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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/20 20060101AFI20240605BHJP
   E02F 3/43 20060101ALI20240605BHJP
【FI】
E02F9/20 C
E02F3/43 G
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021039741
(22)【出願日】2021-03-11
(65)【公開番号】P2022139383
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】中野 寿身
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠介
(72)【発明者】
【氏名】楢▲崎▼ 昭広
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-503443(JP,A)
【文献】特開2020-125599(JP,A)
【文献】特開2020-153200(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0318316(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/00-9/28
E02F 3/00-3/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋回体と、ブーム、アーム及びバケットを有し、前記旋回体に取り付けられる多関節型の作業装置と、前記旋回体及び前記作業装置を駆動する複数のアクチュエータと、前記旋回体及び前記作業装置を動作させるための操作装置と、前記作業装置の姿勢を検出する姿勢センサと、前記操作装置に対する操作に基づいて前記複数のアクチュエータの目標動作速度を演算し、前記目標動作速度に基づいて前記複数のアクチュエータの動作を制御する制御装置と、を備え、
前記アームは、アームピンを介して前記ブームに回動可能に連結され、
前記バケットは、前記アームピンと平行な第1軸及び前記アームピンに対してねじれの位置にある第2軸を中心に回転可能に前記アームに連結され、
前記複数のアクチュエータには、前記バケットを前記第2軸周りに回転させる回転アクチュエータが含まれる作業機械において、
前記制御装置は、
前記旋回体の動作速度に基づいて、前記旋回体の旋回動作により前記第2軸周りに生じる前記バケットの角速度を演算し、
前記旋回体の旋回動作により前記第2軸周りに生じる前記バケットの角速度を打ち消すための前記第2軸周りの相殺用速度を演算し、
前記相殺用速度に基づいて、前記回転アクチュエータの動作を制御する
ことを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械において、
前記制御装置は、
前記作業装置の動作速度と、前記旋回体の動作速度と、前記姿勢センサでの検出結果に基づいて、前記バケットの移動方向の前記第2軸周りの回転速度を演算し、
前記相殺用速度及び前記バケットの移動方向の回転速度に基づいて、前記バケットの移動方向と前記バケットの向きとが一定の関係を保持するように前記回転アクチュエータの目標動作速度を演算し、
前記回転アクチュエータの目標動作速度に基づいて、前記回転アクチュエータの動作を制御する
ことを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項2に記載の作業機械において、
前記制御装置は、
第1の方向の前記バケットの移動速度と、前記第1の方向に直交する第2の方向の前記バケットの移動速度との比に基づいて、前記バケットの移動方向の回転速度を演算する
ことを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の作業機械において、
前記バケットは、前記第2軸が前記旋回体の旋回中心軸と平行となる位置を基準として、前記第1軸を中心に回転可能であり、
前記制御装置は、
前記姿勢センサでの検出結果に基づいて、前記第2軸と前記旋回中心軸とのなす角度を演算し、
前記旋回体の動作速度と、前記第2軸と前記旋回中心軸とのなす角度に基づいて、前記旋回体の旋回動作により前記第2軸周りに生じる前記バケットの角速度を演算する
ことを特徴とする作業機械。
【請求項5】
請求項4に記載の作業機械において、
前記バケットは、前記第1軸の方向及び前記第2軸の方向と交差する第3軸を中心に回転可能に前記アームに連結され、
前記制御装置は、
前記姿勢センサでの検出結果に基づいて、前記第3軸を中心とする前記バケットの回転角度を演算し、
前記作業装置の動作速度と、前記旋回体の動作速度と、前記第2軸と前記旋回中心軸とのなす角度と、前記第3軸を中心とする前記バケットの回転角度に基づいて、前記旋回体の動作と前記作業装置の動作とにより前記第2軸周りに生じる前記バケットの角速度を演算する
ことを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
ブームと、ブームに回転可能に接続されたアームと、アームに回転可能に接続されたバケットとを有する作業装置と、作業装置が取り付けられる旋回体とを備えた作業機械が知られている。このような作業機械では、作業(例えば、掘削作業、整地作業)を行う際に、作業装置と旋回体を複合的に動作させることにより、旋回体を動作(旋回)させない場合に比べて、多様な軌跡での作業が可能となり、作業効率の向上を図ることができる。
【0003】
また、バケットが、多軸回転機構を有する器具連結部によりアームに連結された作業機械が知られている。このような作業機械では、作業装置と旋回体を複合的に動作させるための操作が複雑になるため、動作の一部を自動で制御する(半自動制御)。
【0004】
特許文献1には、回転掘削具の先端部が器具先頭方向(I^)を画定するように、回転軸(R)を中心に回転する回転掘削具を備えた作業機械が開示されている。また、特許文献1には、掘削連動アセンブリの揺動軸(S)を中心とした揺動速度(ωs)、及び、掘削機スティックのカール軸(C)を中心としたカール速度(ωc)を表す信号を生成し、連動アセンブリ先頭方向(N^)、掘削連動アセンブリの揺動速度(ωs)、及び、掘削機スティックのカール速度(ωc)に基づいて、掘削機スティックの末端部(G)の進行方向である先頭方向(G^)を表す信号を生成し、更に、器具先頭方向(I^)が、進行方向である先頭方向(G^)に近似するように、回転掘削具を、回転軸(R)を中心に回転させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2017/136301
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の作業機械では、器具先頭方向と進行方向との間に差が生じてから、器具先頭方向を補正する制御を行っているため、十分な作業精度を確保できないおそれがある。また、特許文献1に記載の作業機械では、常に、器具先頭方向が進行方向に近似するように回転掘削具を制御するため、回転掘削具をオペレータが意図する方向に向けて作業を行うことができないという問題もある。
【0007】
本発明は、オペレータが意図する方向に向けたバケットの向きと、バケットの移動方向との関係を維持しつつ、高い精度で作業を行うことが可能な作業機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様による作業機械は、旋回体と、ブーム、アーム及びバケットを有し、前記旋回体に取り付けられる多関節型の作業装置と、前記旋回体及び前記作業装置を駆動する複数のアクチュエータと、前記旋回体及び前記作業装置を動作させるための操作装置と、前記作業装置の姿勢を検出する姿勢センサと、前記操作装置に対する操作に基づいて前記複数のアクチュエータの目標動作速度を演算し、前記目標動作速度に基づいて前記複数のアクチュエータの動作を制御する制御装置と、を備える。前記アームは、アームピンを介して前記ブームに回動可能に連結される。前記バケットは、前記アームピンと平行な第1軸及び前記アームピンに対してねじれの位置にある第2軸を中心に回転可能に前記アームに連結される。前記複数のアクチュエータには、前記バケットを前記第2軸周りに回転させる回転アクチュエータが含まれる。前記制御装置は、前記旋回体の動作速度に基づいて、前記旋回体の旋回動作により前記第2軸周りに生じる前記バケットの角速度を演算し、前記旋回体の旋回動作により前記第2軸周りに生じる前記バケットの角速度を打ち消すための前記第2軸周りの相殺用速度を演算し、前記相殺用速度に基づいて、前記回転アクチュエータの動作を制御する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、オペレータが意図する方向に向けたバケットの向きと、バケットの移動方向との関係を維持しつつ、高い精度で作業を行うことが可能な作業機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】油圧ショベルの斜視図。
