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特許7498763静電塗装機及びこれに組み込まれる回転霧化頭並びにその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】静電塗装機及びこれに組み込まれる回転霧化頭並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05B 5/04 20060101AFI20240605BHJP
   B05B 12/00 20180101ALI20240605BHJP
【FI】
B05B5/04 A
B05B12/00 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022201753
(22)【出願日】2022-12-19
(65)【公開番号】P2023093379
(43)【公開日】2023-07-04
【審査請求日】2023-10-20
(31)【優先権主張番号】63/292,712
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522121001
【氏名又は名称】シーエフティー エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】CFT LLC
【住所又は居所原語表記】16430 N Scottsdale Rd., Suite 450, Scottsdale, AZ 85254 United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100098187
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 正司
(72)【発明者】
【氏名】中石 達也
(72)【発明者】
【氏名】太田 大介
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-104527(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01442797(EP,A2)
【文献】特開平09-220497(JP,A)
【文献】米国特許第05788165(US,A)
【文献】特開2000-117155(JP,A)
【文献】米国特許第06230994(US,B1)
【文献】特開2001-113208(JP,A)
【文献】特開平07-251099(JP,A)
【文献】特開2005-288284(JP,A)
【文献】特開平08-024720(JP,A)
【文献】米国特許第05039019(US,A)
【文献】特開2012-050949(JP,A)
【文献】国際公開第2009/057593(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 5/00-5/16
12/00-12/14
13/00-13/06
B05D 1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアモータのモータ出力軸に連結され且つ絶縁性樹脂材料で作られた回転霧化頭を備え、
該回転霧化頭は、該回転霧化頭の外周縁部に、前記エアモータから受け取った高電圧を供給する高電圧印加経路を有し、
該高電圧印加経路が半導電性材料で構成された静電塗装機において、
前記回転霧化頭は前記高電圧印加経路を複数有し、複数の高電圧印加経路の各々が前記回転霧化頭の周方向に互いに離間して位置し且つ各高電圧印加経路を構成する半導電性材料からなる半導電性部材で構成されて、該半導電性部材が前記回転霧化頭に埋設され
前記高電圧印加経路が、前記回転霧化頭の外周縁部に露出する導電性部材を更に含み、
前記高電圧印加経路が、前記導電性部材と前記半導電性部材とが互いに接した状態で構成されていることを特徴とする静電塗装機。
【請求項2】
請求項に記載の静電塗装機において、
前記半導電性部材が、その前記導電性部材と接する前端部の一部が前記回転霧化頭の背面に露出している、静電塗装機。
【請求項3】
請求項1に記載の静電塗装機において、
前記静電塗装機が、塗料を前記回転霧化頭の中心部に供給するフィードチューブを有し、
該フィードチューブは、中空の前記モータ出力軸の内部に配置されている、静電塗装機。
【請求項4】
請求項に記載の静電塗装機において、
前記モータ出力軸が導電性材料で作られている、静電塗装機。
