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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】固形充填物の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   B65B 3/12 20060101AFI20240605BHJP
   B65B 3/18 20060101ALI20240605BHJP
   A45D 40/16 20060101ALI20240605BHJP
【FI】
B65B3/12
B65B3/18
A45D40/16 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021158805
(22)【出願日】2021-09-29
(65)【公開番号】P2023049201
(43)【公開日】2023-04-10
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山脇 健司
(72)【発明者】
【氏名】木村 匡志
(72)【発明者】
【氏名】福田 茂彦
【審査官】西塚 祐斗
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-047576(JP,A)
【文献】特開2014-141440(JP,A)
【文献】特開昭56-128107(JP,A)
【文献】特開2006-159263(JP,A)
【文献】特開2017-012288(JP,A)
【文献】登録実用新案第3172714(JP,U)
【文献】特開2010-260835(JP,A)
【文献】特開2020-15675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65B 3/12
B65B 3/18
A45D 40/16
A45D 33/00
A61K 8/00 - 8/99
A61Q 1/00 - 90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上側開口部を有する容器に固形充填物の原料及び溶媒を含むスラリーを充填する充填工程と、
前記上側開口部を押圧補助具で被覆した状態で、前記容器の内容物を該押圧補助具ごと押圧具で押圧する押圧工程とを有する、固形充填物の製造方法であって、
前記押圧工程では、前記押圧具による押圧力を0.06MPa以上2.0MPaの範囲で多段階に変化させながら、該押圧具が備える吸引機構により、前記容器の内容物から前記上側開口部を介して該内容物中の溶媒を吸引除去し、その後押圧力を解除する、固形充填物の製造方法。
【請求項2】
前記押圧工程では、前記押圧具による押圧力を少なくとも3段階に変化させ、
最初の押圧力及び最後の押圧力よりも高い押圧力で中間の押圧を行う、請求項1に記載の固形充填物の製造方法。
【請求項3】
最初の押圧力及び最後の押圧力が、前記中間の押圧力の50%以下である、請求項2に記載の固形充填物の製造方法。
【請求項4】
前記押圧補助具に、1.0kgf/m以上kgf/m以下の張力を加えた状態で前記押圧工程を行う、請求項1~3のいずれか1項に記載の固形充填物の製造方法。
【請求項5】
前記押圧補助具は巻き取り可能なシートであり、該押圧補助具を巻き取ることで、該押圧補助具に張力を加える、請求項4に記載の固形充填物の製造方法。
【請求項6】
固形充填物の原料及び溶媒を含むスラリーを用いて固形充填物を製造する、固形充填物の製造装置であって、
上側開口部を有する容器に前記スラリーを充填するノズルと、
前記容器の内容物を前記上側開口部側から押圧する押圧具と、
前記容器の内容物から溶媒を除去する溶媒除去手段と、
前記押圧具による押圧時に、該押圧具と前記容器の内容物との間に配置される押圧補助具と、
前記押圧補助具を走行させる走行手段と、
前記製造装置の各部の動作を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、
前記容器に前記スラリーを充填する充填制御部と、
前記上側開口部を前記押圧補助具で被覆した状態で、前記容器の内容物を該押圧補助具ごと前記押圧具で押圧する押圧制御部と、
前記容器の内容物から溶媒を除去する溶媒除去制御部とを備え、
前記押圧制御部は、前記押圧具による押圧力を0.06MPa以上2.0MPaの範囲で多段階に制御し、且つ、その後押圧力を解除し得るように構成されている、固形充填物の製造装置。
【請求項7】
前記制御手段が、前記押圧補助具に加わる張力を制御し得る押圧補助具制御部を更に備える、請求項6に記載の固形充填物の製造装置。
【請求項8】
前記走行手段は、前記押圧補助具の巻取装置を含み、
前記押圧補助具制御部は、前記巻取装置により前記押圧補助具を巻き取ることで該押圧補助具に発生する張力を制御し得るように構成されている、請求項7に記載の固形充填物の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式法による固形充填物の製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
固形充填物の一種である固形化粧料の製造方法は、乾式法と湿式法とに大別される。乾式法は、例えば、化粧料成分である粉体と油剤とを混合し、その混合物を圧縮成型して固形化粧料を得る方法である。湿式法は、例えば、粉体及び油剤を含む化粧料基材(充填基材)に水やアルコールなどの揮発性溶媒を加えてスラリーとし、容器に充填した後、該溶媒を除去して固形化粧料を得る方法である。湿式法により得られる固形化粧料は、スラリー状態を経ることで、粉体と油剤との均一分散が進み、細やかな粉質と、しっとりとした使用感とを有するため汎用される製造法の一つとなっている。
