(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】動的に再生される電極を有するように構成された電気化学セル
(51)【国際特許分類】
G01N 27/38 20060101AFI20240605BHJP
G01N 27/30 20060101ALI20240605BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20240605BHJP
G01N 30/64 20060101ALI20240605BHJP
【FI】
G01N27/38 321
G01N27/30 B
G01N27/30 F
G01N27/416 338
G01N27/416 336Z
G01N30/64 C
(21)【出願番号】P 2022580445
(86)(22)【出願日】2021-12-28
(86)【国際出願番号】 US2021065271
(87)【国際公開番号】W WO2022146958
(87)【国際公開日】2022-07-07
【審査請求日】2022-12-26
(32)【優先日】2020-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591025358
【氏名又は名称】ダイオネックス コーポレイション
(73)【特許権者】
【識別番号】518256430
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ ザ ユニヴァーシティ オブ テキサス システム
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】ダスグプタ パーネンデュ
(72)【発明者】
【氏名】シェラー チャールズ ピー
(72)【発明者】
【氏名】スリニヴァサン カナン
(72)【発明者】
【氏名】ポール クリストファー エー
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04059406(US,A)
【文献】特開昭60-104250(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0377800(US,A1)
【文献】米国特許第05399256(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
G01N 30/00-30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学セルを備えた装置であって、
前記セルが、チャンバ、入口ポート、出口ポート、電極ポート、及び対向電極を含み、
前記入口ポートが、前記チャンバ内に入り、入口開口部を有する導管を通る液体の流れを可能にするように構成され、
前記出口ポートが、前記チャンバから出る液体の流れを可能にするように構成され、
前記対向電極は、前記セルと液体連通しており、
前記電極ポートがシリンダ型の作用電極を収容して、前記作用電極の第1の端部が前記チャンバ内に滑動することを可能にするように構成され、
前記作用電極の第1の端部面の面積は、前記入口開口部の面積より大きく、
前記装置は、前記入口開口部から前記作用電極の第1の端部面に向かって流出する流体の釣り合い力に起因して、前記作用電極に加えられた力が前記作用電極の第1の端部面を前記入口開口部の面からある距離まで滑動させるように構成されている、
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記装置は、前記作用電極に加えられた力が、前記作用電極の第2の端部に加えられるように更に構成され、前記第2の端部は前記第1の端部とは反対にある、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記電極ポートは、シリンダ型の作用電極が貫通し且つ前記チャンバ内の液体が前記電極ポートを通って前記チャンバから浸出するのを防ぐように構成されたシール材料を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記セルと液体連通する参照電極を更に備える、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記作用電極が銅金属を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記作用電極が金金属を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記入口ポート及び前記電極ポートが互いに
