(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】抗肥満活性を有するデオキシコール酸-ペプチド結合体及びその用途
(51)【国際特許分類】
C07K 7/06 20060101AFI20240605BHJP
C07J 9/00 20060101ALI20240605BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20240605BHJP
A61K 31/575 20060101ALI20240605BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20240605BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240605BHJP
A61K 8/63 20060101ALI20240605BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20240605BHJP
A61Q 19/06 20060101ALI20240605BHJP
【FI】
C07K7/06 ZNA
C07J9/00
A61P3/04
A61K31/575
A61K47/64
A61K9/08
A61K8/63
A61K8/64
A61Q19/06
(21)【出願番号】P 2022575916
(86)(22)【出願日】2021-06-11
(86)【国際出願番号】 KR2021007325
(87)【国際公開番号】W WO2021251790
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】10-2020-0071657
(32)【優先日】2020-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】510271129
【氏名又は名称】ケアジェン カンパニー,リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CAREGEN CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョン ヨンジ
(72)【発明者】
【氏名】キム ウンミ
(72)【発明者】
【氏名】キム ソンス
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0279193(US,A1)
【文献】特開2013-075918(JP,A)
【文献】特表2008-501627(JP,A)
【文献】特開2010-116415(JP,A)
【文献】Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry,2010年,vol.74, no.8,pp.1738-1741
【文献】Nutrients,2018年,vol.10, no.9,1211
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 7/00-7/66
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列から
なるペプチドとデオキシコール酸が結合されたデオキシコール酸-ペプチド結合体。
【請求項2】
前記デオキシコール酸は、ペプチドのN-末端とペプチド結合する、請求項1に記載のデオキシコール酸-ペプチド結合体。
【請求項3】
前記デオキシコール酸-ペプチド結合体は、脂肪細胞での脂肪生成を抑制する、請求項1に記載のデオキシコール酸-ペプチド結合体。
【請求項4】
前記デオキシコール酸-ペプチド結合体は、脂肪分解を促進する、請求項1に記載のデオキシコール酸-ペプチド結合体。
【請求項5】
前記デオキシコール酸-ペプチド結合体は、脂肪細胞のサイズを減少させる、請求項1に記載のデオキシコール酸-ペプチド結合体。
【請求項6】
請求項1に記載のデオキシコール酸-ペプチド結合体を含む脂肪生成抑制又は脂肪分解を促進するための用途の組成物。
【請求項7】
請求項1に記載のデオキシコール酸-ペプチド結合体を含む肥満又は肥満関連疾患の予防、治療又は改善用組成物。
【請求項8】
請求項1に記載のデオキシコール酸-ペプチド結合体を含む肥満予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項9】
前記薬学的組成物は、薬剤学的に許容される担体、賦形剤、又は希釈剤をさらに含む、請求項8に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記担体は
、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、テキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、及びエタノールから構成された群から選択された一つ以上である、請求項
9に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
前記薬学的組成物は、経口用製剤、注射用製剤、又は外用剤の形態に剤形化される、請求項8に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
前記注射用製剤は、局所化された脂肪沈積を除去するためである、請求項11に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
前記局所化された脂肪は、腹部、目下、顎下、腕下、尻
、ふくらはぎ、背中、大腿、ブララインから構成された群から選択された対象部位に局所化された、請求項12に記載の薬学的組成物。
【請求項14】
請求項1に記載のデオキシコール酸-ペプチド結合体を含む、肥満の予防又は改善用化粧料組成物。
【請求項15】
前記化粧料組成物は、
化粧水、ローション、クリーム、エッセンス、乳液、ゲル、ハンドクリーム
、クレンジングフォーム、クレンジングクリーム、クレンジングウォーター、噴霧剤
、ボディソープ、せっけん、パック、マッサージ剤、フェースパウダー、コンパクト、ファンデーション、ツーウェイケーキ、及びメーキャップベースからなる群から選択されたいずれか一つ以上の剤形を有する、請求項14に記載の化粧料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デオキシコール酸(Deoxycholic acid)とペプチドが化学的に結合された構造を有するデオキシコール酸-ペプチド結合体及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満は、飲食から摂取したエネルギー消費とバランスが取れない場合、余剰のエネルギーが体脂肪として蓄積されることで体内に脂肪組織が過多に存在する状態を意味する。肥満は、心血管疾患、糖尿病などの各種疾患の危険因子であるだけでなく、一つの独立した疾病として認識されており、腹部などの特定の部位に過剰に脂肪が沈着された部分肥満もこれら疾患と密接な関係がある。したがって、部分肥満は、健康と生活の質に直接的な影響を与え、美容的な側面でも個人の心理的委縮と社会的不適応をもたらす。
