(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04664 20160101AFI20240605BHJP
H01M 8/0438 20160101ALI20240605BHJP
H01M 8/04746 20160101ALI20240605BHJP
H01M 8/04313 20160101ALI20240605BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20240605BHJP
【FI】
H01M8/04664
H01M8/0438
H01M8/04746
H01M8/04313
H01M8/04 N
(21)【出願番号】P 2021145432
(22)【出願日】2021-09-07
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100221729
【氏名又は名称】中尾 圭介
(72)【発明者】
【氏名】立川 克之
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2021/0063493(US,A1)
【文献】特開2018-101572(JP,A)
【文献】特開2007-165237(JP,A)
【文献】特開2007-317597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04-8/0668
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池スタックと、
並列に3個以上設けられ、前記燃料電池スタックに燃料ガスを供給するインジェクタと、
制御部と、
前記インジェクタが設けられた燃料供給流路内の前記インジェクタよりも下流側の圧力を測定する圧力測定部と
を有する燃料電池システムであって、
前記制御部は、前記圧力測定部が測定した前記燃料供給流路内の圧力が、第1圧力値に到達した後に前記インジェクタを開弁し、前記燃料供給流路内の圧力が第2圧力値に到達した後に前記インジェクタを閉弁する噴射制御を前記各インジェクタに対して順次行い、前記各インジェクタの前記開弁から前記閉弁までの開時間を計測し、前記各インジェクタの前記開時間の平均値を計算し、前記各インジェクタの前記開時間と前記平均値との差が閾値時間差以上である場合に該インジェクタの閉故障を検知する、燃料電池システム。
【請求項2】
燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックに燃料ガスを供給するインジェクタと、
制御部と、
前記インジェクタが設けられた燃料供給流路内の前記インジェクタよりも下流側の圧力を測定する圧力測定部と
を有する燃料電池システムであって、
前記制御部は、前記圧力測定部が測定した前記燃料供給流路内の圧力が、第1圧力値に到達した後に前記インジェクタを開弁し、前記燃料供給流路内の圧力が第2圧力値に到達した後に前記インジェクタを閉弁する噴射制御を行い、前記インジェクタの前記開弁から前記閉弁までの開時間を計測し、前記開時間が閾値時間以上である場合に前記インジェクタの閉故障を検知する、燃料電池システム。
【請求項3】
前記インジェクタが並列に複数設けられ、
前記制御部は、前記各インジェクタに対して順次前記噴射制御を行う請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記インジェクタの前記開時間がタイムアウト時間以上である場合に、該インジェクタをその後閉弁した状態で維持する請求項1~3のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池スタックに燃料を噴射するインジェクタの、閉故障を検知する手段を有する燃料電池システムとしては、例えば特許文献1に記載されているような燃料電池システムが知られている。