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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】電極
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/04 20210101AFI20240605BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20240605BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20240605BHJP
   C25B 1/042 20210101ALI20240605BHJP
【FI】
C25B11/04
H01M4/86 U
H01M8/12 101
C25B1/042
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020184025
(22)【出願日】2020-11-03
(65)【公開番号】P2022074189
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】藤田 悟
(72)【発明者】
【氏名】森川 彰
(72)【発明者】
【氏名】人見 卓磨
(72)【発明者】
【氏名】酒井 伸吾
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-518389(JP,A)
【文献】特開2014-067488(JP,A)
【文献】特開2020-155349(JP,A)
【文献】特開2020-071987(JP,A)
【文献】特開2012-214904(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B1/00-15/08
H01M8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えた電極。
(1)前記電極は、
拡散層と、
前記拡散層の電解質層側表面に形成された活性層と
を備えている。
(2)前記活性層は、
Ni含有粒子(B)と、
Y、Sc、及びCeがドープされたZrO2からなるYScCZ粒子と
を含むサーメット(B)からなる。
(3)前記YScCZ粒子は、次の式(2)で表される組成を有する。
Sc x Ce y z Zr 1-(x+y+z) 2+δ …(2)
但し、
0<x<0.02、0<y<0.02、0.1<z<0.2、
δは、電気的中性が保たれる値。
【請求項2】
前記YScCZ粒子は、蛍石型構造を取る請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記Ni含有粒子(B)は、Ni又はNi-Fe合金からなる請求項1又は2に記載の電極。
【請求項4】
前記活性層に含まれる前記YScCZ粒子の含有量は、30mass%以上70mass%以下である請求項1から3までのいずれか1項に記載の電極。
【請求項5】
固体酸化物形電解セルの水素極、又は、固体酸化物形燃料電池の燃料極に用いられる請求項1から4までのいずれか1項に記載の電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極に関し、さらに詳しくは、固体酸化物形電解セル(SOEC)の水素極又は固体酸化物形燃料電池(SOFC)の燃料極として使用することができ、かつ、耐酸化性に優れた電極に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、電解質として酸化物イオン伝導体を用いた燃料電池である。SOFCのアノード(燃料極)に、H2、CO、CH4などの燃料ガスを供給し、カソード(酸素極)にO2を供給すると、電極反応が進行し、電力を取り出すことができる。電極反応により生成したCO2やH2Oは、SOFC外に排出される。
一方、固体酸化物形電解セル(SOEC)は、SOFCと構造は同じであるが、SOFCとは逆の反応を起こさせるものである。すなわち、SOECのカソード(水素極)にCO2やH2Oを供給し、電極間に電流を流すと、COやH2を生成させることができる。
【0003】
SOECは、電解質の一方の面にアノード(酸素極)が接合され、他方の面にカソード(水素極)が接合された単セルを備えている。このようなSOECを構成する部材の材料として、一般的には、以下のような材料が用いられている(非特許文献1~6参照)。
(a)電解質: イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(SSZ)、サマリアドープトセリア(SDC)、ランタンストロンチウムガリウムマグネシウム酸化物(LSGM)など。
(b)酸素極: ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)、ランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF)、ランタンストロンチウムコバルタイト(LSC)など。
(c)水素極: Ni/YSZ、Ni/SDC、Ni-Fe/SDCなど。
【0004】
SOECの水素極には、一般に、Ni/YSZサーメットが用いられる。しかし、水素極には、水素製造の原料となる水蒸気が高温下(700℃以上)で供給される。そのため、水素極に含まれるNiが容易に酸化され、NiOが形成される。NiOは絶縁体であるため、電極中にNiOが形成されると、その部分では電子パスが途絶え、電解反応が進行しなくなる。その結果、電解特性が低下する。
この点は、SOFCも同様である。すなわち、SOFCのアノード(燃料極)においては、電極反応により水が生成する。そのため、特に、高負荷運転条件下において、生成した水蒸気により燃料極中のNiが酸化され、発電特性が低下する場合がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Ebbesen, S. D.; Hansen, J. B.; Morgensen, M. B. ECS Trans. 2013, 57, 3217.
【文献】Jensen, S. H.; Larsen, P. H.; Mogensen, M. Int. J. Hydrogen Energy 2007, 32, 3253.
【文献】Katahira, K.; Kohchi, Y.; Shimura, T.; Iwahara, H. Solid State Ionics 2000, 138, 91.
【文献】Languna-Bercero, M. A.; Skinner, S. J.; Kilner, J. A. J. Power Sources 2009, 192, 126.
【文献】O'Brien, J. E.; Stoots, C. M.; Herring, J. S.; Lessing, P. A.; Hartvigsen, J. J.; Elangovan, S. J. Fuel Cell Sci. Technol. 2005, 2, 156.