【0003】
特許文献1には、湿式法の技術として、上側開口部を有する受皿4の底部側から、粉末化粧料を溶剤により粘性状にした化粧料7を射出ノズルにより圧入充填した後、化粧料7の上側開口部からの露出部を網布15で被覆した状態で、該露出部を網布15ごと吸収体8で押圧し、化粧料7に含まれる溶剤を吸収体8の毛細管現象によって吸引除去して化粧料7を固化する方法が記載されている。そして湿式法では、このように露出部を上記のような網布等の製造用補助具で被覆した状態で、その上から溶剤を吸引除去するという方法を採用することが主流となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭56-128107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の技術に従い固形化粧料を製造すると、該固形化粧料における網布15との対向面の表面状態が、該網布15によって劣化する場合がある。
したがって本発明の課題は、良好な外観を有する固形化粧料等の固形充填物を製造し得る方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前述した従来の湿式法による固形充填物の製造方法において、容器内に充填された内容物に加える押圧力を制御することで、外観の良好な固形充填物が得られることを知見した。
【0007】
本発明は前記知見に基づきなされたものであり、上側開口部を有する容器に固形充填物の原料及び溶媒を含むスラリーを充填する充填工程と、
前記上側開口部を押圧補助具で被覆した状態で、前記容器の内容物を該押圧補助具ごと押圧具で押圧する押圧工程とを有する、固形充填物の製造方法に関する。
前記押圧工程では、前記押圧具による押圧力を多段階に変化させながら、該押圧具が備える吸引機構により、前記容器の内容物から前記上側開口部を介して該内容物中の溶媒を吸引除去することが好ましい。
【0008】
また本発明は、固形充填物の原料及び溶媒を含むスラリーを用いて固形充填物を製造する、固形充填物の製造装置に関する。
上側開口部を有する容器に前記スラリーを充填するノズルと、
前記容器の内容物を前記上側開口部側から押圧する押圧具と、
前記容器の内容物から溶媒を除去する溶媒除去手段と、
前記押圧具による押圧時に、該押圧具と前記容器の内容物との間に配置される押圧補助具と、
前記押圧補助具を走行させる走行手段と、
前記製造装置の各部の動作を制御する制御手段とを備えることが好ましい。
前記制御手段は、
前記容器に前記スラリーを充填する充填制御部と、
前記上側開口部を前記押圧補助具で被覆した状態で、前記容器の内容物を該押圧補助具ごと前記押圧具で押圧する押圧制御部と、
前記容器の内容物から溶媒を除去する溶媒除去制御部とを備えることが好ましい。
前記押圧制御部は、前記押圧具による押圧力を多段階に制御し得るように構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、湿式法により製造された固形充填物の外観を良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1(a)~図1(d)は、それぞれ、湿式法による固形化粧料(固形充填物。以下同じ。)の製造方法の一例における工程の一部の模式図である。
図2図2は、本発明の固形化粧料の製造装置の一実施形態の概略構成図である。
図3図3は、従来の固形化粧料の製造方法の一工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の製造目的物である固形充填物は、容器の内部に有している収容空間に充填物が充填された物品である。容器内充填物は、充填基材と溶媒とを含有するスラリーを用い、該スラリーの固化工程を経て製造されるもので、常温常圧で固体である。容器内充填物は斯かる条件を満たすことを前提として、化粧料、食品、薬剤等であり得る。
【0012】
以下、本発明をその好ましい実施形態である固形化粧料の製造方法及び製造装置に基づき図面を参照しながら説明する。以下の固形化粧料の製造方法についての説明は、特に断らない限り、固形化粧料以外の他の固形充填物の製造方法に適宜適用される。なお、以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。図面は基本的に模式的なものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なる場合がある。
【0013】
本発明は、固形化粧料の原料及び溶媒を含むスラリー(以下、単に「化粧料スラリー」ともいう)を用いて固形化粧料を製造する、湿式法に対応した固形化粧料の製造技術に関するものである。本明細書にいう「化粧料スラリー」は、典型的には、粉体及び油剤を含む化粧料基材(充填基材)と、該化粧料基材の分散媒である水や有機溶剤等の溶媒とを含有し、常温常圧で流動性を有する。
【0014】
図1(a)~図1(d)には、化粧料の容器の底部に開けた孔から化粧料スラリーを充填する、いわゆるバック充填方式の湿式法による固形化粧料の製造工程の一部が示されている。これらの図に示す製造工程の実施に使用する製造装置は、上面2aに容器1の載置用凹部20を有する受け治具2と、凹部20の上方に配置され、金属やプラスチック等の剛体からなる押圧具3と、受け治具2と押圧具3との間に配置された押圧補助具4とを備える。凹部20の底部には、凹部20に載置された容器1の内部にスラリー状中間物Mを射出するノズル5が配置されている。なお、容器1及び受け治具2は、本発明の製造装置の必須構成要件ではない。