この燃料電池システムにおいては、インジェクタの閉故障を検知するときに、燃料電池スタックへの燃料供給流路の目標圧力を通常の駆動時よりも高圧にして複数のインジェクタから順次燃料を噴射し、燃料供給流路内の圧力が閾値を下回った場合に、直前に燃料を噴射したインジェクタを閉故障であると検知するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の燃料電池システムでは、インジェクタの閉故障を検知する目的で燃料供給流路の目標圧力を通常の駆動時よりも高圧にするため、燃料の消費量が増加するという問題があった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、燃料消費を抑制しつつインジェクタの閉故障を検知することができる燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る燃料電池システムは、燃料電池スタックと、並列に3個以上設けられ、燃料電池スタックに燃料ガスを供給するインジェクタと、制御部と、インジェクタが設けられた燃料供給流路内のインジェクタよりも下流側の圧力を測定する圧力測定部とを有する燃料電池システムであって、制御部は、圧力測定部が測定した燃料供給流路内の圧力が、第1圧力値に到達した後にインジェクタを開弁し、燃料供給流路内の圧力が第2圧力値に到達した後にインジェクタを閉弁する噴射制御を各インジェクタに対して順次行い、各インジェクタの開弁から閉弁までの開時間を計測し、各インジェクタの開時間の平均値を計算し、各インジェクタの開時間と平均値との差が閾値時間差以上である場合に該インジェクタの閉故障を検知する。
【0007】
また、本発明に係る燃料電池システムは、燃料電池スタックと、燃料電池スタックに燃料ガスを供給するインジェクタと、制御部と、インジェクタが設けられた燃料供給流路内のインジェクタよりも下流側の圧力を測定する圧力測定部とを有する燃料電池システムであって、制御部は、圧力測定部が測定した燃料供給流路内の圧力が、第1圧力値に到達した後にインジェクタを開弁し、燃料供給流路内の圧力が第2圧力値に到達した後にインジェクタを閉弁する噴射制御を行い、インジェクタの開弁から閉弁までの開時間を計測し、開時間が閾値時間以上である場合にインジェクタの閉故障を検知する。
【0008】
また、インジェクタが並列に複数設けられ、制御部は、各インジェクタに対して順次前記噴射制御を行ってもよい。
また、制御部は、インジェクタの開時間が所定のタイムアウト時間以上である場合に、該インジェクタをその後閉弁した状態で維持してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、燃料電池システムの制御部は、圧力測定部が測定した燃料供給流路内の圧力が、第1圧力値に到達した後にインジェクタを開弁し、燃料供給流路内の圧力が第2圧力値に到達した後にインジェクタを閉弁する噴射制御を各インジェクタに対して順次行い、各インジェクタの開弁から閉弁までの開時間を計測し、各インジェクタの開時間の平均値を計算し、各インジェクタの開時間と平均値との差が閾値時間差以上である場合に該インジェクタの閉故障を検知するため、燃料消費を抑制してインジェクタの閉故障を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態1の燃料電池システムの概略図である。
【
図2】本発明の実施の形態1の各インジェクタの噴射制御の動作を示すタイムチャートである。
【
図3】本発明の実施の形態1の燃料電池システムのインジェクタ閉故障検知動作を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の実施の形態2の燃料電池システムのインジェクタ閉故障検知動作を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の実施の形態3の燃料電池システムのインジェクタ閉故障検知動作を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の実施の形態4の各インジェクタの燃料噴射制御を示すタイムチャートである。
【
図7】本発明の実施の形態4の燃料電池システムのインジェクタ閉故障検知動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態1の燃料電池システムについて図面を参照して詳細に説明する。
図1は、実施の形態1の燃料電池システムの概略図である。燃料電池システム1には、図示しない複数の燃料電池セルを有する燃料電池スタック20と、燃料電池スタック20に燃料である水素ガスを供給するための燃料供給系30が設けられている。燃料供給系30の水素タンク31と燃料電池スタック20のアノード側の燃料供給部とは、内部を水素ガスが流通する水素供給管32により接続されている。水素供給管32には、水素タンク31の下流に設けられ水素ガスの供給及び停止を切り替えるメインバルブ33と、メインバルブの下流に設けられた水素の圧力を調整するレギュレータである減圧バルブ34と、減圧バルブ34の下流に設けられたインジェクタ35とが設けられている。インジェクタ35は、第1インジェクタ35a、第2インジェクタ35b及び第3インジェクタ35cの合計3個のインジェクタが並列に配置されて構成されている。なお、水素供給管32は燃料供給流路を構成している。