前記チャンバに対して反対側に位置する、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記電気化学セルは、前記入口開口部から流出する流体が停止したときに、前記作用電極が前記入口開口部の少なくとも一部を覆うように滑動するよう構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記導管が前記対向電極を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記導管が前記対向電極を含み、前記対向電極と前記作用電極の間で前記対向電極の端部に絶縁スペーサが配置されている、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記作用電極の第2の端部に圧力を加え、前記チャンバ内に滑動できるようにする手段を更に備える、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記作用電極の第1の端部面から前記入口開口部の面までの距離が、一定の距離である、請求項1に記載の装置。
【請求項13】
液体試料中の分析物を分析する方法であって、
a)
請求項1に記載の電気化学セルを提供するステップと、
b)溶出液と少なくとも1つの分析物を含む前記液体試料とを入口ポートを通して流すステップと、
c)電気化学反応により
作用電極で少なくとも1つの分析物を検出し、作用電極と対向電極の間で生成される電気信号を測定するステップと、
d)前記作用電極の第1の端部面の表面の一部を電気化学的に除去するステップと、
e)前記作用電極
に圧力を加えて前記作用電極を
前記チャンバ内に
滑動させて、前記作用電極の第1の端部面が入口開口部の面からある距離にあるようにするステップと、
を含む、方法。
【請求項14】
前記分析物が少なくとも1つのアミノ酸を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記分析物が少なくとも1つの炭水化物を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記電気化学セルが、出口ポートと液体連通する参照電極を更に備える、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記作用電極が銅金属を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記作用電極が金金属を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記入口ポート及び電極ポートが互いに
前記チャンバに対して反対側に位置する、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記電気化学セルは、前記入口開口部から流出する流体が停止したときに、前記作用電極が前記入口開口部の少なくとも一部を覆うように滑動するよう構成されている、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
前記電気化学セルの
前記導管が前記対向電極を含み、前記対向電極と前記作用電極の間で前記対向電極の端部に前記電気化学セルの絶縁スペーサが配置されている、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
液体中の分析物を電気化学的に検出するための装置であって、
入口ポート、出口ポート、及び作用電極ポートを有するチャンバであって、前記入口ポートが、前記チャンバに入る液体の流れを可能にするように構成され、前記出口ポートが、前記チャンバから出る前記液体の流れを可能にするように構成される、チャンバと、
前記
チャンバと液体連通している対向電極と、
前記作用電極ポートに移動可能に収容され、前記
チャンバと液体連通し且つ前記対向電極と電気的に連通している作用電極であって、前記作用電極が、前記作用電極の第1の端部が前記チャンバ内に滑動できるように構成されており、前記作用電極の第1の端部面の面積が前記入口ポートの面積よりも大きい、前記作用電極と、を備え、
前記作用電極の第1の端部面に向かって入口開口部から流出する流体の釣り合い力に起因して、前記作用電極が前記入口開口部からの既知の距離まで前記入口ポートにおける前記
入口開口部に向かって滑動するように、前記作用電極に反力が加えられる、
ことを特徴とする装置。
【請求項23】
前記分析物が、前記分析物と前記作用電極との間の電気化学反応、及び前記作用電極と前記対向電極との間で発生する電気信号の測定によって検出される、請求項22に記載の装置。
【請求項24】