容器1は、固形化粧料の中間物M(化粧料スラリー又は該スラリーの固化物)が収容され且つ上側開口部1aを有する。
押圧具3は、容器1の内容物、具体的には、スラリー状中間物M又はその固化物である固形状中間物Mを上側開口部1a側から押圧するために用いられる。
押圧補助具4は、一方向に長い帯状の連続シートであり、ロール状に巻回された原反40から巻き出され、ガイドロール41に案内されて受け治具2と押圧具3との間を走行し、巻取装置42によって巻き取られるようになされている。巻取装置42は、押圧補助具4の走行手段として機能する。
押圧具3及び押圧補助具4は、それぞれ、上下動可能に配置されており、受け治具2に対して接離自在になされている。
【0015】
図1(a)~図1(d)に示す製造装置を用いた固形化粧料の製造工程においては、先ず図1(a)に示すように、受け治具2の凹部20に容器1が載置され、且つ容器1の上方の所定の待機位置に押圧具3及び押圧補助具4が待機している状態から、押圧具3及び押圧補助具4を下降させ、図1(b)に示すように、受け治具2の上面2aに押圧補助具4が密着し且つ容器1の上側開口部1aが押圧補助具4で閉塞された状態とする。この状態でノズル5からスラリー状中間物Mを射出して容器1の内部に充填する。押圧具3は、スラリー状中間物Mの溶媒除去手段として吸引機構を備えており、斯かるスラリー状中間物Mの充填中又は充填完了後に、図1(c)に示すように該吸引機構を作動させ、上側開口部1aから押圧補助具4を介して該中間物Mの溶媒を吸引除去し、固形状中間物Mを得る(湿式成型工程)。その後、押圧具3及び押圧補助具4を所定の待機位置に移動させ、図1(d)に示すように、凹部20に固形状中間物M入りの容器1が載置された状態とし、該容器1を次工程、例えば、固形状中間物Mを更に押圧して成型する工程(追加の湿式成型工程)に搬送する。ここで、スラリー状中間物Mを溶媒吸引除去しつつ押圧する工程を第1押圧工程、その後固形状中間物Mを押圧する追加の湿式成型工程を第2押圧工程ともいう。なお、本実施形態であるバック充填方式においては、第1押圧工程の後に第2押圧工程を行うことが好ましいが、化粧料の容器の上部が開口した上側開口部から化粧料スラリーを充填する、いわゆるフロント充填方式においては必ずしも2つの押圧工程が必要ではなく、1回の押圧工程のみでもよい。
【0016】
容器1は、皿状の浅底容器であり、底部と該底部の周縁から立設する側壁とを備え、該底部の上方に、該側壁の上端によって画成された上側開口部1aを有する。本発明では、容器1の形状は、上側開口部1aを有することを条件として特に制限されない。また、容器1の素材も特に制限されず、湿式法による固形化粧料の製造において化粧料容器の素材として従来使用されているものを特に制限なく用いることができ、例えば、プラスチックや金属が挙げられる。
【0017】
本実施形態の製造装置では、スラリー状中間物Mを容器1の底部から充填するバック充填方式が採用されており、これに対応して容器1の底部には、スラリー状中間物Mを充填するためのノズル5が挿入される充填孔1bが穿設されている。ノズル5は、チューブ(図示せず)を介して、スラリー状中間物Mを吐出するポンプ(図示せず)に接続されている。ノズル5を含む、容器1へのスラリー状中間物Mの供給機構は特に制限されず、湿式法による固形化粧料の製造において従来使用されているものを特に制限なく用いることができる。
【0018】
充填工程におけるスラリー状中間物Mの充填時の圧力は、充填性向上と装置負荷軽減とのバランスの観点から、好ましくは0.1MPa以上、より好ましくは0.15MPa以上、更に好ましくは0.2MPa以上、そして、好ましくは1MPa以下、より好ましくは0.8MPa以下、更に好ましくは0.6MPa以下である。
スラリー状中間物Mの充填時の流量は、生産性向上と装置負荷軽減とのバランスの観点から、好ましくは30ml/分以上、より好ましくは60ml/分以上、更に好ましくは90ml/分以上、そして、好ましくは1000ml/分以下、より好ましくは800ml/分以下、更に好ましくは600ml/分以下である。
【0019】
受け治具2は、押圧補助具4との対向面である上面2aに、容器1の載置用凹部20を有する。上面2aは、凹部20を除き、平坦且つ水平である。凹部20の平面視形状は、容器1のそれと同じであり、また、凹部20の平面視における寸法、深さ(上面2aと凹部20の底部との距離)は、容器1の平面視における寸法、高さとほぼ同じである。このような凹部20に容器1を収容することで、容器1を凹部20に一時的に固定することができ、凹部20に収容された容器1内の中間物Mに対して吸引、押圧等の処理を施した場合に容器1が動く不都合が効果的に防止される。
【0020】
なお、本発明の製造装置は、スライド移動可能なテーブル(例えば、周方向に回転可能なターンテーブル)を備え、該テーブルの上面に受け治具2が該テーブルのスライド移動方向に複数間欠配置された構成を有していてもよい。斯かる構成の製造装置においては、テーブルのスライド移動方向に沿って、当該固形化粧料の製造方法を構成する各工程、スラリー状中間物Mの充填・溶媒吸引除去工程(湿式成型工程、第1押圧工程)、固形状中間物Mの押圧・溶媒吸引除去工程(追加の湿式成型工程、第2押圧工程)等を実施するための設備が設置されており、テーブルがスライド移動することで各受け治具2が各工程に供されるようになされている。このような構成の製造装置によれば、固形化粧料を連続的に製造することができる。
【0021】
