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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】成形用部材およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/08 20060101AFI20240605BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240605BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20240605BHJP
   D07B 1/16 20060101ALI20240605BHJP
   F16G 1/08 20060101ALI20240605BHJP
   F16G 5/06 20060101ALI20240605BHJP
   F16G 5/20 20060101ALI20240605BHJP
【FI】
C08L23/08
C08K3/04
C08K5/14
D07B1/16
F16G1/08 A
F16G5/06 A
F16G5/20 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020189649
(22)【出願日】2020-11-13
(65)【公開番号】P2021091877
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-11-02
【審判番号】
【審判請求日】2024-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2019217089
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】光冨 学
(72)【発明者】
【氏名】テセマ イヨブ アシェナフィ
【合議体】
【審判長】▲吉▼澤 英一
【審判官】藤井 勲
【審判官】岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-091876(JP,A)
【文献】特開2012-232517(JP,A)
【文献】特開昭62-068838(JP,A)
【文献】特開2016-090051(JP,A)
【文献】特開2011-117576(JP,A)
【文献】特開2009-019663(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0021858(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/00- 23/36
F16G 1/00- 17/00
D07B 1/00- 9/00
B29C 35/00- 35/18
B29C 33/00- 33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未架橋体に接触させた状態で前記未架橋体を架橋して架橋成形体を製造するための成形用部材であって、
ゴム成分、カーボンブラックおよび有機過酸化物を含むゴム組成物の架橋体で形成され、
前記ゴム成分が、エチレン-α-オレフィンエラストマーを含み、
前記エチレン-α-オレフィンエラストマーの割合が、前記ゴム成分中90質量%以上であり、
前記カーボンブラックが、一次粒子径5nm以上40nm未満のハードカーボンおよび一次粒子径40nm以上300nm以下のソフトカーボンを含み、
前記ハードカーボンの割合が、前記ゴム成分100質量部に対して28~70質量部であり、かつ前記ソフトカーボンの割合が、前記ゴム成分100質量部に対して35~90質量部である成形用部材。
【請求項2】
前記ソフトカーボンの割合が、前記ハードカーボン100質量部に対して80~300質量部である請求項1記載の成形用部材。
【請求項3】
前記カーボンブラックの割合が、前記ゴム成分100質量部に対して70~120質量部である請求項1または2記載の成形用部材。
【請求項4】
前記ハードカーボンのBET比表面積が70~140m/gであり、かつ前記ソフトカーボンのBET比表面積が25~60m/gである請求項1~3のいずれか一項に記載の成形用部材。
【請求項5】
前記エチレン-α-オレフィンエラストマーのエチレン含量が50~70質量%であり、ジエン含量が0.4~5質量%である請求項1~4のいずれか一項に記載の成形用部材。
【請求項6】
前記有機過酸化物の割合が、前記ゴム成分100質量部に対して2~8質量部である請求項1~5のいずれか一項に記載の成形用部材。
【請求項7】
JIS K 6262に準拠した圧縮永久歪が5~20%である請求項1~6のいずれか一項に記載の成形用部材。
【請求項8】
JIS K 6251に準拠した破断伸び率が100~500%である請求項1~7のいずれか一項に記載の成形用部材。
【請求項9】
伝動ベルトを製造するためのブラダーである請求項1~8のいずれか一項に記載の成形用部材。
【請求項10】
前記伝動ベルトが、50GPa以上の弾性率を有する心線を含む請求項9記載の成形用部材。
【請求項11】
前記未架橋体が有機過酸化物を含む請求項1~10のいずれか一項に記載の成形用部材。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の成形用部材を未架橋体に接触させた状態で前記未架橋体を架橋して架橋成形体を製造する方法。
【請求項13】
前記成形用部材を変形させて前記未架橋体を架橋する請求項12記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤやベルトなどの架橋成形体を製造するために用いられる成形用部材およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー化、コンパクト化の社会的要請を背景に、自動車のエンジンルーム周辺の雰囲気温度は従来に比べて上昇し、この雰囲気温度の上昇に伴って動力伝動用ベルトの使用環境温度も高くなってきた。従来、伝動ベルト(特にVリブドベルト)に用いるポリマーは、天然ゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴムなどが主流であったが、耐熱性の改善や、環境負荷物質を含まない材料の要求が増すにつれて、エチレン-α-オレフィンエラストマーが採用され、このポリマーの架橋剤として有機過酸化物が用いられるようになった。
【0003】
前記Vリブドベルトの製造方法の1つとして、特開2009-119846号公報(特許文献1)には、円筒状の成形ドラム(内型)に装着されたブラダー(可撓性ジャケット)の外周面に、ベルトを構成する部材(心線、ゴムシート等)を順に巻きつけて未加硫のベルトスリーブを形成し、このベルトスリーブを装着した内型を外型内に設置し、外型を加熱しつつブラダーを膨張させて、内周面にはリブ部に対応した溝状刻印を有する外型に未加硫スリーブを押圧しながらリブ部を形成する方法が開示されている。
【0004】
この製造工程において、加硫後にブラダーを収縮させて元の状態に戻すと、ブラダーは外径が小さくなって、加硫されたベルトスリーブの内径よりも小さくなるため、ブラダーと加硫されたベルトスリーブとの離型が可能となる。ブラダーの離型性が低下すると、作業性、特に、自動化された製造ラインの作業性が著しく低下する。また、ブラダーは、ベルトスリーブの加硫に何回も繰り返し使用されるため、繰り返し使用における経時的な劣化による破損や離型性の低下も問題になる。
【0005】
前記ブラダーに使用するゴム素材としては、従来から、耐熱性に優れ、ガス透過性が低いブチルゴムが使用されており、例えば、特開平10-130441号公報(特許文献2)には、メチロール化フェノール樹脂およびブチルゴムを含むゴム成分を含有するゴム組成物を加硫したタイヤ製造用ブラダーが開示されている。
【0006】
しかし、ベルトスリーブのゴム層に、架橋剤として有機過酸化物を配合したゴム組成物を使用すると、ブチルゴムが、有機過酸化物の分解により生じたラジカルの攻撃を受け、主として分解反応を起こす。特に、有機過酸化物を含むゴム組成物からなるゴム層が、ブチルゴムを素材とするブラダーに直接密着すると、ブラダーのブチルゴムが損傷する。そのため、従来の硫黄架橋系のゴム組成物からなるベルトスリーブに比べて、ブラダーのベルトスリーブのゴム層と密着する面の硬化劣化が著しく、使用可能な繰り返し回数が短くなる。
【0007】