【0003】
このような部分肥満の治療は、大きく手術的治療と非手術的治療に分けることができ、外科的手術は、皮膚表面の不均一、麻酔副作用などの副作用が現れる可能性がある。非手術的治療は、脂肪分解針、超音波、高周波治療、メゾテラピのような薬物注入方式、マッサージ方式、ガス注入方式などが多様に使用されている。
【0004】
一方、デオキシコール酸は、腸内バクテリアの代謝副産物である2次胆汁酸の一つであって、脂肪組織に炎症作用を誘発させて脂肪細胞を死滅させると確認され(Rotunda et al.,Dermatol Surg 30(7):1001-8(2004))、FDA承認を受けて脂肪溶解注射の成分として使用されている。しかし、デオキシコール酸は、局所投与時、副作用として投与部位に紅斑、浮腫、あざ、血腫、苦痛を伴う可能性があり、水に対する溶解度が低いので、デオキシコール酸を可溶化するために有機溶媒を添加しているが、これは皮膚炎と皮膚乾燥のような副作用を誘発する可能性がある。
【0005】
このような背景下、本発明者は、デオキシコール酸による副作用を最小化しつつ、抗肥満活性を高める方法を開発するために研究中に、本発明者により合成された新規ペプチドとデオキシコール酸が化学的に結合されたデオキシコール酸-ペプチド結合体が、水に対する溶解度が高くて、且つ単独物質使用に対して顕著に向上した抗肥満活性を有することを確認し、本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一目的は、水に対する溶解度が向上し、単独物質に対する脂肪生成抑制活性及び脂肪分解活性が向上したデオキシコール酸-ペプチド結合体を提供することにある。
【0007】
本発明の他の一目的は、脂肪生成抑制又は脂肪分解を促進するための用途の組成物を提供することにある。
【0008】
本発明のさらに他の一目的は、脂肪生成抑制又は脂肪分解促進方法を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の一目的は、脂肪生成抑制又は脂肪分解促進に使用するためのデオキシコール酸-ペプチド結合体を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の一目的は、肥満又は肥満関連疾患の予防、治療又は改善用組成物を提供することにある。
【0011】
本発明のさらに他の一目的は、肥満又は肥満関連疾患の予防又は治療方法を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の一目的は、肥満又は肥満関連疾患の予防又は治療に使用するためのデオキシコール酸-ペプチド結合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このために、本発明の一側面は、配列番号1のアミノ酸配列から構成されたペプチドとデオキシコール酸が結合されたデオキシコール酸-ペプチド結合体を提供する。
【0014】
本発明の他の側面は、デオキシコール酸-ペプチド結合体を有効成分として含む脂肪生成抑制又は脂肪分解を促進するための用途の組成物を提供する。
【0015】
本発明のさらに他の側面は、個体に請求項1のデオキシコール酸-ペプチド結合体を投与する段階を含む脂肪生成抑制又は脂肪分解促進方法を提供する。
【0016】
本発明のさらに他の側面は、脂肪生成抑制又は脂肪分解促進に使用するためのデオキシコール酸-ペプチド結合体を提供する。
【0017】
本発明のさらに他の側面は、デオキシコール酸-ペプチド結合体を有効成分として含む肥満又は肥満関連疾患の予防、治療又は改善用組成物を提供する。
【0018】
本発明のさらに他の側面は、個体に請求項1のデオキシコール酸-ペプチド結合体を投与する段階を含む肥満又は肥満関連疾患の予防又は治療方法を提供する。
【0019】
本発明のさらに他の側面は、肥満又は肥満関連疾患の予防又は治療に使用するためのデオキシコール酸-ペプチド結合体を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るデオキシコール酸-ペプチド結合体は、脂肪細胞で脂質の生成及び蓄積を抑制し、脂肪を分解する効果を有するため、肥満を予防、改善、又は治療する用途として使用することができる。
【0021】
ただし、本発明の効果は、前述した効果に制限されず、言及されていないさらに他の効果は、以下の記載から当業者に明確に理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の配列番号1のペプチドとデオキシコール酸の結合体に対するNMR分析データを示す図である。
【
図2】デオキシコール酸とデオキシコール酸-ペプチド結合体の水に対する溶解度を確認した結果を示す写真である。
【
図3a】デオキシコール酸-ペプチド結合体により脂肪細胞の分化及び細胞内脂肪蓄積が抑制された効果を細胞内脂肪染色により確認した結果を示す図である。
【
図3b】デオキシコール酸-ペプチド結合体の上昇した脂肪蓄積抑制効果を細胞内脂肪染色により確認した結果を示す図である。
【
図4a】デオキシコール酸-ペプチド結合体により細胞内脂肪分解が促進された効果を脂肪細胞内で遊離されたグリセロール放出量により確認した結果を示す図である。
【
図4b】デオキシコール酸-ペプチド結合体により細胞内脂肪分解が促進された効果を脂肪組織内で脂肪細胞のサイズ減少により確認した結果を示す図である。
【
図4c】デオキシコール酸-ペプチド結合体の上昇した脂肪分解効果を脂肪細胞内で遊離されたグリセロール放出量により確認した結果を示す図である。
【
図5】デオキシコール酸-ペプチド結合体により細胞内脂肪代謝に関するアディポネクチン及びレプチン遺伝子の発現が増加したことを確認した結果を示す図である。
【
図6a】脂肪細胞でデオキシコール酸-ペプチド結合体により脂肪分解関連細胞信号伝達経路遺伝子であるAMPKa1、HSL、及びPGCLaの発現が増加したことを確認した結果を示す図である。
【
図6b】脂肪組織でデオキシコール酸-ペプチド結合体により脂肪分解関連細胞信号伝達経路遺伝子であるHSL及びPLINの発現が増加したことを確認した結果を示す図である。
【
図7】脂肪組織でデオキシコール酸-ペプチド結合体により脂肪生成関連細胞信号伝達経路遺伝子であるACCα、FAS、及びPPARγの発現が減少したことを確認した結果を示す図である。
【
図8】脂肪組織で褐色脂肪細胞の熱生成遺伝子であるUCP1、PRDM、及びCideaの発現が増加したことを確認した結果を示す図である。
【
図9】筋肉細胞で脂質蓄積抑制に関するIL-15遺伝子の発現が増加したことを確認した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
