(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】捲縮を有するポリエステル系繊維、その製造方法、それを含むパイル布帛、及びパイル布帛の製造方法
(51)【国際特許分類】
D02G 3/24 20060101AFI20240605BHJP
D02G 1/12 20060101ALI20240605BHJP
D02G 1/14 20060101ALI20240605BHJP
D03D 27/00 20060101ALI20240605BHJP
D04B 1/16 20060101ALI20240605BHJP
D04B 1/20 20060101ALI20240605BHJP
D06C 13/00 20060101ALI20240605BHJP
【FI】
D02G3/24
D02G1/12
D02G1/14
D03D27/00 A
D03D27/00 B
D04B1/16
D04B1/20
D06C13/00 Z
(21)【出願番号】P 2021503445
(86)(22)【出願日】2020-01-16
(86)【国際出願番号】 JP2020001261
(87)【国際公開番号】W WO2020179238
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-12-02
(31)【優先権主張番号】P 2019037370
(32)【優先日】2019-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】田岡 伸崇
(72)【発明者】
【氏名】平井 悠佑
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03946469(US,A)
【文献】特開昭60-239513(JP,A)
【文献】特開2008-045248(JP,A)
【文献】特開平09-316750(JP,A)
【文献】特公昭55-022575(JP,B1)
【文献】特開平05-140860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 3/24
D02G 1/12
D02G 1/14
D03D 27/00
D04B 1/16
D04B 1/20
D06C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
捲縮を有するポリエステル系繊維であって、150℃かつ10分間の乾熱処理で捲縮形状が変化
する繊維であり、前記乾熱処理前は下記(1)に示す要件を満たす捲縮を有し、前記乾熱処理後は、
下記(2)に示す要件を満たす捲縮を有し、二次捲縮数が0.0個/25mm以上1.0個/25mm以下の捲縮を有
しており、
前記乾熱処理は、乾燥空気を媒体として熱を与える処理であり、
一次捲縮は、繊維が有する捲縮の内、最小の周期を持つ最も細かい捲縮であり、二次捲縮は、複数の一次捲縮と重なり、一次捲縮よりも大きな周期をもつ捲縮である、ことを特徴とするポリエステル系繊維。
(1)一次捲縮数が5.0個/25mm以上30個/25mm以下であり、かつ二次捲縮数が1.0個/25mm以上4.0個/25mm以下である。
(2)一次捲縮数が3.0個/25mm以上8.0個/25mm以下であり、かつ二次捲縮数が0.0個/25mm以上1.0個/25mm以下である。
【請求項2】
前記乾熱処理前は、一次捲縮数が5.0個/25mm以上15個/25mm以下であり、かつ二次捲縮数が1.0個/25mm以上4.0個/25mm以下という要件を満たす捲縮を有する請求項1に記載のポリエステル系繊維。
【請求項3】
単繊維繊度が1dtex以上10dtex以下である請求項1
又は2に記載のポリエステル系繊維。
【請求項4】
捲縮を付与するまでの製糸工程において150℃以上の熱を受けていないポリエステル系繊維に対して、捲縮付与工程1において、130℃以上230℃以下の温度で下記(2)に示す要件を満たす捲縮を付与した後、捲縮付与工程2において、70℃以上130℃以下の温度で捲縮を付与することで、下記(1)に示す要件を満たす捲縮を有するポリエステル系繊維を得
ており、一次捲縮は、繊維が有する捲縮の内、最小の周期を持つ最も細かい捲縮であり、二次捲縮は、複数の一次捲縮と重なり、一次捲縮よりも大きな周期をもつ捲縮である、ことを特徴とする、ポリエステル系繊維の製造方法。
(1)一次捲縮数が5.0個/25mm以上30個/25mm以下であり、かつ二次捲縮数が1.0個/25mm以上4.0個/25mm以下である。
(2)一次捲縮数が3.0個/25mm以上8個/25mm以下であり、かつ二次捲縮数が0.0個/25mm以上1.0個/25mm以下である。
【請求項5】
前記捲縮付与工程1は、ギアクリンパー及びエンボスロールからなる群から選ばれる一種以上を用いて行う請求項
4に記載のポリエステル系繊維の製造方法。
【請求項6】
前記捲縮付与工程2は、機械押込法で行う請求項
4又は
5に記載のポリエステル系繊維の製造方法。
【請求項7】
パイル布帛の製造方法であって、パイル部全体に請求項1~
3のいずれか1項に記載のポリエステル系繊維を30重量%以上含ませることを特徴とする、パイル布帛の製造方法。
【請求項8】
前記ポリエステル系繊維に対して90℃以上160℃以下の温度でポリッシングを行う、請求項
7に記載のパイル布帛の製造方法。
【請求項9】
前記パイル布帛は、長パイル部及び短パイル部を含み、長パイル部の平均パイル長と短パイル部の平均パイル長の差が2mm以上である請求項
7または
8に記載のパイル布帛の製造方法。
【請求項10】
短パイル部に前記ポリエステル系繊維を含む請求項
9に記載のパイル布帛の製造方法。
【請求項11】
長パイル部にアクリロニトリルを35重量%以上95重量%未満含有するアクリル系共重合体で構成されたアクリル系繊維を含む、請求項
9又は
10に記載のパイル布帛の製造方法。
【請求項12】
ポリッシング後に、前記ポリエステル系繊維は、一次捲縮数が3.0個/25mm以上8.0個/25mm以下であり、かつ二次捲縮数が0.0個/25mm以上1.0個/25mm以下である捲縮を有する
、請求項9に記載のパイル布帛