図2】作業具の側面図。
図3】右操作レバー装置の斜視図。
図4】第1実施形態に係る油圧ショベルの油圧駆動装置の構成を示す図。
図5】油圧ショベルの制御装置のハードウェア構成図。
図6】第1実施形態に係る油圧ショベルの情報処理装置の機能ブロック図。
図7A】ロータリー軸A2と旋回中心軸Zとが平行であるときの油圧ショベルの姿勢について示す図。
図7B】ロータリー軸A2と旋回中心軸Zとが平行でないときの油圧ショベルの姿勢について示す図。
図8】第1実施形態に係る情報処理装置により実行されるアクチュエータ制御処理の内容について示す図。
図9】水平引き作業において、作業装置と旋回体が複合的に動作した場合に、バケットが移動する様子を示す模式図であり、上方から見てバケットが直線状に移動する様子を示す。
図10】第2実施形態に係る油圧ショベルの情報処理装置の機能ブロック図。
図11】第2実施形態に係る情報処理装置により実行されるアクチュエータ制御処理の内容について示す図。
図12】水平引き作業において、作業装置と旋回体が複合的に動作した場合に、バケットが移動する様子を示す模式図であり、上方から見てバケットが曲線状に移動する様子を示す。
図13】第3実施形態に係る油圧ショベルの油圧駆動装置の構成を示す図。
図14】第3実施形態に係る油圧ショベルの作業具の構成を示す図。
図15】第3実施形態に係る油圧ショベル1のバケットの回転方向について示す図。
図16】第3実施形態に係る油圧ショベルの情報処理装置の機能ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、以下では、クローラ式の油圧ショベルを作業機械の一例として説明する。
【0012】
<第1実施形態>
図1は油圧ショベル1の斜視図である。図1に示すように、油圧ショベル1は、機体(車体)16と、機体16に取り付けられる作業装置15と、を備える。機体16は、左右の走行油圧モータ3(3a,3b)により走行する走行体9と、走行体9上に旋回可能に取り付けられる旋回体10と、を備える。旋回体10は、アクチュエータである旋回油圧モータ4によって、走行体9に対して旋回駆動される。
【0013】
作業装置15は、複数のアクチュエータによって駆動される複数の被駆動部材(フロント部材)を有する多関節型の作業装置である。作業装置15は、3つの被駆動部材(ブーム11、アーム12及び作業具8)が直列的に連結された構成である。ブーム11は、その基端部が旋回体10の前部に、ブームピンを介して回動可能に連結される。アーム12は、その基端部がブーム11の先端部に、アームピン12aを介して回動可能に連結される。作業具8は、後述するように、バケット8dを有する。作業具8は、アーム12の先端部に、バケットピン8aを介して回動可能に連結される。ブームピン、アームピン12a、バケットピン8aは、互いに平行に配置され、各被駆動部材(ブーム11、アーム12及び作業具8)は同一面内で相対回転可能とされている。
【0014】
ブーム11はアクチュエータであるブームシリンダ5によって駆動され、アーム12はアクチュエータであるアームシリンダ6によって駆動され、作業具8はアクチュエータであるバケットシリンダ7によって駆動される。なお、バケットシリンダ7は、一端がアーム12に連結され、他端がリンク17を介して、作業具8の連結部8bに連結される。
【0015】
図2は、作業具8の側面図である。図2に示すように、作業具8は、アーム12の先端部にバケットピン8aを介して回転可能に連結される連結部8bと、連結部8bに対して回転可能に設けられる回転部8cと、回転部8cに固定されるバケット8dと、を有する。連結部8bには、バケット8dを回転させる回転アクチュエータとしてのロータリー油圧モータ80のハウジングが固定されている。回転部8cには、ロータリー油圧モータ80の回転軸80aが固定されている。
【0016】
ロータリー油圧モータ80は、その回転中心軸であるロータリー軸(第2軸)A2の方向が、バケットピン8aの中心軸であるフロント連結軸(第1軸)A1(図1参照)の方向と直交するように配設される。したがって、ロータリー油圧モータ80の回転軸80aが回転すると、連結部8bに対して回転部8c及びバケット8dが、ロータリー軸(第2軸)A2を中心に回転する。このように、本実施形態では、バケット8dが、アームピン12aと平行なフロント連結軸(第1軸)A1及びアームピン12aに対してねじれの位置にあるロータリー軸(第2軸)A2を中心に回転可能にアーム12に連結される。
【0017】
図1に示すように、旋回体10の前部左側には、オペレータが搭乗する運転室18が設けられている。運転室18には、走行体9への動作指示を行うための右走行レバー装置1a及び左走行レバー装置1bが設けられている。また、運転室18には、ブーム11、アーム12、作業具8及び旋回体10への動作指示を行うための右操作レバー装置1c及び左操作レバー装置1dが設けられている。さらに、右操作レバー装置1cには、バケット8dをロータリー軸(第2軸)A2周りに回転させる動作指示を行うためのロータリー操作装置1e(図3参照)が設けられている。このように、本実施形態に係る油圧ショベル1は、旋回体10及び作業装置15を動作させるための操作装置(1a~1e)を備えている。
【0018】
図3は、右操作レバー装置1cの斜視図である。図3に示すように、右操作レバー装置1cは、オペレータによって把持され左右及び前後に傾動可能な操作レバーを有する。なお、図示しないが、左操作レバー装置1dは、右操作レバー装置1cと同様の構成であり、オペレータによって把持され左右及び前後に傾動可能な操作レバーを有する。図3に示すように、ロータリー操作装置1eは、右操作レバー装置1cの操作レバーの頂部に設けられ、オペレータの手指によって左右に傾動可能なレバースイッチを有する。
【0019】
図1に示すように、ブームピンには、旋回体10に対するブーム11の回動角度(以下、ブーム角度と記す)を検出する角度センサ13aが取り付けられている。アームピン12aには、ブーム11に対するアーム12の回動角度(以下、アーム角度と記す)を検出する角度センサ13bが取り付けられている。リンク17と作業具8とを連結するピンには、アーム12に対する作業具8のバケットピン8a周りの回動角度(以下、バケット角度)を検出する角度センサ13cが取り付けられている。
【0020】
旋回体10には、基準面(例えば水平面)に対する旋回体10の前後方向の傾斜角(以下、ピッチ角度と記す)及び左右方向の傾斜角(以下、ロール角度と記す)、並びに、旋回中心軸に直交する平面内における走行体9に対する旋回体10の相対角度(以下、旋回角度と記す)を検出する角度センサ13dが取り付けられている。なお、角度センサ13a~13cは、水平面に対する角度を検出するセンサであってもよい。角度センサ13a~13dから出力される角度信号は、後述の制御装置100(図4参照)に入力される。
【0021】
角度センサ13a~13dで検出される角度は、制御装置100(図4参照)での油圧ショベル1の姿勢(作業装置15の姿勢、及び、旋回体10の姿勢)の演算に用いられる。つまり、角度センサ13a~13dは、油圧ショベル1の姿勢(作業装置15の姿勢及び旋回体10の姿勢)を検出する姿勢センサとして機能している。角度センサ13a,13b,13cには、例えば、作業装置15の姿勢に関する情報としてブーム角度、アーム角度及びバケット角度を取得し、取得した角度に応じた信号(電圧)を出力するポテンショメータを採用することができる。
【0022】
角度センサ13dには、例えば、旋回体10の姿勢に関する情報として、直交3軸の角速度及び加速度を取得し、この情報に基づき、旋回体10のロール角度、ピッチ角度及び旋回角度を演算し、演算結果を制御装置100に出力するIMU(Inertial Measurement Unit:慣性計測装置)を採用することができる。なお、旋回体10の姿勢を表す角度(ロール角度、ピッチ角度及び旋回角度)の演算は、IMUの出力信号に基づき、制御装置100が行うようにしてもよい。また、角度センサ13dとして、3つのセンサ、すなわちロール角度を検出するセンサ、ピッチ角度を検出するセンサ、及び、旋回角度を検出するセンサを個別に設けるようにしてもよい。
【0023】
