(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】Ce-Zr複合酸化物およびこれを用いた排気ガス浄化用触媒
(51)【国際特許分類】
C01G 25/00 20060101AFI20240605BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240605BHJP
B01J 23/10 20060101ALI20240605BHJP
B01J 23/63 20060101ALI20240605BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20240605BHJP
【FI】
C01G25/00 ZAB
B01J37/08
B01J23/10 A
B01J23/63 A
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
(21)【出願番号】P 2022530042
(86)(22)【出願日】2021-04-19
(86)【国際出願番号】 JP2021015846
(87)【国際公開番号】W WO2021251000
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-11-14
(31)【優先権主張番号】P 2020100958
(32)【優先日】2020-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】312016218
【氏名又は名称】ユミコア日本触媒株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤野 大士
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-059630(JP,A)
【文献】国際公開第2016/158656(WO,A1)
【文献】特開平10-202102(JP,A)
【文献】特開2008-150237(JP,A)
【文献】特表2018-506424(JP,A)
【文献】DE RIVAS, B. et al.,Impact of induced chlorine-poisoning on the catalytic behaviour of Ce0.5Zr0.5O2 and Ce0.15Zr0.85O2 i,Applied Catalysis B: Environmental,2011年,104,373-381.,http://dx.doi.org/10.1016/j.apcatb.2011.03.003
【文献】DE RIVAS, B. et al.,Promoted activity of sulphated Ce/Zr mixed oxides for chlorinated VOC oxidative abatement,Applied Catalysis B: Environmental,2013年,129,225-235.,http://dx.doi.org/10.1016/j.apcatb.2012.09.026
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00
B01J 21/00-38/74
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリウムおよびジルコニウムを含むCe-Zr複合酸化物であって、
セリウム原子の偏在率が1.80以下であり、
セリウム原子の表面残存率が0.91以上であり、
ランタン、プラセオジム、ネオジムおよびイットリウムの少なくとも1種を含
み、
前記Ce-Zr複合酸化物において、セリウム原子の含有率は、金属原子の総数に対して、10~70原子%である、Ce-Zr複合酸化物
;
前記偏在率は、次の手法により算出される;前記Ce-Zr複合酸化物の粉体を、水蒸気を10体積%含む窒素気流中で1,000℃で10時間耐久処理する;耐久後の粉体を乳鉢を用いて粉砕する;粉砕後の粉体の表面についてX線光電子分光法による測定を行い、得られたスペクトルから、Ce原子およびZr原子の総数に対するCe原子の含有率(原子%)を算出し、得られた値を、表面Ce割合(X
1
)とする;粉体の内部を測定するために、スパッタリングを行い、粉体の表面から10nmの距離にある内部を露出させる;露出させた粉体の内部についてX線光電子分光法による測定を行い、得られたスペクトルから、Ce原子およびZr原子の総数に対するCe原子の含有率(原子%)を算出し、得られた値を、表面Ce割合(X
2
)とする;下記数式1により、セリウム原子の偏在率を算出する;
【数1】
前記表面残存率は、次の手法により算出される;前記Ce-Zr複合酸化物の粉体を乳鉢を用いて粉砕する;粉砕後の粉体の表面についてX線光電子分光法による測定を行い、得られたスペクトルから、Ce原子と、Zr原子と、La原子、Pr原子、Nd原子およびY原子の少なくとも1種との各原子の総数に対するCe原子の含有率(原子%)を算出し、得られた値を、耐久前の表面Ce割合(Y
1
)とする;前記Ce-Zr複合酸化物の粉体を、水蒸気を10体積%含む窒素気流中で1,000℃で10時間耐久処理する;耐久後の粉体を乳鉢を用いて粉砕する;粉砕後の粉体の表面についてX線光電子分光法による測定を行い、得られたスペクトルから、Ce原子と、Zr原子と、La原子、Pr原子、Nd原子およびY原子の少なくとも1種との各原子の総数に対するCe原子の含有率(原子%)を算出し、得られた値を、耐久後の表面Ce割合(Y
2
)とする;セリウム原子の表面残存率=Y
2
/Y
1
により、セリウム原子の表面残存率を算出する。
【請求項2】
前記Ce-Zr複合酸化物において、セリウム原子の含有率は、金属原子の総数に対して、
10~
45原子%であり、ジルコニウム原子の含有率は、金属原子の総数に対して、
45~
80原子%である、請求項1に記載のCe-Zr複合酸化物。
【請求項3】
前記Ce-Zr複合酸化物において、金属原子の総数に対して、ランタン原子の含有率は、0原子%または0原子%を超えて30原子%以下であり、プラセオジム原子の含有率は、0原子%または0原子%を超えて30原子%以下であり、ネオジム原子の含有率は、0原子%または0原子%を超えて30原子%以下であり、イットリウム原子の含有率は、0原子%または0原子%を超えて30原子%以下である、請求項1または2に記載のCe-Zr複合酸化物。
【請求項4】
セリウムおよびジルコニウムを含む原料複合酸化物の表面に、硫酸、硝酸および塩酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸を、前記原料複合酸化物100質量部に対して、4~28質量部接触させる、酸処理工程と、
前記酸処理工程で得られた処理済み複合酸化物を400~1200℃で5~300分間焼成する、焼成工程と、
を含み、
前記酸処理工程は、前記原料複合酸化物の表面に、前記酸を水溶液の形態で接触させるものであり、
前記水溶液中の前記酸の濃度は、15~80質量%である、Ce-Zr複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記水溶液の量は、前記原料複合酸化物100質量部に対して、6.2~43.1質量部である、請求項
4に記載のCe-Zr複合酸化物の製造方法。
【請求項6】
請求項1
~3のいずれか1項に記載のCe-Zr複合酸化物および貴金属が三次元構造体に担持されてなる、排気ガス浄化用触媒。
【請求項7】
請求項
6に記載の排気ガス浄化用触媒と、排気ガスとを接触させることを有する、排気ガスの浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ce-Zr複合酸化物およびこれを用いた排気ガス浄化用触媒に関する。より詳細には、本発明は、排気ガス浄化用触媒において酸素吸蔵材として用いられるCe-Zr複合酸化物の酸素吸蔵放出性能の耐久性を向上させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の排気ガス規制が強化されてきている。これに対応するため、排気ガス浄化用触媒における排気ガス浄化性能のさらなる向上が求められている。