【文献】Sune Dalgaard Ebbesen, Soren Hojgaard Jensen, Anne Hauch, and Morgens Bjerg Morgensen, Chem. Rev. 2014, 114, 1069
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、高温の水蒸気に曝されても電子伝導性の低下が少ないSOFC用又はSOEC用の電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明に係る電極は、以下の構成を備えている。
(1)前記電極は、
拡散層と、
前記拡散層の電解質層側表面に形成された活性層と
を備えている。
(2)前記活性層は、
Ni含有粒子(B)と、
Y、Sc、及びCeがドープされたZrO2からなるYScCZ粒子と
を含むサーメット(B)からなる。
【発明の効果】
【0008】
ZrO2にドープされたYは、主として、ZrO2に高いイオン伝導性を付与する作用がある。ZrO2にドープされたCeは、主として、ZrO2に酸素吸蔵・放出能を付与する作用がある。さらに、ZrO2にドープされたScは、主として、YScCZ粒子の近傍に存在するNi含有粒子(B)に含まれるNiの酸化状態を変化させる作用がある。そのため、Ni含有粒子(B)を含む電極にYScCZ粒子を添加すると、高い電極活性を維持したまま、Ni含有粒子(B)に含まれるNiの酸化が格段に抑制される。
【0009】
YScCZ粒子の添加によってNi含有粒子(B)の酸化が格段に抑制されるのは、
(a)Ni含有粒子(B)の表面に形成されたNiを含む金属酸化膜(例えば、NiOなど)からスピルオーバーした酸素イオンがYScCZ粒子に固定されるため、
(b)YScCZ粒子の水分解機能により水蒸気が酸素と水素に分解されるため、及び/又は、
(c)Ni含有粒子(B)とYScCZ粒子とが共存することによって、Ni含有粒子(B)に含まれるNiの電子状態が変化するため
と考えられる。
仮に、(b)の水蒸気の分解により生成した酸素がNiを酸化させたとしても、(a)の効果によりNiOはNiに戻る。また、(b)の水蒸気の分解により生成した水素は、直接NiOを還元するだけでなく、酸素イオンが固定されたYScCZを局所的な還元雰囲気下におき、YScCZ粒子から容易に酸素を放出させる。その結果として、YScCZは、永続的にサイクル特性を持つと推測される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】CeO2-ZrO2固溶体(CZ)の酸素吸蔵・放出過程の模式図である。
図2】Ni/YScCZを活性層に用いた固体酸化物形電解セルの模式図である。
図3】Ni/YSZを活性層に用いた従来の固体酸化物形電解セルの模式図である。
図4】温度700℃、酸化雰囲気(2%O2)下における各種電極のNi酸化率である。
【0011】
図5】Ni/YSZ(Y0.158Zr0.8422)のXAFSスペクトルである。
図6】Ni/ScCZ(Sc0.135Ce0.1Zr0.7652)のXAFSスペクトルである。
図7】実施例1及び比較例1で得られた電極のH2O/H2比=9におけるCV特性である。
図8】実施例1及び比較例1で得られた電極の電流密度@1.3VのH2O/H2比依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 電極]
本発明に係る電極は、
拡散層と、
前記拡散層の電解質層側表面に形成された活性層と
を備えている。
【0013】
[1.1. 拡散層]
本発明において、拡散層は、Ni含有粒子(A)と、固体酸化物からなる電解質粒子(A)とを含むサーメット(A)からなる。拡散層は、活性層を支持するためのものである。拡散層と活性層との積層体からなる電極において、電極反応は、主として活性層内で生じる。そのため、拡散層は、必ずしも高いイオン伝導度を有している必要はない。
【0014】
すなわち、拡散層は、少なくとも、
(a)その電解質層側表面に形成される活性層を支持するための機能、
(b)燃料(電解又は発電の原料)を活性層まで拡散させる機能、
(c)還元反応に必要な電子を集電体から活性層まで輸送し、又は、酸化反応で生じた電子を活性層から集電体まで輸送する機能、及び、
(d)電極反応により活性層で生成した水素又は水蒸気を電極外に排出する機能
を備えている必要がある。
拡散層の組成は、このような機能を奏する限りにおいて、特に限定されない。
【0015】
[1.1.1. Ni含有粒子(A)]
「Ni含有粒子(A)」とは、粒子に含まれる金属元素の総質量に対するNiの質量の割合が10mass%以上である金属粒子をいう。Ni含有粒子(A)に含まれるNiの質量割合は、好ましくは、50mass%以上、さらに好ましくは、90mass%以上である。