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理によって捲縮形状が変化する捲縮を有するポリエステル系繊維、その製造方法、それを含むパイル布帛、及びパイル布帛の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然毛皮に似せた人工毛皮としてのパイル布帛には、従来から風合いや光沢が獣毛によく似ているアクリル繊維及び/又はアクリル系繊維がパイル繊維として、幅広く使用されている。しかしながら、アクリル繊維及びアクリル系繊維は、弾力性に乏しく、腰がないため、これらの繊維を用いたパイル布帛は、使用中のへたり回復性やボリューム感に乏しく、天然毛皮とは乖離があった。
【0003】
そこで、ポリエステル系繊維をパイル繊維として使用することが提案されているが、ポリエステル系繊維を用いたパイル布帛は、へたり回復性やボリューム感に優れているものの、パイル布帛作製時にポリッシャー工程の温度が低いと立毛表層部のパイル繊維の捲縮が十分に除去されずパイル繊維同士がからまることでゴワゴワな触感となるという問題や、例え高温でのポリッシングにより捲縮を除去したとしても立毛部の繊維形状は天然毛皮とは全く異なるという問題があった。また、一般的にポリエステル系繊維を用いたパイル布帛のポリッシングには200℃近い温度が必要と言われており、耐熱性の観点から、従来から使用されているアクリル繊維及びアクリル系繊維との併用が困難であった。
【0004】
そこで、特許文献1では、繊維断面、繊度、繊維長、捲縮数、捲縮率及び捲縮堅牢度等を調整することでポリエステル系繊維の捲縮除去性を改善することが提案されている。また、特許文献2では、製糸工程において、1~7%の制限収縮条件下で160~230℃の熱処理を施した後に捲縮を付与することで、ポリッシング処理でのポリエステル系繊維の捲縮除去性を改善することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭60-162857号公報
【文献】特開平5-140860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、パイル布帛は、一般的にスライバーを用いて加工することが多く、パイル繊維は良好なカード通過性を有することが求められている。
【0007】
特許文献1及び2で提案されたポリエステル系繊維は、カード通過性が良好であり、パイル布帛作製時のポリッシング処理によって捲縮を除去することは可能であるが、得られたパイル布帛における立毛部、特に立毛表層部の外観は天然毛皮の立毛表層部の外観とは異なるものであり、さらに改善する必要があった。これは、これらのポリエステル系繊維には機械押込法で捲縮が付与されているものの、ポリッシング後の繊維の捲縮形状を天然毛皮様の捲縮形状に近似するよう制御することが困難であり、ポリッシング後に、機械押込法で付与された捲縮がそのまま、もしくは緩和された状態で繊維に残留するためである。また、ミンクやきつね等の刺毛部分と綿毛部分で構成される段差のある毛皮の場合、刺毛部分はまっすぐでありながら、綿毛部分には緩やかな捲縮が付与されており、人工のパイル布帛にて天然毛皮の外観に近似させることはより一層困難である。
【0008】
本発明は、上述した従来の問題を解決するため、カード通過性が良好であり、90℃以上160℃以下の比較的低温でのポリッシング処理でパイル布帛の立毛表層部に天然毛皮様の捲縮を発現することができるポリエステル系繊維、その製造方法、それを含むパイル布帛、及びパイル布帛の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、1以上の実施形態において、捲縮を有するポリエステル系繊維であって、150℃かつ10分間の乾熱処理で捲縮形状が変化することを特徴とするポリエステル系繊維に関する。
【0010】
本発明の1以上の実施形態の捲縮を有するポリエステル系繊維は、上記乾熱処理前は下記(1)に示す要件を満たす捲縮を有し、上記乾熱処理後は、二次捲縮数が0個/25mm以上1個/25mm以下の捲縮を有することが好ましい。
(1)一次捲縮数が5個/25mm以上30個/25mm以下であり、かつ二次捲縮数が1個/25mm以上4個/25mm以下である。
【0011】
本発明の1以上の実施形態のポリエステル系繊維は、上記乾熱処理前は上記(1)に示す要件を満たす捲縮を有し、上記乾熱処理後は下記(2)に示す要件を満たす捲縮を有するがより好ましい。
(2)一次捲縮数が3個/25mm以上8個/25mm以下であり、かつ二次捲縮数が0個/25mm以上1個/25mm以下である。
【0012】
本発明は、1以上の実施形態において、捲縮を付与するまでの製糸工程において150℃以上の熱を受けていないポリエステル系繊維に対して、捲縮付与工程1において、130℃以上230℃以下の温度で下記(2)に示す要件を満たす捲縮を付与した後、捲縮付与工程2において、70℃以上130℃以下の温度で捲縮を付与することで、下記(1)に示す要件を満たす捲縮を有するポリエステル系繊維を得ることを特徴とするポリエステル系繊維の製造方法に関する。
(1)一次捲縮数が5.0個/25mm以上30.0個/25mm以下であり、かつ二次捲縮数が1.0個/25mm以上4.0個/25mm以下である。
(2)一次捲縮数が3.0個/25mm以上8.0個/25mm以下であり、かつ二次捲縮数が0.0個/25mm以上1.0個/25mm以下である。
【0013】
本発明は、1以上の実施形態において、パイル布帛の製造方法であって、パイル部全体に上記のポリエステル系繊維を30重量%以上含ませることを特徴とするパイル布帛の製造方法に関する。
【0014】
本発明の1以上の実施形態のパイル布帛の製造方法において、前記ポリエステル系繊維に対してポリッシング処理を90℃以上160℃以下の温度で行うことが好ましい。本発明の1以上の実施形態のパイル布帛の製造方法において、パイル布帛は、長パイル部及び短パイル部を含み、長パイル部の平均パイル長と短パイル部の平均パイル長の差が2mm以上であってもよい。本発明の1以上の実施形態のパイル布帛の製造方法において、パイル布帛は、短パイル部に上記のポリエステル系繊維を含んでもよい。本発明の1以上の実施形態のパイル布帛の製造方法において、長パイル部がアクリロニトリルを35重量%以上95重量%未満含有するアクリル系共重合体で構成されたアクリル系繊維を含んでもよい。