前記作用電極ポートは、前記作用電極が貫通することを可能にし且つ前記チャンバ内の液体が前記作用電極ポートを通って前記チャンバから浸出するのを防ぐように構成されたシール材料を含む、請求項22に記載の装置。
【請求項25】
前記作用電極が銅金属を含む、請求項22に記載の装置。
【請求項26】
作用電極が金金属を含む、請求項22に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連情報に対する相互参照)
本出願は、2020年12月31日に出願された、「Electrochemical Cell Configured To Have A Dynamically Renewed Electrode」と題する米国仮特許出願第63/132,597号の利益を主張し、その内容は、全体が本明細書に組み入れられる。
【0002】
(技術分野)
本開示は、電気化学セルを使用して分析物の存在を検出すること、及びより具体的には、動的に再生する電極を有する電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0003】
幾つかの分析物の電気化学的検出は、酸化還元反応生成物による電極の汚損を生じ、これにより、使用と共にその感度が劣化することになる。例えば、酸化副生成物は、電極表面を汚損する部分絶縁ポリマー膜を生じる可能性がある。汚損に加えて、極の溶解が起こり、電極の溶解により、電気化学検出器セル内の流路のせん断面の下方に電極面が減肉した場合に電感度の低下を生じる可能性がある。オフラインでの洗浄法又は電極交換が必要となると、長期間の動作には問題となる可能性がある。特に、特定の条件下では、様々な電極上で電極触媒酸化を用いて、アミノ酸及び炭水化物を測定することができ、この電極は、このプロセスにおいて消費されるか、又は酸化生成物でコーティング状態になる可能性がある。
【発明の概要】
【0004】
好ましい実施形態において、電気化学セルを使用して分析物の存在を検出する装置が記載される。電気化学セルは、チャンバ、入口ポート、出口ポート、電極ポート、及び対向電極を含む。入口ポートは、チャンバ内に入り、入口開口部を通る液体の流れを可能にするように構成され、出口開口部は、チャンバから出る液体の流れを可能にするように構成される。作用電極の表面は、バルク金属電極の新しい下層を露出させる前方端部面の一部を溶解することによって復元することができる。作用電極の第1の端部面の表面は、入口開口部の面からある距離に保持されているので、拡散経路、電気活性分析物の線形速度、及び検出感度を維持する。電極ポートは、シリンダ型作用電極を収容し、作用電極の第1の端部がチャンバ内に滑動することを可能にするように構成されている。作用電極の第1の端部面の面積は、入口の面積よりも大きい。本装置は、入口開口部から流出する流体の釣り合い力に起因して、作用電極に加えられた力が作用電極の第1の端部面を入口開口部の面からのある距離まで滑動するように構成されている。本装置は、液体試料中のアミノ酸や又は炭水化物などの分析物を分析する方法で用いることができる。
【0005】
別の好ましい実施形態では、液体試料中の分析物を分析する方法が記載される。本方法は、電気化学セルを提供するステップと、溶出液と少なくとも1つの分析物を含む液体試料とを入口ポートを通って流すステップと、電気化学反応により電極で少なくとも1つの分析物を検出し、作用電極と対向電極との間に生成される電気信号を測定するステップとを含む。本方法は更に、作用電極の第1の端部面の表面の一部を電気化学的に除去するステップと、作用電極をチャンバ内に進めて作用電極の第1の端部面が入口開口部の面からある距離にあるようにするステップと、を含む。
【0006】
更に別の好ましい実施形態では、液体中の分析物を電気化学的に検出するための装置が記載される。本装置は、入口ポート、出口ポート及び作用電極ポートを有するチャンバを含み、入口ポートは、チャンバに入る液体の流れを可能にするように構成され、出口ポートは、チャンバから出る液体の流れを可能にするように構成される。対向電極は、セルと液体連通しており、作用電極は、作用電極ポートに移動可能に収容され、セルと液体連通し且つ対向電極と電気連通している。作用電極は、作用電極の第1の端部面の面積が入口ポートの面積より大きい場合に、チャンバ内に作用電極の第1の端部が滑動できるように構成されている。作用電極には、入口開口部から作用電極の第1の端部面に向かって流出する流体の力の釣り合いに起因して、作用電極が、入口ポート開口部から既知の距離まで入口ポートの開口部に向かって滑動するように、反力が加えられる。
【0007】