【0016】
Ni含有粒子(A)は、拡散層中において、電子伝導体としての機能を有する。Ni含有粒子(A)の組成は、このような機能を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。Ni含有粒子(A)としては、例えば、Ni、Ni-Fe合金、Ni-Co合金などがある。
【0017】
Ni含有粒子(A)の含有量は、拡散層としての機能を奏する限りにおいて、特に限定されない。また、拡散層に含まれるNi含有粒子(A)の含有量は、活性層に含まれるNi含有粒子(B)の含有量と同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。Ni含有粒子(A)の含有量は、通常、30~70mass%である。
【0018】
[1.1.2. 電解質粒子(A)]
電解質粒子(A)の組成は、拡散層としての機能を奏する限りにおいて、特に限定されない。電解質粒子(A)は、活性層に含まれる電解質と同一の組成を有するものでも良く、あるいは、異なる組成を有するものでも良い。
電解質粒子(A)としては、例えば、
(a)3~15mol%のY23を含むイットリア安定化ジルコニア(YSZ)、
(b)活性層に含まれる電解質と同一又は類似の組成を持つ材料、
などがある。
これらの中でも、電解質粒子(A)は、YSZが好適である。これは、機械的強度が安定しているためである。
【0019】
[1.1.3. 気孔率]
拡散層の気孔率は、電極のガス拡散性、強度、電子伝導性などに影響を与える。一般に、拡散層の気孔率が小さすぎると、ガス拡散性が低下する。従って、拡散層の気孔率は、40%以上が好ましい。気孔率は、好ましくは、45%以上、さらに好ましくは、50%以上である。
一方、拡散層の気孔率が大きくなりすぎると、強度及び電子伝導性が低下する。従って、拡散層の気孔率は、60%以下が好ましい。気孔率は、好ましくは、58%以下、さらに好ましくは、55%以下である。
【0020】
[1.2. 活性層]
活性層は、電極反応の反応場となる部分である。本発明において、活性層は、
Ni含有粒子(B)と、
Y、Sc、及びCeがドープされたZrO2からなるYScCZ粒子と
を含むサーメット(B)からなる。
【0021】
[1.2.1. Ni含有粒子(B)]
「Ni含有粒子(B)」とは、粒子に含まれる金属元素の総質量に対するNiの質量の割合が90mass%以上である金属粒子をいう。Ni含有粒子(B)に含まれるNiの質量割合は、好ましくは、95mass%以上である。
Ni含有粒子(B)は、活性層中において、電極触媒及び電子伝導体としての機能を有する。Ni含有粒子(B)の組成は、このような機能を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。
【0022】
Ni含有粒子(B)としては、例えば、Ni、Ni-Fe合金、Ni-Co合金などがある。これらの中でも、Ni含有粒子(B)は、Ni又はNi-Fe合金が好ましい。
【0023】
[1.2.2. YScCZ粒子]
[A. 酸素吸蔵・放出能]
YScCZ粒子は、Y、Sc、及びCeがドープされたZrO2からなり、活性層中において、酸化物イオン伝導体としての機能、及びNi含有粒子(B)に含まれるNiの酸化を抑制する機能を有する。
【0024】
ZrO2にドープされたYは、主として、ZrO2に高いイオン伝導性を付与する作用がある。ZrO2にドープされたCeは、主として、ZrO2に酸素吸蔵・放出能を付与する作用がある。さらに、ZrO2にドープされたScは、主として、YScCZ粒子の近傍に存在するNi含有粒子(B)に含まれるNiの酸化状態を変化させる作用がある。
そのため、Ni含有粒子(B)を含む電極にYScCZ粒子を添加すると、高い電極活性を維持したまま、Ni含有粒子(B)に含まれるNiの酸化が格段に抑制される。Ni含有粒子(B)がNi以外の金属元素を含む場合であっても、少なくともNiの酸化を抑制することができれば、電極内に三相界面(TPB)を確保することができる。
【0025】
図1に、CeO2-ZrO2固溶体(CZ)の酸素吸蔵・放出過程の模式図を示す。また、次の式(1)に、CZの酸素吸蔵・放出反応の反応式を示す。式(1)中、右側に進む反応は酸化反応を表し、左側に進む反応は還元反応を表す。
CeO2-x-ZrO2+(x/2)O2 ⇔ CeO2-ZrO2 …(1)
【0026】
ZrO2中に固溶しているCeイオンは、周囲の雰囲気中の酸素分圧に応じて、可逆的に3価の状態(還元状態)と、4価の状態(酸化状態)とを取ることができる。そのため、CZが酸化雰囲気に曝される時には、CZは雰囲気中にある酸素イオンを結晶格子内に取り込む。一方、CZが還元雰囲気に曝される時には、CZは結晶格子内にある酸素イオンを雰囲気中に放出する。この点は、YScCZも同様である。
