(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】異常タンパク質蓄積性神経変性疾患の治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/22 20060101AFI20240606BHJP
A61K 47/60 20170101ALI20240606BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240606BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20240606BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240606BHJP
【FI】
A61K38/22
A61K47/60
A61P25/28
C07K14/47 ZNA
C12N15/12
(21)【出願番号】P 2021562745
(86)(22)【出願日】2020-12-04
(86)【国際出願番号】 JP2020045235
(87)【国際公開番号】W WO2021112220
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2019220695
(32)【優先日】2019-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(73)【特許権者】
【識別番号】517055139
【氏名又は名称】ひむかAMファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】北村 和雄
(72)【発明者】
【氏名】福島 雅典
(72)【発明者】
【氏名】西村 秀雄
【審査官】松浦 安紀子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/047788(WO,A1)
【文献】特表2014-532682(JP,A)
【文献】田中正明 他,アドレノメデュリン‐RAMP2系はヒト網膜色素上皮細胞の上皮間葉転換を抑制する,日本眼科学会雑誌,2019年03月13日,Vol.123 臨時増刊号,Page.263
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/22
A61K 47/60
A61P 25/28
C07K 14/47
C12N 15/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アドレノメデュリン若しくはアドレノメデュリン活性を有するその修飾体、又はそれらの塩を含む、
アミロイドβ蓄積性神経変性疾患の治療及び/又は予防剤であって、
前記アドレノメデュリン若しくはアドレノメデュリン活性を有するその修飾体が、以下:(i)アドレノメデュリンのアミノ酸配列からなるペプチド、
(ii)アドレノメデュリンのアミノ酸配列からなり、且つ該アミノ酸配列中の2個のシス
テイン残基がジスルフィド結合を形成しているペプチド、
(iii)(ii)のペプチドにおいて、前記ジスルフィド結合が、エチレン基によって置換
されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド、
(iv)(i)~(iii)のいずれかのペプチドにおいて、N末端側から1~15位、1~12位、1~10位、1~8位、1~5位又は1~3位のアミノ酸残基が欠失されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド、
(v)(i)~(iv)のいずれかのペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチ
ド、並びに
(vi)(i)~(iv)のいずれかのペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド
からなる群より選択されるペプチドである、剤。
【請求項2】
前記アドレノメデュリン若しくはアドレノメデュリン活性を有するその修飾体が、以下:
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号1のアミノ酸配列からな
り、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド、
(b)配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号3のアミノ酸配列からな
り、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド、
(c)配列番号5のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号5のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド、
(d)配列番号7のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号7のアミノ酸配列からな
り、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド、
(e)配列番号9のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号9のアミノ酸配列からな
り、且つ14位のシステイン残基と19位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド、
(f)配列番号11のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号11のアミノ酸配列から
なり、且つ14位のシステイン残基と19位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド、
(g)(a)~(f)のいずれかのペプチドにおいて、前記ジスルフィド結合が、エチレン
基によって置換されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド、
(h)(a)~(g)のいずれかのペプチドにおいて、N末端側から1~15位、1~12位、1~10位、1~8位、1~5位又は1~3位のアミノ酸残基が欠失されており、且つアドレノメデュ
リン活性を有するペプチド、
(i)(a)~(h)のいずれかのペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド、及び
(j)(a)~(h)のいずれかのペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド
からなる群より選択されるペプチドである、請求項1に記載の剤。
【請求項3】
前記
アミロイドβ蓄積性神経変性疾患がアルツハイマー病である、請求項1
又は2に記載の剤。
【請求項4】
経鼻投与用である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の剤。
【請求項5】
対象あたり0.06~600μg/kgのアドレノメデュリンが投与される、請求項1~
4のいずれ
か1項に記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アドレノメデュリン若しくはアドレノメデュリン活性を有するその修飾体、若しくはそれらの誘導体、又はそれらの塩を含む、異常タンパク質蓄積性神経変性疾患の治療及び/又は予防剤等に関する。また本発明は、異常タンパク質蓄積性神経変性疾患に罹患する対象者にアドレノメデュリン若しくはアドレノメデュリン活性を有するその修飾体、若しくはそれらの誘導体、又はそれらの塩を投与することを含む、前記疾患の治療及び/又は予防方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高齢化社会の加速を背景に、異常タンパク質の蓄積に起因する神経変性疾患(以下、「異常タンパク質蓄積性神経変性疾患」という)(例:アルツハイマー病、パーキンソン病、レビー小体型認知症、筋委縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、加齢黄斑変性、前頭側頭型認知症(FTD)、多発性硬化症(MS)等)に罹患する患者数が急増している。その中でも、社会的負荷の高い神経変性疾患であるアルツハイマー病や加齢黄斑変性に罹患する患者数は、現在、全世界で数千万人にも及ぶ。
【0003】
アルツハイマー病(以下、「AD」ともいう)は、短期記憶力の低下、軽度学習障害より始まり、高次脳機能障害、とりわけ視空間失認、観念失行、構成失行等を伴い、最終的に運動障害やいわゆる人格的破壊に至る進行性認知症であって、現在、コリンエステラーゼ阻害剤や、N-Methyl-D-Aspartate(NMDA)受容体拮抗剤等の薬剤は存在するものの、根治的治療法は見出されていない。また、加齢黄斑変性(以下、「AMD」ともいう)では、大きくは滲出型と萎縮型の2種類があり、滲出型については血管内皮増殖因子(以下、「VGEF」ともいう)阻害剤があるが、萎縮型については、新薬候補が開発されてはいるものの、未だ有効な薬剤は存在しない。
【0004】
このような中、最近、アルツハイマー病と補体系との関係が注目されつつある。具体的には、可溶性のオリゴアミロイドβが重合によりシナプスに蓄積し始めると、これが直接C1qを活性化し、シナプスにC1qにより活性化された補体成分であるC3がまず沈着する。次に、沈着したC3を標的にミクログリア細胞が集まり、シナプスの刈り込みと喪失が起こり、その結果、アルツハイマー病が進行するというメカニズムである(非特許文献1)。また、AMDについても、C3を中心とした補体系が関与することで、網膜変性を引き起こす可能性あることが明らかになりつつあるが、補体系の阻害剤の使用によって臨床的効果を得るまでには至っていない(非特許文献2)。
