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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
   B43K 3/00 20060101AFI20240605BHJP
   B43K 7/00 20060101ALI20240605BHJP
【FI】
B43K3/00 N
B43K7/00 100
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021131567
(22)【出願日】2021-08-12
(62)【分割の表示】P 2017033047の分割
【原出願日】2017-02-24
(65)【公開番号】P2021175615
(43)【公開日】2021-11-04
【審査請求日】2021-09-10
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)集会名:2016年 商品研究会 新製品発表会(大阪会場)開催日:平成28年 8月26日 (2)集会名:2016年 商品研究会 新製品発表会(東京会場)開催日:平成28年 9月8~9日 (3)販売日:平成28年10月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】小泉 裕介
(72)【発明者】
【氏名】米山 樹一
【合議体】
【審判長】藤本 義仁
【審判官】桐山 愛世
【審判官】門 良成
(56)【参考文献】
【文献】実開昭49-99335(JP,U)
【文献】特開昭62-96665(JP,A)
【文献】特開昭53-79577(JP,A)
【文献】実開昭60-173380(JP,U)
【文献】特開昭63-7988(JP,A)
【文献】実開昭61-145679(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 1/00- 8/24
B43K 21/00-21/26
B43K 24/00-24/18
B43K 27/00-27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒と、前記軸筒内に収容されて軸筒の前端部から突出される筆記部を備えたリフィルからなる筆記具であって、
前記軸筒が、先軸と後軸より構成されて、両者間が雄ネジと雌ネジの組み合わせによって着脱可能に結合されると共に、前記先軸の先端部には口先部が、雄ネジと雌ネジの組み合わせによって着脱可能に結合されており、前記後軸に対する前記先軸のネジの結合解除の回動方向を左回転とし、前記先軸に対する前記口先部のネジの結合解除の回動方向が、右回転に構成されていることを特徴とする筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸筒と、前記軸筒内に収容されて軸筒の前端部から突出される筆記部を備えたリフィルからなる筆記具の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールペンやシャープペンシル、もしくは複数の筆記体を軸筒内に収容した複式筆記具等においては、その軸筒の表面に装飾を加えることで美感を与える工夫がなされている。
この場合、比較的低価格帯の筆記具においては、軸筒に直接に塗装、転写、印刷、メッキ等の加飾処理を施したもの(特許文献1参照)が提案されている。
また、軸筒の表面にカラー印刷などにより像形成させた転写フィルムを積層させる(特許文献2参照)などの提案もなされている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に開示された筆記具においては、装飾部分の耐摩耗性や耐蝕性に乏しく、使用時間の経過に伴って軸筒の下地が露出して見苦しい状態になる等の問題を有している。
また、特許文献2に開示された筆記具においては、カラー印刷を転写したフィルムを軸筒に貼着しているために、使用に伴いフィルムに剥がれが生じたり、軸筒が滑り易くグリッブ感に乏しい等の問題を有している。
【0004】
そこで、軸筒表面の耐久性を確保するために、高硬度の保護膜(金属被覆)を軸筒に施した筆記具の提案(特許文献3参照)もなされている。
