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  • 特許-EUV透過膜 図1
  • 特許-EUV透過膜 図2A
  • 特許-EUV透過膜 図2B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】EUV透過膜
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/62 20120101AFI20240605BHJP
【FI】
G03F1/62
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023515782
(86)(22)【出願日】2022-09-15
(86)【国際出願番号】 JP2022034590
(87)【国際公開番号】W WO2023067957
(87)【国際公開日】2023-04-27
【審査請求日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2021/038811
(32)【優先日】2021-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【弁理士】
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】柏屋 俊克
(72)【発明者】
【氏名】近藤 厚男
(72)【発明者】
【氏名】茶園 弘基
(72)【発明者】
【氏名】谷村 昴
(72)【発明者】
【氏名】強力 尚紀
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-162332(JP,A)
【文献】特開平10-340843(JP,A)
【文献】特開2000-338299(JP,A)
【文献】特開2018-151622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
G03F 1/00~1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長13.5nmにおけるEUV透過率が80.0%以上のEUV透過膜であって、
Be、Si及びB Cからなる群から選択される少なくとも一種を主成分として含む、波長2μmにおけるIR放射率が2.0%以上の主層と、
前記主層の少なくとも片面を覆う、フッ化カルシウム、二酸化ケイ素、及び窒化ベリリウムからなる群から選択される少なくとも一種で構成される、波長2μmにおけるIR透過率が70%以上の保護層と、
を備えた、EUV透過膜。
【請求項2】
前記主層の両面が1対の前記保護層で覆われている、請求項1に記載のEUV透過膜。
【請求項3】
前記主層が、Be及びBCからなる群から選択される少なくとも一種を主成分として含む、請求項1又は2に記載のEUV透過膜。
【請求項4】
前記主層が添加物を含む、請求項1又は2に記載のEUV透過膜。
【請求項5】
前記添加物の構成元素が、前記主層の主要構成元素の電気陰性度よりも0.3以上高い又は0.3以上低い電気陰性度を有する、請求項に記載のEUV透過膜。
【請求項6】
前記添加物が、Rb、Sr、Y、Nb、Mo、Si、K、Ca、B及びCからなる群から選択される少なくとも一種の元素を含む、請求項に記載のEUV透過膜。
【請求項7】
前記主層がBeを主成分として含み、前記添加物の含有量が、前記主層におけるBeの含有量に対して、5~40at%である、請求項に記載のEUV透過膜。
【請求項8】
前記主層の厚さが10~70nmである、請求項1又は2に記載のEUV透過膜。
【請求項9】
前記保護層の厚さが5nm以下である、請求項1又は2に記載のEUV透過膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EUV透過膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスにおける微細化が年々進行しており、各工程で様々な改良がなされている。特に、フォトリソグラフィ工程においては、従来のArF露光の波長193nmに代えて、波長13.5nmのEUV(極端紫外線)光が使用され始めた。その結果、波長が一気に1/10以下になり、その光学的特性は全く異なるものとなった。しかし、EUV光に対して高透過率を有する物質が無いため、例えばフォトマスク(レチクル(reticle))のパーティクル付着防止膜であるペリクル(pellicle)にはまだ実用的な物が存在しない。このため、デバイスメーカーはペリクルを使うことができずに半導体デバイスの製造を行っているのが現状である。
【0003】
そこで、ポリSiベースのペリクル膜が提案されている。例えば、特許文献1(特許第6858817号公報)には、コア層が(ポリ)Si等のEUV放射に実質的に透明な材料を含むコア層と、IR放射を吸収する材料を含むキャップ層とを備えたペリクル膜が開示されている。
