1mm以上10mm以下である。
【0018】
複数の2面コーナーリフレクタ12は、基板11の厚さ方向から見てマトリックス状もしくは千鳥状に配置される。第1実施形態では
図2に示されるように、光源2から出射した光L1の出射方向から見て、複数の2面コーナーリフレクタ12は千鳥状に配置される。複数の2面コーナーリフレクタ12のそれぞれは、互いに直交する2つの鏡面12a,12bを有する。鏡面12a,12bによって、V字且つ直角が形成される。2面コーナーリフレクタ12の各寸法は、例えば光源の大きさ、実像Pの飛び出し距離等に応じて設定される。
【0019】
図4は、
図2のパッシブ光学素子の一つの形状を示す概略斜視図である。
図4に示されるように、パッシブ光学素子4は、例えば国際公開公報WO2009/136578に開示されるような、複数の直方体材20を有するシート部21,22の積層構造体でもよい。シート部21,22は、互いに貼り合わされており、基板11を構成する。シート部21,22のそれぞれでは、複数の直方体材20が並列に密着している。シート部21に含まれる直方体材20の長手軸方向と、シート部22に含まれる直方体材20の長手軸方向とは、互いに90°ずれている。このため、シート部21,22の積層方向から見て、シート部21に含まれる直方体材20と、シート部22に含まれる直方体材20とは、互いに直交している。直方体材20は、略棒形状を有し、以下にて説明する材料の成形体である。各直方体材20において、その長手軸方向に垂直な方向における各辺の長さは、例えば、数百μm以上数千μm以下である。
【0020】
各直方体材20の長手軸方向に延在する1面には、光反射膜23が形成される。シート部21に含まれる各直方体材20において光反射膜23が形成される面(第1反射面)と、シート部22に含まれる各直方体材20において光反射膜23が形成される面(第2反射面)とは、互いに90°ずれている。このため、第2反射面は、第1反射面に対して直角をなす。光反射膜23は、例えば物理気相成長法によって形成されるアルミ膜、銀膜などである。各直方体材20における上記1面の反対側の面には、光吸収膜24が形成される。このため、各直方体材20において、光反射膜23と光吸収膜24とは、互いに反対側に位置する。光吸収膜24は、例えばつや消しの黒塗料、黒色のシート等によって形成される。各シート部21,22においては、直方体材20が配列される方向において、光反射膜23と光吸収膜24とが交互に並んでいる。このため、隣り合う直方体材20同士においては、一方の直方体材20の光反射膜23と、他方の直方体材20の光吸収膜24とが、対向する。
【0021】
空中ディスプレイ1においては、光源2は、パッシブ光学素子4の背面11b側(
図2を参照)に配置される。そして、光源2から出射されて第1のλ/4板3を透過した光L2A,L2Bは、基板11の背面11bに向かう。基板11の背面11bから入射した光L2A,L2Bは、パッシブ光学素子4内で反射した後、当該パッシブ光学素子4の外部に出射する。例えば、光L2Aはパッシブ光学素子4内で2回固定端反射した後に光L3としてパッシブ光学素子4の外部に出射し、光L2Bはパッシブ光学素子4内で1回固定端反射した後に光L3inとしてパッシブ光学素子4の外部に出射する。光L3と光L3inとのそれぞれは、光L2A,L2Bと同じく円偏光である。光L3の回転方向と光L3inの回転方向とは、互いに反対方向である。
【0022】
図1(a)及び
図1(b)に戻って、第2のλ/4板5は、パッシブ光学素子4を透過した光L3,L3inが入射される光学素子であり、例えば光路D1においてパッシブ光学素子4と偏光子6との間に配置される。もしくは、例えばパッシブ光学素子4の出射側表面に第2のλ/4板5、偏光子6の順に積層するように、第2のλ/4板5が配置されてもよい。また、パッシブ光学素子4の保護等のために、パッシブ光学素子4の出射側表面と観測者の間に偏光状態を変化させない部材(例えばガラス製の部材、複屈折性を有しない樹脂製の部材など)を配置してもよい。この場合、第2のλ/4板5は、上記部材に貼合されてもよい。第2のλ/4板5は、例えば偏光子6の表面に形成されてもよい。
図1(b)に示されるように、光L3,L3inのそれぞれは、第2のλ/4板5を透過することによって直線偏光(光L4,L4in)になる。光L4はS偏光であり、光L4inはP偏光である。
【0023】
偏光子6は、特定の偏光のみを透過する光学素子であり、第2のλ/4板5を透過した光L4,L4inが入射される。偏光子6は、光路D1において第2のλ/4板5と空中ディスプレイ1の外部との間に位置する。偏光子6は、例えば透明なガラス基板等の表面に固定される偏光フィルムである。第1実施形態では、偏光子6は、S偏光のみを透過する。このため、光L4は偏光子6を透過する一方で、光L4inは偏光子6を透過しない。光L4が偏光子6を透過することによって、空中に実像が結像される。一方、光L4inが偏光子6を透過しないことによって、空中に偽像が結像されにくくなる。
【0024】
以上に説明した第1実施形態に係る空中ディスプレイ1では、パッシブ光学素子4にて2回固定端反射すると共にパッシブ光学素子4を透過した光L4が、偏光子6を透過する。一方、パッシブ光学素子4にて奇数回固定端反射すると共にパッシブ光学素子4を透過した光L4inは、偏光子6を透過しない。換言すると、空中ディスプレイ1では、例えば光L4inのように空中に偽像を形成する光は、空中ディスプレイ1の外部に出射しにくくなる。したがって、第1実施形態に係る空中ディスプレイ1を用いることによって、偽像の発生抑制が実現可能である。
【0025】
加えて
図1(b)に示されるように、光路D1における偏光子6とパッシブ光学素子4との間には、第2のλ/4板5が配置される。これにより、偏光子6を介してパッシブ光学素子4に入射したS偏光である外光L5のうち、パッシブ光学素子4の主面11aにて固定端反射した光L6は、P偏光になる。このため、光L6は偏光子6を透過できない。したがって第1実施形態によれば、偏光子6を介して空中ディスプレイ1の内部に入り込んだ外光の影響も低減できる。
【0026】
第1実施形態では、パッシブ光学素子4の黄色度は2以下でもよく、パッシブ光学素子4の全光線透過率は85%以上でもよい。この場合、パッシブ光学素子4を透過する光の減衰をより好適に低減できる。
【0027】
以下では、パッシブ光学素子4である成形体の材料について説明する。第1実施形態では、パッシブ光学素子4は、樹脂(若しくはポリマー)の成形体である。当該成形体に設けられる基板11は、同一の樹脂、同一の組成物、もしくは同一のアクリル系ポリマーから形成される。本明細書において、「樹脂」は、「ポリマー(重合体ともいう)」よりも広い概念である。樹脂は、1種または2種以上のポリマーを含むことができる。「組成物(樹脂組成物)」は、ポリマー以外の材料、例えば添加剤を含むことができる。また、本明細書における(メタ)アクリル酸エステルは、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを意味する。(メタ)アクリレート等の類似の表現についても同様である。パッシブ光学素子4は、例えば、熱転写、押出成形、射出成形、注型成形、ブロー成形、発泡成形等によって形成される。なお本明細書では、「アクリル系ポリマーの成形体」は、アクリル系ポリマーのみからなる成形体に限られず、アクリル系ポリマーを含む組成物の成形体も含まれる。
【0028】
(アクリル系ポリマー)
第1実施形態に係るアクリル系ポリマーは、ガラス転移温度が110℃以上であり、且つ応力光学係数の絶対値が15×10-11Pa-1以下である。
【0029】
アクリル系ポリマーとは、アクリル系モノマー由来の構成単位を有するポリマーを言う。上記アクリル系モノマーとは、アクリロイル基若しくはメタクリロイル基、又は、これらの基における水素原子が他の原子若しくは原子団に置き換わった基を有するモノマー又はそのようなモノマーの誘導体を言う。第1実施形態のアクリル系ポリマーは、通常、(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を有する。以下では、(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を有するアクリル系ポリマーを「第1アクリル系ポリマー」と示すことがある。