本発明の一側面は、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド及び前記ペプチドに活性物質が結合された活性物質-ペプチド結合体を提供する。
【0025】
本発明のペプチドの合成は、例えば、機器を用いるか遺伝工学技術を用いて行ってよい。機器を用いて合成する場合、自動ペプチド合成器で所望のペプチドをFmoc固体相(Fmoc solid-phase)方法で合成することができる。
【0026】
具体的な一実施形態において、本発明の配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドは、Fmoc固体相(Fmoc solid-phase)方法を用いて合成及び同定し、同定されたペプチドの効能を検証して選別された。
【0027】
具体的な一実施形態において、同定されたペプチドの効能を検証するために、脂肪生成抑制効果及び脂肪分解効果に対する有効性を検証して抗肥満活性を有するペプチドを選別した。
【0028】
続いて、本発明の活性物質-ペプチド結合体は、前記過程を介して選別されたペプチドと活性物質を結合させて製造することができる。具体的な一実施形態において、前記活性物質は、ペプチドと化学的に結合させて製造した活性物質-ペプチド結合体の効能を検証して選別された。
【0029】
本明細書において、用語「ペプチド」とは、アミノ酸残基からなる線状の分子を意味し、具体的には、本発明のペプチドは、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含んでよい。
【0030】
前記「ペプチド」は、機能に影響を与えない範囲内で、アミノ酸残基の欠失、挿入、置換、又はこれらの組み合わせにより異なる配列を有するアミノ酸の変異体、又は断片であってよい。前記ペプチドの活性を全体的に変更させないアミノ酸交換は、本技術分野に公知されている。場合によっては、リン酸化(phosphorylation)、硫化(sulfation)、アクリル化(acrylation)、糖化(glycosylation)、メチル化(methylation)、ファルネシル化(farnesylation)などに変形されてよい。したがって、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドと実質的に同一のアミノ酸配列を有するペプチド及びその変異体、又はその活性断片を含む。前記実質的に同一のタンパク質とは、前記配列番号1のアミノ酸配列と75%以上、好ましくは80%以上、例えば、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上、又は99%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を意味するが、これに限定されず、75%以上のアミノ酸配列の相同性を有し、同一の活性を有すると、本発明の範囲に含まれる。また、本発明のペプチドは、標的化配列、タグ(tag)、標識された残基、半減期、又はペプチド安定性を増加させるための特定の目的で製造されたアミノ酸配列をさらに含んでよい。
【0031】
また、さらに良好な化学的安定性、強化された薬理特性(半減期、吸水性、力価、効能など)、変更された特異性(例えば、広範囲な生物学的活性スペクトル)、減少した抗原性を獲得するために、本発明のペプチドのN-末端又はC-末端に保護基が結合されていてもよい。例えば、前記保護基は、アセチル基、フルオレニルメトキシカルボニル基、ホルミル基、パルミトイル基、ミリスチル基、ステアリル基、又はポリエチレングリコール(PEG)であってよいが、ペプチドの改質、特に、ペプチドの安定性を増進させ得る成分であれば、制限なしに含んでよい。前記「安定性」は、生体内タンパク質切断酵素の攻撃から本発明のペプチドを保護する生体内(in vivo)での安定性のみでなく、貯蔵安定性(例えば、常温貯蔵安定性)も含む意味として使用される。
【0032】
本明細書において、前記「活性物質」は、胆汁酸であってよく、具体的には、コール酸(cholicacid)、5β-コール酸(5β-cholanicacid)、ケノデオキシコール酸(chenoDeoxycholic acid)、グリココール酸(glycocholic acid)、タウロコール酸(taurocholic acid)、デオキシコール酸(Deoxycholic acid)、リトコール酸(lithocholic acid)、7-オキソ-リトコール酸(7-oxo-lithocholic acid)などを含む群から選択される胆汁酸が好ましく使用されてよく、より具体的には、前記活性物質は、デオキシコール酸であってよい。
【0033】
本発明の前記「デオキシコール酸」は、IUPAC名称が3,12-ジヒドロキシコラン-24-オイック酸であって、分子量が392.58の化合物である。通常、胆汁酸の一種として脂肪を分解し、脂肪細胞を破壊させ、顎下脂肪改善注射剤に使用されている。デオキシコール酸の構造は、下記化学式1のとおりである。
【0034】
【0035】
本発明の活性物質-ペプチド結合体で活性物質がデオキシコール酸の場合、デオキシコール酸と結合されたペプチドを「デオキシコール酸-ペプチド結合体(Deoxycholic acid-peptide conjugate、DA-peptide conjugate)」と命名した。
【0036】
具体的には、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列から構成されたペプチドにデオキシコール酸が結合されたデオキシコール酸-ペプチド結合体を提供する。
【0037】
前記デオキシコール酸は、ペプチドのN-末端、C-末端、又は側鎖に結合してよい。具体的には、前記デオキシコール酸のカルボキシル基は、ペプチドのN-末端とペプチド結合してよい。
【0038】
前記デオキシコール酸-ペプチド結合体の一具現例は、下記化学式2で表されるものであってよい。
【0039】
【0040】
本発明の具体的な実施形態において、前記デオキシコール酸-ペプチド結合体は、脂肪細胞及び脂肪組織内に投与されて脂肪生成の信号伝達経路を抑制し、脂肪の生成及び蓄積を抑制するので、肥満を予防、改善、又は治療することができる。
【0041】
また、本発明のデオキシコール酸-ペプチド結合体は、脂肪分解の信号伝達経路を活性化して脂肪細胞及び脂肪組織で脂肪分解を促進し、脂肪細胞のサイズを減少させるので、肥満を予防、改善、又は治療することができる。
【0042】
また、本発明のデオキシコール酸-ペプチド結合体は、水に対する高い溶解度を有し、デオキシコール酸又はペプチド単独物質に対して顕著に向上した脂肪蓄積抑制効果及び脂肪分解効果を有するので、デオキシコール酸の使用量を低くすることができ、これにより、デオキシコール酸の高容量使用による副作用を防止することができる。
【0043】
したがって、前記のような活性を有するデオキシコール酸-ペプチド結合体は、肥満又は肥満関連疾患の予防、治療、又は改善のための組成物の有効成分として用いることができる。
【0044】
