(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】中鎖トリグリセリドの食前投与により食事に由来する食後血糖を低減する組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/23 20060101AFI20240605BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20240605BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240605BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20240605BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240605BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20240605BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20240605BHJP
A23L 33/12 20160101ALI20240605BHJP
【FI】
A61K31/23
A61P3/04
A61P3/10
A61K9/107
A61K47/26
A61K47/42
A61K47/44
A23L33/12
(21)【出願番号】P 2021551585
(86)(22)【出願日】2020-03-20
(86)【国際出願番号】 EP2020057716
(87)【国際公開番号】W WO2020193385
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-03-13
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【氏名又は名称】戸津 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100167597
【氏名又は名称】福山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】クナウド, ベルナルト
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-514725(JP,A)
【文献】国際公開第2011/118810(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/118968(WO,A1)
【文献】J Physiol,2018年,596(8),pp.1385-1395
【文献】Frontiers in Nutrition,2018年,5,Article 62 (8 pages)
【文献】J Clin Invest.,1985年,76(3),pp.1019-1024
【文献】Journal of the American College of Nutrition,1994年,13(6),pp.615-622
【文献】European Journal of Clinical Nutrition,2014年,pp.1-7
【文献】J COLOPROCTOL,2019年,39(1),pp.62-66
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食事に由来する食後血糖を低減する際に使用するための組成物であって、中鎖トリグリセリド(MCT)を含む前記組成物を個体に経口投与し、続いて、前記MCTを含む前記組成物の前記経口投与後及び前記MCTを含む前記組成物の前記経口投与の1時間以内に、前記食事を前記個体に経口投与する、組成物。
【請求項2】
前記個体が、肥満、糖尿病及び前糖尿病からなる群から選択される少なくとも1つの状態を有する、請求項1に記載の
組成物。
【請求項3】
前記個体が、年齢を重ねた対象である、請求項1に記載の
組成物。
【請求項4】
前記個体が、高齢である、請求項3に記載の
組成物。
【請求項5】
前記MCTを含む前記組成物が、液体である、請求項1に記載の
組成物。
【請求項6】
前記組成物が、1サービング中に少なくと
も15.0gの前記MCT~最
大30.0gの前記MCTを含み前記個体に投与される、請求項1に記載の
組成物。
【請求項7】
前記組成物が、タンパク質、脂質、炭水化物、及び乳化剤からなる群から選択される少なくとも1つの追加の成分中に乳化された前記MCTを含む、請求項1に記載の
組成物。
【請求項8】
前記食事が、前記MCTを含む前記組成物の前記投与
の10分後から前記MCTを含む前記組成物の前記投与
の1時間後までの間に投与される、請求項1に記載の
組成物。
【請求項9】
前記食事が、前記MCTを含む前記組成物の前記投与
の15分後から前記MCTを含む前記組成物の前記投与
の40分後までの間に投与される、請求項1に記載の
組成物。
【請求項10】
前記食事が、前記MCTを含む前記組成物の前記投与
の30分後に投与される、請求項1に記載の
組成物。
【請求項11】
前記食事が、朝食である、請求項1に記載の
組成物。
【請求項12】
前記MCTの少なくとも一部が、オクタン酸又はデカン酸のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の
組成物。
【請求項13】
前記個体における前記食後血糖が、(i)前記食事と、前記MCTを含む前記組成物とを、ほぼ同時に前記個体へ経口投与すること、及び(ii)食
前1時間以内又は食
後1時間以内のMCT投与を何ら行わずに食事を経口投与すること、からなる群から選択される少なくとも1つの比較条件下での食後血糖と比較して、低減される、請求項1に記載の
組成物。
【請求項14】
前記組成物が、準完全栄養の経口栄養補助(ONS)用液である、請求項1に記載の
組成物。
【請求項15】
前記個体が、前記MCTによる胃腸副作用を経験しない、請求項1に記載の
組成物。
【請求項16】
前記個体が、前記個体に対する、前記MCTを含む前記組成物の前記経口投与から、前記個体に対する前記食事の前記経口投与までの期間中に、任意の水分補給以外にいかなる食品製品も摂取しない、請求項1に記載の
組成物。
【請求項17】
食事に由来する食後血糖を低減することが有益である少なくとも1つの状態を治療又は予防する際に使用するための組成物であって、食後血糖の低減を必要とする又は食後血糖によるリスクがある個体に中鎖トリグリセリド(MCT)を含む前記組成物を経口投与し、続いて、前記MCTを含む前記組成物の前記経口投与後及び前記MCTを含む前記組成物の前記経口投与の1時間以内に、前記食事を前記個体に経口投与する、組成物。
【請求項18】
前記少なくとも1つの状態が、肥満、前糖尿病、糖尿病、及び高齢になることによる症状からなる群から選択される、請求項17に記載の
組成物。
【請求項19】
前記食事が、前記MCTを含む前記組成物の前記投与
の10分後から前記MCTを含む前記組成物の前記投与
の1時間後までの間に投与される、請求項17に記載の
組成物。
【請求項20】