【0012】
燃料電池スタック20には、気液分離器36が接続されている。気液分離器36は、燃料電池スタック20から排出された、燃料電池セル内の未反応水素ガスと水との混合物を、水素ガスと水とに分離する。気液分離器36には、開閉により未反応水素ガス、不純物を含むガス及び水との混合物の流通を制御する排気排水バルブ37が接続されている。排気排水バルブ37には排気排水管38が接続されており、この排気排水管38は排気排水バルブ37が開いたときに、気液分離器36によって分離された水及び不純物を含むガスを排出する。
【0013】
気液分離器36と水素供給管32との間には、気液分離器36で分離された水素ガスを水素供給管32に戻すための循環流路41が接続されている。循環流路41には、気液分離器36の水素ガスを水素供給管32に圧送する水素ポンプ42が設けられている。
【0014】
インジェクタ35と燃料電池スタック20との間の水素供給管32、すなわちインジェクタ35よりも下流側の水素供給管32には、インジェクタ35から噴射された水素圧力を測定するための圧力センサ39が設けられている。なお、圧力センサ39は圧力測定部を構成している。
【0015】
燃料電池システム1の制御部50が、インジェクタ35及び圧力センサ39に接続されている。制御部50はインジェクタ35の第1インジェクタ35a、第2インジェクタ35b及び第3インジェクタ35cの開弁及び閉弁を制御し、また圧力センサ39の測定値を読み取る。
【0016】
次に、本実施の形態1の燃料電池システム1のインジェクタ閉故障検知動作を説明する。燃料電池システム1の運転時には、
図1に示す制御部50によりメインバルブ33、減圧バルブ34及び排気排水バルブ37が開弁される。次に、燃料電池スタック20を通常駆動させるため、制御部50が第1インジェクタ35a、第2インジェクタ35b、第3インジェクタ35cの順に燃料である水素ガスを噴射するように制御して、燃料電池スタック20に水素ガスを供給する噴射制御を行う。
【0017】
図2は、噴射制御における第1インジェクタ35a~第3インジェクタ35cの動作を示すタイムチャートである。噴射制御における第1インジェクタ35a~第3インジェクタ35cの動作について
図2を参照してより詳細に説明すると、燃料電池システム1(
図1参照)の運転開始時には第1インジェクタ35a~第3インジェクタ35cは
図2の符号Cで示すように閉弁状態である。このときの、圧力センサ39により測定されるインジェクタ35の下流側の水素供給管32内の測定圧力Pは、初期値である下限圧力値Lである。この下限圧力値Lは、制御部50による噴射制御における所定の第1圧力値である。
【0018】
次に、制御部50により
図2の符号Oで示すように第1インジェクタ35aが開弁するように指令され、その後水素ガスの噴射を開始する。噴射開始後には、圧力センサ39により測定される水素供給管32内の測定圧力Pが上昇する。測定圧力Pが、水素供給管32の圧力の目標値である目標圧力値Hまで上昇したことを制御部50が検知すると、制御部50により第1インジェクタ35aが閉弁するように指令され、第1インジェクタ35aからの水素ガスの噴射が停止する。また、第1インジェクタ35aが水素ガスを噴射しているときに、制御部50は第1インジェクタ35aの開弁から閉弁までの開時間T1を測定する。なお、この目標圧力値Hは燃料電池スタック20の通常駆動に必要な圧力であり、制御部50による噴射制御における所定の第2圧力値である。
【0019】
次に、時間経過により水素供給管32内の測定圧力Pが下限圧力値Lまで低下したことを制御部50が検知すると、制御部50により第2インジェクタ35bが符号Oで示すように開弁するように指令され、その後水素ガスの噴射を開始する。噴射開始後には、圧力センサ39により測定される水素供給管32内の測定圧力Pが上昇する。測定圧力Pが、水素供給管32の圧力の目標値である目標圧力値Hまで上昇したことを制御部50が検知すると、制御部50により第2インジェクタ35bが閉弁するように指令され、第2インジェクタ35bからの水素ガスの噴射が停止する。また、第2インジェクタ35bが水素ガスを噴射しているときに、制御部50は第2インジェクタ35bの開弁から閉弁までの開時間T2を測定する。