そこで、ブチルゴムを使用しないブラダーとして、特開2010-221506号公報(特許文献3)および特開2011-161767号公報(特許文献4)には、シリコーンゴムやフッ素ゴムを用いたタイヤ製造用ブラダーが開示されている。
【0008】
しかし、シリコーンゴムを用いると、離型性には優れるが、耐加水分解性、耐引裂性(耐引裂亀裂性)に劣り寿命が短くなるという問題がある。また、フッ素ゴムを用いると、寿命は長くなるが、高価な材料であるためコスト面で採用が難しい。
【0009】
そこで、安価な材料であるエチレン-α-オレフィンエラストマーを用いて、従来のブチルゴムを改良した例として、特表2018-513248号公報(特許文献5)には、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)などのエチレンとC3-23α-オレフィンとポリエンモノマーとのコポリマー20~50質量部およびブチルゴムなどのブチルタイプのゴム50~80質量部を含むゴム組成物で形成されたタイヤ製造用ブラダーが開示されている。さらに、特開2012-232517号公報(特許文献6)には、伝動ベルトの加硫成形用部材(ジャケット)として、ブチルゴムとエチレン-α-オレフィンエラストマーとを、前者/後者=10/90~60/40(質量比)の割合で含むゴム組成物で形成された成形用部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2009-119846号公報
【文献】特開平10-130441号公報
【文献】特開2010-221506号公報
【文献】特開2011-161767号公報
【文献】特表2018-513248号公報
【文献】特開2012-232517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、近年では伝動ベルトのゴム成分にエチレン-α-オレフィンエラストマーが採用されて架橋温度が高温化するにつれ、ブラダーなどの成形用部材の耐久寿命を長くするには、ブラダーを構成するゴム成分にも高度な耐熱性が必要になってきた。そのためには、特許文献5および6の成形用部材のように、ブチルゴムを含むと充分な耐熱性が得られないため、耐熱性を考慮したゴム成分が必要になった。
【0012】
なお、前述のように、ブチルゴムやシリコーンゴムでは、有機過酸化物を含むゴム組成物で形成された未加硫スリーブから伝動ベルトを製造するためのブラダーとして繰り返し用いると、ブラダーの機械的特性(耐引裂性など)が低下して耐久寿命が低下したり、得られたベルトの離型性が低下した。
【0013】
また、ブラダーの耐久寿命については、耐引裂性が向上しても、永久変形(永久歪み)によって寿命に至ることがある。詳しくは、伝動ベルトの成形においては、ブラダーの外周側に張力を掛けた心線をスピニングして成形体を作製するため、成形体が装着されたブラダーは心線で締め付けられた状態になる。その状態で、架橋工程でブラダーを膨張させると、心線がブラダーに喰い込むため、架橋工程でブラダーを繰り返し使用すると、ブラダー外周面に心線の痕跡が、徐々に転写(心線の形状に沿った凹凸が形成)されて戻らなくなる。外周面に心線の痕跡が形成されたブラダーを用いて架橋成形すると、成形体の内周面(ブラダーとの接触面)にも心線の痕跡が転写される。成形体の内周面は、伝動ベルトの背面になる部分であるため、伝動ベルト背面の外観不良となる。本願では、このような心線の痕跡が形成されて戻らなくなる変形を、永久変形(永久歪み)と称する。すなわち、ブラダーを繰り返し使用して、ブラダーの外周面が、架橋成形する成形体の内周面(伝動ベルトの背面)に心線の痕跡が転写されるほどの状態にまで永久変形した場合も、耐久寿命となる。
【0014】
さらに、耐引裂性および耐永久変形性が向上しても、架橋成形において伝動ベルトの心線の並び方を乱す場合がある。詳しくは、Vリブドベルトは、通常、モールド型付工法(モールデッド製法)により製造される。モールド型付工法では、伸張ゴム、接着ゴム、心線、圧縮ゴム、布帛などを積層した成形体を外金型に向けて押し付ける必要がある。この際、成形体を押し付ける圧力によって、伸張ゴムや接着ゴムが心線の隙間を通って圧縮ゴム側へ流れ出ようとする力が働く。例えば、伸張ゴム、心線、圧縮ゴム、布帛を積層した成形体では、伸張ゴムが圧縮ゴム側に流れ出る力が働き、伸張ゴム、接着ゴム、心線、圧縮ゴムを積層した成形体では、接着ゴム、または接着ゴムおよび伸張ゴムが圧縮ゴム側に流れ出る力が働く。そのため、心線が圧縮ゴム側に向かって押し出されたり、逆に心線が伸張ゴム側に食い込んだりする現象が起こりやすい。その結果、ベルト厚み方向における心線の位置が不揃いとなってしまう。心線の位置が不揃いになるとベルトの耐久性が低下するため、このような心線の並びの乱れを改善する必要がある。
【0015】
従って、本発明の目的は、耐熱性に優れ、耐永久変形性などの耐久寿命を向上でき、かつ得られる架橋成形体における心線の位置をベルト厚み方向で安定化できる成形用部材およびその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、前記課題を達成するため鋭意検討の結果、架橋成形体を製造するための成形用部材を、エチレン-α-オレフィンエラストマーと、特定割合で組み合わせた一次粒子径40nm以上のソフトカーボンおよび一次粒子径40nm未満のハードカーボンと、有機過酸化物とを組み合わせたゴム組成物の架橋体で形成することにより、耐熱性に優れ、耐永久変形性などの耐久寿命を向上でき、かつ得られる架橋成形体における心線の位置をベルト厚み方向で安定化できることを見出し、本発明を完成した。
【0017】
すなわち、本発明の成形用部材は、未架橋体に接触させた状態で前記未架橋体を架橋して架橋成形体を製造するための成形用部材であって、ゴム成分、カーボンブラックおよび有機過酸化物を含むゴム組成物の架橋体で形成され、前記ゴム成分が、エチレン-α-オレフィンエラストマーを含み、前記カーボンブラックが、一次粒子径40nm未満のハードカーボンおよび一次粒子径40nm以上のソフトカーボンを含み、前記ハードカーボンの割合が、前記ゴム成分100質量部に対して28~70質量部であり、かつ前記ソフトカーボンの割合が、前記ゴム成分100質量部に対して35~90質量部である。前記ソフトカーボンの割合は、前記ハードカーボン100質量部に対して80~300質量部であってもよい。前記カーボンブラックの割合は、前記ゴム成分100質量部に対して70~120質量部であってもよい。前記ハードカーボンのBET比表面積は70~140m/gであってもよい。前記ソフトカーボンのBET比表面積は25~60m/gであってもよい。前記エチレン-α-オレフィンエラストマーのエチレン含量は50~70質量%であり、ジエン含量は0.4~5質量%であってもよい。前記有機過酸化物の割合は、前記ゴム成分100質量部に対して2~8質量部であってもよい。前記成形用部材のJIS K 6262に準拠した圧縮永久歪は5~20%であってもよい。前記成形用部材のJIS K 6251に準拠した破断伸び率は100~500%であってもよい。前記成形用部材は、伝動ベルトを製造するためのブラダーであってもよい。前記伝動ベルトは、50GPa以上の弾性率を有する心線を含んでいてもよい。前記未架橋体は有機過酸化物を含んでいてもよい。
【0018】
本発明には、前記成形用部材を未架橋体に接触させた状態で前記未架橋体を架橋して架橋成形体を製造する方法も含まれる。この方法において、前記成形用部材を変形させて前記未架橋体を架橋してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、架橋成形体を製造するための成形用部材が、エチレン-α-オレフィンエラストマーと、特定割合で組み合わせた一次粒子径40nm以上のソフトカーボンおよび一次粒子径40nm未満のハードカーボンと、有機過酸化物とを組み合わせたゴム組成物の架橋体で形成されているため、耐熱性に優れ、耐永久変形性などの耐久寿命を向上でき、例えば、伝動ベルトを製造するためのブラダーとして利用しても、耐久性を向上できるとともに、得られる架橋成形体における心線の位置をベルト厚み方向で安定化でき、例えば、弾性率が高く伸びが小さいVリブドベルトの心線の位置をベルト厚み方向で安定化できる。特に、耐久性について、引裂亀裂による耐久寿命を向上でき、かつ永久変形による耐久寿命を向上できる。また、有機過酸化物を含むゴム組成物で形成された未架橋体から架橋成形体を製造するための成形用部材として繰り返し用いても、成形用部材の機械的特性(引裂特性など)が低下したり、得られた架橋成形体との離型性が低下するのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、Vリブドベルトを製造するためのベルト成形装置の内型の一例を示す概略斜視図(a)およびその部分拡大概略断面図(b)である。