【0005】
上記のような補体系に関係するメカニズムが提唱されているものの、現在のところ、アルツハイマー病や加齢黄斑変性に有効な治療剤となり得る化合物の発見には至っていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Soyon Hong et al., Science 2016 May 6; 352(6286):712-716
【文献】Heping Xu et al., Europeal Journal of Pharmacology 787 (2016) 94-104
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、アドレノメデュリン若しくはアドレノメデュリン活性を有するその修飾体、若しくはそれらの誘導体、又はそれらの塩を含む、異常タンパク質蓄積性神経変性疾患の治療及び/又は予防剤を提供することにある。また本発明の課題は、異常タンパク質蓄積性神経変性疾患に罹患する対象にアドレノメデュリン若しくはアドレノメデュリン活性を有するその修飾体、若しくはそれらの誘導体、又はそれらの塩を投与することを含む、前記疾患の治療及び/又は予防に対する根本的な治療法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これまでアドレノメデュリン(以下、「AM」という)は、アルツハイマー病の神経変性を媒介する等、該疾患を改悪する可能性があると指摘されていた(Molecular Neurobiology (2018) 55:8799-8814)。その指摘は、脳内のAMの濃度とミクログリア細胞数が相関して上昇していることを根拠としてしていた。該論文の結論等について、本発明者らは、該疾患においてミクログリア細胞が増殖していることは事実であるが、生体のホメオスタシスを司ると考えられるAMについて、上記のような状態を改善するために脳内濃度が高くなっているのではないかとまず考えた。即ち、AMの有するC3b分解促進能を考慮した場合、生体においては、実際には、補体を介してミクログリアの活動を鎮静化し、ADの進行を抑える効果を発揮する可能性があるのではないかと着想した。鋭意研究の結果、驚くべきことにAMは、生体においては、既存のコリンエステラーゼ阻害剤(ドネペジル)と同等或いはそれ以上に、アミロイドβの蓄積に起因する神経変性に基づくADの治療効果を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は以下に関する。
[1]アドレノメデュリン若しくはアドレノメデュリン活性を有するその修飾体、又はそれらの塩を含む、異常タンパク質蓄積性神経変性疾患の治療及び/又は予防剤。
[2]前記アドレノメデュリン又はアドレノメデュリン活性を有するその修飾体が、アドレノメデュリンの誘導体であり、前記誘導体が以下の式(I):
【0010】
【0011】
[式中、
Aは、1個以上のポリエチレングリコール基を含む修飾基であり、
Bは、アドレノメデュリン又はアドレノメデュリン活性を有するその修飾体から誘導されるペプチド部分であり、
但し、ペプチド部分Bは、そのN末端のαアミノ基の窒素原子がメチレン基の炭素原子と共有結合することによって残部分と連結されている。]
で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物である、[1]に記載の剤。
[3]Aが、以下の式(II):
【0012】
【0013】
[式中、
aは、1以上の整数であり、
mは、1以上の整数であり、
L1は、m+1価の直鎖状又は分岐鎖状の連結基であり、但し、L1が複数の場合、前記複数のL1は互いに同一又は異なっていてもよく、
L2及びL2'は、互いに独立して、結合又は2価の連結基であり、但し、L2'が複数の場合、前記複数のL2'は互いに同一又は異なっていてもよく、
M1は、以下の式(III):
【0014】
【0015】
[式中、
nは、1以上の整数であり、
**は、L1との結合位置であり、
#は、O又はL2'との結合位置である。]
で表されるポリエチレングリコール基であり、但し、M1が複数の場合、前記複数のM1は互いに同一又は異なっていてもよく、
M2は、結合又は式(III)で表されるポリエチレングリコール基であり、但し、M2が複数の場合、前記複数のM2は互いに同一又は異なっていてもよく、
R1は、水素、置換若しくは非置換のC1~C20アルキル、置換若しくは非置換のC2~C20アルケニル、置換若しくは非置換のC2~C20アルキニル、置換若しくは非置換のC3~C20シクロアルキル、置換若しくは非置換のC4~C20シクロアルケニル、置換若しくは非置換のC4~C20シクロアルキニル、置換若しくは非置換の3~6員のヘテロシクロアルキル、置換若しくは非置換のC7~C20シクロアルキルアルキル、置換若しくは非置換の3~6員のヘテロシクロアルキル-C1~C20アルキル、置換若しくは非置換のC4~C20アリール、置換若しくは非置換のC5~C20アリールアルキル、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリール、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリール-C1~C20アルキル、又は置換若しくは非置換のアシルであり、
*は、残部分との結合位置である。]
で表される修飾基である、[2]に記載の剤。
[4]Aが、以下の式(V)、(VI)、(VII)又は(VIII):
【0016】
【0017】
[式中、
aは、1以上の整数であり、
M3、M3'、M3''、M3'''及びM3''''は、互いに独立して、結合又は以下の式(III):
【0018】
【0019】
[式中、
nは、1以上の整数であり、
**は、R3、R3'又はCHとの結合位置であり、
#は、Oとの結合位置である。]
で表されるポリエチレングリコール基であり、但し、M3、M3'、M3''、M3'''及びM3''''が複数の場合、前記複数のM3、M3'、M3'’、M3'''及びM3''''は互いに同一又は異なっていてもよく、且つM3、M3'、M3''、M3'''及びM3''''のうち少なくとも1個は式(III)で表されるポリエチレングリコール基であり、
R1、R1'、R1''及びR1'''は、互いに独立して、水素、置換若しくは非置換のC1~C20アルキル、置換若しくは非置換のC2~C20アルケニル、置換若しくは非置換のC2~C20アルキニル、置換若しくは非置換のC3~C20シクロアルキル、置換若しくは非置換のC4~C20シクロアルケニル、置換若しくは非置換のC4~C20シクロアルキニル、置換若しくは非置換の3~6員のヘテロシクロアルキル、置換若しくは非置換のC7~C20シクロアルキルアルキル、置換若しくは非置換の3~6員のヘテロシクロアルキル-C1~C20アルキル、置換若しくは非置換のC4~C20アリール、置換若しくは非置換のC5~C20アリールアルキル、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリール、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリール-C1~C20アルキル、又は置換若しくは非置換のアシルであり、
R2は、結合、置換若しくは非置換のC1~C20アルキレン、置換若しくは非置換のC2~C20アルケニレン、置換若しくは非置換のC2~C20アルキニレン、置換若しくは非置換のC3~C20シクロアルキレン、置換若しくは非置換のC4~C20シクロアルケニレン、置換若しくは非置換のC4~C20シクロアルキニレン、置換若しくは非置換の3~6員のヘテロシクロアルキレン、置換若しくは非置換のC7~C20シクロアルキルアルキレン、置換若しくは非置換の3~6員のヘテロシクロアルキル-C1~C20アルキレン、置換若しくは非置換のC4~C20アリーレン、置換若しくは非置換のC5~C20アリールアルキレン、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリーレン、若しくは置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリール-C1~C20アルキレン(前記の基は、1個以上の複素原子、アミド基(-CO-NH-)、エステル基(-CO-O-)、又はウレタン基(-O-CO-NH-)を含んでもよい)、アミド基(-CO-NH-)、エステル基(-CO-O-)、又はウレタン基(-O-CO-NH-)であり、
R3、R3'及びR3''は、互いに独立して、結合、置換若しくは非置換のC1~C20アルキレン、置換若しくは非置換のC2~C20アルケニレン、置換若しくは非置換のC2~C20アルキニレン、置換若しくは非置換のC3~C20シクロアルキレン、置換若しくは非置換のC4~C20シクロアルケニレン、置換若しくは非置換のC4~C20シクロアルキニレン、置換若しくは非置換の3~6員のヘテロシクロアルキレン、置換若しくは非置換のC7~C20シクロアルキルアルキレン、置換若しくは非置換の3~6員のヘテロシクロアルキル-C1~C20アルキレン、置換若しくは非置換のC4~C20アリーレン、置換若しくは非置換のC5~C20アリールアルキレン、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリーレン、若しくは置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリール-C1~C20アルキレン(前記の基は、1個以上の複素原子、アミド基(-CO-NH-)、エステル基(-CO-O-)、又はウレタン基(-O-CO-NH-)を含んでもよい)、アミド基(-CO-NH-)、エステル基(-CO-O-)、又はウレタン基(-O-CO-NH-)であり、但し、R3、R3'及びR3''が複数の場合、前記複数の、R3、R3'及びR3''は互いに同一又は異なっていてもよく、