【0003】
排気ガスには、主に一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)および窒素酸化物(NOx)が含まれる。これらを浄化するためには、一酸化炭素(CO)および炭化水素(HC)の酸化と、窒素酸化物(NOx)の還元とを同時に行う必要がある。空燃比(A/F)を理論空燃比(A/F=14.6)近傍に維持することにより、酸化・還元を同時に行うことができるが、実際の運転ではA/Fにある程度の変動が生じる。そこで、このような変動を吸収する役割として排気ガス浄化用触媒には酸素吸蔵材が含まれる。
【0004】
酸素吸蔵材は、CeO2の酸素吸蔵放出性能(Oxygen Storage/Release Capacity;OSC)により、酸素過剰な雰囲気では酸素を貯蔵し(2Ce2O3+1/2O2→2CeO2)、逆に酸素不足の場合は酸素を放出する(2CeO2→2Ce2O3+1/2O2)。これにより、触媒表面上の雰囲気を理論空燃比(A/F=14.6)近傍に維持することが可能となる。
【0005】
しかしながら、CeO2単独のOSC性能や耐久性は実用に対して十分ではないため、CeO2にZrO2を添加することによりこれらを改善する手法が採用されている。例えば、特開2004-2147号公報には、加熱により分解するセリウム化合物及びジルコニウム化合物と有機物を含み、少なくとも加熱時に該セリウム化合物及び該ジルコニウム化合物が溶解した溶液を形成するとともに、該セリウム化合物及び該ジルコニウム化合物の少なくとも一部が分解した後に少なくとも一部の有機物が液状である混合物を調製する混合工程と、該混合物を加熱することで該混合物を分解し均一な前駆体を形成する分解工程と、該前駆体を焼成して有機物を燃焼除去するとともにセリア-ジルコニア固溶体を形成する焼成工程と、よりなることを特徴とするセリア-ジルコニア固溶体の製造方法が開示されている。特開2004-2147号公報によると、当該製造方法により高い酸素貯蔵能を有し耐熱性に優れたセリア-ジルコニア固溶体が得られる、としている。
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、従来のCe-Zr複合酸化物は、高温である排気ガスに長期間曝されると、酸素吸蔵放出性能が低下するという問題点を有していた。
【0007】
そこで本発明は、Ce-Zr複合酸化物において、排気ガスに長期間曝されることによって起こる酸素吸蔵放出性能の低下を抑制する手段を提供することを目的とする。
【0008】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討を行った。その過程で、驚くべきことに、酸素吸蔵材を製造する際に特定の酸処理工程を行うことにより、排気ガスに長期間曝された後であっても酸素吸蔵放出性能に優れた酸素吸蔵材が得られることを見出した。さらに得られた酸素吸蔵材について検討を重ねたところ、耐久後の酸素吸蔵材において、セリウム原子の偏在率を特定の範囲とすることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明の一形態に係るCe-Zr複合酸化物は、セリウムおよびジルコニウムを含み、セリウム原子の偏在率が1.80以下であることを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明の他の一形態に係るCe-Zr複合酸化物の製造方法は、セリウムおよびジルコニウムを含む原料複合酸化物の表面に、硫酸、硝酸および塩酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸を前記原料複合酸化物100質量部に対して、4~28質量部接触させる酸処理工程と、前記酸処理工程で得られた処理済み複合酸化物を400~1200℃で5~300分間焼成する焼成工程と、を含み、前記酸処理工程は、前記原料複合酸化物の表面に、前記酸を水溶液の形態で接触させるものであり、前記水溶液中の前記酸の濃度は、15~80質量%である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】Ce-Zr複合酸化物の粉体a、d、e,f、i、jおよびkについて、セリウム原子の偏在率を示すグラフである。
【
図2A】Ce-Zr複合酸化物の粉体a~eについて、セリウム原子の表面残存率を示すグラフである。
【
図2B】Ce-Zr複合酸化物の粉体f~iについて、セリウム原子の表面残存率を示すグラフである。
【
図3A】Ce-Zr複合酸化物の粉体a~eについて、セリウム原子の系内残存率の変化率を示すグラフである。
【
図3B】Ce-Zr複合酸化物の粉体f~iについて、セリウム原子の系内残存率を示すグラフである。
【
図4A】Ce-Zr複合酸化物の粉体a~eについて、酸素吸蔵放出性能を示すグラフである。
【
図4B】Ce-Zr複合酸化物の粉体f~iについて、酸素吸蔵放出性能を示すグラフである。
【
図5】Ce-Zr複合酸化物の粉体aおよびdをそれぞれ含む排気ガス浄化用触媒AおよびDについて、耐久後の排気ガス浄化性能を示すグラフである。
【
図6】Ce-Zr複合酸化物の粉体aおよびdをそれぞれ含む排気ガス浄化用触媒AおよびDについて、耐久後のA/F変動吸収性能を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきものであり、以下の実施形態に限定されない。なお、本明細書中の数値範囲「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、「Aおよび/またはB」とは、「AまたはBのいずれか一方」または「AおよびBの両方」を意味する。
【0013】
本発明の一態様に係るCe-Zr複合酸化物は、セリウムおよびジルコニウムを含み、セリウム原子の偏在率が1.80以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明の他の一形態に係るCe-Zr複合酸化物の製造方法は、セリウムおよびジルコニウムを含む原料複合酸化物の表面に、硫酸、硝酸、および塩酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸を前記原料複合酸化物100質量部に対して、4~28質量部接触させる酸処理工程と、前記酸処理工程で得られた処理済み複合酸化物を400~1200℃で5~300分間焼成する焼成工程と、を含む。そして、前記酸処理工程は、前記原料複合酸化物の表面に、前記酸を水溶液の形態で接触させるものであり、前記水溶液中の前記酸の濃度は、15~80質量%であることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、Ce-Zr複合酸化物において、排気ガスに長期間曝されることによって起こる酸素吸蔵放出性能の低下を抑制することができる。
【0016】
本発明により、上記課題が解決できる理由は定かではないが、本発明者は以下のように推察している。なお、本発明は下記メカニズムに限定されるものではない。
【0017】
セリウム原子の偏在率の定義については下記で詳述するが、端的に言うと、Ce-Zr複合酸化物の表面におけるセリウム原子の含有率と、内部におけるセリウム原子の含有率との間のばらつきを表す。すなわち、セリウム原子の偏在率が小さいほど、表面におけるセリウム原子の分布と、内部におけるセリウム原子の分布とが近く、表面と内部との組成の差が小さいことを意味する。本発明者の検討によると、従来の酸素吸蔵材は、製造直後の未使用の(排気ガスに曝されていない)状態ではセリウム原子の偏在率が小さいものの、排気ガス浄化処理用触媒等として使用した後(排気ガスに曝された後)ではセリウム原子の偏在率が大きくなることが判明した。一方、本発明に係るCe-Zr複合酸化物は、セリウム原子の偏在率が使用前後で変化しにくく、小さいままであった。さらに、セリウム原子の偏在率と酸素吸蔵放出性能との間で相関があり、偏在率が小さいほど優れた酸素吸蔵放出性能が発揮されることが分かった。これらのことから、本発明者は、従来の酸素吸蔵材では、長期間の使用により表面のセリウム原子が失われ、表面の結晶構造が変化していると推察している。そして、表面の結晶構造が変化することにより、表面と内部との結晶構造の均一性が失われ、酸素原子の受け渡しがスムーズに行えなくなり、酸素吸蔵放出性能が低下すると考えられる。一方、本発明に係るCe-Zr複合酸化物は、表面の結晶構造が変化しにくいため、長期間の使用によっても表面のセリウム原子が維持されると推察される。これにより、表面と内部との結晶構造の均一性が維持され、酸素原子の受け渡しが円滑に行われるため、酸素吸蔵放出性能が高いまま維持できると考えられる。さらに、このような作用効果が奏されるのは、特定の酸処理工程を行うことにより、表面が溶解し、より強固な結晶構造へと変化したためであると考えられる。