図2図2は、図1の内型にベルトスリーブを装着した状態の概略斜視図(a)およびその部分拡大概略断面図(b)である。
図3図3は、図2のベルトスリーブを装着した内型を外型に挿入する工程を示す概略斜視図(a)および前記内型を前記外型に挿入した状態を示す部分拡大概略断面図(b)である。
図4図4は、図3の外型に内型を挿入したベルト成形装置のブラダーを膨張させた状態の概略斜視図(a)およびその部分拡大概略断面図(b)である。
図5図5は、図4のベルト成形装置から内型を抜き取る工程を示す概略斜視図(a)および前記ベルト成形装置から前記内型を抜き取った状態を示す部分拡大概略断面図(b)である。
図6図6は、Vリブドベルトの一例を示す概略断面図である。
図7図7は、実施例において、心線のベルト厚み方向のズレ量を測定するための方法を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[架橋成形体の製造方法]
本発明の成形用部材は、未架橋体に接触させた状態で前記未架橋体を架橋して架橋成形体を製造するために使用される。前記架橋成形体としては、ゴムなどで形成された架橋成形体であればよく、例えば、タイヤ、ベルトなどが例示できる。これらのうち、本発明の成形用部材を利用して製造される架橋成形体としては、ベルトが好ましく、動力伝動用ベルト(伝動ベルト)が特に好ましい。伝動ベルトとしては、例えば、平ベルト;ラップドVベルト、ローエッジVベルト、ローエッジコグドVベルト、Vリブドベルトなどの摩擦伝動ベルト;歯付ベルト、両面歯付ベルトなどの噛み合い伝動ベルトなどが挙げられ、VリブドベルトなどのVベルトが汎用される。以下に、Vリブドベルトを製造するための可撓性ジャケットであるブラダーとして、本発明の成形用部材を用いたVリブドベルトの製造方法について説明する。
【0022】
(ベルト成形装置)
Vリブドベルトは、外型と、この外型の中空部に挿入および脱着可能な内型とを備えたベルト成形装置によって製造できる。図1は、Vリブドベルトを製造するためのベルト成形装置の内型の一例を示す概略斜視図(a)およびその上側部分の拡大概略断面図(b)である。図3は、前記内型に外型を組み合わせたベルト成形装置に関する図面であり、詳しくは、後述する図2のベルトスリーブを装着した内型を外型に挿入する工程を示す概略斜視図(a)および前記内型を前記外型に挿入した状態を示す部分拡大概略断面図(b)である。
【0023】
図1に示されているように、金型である内型1の形状は、円柱状または円筒状である。内型1の長手方向の両端(上下両端)には、外周方向に突出する円板状の上端フランジ22aおよび下端フランジ22bが形成されている。この例では、上端フランジ22aは、下端フランジ22bよりも径が大きく形成されており、内型1に装着された後述するブラダー5の外径よりも大きな径で形成されている。
【0024】
内型1の外周面には、本発明の成形用部材である円筒形状のブラダー5が装着されており、詳しくは、可撓性のブラダー5の円筒内部に内型1を嵌め込むことにより、内型1の外周面は円筒形状のブラダー5の内周面と接触している。このブラダー5の材質は、後述するように、伸縮自在でかつ気密性を有するゴム組成物の架橋体で形成されている。このブラダー5は、長手方向の両端面(上端面および下端面)の全周を、それぞれ上端フランジ22aおよび下端フランジ22bに密着させて装着されている。そのため、内型1の外周面とブラダー5の内周面との間は上下両端のフランジで密閉されている。
【0025】
また、内型1は、上端フランジ22aおよび内型1を貫通する流体供給路23を備えている。この流体供給路23は、上端の開口部が上端フランジ22aよりも上方に位置し、上端フランジ22aを貫通し、さらに内型1内を湾曲して貫通することにより、ブラダー5の内周面まで延び、内型1の外周面とブラダー5の内周面との境界で開口部を形成している。内型1では、この流体供給路23を通して内型1の外周面とブラダー5の内周面との間にエアーなどの流体を供給することができる。このように流体供給路23を通して流体を供給すると、内型1の外周面とブラダー5の内周面との間は上下両端で密閉されているため、ブラダー5は流体の流入に伴って外方へ膨張される。また、流体供給路23から流体が供給されていないときには、ブラダー5は内型1の外周面に密接した状態になっている。
【0026】
外型6は、図3に示されるように、前記内型1を挿入可能な円筒形状を有しており、図3(b)に示されるように、外型6の成形面となる内周面に成形用凸部45が形成されている。成形用凸部45は、目的とするリブ部に対応した鋳型形状(反転形状)として形成され、かつ外型6の内周面の全周面に亘って突設されており、外型6の内周面の周方向と直交する方向に所定の一定間隔で平行に多数本形成されている。
【0027】
Vリブドベルトは、このベルト成形装置を用いて製造されるが、具体的な工程としては、未架橋ベルト前駆体を成形する成形工程、未架橋ベルト前駆体を架橋する架橋工程、架橋ベルト前駆体(ベルトスリーブ)からVリブドベルトを製造する仕上げ工程を経て得られる。
【0028】
(成形工程)
成形工程は、外周面にブラダー5を装着した内型1を用いて未架橋ベルト前駆体4を形成する工程である。
【0029】
図2は、成形工程におけるベルト成形装置の状態を示しており、詳しくは、図1の内型1にベルトスリーブを装着した状態の概略斜視図(a)およびその上側部分の拡大概略断面図(b)である。図2に示すように、未架橋ベルト前駆体4は、ブラダー5の外周面にスパイラル状に巻き付ける心線2と、ブラダー5の外周面に巻き付ける前駆体シート3との積層体として形成される。図2の実施の形態では、前駆体シート3は、少なくとも未架橋ゴムシートを含む2種類のシートが使用されており、ブラダー5の外周面に、内周側から伸張層形成用のシート3a、芯体を形成する心線2、圧縮層形成用の未架橋ゴムシート3bの積層材料を順に巻き付けて積層し、未架橋ベルト前駆体4を形成する。伸張層形成用のシート3aは、布帛または未架橋ゴムシートを用いる。なお、芯体(心線)を接着ゴム層に埋設した芯体層とする場合には、シート3aとシート3bとの間には、芯体(心線)を埋設するための接着ゴム層形成用の未架橋ゴムシートを設けてもよく、上記の層構成に限定されない。
【0030】
(架橋工程)
架橋工程とは、未架橋ベルト前駆体4に対して、金型の形状に対応した所望の形状に圧縮成形(型付け)を行うことで、各ゴム層を構成するゴム成分の架橋反応を行うとともに、未架橋ベルト前駆体4を構成する積層材料を接着して一体化を行って、ベルトスリーブ(架橋ベルト前駆体)4A(後述する図5(b))を形成する工程である。この架橋工程では、未架橋ベルト前駆体4を架橋すると共に、リブ部7を形成してベルトスリーブ4Aが得られるため、架橋工程では架橋と同時に圧縮ゴム層を成形している。
【0031】
図3は、架橋工程に未架橋ベルト前駆体を供するための準備段階を示しており、詳しくは、前述の通りである。図4は、架橋工程におけるベルト成形装置の状態を示しており、詳しくは、図3の外型に内型を挿入したベルト成形装置のブラダーを膨張させた状態の概略斜視図(a)およびその部分拡大概略断面図(b)である。
【0032】
詳細には、未架橋ベルト前駆体を架橋工程に供するためには、図3に示されるように、未架橋ベルト前駆体4を装着した内型1は、外型6の円筒内部(中空内部)に挿入される。外型6の内部は全周に亘って密閉された中空部として加熱・冷却ジャケット35が形成されており、外型6の外周壁6aの上方には、蒸気などの加熱媒体を供給するための熱媒供給口36が形成されており、外周壁6aの下方には、冷却水などの冷却媒体を供給するための冷媒供給口37が形成されている。
【0033】
架橋工程では、図4に示されるように、熱媒供給口36から加熱媒体を供給して加熱・冷却ジャケット35で外型6を加熱すると共に、流体供給路23からエアーなどの流体を内型1の外周とブラダー5の内周の間に供給して、図4(b)に示されるように、流体の圧力でブラダー5を外型6の内周面(リブ型)に向かって膨張させて、ブラダー5の外周面に巻き付けて装着されている未架橋ベルト前駆体4を外型6の内周面に押し付け、ブラダー5と外型6との間で未架橋ベルト前駆体4を加熱・加圧する。この際に未架橋ベルト前駆体4が外型6の内周面に押し付けられて加圧されることによって、外型6の成形用凸部45間の凹部に未架橋ベルト前駆体4の外周面が圧入するため、外周面にリブ部7を形成できる。なお、加熱温度は、例えば120~180℃、成形圧力は、例えば0.5~1.5MPa、加熱時間は例えば15~30分である。この工程により、未架橋ベルト前駆体4は架橋成形されてベルトスリーブ4Aが得られる。