【0030】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、脂肪族(メタ)アクリレート[例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸C1-18アルキル)等]、脂環族(メタ)アクリレート[例えば、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル(例えば、(メタ)アクリル酸シクロプロピル、(メタ)アクリル酸シクロブチル等の(メタ)アクリル酸C3-20シクロアルキル)、架橋環式(メタ)アクリレート(例えば、(メタ)アクリル酸イソボルニル)等]、芳香族(メタ)アクリレート[例えば、(メタ)アクリル酸アリールエステル(例えば、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸o-トリル等の(メタ)アクリル酸C6-20アリール)、(メタ)アクリル酸アラルキルエステル(例えば、(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸C6-10アリールC1-4アルキル)、(メタ)アクリル酸フェノキシアルキル(例えば、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等の(メタ)アクリル酸フェノキシC1-4アルキル)等]、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル[例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル(例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシC1-12アルキル)等]、アルコキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル[例えば、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル(例えば、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル等のメタクリル酸C1-12アルコキシC1-12アルキル等)]、グリシジル基を有する(メタ)アクリル酸エステル(例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル等)等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
第1実施形態のアクリル系ポリマーは、これらの中で、メタクリル酸エステル由来の構成単位を含むことが好ましく、メタクリル酸アルキルエステル由来の構成単位を含むことがより好ましい。メタクリル酸アルキルエステルとしては、メタクリル酸C1-18アルキルが好ましく、メタクリル酸C1-10アルキルがより好ましく、メタクリル酸C1-4アルキルが更に好ましく、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
【0032】
第1実施形態のアクリル系ポリマーが(メタ)アクリル酸エステル(例えば、メタクリル酸アルキルエステル)由来の構成単位を含む場合、当該構成単位の含有割合は、10質量%以上(例えば、20質量%以上)の範囲から選択でき、好ましくは30質量%以上(例えば、40質量%以上)、更に好ましくは50質量%以上(例えば、55質量%以上)であってもよく、60質量%以上、70質量%以上等であってもよい。(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位の含有割合の上限は、特に限定されないが、例えば95質量%以下とすることができる。
【0033】
第1実施形態のアクリル系ポリマーは、必要に応じて、(メタ)アクリル酸エステル以外の他の重合性単量体(モノマー)由来の構成単位を含んでいてもよい。すなわち、第1実施形態のアクリル系ポリマーは、共重合体でもよい。このような他のモノマーとしては、例えば、酸基含有モノマー(メタクリル酸、アクリル酸等)、スチレン系モノマー[例えば、スチレン、ビニルトルエン、置換基(例えば、ハロゲン基、アルコキシ基、アルキル基、ヒドロキシ基等)を有するスチレン(例えば、α―メチルスチレン、クロロスチレン等)、スチレンスルホン酸又はその塩等]、ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル等)、不飽和ニトリル(例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等)、オレフィン系モノマー(例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、1-オクテン等のC2-10アルケン)、アミド基含有ビニル系単量体[例えば、(メタ)アクリルアミド、N-置換(メタ)アクリルアミド(例えば、N-メチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド;N-シクロヘキシル(メタ)アクリルアミド等のN-シクロアルキル(メタ)アクリルアミド;N-フェニル(メタ)アクリルアミド等のN-アリール(メタ)アクリルアミド;N-ベンジル(メタ)アクリルアミド等のN-アラルキル(メタ)アクリルアミド等)等]、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エステル(例えば、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル等のアルキルエステル)等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
アクリル系ポリマーが共重合体である場合、当該アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリル酸エステルに加えて、負の位相差を与える構成単位をさらに含んでもよい。「負の位相差を与える構成単位」とは、アクリル系ポリマーが単独のアクリル系共重合体である場合、当該ポリマーの面方向の位相差に負の寄与をする構成単位を意味する。なお、アクリル系モノマーもまた、負の位相差を与える構成単位として機能し得る。アクリル系ポリマーは、負の位相差を与える構成単位として、例えば、アクリル系モノマーと、スチレン系モノマー由来の構成単位とを含むことが好ましい。負の位相差を与える構成単位として、(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位と、スチレン由来の構成単位をさらに含むことがより好ましい。
【0035】
第1実施形態のアクリル系ポリマーが他のモノマー(例えば、スチレン系モノマー)由来の構成単位を含む場合、当該構成単位の含有割合は、例えば、20質量%以下(例えば、15質量%)の範囲から選択でき、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下であってもよい。他のモノマー由来の構成単位の含有割合の下限は、特に限定されないが、例えば0.5質量%以上とすることができる。他のモノマー(例えば、スチレン系モノマー)由来の構成単位を含む場合、当該構成単位の含有割合が上記の範囲であれば高度に複屈折が制御されると共に耐候性に優れたアクリル樹脂(アクリル系ポリマー)を得ることができる。
【0036】
第1実施形態のアクリル系ポリマーは、環構造を有してもよい。当該環構造は、アクリル系ポリマーの主鎖が有することが好ましい。この場合、アクリル系ポリマーは、主鎖環構造を有する。上記環構造は、4員環構造、5員環構造、6員環構造、7員環構造、8員環構造等のいずれでもよく、好ましくは5員環構造または6員環構造である。当該環構造は、アクリル系ポリマーにおいて正の位相差を与える構造でもよい。「正の位相差を与える環構造」は、アクリル系ポリマーが単独のアクリル系共重合体である場合に、その面方向の位相差に正の寄与をする環構造である。アクリル系ポリマーが、正の位相差を与える環構造と、負の位相差を与える構成単位とを有する場合、当該環構造と当該構成単位とが、アクリル系ポリマーにおける面方向の位相差を容易に相殺できる。
【0037】
環構造としては、例えば、ラクトン環構造、環状イミド構造(例えば、N-置換マレイミド単量体由来の構造、グルタルイミド構造等)、環状アミド構造(例えば、ラクタム構造等)、無水酸構造(例えば、無水マレイン酸単量体由来の構造、無水グルタル酸構造)等が挙げられる。なお、これらの他の環構造は、特に限定されず、公知の刊行物に開示された構造(例えば、特開2006-309033号公報等に開示されたグルタルイミド構造、特開2006-283013号公報等に開示された無水グルタル酸構造等)であってもよい。これらは1種単独であってもよく、2種以上であってもよい。
【0038】
耐水性、耐湿熱性の観点から、ラクトン環構造、環状イミド構造(例えば、N-置換マレイミド単量体由来の構造、グルタルイミド構造等)、環状アミド構造(例えば、ラクタム構造等)が好ましい。
【0039】
第1実施形態のアクリル系ポリマーが環構造を有する場合、当該環構造の含有割合は、用途や所望の物性等に応じて選択でき、特に限定されないが、例えば耐熱性や強度向上の観点から0.1質量%~90質量%(例えば0.5質量%~70質量%)の範囲から選択でき、1質量%~60質量%、3質量%~50質量%、5質量%~45質量%、7質量%~40質量%、9質量%~30質量%であってもよい。
【0040】
ラクトン環構造としては、特に限定されず、例えば、4から8員環であってもよいが、環構造の安定性に優れることから5員環又は6員環であることが好ましく、6員環であることがより好ましい。
【0041】
ラクトン環構造としては、例えば、以下の式(1)で表される構造等が挙げられる。
【0042】
【化1】
(式中、R
1、R
2及びR
3は、互いに独立して、水素原子又は置換基である。)
【0043】