【0027】
[B. 組成]
YScCZ粒子は、特に、次の式(2)で表される組成を有するものが好ましい。
ScxCeyzZr1-(x+y+z)2+δ …(2)
但し、
0<x<0.5、0<y<0.5、0<z<0.5、x+y+z<0.5、
δは、電気的中性が保たれる値。
【0028】
[B.1. x]
式(2)中、xは、YScCZ粒子に含まれるSc、Ce、Y、及びZrの総モル数に対するScのモル数の比を表す。Scは、その一部がNi含有粒子(B)に拡散し、Ni含有粒子(B)に含まれるNiの酸化状態を変える作用、及び、これによってNiの酸化を抑制する作用があると考えられる。このような効果を得るためには、xは、0超である必要がある。xは、好ましくは、0.01以上である。
【0029】
一般に、ScドープZrO2はYSZよりイオン伝導度は高いが、ScはYに比べて高コストである。本発明においては、電極を低コスト化するために、主としてYによりZrO2のイオン伝導度を向上させ、Yの一部をSc及びCeで置換することによりNi酸化を抑制することを狙っている。コストを上昇させることなく、YScCZ粒子を高イオン伝導度化するためには、YScCZ粒子の組成を、イオン伝導度が最も高くなる8mol%Y23-ZrO2(8YSZ)組成の近傍に維持するのが望ましい。そのため、xが過剰になると、YScCZ粒子の組成が最適組成から大きく外れ、その結果として、YScCZ粒子のイオン伝導度が低下し、機械的強度も低下する。従って、xは、0.5未満が好ましい。xは、好ましくは、0.1未満、さらに好ましくは、0.02未満である。
【0030】
[B.2. y]
式(2)中、yは、YScCZ粒子に含まれるSc、Ce、Y、及びZrの総モル数に対するCeのモル数の比を表す。Ceは、ZrO2に酸素吸蔵・放出能を付与する作用がある。また、Ceを含むZrO2系固溶体は、Ceを含まないZrO2系固溶体に比べて高い水電解特性を示す。このような効果を得るためには、yは、0超である必要がある。yは、好ましくは、0.05以上である。
【0031】
一方、Ceは、Yに比べて、イオン伝導度を向上させる作用、及び機械的特性を向上させる作用に乏しい。さらに、YScCZ粒子を高イオン伝導度化するためには、YScCZ粒子の組成を8YSZ組成の近傍に維持するのが望ましい。そのため、yが過剰になると、YScCZ粒子の組成が最適組成から大きく外れ、その結果として、YScCZ粒子のイオン伝導度が低下し、機械的強度も低下する。従って、yは、0.5未満が好ましい。yは、好ましくは、0.1未満、さらに好ましくは、0.05未満である。
【0032】
[B.3. z]
式(2)中、zは、YScCZ粒子に含まれるSc、Ce、Y、及びZrの総モル数に対するYのモル数の比を表す。Yは、ZrO2のイオン伝導度を向上させる作用、及び、ZrO2の高温相(正方晶、立方晶)を室温において安定化させる作用がある。このような効果を得るためには、zは、0超である必要がある。zは、好ましくは、0.05超、さらに好ましくは、0.1超である。
【0033】
一方、本発明において、YScCZ粒子のイオン伝導度は主としてYのドープ量(z)により制御される。この場合、YScCZ粒子の組成が8YSZ組成の近傍にあるときにイオン伝導度が最も高くなる。そのため、zが過剰になると、かえってイオン伝導度が低下する。従って、zは、0.5未満が好ましい。zは、好ましくは、0.3未満、さらに好ましくは、0.2未満である。
【0034】
[B.4. x+y+z]
式(2)中、「x+y+z」は、YScCZ粒子に含まれるSc、Ce、Y、及びZrの総モル数に対する、Sc、Ce、及びYの総モル数の比を表す。上述したように、Sc、Ce及びYの総モル数が過剰になると、かえってイオン伝導度が低下する。従って、x+y+zは、0.5未満が好ましい。x+y+zは、好ましくは、0.3未満、さらに好ましくは、0.2未満である。
【0035】
[C. 結晶構造]
YScCZ粒子は、その組成に応じて、蛍石型構造、パイロクロア構造などの結晶構造を取る。これらの中でも、YScCZ粒子は、蛍石型構造を取るものが好ましい。
【0036】
[1.2.3. 活性層の組成]
本発明において、活性層は、所定量のYScCZ粒子を含み、残部がNi含有粒子(B)及び不可避的不純物からなるものが好ましい。YScCZ粒子の含有量が少なくなりすぎると、Ni含有粒子(B)に含まれるNiの酸化を十分に抑制できなくなる。従って、YScCZ粒子の含有量は、30mass%以上が好ましい。
一方、YScCZ粒子の含有量が過剰になると、かえってセル全抵抗が高くなり、電極反応の効率も低下する。従って、YScCZ粒子の含有量は、70mass%以下が好ましい。YScCZ粒子の含有量は、好ましくは、60mass%以下である。