【請求項5】
請求項に記載の静電塗装機において、
前記モータ出力軸が絶縁性材料で作られている、静電塗装機。
【請求項6】
請求項に記載の静電塗装機において、
前記半導電性部材が、前記回転霧化頭を前記エアモータの出力軸に固定したときに、前記モータ出力軸の一部と密に接する面に露出している、静電塗装機。
【請求項7】
請求項のいずれか一項に記載の静電塗装機において、
前記フィードチューブが導電性材料で作られている、静電塗装機。
【請求項8】
請求項のいずれか一項に記載の静電塗装機において、
前記フィードチューブが絶縁性材料で作られている、静電塗装機。
【請求項9】
エアモータのモータ出力軸に連結されて、前記エアモータによって駆動される絶縁性樹脂製の回転霧化頭が、該エアモータから受け取った高電圧を前記回転霧化頭の外周縁部に供給する高電圧印加経路を有する静電塗装機に組み込まれる前記回転霧化頭であって、
前記高電圧印加経路が前記回転霧化頭に埋設された半導電性部材を含み、
前記高電圧印加経路が前記回転霧化頭の周方向に互いに離間して位置する複数の高電圧印加経路をし、
前記高電圧印加経路が、前記回転霧化頭の外周縁部に露出する導電性部材を更に含み、
前記高電圧印加経路が、前記導電性部材と前記半導電性部材とが互いに接した状態で構成されていることを特徴とする回転霧化頭。
【請求項10】
請求項に記載の回転霧化頭において、
該回転霧化頭の外周縁部が、周方向に亘って複数の溝を有する、回転霧化頭。
【請求項11】
請求項に記載の回転霧化頭を製造する方法であって、
絶縁性樹脂材料の円筒体に、円周方向に等間隔に複数の第1直線孔を穿設する第1工程と、
前記各第1直線孔と合流する複数の第2直線孔を穿設する第2工程と、
前記各第1直線孔において、回転霧化頭の外周縁部側の端に導電性部材を嵌入する第3工程と、
前記第1直線孔と前記第2直線孔に半導電性素材で満たす第4工程と、
前記第1直線孔と前記第2直線孔を前記半導電性素材で満たしたら、前記円筒体を加熱して、前記半導電性素材を硬化させて半導電性部材にする第5工程と、
前記第5工程の後に、前記絶縁性樹脂材料の円筒体を機械加工して前記回転霧化頭を形作る第6工程を有することを特徴とする回転霧化頭の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の回転霧化頭の製造方法において、
前記第1直線孔が段付き孔で構成され、
前記導電性部材が嵌入された第1部分が相対的に小径であり、前記半導電性部材が位置する第2部分が相対的に大径である、回転霧化頭の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は静電塗装機及びこれに組み込まれる回転霧化頭並びにその製造方法に関し、特に絶縁性合成樹脂製の回転霧化頭を備えた静電塗装機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は絶縁性合成樹脂製回転霧化頭を備えた静電塗装機を開示している。特許文献1に開示の静電塗装機の概要を図13に示す。図13を参照して、静電塗装機100はエアモータ102によって駆動される回転霧化頭(以下「ベル」という。)104を有している。ベル104は中空の軸部104aを有し、ベル軸部104aはエアモータ102のモータ出力軸102aを受け入れられ、そして、ベル軸部104aの内周面104dとモータ出力軸102aとが密に接した状態でベル軸部104aとモータ出力軸102aとが互いに連結つまり凹凸嵌合される。
【0003】
モータ出力軸102aは絶縁性材料、例えば合成樹脂ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)材料で形成されている。静電塗装機100は、周知のフィードチューブ(図示省略)によってベル104の中心に塗料を供給するセンターフィード方式が採用されている。モータ出力軸102aは中空軸で構成され、モータ出力軸102aの内部にフィードチューブが設けられて、このフィードチューブを通じて塗料がベル104の中心部分に供給される。フィードチューブは、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの絶縁性樹脂材料で形成されている。
【0004】
