(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】液晶ポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 67/00 20060101AFI20240605BHJP
C08G 63/60 20060101ALI20240605BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240605BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20240605BHJP
C08K 7/00 20060101ALI20240605BHJP
C08L 65/00 20060101ALI20240605BHJP
C08L 79/00 20060101ALI20240605BHJP
【FI】
C08L67/00
C08G63/60
C08K3/013
C08K3/34
C08K7/00
C08L65/00
C08L79/00 Z
(21)【出願番号】P 2020177525
(22)【出願日】2020-10-22
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000189659
【氏名又は名称】上野製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】土谷 仁志
(72)【発明者】
【氏名】深澤 正寛
(72)【発明者】
【氏名】太田 晃仁
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-316841(JP,A)
【文献】国際公開第2020/071495(WO,A1)
【文献】特開2020-029497(JP,A)
【文献】特開2007-099786(JP,A)
【文献】特開2015-040249(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
C08G 63/00-63/91
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリマー、環状オレフィン系樹脂、粒状フィラーおよびマイカを含有する組成物であって、
液晶ポリマーは、式(I)~式(IV)
【化1】
[式中、Ar
1
およびAr
2
はそれぞれ2価の芳香族基を表す]
で表される繰返し単位から構成され、式(III)~(IV)で表される繰返し単位は、Ar
1
およびAr
2
がそれぞれ互いに独立して、式(1)~(4)
【化2】
で表される芳香族基から選択される、それぞれ1種以上の繰返し単位である全芳香族液晶ポリエステル樹脂であり、
環状オレフィン系樹脂はシクロオレフィンポリマーであり、環状オレフィン系樹脂の含有量は液晶ポリマー100質量部に対して0.1~10質量部であり、
粒状フィラーは平均粒子径が0.01~5μmの粒状酸化チタンであり、粒状フィラーの含有量は液晶ポリマー100質量部に対して7~60質量部であり、かつ、
マイカの平均粒子径は1~40μmであり、マイカの含有量は液晶ポリマー100質量部に対して7~60質量部である、液晶ポリマー組成物。
【請求項2】
式(III)で表される繰返し単位は、Ar
1が式(1)で表される芳香族基である繰返し単位であり、式(IV)で表される繰返し単位は、Ar
2が式(1)で表される芳香族基である繰返し単位および/または式(3)で表される芳香族基である繰返し単位である、請求項
1に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項3】
さらにカルボジイミド基含有化合物を含有する、請求項1
または2に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項4】
カルボジイミド基含有化合物の含有量は液晶ポリマー100質量部に対して0.1~5質量部である、請求項
3に記載の液晶ポリマー組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物から構成される成形品。
【請求項6】
成形品は、コネクタ、スイッチ、リレー、コンデンサ、コイル、トランス、カメラモジュール、およびアンテナからなる群から選択される1種を構成する部品である、請求項
5に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェルド強度と金属接着性を保持しつつ、耐摺動摩耗性および寸法安定性が改善された成形品等の物品を形成し得る液晶ポリマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリマーは、耐熱性、剛性等の機械物性、耐薬品性、寸法精度等に優れているため、成形品用途のみならず、繊維やフィルムといった各種用途にその使用が拡大しつつある。特にパーソナル・コンピューターや携帯電話等の情報・通信分野においては、部品の高集積度化、小型化、薄肉化、低背化等が急速に進んでおり0.5mm以下の非常に薄い肉厚部が形成されるケースが多く、液晶ポリマーの優れた成形性、すなわち、流動性が良好であり、かつバリが出ないという他のポリマーにない特徴を活かして、その使用量が大幅に増大している。
【0003】
しかし、液晶ポリマーは、少しのせん断力でも分子が配向しやすい性質があり、成形時の流動方向(MD)とそれに直角な方向(TD)では、機械的強度の異方性も大きく、成形品にウェルド部を有する場合、ウェルド部の強度が弱いといった問題が認められる。
【0004】
このような問題を解決するために、例えば、特許文献1には、環状オレフィン系樹脂(シクロオレフィンポリマーまたはシクロオレフィンコポリマーとも称する)を含有せしめることにより、液晶ポリマーの異方性およびウェルド強度を改良する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような環状オレフィン系樹脂を含有せしめると、成形品の金属接着性が低下するため、電気・電子部品等の用途での使用に際して成形品の物性(インサート金属との接着強度、成形品の強度など)が不十分である場合があった。本発明の目的は、ウェルド強度と金属接着性を保持しつつ、耐摺動摩耗性および寸法安定性が改善された成形品等の物品を形成し得る液晶ポリマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、液晶ポリマーおよび環状オレフィン系樹脂に、粒状フィラーおよびマイカを配合することにより、成形品等の物品のウェルド強度と金属接着性を保持しつつ、耐摺動摩耗性および寸法安定性が改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕液晶ポリマー、環状オレフィン系樹脂、粒状フィラーおよびマイカを含有する組成物であって、マイカの含有量は液晶ポリマー100質量部に対して、7~60質量部である、液晶ポリマー組成物。