この特許文献3に示された筆記具によると、高硬度の金属被覆によって深みのある光沢を伴い、外観の品位を向上させて筆記具に高級感をもたらすことに寄与できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2013/008811号
【文献】特開2010-253842号公報
【文献】実開昭60-173380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、この種の筆記具においては、軸筒が、先軸と後軸より構成されて、両者間が雄ネジと雌ネジの組み合わせによって着脱可能に結合されると共に、前記先軸の先端部には口先部が、雄ネジと雌ネジの組み合わせによって着脱可能に結合されたものが提案されており、軸筒内に収容されたリフィルの交換にあたっては、後軸に対して先軸を取り外した状態で行うことが望ましい。しかし、先軸の先端部側に口先部材としての口金が取り付けられており、両者は雌ネジと雄ネジを利用して螺合されている。
したがって、リフィルの交換に不慣れなユーザにおいては、先軸から口金を取り外した状態で、リフィルの交換を試みる場合がある。これによると、先軸からわずかに突出するリフィルの先端部分のみを摘んで、ノック棒のリフィル装着部からリフィルを取り外し、また新たなリフィルをノック棒に対して、手元から離れた状態で装着する操作を余儀なくされ、リフィルの交換操作が難しいという課題がある。
【0007】
そこで、この発明は、後軸に対する先軸の結合解除のネジの回動方向と、先軸に対する口金のネジの結合解除の回動方向が、互いに逆方向となるように構成することで、前記課題を解決した筆記具を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した課題を解決するためになされたこの発明に係る筆記具は、軸筒と、前記軸筒内に収容されて軸筒の前端部から突出される筆記部を備えたリフィルからなる筆記具であって、前記軸筒が、先軸と後軸より構成されて、両者間が雄ネジと雌ネジの組み合わせによって着脱可能に結合されると共に、前記先軸の先端部には口先部が、雄ネジと雌ネジの組み合わせによって着脱可能に結合されており、前記後軸に対する前記先軸のネジの結合解除の回動方向を左回転とし、前記先軸に対する前記口先部のネジの結合解除の回動方向が、右回転に構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
この発明に係る筆記具によると、後軸に対する前記先軸のネジの結合解除の回動方向を左回転とし、前記先軸に対する前記口先部のネジの結合解除の回動方向を、右回転とすることで、前記課題を解決した筆記具を提供しようとするものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態に係る複式筆記具の(A)正面図、(B)右側面図、(C)背面図である。
図2図1に示す複式筆記具の中央断面図である。
図3図1に示す複式筆記具に用いられる後軸の(A)正面図、(B)右側面図、(C)断面図である。
図4図3(C)におけるIV-IV線より矢印方向に見た拡大断面図である。
図5図1に示す複式筆記具に用いられる内筒の(A)正面図、(B)右側面図、(C)背面図、(D)断面図である。
図6図1に示す複式筆記具に用いられる先軸の(A)正面図、(B)断面図である。
図7図1に示す複式筆記具に用いられる口金の(A)正面図、(B)断面図である。
図8図1に示す複式筆記具に用いられるノック棒の(A)正面図、(B)右側面図、(C)背面図である。
図9図8(B)におけるIX-IX線より矢印方向に見た拡大断面図である。
図10図2におけるX-X線より矢印方向に見た拡大断面図である。
図11図2に示す複式筆記具の天冠部分の拡大図である。
図12図2に示す複式筆記具において1つの筆記部を突出させた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を複式筆記具に採用した例について、図に基づいて説明する。
(1)筆記具外観
実施の形態に係る筆記具は、図1(A)~(C)に示すような外観を呈する複式筆記具10である。なお、図1は複式筆記具10内部に収納されている複数のリフィルの先端筆記部がいずれも没入している非筆記状態を示している。