*は、残部分との結合位置である。]
で表される修飾基である、[2]又は[3]に記載の剤。
[5]式(III)で表されるポリエチレングリコール基が、合計で1~100 kDaの範囲の重量平均分子量を有する、[3]又は[4]に記載の剤。
[6]前記アドレノメデュリン又はアドレノメデュリン活性を有するその修飾体が、以下:
(i)アドレノメデュリンのアミノ酸配列からなるペプチド、
(ii)アドレノメデュリンのアミノ酸配列からなり、且つ該アミノ酸配列中の2個のシステイン残基がジスルフィド結合を形成しているペプチド、
(iii)(ii)のペプチドにおいて、前記ジスルフィド結合が、エチレン基によって置換されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド、
(iv)(i)~(iii)のいずれかのペプチドにおいて、1~15個のアミノ酸残基が欠失、置換若しくは付加されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド、
(v)(i)~(iv)のいずれかのペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド、並びに
(vi)(i)~(iv)のいずれかのペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド
からなる群より選択されるペプチドである、[1]~[5]のいずれか1に記載の剤。
[7]前記アドレノメデュリン又はアドレノメデュリン活性を有するその修飾体が、以下:
(i)アドレノメデュリンのアミノ酸配列からなるペプチド、
(ii)アドレノメデュリンのアミノ酸配列からなり、且つ該アミノ酸配列中の2個のシステイン残基がジスルフィド結合を形成しているペプチド、
(v)(i)又は(ii)のペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド、並びに
(vi)(i)又は(ii)ペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド
からなる群より選択されるペプチドである、[6]に記載の剤。
[8]前記アドレノメデュリン又はアドレノメデュリン活性を有するその修飾体が、以下:
(iv')(i)~(iii)のいずれかのペプチドにおいて、N末端側から1~15位、1~10位又は1~5位のアミノ酸残基が欠失されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド、
(v)(iv')のペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド、並びに
(vi)(iv’)のペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド
からなる群より選択されるペプチドである、[6]に記載の剤。
[9]前記異常タンパク質がアミロイドβである、[1]~[8]のいずれか1に記載の剤。
[10]前記異常タンパク質蓄積性神経変性疾患が、アルツハイマー病である、[1]~[9]のいずれか1に記載の剤。
[11]アルツハイマー病におけるアミロイドβの蓄積に起因する神経変性の治療及び/又は予防剤である、[1]~[10]のいずれか1に記載の剤。
[12]コリンエステラーゼ阻害剤、NMDA受容体拮抗剤、並びにタウタンパク質除去剤及び産生抑制剤からなる群から選択される1以上の剤と併用される、[1]~[11]のいずれか1に記載の剤。
[13]経鼻投与用である、[1]~[12]のいずれか1に記載の剤。
[14]対象あたり0.06~600μg/kgのアドレノメデュリンが投与される、[1]~[13]のいずれか1に記載の剤。
[15]異常タンパク質蓄積性神経変性疾患の治療及び/又は予防方法であって、対象に有効量のアドレノメデュリン若しくはアドレノメデュリン活性を有するその修飾体、又はそれらの塩を投与することを含む、方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、アドレノメデュリン若しくはアドレノメデュリン活性を有するその修飾体、若しくはそれらの誘導体、又はそれらの塩を含む、異常タンパク質蓄積性神経変性疾患の治療及び/又は予防剤を提供することができる。本発明の剤は、アドレノメデュリンを有効成分として含み、特に、アミロイドβの蓄積に起因する神経変性に基づくアルツハイマー病や加齢黄斑変性において、既存のアルツハイマー病の治療剤であるコリンエステラーゼ阻害剤及びNMDA受容体拮抗剤、或いは既存の加齢黄斑変性の治療剤であるVEGF阻害剤等とは異なる作用機序で作用し、むしろ根本療法と考えられるため、上記薬剤では効果が期待できなかった患者に対する新たな薬剤となり得、その上、既存の薬剤と併用が可能である。
また本発明によれば、異常タンパク質蓄積性神経変性疾患に罹患する対象に、アドレノメデュリン若しくはアドレノメデュリン活性を有するその修飾体、若しくはそれらの誘導体、又はそれらの塩を投与することを含む、前記疾患の治療及び/又は予防方法を提供することもできる。本発明の治療及び/又は予防方法は、上記疾患に罹患する対象に上記アドレノメデュリン等を投与することを含み、特に、アミロイドβの蓄積に起因する神経変性に基づくアルツハイマー病や加齢黄斑変性において、既存のアルツハイマー病の治療剤であるコリンエステラーゼ阻害剤及びNMDA受容体拮抗剤、或いは既存の加齢黄斑変性の治療剤であるVEGF阻害剤等とは、該アドレノメデュリンが異なる作用機序で作用し、むしろ根本療法と考えられるため、上記薬剤では効果が期待できなかった患者に対する新たな治療及び/又は予防方法となり得、その上、既存の薬剤と併用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、Y迷路試験の結果を示す図である。図中、** p<0.01 偽手術群と比較して有意差あり(Studentのt検定)、††p<0.01 媒体対照群と比較して有意差あり(Dunnett検定)、## p<0.01 媒体対照群と比較して有意差あり(Studentのt検定)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
1.異常タンパク質蓄積性神経変性疾患の治療及び/又は予防剤
本発明の異常タンパク質蓄積性神経変性疾患の治療及び/又は予防剤(以下、「本発明の剤」ともいう)は、有効成分としてアドレノメデュリンを含む。本明細書において「異常タンパク質蓄積性神経変性疾患」とは、異常な構造へとミスフォールディングされたタンパク質(即ち、異常タンパク質)の凝集体の蓄積により中枢神経系の神経細胞等が、徐々に変性し、機能不全や細胞死に陥る進行性疾患をいう。
【0023】
ミスフォールディングされるタンパク質としては、例えば、アミロイドβタンパク質(以下、「Aβ」ともいう)、タウタンパク質、αシヌクレイン、ポリグルタミン、TDP-43等が挙げられる。異常タンパク質蓄積性神経変性疾患としては、例えば、アルツハイマー病、軽度認知機能障害(MCI)、筋委縮性側索硬化症、ハンチントン病、脊髄小脳変性症、多発性硬化症、クロイツフェルト・ヤコブ病、進行性多巣性白質脳症、レビー小体型認知症、皮質基底核変性症、パーキンソン病、パーキンソン症候群、前頭側頭型認知症(FTD)、痙性対麻痺、非ヘルペス性急性辺縁系脳炎、加齢黄斑変性(前駆病変、萎縮型、滲出型を含む)が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の剤により治療及び/又は予防される異常タンパク質蓄積性神経変性疾患は、好ましくは、アルツハイマー病、加齢黄斑変性等である。
【0024】
本発明の剤に含まれるアドレノメデュリンは、ヒト褐色細胞組織より単離及び同定されたヒト由来のペプチド(配列番号1)だけでなく、例えばブタ(配列番号3)、イヌ(配列番号5)、ウシ(配列番号7)、ラット(配列番号9)又はマウス(配列番号11)等の他の非ヒト哺乳動物(例えば温血動物)由来のペプチド(オルソログ)であってもよい。生体内において、これらのペプチドは、そのアミノ酸配列中の2個のシステイン残基がジスルフィド結合を形成しており、且つC末端がアミド化されている。本明細書において、前記ペプチドであってジスルフィド結合及びC末端アミド基を有するものを、「天然型アドレノメデュリン」又は単に「アドレノメデュリン」と記載する場合がある。
【0025】
本明細書において、「C末端のアミド化」は、生体内におけるペプチドの翻訳後修飾の一態様を意味し、具体的には、ペプチドのC末端アミノ酸残基の主鎖カルボキシル基がアミド基の形態へ変換される反応を意味する。また、本明細書において、「システイン残基のジスルフィド結合の形成」又は「システイン残基のジスルフィド化」は、生体内におけるペプチドの翻訳後修飾の一態様を意味し、具体的には、ペプチドのアミノ酸配列中の2個のシステイン残基がジスルフィド結合(-S-S-)を形成する反応を意味する。
【0026】
本発明の剤に含まれるアドレノメデュリンは、上記のようなアドレノメデュリンであってもよく、該アドレノメデュリンの修飾体、或いはそれらの塩、水和物、溶媒和物等であってもよい。本願明細書において、アドレノメデュリン又はアドレノメデュリンの修飾体には、それらの誘導体、或いは生体内での代謝によりアドレノメデュリン又はその修飾体に変換される前駆体やそれらのプロドラッグ化合物も含まれる。具体的なアドレノメデュリン修飾体としては、例えば、国際公開第2012/096411号、国際公開第2015/141819号、国際公開第2017/047788号、或いは国際公開第2018/181638号に記載されたようなものが挙げられる。また、具体的なアドレノメデュリン又はアドレノメデュリンの修飾体の誘導体としては、例えば、国際公開第2017/047788号に記載されたようなものが挙げられる。以下に、本発明の剤に含まれるアドレノメデュリン及びアドレノメデュリン修飾体、並びにそれらの誘導体等について詳述する。