押圧具3は、容器1の内容物、具体的にはスラリー状中間物Mの溶媒除去手段として、吸引機構を備える。前記吸引機構としては、従来公知のものを特に制限なく用いることができる。本実施形態の製造装置では、押圧具3の押圧面(押圧対象との対向面)に複数の吸引孔31が設けられ、各吸引孔31は、押圧具3の内部空間を介して吸引ポンプ等の吸引源(図示せず)に接続されており、該吸引源を作動させて該内部空間を減圧することで、吸引孔31による吸引が可能となる。容器1の上側開口部1aを押圧補助具4で被覆した状態で、押圧対象である容器1の内容物(スラリー状中間物M)を押圧補助具4ごと吸引可能状態の押圧具3で押圧すると、その押圧によって該内容物から滲み出た溶媒は、押圧補助具4を介して吸引孔31から吸引除去される。
【0022】
押圧具3は、前記押圧面の周囲に配置され、溶媒吸引時に押圧補助具4を受け治具2側に押圧して保持する保持部材32と、保持部材32を支持する弾性部材33とを備える。弾性部材33は、押圧方向に伸縮可能に固定されており、その固定端とは反対側の端に保持部材32が取り付けられている。弾性部材33が自然状態にあるときは、保持部材32は前記押圧面よりも受け治具2から近い位置にあり、押圧具3を受け治具2に向けて移動(下降)させると、該押圧面よりも先に保持部材32が受け治具2の上面2aに接触する。なお、保持部材32は、押圧具3による中間物Mの押圧時に、押圧補助具4を介して、受け治具2の凹部20に載置された容器1の前記側壁と重なるようになされており(図1(c)参照)、すなわち、容器1が中間物Mを介さずに押圧具3によって凹部20の底部側に押圧されるようになされている。これにより、押圧具3による押圧時に容器1を凹部20に確実に固定することができる。本実施形態であるバック充填方式においては、多段階の押圧は前記スラリー状中間物Mを押圧する工程(湿式成型工程又は第1押圧工程)では行わず、固形中間物Mを押圧する工程(追加の湿式成型工程又は第2押圧工程)にて行う。第1押圧工程では押圧具3の位置は固定されており、保持部材32が容器1を押し付け、化粧料スラリーが容器1に充填されることにより、容器1の内容物に前記圧力が生じる。なお、フロント充填方式においては、押圧工程が1回の場合はその際に多段階の押圧を行う。
【0023】
押圧補助具4は一般に通気性及び通液性の素材から構成されたシート状物である。押圧補助具4の主たる使用目的は、押圧具3の前記吸引孔31から溶媒を吸引除去する際に、粉体が同時に吸引除去されることの防止、及び押圧具3の前記押圧面への粉体の付着防止である。また押圧補助具4は、容器1の内容物であるスラリー状中間物Mが固化して固形状中間物Mとなる過程で、上側開口部1aを介して中間物Mに接触するので、押圧補助具4の中間物Mとの対向面の表面形状は、製造目的物である固形化粧料の表面に転写されるところ、第2押圧工程においてはこれを利用して、押圧補助具4を固形化粧料の表面の模様付けに使用する場合もある。
【0024】
本実施形態の製造装置では、押圧補助具4は一方向に長い帯状の連続シートであり、図1に示すように、巻取装置42による巻き取り動作により、ロール状の原反40から連続的に巻き出され、受け治具2と押圧具3との間を凹部20に平行に走行する。巻取装置42は、従来公知の連続シートの巻取装置と同様に構成されており、典型的には、巻取ロール及び該巻取ロールの駆動源等を含んで構成されている。
【0025】
押圧具3及び押圧補助具4は、それぞれ個別に、受け治具2に対して接離自在に移動可能に配置されており、具体的には、移動機構(図示せず)によって上下方向に移動可能に配置されている。押圧補助具4は、これを走行させる走行機構(ガイドロール41、巻取装置42等)とともに、前記移動機構によって、受け治具2に対して接離自在に移動し得る。前記移動機構としては、従来公知の技術を適宜利用することができる。
【0026】
図2には、本発明の製造装置の一実施形態の機能を示すブロック図が示されている。本実施形態の製造装置は、図1に示す製造装置の各部(受け治具2、押圧具3、押圧補助具4、ノズル5等)の動作を制御する制御手段6を備えている。制御手段6は、容器1にスラリー状中間物Mを充填する充填制御部61と、容器1の内容物(スラリー状中間物M、固形状中間物M)を押圧具3で押圧する押圧制御部62と、容器1の内容物から溶媒を除去する溶媒除去制御部63と、押圧補助具4を移動(走行)させて該押圧補助具4に加わる張力を制御し得る押圧補助具制御部64とを備える。
【0027】
充填制御部61は、ノズル5を含むスラリー状中間物Mの供給機構を作動させて、スラリー状中間物Mを容器1に充填する。
押圧制御部62は、押圧具3及び押圧補助具4を受け治具2に対して接離自在に移動させる移動機構を作動させて、容器1の上側開口部1aを押圧補助具4で被覆した状態で、容器1の内容物を押圧補助具4ごと押圧具3で押圧する(図1(c)参照)。
溶媒除去制御部63は、押圧具3が備える前記吸引機構等の溶媒除去手段を作動させて、スラリー状中間物M中の溶媒を吸引除去し、固形状中間物Mとする。
【0028】
制御手段6は、典型的には、演算処理部及び記憶部を含んで構成されている。前記演算処理部は、CPU、MPU等のマイクロプロセッサを備える。前記記憶部は、ROM及びRAMを備え、該ROM及び該RAMに、前記演算処理部に所定の処理を行わせるためのプログラムや各種データが格納されている。前記記憶部には、本発明の固形化粧料の製造方法の各工程が予め記憶されており、前記演算処理部は、該記憶部の記憶情報を参照し、各工程を実施するのに必要な製造装置の各部を作動させる。
【0029】
