(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】配管支持具
(51)【国際特許分類】
F16L 3/14 20060101AFI20240605BHJP
【FI】
F16L3/14 B
(21)【出願番号】P 2021522749
(86)(22)【出願日】2020-05-25
(86)【国際出願番号】 JP2020020531
(87)【国際公開番号】W WO2020241564
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/020699
(32)【優先日】2019-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】392018078
【氏名又は名称】日栄インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148518
【氏名又は名称】松田 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100160314
【氏名又は名称】西村 公芳
(74)【代理人】
【識別番号】100134038
【氏名又は名称】野田 薫央
(72)【発明者】
【氏名】大野 杏介
(72)【発明者】
【氏名】米田 守
【審査官】奈須 リサ
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0017630(US,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1645922(KR,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0067608(KR,A)
【文献】特開2014-214868(JP,A)
【文献】特開2018-013179(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 3/00-3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項10】
前記第一の対向片又は前記第二の対向片には、前記吊ボルトの前記タンバックルへの過挿入を防止する挿入規制部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の配管支持具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物等の構造物に取り付けられて配管を支持する配管支持具に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物等の構造物(「土木・建築にかかる設計の基本」(国土交通省)に定義されているように、本願では「構造物」を「目的とする機能を持ち、作用に対して抵抗することを意図として人為的に構築されるもの」として用いる。)に取り付けられて配管を支持する配管支持具として、例えば特許文献1及び特許文献2に記載の配管支持具がある。
【0003】
特許文献1に記載の配管支持具(配管吊バンド)は、タンバックルと、タンバックルに取り付けられる第一の取付部(吊片)及び第一の取付部の下方に設けられて配管の周面を支持する第一の支持部(湾曲片)を有する第一の支持部材(配管仮置き用のバンド片)と、タンバックルに取り付けられる第二の取付部(吊片)及び第二の取付部の下方に設けられて配管の周面を支持する第二の支持部(湾曲片)を有する第二の支持部材(配管抑え用のバンド片)と、タンバックル、第一の取付部及び第二の取付部にそれぞれ形成された挿通孔(ボルト孔)を挿通し、タンバックル、第一の取付部及び第二の取付部をナットと共に締着するボルトとを備え、第一の支持部材及び第二の支持部材に、湾曲した第一の支持部及び第二の支持部の内径より径大の円弧部をなす径大部位が配置され、ボルト及びナットの締着時の滑動可能性が防止されることにより、配管作業の作業効率を可及的高度に確保するとともに配管の安定かつ確実な被嵌保持をなし得るようにしている。
【0004】