【0018】
<Ce-Zr複合酸化物>
本発明に係るCe-Zr複合酸化物は、セリウム(Ce)およびジルコニウム(Zr)を含むCe-Zr複合酸化物であって、セリウム原子の偏在率が1.80以下であることを特徴とする。Ce-Zr複合酸化物は、運転状況に応じて変化する空燃比(A/F)の変動に応じて、酸化雰囲気(リーン)では酸素を吸蔵し、還元雰囲気(リッチ)では酸素を放出することにより、酸化・還元反応を安定して進行させる酸素吸蔵材(OSC材)として機能する。
【0019】
Ce-Zr複合酸化物は、金属元素として、セリウムおよびジルコニウムを必須に含む。セリウムおよびジルコニウムは、それぞれ金属および/または金属酸化物の形態でありうる。すなわち、Ce-Zr複合酸化物は、セリウム(金属)および/またはセリア(CeO2)ならびにジルコニウム(金属)および/またはジルコニア(ZrO2)を含みうる。好ましくは、Ce-Zr複合酸化物は、セリア(CeO2)およびジルコニア(ZrO2)を含む。
【0020】
Ce-Zr複合酸化物中のセリウム原子の含有率は、Ce-Zr複合酸化物中の金属原子の総数に対して、好ましくは3~70原子%であり、より好ましくは10~45原子%であり、さらに好ましくは15~45原子%であり、特に好ましくは20~35原子%である。このような範囲であれば、高い酸素吸蔵放出性能を有するCe-Zr複合酸化物が得られる。
【0021】
Ce-Zr複合酸化物中のジルコニウム原子の含有率は、Ce-Zr複合酸化物中の金属原子の総数に対して、好ましくは30~97原子%であり、より好ましくは45~80原子%であり、さらに好ましくは45~75原子%であり、特に好ましくは60~70原子%である。このような範囲であれば、高い酸素吸蔵放出性能を有するCe-Zr複合酸化物が得られる。
【0022】
すなわち、本発明の好ましい一形態によると、前記Ce-Zr複合酸化物において、セリウム原子の含有率は、金属原子の総数に対して、3~70原子%であり、ジルコニウム原子の含有率は、金属原子の総数に対して、30~97原子%である。
【0023】
Ce-Zr複合酸化物は、必要に応じて、セリウムおよびジルコニウム以外の金属元素(以下、「他の金属元素」とも称する)をさらに含んでもよい。他の金属元素としては、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)およびイットリウム(Y)が挙げられる。すなわち、Ce-Zr複合酸化物は、ランタン、プラセオジム、ネオジムおよびイットリウムの少なくとも1種を含みうる。これらのうち、ランタン、プラセオジムおよびイットリウムの少なくとも1種を含むことが好ましく、ランタンおよび/またはイットリウムを含むことがより好ましく、ランタンおよびイットリウムを含むことがさらに好ましい。他の金属原子は、それぞれ金属および/または金属酸化物の形態でありうる。好ましくは、Ce-Zr複合酸化物は、ランタン(金属)および/またはランタナ(La2O3)ならびにイットリウム(金属)および/またはイットリア(Y2O3)を含む。より好ましくは、Ce-Zr複合酸化物は、ランタナ(La2O3)およびイットリア(Y2O3)を含む。
【0024】
Ce-Zr複合酸化物がランタン(好ましくはランタナ)を含む場合、Ce-Zr複合酸化物中のランタン原子の含有率は、Ce-Zr複合酸化物中の金属原子の総数に対して、好ましくは0~30原子%(0原子%または0原子%を超えて30原子%以下)であり、より好ましくは2~10原子%である。このような範囲であれば、十分なCeやZrの原子の含有率を確保できるため、優れた酸素貯蔵放出性能を達成でき、また、Ce-Zr複合酸化物の熱安定性をさらに向上できる。
【0025】
Ce-Zr複合酸化物中のプラセオジム原子の含有率は、Ce-Zr複合酸化物中の金属原子の総数に対して、好ましくは0~30原子%(0原子%または0原子%を超えて30原子%以下)であり、より好ましくは0~20原子%(0原子%または0原子%を超えて20原子%以下)である。このような範囲であれば、十分なCeやZrの原子の含有率を確保できるため、優れた酸素貯蔵放出性能を達成でき、また、Ce-Zr複合酸化物の熱安定性をさらに向上できる。
【0026】
Ce-Zr複合酸化物中のネオジム原子の含有率は、Ce-Zr複合酸化物中の金属原子の総数に対して、好ましくは0~30原子%(0原子%または0原子%を超えて30原子%以下)であり、より好ましくは0~20原子%(0原子%または0原子%を超えて20原子%以下)である。このような範囲であれば、十分なCeやZrの原子の含有率を確保できるため、優れた酸素貯蔵放出性能を達成できる。
【0027】
Ce-Zr複合酸化物中のイットリウム原子の含有率は、Ce-Zr複合酸化物中の金属原子の総数に対して、好ましくは0~30原子%(0原子%または0原子%を超えて30原子%以下)であり、より好ましくは3~10原子%である。このような範囲であれば、十分なCeやZrの原子の含有率を確保できるため、優れた酸素貯蔵放出性能を達成できる。
【0028】
すなわち、本発明の好ましい一形態によると、前記Ce-Zr複合酸化物において、金属原子の総数に対する、セリウム原子の含有率は、3~70原子%であり、ジルコニウム原子の含有率は、30~97原子%であり、ランタン原子の含有率は、0原子%または0原子%を超えて30原子%以下であり、イットリウム原子の含有率は、0原子%または0原子%を超えて30原子%以下である。
【0029】
なお、本明細書において、Ce-Zr複合酸化物における各元素の含有率(原子%)は、下記の蛍光X線(X-ray Fluorescence;XRF)分析により求められる。XRF分析は、検量線法、内部標準法またはファンダメンタルパラメーター法にて分析できる。
【0030】
<セリウム原子の系内残存率>
セリウム原子の系内残存率は、耐久前後のCe-Zr複合酸化物をXRF分析することにより求められる。具体的には、実施例に記載の方法により、耐久前後におけるCe-Zr複合酸化物についてそれぞれXRF分析を行い、耐久前のセリウム原子の含有率(Z1)に対する耐久後におけるセリウム原子の含有率(Z2)の比(Z2/Z1)により、セリウム原子の系内残存率を算出する。系内残存率は耐久によるセリウム原子の粉体からの消失状態(粉体系内の残存状態)の指標となる。当該値が1に近いほど、耐久によるセリウム原子のCe-Zr複合酸化物からの消失が少なく、セリウム原子がCe-Zr複合酸化物内に残存していることを意味している。
【0031】
また、セリウム原子の系内残存率と後述するセリウム原子の表面残存率、または、偏在率とを組み合わせることで、表面残存率、または、偏在率の違いをもたらした要因が、セリウム原子がCe-Zr複合酸化物系外へ消失したためではなく、Ce-Zr複合酸化物内のセリウム原子の分布の違いによるものであることが分かる。
【0032】
<セリウム原子の表面残存率>
本明細書において、セリウム原子の表面残存率とは、Ce-Zr複合酸化物を排気ガス浄化用触媒として長期間使用することによりCe-Zr複合酸化物の表面近傍から内部へセリウム原子が移動した時の、表面近傍に残存しているCe原子の割合を表す指標である。セリウム原子の表面残存率は、具体的には、実施例に記載の方法により、耐久前後におけるCe-Zr複合酸化物についてそれぞれISO10810に従ったX線光電子分光法(X-ray photoelectron spectroscopy;XPS)にて耐久前の表面Ce割合(Y1)、耐久後の表面Ce割合(Y2)を測定する。そしてこれらの割合Y2/Y1により、セリウム原子の表面残存率を算出する。
