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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】固形充填物の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   B65B 3/12 20060101AFI20240605BHJP
   B65B 3/18 20060101ALI20240605BHJP
   A45D 40/16 20060101ALI20240605BHJP
【FI】
B65B3/12
B65B3/18
A45D40/16 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021158801
(22)【出願日】2021-09-29
(65)【公開番号】P2023049198
(43)【公開日】2023-04-10
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山脇 健司
【審査官】西塚 祐斗
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3172714(JP,U)
【文献】特開2010-047576(JP,A)
【文献】特開2007-063170(JP,A)
【文献】特開昭56-128107(JP,A)
【文献】特開平03-193715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65B 3/12
B65B 3/18
A45D 40/16
A45D 33/00
A61K 8/00 - 8/99
A61Q 1/00 - 90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上側開口部を有する容器に固形充填物の原料及び溶媒を含むスラリーを充填する充填工程と、
前記上側開口部を押圧補助具で被覆した状態で、前記容器の内容物を該押圧補助具ごと押圧具で押圧し、該押圧補助具に該内容物を付着させる押圧工程とを有する、固形充填物の製造方法であって、
前記押圧工程の後、前記押圧具による押圧を解除し、前記容器を固定した状態で、前記内容物に付着した状態の前記押圧補助具を前記上側開口部と平行に移動させる工程を有し、
前記押圧補助具を前記上側開口部と平行に移動させる際の該押圧補助具と該上側開口部の外側周辺部との離間距離は、前記容器の高さ未満である、固形充填物の製造方法。
【請求項2】
前記押圧工程は、前記充填工程と並行して又は該充填工程の後に実施される第1押圧工程と、該第1押圧工程の後に実施される第2押圧工程とを有し、
前記第1及び第2押圧工程では、前記押圧具による押圧と並行して、該押圧具が備える吸引機構により、前記容器の内容物から前記上側開口部を介して該内容物中の溶媒を吸引除去し、
少なくとも前記第1押圧工程の後に、前記押圧補助具を前記上側開口部と平行に移動させる、請求項1に記載の固形充填物の製造方法。
【請求項3】
前記押圧補助具は、通液性を有するシートである、請求項1又は2に記載の固形充填物の製造方法。
【請求項4】
前記押圧補助具は巻き取り可能なシートであり、該押圧補助具を巻き取ることで、該押圧補助具を前記上側開口部と平行に移動させる、請求項1~3の何れか1項に記載の固形充填物の製造方法。
【請求項5】
記離間距離は、0.1mm以上である、請求項1~4の何れか1項に記載の固形充填物の製造方法。
【請求項6】
前記押圧補助具を前記上側開口部と平行に移動させる際の移動量は、前記上側開口部における該押圧補助具の移動方向の最大長さの1/3倍以上である、請求項1~5の何れか1項に記載の固形充填物の製造方法。
【請求項7】
前記スラリーは、充填基材100質量部に対して溶媒を30質量部以上含有する、請求項1~6の何れか1項に記載の固形充填物の製造方法。
【請求項8】
前記溶媒が水である、請求項1~7の何れか1項に記載の固形充填物の製造方法。
【請求項9】
固形充填物の原料及び溶媒を含むスラリーを用いて固形充填物を製造する、固形充填物の製造装置であって、
上側開口部を有する容器に前記スラリーを充填するノズルと、
前記容器の内容物を前記上側開口部側から押圧する押圧具と、
前記容器の内容物から溶媒を除去する溶媒除去手段と、
前記押圧具による押圧時に、該押圧具と前記容器の内容物との間に配置される押圧補助具と、
前記押圧補助具を移動させる移動手段と、
前記製造装置の各部の動作を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、
前記容器に前記スラリーを充填する充填制御部と、
前記上側開口部を前記押圧補助具で被覆した状態で、前記容器の内容物を該押圧補助具ごと前記押圧具で押圧し、該押圧補助具に該内容物を付着させる押圧制御部と、
前記容器の内容物から溶媒を除去する溶媒除去制御部と、
前記押圧具による押圧を解除し、前記容器を固定した状態で、前記移動手段により、前記内容物に付着した状態の前記押圧補助具を前記上側開口部と平行に移動させる押圧補助具制御部とを備え
前記押圧補助具を前記上側開口部と平行に移動させる際の該押圧補助具と該上側開口部の外側周辺部との離間距離を、前記容器の高さ未満とする、固形充填物の製造装置。
【請求項10】
前記移動手段は、前記押圧補助具の巻取装置を含み、