また、特許文献2に記載の配管支持具は、タンバックルと、タンバックルに取り付けられる第一の取付部(支持片部)及び第一の取付部の下方に設けられて配管の周面を支持する第一の支持部(配管抱持部)を有する第一の支持部材(バンド部)と、タンバックルに取り付けられる第二の取付部(支持片部)及び第二の取付部の下方に設けられて配管の周面を支持する第二の支持部(配管抱持部)を有する第二の支持部材(バンド部)と、タンバックル、第一の取付部及び第二の取付部にそれぞれ形成された挿通孔(ボルト孔)を挿通し、タンバックル、第一の取付部及び第二の取付部をナットと共に締着するボルトとを備え、第一の支持部材の末端部には、組機構あるいは蝶番機構により一端が連結された開閉部材が取り付けられ、第二の支持部材には、開閉部材の他端が掛止する掛止機構が設けられ、第一の支持部材及び第二の支持部材が、第一の取付部又は第二の取付部の少なくとも一方に弾性部材を配設することによりタンバックルに対し押圧状態に取り付けられることにより、ボルト・ナットの弛緩・緊締作業が極く僅かで又は全く不要で配管抱持取付時の操作性が高められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-214648号公報
【文献】特開2004-245306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載の配管支持具では、配管作業時に作業者が第一の支持部材(配管仮置き用のバンド片)に配管を仮置きするが、その際、第二の支持部材(配管抑え用のバンド片)をボルトの軸回りに回動させて一方の手で押さえることによって、第一の支持部材と第二の支持部材との間に隙間を確保した上で、その隙間を通してもう一方の手で配管を仮置きしなければならず、作業性に改良の余地があった。
【0007】
また、特許文献2に記載の配管支持具では、配管作業時に作業者が開閉部材を押さえ続ける必要はないが、第一の支持部材及び第二の支持部材を拡開させて配管を嵌め込まなければならず(同特許文献の
図3参照)、複数の配管支持具で一つの配管を支持する場合の作業性が必ずしも良好ではなく、第一の取付部又は第二の取付部に弾性部材を配設する構成は、部品点数や組付工数の増大につながり、好ましくないという問題があった。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、簡易な構成で配管作業の作業性が良好な配管支持具を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る配管支持具は、構造物に取り付けられる基部、及び、前記基部から下方に延在する一対の対向片を有するタンバックルと、前記一対の対向片のうち第一の対向片に当接して取り付けられる第一の取付部、及び、前記第一の取付部の下方に設けられて配管の周面の一部を支持する第一の支持部を有する第一の支持部材と、前記一対の対向片のうち第二の対向片に当接して取り付けられる第二の取付部、及び、前記第二の取付部の下方に設けられて前記配管の周面の他部を支持し、前記第一の支持部と係合する第二の支持部を有する第二の支持部材と、前記第一の対向片、前記第二の対向片、前記第一の取付部及び前記第二の取付部にそれぞれ形成された挿通孔を挿通し、前記第一の対向片、前記第二の対向片、前記第一の取付部及び前記第二の取付部を締結する締結部材とを備え、前記第二の取付部には、前記第一の対向片、前記第二の対向片、前記第一の取付部及び前記第二の取付部が締結された状態で前記第二の対向片に当接する当接片、並びに、前記当接片の上部から上方かつ前記第二の対向片から離れる方向に延在する傾斜片が設けられ、前記第二の取付部の挿通孔は、前記当接片から前記傾斜片に亘って形成されていることを特徴とする。
【0010】
この配管支持具によれば、第二の取付部には、第一の対向片、第二の対向片、第一の取付部及び第二の取付部が締結された状態で第二の対向片に当接する当接片、並びに、当接片の上部から上方かつ第二の対向片から離れる方向に延在する傾斜片が設けられ、第二の取付部の挿通孔は、当接片から傾斜片に亘って形成されているので、配管作業時に、作業者は、締結部材が挿通孔の中で相対的に当接片の側から傾斜片の側に移動するように第二の支持部材を持ち上げ、当接片ではなく傾斜片を第二の対向片に当接させることにより、第二の支持部材を第一の支持部材に対して開いたままにして配管支持具の内部に配管を入れることができ、配管作業時に、作業者が、第二の支持部材を押さえ続ける必要はない。そして、この作業は、従来の配管支持具に比して部品点数や組付工数を特に増大させることなく実現可能であるので、本発明に係る配管支持具は、簡易な構成で配管作業の作業性を良好とすることができる。
【0011】
前記第一の取付部の前記第一の対向片に当接する部分及び前記当接片は、上下方向の寸法が同一又は略同一であることが望ましく、これにより、締結部材の締結時にタンバックルが傾く事態を防止することができる。
【0012】