以上、以下に続く本発明の詳細な説明をより良く理解するために、本発明の特徴及び技術的利点をかなり大まかに概説した。以下、本発明の請求項の主題を形成する本発明の追加の特徴及び利点が説明される。開示された着想及び特定の実施形態は、本発明の同じ目的を遂行するための他の構造を修正又は設計するための基礎として容易に利用され得ることが、当業者によって理解されるべきである。また、このような等価な構造は、添付の特許請求の範囲に規定される本発明の精神及び範囲から逸脱しないことも、当業者によって理解されるはずである。本発明の特徴であると考えられる新規な特徴は、その組織及び操作方法の両方に関して、更なる目的及び利点と共に、添付の図と関連して考慮される場合、以下の説明からより良く理解されるであろう。しかしながら、各図は、例示及び説明の目的のみのために提供され、本発明の限界の定義として意図されていないことが明示的に理解されるであろう。
【0008】
本明細書に組み込まれ且つその一部を構成する添付図面は、本開示の実施形態を例証しており、本明細書と共に本開示の原理を説明する役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図4】一定の印加電位で動作させたある時間にわたる金電極の電流応答の経時的劣化を示すグラフである。
【
図5】電極電圧の関数としての11種類の異なるアミノ酸のピーク面積のグラフである。
【
図6】アミノ酸の混合物を含む試料の最初の1000回注入の100回目毎のクロマトグラムのグラフである。
【
図7】約40日間の時間期間の繰り返し注入にわたるアミノ酸の相対ピーク面積のグラフである。
【
図8】約40日間の内部標準として使用されるアミノ酸の1つ(リジン)に対する繰り返し注入にわたるアミノ酸の相対ピーク面積のグラフである。
【
図9】実施例4で測定された、グルコース、フルクトース、及びスクロースの試料のクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1、
図2、及び
図2Aは、電気化学セル(2)を含む装置(1)を示す。電気化学セル(2)は、チャンバ(3)、入口ポート(11)、出口ポート(12)、電極ポート(13)、及び対向電極(21)を備える。入口ポートは、チャンバに入り、入口開口部(15)を通って作用電極に向かう液体の流れを可能にするに構成され、出口ポートは、チャンバから出口開口部(16)を通る液体の流れを可能にするに構成されている。電極ポートは、シリンダ型作用電極(22)を収容し、作用電極の第1の端部がチャンバ内に滑動するのを可能にするように構成されている。作用電極の第1の端部面の面積は、入口開口部の面積よりも大きい。
図2Aを参照すると、第1の端部面は、シリンダ型電極(22)の端部において円形領域を表している。この装置は、作用電極に加えられた力が、入口開口部から流出する流体の釣り合い力に起因して、作用電極の第1の端部面を入口開口部の面からある距離まで滑動させるように構成される。作用電極の第1の端部は、シール(42)から表出される露出シリンダの側面領域と共に作用電極の第1の端部面を表すことができる。電気化学セルの動作中、作用電極の第1の端部面は、シール(42)の端部面と面一になることができ、又は代替的に、作用電極の第1の端部面は、シール(42)の端部面から外向きにシリンダの側面領域の小部分と共に表出することができる。幾つかの実施形態において、装置は更に、作用電極に加えられる力が作用電極の第2の端部に加えられて第2の端部が第1の端部とは反対側にあるように構成される。
【0011】
この装置は、液体クロマトグラフィシステムの1又は2以上の構成要素と液体連通している検出器として使用することができる。溶出液は、液体クロマトグラフィカラムから入口ポートに流入し、チャンバを通過して出口ポートから流出する。この装置はまた、分析物がチャンバを通過して作用電極に接触するときに、電子移動を生じる電気化学的プロセスによって分析物を検出することが可能である。幾つかの実施形態では、分析物は、アミノ酸又は炭水化物である。幾つかの実施形態では、分析物はアミノ酸である。幾つかの実施形態では、分析物は炭水化物である。
【0012】
液体試料中の分析物を分析する方法は、以下のステップを含む。a)電気化学セルを提供するステップ。b)溶出液を使用して、少なくとも1つの分析物を含む液体試料を入口ポートから作用電極に向かって流すステップ。c)分析物は、分析物と作用電極との間の電気化学反応及び作用電極と対向電極との間で発生する電気信号の測定によって検出される。アミノ酸は、作用電極での電極触媒アミノ酸酸化、作用電極の酸化キレート化、又はこれらの組み合わせによって検出されると考えられる。d)作用電極の第1の端部面の表面の一部を電気化学的に除去し、その表面を再生するステップ。e)作用電極の第1の端部面が入口開口部の面からある距離にあるように、チャンバ内に作用電極を前進させるステップ。作用電極に加えられた力によって、作用電極の第1の端部面が入口開口部の面からある距離に押し出される。釣り合い力は、入口開口部から流出する流体である。幾つかの実施形態において、作用電極の第1の端部面から入口開口部の面までの距離は、一定距離である。一定距離又はギャップは、測定された分析物濃度の変動が1時間当たり5%未満、好ましくは1時間当たり3%未満、より好ましくは1時間当たり2%未満、更に好ましくは1%未満で変化するように、比較的一定値とすることができる。