本実施形態の製造装置は、制御手段6の制御下で各部を作動させて本発明の製造方法を実施する。具体的には、充填制御部61、押圧制御部62、溶媒除去制御部63及び押圧補助具制御部64の制御下で、前述したとおり図1(a)~図1(d)に示すとおり、上側開口部1aを有する容器1にスラリー状中間物Mを充填する「充填工程」と、上側開口部1aを押圧補助具4で被覆した状態で、容器1の内容物を押圧補助具4ごと押圧具3で押圧する「押圧工程(第1押圧工程及び第2押圧工程)」とを実施する。
第1押圧工程では、押圧具3による押圧と並行して、押圧具3が備える前記吸引機構等の溶媒除去手段により、容器1の内容物から上側開口部1aを介して該内容物中の溶媒を吸引除去する。すなわち第1押圧工程では、上側開口部1aを押圧補助具4で被覆した状態で、容器1の内容物(具体的にはスラリー状中間物M)を押圧補助具4ごと押圧具3で押圧しつつ、該内容物から上側開口部1aを介して該内容物中の溶媒を吸引除去し、固形状の中間物Mとする(図1(c)参照)。
【0030】
本実施形態のバック充填方式においては、前述したとおり、押圧力を多段階に変化させる工程は第2押圧工程で行う。第2押圧工程では、押圧制御部62による制御下、押圧具3による押圧力を多段階に変化させながら、該押圧具3が備える吸引機構によって、容器1の内容物である固形状中間物Mに含まれている溶媒を吸引除去する。
押圧具3による押圧力を多段階に変化させることの利点は次のとおりである。すなわち、押圧具3による押圧力が単一である場合には、容器1の内容物である固形状中間物Mが押圧具3によって押圧された状態で、該中間物Mに含まれている溶媒を吸引除去すると、シート状である押圧補助具4が押圧力及び吸引力によって伸長し、該押圧補助具4の一部が、図3に示すとおり押圧具3に設けられている吸引孔31内に吸い込まれる。同図に示す状態で押圧が進行し、固形状中間物Mの固化が完了して、押圧及び吸引が解除されると、吸引孔31内に吸い込まれていた押圧補助具4が元の平らな状態に戻る。このときに、押圧補助具4が、固化状態である中間物Mの表面を擦り、そのことに起因して、該中間物Mの表面に平滑性が高くなった部分と、押圧補助具4により擦られることなく押圧補助具4の微細な凹凸が転写されたまま平滑性の低い部分とが存在することとなり、外観の均一性が損なわれるという欠陥が生じると考えられる。典型的には、該中間物Mの表面の平滑性が高くなった部分に吸引孔31の跡が発生する。特に、該中間物M中に含まれる光輝性顔料の量が少ないと、固形化粧料の表面における乱反射が少ないことから、吸引孔31の跡が一層視認されやすくなる。吸引孔31の跡は、他の部分と比較して色が薄く、白味がかったように見えることがある。吸引孔31の跡が発生することを防止するための有効な手段はこれまで分かっておらず、押圧条件、溶媒吸引条件及び押圧補助具4の種類などの各種製造条件を試行錯誤的に変更して対応するしかなかった。このような状況下、この欠陥の発生を抑制するための手段について本発明者が鋭意検討した結果、押圧具3による押圧力を単一とするのではなく、押圧力を複数に分けること、すなわち押圧具3による押圧を多段階で行うことが有効であることが判明した。
【0031】
多段階での押圧は、押圧制御部62による押圧力の設定値を段階的に変化させることで行うことができる。詳細には、押圧具3にロードセルなどの圧力検出センサ(図示せず)を取り付けておき、押圧具3による押圧力を監視しながら押圧を行う。
多段階での押圧は経時的にステップ状に行うことができる。あるいは経時的に設定圧力を連続的に変化させて行うことができる。
例えばステップ状に2段階の押圧を行う場合には、押圧制御部62に第1押圧力及び第2押圧力を設定しておき、先ず第1押圧力で押圧を行い、所定時間経過後に第2押圧力で押圧を行う。そして所定時間経過後に押圧力を解除する。
この場合、第1押圧力<第2押圧力に設定してもよく、あるいは第1押圧力>第2押圧力に設定してもよい。いずれの場合であっても、第1押圧力と第2押圧力との比率は、外観が一層良好な固形化粧料を得る観点から、50%以下であることが好ましく、20%以上50%以下であることがより好ましく、25%以上45%以下であることが更に好ましい。外観が一層良好な固形化粧料を得る観点からは、第1押圧力<第2押圧力に設定することが有利である。
また、第1押圧力<第2押圧力に設定する場合の第2押圧力、及び第1押圧力>第2押圧力に設定する場合の第1押圧力は、外観が一層良好な固形化粧料を得る観点から、1.0MPa以上5.0MPa以下とすることが好ましく、1.25MPa以上4.5MPa以下とすることがより好ましく、1.5MPa以上4.0MPa以下とすることが更に好ましい。
また、第1押圧力<第2押圧力に設定する場合の第1押圧力、及び第1押圧力>第2押圧力に設定する場合の第2押圧力は、外観が一層良好な固形化粧料を得る観点から、0.5MPa以上2.5MPa以下とすることが好ましく、0.625MPa以上2.25MPa以下とすることがより好ましく、0.75MPa以上2.0MPa以下とすることが更に好ましい。
【0032】
外観が一層良好な固形化粧料を得る観点から、押圧力を少なくとも3段階以上に変化させることが好ましい。押圧力を少なくとも3段階に変化させる場合には、段階に応じた異なる押圧力を押圧制御部62に設定しておく。最初の押圧力の設定値をPiとし、最後の押圧力の設定値をPfとし、その間のいずれかの押圧力の設定値をPmとしたとき、外観が一層良好な固形化粧料を得る観点から、Pi及びPfよりも高い押圧力Pmで中間の押圧を行うことが好ましい。つまり押圧制御部62におけるPi、Pm及びPfの設定値を、Pi<Pm及びPf<Pmとすることが好ましい。
この場合、外観が一層良好な固形化粧料を得る観点から、PiがPmの好ましくは50%以下となるように、より好ましくは20%以上50%以下となるように、更に好ましくは25%以上45%以下となるように、Pi及びPmの値を設定する。