前記食事が、前記MCTを含む前記組成物の前記投与
の15分後から前記MCTを含む前記組成物の前記投与
の40分後までの間に投与される、請求項17に記載の
組成物。
【請求項21】
前記食事が、前記MCTを含む前記組成物の前記投与
の30分後に投与される、請求項17に記載の
組成物。
【請求項22】
栄養を提供するためのキットであって、
中鎖トリグリセリド(MCT
)を含む経口投与可能な組成物と、
前記MCTを含む前記経口投与可能な組成物とはキットにおいて別に保存されている食事の少なくとも一部と、
説明書と、
を含み、
前記説明書が、
前記MC
Tを含む組成物を個体に経口投与し、続いて、前記MCTを含む前記組成物の前記経口投与後及び前記MCTを含む前記組成物の前記経口投与
の1時間以内に、前記個体に食事を経口投与するためのものである、
キット。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
[0001]本開示は、概して、中鎖トリグリセリド(MCT)を投与した後に食事を投与すること、例えば、食事の約30分前にMCTを投与すること、及び食後血糖(postprandial glucose、PPG)値を低下させるMCTの機能に関する。
【0002】
[0002]糖尿病は、身体がインスリンを産生又は使用できないことにより生じる高血糖値を主な特徴とする代謝状態である。高血糖症は、失明、四肢切断、心臓発作、又は脳卒中を含む多くの臨床的合併症を引き起こす可能性がある。
【0003】
[0003]最も一般的なタイプの糖尿病は、インスリン依存性糖尿病(1型糖尿病T1D)及び非インスリン依存性糖尿病(2型糖尿病T2D)である。最も多く認められるタイプは2型糖尿病(T2D)であり、主に肥満率の増加に伴い増加している。
【0004】
[0004]更に、正常値よりは高いが、糖尿病と診断されるほど高くはない血糖を有すると定義される前糖尿病状態は、糖尿病人口の大幅な増加に関係している。
【0005】
[0005]2型糖尿病の発症の病態生理学は、複雑かつ多因子である。肥満、座りがちな生活スタイル、及び/又は加齢は、経時的なインスリン抵抗性及び循環インスリン濃度の増加につながる可能性がある。ある時点で血糖の制御低下が現れ始め、耐糖能障害(IGT)又は空腹時血糖障害(IFG)が引き起こされ、最終的には2型糖尿病となり得る。したがって、IGT及びIFGは、正常なグルコース恒常性と糖尿病との間の中間的な代謝状態を指す。
【0006】
[0006]更なる試験、経口グルコース負荷試験(OGTT)を実施して、患者が糖尿病であるか、又はIGTを有するかについて評価することができる。OGTTは、75gのグルコースを含有するグルコース飲料を含む。この飲料の投与から1時間後及び2時間後に患者の血糖値を測定する。
【0007】
[0007]グルコースは人体にとって必須栄養素であることから、末梢組織に適切な量を供給するために、その循環レベルを注意深く一定に維持しなければならない。肝臓は、グリコーゲン合成を介したグルコースの取り込み及び貯蔵と、グリコーゲン分解及びグルコース新生によるその放出とのバランスをとることによって、グルコースの恒常性において中心的な役割を果している。グルコースの恒常性の障害は、2型糖尿病の典型的な特徴である。2型糖尿病の患者は、空腹時高血糖症の主な原因として特定され、かつ血漿グルコースクリアランスの低下と関連がある肝臓でのグルコース産生(HGP)の増加を示し(Gastaldelli A,et al.,Diabetes 2000;49:1367-1373)、また、非糖尿病患者と比較してグリコーゲンの合成の25~45%の低減も示す(Roden M,et al.,Best Pract Res Clin Endocrinol Metab.2003;17:365-83)。
【0008】
[0008]最適な血糖管理は、糖尿病の管理の基本である。空腹時血漿グルコース(FPG)及び食後血漿グルコース(PPG)の値はいずれも合併症のリスクと相関があり、糖化ヘモグロビン(A1C)の測定値に関係する。7.0%超のA1C値は、微小血管合併症及び心血管(CV)合併症の両方のリスクの有意な増加と関連がある。PPGは、高血糖症全般に関する重要な要素であり、A1Cのゴールが近い患者及び中高年者においては主要な要素であり得る。
【0009】
[0009]PPGは、いくつかの因子をもとに、例えば、食事の総カロリー量、主要栄養素の組成、及び炭水化物の質(例えば、血糖指数/血糖負荷)をもとに決定され、これらはすべて監視及び制御され得る。しかしながら、T2Dなどの疾患に関与するその他複数の因子は、制御することができず、個体間で様々であるため、より複雑である。これらの因子としては、胃内容物排出速度、腸管吸収速度、腸内分泌細胞によるインクレチン分泌(enteroendocrine incretin secretion)、インクレチン感受性、膵臓ベータ細胞のインスリン分泌機能、肝臓のインスリン消費率(insulin extraction)、肝臓グルコース産生、グルコース有効性、すべての組織(特に、脳、脂肪、肝臓、筋肉)におけるグルコース取り込み、インスリン感受性、及び腎グルコース再吸収が挙げられる。
【0010】
[0010]糖尿病患者における食後血糖のピークを制限することは、血糖管理戦略全般において重要な目標となっている。糖尿病においては、PPGが制御不良であることが一般的である。この制御不良は高血糖症全般に関与し、予後不良と関連がある。したがって、特異的にPPGを標的とする治療選択肢は、1型糖尿病(T1D)及び2型糖尿病(T2D)の患者における血糖管理を達成及び維持するための重要な要素であり、前糖尿病患者の症状が糖尿病であるとして診断される状態へと進行するのを防ぐ可能性がある。
【0011】
[0011]T2Dの実際の治療は、単独で又はインスリンと組み合わせて使用することができる複数種の薬物類を含む。メトホルミン及びチアゾリジンジオンなどの殆どの従来の経口抗糖尿病薬(OAD)は、主にFPGを標的とし、PPG値に直接に与える影響はわずかであり、又はFPG及びPPGの両方を標的とし、低血糖症イベントが有意に増加する。
【0012】
[0012]特異的にPPGを標的とする薬物類としては、メグリチニド、アルファ-グルコシダーゼ阻害剤、GLP1-1受容体アゴニスト、DPP4阻害剤、アミリンアゴニスト又は食事によるインスリン(Prandial Insulin)が挙げられる。これらの主な欠点としては、インスリン抵抗性及び低血糖症の悪化につながり得る食後インスリン分泌が付随的に増加すること、A1Cに対する有効性が中程度であること、GI副作用があること、及び皮下注射が必要であることが挙げられる。
【0013】
[0013]したがって、選択的にPPGを標的とする有効で安全かつ簡便な治療選択肢は、T1D及びT2D、並びに前糖尿病状態の患者における血糖管理を達成及び維持するための重要な要素である。
【発明の概要】
【0014】