〔2〕液晶ポリマーは、式(I)および式(II)
【化1】
で表される繰返し単位を含む液晶ポリエステル樹脂である、〔1〕に記載の液晶ポリマー組成物。
〔3〕液晶ポリマーは、式(I)~式(IV)
【化2】
[式中、Ar
1およびAr
2はそれぞれ2価の芳香族基を表す]
で表される繰返し単位から構成される全芳香族液晶ポリエステル樹脂である、〔1〕または〔2〕に記載の液晶ポリマー組成物。
〔4〕式(III)~(IV)で表される繰返し単位は、Ar
1およびAr
2がそれぞれ互いに独立して、式(1)~(4)
【化3】
で表される芳香族基から選択される、それぞれ1種以上の繰返し単位である、〔3〕に記載の液晶ポリマー組成物。
〔5〕式(III)で表される繰返し単位は、Ar
1が式(1)で表される芳香族基である繰返し単位であり、式(IV)で表される繰返し単位は、Ar
2が式(1)で表される芳香族基である繰返し単位および/または式(3)で表される芳香族基である繰返し単位である、〔4〕に記載の液晶ポリマー組成物。
〔6〕環状オレフィン系樹脂の含有量は液晶ポリマー100質量部に対して0.1~10質量部である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
〔7〕粒状フィラーは粒状酸化チタンである、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
〔8〕粒状フィラーの含有量は液晶ポリマー100質量部に対して7~60質量部である、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
〔9〕マイカの平均粒子径は1~40μmである、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
〔10〕さらにカルボジイミド基含有化合物を含有する、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
〔11〕カルボジイミド基含有化合物の含有量は液晶ポリマー100質量部に対して0.1~5質量部である、〔10〕に記載の液晶ポリマー組成物。
〔12〕〔1〕~〔11〕のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物から構成される成形品。
〔13〕成形品は、コネクタ、スイッチ、リレー、コンデンサ、コイル、トランス、カメラモジュール、およびアンテナからなる群から選択される1種を構成する部品である、〔12〕に記載の成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液晶ポリマー組成物は、ウェルド強度および金属接着性を保持しつつ、改善された耐摺動摩耗性および寸法安定性を備えるため、例えば、射出インサート成形により一体化される、電気・電子部品や自動車部品等の様々な用途に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の液晶ポリマー組成物に使用する液晶ポリマー(以下、LCPとも称する)は、異方性溶融相を形成するポリエステルまたはポリエステルアミドであり、当該技術分野においてサーモトロピック液晶ポリエステルまたはサーモトロピック液晶ポリエステルアミドと呼ばれるものであれば特に限定されない。
【0011】
異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することができる。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージにのせた試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。本発明における液晶ポリマーは光学的に異方性を示すもの、即ち、直交偏光子の間で検査したときに光を透過させるものである。試料が光学的に異方性であると、たとえ静止状態であっても偏光は透過する。
【0012】
本発明において用いる液晶ポリマーとしては、示差走査熱量計により測定される結晶融解温度が310~360℃であるものが好ましく、315~345℃であるものがより好ましく、320~343℃であるものがさらに好ましい。
【0013】
尚、本明細書および特許請求の範囲において、「結晶融解温度」とは、示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimeter、以下DSCと略す)によって、昇温速度20℃/分で測定した際の結晶融解温度ピーク温度から求めたものである。より具体的には、液晶ポリマーの試料を、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1より20~50℃高い温度で10分間保持し、次いで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を液晶ポリマーの結晶融解温度とする。測定機器としては、例えば、セイコーインスツルメンツ(株)製Exstar6000等を用いることができる。
【0014】
本発明における液晶ポリマーの構成単位を構成する重合性単量体としては、例えば芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族アミノカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、脂肪族ジオールおよび脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。このような重合性単量体は、1種のみを用いてもよく、2種以上の重合性単量体を組み合わせてもよい。好適には、少なくとも1種のヒドロキシ基およびカルボキシル基を有する重合性単量体が用いられる。
【0015】