【0013】
作用電極における分析物の電気化学的処理は、多くの場合、電極表面の最終的な汚損につながる。作用電極電位を電極金属の酸化電位よりも高くすることで、表面が酸化され、好適な流動媒体中で溶解し、溶解した金属と共に汚損物が除去され、電極表面が再生される。銅電極でのアミノ酸の検出などでの一部の状況では、作用電極表面が酸化溶解し、露出した電極面の層が除去され、汚損のない表面が新たに露出する。同様の状況は、銅電極での炭水化物の検出に関与することができ、電極の酸化生成物、例えば銅イオンが、炭水化物によって、又はアルデヒドもしくはカルボン酸とすることができる炭水化物の酸化生成物によって錯化される。金電極の経時劣化の一例を
図4のグラフに示す。グルコース、フルクトース、及びスクロースの混合物を、濃度100ppm、流速63L/min、注入量400nLで電気化学セル検出器に注入した。作用電極の印加電圧は、Ag/AgCl参照電極に対して+0.2Vであった。溶離液の濃度は、カラム温度は30°Cで60mM KOHであった。
図4から分かるように、最初の25回注入で電流信号が著しく劣化し、場合によっては100回目の注入で使用不能になる。
【0014】
幾つかの実施形態では、電極表面は、清浄な表面が利用可能になるように、表面を溶解することを意図した印加電位又は添加試薬のシーケンス、或いはその両方を使用して意図的に洗浄される。滑動可能な作用電極及び電極をチャンバに押し込む力がなければ、この溶解は、作用電極表面と注入開口部との間のギャップ(距離)を増加させる結果となる。電気化学的及び/又は化学的溶解によって容易に表面を再生することができる何れかの電極材料を使用することができる。幾つかの実施形態では、作用電極は、銅金属を含む。幾つかの実施形態では、作用電極は、金金属を含む。電極材料の例としては、限定ではないが、金、白金、パラジウム、銀、炭素、チタン、コバルト、鉄、モリブデン、タンタル、タングステン、ロジウム、ビスマス、アンチモン、テルル、鉛及びこれらの組み合わせ並びに修飾物が挙げられる。
【0015】
金電極では、印加電位下において金表面で分析物が電極触媒的に酸化され、酸化電流が測定され、これを用いて分析物濃度を決定する。銅電極では、アミノ酸のような一部の分析物が存在すると、銅電極が酸化的にキレート化され、同時に分析物の直接酸化が生じることができる。
【0016】
異なる電極材料を溶解又は酸化させるのに必要な電位は、一般的な電極材料の標準酸化還元電位の一覧表で入手可能である。この電位は、一般に標準水素電極を基準にして引用されている。電極を酸化してイオンにするのに必要な電位は、電極の溶解をもたらすことになる。例えば、銅は0.337Vで銅イオン(銅+2)に酸化することができるのに対して、金は1.52Vでオーリックイオン(金+3)に酸化することができる。電極表面の溶解に必要な正確な電位は、溶液のpH及び温度、並びに溶液中の他の化学種の存在に依存する。表中の標準電位から計算できるものと比較すると、電極の実溶解を開始するために、異なる材料が特徴的な過電圧を必要とする場合がある。
【0017】
電気化学的酸化は、溶出液に晒された固体電極材料を溶出液中に溶解させることができる。このように露出電極の一部が除去されることにより、電極長が減少する。しかしながら、入口開口部と電極の第1の面との間のギャップが大きくなる代わりに、印加された圧力は、電極が入口開口部に向かって連続的に押されながら、入口開口部から出る流体が押し戻すので、入口開口部と電極の第1の面との間のギャップ(距離)がほぼ同じままであることを意味する。ここで留意すべき大切なことは、圧力手段で作用電極に加えられるベクトル力が、入口開口部からの反対方向のベクトル力とほぼ等しくなり、これにより動的にバランスの取れた形でギャップが一定になる。
【0018】