旋回体10には、原動機としてのエンジン14、エンジン14により駆動されるポンプ2、及び、コントロールバルブユニット20が搭載されている。コントロールバルブユニット20は、複数の方向制御弁を有し、ポンプ2からアクチュエータ(ブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7、旋回油圧モータ4、走行油圧モータ3、及び、ロータリー油圧モータ80)に供給される作動流体としての作動油の流れ(流量及び方向)を制御する。
【0024】
図4は、油圧ショベル1の油圧駆動装置の構成を示す図である。なお、説明の簡略化のため、図4では、ブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7、旋回油圧モータ4及びロータリー油圧モータ80を駆動させるための構成について記し、本実施形態と直接的に関係しない回路、弁等の図示は省略する。
【0025】
ポンプ2は、エンジン14により駆動され、タンクから作動油を吸い込み、コントロールバルブユニット20とポンプ2の吐出口とを接続するポンプラインL1に吐出する。なお、図4では、ポンプ2が固定容量型の油圧ポンプである例について示しているが、可変容量型の油圧ポンプを採用してもよい。また、コントロールバルブユニット20に作動油を供給するポンプ2は、一つであってもよいし、複数であってもよい。
【0026】
コントロールバルブユニット20は、複数の電磁比例弁21a~25bを有する電磁弁ユニット30によって制御されることにより、ポンプ2からアクチュエータに供給される作動油(圧油)の流れを制御する。コントロールバルブユニット20は、電磁比例弁22a,22bによって生成される信号圧に応じて、ポンプ2からブームシリンダ5に供給される作動油(圧油)の流れを制御する。コントロールバルブユニット20は、電磁比例弁23a,23bによって生成される信号圧に応じて、ポンプ2からアームシリンダ6に供給される作動油(圧油)の流れを制御する。コントロールバルブユニット20は、電磁比例弁21a,21bによって生成される信号圧に応じて、ポンプ2からバケットシリンダ7に供給される作動油(圧油)の流れを制御する。コントロールバルブユニット20は、電磁比例弁24a,24bによって生成される信号圧に応じて、ポンプ2から旋回油圧モータ4に供給される作動油(圧油)の流れを制御する。コントロールバルブユニット20は、電磁比例弁25a,25bによって生成される信号圧に応じて、ポンプ2からロータリー油圧モータ80に供給される作動油(圧油)の流れを制御する。
【0027】
電磁比例弁21a~25bは、パイロット油圧源29から供給されるパイロット圧油を一次圧(元圧)として、制御装置100からの指令電流に応じて減圧して生成した二次圧を信号圧としてコントロールバルブユニット20に出力する。なお、パイロット油圧源29は、例えば、エンジン14により駆動される油圧ポンプ(パイロットポンプ)である。
【0028】
右操作レバー装置1cは、操作レバーの操作量と操作方向に応じた電圧信号(操作信号)を、ブーム操作情報及びバケット操作情報として制御装置100に出力する。左操作レバー装置1dは、操作レバーの操作量と操作方向に応じた電圧信号(操作信号)を、アーム操作情報及び旋回操作情報として制御装置100に出力する。ロータリー操作装置1eは、レバースイッチの操作量と操作方向に応じた電圧信号(操作信号)を、ロータリー操作情報として制御装置100に出力する。
【0029】
なお、操作装置とアクチュエータの対応関係、及び、ロータリー操作装置の取り付け位置は、これに限定されない。例えば、左操作レバー装置1dが、操作レバーの操作量と操作方向に応じた電圧信号を、ブーム操作情報及びバケット操作情報として制御装置100に出力するようにしてもよい。また、ロータリー操作装置1eは、右操作レバー装置1cの操作レバーの頂部に設けられるレバースイッチに代えて、オペレータの足で踏み込み操作が可能なペダルを設けるようにしてもよい。
【0030】
図5は、油圧ショベル1の制御装置100のハードウェア構成図である。制御装置100は、操作装置(1a~1e)に対する操作に基づいてアクチュエータ(3~7,80)の目標動作速度を演算し、目標動作速度に基づいてアクチュエータ(3~7,80)の動作を制御する。
【0031】
本実施形態に係る制御装置100は、操作装置(1a~1e)からの操作情報、角度センサ13a~13dからの姿勢情報、及び、記憶装置19に記憶されている油圧ショベル1の各部の寸法情報に基づいて目標アクチュエータ動作速度を演算する情報処理装置110と、情報処理装置110で演算された目標アクチュエータ動作速度に応じた指令電流(弁駆動信号)を電磁弁ユニット30に出力する弁駆動装置190と、油圧ショベル1の各部の寸法情報等が予め記憶されている記憶装置19と、を備える。
【0032】
情報処理装置110は、動作回路であるCPU(Central Processing Unit)110a、記憶装置であるROM(Read Only Memory)110b及びRAM(Random Access Memory)110c、入力インタフェース110d及び出力インタフェース110e、並びに、その他の周辺回路を備えたマイクロコンピュータで構成される。情報処理装置110は、1つのコンピュータで構成してもよいし、複数のコンピュータで構成してもよい。
【0033】
記憶装置19は、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ等の不揮発性メモリである。記憶装置19には、油圧ショベル1の基準点(旋回中心軸上の任意の点)からブームピンまでの長さ、ブームピンからアームピン12aまでの長さ、アームピン12aからバケットピン8aまでの長さ、及び、バケットピン8aからバケット8dの先端部(例えば、バケット8dの爪先)までの長さが、油圧ショベル1の寸法情報として記憶されている。また、記憶装置19には、油圧シリンダ(5~7)の取付位置に関する情報(例えば、ブームピンからブームシリンダ5のロッド側接続部までの距離、ブームピンからブームシリンダ5のボトム側接続部までの距離等)が、油圧ショベル1の寸法情報として記憶されている。
【0034】
入力インタフェース110dは、角度センサ13a~13dからの姿勢情報(角度信号)、操作装置(1a~1e)からの操作情報(操作信号)、及び、記憶装置19からの寸法情報を、CPU110aが演算可能なように変換する。
【0035】
ROM110bはEEPROM等の不揮発性メモリである。ROM110bには、後述するフローチャートに示すような各種演算をCPU110aによって実行可能なプログラムが格納されている。すなわち、ROM110bは、本実施形態の機能を実現するプログラムを読み取り可能な記憶媒体である。
【0036】
RAM110cは揮発性メモリであり、CPU110aとの間で直接的にデータの入出力を行うワークメモリである。RAM110cは、CPU110aがプログラムを演算実行している間、必要なデータを一時的に記憶する。
【0037】
CPU110aは、ROM110bに記憶されたプログラムをRAM110cに展開して演算実行する処理装置であって、プログラムに従って入力インタフェース110d及びROM110b,RAM110cから取り入れた信号に対して所定の演算処理を行う。
【0038】
出力インタフェース110eは、CPU110aでの演算結果に応じた出力用の信号を生成し、その信号を弁駆動装置190に出力する。弁駆動装置190は、情報処理装置110から出力された信号に基づいて、電磁弁ユニット30の電磁比例弁21a~25bのソレノイドに供給する指令電流を制御する。
【0039】
図6は、情報処理装置110の機能ブロック図である。情報処理装置110は、ROM110bに記憶されているプログラムを実行することにより、アクチュエータ速度演算部111、角速度演算部112、ロータリー速度演算部114、及び、指令電流値演算部115として機能する。
【0040】
アクチュエータ速度演算部111は、操作装置(1c~1e)に対する操作情報(操作方向及び操作量)に基づいて、ブームシリンダ5、アームシリンダ6、旋回油圧モータ4、バケットシリンダ7、及び、ロータリー油圧モータ80の目標動作速度を演算する。
【0041】
角速度演算部112は、操作装置(1c,1d)からの操作情報、姿勢センサ(13a~13d)での検出結果(姿勢情報)及び記憶装置19に記憶されている油圧ショベル1の寸法情報に基づいて、旋回油圧モータ4、ブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7がそれぞれ操作量に応じた速度で動作した場合の旋回体10、ブーム11、アーム12及びバケット8dの動作速度(角速度ωs,ωbm,ωam,ωbk)を演算する。
【0042】