【0027】
本発明の剤に含まれるアドレノメデュリン誘導体は、以下の式(I):
【0028】
【0029】
で表される化合物、若しくはその塩、又はそれらの水和物が挙げられる。
【0030】
式(I)において、Bは、アドレノメデュリン又はアドレノメデュリン活性を有するその修飾体(以下、「アドレノメデュリンの修飾体」ともいう)から誘導されるペプチド部分であることが必要である。本発明において、「アドレノメデュリン又はアドレノメデュリン活性を有するその修飾体から誘導されるペプチド部分」は、アドレノメデュリン又はアドレノメデュリン活性を有するその修飾体から1個の水素原子(通常は、アミノ基の1個の水素原子、典型的にはN末端のαアミノ基の1個の水素原子)を取り除いた構造を有する1価の遊離基を意味する。
【0031】
本発明において、「アドレノメデュリンの修飾体」は、前記で説明した天然型アドレノメデュリンが化学修飾されたペプチドを意味する。また、本発明において、「アドレノメデュリン活性」は、アドレノメデュリンの有する異常タンパク質の蓄積に起因する神経変性の改善作用を意味する。本発明の式(I)で表される化合物は、本発明の剤に含まれるアドレノメデュリン又はその修飾体から誘導されるペプチド部分Bを含むことにより、天然型アドレノメデュリンと実質的に略同等のアドレノメデュリン活性を発揮することができる。
【0032】
上記アドレノメデュリン又はアドレノメデュリン活性を有するその修飾体は、以下:
(i)アドレノメデュリンのアミノ酸配列からなるペプチド、
(ii)アドレノメデュリンのアミノ酸配列からなり、且つ該アミノ酸配列中の2個のシステイン残基がジスルフィド結合を形成しているペプチド、
(iii)(ii)のペプチドにおいて、前記ジスルフィド結合が、エチレン基によって置換されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド、
(iv)(i)~(iii)のいずれかのペプチドにおいて、1~15個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド、
(v)(i)~(iv)のいずれかのペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド、及び
(vi)(i)~(iv)のいずれかのペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド
からなる群より選択されるペプチドであることが好ましい。本明細書中において、アミノ酸の付加とは、アミノ酸の挿入も含むものである。
【0033】
一実施形態において、前記アドレノメデュリン又はアドレノメデュリン活性を有するその修飾体は、以下:
(i)アドレノメデュリンのアミノ酸配列からなるペプチド、
(ii)アドレノメデュリンのアミノ酸配列からなり、且つ該アミノ酸配列中の2個のシステイン残基がジスルフィド結合を形成しているペプチド、
(v)(i)又は(ii)のペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド、及び
(vi)(i)又は(ii)ペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド
からなる群より選択されるペプチドであることがより好ましい。
【0034】
別の実施形態において、前記アドレノメデュリン又はアドレノメデュリン活性を有するその修飾体は、以下:
(iv')(i)~(iii)のいずれかのペプチドにおいて、N末端側から1~15位、1~10位又は1~5位のアミノ酸残基が欠失されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド、
(v)(iv')のペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド、及び
(vi)(iv')のペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド
からなる群より選択されるペプチドであることがより好ましい。
【0035】
前記(i)~(vi)及び(iv')のペプチドにおいて、(v)に包含される、アドレノメデュリンのアミノ酸配列からなり、C末端がアミド化されており、且つ該アミノ酸配列中の2個のシステイン残基がジスルフィド結合を形成しているペプチドは、成熟した天然型アドレノメデュリンに相当する。(i)のアドレノメデュリンのアミノ酸配列からなるペプチドは、C末端アミド化及びシステイン残基のジスルフィド化の翻訳後修飾を受ける前の(すなわち未成熟な)形態の天然型アドレノメデュリンに相当する。前記(i)~(vi)及び(iv')のペプチドにおいて、前記で説明したペプチドを除く他のペプチドは、アドレノメデュリンの修飾体に相当する。
【0036】
前記(ii)のペプチドは、前記(i)のペプチドの2個のシステイン残基のチオール基を空気酸化するか、又は適切な酸化剤を用いて酸化してジスルフィド結合に変換することにより、形成させることができる。前記(ii)のペプチドを用いることにより、ペプチド部分Bの立体構造を、天然型アドレノメデュリンの立体構造に類似させることができる。これにより、式(I)で表される化合物のアドレノメデュリン活性を、天然型アドレノメデュリンと実質的に略同等のものとすることができる。
【0037】
前記(iii)のペプチドは、前記(ii)のペプチドのジスルフィド結合をエチレン基にすることにより、形成させることができる。ジスルフィド結合からエチレン基への置換は、当該技術分野で周知の方法により、行うことができる(O. Kellerら, Helv. Chim. Acta, 1974年, 第57巻, p. 1253)。前記(iii)のペプチドを用いることにより、ペプチド部分Bの立体構造を安定化させることができる。これにより、式(I)で表される化合物は、生体内において、持続的にアドレノメデュリン活性を発揮することができる。
【0038】
前記(iv)のペプチドにおいて、欠失、置換若しくは付加されているアミノ酸残基は、1~15個の範囲であることが好ましく、1~10個の範囲であることがより好ましく、1~8個の範囲であることがさらに好ましく、1~5個の範囲であることが特に好ましく、1~3個の範囲であることがもっとも好ましい。好適な(iv)のペプチドは、(i)~(iii)のいずれかのペプチドにおいて、N末端側から1~15位、1~12位、1~10位、1~8位、1~5位又は1~3位のアミノ酸残基が欠失されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチドであり、より好適な(iv)のペプチドは、(i)~(iii)のいずれかのペプチドにおいて、N末端側から1~15位、1~10位又は1~5位のアミノ酸残基が欠失されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド((iv')のペプチド)である。前記好適なペプチドにおいて、1又は複数個(例えば、1~5個、1~3個、又は1若しくは2個)のアミノ酸残基がさらに欠失、置換若しくは付加されていてもよい。前記(iv)又は(iv')のペプチドを用いることにより、式(I)で表される化合物のアドレノメデュリン活性を、天然型アドレノメデュリンと実質的に略同等のものとすることができる。また、前記(iv)又は(iv')のペプチドを用いることにより、式(I)で表される化合物は、生体内において、持続的にアドレノメデュリン活性を発揮することができる。
【0039】
前記(vi)又は(iv')のペプチドは、C末端アミド化酵素の作用によってC末端のグリシン残基がC末端アミド基に変換されて、前記(v)のペプチドに変換されることができる。それ故、前記(vi)又は(iv')のペプチドを対象に投与することにより、該対象の生体内において、一定時間経過後に、C末端アミド化されたペプチドを形成させることができる。これにより、式(I)で表される化合物は、生体内において、持続的にアドレノメデュリン活性を発揮することができる。
【0040】
前記アドレノメデュリン又はその修飾体は、以下:
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号1のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(b)配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号3のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(c)配列番号5のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号5のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(d)配列番号7のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号7のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(e)配列番号9のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号9のアミノ酸配列からなり、且つ14位のシステイン残基と19位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(f)配列番号11のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号11のアミノ酸配列からなり、且つ14位のシステイン残基と19位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(g)(a)~(f)のいずれかのペプチドにおいて、前記ジスルフィド結合が、エチレン基によって置換されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド;