【0034】
(仕上げ工程)
仕上げ工程では、架橋工程で得られたベルトスリーブ4AからVリブドベルトを製造する。図5は、仕上げ工程におけるベルト成形装置を示しており、図4に示す状態のベルト成形装置から内型を抜き取る工程を示す概略斜視図(a)および前記ベルト成形装置から前記内型を抜き取った状態を示す部分拡大概略断面図(b)である。
【0035】
架橋工程において、ベルトスリーブ4Aが架橋成形し、加熱を停止した後、流体供給路23からの流体の供給を停止することによって、ブラダー5を収縮させて膨張前の状態に戻し、さらに冷媒供給口37から冷却媒体を供給して外型6を冷却する。ブラダー5が元の状態にまで収縮すると、ブラダー5は外径が小さくなって、架橋成形されたベルトスリーブ4Aの内径よりも小さくなるので、図5に示されるように、架橋成形されたベルトスリーブ4Aを外型6の内周に残したまま内型1を外型6から抜き出すことができる。
【0036】
外型6より内型1を抜き取り、外周に複数のリブを有するベルトスリーブ4Aを外型6から脱型した後、カッターを用いて、ベルトスリーブ4Aを所定の幅でベルト長手方向に輪切りして、ベルトを1本ずつに分離し、内周側と外周側とを裏返す(反転させる)ことによりVリブドベルトに仕上げる。
【0037】
このように、Vリブドベルトの製造においては、成形用部材としてのブラダーは加熱されるとともに、リブ部を形成するために、膨張および収縮されて変形させて使用する。本発明の成形用部材は、加熱と変形が繰り返される用途であっても耐久性を向上できる。そのため、本発明の成形用部材は、架橋のための加熱とともに、架橋成形において変形して使用される用途(特に、ブラダー)に好ましく利用できる。
【0038】
[成形用部材]
前述のブラダーに代表される成形用部材は、ゴム成分、カーボンブラックおよび有機過酸化物を含むゴム組成物の架橋体で形成されている。
【0039】
(ゴム成分)
ゴム成分は、エチレン-α-オレフィンエラストマーを含む。エチレン-α-オレフィンエラストマーは、主鎖に二重結合を含まないため、耐熱性に優れ、繰り返し加熱される成形用部材の材質として好ましい。特に、前記ブラダーなどの成形用部材を用いた架橋工程では、未架橋体と成形用部材とが接触する。未架橋体のゴム組成物が有機過酸化物を含む場合、成形用部材を構成するゴム成分が有機過酸化物の分解により生じたラジカルの攻撃を受けて分解されて軟化劣化すると、成形用部材の機械的強度(特に、引裂特性)が低下したり、前記未架橋体の架橋成形体(ベルトスリーブなど)との離型性が低下する。本発明では、ゴム成分として有機過酸化物の分解により生じたラジカルの攻撃を受けて分解されることのないエチレン-α-オレフィンエラストマーを用いることにより、成形用部材の軟化劣化を抑制できる。
【0040】
エチレン-α-オレフィンエラストマーは、構成単位として、エチレン単位、α-オレフィン単位を含んでいればよく、ジエン単位をさらに含んでいてもよい。エチレン-α-オレフィンエラストマーには、エチレン-α-オレフィン共重合体ゴム、エチレン-α-オレフィン-ジエン三元共重合体ゴムなどが含まれる。
【0041】
α-オレフィン単位を形成するためのα-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、ブテン、ペンテン、メチルペンテン、ヘキセン、オクテンなどの鎖状α-C3-12オレフィンなどが挙げられる。これらのα-オレフィンのうち、プロピレンなどのα-C3-4オレフィン(特に、プロピレン)が好ましい。
【0042】
ジエン単位を形成するためのジエンモノマーとしては、通常、非共役ジエン系単量体が利用される。非共役ジエン系単量体としては、例えば、ジシクロペンタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン、1,4-ヘキサジエン、シクロオクタジエンなどが例示できる。これらのジエンモノマーのうち、エチリデンノルボルネン、1,4-ヘキサジエン(特に、エチリデンノルボルネン)が好ましい。
【0043】
代表的なエチレン-α-オレフィンエラストマーとしては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)などが挙げられる。
【0044】
これらのエチレン-α-オレフィンエラストマーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、ジエン単位による架橋効率に優れる点から、エチレン-α-オレフィン-ジエン三元共重合体ゴムが好ましく、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)が特に好ましい。
【0045】
エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体において、エチレンとプロピレンとの割合(質量比)は、前者/後者=35/65~90/10、好ましくは40/60~80/20、さらに好ましくは45/55~70/30、最も好ましくは50/50~60/40であってもよい。
【0046】
エチレン-α-オレフィンエラストマー(特に、EPDMなどのエチレン-α-オレフィン-ジエン三元共重合体ゴム)のエチレン含量は30質量%以上(例えば30~80質量%)であってもよく、好ましくは50~70質量%、さらに好ましくは52~65質量%、より好ましくは53~60質量%、最も好ましくは54~58質量%である。エチレン含量が少なすぎると、耐熱性が低下する虞がある。
【0047】
なお、本願において、エチレン含量は、エチレン-α-オレフィンエラストマーを構成する全単位中のエチレン単位の質量割合を意味し、慣用の方法により測定できるが、モノマー比であってもよい。
【0048】
エチレン-α-オレフィンエラストマー(特に、EPDMなどのエチレン-α-オレフィン-ジエン三元共重合体ゴム)のジエン含量は10質量%以下(例えば0.1~10質量%)であってもよく、好ましくは0.3~8質量%、さらに好ましくは0.4~7質量%(例えば0.4~5質量%)、より好ましくは0.5~6質量%、最も好ましくは1~5質量%である。本発明では、主鎖に二重結合を有していないゴム成分を用いることにより耐熱性を向上させているが、側鎖として導入するジエン単位による二重結合も少量に抑制することにより、高度な耐熱性を担保できる。ジエン含量が多すぎると、高度な耐熱性が担保できない虞がある。
【0049】
なお、本願において、ジエン含量は、エチレン-α-オレフィンエラストマーを構成する全単位中のジエンモノマー単位の質量割合を意味し、慣用の方法により測定できるが、モノマー比であってもよい。
【0050】
未加硫のエチレン-α-オレフィンエラストマーのムーニー粘度[ML(1+4)125℃]は80以下であってもよく、ゴム組成物のVmを調整し、カーボンブラックの分散性を向上できる点から、例えば10~80、好ましくは20~70、さらに好ましくは30~60、最も好ましくは35~50である。ムーニー粘度が高すぎると、ゴム組成物の流動性が低下して、混練りにおける加工性が低下する虞がある。
【0051】
なお、本願において、ムーニー粘度は、JIS K 6300-1(2013)に準じた方法で測定でき、試験条件は、L形ロータを使用し、試験温度125℃、予熱1分、ロータ作動時間4分である。
【0052】
ゴム成分中のエチレン-α-オレフィンエラストマーの割合は50質量%以上であればよいが、90質量%を超えるのが好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、99質量%以上がより好ましく、100質量%が最も好ましい。ゴム成分中のエチレン-α-オレフィンエラストマーの割合が少なすぎると、耐熱性が低下する虞がある。
【0053】
ゴム成分は、他のゴム成分をさらに含んでいてもよい。他のゴム成分としては、例えば、ジエン系ゴム[天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、水素化ニトリルゴムなど]、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどが挙げられる。
【0054】
ゴム成分は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、これら他のゴム成分をエチレン-α-オレフィンエラストマーの割合が前記範囲となる割合で含んでいてもよいが、成形用部材としての耐熱性および耐引裂性を向上できる点から、他のゴム成分としてブチルゴムを実質的に含まない。