式(1)において、置換基としては、例えば、炭化水素基等の有機残基等が挙げられる。
当該炭化水素基としては、例えば、脂肪族基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のC1-20アルキル基、エテニル基、プロペニル基等のC2-20不飽和脂肪族炭化水素基等)、芳香族基(例えば、フェニル基、ナフチル基等のC6-20芳香族炭化水素基等)等が挙げられる。
【0044】
上記炭化水素基は、酸素原子を含んでいてもよく、水素原子の一つ以上が、水酸基、カルボキシル基、エーテル基及びエステル基から選ばれる少なくとも1種類の基により置換されていてもよい。
【0045】
式(1)において、R3が水素原子又はメチル基、R1及びR2がそれぞれ独立して水素原子又はC1-20アルキル基であると好ましく、R3が水素原子又はメチル基、R1及びR2がそれぞれ独立して水素原子又はメチル基であるとより好ましい。
【0046】
ラクトン環構造は、式(1)で表される構造を1種又は2種以上含んでいてもよい。
【0047】
第1実施形態のアクリル系ポリマーがラクトン環構造を有する場合、当該ラクトン環構造の含有割合は、用途や所望の物性等に応じて選択でき、特に限定されないが、例えば0.1質量%~90質量%(例えば0.5質量%~70質量%)の範囲から選択でき、1質量%~60質量%、3質量%~50質量%、5質量%~40質量%、7.5質量%~30質量%であってもよい。
【0048】
ラクトン環構造の含有割合が大きくなると、耐熱性、硬度(強度)、耐溶剤性、表面硬度、寸法安定性等の点で好ましい。
【0049】
式(1)で表されるラクトン環構造の形成方法は、特に限定されない。ラクトン環構造は、例えば、共重合体の製造過程で分子鎖中に存在するヒドロキシ基とエステル基とが環化縮合することによって形成されてもよい。具体例としては、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エステル及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含む重合成分を重合した後に、分子内エステル交換反応により環化する方法等が挙げられる。
【0050】
N-置換マレイミド単量体由来の構造としては、例えば、以下の式(2)で表される構造が挙げられる。
【化2】
(式中、R
4、R
5は互いに独立して水素原子又はメチル基であり、R
6は置換基であり、X
2は窒素原子であり、n=1である。)
【0051】
式(2)のR6において、置換基としては、例えば、炭化水素基等が挙げられる。
【0052】
当該炭化水素基としては、例えば、脂肪族基{例えば、アルキル基[例えば、C1-6直鎖アルキル基(例えば、メチル基、エチル基等)、C1-6分岐アルキル基(例えば、イソプロピル基等)等のC1-6アルキル基等]等}、脂環族基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のC3-20シクロアルキル基等)、芳香族基{例えば、C6-20芳香族基[例えば、C7-20アラルキル基(例えば、ベンジル基等)、C6-20アリール基(例えば、フェニル基等)]}等が挙げられる。炭化水素基は、さらにハロゲン等の置換基を有していてもよい。
【0053】
式(2)において、好ましくは、R4及びR5がそれぞれ独立して水素原子、R6がC3-20シクロアルキル基又はC6-20芳香族基であってもよく、より好ましくはR4及びR5がそれぞれ独立して水素原子、R6がシクロヘキシル基、ベンジル基又はフェニル基であってもよい。透明性の観点から、R6がシクロヘキシル基であることが好ましい。
【0054】
環構造は、式(2)で表される構造を1種又は2種以上有していてもよい。
【0055】
第1実施形態のアクリル系ポリマーは、上記環構造の中で、ラクトン環構造を有することがより好ましい。アクリル系ポリマーがラクトン環構造を有することにより、アクリル系ポリマーにおいて種々の物性[例えば、耐熱性、耐湿熱性、硬度(強度)、耐溶剤性、表面硬度、酸素及び/又は水蒸気のバリヤ性、光学特性、寸法安定性、形状安定性等]を、付与、改善又は向上し得る。
【0056】
第1実施形態のアクリル系ポリマーは、重合の際に使用する成分等に由来の原子や基を有していてもよい。例えば、アクリル系ポリマーは、連鎖移動剤由来の硫黄原子を含有してもよい。しかし、着色低減等の観点から、硫黄原子を実質的に含有しないことが望ましい。
【0057】
アクリル系ポリマーが、共重合体であるとき、共重合の形態は特に限定されない。アクリル系ポリマーは、ランダム共重合体でもよく、ブロック共重合体でもよく、交互共重合体でもよく、グラフト共重合体等でもよい。
【0058】
アクリル系ポリマーが共重合体である場合、当該アクリル系ポリマーから形成されるフィルムの面方向の厚さ100μmあたりの位相差(第1位相差)は、10nmでもよく、7nm以下でもよく、5nm以下でもよく、3nm以下でもよい。この場合、屈折率の異方性を良好に抑制できる。上記第1位相差と、上記フィルムを1.5倍延伸した後の面方向の厚さ100μmあたりの位相差(第2位相差)との差は、20nm以下でもよく、15nm以下でもよく、10nm以下でもよく、5nm以下でもよい。上記第1位相差と上記第2位相差との差が20nm以下であることにより、上記アクリル系ポリマーの成形物の機械的強度を向上できる。面方向の位相差は、複屈折の指標の一つとして用いられ得る。
【0059】
溶融流動性の観点から、第1実施形態におけるアクリル系ポリマーのメルトフローレートは、温度230℃及び荷重37Nにおいて、3.0g/10分以上8.0g/10分以下でもよい。上記メルトフローレートは、3.5g/10分以上7.8g/10分以下であると好ましく、4.0g/10分以上7.6g/10分以下であるとより好ましい。メルトフローレートは、JIS K 7210 A法に準拠して測定してもよい。
【0060】
アクリル系ポリマーのメルトフローレートが3.0g/10分以上8.0g/10分以下である場合、当該アクリル系ポリマーは、環構造の有無にかかわらず、比較的高い溶融流動性を実現しうる。溶融流動性に優れる(高い溶融流動性を有する)ことにより、成形(特に、射出成形)時の着色を低減できる。このため、黄色度が小さい成形体を効率よく製造できる。溶融流動性が高いことにより、より低温での成形加工が可能となる。よって、成形工程における熱履歴を抑制できる。このため、成形品の着色を低減しうる。加えて、熱履歴の抑制によって樹脂の分解が抑えられるので、気泡の含有が少ない成形体を製造可能である。射出装置の昇温降温工程に要する時間を短縮できることから、生産性向上が期待できる。
【0061】
第1実施形態のアクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、例えば、10,000以上2,000,000以下である。アクリル系ポリマーのMwの上限は、1,800,000でもよいし、1,500,000でもよいし、1,000,000でもよいし、500,000でもよいし、300,000でもよいし、200,000でもよい。アクリル系ポリマーのMwの下限は、50,000でもよいし、70,000でもよいし、80,000でもよい。アクリル系ポリマーの成形性が優れる等の観点から、アクリル系ポリマーのMwは、50,000以上300,000以下であると好ましく、60,000以上200,000以下であるとより好ましく、70,000以上180,000以下であると更に好ましい。
【0062】
第1実施形態のアクリル系ポリマーの分子量分布(Mw/Mn)は、溶融流動性や成形体の強度等の観点から、例えば、1~10(例えば、1.1~7.0)、好ましくは1.2~5.0(例えば、1.5~4.0)程度であってもよく、1.5~3.0程度であってもよい。
【0063】
分子量(及び分子量分布)は、例えば、GPCを用い、ポリスチレン換算により測定してもよく、実施例に記載の方法で測定してもよい。
【0064】
第1実施形態のアクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、110℃以上であり、115℃以上であると好ましく、120℃以上であるとより好ましい。Tgが上記範囲であると耐熱性に優れる。アクリル系ポリマーのTgの上限は特に限定されないが、例えば200℃以下とすることができる。Tgは、例えば、下記実施例に記載の方法により測定される。
【0065】
第1実施形態のアクリル系ポリマーの黄色度は、例えば、3.5以下であると好ましく、2以下であるとより好ましく、1.7以下であると更に好ましく、1.5以下であると特に好ましい。黄色度は、例えば、実施例に記載の方法により測定してもよい。
【0066】
第1実施形態のアクリル系ポリマーの応力光学係数(Cr)の絶対値は、15×10-11Pa-1以下である。当該絶対値は、10×10-11Pa-1以下、5×10-11Pa-1以下、又は、2×10-11Pa-1以下であると好ましい。応力光学係数は、例えば、下記実施例に記載の方法により測定される。
【0067】
第1実施形態のアクリル系ポリマーの光弾性係数(Cd)の絶対値は、例えば、10×10-12Pa-1以下である。当該絶対値は、7×10-12Pa-1以下が好ましく、4×10-12Pa-1以下がより好ましい。光弾性係数は、例えば、下記実施例に記載の方法により測定される。