【0033】
本発明に係るCe-Zr複合酸化物は、セリウム原子の表面残存率が0.91以上であることが好ましい。セリウム原子の表面残存率は、より好ましくは0.94以上であり、さらに好ましくは0.95以上である。
【0034】
セリウム原子の表面残存率が0.91よりも小さいと、セリウム原子が欠失しやすく、長期に亘って高い酸素吸蔵放出性能を発揮できないおそれがある。なお、セリウム原子の表面残存率は、上記の作用効果を考慮すると1に近いほど好ましい。すなわち、セリウム原子の表面残存率は、好ましくは0.91以上1.00以下、より好ましくは0.94以上1.00以下であり、さらに好ましくは0.95以上1.00以下である。
【0035】
なお、本明細書において、耐久(水蒸気を10体積%含む窒素気流中、1,000℃で10時間処理)は、Ce-Zr複合酸化物を排気ガス浄化用触媒として長期間使用した後(排気ガスに長期間曝した後)の状態を擬似的に再現するために行われる。本発明に係るCe-Zr複合酸化物であるか否かを判別するためには、Ce-Zr複合酸化物が既に使用されたものであるか否かに関わらず、偏在率の測定の際に耐久を行うものとする。これは、前述したメカニズムによると、セリウム原子の欠失は排気ガス浄化用触媒として使用することにより生じると考えられるため、未使用(製造直後)の状態では本発明に係るCe-Zr複合酸化物であるか否かを判別することができないためである。
【0036】
<セリウム原子の偏在率>
本発明に係るCe-Zr複合酸化物は、セリウム原子の偏在率が1.80以下であることを必須とする。セリウム原子の偏在率は、好ましくは1.57以下であり、より好ましくは1.5以下(1.50以下)であり、さらに好ましくは0.9以下(0.90以下)であり、特に好ましくは0.85以下であり、最も好ましくは0.66以下である。
【0037】
セリウム原子の偏在率は、X線光電子分光法にて測定できる。具体的には、実施例に記載の方法により、ISO10810に従って測定した表面Ce割合(X1)と、ISO15969(スパッタリング法)にて測定した内部Ce割合(X2)を数式1に代入して算出する。ISO10810に従って測定したCe割合は粉体の表面のCeを検出している。一方、スパッタリング法にて測定すると粉体の表面から1nm以上の距離にある内部が露出されるため、粉体の表面から1nm以上の距離にある内部のCeを検出している。なお、具体的に後述の実施例では、スパッタリング(Arモノマー5keV、24秒間)を行い、粉体の表面から10nmの距離にある内部を露出させ、粉体の表面から10nmの距離にある内部のCeを検出している。数式1に代入した結果得られた偏在率が1に近いほど、表面と内部のCe割合が同様であり、Ceの偏在が小さいことを意味している。数式1に代入した結果得られた偏在率が1から離れた値であるほど、表面と内部のCe割合が異なり、Ceが偏在していることを意味している。
【0038】
【0039】
セリウム原子の偏在率が1.80よりも大きいと、長期間の使用により、十分な酸素吸蔵放出性能が得られなくなるおそれがある。セリウム原子の偏在率が大きいと、表面と内部との間で元素組成のばらつきが大きく、構造が不均一となっていると考えられる。これにより、酸素の受け渡しが円滑に行われず、酸素吸蔵放出性能が低下すると推察される。なお、セリウム原子の偏在率は、上記の作用効果を考慮すると小さいほど好ましいと考えられるため、下限値は好ましくは0以上であり、より好ましくは0.1以上である。すなわち、セリウム原子の偏在率は、好ましくは0以上1.80以下、より好ましくは0以上1.57以下、さらに好ましくは0以上1.5以下(1.50以下)、さらにより好ましくは0以上0.9以下(0.90以下)、特に好ましくは0.1以上0.85以下であり、最も好ましくは0.1以上0.66以下である。
【0040】
本発明に係るCe-Zr複合酸化物の体積基準の平均粒子径(メジアン径)は、好ましくは0.1~100μmであり、より好ましくは1~30μmである。平均粒子径が上記範囲内であると耐火性三次元構造体にウォッシュコートした後のCe-Zr複合酸化物の密着性が良く好ましい。なお、本明細書において、平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置によって測定することができる。
【0041】
本発明に係るCe-Zr複合酸化物のBET比表面積は、好ましくは15~150m2/gであり、より好ましくは30~100m2/gである。BET比表面積が15m2/g以上であると、酸素吸蔵放出性能のさらなる向上や、貴金属を高分散させる観点から好ましい。BET比表面積が150m2/g以下であるとスラリー化する時に粘度が高くなりすぎないため好ましい。また、その結果、安定してウォッシュコートが可能となるため好ましい。
【0042】
本発明に係るCe-Zr複合酸化物の結晶構造としては、立方晶、正方晶、単斜晶、斜方晶などがあるが、好ましくは立方晶、正方晶または単斜晶であり、より好ましくは立方晶または正方晶であり、さらに好ましくは立方晶である。結晶構造が立方晶または正方晶であると、耐熱性が高いことから好ましい。
【0043】
<Ce-Zr複合酸化物の製造方法>
従来のCe-Zr複合酸化物(本発明における原料複合酸化物)は、中和共沈法、ゾルゲル法、テンプレート法、水熱合成法、還元熱処理法、湿式粉砕法などの方法で製造される。これらの方法で製造されたCe-Zr複合酸化物をそのまま触媒として用いた場合、排気ガスに曝されると、Ce原子がCe-Zr複合酸化物内部へ移動し、Ce原子がCe-Zr複合酸化物の表面と内部で不均一な分布となる。その結果、Ce-Zr複合酸化物の酸素吸蔵放出性能を低下させている。
【0044】
本発明に係るCe-Zr複合酸化物は、上記した従来の方法で製造されたセリウムおよびジルコニウムを含む原料複合酸化物に、所定の酸処理を行った後、焼成を行うことによって製造される。すなわち、本発明のCe-Zr複合酸化物の製造方法は、セリウムおよびジルコニウムを含む原料複合酸化物の表面に、硫酸、硝酸および塩酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸を、前記原料複合酸化物100質量部に対して、4~28質量部接触させる酸処理工程と、前記酸処理工程で得られた処理済み複合酸化物を400~1200℃で5~300分間焼成する焼成工程と、を含む。そして、前記酸処理工程は、前記原料複合酸化物の表面に、前記酸を水溶液の形態で接触させるものであり、前記水溶液中の前記酸の濃度は、15~80質量%であることを特徴とする。当該製造方法により、前述したように、Ce-Zr複合酸化物における表面と内部との結晶構造の均一性が維持され、排気ガスに長期間曝されることによって起こる酸素吸蔵放出性能の低下が抑制されると考えられる。すなわち、本発明の他の側面によると、前記酸処理工程と、前記焼成工程と、を含むCe-Zr複合酸化物の結晶構造安定化方法が提供される。以下、各工程について詳細に説明する。
【0045】
[酸処理工程]
酸処理工程では、セリウムおよびジルコニウムを含む原料複合酸化物の表面に、硫酸、硝酸および塩酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸を、前記原料複合酸化物100質量部に対して、4~28質量部接触させる。
【0046】
原料複合酸化物に含まれる金属元素の種類およびその含有率、原料複合酸化物の平均粒子径、BET比表面積ならびに結晶構造については、前述のCe-Zr複合酸化物で説明したものと同様の形態を採用することができる。Ce-Zr複合酸化物は、表面の性状が異なる以外は、原料複合酸化物と同様であるためである。
【0047】
酸は、硫酸、硝酸および塩酸からなる群から選択される少なくとも1種であり、好ましくは硫酸または硝酸であり、さらに好ましくは硝酸である。このような強酸を用い、表面を溶解させることにより、均一な構造へと変化させることができる。このため、長期に亘って高い酸素吸蔵放出性能を有する酸素吸蔵放出材が得られる。従来のCe-Zr複合酸化物(原料複合酸化物)は、焼成工程を経ているため、Ce原子の自由な移動が起こり難くなっている。このような状態のCe-Zr複合酸化物を強酸で処理すると、安定で均質な配列をする方向にCe原子が拡散しやすくなると考えられる。結果として、酸処理後のCe-Zr複合酸化物は、安定で均一なCe分布を持つ状態になる。