ベル軸部104aとモータ出力軸102aとの機械的な連結つまり係合は2つのタイプが知られている。上述した連結つまり凹凸嵌合は第1のタイプである。すなわち、第1のタイプはベル軸部104aの軸端部に凹部が形成され、このベル軸部104aの凹部にモータ出力軸102aが密に嵌入される。第2のタイプは、図示を省略したが、第1のタイプとは逆に、モータ出力軸102aの軸端部に凹部が形成され、このモータ出力軸102aの凹部にベル軸部104aが密に嵌入される。
【0005】
ベル104は絶縁性樹脂材料で作られている。そして、ベル104はその外周面の全域に第1半導電性樹脂膜106がコーティングされている。第1半導電性樹脂膜106は、ベル104のベル外周縁104bからベル軸部104aの端104cまで連続して延びている。この第1半導電性樹脂膜106は、ベル外周縁104bの全周に高電圧を印加する高電圧印加経路を構成する。
【0006】
エアモータ102は、そのモータ本体102bが導電性部材である金属で作られている。静電塗装機100は高電圧発生器(以下、「カスケード」という。)108を内蔵しており、カスケード108はモータ本体102bに電気的に接続されている。カスケード108で生成された高電圧は、モータ本体102bを経由し、そして、絶縁性材料からなるモータ出力軸102aの外周面にコーティングした第2半導電性樹脂膜110、ベル104の外周面の第1半導電性樹脂膜106を通じてベル外周縁104bに印加される。すなわち、ベル104の外周面にコーティングした第1半導電性樹脂膜106は、モータ本体102b、絶縁性材料からなるモータ出力軸102aの外周面の第2半導電性樹脂膜110を経由して高電圧を受け取ってベル外周縁104bの全周に供給する高電圧印加経路VAを構成している。
【0007】
高電圧印加経路VAの入力端と、モータ出力軸102aの第2半導電性樹脂膜110と、モータ本体102bとの電気的な連携構造は、特許文献1の例えば図2―8に詳細に記載されている。
【0008】
ベル104は、ハブ112の外周縁に等間隔に位置する複数の塗料通過孔114を有し、フィードチューブを通じてベル104の中心に供給された塗料は、遠心力によって、塗料通過孔114を通過し、そしてベル104の内周面において膜状に拡がり、次いで、高電圧が印加されたベル外周縁104bで帯電される。そして、回転するベル104から放出される塗料の液糸が微粒化される。図示の参照符号116は微粒化された塗料粒子のパターンをコントロールするシェーピングエア孔を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2000-117155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
絶縁性樹脂のベル104は、その外周面にコーティングした第1半導電性樹脂膜106が劣化又は剥離するという欠点を有し、経時的な劣化に伴って高速回転時に第1半導電性樹脂膜106が剥離する事故が発生する可能性を含んでいる。具体的に説明すると、第1半導電性樹脂膜106の劣化に起因して、静電塗装機100の作動時に高速回転するベル104の遠心力によって第1半導電性樹脂膜106が剥離して飛散する可能性を含んでいる。また、静電塗装機100のメンテナンスにおいて、ベル104を布で拭う作業が実施されるが、度重なるメンテナンスで第1半導電性樹脂膜106が摩耗及び劣化して、ベル104の寿命を縮めてしまう問題を含んでいる。
【0011】
本発明の目的は、半導電性樹脂膜でコーティングした合成樹脂製の回転霧化頭の欠点を解消することができる、静電塗装機及びこれに組み込まれる回転霧化頭並びにその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の技術的課題は、本発明の一つの観点によれば、
エアモータのモータ出力軸に連結され且つ絶縁性樹脂材料で作られた回転霧化頭を備え、
該回転霧化頭は、該回転霧化頭の外周縁部に、前記エアモータから受け取った高電圧を供給する高電圧印加経路を有し、
該高電圧印加経路が半導電性材料で構成された静電塗装機において、
前記回転霧化頭は前記高電圧印加経路を複数有し、複数の高電圧印加経路の各々が前記回転霧化頭の周方向に互いに離間して位置し且つ各高電圧印加経路を構成する半導電性材料からなる半導電性部材で構成されて、該半導電性部材が前記回転霧化頭に埋設され
前記高電圧印加経路が、前記回転霧化頭の外周縁部に露出する導電性部材を更に含み、
前記高電圧印加経路が、前記導電性部材と前記半導電性部材とが互いに接した状態で構成されていることを特徴とする静電塗装機を提供することにより達成される。
【0013】
上記の技術的課題は、本発明の他の観点によれば、