【0037】
[1.2.4. 気孔率]
活性層の気孔率は、電解特性又は発電特性に影響を与える。活性層の気孔率が小さすぎると、ガスの拡散性が低下し、電極反応の効率が低下する。従って、活性層の気孔率は、15%以上が好ましい。気孔率は、好ましくは、20%以上、さらに好ましくは、25%以上である。
一方、活性層の気孔率が大きくなりすぎると、三相界面が相対的に少なくなり、かえって電極反応の効率が低下する。従って、活性層の気孔率は、40%以下が好ましい。気孔率は、好ましくは、35%以下、さらに好ましくは、30%以下である。
【0038】
[1.3. 用途]
本実施の形態に係る電極は、固体酸化物形電解セルの水素極、又は、固体酸化物形燃料電池の燃料極に用いることができる。
【0039】
[2. 電極の製造方法]
本発明に係る電極は、
(a)Ni含有粒子(A)の原料、及び、電解質粒子(A)の原料を含む原料混合物(A)を用いて拡散層成形体を作製し、
(b)拡散層成形体の表面に、Ni含有粒子(B)の原料、YScCZ粒子の原料を含む原料混合物(B)を用いて活性層成形体を形成し、
(c)得られた積層体を焼結し、
(d)得られた焼結体を還元処理する
ことにより製造することができる。
【0040】
[2.1. 拡散層成形体作製工程]
まず、Ni含有粒子(A)の原料、及び、電解質粒子(A)の原料を含む原料混合物(A)を用いて拡散層成形体を作製する(拡散層成形体作製工程)。
【0041】
Ni含有粒子(A)の原料の種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な原料を選択することができる。Ni含有粒子(A)の原料としては、例えば、NiO粉末、Fe23粉末、Fe34粉末、金属FeとNiO又は金属Niとの混合物、CoO粉末、Co23粉末などがある。
【0042】
電解質粒子(A)の原料の種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な原料を選択することができる。
例えば、電解質粒子(A)がYSZである場合、その原料としては、
(a)目的とする組成を有するYSZ粉末、
(b)目的とする組成となるように配合されたZrO2粉末と、Y23粉末との混合物
などがある。
【0043】
また、原料混合物(A)中には、造孔材(例えば、カーボン粉末)が含まれていても良い。原料混合物(A)中に添加されたNi含有粒子(A)の原料に含まれる金属酸化物(例えば、NiO粉末)は、焼結体作製後に還元処理される。その際、体積収縮が起こり、焼結体内に気孔が導入される。そのため、造孔材は、必ずしも必要ではない。しかし、原料混合物(A)中に造孔材を添加すると、気孔率の制御の自由度が増大する。
【0044】
拡散層成形体の作製方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択することができる。拡散層成形体の作製方法としては、例えば、
(a)原料混合物(A)を含むスラリーをテープ成形し、得られたグリーンシートを複数枚積層し、積層体を静水圧プレスして圧着させる方法、
(b)原料混合物(A)を金型でプレス成形する方法、
などがある。
【0045】
[2.2. 活性層成形体作製工程]
次に、拡散層成形体の表面に、Ni含有粒子(B)の原料、YScCZ粒子の原料を含む原料混合物(B)を用いて活性層成形体を形成する(活性層成形体作製工程)。
【0046】
YScCZ粒子の原料の種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な原料を選択することができる。YScCZ粒子の原料としては、例えば、
(a)目的とする組成を有するYScCZ粉末、
(b)目的とする組成となるように配合されたSc23粉末と、CeO2粉末と、YSZ粉末との混合物、
(c)目的とする組成となるように配合された、Sc、Ce、Zr、及び/又はYを含む塩(例えば、硝酸塩)の混合物、
などがある。
さらに、原料混合物(A)と同様の理由から、原料混合物(B)中には、造孔材(例えば、カーボン粉末)が含まれていても良い。
なお、Ni含有粒子(B)の原料の詳細については、Ni含有粒子(A)の原料と同様であるので、説明を省略する。
【0047】
活性層成形体の作製方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択することができる。活性層成形体の作製方法としては、例えば、
(a)原料混合物(B)を含むスラリーをテープ成形し、得られたグリーンシートを拡散層成形体の上に積層し、積層体を静水圧プレスして圧着させる方法、
(b)原料混合物(B)を含むスラリーを作製し、拡散層成形体の表面にスラリーをスクリーン印刷する方法、