液晶ポリマーの構成単位を構成する重合性単量体は、前記化合物の1種以上が結合してなるオリゴマー、つまり1種以上の前記化合物から構成されるオリゴマーであってもよい。
【0016】
芳香族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、2-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、5-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、7―ヒドロキシ―2―ナフトエ酸、3―ヒドロキシ―2―ナフトエ酸、4’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、3’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、4’-ヒドロキシフェニル-3-安息香酸およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中でも、得られる液晶ポリマーの耐熱性および機械強度ならびに融点を調節し易いという観点から、4-ヒドロキシ安息香酸および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸からなる群から選択される1種以上の化合物が好ましい。
【0017】
芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシビフェニル、3,4’-ジカルボキシビフェニルおよび4,4”-ジカルボキシターフェニル、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体ならびにそれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中でも、得られる液晶ポリマーの耐熱性を効果的に高められる観点から、テレフタル酸、イソフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸からなる群から選択される1種以上の化合物が好ましく、テレフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸がより好ましい。
【0018】
芳香族ジオールの具体例としては、ハイドロキノン、レゾルシン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニルエーテルおよび2,2’-ジヒドロキシビナフチル、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体ならびにそれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中でも、重合時の反応性に優れる観点から、ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’-ジヒドロキシビフェニルおよび2,6-ジヒドロキシナフタレンからなる群から選択される1種以上の化合物が好ましく、ハイドロキノン、4,4’-ジヒドロキシビフェニルおよび2,6-ジヒドロキシナフタレンからなる群から選択される1種以上の化合物がより好ましい。
【0019】
芳香族アミノカルボン酸の具体例としては、4-アミノ安息香酸、3-アミノ安息香酸、6-アミノ-2-ナフトエ酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0020】
芳香族ヒドロキシアミンの具体例としては、4-アミノフェノール、N-メチル-4-アミノフェノール、3-アミノフェノール、3-メチル-4-アミノフェノール、4-アミノ-1-ナフトール、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニル、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニルエーテル、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニルメタン、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニルスルフィドおよび2,2’-ジアミノビナフチル、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中でも、得られる液晶ポリマーの耐熱性および機械強度のバランスをとりやすい観点から、4-アミノフェノールが好ましい。
【0021】
芳香族ジアミンの具体例としては、1,4-フェニレンジアミン、1,3-フェニレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレン、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0022】
脂肪族ジオールの具体例としては、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ならびにそれらのアシル化物が挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどの脂肪族ジオールを含有するポリマーを、前記の芳香族オキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオールおよびそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などと反応させてもよい。
【0023】
脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、フマル酸、マレイン酸およびヘキサヒドロテレフタル酸が挙げられる。これらの中でも、重合時の反応性に優れる観点から、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸およびドデカン二酸が好ましい。
【0024】
本発明における液晶ポリマーの構成単位を形成する重合性単量体は、本発明の目的を損なわない範囲で、他の共重合成分として、ジヒドロキシテレフタル酸、4-ヒドロキシイソフタル酸、5-ヒドロキシイソフタル酸、トリメリット酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、ピロメリット酸またはこれらのアルキル、アルコキシもしくはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体を含んでいてよい。これらの重合性単量体の使用量は、液晶ポリマーを構成する全構成単位に対して10モル%以下となるような量であるのが好ましい。