[0014]中鎖トリグリセリド(MCT)が血糖値に対し効果を示すこと、並びにMCTは食後血糖に対しても効果を示すことが複数の刊行物において報告されている。しかしながら、本発明者の知る限りでは、特定のタイミングでのMCT投与が食後血糖に対する効果に影響することは、本特許出願より以前には報告されていない。本発明者の知る限りでは、特定のタイミングでの食事がMCTの効果に影響することは、本特許出願より以前には報告されていない。本明細書において以下でより詳細に記載されるように、本発明者は、驚くべきことに、かつ予想外に、食事前に投与されたMCTエマルションが、MCTを用いずに与えられた食事又はMCTと同時に与えられた食事と比較して、食後血糖の有意な低減を提供することを示す研究を実施した。また驚くべきことに、食事と一緒に又は食前にMCTを摂取したところ、食後血糖は有意に低減したものの、インスリンレベルには有意な影響を与えなかった。
【0015】
[0015]したがって、非限定的な実施形態では、本開示は、食事に由来する食後血糖を低減する方法を提供する。当該方法は、中鎖トリグリセリド(MCT)を含む組成物を個体に経口投与し、続いて、MCTを含む組成物の経口投与後及びMCTを含む組成物の経口投与の約1時間以内に、好ましくは、MCTを含む組成物の経口投与の少なくとも約10分後及びMCTを含む組成物の経口投与の約1時間以内、例えば、MCTを含む組成物の経口投与の少なくとも約15分後及びMCTを含む組成物の経口投与後約40分以内、例えば、MCTを含む組成物の経口投与の約30分後に、個体に食事を経口投与することを含む。一実施形態では、個体は、(i)肥満、糖尿病及び前糖尿病からなる群から選択される少なくとも1つの状態を有する個体である、及び/又は(ii)年齢を重ねた個体であり、例えば、中高年者若しくは高齢者である。
【0016】
[0016]例えば、MCTを含む組成物の経口投与は、食事の投与の約10分前から食事の投与の約1時間前までの間であることができ、食事の投与の少なくとも約15分前、及び食事の投与前の約40分以内、例えば、食事の投与の約30分前であることができる。好ましくは、個体は、(i)MCTを含む組成物の投与と、(ii)食事の投与との間の期間において、任意の水分補給以外にいかなる食品製品も摂取しない。
【0017】
[0017]組成物は、1サービング当たり最大で約30gのMCT、例えば、約5g~約30gのMCT、約10g~約30gのMCT、又は約15g~約30gのMCTを提供する1サービングを個体に投与することができる。MCTの少なくとも一部は、オクタン酸又はデカン酸のうちの少なくとも1種を含み得る。MCTの少なくとも一部は、β-ヒドロキシブチレート、アセトアセテート及びこれらの混合物からなる群から選択されるケトンへと代謝され得る。
【0018】
[0018]一実施形態では、MCTを含む組成物を食事の投与前に投与すること(例えば、食事の約30分前にMCTを投与)によって得られる食後血糖は、MCTを含む組成物を同時に投与された食事に由来する食後血糖よりも低い。追加的又は代替的に、MCTを含む組成物を食事の投与前に投与すること(例えば、食事の約30分前にMCTを投与)によって得られる食後血糖は、MCTを全く含まない食事の投与に由来する食後血糖よりも低い。
【0019】
[0019]MCTを含む組成物は、準完全栄養を提供する経口栄養補助食品(ONS)であり得る。任意選択で、組成物は、MCTに追加して1つ以上の原材料、例えば、タンパク質、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラル、賦形剤、乳化剤、安定剤、及びこれらの混合物からなる群から選択される任意選択の追加の成分を含むことができる。最終製剤は、すぐに摂取できる液体状又はゲル状にすることができ、又は使用前に水で再構成される粉末状にすることができる。
【0020】
[0020]別の実施形態では、本開示は、食後血糖の低減が有益である少なくとも1つの状態を治療又は予防する方法を提供する。当該方法は、MCTを含む組成物を、組成物を必要とする又はリスクがある個体に経口投与し、続いて、MCTを含む組成物の経口投与後及びMCTを含む組成物の経口投与の約1時間以内に、好ましくは、MCTを含む組成物の経口投与の少なくとも約10分後及びMCTを含む組成物の経口投与の約1時間以内、例えば、MCTを含む組成物の経口投与の少なくとも約15分後及びMCTを含む組成物の経口投与後約40分以内、例えば、MCTを含む組成物の経口投与の約30分後に、個体に食事を経口投与することを含む。治療又は予防される少なくとも1つの状態は、好ましくは、肥満、前糖尿病、糖尿病、及び高齢になることによる症状(effects of being elderly)からなる群から選択される。
【0021】
[0021]追加の特徴及び利点は、以降の発明の詳細な説明及び図面に記載され、これらにより明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本明細書に開示される代謝試験に関し、平均血糖を(ベースラインに対し)経時的に示すグラフである。
【
図2】本明細書に開示される代謝試験に関し、平均インスリン濃度を経時的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[0024]定義
[0025]以下、いくつかの定義を示す。しかしながら定義が以下の「実施形態」の項にある場合もあり、上記の見出し「定義」は、「実施形態」の項におけるそのような開示が定義ではないことを意味するものではない。
【0024】
[0026]パーセンテージはすべて、特に明記しない限り組成物の総重量に対する重量によるものとする。同様に、比はすべて、特に明記しない限り重量によるものとする。本明細書で使用するとき、「約」、「およそ」、及び「実質的に」は、数値範囲内、例えば、参照数字の-10%から+10%の範囲内、好ましくは-5%から+5%の範囲内、より好ましくは、参照数字の-1%から+1%の範囲内、最も好ましくは参照数字の-0.1%から+0.1%の範囲内の数を指すものと理解される。
【0025】
[0027]更に、本明細書におけるすべての数値範囲は、その範囲内のすべての整数、整数又は分数を含むものと理解されたい。更に、これらの数値範囲は、この範囲内の任意の数又は数の部分集合を対象とする請求項をサポートすると解釈されたい。例えば、1~10という開示は、1~8、3~7、1~9、3.6~4.6、3.5~9.9などの範囲をサポートするものと解釈されたい。「~の間(between)」を使用して定義される範囲は、参照される端点を含む。
【0026】
[0028]本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、別途文脈が明らかに示していない限り、単数形の単語は複数形を含む。したがって、「1つの」、「ある」、及び「当該」」(「a」、「an」及び「the」)の言及には、概してそれぞれの用語の複数形が包含される。例えば、「原材料(an ingredient)」又は「方法(a method)」と言及する際は、複数の、かかる「原材料」又は「方法」が含まれる。「X及び/又はY」という文脈で使用される用語「及び/又は」は、「X」若しくは「Y」又は「X及びY」と解釈されるべきである。同様に、「X又はYのうちの少なくとも1つ」は、「X」若しくは「Y」又は「X及びYの両方」と解釈されるべきである。
【0027】