角速度演算部112は、操作装置1dからの操作情報に基づいて、旋回体10の動作速度(旋回中心軸Z周りの角速度)ωs及びアーム12の動作速度(アームピン12a周りの角速度)ωamを演算する。また、角速度演算部112は、操作装置1cからの操作情報に基づいて、ブーム11の動作速度(ブームピン周りの角速度)ωbm及び作業具8の動作速度(バケットピン8a周りの角速度)ωbkを演算する。
【0043】
また、角速度演算部112は、操作装置(1c,1d)からの操作情報、姿勢センサ(13a~13d)での検出結果(姿勢情報)及び記憶装置19に記憶されている油圧ショベル1の寸法情報に基づいて、旋回油圧モータ4、ブームシリンダ5、アームシリンダ6、バケットシリンダ7がそれぞれ操作量に応じた速度で動作した場合に、バケット8dに生じるロータリー軸A2周りの角速度ωfを演算する。
【0044】
本実施形態では、ブームピン、アームピン12a及びバケットピン8aは、それぞれロータリー油圧モータ80の回転軸80aの方向と直交している。このため、ブームピンを回動支点としたブーム11の回動動作、アームピン12aを回動支点としたアーム12の回動動作、及び、バケットピン8aを回動支点とした作業具8の回動動作が行われた場合に、バケット8dに生じるロータリー軸A2周りの角速度ωfは0(ゼロ)となる。
【0045】
したがって、角速度演算部112で演算される角速度ωfは、旋回体10の旋回動作によりロータリー軸A2周りに生じるバケット8dの角速度となる。角速度ωfは、次式(1)により算出される。
ωf=ωs×cosθ …(1)
ここで、ωsは旋回体10の動作速度(旋回中心軸Z周りの角速度)であり、θはロータリー軸A2と旋回中心軸Zとのなす角度(ロータリー軸A2と旋回中心軸Zに平行な軸Z′とのなす角度)である(図7B参照)。
【0046】
図7Aはロータリー軸A2と旋回中心軸Zとが平行であるときの油圧ショベル1の姿勢について示す図であり、図7Bはロータリー軸A2と旋回中心軸Zとが平行でないときの油圧ショベル1の姿勢について示す図である。図7A及び図7Bに示すように、バケット8dは、ロータリー軸A2が旋回体10の旋回中心軸Zと平行となる位置を基準として、フロント連結軸A1を中心に回転可能である。角速度演算部112は、姿勢センサ(13a~13c)での検出結果である姿勢情報(ブーム角度、アーム角度及びバケット角度)及び記憶装置19に記憶されている油圧ショベル1の寸法情報に基づいて、ロータリー軸A2と旋回中心軸Zとのなす角度θを演算する。
【0047】
角速度演算部112は、旋回体10の動作速度(旋回速度)ωsと、ロータリー軸A2と旋回中心軸Zとのなす角度θに基づいて、式(1)により、旋回体10の旋回動作によりロータリー軸A2周りに生じるバケット8dの角速度ωfを演算する。
【0048】
したがって、図7Aに示すように、ロータリー軸A2と旋回中心軸Zとが平行なとき(θ=0)には旋回体10の旋回動作によりロータリー軸A2周りに生じるバケット8dの角速度ωfは、旋回速度ωsと一致する(ωf=ωs)。また、図7Bに示すように、ロータリー軸A2が旋回中心軸Zと平行でないときには、旋回体10の旋回動作によりロータリー軸A2周りに生じるバケット8dの角速度ωfは、旋回中心軸Zからの傾斜分(角度θ分)だけ補正される(ωf=ωs×cosθ)。
【0049】
図6に示すように、ロータリー速度演算部114は、角速度演算部112で演算された角速度ωfに基づいて、ロータリー油圧モータ80の目標角速度ωaを演算する。ロータリー速度演算部114は、旋回体10の旋回動作によりロータリー軸A2周りに生じるバケット8dの角速度ωfを相殺するためのロータリー軸A2周りの相殺用速度(-ωf)を目標動作速度(目標角速度)ωaとして演算する(ωa=-ωf)。ここで、相殺とは、旋回体10の旋回動作によりロータリー軸A2周りに生じるバケット8dの角速度ωfと、ロータリー油圧モータ80の動作によりロータリー軸A2周りに生じるバケット8dの角速度(-ωf)とが、互いに打ち消しあうことを意味する。つまり、相殺用速度(-ωf)は、旋回動作中における地面に対するバケット8dの姿勢が一定に保たれるように、旋回体10の旋回動作によりロータリー軸A2周りに生じるバケット8dの角速度ωfを打ち消す速度ともいえる。
【0050】
指令電流値演算部115は、アクチュエータ速度演算部111で演算された各アクチュエータ(4~7,80)の目標動作速度に基づいて、各アクチュエータ(4~7,80)を目標動作速度で動作させるための指令電流値を演算する。また、指令電流値演算部115は、ロータリー速度演算部114で演算されたロータリー油圧モータ80の目標動作速度ωaに基づいて、ロータリー油圧モータ80を目標動作速度ωaで動作させるための指令電流値を演算する。指令電流値演算部115は、アクチュエータ速度演算部111で演算されたロータリー油圧モータ80の目標動作速度が、ロータリー操作装置1eが操作されていることを判定するための操作判定閾値以上である場合、ロータリー速度演算部114で演算されたロータリー油圧モータ80の目標動作速度ωaを無効とする。すなわち、ロータリー操作装置1eが操作されている場合には、ロータリー操作装置1eからの操作情報に応じた目標動作速度でロータリー油圧モータ80の動作を制御する(手動優先制御)。なお、ロータリー操作装置1eが操作されているか否かの判定は、ロータリー操作装置1eの操作量に基づいて行うようにしてもよい。
【0051】
図8を参照して、情報処理装置110により実行されるアクチュエータ制御処理の内容について説明する。図8に示すフローチャートの処理は、イグニッションスイッチ(不図示)がオンされることにより開始され、図示しない初期設定が行われた後、所定の演算周期で繰り返し実行される。
【0052】
図8に示すように、ステップS100において、情報処理装置110は、操作装置(1c~1e)からの操作情報(操作方向及び操作量)、角度センサ(13a~13d)で検出される姿勢情報(角度情報)を取得し、ステップS110へ進む。
【0053】
ステップS110において、情報処理装置110は、ステップS100で取得した操作情報に基づいて、掘削操作が行われているか否かを判定する。ステップS110において、情報処理装置110は、操作装置(1c~1e)の各操作方向に対する操作量のいずれかが操作判定閾値を超えた場合には、掘削操作が行われたと判定し、ステップ120へ進む。ステップS110において、情報処理装置110は、操作装置(1c~1e)の各操作方向に対する操作量のいずれもが操作判定閾値を超えていない場合には、掘削操作は行われていないと判定し、本演算サイクルにおける図8のフローチャートに示す処理を終了し、次の演算サイクルでの情報取得処理(ステップS100)に進む。操作判定閾値は、予め記憶装置19に記憶されている。
【0054】
ステップS120において、情報処理装置110は、ステップS100で取得した操作装置(1c~1e)の操作量に基づいて、操作装置(1c~1e)の操作方向に対応するアクチュエータ(4~7,80)の目標動作速度を算出し、ステップS130へ進む。
【0055】
ステップS130において、情報処理装置110は、ステップS100で取得した操作装置(1c,1d)からの操作情報、角度センサ(13a~13d)で検出される姿勢情報(角度情報)、及び、記憶装置19に記憶されている油圧ショベル1の寸法情報に基づいて、各アクチュエータ(4~7)の動作によって、バケット8dに生じるロータリー軸A2周りの角速度ωfを算出し、ステップS150へ進む。
【0056】
ステップS150において、情報処理装置110は、ステップS130で算出された角速度ωfに基づいて、ロータリー油圧モータ80の目標角速度ωaを算出し、ステップS160へ進む。
【0057】
ステップS160において、情報処理装置110は、指令電流値算出処理を実行し、本演算サイクルにおける図8のフローチャートに示す処理を終了する。ステップS160において、情報処理装置110は、ステップS120で算出された各アクチュエータ(4~7)の目標動作速度に基づいて、各アクチュエータ(4~7)に対応する電磁比例弁への指令電流値を算出する。
【0058】
また、ステップS120で算出されたロータリー油圧モータ80の目標動作速度が、操作判定閾値以上である場合には、情報処理装置110は、ステップS120で算出されたロータリー油圧モータ80の目標動作速度に基づいて、ロータリー油圧モータ80に対応する電磁比例弁への指令電流値を演算する。一方、ステップS120で算出されたロータリー油圧モータ80の目標動作速度が、操作判定閾値未満である場合には、情報処理装置110は、ステップS150で算出されたロータリー油圧モータ80の目標動作速度ωaに基づいて、ロータリー油圧モータ80に対応する電磁比例弁への指令電流値を演算する。