【0015】
本発明は、1以上の実施形態において、上記のポリエステル系繊維をパイル部全体の30重量%以上含有し、上記ポリエステル系繊維は、一次捲縮数が3.0個/25mm以上8.0個/25mm以下であり、かつ二次捲縮数が0.0個/25mm以上1.0個/25mm以下である捲縮を有することを特徴とするパイル布帛に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、カード通過性が良好であり、90℃以上160℃以下の比較的低温でのポリッシング処理でパイル布帛の立毛表層部に天然毛皮様の捲縮を発現することができるポリエステル系繊維及びそれを含むパイル布帛を提供することができる。本発明の製造方法によれば、カード通過性が良好であり、90℃以上160℃以下の比較的低温のポリッシング処理でパイル布帛の立毛表層部に天然毛皮様の捲縮を発現し得ることができるポリエステル系繊維及びパイル布帛を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一次捲縮及び二次捲縮を説明する説明図である。
【
図2】パイル布帛の外観評価基準を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、カード通過時には、カード通過性確保に適した捲縮形状を有し、かつ、カード通過後のパイル加工工程において天然毛皮様の捲縮を発現できるポリエステル系繊維が、パイル布帛に好適に用いられることを見出した。すなわち、本発明のポリエステル系繊維は、1以上の実施形態において、捲縮を有するポリエステル系繊維であって、150℃かつ10分間の乾熱処理によって、捲縮形状が変化する捲縮を有する。また、本発明者らは、上記乾熱処理によって、下記(1)に示す要件を満たす捲縮形状から、二次捲縮数が0個/25mm以上1個/25mm以下を満たす捲縮形状に変化する、捲縮を有するポリエステル系繊維は、カード通過性がより良好であり、90℃以上160℃以下の比較的低温でのポリッシング処理にてパイル布帛の立毛部、特に立毛表層部がより天然毛皮様の捲縮を発現し得ることを見出した。さらに、上記乾熱処理によって下記(2)に示す要件を満たす捲縮形状に変化する捲縮を有するポリエステル系繊維は、カード通過性が良好であり、上記ポリッシング処理にて、パイル布帛の立毛部、特に立毛表層部がさらに天然毛皮様の捲縮を発現し得ることを見出した。
また、捲縮を付与するまでの製糸工程において150℃以上の熱を受けていないポリエステル系繊維に対して、130℃以上230℃以下の温度で下記(2)に示す要件を満たす捲縮を付与した後、70℃以上130℃以下の温度で捲縮を付与することで、下記(1)に示す要件を満たす捲縮を有するポリエステル系繊維が得られることを見出した。具体的には、ポリエステル系樹脂又はポリエステル系樹脂組成物を溶融紡糸し延伸した延伸糸を製造する工程、あるいは、延伸糸を熱処理した熱処理糸を製造する工程において、150℃以上の熱を受けていない繊維に対して、捲縮付与工程1にて、130℃以上230℃以下の温度で下記(2)に示す要件を満たす捲縮を付与した後、捲縮付与工程2にて、70℃以上130℃以下の温度で捲縮を付与することで得られた下記(1)に示す要件を満たす捲縮を有するポリエステル系繊維は、150℃で10分間乾熱処理した場合、下記(1)に示す要件を満たす捲縮形状から下記(2)に示す要件を満たす捲縮形状へと変化する捲縮特性を有しており、このような捲縮特性を有するポリエステル系繊維を用いてパイル布帛を作製した場合、カード通過性が良好であるとともに、90℃以上160℃以下の比較的低温でのポリッシング処理で立毛部、特に立毛表層部が天然毛皮様の捲縮を発現したパイル布帛が得られることを見出した。
(1)一次捲縮数が5.0個/25mm以上30.0個/25mm以下であり、かつ二次捲縮数が1.0個/25mm以上4.0個/25mm以下である。
(2)一次捲縮数が3.0個/25mm以上8.0個/25mm以下であり、かつ二次捲縮数が0.0個/25mm以上1.0個/25mm以下である。
【0019】
本発明の1以上の実施形態において、上記ポリエステル系繊維を構成するポリエステル系樹脂は、特に限定されず、例えば、ポリアルキレンテレフタレート及びポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルからなる群から選ばれる一種以上を用いることができる。上記ポリアルキレンテレフタレートとしては、特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等が挙げられる。中でも、熱特性の観点からポリエチレンテレフタレートが好ましい。上記ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルとしては、特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリアルキレンテレフタレートを主体とし、他の共重合成分を含有する共重合ポリエステル等が挙げられる。中でも、熱特性の観点からポリエチレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルが好ましい。本発明において、「主体」とは、50モル%以上含有される成分のことを意味し、「ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステル」は、ポリアルキレンテレフタレートを50モル%以上含有する共重合ポリエステルをいう。好ましくは、「ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステル」は、ポリアルキレンテレフタレートを60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上含有する。
【0020】