などがある。
【0048】
[2.3. 焼結工程]
次に、得られた積層体を焼結させる(焼結工程)。焼結条件は、原料組成に応じて最適な条件を選択するのが好ましい。焼結は、通常、大気雰囲気下において、1000℃~1500℃で1時間~5時間行うのが好ましい。
原料混合物中に2種以上の酸化物が含まれている場合、焼結中に固相反応が進行し、所定の組成を有する固溶体が生成する場合がある。また、原料混合物中に造孔材が含まれている場合、焼結時に造孔材が消失し、焼結体内に気孔が形成される。
【0049】
[2.4. 還元工程]
次に、得られた焼結体を還元処理する(還元工程)。これにより、本発明に係る電極が得られる。還元処理は、焼結体中に含まれるNiO等の金属酸化物を還元し、Ni含有粒子(A)及びNi含有粒子(B)を生成させるために行われる。還元条件は、特に限定されるものではなく、電極の組成に応じて最適な条件を選択するのが好ましい。
なお、固体酸化物形電解セルは、後述するように、水素極(カソード)/電解質層/反応防止層/酸素極(アノード)の接合体からなる。水素極の還元は、通常、各層を接合した後に行われる。この点は、固体酸化物形燃料電池セルも同様である。
【0050】
[3. 固体酸化物形電解セル及び固体高分子形燃料電池セル]
図2に、Ni/YScCZを活性層に用いた固体酸化物形電解セルの模式図を示す。図2において、固体酸化物形電解セル(SOEC)10は、
電解質12と、
電解質12の一方の面に接合された水素極14と、
電解質12の他方の面に接合された酸素極16と、
電解質12と酸素極16との間に挿入された中間層18と
を備えている。
【0051】
水素極14には、本発明に係る電極が用いられる。すなわち、水素極14は、活性層14aと、活性層14aを支持する拡散層14bとの積層体からなる。図2において、活性層14aは、Ni粒子と、YScCZ粒子とを含むサーメット(B)からなる。
電解質12、酸素極16、及び中間層18の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。
【0052】
例えば、電解質12には、YSZなどを用いることができる。
酸素極16には、(La,Sr)CoO3(LSC)、(La,Sr)(Co,Fe)O3(LSCF)、(La,Sr)MnO3(LSM)などを用いることができる。
中間層18は、電解質12と酸素極16とが直接、接触することにより生じる反応を防止するための層であり、必要に応じて挿入される。例えば、電解質12がYSZであり、酸素極16がLSCである場合、中間層18には、GdドープCeO2(GDC)を用いるのが好ましい。
【0053】
なお、上述したように、本発明に係る電極は、固体酸化物形燃料電池セル(SOFC)の燃料極に用いることができる。SOFCは、用途が異なる以外は、SOEC10と同一の構造を備えているので、詳細な説明を省略する。
【0054】
[4. 作用]
図3に、Ni/YSZを活性層に用いた従来の固体酸化物形電解セルの模式図を示す。従来のSOEC10’は、電解質12と、電解質12の一方の面に接合された水素極14’と、電解質12の他方の面に接合された酸素極16と、電解質12と酸素極16との間に挿入された中間層18とを備えている。従来のSOEC10’は、水素極14’として、Ni-YSZサーメットが用いられている。
【0055】
水素極14’がNi-YSZサーメットからなるSOEC10’において、水素極14’にH2Oを供給し、水素極14’-酸素極16間に電流を流すと、水素極14’では、次の式(3)に示す還元反応が進行する。
2O+2e- → H2+O2- …(3)
【0056】
しかし、SOEC10’を用いた水電解においては、水素極14’に、原料となる高温(700℃以上)の水蒸気が供給される。そのため、水素極14’に含まれるNiが容易に酸化され、NiOが形成される。NiOは絶縁体であるため、NiOが形成されると、その部分では電子パスが途絶え、電極反応が進行しなくなる。その結果、電解特性は低下する。
この点は、SOFCも同様である。すなわち、SOFCのアノード(燃料極)においては、電極反応により水が生成する。そのため、特に、高負荷運転条件下において、生成した水により燃料極中のNiが酸化され、発電特性が低下する場合がある。
【0057】
この問題を解決するために、水素極にCeO2-ZrO2固溶体(CZ)を添加することが考えられる。CZは、酸化物イオン伝導体としての機能に加えて、酸素吸蔵・放出能を持つ。そのため、Ni/YSZサーメットからなる電極にCZを添加すると、Niの酸化をある程度抑制することができる。