[0029]同様に、「含む/構成される(comprise)」、「含む/構成される(comprises)」、及び「含む/構成される(comprising)」という用語は、排他的ではなく、他を包含し得るものとして解釈されるべきである。同様にして、用語「含む(include)」、「含む(including)」及び「又は(or)」はすべて、このような解釈が文脈から明確に妨げられない限りは他を包含し得るものであると解釈される。しかし、本開示により提供される実施形態は、本明細書で具体的に開示されない任意の要素を含まない場合がある。したがって、用語「含む(comprising)」を用いて規定される実施形態の開示は、開示される構成要素「から本質的に構成される」、及び「から構成される」実施形態の開示でもある。「から本質的に構成される」とは、実施形態又はその構成成分が、個別に特定された構成成分を50重量%超、好ましくは個別に特定された構成成分を少なくとも75重量%、より好ましくは個別に特定された構成成分を少なくとも85重量%、最も好ましくは個別に特定された構成成分を少なくとも95重量%、例えば、個別に特定された構成成分を少なくとも99重量%含むことを意味する。
【0028】
[0030]本明細書で使用するとき、用語「例(example)」は、特に、後に用語の列挙が続く場合に、単に例示的なものであり、かつ説明のためのものであり、排他的又は包括的なものであるとみなすべきではない。本明細書で開示されるすべての実施形態は、特に明示的に示されない限り、本明細書で開示される任意の別の実施形態と組み合わせることができる。
【0029】
[0031]「動物」としては、齧歯類動物、水生哺乳動物、イヌ及びネコなどの飼育動物、ヒツジ、ブタ、ウシ及びウマなどの家畜、並びにヒトを含むがこれらに限定されない哺乳動物が挙げられるが、これらに限定されない。「動物」若しくは「哺乳動物」、又はこれらの複数形が使用される場合には、これらの用語は、その節の文脈により示される又は示されることが意図される効果を得られる任意の動物、例えば、食後血糖の低減により利益を受ける動物にも適用される。用語「個体」又は「対象」は、本明細書において多くの場合にヒトを指すのに用いられるが、本開示はそのように限定されない。したがって、用語「個体」又は「対象」は、本明細書に開示される方法及び組成物から利益を得ることができる任意の動物、哺乳動物又はヒトを指す。
【0030】
[0032]「改善された」、「低減された」、「向上された」などの相対的な用語は、本明細書に開示される方法が食後血糖に対して示す効果を指しており、特に、MCTを含有する組成物を食事の投与前(例えば、食事の約30分前)に投与することによる効果を、配合が同一である食事をMCTは投与せずに投与することによる効果と、あるいは配合が同一である食事をMCTと同時に投与することによる効果と比較して指すものである。
【0031】
[0033]本明細書で使用するとき、「治療する」及び「治療」という用語は、ある状態を有する対象に対して、その状態に関連する少なくとも1つの症状を減弱、低減若しくは改善することを目的として、かつ/又はその状態の進行を遅延、低下若しくは阻止することを目的として、本明細書に開示される組成物を投与することを意味する。用語「処置/治療」及び「処置/治療する」には、抑止的又は予防的治療(対象とする病的状態又は障害を予防する及び/又は発症を遅らせる治療)と、治癒的、治療的、又は疾患改質的治療との両方が含まれ、例えば、診断された病的状態又は障害の治癒、遅延、症状の軽減、及び/又は進行の停止のための治療的手段、並びに、疾患に罹患する危険性がある患者、又は疾患に罹患した疑いのある患者、及び体調不良の患者、又は疾患若しくは医学的状態に罹患していると診断された患者の治療が含まれる。用語「処置/治療」及び「処置/治療する」は、対象が全快するまで治療することを必ずしも意味するものではない。「処置/治療」及び「処置/治療する」という用語はまた、疾患に罹患してはいないが不健康な状態を招きやすい可能性のある個体の健康を維持及び/又は促進することも指す。用語「処置/治療」及び「処置/治療する」はまた、1つ又は複数の主たる予防又は治療手段の相乗作用、又はそうでない場合強化を含むことも目的としている。非限定的な例として、処置/治療は、患者、介護者、医師、看護師、又は別の医療専門家によって行うことができる。
【0032】
[0034]「予防する」及び「予防」という用語は、その状態の症状を何ら示していない対象に対して、その状態に関連する少なくとも1つの症状の発症を低減又は予防するために本明細書に開示される組成物を投与することを意味する。更に、「予防」には、状態又は障害の危険性、発生率、及び/又は重症度の低減が含まれる。本明細書で使用するとき、「有効量」とは、個体における、欠乏を治療若しくは防止する、疾患若しくは医学的状態を治療若しくは防止する、又は、更に一般的には、個体に対して、症状を軽減する、疾患の進行を管理する、若しくは栄養学的、生理学的若しくは医学的利益を提供する量である。
【0033】
[0035]「過体重」は、ヒトに関しては、体格指数(BMI)が25~30kg/m2であることとして定義される。「肥満」は、ヒトに関しては、BMIが少なくとも30kg/m2、例えば30~39.9kg/m2であることとして定義される。
【0034】
[0036]「糖尿病」には、疾患のI型及びII型の両方が包含される。糖尿病の危険因子の非限定的な例としては、ウエストラインが男性で40インチ超又は女性で35インチ超であること、血圧が130/85mmHg以上であること、トリグリセリドが150mg/dL超であること、空腹時血糖が100mg/dL超であること、又は高密度リポタンパク質が男性で40mg/dL未満若しくは女性で50mg/dL未満であることが挙げられる。したがって、「糖尿病のリスクがある個体」は、これらの因子のうちの1つ以上を有し得る。
【0035】
[0037]「前糖尿病」とは、その個体が次の特徴、すなわち、5.7~6.4%の糖化ヘモグロビン(A1C)値、100~125mg/dL(5.6~7.0mmol/L)の空腹時血糖値、又は140~199mg/dL(7.8~11.0mmol/L)の血糖値のうちの少なくとも1つを有していることを意味している。
【0036】
[0038]本明細書で使用するとき、「投与する」は、言及されている組成物を個体が摂取できるよう当該組成物を個体に提供する別の人を含み、また、言及されている組成物を摂取する個体自身の行為のみも含む。
【0037】
[0039]用語「食品」、「食品製品」、及び「食品組成物」は、ヒトなどの個体による摂取を意図するものであり、個体に少なくとも1つの栄養素を提供する、組成物を意味する。「食品」及びその関連用語には、ヒト又は他の動物を対象とした任意の食品、餌、スナック、栄養補助食品、トリート、食事代用物、又は置換食が含まれる。動物用食品には、任意の飼養された動物又は野生種を対象とした食品又は餌が含まれる。好ましい実施形態では、動物用食品は、ペレット化された、押出成形された、又は乾燥させた食品、例えば、犬及び猫用食品などの押出成形されたペットフードを表す。
【0038】