【0025】
本発明において液晶ポリマーは、本発明の目的を損なわない範囲で、チオエステル結合を含むものであってもよい。このような結合を与える重合性単量体としては、メルカプト芳香族カルボン酸、および芳香族ジチオールおよびヒドロキシ芳香族チオールなどが挙げられる。これらの重合性単量体の含有量は、液晶ポリマーを構成する全構成単位に対して10モル%以下となるような量であるのが好ましい。
【0026】
これらの繰返し単位を組み合わせたポリマーは、単量体の構成や組成比、ポリマー中での各繰返し単位のシークエンス分布によって異方性溶融相を形成するものと異方性溶融相を形成しないものとが存在するが、本発明に用いる液晶ポリマーは異方性溶融相を形成するものに限られる。
【0027】
本発明に使用される液晶ポリマーとしては、流動性および機械特性に優れる点で、式(I)および式(II)で表される繰返し単位を含む液晶ポリエステル樹脂が好適に使用される。
【0028】
【0029】
さらに、本発明に使用される液晶ポリマーとしては、流動性および機械特性に優れる点で、式(I)~(IV)で表される繰返し単位から構成される全芳香族液晶ポリエステル樹脂が好適に使用される。
【0030】
【化5】
[式中、Ar
1およびAr
2はそれぞれ2価の芳香族基を表す。]
【0031】
ここで、式(III)および式(IV)はそれぞれ、複数種のAr1およびAr2を含み得る。すなわち、式(III)で表される繰返し単位は、ある種類のAr1である繰返し単位と別の種類のAr1である繰返し単位などのような複数の繰返し単位であってよく、同様に、式(IV)で表される繰返し単位は、ある種類のAr2である繰返し単位と別の種類のAr2である繰返し単位などのような複数の繰返し単位であってよい。また、「芳香族基」は、6員の単環または環数2の縮合環である芳香族基を示す。
【0032】
流動性および機械特性に優れる点で、式(III)~(IV)で表される繰返し単位は、Ar1およびAr2が、それぞれ互いに独立して、下記の式(1)~(4)で表される芳香族基から選択される、それぞれ1種以上の繰返し単位であることがより好ましい。式(III)で表される繰返し単位は、Ar1が式(1)で表される芳香族基である繰返し単位であり、かつ、式(IV)で表される繰返し単位は、Ar2が式(1)および/または式(3)で表される芳香族基である繰返し単位であることが特に好ましい。
【0033】
【0034】
本発明に用いる液晶ポリマーの構成単位を形成する重合性単量体の組み合わせの具体例としては、例えば下記のものが挙げられる。
1)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、
2)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル、
3)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル、
4)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン、
5)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/ハイドロキノン、
6)6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン、
7)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル、
8)6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル、
9)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン、
10)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン/4,4’-ジヒドロキシビフェニル、
11)4-ヒドロキシ安息香酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル、
12)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン、
13)4-ヒドロキシ安息香酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン、
14)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン、
15)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン/4,4’-ジヒドロキシビフェニル、
16)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4-アミノフェノール、
17)6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/4-アミノフェノール、
18)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/4-アミノフェノール、
19)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル /4-アミノフェノール、
20)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/エチレングリコール、
21)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/エチレングリコール、
22)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/エチレングリコール、
23)4-ヒドロキシ安息香酸/6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/エチレングリコール、
24)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル。
【0035】