軸筒11は、後端側に位置する後軸20と、先端側に位置する先軸40とが互いに螺合されて結合されている。後軸20と先軸40との間にはリング部材12が改装される。また、先軸40の先端には、口先部としての口金50が螺合されて取り付けられている。
後軸20は金属素材により形成され、その後部には長手方向の開口である窓孔22が3本設けられている。各窓孔22からは、後述するリフィルの後方に装着されるノック棒60の外側面に設けられるノック突起62が突出している。各ノック突起62は、対応する窓孔22に沿って前後方向に移動可能である。
【0015】
また、正面側の窓孔22に位置するノック突起62にはクリップ13が装着されている(図1(A)及び(B))。クリップ13の先端部分は後軸20に向かって突出しており、後軸20の表面に形成されるクリップ突起21と接触している(図1(B))。このクリップ13が設けられているノック棒60は、後述する熱変色性インクをインク収容管に収容し、先端筆記部としてエラストマー材による摩擦具を備えたリフィル70の後端に接続されている。一方、その他の2本のノック棒60(図1(C)参照)は、それぞれインク色の異なる後述するボールペンリフィル80の後端に接続されている。すなわち、本実施の形態に係る複式筆記具10は、3種類のリフィルを内蔵している。
【0016】
(2)リフィル、内筒30及びガイド筒17
図2は、図1に示す複式筆記具10の断面図である。
後軸20の内部空間の後方側には、各ノック棒60を収容するとともにこれらのノック棒60の前後方向のスライドを導く内筒30が装着されている。内筒30よりも先端側には、各リフィルの前後方向の移動を導くガイド筒17が装着されている。ガイド筒17には、各リフィルが挿通されるガイド孔18が計3個設けられている。
【0017】
クリップ13が装着されているノック棒60の先端には、前記したようにエラストマー材からなり、熱変色性インクを容易に変色可能な摩擦具を備えたリフィル70が装着されている。このリフィル70は、インク接続管71の先端に、エラストマー材の摩擦具による先端筆記部72が接続された構造を有する。なお、熱変色性インクとは、常温(例えば25℃)で所定の色彩(第1色)を維持し、所定温度(例えば65℃)まで昇温させると別の色彩(第2色)へと変化し、その後、所定温度(例えば-10℃)まで冷却させると、再び元の色彩(第1色)へと復帰する性質を有するインクを言う。一般的には第2色を無色とし、第1色(例えば赤)で筆記した描線を昇温させて無色とする構成でもよい。従って、描線が筆記された紙面等に対して摩擦具によって擦過して摩擦熱を生じさせ、それによって描線を無色に変化させる。なお、当然のことながら第2色は、無色以外の有色でもよい。
また、摩擦具による先端筆記部を備えたリフィル70の後方外周にはスプリング90が外挿されている。スプリング90の後端は、ノック棒60先端の段差68に当接し、また、スプリング90の先端は、ガイド孔18先端の段差19に当接しており、ノック棒60の先端方向へのスライドに伴い、スプリング90はこれらの段差68,19の間で圧縮される。
【0018】
一方、他の2つのノック棒60の先端には、前記したようにボールペンリフィル80が各々装着されている。ボールペンリフィル80は、インクを収容する管状のインク収容管81の先端に、先端筆記部としてのボールペンチップ82が接続された構造を有する。インク収容管81には、一つは摩擦具により変色可能な熱変色性インクを収容し、もう一つは摩擦具により容易に変色不可能な非熱変色性インクを収容し、使用状況により切り替え容易な軸筒外面に摩擦具を備えない金属軸にリフィルが収容された筆記具を提供することができる。また、ボールペンリフィル80の後方外周にもスプリング90が外挿されているが、このスプリング90に関しては前記した摩擦具による先端筆記部を備えたリフィル70と同様である。なお、内筒30の後端部分と軸筒11の後端内側との間にはクッション材14が介装されているが、これについては後述する。
【0019】
(3)後軸20