そこで、本発明の他の一側面は、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドとデオキシコール酸が結合されたデオキシコール酸-ペプチド結合体を含む肥満又は肥満関連疾患の予防、治療又は改善用組成物を提供する。
【0045】
本発明のさらに他の一側面は、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドとデオキシコール酸が結合されたデオキシコール酸-ペプチド結合体を含む脂肪生成抑制用又は脂肪分解促進用組成物を提供する。
【0046】
また、本発明は、個体に配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドとデオキシコール酸が結合されたデオキシコール酸-ペプチド結合体を投与する段階を含む脂肪生成抑制又は脂肪分解促進方法を提供する。
【0047】
また、本発明は、脂肪生成抑制又は脂肪分解促進に使用するための配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドとデオキシコール酸が結合されたデオキシコール酸-ペプチド結合体を提供する。
【0048】
本発明のさらに他の一側面は、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドとデオキシコール酸が結合されたデオキシコール酸-ペプチド結合体を含む肥満又は肥満関連疾患の予防又は治療用薬学的組成物を提供する。
【0049】
また、本発明は、個体に配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドとデオキシコール酸が結合されたデオキシコール酸-ペプチド結合体を投与する段階を含む肥満又は肥満関連疾患の予防又は治療方法を提供する。
【0050】
また、本発明は、肥満又は肥満関連疾患の予防又は治療に使用するための配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドとデオキシコール酸が結合されたデオキシコール酸-ペプチド結合体を提供する。
【0051】
本明細書において、「肥満」は、エネルギー不均衡により体内に体脂肪が過剰に蓄積された状態(condition)又は疾患(disease)を意味し、本発明のデオキシコール酸-ペプチド結合体は、脂肪酸化促進遺伝子と、前記遺伝子により暗号化されるタンパク質と、脂肪分解促進遺伝子と前記遺伝子によりコーディングされるタンパク質の発現を顕著に増加させるだけでなく、脂肪細胞蓄積に関与する遺伝子の発現を減少させ、エネルギー不均衡を調節するか過剰な体脂肪を有する状態から脱することで、前記肥満を予防又は治療することができる。
【0052】
本明細書において、「肥満予防又は治療」は、脂肪の沈積を減少させることを意味してよく、前記「脂肪の沈積」は、例えば、肥満、脂肪再分配症候群、下眼瞼脂肪ヘルニア、脂肪腫、ダーカム病、脂肪異常症、内臓脂肪過多症、乳房拡大症、高度肥満症、脇腹及び腕周辺の拡散した身体脂肪、及びセルライトに関する脂肪沈積から構成された群から選択された状態を意味してよい。
【0053】
また、本明細書において、前記「肥満関連疾患」は、エネルギー不均衡により過剰な体脂肪を有する状態によって誘発され得る疾患であって、肥満の予防又は治療により前記肥満関連疾患から発生する症状を予防、緩和、又は改善させることができる。具体的には、前記肥満関連疾患は、高血圧、糖尿、増加した血漿インスリン濃度、インスリン耐性、高脂血症、代謝症候群、インスリン耐性症候群、肥満関連胃食道逆流、動脈硬化症、過コレステロール血症、尿酸過剰血症、背下部痛症、心臓肥大及び左心室肥大、脂肪異栄養症、非アルコール性脂肪肝炎、心血管疾患、多嚢胞性卵巣症候群などであってよい。
【0054】
本発明の肥満又は肥満関連疾患の予防又は治療用組成物は、それぞれ通常の方法によって、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアゾールなどの経口型剤形、外用剤、坐剤、及び滅菌注射溶液の形態に剤形化して使用されてよく、剤形化のために、薬学組成物の製造に通常使用される適切な担体、賦形剤、又は希釈剤を含んでよい。
【0055】
前記薬学的に許容される担体は、製剤時に通常用いられるラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微細結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウム、及びミネラルオイルなどを含んでよい。
【0056】
前記薬学的組成物は、前記成分以外に、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含んでよい。
【0057】
前記薬学的組成物は、目的とする方法によって経口投与又は非経口投与(例えば、筋肉内、静脈内、腹腔内、皮下、皮内、又は局所に適用)してよく、投与量は、患者の状態及び体重、疾病の程度、薬物形態、投与経路、及び時間によって異なるが、当業者により適切に選択されてよい。
【0058】
本発明の薬学的組成物を注射用製剤として使用する場合、局所化された脂肪沈積を除去するための用途として使用してよい。
【0059】
前記局所化された脂肪は、腹部、目下、顎下、腕下、尻、太もも、ふくらはぎ、背中、大腿、ブララインから構成された群から選択された対象部位に局所化されたものであってよい。
【0060】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に有効な量で投与する。本発明において、「薬学的に有効な量」は、医学的治療に適用可能な合理的な受恵/危険の割合で疾患を治療するに十分な量を意味し、有効容量の水準は、患者の疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路、及び排出割合、治療期間、同時に使用される薬物を含む要素及びその他医学分野によく知られた要素に応じて決定されてよい。前記薬学的組成物は、個別治療剤として投与するか、他の肥満治療剤と併用して投与されてよく、従来の治療剤と同時に、別途で、又は順次に投与されてよく、単一又は多重投与されてよい。前記要素をすべて考慮して副作用なしに最小限の量で最大効果が得られる量を投与することが重要であり、これは、当業者により容易に決定され得る。
【0061】
前記薬学的組成物の有効量は、患者の年齢、性別、状態、体重、体内に活性成分の吸収度、不活性率、排泄速度、疾病種類、併用する薬物に応じて変わってよく、投与経路、肥満の重症度、性別、体重、年齢などに応じて増減してよく、例えば、前記薬学的組成物を1日当たり患者体重1kg当たり約0.0001μg~500mg、好ましくは0.01μg~100mg投与してよい。
【0062】