これらの中でも、1)、9)、10)、および14)の重合性単量体に由来する構成単位からなる液晶ポリマーが好ましく、9)、10)、および14)の重合性単量体に由来する構成単位からなる液晶ポリマーがより好ましく、10)の重合性単量体に由来する構成単位からなる液晶ポリマーがさらに好ましい。
【0036】
上記の液晶ポリマーは単独で用いてもよく、2種以上の液晶ポリマーの混合物として用いてもよい。
【0037】
本発明で用いられる液晶ポリマーの好ましい態様の一つとしては、下記式(A)~(E)で表される繰返し単位から構成される全芳香族液晶ポリエステル樹脂である。
【0038】
【化7】
[式中、p、q、r、sおよびtは、各繰返し単位の液晶ポリエステル樹脂中での組成比(モル%)を示し、以下の条件を満たす:
25≦p≦45;
2≦q≦10;
10≦r≦20;
10≦s≦20;
20≦t≦40;
r>s;
p+q+r+s+t=100]
【0039】
本発明で用いられる液晶ポリマーの他の好ましい態様の一つとしては、下記式(F)~(I)で表される繰返し単位から構成される全芳香族液晶ポリエステル樹脂である。
【0040】
【化8】
[式中、k、l、mおよびnは、各繰返し単位の液晶ポリエステル樹脂中での組成比(モル%)を示し、以下の条件を満たす:
60≦k≦80;
0.1≦l≦10;
10≦m≦20;
10≦n≦20;
k+l+m+n=100]
【0041】
以下、本発明に用いる液晶ポリマーの製造方法について説明する。
【0042】
本発明に用いる液晶ポリマーの製造方法に特に制限はなく、重合性単量体を、エステル結合またはアミド結合を形成させる公知の重縮合方法、たとえば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などに供することにより液晶ポリマーを得ることができる。
【0043】
溶融アシドリシス法は、本発明の液晶ポリマー組成物に用いる液晶ポリマーを製造するのに好ましい方法である。この方法は、最初に重合性単量体を加熱して反応物質の溶融溶液を形成し、次いで重縮合反応を続けて溶融ポリマーを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(たとえば酢酸、水など)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0044】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で重合性単量体を反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0045】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法のいずれの場合においても、液晶ポリマーを製造する際に使用される重合性単量体は、常温において、ヒドロキシル基および/またはアミノ基をアシル化した変性形態、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。
【0046】
低級アシル基は炭素原子数2~5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。本発明の好ましい実施態様において、前記重合性単量体のアセチル化物を反応に供する。
【0047】
重合性単量体の低級アシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、液晶ポリマーの製造時に重合性単量体に無水酢酸等のアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0048】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法のいずれの場合においても、重縮合反応は、温度150~400℃、好ましくは250~370℃で、常圧および/または減圧下で行うのがよく、必要に応じて触媒を用いてもよい。
【0049】
触媒の具体例としては、ジアルキルスズオキシド(例えばジブチルスズオキシド)、ジアリールスズオキシドなどの有機スズ化合物;二酸化チタン;三酸化アンチモン;アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなどの有機チタン化合物;カルボン酸のアルカリおよびアルカリ土類金属塩(例えば酢酸ナトリウム、酢酸カリウム);ルイス酸(例えば三フッ化硼素)、ハロゲン化水素(例えば塩化水素)などの気体状酸触媒などが挙げられる。
【0050】
触媒を使用する場合、該触媒の量は重合性単量体全量に対し、好ましくは1~1000ppm、より好ましくは2~100ppmである。
【0051】
このような重縮合反応によって得られた液晶ポリマーは、通常、溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工され、他の成分と溶融混練に供される。
【0052】
ペレット状、フレーク状、または粉末状の液晶ポリエステルは、分子量を高めて耐熱性を向上させる目的で、減圧下、真空下または不活性ガスである窒素やヘリウムなどの雰囲気下において、実質的に固相状態で熱処理を行ってもよい。
【0053】
本発明の液晶ポリマー組成物は、ウェルド強度を保持させる等の観点から、上記液晶ポリマーの他に、環状オレフィン系樹脂を含有する。
【0054】
本発明の液晶ポリマー組成物に用いられる環状オレフィン系樹脂とは、ノルボルネン又は多環ノルボルネン系モノマー等の環状オレフィンの重合体、若しくはそれらの共重合体を含むものである。当該環状オレフィン系樹脂は、開環構造を含んでもよく、また、開環構造を含む環状オレフィン系樹脂を水素添加したものでもよい。また、当該環状オレフィン系樹脂は、透明性を著しく損なわず、著しく吸湿性を増大させない範囲で、鎖状オレフィン及びビニル化芳香族化合物に由来する構造単位を含んでいてもよい。また、当該環状オレフィン系樹脂は、その分子内に極性基が導入されていてもよい。
【0055】
鎖状オレフィンとしては、エチレン及びプロピレン等が挙げられ、ビニル化芳香族化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン及びアルキル置換スチレン等が挙げられる。
【0056】
環状オレフィン系樹脂が、環状オレフィンと、鎖状オレフィン又はビニル化芳香族化合物との共重合体である場合、環状オレフィンに由来する構造単位の含有量は、共重合体の全構造単位に対して、通常50モル%以下であり、好ましくは15~50モル%である。