上記他の共重合成分としては、例えばイソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、パラフェニレンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スべリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の多価カルボン酸及びそれらの誘導体、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチル等のスルホン酸塩を含むジカルボン酸及びそれらの誘導体、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、4-ヒドロキシ安息香酸、ε-カプロラクトン、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテル等が挙げられる。これらの他の共重合成分は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0021】
上記ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルの具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートを主体とし、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテル、1,4-シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸及び5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルからなる群から選ばれる一種以上の化合物を共重合したポリエステル等が挙げられる。
【0022】
上記ポリアルキレンテレフタレート及び上記ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、又はポリエチレンテレフタレートを主体とし、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテルを共重合したポリエステル、ポリエチレンテレフタレートを主体とし、1,4-シクロヘキサンジメタノールを共重合したポリエステル、ポリエチレンテレフタレートを主体とし、イソフタル酸を共重合したポリエステル、及びポリエチレンテレフタレートを主体とし、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルを共重合したポリエステル等を単独又は2種以上組み合わせて用いることが好ましい。
【0023】
上記ポリエステル系樹脂の固有粘度(IV値)は、特に限定されないが、0.3以上1.2以下であることが好ましく、0.4以上1.0以下であることがより好ましい。固有粘度が0.3以上であると、得られる繊維の機械的強度が低下しない。また、固有粘度が1.2以下であると、分子量が増大しすぎず、溶融粘度が高くなり過ぎることがなく、溶融紡糸が容易となるうえ、繊度も均一になりやすい。
【0024】
上記ポリエステル系繊維には、必要に応じて、例えば、艶消し剤、滑剤、抗酸化剤、着色顔料、安定剤、難燃剤、強化剤等の添加剤を添加してもよい。艶消し剤としては、例えば、二酸化チタン等が挙げられる。滑剤としては、例えば、シリカやアルミナ等の微粒子が挙げられる。
【0025】
本発明の1以上の実施形態において、ポリエステル系繊維は捲縮を有しており、150℃かつ10分間の乾熱処理で捲縮形状が変化することを特徴とする。ここで、捲縮とは、繊維の軸方向に付与される直線ではない周期的な形のことをいい、捲縮形状が変化するとは、ある捲縮形状が別の捲縮形状へ変化することを言い、具体的には、一次捲縮数や二次捲縮数などの捲縮特性、または、捲縮の視覚的な形が変化することを言う。捲縮の形として、ギザギザ型、ウェーブ型、スパイラル型などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、以下において、捲縮形状1は上記乾熱処理前の捲縮形状を、捲縮形状2は上記乾熱処理後の捲縮形状を意味する。
【0026】
本発明の1以上の実施形態において、乾熱処理とは乾燥空気を媒体として熱を与える処理のことをいう。また、ここで言う乾熱処理は、繊維の軸方向へ意図的に張力をかけない無荷重状態で行えば特に限定されないが、具体的には、150℃に設定した対流型熱風乾燥機内に繊維を軸方向が無荷重になるような状態で静置する方法がある。
【0027】
本発明の1以上の実施形態において、上記ポリエステル系繊維の捲縮形状1は下記(1)に示す要件を満たすことが好ましい。
(1)一次捲縮数が5.0個/25mm以上30個/25mm以下であり、かつ二次捲縮数が1.0個/25mm以上4.0個/25mm以下である。
【0028】
本発明の1以上の実施形態において、捲縮形状1が上記要件(1)を満たすと、該捲縮を有するポリエステル系繊維を用いてパイル布帛を加工する際の加工性、具体的には、カード通過性を良好にする。捲縮形状1において、一次捲縮数は5.0個/25mm以上30個/25mm以下であることが好ましく、8.0個/25mm以上15個/25mm以下であることがより好ましい。一次捲縮数が5.0個/25mm未満では繊維同士の絡合性が低く、ウェブが切れやすくなるおそれがある。一方、一次捲縮数が30個/25mmを超えると、繊維間の絡合性が高くなりすぎて、カード通過性が悪くなったり、ネップやスラブを多発してしまうおそれがある。捲縮形状1において、二次捲縮数は1.0個/25mm以上4.0個/25mm以下であることが好ましく、1.5個/25mm以上2.5個/25mm以下であることがより好ましい。二次捲縮数が1.0個/25mm未満では繊維同士の絡合性が低く、ウェブが切れやすくなるおそれがある。一方、二次捲縮数が4.0個/25mmを超えると、繊維間の絡合性が高くなりすぎて、カード通過性が悪くなったり、ネップやスラブを多発してしまうおそれがある。
【0029】
本発明の1以上の実施形態において、上記ポリエステル系繊維の捲縮形状2は、二次捲縮数が0.0個/25mm以上1.0個/25mm以下であることが好ましく、下記(2)に示す要件を満たすことがより好ましい。
(2)一次捲縮数が3.0個/25mm以上8.0個/25mm以下であり、かつ二次捲縮数が0.0個/25mm以上1.0個/25mm以下である。