後軸20は金属又は樹脂素材からなり、前記したとおり、後軸20には3本の窓孔22が設けられている(図3(A)及び(B)並びに図4)。そのうち、正面に位置する窓孔22の両側縁の後端部分がそれぞれ対向するように張り出しており、これらの部分が一対の係合片23となっている(図3(A)及び図4)。なお、窓孔22の後端縁にも同様の張り出し部分が設けられ、両側の係合片23を連結している(図3(A))。
後軸20の先端付近の内周は、先軸40との螺合のための雌ネジ24が形成されている。また、後軸20の内部空間の後端はやや先端へ台状に張り出した台状部25となり、その先端面は平坦になっている。この平坦な面が、先述したクッション材14が当接する面である後軸後端面26(図3(C)及び図4)である。これについては後述する。
【0020】
(4)内筒30
内筒30においても、前記後軸20の各窓孔22に対応しこれと連続する開口部31が計3個設けられている(図5(A)~(D))。各開口部31の両辺縁に沿って、ノック棒60の前後方向のスライドを導くレール32が設けられている(図5(A)~(D))。各レール32の先端部分は、軸心方向へ沈んでおり、この部分をレール段差33と称する(図5(A)~(D))。
内筒30の先端縁34は、後述するように、ノック棒60の先端部分が係止する箇所であるが、これについては後述する。
内筒30の後端には、前記クッション材14が挿入される後端凹部35が形成されている。これについては後述する。
【0021】
(5)先軸40
先軸40は、その内側がポリカーボネート樹脂のような比較的硬質な樹脂素材41で成形されており、その外側には後軸20とは異なる材料を用いた金属素材によるグリップ部42が位置する構造となっている(図6(A)及び(B))。内側の硬質な樹脂による後端部分の外周には、前記した後軸20に螺入される雄ネジ43が形成されている(図6(A)及び(B))。
また、硬質な樹脂素材41の先端部分の内周は、口先部材としての口金50の後端部分が螺入するために雌ネジ44が形成されている(図6(B))。
【0022】
(6)口金50
口金50は金属製であり、先端側は先細に形成されたテーパー部51となっており、後端側の略筒状部分の外周には、前記先軸40の雌ネジ44に螺入されるために雄ネジ53が形成されている(図7(A)及び(B))。テーパー部51の先端には先端開口52が形成され(図7(B))、ここから各リフィルの先端筆記部が出没する。
【0023】
口金50は基材上にニッケルメッキ上にコート処理を施したものを採用することができる。
しかし、ニッケルメッキについてはユーザの発汗の影響を受けて、ニッケルを溶解させてアレルギー症状(いわゆる金属アレルギー)を引き起こす懸念がある。
そこで、ニッケルメッキを施した後に、このニッケルメッキ上に、例えばスズとコバルトの合金被覆(スズコバメッキ)をコート層として成膜することで、発汗によるニッケルメッキ層のニッケルの溶解を効果的に阻止することができる。これにより、アレルギー症状を引き起こす問題を解消した筆記具を提供することができる。なお、軸筒11(先軸40と後軸20)に適用することもできる。
【0024】
(7)ノック棒60
図8は、クリップ13が取り付けられるノック棒60を示す。このノック棒60は、前記した後軸20の窓孔22及び前記した内筒30の開口部31に外側から先端方向へ挿入されるノック棒挿入部61(図8(A)~(C))と、その後方に位置し、外方へ突出するノック突起62(図8(B))とを備える。
ノック突起62のさらに外方には、前記クリップ13が装着されるクリップ装着部63が突出している(図8(A)及び(B))。また、ノック突起62の根元の両側後端には、一対の溝である係合溝64が形成されている(図8(B)及び図9)。
ノック棒60の先端部側を、後軸20の窓孔22及び前記内筒30の開口部31に外側から挿入してから、これを前記レール32に沿って少し後方に移動させると、図10に示すように、これらの係合溝64に前記した窓孔22の係合片23が嵌入し、ノック棒60が外方へ抜け落ちることが防止される。すなわち、窓孔22の係合片23は、ノック棒60の抜け止めとして機能するものである。
【0025】
なお、ノック棒60が後軸20の窓孔22の外側から挿入されることで装着されるのは、後軸20の内部には内筒30及びガイド筒17が挿入されており、後軸20の先端から後方に向けてノック棒60を挿入するための十分な空間が存在しないためである。