(h)(a)~(g)のいずれかのペプチドにおいて、1~15個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド;
(i)(a)~(h)のいずれかのペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド;及び
(j)(a)~(h)のいずれかのペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド;
からなる群より選択されるペプチドであることがより好ましい。
【0041】
一実施形態において、前記アドレノメデュリン又はその修飾体は、以下:
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号1のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(b)配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号3のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(c)配列番号5のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号5のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(d)配列番号7のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号7のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(e)配列番号9のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号9のアミノ酸配列からなり、且つ14位のシステイン残基と19位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(f)配列番号11のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号11のアミノ酸配列からなり、且つ14位のシステイン残基と19位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(i)(a)~(f)のいずれかのペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド;及び
(j)(a)~(f)のいずれかのペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド;
からなる群より選択されるペプチドであることがさらに好ましい。
【0042】
別の実施形態において、前記アドレノメデュリン又はその修飾体は、以下:
(h')(a)~(d)のいずれかのペプチドにおいて、N末端側から1~15位、1~10位又は1~5位のアミノ酸残基が欠失されており、且つアドレノメデュリン活性を有する、或いは、(e)又は(f)のペプチドにおいて、N末端側から1~13位、1~8位又は1~5位のアミノ酸残基が欠失されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド;
(i)(h')のペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド;及び
(j)(h’)のペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド;
からなる群より選択されるペプチドであることがさらに好ましい。
【0043】
前記(h)のペプチドにおいて、欠失、置換若しくは付加されているアミノ酸残基は、1~12個の範囲であることが好ましく、1~10個の範囲であることがより好ましく、1~8個の範囲であることがさらに好ましく、1~5個の範囲であることが特に好ましく、1~3個の範囲であることがもっとも好ましい。好適な(h)のペプチドは、(a)~(g)のいずれかのペプチドにおいて、N末端側から1~15位、1~12位、1~10位、1~8位、1~5位又は1~3位のアミノ酸が欠失されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチドであり、より好適な(h)のペプチドは、(a)~(d)のいずれかのペプチドにおいて、N末端側から1~15位、1~10位又は1~5位のアミノ酸残基が欠失されており、且つアドレノメデュリン活性を有する、或いは、(e)又は(f)のペプチドにおいて、N末端側から1~13位、1~8位又は1~5位のアミノ酸残基が欠失されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド((h')のペプチド)である。前記好適なペプチドにおいて、1又は複数個(例えば、1~5個、1~3個、又は1若しくは2個)のアミノ酸がさらに欠失、置換若しくは付加されていてもよい。前記(h)又は(h')のペプチドを用いることにより、式(I)で表される化合物のアドレノメデュリン活性を、天然型アドレノメデュリンと実質的に略同等のものとすることができる。また、前記(h)又は(h’)のペプチドを用いることにより、式(I)で表される化合物は、生体内において、持続的にアドレノメデュリン活性を発揮することができる。
【0044】
上述のアドレノメデュリン又はアドレノメデュリン活性を有するその修飾体から1個の水素原子(通常は、アミノ基の1個の水素原子、典型的にはN末端のαアミノ基の1個の水素原子)を取り除いた構造を有する1価の遊離基が式(I)のBに相当する。また、式(I)において、Aは、1個以上のPEG基を含む修飾基であることが必要である。修飾基Aにおいて、1個以上のPEG基を含む態様は特に限定されない。例えば、1個以上のPEG基が修飾基Aの末端部に配置されていてもよく、修飾基Aの内部に配置されていてもよい。また、修飾基Aは、PEG基を含む直鎖状又は分岐鎖状の基として当該技術分野で公知の各種の基であってもよい。修飾基Aとして使用し得る公知の基としては、限定するものではないが、例えば、国際公開第1995/11924号、国際公開第2006/084089号、国際公開第98/41562号、国際公開第2005/079838号、国際公開第2002/060978号、国際公開第2001/048052号、国際公開第1998/055500号、国際公開第1996/021469号、国際公開第2003/040211号、及び特開平04-108827号等に開示される基を挙げることができる。1個以上のPEG基を含む基を修飾基Aとして使用することにより、式(I)で表される化合物は、生体内において、持続的にアドレノメデュリン活性を発揮することができる。
【0045】
Aは、以下の式(II):
【0046】
【0047】
で表される修飾基であることが好ましい。
【0048】
式(II)において、
aは、1以上の整数であり、
mは、1以上の整数であり、
L1は、m+1価の直鎖状又は分岐鎖状の連結基であり、但し、L1が複数の場合、該複数のL1は互いに同一又は異なっていてもよく、
L2及びL2'は、互いに独立して、結合又は2価の連結基であり、但し、L2'が複数の場合、該複数のL2'は互いに同一又は異なっていてもよく、
M1は、PEG基であり、但し、M1が複数の場合、該複数のM1は互いに同一又は異なっていてもよく、
M2は、結合又はPEG基であり、但し、M2が複数の場合、該複数のM2は互いに同一又は異なっていてもよく、
R1は、水素又は1価の基であり、
*は、残部分との結合位置である。
【0049】
mは、連結基L1の分岐数である。例えば、mが1の場合、L1は2価の連結基であり、末端方向に対して非分岐、すなわち直鎖状の基である。mが2以上の場合、L1は3価以上の連結基であり、末端方向に対して2分岐以上の基である。mは、通常は、1以上の整数であり、5以下の整数であり、1~5の範囲であることが好ましく、1~4の範囲であることがより好ましく、1~3の範囲であることがより好ましい。連結基L1の分岐数mが前記範囲の場合、PEG基を含む修飾基Aは直鎖状又は分岐鎖状の構造を有することができる。
【0050】
aは、PEG基M1及びM2、並びに連結基L1及びL2'の単位の繰り返し数である。例えば、aが1の場合、前記単位は繰り返し構造を有さない。aが2以上であって、且つmが1の場合、前記単位は直鎖状の繰り返し構造を有する。aが2以上であって、且つmが2以上の場合、前記単位は樹状分岐鎖状の繰り返し構造を有する。aは、通常は、1以上の整数であり、5以下の整数であり、1~5の範囲であることが好ましく、1~2の範囲であることがより好ましい。PEG基M1及びM2、並びに連結基L1及びL2'の単位の繰り返し数aが前記範囲の場合、PEG基を含む修飾基Aは直鎖状又は分岐鎖状の構造を有することができる。
【0051】
M1及びM2において、PEG基は、通常は、以下の式(III):
【0052】
【0053】