エアモータのモータ出力軸に連結されて、前記エアモータによって駆動される絶縁性樹脂製の回転霧化頭が、該エアモータから受け取った高電圧を前記回転霧化頭の外周縁部に供給する高電圧印加経路を有する静電塗装機に組み込まれる前記回転霧化頭であって、
前記高電圧印加経路が前記回転霧化頭に埋設された半導電性部材を含み、
前記高電圧印加経路が前記回転霧化頭の周方向に互いに離間して位置する複数の高電圧印加経路をし、
前記高電圧印加経路が、前記回転霧化頭の外周縁部に露出する導電性部材を更に含み、
前記高電圧印加経路が、前記導電性部材と前記半導電性部材とが互いに接した状態で構成されていることを特徴とする回転霧化頭を提供することにより達成される。
【0014】
上記の技術的課題は、本発明の他の観点によれば、
エアモータのモータ出力軸に連結されて、前記エアモータによって駆動される絶縁性樹脂製の回転霧化頭が、該エアモータから受け取った高電圧を前記回転霧化頭の外周縁部に供給する高電圧印加経路を有する静電塗装機に組み込まれる前記回転霧化頭であって、
前記高電圧印加経路が前記回転霧化頭に埋設された半導電性部材を含み、
前記高電圧印加経路が前記回転霧化頭の周方向に互いに離間して位置する複数の高電圧印加経路をし、
前記高電圧印加経路が、前記回転霧化頭の外周縁部に露出する導電性部材を更に含み、
前記高電圧印加経路が、前記導電性部材と前記半導電性部材とが互いに接した状態で構成されていることを特徴とする回転霧化頭を製造する方法であって、
絶縁性樹脂材料の円筒体に、円周方向に等間隔に複数の第1直線孔を穿設する第1工程と、
前記各第1直線孔と合流する複数の第2直線孔を穿設する第2工程と、
前記各第1直線孔において、回転霧化頭の外周縁部側の端に導電性部材を嵌入する第3工程と、
前記第1直線孔と前記第2直線孔に半導電性素材で満たす第4工程と、
前記第1直線孔と前記第2直線孔を前記半導電性素材で満たしたら、前記円筒体を加熱して、前記半導電性素材を硬化させて半導電性部材にする第5工程と、
前記第5工程の後に、前記絶縁性樹脂材料の円筒体を機械加工して前記回転霧化頭を形作る第6工程を有することを特徴とする回転霧化頭の製造方法を提供することにより達成される。
【0015】
本発明の作用効果、本発明の他の目的は、以下の実施例の詳細な説明から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1の例の回転霧化頭(ベル)を組み込んだ実施例の静電塗装機の前端部分の断面図である。
図2】第1の例のベルを図1の矢印Aの方向から見た正面図である。
図3】実施例の静電塗装機に組み込むことが可能な第2の例のベルを製造する第1工程、第2工程を説明するための図であって、第1、第2直線孔を穿設した円筒体の斜視図である。
図4図3の円筒体の内部構造を説明するための図である。
図5】第1直線孔の一端に導電性部材であるアルミニウム棒の小片を挿入する第3工程を説明するための図である。
図6】第2の例のベルを製造する第4工程を説明するための図である。
図7】第5工程(仕上げ工程)を実行することで回転霧化頭を完成させることを説明するための図である。
図8】ベル軸部側から見た第2の例のベルの背面図である。
図9図7に図示の完成品の第2の例のベルのA-A線に沿った断面図である。
図10図9に図示のベルの変形例を示す、図9に対応した断面図である。
図11】第1、第2の例のベルの変形例を示し、ベル外周縁部に複数の溝を備えたベルを示す部分斜視図である。
図12図11のB-B線に沿った断面図である。
図13】絶縁性合成樹脂製の回転霧化頭(ベル)の従来の構造を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0017】
以下に、添付の図面に基づいて本発明の好ましい実施例を説明する。図1は、実施例の静電塗装機10の断面図である。図1に図示の静電塗装機10には、第1の例のベル12Aが組み込まれている。実施例の静電塗装機10の説明において、図13を参照して前述した従来の静電塗装機100に含まれる要素と同じ要素には同じ参照符号を付してその説明を省略する。実施例の静電塗装機10は、フィードチューブによってベル12Aの中心に塗料を供給するセンターフィード方式の塗装機である。
【0018】
図2は、実施例の静電塗装機10のベル12Aの正面図である。図1図2に図示の第1の例のベル12Aは、図13に基づいて説明した従来のベル104と同様に、絶縁性樹脂材料で作られている。図1から分かるように、モータ出力軸102aとベル軸部12aとの連結形態は前述した第1のタイプのである。変形例として、上述した第2のタイプの凹凸嵌合であってもよい。