【0020】
次に、時間経過により水素供給管32内の測定圧力Pが下限圧力値Lまで低下したことを制御部50が検知すると、制御部50により第3インジェクタ35cが符号Oで示すように開弁するように指令され、その後水素ガスの噴射を開始する。噴射開始後には、圧力センサ39により測定される水素供給管32内の測定圧力Pが上昇する。測定圧力Pが、水素供給管32の圧力の目標値である目標圧力値Hまで上昇したことを制御部50が検知すると、制御部50により第3インジェクタ35cが閉弁するように指令され、第3インジェクタ35cからの水素ガスの噴射が停止する。また、第3インジェクタ35cが水素ガスを噴射しているときに、制御部50は第3インジェクタ35cの開弁から閉弁までの開時間T3を測定する。
【0021】
図3は、本実施の形態1の燃料電池システム1のインジェクタ閉故障検知動作を示すフローチャートである。インジェクタ閉故障検知動作のステップS1においては、
図2に示すように第1インジェクタ35a~第3インジェクタ35cが水素ガスを順次噴射して燃料電池スタック20(
図1参照)に水素ガスを供給する噴射制御が制御部50により行われている。このときに、制御部50は第1インジェクタ35aの開時間T1、第2インジェクタ35bの開時間T2、第3インジェクタ35cの開時間T3を測定する。
【0022】
次に、ステップS2において、制御部50は第1インジェクタ35aの開時間T1、第2インジェクタ35bの開時間T2及び第3インジェクタ35cの開時間T3の平均値である平均開時間Taveを算出する。
【0023】
次に、ステップS3及びステップS4において、制御部50は1番目のインジェクタである第1インジェクタ35aの開時間T1と平均開時間Taveとの差が、予め決められた閾値時間差Tth未満であるかを判定する。このとき、もし第1インジェクタ35aに閉故障が発生している場合には、水素ガス噴射量が低下するため、測定圧力Pが初期値である下限圧力値Lから目標値である目標圧力値Hまで昇圧する時間までの時間が正常なインジェクタよりも長い。
【0024】
ステップS4において、第1インジェクタ35aの開時間T1が閾値時間差Tth未満である場合には、第1インジェクタ35aに関しては測定圧力Pが初期値である下限圧力値Lから目標値である目標圧力値Hまで昇圧する時間が十分に短いため、制御部50はステップS5において第1インジェクタ35aを正常なインジェクタであると判定する。
【0025】
一方、ステップS4において、第1インジェクタ35aの開時間T1が閾値時間差Tth以上である場合には、第1インジェクタは水素ガス噴射量が低下している閉故障の状態にあるため、制御部50はステップS6において第1インジェクタ35aを閉故障が発生しているインジェクタであると判定する。
【0026】
次に、制御部50はステップS7及びステップS8において閉故障の検知対象を2番目の第2インジェクタ35bとし、ステップS4において第2インジェクタ35bの開時間T2と平均開時間Taveとの差が、予め決められた閾値時間差Tth未満であるかを判定する。第2インジェクタ35bの開時間T2が閾値時間差Tth未満である場合には、制御部50はステップS5において第2インジェクタ35bを正常なインジェクタであると判定する。一方、ステップS4において、第2インジェクタ35bの開時間T2が閾値時間差Tth以上である場合には、制御部50はステップS6において第2インジェクタ35bを閉故障が発生しているインジェクタであると判定する。
【0027】
次に、制御部50はステップS7及びステップS8において閉故障の検知対象を3番目の第3インジェクタ35cとし、ステップS4において第3インジェクタ35cの開時間T3と平均開時間Taveとの差が、予め決められた閾値時間差Tth未満であるかを判定する。第3インジェクタ35cの開時間T3が閾値時間差Tth未満である場合には、制御部50はステップS5において第3インジェクタ35cを正常なインジェクタであると判定する。一方、ステップS4において、第3インジェクタ35bの開時間T3が閾値時間差Tth以上である場合には、制御部50はステップS6において第3インジェクタ35cを閉故障が発生しているインジェクタであると判定する。次に、制御部50はステップS7及びステップS8において第3インジェクタ35cの閉故障検知が完了したと判定し、インジェクタ閉故障検知動作を終了する。なお 、各インジェクタに閉故障が発生している場合は、インジェクタ閉故障検知動作を終了した後に、燃料電池システム1の図示しない操作パネルに設けられたディスプレイや、スピーカー等で、故障が発生している旨の通知を行なってもよい。