で表される基である。式(III)において、**は、L1との結合位置であり、#は、O又はL2'との結合位置である。式(III)で表されるPEG基の重量平均分子量は、修飾基Aにおける合計として、通常は1 kDa以上、好ましくは5 kDa以上、より好ましくは10 kDa以上、さらに好ましくは20 kDa以上であり、通常は2000 kDa以下、好ましくは1000 kDa以下、より好ましくは100 kDa以下、さらに好ましくは80 kDa以下であり、特に好ましくは60 kDa以下である。式(III)で表されるPEG基は、修飾基Aにおける合計として、通常は1~2000 kDaの範囲、例えば1~1000 kDaの範囲の重量平均分子量を有し、1~100 kDaの範囲の重量平均分子量を有することが好ましく、5~80 kDaの範囲の重量平均分子量を有することがより好ましく、10~60 kDaの範囲の重量平均分子量を有することがさらに好ましく、20~60kDaの範囲の重量平均分子量を有することが特に好ましい。修飾基Aにおける式(III)で表されるPEG基の合計の重量平均分子量が前記範囲の場合、式(I)で表される化合物のアドレノメデュリン活性を、天然型アドレノメデュリンと実質的に略同等のものとすることができる。また、式(I)で表される化合物は、望ましくない副反応を実質的に抑制しつつ、生体内において、持続的にアドレノメデュリン活性を発揮することができる。
【0054】
式(III)において、nは、前記重量平均分子量に基づいて定義されるエチレンオキシド単位の繰り返し数である。nは、前記重量平均分子量の好ましい範囲に基づき定義すると、通常は約20以上、好ましくは約110以上、より好ましくは約230以上、さらに好ましくは約460以上の整数であり、通常は約45000以下、好ましくは約22000以下、より好ましくは約2200以下、さらに好ましくは約1820以下、特に好ましくは約1360以下の整数である。nは、前記重量平均分子量の好ましい範囲に基づき定義すると、通常は約20~45000の範囲、例えば約20~22000の範囲であり、約1~2200の範囲であることが好ましく、約110~1820の範囲であることがより好ましく、約230~1360の範囲であることがさらに好ましく、約460~1360の範囲であることが特に好ましい。繰り返し数nが前記範囲の場合、式(II)で表される修飾基に含まれるPEG基の合計の重量平均分子量が前記の範囲となる。それ故、繰り返し数nが前記範囲の場合、式(I)で表される化合物のアドレノメデュリン活性を、天然型アドレノメデュリンと実質的に略同等のものとすることができる。また、式(I)で表される化合物は、望ましくない副反応を実質的に抑制しつつ、生体内において、持続的にアドレノメデュリン活性を発揮することができる。
【0055】
R1は、水素、置換若しくは非置換のC1~C20アルキル、置換若しくは非置換のC2~C20アルケニル、置換若しくは非置換のC2~C20アルキニル、置換若しくは非置換のC3~C20シクロアルキル、置換若しくは非置換のC4~C20シクロアルケニル、置換若しくは非置換のC4~C20シクロアルキニル、置換若しくは非置換の3~6員のヘテロシクロアルキル、置換若しくは非置換のC7~C20シクロアルキルアルキル、置換若しくは非置換の3~6員のヘテロシクロアルキル-C1~C20アルキル、置換若しくは非置換のC4~C20アリール、置換若しくは非置換のC5~C20アリールアルキル、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリール、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリール-C1~C20アルキル、又は置換若しくは非置換のアシルであることが好ましく、水素、置換若しくは非置換のC1~C20アルキル、置換若しくは非置換のC2~C20アルケニル、又は置換若しくは非置換のC2~C20アルキニルであることがより好ましく、水素、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル又はヘキシルであることがさらに好ましく、メチルであることが特に好ましい。前記基が置換されている場合、該置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素)、シアノ、ニトロ、置換若しくは非置換のC1~C5アルキル、置換若しくは非置換のC2~C5アルケニル、置換若しくは非置換のC2~C5アルキニル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルキル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルケニル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルキニル、置換若しくは非置換のアミノ、及び置換若しくは非置換のC1~C5アルコキシからなる群より選択される1価基であることが好ましく、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素)、シアノ、ニトロ、非置換のC1~C5アルキル、非置換のC2~C5アルケニル、非置換のC2~C5アルキニル、非置換のC3~C6シクロアルキル、非置換のC3~C6シクロアルケニル、非置換のC3~C6シクロアルキニル、非置換のアミノ、及び非置換のC1~C5アルコキシからなる群より選択される1価基であることがより好ましい。R1が前記基である場合、式(I)で表される化合物のアドレノメデュリン活性を、天然型アドレノメデュリンと実質的に略同等のものとすることができる。また、式(I)で表される化合物は、望ましくない副反応を実質的に抑制しつつ、生体内において、持続的にアドレノメデュリン活性を発揮することができる。
【0056】
L1は、m+1価の直鎖状又は分岐鎖状の連結基である。L1は、置換又は非置換のm+1価の直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基であることが好ましい。前記の基は、1個以上の複素原子、脂環式基、芳香族基、アミド基(-CO-NH-)、エステル基(-CO-O-)、又はウレタン基(-O-CO-NH-)を含んでもよい。前記基が置換されている場合、該置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素)、シアノ、ニトロ、及び置換若しくは非置換の直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基からなる群より選択される1価基であることが好ましい。
【0057】
L2及びL2'は、互いに独立して、結合又は2価の連結基である。L2及びL2'が2価の連結基の場合、L2及びL2'は、互いに独立して、置換若しくは非置換の2価の炭化水素基、アミド基(-CO-NH-)、エステル基(-CO-O-)、又はウレタン基(-O-CO-NH-)であることが好ましく、置換若しくは非置換のC1~C20アルキレン、置換若しくは非置換のC2~C20アルケニレン、置換若しくは非置換のC2~C20アルキニレン、置換若しくは非置換のC3~C20シクロアルキレン、置換若しくは非置換のC4~C20シクロアルケニレン、置換若しくは非置換のC4~C20シクロアルキニレン、置換若しくは非置換の3~6員のヘテロシクロアルキレン、置換若しくは非置換のC7~C20シクロアルキルアルキレン、置換若しくは非置換の3~6員のヘテロシクロアルキル-C1~C20アルキレン、置換若しくは非置換のC4~C20アリーレン、置換若しくは非置換のC5~C20アリールアルキレン、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリーレン、又は置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリール-C1~C20アルキレン、アミド基(-CO-NH-)、エステル基(-CO-O-)、又はウレタン基(-O-CO-NH-)であることがより好ましい。前記の基は、1個以上の複素原子、アミド基(-CO-NH-)、エステル基(-CO-O-)、又はウレタン基(-O-CO-NH-)を含んでもよい。前記基が置換されている場合、該置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素)、シアノ、ニトロ、及び置換若しくは非置換の直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基からなる群より選択される1価基であることが好ましく、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素)、シアノ、ニトロ、非置換のC1~C5アルキル、非置換のC2~C5アルケニル、非置換のC2~C5アルキニル、非置換のC3~C6シクロアルキル、非置換のC3~C6シクロアルケニル、非置換のC3~C6シクロアルキニル、非置換のアミノ、及び非置換のC1~C5アルコキシからなる群より選択される1価基であることがより好ましい。
【0058】
L1、L2及びL2'が前記基である場合、式(I)で表される化合物のアドレノメデュリン活性を、天然型アドレノメデュリンと実質的に略同等のものとすることができる。また、式(I)で表される化合物は、望ましくない副反応を実質的に抑制しつつ、生体内において、持続的にアドレノメデュリン活性を発揮することができる。
【0059】
好適な修飾基Aは、以下の式(V)、(VI)、(VII)又は(VIII):
【0060】
【0061】
で表される修飾基である。
【0062】
式(V)、(VI)、(VII)及び(VIII)において、
aは、1以上の整数であり、
M3、M3'、M3'’、M3'''及びM3''''は、互いに独立して、結合又はPEG基であり、
但し、M3、M3'、M3''、M3'''及びM3''''が複数の場合、該複数のM3、M3'、M3''、M3''’及びM3''''は互いに同一又は異なっていてもよく、且つM3、M3'、M3''、M3'''及びM3''''のうち少なくとも1個はPEG基であり、
R1、R1’、R1''及びR1'''は、互いに独立して、水素又は1価の基であり、
R2は、結合又は2価の基であり、
R3、R3'及びR3''は、互いに独立して、結合又は2価の基であり、但し、R3、R3'及びR3''が複数の場合、該複数のR3、R3'及びR3''は互いに同一又は異なっていてもよく、
*は、残部分との結合位置である。
【0063】