[0040]本明細書で使用するとき、用語「サービング」又は「単位剤形」は、互換可能であり、対象とするヒト及び動物のための単位用量として好適な、物理的に別個の単位を指し、各単位は、好ましくは医薬として許容される希釈剤、担体、又はビヒクルと関連して所望の効果をもたらすのに十分な量で本明細書に開示されるMCTを含む組成物の所定量を含有する。単位剤形の仕様は、使用される具体的な化合物、達成しようとする効果、及びホスト体内の各化合物に関連する薬力学によって決まる。一実施形態では、単位剤形は、ボトルなどの容器内に収容された所定量の液体であり得る。
【0039】
[0041]「経口栄養補助食品」又は「ONS」は、少なくとも1つの主要栄養素及び/又は少なくとも1つの微量栄養素を含む組成物であり、例えば、滅菌液、半固体又は粉末の形態であり、例えば食品によるものなどの他の栄養摂取を補うことを意図する組成物である。市販のONS製品の非限定例としては、MERITENE(登録商標)、BOOST(登録商標)、NUTREN(登録商標)、及びSUSTAGEN(登録商標)が挙げられる。いくつかの実施形態では、ONSは、液体を更に添加せずとも摂取され得る、例えば、液量が組成物の1サービング分である、液体形態の飲料とすることができる。
【0040】
[0042]本明細書で使用するとき、「準完全栄養(incomplete nutrition)」とは、好ましくは、栄養製品が含有している主要栄養素(タンパク質、脂肪及び炭水化物)又は微量栄養素が、この栄養製品を投与される動物のための唯一の栄養源とするのに十分なレベルのものではない、栄養製品を指す。
【0041】
[0043]用語「キット」は、1つ若しくはそれより多くの容器中の又は容器を伴うキットの構成要素が、物理的に関連付けられており、製造、配送、販売、又は使用のための1つのユニットとして考えられることを意味している。入れ物としては、袋、箱、カートン、ボトル、任意の種類、設計若しくは材料の包装、上包装、シュリンク包装、添付された構成要素(例えば、ステープルで留められたもの、又は接着されたものなど)、又はこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
[0044]トリグリセリド(トリアシルグリセロール又はトリアシルグリセリドとしても知られている)は、グリセロールと3つの脂肪酸とから誘導されるエステルである。脂肪酸は、不飽和又は飽和のいずれであってもよい。他の分子に結合していない脂肪酸は、遊離脂肪酸(FFA)と呼ばれる。
【0043】
[0045]中鎖トリグリセリド(MCT)は、分子中の3つの脂肪酸部分のすべてが中鎖脂肪酸部分であるトリグリセリドである。本明細書で定義されるとき、中鎖脂肪酸(MCFA)は、6~12個の炭素原子を有する脂肪酸である。8個の炭素原子を有する中鎖脂肪酸は、本明細書中で、「C8脂肪酸」又は「C8」と呼ばれることがある。10個の炭素原子を有する中鎖脂肪酸は、本明細書中で、「C10脂肪酸」又は「C10」と呼ばれる場合がある。
【0044】
[0046]用語「脂肪酸部分」とは、グリセロールとのエステル化反応において脂肪酸に由来するMCT部分を指す。非限定的な例として、グリセロールとオクタン酸のみとの間のエステル化反応では、オクタン酸部分を含むMCTが生じる。別の非限定的な例として、グリセロールとデカン酸のみとの間のエステル化反応では、デカン酸部分を含むMCTが生じる。
【0045】
[0047]オクタン酸(カプリル酸としても知られる)は、式CH3(CH2)6COOHの飽和脂肪酸である。
【0046】
[0048]デカン酸(カプリン酸としても知られる)は、式CH3(CH2)8COOHの飽和脂肪酸である。
【0047】
[0049]実施形態
[0050]本開示の一態様は、食事に由来する食後血糖を低減する方法である。当該方法は、中鎖トリグリセリド(MCT)を含む組成物を、個体に経口投与し、続いて、MCTを含む組成物の経口投与後及びMCTを含む組成物の経口投与の約1時間以内に、好ましくは、MCTを含む組成物の経口投与の少なくとも約10分後及びMCTを含む組成物の経口投与の約1時間以内、より好ましくは、MCTを含む組成物の経口投与の少なくとも約15分後及びMCTを含む組成物の経口投与の約40分以内、例えば、MCTを含む組成物の経口投与の約30分後に、個体に食事を経口投与することを含む。本明細書で使用するとき、「続いて」は、少なくとも約5分後、好ましくは少なくとも約10分後、より好ましくは少なくとも約15分後、更により好ましくは少なくとも約20分後、なおより好ましくは少なくとも約25分後、最も好ましくは約30分後を意味する。
【0048】
[0051]別の実施形態では、本開示は、食後血糖(PPG)の低減が有益である、少なくとも1つの状態を治療又は予防する方法を提供する。当該方法は、MCTを含む組成物を、食後血糖の低減を必要とする又は食後血糖によるリスクがある個体に経口投与し、続いて、MCTを含む組成物の経口投与後及びMCTを含む組成物の経口投与の約1時間以内に、好ましくは、MCTを含む組成物の経口投与の少なくとも約10分後及びMCTを含む組成物の経口投与の約1時間以内、より好ましくは、MCTを含む組成物の経口投与の少なくとも約15分後及びMCTを含む組成物の経口投与の約40分以内、例えば、MCTを含む組成物の経口投与の約30分後に、個体に食事を経口投与することを含む。治療又は予防される少なくとも1つの状態は、好ましくは、肥満、前糖尿病、糖尿病、及び高齢になることによる症状からなる群から選択される。
【0049】
[0052]本明細書で使用するとき、「食事」は、それぞれが実質的に同時に摂取される1つ以上の食品製品を指し、好ましくは、その結果として、少なくとも1種の主要栄養素及び少なくとも1種の微量栄養素が、食事を摂取することによって提供され、より好ましくは、その結果として、1種以上のタンパク質、1種以上の炭水化物、1種以上の脂質、1種以上のビタミン及び1種以上のミネラルが、食事を摂取することによって提供される。好ましくは、食事は、複数の食品製品を含む。一実施形態では、食事は、200kcal~1,000kcal、好ましくは250kcal~900kcal、より好ましくは300kcal~850kcal、最も好ましくは350kcal~800kcalを提供する。一実施形態では、食事は、MCTを実質的に含まない(すなわち、2.5重量%未満、好ましくは2.0重量%未満、より好ましくは1.0重量%未満、最も好ましくは0.5重量%未満のMCT)、又はMCTを完全に含まない。
【0050】
[0053]MCTを含む組成物の投与は、食事の投与の約10分前から食事の投与の約1時間前までの間であってよく、好ましくは、食事の投与の少なくとも約15分前から食事の投与の約40分前までの間であってよく、例えば、食事の投与の約30分前であってよい。好ましくは、個体は、MCTを含む組成物の投与と、食事の投与との間の期間において、任意の水分補給以外にいかなる食品製品も摂取しない。
【0051】