【0028】
本実施の形態1において、
図2に示す第1~第3インジェクタ35a~35cの燃料噴射制御は、燃料電池システム1(
図1参照)の燃料電池スタック20を通常駆動させるときの燃料噴射制御である。そのため、従来の燃料電池システムのように、インジェクタの閉故障を検知する目的で水素供給管32内の目標圧力を通常の駆動時よりも高圧にする必要がない。これにより、本実施の形態1の燃料電池システム1のインジェクタ閉故障検知動作では燃料である水素の消費量を低減し燃費を向上させることができるとともに、第1~第3インジェクタ35a~35cの部品の摩耗を抑制することができる。
【0029】
また、本実施の形態1においては、水素供給管32内の目標圧力を通常の駆動時よりも高圧にする必要がないため、第1~第3インジェクタ35a~35cからの水素噴射後の水素供給管32内の圧力低下に要する時間が低減され、水素噴射後のインジェクタの次の順番のインジェクタから水素が噴射可能になる時間が短縮されて燃料電池スタック20への水素供給効率とインジェクタの閉故障検知動作の効率が向上する。
【0030】
また、本実施の形態1の燃料電池システム1のインジェクタ閉故障検知動作は、燃料電池スタック20の通常駆動中における第1~第3インジェクタ35a~35cの燃料噴射制御によりインジェクタの閉故障検知を行う。このため、本実施の形態1の燃料電池システム1は従来の燃料電池システムのようにインジェクタの閉故障を検知する目的のみでインジェクタから燃料を噴射する工程が不必要であり、閉故障検知に要する時間が低減される。また、本実施の形態1の燃料電池システム1は、燃料電池スタック20の駆動中に常時第1~第3インジェクタ35a~35cの閉故障を監視することが可能である。
【0031】
また、本実施の形態1の燃料電池システム1のインジェクタ閉故障検知動作においては、第1~第3インジェクタ35a~35cから水素を順次噴射して第1~第3インジェクタ35a~35cの開時間T1~T3と平均開時間Taveとの差に基づいて閉故障検知を行う。このため、本実施の形態1の燃料電池システム1は、閉故障検知時の第1~第3インジェクタ35a~35cの温度及び第1~第3インジェクタ35a~35cの上流と下流との圧力差(差圧)が略同じ条件で閉故障検知を行うことができる。これにより、閉故障検知時に各第1~第3インジェクタ35a~35cの温度及び差圧等の差異による外乱の影響がほとんど除外され、精度良く第1~第3インジェクタ35a~35cの閉故障検知を実施することが可能である。
【0032】
このように、本実施の形態1に係る燃料電池システム1は、燃料電池スタック20と、並列に3個設けられ、燃料電池スタック20に燃料ガスを供給する第1~第3インジェクタ35a~35cと、制御部50と、第1~第3インジェクタ35a~35cが設けられた水素供給管32内の圧力を測定する圧力センサ39とを有する。制御部50は、圧力センサ39が測定した水素供給管32内の圧力が、下限圧力値Lに到達した後に第1~第3インジェクタ35a~35cを開弁し、水素供給管32内の圧力が目標圧力値Hに到達した後に第1~第3インジェクタ35a~35cを閉弁する噴射制御を第1~第3インジェクタ35a~35cに対して順次行う。さらに制御部50は、第1~第3インジェクタ35a~35cの開弁から閉弁までの開時間T1~T3を計測し、第1~第3インジェクタ35a~35cの平均開時間Taveを計算し、第1~第3インジェクタ35a~35cの開時間T1~T3と平均開時間Taveとの差が閾値時間差Tth以上である場合に該当する第1~第3インジェクタ35a~35cの閉故障を検知する。このため、燃料消費を抑制しつつインジェクタの閉故障を検知することができる。
【0033】
なお、本実施の形態1の燃料電池システム1には、第1~第3インジェクタ35a~35cの合計3個のインジェクタが設けられていたが、少なくとも3個のインジェクタが設けられていればこれ以上の任意の数のインジェクタが並列に設けられてもよい。
【0034】
実施の形態2.