前記押圧補助具制御部は、前記巻取装置により前記押圧補助具を巻き取ることで、該押圧補助具を前記上側開口部と平行に移動させる、請求項9に記載の固形充填物の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式法による固形充填物の製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
固形充填物の一種である固形化粧料の製造方法は、乾式法と湿式法とに大別される。乾式法は、例えば、化粧料成分である粉体と油剤とを混合し、その混合物を圧縮成型して固形化粧料を得る方法である。湿式法は、例えば、粉体及び油剤を含む化粧料基材(充填基材)に水やアルコールなどの揮発性溶媒を加えてスラリーとし、容器に充填した後、該溶媒を除去して固形化粧料を得る方法である。湿式法により得られる固形化粧料は、スラリー状態を経ることで、粉体と油剤との均一分散が進み、細やかな粉質と、しっとりとした使用感とを有するため汎用される製造法の一つとなっている。
【0003】
特許文献1には、湿式法の製造技術として、上側開口部を有する受皿4の底部側から、粉末化粧料を溶剤により粘性状にした化粧料7を射出ノズルにより圧入充填した後、化粧料7の上側開口部からの露出部を網布15で被覆した状態で、該露出部を網布15ごと吸収体8で押圧し、化粧料7に含まれる溶剤を吸収体8の毛細管現象によって吸引除去して化粧料7を固化する方法が記載されている。そして湿式法では、このように露出部を前記のような網布等の押圧補助具で被覆した状態で、その上から溶剤を吸引除去するという方法を採用することが主流となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭56-128107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、固形化粧料について、溶媒を用いた湿式法の検討を行ったところ、スラリー充填終了後に固化した化粧料と紙、布、又はフィルムなどの押圧補助具とが付着する場合があることを見出した。押圧補助具が固化した化粧料に付着してしまうと、安定生産を行うことができなくなってしまうため、解決することが望まれる。
そこで本発明は、湿式法において押圧補助具を用いた場合でも、固形化粧料等の固形充填物を安定的に製造し得る技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上側開口部を有する容器に固形充填物の原料及び溶媒を含むスラリーを充填する充填工程と、前記上側開口部を押圧補助具で被覆した状態で、前記容器の内容物を該押圧補助具ごと押圧具で押圧する押圧工程とを有する、固形充填物の製造方法である。
本発明の固形充填物の製造方法の一実施形態は、前記押圧工程の後、前記押圧具による押圧を解除し、前記容器を固定した状態で、前記押圧補助具を該上側開口部と平行に移動させる工程を有する。
【0007】
また本発明は、固形充填物の原料及び溶媒を含むスラリーを用いて固形充填物を製造する、固形充填物の製造装置であって、上側開口部を有する容器に前記スラリーを充填するノズルと、前記容器の内容物を前記上側開口部側から押圧する押圧具と、前記容器の内容物から溶媒を除去する溶媒除去手段と、前記押圧具による押圧時に、該押圧具と前記容器の内容物との間に配置される押圧補助具と、前記押圧補助具を移動させる移動手段と、前記製造装置の各部の動作を制御する制御手段とを備える、固形充填物の製造装置である。
本発明の固形充填物の製造装置の一実施形態では、前記制御手段は、前記容器に前記スラリーを充填する充填制御部と、前記上側開口部を前記押圧補助具で被覆した状態で、前記容器の内容物を該押圧補助具ごと前記押圧具で押圧する押圧制御部と、前記容器の内容物から溶媒を除去する溶媒除去制御部と、前記押圧具による押圧を解除し、前記容器を固定した状態で、前記移動手段により、前記押圧補助具を前記上側開口部と平行に移動させる押圧補助具制御部とを備える。
本発明の他の特徴、効果及び実施形態は、以下に説明される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、湿式法において押圧補助具を用いた場合でも、固形充填物を安定的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1(a)~図1(d)は、それぞれ、従来の湿式法による固形化粧料(固形充填物)の製造方法の一例における工程の一部の模式図である。
図2図2は、本発明が解決しようとする課題が発生した状態の模式図(図1(d)相当図)である。
図3図3は、本発明の固形充填物の製造装置の一実施形態である固形化粧料の製造装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の製造目的物である固形充填物は、充填基材と溶媒とを含有するスラリーを用い、該スラリーの固化工程を経て製造されるもので、常温常圧で固体である。固形充填物は斯かる条件を満たすことを前提として、化粧料、食品、薬剤等であり得る。
以下、本発明の固形充填物の製造方法について、その一実施態様である固形化粧料の製造方法を例にとって説明する。以下の固形化粧料の製造方法についての説明は、特に断らない限り、固形化粧料以外の他の固形充填物の製造方法に適宜適用される。
【0011】