前記締結部材は、前記第一の対向片、前記第二の対向片、前記第一の取付部及び前記第二の取付部の各挿通孔を挿通するボルト、並びに、前記ボルトに螺合するナットからなることが望ましく、このとき、前記第一の対向片及び前記第二の対向片が、前記基部に対して弾性変形可能であり、前記ボルト又は前記ナットに、前記ボルトに対して前記ナットを緩めても前記第一の対向片及び前記第二の対向片の弾性変形が維持されるように前記ナットを抜け止めする抜止部が設けられていれば、ナットの脱落が防止されるとともに、傾斜片を第二の対向片に当接させて第一の支持部材に対して第二の支持部材を開いたままにした状態(仮施工時)において、第一の対向片から第一の支持部材に、第二の対向片から第二の支持部材にそれぞれ弾性力が加わり、第一の支持部材及び第二の支持部材のグラつきが抑制されて配管作業の作業性を一層高めることができる。
【0013】
また、このとき、前記第一の取付部又は前記第二の取付部に、前記ナットの少なくとも一部が前記ボルトに仮止めされた状態で収まる凹部が設けられていれば、ナットが完全に締め付けられる前の仮止め状態において、作業者が配管の位置を調整するために配管を動かし、これに伴い第二の支持部材が第一の支持部材に対して上下にずれようとしても、凹部に少なくとも一部が収まっているナットが凹部に引っ掛かり、その上下のずれを抑制するので、配管作業の作業性を一層高めることができる。
【0014】
さらに、前記第一の支持部及び前記第二の支持部には、互いに係合する係合爪及び被係合部が設けられ、前記ボルトに対する前記ナットの締付けを増すと、前記係合爪及び前記被係合部が強く係合してもよく、これにより、第一の支持部及び第二の支持部の係合の緩みを抑制することができる。このとき、前記第二の支持部には、前記第一の支持部との係合作業を容易とするために、前記係合爪の前記被係合部への係合を案内する案内部が設けられていることが望ましい。
【0015】
前記第一の支持部には、前記第二の支持部の前記係合爪及び前記被係合部の係合が外れる方向への動きを規制する規制部が設けられていてもよく、これにより、ナットが完全に締め付けられる前の仮止め状態において、作業者が配管の位置を調整するために配管を動かし、これに伴い第二の支持部材が第一の支持部材に対して係合爪及び被係合部の係合が外れる方向にずれようとしても、第一の支持部に設けられた規制部が、第二の支持部のその係合が外れる方向への動きを規制し、配管位置の調整中に係合が外れる事態を防止するので、配管作業の作業性を一層高めることができる。
【0016】
前記基部には、前記構造物に固定された吊ボルトに螺着する回転ナットが挿嵌される挿嵌孔が設けられ、前記第一の対向片又は前記第二の対向片には、前記回転ナットの前記挿嵌孔からの脱落を防止する抜止部が設けられていてもよく、前記第一の対向片又は前記第二の対向片には、さらに、前記吊ボルトの前記タンバックルへの過挿入を防止する挿入規制部が設けられていることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る配管支持具によれば、簡易な構成で配管作業の作業性を良好とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】発明を実施するための形態に係る配管支持具を示す斜視図である。
【
図3】
図1の配管支持具のタンバックルを示す正面図である。
【
図4】
図1の配管支持具の一のバンド片を示す斜視図である。
【
図5】
図1の配管支持具の他のバンド片を示す斜視図である。
【
図6】
図1の配管支持具について、配管作業時に他のバンド片を開いた状態を示す正面図である。
【
図7】
図6の配管支持具について、一のバンド片の支持部に配管を仮置きした状態を示す正面図である。
【
図8】
図7の配管支持具について、他のバンド片を閉じた状態を示す正面図である。
【
図9】
図8の配管支持具について、一のバンド片と他のバンド片とを係合させ、これらの吊部とタンバックルの締着部とを締結部材により締結した状態を示す正面図である。
【
図10】
図9の配管支持具について、一のバンド片の吊部の上下方向の寸法が大きくタンバックルが傾いた状態を示す正面図である。
【
図11】タンバックル及びバンド片の変形例について、一のバンド片の支持部に配管を仮置きした状態を示す斜視図である。
【
図12】
図11のタンバックル及びバンド片を示す正面図である。
【
図13】(a)は、吊ボルトがタンバックルに過挿入された状態を示す説明図、(b)は、ストッパー部により吊ボルトのタンバックルへの過挿入が防止された状態を示す説明図である。
【
図14】