この装置は、作用電極(22)がチャンバ内を滑動できるように構成されている。装置は、使用中に電極の先端が溶解すると、チャンバ内に滑動するように構成されている。幾つかの実施形態では、電極ポート(13)は、ガスケット又はシール(42)から形成されている。電極導管(43)は、電極を容易に滑動することを可能にする滑動導管(45)を備える。滑動導管の例としては、限定ではないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。導管は、クロマトグラフィ及びフローインジェクション分析のアプリケーションで一般的に使用されているものである。これらは、滑らかなボア及び低摩擦係数を有する。シール(42)の端部面は、チャンバ(13)に隣接しており、せん断面と呼ばれることがある。ガスケットは、電極の周囲をシールし、電極ポートを通る溶出液の流れを防止する。ガスケットの例としては、限定ではないが、シリコーン、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)、及びViton又はKalrezなどのフルオロエラストマー、並びに酸又は塩基攻撃に対して耐性のある他のゴムが挙げられる。ガスケットはシリコーン材料とすることができ、電極ポートにて電極を貫通させることができる。シリコーン材料は、電極の周囲で電極導管(43)の内径と液密シールを形成する。
【0019】
幾つかの実施形態において、装置は更に、作用電極の第2の端部に圧力を加えて、チャンバ内に滑動できるようにするための手段を備える。圧力を加えるための手段の例としては、空気圧、液圧、及びバネベースの技術が挙げられる。幾つかの実施形態では、調整ガス圧が、作用電極の第2の端部に圧力を加えるために使用される。
図1は、作用電極の第2の端部に圧力を加える空気圧手段を使用する装置を示している。剛性のタングステンワイヤー(51)は、作用電極の第2の端部に接触している。タングステンワイヤー(51)は、ガイドチューブ(52)、プラスチックチューブ(53)、PEEKユニオン(54)とナット(55)によって保持され配向されている。発泡体(56)は、ユニオンと、空気源に作動的に接続された伝達要素(57)との間に配置されている。
【0020】
作用電極の第1の端部面は、入口開口部(11)の面からある距離(すなわち、
図2Aに図示されるようなギャップ58)に配置される。この距離は、クロマトグラフィカラムからの液体によって作用される圧力と作用電極に加えられる圧力との力のバランスによって決定される。クロマトグラフィカラムからの液体の流量が固定で、出口開口部及びそれ以降の構成要素により表される有限の一定流路抵抗では、この距離は、作用電極の第2の端部に加わる圧力により制御される。通常は、HPLCポンプは、一定の流量でポンプ送給し、これに応じて印加圧力を変化させて目的の流量を達成する。この距離は、最適な感度を得るように変えることができる。液体が入口開口部を通って流れていない場合、作用電極と入口開口部のギャップは、最適距離とは異なる場合があるが、流れを復元することで、電極を最適位置に戻すことができる。
【0021】
作用電極は、何らかの参照電極電位に対して作用電極電位を一定値に維持し、電流をモニターすることができるポテンショスタット又は他の電子機器に電気的に接続される。加えて、対向電極と参照電極もまた、同じポテンショスタットに電気的に接続されている。
図2を参照すると、タングステン線(51)の一端が物理的に接触し、作用電極(22)の第2の端部に電気的接続部を形成している。ポテンショスタットは、作用電極(22)を参照電極に対してある一定の電位に維持するように構成される。ポテンショスタットはまた、作用電極と対向電極の間を流れる電流を測定するように構成されている。この動作は、(参照電極に対する)作用電極の電位が変更される前に、特定の時間だけ実行することができる。
【0022】
対向電極は、電気化学セルの一部であり、作用電極から反対側の電極として機能する。幾つかの実施形態では、装置は更に、参照電極(23)を備える。幾つかの実施形態において、参照電極(23)は、例えば、出口ポートの下流側などでセルと液体連通するように構成される。幾つかの実施形態では、参照電極及び対向電極は、両方とも出口ポートと液体連通するように構成される。
【0023】
入口ポート、出口ポート、及び電極ポートは、これらが全てチャンバ内に開口していることを条件として、何れかの方向に構成することができる。幾つかの実施形態では、入口ポート及び電極ポートは、互いに対向して配置される。幾つかの実施形態において、電気化学セルは、作用電極の第1の端部面が、入口開口部の少なくとも一部を覆うように滑動するよう構成される。幾つかの実施形態において、作用電極は、第1の端部面が入口開口部を覆うことができるように、チャンバ内に滑動することができる。
【0024】