また、外観が一層良好な固形化粧料を得る観点から、PfがPmの好ましくは50%以下となるように、より好ましくは20%以上50%以下となるように、更に好ましくは25%以上45%以下となるように、Pf及びPmの値を設定する。
なお、PiとPfの大小関係に特に制限はなく、Pi<Pfであってもよく、Pi>Pfであってもよく、あるいはPi=Pfであってもよい。
【0033】
押圧力を少なくとも3段階に変化させる場合、Pi、Pm及びPfの設定値の大小関係は上述したものに制限されず、例えばPi<Pm<Pfや、Pi>Pm>Pfのように設定してもよい。あるいは、Pi>Pm及びPf>Pmに設定してもよい。
【0034】
押圧力を少なくとも3段階に変化させる場合、設定値が最も高い押圧力は、1.0MPa以上であることが好ましく、1.25MPa以上であることがより好ましく、1.5MPa以上であることが更に好ましく、そして5.0MPa以下であることが好ましく、4.5MPa以下であることがより好ましく、4.0MPa以下であることが更に好ましい。設定値が最も高い押圧力の該設定値をこの範囲とすることで、外観及び使用感が良好であり且つ耐衝撃性が高い固形化粧料を安定的に製造することができる。
【0035】
押圧力の設定値を何段階に変化させるかにかかわらず(つまり2段階及び3段階以上のいずれかにかかわらず)、各設定値での押圧における押圧時間に特に制限はなく、各設定値での押圧時間をいずれも同じに設定したり、あるいは互いに異なるように設定したりすることができる。押圧時間の制御は、押圧制御部62によって行うことができる。
【0036】
押圧力の設定値を何段階に変化させるかにかかわらず(つまり2段階及び3段階以上のいずれかにかかわらず)、設定する押圧時間の最短値は0.5秒とすることが好ましく、1秒とすることがより好ましく、1.5秒とすることが更に好ましい。一方、設定する押圧時間の最長値は20秒とすることが好ましく、15秒とすることがより好ましく、10秒とすることが更に好ましい。多段階の押圧時間の各設定値をこの範囲とすることで、耐衝撃性が高い固形化粧料を生産性よく製造することができる。
【0037】
押圧中に行う溶媒の吸引は、異なる設定値で押圧しているときであっても一定の圧力に保つことができる。例えば吸引圧力(ゲージ圧)を好ましくは-90kPa以上、より好ましくは-80kPa以上、更に好ましくは-70kPa以上に設定することができる。また、吸引圧力(ゲージ圧)を好ましくは-5kPa以下、より好ましくは-10kPa以下、更に好ましくは-20kPa以下に設定することができる。この範囲で溶媒を吸引することで、吸引装置に過度の負荷を与えることなく、溶媒を首尾よく除去することができる。
【0038】
押圧具3による押圧を多段階で行う場合には、外観が一層良好な固形化粧料を得る観点から、押圧具3と容器1の内容物である固形状中間物Mとの間に介在させる押圧補助具4に所定の張力を加えておくことが好ましい。一般的には、本実施形態では押圧補助具4は巻き取り可能なシートからなる。この押圧補助具4を巻き取ることで、該押圧補助具4に張力を発生させることができる。詳細には、原反40のロールに所定の制動力を加えておき(例えば自由回転を規制する摩擦力をロールに加えておく等)、押圧補助具制御部64からの指令によって、押圧補助具4の走行手段としての巻取装置42が押圧補助具4を巻き取ることで、押圧補助具4に張力が加えられる。この目的のために、押圧補助具制御部64は、巻取装置により押圧補助具4を巻き取ることで該押圧補助具4に発生する張力を制御し得るように構成されている。押圧補助具4に発生する張力は、例えば巻取装置42に取り付けられたロードセル(図示せず)によって監視することができる。
【0039】
押圧補助具4に所定の張力を加えた状態下に、押圧具3による押圧を多段階で行う利点は次のとおりである。すなわち、既に述べたとおり、容器1の内容物である固形状中間物Mが押圧具3によって押圧された状態で、該中間物Mに含まれている溶媒を吸引除去すると、シート状である押圧補助具4が押圧力及び吸引力によって伸長し、該押圧補助具4の一部が、押圧具3に設けられている吸引孔31内に吸い込まれる。この状態で押圧が進行し、固形状中間物Mの固化が完了して、押圧及び吸引が解除されると、吸引孔31内に吸い込まれていた押圧補助具4が元の平らな状態に戻る。このときに、押圧補助具4が、固化状態である中間物Mの表面を擦り、そのことに起因して、該中間物Mの表面に平滑性が高くなった部分と、押圧補助具4により擦られることなく押圧補助具4の微細な凹凸が転写されたまま平滑性の低い部分とが存在することとなり、外観の均一性が損なわれるという欠陥が生じると考えられる。そこで、押圧補助具4に所定の張力を加えることで、吸引時に押圧補助具4が吸引孔31内に吸い込まれることをより効果的に阻止できる。
一般的には、押圧補助具4のたるみやよれを抑制し、均一な張りをもった状態として押圧対象の外観を良くする目的から、5kgf/m程度の張力を加えることが行われている。しかし、本発明の吸引孔跡を抑制するという観点からは、一般的な張力よりも小さい張力をかけることが好ましい。
以上の観点から、押圧補助具4に加える張力は、好ましくは0.01kgf/m以上、より好ましくは0.03kgf/m以上、更に好ましくは0.05kgf/m以上、そして、好ましくは3kgf/m以下、より好ましくは2.5kgf/m以下、更に好ましくは2.0kgf/m以下、更に一層好ましくは1.5kgf/m以下、特に好ましくは1.0kgf/m以下である。
この範囲の張力を押圧補助具4に加えることで、押圧補助具4によれが発生することや、よれに起因する固形化粧料の外観の低下を抑制できる。また、固形化粧料の表面に、吸引孔31の跡が発生することを効果的に防止できる。