本発明は、固形化粧料の原料及び溶媒を含むスラリー(以下、単に「化粧料スラリー」ともいう)を用いて固形化粧料を製造する、湿式法に対応した固形化粧料の製造技術に関するものである。ここで言う「化粧料スラリー」は、典型的には、粉体及び油剤を含む化粧料基材(充填基材)と、該化粧料基材の分散媒である水、有機溶剤等の溶媒とを含有し、常温常圧で流動性を有する。
【0012】
湿式法においては従来、スラリー中で化粧料基材(原料)である粉体及び油剤を均一に分散させる観点、溶媒除去を容易にする観点等から、化粧料基材を分散させる溶媒として、揮発性炭化水素や低沸点アルコール等が汎用されており、また、近年においては環境意識の高まりもあって水を使用したものも提案されている。
【0013】
本発明者らは、溶媒を用いた湿式法について検討を行ったところ、以下に説明するように、課題が生じる場合があることが判明した。
【0014】
図1には、従来の湿式法による固形化粧料の製造工程の一部が示されている。図1に示す製造工程の実施に使用する製造装置は、特許文献1に記載の製造装置と基本構成が同じであり、固形化粧料の中間物M(化粧料スラリー又は該スラリーの固化物)が収容され、上側開口部1aを有する容器1と、上面に容器1の載置用凹部20を有する受け治具2と、凹部20の上方に配置され、金属、プラスチック等の剛体からなる押圧具3と、受け治具2と押圧具3との間に配置された押圧補助具4とを備える。凹部20の底部には、凹部20に載置された容器1の内部にスラリー状中間物Mを射出するノズル5が配置されている。押圧補助具4は、一方向に長い帯状の連続シートであり、ロール状に巻回された原反40から巻き出され、ガイドロール41に案内されて受け治具2と押圧具3との間を移動し、巻取装置42によって巻き取られるようになされている。押圧具3及び押圧補助具4は、それぞれ、上下動可能に配置されており、受け治具2に対して接離自在になされている。
【0015】
図1に示す製造装置を用いた固形化粧料の製造工程においては、図1(a)に示すように、受け治具2の凹部20に容器1が載置され、且つ容器1の上方の所定の待機位置に押圧具3及び押圧補助具4が待機している状態から、押圧具3及び押圧補助具4を下降させ、図1(b)に示すように、受け治具2の上面2aに押圧補助具4が密着し且つ容器1の上側開口部1aが押圧補助具4で閉塞された状態とする。この状態でノズル5からスラリー状中間物Mを射出して容器1の内部に充填する。押圧具3は、スラリー状中間物Mの溶媒除去手段として吸引機構を備えており、斯かるスラリー状中間物Mの充填中又は充填完了後に、図1(c)に示すように該吸引機構を作動させ、上側開口部1aから押圧補助具4を介して該中間物Mの溶媒を吸引除去し、固形中間物Mを得る(湿式成型工程)。その後、押圧具3及び押圧補助具4を所定の待機位置に移動させ、図1(d)に示すように、凹部20に固形中間物M入りの容器1が載置された状態とし、該容器1を次工程、例えば、固形中間物Mを更に押圧して成型する工程(追加の湿式成型工程)に搬送する。
【0016】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、スラリー状中間物Mから溶媒を除去する際に、前記湿式成型工程の終了後に図1(c)に示すように、押圧補助具4と固形中間物Mとが密着した状態から、押圧具3及び押圧補助具4を上昇させる等して受け治具2から離間させると、図1(d)に示す状態とはならずに、図2に示すように、固形中間物Mが容器1ごと押圧補助具4に付着し、押圧補助具4とともに移動する現象が発生する場合のあることが判明した。たとえ頻度は低くてもこのような現象が発生した場合には、製造ラインを一旦停止して押圧補助具4から固形中間物M及び容器1を剥がして受け治具2の凹部20に載置する作業が必要となるため、生産性が著しく低下することになる。また、化粧料の処方によっては、前記現象が高頻度で生じる場合があることも判明した。
【0017】
前記の「固形中間物の押圧補助具への付着現象」の対策として、押圧補助具4を固形中間物Mの付着性の低い素材で形成し、斯かる現象の発生を防止することが考えられる。しかしながら、固形中間物Mの付着性は固形化粧料の組成によって変化し、固形化粧料の組成は通常、製品の種類に対応して多数種類が用意されているので、押圧補助具4を固形中間物Mの付着性の低い素材で形成するとなると、多数種類の製品に個別に対応する多数種類の押圧補助具4を試行錯誤しながら選定する作業が必要となり、多大な労力を要する上に、固形化粧料の組成によっては前記現象の発生を防止できないこともあり得る。また、本発明者らの知見によれば、固形化粧料に通常配合される油剤が多い場合、前記現象が発生する要因の1つとなっている。そのため、押圧補助具4の素材の選定のみでは前記現象を防止することは困難である。
【0018】
本発明者らは、前述した従来の湿式法による固形化粧料の製造方法において、押圧補助具の移動方法(移動方向、移動タイミング)を工夫することにより、固形化粧料の組成や製造装置の変更を行わずとも、前記の「固形中間物の押圧補助具への付着現象」による不都合(生産性の低下)を回避し得ることを知見した。
【0019】
本発明は前記知見に基づきなされたものである。以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
以下に説明する本発明の固形化粧料の製造装置の実施形態は、図1に示す製造装置の基本構成(固形化粧料の製造に必須の構成)を備えるものであり、図1に示す製造装置に関する前述の説明は、特に断らない限り、該実施形態に適宜適用される。