幾つかの実施形態において、入口ポートは、入口導管(31)を含み、対向電極(21)は、入口導管の少なくとも一部内にあり、対向電極は、対向電極導管である。作用電極と対向電極の間のギャップは、2つの電極を分離するのに十分である。幾つかの実施形態では、絶縁スペーサ(41)が、対向電極と作用電極との間で対向電極の端部に配置され、対向電極と作用電極との間のスペーサとして機能する。絶縁スペーサは、導管とすることができる。絶縁スペーサの例としては、限定ではないが、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンテトラフルオロエチレン、及び同様の組成物が挙げられる。入口導管は、液体クロマトグラフィシステムから装置へ溶出液を輸送する。
【0025】
幾つかの実施形態では、出口ポートは、出口導管(32)を含む。出口導管は、溶出物を装置の外に輸送する。幾つかの実施形態では、導管(32)の周囲にジャケット(33)が被覆されている。幾つかの実施形態では、対向電極は、チャンバの壁の一部である。幾つかの実施形態において、参照電極(23)は、出口ポートと流体連通している。幾つかの実施形態では、参照電極(23)は、下流にあり且つ出口導管と流体連通しているフローセルの形態である。
【0026】
液体クロマトグラフィシステムは、ポンプ、注入バルブ、クロマトグラフィカラム、及び検出器のような構成要素を含むことができる。幾つかの実施形態では、入口ポートは、液体クロマトグラフィカラムに流体接続される。カラムからの溶出液は、入口ポートを通ってチャンバに流入する。溶出液は、クロマトグラフィシステムから圧力を受けている。検出器の上流にあるカラム及び他の構成要素によって減衰後の溶出液の圧力は、作用電極の第1の端部に対して印加される。幾つかの実施形態では、クロマトグラフィの流れが増加すると、増加した圧力は、最適な検出感度を維持するために入口開口部からプログラムされた距離を確保するように作用電極に加えられる圧力によって相殺することができる。
【0027】
本開示は、説明によって幾つかの実施形態を例示し、例示の実施形態を詳細に説明してきたが、添付の請求項の範囲をこのような詳細に限定すること、又は何れかの方法で限定することは、出願人の意図するところではない。追加の利点及び修正点は、当業者には容易に明らかにすることができる。更に、別々のリストからの特徴を組み合わせることができ、実施例からの特徴を開示全体に一般化することができる。
【実施例】
【0028】
実施例1-検出手順
アミノ酸の検出のための作用電極として、直径0.225mmの銅線を使用した。外径1.6mm、内径0.127mmのステンレスチューブを、クロマトグラフィカラムからの入口導管及び対向電極として使用した。電極は約1mm離間している。作用電極の表面が溶解すると、電極は、直径0.25mmのワイヤーに伝達される~0.7ポンドの力を生成する領域において4psiで加圧した空気圧ピストンに接続されている0.25mmのタングステンワイヤーに加えられた圧力によって連続して前進している。タングステン線はまた、作業電極に電気的接触を提供した。2つの電極は、市販のクロマトグラフィ電気化学検出器の入力に接続された。幾つかの直流電位でアンペロメトリーを行い、カラムから溶出するアミノ酸の反応を測定した。検出器の下流には、pH参照電極とフローセルを接続した。記載されている全ての作用電極電位は、基準となるpH電極を基準として記載されている。pH電極は、Ag/AgCl電極を含む組み合わせ電極であったことに留意されたい。
【0029】
実施例2-アミノ酸を検出するための電極電位
7.5~1.1Vの25mV間隔の様々な電極電位で11種類のアミノ酸(100μM)の一式を試験して、作用電極に最適な電圧を見出した。これら11種類のアミノ酸は、Thermo Scientific Dionex ICS-5000 イオンクロマトグラフィシステム(Thermo Fisher Scientific,Sunnyvale,California,USA)を用いて、35℃でNaOHを用いて分離された0.25mL/minでAmino-Pac PA10(2x250mm)カラム上で分離した。結果を
図5に示す。10~18mM NaOHを用いて0.1~12分で勾配分離を行い、その後、10mM NaOHで8分間再平衡化した。全てのアミノ酸が同じ電圧で最大ピーク反応に達するわけではなく、セリン及びスレオニンなどの水酸基を含むアミノ酸は、他のアミノ酸よりも低い電圧で最大に達するようだった(~0.95 vs 1.025 V)。
【0030】
実施例3-多試料による検出の安定性
