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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】スラスト軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/76 20060101AFI20240605BHJP
   F16C 19/16 20060101ALI20240605BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20240605BHJP
   F16J 15/3256 20160101ALI20240605BHJP
【FI】
F16C33/76 Z
F16C19/16
F16J15/3232 201
F16J15/3256
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023518595
(86)(22)【出願日】2021-05-07
(86)【国際出願番号】 JP2021017558
(87)【国際公開番号】W WO2022234667
(87)【国際公開日】2022-11-10
【審査請求日】2023-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000211695
【氏名又は名称】中西金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢野 広
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 充
(72)【発明者】
【氏名】柴田 康平
【審査官】鈴木 貴晴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/119320(WO,A1)
【文献】特開平7-332378(JP,A)
【文献】特開平7-77220(JP,A)
【文献】特開昭58-124825(JP,A)
【文献】実開昭62-179424(JP,U)
【文献】実開昭62-134922(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56,
33/00-33/82
F16J 15/00-15/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の第1軌道輪と、
前記第1軌道輪に軸方向に対向する環状の第2軌道輪と、
前記第1軌道輪及び前記第2軌道輪の間に転動可能に配置された複数の転動体と、
前記第2軌道輪に設けられ、前記転動体よりも径方向外側において前記第1軌道輪と前記第2軌道輪との間の空間を封止する外側シールと、
前記外側シールを径方向外側から覆うカバーと、を備え、
前記カバーが、前記第2軌道輪が組み付けられる第2の取付部材側である軸方向他方側から、前記第1軌道輪が組み付けられる第1の取付部材側である軸方向一方側へ延び、かつ前記外側シールの径方向外側に重ねられた第1の円筒部と、前記第1の円筒部の軸方向一方側端部から前記第1の取付部材に向けて延びる延伸部と、を有しており、
前記延伸部は、前記第1の円筒部の軸方向一方側端部に接続し、前記軸方向に対して垂直な径方向の外側へ延びる第1の環状部を有している、スラスト軸受。
【請求項2】
前記カバーが、
前記外側シールの外周面に接触し前記外側シールを径方向外側から押さえる支持部を有している、請求項1に記載のスラスト軸受。
【請求項3】
前記延伸部と、前記外側シールと、前記取付部材との間に空間が形成されている、請求項1又は2に記載のスラスト軸受。
【請求項4】
前記延伸部は、さらに前記第1の環状部の径方向外側端部に接続し、軸方向一方側へ延びる第2の円筒部と、前記第2の円筒部の軸方向一方側端部に接続し、径方向外側に延びる第2の環状部と、を有している、請求項1、2、及びのいずれか1項に記載のスラスト軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スラスト軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