以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。図面は基本的に模式的なものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なる場合がある。
【0020】
本実施形態の製造装置は、図1に示すように、上面2aに容器1の載置用凹部20を有する受け治具2と、容器1に化粧料スラリー(スラリー状中間物M)を充填するノズル5と、容器1の内容物、具体的には、スラリー状中間物M又はその固化物である固形中間物Mを容器1の上側開口部1a側から押圧する押圧具3と、該押圧時に押圧具3と容器1の内容物との間に配置される押圧補助具4と、押圧補助具4の移動手段として機能する巻取装置42とを備える。なお、容器1及び受け治具2は、本発明の製造装置の必須構成要件ではない。
【0021】
容器1は、皿状の浅底容器であり、底部と該底部の周縁から立設する側壁とを備え、該底部の上方に、該側壁の上端によって画成された上側開口部1aを有する。容器1の形状は、上側開口部1aを有することを条件として特に制限されない。また、容器1の素材も特に制限されず、湿式法による固形化粧料の製造において化粧料容器の素材として従来使用されているものを特に制限なく用いることができ、例えば、プラスチック、金属が挙げられる。
【0022】
本実施形態の製造装置では、スラリー状中間物Mを容器1の底部から充填するバック充填方式が採用されており、これに対応して容器1の底部には、スラリー状中間物Mを充填するためのノズル5が挿入される充填孔1bが穿設されている。ノズル5は、チューブ(図示せず)を介して、スラリー状中間物Mを吐出するポンプ(図示せず)に接続されている。ノズル5を含む、容器1へのスラリー状中間物Mの供給機構は特に制限されず、湿式法による固形化粧料の製造において従来使用されているものを特に制限なく用いることができる。
【0023】
受け治具2は、押圧補助具4との対向面である上面2aに、容器1の載置用凹部20を有する。上面2aは、凹部20を除き、平坦且つ水平である。凹部20の平面視形状は、容器1のそれと同じであり、また、凹部20の平面視における寸法、深さ(上面2aと凹部20の底部との距離)は、容器1の平面視における寸法、高さとほぼ同じである。このような凹部20に容器1を収容することで、容器1を凹部20に一時的に固定することができ、凹部20に収容された容器1内の中間物Mに対して吸引、押圧等の処理を施した場合に容器1が動く不都合が効果的に防止される。
【0024】
なお、本発明の製造装置は、スライド移動可能なテーブル(例えば、周方向に回転可能なターンテーブル)を備え、該テーブルの上面に受け治具2が該テーブルのスライド移動方向に複数間欠配置された構成を有していてもよい。斯かる構成の製造装置においては、テーブルのスライド移動方向に沿って、当該固形化粧料の製造方法を構成する各工程、例えば、後述する第1押圧工程に相当するスラリー状中間物Mの充填・溶媒吸引除去工程(湿式成型工程)、後述する第2押圧工程に相当する固形中間物Mの押圧・溶媒吸引除去工程(追加の湿式成型工程)等を実施するための設備が設置されており、テーブルがスライド移動することで各受け治具2が各工程に供されるようになされている。このような構成の製造装置によれば、固形化粧料を連続的に製造することができる。
【0025】
押圧具3は、容器1の内容物、具体的にはスラリー状中間物Mの溶媒除去手段として、吸引機構を備える。前記吸引機構としては、従来公知のものを特に制限なく用いることができる。本実施形態の製造装置では、押圧具3の押圧面(押圧対象との対向面)に複数の吸引孔31が設けられ、各吸引孔31は、押圧具3の内部空間を介して吸引ポンプ等の吸引源(図示せず)に接続されており、該吸引源を作動させて該内部空間を減圧することで、吸引孔31による吸引が可能となる。容器1の上側開口部1aを押圧補助具4で被覆した状態で、押圧対象である容器1の内容物(スラリー状中間物M)を押圧補助具4ごと吸引可能状態の押圧具3で押圧すると、その押圧によって該内容物から滲み出た溶媒は、押圧補助具4を介して吸引孔31から吸引除去される。
【0026】
押圧具3は、前記押圧面の周囲に配置され、溶媒吸引時に押圧補助具4を受け治具2側に押圧して保持する保持部材32と、保持部材32を支持する弾性部材33とを備える。弾性部材33は、押圧方向に伸縮可能に固定されており、その固定端とは反対側の端に保持部材32が取り付けられている。弾性部材33が自然状態にあるときは、保持部材32は前記押圧面よりも受け治具2から近い位置にあり、押圧具3を受け治具2に向けて移動(下降)させると、該押圧面よりも先に保持部材32が受け治具2の上面2aに接触する。なお、保持部材32は、押圧具3による中間物Mの押圧時に、押圧補助具4を介して、受け治具2の凹部20に載置された容器1の前記側壁と重なるようになされており(図1(c)参照)、すなわち、容器1が中間物Mを介さずに押圧具3によって凹部20の底部側に押圧されるようになされている。これにより、押圧具3による押圧時に容器1を凹部20に確実に固定することができる。
【0027】
押圧補助具4の主たる使用目的は、押圧具3の前記吸引孔31から溶媒を吸引除去する際に、粉体が同時に吸引除去されることの防止、並びに押圧具3の前記押圧面への粉体の付着防止である。また押圧補助具4は、容器1の内容物であるスラリー状中間物Mが固化して固形中間物Mとなる過程で、上側開口部1aを介して中間物Mに接触するので、押圧補助具4の中間物Mとの対向面の表面形状は、製造目的物である固形化粧料の表面に転写されるところ、これを利用して、押圧補助具4を固形化粧料の表面の模様付けに使用する場合もある。