【0019】
図1に図示の静電塗装機10において、モータ本体102bは、特許文献1と同様に導電性部材の金属で構成され、カスケード108と電気的に接続されている。モータ出力軸102aは、特許文献1と同様に絶縁性材料で構成されていてもよいが、好ましくは導電性金属などの導電性材料で作られているのが良い。モータ出力軸102aの内部にフィードチューブが配置されているのは、特許文献1に開示の従来例と同じである。フィードチューブは、特許文献1と同様に絶縁性材料で構成されていてもよいが、好ましくは導電性材料で構成されているのが良い。
【0020】
図1を参照して、ベル12Aは、周方向に離間して位置する複数の高電圧印加経路VAを有しており、各高電圧印加経路VAは、ベル12Aに埋設された半導電性部材20を含んで構成されている。半導電性部材20は「ソリッド抵抗器」と呼ばれる材料で構成するのがよく、その抵抗値は105~109Ωである。各高電圧印加経路VAは、好ましくは、相対的にベル外周縁部12c側に位置して露出する導電性密栓部材22を更に含み、導電性密栓部材22は導電性材料で構成されている。
【0021】
ベル12Aは、ベル外周縁部12cからベル軸部12aの内周面12dに亘って延びる第1直線孔30を有し、第1直線孔30は、前端が位置するベル外周縁部12cから軸部内周面12dに向けて徐々にベル12の軸線に向けて傾斜している。そして、第1直線孔30の中に、導電性密栓部材22と半導電性部材20とが互いに接した状態で配置される。
【0022】
導電性密栓部材22の端は、ベル外周縁部12cの一部を構成している。半導電性部材20は、ベル軸部12aの内周面12dから導電性密栓部材22まで連続的に延びており、ベル軸部12aの内周面12dに露出している。ベル12Aをモータ出力軸102aに機械的に連結することで、導電性のモータ本体102b及び、モータ出力軸102aが導電性部材で構成されている場合にはモータ出力軸102aを通じて、複数の高電圧印加経路VAの各半導電性部材20が高電圧を受け取ることができる。
【0023】
すなわち、各半導電性部材20の入力端は、ベル12Aをモータ出力軸102aに連結したときに、モータ出力軸102aと密に接して、導電性のモータ出力軸102aから高電圧を受け取ることができる。
【0024】
上述の説明から分かるように、ベル12Aに埋設された半導電性部材20は、従来のベル104の外周面にコーティングされた第1半導電性樹脂膜106(図13)に代わって高電圧印加経路VAを構成する。本発明に関連した半導電性部材20は、従来の膜抵抗器である第1半導電性樹脂膜106に比べて抵抗体としての容積が大きいことから、高耐圧高抵抗の用途である高電圧印加経路VAに適しているということができる。
【0025】
フィードチューブは、特許文献1と同様に絶縁性材料で構成されていても良いが、好ましくは導電性材料で構成されているのが良い。
【0026】
図1に図示の静電塗装機10において、フィードチューブが導電性材料で作られている場合には、フィードチューブを通じてベル12Aに供給される塗料は、フィードチューブを通過する過程で帯電される。ベル12Aの内面つまり塗料拡散面に露出する導電性密栓部材22は、一義的に、被塗物との間に静電界を形成する。この導電性密栓部材22は、ベル12Aの外周縁部12cに露出していることから、フィードチューブの中で帯電した状態の塗料は、ベル12Aの中心に供給されると、遠心力によってベル12Aのハブ112の塗料通路孔114から吐出し、ベル内周面の塗料拡散面において膜状に拡がり、次いで、高電圧が印加された導電性密栓部材22に接してベル外周縁12bから放出される。この放出された塗料微粒子は帯電していることから、導電性密栓部材22と被塗物との間の静電界を飛行して被塗物に静電吸着される。
【0027】
図7は、第2の例のベル12Bにおいて、切削加工を終了した時点でのベル12Bの断面図である。第2の例のベル12Bは、モータ出力軸102aが導電性材料、絶縁性材料のいずれで作られていても、静電塗装機10に組み込むことが可能である。また、フィードチューブが導電性材料、絶縁性材料のいずれで作られていても、静電塗装機10に組み込むことが可能である。図3ないし図7に基づいて、第2の例のベル12Bの製造方法を説明する。
【0028】
第1工程(図3):