ストラット式サスペンションにおいて、コイルスプリングを受けるアッパスプリングシートと、ストラットの上端部を支持するアッパサポートとの間には、スラスト軸受が設けられている(例えば、特許文献1参照)。例えば図4に示すように、このスラスト軸受120は、軸方向に対向する第1軌道輪121及び第2軌道輪122と、第1軌道輪121と第2軌道輪122との間に配置された複数のボール123と、複数のボール123を保持する保持器124とを有する。第2軌道輪122には、内側シール131と外側シール132とが一体的に設けられ、この内側シール131と外側シール132とがそれぞれアッパスプリングシート114に接触している。この内側シール131及び外側シール132は、第1軌道輪121と第2軌道輪122との間の空間を密封し、当該空間内への泥水等の水及び異物の浸入を抑制している。
【0003】
図5は、スラスト軸受の組立工程を示す説明図である。スラスト軸受を組み立てる場合、ボール123及び保持器124をセットした第1軌道輪121に対して、上方から矢印A方向へ第2軌道輪122を接近させて組み付ける。この組立工程において、外側シール132のリップ132cは、第1軌道輪121の径方向外端部Pに接触したときに矢印B方向へ弾性変形して反転し、その後、第1軌道輪121の径方向外端部Pを通過することによって矢印B方向とは反対側へ弾性復帰し、第1軌道輪121の外周面に接触する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-17255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
外側シール132は、第1軌道輪121の外周面に対してリップ132cが接触する力(緊迫力)が大きいほどシール性能が高くなり、泥水等の浸入防止効果を向上させることができる。しかし、リップ132cの緊迫力を大きくするために、外側シール132の剛性を高めると、スラスト軸受の組立時にリップ132cが矢印B方向とは反対側へ弾性復帰せずに反転したままになり、組立不良が生じる可能性が高くなる。そのため、外側シール132の剛性をそれほど高めることができず、泥水等の浸入防止効果を向上させるにも限界がある。
【0006】
本開示は、以上の実情に鑑み、スラスト軸受の内部への泥水等の浸入防止効果を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係るスラスト軸受は、
環状の第1軌道輪と、
前記第1軌道輪に軸方向に対向する環状の第2軌道輪と、
前記第1軌道輪及び前記第2軌道輪の間に転動可能に配置された複数の転動体と、
前記第2軌道輪に設けられ、前記第1軌道輪及び前記第2軌道輪の外周部側における両者の間の空間を封止する外側シールと、
前記外側シールを径方向外側から覆うカバーと、を備えている。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、スラスト軸受の内部への泥水等の浸入防止効果を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係るスラスト軸受を適用したストラット式サスペンションの断面図である。
図2】スラスト軸受の断面図である。
図3】第2実施形態に係るスラスト軸受の断面図である。
図4】従来のスラスト軸受の断面図である。
図5】スラスト軸受の組立工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<本開示の実施形態の概要>
以下、本開示の実施形態の概要を列記して説明する。
【0011】
(1)本実施形態のスラスト軸受は、環状の第1軌道輪と、前記第1軌道輪に軸方向に対向する環状の第2軌道輪と、前記第1軌道輪及び前記第2軌道輪の間に転動可能に配置された複数の転動体と、前記第2軌道輪に設けられ、前記第1軌道輪及び前記第2軌道輪の外周部側における両者の間の空間を封止する外側シールと、前記外側シールを径方向外側から覆うカバーと、を備えている。
【0012】
この構成によれば、カバーによって外側シールに泥水等が到達するのを抑制することができる。したがって、外側シールの剛性を高めなくても、泥水等の浸入防止効果を高めることができる。
【0013】
(2)本実施形態のスラスト軸受において、前記カバーは、前記外側シールの外周面に接し前記外側シールを径方向外側から押さえる支持部を有している。
【0014】
この構成によれば、カバーを利用して外側シールが径方向外側へ弾性変形するのを抑制し、外側シールの第1軌道輪に対する緊迫力を高めることができる。
【0015】
(3)本実施形態のスラスト軸受において、前記カバーは、前記第2軌道輪側から、前記第1軌道輪が組み付けられる取付部材に向けて延びる延伸部を有している。
【0016】
このような構成によって、外側シールに泥水等が到達するのを効果的に抑制することができる。
【0017】