[0054]いくつかの実施形態では、食事は朝食である。例えば、MCTを含む組成物は、朝食前に個体に投与することができ、続いて、MCTを含む組成物の投与後に朝食を個体に投与することができる。例えば、朝食は、MCTを含む組成物の投与の約10分後からMCTを含む組成物の投与の約1時間後までの間であることができ、好ましくは、MCTを含む組成物の経口投与の少なくとも約15分後及びMCTを含む組成物の経口投与後約40分以内、例えば、MCTを含む組成物の投与の約30分後であることができる。
【0052】
[0055]本明細書で使用するとき、「朝食」は、その日に個体によって摂取される最初の食事である。例えば、朝食は、個体の現地時間に従って正午前に摂取することができ、好ましくは、個体の現地時間に従って午前11:00時前に、より好ましくは、個体の現地時間に従って午前10:00時前に、最も好ましくは、個体の現地時間に従って午前9:00時前に摂取することができるが、個体が睡眠から目覚めた後、及び/又は個体の現地時間に従って午前4時以降、好ましくは、個体の現地時間に従って午前5時以降、より好ましくは、個体の現地時間に従って午前6時以降、最も好ましくは、個体の現地時間に従って午前7時以降に摂取することができる。
【0053】
[0056]一実施形態では、MCTを含む組成物を食事の投与前に投与すること(例えば、食事の約30分前にMCTを投与)によって得られる食後血糖は、MCTを含み配合が同一である組成物を食事の投与とほぼ同時に投与することに由来する食後血糖よりも低い。
【0054】
追加的又は代替的に、MCTを含む組成物を食事の投与前に投与すること(例えば、食事の約30分前にMCTを投与)によって得られる食後血糖は、食前約1時間以内又は食後約1時間以内のMCT投与を何ら行わずに食事を投与することに由来する食後血糖よりも低い。
【0055】
[0057]一実施形態では、少なくとも約5gのMCT、例えば、少なくとも約10gのMCT、例えば、少なくとも約15gのMCTを提供する、1サービングの組成物が個体に投与される。いくつかの実施形態では、組成物の1サービングあたり最大30gのMCTが投与される。
【0056】
[0058]MCTは、3つの脂肪酸部分を含み、その各々は独立して6個~12個、6個~11個、6個~10個、7個~12個、7個~11個、7個~10個、8個~12個、8個~11個又は8個~10個の炭素原子を有する。一実施形態において、MCTの少なくとも一部は、1つ以上のオクタン酸部分を含有する。一実施形態において、MCTの少なくとも一部は、1つ以上のデカン酸部分を含有する。
【0057】
[0059]好ましくは、組成物は、MCTの少なくとも一部をもたらす1種以上の天然素材を含有する。MCTの好適な天然素材の非限定的な例としては、植物素材、例えば、ココナッツ、ココナッツ油、パーム核、及びパーム核油が挙げられ、また動物素材、例えば、ミルクも挙げられる。例えば、デカン酸及びオクタン酸は、それぞれ、ココナッツ油の脂肪酸組成の約5~8%及び4~10%を占める。
【0058】
[0060]追加的に又は代替的に、MCTの少なくとも一部は、グリセロールと、6~12個の炭素原子からなる尾部を有する1つ以上の中鎖脂肪酸(MCFA)とのエステル化によって合成され得る。例えば、各々8個の炭素原子を有する3つの脂肪酸部分を含むホモトリグリセリドは、グリセロールをC8脂肪酸(例えば、オクタン酸)でエステル化することによって合成でき、各々10個の炭素原子を有する3つの脂肪酸部分を含むホモトリグリセリドは、グリセロールをC10脂肪酸(例えば、デカン酸)でエステル化することによって合成できる。
【0059】
[0061]一実施形態では、組成物は、少なくとも1つのオクタン酸部分又はデカン酸部分を含むMCTを含み、組成物は、任意の他のトリグリセリドを含まない、又は実質的に含まない。本明細書で使用するとき、用語「任意の他のトリグリセリドを含まない」とは、組成物が、少なくとも1つのオクタン酸部分又はデカン酸部分を含有しないトリグリセリドを何ら含まないことを意味する。本明細書で使用するとき、用語「任意の他のトリグリセリドを実質的に含まない」とは、組成物が他の微量のトリグリセリド、すなわち、5モル%未満、好ましくは3モル%未満、より好ましくは2モル%未満、更により好ましくは1モル%未満、又は最も好ましくは0.5モル%未満の他のトリグリセリドを含有し得ることを意味する。
【0060】
[0062]いくつかの実施形態では、MCTを含む組成物は、栄養組成物又は栄養補助食品の形態であり得る。用語「栄養補助食品」は、対象の普段の食生活を補助することを意図した製品を指す。例えば、MCTを含む組成物は、準完全栄養を提供する経口栄養補助食品(ONS)であり得る。ONSは、MCTに加えて1種以上の原材料、例えば、タンパク質、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラル、及びこれらの混合物からなる群から選択される追加の成分を含むことができる。更に、代替実施形態では、MCTを含む組成物は、完全栄養製品の形態であってもよい。用語「完全栄養製品」は、対象にとって唯一の栄養源となり得る製品を指す。
【0061】
[0063]好ましい実施形態では、組成物は、タンパク質、脂質又は炭水化物のうちの1種以上の混合物で乳化されたMCTを含み、任意選択的に、食品用着香料(例えば、バニラ)を更に含む。
【0062】
[0064]好適なタンパク質の非限定的な例としては、動物タンパク質、例えば、乳タンパク質、肉タンパク質及び卵タンパク質;又は植物性タンパク質、例えば、大豆タンパク質、小麦タンパク質、米タンパク質、エンドウ豆タンパク質、トウモロコシタンパク質、キャノーラタンパク質、オート麦タンパク質、ジャガイモタンパク質、ピーナッツタンパク質、及び豆、ソバ、若しくはレンズ豆由来の任意のタンパク質などが挙げられる。乳タンパク質、例えば、カゼイン及び乳清、並びに大豆タンパク質は、いくつかの用途で好ましい場合がある。タンパク質が乳タンパク質又は乳タンパク質画分である場合、タンパク質は、例えば甘性乳清、酸性乳清、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン、ウシ血清アルブミン、酸カゼイン、カゼイネート、α-カゼイン、β-カゼイン及び/又はγ-カゼインであり得る。
【0063】
[0065]好適な炭水化物の非限定的な例としては、単糖類及び/又は二糖類、遅消化性完全カロリー炭水化物、オリゴ糖、又はこれらの混合物が挙げられる。特定の非限定的な例としては、マルトデキストリン、マルトース、高マルトースコーンシロップ、フルクトース、ガラクトース、スクロース、ラクトース、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0064】
[0066]MCTに追加される好適な脂質の非限定的な例としては、モノアシルグリセロール(MAG)、ジアシルグリセロール(DAG)、長鎖トリグリセリド(LCT)、短鎖脂肪酸(SCFA)、分岐鎖脂肪酸(BCFA)、構造化MAG、構造化DAG、脂肪酸(遊離及び/又は結合している、例えば、グリセロールへとエステル化された、又はエチルエステルである脂肪酸)、リン脂質、リゾリン脂質、スフィンゴミエリン、ガングリオシド、特異的炎症収束性メディエーター(SPM)、又はこれらの混合物が挙げられる。遊離及び/又は結合している脂肪酸は、リノール酸(18:2n-6)、α-リノレン酸(18:3n-3)、ジホモγリノレン酸(20:3n-6)、γ-リノレン酸(GLA、18:3n-6)、ステアリドン酸(18:4n-3)、ドコサペンタエン酸(DPA、22:5n-3)、又はこれらの混合物のうちの1つ以上を含んでもよい。脂質源は、動物、植物、発酵、微細藻類、GMO、非GMO、又はこれらの混合物のうちの1つ以上であってもよい。