一方、ノック棒挿入部61の先端には、外方に突出する係止突起65が形成されている(図8(B))。この係止突起65の後方に位置する係止段差66は、前記した内筒30の先端縁34と係止する(図2参照)ことで、これもノック棒60の抜け止めに寄与している。
【0026】
ノック棒60の内側には、長手方向に沿設されつつ内方へ突出した解除突起69が形成されている(図8(B)及び(C))。この解除突起69は、他の2つのノック突起62にも設けられており、図1に示す非筆記状態においては、図10に示すように、各解除突起69が軸心に向かって突き合わされた状態となっている。
ノック棒60の先端からは、リフィル装着部67が先端方向へ突出している(図8(A)~(C))。このリフィル装着部67は、エラストマー材による摩擦具を備えたリフィル70の後端に圧入される(図2参照)。
【0027】
(8)クッション材14
クッション材14は、図11に示すような、先端に向かってやや先細となっている略円錐台状の凸状部15と、その後端に連続する円盤状の板状部16とが、シリコンゴムにて一体成形されている部材である。このクッション材14のうち、凸状部15は前記内筒30の後端凹部35(図5(D)参照)に挿入される。また、板状部16は、前記後軸20における台状部25の後軸後端面26(図3(C)参照)に当接する。すなわち、クッション材14は内筒30と後軸20との間に介装される部材である。なお、後軸20の後端には浅い円形の第1陥凹部27が形成されており、その中に、それと中心を同じくするさらに深い円形の第2陥凹部28も形成されている。そして、第1陥凹部27には円形のシール部材29が嵌め込まれている。
ここで、第1陥凹部27の周縁は、アールをつけた面取り部27Aが形成されていて、その周囲の、第1陥凹部27の立ち上がり部分27Cとの際に断面略V字状の溝が形成されており、この溝をアール溝27Bと称する。
【0028】
(9)リフィルの前進及び後退
図2に示す状態においては、ノック棒60は最後端に位置しており、ノック棒60の係合溝64に後軸20の窓孔22の係合片23が嵌入している。この状態から、クリップ13の装着されたノック棒60を先端方向へ押圧すると、スプリング90を圧縮しつつ、ノック棒60は内筒30のレール32(図5(A)参照)に沿って前方へ移動する。そして、レール32の先端のレール段差33に至ると、ノック棒60は軸心方向へ沈み込む。この状態において、図12に示すように、摩擦具によるリフィル70の先端筆記部72が、口金50の先端開口52(図7(B)参照)から突出し、筆記可能な状態となる。このとき、ノック棒60の解除突起69はレール段差33と係合している。この係合によって、圧縮されたスプリング90の付勢力に抗して、先端筆記部72が突出した状態が保持される。
【0029】
この状態で、他の2つのノック棒60のいずれかを先端方向へ押圧すると、当該ノック棒60に設けられている解除突起69の先端が、上述したように軸心方向へ沈み込んでレール段差33と係合している解除突起69の後端に当接して、これを外周方向へ跳ね上げる。これによって、当該解除突起69とレール段差33との係合は解かれる。そして当該ノック棒60は、圧縮されたスプリング90の付勢力によって後方へ移動し、突出していた先端筆記部は軸筒11内部に没入し、図2に示す状態に復帰することとなる。このとき、当該ノック棒60は最後端に位置することとなるが、その際、再びノック棒60の係合溝64に後軸20の窓孔22の係合片23が嵌入することとなる。
【0030】
(10)クッション材14の作用
ここで、特定のリフィル(たとえば、摩擦具による先端筆記部72を備えたリフィル70)の使用頻度が、他のボールペンリフィル80より極端に高い場合であっても、以下のように機能することとなる。
すなわち、そのリフィルに装着されたノック棒60が筆記可能状態からの解除によってスプリング90の付勢力により後方に衝突した場合であっても、ノック棒60は直接クッション材14に衝突することはない。つまり、ノック棒60はそれが収容される内筒30に衝突することになる。よって特定のリフィルの後退に伴う衝撃は、内筒30全体が後方へ押圧される力へ分散され、その分散された力は内筒30と後軸20との間に介在されるクッション材14(図11参照)で緩衝される。よって、クッション材14の特定の位置(たとえば、そのような特定のリフィルに対応する位置)のみが片減りすることはない。