具体的な実施形態において、本発明のデオキシコール酸-ペプチド結合体を脂肪細胞又は脂肪組織に投与すると、デオキシコール酸又はペプチドを単独で投与した場合と比べて、脂肪蓄積抑制効果及び脂肪分解効果が顕著に上昇することを確認した。そこで、デオキシコール酸-ペプチド結合体を使用すると、相乗効果による使用量の減少を成し遂げることができ、これにより最小量のデオキシコール酸を用いて安全性を確保することができ、デオキシコール酸による副作用を最小化することができる。前記「個体(subject)」は、本願のデオキシコール酸-ペプチド結合体の投与を必要とする個体(subject in need thereof)であってよく、前記投与を必要とする個体は、肥満又は肥満関連疾患に対して診断を受けた個体、肥満又は肥満関連症状が発現された個体のみでなく、前記疾患や症状の発現を予防するか健康改善のために投与を希望する個体を含むものであってよい。
【0063】
前記「投与」は、任意の適切な方法で患者に所定の物質を提供することを意味し、本発明のデオキシコール酸-ペプチド結合体の投与経路は、目的組織に到達することができる限り、通常のすべての経路を介して経口又は非経口投与されてよい。また、デオキシコール酸-ペプチド結合体は、活性物質が標的細胞に移動可能な任意の装置により投与されてよい。
【0064】
他の側面において、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドとデオキシコール酸が結合されたデオキシコール酸-ペプチド結合体を含む、肥満の予防又は改善用医薬外品組成物を提供する。
【0065】
前記ペプチド、デオキシコール酸、及び肥満の具体的な内容は、前述したとおりである。
【0066】
本発明の組成物を医薬外品組成物として使用する場合、前記デオキシコール酸-ペプチド結合体をそのまま添加するか他の医薬外品成分とともに使用してもよく、通常の方法によって適切に使用してもよい。有効成分の混合量は、使用目的(予防、健康、又は治療的処置)に応じて適合に決定してよい。本発明の一具現例によれば、本発明の医薬外品組成物は、消毒清潔剤、歯磨き、シャワーフォーム、洗口液、ウェットティッシュ、洗剤石鹸、ハンドウォッシュ、加湿器充填剤、マスク、軟膏剤、又はフィルター充填剤であってよい。
【0067】
さらに他の側面において、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドとデオキシコール酸が結合されたデオキシコール酸-ペプチド結合体を含む、肥満の予防又は改善用化粧料組成物を提供する。
【0068】
前記ペプチド、デオキシコール酸、及び肥満の具体的な内容は、前述したとおりである。
【0069】
前記化粧料組成物は、本技術分野において通常製造される任意の剤形に製造されてよく、例えば、溶液、懸濁液、乳濁液、ペースト、ゲル、クリーム、ローション、パウダー、せっけん、界面活性剤含有クレンジング、オイル、粉末ファンデーション、乳濁液ファンデーション、ワックスファンデーション、及びスプレーなどに剤形化されてよいが、これに制限されるものではない。
【0070】
前記化粧料組成物は、柔軟化粧水、栄養化粧水、栄養クリーム、マッサージクリーム、エッセンス、アイクリーム、クレンジングクリーム、クレンジングフォーム、クレンジングウォーター、パック、スプレー、パウダー、ヘアトニック、ヘアクリーム、ヘアローション、ヘアシャンプー、ヘアリンス、ヘアコンディショナー、ヘアスプレー、ヘアエアゾール、ポマード、ジェルなどのような溶液、ゾルゼル、エマルジョン、オイル、ワックス、エアゾールなどの様々な形態に製造されてよいが、これに制限されるものではない。
【0071】
本発明の化粧料組成物は、KFLIKのアミノ酸配列から構成されるペンタペプチドに加え、賦形剤、担体などのその他添加剤を含んでよく、一般皮膚化粧料に配合される普通の成分を、必要なだけ適用配合することが可能である。
【0072】
前記化粧料組成物の剤形の形態がペースト、クリーム、又はゲルの場合には、担体成分として動物性油、植物性油、ワックス、パラフィン、澱粉、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコン、ベントナイト、シリカ、タルク、又は酸化亜鉛などが用いられてよい。
【0073】
前記化粧料組成物の剤形の形態がパウダー又はスプレーの場合には、担体成分としてラクトース、タルク、シリカ、アルミニウムヒドロキシド、ケイ酸カルシウム、又はポリアミドパウダーが使用されてよく、特に、スプレーの場合には、さらにクロロフルオロヒドロカーボン、プロパン/ブタン又はジメチルエーテルのような推進体が含まれてよいが、これに制限されるものではない。
【0074】
前記化粧料組成物の剤形の形態が溶液又は乳濁液の場合には、担体成分として溶媒、溶解化剤、又は乳濁化剤が用いられてよく、例えば、水、エタノール、イソプロパノール、エチルカーボネート、エチルアセテート、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチルグリコールオイル、グリセロール脂肪族エステル、ポリエチレングリコール、又はソルビタンの脂肪酸エステルなどが用いられてよい。
【0075】
前記化粧料組成物の剤形の形態が懸濁液の場合には、担体成分として水、エタノール、又はプロピレングリコールのような液状の希釈剤、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチルソルビトールエステル、及びポリオキシエチレンソルビタンエステルなどのような懸濁剤、微小結晶性セルロース、アルミニウムメタヒドロキシド、ベントナイト、アガー又はトラガカントなどが用いられてよい。
【0076】
前記化粧料組成物の剤形が界面活性剤含有クレンジングの場合には、担体成分として脂肪族アルコールスルフェート、脂肪族アルコールエーテルスルフェート、スルホコハク酸モノエステル、イセチオン酸、イミダゾリニウム誘導体、メチルタウレート、サルコシネート、脂肪酸アミドエーテルスルフェート、アルキルアミドベタイン、脂肪族アルコール、脂肪酸グリセリド、脂肪酸ジエタノールアミド、植物性油、ラノリン誘導体、又はエトキシル化グリセロール脂肪酸エステルなどが用いられてよい。
【0077】
前記化粧料組成物の剤形がヘアシャンプーの場合には、本発明のトロロックス-ペプチド結合体に増粘剤、界面活性剤、粘度調節剤、保湿剤、pH調節剤、防腐剤、エッセンシャルオイルなどのように、シャンプーを組成するためのベース成分が混合されてよい。前記増粘剤としては、CDEが使用されてよく、前記界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤であるLESと、両性界面活性剤であるココベタインが使用されてよく、前記粘度調節剤としては、ポリクォーターが使用されてよく、前記保湿剤としては、グリセリンが使用されてよく、前記pH調節剤としては、クエン酸、水酸化ナトリウムが使用されてよい。前記防腐剤としては、グレープフルーツ抽出物などが使用されてよく、それ以外にも、シダーウッド、ペパーミント、ローズマリーなどのエッセンシャルオイルと、シルクアミノ酸、ペンタノール、又はビタミンEが添加されてよい。
【0078】