【0004】
また、カーボンナノチューブ(CNT)ベースのペリクル膜も開発されており(特許文献2(特開2018-194840号公報))、より高いEUV透過率が期待される。
【0005】
さらに、例えば特許文献3(特表2017-522590号公報)には、高ドーピング領域と低ドーピング領域を備えた、EUV放射に対して透過性の膜が開示されており、膜の温度特性が改善されることが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6858817号公報
【文献】特開2018-194840号公報
【文献】特表2017-522590号公報
【発明の概要】
【0007】
ところで、EUV光のうちペリクル膜を透過しない光線はペリクル膜に反射されるか吸収されることになるが、ペリクル膜がEUV光を吸収すると発熱する。発熱量が大きくなるとペリクル膜に熱膨張による皺が発生してEUV透過率に分布ができてしまい、露光時の回路形成にばらつきが生じて回路不良に繋がることがある。また、ペリクル膜の材質によっては、耐熱限界温度を越えてしまい、ペリクル膜が破損する恐れもある。そのため、何らかの手段でペリクル膜から放熱しなければならないものの、ペリクル膜の厚さが100nm未満と薄すぎるため、熱伝導では十分に放熱できない。また、EUV露光装置内は水素を導入しているとはいえ、真空下のため対流による放熱もほとんど生じない。そのため、ペリクル膜の放熱は、放射(輻射)による放熱が一般的である。特許文献1(特許第6858817号公報)には、主層とIR放射率向上のための保護層とを備えた、リソグラフィ装置のためのペリクル膜が開示されており、特に主層がSiの場合の保護層として、Pd、Ag等の金属が記載されている。すなわち、主層ではなく、保護層からのIR放射により放熱させるペリクル膜が提案されている。しかしながら、IR放射率が高い保護層とされるPd、Ag等の金属はEUV透過率が低く、実用的なEUV透過率と高いIR放射率を両立させたペリクル膜にはなっていない。
【0008】
ここで、放射による放熱の場合には、種々の波長の光線の中でも、IR光が主に放射される。これは、物体にはその温度によって放射する光線の波長が決まっていることによる。事実、露光時においてペリクル膜は500~800℃程度の温度に昇温するところ、この温度域では波長1~2μmの光線が最もよく放射される。したがって、EUV透過率が高いだけでなく、波長2μm程度のIR光の放射率が高いペリクル膜が望まれる。
【0009】
本発明者らは、今般、IR放射率が高い主層とIR透過率が高い保護層とを組み合わせてEUV透過率80.0%以上のEUV透過膜を構成することで、EUV透過率のみならずIR放射率も高いEUV透過膜を提供できるとの知見を得た。
【0010】
したがって、本発明の目的は、EUV透過率のみならずIR放射率も高いEUV透過膜を提供することにある。
【0011】
本発明によれば、以下の態様が提供される。
[態様1]
波長13.5nmにおけるEUV透過率が80.0%以上のEUV透過膜であって、
波長2μmにおけるIR放射率が2.0%以上の主層と、
前記主層の少なくとも片面を覆う、波長2μmにおけるIR透過率が70%以上の保護層と、
を備えた、EUV透過膜。
[態様2]
前記主層の両面が1対の前記保護層で覆われている、態様1に記載のEUV透過膜。
[態様3]
前記主層が、Be、Si及びBCからなる群から選択される少なくとも一種を主成分として含む、態様1又は2に記載のEUV透過膜。
[態様4]
前記保護層が、フッ化カルシウム、二酸化ケイ素、及び窒化ベリリウムからなる群から選択される少なくとも一種で構成される、態様1~3のいずれか一つに記載のEUV透過膜。
[態様5]
前記主層が添加物を含む、態様1~4のいずれか一つに記載のEUV透過膜。
[態様6]
前記添加物の構成元素が、前記主層の主要構成元素の電気陰性度よりも0.3以上高い又は0.3以上低い電気陰性度を有する、態様5に記載のEUV透過膜。
[態様7]
前記添加物が、Rb、Sr、Y、Nb、Mo、Si、K、Ca、B及びCからなる群から選択される少なくとも一種の元素を含む、態様5又は6に記載のEUV透過膜。
[態様8]
前記主層がBeを主成分として含み、前記添加物の含有量が、前記主層におけるBeの含有量に対して、5~40at%である、態様5~7のいずれか一つに記載のEUV透過膜。
[態様9]
前記主層の厚さが10~70nmである、態様1~8のいずれか一つに記載のEUV透過膜。
[態様10]
前記保護層の厚さが5nm以下である、態様1~9のいずれか一つに記載のEUV透過膜。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明によるEUV透過膜の一形態を示す模式断面図である。
図2A】例1~4におけるEUV透過膜の製造手順の前半部分を示す工程流れ図である。
図2B】例1~4におけるEUV透過膜の製造手順の後半部分を示す工程流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