【0065】
[0067]MCTを含む組成物の一実施形態は、タンパク質、例えば、乳タンパク質濃縮物を更に含むことができる準完全栄養のONS用液である。この準完全栄養のONS用液の一実施形態では、組成物は、水、MCT及びタンパク質(例えば、乳タンパク質濃縮物)及び任意選択的に香味料から本質的になり得る。好ましくは、準完全栄養のONS用液は、例えば、約40mL~約400mL、より好ましくは約50mL~約300mL、最も好ましくは約70mLの体積を有する「ショット」である。好ましくは、準完全栄養のONS用液は、少なくとも約5gのMCT、より好ましくは少なくとも約10gのMCT、最も好ましくは少なくとも約15gのMCT、いくつかの実施形態では、30g以下のMCTを提供する単位剤形である。特に好ましい実施形態では、準完全栄養のONS用液は、MCTエマルションである。
【0066】
[0068]タンパク質は、組成物の0重量%~約50重量%、好ましくは組成物の約0.1重量%~約20重量%、より好ましくは組成物の約1.0重量%~約10.0重量%、最も好ましくは組成物の約5.0重量%とすることができる。タンパク質は、組成物の1サービングあたり0g~約30g、好ましくは組成物の1サービングあたり約5g~約30gとすることができる。
【0067】
[0069]MCTを含む組成物の別の実施形態は、タンパク質(例えば、ホエイ、カゼイン、乳タンパク質濃縮物のうちの1つ以上)、追加の脂質(例えば、長鎖トリグリセリド(LCT))及び炭水化物(ラクトース及び/又はグルコース)を更に含むことができる完全栄養の置換用液体食である。
【0068】
[0070]この完全栄養の置換用液体食の実施形態では、組成物は、水、MCT、タンパク質、追加の脂質、炭水化物、及び任意選択的に香味料から本質的になり得る。好ましくは、完全栄養の置換用液体食は、例えば、約40mL~約400mL、より好ましくは約50mL~約300mL、最も好ましくは約70mLの体積を有する「ショット」である。好ましくは、完全栄養の置換用液体食は、少なくとも約5gのMCT、より好ましくは少なくとも約10gのMCT、最も好ましくは少なくとも約15gのMCT、いくつかの実施形態では、30g以下のMCTを提供する単位剤形である。特に好ましい実施形態では、完全栄養の置換用液体食は、MCTエマルションである。
【0069】
[0071]MCT製品の構成には、賦形剤、乳化剤、安定剤、及びこれらの混合物を含有させることができ、最終製剤は、すぐに摂取できる液体状若しくはゲル状、又は使用前に水で再構成される粉末状とすることができる。
【0070】
[0072]MCTは、組成物の約10~約120g/Lとすることができる。タンパク質は、組成物の0~約200g/L、好ましくは組成物の約10g/L~約200g/Lとすることができる。追加の脂質は、組成物の0~約120g/L、好ましくは組成物の約10g/L~約200g/Lとすることができる。炭水化物は、組成物の0~約200g/L、好ましくは組成物の約10g/L~約200g/Lとすることができる。
【0071】
[0073]いくつかの実施形態では、MCTを含む組成物は、食事の少なくとも一部も提供するキットで提供される。例えば、MCTを含む組成物及び食事の少なくとも一部は、各々、別個の容器で提供することができるが、両方とも、より大きな容器内に収容される。
【0072】
[0074]MCTを含む組成物は、1つ以上の追加成分、例えば、ミネラル類;ビタミン類;塩類;又は、機能性添加剤、例えば、嗜好剤(palatant)、着色剤、乳化剤、抗菌剤、又は他の保存料などの1つ以上の追加成分を更に含んでもよい。本明細書に開示される組成物に好適なミネラル類の非限定的な例としては、カルシウム、リン、カリウム、ナトリウム、鉄、塩化物、ホウ素、銅、亜鉛、マグネシウム、マンガン、ヨウ素、セレン、クロム、モリブデン、フッ化物、及びこれらの任意の組み合わせが挙げられる。本明細書に開示される組成物に好適なビタミンの例としては、水溶性ビタミン(チアミン(ビタミンB1)、リボフラビン(ビタミンB2)、ナイアシン(ビタミンB3)、パントテン酸(ビタミンB5)、ピリドキシン(ビタミンB6)、ビオチン(ビタミンB7)、ミオイノシトール(ビタミンB8)、葉酸(ビタミンB9)、コバラミン(ビタミンB12)及びビタミンCなど)及び脂溶性ビタミン(ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、及びビタミンKなど)、並びにこれらの塩、エステル又は誘導体が挙げられる。イヌリン、タウリン、カルニチン、アミノ酸、酵素、補酵素、及びこれらの任意の組み合わせが、様々な実施形態に含まれ得る。
【0073】
[0075]組成物は、神経の全般的な健康状態を促進若しくは維持し、又は認知機能を更に向上させる、1つ以上の作用物質を更に含み得る。そのような薬剤の例としては、コリン、ホスファチジルセリン、アルファ-リポ酸、CoQ10、アセチル-L-カルニチン、ハーブ抽出物(イチョウ(Gingko biloba)、オトメアゼナ(Bacopa monniera)、コンボルブルス・プルリカウリス(Convolvulus pluricaulis)及びスノーフレーク(Leucojum aestivum))、オメガ-3又はオメガ-6多価不飽和脂肪酸(例えば、遊離脂肪酸としてのエイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸又はドコサヘキサエン酸)、脂肪族エステル(例えば、エチルエステル類、トリグリセリド類又はモノグリセリド類など)、及び魚油抽出物が挙げられる。
【0074】
[0076]対象は、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ヤギ、ウシ、ヒツジ、ブタ、シカ、又は霊長類などの哺乳動物であり得る。好ましくは、対象は、ヒトである。一実施形態において、対象は、乳児である。乳児は、例えば、新生児(すなわち、生後28日未満の乳児)又は未熟児(すなわち、37週の妊娠期間が完了する前に生まれた乳児)などのヒトであり得る。
【0075】
[0077]一実施形態において、対象は、年齢を重ねた対象である。例えば、対象は、その推定寿命の40、50、60、66、70、75又は80%に達した、年齢を重ねた対象であってよい。寿命の決定は、保険数理の表、計算又は推定を基準にしてもよく、かつ、過去、現在及び未来の影響、又は寿命にプラス若しくはマイナスに作用することが知られている因子を考慮してもよい。寿命を判定するときには、種、性別、体格、遺伝的因子、環境因子及びストレス因子、現在及び過去の健康状態、過去及び現在の栄養状態、並びにストレス因子が考慮され得る。年齢を重ねた対象は、例えば、年齢が40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95又は100歳を超えたヒト対象であり得る。