前記化粧料組成物に含まれる成分は、有効成分として本発明の前記トロロックス-ペプチド結合体と担体成分以外に、化粧料組成物に通常使用される成分、例えば、抗酸化剤、安定化剤、溶解化剤、ビタミン、顔料、及び香料のような通常の補助剤などをさらに含んでよいが、これに制限されるものではない。
【0079】
前述したとおり、本発明のデオキシコール酸-ペプチド結合体は、脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化を抑制し、脂肪細胞内の脂質蓄積を抑制し、脂肪分解を促進する効果があるので、肥満又は肥満関連疾患を予防、改善、又は治療する目的とする医薬品又は化粧料組成物の原料として使用されてよい。
【0080】
以下、本発明を実施例及び実験例により詳細に説明する。
【0081】
ただし、下記実施例及び実験例は、本発明を例示するためのものであるだけで、本発明の内容が下記実施例及び実験例により限定されるものではない。
【0082】
[実施例1]
配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド合成
本発明のペプチドを公知の方法で合成し、本発明において使用した新規ペプチドのアミノ酸配列は、「Lys Phe Leu Ile Lys(配列番号1)」であり、分子量測定器で前記配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドの分子量を測定した結果、その分子量は647.4Daに該当することを確認した。
【0083】
[実施例2]
デオキシコール酸-ペプチド結合体の製造
ペプチド反応器に、配列番号1のペプチド(500mmol)とジメチルホルムアミド(Dimethylformamide、DMF)1,000mLを入れ、デオキシコール酸(Deoxycholic acid)393g(1,000mmol、2equiv.)、1-HOBt 135g(1,000mmol、2equiv.)、HBTU 379g(1000mmol、2equiv.)にDMF 500mlを投入し、常温で30分間反応させた。その後、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)261mL(194g、1,500mmol、3equiv.)をさらに添加し、常温で1時間反応させた。反応が終了した後、デオキシコール酸-ペプチドレジンを濾過して洗浄した後、真空オーブンで乾燥した。その後、ジエチルエテル20Lを添加して結晶化させた後、濾過及び分離精製してデオキシコール酸-ペプチド結合体を製造した。
【0084】
分子量測定器を用いてデオキシコール酸-ペプチド結合体の分子量を測定した結果、その分子量が1022.4Daに該当することを確認した。また、生成されたデオキシコール酸-ペプチド結合体を
1H-NMRで分析した結果を[
図1]に示した。前記
1H-NMRで、分析スペクトルでデオキシコール酸のピーク以外にも、ペプチドのピークが現われたことから、デオキシコール酸-ペプチド結合体が合成されたことを明確に確認できた。
【0085】
[準備例1]
脂肪前駆細胞の準備及び脂肪細胞への分化誘導
脂肪前駆細胞である3T3-L1細胞を、米国細胞株銀行(ATCC)から購買して実験に使用した。3T3-L1は、脂肪細胞の代謝過程を研究するに広く用いられる細胞株であって、前記細胞の分化が活発するほど脂肪細胞内の脂肪蓄積が活発で肥満を誘導するようになる。したがって、抗肥満効果を有すると考えられる物質を前記細胞に処理したときに、細胞の分化が少ないほど抗肥満効果が大きい物質であると判断することができる。
【0086】
脂肪前駆細胞である3T3-L1を、2%ウシ胎児血清(FBS)が含まれたDMEMで37℃、5%CO2の条件で培養した。3T3-L1脂肪前駆細胞を1×105細胞/ウェルの密度で12-ウェルプレートに分注した後、100% confluency時点になって2日間さらに維持させた。脂肪前駆細胞は、分化成分(10μg/mlインスリン、0.1μMデキサメタゾン及び0.5mM IBMX含む)及び10% FBSが含まれているDMEM培地(以下、「分化培地」という)で2日間培養させ、脂肪細胞への分化を誘導した。培養48時間後、1μg/mlインスリンが含有された10% FBS DMEM(以下、「培養培地」という)で2日間培養した。その後、2日ごとに10% FBS DMEM培養液で交替した。脂肪細胞の分化を誘導する間、実験目的に応じてデオキシコール酸-ペプチド結合体を1μM及び10μMの濃度で各培養液に処理するか処理せず、分化が完成する時点である7日目に、脂肪細胞の分化程度を観察した。
【0087】
[準備例2]
脂肪組織(adipose tissue)の採取及び培養
9週齢BL/6マウスの腹部から脂肪組織を採取した後、100mm×15mm培養プレートに入れ、培養培地で一晩培養した。前記脂肪組織は、同一の重量を有するように分割して24-ウェルプレートに移した後、以下の実験例で使用した。
【0088】
[実験例1]
デオキシコール酸-ペプチド結合体の溶解度の確認
前記実施例2で製造されたデオキシコール酸-ペプチド結合体とデオキシコール酸の溶解度を肉眼で観察して比べた。
【0089】
具体的には、デオキシコール酸-ペプチド結合体とデオキシコール酸がそれぞれ1mg入ったE.チューブに、蒸留水を90μL入れて溶解可否を確認した。
【0090】
その結果、[
図2]に示されたように、デオキシコール酸は、水に殆ど溶解されないことと対照的に、本発明のデオキシコール酸-ペプチド結合体は、すべて水に完全に溶解されたことを確認した。
【0091】
前記結果から、本発明のデオキシコール酸-ペプチド結合体は、デオキシコール酸にペプチドが結合されることで、デオキシコール酸が単独で存在する場合に比べて水溶解度が向上することが分かる。
【0092】
[実験例2]
デオキシコール酸-ペプチド結合体の脂肪蓄積抑制効果
2-1.オイルレッドO染色及び分析
本発明のデオキシコール酸-ペプチド結合体が脂肪細胞内の脂肪蓄積を抑制する効果があるか否か確認するために、オイルレッドO染色を実施した。
【0093】
具体的には、前記準備例1で誘導した脂肪細胞の分化程度をオイルレッドO染色により1次的に顕微鏡を介して確認し、脂肪細胞染色程度は、510nm波長で、分光光度計で吸光度を測定し、細胞に蓄積された脂肪の程度を計算した。β3アドレナリン性受容体作用剤(β3 adrenergic receptor aonist)であるCL316243又はTNF-αを処理した群を陽性対照群とした。
【0094】
その結果、[
図3a]に示されたように、デオキシコール酸-ペプチド結合体を1μM処理した場合、陽性対照群と同等な水準で脂肪細胞内の脂肪の染色が減少した。
【0095】
これにより、デオキシコール酸-ペプチド結合体は、脂肪細胞への分化と脂肪生成を抑制することにより、脂肪細胞内の脂質の蓄積を抑制できることが分かる。
【0096】
2-2.デオキシコール酸-ペプチドによる相乗的脂肪蓄積抑制効果の確認