【0028】
本実施形態の製造装置では、押圧補助具4は一方向に長い帯状の連続シートであり、図1に示すように、巻取装置42による巻き取り動作により、ロール状の原反40から連続的に巻き出され、受け治具2と押圧具3との間を凹部20に平行に移動する。巻取装置42は、従来公知の連続シートの巻取装置と同様に構成されており、典型的には、巻き取りロール、該巻き取りロールの駆動源等を含んで構成されている。
【0029】
押圧補助具4の素材としては、押圧補助具4を介しての押圧具3によるスラリー状中間物Mの溶媒の吸引除去を阻害しないことを条件として、通液性を有するシートであれば特に制限されず、例えば、紙、布、フィルムを用いることができる。本発明では、これらの1種を単独で押圧補助具4として用いてもよく、あるいはこれら2種以上を重ね合わせた積層体を押圧補助具4として用いてもよい。
押圧補助具4の厚みは特に制限されないが、強度、溶媒の透過性等の観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、そして、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下である。
【0030】
スラリー状中間物Mの溶媒として水を用いる場合に、押圧補助具4が紙であると、押圧具3による溶媒の吸引時にスラリー状中間物Mから吸引された水を押圧補助具4が吸収し、押圧補助具4の強度が低下するおそれがある。溶媒の透過性、溶媒に対する耐性等を考慮すると、押圧補助具4としては布が好ましく、例えば、織布、不織布を用いることができる。但し、紙であっても耐水性の高いものであれば問題なく使用することができる。押圧補助具4を構成する布の素材は特に制限されないが、中間物Mの溶媒として水を用いた場合であっても耐性を有するものであることを考慮すると、合成樹脂のような疎水性材料を主体とするものが好ましい。なお一般に、布はフィルムに比べて表面平滑性が低いため、押圧補助具4が布を含むものであると、前記の「固形中間物の押圧補助具への付着現象」が顕在化することが懸念される。しかしながら、本発明では後述する押圧補助具4の移動方法の工夫により、斯かる現象が顕在化してもその影響を実質的に受けないようになされているので、スラリー状中間物Mの溶媒として水を用い且つ押圧補助具4が布を含むものであっても、固形化粧料を安定的に製造することが可能である。
【0031】
押圧具3及び押圧補助具4は、それぞれ個別に、受け治具2に対して接離自在に移動可能に配置されており、具体的には、垂直方向の移動機構(図示せず)によって上下方向に移動可能に配置されている。押圧補助具4は、これを水平方向に移動させる移動機構(ガイドロール41、巻取装置42等)とともに、前記垂直方向の移動機構によって、受け治具2に対して接離自在に移動し得る。前記垂直方向の移動機構としては、従来公知の技術を適宜利用することができる。
【0032】
図3には、本発明の製造装置の一実施形態の機能を示すブロック図が示されている。本実施形態の製造装置は、図1に示す製造装置の各部(受け治具2、押圧具3、押圧補助具4、ノズル5等)の動作を制御する制御手段6を備えている。制御手段6は、容器1にスラリー状中間物Mを充填する充填制御部61と、容器1の内容物(スラリー状中間物M、固形中間物M)を押圧具3で押圧する押圧制御部62と、容器1の内容物から溶媒を除去する溶媒除去制御部63と、押圧具3による押圧工程後に押圧補助具4を水平方向に移動(走行)させる押圧補助具制御部64とを備える。
【0033】
充填制御部61は、ノズル5を含むスラリー状中間物Mの供給機構を作動させて、スラリー状中間物Mを容器1に充填する。
押圧制御部62は、押圧具3及び押圧補助具4を受け治具2に対して接離自在に移動させる移動機構を作動させて、容器1の上側開口部1aを押圧補助具4で被覆した状態で、容器1の内容物を押圧補助具4ごと押圧具3で押圧する(図1(c)参照)。
溶媒除去制御部63は、押圧具3が備える前記吸引機構等の溶媒除去手段を作動させて、スラリー状中間物M中の溶媒を吸引除去し、固形中間物Mとする。
【0034】
制御手段6は、典型的には、演算処理部及び記憶部を含んで構成されている。前記演算処理部は、CPU,MPU等のマイクロプロセッサを備える。前記記憶部は、ROM及びRAMを備え、該ROM及び該RAMに、前記演算処理部に所定の処理を行わせるためのプログラム、各種データが格納されている。前記記憶部には、本発明の固形化粧料の製造方法の各工程が予め記憶されており、前記演算処理部は、該記憶部の記憶情報を参照し、各工程を実施するのに必要な製造装置の各部を作動させる。
【0035】
本実施形態の製造装置は、制御手段6の制御下で各部を作動させて本発明の製造方法を実施する。具体的には、充填制御部61、押圧制御部62及び溶媒除去制御部63の制御下で、前述したとおり図1(a)~図1(c)に示す如くに、上側開口部1aを有する容器1にスラリー状中間物Mを充填する「充填工程」と、上側開口部1aを押圧補助具4で被覆した状態で、容器1の内容物を押圧補助具4ごと押圧具3で押圧する「押圧工程」とを実施する。前記充填工程及び前記押圧工程は、基本的に、常法に従って実施することができる。
【0036】