【0048】
原料複合酸化物と接触させる酸の量は、原料複合酸化物100質量部に対して、4~28質量部であり、好ましくは6~18質量部であり、より好ましくは7.5~16.5質量部である。酸の量が4質量部よりも少ないまたは28質量部よりも多いと、長期に亘って高い酸素吸蔵放出性能を有する酸素吸蔵材が得られない。また、酸の量が4質量部よりも少ないと、原料複合酸化物の表面の溶解による所望の性状変化が十分に行われないため好ましくない。一方、酸の量が28質量部よりも多いと、複合酸化物の細孔の収縮など構造を大きく変化させるため好ましくない。
【0049】
酸は、水溶液の形態で原料複合酸化物と接触させる。酸水溶液の濃度は、15~80質量%であり、好ましくは30~70質量%である。濃度が上記範囲内であれば、酸が原料複合酸化物の表面に十分に作用し、長期に亘って高い酸素吸蔵放出性能を有する酸素吸蔵材が得られる。
【0050】
原料複合酸化物と接触させる水溶液(酸水溶液)の量は、原料複合酸化物100質量部に対して、好ましくは6.2~43.1質量部であり、より好ましくは11.5~25.4質量部である。水溶液の量が上記範囲内であれば、原料複合酸化物の表面全体に満遍なく接触させることができるとともに、内部の好ましくない性状変化を防ぐことができるため、長期に亘って高い酸素吸蔵放出性能を有する酸素吸蔵材が得られる。
【0051】
原料複合酸化物に酸(酸水溶液)を接触させる方法は、特に制限されないが、原料複合酸化物に酸(酸水溶液)を添加し、混練する方法が好ましい。原料複合酸化物に酸(酸水溶液)を添加する際は、原料複合酸化物を混練しながら酸(酸水溶液)を複数回に分けて添加することが好ましい。このような方法で酸(酸水溶液)を原料複合酸化物と接触させることにより、原料複合酸化物の表面全体に酸(酸水溶液)を満遍なく接触させることができる。
【0052】
[焼成工程]
焼成工程では、酸処理工程で得られた処理済み複合酸化物を焼成する。
【0053】
焼成工程の温度は、400~1200℃であり、より好ましくは420~800℃である。温度が上記範囲内であれば、酸処理に用いた酸の残部を除去できる。
【0054】
焼成工程の時間は、5~300分間であり、より好ましくは30~120分間である。焼成時間が上記範囲内であれば、酸処理に用いた酸の残部を除去できる。
【0055】
焼成工程は、空気、酸素ガス、酸素ガスと不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガス)との混合ガスなど、いずれの雰囲気で行われてもよい。
【0056】
なお、必要に応じて、焼成工程前に、酸処理工程で得られた処理済み複合酸化物を焼成工程の温度よりも低い温度(例えば70~220℃)で乾燥させてもよい。このような乾燥工程により、処理済み複合酸化物に含まれる水分等を予め除去することができる。
【0057】
以上の製造方法により、本発明に係るCe-Zr複合酸化物が製造される。すなわち、本発明のさらに他の一形態によると、前記Ce-Zr複合酸化物の製造方法により製造されるCe-Zr複合酸化物が提供される。
【0058】
<排気ガス浄化用触媒>
本発明に係るCe-Zr複合酸化物は、長期に亘って高い酸素吸蔵放出性能を有する。このため、本発明に係るCe-Zr複合酸化物は、排気ガス浄化用触媒の酸素吸蔵材(OSC材)として好適である。すなわち、本発明の他の一形態によると、本発明に係るCe-Zr複合酸化物および貴金属が三次元構造体に担持されてなる排気ガス浄化用触媒が提供される。
【0059】
以下、本態様について説明する。なお、本形態に係る排気ガス浄化用触媒(以下、単に「触媒」とも称する)は、本発明に係るCe-Zr複合酸化物を含むこと以外は、従来公知の成分、技術が適用できる。このため、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0060】
本発明に係る触媒は、本発明に係るCe-Zr複合酸化物を必須に含む。ここで、Ce-Zr複合酸化物の含有量(酸化物換算)は、三次元構造体1L当たり、好ましくは5~200g、より好ましくは5~100g、さらに好ましくは10~90gである。このような含有量でCe-Zr複合酸化物が含まれることにより、酸化・還元反応を安定して進行させることができる。
【0061】
(貴金属)
本発明に係る触媒は、貴金属を必須に含む。貴金属は、排気ガスを浄化するための酸化・還元反応を触媒する。ここで、貴金属の種類は、特に制限されないが、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)などが挙げられる。これらの貴金属は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用されてもよい。これらのうち、貴金属は、好ましくは白金、パラジウムおよびロジウムから選択される少なくとも1種であり、より好ましくはパラジウム単独;白金および/またはパラジウムとロジウムとの組み合わせであり、特に好ましくはパラジウム単独、パラジウムとロジウムとの組み合わせである。すなわち、本発明の好ましい形態によると、貴金属は、白金、パラジウムおよびロジウムからなる群から選択される少なくとも1種である。また、本発明のより好ましい形態によると、貴金属は、パラジウムのみ、または白金およびパラジウムの少なくとも一方ならびにロジウムである。本発明の特に好ましい形態によると、貴金属は、パラジウム、またはパラジウムおよびロジウムである。
【0062】
白金の含有量(金属換算)は、排気ガス浄化能を考慮すると、三次元構造体1L当たり、0.01~20gが好ましく、0.05~10gがより好ましく、0.5gを超えて5g未満がさらに好ましい。
【0063】
パラジウムの含有量(金属換算)は、排気ガス(特にHC)浄化能を考慮すると、三次元構造体1L当たり、0.01~20gが好ましく、0.05~5gがより好ましく、0.3~3gさらに好ましい。
【0064】
ロジウム含有量(金属換算)は、排気ガス(特にNOx)浄化能を考慮すると、三次元構造体1L当たり、0.01~20gが好ましく、0.05~5gがより好ましく、0.1~3gがさらに好ましい。
【0065】
貴金属がパラジウムおよびロジウムを含む場合において、パラジウムとロジウムとの質量比(パラジウム:ロジウム、金属換算)は、好ましくは30:1~1.1:1であり、より好ましくは20:1~1.3:1であり、さらに好ましくは8:1~1.5:1である。パラジウムとロジウムとの質量比が上記範囲内であると、排気ガス浄化効率を向上できる。
【0066】
(耐火性無機酸化物)
本発明に係る触媒は、必要に応じて、本発明のCe-Zr複合酸化物を除く、耐火性無機酸化物を含みうる。耐火性無機酸化物は、貴金属、希土類金属、その他の金属元素などの触媒成分を担持する担体としての機能を有する。耐火性無機酸化物は、高い比表面積を有しており、これに触媒成分を担持させることで、触媒成分と排気ガスとの接触面積を増加させたり、反応物を吸着させたりすることができる。その結果、触媒全体の反応性をさらに高めることが可能となる。
【0067】
耐火性無機酸化物としては、例えば、アルミナ、ゼオライト、チタニア、ジルコニア、シリカなどを挙げることができる。これらの耐火性無機酸化物は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用しても構わない。これらのうち、高温耐久性および高比表面積の観点から、アルミナ、ジルコニアが好ましく、アルミナがより好ましい。ここで、耐火性無機酸化物として好ましく使用されるアルミナは、アルミニウムの酸化物が含まれるものであれば特に制限されず、γ、δ、η、θ-アルミナなどの活性アルミナ、ランタナ含有アルミナ、シリカ含有アルミナ、シリカ-チタニア含有アルミナ、シリカ-チタニア-ジルコニア含有アルミナなどが挙げられる。これらのアルミナは、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用しても構わない。これらのうち、高温耐久性および高比表面積の観点から、γ、δ、またはθ-アルミナ、ランタナ含有アルミナが好ましい。