(4)本実施形態のスラスト軸受において、前記延伸部と、前記外側シールと、前記取付部材との間に空間が形成されている。
【0018】
このような構成によって、外側シールと延伸部との間に泥水等が入り込んだとしても空間内で泥水等を移動させることができ、外側シールと延伸部との間で泥水等が詰まるのを抑制することができる。
【0019】
<本開示の実施形態の詳細>
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態の詳細を説明する。なお、以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0020】
[第1実施形態]
[ストラット式サスペンションの構成]
図1は、第1実施形態に係るスラスト軸受を適用したストラット式サスペンションの断面図である。
ストラット式サスペンション10は、ストラット11、アッパサポート12、コイルスプリング13、アッパスプリングシート14、スラスト軸受20等を有する。
【0021】
ストラット11は、ショックアブソーバを内装し、作動液の粘性抵抗によって減衰力を発生させる。アッパサポート12は、車両の車体15に取り付けられ、ストラット11の上端部を支持している。コイルスプリング13は、ストラット11の外周に配置され、路面からの衝撃を吸収する。アッパスプリングシート14は、コイルスプリング13の上端を受けて支持している。コイルスプリング13の下端は、ストラット11の下部側に設けられた図示しないロアスプリングシートで支持される。
【0022】
[スラスト軸受の構成]
図2は、スラスト軸受の断面図である。
スラスト軸受20は、第1軌道輪21、第2軌道輪22、複数の転動体23、保持器24、シール25、及びカバー26を有する。なお、図1に示すように、スラスト軸受20の軸心は、車輪の操舵中心軸であるキングピン軸Cに一致している。キングピン軸Cは、鉛直方向に対して傾斜し、同様にスラスト軸受20の軸心も鉛直方向に対して傾斜している。以下、スラスト軸受20の軸心に対しても、キングピン軸と同一の符号「C」を付す。また、以下の説明において、スラスト軸受20の軸心Cに直交する方向を径方向という。
【0023】
(第1軌道輪21)
第1軌道輪21は、アッパスプリングシート14の上面側に取り付けられている。したがって、アッパスプリングシート14は、第1軌道輪21の取付部材を構成している。第1軌道輪21は、ステンレス鋼板等の板金をプレス加工することにより環状に形成されている。
【0024】
第1軌道輪21は、転動体23の軌道を構成する第1軌道部21aを有する。第1軌道部21aは、断面形状が転動体23であるボールの外周面に略沿って円弧状に湾曲している。第1軌道部21aは、スラスト軸受20の軸心Cに対して傾斜する接触角をもって転動体23に接触している。
【0025】
第1軌道輪21は、さらに第1環状部21bと、第1円筒部21cとを有する。第1環状部21bは、軸心C(図1参照)に直交する方向に沿う平坦な面(上面及び下面)を有する円環状に形成され、第1軌道部21aの内周部から径方向内側に延びている。第1円筒部21cは、軸心Cを中心とする外周面及び内周面を有する円筒形状に形成され、第1環状部21bの内周部から軸方向一方側(下側)へ屈曲して延びている。
【0026】
なお、第1軌道輪21が取り付けられるアッパスプリングシート14は、第4環状部14a、第1傾斜部14b、及び第5環状部14cを有する。第4環状部14aは、軸心Cに直交する方向に沿う平坦な面(上面及び下面)を有する円環状に形成され、第1軌道輪21の第1環状部21bの下側に重ねられている。
【0027】
第1傾斜部14bは、軸心Cに対して傾斜する外周面及び内周面を有する円すい形状に形成され、第4環状部14aの外周部から径方向外側且つ下側へ斜めに延びている。第5環状部14cは、軸心Cに直交する方向に沿う平坦な面(上面及び下面)を有する円環状に形成され、第1傾斜部14bの外周部から径方向外側へ延びている。
【0028】
アッパスプリングシート14において、第1傾斜部14bは省略されていてもよく、この場合、第4環状部14aが、さらに径方向外側へ延長され、この第4環状部14aに後述する第1外側リップ32bが接触するとともに、この第4環状部14aと後述するカバー26の先端(第7環状部26e)との間に隙間tが形成される。
【0029】
アッパスプリングシート14は、さらに第4円筒部14d、第2傾斜部14e、及び第5円筒部14fを有する。第4円筒部14dは、軸心Cを中心とする外周面及び内周面を有する円筒形状に形成され、第4環状部14aの内周部から軸方向一方側(下側)へ屈曲して延びている。