【0068】
第1実施形態のアクリル系ポリマーの全光線透過率は、例えば、85%~100%であると好ましく、87.5%~99%であるとより好ましく、90%~98%であると更に好ましい。全光線透過率は、例えば、下記実施例に記載の方法により測定される。
【0069】
アクリル系ポリマーは、慣用の方法により製造してもよい。もしくは、特に、後述の方法により製造してもよい。
【0070】
[アクリル系ポリマーの製造方法]
第1実施形態のアクリル系ポリマーの製造方法は、モノマーを分割添加、又は滴下しながら重合を行う重合工程を備える。当該製造方法により得られるアクリル系ポリマーにおいて、物性、構成単位の種類や割合、これらの好ましい態様等は、上記第1実施形態のアクリル系ポリマーについて例示したとおりであってもよい。
【0071】
重合は、通常、ラジカル重合であってもよい。重合は、重合開始剤(特にラジカル重合開始剤)の存在下で行ってもよい。
【0072】
ラジカル重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、有機過酸化物[例えば、パーオキシド(ジアルキルパーオキシド、ジアシルパーオキシド等)、パーオキシモノカーボネート、パーオキシエステル、パーオキシケタール等]、アゾ化合物等が含まれる。
【0073】
重合開始剤の具体例としては、有機過酸化物[例えば、tert―アミルパーオキシイソノナノエート、t―アミルパーオキシ―2―エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサネート、tert-ブチルパーオキシラウレート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、tert-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、tert-ブチルパーオキシアセテート、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、tert-ブチルパーオキシ2-エチルヘキサネート、tert-ブチルパーオキシイソブチレート、tert-ヘキシルパーオキシ2-エチルヘキサネート、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン等]、アゾ化合物[例えば、2-(カルバモイルアゾ)-イソブチロニトリル、1,1'-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、ジメチル2,2'-アゾビスイソブチレート、2、2'-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2、2'-アゾビス(2-メチルプロパン)等]等が挙げられる。
【0074】
重合開始剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。特に、重合開始剤として、少なくとも有機過酸化物(パーオキシエステル等)を好適に使用してもよい。重合開始剤の使用量(使用割合)は、重合開始剤の種類等にもよるが、例えば、重合成分100質量部に対して、0.05質量部以上5質量部以下、0.1質量部以上3質量部以下、又は0.15質量部以上2質量部以下とすることができる。
【0075】
重合は、チオール化合物等の連鎖移動剤の存在下で行ってもよい。第1実施形態では、着色低減の観点などから重合成分100質量部に対する連鎖移動剤の使用割合を比較的小さく、例えば、0.5質量部以下、0.1質量部以下(例えば、0.001~0.1質量部)などとしてもよい。第1実施形態では、着色低減の観点などから重合成分100質量部に対する連鎖移動剤の使用割合を比較的小さく、例えば、0.5質量部以下、0.1質量部以下(例えば、0.001~0.1質量部)などとしてもよい。第1実施形態では、アクリル系ポリマーの着色低減等の観点から、連鎖移動剤を用いずに重合を行うことが好ましい。第1実施形態のアクリル系ポリマーの製造方法によれば、連鎖移動剤を用いなくとも、又は使用割合を比較的小さくしても、アクリル系ポリマーの流動性を調整することができる。
【0076】
重合は、必要に応じて、重合開始剤や連鎖移動剤の他、他の成分(例えば、pH調整剤、各種触媒等)の存在下で行ってもよい。
【0077】
重合は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等のいずれであってもよく、特に、不純物を含まず、流動性の安定したポリマーを得る等の観点から溶液重合であってもよい。溶液重合に用いる溶媒は、重合成分の種類等に応じて、従来公知の溶媒から適宜選択することができる。
【0078】
なお、各成分(例えば、重合成分、重合開始剤、連鎖移動剤、その他の成分、溶媒等)は、重合開始の段階ですべて反応系(反応器)に存在させて(仕込んで)もよく、重合の進行とともに添加(又は混合)してもよく、これらを組み合わせてもよい。このような場合、各成分の添加速度や添加時間は、適宜選択できる。
【0079】
各成分は、複数回(2回以上、例えば、2~5回等)に分割して反応系に添加してもよい。特に、重合成分(モノマー)を重合の進行とともに反応系に添加してもよく、その場合、重合成分を複数回に分割して添加してもよいし、重合成分を滴下させてもよい。重合成分を滴下によって反応系に添加すると、比較的分子量分布の狭いアクリル系ポリマーを得やすい。
【0080】
重合開始剤は、重合の進行とともに反応系に添加されてもよい。特に、重合成分を滴下によって反応系に添加する場合、重合開始剤も滴下によって反応系に添加することが好ましい。なお、重合開始の段階から存在させる重合成分の割合と、分割添加又は滴下させる重合成分との割合は、重合成分の反応性等に合わせて適宜設定することができる。滴下によって重合成分及び/又は重合開始剤を添加する場合、滴下速度は、特に限定されない。比較的分子量の小さいアクリル系ポリマーを得やすい等の観点から、ゆっくりと添加することが好ましく、1時間以上(例えば、1~10時間等)かけて添加してもよい。
【0081】
重合温度、重合時間等の諸条件は、重合成分、重合開始剤、溶媒の種類等に応じて適宜選択でき、例えば、20℃以上180℃以下、0.5時間以上24時間以下、窒素等の不活性雰囲気下の条件で反応を行うことができる。
【0082】
アクリル系ポリマーがラクトン環構造を有する場合、ラクトン環構造は、上記のような重合とともに形成されてもよく、重合後、更に環構造を形成又は導入する工程を経てアクリル系ポリマーに形成又は導入できる。ラクトン環構造の形成又は導入する方法としては、特に限定されず、公知の方法に従うことができる。
【0083】
ラクトン環構造は、例えば、ラクトン環の原料となるモノマー[例えば、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エステル及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル]由来の構成単位を含む重合体を、分子内エステル交換反応により、環化(環化縮合、環化処理)することで、形成又は導入できる。環化は、環化触媒[例えば、リン系触媒(例えば、リン酸ステアリル等のリン酸エステル)]の存在下で行ってもよい。
【0084】
このような重合工程(及び必要に応じて環化工程)を経て、アクリル系ポリマーが得られる。なお、重合工程を経て得られたアクリル系ポリマーは、適宜、慣用の手法にて精製、分離等してもよい。
【0085】
(アクリル系ポリマーの組成物)
アクリル系ポリマーの組成物において、樹脂成分は、1種又は2種以上の上述のアクリル系ポリマーのみで構成されていてもよく、上述の第1アクリル系ポリマーと他のポリマーとを組み合わせて構成されていてもよい。他のポリマーとしては、所望の物性、用途等に応じて適宜選択できる。すなわち、他のポリマーは、特に限定されず、熱可塑性ポリマーであってもよく、硬化性ポリマーであってもよく、これらを組み合わせてもよい。他のポリマーは、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。他のポリマーには、上述した第1アクリル系ポリマーの範囲から外れるアクリル系ポリマー(第2アクリル系ポリマー)も含まれる。第2アクリル系ポリマーは、「ガラス転移温度が110℃以上であり、且つ応力光学係数の絶対値が15×10-11Pa-1以下」を満たさないアクリル系ポリマーであり、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルアクリレート等、(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位(その他共重合可能なモノマー単位を含んでいてもよい)を有するアクリル系ポリマーである。アクリル系ポリマーの組成物がアクリル系ポリマーのみで構成されている場合、当該組成物は、上記第1アクリル系ポリマーと、上記第2アクリル系ポリマーとの両方が含まれてもよい。
【0086】