EUV透過膜
図1に本発明の一形態によるEUV透過膜10の模式断面図を示す。EUV透過膜10は、波長13.5nmにおけるEUV透過率が80.0%以上である。このEUV透過膜10は、主層12と、主層の少なくとも片面を覆う保護層14とを備える。主層12は波長2μmにおけるIR放射率が2.0%以上である一方、保護層14は波長2μmにおけるIR透過率が70%以上である。このように、波長2μmにおけるIR光に対して、IR放射率が高い主層とIR透過率が高い保護層とを組み合わせEUV透過率80.0%以上のEUV透過膜を構成することで、EUV透過率のみならずIR放射率も高いEUV透過膜を提供することができる。
【0014】
すなわち、ペリクル膜はEUV光に対して高い透過率を有するものの、EUV光を若干吸収する。EUV光の吸収量が少ないとはいえ、露光時には高エネルギーのEUV光が連続で照射されるため、ペリクル膜は発熱する。このとき、ペリクル膜の温度が上がっても、熱伝導によるペリクル枠の昇温は僅かであるため、ペリクル膜は膨張するもののペリクル枠はあまり膨張せず、ペリクルに皺が発生する。これにより、ペリクル膜面内のEUV透過率分布が大きくなったり、ペリクル膜の強度が低下するため、露光プロセス中のレチクルの急加速及び急停止で生じる力でペリクル膜が破損してしまうことがある。ここで、ペリクル膜の放熱は、放射(輻射)による放熱が一般的である。特許文献1(特許第6858817号公報)には、主層とIR放射率向上のための保護層とを備えた、リソグラフィ装置のためのペリクル膜が開示されており、特に主層がSiの場合の保護層として、Pd、Ag等の金属が記載されている。すなわち、主層ではなく、保護層からのIR放射により放熱させるペリクル膜が提案されている。しかしながら、IR放射率が高い保護層とされるPd及びAgはEUV透過率が低く、実用的なEUV透過率と高いIR放射率を両立させたペリクル膜にはなっていない。これらの問題が、本発明のEUV透過膜10によれば首尾よく解決される。すなわち、本発明のEUV透過膜10によれば、EUV透過率とIR放射率のいずれもが高い主層(例えば金属で構成される層)と、EUV透過率とIR透過率のいずれもが高い保護層(例えば非金属で構成される層)を組み合わせることにより、EUV透過膜10のEUV透過率を高くしながらも、EUV光の吸収による発熱を主層からのIR放射で放熱することができる。したがって、EUV光の吸収によりEUV透過膜10が発熱したとしても、主層12からIR光が放射され、保護層14は主層12から放射されたIR光を透過することで、EUV透過膜10外にIR光が放射され放熱されるため、EUV透過膜10の温度上昇が抑えられる。
【0015】
なお、物質に光線が照射されたときの物理的現象としては、透過、反射及び吸収がある。そして、透過率+反射率+吸収率=1の関係式が成り立ち、光線は上記3つのうちいずれかの現象を示し、光線の透過量、反射量及び吸収量の合計は光線の照射量と一致する。また、吸収率=放射率(輻射率)であり、ある光線の吸収率が高い材料は、その光線の放射率も高いことになる。しかし、透過率+反射率+吸収率=1であるため、透過率及び吸収率(=放射率)が0.5超という物質は有り得ない。ただし、上記関係式は特定の波長に関して満たすものであり、波長13.5nmにおけるEUV透過率が0.95以上で、かつ放射による放熱の主な光線(波長2μmにおけるIR光線)の放射率が0.1といったことは成り立ち得る。
【0016】
EUV透過膜10は、波長13.5nmにおけるEUV透過率が80.0%以上であり、好ましくは85.0%以上、より好ましくは90.0%以上、さらに好ましくは93.0%以上である。EUV透過率は高ければ高いほど望ましいため、上限値は特に限定されず理想的には100%であるが、EUV透過膜10のEUV透過率は、典型的には99%以下、より典型的には98%以下、さらに典型的には95%以下でありうる。
【0017】
主層12は、波長2μmにおけるIR放射率が2.0%以上であり、好ましくは2.5%以上、より好ましくは5.0%以上、さらに好ましくは8.0%以上、特に好ましくは13.0%以上、最も好ましくは15.0%以上である。IR放射率は高ければ高いほど望ましいため、上限値は特に限定されないが、主層12のIR放射率は、典型的には30.0%以下、より典型的には27.5%以下、さらに典型的には25.0%以下でありうる。
【0018】