次に、本発明の実施の形態2の燃料電池システムについて説明する。なお、以下の実施の形態において、実施の形態1の
図1~
図3の参照符号と同一の符号は、同一又は同様な構成要素であるのでその詳細な説明は省略する。本実施の形態2の燃料電池システムは、実施の形態に対してインジェクタの開時間を用いた閉故障判定に所定のタイムアウト時間を導入したものである。
図4は、本実施の形態2の燃料電池システム1のインジェクタ閉故障検知動作を示すフローチャートである。ステップS1において、制御部50は第1~第3インジェクタ35a~35cの開時間T1~T3を測定する。
【0035】
次に、ステップS9において、制御部50は開時間T1が予め決められたタイムアウト時間Tout未満か否かを判定する。同様に、制御部50は開時間T2が予め決められたタイムアウト時間Tout未満か否かと、開時間T3が予め決められたタイムアウト時間Tout未満か否かを判定する。
【0036】
開時間T1~T3の全てがタイムアウト時間Tout未満である場合には、制御部50は実施の形態1と同様にステップS2において開時間T1~T3の平均開時間Taveを算出し、その後は実施の形態1と同様にステップS3~S8の動作を実施する。
【0037】
また、ステップS9において開時間T1~T3のうち少なくとも1つがタイムアウト時間Tout以上である場合には、この条件に該当するインジェクタは、開弁はされていても水素ガス噴射量が極端に低下しているか又は開弁不能な閉故障の状態であると考えられる。そのため、ステップS10において制御部50は、第1~第3インジェクタ35a~35のうち該当するインジェクタを閉故障により使用できないインジェクタであると判定して、その後は該当するインジェクタの使用を中止する制御を行い、インジェクタ閉故障検知動作を終了する。その他の構成は実施の形態1と同じである。
【0038】
このように、本実施の形態2に係る燃料電池システム1の制御部50は、第1~第3インジェクタ35a~35cの開時間T1~T3が所定のタイムアウト時間Tout以上である場合に、該インジェクタをその後閉弁した状態で維持する。このため、水素ガス噴射量が極端に低下しているか又は開弁不能な閉故障の状態であるインジェクタが存在する場合に、燃料電池システム1の動作を停止させることができる。
【0039】
なお、本実施の形態2の燃料電池システム1は、第1~第3インジェクタ35a~35cのうち1個又は2個のインジェクタの水素ガス噴射量が極端に低下しているか又は開弁不能な閉故障の状態である場合に、該インジェクタの使用を中止した状態で、残りのインジェクタにより燃料噴射を継続して燃料電池スタック20に水素ガスを供給することができる。
【0040】
また、本実施の形態2のステップS9において第1~第3インジェクタ35a~35cの開時間T1~T3が所定のタイムアウト時間Tout未満である場合であっても、ステップS4において、第1~第3インジェクタ35a~35cの開時間T1~T3と平均開時間Taveとの差が閾値時間差Tth以上である場合には、ステップS6において該当するインジェクタ35の閉故障を検知する。これにより、水素ガス噴射量が極端に低下しているか又は開弁不能な閉故障の状態ではないが、水素ガス噴射量が低下している閉故障の状態のインジェクタ35を、使用を継続しつつ閉故障を検知して、燃料電池システム1の停止時又はメンテナンス時に該当するインジェクタ35を修理又は交換することが可能である。
【0041】
実施の形態3.
次に、本発明の実施の形態3の燃料電池システムについて説明する。本実施の形態3の燃料電池システムは、実施の形態1に対してインジェクタの閉故障判定を各インジェクタの開時間に対する所定の閾値時間により判定するものである。
図5は、本実施の形態3の燃料電池システム1のインジェクタ閉故障検知動作を示すフローチャートである。ステップS1において、制御部50が第1~第3インジェクタ35a~35cの開時間T1~T3を測定する。次に、制御部50はステップS3において判定対象を第1インジェクタ35aとし、ステップS4aにおいて、制御部50は第1インジェクタ35aの開時間T1が、予め決められた閾値時間Tth2未満であるかを判定する。
【0042】
ステップS4aにおいて、第1インジェクタ35aの開時間T1が閾値時間Tth2未満である場合には、第1インジェクタ35aの測定圧力Pが初期値である下限圧力値Lから目標値である目標圧力値Hまで昇圧する時間が十分に短いため、ステップS5において制御部50は第1インジェクタ35aが正常なインジェクタであると判定する。