aは、PEG基M3、M3’、M3''、M3'''及びM3''''を含む単位の繰り返し数である。例えば、aが1の場合、前記単位は繰り返し構造を有さない。式(V)において、aが2以上の場合、前記単位は直鎖状の繰り返し構造を有する。式(VI)、(VII)及び(VIII)において、aが2以上の場合、前記単位は樹状分岐鎖状の繰り返し構造を有する。aは、通常は、1以上の整数であり、5以下の整数であり、1~5の範囲であることが好ましく、1~2の範囲であることがより好ましい。PEG基M3、M3’、M3''、M3'''及びM3''''を含む単位の繰り返し数aが前記範囲の場合、PEG基を含む修飾基Aは直鎖状又は分岐鎖状の構造を有することができる。
【0064】
M3、M3'、M3''、M3'''及びM3''''がPEG基の場合、該PEG基は、通常は、式(III)で表される基である。式(III)で表されるPEG基は、前記と同様の意味を有する。この場合、式(I)で表される化合物のアドレノメデュリン活性を、天然型アドレノメデュリンと実質的に略同等のものとすることができる。また、式(I)で表される化合物は、望ましくない副反応を実質的に抑制しつつ、生体内において、持続的にアドレノメデュリン活性を発揮することができる。
【0065】
R1は、前記と同様の意味を有する。また、R1'、R1''及びR1'''は、前記R1と同様の意味を有する。この場合、式(I)で表される化合物のアドレノメデュリン活性を、天然型アドレノメデュリンと実質的に略同等のものとすることができる。また、式(I)で表される化合物は、望ましくない副反応を実質的に抑制しつつ、生体内において、持続的にアドレノメデュリン活性を発揮することができる。
【0066】
R2は、結合、置換若しくは非置換の2価の炭化水素基、アミド基(-CO-NH-)、エステル基(-CO-O-)、又はウレタン基(-O-CO-NH-)であることが好ましく、結合、置換若しくは非置換のC1~C20アルキレン、置換若しくは非置換のC2~C20アルケニレン、置換若しくは非置換のC2~C20アルキニレン、置換若しくは非置換のC3~C20シクロアルキレン、置換若しくは非置換のC4~C20シクロアルケニレン、置換若しくは非置換のC4~C20シクロアルキニレン、置換若しくは非置換の3~6員のヘテロシクロアルキレン、置換若しくは非置換のC7~C20シクロアルキルアルキレン、置換若しくは非置換の3~6員のヘテロシクロアルキル-C1~C20アルキレン、置換若しくは非置換のC4~C20アリーレン、置換若しくは非置換のC5~C20アリールアルキレン、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリーレン、又は置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリール-C1~C20アルキレン、アミド基(-CO-NH-)、エステル基(-CO-O-)、又はウレタン基(-O-CO-NH-)であることがより好ましい。前記2価の炭化水素基は、1個以上の複素原子、アミド基(-CO-NH-)、エステル基(-CO-O-)、又はウレタン基(-O-CO-NH-)を含んでもよい。前記基が置換されている場合、該置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素)、シアノ、ニトロ、置換若しくは非置換のC1~C5アルキル、置換若しくは非置換のC2~C5アルケニル、置換若しくは非置換のC2~C5アルキニル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルキル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルケニル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルキニル、置換若しくは非置換のアミノ、及び置換若しくは非置換のC1~C5アルコキシからなる群より選択される1価基であることが好ましく、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素)、シアノ、ニトロ、非置換のC1~C5アルキル、非置換のC2~C5アルケニル、非置換のC2~C5アルキニル、非置換のC3~C6シクロアルキル、非置換のC3~C6シクロアルケニル、非置換のC3~C6シクロアルキニル、非置換のアミノ、及び非置換のC1~C5アルコキシからなる群より選択される1価基であることがより好ましい。R2は、好ましくは結合又は置換若しくは非置換のC1~C10アルキレン基であり、より好ましくは結合、メチレン、エチレン、プロピレン又はブチレンであり、さらに好ましくは結合又はエチレンである。
【0067】
R3、R3'及びR3''は、互いに独立して、結合、置換若しくは非置換の2価の炭化水素基、アミド基(-CO-NH-)、エステル基(-CO-O-)、又はウレタン基(-O-CO-NH-)であることが好ましく、結合、置換若しくは非置換のC1~C20アルキレン、置換若しくは非置換のC2~C20アルケニレン、置換若しくは非置換のC2~C20アルキニレン、置換若しくは非置換のC3~C20シクロアルキレン、置換若しくは非置換のC4~C20シクロアルケニレン、置換若しくは非置換のC4~C20シクロアルキニレン、置換若しくは非置換の3~6員のヘテロシクロアルキレン、置換若しくは非置換のC7~C20シクロアルキルアルキレン、置換若しくは非置換の3~6員のヘテロシクロアルキル-C1~C20アルキレン、置換若しくは非置換のC4~C20アリーレン、置換若しくは非置換のC5~C20アリールアルキレン、置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリーレン、又は置換若しくは非置換の5~15員のヘテロアリール-C1~C20アルキレン、アミド基(-CO-NH-)、エステル基(-CO-O-)、又はウレタン基(-O-CO-NH-)であることがより好ましい。前記2価の炭化水素基は、1個以上の複素原子、アミド基(-CO-NH-)、エステル基(-CO-O-)、又はウレタン基(-O-CO-NH-)を含んでもよい。前記基が置換されている場合、該置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素)、シアノ、ニトロ、置換若しくは非置換のC1~C5アルキル、置換若しくは非置換のC2~C5アルケニル、置換若しくは非置換のC2~C5アルキニル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルキル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルケニル、置換若しくは非置換のC3~C6シクロアルキニル、置換若しくは非置換のアミノ、及び置換若しくは非置換のC1~C5アルコキシからなる群より選択される1価基であることが好ましく、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素又はヨウ素)、シアノ、ニトロ、非置換のC1~C5アルキル、非置換のC2~C5アルケニル、非置換のC2~C5アルキニル、非置換のC3~C6シクロアルキル、非置換のC3~C6シクロアルケニル、非置換のC3~C6シクロアルキニル、非置換のアミノ、及び非置換のC1~C5アルコキシからなる群より選択される1価基であることがより好ましい。R3、R3'及びR3''は、好ましくは互いに独立して、結合、置換若しくは非置換のC1~C10アルキレン基、アミド基を含む置換若しくは非置換のC1~C10アルキレン基又はアミド基(-CO-NH-)であり、より好ましくは互いに独立して、結合、メチレン、エチレン、-CO-NH-(CH2)4-、-CH2-O-CO-NH-(CH2)3-又は-CO-NH-である。
【0068】
R2、R3、R3'及びR3''が前記基である場合、式(I)で表される化合物のアドレノメデュリン活性を、天然型アドレノメデュリンと実質的に略同等のものとすることができる。また、式(I)で表される化合物は、望ましくない副反応を実質的に抑制しつつ、生体内において、持続的にアドレノメデュリン活性を発揮することができる。
【0069】
特に好適な修飾基Aは、以下の式(V-1-1)、(VI-1-1)、(VII-1-1)、(VII-1-2)、(VII-2-1)、又は(VIII-1-1):
【0070】
【0071】
[式中、
nは、前記定義と同様の意味を有し、
n'は、nに関する前記定義と同様の意味を有し、
*は、残部分との結合位置である。]
で表される修飾基である。
【0072】
式(V-1-1)において、PEG基は、好ましくは合計で5 kDa、10 kDa、20 kDa、30 kDa、40 kDa、60 kDa又は80 kDaの重量平均分子量を有する。
【0073】
式(VI-1-1)において、PEG基は、好ましくは合計で40 kDaの重量平均分子量を有する。
【0074】
式(VII-1-1)において、PEG基は、好ましくは合計で5 kDa、10 kDa、20 kDa、30 kDa、40 kDa、60 kDa又は80 kDaの重量平均分子量を有する。
【0075】
式(VII-1-2)において、PEG基は、好ましくは合計で50 kDaの重量平均分子量を有する。この場合、通常は、(CH2CH2O)nのエチレンオキシド単位は、合計で40 kDaの重量平均分子量を有し、(CH2CH2O)n'のエチレンオキシド単位は、合計で10 kDaの重量平均分子量を有する。
【0076】
式(VII-2-1)において、PEG基は、好ましくは合計で40 kDaの重量平均分子量を有する。この場合、通常は、(CH2CH2O)nのエチレンオキシド単位は、合計で30 kDaの重量平均分子量を有し、(CH2CH2O)n'のエチレンオキシド単位は、合計で10 kDaの重量平均分子量を有する。或いは、PEG基は、好ましくは合計で60 kDaの重量平均分子量を有する。この場合、通常は、(CH2CH2O)nのエチレンオキシド単位は、合計で50 kDaの重量平均分子量を有し、(CH2CH2O)n'のエチレンオキシド単位は、合計で10 kDaの重量平均分子量を有する。或いは、PEG基は、好ましくは合計で80 kDaの重量平均分子量を有する。この場合、通常は、(CH2CH2O)nのエチレンオキシド単位は、合計で70 kDaの重量平均分子量を有し、(CH2CH2O)n'のエチレンオキシド単位は、合計で10 kDaの重量平均分子量を有する。