【0055】
ブチルゴムの割合は、ゴム成分中10質量%未満であればよく、好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、最も好ましくは0質量%である。
【0056】
(カーボンブラック)
成形用部材を形成するゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて、カーボンブラックをさらに含むことにより、成形用部材の耐久性を向上できる。
【0057】
カーボンブラックは、一般的に、一次粒子径、ヨウ素吸着量、BET比表面積などの違いにより、いくつかのグレードに分類されている。一次粒子径の小さいカーボンブラックはゴムに対する補強効果が高い一方で、一次粒子径の大きいカーボンブラックは、ゴムに対する補強効果は低いという特徴を有している。
【0058】
カーボンブラックの分類について、ASTMでは、ヨウ素吸着量に基づいて、N0**~N9**に分類されるが、配合したゴム製品の性能などをベースとした従来の分類(SAF、HAF、GPF等)も利用されている。一次粒子径の小さいN110(SAF)、N220(ISAF)、N330(HAF)などはハードカーボンと称され、一次粒子径の大きいN550(FEF)、N660(GPF)、N762(SRF)などはソフトカーボンと称されることもある。ヨウ素吸着量と一次粒子径には緊密な関係があり、一次粒子径が小さいほど、ヨウ素吸着量が大きくなる。東海カーボン(株)製のシースト(登録商標)シリーズを例に分類、ヨウ素吸着量、平均一次粒子径をまとめると、表1のような関係となる。
【0059】
【表1】
【0060】
本願では、原料での分類ではなく、ゴム組成物中に含まれるカーボンブラックについて、一次粒子径が40nm以上のカーボンブラックをソフトカーボンと称し、一次粒子径が40nm未満のカーボンブラックをハードカーボンと称する。
【0061】
なお、本願において、カーボンブラックの一次粒子径の測定方法としては、例えば、透過型電子顕微鏡などを用いて個数基準で測定できる。
【0062】
本発明では、一次粒子径40nm未満のハードカーボンと一次粒子径40nm以上のソフトカーボンとを特定の割合で組み合わせることにより、耐永久変形性を向上できる。
【0063】
ハードカーボンの一次粒子径は、40nm未満(例えば15~35nm)であればよいが、最大一次粒子径は、例えば38nm以下、好ましくは35nm以下、さらに好ましくは30nm以下であってもよい。ハードカーボンの最大一次粒子径が大きすぎると、耐引裂性が低下する虞がある。最小一次粒子径は、例えば5nm以上、好ましくは8nm以上、さらに好ましくは10nm以上であってもよい。ハードカーボンの最小一次粒子径が小さすぎると、ハードカーボン自体の調製が困難となる虞がある。
【0064】
ハードカーボンの平均一次粒子径は、例えば10~35nm、好ましくは15~33nm、さらに好ましくは20~32nm(特に25~30nm)程度である。ハードカーボンの平均一次粒子径が小さすぎると、ハードカーボン自体の調製が困難となる虞があり、逆に大きすぎると、耐引裂性が低下する虞がある。
【0065】
ハードカーボンのBET比表面積は、例えば60~160m/g、好ましくは65~150m/g、さらに好ましくは70~140m/g、より好ましくは75~130m/g、最も好ましくは75~100m/gである。BET比表面積が小さすぎると、ゴム組成物が伸びにくくなる虞があり、逆に大きすぎると、ゴム組成物の硬度が高くなりすぎる虞がある。
【0066】
なお、本願において、BET比表面積とは、BET法により窒素ガスを用いて測定した比表面積を意味する。
【0067】
ハードカーボンのヨウ素吸着量は60g/kg以上であってもよく、例えば60~150g/kg、好ましくは65~130g/kg、さらに好ましくは70~100g/kg、最も好ましくは75~90g/kgである。ヨウ素吸着量が少なすぎると、耐引裂性が低下する虞があり、逆に多すぎると、ハードカーボン自体の調製が困難となる虞がある。
【0068】
なお、本願において、カーボンブラックのヨウ素吸着量の測定方法としては、ASTM D1510-17の標準試験法に準拠して測定できる。
【0069】
ハードカーボンの割合は、ゴム成分100質量部に対して28~70質量部であり、好ましくは29~60質量部、さらに好ましくは30~50質量部、より好ましくは30~48質量部(特に30~40質量部)、最も好ましくは35~45質量部である。ハードカーボンの割合が少なすぎると、心線の安定化が低下するとともに、耐引裂性も低下し、逆に多すぎると、耐永久変形性が低下する。
【0070】
ソフトカーボンの一次粒子径は、40nm以上(例えば40~100nm)であればよいが、最大一次粒子径は、例えば300nm以下、好ましくは200nm以下、さらに好ましくは100nm以下であってもよい。ソフトカーボンの最大一次粒子径が大きすぎると、カーボンブラックの補強性が低下し、耐引裂性が低下する虞がある。
【0071】
ソフトカーボンの平均一次粒子径は、例えば45~100nm、好ましくは50~90nm、さらに好ましくは53~80nm、より好ましくは55~70nm、最も好ましくは60~65nmである。ソフトカーボンの平均一次粒子径が小さすぎると、耐永久変形性が低下する虞があり、逆に大きすぎると、カーボンブラックの補強性が低下し、耐引裂性が低下する虞がある。
【0072】
ソフトカーボンのBET法によるBET比表面積は、例えば10~60m/g(例えば25~60m/g)、好ましくは15~55m/g、さらに好ましくは20~50m/g、より好ましくは22~40m/g、最も好ましくは23~30m/gである。BET比表面積が小さすぎると、カーボンブラックの補強性が低下し、耐引裂性が低下する虞があり、逆に大きすぎると、耐永久変形性が低下する虞がある。
【0073】
ソフトカーボンのヨウ素吸着量は60g/kg未満であってもよく、例えば10g/kg以上60g/kg未満、好ましくは15~50g/kg、さらに好ましくは18~40g/kg、最も好ましくは20~30g/kgである。ヨウ素吸着量が少なすぎると、カーボンブラックの補強性が低下し、耐引裂性が低下する虞があり、逆に多すぎると、耐永久変形性が低下する虞がある。
【0074】
ソフトカーボンの割合は、ゴム成分100質量部に対して35~90質量部であり、好ましくは40~80質量部、さらに好ましくは50~70質量部、最も好ましくは55~65質量部である。ソフトカーボンの割合が少なすぎると、耐永久変形性が低下し、逆に多すぎると、耐引裂性が低下する。
【0075】
ソフトカーボンの質量割合は、ハードカーボン100質量部に対して80~300質量部(例えば80~230質量部)であってもよく、例えば100~300質量部、好ましくは120~250質量部、さらに好ましくは130~230質量部、より好ましくは150~220質量部、最も好ましくは180~210質量部である。ソフトカーボンの割合が少なすぎると、耐永久変形性が低下する虞があり、逆に多すぎると、心線の安定化が低下するとともに、耐引裂性が低下する虞がある。
【0076】
カーボンブラックの合計割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば50~150質量部、好ましくは70~120質量部、さらに好ましくは75~110質量部、より好ましくは80~100質量部、最も好ましくは85~95質量部である。カーボンブラックの合計割合が少なすぎると、ゴム組成物が柔らかすぎて耐久性が低下する虞があり、逆に多すぎると、ゴム組成物が硬すぎて耐久性が低下する虞がある。
【0077】
(有機過酸化物)
成形用部材を形成するゴム組成物は、前記ゴム成分およびカーボンブラックに加えて、有機過酸化物をさらに含むことにより、成形用部材の耐久性を向上できる。
【0078】
有機過酸化物としては、慣用の成分、例えば、ジアシルパーオキサイド(ジラウロイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイドなど)、パーオキシケタール[1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブタンなど]、アルキルパーオキシエステル(t-ブチルパーオキシベンゾエートなど)、ジアルキルパーオキサイド[ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,3-ビス(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジ-メチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサンなど]、ジアラルキルパーオキサイド(ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイドなど)、パーオキシカーボネート(t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチル-ヘキシルカーボネート、t-アミルパーオキシ-2-エチル-ヘキシルカーボネートなど)などが挙げられる。