【0043】
一方、ステップS4aにおいて、第1インジェクタ35aの開時間T1が閾値時間Tth2以上である場合には、第1インジェクタ35aは水素ガス噴射量が低下している閉故障の状態にあるため、ステップS6において制御部50は、第1インジェクタ35aが閉故障が発生しているインジェクタであると判定する。
【0044】
同様に、ステップS4aにおいて制御部50は第2インジェクタ35bの開時間T2が予め決められた閾値時間Tth2未満であるかと、第3インジェクタ35cの開時間T3が予め決められた閾値時間Tth2未満であるかを判定し、この判定結果に応じて制御部50は該当するインジェクタをステップS5において正常なインジェクタであると判定するか、ステップS6において閉故障が発生しているインジェクタであると判定する。その他の構成は実施の形態1と同じである。
【0045】
このように、本実施の形態3に係る燃料電池システム1は、燃料電池スタック20と、燃料電池スタック20に燃料ガスを供給する第1~第3インジェクタ35a~35cと、制御部50と、第1~第3インジェクタ35a~35cが設けられた水素供給管32内の第1~第3インジェクタ35a~35cよりも下流側の圧力を測定する圧力センサ39と
を有する。制御部50は、圧力センサ39が測定した水素供給管32内の圧力が、下限圧力値Lに到達した後に第1~第3インジェクタ35a~35cを開弁し、水素供給管32内の圧力が目標圧力値Hに到達した後に第1~第3インジェクタ35a~35cを閉弁する噴射制御を行い、第1~第3インジェクタ35a~35cの開弁から閉弁までの開時間T1~T3を計測し、開時間T1~T3が閾値時間Tth2以上である場合に第1~第3インジェクタ35a~35cの閉故障を検知する。このため、第1~第3インジェクタ35a~35cの開時間T1~T3の平均開時間Taveを算出することなく、第1~第3インジェクタ35a~35cの閉故障検知を実施することが可能である。
【0046】
また、本実施の形態3に係る燃料電池システム1は、第1~第3インジェクタ35a~35cが並列に複数設けられ、制御部50は、第1~第3インジェクタ35a~35cに対して順次噴射制御を行うため、例えば本実施の形態3では第1~第3インジェクタ35a~35cの合計3個設けられているように、複数設けられているインジェクタについて開故障検知を個々に実施することが可能である。
【0047】
なお、本実施の形態3では、燃料電池システム1のインジェクタ35は第1~第3インジェクタ35a~35cのインジェクタを含んでいたが、少なくとも1個のインジェクタが含まれていればよい。
【0048】
また、本実施の形態3の燃料電池システム1に、実施の形態2の第1~第3インジェクタ35a~35cの開時間T1~T3が所定のタイムアウト時間Tout以上である場合に、該インジェクタをその後閉弁した状態で維持する制御を導入してもよい。
【0049】
実施の形態4.
次に、本発明の実施の形態4の燃料電池システムについて説明する。本実施の形態4の燃料電池システムは、実施の形態1に対してインジェクタの閉故障判定を、各インジェクタが同じ開時間燃料を噴射したときの圧力上昇値により行うものである。
図6は、第1インジェクタ35a~第3インジェクタ35cの燃料噴射動作を示すタイムチャートである。第1インジェクタ35a~第3インジェクタ35cの動作について
図6を参照してより詳細に説明すると、燃料電池システム1(
図1参照)の運転開始時には第1インジェクタ35a~第3インジェクタ35cは
図2の符号Cで示すように閉弁状態である。このときの、圧力センサ39により測定される水素供給管32内の測定圧力Pは、初期値である下限圧力値Lである。
【0050】
次に、制御部50により第1インジェクタ35aが
図2の符号Oで示すように開弁する開弁するように指令され、水素ガスの噴射を開始する。噴射開始後には、圧力センサ39により測定される水素供給管32内の測定圧力Pが上昇する。開時間Taの経過後、制御部50により第1インジェクタ35aが閉弁するように指令され、水素ガスの噴射が停止する。制御部50は、このときの測定圧力Pの値である測定圧力P1を記録する。
【0051】