【0030】
本発明の1以上の実施形態において、捲縮形状2は、上記ポリエステル系繊維をパイル布帛へ加工した際にパイル布帛を構成するポリエステル系繊維が発現する捲縮を示す。パイル布帛を構成するポリエステル系繊維がパイル布帛加工後に天然毛皮様の外観を示すためには、上記乾熱処理後に、二次捲縮数が0.0個/25mm以上1.0個/25mm以下を満たす捲縮を有することが好ましく、一次捲縮数が3.0個/25mm以上8.0個/25mm以下であり、かつ二次捲縮数が0.0個/25mm以上1.0個/25mm以下を満たす捲縮を有することがより好ましい。上記ポリエステル系繊維が、150℃かつ10分間乾熱処理後に、これらの捲縮特性を有しない場合、該捲縮を有するポリエステル系繊維で構成されたパイル布帛のリアル調の外観を示すことができないおそれがある。
【0031】
本発明の1以上の実施形態において、一次捲縮とは、繊維が有する捲縮の内、最小の周期を持つ最も細かい捲縮を意味し、二次捲縮とは、複数の一次捲縮と重なり、一次捲縮よりも大きな周期をもつ捲縮を意味する。
図1に、一次捲縮及び二次捲縮の一例を示している。
図1に示されているように、一次捲縮は繊維が有する捲縮の内、最小の周期を持つ最も細かい捲縮であり、二次捲縮は複数の一次捲縮と重なり、一次捲縮よりも大きな周期をもつ捲縮である。
【0032】
本発明の1以上の実施形態において、一次捲縮数と捲縮率は、JIS L 1015に従い測定したものであり、二次捲縮数は下記のように測定・算出した値である。
<二次捲縮数>
原綿の中から未開繊部分を取り出し、該未開繊部分に荷重をかけずに二次捲縮の山数a及び未開繊部分の繊維長bを測定し、二次捲縮の山数a及び未開繊部分の繊維長bに基づいて、二次捲縮数は下記数式を用い、サンプル数n=5で算出する。なお、未開繊部分として、繊維長が50mm以上のものを用いる。
二次捲縮数(個/25mm)=25a(個)/b(mm)
【0033】
本発明の1以上の実施形態において、上記ポリエステル系繊維の形態は、捲縮を有していれば特に限定されないが、例えば、フィラメント状態、ステープル状態、及びフィラメントが集合したトウ状態等が挙げられる。
【0034】
本発明の1以上の好ましい実施形態において、上記ポリエステル系繊維は、上記要件(1)を満たす捲縮形状1を有しており、150℃かつ10分間の乾熱処理により、上記要件(1)を満たす捲縮形状1から上記要件(2)を満たす捲縮形状2へ変化することから、パイル布帛加工工程の90℃以上160℃以下の低温下のポリッシング工程においてポリエステル系繊維が上記要件(2)を満たす捲縮形状2を発現することができ、それゆえ、天然毛皮様の外観、具体的には緩やかなウェーブ形状を有する立毛部分を得ることができる。150℃かつ10分間の乾熱処理より捲縮形状2を発現しない捲縮を有するポリエステル系繊維の場合には、90℃以上160℃以下の低温下のポリッシング処理では、ポリエステル系繊維が上記要件(2)を満たす捲縮形状2を発現しにくく、天然毛皮様の外観を有する立毛部分を得にくくなるおそれがある。
【0035】
本発明の1以上の実施形態において、特に限定されないが、例えば、カード通過性をより高める観点から、上記ポリエステル系繊維は、捲縮率が5%以上25%以下であることが好ましく、8%以上15%以下であることがより好ましい。また、パイル布帛加工工程の90℃以上160℃以下の低温下のポリッシング処理にて天然毛皮様の外観をより発現しやすい観点から、上記ポリエステル系繊維は、140℃で30分間乾熱処理した場合、捲縮率が5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましい。
【0036】
上記ポリエステル系繊維は、特に限定されないが、例えば、単繊維繊度が10dtex以下であることが好ましく、より好ましくは5dtex以下である。単繊維繊度が10dtexを超える場合は、ポリッシング処理において熱の伝わりが不十分となりやすく、上記要件(2)を満たす捲縮形状を発現させるためにポリッシングの回数を増加させることが求められる場合がある。また、ポリッシングの回数が増えることでソフトな風合いが損なわれる恐れがある。また、上記ポリエステル系繊維は、特に限定されないが、毛さばき性の観点から、例えば、単繊維繊度が1dtex以上であることが好ましい。
【0037】
上記ポリエステル系繊維の断面形状は、特に限定されないが、パイル布帛の触感やへたり回復性の観点から、扁平率1:2から1:7の扁平断面であることが好ましく、さらには扁平長辺部分に凹凸のある異型扁平形状がより好ましい。
【0038】
本発明の1以上の実施形態において、上記ポリエステル系繊維は、製糸工程において150℃以上の熱を受けていないポリエステル系繊維に対して、捲縮付与工程1にて130℃以上230℃以下の温度で上記要件(2)を満たす捲縮形状を付与した後、捲縮付与工程2にて70℃以上130℃以下の温度で捲縮を付与することで、ポリエステル系繊維が上記要件(1)を満たす捲縮形状を有するようにする以外は、通常のポリエステル系繊維と同様の製造方法で作製することが好ましい。
【0039】
本発明の1以上の実施形態において、例えば、まず、ポリエステル系樹脂、又はポリエステル系樹脂及び添加剤をドライブレンドしたポリエステル系樹脂組成物を種々の一般的な混練機を用いて溶融混練してペレット化した後、溶融紡糸することによりポリエステル系繊維を作製することができる。溶融紡糸は、押出機、ギアポンプ、口金等の温度(紡糸温度)を250℃以上300℃以下とし、溶融紡糸し、紡出糸条を加熱筒に通過させた後、ポリエステル系樹脂のガラス転移点以下に冷却し、50m/分以上4500m/分以下の速度で引き取ることにより紡出糸条(未延伸糸)が得られる。
【0040】
紡出糸条(未延伸糸)の延伸は、熱延伸で行うことができる。熱延伸における加熱手段としては、加熱ローラ、ヒートプレート、スチームジェット装置、温水槽等を使用することができ、これらを適宜併用することもできる。延伸温度は、特に限定されず、例えば、50℃以上95℃以下で行ってもよい。必要に応じ、延伸糸を熱処理することができ、熱処理における加熱手段としては、加熱ローラ、ヒートプレート、スチームジェット装置、温水槽等を使用することができ、これらを適宜併用することもできる。延伸倍率は、特に限定されないが、例えば、繊維強度の観点から、300%以上500%以下、好ましくは350%以上450%以下であってもよい。ここで、延伸倍率は、下記式で算出したものである。