主層12は、Be、Si及びBCからなる群から選択される少なくとも一種を主成分として含むのが好ましく、より好ましくはBe又はSiを主成分として含み、さらに好ましくはBeを主成分として含む。すなわち、主層12は、特にEUV透過率が高いBeやSiといった金属材料の他、BCのような金属と同等の低電気抵抗を有するセラミック材料を含んでもよい。ここで、主層12における「主成分」とは、主層12の98.0重量%以上、好ましくは99.0重量%以上、より好ましくは99.5重量%以上を占める成分を意味する。もっとも、主層12がBe、Si及びBCからなる群から選択される少なくとも一種のみからなるものであってもよい。こうすることで、ペリクル膜としての基本的機能(パーティクル付着防止機能等)を確保しながら、より効果的にEUV透過率及びIR放射率が高い主層とすることができる。かかる観点から、主層12の厚さは、10~70nmであるのが好ましく、より好ましくは15~50nm、さらに好ましくは20~35nmである。また、実用に耐えうる機械的強度を維持することを考えた場合、主層12の厚さは5nm以上が好ましい。一方、EUV透過率を高くすることを考えた場合、なるべく薄くするのが良いため、主層12の厚さは50nm以下が好ましく、より好ましくは40nm以下、さらに好ましくは30nm以下である。
【0019】
保護層14は、主層12を保護するための層である。したがって、保護層14は、主層12の少なくとも片面を覆っているが、主層12の両面を1対の保護層14で覆うのが好ましい。保護層14は、波長2μmにおけるIR透過率が70%以上であり、好ましくは75%以上、より好ましくは78%以上、さらに好ましくは80%以上である。IR透過率は高ければ高いほど望ましいため、上限値は特に限定されないが、保護層14のIR透過率は、典型的には90%以下、より典型的には87%以下、さらに典型的には85%以下でありうる。
【0020】
保護層14は、上述したとおりEUV透過膜10作製プロセスにおいて主層12を保護するための層であり、主層12の酸化防止や、プロセスにおける薬品との反応(例えば酸化や腐食)の防止を目的として形成される。一方で、主層12からのIR放射を妨げないようにするため、保護層14はIR光に対して高い透過率を有するのが望ましい。さらに、保護層14はEUV透過率も高いことが望ましい。かかる観点から、保護層14は、フッ化カルシウム、二酸化ケイ素、及び窒化ベリリウムからなる群から選択される少なくとも一種で構成されるのが好ましく、より好ましくは二酸化ケイ素又は窒化ベリリウムで構成され、さらに好ましくは窒化ベリリウムで構成される。もっとも、保護層14がこれら化合物でのみからなる必要はなく、保護層14の99重量%以上、好ましくは99.5重量%以上、さらに好ましくは99.8重量%以上がこれら化合物で構成されていればよい。なお、本明細書において「窒化ベリリウム」なる用語は、Beのような化学量論組成のみならず、Be2-x(式中0<x<2である)のような非化学量論組成も許容する包括的な組成を意味するものとする。同様のことは、フッ化カルシウム、二酸化ケイ素等の他の化合物名にも当てはまる。
【0021】
保護層14の厚さは、5nm以下であるのが好ましく、より好ましくは3nm以下である。保護層14の厚さの下限値は特に限定されないが、典型的には0.3nm以上、より典型的には0.5nm以上である。保護層14の厚さが5nm以下であることでEUV透過率を高くすることができ、保護層14の厚さが0.3nm以上であることで酸化防止機能等の保護層としての基本的機能を維持することができる。
【0022】
上述したとおり、主層12は、Be、Si及びBCからなる群から選択される少なくとも一種を主成分として含むのが好ましい一方で、保護層14は、フッ化カルシウム、二酸化ケイ素、及び窒化ベリリウムからなる群から選択される少なくとも一種で構成されるのが好ましい。すなわち、主層12は金属又は半金属(特に金属)で構成されるのが好ましく、保護層14は、非金属で構成されるのが好ましい。ここで、物質は非金属である誘電体(絶縁体)と、金属である非誘電体(=導電体)に分かれるが、どちらも厚さが変化するとIR放射率が変化する。とりわけ、100nmよりも薄い膜になると、その変化が顕著に表れる。具体的には、誘電体はその厚さの低減に伴いIR放射率も低減するが、非誘電体はその厚さの低減に伴い急激にIR放射率が増大する特徴がある。そこで、好ましくは、EUV透過率が高い金属である非誘電体からなる主層12と、EUV透過率が高い非金属である誘電体からなる保護層14を組み合わせることで、主層12と保護層14のいずれもが高いEUV透過率を呈しながらも、主層12はIR放射率が高く、保護層14はIR放射率が低いため、主層12から放射されたIR放射光は保護層14で吸収されることなく透過してEUV透過膜10から放射される。このようにして、より効果的にEUV透過率のみならずIR放射率も高いEUV透過膜とすることができる。
【0023】
ここで、主層12がBeを主成分として含む場合を考える。ベリリウムは金属であるため、薄ければ薄いほどIR放射率が高くなる。これに関し、様々な厚さにおけるBeのIR放射率を光学理論を用いて計算したところ、100nmの厚さで2.1%、50nmで2.9%、30nmで4.4%、20nmで6.2%になることが分かった。なお、この計算はBe層が理想的な鏡面状態の場合を想定しており、その場合のIR反射率は実際のBe層のIR反射率よりも高く仮定している。そのため、光学理論計算上のBe層のIR放射率は実際のBe層のIR放射率よりも低く計算されている。すなわち、実際のBe層は、上記計算結果よりもより高いIR放射率になる。一方で、理論計算によるとBe層のEUV透過率は100nmの厚さで86.7%、50nmで93.1%、30nmで95.8%、20nmで97.2%となる。すなわち、Beを主成分とする主層12は薄いほどEUV透過率が高く、IR放射率も高くなることが分かる。