【0068】
耐火性無機酸化物の含有量は、三次元構造体1L当たり、好ましくは10~300gであり、より好ましくは40~200gである。耐火性無機酸化物の含有量が10g/L以上であると、貴金属を十分に耐火性無機酸化物に分散でき、より十分な耐久性を有する触媒が得られる。一方、耐火性無機酸化物の含有量が300g/L以下であると、貴金属と排気ガスとの接触状態が良好となり、排気ガス浄化性能がより十分に発揮され得る。
【0069】
本発明に係る触媒が本発明に係るCe-Zr複合酸化物および耐火性無機酸化物を含む場合の、Ce-Zr複合酸化物と耐火性無機酸化物との質量比は、好ましくは1:9~1:0.1、より好ましくは1:2~1:0.25である。このような比であれば、十分な量の触媒成分を耐火性無機酸化物に担持させることができ、触媒成分と排気ガスとの接触面積を増加させる。また、Ce-Zr複合酸化物は、十分な量の酸素を吸蔵放出することができ、かつ、排気ガス中の炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)を十分に吸着できる。その結果、触媒の反応性がさらに向上し、高い排気ガスの浄化性能を発揮することができる。
【0070】
(その他の成分)
本発明に係る触媒は、その他の成分をさらに含んでもよい。その他の成分としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等の第2属元素が挙げられる。これらの元素は、排気ガス浄化用触媒中に、酸化物、硝酸塩または炭酸塩の形態で含有されうる。中でも、バリウムおよび/またはストロンチウムが好ましく、酸化ストロンチウム(SrO)、硫酸バリウム(BaSO4)および/または酸化バリウム(BaO)がより好ましい。これらのその他の成分は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用しても構わない。
【0071】
本発明に係る触媒がその他の成分を含む場合の、その他の成分(特に、SrO、BaSO4、BaO)の含有量(酸化物換算)は、三次元構造体1L当たり、好ましくは0~50gであり、より好ましくは0.1~30gであり、さらに好ましくは0.5~20gである。
【0072】
(三次元構造体)
三次元構造体は、Ce-Zr複合酸化物、貴金属、耐火性無機酸化物、およびその他成分を担持する担体としての機能を有する。三次元構造体は、本技術分野で公知の耐火性三次元構造体を適宜採用することができる。三次元構造体としては、例えば、貫通口(ガス通過口、セル形状)が三角形、四角形、六角形を有するハニカム担体等の耐熱性担体が使用できる。セル密度(セル数/単位断面積)は、100~1200セル/平方インチであれば十分に使用可能であり、好ましくは200~900セル/平方インチ、より好ましくは400~900セル/平方インチ(1インチ=25.4mm)である。
【0073】
以下、本発明の触媒の製造方法の好ましい形態を説明する。しかし、本発明は、下記好ましい形態に限定されるものではない。
【0074】
すなわち、本発明に係るCe-Zr複合酸化物、貴金属源、ならびに必要であれば、上記したような他の成分(例えば、耐火性無機酸化物、希土類金属、その他の成分)および水性媒体を、所望の組成に応じて、適宜秤量、混合して、5~95℃で0.5~24時間攪拌し(必要であれば撹拌した後、湿式粉砕し)、スラリーを調製する。ここで、水性媒体としては、水(純水、超純水、脱イオン水、蒸留水等)、エタノール、2-プロパノールなどの低級アルコール、有機系のアルカリ水溶液などを使用することができる。中でも、水、低級アルコールを使用することが好ましく、水を使用することがより好ましい。水性媒体の量は、特に制限されないが、スラリー中の固形分の割合(固形分質量濃度)が10~60質量%、より好ましくは30~50質量%となるような量であることが好ましい。
【0075】
次に、上記にて調製したスラリーを三次元構造体に塗布する。スラリーを三次元構造体上に塗布する方法は、ウォッシュコートなどの公知の方法を適宜採用することができる。また、スラリーの塗布量は、スラリー中の固体物の量、および形成する触媒層の厚さに応じて当業者が適宜設定することができる。スラリーの塗布量は、好ましくは、各成分が上記したような含有量(担持量)となるような量である。
【0076】
次に、上記にてスラリーを塗布した三次元構造体を、空気中で、好ましくは70~200℃の温度で、5分間~5時間乾燥させる。次に、このようにして得られた乾燥スラリー塗膜(触媒前駆層)を、空気中で、400℃~900℃の温度で、10分間~3時間焼成させる。このような条件であれば、触媒成分(貴金属、Ce-Zr複合酸化物等)を効率よく三次元構造体に付着できる。
【0077】
上記により、本発明の触媒が製造できる。なお、本発明に係る触媒は、上記したように、本発明に係るCe-Zr複合酸化物を有するものであれば、触媒層1層のみを有していても、あるいは2層以上の触媒層が積層した構造を有するものであってもよい。本発明の触媒が2層以上の触媒層が積層した構造を有する場合において、本発明に係るCe-Zr複合酸化物はいずれの触媒層に配置されてもよい。好ましくは、本発明に係るCe-Zr複合酸化物が少なくともパラジウムを含む層に配置されることが好ましい。このような配置により、本発明に係るCe-Zr複合酸化物の能力を最大限に発揮できる。
【0078】
<排気ガスの浄化方法>
本発明の触媒は、排気ガス(炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx))に対して高い浄化性能を発揮できる。ゆえに、本発明のさらに他の一形態によるとは、本発明に係る排気ガス浄化用触媒と、排気ガスとを接触させることを有する、排気ガスの浄化方法が提供される。なお、本発明に係る触媒は、内燃機関からの排気ガスに適用できるが、ガソリンエンジンからの排気ガスに特に好適に使用できる。なお、ガソリンエンジンを用いて排気ガスの浄化率(浄化能)は、例えば、下記ライトオフ(LO)試験におけるCO、THC、NOxの各浄化率が50%に達する時の温度(T50(℃))によって評価できる。なお、T50が低いほど、触媒は高い排気ガス浄化性能を発揮することを示す。
【0079】
排気ガスの温度は、通常のガソリンエンジンの運転時の排気ガスの温度であればよく、好ましくは0~1500℃であり、より好ましくは25~700℃である。本明細書において「排気ガスの温度」とは、触媒入口部における排気ガスの温度を意味する。ここで、「触媒入口部」とは、触媒の排気ガス流入側端面から15cmの部分を指す。
【0080】
本形態の触媒は、単独で十分な触媒活性を発揮できるものであるが、本発明に係る触媒の前段(流入側)または後段(流出側)に同様の、または異なる排気ガス浄化触媒を配置してもよい。すなわち、本発明に係る触媒を単独で配置する、または本発明に係る触媒を前段(流入側)および後段(流出側)双方に配置する、または本発明の触媒を前段(流入側)および後段(流出側)のいずれか一方に配置しかつ従来公知の排気ガス浄化触媒を他方に配置することが好ましい。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例および比較例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。なお、特記しない限り、「%」は質量%を表し、比は質量比を表す。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は、室温(10~30℃)/相対湿度20~80%RHの条件で行う。
【0082】
以下では、中和共沈法により得られたCe-Zr複合酸化物を原料複合酸化物として使用した例を示すが、これ以外の方法により得られたCe-Zr複合酸化物を原料複合酸化物として使用した場合であっても同様の結果が得られた。
【0083】
[実施例1]