【0040】
なお、押圧補助具4に加える張力は、該押圧補助具4の巻き取り方向に沿って発生するが、場合によってはテンター等の治具を用いて巻き取り方向と直交する方向に張力を発生させてもよい。この場合にはテンターにロードセルを取り付けて張力を監視すればよい。
【0041】
ところで、本実施形態で採用している湿式法においては、スラリー中で基材である粉体及び油剤を均一に分散させる観点、溶媒除去を容易にする観点等から、基材の溶媒として、揮発性炭化水素や低沸点アルコール等が汎用されており、また近年においては環境意識の高まりから水を使用したものも提案されている。上述した押圧補助具4の材質は、押圧補助具4を介しての押圧具3によるスラリー状中間物Mの溶媒の吸引除去を阻害しない範囲で特に制限されず、通液性を有するシートであることが好ましく、また具体的には、溶媒の種類に応じて例えば、紙、布及び通液のための孔が開けられたフィルムなどを用いることが好ましい。本発明では、これらの1種を単独で押圧補助具4として用いてもよく、あるいはこれら2種以上を重ね合わせた積層体を押圧補助具4として用いてもよい。特に紙は、その表面が布に比べて平滑であることから、表面が平滑な固形化粧料を得やすいという利点がある。
しかし、溶媒として水を用いる場合に、押圧補助具4が紙であると、押圧具3による溶媒の吸引時にスラリー状中間物Mから吸引された水を押圧補助具4が吸収し、押圧補助具4の強度が低下するおそれがある。紙であっても耐水性の高いものであれば問題なく使用することができるが、溶媒の透過性及び溶媒に対する耐性等を考慮すると、押圧補助具4として布を用いることが好ましい。例えば、織布や不織布を用いることができる。布は紙よりも平滑性が低いため、押圧補助具4として布を用いた場合に、本発明の効果が発揮されやすい。
押圧補助具4を構成する布の素材は特に制限されないが、中間物Mの溶媒として水を用いた場合であっても耐性を有するものであることを考慮すると、合成樹脂のような疎水性材料を主体とするものが好ましい。
【0042】
特に、表面の平滑さを考慮すると、押圧補助具4として、熱可塑性樹脂の繊維から構成される不織布を用いることが好ましい。そのような不織布としては、例えばスパンボンド不織布、メルトブローン不織布、スパンレース不織布、ニードルパンチ不織布、エアスルー不織布及びそれらの不織布の2種以上を積層した不織布などが挙げられる。
【0043】
不織布を含む押圧補助具4の厚みは、粉体の透過の阻止性、強度、溶媒の透過性等の観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、そして、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下である。このような厚みの不織布を押圧補助具4として用いることで、固形化粧料の表面にむらが発生することを効果的に防止できる。
厚みは、定圧厚さ測定器PJ-16J(テックロック社製)によって測定される。
【0044】
前記と同様の観点から、不織布を含む押圧補助具4の坪量は、好ましくは5g/m以上、より好ましくは10g/m以上、そして、好ましくは150g/m以下、より好ましくは100g/m以下である。
【0045】
本発明で扱う「化粧料スラリー」(スラリー状中間物M)について説明すると、該スラリーの組成は特に制限されず、製造する固形化粧料の種類等に応じて適宜調整し得る。本発明が適用可能な固形化粧料は特に制限されず、例えば、ファンデーション、アイシャドウ、チーク、フェイスパウダーが挙げられる。
【0046】
化粧料スラリーは、典型的には、少なくとも化粧料基材と溶媒とを含有し、更に必要に応じ、防腐剤、酸化防止剤、色素、増粘剤、pH調整剤、香料、紫外線吸収剤、保湿剤、血行促進剤、冷感剤、制汗剤、殺菌剤、皮膚賦活剤等を含有する。
前記化粧料基材は、典型的には、体質顔料、着色顔料、光輝性顔料等の粉体と、油剤とを含む。粉体及び油剤としては、固形化粧料に通常使用されているものを特に制限なく用いることができる。上述したとおり、固形化粧料の表面に発生する吸引孔31の跡は、光輝性顔料の含有量が少ないと視認されやすくなることから、本発明は、固形化粧料に含まれる光輝性顔料の含有量が20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である場合に特に有効である。
前記溶媒としては、湿式法による固形化粧料の製造で従来使用されているものを特に制限なく用いることができ、従来多用されている揮発性炭化水素、低沸点アルコール等の有機溶剤を用いてもよく、あるいは環境負荷の低減の観点から水を用いてもよい。
【0047】
化粧料スラリーにおける溶媒の含有量は、容器1への充填性の向上等の観点から、該スラリー中の化粧料基材100質量部に対して、好ましくは30質量部以上、より好ましくは40質量部以上である。一方、化粧料スラリーにおける溶媒の含有量の上限は、スラリーからの除去効率等の観点から、該スラリー中の化粧料基材100質量部に対して、好ましくは120質量部以下、より好ましくは100質量部以下である。
【0048】
化粧料スラリーの容器1への充填前の時点での粘度は、特に制限されないが、スラリーの安定性向上と充填性向上とのバランスの観点から、好ましくは100mPa・s以上、より好ましくは500mPa・s以上、更に好ましくは1000mPa・s以上、そして、好ましくは30000mPa・s以下、より好ましくは20000mPa・s以下、更に好ましくは10000mPa・s以下である。