【0031】
以上、説明した複式筆記具においては、軸筒11内に収容されたそれぞれのリフィル70,80は、これを交換することができる。リフィル70,80の交換にあたっては、後軸20に対して先軸40を取り外した状態で行うことが望ましい。
しかし、この実施の形態に示す複式筆記具においては、先軸40の先端部側に口先部材としての口金50が取り付けられており、両者は雌ネジ44と雄ネジ53を利用して螺合されている。
したがって、リフィルの交換に不慣れなユーザにおいては、先軸40から口金50を取り外した状態で、リフィルの交換を試みる場合がある。これによると、先軸40からわずかに突出するリフィルの先端部分のみを摘んで、ノック棒60のリフィル装着部67からリフィルを取り外し、また新たなリフィルをノック棒60に対して、手元から離れた状態で装着する操作を余儀なくされ、リフィルの交換操作が難しい。
【0032】
そこで、この実施の形態に係る複式筆記具においては、後軸20に対する先軸40の結合解除のネジの回動方向と、先軸40に対する口金50のネジの結合解除の回動方向が、互いに逆方向となるように構成されている。
すなわち、この実施の形態においては、後軸20の雌ネジ24に螺合した状態の先軸40の雄ネジ43の結合を解除するには、後軸20に対して先軸40を左回転させることで、その結合を解除することができる。これに対して、先軸40の雌ネジ44に螺合した状態の口金50の雄ネジ53の結合を解除するには、先軸40に対して口金50を右回転させる必要がある。
【0033】
一般にネジによる螺合状態の解除には、取り外す側を左回転させることが慣例であり、これに対して前記した筆記具においては、たとえ口金50を左回転させても、口金50は先軸40から取り外されることはなく、その回動力を受けて後軸20に対して先軸40の結合状態が解除されることになる。
それ故、前記したようにネジの結合解除の回動方向を、前記した関係に設定することで、リフィルの交換に際して、殆どのユーザは必然的に後軸20に対して先軸40を取り外した状態で、交換操作が行われるようになる。
【0034】
一方、この複式筆記具においては、ユーザの高級趣向に応えるために軸筒11を構成する先軸40および後軸20の表面に保護膜として金属被覆が施されている。
この金属被覆としては、深みのある金属光沢を醸し出すことができ、グリップ感を得るためにイオンプレーティングによる成膜処理が望ましい。また、その膜厚は0.5~5μmとすることが望ましい。
表1は、軸筒11にイオンプレーティング(IP)による成膜処理と、通常のメッキによる成膜処理のそれぞれの特徴を示しており、表1より硬度がHv700以上の成膜処理を施した例においては、耐蝕性、耐摩耗性、耐候性を含む耐久性に優れた金属被覆が得られる点で理解できる。なお、表1に示す耐久性について、Aは優秀、Bは良好、Cは普通の各評価を示している。
そして、この種の成膜処理によって得られる金属被覆は、その硬度が高いほど耐久性に優れているということができ、生産性も考慮し、より望ましくはHv1500~3000の範囲である。
ここで挙げたHvはビッカース硬度であり、市販のマイクロビッカース測定器(例えばアカシ(現ミツトヨ)製のマイクロビッカース測定器MVK-1C)で測定したものである。
【0035】
【表1】
【0036】
ところで、前記した複式筆記具においては、その表面の金属被覆は、摩擦係数が少ない傾向にあり、これにより軸筒を把持した場合の指先との滑りが生じてグリップ感に乏しい問題が生ずる。そこで、一定の耐久性を得ることかできる硬度がHv700以上の成膜処理を施すことができるCrメッキによる軸筒と、イオンプレーティングによる軸筒との間の摩擦係数を比較した結果を、表2および表3に示す。
なお、表3はCrメッキ上へTIN(窒化チタン)をイオンプレーティングにより成膜した例を示している。
【0037】