塩基性硝酸ジルコニウムをZrO2換算で40g秤量し、純水に分散させて分散液を得た。次に、硝酸セリウム水溶液をCeO2換算で50g、硝酸ランタン水溶液をLa2O3換算で10g秤量し、上記分散液に加えた。得られた混合液を0.5時間攪拌した後、水酸化ナトリウム水溶液でpH7に調整し、沈殿物を生成させた。次に、得られた沈殿物をろ過することで回収し、回収した沈殿物を400℃で3時間焼成することで立方晶である原料複合酸化物の粉体a0を得た。次に、粉体a0を30g秤量し、65%硫酸水溶液7.5g(原料複合酸化物100質量部に対する酸量は16.2質量部)を少しずつ加えて混錬した(酸処理工程)。次に、酸処理工程後の粉体a0を120℃で12時間乾燥し(乾燥工程)、その後、500℃で1時間焼成する(焼成工程)ことでCe-Zr複合酸化物の粉体a(平均粒子径14.1μm、BET比表面積46.4m2/g)を得た。
【0084】
[実施例2]
上記酸処理工程において、65%硫酸水溶液の量を3.6g(原料複合酸化物100質量部に対する酸量は7.7質量部)としたこと以外は、実施例1と同様にしてCe-Zr複合酸化物の粉体b(平均粒子径14.0μm、BET比表面積46.6m2/g)を得た。
【0085】
[比較例1]
上記酸処理工程において、65%硫酸水溶液の量を13.8g(原料複合酸化物100質量部に対する酸量は30.0質量部)としたこと以外は、実施例1と同様にしてCe-Zr複合酸化物の粉体c(平均粒子径14.6μm、BET比表面積46.1m2/g)を得た。
【0086】
[比較例2]
上記酸処理工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にしてCe-Zr複合酸化物の粉体d(平均粒子径13μm、BET比表面積47.5m2/g)を得た。
【0087】
[比較例3]
実施例1と同様の方法で作製した原料複合酸化物の粉体a0を30g秤量し、純水(硫酸水溶液を加えた後の固形分の割合が45質量%となる量)に加え、65%硫酸水溶液3.6g(原料複合酸化物100質量部に対する酸量は7.7質量部)を加えた後、0.5時間攪拌して分散液を得た。なお、この際の分散液中に含まれる酸水溶液の濃度は3.5質量%であった。次に、上記分散液をボールミルで14時間粉砕することでスラリーe0を得た。次に、スラリーe0を120℃で12時間乾燥し(乾燥工程)、その後、500℃で1時間焼成する(焼成工程)ことでCe-Zr複合酸化物の粉体e(平均粒子径2.3μm、BET比表面積47.2m2/g)を得た。
【0088】
[実施例3]
塩基性硝酸ジルコニウムをZrO2換算で30g秤量し、純水に分散させて分散液を得た。次に、硝酸セリウム水溶液をCeO2換算で60g、硝酸ランタン水溶液をLa2O3換算で5g、硝酸イットリウムをY2O3換算で5g秤量し、上記分散液に加えた。得られた混合液を0.5時間攪拌した後、水酸化ナトリウム水溶液でpH7に調整し、沈殿物を生成させた。次に、得られた沈殿物をろ過することで回収し、回収した沈殿物を400℃で3時間焼成することで立方晶である原料複合酸化物の粉体f0を得た。次に、粉体f0を30g秤量し、65%硫酸水溶液7.5g(原料複合酸化物100質量部に対する酸量は16.2質量部)を少しずつ加えて混錬した(酸処理工程)。次に、酸処理工程後の粉体f0を120℃で12時間乾燥し(乾燥工程)、その後、500℃で1時間焼成する(焼成工程)ことでCe-Zr複合酸化物の粉体f(平均粒子径12.7μm、BET比表面積77.1m2/g)を得た。
【0089】
[実施例4]
上記酸処理工程において、65%硫酸水溶液の量を3.6g(原料複合酸化物100質量部に対する酸量は7.7質量部)としたこと以外は、実施例3と同様にしてCe-Zr複合酸化物の粉体g(平均粒子径13.3μm、BET比表面積78.0m2/g)を得た。
【0090】
[比較例4]
上記酸処理工程において、65%硫酸水溶液の量を13.8g(原料複合酸化物100質量部に対する酸量は30.0質量部)としたこと以外は、実施例3と同様にしてCe-Zr複合酸化物の粉体h(平均粒子径13.0μm、BET比表面積76.8m2/g)を得た。
【0091】
[比較例5]
上記酸処理工程を行わなかったこと以外は、実施例3と同様にしてCe-Zr複合酸化物の粉体i(平均粒子径13.7μm、BET比表面積80.3m2/g)を得た。
【0092】
[実施例5]
塩基性硝酸ジルコニウムをZrO2換算で75g秤量し、純水に分散させて分散液を得た。次に、硝酸セリウム水溶液をCeO2換算で15g、硝酸ランタン水溶液をLa2O3換算で5g、硝酸イットリウムをY2O3換算で5g秤量し、上記分散液に加えた。得られた混合液を0.5時間攪拌した後、水酸化ナトリウム水溶液でpH7に調整し、沈殿物を生成させた。次に、得られた沈殿物をろ過することで回収し、回収した沈殿物を400℃で3時間焼成することで立方晶である原料複合酸化物の粉体j0を得た。次に、粉体j0を30g秤量し、65%硝酸水溶液7.5g(原料複合酸化物100質量部に対する酸量は16.2質量部)を少しずつ加えて混錬した(酸処理工程)。次に、酸処理工程後の粉体j0を120℃で12時間乾燥し(乾燥工程)、その後、500℃で1時間焼成する(焼成工程)ことでCe-Zr複合酸化物の粉体j(平均粒子径12.5μm、BET比表面積77.8m2/g)を得た。
【0093】
[比較例6]
上記酸処理工程を行わなかったこと以外は、実施例5と同様にしてCe-Zr複合酸化物の粉体k(平均粒子径13.1μm、BET比表面積79.0m2/g)を得た。
【0094】
酸処理工程で用いた原料複合酸化物100質量部あたりの酸量、Ce-Zr複合酸化物中の各金属原子の割合を下記表1に示す。
【0095】
【0096】
<物性の測定>
[耐久]
水蒸気を10体積%含む窒素気流中で、各粉体を1,000℃で10時間処理した。
【0097】
[セリウム原子の偏在率の測定]
耐久後のCe-Zr複合酸化物の粉体(粉体a、d、e、f、i、jおよびk)のセリウム原子の偏在率を、XPSにて下記の測定条件で測定した。
【0098】
測定装置:島津製作所製 AXIS-NOVA
X線出力:Alモノクロ100W
ビーム径:400μm2
ビーム出力:10kV-10mA
ビーム照射時間:1点あたり100ms
スキャンステップ:100meV
パスエネルギー:40eV。
【0099】
耐久後の粉体を乳鉢を用いて粉砕した。粉砕後の粉体の表面についてXPS測定を行い、各元素積算を15回行ったスペクトルから、Ce原子およびZr原子の総数に対するCe原子の含有率(原子%)を算出した。得られた値を、表面Ce割合(X
1)とする。次に、粉体の内部を測定するために、スパッタリング(Arモノマー5keV、24秒間)を行い、粉体の表面から10nmの距離にある内部を露出させた。露出させた粉体の内部について各元素積算を15回行ったスペクトルから、Ce原子およびZr原子の総数に対するCe原子の含有率(原子%)を算出した。得られた値を、内部Ce割合(X
2)とする。そして、前記数式1により、セリウム原子の偏在率を算出した。結果を表2および
図1に示す。
【0100】
【0101】
表2および
図1より、本発明の製造方法により得られたCe-Zr複合酸化物は、セリウム原子の偏在率が1.80以下であることが示された。特に、Ce原子の割合が多い(23.7~42.9原子%である)粉体a、fでは偏在率が顕著に小さくなることが示された。偏在率が小さいということは、表面のセリウム原子の割合が内部のセリウム原子の割合と近い値となっていることを意味する。このことより、本発明に係るCe-Zr複合酸化物は、内部から表面にかけてより均一な構造となっていることが示唆された。
【0102】
なお、粉体b、gについても同様の測定を行ったところ、セリウム原子の偏在率は1.80以下であることが確認された。
【0103】
[セリウム原子の表面残存率の測定]
耐久後のCe-Zr複合酸化物の粉体(粉体a~e、f~i)のセリウム原子の表面残存率を、X線光電子分光法(X-ray photoelectron spectroscopy;XPS)にて下記の測定条件で測定した。
【0104】
測定装置:島津製作所製 AXIS-NOVA
X線出力:Alモノクロ100W
ビーム径:400μm2
ビーム出力:10kV-10mA
ビーム照射時間:1点あたり100ms