【0079】
これらの有機過酸化物は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、ジアルキル基を有するパーオキサイドが好ましく、ジクミルパーオキサイドなどのジアラルキルパーオキサイドがさらに好ましい。
【0080】
有機過酸化物の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば0.1~20質量部、好ましくは1~10質量部、さらに好ましくは2~8質量部、より好ましくは2.5~7質量部、最も好ましくは3~5質量部である。有機過酸化物の割合が少なすぎると、ゴム組成物が柔らかすぎて耐久性が低下する虞があり、逆に多すぎると、ゴム組成物が硬すぎて耐久性が低下する虞がある。
【0081】
(他の成分)
成形用部材を形成するゴム組成物は、前記ゴム成分、カーボンブラックおよび有機過酸化物に加えて、他の成分として慣用的にゴムに配合される添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0082】
添加剤としては、例えば、他の架橋剤または加硫剤(無機過酸化物、硫黄系加硫剤など)、共架橋剤(ビスマレイミド類など)、加硫助剤または加硫促進剤(チウラム系促進剤など)、加硫遅延剤、補強剤(シリカ、クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、短繊維など)、金属酸化物(酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなど)、軟化剤(パラフィンオイルや、ナフテン系オイル等のオイル類など)、加工剤または加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィン、脂肪酸アマイドなど)、シランカップリング剤、老化防止剤(酸化防止剤、熱老化防止剤、屈曲き裂防止剤、オゾン劣化防止剤など)、着色剤、粘着付与剤、安定剤(紫外線吸収剤、熱安定剤など)、難燃剤、帯電防止剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。なお、金属酸化物は架橋剤として作用してもよい。
【0083】
慣用の添加剤の合計割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば5~50質量部、好ましくは10~30質量部、さらに好ましくは15~25質量部である。
【0084】
(成形用部材の特性)
本発明の成形用部材は、耐永久変形性が高い。そのため、本発明の成形用部材の圧縮永久歪は20%以下であってもよく、例えば5~20%、好ましくは8~18%、さらに好ましくは9~17%、より好ましくは10~16%、最も好ましくは12~15%である。圧縮永久歪が小さすぎると、ゴム組成物が硬すぎて耐久性が低下する虞があり、逆に大きすぎると、耐永久変形性が低下する虞がある。
【0085】
なお、本願において、圧縮永久歪は、JIS K 6262に準拠し、120℃、24時間の条件で圧縮して測定でき、詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0086】
本発明の成形用部材の硬度(JIS A)は、例えば75~90°、好ましくは77~88°、さらに好ましくは78~85°、より好ましくは79~83°、最も好ましくは80~82°である。硬度が高すぎると、硬すぎて耐久性が低下する虞があり、逆に低すぎると、柔らかすぎて耐久性が低下する虞がある。
【0087】
なお、本願において、硬度(JIS A)は、JIS K 6253(2012)(加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム-硬さの求め方-)に規定されているデュロメータ硬さ試験(A形)に準じて測定された値Hs(JIS A)を意味する。
【0088】
本発明の成形用部材の引張強さは、例えば10~30MPa、さらに好ましくは15~25MPa、より好ましくは16~20MPa、最も好ましくは17~19MPaである。引張強さが小さすぎると、柔らかすぎて耐久性が低下する虞があり、逆に大きすぎると、硬すぎて耐久性が低下する虞がある。
【0089】
本発明の成形用部材の破断伸び率は、例えば100~500%、好ましくは120~300%、さらに好ましくは130~250%、より好ましくは150~200%、最も好ましくは160~180%である。破断伸び率が小さすぎると、硬すぎて耐久性が低下する虞があり、逆に大きすぎると、柔らかすぎて耐久性が低下する虞がある。
【0090】
なお、本願において、引張強さおよび破断伸び率は、JIS K 6251(2010)に準拠して測定でき、詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0091】
[架橋成形体]
本発明の成形用部材を用いて得られる架橋成形体としては、前述のように、タイヤ、ベルトなどが例示できる。架橋成形体としては、前述のように、本発明の成形用部材を加熱して変形させることにより製造される架橋成形体が好ましいが、そのような架橋成形体の一例であるVリブドベルトの概略断面図(ベルト長手方向に垂直な方向の断面図)を図6に示す。
【0092】
図6に示すように、Vリブドベルト50は、心線52を含む芯体層53と、芯体層53よりも内周側に設けられ、プーリ接触部分であるVリブ部51aを構成する圧縮ゴム層51と、芯体層よりも外周側に設けられる伸張層54とで構成されている。圧縮ゴム層51には、ベルト長手方向に伸びる複数の断面V字状の溝が形成され、この溝の間には断面V字形(逆台形)の複数のリブ(Vリブ部51a)が形成されており、このリブの二つの傾斜面(表面)が摩擦伝動面を形成し、プーリと接して動力を伝達(摩擦伝動)する。伸張層はゴム組成物で形成してもよく、織布などの布帛(補強布)で形成してもよい。また、Vリブ部の表面には、表面層を設けてもよい。
【0093】
架橋成形体としては、成形用部材と接触する面が有機過酸化物を含むゴム組成物で形成されている架橋成形体(例えば、Vリブドベルトのベルトスリーブなど)が好ましい。成形用部材と接触する面は、Vリブドベルトの場合、前記伸張層を形成するゴム組成物または布帛(またはゴム組成物を含む布帛)であってもよい。
【0094】
有機過酸化物を含むゴム組成物は、エチレン-α-オレフィンエラストマーおよび有機過酸化物を含むゴム組成物であってもよい。エチレン-α-オレフィンエラストマーおよび有機過酸化物としては、成形用部材を形成するための材料として記載されたエチレン-α-オレフィンエラストマーおよび有機過酸化物を利用できる。有機過酸化物のゴム成分に対する割合も、成形用部材を形成するための有機過酸化物と同様である。本発明の成形用部材は、有機過酸化物を含むゴム組成物の架橋体で形成された架橋成形体の製造に使用しても耐久性を向上できる。
【0095】
心線(または芯体)としては、弾性率が高く伸びが小さい心線が好ましい。このような伝動ベルト中でベルト厚み方向の並びを安定化させるのが困難であるが、本発明の成形用部材を用いることにより心線の安定化を向上できる。
【0096】
このような心線を形成する繊維としては、弾性率の高い繊維、例えば、高強力ポリエチレン繊維、PBO繊維、ポリエステル繊維(PET繊維、PEN繊維などのポリアルキレンアリレート系繊維、ポリアリレート繊維など)、ポリアミド繊維(アラミド繊維など)、炭素繊維などの無機繊維などが挙げられる。これらの繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0097】
心線としては、通常、マルチフィラメント糸を使用した撚りコード(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚りなど)を使用できる。心線の平均線径(撚りコードの繊維径)は、例えば0.5~3mm、好ましくは0.6~2mm、さらに好ましくは0.7~1.5mm程度であってもよい。