本発明の製造方法の一実施形態では、前記押圧工程は、前記充填工程と並行して又は該充填工程の後に実施される第1押圧工程と、該第1押圧工程の後に実施される第2押圧工程とを有する。
前記第1押圧工程では、押圧具3による押圧と並行して、押圧具3が備える前記吸引機構等の溶媒除去手段により、容器1の内容物から上側開口部1aを介して該内容物中の溶媒を吸引除去する。すなわち前記第1押圧工程では、上側開口部1aを押圧補助具4で被覆した状態で、容器1の内容物(具体的にはスラリー状中間物M)を押圧補助具4ごと押圧具3で押圧しつつ、該内容物から上側開口部1aを介して該内容物中の溶媒を吸引除去し、固形状の中間物Mとする(図1(c)参照)。
そして、前記第2押圧工程でも、前記溶媒の吸引除去を行うことにより、固形状となった中間物Mから更に溶媒を除去して低減させる。すなわち前記第2押圧工程では、上側開口部1aを押圧補助具4で被覆した状態で、容器1の内容物(具体的には固形中間物M)を押圧補助具4ごと押圧具3で押圧しつつ溶媒を除去する。
【0037】
本発明の製造方法は、前記の「固形中間物の押圧補助具への付着現象」(図2参照)による生産性の低下を防止するために、「押圧具3による押圧工程の後、押圧具3による押圧を解除し、容器1を固定した状態で、押圧補助具4を上側開口部1aと平行に移動させる工程」(以下、「押圧補助具スライド工程」とも言う。)を有する点で特徴づけられる。また、本発明の製造装置は、前記押圧補助具スライド工程を実施するための手段として押圧補助具制御部64を備える点で特徴づけられる。
【0038】
前記押圧補助具スライド工程を採用し、図3に示すように、容器1を固定した状態で、押圧補助具4を上側開口部1aと平行に移動(容器1の深さ方向と交差する方向に移動)させることにより、仮に、前記押圧工程の終了時点で押圧補助具4に固形中間物Mが付着していた場合には、押圧補助具4と固形中間物Mとの間にせん断力が生じ、押圧補助具4から固形中間物Mが剥がれて押圧補助具4のみが移動する。したがって、前記押圧補助具スライド工程を実施する本発明によれば、スラリー状中間物Mの処方によるなどして、その乾燥固化物である固形中間物Mが押圧補助具4に付着しやすい製造条件を採用した場合でも、安定して固形化粧料を製造することができる。
【0039】
前述したとおり、本発明の製造方法には、前記押圧工程、すなわち「上側開口部1aを押圧補助具4で被覆した状態で、容器1の内容物を押圧補助具4ごと押圧具3で押圧する工程」が、前記充填工程と並行して又は該充填工程の後に実施される第1押圧工程と、該第1押圧工程の後に実施される第2押圧工程とを有する形態が包含されるところ、斯かる形態では、前記押圧補助具スライド工程は、第1押圧工程及び第2押圧工程のうちの何れか一方の実施後のみに実施してもよく、両方それぞれの実施後に実施してもよい。本発明の所定の効果を一層確実に奏させる観点からは、後者が好ましく、少なくとも、容器1の内容物(スラリー状中間物M)の吸引による溶媒除去を伴い、前記の「固形中間物の押圧補助具への付着現象」が発生しやすい、第1押圧工程の後に、前記押圧補助具スライド工程を実施することが好ましい。
【0040】
本実施形態の製造装置では、図3に示すように、押圧補助具4は巻き取り可能なシート(例えば、紙、布又はフィルムからなるシート)であり、押圧補助具制御部64は、押圧補助具4の水平方向への移動手段としての巻取装置42により押圧補助具4を巻き取ることで、押圧補助具4を上側開口部1aと平行に移動させ、前記押圧補助具スライド工程を実施する。
本発明では、押圧補助具4を上側開口部1aと平行に移動させる方法は、このようなシート状の押圧補助具4を巻き取る方法に限定されず、押圧補助具4の形態等に応じて適切な方法を選択することができるが、斯かる巻き取り方法は、湿式法による固形化粧料の製造方法に従来使用されている装置を利用して実施することができ、しかも効果が高いため、前記押圧補助具スライド工程の実施手段として有用である。
【0041】
また本実施形態では、前記押圧補助具スライド工程において、押圧具3による押圧を解除するために、押圧具3を上昇させているが、本発明では、押圧具3による押圧の解除方法はこれに限定されず、本発明の所定の効果が奏されることを条件として任意の方法を採用することができる。例えば、押圧具3は移動させずに、受け治具2及び押圧補助具4を一体的に下降させて押圧具3から離間させることで、押圧具3による押圧を解除してもよい。
【0042】
前記押圧補助具スライド工程による作用効果を一層確実に奏させるようにする観点から、押圧補助具4を上側開口部1aと平行に移動させる際の押圧補助具4と上側開口部1aの外側周辺部との離間距離L、すなわち平行移動(図示の形態では巻き取り)直前の押圧補助具4と受け治具2の上面2aにおける上側開口部1aの周辺部(具体的には、上側開口部1aから5mm以内の領域)との離間距離L(図示せず)は、容器1の高さh(図1(a)参照)未満であることが好ましい。
なお、前記大小関係「離間距離L<容器高さh」は、容器高さhと凹部20の深さ(上面2aと凹部20の底部との距離)との比率が、前者/後者として0.8~1.2の範囲にある場合に成立することがより好ましい。
離間距離Lは、容器高さhに比べて短いことを前提として、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは1mm以上、そして、好ましくは3.0mm以下、より好ましくは2.0mm以下である。