【0024】
主層12は添加物を含むのが好ましい。これにより、主層12のIR放射率を更に高くさせることができる。EUV光をEUV透過膜10に照射した場合、添加物は伝導電子の散乱源となるため主層12のIR放射率が高くなると考えられる。但し、添加物自体のEUV透過率が低ければ、主層12のEUV透過率も低下することになるため、EUV透過率が高い添加物を選定することが好ましい。かかる観点から、添加物の構成元素は、主層12の主要構成元素の電気陰性度よりも0.3以上高い又は0.3以上低い電気陰性度を有するのが好ましく、より好ましくは0.33以上高い又は0.33以上低く、さらに好ましくは0.35以上高い又は0.35以上低い。添加物の構成元素の電気陰性度と主層12の主要構成元素の電気陰性度との差の上限値は特に限定されないが、典型的にはその差が1.2以下、より典型的には1.0以下である。このように、主層12の主成分(例えばBe)の電気陰性度と添加物の電気陰性度の差が大きいほど伝導電子の散乱能が大きくなる。ここで、主層12の「主要構成元素」とは、主層12に最も多く含まれる元素のことを意味し、例えば、主層12がBeを主成分として含む場合は主要構成元素はBeである。また、上述したようにEUV透過率と電気陰性度との組合せを考えると、添加物は、ルビジウム(Rb)、ストロンチウム(Sr)、イットリウム(Y)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、シリコン(Si)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、ホウ素(B)及び炭素(C)からなる群から選択される少なくとも一種の元素を含むのが好ましい。
【0025】
主層12がBeを主成分として含む場合、添加物の含有量が、主層12におけるBeの含有量に対して、5~40at%であるのが好ましく、より好ましくは10~35at%、さらに好ましくは15~30at%である。また、添加物の成分により効果は異なるが、主層12がSiを主成分として含む場合も同様に、添加物の含有量が、主層12におけるSiの含有量に対して、5~40at%であるのが好ましい。添加物の含有量が5at%より多いことで添加物による上述した利点を効果的に実現できる。添加物の含有量が40at%より少ないことでEUV透過膜10の機械的強度を維持して破損しにくくさせることができ、主層12のEUV透過率を高くすることができる。これらの添加物の含有量は、例えば、集束イオンビーム(FIB)による加工でEUV透過膜の断面を切り出して試料を調製し、それを透過電子顕微鏡(TEM)(日本電子株式会社製、JEM-2100F)により200kVの条件で観察し、EDS分析装置(日本電子株式会社製、JED-2300T)により加速電圧5keVの条件で、元素マッピングや点分析モードで元素分析することにより求めることができる。
【0026】
保護層14が窒化ベリリウムで構成される場合は、主層12に近づくにつれて窒素濃度が減少する窒素濃度傾斜領域を有するのが好ましい。すなわち、上述したとおり窒化ベリリウムの組成にはBeのような化学量論組成からBe2-x(式中0<x<2である)のような非化学量論組成まで包含しうるところ、保護層14を構成する窒化ベリリウムが、主層12に近づくにつれてベリリウムリッチの組成に近づく傾斜組成とするのが好ましい。こうすることで、保護層14(すなわち窒化ベリリウム層)と主層12(例えば金属ベリリウム層)との密着性を向上できるとともに、両層間の熱膨張差に起因する応力の発生を緩和することができる。すなわち、両層間の密着性を向上させて剥離を抑制したり、EUV光を吸収して高温になった場合の両層間の熱膨張緩和層として剥離しにくくしたりすることができる。窒素濃度傾斜領域の厚さは、保護層14の厚さよりも小さいのが好ましい。すなわち、保護層14の厚さの全域が窒素濃度傾斜領域である必要はない。例えば、保護層14の厚さの一部のみ、例えば、保護層14の厚さのうち好ましくは10~70%の領域、より好ましくは15~50%の領域が窒素濃度傾斜領域であるのが好ましい。
【0027】
EUV透過膜10は、EUVを透過するための主要領域が自立膜の形態であるのが好ましい。すなわち、EUV透過膜10の外縁部にのみ、成膜時に用いた基板(例えばSi基板)がボーダー(border)として残存しているのが好ましい、つまり、外縁部以外の主要領域には基板(例えばSi基板)が残存していない、すなわち主要領域は主層12及び保護層14のみで構成されるのが好ましい。
【0028】
製造方法