他のポリマーの具体例としては、オレフィン系ポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)等)、ハロゲン系ポリマー(例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル等のハロゲン化ビニル系ポリマー)、スチレン系ポリマー[例えば、ポリスチレン、スチレン系共重合体(例えば、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(ABS樹脂)、アクリレート-スチレン-アクリロニトリル共重合体(ASA樹脂)等)等]、ポリエステル系ポリマー(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の芳香族ポリエステル)、ポリアミド系ポリマー(例えば、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610等の脂肪族ポリアミド系ポリマー)、ポリアセタール系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、ポリフェニレンオキシド系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリスルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ゴム質重合体[例えば、ゴム(ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴム等)を配合したスチレン系ポリマー(例えば、ABS樹脂、ASA樹脂等のスチレン系共重合体)等]、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有する重合体ブロックと芳香族ビニル単量体由来の単位を有する重合体ブロックを有する共重合体[例えば、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-ブタジエン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(SBS)等]、セルロース系ポリマー(セルロース誘導体)、熱可塑性エラストマー(スチレン系エラストマー等)等が挙げられる。
【0087】
なお、組成物において、上述のアクリル系ポリマーと他のポリマーとの存在形態は、特に限定されず、ポリマーブレンドであってもよく、上述のアクリル系ポリマーと他のポリマーとが化学的に結合していてもよい。この場合、第1アクリル系ポリマーと他のポリマーとによって、ブロック共重合体、グラフト共重合体等が形成されてもよい。アクリル系ポリマーの組成物がアクリル系ポリマーのみで構成されている場合、第1アクリル系ポリマーと、第2アクリル系ポリマーとは、互いに化学的に結合してもよい。この場合、第1アクリル系ポリマーと第2アクリル系ポリマーとによって、ブロック共重合体、グラフト共重合体等が形成されてもよい。
【0088】
組成物が、上記アクリル系ポリマーに加えて他のポリマーを含む場合、他のポリマーの含有割合は、樹脂成分中、例えば、90質量%以下(例えば、0.1~85質量%)程度の範囲から選択でき、80質量%以下(例えば、0.5~70質量%)、好ましくは60質量%以下(例えば、1~55質量%)程度であってもよく、50質量%以下(例えば、2~45質量%)等であってもよい。
【0089】
組成物は、必要に応じて他の成分(添加剤)を含んでいてもよい。他の成分としては、特に限定されず、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、安定剤、補強材、難燃剤、帯電防止剤、有機フィラー、無機フィラー、ブロッキング防止剤、樹脂改質剤、有機充填剤、無機充填剤、可塑剤、滑剤、位相差低減等が挙げられる。他の成分は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0090】
組成物が他の成分(非樹脂成分)を含む場合、他の成分の割合は、組成物中に、例えば、0.01~10質量%(例えば、0.05~5質量%)程度であってもよい。
【0091】
組成物(又は樹脂)の重量平均分子量、メルトフローレート、ガラス転移温度、黄色度、全光線透過率等は、上述のアクリル系ポリマーと同様であってもよく、異なっていてもよい。また、組成物(又は樹脂)から形成されるフィルムの上記第1位相差と、当該第1位相差と上記第2位相差との差は、上述のアクリル系ポリマーと同様であってもよく、異なっていてもよい。
【0092】
第1実施形態では、パッシブ光学素子4は、ガラス転移温度が110℃以上であり、且つ、応力光学係数の絶対値が15×10-11Pa-1以下であるアクリル系ポリマーの成形体である。この場合、パッシブ光学素子4に入射した光の複屈折が実質的に発生しないので、パッシブ光学素子4を透過する光の減衰を好適に低減できる。したがって、パッシブ光学素子4を用いた空中ディスプレイ1においては、空中映像の明るさを向上可能である。
【0093】
第1実施形態では、温度230℃、荷重37Nで測定したアクリル系ポリマーのメルトフローレートは、3.0g/10分以上8.0g/10分以下でもよい。この場合、上記アクリル系ポリマーの溶融流動性が高いことにより、パッシブ光学素子4の成形時における着色を低減できる。このため、透明な成形体を効率よく製造できる。加えて、熱履歴の抑制によって樹脂の分解が抑えられるので、気泡の含有が少ない成形体を製造可能である。
【0094】
第1実施形態では、アクリル系ポリマーが、正の位相差を与える環構造と、負の位相差を与える構成単位とを含んでもよい。この場合、上記環構造と上記構成単位とが、アクリル系ポリマーにおける面方向の位相差を容易に相殺できる。したがって、当該アクリル系ポリマーの成形物を透過する光に位相差が生じにくくなる。なお、上記環構造は、アクリル系ポリマーの主鎖環構造でもよい。
【0095】
(第2実施形態)
以下では、第2実施形態に係る空中ディスプレイについて説明する。以下の説明において、第1実施形態と重複する箇所の説明は省略する。したがって以下では、上記第1実施形態と異なる箇所を主に説明する。
【0096】
図5(a)は、第2実施形態に係る空中ディスプレイの模式図であり、
図5(b)は、
図5(a)の空中ディスプレイ内部における偏光の変化を示す模式図である。
図5(a)及び
図5(b)に示されるように、空中ディスプレイ1Aは、光路D2に沿って順に配置される光源2Aと、パッシブ光学素子4と、λ/4板5Aと、偏光子6とを有する。すなわち、第2実施形態に係る空中ディスプレイ1Aは、第1実施形態に係る空中ディスプレイ1と異なり、第1のλ/4板3を有さない。
図5(b)に示されるように、光源2Aは、円偏光である光L11A,L11Bをパッシブ光学素子4に向けて出射する。光路D2において、光源2Aとパッシブ光学素子4との間には、光の偏光状態を変化させる光学素子が設けられない。このため、パッシブ光学素子4には、円偏光が入射する。
【0097】
図5(b)において、光L11Aは光源2Aから出射する光の一部であり、パッシブ光学素子4にて2回反射する光である。一方、光L11Bは光源2Aから出射する光の別の一部であり、パッシブ光学素子4にて奇数回反射する光である。また、パッシブ光学素子4にて2回反射した後にパッシブ光学素子4を透過する光を光L12とし、パッシブ光学素子4にて奇数回反射した後にパッシブ光学素子4を透過する光を光L12inとする。光L12と光L12inとのそれぞれは、光L11A,L11Bと同じく円偏光である。光L12の回転方向と光L12inの回転方向とは、互いに反対方向である。
【0098】
λ/4板5Aは、パッシブ光学素子4を透過した光L12,L12inが入射される光学素子であり、光路D2においてパッシブ光学素子4と偏光子6との間に配置される。λ/4板5Aは、例えば偏光子6の表面に形成されてもよいし、パッシブ光学素子4の出射側表面に形成されてもよい。さらにはパッシブ光学素子4の出射側表面にλ/4板5、偏光子6の順に積層成形されてもよい。
図5(b)に示されるように、光L12,L12inのそれぞれは、λ/4板5Aを透過することによって直線偏光(光L13,L13in)になる。光L13はS偏光であり、光L13inはP偏光である。このため、光L13は偏光子6を透過する一方で、光L13inは偏光子6を透過しない。
【0099】
以上に説明した第2実施形態に係る空中ディスプレイ1Aにおいても、上記第1実施形態と同様の作用効果が奏される。加えて第2実施形態では、第1実施形態よりも光学素子の数を低減できる。したがって第2実施形態では、第1実施形態よりもコストダウンが可能になる。
【0100】
以上の実施形態は、本発明の一側面を説明したものである。したがって、本発明は、上記実施形態に限定されることなく変形され得る。
【0101】
上記実施形態では、パッシブ光学素子として2つのシート部を90°ずらして貼り合わせた積層構造体が用いられるが、これに限られない。
図6(a)は、変形例に係るパッシブ光学素子を示す概略斜視図であり、
図6(b)は、
図6(a)の一部を拡大した概略斜視図である。