【0030】
第2傾斜部14eは、軸心Cに対して傾斜する外周面及び内周面を有する円すい形状に形成され、第4円筒部14dの下端部から軸方向一方側且つ径方向内側へ斜めに延びている。第5円筒部14fは、軸心Cを中心とする外周面及び内周面を有する円筒形状に形成され、第2傾斜部14eの下端部から軸方向一方側へ延びている。第4円筒部14dの内周面には、第1軌道輪21の第1円筒部21cが嵌合されている。
【0031】
アッパスプリングシート14において、第2傾斜部14eは省略されていてもよく、この場合、第4円筒部14dがさらに軸方向一方側へ延長され、この第4円筒部14dに後述する内側シール31の内側リップ31bが接触することになる。
【0032】
(第2軌道輪)
第2軌道輪22は、アッパサポート12の下面側に取り付けられている。第2軌道輪22は、ステンレス鋼板等の板金をプレス加工することにより環状に形成されている。第2軌道輪22と第1軌道輪21とは軸方向に対向して配置されている。第2軌道輪22は、転動体23の軌道を構成する第2軌道部22aを有する。第2軌道部22aは、断面形状が転動体23の外周面に略沿って円弧状に湾曲している。第2軌道部22aは、スラスト軸受20の軸心Cに対して傾斜する接触角をもって転動体23に接触している。
【0033】
本実施形態の第1軌道輪21及び第2軌道輪22は、転動体23に対して接触角をもって接触しているので、スラスト軸受20は、アキシアル方向の負荷だけでなくラジアル方向の負荷をも受ける用途で使用することができる。ただし、第1軌道輪21及び第2軌道輪22は、転動体23に対して接触角をもたずに接触していてもよく、スラスト軸受20は、アキシアル方向の負荷のみを受ける用途で使用されてもよい。
【0034】
第2軌道輪22は、さらに第2環状部22b、第2円筒部22c、第3環状部22d、及び第3円筒部22eを有する。
第2環状部22bは、軸心C(図1参照)に直交する方向に沿う平坦な面(上面及び下面)を有する円環状に形成され、第2軌道部22aの内周部から径方向内側へ延びている。第2円筒部22cは、軸心Cを中心とする外周面及び内周面を有する円筒形状に形成され、第2環状部22bの内周部から軸方向一方側(下側)へ延びている。第2円筒部22cは、第1円筒部21cの径方向内側に間隔をあけて配置されている。
【0035】
第3環状部22dは、軸心Cに直交する方向に沿う平坦な面(上面及び下面)を有する円環状に形成され、第2軌道部22aの外周部から径方向外側へ延びている。第3円筒部22eは、軸心Cを中心とする外周面及び内周面を有する円筒形状に形成され、第3環状部22dの外周部から軸方向一方側(下側)へ延びている。
【0036】
(シール)
シール25は、第1軌道輪21と第2軌道輪22との間に形成される空間を密封する。この空間にはグリース等の潤滑剤が封入される。シール25は、第2軌道輪22に加硫接着されたゴム等の弾性体によって構成されている。第2軌道輪22は、シール25の芯金としても機能している。
【0037】
弾性体に使用するゴム材料としては、耐油性の良好なゴム素材として、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、アクリルゴム(ACM)、エチレン・アクリルゴム(AEM)、フッ素ゴム(FKM、FPM)、シリコーンゴム(VQM)等のゴムから、1種、あるいは2種以上のゴムを適当にブレンドして使用することができる。
【0038】
また、ゴム材料の練り加工性、加硫成形性、芯金である第2軌道輪22との接着性を考慮した場合、他種のゴム、例えば、液状NBR、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)等とブレンドして使用することも好ましい使用態様である。
【0039】
シール25は、内側シール31と、外側シール32と、被覆部33とを有する。内側シール31は、転動体23よりも径方向内側において第1軌道輪21と第2軌道輪22との間の空間を封止する。内側シール31は、第2軌道輪22の第2円筒部22cの下端部に設けられている。内側シール31は、第2円筒部22cの下端から下方に延びる基部31aと、基部31aからさらに下方に延びる内側リップ31bとを有する。
【0040】
内側リップ31bは、アッパスプリングシート14に接触する。具体的に、内側リップ31bは、第2傾斜部14eに接触する。なお、図2においては、アッパスプリングシート14に接触していない自由状態(無負荷状態)の内側リップ31bを2点鎖線で示し、アッパスプリングシート14に接触することで自由状態から弾性変形した内側リップ31bを実線で示している。内側シール31は、基部31aから径方向外側へ突出する突条部31cをさらに有している。突条部31cの先端と、アッパスプリングシート14の第4円筒部14dとの間には隙間が形成されている。