本発明によるEUV透過膜は、Si基板上にEUV透過膜とすべき積層膜を形成した後、Si基板の不要部分をエッチングで除去して自立膜化することにより作製することができる。したがって、前述のとおり、EUV透過膜の主要部分はSi基板が残存していない自立膜の形態となっている。
【0029】
(1)Si基板の準備
まず、その上に積層膜を形成するためのSi基板を準備する。Si基板は、その上に主層12と保護層14からなる積層膜を形成した後に、その外縁部以外の主要領域(すなわち自立膜とすべき領域)がエッチングにより除去されることになる。したがって、エッチングを効率良く短時間で行うため、予め自立膜とすべき領域のSi基板の厚さを薄くしておくことが望ましい。そのため、通常の半導体プロセスを用いて、Si基板にEUV透過形状に対応したマスクを形成し、ウェットエッチングによりSi基板をエッチングして、Si基板の主要領域の厚さを所定厚さまで薄くすることが望まれる。ウェットエッチングを経たSi基板を洗浄及び乾燥することで、ウェットエッチングにより形成したキャビティを有するSi基板を準備する。なお、ウェットエッチングマスクとしては、Siのウェットエッチング液に対して耐食性を有する材質であればよく、例えばSiOが好適に使用される。また、ウェットエッチング液としては、Siをエッチング可能なものであれば特に限定されない。例えば、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)を適切な条件で使用すれば、Siに対する異方性エッチングで非常に良好なエッチングができるため好ましい。
【0030】
(2)積層膜の形成
積層膜の形成は、いかなる成膜手法により行われてもよい。好ましい成膜手法の一例としては、スパッタリング法が挙げられる。窒化ベリリウム/ベリリウム/窒化ベリリウムの3層構造を作製する場合、主層12としてのベリリウム膜は、純Beターゲットを用いたスパッタリングにより作製し、保護層14としての窒化ベリリウム膜は、反応性スパッタリングにより行うのが好ましい。この反応性スパッタリングは、例えば、純Beターゲットを用いたスパッタリング中に、チャンバー内に窒素ガスを入れることで、ベリリウムと窒素が反応して窒化ベリリウムを生成することにより行うことができる。また、別の手法として、窒化ベリリウムの作製は、ベリリウム膜を形成した後、窒素プラズマを照射することでベリリウムを窒化反応させて窒化ベリリウムを生成させることにより行うこともできる。いずれにしても、窒化ベリリウムの合成手法はこれらに限定されるものではない。なお、窒化ベリリウム膜形成用のベリリウムターゲットと、ベリリウム膜形成用のベリリウムターゲットは、別々のものを用いるのが好ましいが、窒化ベリリウム膜形成とベリリウム膜形成で同一のターゲットを用いることも可能である。なお、窒化ベリリウム膜とベリリウム膜は後述する実施例のように1つのチャンバーのスパッタリング装置で形成してもよいし、2チャンバーのスパッタリング装置を用いて窒化ベリリウム膜とベリリウム膜を別々のチャンバー内で形成してもよい。
【0031】
保護層14としての窒化ベリリウム膜に窒素濃度傾斜領域を形成する場合、窒化ベリリウムの成膜から金属ベリリウムの成膜を行うに際して、スパッタリングを継続して行いながら、途中から窒素ガスの導入を止めて金属ベリリウムの成膜に切り替えればよい。こうすることで、窒素ガスの濃度の低下に伴い、成膜される膜中の窒素濃度が厚さ方向に減少する領域が形成される。一方、金属ベリリウムから窒化ベリリウムに切り替える場合は、上記とは逆に、スパッタリングを継続して行いながら、途中から窒素ガスの導入を始めれば、窒素濃度傾斜領域を形成することができる。窒素濃度傾斜領域の厚さは、窒素ガス濃度を変化させる時間を調整することにより制御することができる。
【0032】
このようにして保護層/主層/保護層の3層構造の積層膜を作製することができるところ、主層に添加物を含有させる場合は、その添加方法は、添加物が主層中に均一な濃度で混合される限り特に限定されない。主層への添加物の添加方法の例としては、
(i)予め主層材料に所定量の添加物を均一に分散させたターゲットを用いてスパッタリングにより成膜する方法、
(ii)主層材料及び添加物のそれぞれのスパッタ率と添加量に基づき、主層材料と添加物が狙いの割合で同時に成膜されるようにターゲット面積を補正した2種類のターゲットをスパッタリング装置内に並べ、同時にスパッタリングにより成膜する方法、
(iii)主層材料と添加物をそれぞれ(例えばサブnmオーダーの厚さの)極薄膜として交互に成膜する方法
等が挙げられる。なお、上記(iii)の交互成膜法の場合、主層材料の間に薄い添加物層が挟まれた積層構造となるように思われるかもしれないが、スパッタリングのエネルギーが大きくなるように条件設定をすることで、成膜した材料はある程度の深さまで侵入するため、添加物Siがベリリウム層の中にまで到達した状態となる。特に、成膜時の各層の厚さを薄く制御することで、主層は多層状態ではなく均一な混合状態となる。