なお、本明細書において「粘度」は、25℃において、東機産業社製のB型粘度計(TVB-10形粘度計)により測定した値を指す。
【0049】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に何ら制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば前記実施形態は、化粧料スラリーを容器1の底部から充填するバック充填方式であったが、本発明は、該スラリーを容器1の上側開口部1a側から充填するフロント充填方式にも適用できる。
また前記実施形態では、押圧補助具4が押圧具3とともに上下に移動し、受け治具2に対して接離自在になされていたが、これに代えて、押圧補助具4は上下動せず、常時所定の位置、例えば受け治具2の上面2aと接触し得る位置に配置されていてもよい。
また前記実施形態では、押圧力を多段階に設定して固形化粧料の中間物Mを押圧するときに押圧補助具4に張力を加えたが、これに代えて、押圧補助具4に張力を加えずに、固形化粧料の中間物Mを多段階に押圧してもよい。
【実施例
【0050】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。
【0051】
〔実施例1〕
図2に示す製造装置と同様の構成のバック充填方式の製造装置を用いて、湿式法により固形化粧料を製造した。具体的には図1(a)~図1(d)に示すように、上側開口部1aを有する皿状の容器1を受け治具2の凹部20に載置し、上側開口部1aを押圧補助具4で被覆した状態で、容器1の内部にノズル5によりスラリー状中間物M(化粧料スラリー)を充填する充填工程を実施するとともに、第1押圧工程として、押圧補助具4に密着する押圧具3により、上側開口部1aを介してスラリー状中間物M中の溶媒を吸引除去しつつ、該中間物Mを押圧補助具4ごと凹部20の底部側に押圧する押圧工程(湿式成型工程)を実施して、固形状中間物M(化粧料スラリーの固化物)を得た。次いで、第2押圧工程として、得られた固形状中間物Mを更に押圧し、溶媒を吸引除去し、目的とする固形化粧料を製造した。
押圧工程は押圧力を多段階に設定して行った。設定値は以下の表1に示すとおりとした。
【0052】
本実施例で使用した化粧料スラリーは、以下の方法により調製した。先ず、油剤13.3質量%及び界面活性剤1.6質量%を量り取り、60℃に加熱して均一な油相とした。次に、60℃に加熱した水33.3質量%に防腐剤0.2質量%を添加して水相とし、前記油相に投入し、ホモミキサーにて6,000rpmで5分間混合した。その後、ヘラで撹拌しながら水冷し乳化物を得た。得られた乳化物に、顔料を含む粉体51.6質量%を投入し、ディスパーミキサーにて、5分間混錬することにより化粧料スラリーを調製した。得られた化粧料スラリーの粘度は、25℃において、4130mPa・sであった。
【0053】
実施例1の固形化粧料の製造条件の詳細は下記のとおりである。
・押圧補助具の素材:80%レーヨン・20%ポリプロピレンポリエチレン不織布(厚み420μm、坪量40g/m
<第1押圧工程>
・化粧料スラリーの充填時の圧力:0.4MPa
・化粧料スラリーの充填時の流量:290ml/分
・化粧料スラリー中の溶媒の吸引圧力:-50kPa
<第2押圧工程>
・押圧具3による押圧条件:表1に示したとおり
・固形状中間物M中の溶媒の吸引圧力:第1の押圧工程と同じ
【0054】
〔実施例2〕
押圧工程の間、押圧補助具4に加える張力を5kgf/mとした以外は実施例1と同様にして固形化粧料を製造した。
【0055】
〔実施例3〕
押圧力を表1に示したように設定した以外は実施例2と同様にして固形化粧料を製造した。
【0056】
〔実施例4及び5〕
押圧力を表1に示したように2段階とした以外は実施例2と同様にして固形化粧料を製造した。
【0057】
〔比較例1〕
押圧工程における押圧の設定値を表1に示した1条件とした以外は実施例2と同様にして固形化粧料を製造した。
【0058】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた固形化粧料について、押圧補助具4との対向面を5人のパネラーに目視観察させて、その状態を以下の基準で評価させた。評価点の平均値を、固形化粧料の外観の良好さの尺度とした。値が高いほど、外観が良好であることを意味する。
<評価基準>
5:吸引孔の跡が全く認められない
4:吸引孔の跡がごく僅かに認められる
3:吸引孔の跡が認められる
2:吸引孔の跡がはっきりと認められる
1:比較例1の状態であり、吸引孔の跡が極めてはっきりと認められる
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示す結果から明らかなとおり、実施例で得られた固形化粧料は、比較例で得られた固形化粧料に比べて良好な外観を呈することが分かる。
特に、実施例1と実施例2との対比から、押圧補助具4に加える張力を一般的な数値とした実施例2よりも、当該張力を弱めた実施例1の方が、固形化粧料の外観が一層良好であることが分かる。また、実施例2と3の対比から、押圧力を多段階に設定する際に押圧力の比率を最適化すること、更に実施例2と実施例4及び5との対比から、押圧力を3段階以上とすることにより、外観が一層良好となることが分かる。
【符号の説明】
【0061】
1 容器
1a 上側開口部
2 受け治具
20 容器載置用凹部
3 押圧具
31 吸引孔
32 保持部材
33 弾性部材
4 押圧補助具
40 原反
41 ガイドロール
42 巻取装置(押圧補助具の走行手段)
5 ノズル
6 制御手段
61 充填制御部
62 押圧制御部
63 溶媒除去制御部
64 押圧補助具制御部
M 固形化粧料の中間物
図1
図2
図3