デオキシコール酸-ペプチド結合体を処理した場合と、デオキシコール酸又は配列番号1のペプチドを単独で処理した場合の脂肪蓄積抑制効果を比べるために、前記実験例1-1と同様の方法で脂肪細胞の分化程度及び脂質蓄積の程度を測定した。TNF-αを処理した群を陽性対照群とした。
【0097】
その結果、[
図3b]に示されたように、配列番号1のペプチド及びデオキシコール酸をそれぞれ1μM処理した場合、脂質蓄積量がそれぞれ89%、93%であったが、同一の濃度でデオキシコール酸-ペプチド結合体を処理した場合、脂質蓄積量が78%であることを確認した。
【0098】
これにより、配列番号1のペプチド又はデオキシコール酸を単独で処理する場合より同一の濃度のデオキシコール酸-ペプチド結合体を処理する場合、脂肪細胞への分化及び脂肪蓄積の抑制程度が大幅上昇することが分かり、デオキシコール酸-ペプチド結合体を少ない量で使用しても単独化合物の効果と同等水準以上の効果が現れることが分かる。
【0099】
[実験例3]
デオキシコール酸-ペプチド結合体の脂肪分解効果
3-1.脂肪組織で脂肪分解の産物であるグリセロールの量測定
脂肪組織内に貯蔵された中性脂肪は、エネルギーの生産又は細胞信号の伝達などのために、脂肪酸とグリセロールに分解される。したがって、遊離グリセロールの放出量の測定により、脂肪組織に蓄積された中性脂肪の分解効果を確認した。
【0100】
具体的には、高脂肪食餌(Rodent Diet with 60% Kcal Fat、Research Diets、USA)を投与した雌マウスから白色脂肪組織であるファットパッド(Fat pad)を分離し、12-ウェルプレートにウェル当たり400mgずつ脂肪組織を入れた後、培養培地(DMEM media serum free)で48時間培養して安定化した。培養時、ペプチド結合体を1μM、10μM、100μMの濃度で処理し、陽性対照群でTNFαを20nM処理し、48時間培養した後、上清液を得てグリセロールカラーリメトリックアッセイキット(Cayman chemical、USA)を用いてグリセロールの量を測定した。
【0101】
その結果、[
図4a]に示されたように、対照群に比べてデオキシコール酸-ペプチド結合体を処理した場合、脂肪が分解されながら出たグリセロールの量が、デオキシコール酸-ペプチド結合体の濃度依存的に増加することを確認した。
【0102】
これにより、本発明のデオキシコール酸-ペプチド結合体は、脂肪組織に蓄積された中性脂肪を分解する活性があることが分かる。
【0103】
3-2.脂肪組織で脂肪細胞のサイズ減少の確認
デオキシコール酸-ペプチド結合体による脂肪組織内の脂肪分解効果を確認するために、準備例2で確保した脂肪組織に対してH&E染色を行い、脂肪細胞のサイズを確認した。
【0104】
具体的には、脂肪組織を切断してパラフィンスライドに付着し、50℃で乾燥させた。乾燥した脂肪組織が付着されたスライドをキシレン1、2、及び3にそれぞれ5分ずつ入れ、パラフィンを除去した。その後、100%エタノールに2分間入れ、90%、80%、及び70%エタノールに順次に入れて再水和(re-hydration)させた。再水和されたスライドは、ヘマトキシリン溶液に入れて染色し、洗浄した後、エオシンYを用いて染色した。その後、90%、80%、及び70%エタノールに順次に入れてキシレン3、2、1に入れた後、キシレン基盤のマウンティング培地(Xylene-based mounting medium)で組織に気泡が入らないように封入(mounting)した後、乾燥した。その後、乾燥したスライドを光学顕微鏡で観察した。
【0105】
その結果、[
図4b]に示されたように、脂肪組織にデオキシコール酸-ペプチド結合体を処理したときに、対照群に対する脂肪細胞のサイズが小さくなることを確認した。
【0106】
これにより、本発明のデオキシコール酸-ペプチド結合体により細胞内蓄積された脂肪が分解されたことが分かる。
【0107】
3-3.デオキシコール酸-ペプチド結合体の相乗的脂肪分解効果の確認
デオキシコール酸-ペプチド結合体を処理した場合と、デオキシコール酸又は配列番号1のペプチドを単独で処理した場合の脂肪分解効果を比べるために、前記実験例3-1と同様の方法で脂肪組織から放出されたグリセロールの量を測定した。TNF-αを処理した群を陽性対照群とした。
【0108】
その結果、[
図4c]に示されたように、配列番号1のペプチド及びデオキシコール酸をそれぞれ1μM処理した場合、グリセロール放出量がそれぞれ106%、116%であったが、同一の濃度でデオキシコール酸-ペプチド結合体を処理した場合、グリセロール放出量が175%であることを確認した。
【0109】
これにより、配列番号1のペプチド又はデオキシコール酸を単独で処理する場合に比べて、同一の濃度のデオキシコール酸-ペプチド結合体を処理する場合、脂肪分解によるグリセロールの放出量が大幅上昇することが分かり、デオキシコール酸-ペプチド結合体を少ない量で使用しても、単独化合物の効果と同等水準以上の効果が現れることが分かる。
【0110】
[実験例4]
脂肪生成及び分解関連遺伝子の発現変化の確認
4-1.RT-PCR分析
準備例1で得た脂肪細胞又は準備例2で得た脂肪組織に、本発明のデオキシコール酸-ペプチド結合体を処理して培養した後、細胞を回収してトリゾール(Thermo Fisher Scientific、USA)でRNAを抽出した。抽出したRNAは、TOPScriptTM RT DryMIX(enzynomics、Korea)を用いてRNAに相補的なDNAを得た後、TOPsimpleTM DryMIX-nTaq(enzynomics、Korea)を用いて重合酵素連鎖反応(Polymerase chian reaction、PCR)を実施した。その後、1.5%アガロースゲルにPCR産物をローディングして前記成長因子のmRNA発現程度を比べた。内部対照群としてGAPDH遺伝子を使用し、実験に使用したプライマーは[表1]に記載した。
【0111】
【0112】
4-2.脂肪細胞を用いた脂肪代謝関連遺伝子の発現増加の確認
デオキシコール酸-ペプチド結合体が脂肪代謝を促進するか否かを確認するために、脂肪代謝に関するアディポネクチンとレプチン遺伝子のmRNA発現程度を確認した。
【0113】
具体的には、準備例1により得た脂肪細胞に、本発明のデオキシコール酸-ペプチド結合体を1μM、10μMで処理し、1時間、3時間、6時間培養した。細胞を回収して実験例4-1に記載された方法で重合酵素連鎖反応を行った後、発現産物をアガロースゲルにローディングして脂肪代謝関連遺伝子のmRNA発現程度を確認した。
【0114】
その結果、[
図5]に示されたように、脂肪代謝関連タンパク質であるレプチンとアディポネクチン遺伝子の発現がデオキシコール酸-ペプチド結合体の処理により増加することを確認した。
【0115】
これにより、本発明のデオキシコール酸-ペプチド結合体がエネルギー生成に必要な脂肪の代謝を促進することにより、脂肪蓄積を抑制するか、脂肪分解を促進する効果があることが分かる。
【0116】
4-3.脂肪細胞を用いた脂肪分解関連遺伝子の発現増加の確認