【0033】
(3)自立膜化
複合膜を形成したSi基板の、ボーダー(border)として残す外縁部以外のSi基板の不要部分をエッチングで除去して、複合膜の自立膜化を行う。Siのエッチングは、いかなる手法により行われてもよいが、XeFを用いたエッチングにより好ましく行うことができる。
【実施例
【0034】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0035】
例1
図2A及び2Bに示される手順に従い、窒化ベリリウム/ベリリウム/窒化ベリリウムの3層構造の複合自立膜(EUV透過膜)を以下のようにして作製した。
【0036】
(1)Si基板の準備
直径8インチ(20.32cm)のSiウェハ20を用意した(図2A(a))。このSiウェハ20の両面に、熱酸化によりSiO膜22を50nm厚さで形成した(図2A(b))。Siウェハ20の両面にレジストを塗布し、片面に110mm×145mmのレジストの穴ができるように、露光及び現像を行いSiOエッチング用のレジストマスク24を形成した(図2A(c))。この基板の一方の面をフッ酸でウェットエッチングすることにより、SiO膜22の露出部分をエッチング除去してSiOマスク22aを作製した(図2A(d))。SiOエッチングのためのレジストマスク24をアッシング装置で除去した(図2A(e))。その後、TMAH液によりSiをエッチングした。このエッチングは、事前にエッチングレートを測定しておき、狙いとするSi基板厚50μmとするためのエッチング時間だけ実施した(図2A(f))。最後にSiエッチングしていない面に形成してあるSiO膜22をフッ酸により除去及び洗浄して、Si基板28を準備した(図2B(g))。Si基板外形は必要に応じてレーザー30でダイシングして(図2B(h))、所望の形状としてもよい(図2B(i))。こうして、8インチ(20.32cm)Siウェハ20の中央に110mm×145mmのキャビティ26を設け、キャビティ26部分のSi厚さが50μmであるSi基板28を準備した。
【0037】
(2)複合膜の形成
上記(1)で得られたキャビティ26を備えたSi基板28に、窒化ベリリウム/ベリリウム/窒化ベリリウムの3層構造の複合膜を以下のようにして形成した(図2B(i))。まず、スパッタリング装置にSi基板28をセットし、純Beターゲットを取り付けた。チャンバー内を真空引きし、内圧0.5Paで、アルゴンガスと窒素ガス流量比が1:1となるよう調整し反応性スパッタリングを行い、窒化ベリリウムが2nm成膜する時間を見計らって反応性スパッタリングを終了した。次いで、窒素ガスを導入しないで、アルゴンガスのみでスパッタリングを行い、ベリリウムが30nm成膜する時間を見計らってスパッタリングを終了した。その後、最初と同様に再度窒素ガスを導入しつつ、反応性スパッタリングを行い、窒化ベリリウムが2nm成膜する時間を見計らって反応性スパッタリングを終了した。このようにして、窒化ベリリウム2nm/ベリリウム30nm/窒化ベリリウム2nmの複合膜をEUV透過膜10として形成した。
【0038】
(3)自立膜化
8インチ(20.32cm)基板を処理可能なXeFエッチャーのチャンバー内に、上記(2)で準備した複合膜付きのSi基板28をセットした。チャンバー内を十分真空引きした。このとき、チャンバー内に水分が残留していると、XeFガスと反応してフッ酸を生じ、エッチャーの腐食や想定外のエッチングが起きてしまうため、十分な真空引きを行った。必要に応じて、チャンバー内を、真空引きと窒素ガス導入を繰り返し、残留水分を減らした。十分に真空引きが出来たところで、XeF原料ボンベと予備室の間のバルブを開いた。その結果、XeFが昇華して予備室内にもXeFガスが蓄積された。十分に予備室内にXeFガスが蓄積されたところで、予備室とチャンバーの間のバルブを開き、XeFガスをチャンバー内に導入した。XeFガスはXeとFに分解し、FはSiと反応してSiFを生成した。SiFの沸点は-95℃であるため、生成したSiFは速やかに蒸発し、新たに露出したSi基板とFの反応が引き起こされた。Siエッチングが進行し、チャンバー内のFが減少したところで、チャンバー内を真空引きし、再度XeFガスをチャンバー内に導入しエッチングを行った。このようにして、真空引き、XeFガス導入、及びエッチングを繰り返して、自立膜化させる部分に対応するSi基板28が消失するまでエッチングを続けた。不要部分のSi基板が無くなったところでエッチングを終了した。こうして、Si製ボーダー(border)を有する複合自立膜をEUV透過膜10として得た(図2B(j))。
【0039】
(4)IR特性