延伸倍率(%)=延伸糸の長さ/未延伸糸の長さ×100%
【0041】
「製糸工程において150℃以上の熱を受けていないポリエステル系繊維」とは150℃以上の熱を受けていなければ特に限定されないが、例えば、未延伸糸、延伸糸、延伸糸を150℃未満で弛緩熱処理あるいは緊張熱処理した熱処理糸でもよいが、最終的な糸の機械物性の観点から、延伸糸あるいは150℃未満で熱処理した熱処理糸が好ましい。
【0042】
本発明の発明者らは、1以上の好ましい実施形態において、パイル布帛を構成するポリエステル系繊維が上記要件(2)を満たす捲縮形状を有すると、天然毛皮様の外観、具体的には緩やかなウェーブ形状を発現することを見出した。また、製糸工程において150℃以上の熱を受けていないポリエステル系繊維に対して、捲縮付与工程1において、130℃以上230℃以下の温度で上記要件(2)を満たす捲縮形状を付与することで、ポリエステル系繊維の結晶が該捲縮形状を記憶し、その後カード通過性を高めるために、捲縮付与工程2において、別形状の捲縮を付与して上記要件(1)を満たす捲縮形状を発現させることで外観上は上記要件(2)を満たす捲縮形状が喪失されても、150℃かつ10分間の乾熱処理より上記要件(2)を満たす捲縮形状が復元することを見出した。そして、上記要件(1)を満たす捲縮形状1を有するポリエステル系繊維をパイル布帛の原材料に用いることで、該ポリエステル系繊維はパイル布帛加工工程の90℃以上160℃以下の比較的低温下のポリッシング工程において該捲縮形状が変化して上記要件(2)を満たす捲縮形状を発現し、それゆえ、天然毛皮様の外観、具体的には緩やかなウェーブ形状が残った立毛部分を得ることができる。
【0043】
捲縮付与工程1及び捲縮付与工程2において、ポリエステル系繊維に上述した捲縮特性を付与することができる限り、ギアクリンパー、エンボスロール、スタフィングボックス式のクリンパー等の公知の捲縮付与装置を用いることができる。上記要件(2)を満たす捲縮形状を付与させやすい観点から、捲縮付与工程1は、ギアクリンパー及びエンボスロールからなる群から選ばれる一種以上を用いて行うことが好ましい。また、カード通過性を確保する観点から、捲縮付与工程2は、機械押込法で行うことが好ましい。機械押込法は、例えば、スタフィングボックス式のクリンパーを用いて行うことができる。
【0044】
本発明の1以上の実施形態において、パイル布帛は、パイル部に上記ポリエステル系繊維を含み、該ポリエステル系繊維は一次捲縮数が3.0個/25mm以上8.0個/25mm以下であり、かつ二次捲縮数が0.0個/25mm以上1.0個/25mm以下である捲縮を有する。本発明において、パイル部とは、パイル布帛の基布(地組織とも称される。)部分を除く立毛部分をいう。外観の観点から、上記ポリエステル系繊維をパイル部全体に対して30重量%以上含有することが好ましく、40重量%以上含有することがより好ましく、50重量%以上含有することがさらに好ましい。以下において、パイル部を構成する繊維をパイル繊維とも記す。
【0045】
上記パイル布帛は、天然毛皮に近似した二層構造を実現する観点から、パイル長が異なる長パイル部及び短パイル部を含むことが好ましく、長パイル部の平均パイル長と短パイル部の平均パイル長の差が2mm以上であることが好ましく、5mm以上50mm以下であることがより好ましい。本発明において、平均パイル長とは、パイル布帛のパイル部を構成している繊維を毛並みが揃うように垂直に立たせ、各パイル部において、パイル部を構成している繊維の根元(パイル布帛表面の根元)からパイルの先端部までの長さの測定を10カ所について行ない、その平均値で表わしたものである。
【0046】
上記ポリエステル系繊維は、リアル調の外観を発現させるために、上記パイル布帛の短パイル部に含まれることが好ましく、短パイル部に50重量%以上含まれることがより好ましい。
【0047】
上記パイル部は、上記ポリエステル系繊維に加えて他の繊維、例えば、アクリル系繊維、塩化ビニル系繊維等を含んでもよい。柔軟な風合いが得られる観点から、長パイル部は、アクリロニトリルを35重量%以上95重量%未満含有するアクリル系共重合体で構成されたアクリル系繊維を含むことが好ましい。上記ポリエステル系繊維と、アクリル系繊維を併用することで、極めて良好な風合いを有し、かつへたり回復性・ボリューム感が良好なパイル布帛を提供できる。上記アクリル系共重合体は、アクリロニトリルに加えて、アクリロニトリルと共重合可能な他のモノマーを5重量%超え65重量%以下含むことが好ましい。その他のモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデン及びスルホン酸含有モノマーの金属塩類からなる群から選ばれる一種以上のモノマーを用いることが好ましく、塩化ビニル、塩化ビニリデン及びスチレンスルホン酸ナトリウムからなる群から選ばれる一種以上のモノマーを用いることがより好ましい。
【0048】
本発明の1以上の実施形態において、パイル繊維として上記ポリエステル系繊維(好ましくは上記要件(1)を満たす捲縮形状1を有する)を用い、90℃以上160℃以下の温度でポリッシングを行うことでパイル布帛を作製することができる。得られたパイル布帛において、ポリエステル系繊維が二次捲縮数が0.0個/25mm以上1.0個/25mm以下の捲縮を有する、好ましくは上記要件(2)を満たす捲縮形状を発現することで、立毛部分が天然毛皮様の外観、具体的には緩やかなウェーブ形状を有することになる。
【0049】