脂肪細胞で、前記デオキシコール酸-ペプチド結合体が脂肪分解促進細胞信号伝達経路の活性効果を有するか否かを確認するために、脂肪酸酸化(Fatty acid oxidation)促進及び脂肪分解促進に関する遺伝子のmRNA発現程度を確認した。
【0117】
具体的には、前記準備例1により得た分化された脂肪細胞に、デオキシコール酸-ペプチド結合体を1μM、10μMの濃度で処理した後、24時間培養した。細胞を回収して実験例4-1に記載された方法で重合酵素連鎖反応を行った後、発現産物をアガロースゲルにローディングして脂肪分解促進細胞信号伝達経路関連遺伝子のmRNA発現程度を確認した。
【0118】
その結果、[
図6a]に示されたように、デオキシコール酸-ペプチド結合体を処理した後、脂肪分解マーカーであるHSLの発現が増加し、脂肪代謝関連上位信号伝達因子であるAMPKa1とその下位因子であるPGC1aの発現が増加した。
【0119】
これにより、本発明に係るデオキシコール酸-ペプチド結合体は、脂肪を非常に効果的に分解するように、脂肪の分解や脂肪酸の酸化促進に関する遺伝子の発現を増加させることが分かる。
【0120】
4-4.脂肪組織を用いた脂肪分解遺伝子の発現増加の確認
脂肪組織で、前記デオキシコール酸-ペプチド結合体が脂肪分解促進細胞信号伝達経路の活性効果を有するか否かを確認するために、脂肪酸酸化(Fatty acid oxidation)促進及び脂肪分解促進に関する遺伝子のmRNA発現程度を確認した。
【0121】
具体的には、準備例2により得た脂肪組織に、1μM、10μMのデオキシコール酸-ペプチド結合体と陽性対照群であるCL316243(Sigma、USA)1μMを処理し、72時間培養した。細胞を回収して実験例4-1に記載された方法で重合酵素連鎖反応を行った後、発現産物をアガロースゲルにローディングして脂肪酸酸化(Fatty acid oxidation)促進及び脂肪分解促進に関する遺伝子のmRNA発現程度を確認した。
【0122】
その結果、[
図6b]に示されたように、デオキシコール酸-ペプチド結合体を処理した後、脂肪関連遺伝子であるHSL及びPLINの発現が濃度依存的に増加した。
【0123】
これにより、本発明に係るデオキシコール酸-ペプチド結合体は、脂肪を非常に効果的に分解するように、脂肪の分解や脂肪酸の酸化促進に関する遺伝子の発現を増加させることが分かる。
【0124】
4-5.脂肪組織を用いた脂肪生成遺伝子の発現減少の確認
脂肪組織で、前記デオキシコール酸-ペプチド結合体が脂肪生成を抑制する効果を有するか否かを確認するために、脂肪生成(adipogenesis)に関する遺伝子のmRNA発現程度を確認した。
【0125】
具体的には、準備例2により得た脂肪組織に、デオキシコール酸-ペプチド結合体1μM、10μM、陽性対照群であるCL316、243(Sigma、USA)1μMを処理し、72時間追加培養した。細胞を回収して実験例4-1に記載された方法で重合酵素連鎖反応を行った後、発現産物をアガロースゲルにローディングして脂肪生成に関する遺伝子のmRNA発現程度を確認した。
【0126】
その結果、[
図7]に示されたように、デオキシコール酸-ペプチド結合体を処理した後、脂肪生成に関するACCα、FAS、PPARγ遺伝子の発現が減少することを確認した。
【0127】
これにより、本発明に係るデオキシコール酸-ペプチド結合体は、脂肪生成を抑制することにより、肥満を予防又は治療する効果があることが分かる。
【0128】
[実験例5]
デオキシコール酸-ペプチド結合体による熱発生関連遺伝子の発現増加の確認
【0129】
本発明のデオキシコール酸-ペプチド結合体が肥満を予防又は治療する効果を有するか否かを確認するために、褐色脂肪細胞の熱発生に関する遺伝子のmRNA発現程度を確認した。
【0130】
具体的には、準備例2により得た脂肪組織に、デオキシコール酸-ペプチド結合体1μM、10μM、陽性対照群であるCL316、243(Sigma、USA)1μMを処理し、72時間追加培養した。細胞を回収して実験例4-1に記載された方法で重合酵素連鎖反応を行った後、発現産物をアガロースゲルにローディングして脂肪生成に関する遺伝子のmRNA発現程度を確認した。この際、内部対照群としてGAPDHを使用し、実験に使用したプライマーは下記[表2]に記載した。
【0131】
【0132】
その結果、[
図8]に示されたように、デオキシコール酸-ペプチド結合体を処理した後、褐色脂肪細胞の熱発生に関するUCP1、PRDM、Cidea遺伝子の発現が増加することを確認した。これにより、本発明に係るデオキシコール酸-ペプチド結合体は、運動により発現が増加する褐色脂肪細胞の熱発生に関する遺伝子の発現を増加させることにより、脂肪蓄積を抑制し、肥満を予防又は治療する効果があることが分かる。
【0133】
[実験例6]
筋肉細胞でデオキシコール酸-ペプチド結合体によるIL-15遺伝子の発現増加の確認
本発明のデオキシコール酸-ペプチド結合体が肥満を予防又は治療する効果を有するか否かを確認するために、筋肉細胞でIL-15遺伝子の発現の変化を確認した。IL-15は、抵抗性運動時の筋肉軸によりその発現量が増加するマイオカインであって、筋肉と脂肪組織の相互作用に核心的な役割をするものとして知られており、脂質蓄積を抑制して抗肥満効果を現わす。
【0134】
具体的には、マウス根源細胞であるC2C12細胞を、2×105cells/wellの密度で6-ウェルプレートに接種した後、DMEM(10%FBS)培地で3日間培養した。細胞がプレートの70~80%程度まで育った状態で、分化培地(DMEM、5%horse serum)に交替した後、3日間培養した。その後、分化培地(DMEM、2%horse serum)に交替した後、4日間培養させて根源細胞から筋管(myotube)に分化を誘導した。その後、無血清培地に交替して2時間培養し、1μM、10μM濃度のデオキシコール酸-ペプチド結合体を6時間処理し、37℃、5%CO2環境で培養した。細胞を回収して実験例4-1に記載された方法で重合酵素連鎖反応を行った後、発現産物をアガロースゲルにローディングして脂肪生成に関する遺伝子のmRNA発現程度を確認した。この際、内部対照群としてGAPDHを使用し、実験に使用したプライマーは下記[表3]に記載した。
【0135】
【0136】
その結果、[
図9]に示されたように、デオキシコール酸-ペプチド結合体を処理した後、脂肪組織の脂肪分解機能を有するIL-15の発現が増加することを確認した。
【0137】
これにより、本発明に係るデオキシコール酸-ペプチド結合体は、運動により発現が増加し、脂肪分解機能を有するIL-15遺伝子の発現を増加させることにより、肥満を予防又は治療する効果があることが分かる。
【0138】
以上、本発明は、記載された実施形態についてのみ詳細に説明されたが、本発明の技術思想の範囲内で多様な変形及び修正が可能であることは、当業者にとって明白なものであり、このような変形及び修正が添付の特許請求の範囲に属することは当然である。
【配列表】