【0098】
心線を形成する繊維の引張弾性率は1~500GPa程度の範囲から選択できるが、本発明の効果が有効に発現する点から、50GPa以上の高弾性率が好ましく、例えば50~500GPa、好ましくは55~300GPa、さらに好ましくは60~200GPa(特に65~150GPa)程度であってもよい。このような高弾性率繊維には、例えば、アラミド繊維、炭素繊維などが含まれる。本発明では、引張弾性率50GPa以上の高弾性率繊維で形成された心線であっても、心線の安定性を向上できる。
【0099】
繊維(モノフィラメント糸)の平均繊度は、例えば0.1~5dtex、好ましくは0.3~3dtex、さらに好ましくは0.5~1dtex程度であってもよい。繊維は、原糸としてのマルチフィラメント糸(例えば1000~50000本、好ましくは5000~20000本程度のモノフィラメント糸を含むマルチフィラメント糸)の形態で使用できる。
【0100】
心線は、抗張力を高めるため、通常、マルチフィラメント糸を使用した撚りコード(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚りなど)などの形態で使用できる。心線は、コード、例えば、これらのマルチフィラメント糸を芯糸(無撚糸、好ましくは下撚り糸)とし、所定の方向(例えば、下撚り糸と同じ方向又は逆方向)に上撚りした撚りコード(撚糸)として使用する場合が多い。芯糸の平均直径(平均線径)は、例えば0.2~1mm、好ましくは0.3~0.8mm、さらに好ましくは0.4~0.7mm程度であってもよく、コード(または心線)の平均直径(平均線径)は、例えば0.3~1.5mm、好ましくは0.5~1.3mm、さらに好ましくは0.7~1.2mm程度であってもよい。
【実施例
【0101】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例で使用した原料の詳細を以下に示す。
【0102】
[原料]
EPDM1:三井化学(株)製「EPT3070」、ムーニー粘度(125℃)≒47、エチレン含量58質量%、ジエン含量4.7質量%
EPDM2:三井化学(株)製「EPT2060M」、ムーニー粘度(125℃)≒40、エチレン含量55質量%、ジエン含量2.3質量%
ブチルゴム:JSR(株)製「Butyl268」、ムーニー粘度(125℃)≒51
ハードカーボン1:東海カーボン(株)製「シースト3」、平均粒子径28nm、BET比表面積79m/g
ハードカーボン2:東海カーボン(株)製「シースト6」、平均粒子径22nm、BET比表面積119m/g
ソフトカーボン1:東海カーボン(株)製「シーストV」、平均粒子径62nm、BET比表面積27m/g
ソフトカーボン2:東海カーボン(株)製「シーストS」、平均粒子径66nm、BET比表面積27m/g
酸化亜鉛:ハクスイテック(株)製「酸化亜鉛2種」
ステアリン酸:日油(株)製「ビーズステアリン酸つばき」
軟化剤:出光興産(株)製「NS-90」(パラフィン系プロセスオイル)
老化防止剤:ジフェニルアミン系老化防止剤、大内新興化学工業(株)製「ノクラックAD-F」
有機過酸化物:日油(株)製「パークミルD」
樹脂架橋剤:Schenectady Chem.社製「SP-1055」(アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂)
架橋助剤:デンカ(株)製「PM-40」
ナイロン短繊維:旭化成(株)製「66ナイロン」
含水シリカ:エボニックインダストリーズ AG社製「Ultrasil VN3」、BET比表面積180m/g
レゾルシン・ホルムアルデヒド縮合物:レゾルシン2.6質量部、37%ホルマリン1.4質量部、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス17.2質量部、水78.8質量部を含む溶液
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラー(登録商標)DM」
ヘキサメトキシメチロールメラミン:Power Plast社製「PP-1890S」
硫黄:美源化学社製
心線:1,000デニールのポリエチレンテレフタレート繊維を2×3の撚り構成で、上撚り係数3.0、下撚り係数3.0で諸撚りしたトータルデニール6,000のコードを接着処理した撚糸コード、心線径1.0mm。
【0103】
[ブラダーの作製]
表2~3に示す配合のブラダー用ゴム組成物をバンバリーミキサーで混練し、カレンダーロールで所定の厚みに圧延した。円筒状金型に、厚み3mm、面長630mmの圧延シートを巻き付け、ジャケットをかぶせて170℃で20分間加熱を行い、架橋成形した。冷却して、脱型することにより円筒状のブラダーを得た。円筒状のブラダーをベルト成形装置の内型の外周にセットし、ブラダーの開口の両端の全周にフランジを密着させて固定することで、内型の外周とブラダーの内周の間は上下両端で密閉された。
【0104】
【表2】
【0105】
【表3】
【0106】
[ブラダー用ゴム組成物の物性]
1)硬度の測定
表2~3に示すゴム組成物の未架橋ゴムシートを、プレスを用いて30分間の加圧および加熱(温度170℃、面圧力2.0MPa)を行い、架橋ゴムシート(100mm×100mm×2mm厚み)を作製した。JIS K 6253(2012)に準じ、架橋ゴムシートを3枚重ね合わせた積層物を試料とし、デュロメータA型硬さ試験機を用いて硬度を測定した。
【0107】
2)引張特性(引張強さ、破断伸び率)の測定
JIS K 6251(2010)に従い、上記の架橋ゴムシートから、反列理方向に採取したダンベル状3号形の試験片を、室温で引張速度500mm/分で引張試験を行い、試験片が破断した際の引張強さ(MPa)および伸び率(%)を算出した。引張試験機としては、(株)島津製作所製「オートグラフAG-5000A」を用いた。ブラダーとして用いた場合に、架橋成形で拡張しても破断・亀裂が発生しにくくなるためには、ゴム組成物の破断伸び率が100%以上となることが指標とされている。
【0108】
3)圧縮永久歪の測定
JIS K 6262(2013)に準じ、ゴム組成物をシート状に圧延し、型にはめて温度は165℃、時間は30分で架橋し、直径約29mm、厚み約12.5mmの円柱状の試料を作製した。得られた試料について、圧縮率約10%(スペーサの厚さ11.25mm)、試験温度120℃、試験時間24時間の試験条件で圧縮し、圧縮前後の試料の厚さを測定し、圧縮永久歪を計算した。詳しくは、圧縮前の試料の厚さをh0(mm)、圧縮後の試料の厚さをh1(mm)、スペーサの厚さをhS(mm)とし、圧縮永久歪:CS(%)は以下の式で求めた。
【0109】
CS=[(h0-h1)/(h0-hS)]×100
【0110】
4)引裂特性(引裂強度)の測定
JIS K 6252(2015)に準じたクレセント形で、上記の架橋ゴムシートを打ち抜き、くぼみの中央に1.00±0.05mmの切れ込みを入れたサンプルを、引張速度500mm/分で引裂試験を行い、試験片が破断した際の引裂強度を測定した。引張試験機としては、(株)島津製作所製「オートグラフAG-5000A」を用いた。また、促進老化試験では、A法AA-2強制循環型熱老化試験機(横風式)を用いた。
【0111】
測定結果を表5~6に示す。
【0112】
[ブラダーの性能評価]
図1~5で示した製造装置において、実施例1~14および比較例1~10のゴム組成物で製作したブラダーを用いて、Vリブドベルトの前駆体となるベルトスリーブの作製(架橋成形)を繰り返し、ブラダーの永久変形における耐久寿命を検証した。
【0113】
(検証に用いたベルトスリーブ)
【0114】
【表4】
【0115】
ブラダーとの接触面を含む伸張層は伸張ゴム層とし、芯体層は心線が接着ゴム層に埋設される形態のベルトスリーブとした。
【0116】
伸張ゴム層にはゴム組成物1、圧縮ゴム層にはゴム組成物2、接着ゴム層にはゴム組成物3を用い、それぞれのゴム組成物をバンバリーミキサーで混練し、カレンダーロールで所定の厚みに圧延して、伸張ゴム層形成用の未架橋ゴムシート、圧縮ゴム層形成用の未架橋ゴムシート、接着ゴム層用の未架橋ゴムシートを作製した。
【0117】
次に、ブラダーを装着した円筒状内型の最外周に、伸張ゴム層形成用の未架橋ゴムシートを巻きつけ、その外周に芯体を形成する心線をスパイラル状にスピニングし、さらに接着ゴム層用の未架橋ゴムシート、圧縮ゴム層形成用の未架橋ゴムシートを順に巻き付けて、未架橋成形体を形成した。
【0118】