しかしながら、Ni、YSZ、及びCZの混合物を焼成して電極を作製する場合、CZが高温に曝されるために、CZの一部が分解し、別の相が生成する場合がある。CZの分解が進行すると、酸素吸蔵・放出能力が低下し、Niの酸化を抑制する効果が低下する。
【0058】
一方、LaドープCeO2-ZrO2固溶体(LaCZ)は、CZに比べて結晶構造の熱的安定性が高い。そのため、Ni、YSZ、及びLaCZの混合物を高温で焼成した場合であっても、LaCZの分解が抑制される。LaCZの分解が抑制された電極は、高い酸素吸蔵・放出能力が維持される。そのため、これを用いて水蒸気電解又は発電を行うと、Niの酸化が抑制され、電解性能又は発電性能が向上する。しかしながら、LaCZを含む電極の耐酸化性は、不十分である。
【0059】
これに対し、Y、Sc及びCeがドープされたZrO2固溶体(YScCZ)は、LaCZに比べて酸素吸蔵能が高い。水素昇温反応法(H2-TRR)は、試料にH2ガスを流通させながら連続昇温し、試料表面の酸化還元特性を評価する手法である。消費された水素量から、試料の還元能(すなわち、O2吸蔵量)を見積もることができる。H2-TRR法によるLCZの酸素吸蔵量は、125μmol/0.15gであった。一方、YScCZの酸素吸蔵量は、200μmol/0.15gであった。
さらに、YScCZは、LaCZに比べてNiの酸化を抑制する効果が格段に高い。そのため、Ni及びYScCZを含む電極を用いて水蒸気電解又は発電を行うと、Niの酸化が格段に抑制される。
【0060】
SOECセルにおいて、水素極へのYScCZの添加によりNiの酸化が格段に抑制されるのは、以下の理由によると考えられる。
【0061】
[A. YScCZによる酸素イオンの固定]
NiとYScCZを含む水素極が高温の水蒸気に曝されると、Niが酸化され、Ni粒子の表面がNiOで被覆された状態となる(ステップ1)。この時、Ni粒子の近傍にYScCZ粒子があると、NiOから酸素原子又は酸素イオンがスピルオーバーする(ステップ2)。そのトリガーとなるのは、YScCZの酸素吸蔵能力と考えられる。
【0062】
[B. YScCZによる還元雰囲気の生成]
NiOからスピルオーバーした酸素は、YScCZに一時的にトラップされる(ステップ3)。水素極は、Ni触媒から生成したH2によって還元雰囲気になっている。YScCZ自身も水分解能を持ち、そこから水素が生成するので、YScCZもH2源として機能する。さらに、還元雰囲気下では、YScCZはトラップした酸素原子又は酸素イオンを酸素分子として容易に放出する。YScCZから放出された酸素分子は、Niを再酸化させる前に、拡散層を通って系外に排出される(ステップ4)。以下、このようなステップ1~4が繰り返されることにより、Ni酸化が抑制されると考えられる。
【0063】
[C. Niの電子状態の変化]
後述するように、Ni/YSZサーメット中に存在するNiの電子状態は、Niが単独で存在する時の電子状態とほとんど変わらない。一方、Ni/YScCZサーメット中に存在するNiの電子状態は、Niが単独で存在する時の電子状態とは異なっている。Ni/YScCZサーメットがNi/YSZサーメットやNi/LaCZサーメットよりも各段に優れた耐酸化性を示すのは、NiとYScCZとが共存することによって、Niの電子状態が変化するためと考えられる。
【0064】
この点は、電極触媒としてNi以外の元素を含むNi含有粒子(B)を用いた場合も同様であり、Ni含有粒子(B)とYScCZとを共存させると、Ni含有粒子(B)に含まれるNiの電子状態が変化し、これによってNi含有粒子(B)に含まれるNiの酸化が抑制されると考えられる。
【実施例
【0065】
(実施例1、比較例1~2)
[1. 試料の作製]
[1.1. XAFSスペクトル測定用試料の作製]
電解質源には、
(a)Y0.158Zr0.8422固溶体からなるYSZ粉末(比較例1)、
(b)Sc0.135Ce0.1Zr0.7652固溶体からなるScCZ粉末(比較例2)、又は
(c)Y0.143Sc0.012Ce0.01Zr0.8352固溶体からなるYScCZ粉末(実施例1)
を用いた。
また、Ni源には、NiO粉末を用いた。
【0066】
電解質源及びNiO粉末を質量比で1:1となるように配合し、混合粉末(以下、「電極材」ともいう)を得た。
0.8mgの電極材と、40mgのθアルミナ粉末とを混合し、加圧してφ10mm、厚さ0.5mmの圧粉成形体を作製した。
【0067】
[1.2. 電解セルの作製]
テープ成形法を用いて、拡散層シートを作製した。拡散層シートの組成は、焼結後の組成が30~60mass%Ni-8YSZとなる組成とした。次に、拡散層シートの表面にスクリーン印刷法を用いて、上記の電極材を含む活性層シート、8YSZを含む電解質シート、及びGDCを含む中間層シートをこの順で形成した。積層体を乾燥させた後、大気雰囲気中において、1400℃で15時間焼成した。次に、中間層の表面にさらにLSCを含む酸素極シートを形成した。積層体を乾燥させた後、大気雰囲気中において、1100℃で15時間焼成した。さらに、得られた焼結体を、800℃×2時間の条件下で還元処理した。