容器高さhは、離間距離Lに比べて長いことを前提として、好ましくは3.0mm以上、より好ましくは3.5mm以上、そして、好ましくは10mm以下、より好ましくは8mm以下である。
【0043】
前記押圧補助具スライド工程による作用効果を一層確実に奏させるようにするとともに、固形化粧料を連続的に製造する場合に、押圧補助具4における中間物Mと一度接触した部位が、新たに容器1に充填された中間物Mと接触する不都合を抑制する観点から、押圧補助具4を上側開口部1aと平行に移動させる際の移動量は、上側開口部1aにおける押圧補助具4の移動方向の最大長さに対して、好ましくは1/3倍以上、より好ましくは1/2倍以上、更に好ましくは1倍以上である。
一方、前記移動量の上限は、押圧補助具4の使用量を必要最小限に抑制する観点から、上側開口部1aにおける押圧補助具4の移動方向の最大長さに対して、好ましくは10倍以下、より好ましくは5倍以下、更に好ましくは3倍以下である。
前記の「上側開口部1aにおける押圧補助具4の移動方向の最大長さ」は、例えば、上側開口部1aの平面視形状が円形形状である場合は、その円の直径である。
【0044】
前記充填工程におけるスラリー状中間物Mの充填条件、前記押圧工程(第1押圧工程、第2押圧工程)における容器1の内容物(スラリー状中間物M又は固形中間物M)の押圧条件等は、製造する固形化粧料の種類等に応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、例えば以下のように設定することができる。
スラリー状中間物Mの充填時の圧力は、充填性向上と装置負荷軽減とのバランスの観点から、好ましくは0.1MPa以上、より好ましくは0.15MPa以上、更に好ましくは0.2MPa以上、そして、好ましくは1MPa以下、より好ましくは0.8MPa以下、更に好ましくは0.6MPa以下である。
スラリー状中間物Mの充填時の流量は、生産性向上と装置負荷軽減とのバランスの観点から、好ましくは30ml/分以上、より好ましくは60ml/分以上、更に好ましくは90ml/分以上、そして、好ましくは1000ml/分以下、より好ましくは800ml/分以下、更に好ましくは600ml/分以下である。
スラリー状中間物M中の溶媒の押圧具3による吸引圧力は、装置負荷軽減と溶媒除去とのバランスの観点から、好ましくは-90kPa以上、より好ましくは-80kPa以上、更に好ましくは-70kPa以上、そして、好ましくは-5kPa以下、より好ましくは-10kPa以下、更に好ましくは-20kPa以下である。
容器1の内容物の押圧具3による押圧時の圧力は、第1押圧工程と第2押圧工程とで異なる。第1押圧工程においては、押圧具3の位置は固定されており、保持部材32が容器1を押し付け、化粧料スラリーが容器1に充填されることにより、容器1の内容物に前記圧力が生じる。第1押圧工程における保持部材32が容器1の外周部を押圧する応力は、固形化粧料の成型性及び耐衝撃性と固形化粧料の使用感とのバランスの観点から、好ましくは0.005MPa以上、より好ましくは0.01MPa以上、更に好ましくは0.015MPa以上、そして、好ましくは0.2MPa以下、より好ましくは0.15MPa以下、更に好ましくは0.1MPa以下である。また、第2押圧工程における容器1の内容物の押圧具3による押圧時の圧力は、固形化粧料の成型性及び耐衝撃性と固形化粧料の使用感とのバランスの観点から、好ましくは1.0MPa以上、より好ましくは1.25MPa以上、更に好ましくは1.5MPa以上、そして、好ましくは5.0MPa以下、より好ましくは4.5MPa以下、更に好ましくは4.0MPa以下である。
容器1の内容物の押圧具3による押圧時間は、固形化粧料の成型性及び耐衝撃性と生産性向上とのバランスの観点から、好ましくは0.5秒以上、より好ましくは1秒以上、更に好ましくは1.5秒以上、そして、好ましくは20秒以下、より好ましくは15秒以下、更に好ましくは10秒以下である。
【0045】
本発明で扱う「化粧料スラリー」(スラリー状中間物M)について説明すると、該スラリーの組成は特に制限されず、製造する固形化粧料の種類等に応じて適宜調整し得る。本発明が適用可能な固形化粧料は特に制限されず、例えば、ファンデーション、アイシャドウ、チーク、フェイスパウダーが挙げられる。
【0046】
化粧料スラリーは、典型的には、少なくとも化粧料基材(充填基材)と溶媒とを含有し、更に必要に応じ、防腐剤、酸化防止剤、色素、増粘剤、pH調整剤、香料、紫外線吸収剤、保湿剤、血行促進剤、冷感剤、制汗剤、殺菌剤、皮膚賦活剤等を含有する。
前記化粧料基材は、典型的には、体質顔料、着色顔料、光輝性顔料等の粉体と、油剤とを含む。粉体及び油剤としては、固形化粧料に通常使用されているものを特に制限なく用いることができる。
前記溶媒としては、湿式法による固形化粧料の製造で従来使用されているものを特に制限なく用いることができ、従来多用されている揮発性炭化水素、低沸点アルコール等の有機溶剤を用いてもよく、水を用いてもよい。溶媒として水を用いると、押圧具3により溶媒を除去後の化粧料基材中でも付着性の高い油剤が残り易いことから、図2に示す如き「固形中間物の押圧補助具への付着現象」が生じ易いが、本発明によれば、前述した押圧補助具の移動方法の工夫により、斯かる現象が生じてもその影響を実質的に受けないようになされているので、溶媒として水を用いるメリットを享受することが可能である。
【0047】