【0076】
[0078]更に、この点に関して、ヒトに関連した「高齢」という用語は、少なくとも60歳、好ましくは63歳超、より好ましくは65歳超、最も好ましくは70歳超の出生後年齢を意味している。ヒトの文脈での「中高年者(older adult)」という用語は、45歳以上、好ましくは50歳より上、より好ましくは55歳より上の出生後年齢を意味し、高齢の個体を含む。
【0077】
[0079]治療についての本明細書の全参照は、治癒的、緩和的、予防的治療を含む。治療には、疾患の重症度の進行を抑止することも含まれ得る。ヒトと動物の両方の治療が本開示の範囲内である。好ましくは、MCTを含む組成物は、治療有効量又は予防有効量のMCTを提供する、及び/又は治療有効量若しくは予防有効量のケトンへと代謝される量のMCTを提供する1サービング又は単位剤形として投与される。
【0078】
[0080]上記の開示を鑑みれば、本明細書で提供される実施形態は、食事に由来する食後血糖を低減する方法であって、中鎖トリグリセリド(MCT)を含む組成物を個体に経口投与することと、続いて、MCTを含む組成物の経口投与後及びMCTを含む組成物の経口投与の約1時間以内に、個体に食事を経口投与することと、を含む。
【0079】
[0081]個体における食後血糖は、好ましくは、(i)食事と、MCTを含む組成物とを、ほぼ同時に個体へ経口投与すること、及び(ii)食前約1時間以内又は食後約1時間以内のMCT投与を何ら行わずに食事を経口投与すること、からなる群から選択される少なくとも1つの比較条件下での食後血糖と比較して、低減される。
【0080】
[0082]個体は、好ましくは、(i)肥満、糖尿病及び前糖尿病からなる群から選択される少なくとも1つの状態を有し、及び/又は(ii)年齢を重ねた個体、例えば、中高年者若しくは高齢者である。MCTを含む組成物は、液体であり得る。組成物は、1サービング中に少なくとも約15.0gのMCT~最大約30.0gのMCTを含ませて個体に投与することができる。組成物は、タンパク質、脂質、及び炭水化物からなる群から選択される少なくとも1種の追加の成分で乳化されたMCTを含むことができる。
【0081】
[0083]食事は、MCTを含む組成物の投与の約10分後からMCTを含む組成物の投与の約1時間後までの間に投与することができ、好ましくは、MCTを含む組成物の経口投与の少なくとも約15分後からMCTを含む組成物の経口投与の約40分後までの間に投与することができる。例えば、食事は、MCTを含む組成物の投与の約30分後に投与することができる。
【0082】
[0084]MCTの少なくとも一部は、オクタン酸又はデカン酸のうちの少なくとも1種であってよい。MCTの少なくとも一部は、β-ヒドロキシブチレート、アセトン-アセテート及びこれらの混合物からなる群から選択されるケトンへと代謝され得る。
【0083】
[0085]食事は朝食であり得る。組成物は、準完全栄養の経口栄養補助(ONS)用液であり得る。
【0084】
[0086]好ましくは、個体はMCTによる胃腸副作用を経験しない。好ましくは、個体は、個体に対する、MCTを含む組成物の経口投与から、個体に対する食事の経口投与までの期間中に、任意の水分補給以外にいかなる食品製品も摂取しない。
【0085】
[0087]本明細書で提供される別の実施形態は、食事に由来する食後血糖の低減が有益である状態を治療又は予防する方法であり、当該方法は、中鎖トリグリセリド(MCT)を含む組成物を個体に経口投与することと、続いて、MCTを含む組成物の経口投与後及びMCTを含む組成物の経口投与の約1時間以内に、好ましくは、MCTを含む組成物の経口投与の少なくとも約10分後、及びMCTを含む組成物の経口投与の約1時間以内に、個体に食事を経口投与することと、を含む。状態は、好ましくは、肥満、前糖尿病、糖尿病、及び高齢になることによる症状からなる群から選択される。
【0086】
[0088]一実施形態では、食事は、MCTを含む組成物の投与の約15分後からMCTを含む組成物の投与の約40分後までの間に投与することができる。例えば、食事は、MCTを含む組成物の投与の約30分後に投与することができる。
【0087】
[0089]本明細書で提供される別の実施形態は、栄養を提供するためのキットであって、MCTを含む経口投与可能な組成物と、MCTを含む経口投与可能な組成物とはキットにおいて別に保存されている食事の少なくとも一部と、説明書と、を含み、当該説明書が、中鎖トリグリセリド(MCT)を含む組成物を個体に経口投与し、続いて、MCTを含む組成物の経口投与後及びMCTを含む組成物の経口投与の約1時間以内に、好ましくは、MCTを含む組成物の経口投与の少なくとも約10分後及びMCTを含む組成物の経口投与の約1時間以内、より好ましくは、MCTを含む組成物の経口投与の少なくとも約15分後及びMCTを含む組成物の経口投与後約40分以内、例えば、MCTを含む組成物の経口投与の約30分後に、個体に食事を経口投与するためのものである、キットである。
[0090]
【実施例】
【0088】
[0091]以下の非限定的な例は、本開示の概念を発展させ及びサポートする臨床データを提示する。
【0089】
[0092]健康なボランティアを対象に代謝試験を実施した。標準的な朝食の投与前(A群)又は投与中(B群)にMCTエマルション(5%タンパク質水溶液70mL中の15gのMCT)を経口摂取させた。血漿グルコース及びインスリンを、2時間にわたって様々な時点で測定した。対照群Cは、朝食のみを摂取した。
【0090】
[0093]MCTエマルションは、C8:10の比が約58:42である混合物としてMCTを含有していた。タンパク質は、全乳タンパク質に由来するものとした。
【0091】
[0094]
図1は、A群、B群、及びC群に関して1群あたり13~14名の対象の平均血漿グルコースの経時変化を示している。時間0は、朝食の摂取に対応している。
【0092】
[0095]
図2は、A群、B群、及びC群に関して1群あたり13~14名の対象の平均血漿インスリンの経時変化を示している。時間0は、朝食の摂取に対応している。
【0093】
[0096]表1に、A群、B群、及びC群について得られた、グルコース及びインスリンの両方の曲線下面積(iAUC)の増分を報告する。グルコースのiAUCに関しては、A群(食事の30分前にMCT摂取)において、C群(MCT摂取なし)と比較して統計的に有意な31%の低減が認められた(p<0.05)。iAUCインスリンに関しては、群間で統計的な差は観察されなかった。
【0094】
【0095】
[0097]これらの結果は、食前のMCT製品の投与が、インスリン応答には影響せずに、食後血糖の応答(PPG)を有意に低減することを示している。
【0096】
[0098]本明細書で説明されている現在の好ましい実施形態に対する様々な変更及び改変が、当業者には明らかとなる点を理解されたい。かかる変更及び改変は、本発明の主題の趣旨及び範囲から逸脱することなく、かつ意図される利点を損なわずに、行うことができる。それゆえ、そのような変更及び修正は、添付の特許請求の範囲に包含されることが意図されている。