【0068】
[2. 試験方法]
[2.1. 電極材の評価(Ni酸化率、及びXAFSスペクトルの測定)]
電極材を含む圧粉成形体を石英製のX線吸収微構造(XAFS)測定用セルにセットした。4%H2/Heバランスガス(総量100cc/min)をセル内に導入し、780℃まで温度を上昇させた(60℃/min)。その後、700℃に降温し、1分間、Heガスでパージした。次に、セル内の雰囲気を、2%O2/Heガス(加湿無)の酸化雰囲気に切り替えた。
【0069】
XAFSスペクトルは、Heパージを開始した時から測定した。また、リファレンススペクトルとして、NiとNiOを使用した。表1に、XAFS測定条件の詳細を示す。
さらに、XAFSスペクトルから、Ni酸化率を算出した。Ni及びNiOのXAFSスペクトルを用いて、線形最小二乗フィッティングによりNiO/Ni比を求め、これをNi酸化率とした。
【0070】
【表1】
【0071】
[2.2. 電解セルの評価(水蒸気電解試験)]
得られた電解セルを用いて、水蒸気電解試験を行った。電解条件は以下の通りである。
温度: 700℃
水素極: H2O/H2比=9(90%H2O-10%H2)のガス雰囲気
酸素極: 80%H2-20%O2のガス雰囲気
CV: 2mV/s(0.8~1.4V)
【0072】
[3. 結果]
[3.1. 電極材の評価]
[3.1.1. Ni酸化率]
図4に、温度700℃、酸化雰囲気(2%O2)下における各種電極のNi酸化率を示す。図4より、以下のことが分かる。
【0073】
(1)Ni/YSZ(比較例1)は、時間の経過と共に、Ni酸化率が増大した。
(2)Ni/ScCZ(比較例2)は、Ni/YSZに比べてNi酸化が著しく抑制された。酸化雰囲気下で50分保持後のNi/ScCZのNi酸化率は、1%未満であった。
【0074】
[3.1.2. XAFSスペクトル]
図5に、Ni/YSZ(Y0.158Zr0.8422)のXAFSスペクトルを示す。図6に、Ni/ScCZ(Sc0.135Ce0.1Zr0.7652)のXAFSスペクトルを示す。なお、図5及び図6には、リファレンスNi及びNiOのスペクトルも併せて示した。図5及び図6より、以下のことが分かる。
(1)Ni/YSZ中のNi(0分)のXAFSスペクトルは、リファレンスのNi金属と同じスペクトルを示した。
(2)Ni/ScCZ中のNi(0分)のXAFSスペクトルは、明らかにNi金属とは異なるスペクトルを示した。ScCZによりNi酸化が抑制されるのは、NiとScCZとを共存させることによりNiの電子状態が変わり、酸化雰囲気でもNiOになりにくくなったため(すなわち、Niの酸化還元電位が変化したため)と考えられる。
(3)YScCZについては、図示はしないが、ScCZと同等の傾向を示した。
【0075】
[3.2. 電解セルの評価(水蒸気電解試験)]
図7に、実施例1及び比較例1で得られた電極のH2O/H2比=9におけるCV特性を示す。図8に、実施例1及び比較例1で得られた電極の電流密度@1.3VのH2O/H2比依存性を示す。図7及び図8より、以下のことが分かる。
【0076】
(1)Ni/YScCZ(実施例1)の場合、高加湿条件(H2O/H2比=9)での電解特性(電位が1.3Vである時の電流密度)は、低加湿条件(H2O/H2比=1)でのそれに比べて32%上昇した。
(2)通常、H2O/H2比を上昇させると、実施例1のように電解特性は向上する。しかしながら、Ni/YSZ(比較例1)の場合、H2O/H2比を上昇させても電解特性はほとんど向上しなかった。これは、高加湿条件下ではNiが酸化され、セル抵抗が増加したためと考えられる。
【0077】
(3)実施例1において、高加湿条件での電解特性が向上したのは、Niの酸化が抑制されたためと考えられる。このNi酸化の抑制効果は、電極材の酸素吸蔵能力に対応していると考えられる。
(4)YSZだけでなく、ScZ(Sc置換ZrO2)、及びScC(Sc置換CeO2)もまた、Ce3+⇔Ce4+による酸素吸蔵効果は認められない。すなわち、これらの材料の酸素吸蔵能力はゼロである。そのため、これらを水素極用の電解質として用いても、Niの酸化を抑制することはできないと考えられる。
【0078】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明に係る電極は、固体酸化物形電解セルの水素極、あるいは、固体酸化物形燃料電池の燃料極として使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8