【0041】
外側シール32は、転動体23よりも径方向外側において第1軌道輪21と第2軌道輪22との間の空間を封止する。外側シール32は、第2軌道輪22の第3円筒部22eの下端部に設けられている。外側シール32は、基部32aと、第1外側リップ32bと、第2外側リップ32cとを有する。
【0042】
基部32aは、第2軌道輪22の第3円筒部22eの下端から下方に延びている。
第1外側リップ32bは、基部32aの下端部からさらに下方に延びている。第1外側リップ32bは、アッパスプリングシート14に接触する。具体的に、第1外側リップ32bは、アッパスプリングシート14の第1傾斜部14bに接触する。
【0043】
第2外側リップ32cは、基部32aの下端部から径方向内側へ延びている。第2外側リップ32cは、第1軌道輪21に接触する。具体的に、第2外側リップ32cは、第1軌道輪21の第1軌道部21aの外面に接触する。
【0044】
なお、図2においては、自由状態の第1、第2外側リップ32b、32cを2点鎖線で示し、アッパスプリングシート14又は第1軌道輪21に接触することで自由状態から弾性変形した第1、第2外側リップ32b、32cを実線で示している。
【0045】
被覆部33は、第2軌道輪22の表面を被覆するとともに、内側シール31と外側シール32とを接続している。具体的に、被覆部33は、第2軌道輪22における第2円筒部22cの外周面及び内周面、第2環状部22b、第2軌道部22a、及び第3環状部22dの上面、並びに、第3円筒部22eの内周面及び外周面を被覆している。
【0046】
(カバー)
カバー26は、第2軌道輪22に取り付けられ、外側シール32を径方向外側から覆っている。カバー26は、ステンレス鋼板等の板金をプレス加工することによって形成される。カバー26は、第6環状部26a、湾曲部26b、第6円筒部26c、第3傾斜部26d、第7環状部26eを有する。
【0047】
第6環状部26aは、第2軌道輪22の第3環状部22dの軸方向他方側(上側)、実質的には第3環状部22dを覆うシール25の被覆部33の軸方向他方側(上側)に重ねられている。
【0048】
湾曲部26bは、第6環状部26aの外周部から軸方向一方側(下側)へ向けて円弧状に湾曲している。湾曲部26bは、第2軌道輪22における第3環状部22dと第3円筒部22eとの境界部分の外周面、実質的には当該外周面を覆う被覆部33の外周面に重ねられている。
【0049】
第6円筒部26cは、湾曲部26bの軸方向一方側(下側)の端部から同方向に延びている。第6円筒部26cは、第2軌道輪22の第3円筒部22eの外周面、実質的には第3円筒部22eを覆うシール25の被覆部33の外周面に嵌合している。
【0050】
第6円筒部26cは、第3円筒部22eよりもさらに軸方向一方側(下側)に延び、外側シール32の基部32aの外周面に接触している。第6円筒部26cのうち、外側シール32の基部32aの外周面に接触する部分26c1は、当該基部32aを径方向外側から押さえて支持する「支持部」を構成している。
【0051】
第3傾斜部26dは、第6円筒部26cの軸方向一方側の端部からさらに軸方向一方側且つ径方向外側へ斜めに延びている。第3傾斜部26dは、直線状に延びており、実質的に円すい形状に形成されている。第3傾斜部26dは、第2軌道輪22側からアッパスプリングシート14側へ向けて延びる「延伸部」を構成している。なお、延伸部は、直線状に延びる形態に限らず、径方向外側又は径方向内側に膨らむように湾曲した形状であってもよい。なお、延伸部が径方向外側へ湾曲した例は、第2実施形態として後述する。
【0052】
外側シール32の第1外側リップ32bが2点鎖線で示す自由状態にあるとき、第3傾斜部26dと外側シール32との間隔Wが第2軌道輪22側からアッパスプリングシート14側(軸方向一方側)へ向けて徐々に拡がるように、第3傾斜部26dが形成されている。
【0053】
第3傾斜部26dと、外側シール32と、アッパスプリングシート14との間には、これらに囲まれた空間Sが形成されている。この空間Sは、ストラット式サスペンション10の使用時に、外側シール32が径方向外側に弾性変形したとしてもカバー26の第3傾斜部26dに接触しないような断面積を有している。
【0054】