【0059】
ステップS160において指令電流値が算出されると、算出された指令電流値に基づいて、弁駆動装置190が電磁弁ユニット30の電磁比例弁に供給する指令電流を制御する。その結果、コントロールバルブユニット20の方向制御弁が駆動され、ポンプ2から供給される作動油(圧油)によってアクチュエータが動作する。
【0060】
相殺用速度(-ωf)がロータリー油圧モータ80の目標動作速度(目標角速度)ωaとして設定された場合、弁駆動装置190は、電磁比例弁25a,25bへの指令電流を制御することにより、旋回体10の旋回動作によりロータリー軸A2周りに生じるバケット8dの角速度ωfを相殺するようにロータリー油圧モータ80の動作を制御する。つまり、弁駆動装置190は、地面に対するバケット8dの姿勢が一定に保たれるように、ロータリー油圧モータ80の動作を制御する。
【0061】
図9を参照して本実施形態の油圧ショベル1の動作の一例について説明する。図9は、水平引き作業において、作業装置15と旋回体10が複合的に動作した場合に、バケット8dが移動する様子を示す模式図であり、上方から見てバケット8dが直線状に移動する様子を示す。
【0062】
作業開始時、オペレータは、操作装置(1c,1d)を操作して、バケット8dを作業開始地点(旋回体の右前方)に配置させる。次に、オペレータは、ロータリー操作装置1eを操作して、バケット8dの向きを調整する。その後、オペレータは、バケット8dが旋回体10に近づくに従って左方向に直線状に移動するように、操作装置(1c,1d)を操作する。本実施形態では、旋回体10の旋回動作によりロータリー軸A2周りに生じるバケット8dの角速度ωfを打ち消すようにロータリー油圧モータ80の動作が自動で制御される。これにより、旋回体10の旋回動作によりロータリー軸A2周りに生じるバケット8dの角速度が、ロータリー油圧モータ80の動作によりロータリー軸A2周りに生じるバケット8dの角速度で相殺される。このため、図示するように、バケット8dが直線状に移動する場合、バケット8dの向きが、バケット8dの移動方向(黒い太線で示された矢印)を向いた状態で維持される。
【0063】
本実施形態に係る制御装置100は、バケット8dの向きとバケット8dの移動方向にずれが生じてからバケット8dの向きを補正するのではなく、旋回体10の動作によってロータリー軸(第2軸)A2周りに生じる角速度を相殺するようにロータリー油圧モータ80を制御する。このため、ロータリー油圧モータ80に対する制御の応答性に優れている。また、バケット8dの絶対的な方向を参照してバケット8dの移動方向と向きを合わせるのではなく、動作開始時からの姿勢の変化を相殺するように動作するので、作業開始前にオペレータが望んで調整したバケット8dの向き(姿勢)を維持しつつ作業を行うことができる。つまり、本実施形態によれば、オペレータは、ロータリー操作装置1eを操作してバケット8dを望む方向に向けた後、操作装置(1c,1d)を操作することにより、バケット8dの向きと、バケット8dの移動方向との関係を維持した状態で精度よく掘削成形作業を行うことができる。
【0064】
第1実施形態によれば、次の作用効果を奏する。
【0065】
(1)油圧ショベル(作業機械)1は、旋回体10と、ブーム11、アーム12及びバケット8dを有し、旋回体10に取り付けられる多関節型の作業装置15と、旋回体10及び作業装置15を駆動する複数のアクチュエータ(4~7,80)と、旋回体10及び作業装置15を動作させるための操作装置(1c~1e)と、作業装置15の姿勢を検出する姿勢センサ(13a~13c)と、操作装置(1c~1e)に対する操作に基づいて複数のアクチュエータ(4~7,80)の目標動作速度を演算し、目標動作速度に基づいて複数のアクチュエータ(4~7,80)の動作を制御する制御装置100と、を備える。アーム12は、アームピン12aを介してブーム11に回動可能に連結される。バケット8dは、アームピン12aと平行なフロント連結軸(第1軸)A1及びアームピン12aに対してねじれの位置にあるロータリー軸(第2軸)A2を中心に回転可能にアーム12に連結される。複数のアクチュエータには、バケット8dをロータリー軸(第2軸)A2周りに回転させるロータリー油圧モータ(回転アクチュエータ)80が含まれる。制御装置100は、旋回体10の動作速度ωsに基づいて、旋回体10の旋回動作によりロータリー軸(第2軸)A2周りに生じるバケット8dの角速度ωfを演算する。制御装置100は、旋回体10の旋回動作によりロータリー軸(第2軸)A2周りに生じるバケット8dの角速度ωfを打ち消すためのロータリー軸(第2軸)A2周りの相殺用速度(-ωf)を演算する。制御装置100は、相殺用速度(-ωf)に基づいて、ロータリー油圧モータ80の動作を制御する。これにより、旋回体10の旋回動作によりロータリー軸(第2軸)A2周りに生じるバケット8dの角速度が、ロータリー油圧モータ80の動作によりロータリー軸(第2軸)A2周りに生じるバケット8dの角速度で打ち消される。
【0066】
本実施形態では、旋回体10の動作に応じてロータリー油圧モータ80が自動的に動作する複合動作がなされるため、作業効率の向上を図ることができる。また、本実施形態によれば、オペレータが予め調整したバケット8dの向きと、バケット8dの移動方向との関係を維持しつつ掘削成形作業を行うことができる。さらに、バケット8dの向きとバケット8dの移動方向との間に差が生じてからロータリー油圧モータ80の目標動作速度を演算する場合に比べて、ロータリー油圧モータ80の動作の応答性が高く、高い精度で作業を行うことができる。つまり、本実施形態によれば、オペレータが意図する方向に向けたバケット8dの向きと、バケット8dの移動方向との関係を維持しつつ、高い精度で作業を行うことが可能な油圧ショベル1を提供することができる。
【0067】
(2)バケット8dは、ロータリー軸(第2軸)A2が旋回体10の旋回中心軸Zと平行となる位置を基準として、フロント連結軸(第1軸)A1を中心に回転可能である。制御装置100は、姿勢センサ(13a~13c)での検出結果に基づいて、ロータリー軸(第2軸)A2と旋回中心軸Zとのなす角度θを演算し、旋回体10の動作速度ωsと、ロータリー軸(第2軸)A2と旋回中心軸Zとのなす角度θに基づいて、旋回体10の旋回動作によりロータリー軸(第2軸)A2周りに生じるバケット8dの角速度ωfを演算する。これにより、平地において、旋回体10に対して斜め方向に直線状で掘削成形作業を行う際、ロータリー軸A2が旋回中心軸Zから平行でない状態でもバケット8dの向きを維持しつつ精度よく作業を行うことができる。
【0068】
<第2実施形態>
図10図12を参照して、第2実施形態に係る油圧ショベル1について説明する。なお、図中、第1実施形態と同一もしくは相当部分には同一の参照番号を付し、相違点を主に説明する。
【0069】
上記第1実施形態では、例えば、図12(b)に示すように、水平引き作業において、旋回操作を行っていない状態から旋回操作を行っている状態に移行し、その後、旋回操作を行っていない状態に移行するように操作装置(1c,1d)が操作された場合、バケット8dの向きD1が作業開始地点のときの向きに維持される。このため、第1実施形態では、図12(b)に示すように、水平引きの軌跡が上方から見たときに曲線状になる場合、バケット8dの移動方向D2とバケット8dの向きD1との間にズレが生じることになる。
【0070】
そこで、第2実施形態では、水平引きの軌跡が曲線状になる場合であっても、バケット8dの移動方向D2とバケット8dの向きD1とが一致するようにロータリー油圧モータ80の動作を制御する。
【0071】
図10は、図6と同様の図であり、第2実施形態に係る油圧ショベル1の情報処理装置210の機能ブロック図である。情報処理装置210は、ROM110bに記憶されているプログラムを実行することにより、アクチュエータ速度演算部111、角速度演算部112、移動方向回転速度演算部213、ロータリー速度演算部214、及び、指令電流値演算部115として機能する。
【0072】
図10に示すように、移動方向回転速度演算部213は、角速度演算部112で演算された作業装置15の動作速度(角速度ωbm,ωam,ωbk)と、角速度演算部112で演算された旋回体10の動作速度(角速度ωs)と、姿勢センサ(13a~13c)での検出結果(姿勢情報)と、記憶装置19に記憶されている油圧ショベル1の寸法情報に基づいて、バケット8dの移動方向(進行方向)のロータリー軸A2周りの回転速度を演算する。以下、具体的に説明する。
【0073】