【0057】
環状オレフィン系樹脂が、環状オレフィンと、鎖状オレフィンと、ビニル化芳香族化合物との三元共重合体である場合、鎖状オレフィンに由来する構造単位の含有量は、共重合体の全構造単位に対して、通常5~80モル%であり、ビニル化芳香族化合物に由来する構造単位の含有割合は、共重合体の全構造単位に対して、通常5~80モル%である。このような三元共重合体は、高価な環状オレフィンの使用量を比較的少なくすることができるという利点がある。
【0058】
環状オレフィン系樹脂は、市場から入手できる。市販の環状オレフィン系樹脂としては、Topas(登録商標)(Ticona社(独))、アートン(登録商標)(JSR(株))、ゼオノア(ZEONOR)(登録商標)(日本ゼオン(株))、ゼオネックス(ZEONEX)(登録商標)(日本ゼオン(株))及び、アペル(登録商標)(三井化学(株))等が挙げられる。
【0059】
本発明の液晶ポリマー組成物における環状オレフィン系樹脂の含有量は、液晶ポリマー100質量部に対して、0.1~10質量部であり、好ましくは0.5~8質量部であり、より好ましくは1~7質量部であり、さらに好ましくは2~6質量部である。環状オレフィン系樹脂の含有量が上記範囲内であることで、溶融粘度の低下による成形性の悪化が抑制されると共に、ウェルド強度も保持され、成形品の金属接着性も有意に向上させることができる。
【0060】
本発明の液晶ポリマー組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、上述の環状オレフィン系樹脂以外にも、さらに他の樹脂成分を含有させてもよい。他の樹脂成分としては、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテルおよびその変性物、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどの熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0061】
他の樹脂成分は、単独でまたは2種以上を組み合わせて含有することができる。他の樹脂成分の含有量は特に限定されず、液晶ポリマー組成物の用途や目的に応じて適宜定めればよい。典型的には、液晶ポリマー100質量部に対する他の樹脂の合計含有量が、好ましくは0.1~100質量部、より好ましくは0.2~80質量部となる範囲で添加される。
【0062】
本発明の液晶ポリマー組成物は、さらに粒状フィラーを含有する。粒状フィラーとしての平均粒子径は10μm以下である。上記平均粒子径が10μm超であると、機械的強度及び耐熱性の保持と耐摺動摩耗性との両立を図りにくい。上記両立を達成しやすいことから、上記平均粒子径は、好ましくは0.01~5μm、より好ましくは0.05~3μm、更により好ましくは0.1~2μmである。なお、本明細書において、平均粒子径とは、レーザ回折/散乱式粒度分布測定法で測定した体積基準の中央値(メディアン径)をいう。
【0063】
本発明の液晶ポリマー組成物に用いる粒状フィラーとしては、粒状酸化チタン、硫酸バリウム、シリカ、ガラスビーズなどが例示され、その中でも粒状酸化チタンが耐摩耗性改善効果に優れるため好ましい。これらを単独でまたは2種以上を併用することができる。なお、通常、マイカは板状物質に分類される。
【0064】
本発明の液晶ポリマー組成物における粒状フィラーの含有量は、液晶ポリマー100質量部に対して、通常7~60質量部であり、好ましくは10~45質量部であり、より好ましくは13~40質量部であり、さらに好ましくは15~35質量部である。粒状フィラーの含有量が上記範囲内であることで、耐摩耗性をさらに改善することができる。
【0065】
本発明の液晶ポリマー組成物は、さらにマイカを含有する。マイカの平均粒子径は通常50μm以下である。好ましくは1~40μm、より好ましくは5~30μm、更により好ましくは8~25μmである。なお、本明細書において、平均粒子径とは、レーザ回折/散乱式粒度分布測定法で測定した体積基準の中央値(メディアン径)をいう。
【0066】
本発明の液晶ポリマー組成物におけるマイカの含有量は、液晶ポリマー100質量部に対して、7~60質量部であり、好ましくは10~50質量部であり、より好ましくは13~45質量部であり、さらに好ましくは15~40質量部である。マイカの含有量が上記範囲内であることで、寸法精度(ソリ量低減)と耐摩耗性を高めることができる。
【0067】
本発明の液晶ポリマー組成物は上記液晶ポリマー、環状オレフィン系樹脂、粒状フィラーおよびマイカの他に、カルボジイミド基含有化合物を含有してもよい。
【0068】
本発明の液晶ポリマー組成物に用いられるカルボジイミド基含有化合物とは、カルボジイミド基(-N=C=N-)を有する化合物であり、カルボジイミド基を少なくとも1つ有する化合物であれば、特に制限されるものではない。
【0069】
カルボジイミド基含有化合物としては、ポリカルボジイミド化合物やモノカルボジイミド化合物が挙げられる。
【0070】
ポリカルボジイミド化合物としては、具体的には、ポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニルカルボジイミド)等の芳香族ポリカルボジイミド;ポリ(ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)等の脂環族ポリカルボジイミドが挙げられる。
【0071】
モノカルボジイミド化合物としては、ジフェニルカルボジイミド、ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、ジ-2,6-ジエチルフェニルカルボジイミド、ジ-2,6-ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、ジ-2,6-ジtert-ブチルフェニルカルボジイミド、ジ-o-トリルカルボジイミド、ジ-p-トリルカルボジイミド、ジ-2,4,6-トリメチルフェニルカルボジイミド、ジ-2,4,6-トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、ジ-2,4,6-トリイソブチルフェニルカルボジイミド等の芳香族モノカルボジイミド化合物;ジ-シクロヘキシルカルボジイミド、ジ-シクロヘキシルメタンカルボジイミド等の脂環族モノカルボジイミド化合物;ジ-イソプロピルカルボジイミド、ジ-オクタデシルカルボジイミド等の脂肪族モノカルボジイミド化合物等が挙げられる。