図6(a)に示されるように、パッシブ光学素子4Aは、基板11Aと、基板11Aに設けられる複数の貫通孔30とを有する。本変形例では、複数の貫通孔30はマトリックス状に設けられるが、これに限られない。複数の貫通孔30のそれぞれは、例えば平面視にて正方形状を有する。平面視における複数の貫通孔30の一辺は、基板11Aの厚さと等しくてもよいし、当該厚さと異なってもよい。複数の貫通孔30のそれぞれは、2面コーナーリフレクタとして機能し、例えば互いに垂直な関係にある2つの内壁を第1反射面31、第2反射面32としている。他の2つの内壁33、34は、光線を反射させない非反射面とされてもよい。パッシブ光学素子4Aに入射した光(より具体的には、貫通孔30に入射した光)の少なくとも一部は、第1反射面31及び第2反射面32に反射した上で、パッシブ光学素子4Aから出射する。このようなパッシブ光学素子4Aを用いた場合であっても、上記実施形態と同様の作用効果が奏される。なお本明細書では、パッシブ光学素子4Aの貫通孔30を通過した光は、パッシブ光学素子を透過した光の一つとされる。
【0102】
上記第1実施形態では、光源はS偏光を出射するが、これに限られない。例えば、光源はP偏光を出射してもよい。この場合、偏光子がP偏光のみを透過することによって、上記第1実施形態と同様の作用効果が奏される。上記第2実施形態においても、偏光子がP偏光のみを透過してもよい。
【実施例】
【0103】
以下に、実施例を示すことにより本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは全て本発明の技術的範囲に包含される。
【0104】
(1) 分析方法
(1-1) 重量平均分子量(Mw)
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。測定に用いた装置及び測定条件は以下のとおりである。
-システム:東ソー社製GPCシステム HLC-8220
-測定側カラム構成
ガードカラム:東ソー社製、TSKguardcolumn SuperHZ-L
分離カラム:東ソー社製、TSKgel SuperHZM-M 2本直列接続
-リファレンス側カラム構成
リファレンスカラム:東ソー社製、TSKgel SuperH-RC
-展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業社製、特級)
-展開溶媒の流量:0.6mL/分
-標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー社製、PS-オリゴマーキット)
-カラム温度:40℃
【0105】
(1-2) メルトフローレート(MFR)
メルトフローレートは、JIS K 7210 A法に準拠して、温度230℃、荷重3.8kgf(37N)で測定した。
【0106】
(1-3) ガラス転移温度(Tg)
ガラス転移温度は、JIS K 7121の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク社製、Thermo plus EVO DSC-8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスには、α-アルミナを用いた。
【0107】
(1-4) アクリル系ポリマーの黄色度(YI)
アクリル系ポリマーの黄色度は、JIS K 7373の規定に準拠して求めた。具体的には、分光光度計(島津製作所社製、UV-3600)を用い、スリット幅8.0、視野角2°、C2度光源、波長380nm~780nmの範囲で、アクリル系ポリマー10.0gをクロロホルム40.0gに溶解した20質量%の溶液を、10センチのセルを用いて測定した。
【0108】
(1-5) 成形体の黄色度(YI)
成形体の黄色度は、分光光度計(島津製作所社製、UV-3600)を用い、スリット幅8.0、視野角2°、C2度光源、波長380nm~780nmの範囲で、JIS K7373の規定に準拠し、厚さ3mmの成形体を測定した。成形体は、得られたペレットを100℃で12時間以上乾燥した後、射出成形機(日精樹脂社製、NS40-5A)を用い、成形温度215℃、金型温度70℃、金型サイズ100mm×100mm×厚さ3mmにて作製した。
【0109】
(1-6) 応力光学係数(Cr)
応力光学係数Crは、以下のように評価した。評価対象のアクリル系ポリマーを溶融プレスによりフィルムに成形して未延伸フィルム(厚さ100μm)を作製した。次に、作製した未延伸フィルムを60mm×20mmの長方形に切り出して評価試料とし、1N/mm2以下の応力が試料に加わるように選択した錘を、試料の短辺の一つに取り付けた。次に、取り付けた錘が下端となるように、試料を定温乾燥機(DOV-450A、アズワン社製)にチャック間40mmでセットした。定温乾燥機の設定温度を評価対象のアクリル系ポリマーのTg+3℃とし、試料をセットする前に、定温乾燥機を当該温度にまで予熱しておいた。試料をセットした後、定温乾燥機の設定温度を変化させることなく約30分間保持することにより、取り付けた錘の荷重に基づく試料の一軸延伸を実施した。次に、定温乾燥機を、機内の温度がアクリル系ポリマーのTg-40℃になるまで、約1℃/分の冷却速度で冷却した。冷却後、フィルムを乾燥機から取り出し、延伸後のフィルムの長さ及び厚さ、錘の重量、並びに延伸後のフィルムの波長590nmの光に対する面内位相差Reを、以下に示す方法で測定した。
同様の測定を、錘の重さを変えながら一つのアクリル系ポリマーに対して計4回実施し、その結果から、アクリル系ポリマーの応力光学係数Crを算出した。Crの算出方法は、『透明プラスチックの最前線(高分子学会編)』のpp.37-44に記載されている方法に従った。具体的には、延伸後のフィルムの面内位相差Re及び厚さから当該フィルムのΔn(=nx-ny)を、錘の重さ並びに延伸後のフィルムの長さ及び厚さから、延伸時にフィルムに加わった延伸応力σ(単位:N/m2)を求め、4回の測定により得られたそれぞれのΔn及びσを、Δnを縦軸の値、σを横軸の値として座標を定め、これをプロットした。次に、プロットした4点を結ぶ近似直線の傾きを最小二乗法により求め、これをアクリル系ポリマーのCrとした。
【0110】
(1-7) 光弾性係数(Cd)
光弾性係数(Cd)は、以下のように評価した。まず、アクリル系共重合体または樹脂組成物を溶融押出成形して厚さ100μmの未延伸フィルムを得た。次に、当該未延伸フィルムを40mm×10mmの長方形に切り出し、試験片を作成した。次に、引張試験機を設置した位相差フィルム・光学材料検査装置(大塚電子社製、RETS-100)に、試験片をチャック間距離30mmで装着した。23℃にて試験片に伸張応力(σR)を印加しながら(チャック移動速度5mm/分)、波長590nmの光に対する試験片の複屈折を測定した。次に、測定した複屈折の絶対値(|Δn|)と、試験片に印加した伸張応力(σR)との関係から、最小二乗法により傾き|Δn|/σRを求めることによって、光弾性係数(Cd)を算出した。(なお、Cd=|Δn|/σRである)。Cdの算出には、伸張応力が2.5MPa≦σR≦10MPaの範囲のデータを用いた。|Δn|は、|Δn|=|nx-ny|である。
【0111】
(1-8) 面内位相差(Re)
フィルム、または成形体の波長590nmの光に対する面内位相差Reは、位相差フィルム・光学材料検査装置RETS-100(大塚電子製)を用いて測定した。面内位相差Reは、フィルムの面内における遅相軸方向(フィルム面内において最大の屈折率を示す方向)の屈折率をnx、フィルムの面内における進相軸方向(フィルム面内においてnxと垂直な方向)の屈折率をny、フィルムの厚さ方向の屈折率をnz、フィルムの厚さをdとして、下記式により与えられる。
Re=(nx-ny)×d
【0112】
(1-9) 全光線透過率
全光線透過率は、濁度計(日本電色工業社製、NDH 5000)を用い、JIS K7361の規定に準拠し、厚さ3mmの成形体を測定した。成形体は、得られたペレットを100℃で12時間以上乾燥した後、射出成形機(日精樹脂社製、NS40-5A)を用い、成形温度215℃、金型温度70℃、金型サイズ100mm×100mm×厚さ3mmにて作製した。
【0113】
(1-10) 空中ディスプレイの光路中に成形品を配置した際の空中映像の評価
まず、光源として携帯電話(Apple Inc.製、商品名「iPhone XS Max(登録商標)」)を準備した。次に、iPhone(登録商標)用の空中映像表示キット(株式会社コト製、商品名「AirWitch(登録商標)」)に光源を装着し、且つ、S偏光が反射型偏光板へ投影されるように当該光源上に偏光板を配置した。このとき、光源の厚さ方向が高さ方向に相当するように、光源が空中映像表示キットに装着される。続いて
図7に示されるように、空中映像表示キットに取り付けられたシートである再帰反射板151とプレートである反射型偏光板152との間に、略板状の成形体153(100mm×100mm×厚さ2.5mm)を取り外し可能に配置した。このとき、再帰反射板151による鏡面反射像と成形体153による鏡面反射像とが完全に重ならないようにし、これら2つの鏡面反射像を観察できるようにするため、再帰反射板151に対して成形体153を傾けた。具体的には、再帰反射板151と成形体153との最短距離が0mm以上、再帰反射板151と成形体153との最長距離が10mm以下、反射型偏光板152と成形体153とがなす角度が1°以上6°以下になるように、成形体153を配置した。以上により、光源120、再帰反射板151、反射型偏光板152、及び成形体153を含む第1空中ディスプレイ100を設置した。