移動方向回転速度演算部213は、角速度演算部112で演算された旋回体10の角速度ωs、作業装置15を構成する被駆動部材(ブーム11、アーム12及びバケット8d)の角速度ωbm,ωam,ωbk、姿勢センサ(13a~13c)での検出結果(姿勢情報)及び記憶装置19に記憶されている油圧ショベル1の寸法情報に基づいて、旋回体10の動作及び作業装置15の動作によるバケット8dの移動速度vx,vyを演算する。移動速度vxは、走行体基準座標系でのx軸方向の速度であり、移動速度vyは、走行体基準座標系でのy軸方向の速度である。なお、走行体基準座標系のx軸とは、旋回体10の旋回中心軸Zに直交し、走行体9の前後方向に延在する軸である。また、走行体基準座標系のy軸とは、旋回体10の旋回中心軸Z及びx軸に直交し、走行体9の左右方向に延在する軸である。つまり、x軸、y軸および旋回中心軸Zは、互いに直交する。
【0074】
移動方向回転速度演算部213は、x軸方向(第1の方向)のバケット8dの移動速度vxと、y軸方向(第1の方向に直交する第2の方向)のバケット8dの移動速度vyとの比(vy/vx)に基づいて、バケット8dの移動方向角度ψを演算する。バケット8dの移動方向角度ψは、図12(a)に示すように、バケット8dの移動方向の基準軸(x軸)からの角度であり、次式(2)で表される。なお、基準軸(x軸)は、y軸及び旋回中心軸Zに直交する軸である。
ψ=arctan(vy/vx) …(2)
移動方向回転速度演算部213は、式(2)により演算された移動方向角度ψの時間変化率(単位時間当たりの移動方向の回転角度)をバケット8dの移動方向の回転速度(以下、移動方向回転速度とも記す)ψ´として演算する。
【0075】
さらに、移動方向回転速度演算部213は、姿勢センサ(13a~13c)での検出結果(姿勢情報)を用いて、バケット8dの移動方向が回転する速度ψ´のうち、ロータリー軸A2周りの成分ωeを演算する。式(2)により演算される移動方向回転速度ψ´は、ロータリー軸A2が旋回中心軸Zと平行であるときの速度に相当する。このため、移動方向回転速度演算部213は、ロータリー軸A2と旋回中心軸Zとのなす角度θを考慮して、移動方向回転速度(移動方向回転角度ψの時間変化率)ψ´の補正を行う。本実施形態では、移動方向回転速度演算部213は、次式(3)によりバケット8dの移動方向が回転する速度のロータリー軸A2周りの成分(以下、補正後の移動方向回転速度とも記す)ωeを算出する。
ωe=ψ´×cosθ …(3)
なお、θは、第1実施形態と同様、角速度演算部112によって演算される。
【0076】
ロータリー速度演算部214は、移動方向回転速度演算部213で演算された補正後の移動方向回転速度(ωe)と、相殺用速度(-ωf)とに基づいて、バケット8dの移動方向とバケット8dの向きとが一定の角度関係(角度差)を保持するように、ロータリー油圧モータ80の目標動作速度(目標角速度)ωaを演算する。ロータリー速度演算部214は、次式(4)により、ロータリー油圧モータ80の目標角速度ωaを演算する。
ωa=ωe-ωf …(4)
なお、ωfは、第1実施形態で説明したように、式(1)により演算される。
【0077】
指令電流値演算部115は、第1実施形態と同様、アクチュエータ速度演算部111で演算されたロータリー油圧モータ80の目標動作速度が操作判定閾値未満である場合、ロータリー速度演算部214で演算されたロータリー油圧モータ80の目標動作速度ωaに基づいて、ロータリー油圧モータ80を目標動作速度ωaで動作させるための指令電流値を演算する。指令電流値演算部115は、アクチュエータ速度演算部111で演算されたロータリー油圧モータ80の目標動作速度が操作判定閾値以上である場合、アクチュエータ速度演算部111で演算されたロータリー油圧モータ80の目標動作速度に基づいて、ロータリー油圧モータ80を目標動作速度で動作させるための指令電流値を演算する。
【0078】
図11を参照して、情報処理装置210により実行されるアクチュエータ制御処理の内容について説明する。図11に示すフローチャートのアクチュエータ制御処理では、第1実施形態で説明した図8のステップS150に代えてステップS240及びステップS250の処理が実行される。
【0079】
図11に示すように、ステップS130において、情報処理装置210が角速度ωf,ωs,ωbm,ωam,ωbkを算出するとステップS240へ進む。ステップS240において、情報処理装置210は、ステップS130で算出された角速度ωs,ωbm,ωam,ωbk及び旋回中心軸Zとロータリー軸A2とのなす角度θ、ステップS100で取得した姿勢情報、並びに、記憶装置19に記憶されている油圧ショベル1の寸法情報に基づいて、各アクチュエータ(4~7)の動作によって生じるバケット8dの移動方向のロータリー軸A2周りの回転速度ωeを算出し、ステップS250へ進む。
【0080】
ステップS250において、情報処理装置210は、ステップS130で算出された角速度ωf、及び、ステップS240で算出されたバケット8dの移動方向のロータリー軸A2周りの回転速度ωeに基づいて、ロータリー油圧モータ80の目標動作速度ωaを算出し、ステップS160へ進む。
【0081】
図12を参照して本第2実施形態の油圧ショベル1の動作の一例について説明する。図12は、水平引き作業において、作業装置15と旋回体10が複合的に動作した場合に、バケット8dが移動する様子を示す模式図であり、上方から見てバケット8dが曲線状に移動する様子を示す。図12(a)は、本第2実施形態に係る油圧ショベル1のバケット8dが移動する様子を示し、図12(b)は、上記第1実施形態に係る油圧ショベル1のバケット8dが移動する様子を示す。
【0082】
作業開始時、オペレータは、操作装置(1c,1d)を操作して、バケット8dを作業開始地点(旋回体の右前方)に配置させる。次に、オペレータは、ロータリー操作装置1eを操作して、バケット8dの向きを調整する。その後、オペレータは、バケット8dが旋回体10に近づくに従って左方向に曲線状に移動するように、操作装置(1c,1d)を操作する。上述したように、作業具8が曲線状に移動する場合、第1実施形態の油圧ショベル1では、バケット8dの向きD1が作業開始地点のときの向きに維持されるため、図12(b)に示すように、バケット8dの移動方向D2とバケット8dの向きD1との間にズレが生じることになる。
【0083】
これに対して、本第2実施形態に係る制御装置100は、図12(a)に示すように、バケット8dの移動方向D2とバケット8dの向きD1とが一定の関係を保持するようにロータリー油圧モータ80を制御する。図12(a)は、作業装置15の動作によるバケット8dの移動速度vxをおおよそ一定に保ちつつ、旋回速度(旋回体10の動作速度)を徐々に増加させた後、減少させた場合のバケット8dの移動軌跡について示している。この場合、旋回速度の増加に伴い時計回りの移動方向回転速度が生じ、その後、旋回速度の減少に伴い反時計回りの移動方向回転速度が生じる。
【0084】
図12(a)に示す例では、移動方向角度ψは、0(ゼロ)から増加し、その後、減少して0(ゼロ)に戻る。つまり、移動方向回転速度ωeは、作業を開始してから作業が終了するまでの間で、前半は正の値となり、後半は負の値となる。本第2実施形態では、第1実施形態で説明した相殺用速度(-ωf)に、移動方向回転速度ωeが加味されて目標角速度ωaが演算される。このため、旋回体10と作業装置15を複合動作している間、バケット8dの向きD1とバケット8dの移動方向D2が一致するように、ロータリー油圧モータ80が自動で制御される。
【0085】
以上のように、第2実施形態に係る制御装置100は、ロータリー軸(第2軸)A2周りに生じるバケット8dの角速度ωfを相殺する(打ち消す)ための相殺用速度(-ωf)を演算し、作業装置15の動作速度と、旋回体10の動作速度と、姿勢センサ(13a~13c)での検出結果に基づいて、バケット8dの移動方向のロータリー軸(第2軸)A2周りの回転速度ωeを演算する。制御装置100は、相殺用速度(-ωf)及びバケット8dの移動方向の回転速度ωeに基づいて、バケット8dの移動方向D2とバケット8dの向きD1とが一定の関係を保持するように(本実施形態では、バケット8dの移動方向D2とバケット8dの向きD1とが一致するように)、ロータリー油圧モータ80の目標動作速度ωaを演算する。制御装置100は、ロータリー油圧モータ80の目標動作速度ωaに基づいて、ロータリー油圧モータ80の動作を制御する。
【0086】
このような第2実施形態によれば、上記第1実施形態と同様、ロータリー油圧モータ80に対する制御の応答性に優れる。また、本第2実施形態によれば、旋回体10と作業装置15を複合的に動作させたときにおいて、作業具8が曲線状に移動する場合でも、オペレータが予め調整したバケット8dの向きD1と、バケット8dの移動方向D2との関係を維持しつつ掘削成形作業を行うことができるため、作業精度の向上を図ることができる。