本発明の1以上の実施形態において、パイル布帛の作製は、パイル部全体に前記のポリエステル系繊維を30重量%以上含ませることで行うことができる。好ましくは、前記ポリエステル系繊維に対して90℃以上160℃以下の温度でポリッシングを行う。本発明の1以上の好ましい実施形態において、パイル布帛の作製は、パイル繊維として少なくとも上記ポリエステル系繊維を用い、90℃以上160℃以下の温度でポリッシングを行う以外は、通常のパイル布帛と同様の製造方法で作製することができる。例えば、上記ポリエステル系繊維(上記要件(1)を満たす捲縮形状1を有する)でローラカード等のカードを通過させてスライバーを作製し、得られたスライバーをスライバー編機にてパイル布帛に編成し、90℃以上160℃以下の温度でプレポリッシング、プレシャーリングを行い、その後、90℃以上160℃以下の温度でポリッシングを行い、その後シャーリングを行う。90℃以上160℃以下の温度でポリッシングを行うことで、ポリエステル系繊維の捲縮形状が変化し、具体的には上記要件(1)を満たす捲縮形状から変化して上記要件(2)を満たす捲縮形状を発現することになる。ポリッシングは、異なる温度で複数回行ってもよい。また、ポリッシング処理の前に、パイル繊維の毛抜け抑制や巾出しのため、パイル布帛の裏面(立毛部の反対面)にバッキング樹脂をコーティングしてもよい。上記バッキング樹脂としては、アクリル酸エステル系接着剤、ポリウレタン系接着剤等を使用することができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の1以上の実施形態を、実施例及び比較例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
まず、実施例及び比較例で用いた測定方法及び評価方法を説明する。
【0052】
(一次捲縮数及び捲縮率)
JIS L 1015に従い測定した。
【0053】
(二次捲縮数)
原綿の中から未開繊部分を取り出し、該未開繊部分に荷重をかけずに二次捲縮の山数a及び未開繊部分の繊維長bを測定し、二次捲縮の山数a及び未開繊部分の繊維長bに基づいて、下記数式を用い、サンプル数n=5とし、二次捲縮数を算出した。なお、未開繊部分として、繊維長が50mm以上のものを用いた。
二次捲縮数(個/25mm)=25a(個)/b(mm)
【0054】
(カード通過性)
パイル布帛加工段階であるカーディング工程において問題なく実施できた場合は、カード通過性が良好であると判断し、それ以外の場合をカード通過性が不良と判断した。
【0055】
(外観評価)
パイル布帛の外観を下記の基準で評価した。天然毛皮様の外観、具体的には、パイル布帛の立毛部におけるパイル繊維が
図2に示されているリアルフォックスと近似する捲縮形状を有する場合、外観が良好であると判断し、それ以外の場合を外観が不良と判断した。ただし、複数種の繊維を使用したパイル、例えば段差パイルは、捲縮を有するポリエステル繊維が使用されている部分のみを上記基準によって評価した。
【0056】
(実施例1)
<ポリエステル系繊維の作製>
固有粘度(IV値)が0.65のポリエチレンテレフタレート(PET)を用い、通常の紡糸機にて、直径0.4mmの丸断面、穴数48個の紡糸口金を用いて、紡糸温度290℃で、320m/分の速度で紡糸を行い、得られた未延伸糸を80℃の熱ローラーで375%延伸して延伸糸を得た。なお、PETには、PET100重量部に対して艶消し剤として酸化チタンが0.3重量部添加されていた。その後、延伸糸を適当な繊度に合糸した後、155℃に加熱されたギアクリンパーにて下記表1に示す捲縮特性を有する捲縮形状を付与し(捲縮付与工程1)、次いでスタフィングボックス式のクリンパーにて98℃の予熱を経て捲縮を付与することで下記表1に示す捲縮特性の捲縮形状を有する(捲縮付与工程2)、単繊維繊度が3dtexのPET捲縮糸を得た。
<パイル布帛の作製>
上記で得られたPET捲縮糸を51mmにカットしてパイル布帛用原綿を得た。この原綿100重量%をローラーカードに通してスライバーを作製し、スライバー編み機にてパイル布帛を作製した。次いで、120℃でプレポリッシング処理とプレシャーリングを行い、パイル布帛の立毛部の長さを18mmに切りそろえた後、布帛裏面にアクリル酸エステル系接着剤でバックコーティングして巾出し処理を行った。次いで、160℃で3回、130℃で3回、及び100℃で3回ポリッシング処理を行った。その後、シャーリングによって立毛部の長さを20mmに切りそろえて目付約800g/m2のパイル布帛を得た。
【0057】
(実施例2)
<ポリエステル系繊維の作製>
固有粘度(IV値)が0.65のポリエチレンテレフタレート(PET)を用い、通常の紡糸機にて、直径0.3mmの扁平断面、穴数200個の紡糸口金を用いて、紡糸温度270℃、400m/分の速度で紡糸を行い、得られた未延伸糸を80℃の熱ローラーで310%延伸して延伸糸を得た。なお、PETには、PET100重量部に対して艶消し剤として酸化チタンが0.3重量部添加されていた。その後、延伸糸を適当な繊度に合糸した後、180℃に加熱されたエンボスロールにて下記表1に示す捲縮特性を有する捲縮形状を付与し(捲縮付与工程1)、次いでスタフィングボックス式のクリンパーにて98℃の予熱を経て捲縮を付与することで下記表1に示す捲縮特性の捲縮形状を有する(捲縮付与工程2)、単繊維繊度が3dtexの捲縮糸を得た。
<パイル布帛の作製>
上記で得られたPET捲縮糸を用いた以外は、実施例1と同様にしてパイル布帛を作製した。
【0058】
(実施例3)
<ポリエステル系繊維の作製>
固有粘度(IV値)が0.65のポリエチレンテレフタレート(PET)を用い、通常の紡糸機にて、直径0.3mmの扁平断面、穴数200個の紡糸口金を用いて、紡糸温度270℃で、400m/分の速度で紡糸を行い、得られた未延伸糸を80℃の熱ローラーで310%延伸して延伸糸を得た。なお、PETには、PET100重量部に対して艶消し剤として酸化チタンが0.3重量部添加されていた。その後、延伸糸を適当な繊度に合糸した後、180℃に加熱されたエンボスロールにて下記表1に示す捲縮特性を有する捲縮形状を付与し(捲縮付与工程1)、次いでスタフィングボックス式のクリンパーにて98℃の予熱を経て捲縮を付与することで下記表1に示す捲縮特性の捲縮形状を有する(捲縮付与工程2)、単繊維繊度が3dtexの捲縮糸を得た。
<パイル布帛の作製>
上記で得られたPET捲縮糸を用いた以外は、実施例1と同様にしてパイル布帛を作製した。
【0059】
(実施例4)
<ポリエステル系繊維の作製>
実施例3と同様にしてPET捲縮糸を作製した。
<パイル布帛の作製>