【0072】
前記カルボジイミド基含有化合物は、単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中で、好ましい具体的な化合物は、脂肪族ポリカルボジイミド化合物であり、その市販品としては例えば、日清紡ケミカル(株)製のカルボジライト(登録商標)HMV-8CAやカルボジライト(登録商標)LA-1が挙げられる。
【0073】
本発明の液晶ポリマー組成物におけるカルボジイミド基含有化合物の含有量は、液晶ポリマー100質量部に対して、0.1~5質量部であり、好ましくは0.3~4質量部であり、より好ましくは0.5~3質量部であり、さらに好ましくは0.7~2.5質量部である。カルボジイミド基含有化合物の含有量が上記範囲内であることで、溶融粘度の低下による成形性の悪化が抑制されると共に、ウェルド強度も保持され、成形品の金属接着性も有意に向上させることができる。
【0074】
本発明の液晶ポリマー組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、粒状フィラーおよびマイカに加えて、他の繊維状、板状、粒状の無機充填材または有機充填材を含有してよい。
【0075】
本発明の液晶ポリマー組成物が粒状フィラーおよびマイカ以外の無機充填材または有機充填材を含有する場合、その含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは0.5~20質量部である。これら他の充填材の含有量が上記上限値を超えると、成形加工性が低下したり熱安定性が悪くなる傾向がある。
【0076】
他の繊維状充填材としては、例えば、ミルドガラス、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリベンズイミダゾール繊維、チタン酸カリウムウイスカ、ホウ酸アルミニウムウイスカ、針状酸化チタン、ウォラストナイト等の珪酸カルシウム、ゾノトライト、チタン酸カルシウム、硼酸アルミニウム、針状炭酸カルシウム、針状酸化チタン、テトラポット型酸化亜鉛などが挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0077】
他の板状充填材としては、例えば、タルク、マイカ、カオリン、クレー、バーミキュライト、長石粉、酸性白土、ロウ石クレー、セリサイト、シリマナイト、ベントナイト、ガラスフレーク、スレート粉、シラン等の珪酸塩、炭酸カルシウム、胡粉、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト等の炭酸塩、バライト粉、沈降性硫酸カルシウム、焼石膏、硫酸バリウム等の硫酸塩、水和アルミナ等の水酸化物、アルミナ、酸化アンチモン、マグネシア、板状酸化チタン、亜鉛華、シリカ、珪砂、石英、ホワイトカーボン、珪藻土等の酸化物、二硫化モリブデン等の硫化物、板状のウォラストナイトなどが挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0078】
他の粒状充填材としては、例えば、炭酸カルシウム、ガラスビーズなどが挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0079】
また、本発明の液晶ポリマー組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述した以外の他の添加剤を含有することができる。
【0080】
他の添加剤としては、例えば、滑剤である高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩(ここで高級脂肪酸とは、例えば炭素原子数10~25のものをいう)、フルオロカーボン系界面活性剤など、離型改良剤であるポリシロキサン、フッ素樹脂など、着色剤である染料、顔料、カーボンブラックなど、難燃剤、帯電防止剤、界面活性剤、酸化防止剤であるリン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤など、耐候剤、熱安定剤、中和剤などが挙げられる。高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤などの外部滑剤効果を有する添加剤については、液晶ポリマー組成物を成形するに際して、予め、液晶ポリマー組成物のペレットの表面に付着させてもよい。これらの添加剤は、単独で使用してもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0081】
これらの他の添加剤の含有量は、液晶ポリマー100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは0.5~5質量部である。これら他の添加剤の含有量が上記上限値を超えると、成形加工性が低下したり熱安定性が悪くなる傾向がある。
【0082】
液晶ポリマー、環状オレフィン系樹脂、粒状フィラーおよびマイカと、所望により他の無機充填材および/または有機充填材、他の添加剤や他の樹脂成分などを所定の組成で配合し、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出し機などを用いて溶融混練することによって、本発明の液晶ポリマー組成物とすることができる。
【0083】
この様にして得られた、本発明の液晶ポリマー組成物は、射出成形機、押出機などを用いる公知の成形方法によって成形ないし加工され、所望の成形品を得ることができる。
【0084】
本発明の液晶ポリマー組成物を用いて得られる成形品は、良好なウェルド強度と金属接着性を示すため、コネクタ、スイッチ、リレー、コンデンサ、コイル、トランス、カメラモジュール、アンテナなどの電子部品に好適に用いられる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例中の溶融粘度、曲げ強度、ソリ量(寸法安定性)、摺動摩耗深さ(耐摺動摩耗性)、ウェルド強度、金属接着性の測定、評価は以下に記載の方法により行った。
【0086】
〈溶融粘度〉
溶融粘度測定装置(東洋精機(株)製キャピログラフ1D)により、1.0mmφ×10mmのキャピラリーを用いて、剪断速度1000sec-1の条件下、試料の結晶融解温度(Tm)+20℃での溶融粘度をそれぞれ測定した。