【0087】
なお、図9に示すように、x軸方向のバケット8dの移動速度vxと、y軸方向のバケット8dの移動速度vyとの比が一定となるようにバランスが保たれている場合には、バケット8dが直線状に移動するため、移動方向回転速度は0(ゼロ)となる。このため、第1実施形態では、移動方向回転速度を考慮した演算処理を行うことなく、バケット8dの向きD1とバケット8dの移動方向D2とを一致させた状態での作業が可能となる。第1実施形態では、第2実施形態に比べて制御プログラムを簡略化し、制御装置100の負荷及び開発コストを軽減することができる。
【0088】
<第3実施形態>
図13図16を参照して、第3実施形態に係る油圧ショベル1について説明する。なお、図中、第1実施形態及び第2実施形態と同一もしくは相当部分には同一の参照番号を付し、相違点を主に説明する。図13は、図4と同様の図であり、第3実施形態に係る油圧ショベル1の油圧駆動装置の構成を示す図である。図14は、本第3実施形態に係る油圧ショベル1の作業具308の構成を示す図である。
【0089】
図14に示すように、本第3実施形態に係る油圧ショベル1は、バケット308dがフロント連結軸A1の方向及びロータリー軸A2の方向のそれぞれに直交するチルト軸(第3軸)A3を中心に回転可能にアーム12に連結され、チルト軸A3を中心にバケット308dを回転(回動)させる一対のチルトシリンダ90を備えている。
【0090】
図13に示すように、電磁弁ユニット330は、電磁比例弁26a,26bを有している。電磁比例弁26a,26bは、パイロット油圧源29から供給されるパイロット圧油を一次圧(元圧)として、制御装置300からの指令電流に応じて減圧して生成した二次圧を信号圧としてコントロールバルブユニット320に出力する。コントロールバルブユニット320は、電磁比例弁26a,26bによって生成される信号圧に応じて、ポンプ2からチルトシリンダ90に供給される作動油(圧油)の流れを制御する。
【0091】
左操作レバー装置1dの操作レバーの頂部には、チルト操作装置1fが設けられている。チルト操作装置1fは、オペレータの手指によって左右に傾動可能なレバースイッチを有する。チルト操作装置1fは、レバースイッチの操作量と操作方向に応じた電圧信号(操作信号)を、チルト操作情報として制御装置300に出力する。
【0092】
図14に示すように、作業具308は、第1連結部381と、第2連結部382と、回転部383と、バケット308dと、一対のチルトシリンダ90とを有する。第1連結部381は、アーム12の先端部において、バケットピン8aによって回転可能に連結されている。第2連結部382は、回転軸91によって、第1連結部381に回転可能に連結されている。第2連結部383には、ロータリー油圧モータ80のハウジングが固定され、回転部383には、ロータリー油圧モータ80の回転軸が固定される。バケット308dは、回転部383に固定されている。回転軸91は、フロント連結軸(第1軸)A1の方向及びロータリー軸(第2軸)A2の方向それぞれと直交するように設けられる。チルトシリンダ90は、油圧シリンダであり、シリンダチューブが第1連結部381に回動可能に取り付けられ、シリンダロッドが第2連結部382に回動可能に取り付けられている。
【0093】
図15は、本第3実施形態に係る油圧ショベル1のバケット308dの回転方向について示す図である。図15に示すように、バケット308dは、第1実施形態と同様、ロータリー油圧モータ80によって、ロータリー軸A2を中心に回転する。また、バケット308dは、チルトシリンダ90によって、回転軸91の中心軸であるチルト軸(第3軸)A3を中心に回転する。図14に示すように、作業具308には、チルト軸A3を中心とするバケット308dの回転角度(チルト回転角)を検出するチルトセンサ92が取り付けられている。
【0094】
図16は、図10と同様の図であり、第3実施形態に係る油圧ショベル1の情報処理装置310の機能ブロック図である。情報処理装置310は、ROM110bに記憶されているプログラムを実行することにより、アクチュエータ速度演算部311、角速度演算部312、移動方向回転速度演算部313、ロータリー速度演算部214、チルト速度演算部316、及び、指令電流値演算部315として機能する。
【0095】
図16に示すように、アクチュエータ速度演算部311は、操作装置(1c~1f)に対する操作情報(操作方向及び操作量)に基づいて、ブームシリンダ5、アームシリンダ6、旋回油圧モータ4、バケットシリンダ7、ロータリー油圧モータ80、及び、チルトシリンダ90の目標動作速度を演算する。
【0096】
角速度演算部312は、上記第2実施形態と同様、角速度ωbm,ωam,ωbkを演算する。角速度演算部312は、さらに、チルト軸A3周りの角速度ωftを演算する。具体的には、角速度演算部312は、チルトセンサ92での検出結果に基づいて、チルト回転角φ(図14参照)を演算する。チルトセンサ92は、角度センサ13a~13cと同様、作業装置15のバケット308dの姿勢を検出する姿勢センサとして機能する。
【0097】
角速度演算部312は、次式(5)により、旋回体10の動作によりチルト軸A3周りに生じる角速度ωftを算出する。
ωft=ωs×cosθt …(5)
ここで、θtは、チルト軸A3と旋回中心軸Zとのなす角度である。
【0098】
角速度演算部312は、姿勢センサ(13a~13c)での検出結果である姿勢情報(ブーム角度、アーム角度及びバケット角度)及び記憶装置19に記憶されている油圧ショベル1の寸法情報に基づいて、チルト軸A3と旋回中心軸Zとのなす角度θtを演算する。
【0099】
また、角速度演算部312は、次式(6)により、旋回体10の動作によりロータリー軸A2周りに生じる角速度ωfを算出する。
ωf=ωs×cosθ+ωbab×cosφ …(6)
ここで、ωbabは、作業装置15のアクチュエータ(5~7)の角速度の合計値である(ωbab=ωbm+ωam+ωbk)。
【0100】
移動方向回転速度演算部313は、ロータリー軸A2周りの移動方向回転速度ωeを式(3)により演算する。移動方向回転速度演算部313は、さらに、チルト軸A3周りの移動方向回転速度ωetを次式(7)により演算する。
ωet=ψ´×cosθt …(7)
チルト速度演算部316は、次式(8)により、チルト軸A3周りの目標角速度ωatを演算する。
ωat=ωet-ωft …(8)
チルト速度演算部316は、チルト軸A3周りの目標角速度ωatと、姿勢情報(チルトセンサ92で検出されたチルト回転角φ)と、記憶装置19に記憶されている油圧ショベル1の寸法情報(チルトシリンダ90とバケット308dの取付位置に関する寸法情報)とに基づいて、チルトシリンダ90の目標動作速度を演算する。
【0101】
なお、本第3実施形態では、ロータリー軸A2とチルト軸A3とが直交するように構成されているため、ロータリー軸A2周りの角速度及び移動方向回転速度と、チルト軸A3周りの角速度及び移動方向回転速度との組は一意に定まる。
【0102】
指令電流値演算部315は、上記第1実施形態で説明した機能に加え、チルトシリンダ90の目標動作速度に基づいて、チルトシリンダ90を目標動作速度で動作させるための指令電流値を演算する。なお、指令電流値演算部315は、アクチュエータ速度演算部311で演算されたチルトシリンダ90の目標動作速度が操作判定閾値未満である場合、チルト速度演算部316で演算されたチルトシリンダ90の目標動作速度ωatに基づいて、チルトシリンダ90を目標動作速度ωaで動作させるための指令電流値を演算する。指令電流値演算部315は、アクチュエータ速度演算部311で演算されたチルトシリンダ90の目標動作速度が操作判定閾値以上である場合、アクチュエータ速度演算部311で演算されたチルトシリンダ90の目標動作速度に基づいて、チルトシリンダ90を目標動作速度で動作させるための指令電流値を演算する。
【0103】
弁駆動装置190は、上記第1実施形態で説明した機能に加え、情報処理装置110で演算された指令電流値に基づいて、チルトシリンダ駆動用の電磁比例弁26a,26bのソレノイドに供給する指令電流を制御する。
【0104】
このように、第3実施形態では、バケット308dが、フロント連結軸(第1軸)A1の方向及びロータリー軸(第2軸)A2の方向と交差するチルト軸(第3軸)A3を中心に回転可能にアーム12に連結される。また、制御装置100は、チルトセンサ(姿勢センサ)92での検出結果に基づいて、チルト軸(第3軸)A3を中心とするバケット308dの回転角度(チルト回転角)φを演算する。さらに、制御装置100は、作業装置15の動作速度(被駆動部材の動作速度ωbm,ωam,ωbk)と、旋回体10の動作速度ωsと、ロータリー軸(第2軸)A2と旋回中心軸Zとのなす角度θと、チルト軸(第3軸)A3を中心とするバケット308dの回転角度(チルト回転角)φに基づいて、旋回体10の動作と作業装置15の動作とによりロータリー軸(第2軸)A2周りに生じるバケット308dの角速度ωfを演算する。