表2および表3に示す測定には、図6に示す先軸40におけるグリップ部42の表面と、紙面(上質紙)との間の摩擦係数を測定しており、具体的には市販の表面測定器(HEIDON-13D、新東科学株式会社)を使用している。そして、紙面上に先軸40を荷重2.5Nを加えて当接し、速度20cm/sec、測定距離20cmの条件にて、摩擦抵抗を測定し、摩擦係数を求めた。
なお、表2および表3に示す「Y方向」とは前記先軸40を軸方向に沿って紙面上を移動させた時の結果であり、「X方向」とは先軸40を軸方向に直交する方向に沿って紙面上を移動させた時の結果である。
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
前記表2および表3に示すように各サンプルについて各3回の測定結果が示され、「Ave」は3回の測定結果の平均値を示しており、「Max」は3回の測定結果のうちの最大値を示し、さらに「Min」は3回の測定結果のうちの最小値を示している。
表2および表3の結果に示すように「Y方向」および「X方向」に別けて測定した摩擦方向における差は見られず、また表2に示すCrメッキによる軸筒に対して、表3に示すイオンプレーティング(IP)による軸筒については、全てにおいて摩擦係数が高いものを得ることができる。
【0041】
さらに測定したサンプル品について、Crメッキによる軸筒と、イオンプレーティングによる軸筒について、実際に把持した感触においても、イオンプレーティングによる軸筒が滑り難くグリップ感が良好であるという感触を得ることができる。
したがって、表2と表3に示す比較結果から、軸筒にこの種の金属被覆を備えた筆記具においては、摩擦係数が0.23以上とすることが適切であることを見出だすことができる。なお、軸筒に成膜される金属被覆は、その摩擦係数が大であるほどグリップ感が良好であるということができるが、適度なグリップ感と成膜の硬度を両立するため摩擦係数が0.6以下とすることが望ましい。
【0042】
一方、前記したように先軸40と後軸20にそれぞれ金属被覆を成膜した筆記具においては、前後の色差が同様に保たれることが好ましい。
この場合、先軸40に施された金属被覆と、後軸20に施された金属被覆の色差が、L*a*b*表色系において、L*値の差が20以下、a*値の差が10以下、b*値の差が10以下の範囲になされていることが望ましい。
これにより、L*の値で示される明るさの差が適度に抑えられると共に、a*値で示される赤と緑の間の色みの差、およびb*値で示される黄と青の間の色みの差も適度に抑えられ、軸方向において色調のバランスを整えた筆記具を提供することができる。
【0043】
前記した先軸40および後軸20の軸色の測定方法としては、部品の表面をスキャナで撮影した後、その画面を紙面に印刷し、これを色差計等を用いて測定することかできる。
この場合、スキャナの撮影条件としては、測定器は市販のスキャナ(EPSON社製GT-X750)、取り込みはスキャナ付属のソフト(EPSON社製EPSON Scan)を用いて、
モード:ホームモード、
原稿種:イラスト、
イメージタイプ:カラー、
出力設定:その他、
解像度:400dpi
保存ファイル形式:ビットマップ、
その他の設定:初期設定どおり、
とする。
スキャナで取り込んだ画像を印画紙等の紙面に印刷し、その印刷した色をJIS K 7375に準拠して測定し、汎用型色差計(TC-8600A、東京電色株式会社製)を用いて測定することができる。
【符号の説明】
【0044】
10 筆記具(複式筆記具)
11 軸筒
12 リング部材
13 クリップ
14 クッション材
17 ガイド筒
18 ガイド孔
20 後軸
21 クリップ突起
22 窓孔
23 係合片
24 雌ネジ
30 内筒
31 開口部
32 レール
33 レール段差
40 先軸
41 樹脂素材
42 グリップ部
43 雄ネジ
44 雌ネジ
50 口金
51 テーパー部
52 先端開口
53 雄ネジ
60 ノック棒
61 ノック棒挿入部
62 ノック突起
63 クリップ装着部
64 係合溝
65 係止突起
67 リフィル装着部
69 解除突起
70 摩擦具を備えたリフィル
71 芯収容管
72 先端筆記部(摩擦具)
80 ボールペンリフィル
81 インク収容管
82 先端筆記部(ボールペンチップ)
90 スプリング
図1
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