図11の一のバンド片の規制爪を拡大して示す説明図である。
【
図15】
図14の規制爪が、他のバンド片の係合爪及び被係合孔の係合が外れる方向への動きを規制する様子を示す説明図である。
【
図16】(a)は、
図11の凹部が他のバンド片の一のバンド片に対する上下のずれを抑制する様子を示す正面図、(b)は、その側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
【0020】
図1及び
図2に示すように、本実施の形態に係る配管吊金具10は、建築物の設備用配管Pの吊下げに供するもので、建築物の天井スラブ等に上端が固定された吊ボルトBに取り付けられるタンバックル20と、タンバックル20に取り付けられるバンド片30及びバンド片40と、タンバックル20、バンド片30及びバンド片40を締着(締結)する締結部材50とを備え、締結部材50は、ボルト60及びナット70により構成されている。
【0021】
タンバックル20は、帯状の鋼板をプレス加工してなり、平面視矩形状の基部21と、基部21から下方に延在し、基部21に対して弾性変形可能な一対の締着片22,23とを有する。基部21の中央部には、吊ボルトBに螺着する回転ナット24が挿嵌される挿嵌孔21aが形成されている。回転ナット24の下部には、挿嵌孔21aより大径のフランジ部24a(
図6乃至
図9参照)が形成され、回転ナット24が吊ボルトBに螺着すると、フランジ部24aが基部21の挿嵌孔21aの周囲を下方から支持し、基部21が吊ボルトBを介して構造物に取り付けられる。
【0022】
図3に示すように、締着片22は、基部21の左縁部(
図3における基部21の左側の縁部)から基部21と略垂直をなすように下方に延在する第一節間部22aと、第一節間部22aの下縁部から締着片23の側に傾斜して延在する第二節間部22bと、第二節間部22bの下縁部からさらに下方に延在し、バンド片30と重なり合う重合部22cとを有する。
【0023】
締着片23は、基部21の右縁部(
図3における基部21の右側の縁部)から基部21と略垂直をなすように下方に延在する第一節間部23aと、第一節間部23aの下縁部から締着片22の側に傾斜して延在する第二節間部23bと、第二節間部23bの下縁部からさらに下方に延在し、バンド片40と重なり合う重合部23cとを有する。
【0024】
第一節間部22a及び第一節間部23aには、回転ナット24が挿嵌孔21aから抜け落ちないように、回転ナット24の下方で起立する抜止部22d及び抜止部23dが形成され、重合部22c及び重合部23cには、ボルト60の軸部61が挿通する丸孔22e及び丸孔23eが形成されている。
【0025】
バンド片30は、帯状の鋼板をプレス加工してなり、
図4に示すように、締着片22の重合部22cに重なり合い当接して取り付けられる吊部31と、吊部31の下方に設けられ、配管Pの周面のうち下端部Paを含む一部を支持する支持部32とを有する。
【0026】
吊部31は、高さ寸法hの略矩形の平板状を呈し、吊部31には、ボルト60の軸部61が挿通する丸孔31aと、丸孔31aを挟んで外側に突出する一対の突出部31b,31bとが形成されている。一対の突出部31b,31bは、ボルト60の軸部61にナット70が螺合する際に、ボルト60の頭部62(
図6乃至
図9参照)の回転(つれ回り)を規制する。
【0027】
支持部32は、配管Pの外径と同一又は略同一の径の円弧状に湾曲した湾曲部32aと、吊部31と湾曲部32aとの間に設けられ、湾曲部32aよりも大径の円弧状に湾曲した拡径部32bと、湾曲部32aの先端に設けられ、円弧の外側に向かって鉤状に湾曲した係合爪32cとを有する。
【0028】
バンド片40は、帯状の鋼板をプレス加工してなり、
図5に示すように、締着片23の重合部23cに重なり合って取り付けられる吊部41と、吊部41の下方に設けられ、配管Pの周面のうち他部を支持する支持部42とを有する。
【0029】
吊部41には、吊部41が締着片22,23及び吊部31とともに後述のように締結された状態で、締着片23に当接する当接片43、並びに、当接片43の上部から上方かつ締着片23から離れる方向に延在する傾斜片44が設けられている。当接片43は、吊部31と同様に、高さ寸法hの略矩形の平板状を呈し、当接片43から傾斜片44に亘って、ボルト60の軸部61が挿通する長孔41aが形成されている。
【0030】