【0105】
このような第3実施形態によれば、バケット308dの姿勢の自由度が増すため、より精度よくバケット308dの移動方向にバケット308dの向きを追従させることができる。例えば、斜面において、旋回体10の前後方向に対して斜め方向の掘削成形作業を精度よく行うことができる。また、複雑な地形に対してバケット308dを精度よく追従させることができる。
【0106】
なお、本第3実施形態では、第2実施形態の構成に、チルトシリンダ90を追加する構成について説明したが、第1実施形態の構成に、チルトシリンダ90を追加し、チルト軸A3周りの角速度及び移動方向回転速度、並びに、チルトシリンダ90の目標動作速度を演算するようにしてもよい。
【0107】
次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、上述の異なる実施形態で説明した構成同士を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせることも可能である。
【0108】
<変形例1>
上記実施形態では、操作装置(1c,1d)の操作情報から旋回体10の動作速度及び作業装置15の動作速度を演算し、この演算結果を用いてロータリー油圧モータ80の目標動作速度ωaを演算する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、姿勢センサ(13a~13d)での検出結果(姿勢情報)から旋回体10の動作速度及び作業装置15の動作速度を演算し、この演算結果を用いてロータリー油圧モータ80の目標動作速度ωaを演算してもよい。
【0109】
<変形例2>
作業機械の急動作を防止するために、ロータリー軸A2の動作目標とするアクチュエータ速度について、所定の値を超えないように飽和処理を行ってもよい。
【0110】
<変形例3>
第3実施形態に係る情報処理装置310は、バケット308dのチルト回転角φが動作範囲の限界に達したか否かを判定し、バケット308dのチルト回転角φが動作範囲の限界に達したと判定した場合、チルトシリンダ90の目標動作速度ωatの演算を停止させてもよい。
【0111】
<変形例4>
作業具8,308とアーム12との連結機構の構成は、上記実施形態に限定されない。作業具8,308は、アームピン12aと平行なフロント連結軸(第1軸)A1及びアームピン12aに対してねじれの位置にあるロータリー軸(第2軸)A2を中心に回転可能にアーム12に連結されていればよい。
【0112】
<変形例5>
第1実施形態で説明したアクチュエータ制御処理(図8参照)と、第2実施形態で説明したアクチュエータ制御処理(図11参照)とを、オペレータが切り換え操作可能な切換操作部を設けるようにしてもよい。切換操作部が第1操作位置に切り換えられると、制御装置100は、図8に示すアクチュエータ制御処理を実行し、切換操作部が第2操作位置に切り換えられると、制御装置100は、図11に示すアクチュエータ制御処理を実行する。これにより、作業内容に応じて、オペレータの好みに応じたロータリー油圧モータ80の制御を実行させることができる。また、制御装置100は、直線状にバケット8dが移動しているか否か、及び、曲線状にバケット8dが移動しているか否かを判定し、その判定結果に基づいて、アクチュエータ制御処理のモードを設定するようにしてもよい。直線状にバケット8dが移動している判定されると、制御装置100は、第1実施形態で説明したアクチュエータ制御処理(図8参照)を実行するモードを設定する。また、曲線状にバケット8dが移動していると判定されると、制御装置100は、第2実施形態で説明したアクチュエータ制御処理(図11参照)を実行するモードを設定する。アクチュエータ制御処理のモードを自動で切り替える構成とした場合、オペレータの操作負担を軽減することができる。
【0113】
<変形例6>
第1実施形態及び第2実施形態では、ロータリー油圧モータ80を備えた油圧ショベル1に本発明を適用する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。第1実施形態及び第2実施形態において、ロータリー油圧モータ80に代えて、第3実施形態で説明したチルトシリンダ90を備えた油圧ショベル1に本発明を適用してもよい。この場合、回転軸91の中心軸(チルト軸)が第2軸として設定される。制御装置100は、旋回体10の動作速度と、チルト軸(第2軸)と旋回中心軸Zとのなす角度θtに基づいて、旋回体10の旋回動作によりチルト軸(第2軸)周りに生じるバケット8dの角速度ωftを式(5)により演算する。制御装置100は、角速度ωftに基づいて、チルト軸(第2軸)周りにバケット8dを回転させる回転アクチュエータであるチルトシリンダ90の目標動作速度ωatを演算する。また、制御装置100は、移動方向回転速度ωetを演算し、角速度ωft及び移動方向回転速度ωetに基づいてチルトシリンダ90の目標動作速度ωatを演算してもよい。
【0114】
<変形例7>
第1実施形態及び第2実施形態では、ロータリー軸A2の方向とフロント連結軸A1の方向とが直交する場合について説明したが、ロータリー軸A2の方向とフロント連結軸A1の方向とは直交する場合に限らず、交差していればよい(平行でなければよい)。第3実施形態では、チルト軸A3の方向とフロント連結軸A1の方向とが直交する場合について説明したが、チルト軸A3の方向とフロント連結軸A1の方向とは直交する場合に限らず、交差していればよい(平行でなければよい)。また、第3実施形態では、チルト軸A3の方向とロータリー軸A2の方向とが直交する場合について説明したが、ロータリー軸A2の方向とチルト軸A3の方向とは直交する場合に限らず、交差していればよい(平行でなければよい)。なお、ロータリー軸A2の方向とチルト軸A3の方向とが直交しない構成である場合には、例えば、ロータリー軸A2の移動方向回転速度を優先的に定め、補正用にチルト軸A3の移動方向回転速度を定めるなど、拘束条件を加える必要がある。
【0115】
<変形例8>
上記実施形態では、作業機械がクローラ式の油圧ショベルである場合を例に説明したが、本発明はこれに限定されない。ホイール式の油圧ショベル、固定式の油圧ショベル等、旋回体10及び旋回体10に取り付けられる複数の被駆動部材を有する多関節型の作業装置15を備える種々の作業機械に本発明を適用することができる。
【0116】
<変形例9>
上記実施形態では、アクチュエータとして、油圧モータ、油圧シリンダ等の油圧アクチュエータを備える例に説明したが、アクチュエータとして、電動モータ、電動シリンダ等の電動アクチュエータを備える作業機械に本発明を適用してもよい。
【0117】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0118】
1…油圧ショベル(作業機械)、1c…右操作レバー装置(操作装置)、1d…左操作レバー装置(操作装置)、1e…ロータリー操作装置(操作装置)、1f…チルト操作装置(操作装置)、2…ポンプ、4…旋回油圧モータ(アクチュエータ)、5…ブームシリンダ(アクチュエータ)、6…アームシリンダ(アクチュエータ)、7…バケットシリンダ(アクチュエータ)、8,308…作業具、8a…バケットピン、8b…連結部、8c…回転部、8d,308d…バケット、10…旋回体、11…ブーム、12…アーム、12a…アームピン、13a~13d…角度センサ(姿勢センサ)、14…エンジン、15…作業装置、16…機体、19…記憶装置、20,320…コントロールバルブユニット、30,330…電磁弁ユニット、80…ロータリー油圧モータ(回転アクチュエータ、アクチュエータ)、80a…回転軸、90…チルトシリンダ(回転アクチュエータ、アクチュエータ)、91…回転軸、92…チルトセンサ(姿勢センサ)、100,300…制御装置、110,210,310…情報処理装置、111,311…アクチュエータ速度演算部、112,312…角速度演算部、114,214…ロータリー速度演算部、115,315…指令電流値演算部、190…弁駆動装置、213,313…移動方向回転速度演算部、316…チルト速度演算部、381…第1連結部、382…第2連結部、383…回転部、A1…フロント連結軸(第1軸)、A2…ロータリー軸(第2軸)、A3…チルト軸(第3軸)、Z…旋回中心軸、θ,θt…なす角度、φ…チルト回転角(第3軸を中心とする作業具の回転角度)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16