カバー26の第7環状部26eは、第3傾斜部26dの外周部から径方向外側へ延びている。第7環状部26eは、アッパスプリングシート14の第5環状部14cと略平行に配置されている。第7環状部26eと第5環状部14cとの間には隙間tが形成されている。この隙間tは、好ましくは0.5mm~1.5mmに設定され、より好ましくは約1mmに設定されている。
【0055】
ただし、第7環状部26eと第5環状部14cとは接触していてもよい。また、第7環状部26eを省略し、延伸部26dと第5環状部14cの間に隙間tを形成するか、又は、延伸部26dと第5環状部14cとを接触させてもよい。
【0056】
カバー26は、被覆部33を介さずに第2軌道輪22の第3環状部22d及び第3円筒部22eに直接的に重ねられていてもよい。
【0057】
(第1実施形態の作用効果)
上記第1実施形態のスラスト軸受20は、環状の第1軌道輪21と、第1軌道輪21に軸方向に対向する第2軌道輪22と、第1軌道輪21及び第2軌道輪22の間に転動可能に配置された複数の転動体23と、第2軌道輪22に設けられ、転動体23よりも径方向外側において第1軌道輪21と前記第2軌道輪22との間の空間を封止する外側シール32と、外側シール32を径方向外側から覆うカバー26と、を備えている。このカバー26によって外側シール32に泥水等が到達するのを抑制することができる。そのため、外側シール32の剛性を高めることで第1軌道輪21に対する第2外側リップ32cの緊迫力を高めなくても、泥水等の水及び異物のスラスト軸受20の内部への浸入を防止する効果を高めることができる。また、泥水等の浸入防止効果を高めるために、外側シール32の剛性を高めなくてもよいため、例えば図5を参照して説明したように、第1軌道輪21(121)に第2軌道輪22(122)を組み付けるとき、外側シール32(132)の第2外側リップ32c(132c)が反転したままになる組立不良の発生を抑制することができる。
【0058】
上記第1実施形態のスラスト軸受20において、カバー26は、外側シール32の外周面に接触し外側シール32を径方向外側から押さえる支持部26c1を有している。そのため、外側シール32の剛性を高めなくても、外側シール32が径方向外側へ弾性変形するのを抑制し、第1軌道輪21に対する第2外側リップ32cの緊迫力を高め、泥水等の浸入防止効果をより高めることができる。また、スラスト軸受20を組立後に第2軌道輪22にカバー26を取り付けることで、第2外側リップ32cが反転したままになる組立不良の発生を抑制することができる。
【0059】
上記第1実施形態のスラスト軸受20において、カバー26は、第1軌道輪21側からアッパスプリングシート14に向けて延びる延伸部26dを有している。そのため、延伸部26dによって外部から跳ね上げられた泥水等を遮断し、外側シール32へ到達するのを効果的に抑制することができる。
【0060】
上記第1実施形態のスラスト軸受20において、延伸部26dと外側シール32とアッパスプリングシート14との間に空間Sが形成されている。仮にこの空間Sが無かったとすると、外側シール32と延伸部26dとの間に泥等の異物が詰まりやすくなり、第1外側リップ32bがアッパスプリングシート14に強く押さえつけられ、スラスト軸受20の回転抵抗が増大する可能性がある。上記実施形態では、外側シール32と延伸部26dとアッパスプリングシート14との間に空間Sが形成されているので、泥水等が入り込んだとしても空間S内で泥水等を移動させることができ、外側シール32と延伸部26dとの間に泥等が詰まるのを抑制することができる。
【0061】
カバー26は、延伸部26dの先端にアッパスプリングシート14と略平行に配置された第7環状部26eを有し、第7環状部26eとアッパスプリングシート14との間に隙間tが形成されている。このように延伸部26dからさらに径方向外側へ延びる第7環状部26eを備えることで、隙間tを径方向に長く形成することができ、外側シール32への泥水等の到達をより抑制することができる。また、第7環状部26eがアッパスプリングシート14と略平行で平坦な形状に形成されることによって、第7環状部26eとアッパスプリングシート14との隙間tが狭い状態で維持されるので、当該隙間tへの泥水の浸入がより抑制される。
【0062】
カバー26の第7環状部26eとアッパスプリングシート14との間に隙間tが形成されているので、カバー26内に泥水が浸入したとしても容易に排出することができる。特に、図1に示すように、スラスト軸受20の軸心Cが鉛直方向に対して傾斜している場合、仮に隙間tが無かったとすると、より低い位置となる車体内側において空間S内に泥水等が溜まってしまい、泥水等が外側シール32を通過して第1軌道輪21と第2軌道輪22との間に浸入する可能性が高くなる。したがって、上記隙間tを形成することがより有効となる。