次に、時間経過により測定圧力Pが下限圧力値Lまで低下したときに、制御部50より第2インジェクタ35bが符号Oで示すように開弁するように指令され、水素ガスの噴射を開始する。噴射開始後には、圧力センサ39により測定される水素供給管32内の測定圧力Pが上昇する。開時間Taの経過後、制御部50により第2インジェクタ35bが閉弁するように指令され、水素ガスの噴射が停止する。制御部50は、このときの測定圧力Pの値である測定圧力P2を記録する。
【0052】
次に、時間経過により測定圧力Pが下限圧力値Lまで低下したときに、制御部50より第3インジェクタ35cが符号Oで示すように開弁するように指令され、水素ガスの噴射を開始する。噴射開始後には、圧力センサ39により測定される水素供給管32内の測定圧力Pが上昇する。開時間Taの経過後、制御部50により第3インジェクタ35cが閉弁するように指令され、水素ガスの噴射が停止する。制御部50は、このときの測定圧力Pの値である測定圧力P3を記録する。
【0053】
図7は、本実施の形態4の燃料電池システム1のインジェクタ閉故障検知動作を示すフローチャートである。上記の通り第1インジェクタ35a~第3インジェクタ35cが水素ガスを順次噴射して燃料電池スタック20(
図1参照)に供給しているときに、ステップS1bにおいて制御部50は第1インジェクタ35a噴射時の測定圧力P1、第2インジェクタ35bの噴射時の測定圧力P2及び第3インジェクタ35cの噴射時の測定圧力P3を測定する。
【0054】
次に、ステップS2bにおいて、制御部50は第1インジェクタ35aの測定圧力P1、第2インジェクタ35bの測定圧力P2及び第3インジェクタ35cの測定圧力P3の平均測定圧力Paveを算出する。
【0055】
次に、ステップS3及びステップS4bにおいて、制御部50は第1インジェクタ35aの測定圧力P1と平均測定圧力Paveとの差が、予め決められた閾値圧力Pth未満であるかを判定する。
【0056】
このとき、第1インジェクタ35aに閉故障が発生している場合には、水素ガス噴射量が低下するため、同じ開時間Taにおける測定圧力Pが正常なインジェクタよりも小さくなる。
【0057】
ステップS4bにおいて、第1インジェクタ35aの開時間Taにおける測定圧力P1と平均測定圧力Paveとの差が閾値圧力Pth未満である場合には、第1インジェクタ35aは開時間Taにおいて測定圧力Pが十分に昇圧しているため、制御部50はステップS4bにおいて第1インジェクタ35aが正常なインジェクタであると判定する。
【0058】
一方、ステップS4bにおいて、第1インジェクタ35aの開時間Taにおける測定圧力P1と平均測定圧力Paveとの差が閾値圧力Pth以上である場合には、第1インジェクタ35aは水素ガス噴射量が低下している閉故障の状態にあるため、制御部50はステップS6bにおいて、第1インジェクタ35aを閉故障が発生しているインジェクタであると判定する。
【0059】
同様に、ステップS4bにおいて制御部50は、第2インジェクタ35bの測定圧力P2と平均測定圧力Paveとの差が予め決められた閾値圧力Pth未満であるかと、第3インジェクタ35cの測定圧力P3と平均測定圧力Paveとの差が予め決められた閾値圧力Pth未満であるかを判定し、この判定結果に応じて制御部50は該当するインジェクタをステップS5bにおいて正常なインジェクタであると判定するか、ステップS6bにおいて閉故障が発生しているインジェクタであると判定する。その他の構成は実施の形態1と同じである。
【0060】
このように、本実施の形態4に係る燃料電池システム1は、第1~第3インジェクタ35a~35cの開時間を一定の開時間Taとして、第1~第3インジェクタ35a~35cの測定圧力P1~P3と平均測定圧力Paveを得ることにより、第1~第3インジェクタ35a~35cの閉故障検知を実施することが可能である。
【0061】
なお、本発明の実施の形態1の閾値時間差Tth、本発明の実施の形態2のタイムアウト時間Tout、本発明の実施の形態3の閾値時間Tth2、本発明の実施の形態4の開時間Ta及び閾値圧力Pthは、それぞれ燃料電池システム1の設計、実験及び第1~第3インジェクタ35a~35cの基準流量等により予め決められた任意の値である。
【符号の説明】
【0062】
20 燃料電池スタック、32 水素供給管(燃料供給流路)、35 インジェクタ、35a 第1インジェクタ、35b 第2インジェクタ、35c 第3インジェクタ、39 圧力センサ(圧力測定部)、50 制御部、H 目標圧力値(第2圧力値)、L 下限圧力値(第1圧力値)、P 測定圧力、T1,T2,T3 開時間、Tave 平均開時間、Tout タイムアウト時間、Tth 閾値時間差、Tth2 閾値時間