ベル12Bの素材である絶縁性樹脂材料で作られた円筒体40を用意する。絶縁性樹脂材料は、塗料に対する耐性を有し且つ絶縁性を備えた材料であれば特に限定されない。例示すれば、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリイミド樹脂(PI)、などを例示的に列挙することができる。
【0029】
第2工程(図3図4
円筒体40は、図示のように、その一端面に凹所40aが形成される。この凹所40aは平面視円形であり、円筒体40と同心である。凹所40aを備えた円筒体40には、複数の第1直線孔30がドリルで穿設する。すなわち、第1直線孔30は断面円形の孔である。第1直線孔30は円周方向に等間隔に複数形成される。各第1直線孔30は、小径部30aと大径部30bを備えた段付き孔であるのが好ましい(図4)。次いで、各第1直線孔30に合流する第2直線孔32を穿設する。合流部位は、第1直線孔30の大径部30bであるのがよい。
【0030】
第3工程(図5):
各第1直線孔30の小径部分30aに導電性密栓部材22を密に嵌入して、各第1直線孔30を導電性密栓部材22で密栓する。導電性密栓部材22として、例えばアルミニウム合金などの金属棒やカーボン棒の小片の他に、樹脂で固めた高密度の導電性粉末体(104Ω)を例示的に挙げることができる。
【0031】
第4工程(図5図6):
凹所40aに半導電性素材19を充填することにより、各第1直線孔30と各第2直線孔32とが半導電性素材19が充填される。半導電性素材として、炭素系や金属の導電性粉末をエポキシ系樹脂、フェノール系樹脂などに練り込んだ素材を挙げることができる。この素材は加熱処理することにより硬化して半導電性部材20になる。第1直線孔30、第2直線孔32が半導電性素材19で満たされたら、円筒体40を加熱して、半導電性素材19を硬化させて半導電性部材20を形成する。
【0032】
第5工程(図7):
第4工程を終えた円筒体40を機械加工つまり切削してベル12Bの外形輪郭及び軸部12aの内周面12dを形成して、ベル12Bの基本形状を完成させる。その後ハブ112(図1)を嵌め込み接着し、最終形状のベル12Bに仕上げる。
図8は、ベル軸部12a側から見た12Bの背面図である。第2直線孔32の半導電性部材20の端は切削によってリング状の形状部20aで構成される。モータ出力軸102aが絶縁性部材で構成されている場合、リング形状部20aは、複数の高電圧印加経路VAがモータ本体102aから高電圧を受け取る入力端を構成する。モータ本体102aから高電圧印加経路VAまでの電気的な連携は、特許文献1に記載されている構成のいずれを採用してもよい。他方、モータ出力軸102aが導電性部材で構成されている場合、第1の例のベル12A(図1)と同様に、第1直線孔30の半導電性部材20によって高電圧印加経路VAが構成される。
【0033】
図9は、図7のA-A線に沿った断面図であり、完成したベル12Bの前端部の断面を示す。図9は、半導電性部材20がベル12Bに完全に埋没した状態である。変形例を図10に示す。図10図9に対応した断面図である。図10から分かるように、半導電性部材20の導電性部材22と接する前端部の一部がベル12Bの背面つまり外周面に露出した状態であってもよい。
【0034】
図11は、第1、第2の例のベル12A、12Bを総称して参照符号12を付したベルの変形例を示し、ベル外周縁部12cの部分図である。図12は、図11のB-B線に沿った断面図である。ベル12は、外周縁部12cにおいて、その全周に亘って複数の溝50を有し、この溝50はベル12の内面から外側面に亘って延びている。ベル12が、その外周縁部に複数の溝50を有することにより、ベル外周縁12bから放出される液糸が集合するのを防止できる。これにより、液糸が集合することに伴う微粒化の悪化を防止できる。
【符号の説明】
【0035】
10 実施例の静電塗装機
12 回転霧化頭(ベル)
12b ベル外周縁
12c ベル外周縁部
VA 高電圧印加経路
20 半導電性部材
22 導電性密栓部材
30 第1直線孔(段付き孔)
30a 第1直線孔の小径部
30b 第1直線孔の大径部
32 第2直線孔
40 回転霧化頭の素材である絶縁性合成樹脂の円筒体
50 ベル外周縁部の溝
102 エアモータ
102a エアモータの出力軸
102b モータ本体
108 カスケード
図1
図2
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図13