【0063】
図2に示すように、空間Sにおける隙間tに繋がる部分は、隙間tよりも軸方向に断面積(及び容積)が拡大されている。そのため、隙間tから浸入した泥水等はより拡大された空間Sに入り、当該空間Sで移動しやすくなる。したがって、空間S内で泥等の異物が詰まるのをより抑制することができる。
【0064】
カバー26は、第2軌道輪22の第3環状部22d(実質的には第3環状部22dを覆う被覆部33)の上面に重ねられる第6環状部26aを有している。この第6環状部26aは、第2軌道輪22にカバー26を安定した姿勢で取り付けることを可能にする。カバー26が第6環状部26aを備えていない場合、第6円筒部26cのみ、又は、第6円筒部26c及び湾曲部26bでカバー26が第2軌道輪22に取り付けられることになる。第6円筒部26c及び湾曲部26bは、実質的にシール25の被覆部33に重ねられるが、この被覆部33は弾性体であるため、それほど厳密な寸法精度で形成されていない。そのため、被覆部33に重ねられたカバー26の姿勢が不安定となり、アッパスプリングシート14とカバー26との間の隙間tの寸法や空間Sの容積にバラツキが生じやすくなる。本実施形態では、カバー26が第6環状部26aを備え、この第6環状部26aが第2軌道輪22の(及びこれを覆う被覆部33)に重ねられているので、カバー26を安定した姿勢で第2軌道輪22に取り付けることができる。
【0065】
[第2実施形態]
図3は、第2実施形態に係るスラスト軸受の断面図である。
この第2実施形態に係るスラスト軸受は、カバー26の構造が第1実施形態と異なっている。具体的に、本実施形態のカバー26は、第1実施形態と略同様の第6環状部26a、湾曲部26b、第6円筒部26c、及び第7環状部26eを有するが、第1実施形態において第3傾斜部26dで例示される延伸部の形状が異なっている。
【0066】
本実施形態の延伸部26fは、第8環状部26f1、第2湾曲部26f2、及び第7円筒部26f3を有する。第8環状部26f1は、軸心C(図1参照)に直交する方向に沿う平坦な面(上面及び下面)を有する円環状に形成され、第6円筒部26cの軸方向一方側(下側)の端部から径方向外側へ延びている。
【0067】
第2湾曲部26f2は、第8環状部26f1の外周部から軸方向一方側(下側)へ向けて円弧状に湾曲している。第7円筒部26f3は、第2湾曲部26f2の軸方向一方側(下側)の端部から同方向に延びている。第7円筒部26f3の下端には、第7環状部26eが接続されている。
【0068】
(第2実施形態の作用効果)
上記第2実施形態によれば、図1に示すように、スラスト軸受20の軸心Cが鉛直方向に対して傾斜している場合、図3に矢印Dで示すように、アッパサポート12の下面を伝って流れる泥水は、カバー26の第6円筒部26cに沿って下方へ流れ、第6円筒部26cと第8環状部26f1との境界部分に溜まりやすくなる。そして、泥水は、軸心Cの傾斜により、第6円筒部26cと第8環状部26f1との境界部分を「樋」にして車体外側から車体内側へ向けて流れていく。そのため、アッパサポート12を伝って流れる泥水がカバー26とアッパスプリングシート14との隙間tに浸入するのをより抑制することができる。
【0069】
第2実施形態におけるその他の構成は、第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0070】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的ではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及びその範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0071】
以上に説明した第1、第2軌道輪及びアッパスプリングシート14の構成要素である環状部、円筒部、傾斜部等に付した「第1」、「第2」等の序数は、互いを区別するために付されたものであり、その数字自体に意味はない。そのため、当該序数を省略したり他の序数に読み替えたりしてもよい。
【符号の説明】
【0072】
14 :アッパスプリングシート(取付部材)
20 :スラスト軸受
21 :第1軌道輪
22 :第2軌道輪
23 :転動体
26 :カバー
26c1 :支持部
26d :延伸部
32 :外側シール
S :空間
図1
図2
図3
図4
図5