【0114】
次に、第1空中ディスプレイ100の光源120に任意の写真を表示させた。この状態にて第1空中ディスプレイ100に表示される空中映像及び各鏡面反射像と、第1空中ディスプレイ100から成形体153を取り外した状態にて表示される空中映像及び各鏡面反射像とを観測した。そして、以下の項目について比較及び評価した。以下の評価は、無作為に選定された5人の観測者がそれぞれ個別に比較した結果が示される。例えば、観測者の過半数が「成形体の有無によって空中映像の観測結果に変化なし」と判断した場合、「変化なし」と評価される。
【0115】
(1-10-1) 空中映像の色ムラ変化
第1空中ディスプレイ100の正面、上側、下側、左側、右側、左斜め上側、右斜め上側、左斜め下側、右斜め上側の合計9か所において、成形体153の有無によって空中映像の色ムラに変化するか否かを観測した。それぞれの観察箇所において、成形体153の有無によって色ムラの変化が感じられなかった場合をAと評価し、成形体153の有無によって色ムラの変化が感じられた場合をBと評価した。色ムラの変化が感じられた場合は、例えば、虹模様が観測された場合、色変化のグラデーションが観測された場合等である。
【0116】
空中ディスプレイの正面からの観測は、光源の中心から光源の長辺方向に沿って約50cm~60cm離れ、且つ、高さ方向にて約40cm離れた位置からの観測である。空中ディスプレイの上側からの観測は、光源の中心から光源の長辺方向に沿って約50cm~60cm離れ、且つ、高さ方向にて約100cm離れた位置からの観測である。空中ディスプレイの下側からの観測は、光源の中心から光源の長辺方向に沿って約50cm~60cm離れ、且つ、高さ方向にて約0cm離れた位置からの観測である。空中ディスプレイの左側または右側からの観測は、光源の中心から光源の短辺方向に沿って約50cm~60cm離れ、且つ、高さ方向にて約40cm離れた位置からの観測である。空中ディスプレイの左斜め上側または右斜め上側からの観測は、光源の中心から光源の長辺方向に沿って約30cm~50cm離れ、当該中心から光源の短辺方向に沿って約30~50cm離れ、且つ、高さ方向にて約60cm離れた位置からの観測である。空中ディスプレイの左斜め下側または右斜め下側からの観測は、光源の中心から光源の長辺方向に沿って約30cm~50cm離れ、当該中心から光源の短辺方向に沿って約30~50cm離れ、且つ、高さ方向にて約0cm離れた位置からの観測である。
【0117】
(1-10-2) 空中映像の色調変化
第1空中ディスプレイ100にて表示される空中映像を正面から観測し、成形体153の有無で空中映像の色調に差を感じなかった場合をAと評価し、空中映像の色調に差を感じた場合をBと評価した。
【0118】
(1-10-3) 再帰反射板の鏡面反射像
第1空中ディスプレイ100を斜めから観察することにより、
図8に示されるように、空中映像201、反射型偏光板152を透過した鏡面反射像202、反射型偏光板152の脇から漏れる鏡面反射像203を同時に観察した。反射型偏光板152を透過した鏡面反射像202として、再帰反射板151による第1鏡面反射像202Aと、成形体153による第2鏡面反射像202Bとが観察された。このとき、空中映像201と、第1鏡面反射像202Aとが重なった領域210に注目して観察した。成形体153の有無にて空中映像201に差を感じられなかった場合をAと評価し、二重映像と認識できる程度の虚像を観測した場合をBと評価した。また、成形体153の有無にて空中映像201の明るさのみに差を感じた場合をZと評価した。なお、空中ディスプレイの斜めからの観測は、光源の中心から光源の長辺方向に沿って約30cm~50cm離れ、当該中心から光源の短辺方向に沿って約30~50cm離れ、且つ、高さ方向にて約40cm離れた位置からの観測である。
【0119】
(1-10-4) 成形体の鏡面反射像
上記「再帰反射板の鏡面反射像の観測」と同様に、第1空中ディスプレイ100を斜めから観察した。このとき、空中映像201と、第2鏡面反射像202Bとが重なった領域220に注目して観察した。成形体153の有無にて空中映像201に差を感じられなかった場合をAと評価し、二重映像と認識できる程度の虚像を観測した場合をBと評価した。また、成形体153の有無にて空中映像201の明るさのみに差を感じた場合をZと評価した。
【0120】
(1-11) 偏光サングラスを介して観測した空中映像の評価
まず、光源として携帯電話(Apple Inc.製、商品名「iPhone XS Max(登録商標)」)を準備した。次に、iPhone(登録商標)用の空中映像表示キット(株式会社コト製、商品名「AirWitch(登録商標)」)に光源を装着した。このとき、光源の厚さ方向が高さ方向に相当するように、光源が空中映像表示キットに装着される。続いて
図9に示すように、空中映像表示キットに取り付けられた反射型偏光板352上に、成形体353(100mm×100mm×厚さ2.5mm)を取り外し可能に配置した。以上により、光源320、再帰反射板351、反射型偏光板352、及び成形体353を含む第2空中ディスプレイ300を設置した。以下では、各観測者は、偏光サングラス360(型番:AC5509PL)を装着した上で、第2空中ディスプレイ300から表示される空中映像401を観察した。
【0121】
(1-11-1) 空中映像の色ムラ変化
第2空中ディスプレイ300の正面から、成形体353の有無によって空中映像401の色ムラに変化するか否かを観測した。成形体353の有無によって色ムラの変化が感じられなかった場合をAと評価し、成形体353の有無によって色ムラの変化が感じられた場合をBと評価した。
【0122】
(1-11-2) 空中映像の色調変化
第2空中ディスプレイ300にて表示される空中映像401を正面から観測し、成形体353の有無で空中映像401の色調に差を感じなかった場合をAと評価し、空中映像401の色調に差を感じた場合をBと評価した。
【0123】
(2) アクリル系ポリマーの製造
(2-1)実施例1[アクリル系ポリマー(A1)の製造]
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管及び滴下ポンプを備えた反応容器に、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(RHMA)5.40重量部、メタクリル酸メチル(MMA)37.6重量部、スチレン(St)0.450重量部、トルエン90.0重量部仕込み、窒素を通じつつ105℃まで昇温した。
初期開始剤として、トルエン3.63重量部、t-アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、ルペロックス(登録商標)570)0.245重量部からなる溶液を9分かけて滴下しながら105℃~110℃で溶液重合を行った。そして、その11分後に、滴下開始剤としてトルエン4.42重量部、t-アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、ルペロックス(登録商標)570)0.298重量部からなる溶液を180分かけて滴下した。また、滴下開始剤投入と同時に、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(RHMA)6.6重量部、メタクリル酸メチル(MMA)45.9重量部、スチレン(St)4.05重量部からなる溶液を180分かけて滴下しながら105℃~110℃で溶液重合を行い、更に100分かけて熟成を行った。
得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、トルエン1.20重量部、リン酸ステアリル(堺化学工業社製、Phoslex A-18)0.0750重量部からなる溶液を加え、約90℃~110℃の還流下において1.5時間、ラクトン環構造を形成するための環化縮合反応を進行させた。
次に、得られた重合溶液を220℃に保持した多管式熱交換器に通して環化縮合反応を完結させた後、先端部にリーフディスク型のポリマーフィルター(濾過精度5μm)が配置されたベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に、樹脂量換算で90重量部/時の処理速度で導入して、重合溶液を脱揮した。用いたベントタイプスクリュー二軸押出機のリアベント数は1個、フォアベント数は4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)とし、バレル温度は220℃、減圧度は13.3~400hPa(10~300mmHg)とした。脱揮の際、イオン交換水を1.3重量部/時の投入速度で第1、第2、第3ベントの後ろから投入した。
得られたアクリル系ポリマー(A1)について、上述の分析方法で評価した結果を表1に示す。
【0124】
(2-2)実施例2[アクリル系ポリマー(A2)の製造]