得られたEUV透過膜に対して、FT-IR分光光度計を用いて波長2μmにおけるIR透過率及びIR反射率を測定し、透過率+反射率+吸収率=1の関係式から波長2μmにおけるIR吸収率を求めた。吸収率=放射率であることから波長2μmにおけるIR放射率を求めた。また、保護層材料のIR特性については、IR特性が既知のフッ化カルシウム基板上に、保護層材料だけを上記(2)と同じプロセスを用いて成膜してから測定を行い、得られたデータからフッ化カルシウム基板の影響(IR特性)を差し引くことで求めた。主層材料のIR特性についても、保護層材料のIR特性を求めた方法と同様にして求めた。こうして、主層における波長2μmにおけるIR放射率、及び保護層における波長2μmにおけるIR透過率を求めた。結果は表1に示されるとおりであった。
【0040】
(5)EUV透過率
得られたEUV透過膜に波長13.5nmのEUV光を照射して、透過したEUV光量をセンサーで測定した。得られた測定値と、EUV透過膜無しで直接のEUV光量をセンサーで測定した値との比較から、EUV透過率を求めた。結果は表1に示されるとおりであった。
【0041】
例2
複合膜の形成を以下のとおり行うことで、主層に添加物としてSiを含有させたこと以外は、例1と同様にして複合自立膜を作製及び評価した。結果は表1に示されるとおりであった。
【0042】
(複合膜の形成)
上記(1)で得られたキャビティ26を備えたSi基板28に、窒化ベリリウム/Si含有ベリリウム/窒化ベリリウムの3層構造の複合膜を以下のようにして形成した(図2B(i))。まず、マルチターゲットスパッタリング装置にSi基板28をセットし、純Beターゲット及びSiターゲットを取り付けた。チャンバー内を真空引きし、内圧0.5Paで、アルゴンガスと窒素ガス流量比が1:1となるよう調整しBeターゲットを用いた反応性スパッタリングを行い、窒化ベリリウムが2nm成膜する時間を見計らって反応性スパッタリングを終了した。
【0043】
次いで、窒素ガスを導入しないで、内圧0.5Pa、アルゴンガスのみでBeターゲットとSiターゲットを交互に用いてスパッタリングを行い、サブnmオーダーの厚さでベリリウムとSiを交互に成膜することで、窒化ベリリウム膜上に主層(Si含有ベリリウム膜)を形成した。BeスパッタリングとSiスパッタリングの切り替えは、スパッタリング装置内での純BeターゲットとSiターゲットのシャッターの開閉により行った。このとき、Si添加量が主層におけるBeの含有量に対して10at%となるように、ベリリウムとSiそれぞれの成膜密度とスパッタ率から、ベリリウムとSiの成膜時間比を計算し、ベリリウムとSiそれぞれがサブnmオーダーの厚さとなるような時間で交互に成膜した。具体的には、Beを厚さ0.16nm、Siを厚さ0.04nmで交互に成膜して、厚さ30nmの主層を形成した。このようにして、ベリリウムを主成分とし、添加物Siを含む主層を形成した。なお、本例においては、スパッタのエネルギーが大きくなるように条件設定をしており、成膜した材料はある程度の深さまで侵入するため、添加物Siがベリリウム層の中にまで到達した状態となる。特に、成膜時の各層の厚さを薄く制御することで、主層は多層状態ではなく均一な混合状態となる。
【0044】
その後、スパッタリング装置内で純Beターゲットを用いて、最初と同様に再度窒素ガスを導入しつつ、反応性スパッタリングを行い、窒化ベリリウムが2nm成膜する時間を見計らって反応性スパッタリングを終了した。このようにして、窒化ベリリウム2nm/Si含有ベリリウム30nm/窒化ベリリウム2nmの複合膜をEUV透過膜10として形成した。
【0045】
例3
Si含有量が主層におけるBe含有量に対して20at%となるように、Beを厚さ0.12nm、Siを厚さ0.08nmで交互に成膜して厚さ30nmの主層としたこと以外は例2と同様にして、複合自立膜を作製及び評価した。結果は表1に示されるとおりであった。
【0046】
例4
Si含有量が主層におけるBe含有量に対して40at%となるように、Beを厚さ0.08nm、Siを厚さ0.12nmで交互に成膜して厚さ30nmの主層としたこと以外は例2と同様にして、複合自立膜を作製及び評価した。結果は表1に示されるとおりであった。
【0047】
例5(比較)
比較のため、特許文献3(特表2017-522590号公報)に開示されるペリクルが参照される。このペリクルは、主層が厚さ22nmのSi層であり、保護層が厚さ2nmのRu層である。このペリクルにおいて、同文献の図12(IR光の波長を横軸、ペリクルのIR吸収度を縦軸としたグラフ)から、波長2μmにおけるIR吸収度(=吸収率=放射率)が35%(理論値は20%)であることが読み取れた。このペリクルのEUV透過率の理論値を計算したところ、78.8%であった。この結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
例1~4におけるEUV透過膜は、EUV透過率及びIR放射率が高くなった。特に、波長2μmのIR光に関して、主層にSiを含まないEUV透過膜(例1)のIR放射率は17.5%であったのに対し、主層中のSi含有量が10、20及び40at%のEUV透過膜(例2、3及び4)ではIR放射率はそれぞれ21.8%、20.8%及び19.7%といずれも高くなった。
図1
図2A
図2B