さらに、内周面に複数のリブ型が刻設された筒状外型を用い、この外型内に、前記未架橋成形体を形成した内型を、同心円状に設置する。その後、ブラダーを外型の内周面(リブ型)に向かって膨張させて、未架橋成形体の外周側(圧縮ゴム層)をリブ型に圧入し、180℃で20分間加熱し、架橋成形した。そして、外型から内型を抜き取った後、外周に複数のリブを有するベルトスリーブを外型から脱型した。
【0119】
(ブラダーの耐久寿命)
このベルトスリーブの作製(架橋成形)を繰り返し、架橋成形する成形体の内周面(伝動ベルトの背面)に心線の痕跡が転写されて、伝動ベルト背面が外観不良と判断されるまでを永久変形による耐久寿命とし、耐久寿命となるまでの使用回数を比較検証した。使用回数については、以下の基準で良否を判定した。なお、○および△が実用的な合格のレベルである。
【0120】
○:180回以上
△:120回以上、180回未満
×:120回未満。
【0121】
(心線のベルト厚み方向のズレ量)
得られたベルトスリーブを、所定幅に輪切りして裏表を裏返すことにより、Vリブドベルト(リブ数:3個、周長:1100mm、ベルト形:K形、ベルト厚み:4.3mm、リブ高さ:約2mm、リブピッチ:3.56mm)に仕上げた。心線のベルト厚み方向のズレ量を測定し、ベルト背面から心線の中心までの距離がどの程度変動しているかを評価した。具体的な測定手順を以下に示す。まず、Vリブドベルトを幅方向に平行に切断し、その断面をマイクロスコープで20倍に拡大して観察する。図7に示すように、ベルト背面から心線の直上までの距離(Lnt)と、ベルト背面から心線の直下までの距離(Lnb)とを、それぞれの心線について測定する。この際、測定の対象となる心線は、断面の全体が観察できる心線に限るものとし、断面の全体が観察できない(一部がベルト端面にかかっている)心線は測定の対象から除く。測定は、前記の測定の対象となる心線全て(n本:nは2以上の整数)について行う。心線のベルト厚み方向のズレ量:Xは、以下の式で計算する。
【0122】
2-1=|(L2t+L2b)-(L1t+L1b)|/2
3-2=|(L3t+L3b)-(L2t+L2b)|/2
・・・
n-(n-1)=|(Lnt+Lnb)-(L(n-1)t+L(n-1)b)|/2
X=(X2-1+X3-2+・・・+Xn-(n-1))/(n-1)
【0123】
計算結果を表5~6に示す。さらに、計算した心線のベルト厚み方向のズレ量Xを以下の基準で評価した。〇および△が実用的な合格のレベルである。
【0124】
〇:0.06mm未満
△:0.06mm以上0.08mm未満
×:0.08mm以上。
【0125】
(総合的な判定)
ブラダーの耐久寿命と、心線並びがいずれも合格レベル(判定○または△)であれば、合格とした。
【0126】
比較検証した結果を表5~6に示す。
【0127】
【表5】
【0128】
【表6】
【0129】
表5の結果から明らかなように、カーボンブラックを2種類(ハードカーボンおよびソフトカーボン)配合し、かつゴム成分100質量部に対する配合量が、ハードカーボンが30~60質量部、ソフトカーボンが40~80質量部の範囲にある実施例1~14では、ブラダーの耐久寿命(永久変形による寿命となるまでの使用回数)が120回以上(判定○または△)を達成した。さらに、心線並び(心線のベルト厚み方向のズレ量)も合格レベル(判定○または△)を達成した。
【0130】
なかでも、実施例1~5および9~11は、ブラダーの耐久寿命および心線並びのいずれも高い水準であった。実施例1~5および9~11の中では、実施例1が最もバランスに優れていた。すなわち、有機過酸化物の割合を変更した実施例1~3の中では、ゴム成分100質量部に対して4質量部の有機過酸化物を配合した実施例1のバランスが優れていた。実施例1に対して、ジエン含量の少ないEPDMを用いた実施例4は、実施例1と略同等の結果であった。また、実施例1に対して、ハードカーボンおよびソフトカーボンの種類を変更した実施例5は、実施例1と略同等の結果であったが、実施例1の方が若干ブラダーの寿命が長かった。さらに、実施例1に対して、ハードカーボンおよびソフトカーボンの配合量を変更した実施例9~11は、実施例1と略同等の結果であったが、実施例1の方が若干ブラダーの寿命が長かった。
【0131】
一方、実施例6,8,12~14は、ソフトカーボンに対するハードカーボンの配合比率が比較的大きいため、ブラダーの耐久寿命が短くなった(判定△)。また、カーボン総量が最も多い実施例14では、引張強度および引裂強度も若干低下した。しかし、いずれも、心線並びが高い水準(ズレ量が0.01~0.03mm)で良好であった。なお、実施例9は、ソフトカーボンに対するハードカーボンの配合比率が大きいが、カーボン総量が好適な量であるため、ブラダーの耐久寿命および心線並びのいずれも高い水準であった。
【0132】
実施例7は、ソフトカーボンの比率が高くなって、カーボンブラックの総量が多くなりすぎて耐久寿命が短くなった(判定△)。心線並びも、ズレ量が大きくなった(判定△)。
【0133】
比較例1は、カーボンブラックを1種類(ハードカーボン)しか用いていない例であるが、補強効果によって引張強度が高くなるものの、永久変形(圧縮永久歪)が大きくなった。そのバランスの結果、心線並びは良好(判定○)であったが、ブラダーの耐久寿命が60回(判定×)と、早期に寿命となった。
【0134】
比較例2は、カーボンブラックを2種類配合しているが、ソフトカーボンの配合量が少なく、かつハードカーボン配合量が多い上に、ソフトカーボンの割合も、ハードカーボン100質量部に対して400質量部と多く、かつカーボン総量も多い例である。カーボンの補強効果によって引張強度が高くなるものの、永久変形(圧縮永久歪)が大きくなった。さらに、ブラダーの耐久寿命は63回(判定×)で、心線並びでズレ量が大きくなった(判定×;0.08mm)。
【0135】
比較例3は、カーボンブラックを2種類配合しているが、ソフトカーボンの配合量が少ない上に、ソフトカーボンの割合も、ハードカーボン100質量部に対して75質量部と少ない例である。ブラダーの耐久寿命は110回(判定×)で、心線並びでズレ量が大きくなった(判定△;0.06mm)。
【0136】
比較例4は、カーボンブラックを2種類配合しているが、ソフトカーボンの配合量およびカーボンの総量が少ない例である。ブラダーの耐久寿命は118回(判定×)で、心線並びでズレ量が大きくなった(△判定;0.07mm)。
【0137】
比較例5は、カーボンブラックを2種類配合しているが、ハードカーボンの配合量が多い上に、ソフトカーボンの割合が、ハードカーボン100質量部に対して75質量部と少なく、かつカーボン総量が多い例である。ハードカーボンの配合量が多く、カーボンブラックの総量も過剰になると、ゴム全体が硬くなるため、心線並びは良好(判定○)になったが、圧縮永久歪が大きく、ブラダーの耐久寿命は80回(判定×)であった。
【0138】
比較例6は、カーボンブラックを1種類(ソフトカーボン)しか用いていない例であるが、永久変形(圧縮永久歪)は小さくなるものの、補強効果に欠けるため引張強度および引裂強度が小さくなった。そのバランスの結果、ブラダーの耐久寿命(永久変形による寿命となるまでの使用回数)も115回(判定×)と短く、心線並びも合格判定にはならなかった。
【0139】
比較例7は、ゴム成分としてブチルゴムを用いた例であるが、圧縮永久歪が非常に大きくなり、ブラダーの耐久寿命も60回(判定×)と短く、心線並びでズレ量が非常に大きくなった(判定×;0.10mm)。
【0140】
比較例8は、カーボンブラックを2種類配合しているが、ハードカーボンの配合量が少ない例である。ブラダーの耐久寿命(永久変形による寿命となるまでの使用回数)は180回(判定△)と合格レベルであるが、心線並びでズレ量が大きくなった(判定×;0.08mm)。
【0141】
比較例9,10は、カーボンブラックを2種類配合しているが、ソフトカーボンの配合量が著しく多い例である。カーボンブラックの総量が140質量部以上の過剰になると、ゴム全体が硬くなるため、心線並びは良好(判定○)になったが、圧縮永久歪が大きく、ブラダーの耐久寿命でも早期に寿命(判定×)となった。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明の成形用部材は、タイヤやベルトなどの架橋体を製造するための成形用部材として利用でき、特に、Vリブドベルトなどの伝動ベルトを製造するためのジャケットやブラダー(可撓性ジャケット)などの成形用部材(特に、ブラダー)として有用である。
【符号の説明】
【0143】
1…内型
4…未架橋ベルト前駆体
5…ブラダー
6…外型
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7