支持部42は、配管Pの外径と同一又は略同一の径の円弧状に湾曲した湾曲部42aと、吊部41と湾曲部42aとの間に設けられ、湾曲部42aよりも大径の円弧状に湾曲した拡径部42bと、湾曲部42aの先端に設けられ、係合爪32cと係合する被係合孔42cが形成された折曲部42dとを有する。折曲部42dの内側で被係合孔42cの先端側には、係合爪32cの被係合孔42cへの係合を案内するテーパ面42eが設けられている。
【0031】
ボルト60は、周囲にネジが形成された軸部61が、吊部31の丸孔31a、締着片22の丸孔22e、締着片23の丸孔23e及び吊部41の長孔41aをこの順に挿通し、頭部62が吊部31に当接する。ナット70は、軸部61の長孔41aから突出した部分に螺合している。ボルト60の軸部61には、ナット70を抜け止めするようにネジ面が不規則に加工された抜止部61aが設けられ、ナット70を抜止部61aまで緩めても、頭部62及びナット70が吊部31及び吊部41を介して締着片22及び締着片23にタンバックル20の内側に向かう力を加え、基部21に対する締着片22,23の弾性変形が維持されるようになっている。そして、締着片22,23の弾性力に抗してナット70を締め付けることにより、吊部31、締着片22、締着片23及び吊部41が締結される。
【0032】
配管支持具10による配管作業時には、作業者は、まず、
図6に示すように、ボルト60の軸部61が長孔41aの中で相対的に当接片43の側から傾斜片44の側に移動するようにバンド片40を持ち上げ、当接片43ではなく傾斜片44を締着片23に当接させることにより、バンド片40をバンド片30に対して開いたままの状態にする。このとき、締着片23の弾性による付勢力(
図6の右向きの付勢力)が吊部41に作用するから、作業者は、バンド片40を下方に引き下げて軸部61を当接片43に形成された長孔41aの中で相対的に上方に移動させた後、バンド片40をその付勢力に抗して
図6の矢印A方向に回動させ、軸部61を傾斜片44に形成された長孔41aの中で相対的に上方に移動させる。
【0033】
次に、作業者は、
図7に示すように、バンド片30とバンド片40との間から配管支持具10の内部に配管Pを入れ、その周面のうち下端部Paを含む一部を支持部32の湾曲部32aに支持させることにより、配管Pを仮置きする。
【0034】
続いて、作業者は、
図8に示すように、バンド片40を開いたときとは逆の軌跡を辿るように矢印B方向に回動させて閉じ、
図9に示すように、係合爪32cをテーパ面42eに案内させながら被係合孔42cに引っ掛けて係合爪32cと被係合孔42cとを係合させ、ナット70を締め付ける。ボルト60に対するナット70の締付けを増すと、バンド片40には矢印C方向の力が作用するから、係合爪32c及び被係合孔42cが強く係合する。
【0035】
本実施の形態に係る配管支持具10によれば、吊部41には、吊部41が締着片22,23及び吊部31とともに締結された状態で締着片23に当接する当接片43、並びに、当接片43の上部から上方かつ締着片23から離れる方向に延在する傾斜片44が設けられ、かつ、ボルト60の軸部61が挿通する長孔41aが当接片43から傾斜片44に亘って形成されているので、配管Pの配管作業時に、作業者は、ボルト60の軸部61が長孔41aの中で相対的に当接片43の側から傾斜片44の側に移動するようにバンド片40を持ち上げ、傾斜片44を締着片23に当接させることにより、バンド片40をバンド片30に対して開いたままにして配管支持具10の内部に配管Pを入れることができる。したがって、配管作業時に、作業者が、バンド片40を押さえ続ける必要はない。そして、この作業は、従来の配管支持具に比して部品点数や組付工数を特に増大させることなく実現可能であるので、配管支持具10は、簡易な構成で配管作業の作業性を良好とすることができる。
【0036】
また、吊部31の締着片22に当接する部分(ここでは、吊部31全体)及び当接片43は、上下方向の寸法が同一のhであるので、締結部材50の締結時にタンバックル20が傾く事態を防止することができる。すなわち、
図10に示すように、例えば吊部31の締着片22に当接する部分の寸法が当接片43の寸法よりもΔhだけ大きい場合には、締結部材50の力が締着片23よりも締着片22の方に広範に作用してタンバックル20が時計回りの方に傾くが、本実施の形態のように、吊部31の締着片22に当接する部分の寸法及び当接片43の寸法が同一又は略同一であると、締着片22,23が左右から同様に力を受け、そのような傾きが抑制される。
【0037】