上記で得られたPET捲縮糸を51mmにカットしてパイル布帛用原綿を得た。この原綿50重量部と単繊維繊度27dtex、カット長102mmのアクリル系繊維(樹脂組成:アクリロニトリル50重量部、塩化ビニル49.5重量部、スチレンスルホン酸0.5重量部)を30重量部、単繊維繊度12dtex、カット長78mmの上記アクリル系繊維を20重量部を混綿し、ローラーカードに通してスライバーを作製し、スライバー編み機にてパイル布帛を作製した。次いで、120℃でプレポリッシング処理を行い、布帛裏面にアクリル酸エステル系接着剤でバックコーティングして巾出し処理を行った。次いで、160℃で3回、130℃で3回、及び100℃で3回ポリッシング処理を行い。目付約1100g/m2の段差パイル布帛を得た。
【0060】
(比較例1)
<ポリエステル系繊維の作製>
延伸糸を180℃に設定された均熱風乾燥機中で1分間熱処理し、その後、適当な繊度に合糸した後、スタフィングボックス式のクリンパーにて98℃の予熱を経て捲縮を付与し、捲縮付与後に熱処理を行っていない以外は、実施例1と同様にして単繊維繊度が3dtexの捲縮糸を得た。
<パイル布帛の作製>
上記で得られたPET捲縮糸を用いた以外は、実施例1と同様にしてパイル布帛を作製した。
【0061】
(比較例2)
<ポリエステル系繊維の作製>
固有粘度(IV値)が0.65のポリエチレンテレフタレート(PET)を用い、通常の紡糸機にて、直径0.3mmの扁平断面、穴数200個の紡糸口金を用いて、紡糸温度270℃で、400m/分の速度で紡糸を行い、得られた未延伸糸を80℃の熱ローラーで310%延伸して延伸糸を得た。なお、PETには、PET100重量部に対して艶消し剤として酸化チタンが0.3重量部添加されていた。その後、延伸糸を適当な繊度に合糸した後、180℃に加熱されたエンボスロールにて下記表1に示す捲縮特性を有する捲縮形状を付与し(捲縮付与工程1)、単繊維繊度が3dtexの捲縮糸を得た。
<パイル布帛の作製>
上記で得られたPET捲縮糸を51mmにカットしてパイル布帛用原綿を得た。この原綿100%でローラーカードに通しスライバー作成を試みたが繊維間のからまりが弱く、スライバーを作製できなかった。
【0062】
(比較例3)
<ポリエステル系繊維の作製>
固有粘度(IV値)が0.65のポリエチレンテレフタレート(PET)を用い、通常の紡糸機にて、直径0.3mmの扁平断面、穴数200個の紡糸口金を用いて、紡糸温度270℃で、400m/分の速度で紡糸を行い、得られた未延伸糸を80℃の熱ローラーで310%延伸して延伸糸を得た。なお、PETには、PET100重量部に対して艶消し剤として酸化チタンが0.3重量部添加されていた。その後、延伸糸を適当な繊度に合糸した後、180℃に加熱されたエンボスロールにて下記表1に示す捲縮特性を有する捲縮形状を付与し(捲縮付与工程1)、単繊維繊度が3dtexの捲縮糸を得た。
<パイル布帛の作製>
上記で得られたPET捲縮糸を51mmにカットしてパイル布帛用原綿を得た。この原綿100%でローラーカードに通しスライバー作成を試みたが繊維間のからまりが弱く、スライバーを作製できなかった。
【0063】
(比較例4)
<ポリエステル系繊維の作製>
固有粘度(IV値)が0.65のポリエチレンテレフタレート(PET)を用い、通常の紡糸機にて、直径0.3mmの扁平断面、穴数200個の紡糸口金を用いて、紡糸温度270℃で、400m/分の速度で紡糸を行い、次いで80℃の熱ローラーで310%延伸して延伸糸を得た。なお、PETには、PET100重量部に対して艶消し剤として酸化チタンが0.3重量部添加されていた。その後、延伸糸を適当な繊度に合糸した後、180℃に加熱されたエンボスロールにて下記表1に示す捲縮特性を有する捲縮形状を付与し(捲縮付与工程1)、単繊維繊度が3dtexの捲縮糸を得た。
<パイル布帛の作製>
上記で得られたPET捲縮糸を51mmにカットしてパイル布帛用原綿を得た。この原綿100%でローラーカードに通しスライバー作成を試みたが繊維間のからまりが弱く、スライバーを作製できなかった。
【0064】
実施例1~4、及び比較例1~4において、ポリエステル系繊維の一次捲縮数、捲縮率及び二次捲縮数を上述したとおりに測定した。また、実施例1~4、及び比較例1~4で得られたPET捲縮糸を、150℃で10分間乾熱処理した後、具体的には150℃に設定した対流型熱風乾燥機内に10分間静置した後、乾熱処理後のPET捲縮糸の一次捲縮数、捲縮率及び二次捲縮数を上述したとおりに測定した。また、実施例1~4、及び比較例1で得られたパイル布帛の外観を上述したとおりに評価した。これらの結果を下記表1に示した。
【0065】
【0066】
表1から分かるように、上記要件(1)を満たす捲縮形状を有し、150℃かつ10分間の乾熱処理で、上記要件(2)を満たす捲縮形状を発現する実施例1~4の捲縮を有するポリエステル系繊維を用いた場合、カード通過性が良好であるとともに、90℃以上160℃以下の比較的低温のポリッシング処理でパイル布帛の立毛表層部に天然毛皮様の捲縮を残留させることができた。実施例においては、捲縮を付与するまでの製糸工程において150℃以上の熱を受けていないポリエステル系繊維に対して、捲縮付与工程1において、130℃以上230℃以下の温度で上記要件(2)を満たす捲縮形状を付与した後、捲縮付与工程2において、70℃以上130℃以下の温度で捲縮を付与することで、上記要件(1)を満たす捲縮形状を有するポリエステル系繊維を得ることができ、該ポリエステル系繊維を150℃で10分間乾熱処理した場合、上記要件(2)を満たす捲縮形状を発現していた。
【0067】
一方、上記要件(1)を満たす捲縮形状を有するが、150℃かつ10分間の乾熱処理で、上記要件(2)を満たす捲縮形状を発現しない比較例1のポリエステル系繊維を用いた場合、カード通過性は良好であるが、90℃以上160℃以下の比較的低温のポリッシング処理でパイル布帛の立毛表層部に天然毛皮様の捲縮を残留させることができなかった。また、上記要件(2)を満たす捲縮形状を有するが、150℃かつ10分間の乾熱処理で捲縮形状が変化しない比較例2~4の捲縮を有するポリエステル系繊維は、カード通過性が悪く、パイル布帛を作製することができなかった。