15種類のアミノ酸の分離のために、NaOH及びメタンスルホン酸ナトリウム(NaMSA)を用いた勾配法を開発した。250mM NaOH(高純度50% w/w NaOH溶液から)及び1000mMメタンスルホン酸ナトリウムの溶液を手動で調製した。メタンスルホン酸ナトリウム溶液は、化学量論的量のメタンスルホン酸を秤量し、必要な水の50%で希釈して、中和に必要なNaOHの約98%と混合することで調製した。次いで、250mM NaOH溶液を用いて完全中和を行い、万能pH紙上に滴下して試験した。その後、メタンスルホン酸ナトリウムを必要量に希釈した。勾配プログラムは以下の通りである。0~3分 25mM NaOH及び0mMメタンスルホン酸ナトリウム、3~12分 25mM NaOH及び0~60mMメタンスルホン酸ナトリウム、12~20分 25mM NaOH及び60~200mMメタンスルホン酸ナトリウム、20~23分 25mM NaOH及び200~500mMメタンスルホン酸ナトリウム、23~25分 25mM NaOH及び500mMメタンスルホン酸ナトリウム、25~25. 1分25~200mM NaOH、500~0mMメタンスルホン酸ナトリウム、25.1~30分200mM NaOH、0mMメタンスルホン酸ナトリウム、30~30.1分200~25mM NaOH、0mMメタンスルホン酸ナトリウム、及び最後に25mM NaOH及び0mMメタンスルホン酸で30.1~45分で再平衡化する。
【0031】
最初の1000回の注入について、100回目毎のクロマトグラムを取り、その重ね合わせを
図6に示す。ピーク及び濃度は、図の見出しに記載されている。OH-とMSA-の間の移行ゾーンは、ヒスチジン(~14分、ピーク10)によってマークされ、この領域で高度に集束される。NaOHの取り扱い時間を最小限にし、CO2をパージするよう注意を払い、リザーバーベントにはソーダライムトラップも装えた。システムは40日を超えて連続運転した。溶離液へのCO2吸収に起因する可能性がある長期ドリフトは、溶離液の初期ゾーンには見られなかった。アミノ酸試料溶液は、溶液を作り直すことが必要となる前の注入回数を最大にし、手作業の調製に伴うばらつきを低減するために、より大容量(~1L)を調製した。
図7に、実験期間中の各分析物の相対ピーク面積をオーバーレイでプロットしている。
図7から、金電極での
図4に示されるような汚損又は浸食された固定電極で起こったような、電極性能の時間に伴う減衰は実質的にないことが明らかである。同じような傾向が分析物全体にわたって観察される。4つの明確な領域:1)スタートアップ平衡領域、2)安定しているが変動が大きい領域、3)高ドリフト領域、及び4)安定した一貫したレスポンス領域がある。
【0032】
図6及び
図7に基づくと、電気化学的応答が一貫して減衰しているという根拠はなかった。しかしながら、アミノ酸の1つであるリジンを内部標準として使用したときには、
図8にて分かるように、より一貫した均一な応答が得られることが示された。また、領域1及び領域3がより明確に区別できるようになった。また、上記の領域3と領域4の間での感度の大きな変化もなくなっている。
【0033】
領域4のピーク面積の概要を表1に示す。トリプトファンを除いて、16日間475回の注入で%RSDは5%未満であった。
【表1】
【0034】
実施例4-炭水化物の測定
グルコース、フルクトース、スクロースを各々100mg/L含有する混合物400ナノリットルを、サーモフィッシャーサイエンティフィック社から入手した直径1.0mM、長さ250mMのCarboPAC PA200カラムに注入した。このカラムには、第四級アンモニウム陰イオン交換官能基を有する5ミクロン粒子が充填されていた。カラム温度は30℃に保ち、60mMの電気透析で生成したKOHをアイソクラティック溶離液として使用した。作用電極は、基準pH電極に対して0.940Vに保持された0.33mm径の銅線であった。作用電極は、その背後にある面積1cm2の接触界面を持つ直径0.3mmのタングステンワイヤーで押された。界面には5psiの圧力が加えられた。検出器電流は20Hz、立ち上がり時間は0.50秒で取得しました。グルコース、フルクトース、スクロースはそれぞれ3.80分、4.26分、5.26分に溶出する。このクロマトグラムを
図9に示す。
【0035】
本発明及びその利点について詳細に説明してきたが、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、本明細書において種々の変更、置換及び改変を行うことができることは理解されたい。更に、本出願の範囲は、本明細書に記載されたプロセス、機械、製造、物質組成、手段、方法及びステップの特定の実施形態に限定されることを意図していない。当業者であれば、本発明の開示から容易に理解できるように、本明細書に記載の対応する実施形態と実質的に同じ機能を果たす、又は実質的に同じ結果を達成する、現在存在する又は後に開発されるプロセス、機械、製造、物質の組成物、手段、方法、又はステップが、本発明に従って利用することができる。従って、添付の特許請求の範囲は、このようなプロセス、機械、製造、物質組成物、手段、方法、又はステップをその範囲内に含むことを意図している。