スキャンステップ:100meV
パスエネルギー:40eV。
【0105】
まず、耐久前の粉体を乳鉢を用いて粉砕した。粉砕後の粉体の表面についてXPS測定を行い、各元素積算を15回行ったスペクトルからCe、Zr、LaおよびYの各原子の総数に対するCe原子の含有率(原子%)を算出した。得られた値を、耐久前の表面Ce割合(Y
1)とする。これとは別に、耐久後の粉体についても耐久前の粉体と同様にXPS測定を行い、耐久後の表面Ce割合(Y
2)を求めた。そして、セリウム原子の表面残存率=Y
2/Y
1により、セリウム原子の表面残存率を算出した。結果を表3、
図2Aおよび
図2Bに示す。
【0106】
【0107】
表3、
図2Aおよび
図2Bより、本発明の製造方法により得られたCe-Zr複合酸化物は、セリウム原子の表面残存率が0.91以上であることが示された。表面残存率が1に近いということは、耐久後であっても表面のセリウム原子の割合が低下しないことを意味する。このことより、本発明に係るCe-Zr複合酸化物は、長期間使用した場合であっても表面の構造変化が少ないことが示唆された。
【0108】
[セリウム原子の系内残存率]
耐久前後のCe-Zr複合酸化物の粉体(粉体a~e、f~i)の系内残存率(粉体全体に含まれるセリウム原子の割合の変化率)を、蛍光X線分析法(X-ray Fluorescence;XRF)にて下記の測定条件で測定した。測定には、BRUKER社製 S8 TIGER製 S8 Tigerを用いた。
【0109】
まず、耐久前の粉体をディスクミルにて粉砕し、プレス機で直径31mm、厚さ5mmの円形プレート状に成形したものを試料とした。この試料について、XRF分析を行い、得られたスペクトルからファンダメンタルパラメーター法にて、CeおよびZrならびに他の成分(Nd、La、PrおよびY等の全ての金属元素)の原子の総数を100%とした際のセリウム原子の含有率(原子%)を算出した。得られた値を、耐久前の系内Ce割合(Z
1)とする。これとは別に、耐久後の粉体について同様にXRF分析を行い、耐久後の系内Ce割合(Z
2)を求めた。そして、セリウム原子の系内残存率=Z
2/Z
1により、セリウム原子の系内残存率を算出した。結果を表4、
図3Aおよび
図3Bに示す。
【0110】
【0111】
表4、
図3Aおよび
図3Bより、本発明の製造方法により得られたCe-Zr複合酸化物は、酸処理工程で用いた酸の量に関わらず、Ce-Zr複合酸化物全体におけるセリウム原子割合は耐久前後でほぼ一定であることが示された。これにより、耐久によって、Ce-Zr複合酸化物中のCeが揮発等により系外へ消失することはほとんどないことが示唆された。
【0112】
以上の結果から、セリウム原子の偏在率、及びセリウム原子の表面残存率の違いは、粉体系外へのCeの消失によるものではなく、粉体系内でのCe原子の存在箇所の違い、偏在状態の違いによるものであることが確認された。
【0113】
<性能評価>
[酸素吸蔵放出性能]
耐久後のCe-Zr複合酸化物の粉体(粉体a~e、f~i)の酸素吸蔵放出性能について、H2-TPR(Temperature Programmed Reduction)法(測定装置:ヘンミ計算尺株式会社製 全自動触媒ガス吸着測定装置R-6015)を用いて評価した。
【0114】
まず、粉体を乳鉢を用いて粉砕した。粉砕後の粉体0.5gを500℃に加熱し、高純度酸素ガス中で10分間保持して十分に酸化させた。次に、粉体を50℃まで冷却した後、5体積%水素-窒素気流(100mL/分)中、50℃から700℃まで10℃/分の昇温速度で加熱した。この間に生成する水をTCD(Thermal Conductivity Detector)で測定した。そして単位時間当たりの水の生成量がピークとなる温度を測定した。なお、水が生成されるということはCe-Zr複合酸化物から酸素が放出されることを意味する。結果を表5、
図4Aおよび
図4Bに示す。
【0115】
【0116】
表5、
図4Aおよび
図4Bより、本発明に係るCe-Zr複合酸化物は、ピーク温度が有意に低いことが示された。ピーク温度が低いということは、より低温で酸素が放出される(つまり、酸素吸蔵放出性能に優れる)ことを意味する。また、粉体eは測定した温度範囲では、水の生成のピークは観察されなかった。このことから、低濃度の酸水溶液中でのボールミルによる湿式粉砕による方法で、原料Ce-Zr複合酸化物に硫酸を作用させても同様の効果は発現しないことがわかった。
【0117】
前述したように、本発明に係るCe-Zr複合酸化物は、排気ガスに長期間曝された後であっても表面の構造変化が少ないと考えられる。そのため、表面から内部への酸素原子の受け渡し(酸素吸蔵)、および、内部から表面への酸素原子の受け渡し(酸素放出)がより円滑となり、優れた酸素吸蔵放出性能が発揮されると推察された。
【0118】
[排気ガス浄化性能]
Ce-Zr複合酸化物の粉体(粉体aおよびd)を用いて排気ガス浄化用触媒を製造し、当該触媒の排気ガス浄化性能を評価した。
【0119】
(排気ガス浄化用触媒の製造)
[実施例6]
Pd原料として硝酸パラジウム、粉体a、硫酸バリウム9水和物、ランタナ含有アルミナ(ランタナ含有アルミナ100質量部に対しランタナ3質量部)を1:44:11:44の質量比で混合し、純水に分散させた。この分散水溶液を1時間攪拌後、ボールミルにて湿式粉砕し、平均粒子径3.8μmのスラリーA0を得た。このスラリーA0を、三次元構造体としての直径103mm、長さ105mm、600セル/平方インチの円筒形コージェライト担体に、コージェライト担体1リットルあたり100gとなるようウォッシュコートした。次に、150℃で15分間乾燥した後、550℃で30分間空気中にて焼成を行うことで触媒Aを得た。
【0120】
[比較例7]
実施例6に対し、粉体aの代わりに粉体dを用い、ボールミルにて湿式粉砕する直前に65%硫酸水溶液11g(原料複合酸化物100質量部に対する酸量は16.2質量部)を加えた以外は同様にして、触媒Dを得た。
【0121】
(エンジン耐久)
触媒AおよびDを、それぞれ、触媒コンバーターにセットし、4.6リットルエンジン排気口から下流の位置に設置し、排気ガスを触媒に流通させた。この際、排気ガスは、触媒BED温度が最大1,000℃となるように、ストイキ(A/F=14.6)と、リッチ(A/F=13.8)、燃料カットのサイクルを周期的に繰り返すモードで、50時間エンジン運転された時に排出されたものとした。
【0122】
(排気ガス浄化性能の測定)
耐久後の触媒AおよびDを、それぞれ、直列6気筒、2リットルエンジン排気口から30cm下流側に設置した。A/Fを14.6を中心に振幅±0.5を周波数1Hzで変動させた排気ガスを触媒に流入させた(空間速度:15,0000
-1)。150℃から500℃まで50℃/分の昇温速度で触媒を昇温した。この際の排気ガスの温度を、触媒の排気ガス流入側端面から15cmの位置に設置した熱電対にて測定した。触媒の排気ガス流入側端面の前および排気ガス流出側端面の後においてガスをサンプリングし、CO、HCおよびNOxの各浄化率を算出した。浄化率が50%に達する時の温度(Light-off T50)を
図5に示す。
【0123】
図5より、本発明に係る触媒は、CO、HCおよびNOxの全てについて、Light-off T50が有意に低いことが示された。Light-off T50が低いということは、排気ガス浄化性能が高いことを意味する。
【0124】
[A/F変動吸収性能]
上記耐久後の触媒AおよびDがセットされたコンバーターを、2.4LのMPIエンジンの下流に設置した。触媒入口温度を550℃に固定し、A/Fを、15.1で運転し、その後、14.3に切り替えた。15.1から14.3に切り替えた際に、触媒出口側のA/Fが14.7から14.5(理論空燃比の近傍)を持続する時間を求めた。結果を
図6に示す。
【0125】
図6より、本発明に係る触媒は、より長い時間、理論空燃比近傍を維持できることが示された。
【0126】
本出願は、2020年6月10日に出願された日本特許出願番号2020-100958号に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。