ボルト60の軸部61には、ナット70を抜け止めするようにネジ面が不規則に加工された抜止部61aが設けられ、ナット70を抜止部61aまで緩めても、基部21に対する締着片22,23の弾性変形が維持されるようになっているから、ナット70の脱落が防止されるとともに、傾斜片44を締着片23に当接させてバンド片30に対してバンド片40を開いたままにした状態(仮施工時)において、締着片22からバンド片30に、締着片23からバンド片40にそれぞれ弾性力が加わり、バンド片30及びバンド片40のグラつきが抑制されて配管作業の作業性が一層高められている。
【0038】
さらに、バンド片30及びバンド片40には、互いに係合する係合爪32c及び被係合孔42cが設けられ、ボルト60に対するナット70の締付けを増すと、係合爪32c及び被係合孔42cが強く係合するので、バンド片30及びバンド片40の係合の緩みを抑制することができる。
【0039】
図11及び
図12は、タンバックル20、バンド片30及びバンド片40の変形例を示す。
【0040】
タンバックル20では、抜止部22dが締着片23の方を向いて抜止部23dが締着片22の方を向くとともに、抜止部22d,23dの下方に抜止部22d,23dよりも長いストッパー部22f,23fが設けられている。吊ボルトBにタンバックル20を取り付ける際に、吊ボルトBは回転ナット24を介してタンバックル20に挿入されるが、
図13(a)に示すように、もしこのタンバックル20への挿入が過挿入となると、締着片22,23の弾性変形が妨げられる。しかし、ストッパー部22f,23fは、同図(b)に示すように、その過挿入を防止するので、締着片22,23の弾性変形が吊ボルトBにより妨げられて、配管作業に支障を来す事態が防止される。
【0041】
バンド片30には、
図14に示すように、係合爪32cを挟んで一対の規制爪32d,32dが設けられている。配管作業では、ナット70が完全に締め付けられる前の仮止め状態(
図9でボルト60に対するナット70の締付けを増す前の状態)において、作業者が配管Pの位置を調整するために配管Pを動かし、これに伴いバンド片30,40が互いにガチャガチャと動くことがあるが、
図15に示すように、仮にバンド片40がバンド片30に対して矢印D方向に動いて係合爪32c及び被係合孔42cの係合が外れる方向にずれようとしても、支持部32に設けられた規制爪32dが折曲部42dに当たり、支持部42のその係合が外れる方向への動きを規制するので、配管位置の調整中に係合が外れる事態を防止することができる。
【0042】
バンド片40には、長孔41aの下端の位置に、仮止め状態でナット70の一部が収まる凹部41bが設けられている。作業者が仮止め状態で配管Pの位置を調整するために配管Pを動かし、
図16に示すように、仮にバンド片40がバンド片30に対して矢印E方向に動いて上下にずれようとしても、凹部41bに収まっているナット70が凹部41bに引っ掛かり、その上下のずれを抑制するので、配管作業の作業性を一層高めることができる。
【0043】
以上、本発明を実施するための形態について例示したが、本発明の実施形態は上述したものに限られず、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更等してもよい。
【0044】
例えば、上記実施の形態では、バンド片30に係合爪32cが、バンド片40に被係合孔42cが設けられているが、係合の態様はこれに限られるものではなく、バンド片30に被係合孔が、バンド片40に係合爪が設けられていても勿論かまわない。
【0045】
また、上記実施の形態では、ボルト60の軸部61に抜止部61aが設けられているが、このような抜止部はボルトではなく、ナットに設けられていてもよく、規制爪32dの形状や形成位置、個数も上述したものに限られず、例えば
図17に示す規制部32eのように爪状でなくてもよい。
【符号の説明】
【0046】
10 配管支持具
20 タンバックル
21 基部
22 締着片(第一の対向片)
22d 抜止部(脱落防止部)
22e 丸孔(挿通孔)
22f ストッパー部(過挿入防止部)
23 締着片(第二の対向片)
23d 抜止部(脱落防止部)
23e 丸孔(挿通孔)
23f ストッパー部(過挿入防止部)
30 バンド片(第一の支持部材)
31 吊部(第一の取付部)
31a 丸孔(挿通孔)
32 支持部(第一の支持部)
32c 係合爪
32d 規制爪(動作規制部)
32e 規制部(動作規制部)
40 バンド片(第二の支持部材)
41 吊部(第二の取付部)
41a 長孔(挿通孔)
41b 凹部
42 支持部(第二の支持部)
42c 被係合孔(被係合部)
42e テーパ面(案内部)
43 当接片
44 傾斜片
50 締結部材
60 ボルト
61a 抜止部
70 ナット
P 配管