【0087】
〈曲げ強度〉
荷重たわみ温度の測定に用いた試験片と同じ試験片を用いてASTM D790に準拠して測定した。
【0088】
〈ソリ量(寸法安定性)〉
型締め圧15tの射出成形機(日精樹脂工業(株)製NEX15-1E)を用いて融点+20~40℃のシリンダー温度、金型温度70℃で射出成形し、中央部にスリット状段差を有する平面状試験片(厚さ0.5mm、縦横長さ17mm、中央部スリット幅5mm厚み0.25mm)を作製した。各試験片について、3次元測定機(キーエンス社製ワンショット3D VR-3000)を用いて最大ソリ高さ-試験片厚み(0.5mm)をソリ量として測定した。
【0089】
〈摺動摩耗深さ(耐摺動摩耗性)〉
型締め圧15tの射出成形機(日精樹脂工業(株)製NEX15-1E)を用いて融点+20~40℃のシリンダー温度、金型温度70℃で射出成形し、測定用試験片(80mm×80mm×1mm)を成形した。測定用試験片上で圧子(SUS304, 1/4INCH(=6.35mm)に荷重をかけ、下記の往復摺動条件で往復摺動試験を行った後、3次元測定機(キーエンス社製ワンショット3D VR-3000)を用いて測定用試験片の、摺動摩耗深さを測定した。
〔往復摺動条件〕
すべり速度:1200mm/min
ストローク:10mm
荷重:9.8N(1kg重)
往復回数:1000回
【0090】
〈ウェルド強度〉
型締め圧15tの射出成形機(日精樹脂工業(株)製NEX15-1E)を用いて融点+20~40℃のシリンダー温度、金型温度70℃で射出成形し、ウェルド部を有する円筒状試験片(厚さ0.8mm、外径10mm、高さ5mm)を作製した。各試験片について、INSTRON5567(インストロンジャパンカンパニイリミテッド社製万能試験機)を用いて圧縮試験を行い、ウェルド部が破断する際の強度を測定した。
【0091】
〈金属接着性〉
荷重たわみ温度測定に用いた試験片と同じ試験片の、反ゲート側10mmの位置に接着材(味の素ファインテクノ(株)製AE-421D)12mgを塗布した金属リベット(直径12mm、高さ8mm)を貼り付け、80℃で30分加熱し接着材を固化させ、接着性評価試験片を作製した。各試験片について、INSTRON5567(インストロンジャパンカンパニイリミテッド社製万能試験機)を用いて、金属リベットを試験片と水平に引張り、接着力を測定した。
【0092】
実施例および比較例において下記の略号は以下の化合物を表す。
POB:パラヒドロキシ安息香酸
BON6:6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸
HQ:ハイドロキノン
BP:4,4’-ジヒドロキシビフェニル
TPA:テレフタル酸
NDA:2,6-ナフタレンジカルボン酸
【0093】
[合成例1(LCP1)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POB、BON6、HQ、BPおよびTPAを表1に示す組成比にて、総量6.5モルとなるように仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0094】
【0095】
窒素ガス雰囲気下に室温~150℃まで1時間で昇温し、同温度にて30分間保持した。次いで、副生する酢酸を留去させつつ350℃まで7時間かけ昇温した後、80分間かけて5mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリエステル樹脂のペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。得られたペレットの結晶融解温度(Tm)は333℃であった。
【0096】
[合成例2(LCP2)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POB、BON6、HQおよびNDAを表2に示す組成比にて、総量6.5モルとなるように仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0097】
【0098】
窒素ガス雰囲気下に室温~150℃まで1時間で昇温し、同温度にて30分間保持した。次いで、副生する酢酸を留去させつつ350℃まで7時間かけ昇温した後、80分間かけて5mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリエステル樹脂のペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。得られたペレットの結晶融解温度(Tm)は321℃であった。
【0099】
以下の実施例および比較例で使用した充填材を示す。
環状オレフィン系樹脂(COP):日本ゼオン(株)製、シクロオレフィンポリマー「ZEONOR(登録商標)1420R」
粒状フィラー(B1):石原産業(株)製、粒状酸化チタン「A-100」(平均粒子径:0.15μm)
マイカ1(B2):(株)ヤマグチマイカ製、マイカ「AB-25S」(平均粒子径:24μm)
マイカ2(B3):(株)ヤマグチマイカ製、マイカ「A-11」(平均粒子径:3μm)
タルク(B4):富士タルク工業(株)製、タルク「RL119」(平均粒子径:17μm)
カルボジイミド基含有化合物(CI):日清紡ケミカル(株)製、ポリカルボジイミド「カルボジライト(登録商標)LA-1」
【0100】
実施例1~9および比較例1~11
合成例1および2にて合成したLCP、および上記充填剤を表3および表4に記載の含有量(質量部)となるように配合し、2軸押出機(日本製鋼(株)製TEX-30)を用いて、350℃にて溶融混練を行い、液晶ポリマー組成物のペレットを得た。上記の方法により、溶融粘度、曲げ強度、ソリ量、摩耗深さ、ウェルド強度および金属接着性を測定、評価した。結果を表3および表4に示す。
【0101】
表3に示すように、実施例1~9の液晶ポリマー組成物はいずれも、ソリ量および摩耗深さが少なく、寸法安定性および耐摺動摩耗性に優れたものであった。また、カルボジイミド基含有化合物を配合した実施例9の液晶ポリマー組成物は、金属接着性に優れたものであった。
【0102】
これに対して、表4に示すように、比較例1~11の液晶ポリマー組成物は、ソリ量および摩耗深さのいずれかに低下が確認され、成形材料として好ましくないものであった。
【0103】
【0104】