化粧料スラリーにおける溶媒の含有量は、容器1への充填性の向上等の観点から、該スラリー中の化粧料基材(充填基材)100質量部に対して、好ましくは30質量部以上、より好ましくは40質量部以上である。一方、固形化粧料のスラリーにおける溶媒の含有量の下限は、スラリーからの除去効率等の観点から、該スラリー中の化粧料基材100質量部に対して、好ましくは120質量部以下、より好ましくは100質量部以下である。
【0048】
化粧料スラリーの容器1への充填前の時点での粘度は、特に制限されないが、スラリーの安定性向上と充填性向上とのバランスの観点から、好ましくは100mPa・s以上、より好ましくは500mPa・s以上、更に好ましくは1000mPa・s以上、そして、好ましくは30000mPa・s以下、より好ましくは20000mPa・s以下、更に好ましくは10000mPa・s以下である。
なお、本明細書において「粘度」は、25℃において、東機産業社製のB型粘度計(TVB-10形粘度計)により測定した値を指す。
【0049】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に何ら制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば前記実施形態は、化粧料スラリーを容器1の底部から充填するバック充填方式であったが、本発明は、該スラリーを容器1の上側開口部1a側から充填するフロント方式にも適用できる。
また前記実施形態では、押圧補助具4が上下に移動し、受け治具2に対して接離自在になされていたが、本発明では、押圧補助具4は上下動せず、常時所定の位置、例えば受け治具2の上面2aと接触し得る位置に配置されていてもよい。
【実施例
【0050】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。
【0051】
〔実施例1〕
図3に示す製造装置と同様の構成のバック充填方式の製造装置を用いて、湿式法により固形化粧料を製造した。具体的には図1(a)~図1(c)に示すように、上側開口部1aを有する皿状の容器1を受け治具2の凹部20に載置し、上側開口部1aを押圧補助具4で被覆した状態で、容器1の内部にノズル5によりスラリー状中間物M(固形化粧料のスラリー)を充填する充填工程を実施するとともに、押圧補助具4に密着する押圧具3により、上側開口部1aを介してスラリー状中間物M中の溶媒を吸引除去しつつ、該中間物Mを押圧補助具4ごと凹部20の底部側に押圧する第1押圧工程を実施して、固形中間物M(化粧料スラリーの固化物)を得た。次に、前記第1押圧工程で用いた設備と同様の設備を用いて、更に溶媒の吸引除去を行いつつ、固形中間物Mを容器1ごと厚み方向に押圧する第2押圧工程を実施した。こうして、目的の固形化粧料を製造した。
前記第1押圧工程及び前記第2押圧工程それぞれの終了後に、図3に示すように、押圧具3による押圧を解除し、容器1を凹部20に固定した状態で、巻取装置42を作動させて押圧補助具4を巻き取ることで、押圧補助具4を上側開口部1aと平行に移動させた(押圧補助具スライド工程)。その結果、製造ラインを途中で停止することなく、固形化粧料を安定的に製造することができた。
【0052】
実施例1で使用した化粧料スラリーは、以下の方法により調製した。まず、油剤13.3質量%及び界面活性剤1.6質量%を量り取り、60℃に加熱して均一な油相とした。次に、60℃に加熱した水33.3質量%に防腐剤0.2質量%を添加して水相とし、前記油相に投入し、ホモミキサーにて6,000rpmで5分間混合した。その後、ヘラで撹拌しながら水冷し乳化物を得た。得られた乳化物に、顔料を含む粉体51.6質量%を投入し、ディスパーミキサーにて、5分間混錬することにより化粧料スラリーを調製した。得られた化粧料スラリーの粘度は、25℃において、4130mPa・sであった。
【0053】
実施例1の固形化粧料の製造条件の詳細は下記のとおりである。
・押圧補助具の素材:80質量%レーヨン・20質量%ポリプロピレンポリエチレン不織布(厚み420μm)
・前記離間距離L:1.0mm
・容器高さh(図1(a)参照):4.0mm
・前記押圧補助具スライド工程における押圧補助具の移動量(巻き取り長さ):40mm
・上側開口部における押圧補助具の移動方向の最大長さ:27.7mm
・化粧料スラリーの充填時の圧力:0.4MPa
・化粧料スラリーの充填時の流量:290ml/min
・化粧料スラリー中の溶媒の吸引圧力:-50kPa
・第1押圧工程における容器の内容物の押圧時の圧力:0.01~0.03MPa
・第1押圧工程における容器の内容物の押圧時間:4秒
・第2押圧工程における容器の内容物の押圧時の圧力:2.5MPa
・第2押圧工程における容器の内容物の押圧時間:2秒
【0054】
〔比較例1〕
前記押圧補助具スライド工程を実施しなかった以外は実施例1と同様にして固形化粧料を製造した。しかしながら、前記第1押圧工程及び前記第2押圧工程それぞれの終了後に、所定の待機位置に移動させた押圧補助具4に固形中間物Mが容器1ごと付着する現象(図2参照)が発生し、製造ラインの停止を余儀なくされた。
【符号の説明】
【0055】
1 容器
1a 上側開口部
2 受け治具
20 容器載置用凹部
3 押圧具
31 吸引孔
32 保持部材
33 弾性部材
4 押圧補助具
40 原反
41 ガイドロール
42 巻取装置(押圧補助具の走行手段)
5 ノズル
6 制御手段
61 充填制御部
62 押圧制御部
63 溶媒除去制御部
64 押圧補助具制御部
M 固形化粧料の中間物
図1
図2
図3