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管及び滴下ポンプを備えた反応容器に、シクロヘキシルマレイミド(CHMI)4.00重量部、メタクリル酸メチル(MMA)35.6重量部、トルエン92.5重量部、アデカズタブ2112を0.10重量部仕込み、窒素を通じつつ105℃まで昇温した。
初期開始剤として、トルエン0.83重量部、tert-ブチルパ-オキシイソプロピルカ-ボネ-ト(化薬アクゾ株式会社製、カヤカルボンBIC-75)0.32重量部からなる溶液を9分かけて滴下しながら105℃~110℃で溶液重合を行った。そして、その1分後に、滴下開始剤としてトルエン7.82重量部、tert-ブチルパ-オキシイソプロピルカ-ボネ-ト(化薬アクゾ株式会社製、カヤカルボンBIC-75)0.35重量部、モノマーとしてスチレン(St)1.00重量部からなる溶液を240分かけて滴下した。また同時に、シクロヘキシルマレイミド(CHMI)6.00重量部、メタクリル酸メチル(MMA)53.4重量部からなる溶液を180分かけて滴下しながら105℃~110℃で溶液重合を行い、初期開始剤投入開始から420分かけて重合を行った。
得られた重合溶液を220℃に保持した多管式熱交換器に通した後、先端部にリーフディスク型のポリマーフィルター(濾過精度5μm)が配置されたベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に、樹脂量換算で90重量部/時の処理速度で導入して、重合溶液を脱揮した。用いたベントタイプスクリュー二軸押出機のリアベント数は1個、フォアベント数は4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)とし、バレル温度は220℃、減圧度は13.3~400hPa(10~300mmHg)とした。脱揮の際、イオン交換水を1.3重量部/時の投入速度で第1、第2、第3ベントの後ろから投入した。
得られたアクリル系ポリマー(A2)について、上述の分析方法で評価した結果を表1に示す。
【0125】
(2-3)実施例3[アクリル系ポリマー(A3)の製造]
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管及び滴下ポンプを備えた反応容器に、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(RHMA)12.0重量部、メタクリル酸メチル(MMA)83.5重量部、トルエン83.6重量部、亜りん酸トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)0.500重量部、n-ドデシルメルカプタンを0.0700重量部仕込み、仕込み、窒素を通じつつ105℃まで昇温した。
初期開始剤としてトルエン0.545重量部、t-アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、ルペロックス(登録商標)570)0.0957重量部からなる溶液を加え、その5分後に、トルエン5.64重量部、スチレン(St)4.50重量部、滴下開始剤としてt-アミルパーオキシイソノナノエート0.191重量部からなる溶液を2時間かけて滴下しながら100℃~110℃で溶液重合を行い、更に4時間かけて熟成を行った。
得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、トルエン1.09重量部、リン酸ステアリル(堺化学工業社製、Phoslex A-18)0.075重量部からなる溶液を加え、約90℃~110℃の還流下において1.5時間、ラクトン環構造を形成するための環化縮合反応を進行させた。
次に、得られた重合溶液を220℃に保持した多管式熱交換器に通して環化縮合反応を完結させた後、先端部にリーフディスク型のポリマーフィルター(濾過精度5μm)が配置されたベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に、樹脂量換算で90重量部/時の処理速度で導入して、重合溶液を脱揮した。用いたベントタイプスクリュー二軸押出機のリアベント数は1個、フォアベント数は4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)とし、バレル温度は220℃、減圧度は13.3~400hPa(10~300mmHg)とした。脱揮の際、イオン交換水を1.3重量部/時の投入速度で第1、第2、第3ベントの後ろから投入した。
得られたアクリル系ポリマー(A3)について、上述の分析方法で評価した結果を表1に示す。
【0126】
(2-4)比較例1[アクリル系ポリマー(A4)]
市販のPMMA樹脂(住友化学株式会社製、商品名「スミペックスMM」)を用い、アクリル系ポリマー(A4)とした。アクリル系ポリマー(A4)について、上述の分析方法で評価した結果を表1に示す。
【0127】
【0128】
(参考例1)
上記(1-10)にて説明した第1空中ディスプレイを用い、且つ、当該第1空中ディスプレイから成形体を除いた状態にて、上記(1-10-1)~(1-10-4)にて説明した各観察を実施した。また、
図10には、参考例1における空中映像の観察結果を表示する写真が示される。
【0129】
(実施例11)
上記実施例3にて得られたアクリル系ポリマー(A3)のペレットを空気雰囲気、常圧、100℃の条件下にて、12時間乾燥した。次に、乾燥したペレットを射出成形機(日精樹脂工業株式会社製、「NS40-5A」)に投入した。次に、成形温度230℃、金型温度90℃、充填圧力50MPa、射出速度40mm/s、射出時間2sの条件下にて、100mm×100mm×厚さ2.5mmの成形体A13を射出成形した。この成形体A13を、上記(1-10)にて説明した第1空中ディスプレイに配置した状態にて、上記(1-10-1)~(1-10-4)にて説明した各観察を実施した。そして、参考例1の観察結果を踏まえて、上記(1-10-1)~(1-10-4)にて説明した各評価を実施した。各評価結果は、以下の表2に示される。また、
図11には、実施例11における空中映像の観察結果を表示する写真が示される。
【0130】
(比較例11)
上記比較例1にて得られたアクリル系ポリマー(A4)のペレットを、空気雰囲気、常圧、90℃の条件下にて、12時間乾燥した。次に、上記実施例11と同様の条件にて射出成形し、100mm×100mm×厚さ2.5mmの成形体A14を作製した。この成形体A14を上記第1空中ディスプレイに用いた状態にて、上記(1-10-1)~(1-10-4)にて説明した各観察を実施した。そして、参考例1の観察結果を踏まえて、上記(1-10-1)~(1-10-4)にて説明した各評価を実施した。各評価結果は、以下の表2に示される。また、
図12には、比較例11における空中映像の観察結果を表示する写真が示される。
【0131】
(参考例2)
上記(1-11)にて説明した第2空中ディスプレイを用い、且つ、当該第2空中ディスプレイから成形体を除いた状態にて、上記(1-11-1)、(1-11-2)にて説明した各観察を実施した。また、
図13には、参考例2における空中映像の観察結果を表示する写真が示される。
図13では、偏光サングラスを介した観察結果が示される。
【0132】
(実施例12)
上記実施例11にて作製した成形体A13を、上記(1-11)にて説明した第2空中ディスプレイに配置した。また、各観察者が偏光サングラスを装着した状態にて、上記(1-11-1)、(1-11-2)にて説明した各観察を実施した。そして、参考例2の観察結果を踏まえて、上記(1-11-1)、(1-11-2)にて説明した各評価を実施した。各評価結果は、以下の表2に示される。また、
図14には、実施例12における空中映像の観察結果を表示する写真が示される。
図14では、偏光サングラスを介した観察結果が示される。
【0133】
(比較例12)
上記比較例11にて作製した成形体A14を、上記(1-11)にて説明した第2空中ディスプレイに配置した。また、各観察者が偏光サングラスを装着した状態にて、上記(1-11-1)、(1-11-2)にて説明した各観察を実施した。そして、参考例2の観察結果を踏まえて、上記(1-11-1)、(1-11-2)にて説明した各評価を実施した。各評価結果は、以下の表2に示される。また、
図15には、比較例12における空中映像の観察結果を表示する写真が示される。
図15では、偏光サングラスを介した観察結果が示される。
【0134】
【0135】
上記表2に示されるように、実施例11,12においては、成形体A13の配向複屈折の影響が観測されなかった。このため、成形体A13は空中ディスプレイ用部材として、光路中でも使用可能であることがわかった。
【符号の説明】
【0136】
1,1A…空中ディスプレイ、2,2A…光源、3…第1のλ/4板,4,4A…パッシブ光学素子、5…第2のλ/4板、5A…λ/4板、6…偏光子、11,11A…基板、20…直方体材、21,22…シート部、23…光反射膜、24…光吸収膜、30…貫通孔、31…第1反射面、32…第2反射面、L1,L1A,L1B,L2A,L2B,L3,L3in,L4,L4in,L6,L11A,L11B,L12,L12in,L13,L13in…光。