【0077】
式(VIII-1-1)において、PEG基は、好ましくは合計で40 kDaの重量平均分子量を有する。
【0078】
修飾基Aとして前記の基を使用することにより、式(I)で表される化合物は、天然型アドレノメデュリンの薬理作用を維持しつつ、望ましくない副反応を実質的に抑制し、生体内において、持続的にアドレノメデュリン活性を発揮することができる。
【0079】
式(I)において、ペプチド部分Bは、そのN末端のαアミノ基の窒素原子がメチレン基の炭素原子と共有結合することによって残部分と連結されていることが必要である。本発明において、1個以上のPEG基を含む修飾基Aとペプチド部分Bとが前記連結様式で連結されている場合、「アルキルアミン連結型アドレノメデュリン誘導体」と記載する場合がある。アルキルアミン連結型アドレノメデュリン誘導体は、kubo, Kら, Biological properties of adrenomedullin conjugated with polyethylene glycol. Peptides, 2014年, 第57巻, p. 118-21に記載のアドレノメデュリン誘導体のように、アドレノメデュリンのN末端のαアミノ基の窒素原子がアミド結合を形成することによって残部分と連結されているアドレノメデュリン誘導体(以下、「アミド連結型アドレノメデュリン誘導体」とも記載する)と比較して、より高いアドレノメデュリン活性を有する。また、本発明の式(I)で表されるアルキルアミン連結型アドレノメデュリン誘導体は、アミド連結型アドレノメデュリン誘導体と比較して、望ましくない副反応(例えば、過度の血圧低下、反射性の交感神経活性上昇に伴う頻脈、及び/又はレニン活性の上昇等)がより抑制される。それ故、本発明の式(I)で表される化合物は、公知のアドレノメデュリン誘導体と比較して、望ましくない副反応をより抑制しつつ、生体内において、持続的にアドレノメデュリン活性を発揮することができる。
【0080】
特に好適な式(I)で表される化合物は、以下:
Aが、式(V-1-1)、(VI-1-1)、(VII-1-1)、(VII-1-2)、(VII-2-1)、又は(VIII-1-1)で表される、PEG基を含む修飾基であり、
Bが、以下:
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号1のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(b)配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号3のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(c)配列番号5のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号5のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(d)配列番号7のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号7のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(e)配列番号9のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号9のアミノ酸配列からなり、且つ14位のシステイン残基と19位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(f)配列番号11のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号11のアミノ酸配列からなり、且つ14位のシステイン残基と19位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(i)(a)~(f)のいずれかのペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド;及び
(j)(a)~(f)のいずれかのペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド;からなる群より選択されるペプチドであるか、或いは、
以下:
(h')(a)~(d)のいずれかのペプチドにおいて、N末端側から1~15位、1~10位又は1~5位のアミノ酸残基が欠失されており、且つアドレノメデュリン活性を有する、或いは、(e)又は(f)のペプチドにおいて、N末端側から1~13位、1~8位又は1~5位のアミノ酸残基が欠失されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド;
(i)(h')のペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド;及び
(j)(h')のペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド;
からなる群より選択されるペプチドである、アドレノメデュリン又はアドレノメデュリン活性を有するその修飾体から誘導されるペプチド部分である。前記特徴を有する式(I)で表される化合物は、天然型アドレノメデュリンの薬理作用を維持しつつ且つ望ましくない副反応を実質的に抑制して、生体内において、持続的にアドレノメデュリン活性を発揮することができる。
【0081】
本発明の剤に含まれるアドレノメデュリン誘導体の別の態様は、以下の(X):
【0082】
【0083】
で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの水和物に関する。本明細書において、式(X)で表される化合物を、「ウレタン連結型アドレノメデュリン誘導体」と記載する場合がある。
【0084】
式(X)において、Bは、本発明の剤に含まれるアドレノメデュリン又はアドレノメデュリン活性を有するその修飾体から誘導されるペプチド部分であることが必要である。ペプチド部分Bは、式(I)で表される化合物に関する前記定義と同様の意味を有する。
【0085】
A'は、1個以上のPEG基を含む修飾基であることが必要である。但し、A'は、PEG基を含む修飾基の酸素原子が、カルボニル基の炭素原子と共有結合することによって残部分と連結されていることが必要である。修飾基A'がこのような構造を有することにより、式(X)で表される化合物は、ウレタン結合を介して修飾基A'及びペプチド部分Bが連結されている構造を有することができる。
【0086】
A'は、以下の式(XI)、(XI')又は(XII):
【0087】
【0088】
で表される修飾基であることが好ましい。
【0089】
式(XI)、(XI')及び(XII)において、*は、残部分との結合位置である。
【0090】
式(XI)、(XI')及び(XII)において、a、R1、R1’、R2、R3、R3'、R3''、M1、M3、M3'及びM3''は、式(I)で表される化合物に関する前記定義と同様の意味を有する。
【0091】
特に好適な修飾基A'は、以下の式(XI-1-1)、(XII-1-1)又は(XII-2-1):
【0092】
【0093】
[式中、
nは、前記定義と同様の意味を有し、
n'は、nに関する前記定義と同様の意味を有し、
*は、残部分との結合位置である。]
で表される修飾基である。
【0094】
式(XI-1-1)において、PEG基は、好ましくは合計で5 kDa、10 kDa、20 kDa、30 kDa、40 kDa、60 kDa又は80 kDaの重量平均分子量を有する。
【0095】
式(XII-1-1)において、PEG基は、好ましくは合計で5 kDa、10 kDa、20 kDa、30 kDa、40 kDa、60 kDa又は80 kDaの重量平均分子量を有する。
【0096】
式(XII-2-1)において、PEG基は、好ましくは合計で40 kDaの重量平均分子量を有する。この場合、通常は、(CH2CH2O)nのエチレンオキシド単位は、合計で30 kDaの重量平均分子量を有し、(CH2CH2O)n'のエチレンオキシド単位は、合計で10 kDaの重量平均分子量を有する。或いは、PEG基は、好ましくは合計で60 kDaの重量平均分子量を有する。この場合、通常は、(CH2CH2O)nのエチレンオキシド単位は、合計で50 kDaの重量平均分子量を有し、(CH2CH2O)n'のエチレンオキシド単位は、合計で10 kDaの重量平均分子量を有する。或いは、PEG基は、好ましくは合計で80 kDaの重量平均分子量を有する。この場合、通常は、(CH2CH2O)nのエチレンオキシド単位は、合計で70 kDaの重量平均分子量を有し、(CH2CH2O)n'のエチレンオキシド単位は、合計で10 kDaの重量平均分子量を有する。
【0097】
修飾基A'として前記の基を使用することにより、式(X)で表される化合物は、天然型アドレノメデュリンの薬理作用を維持しつつ、生体内において、持続的にアドレノメデュリン活性を発揮することができる。
【0098】
式(X)において、ペプチド部分Bは、そのN末端のαアミノ基の窒素原子がカルボニル基の炭素原子と共有結合することによって残部分と連結されていることが必要である。ウレタン連結型アドレノメデュリン誘導体は、kubo, Kら, Biological properties of adrenomedullin conjugated with polyethylene glycol. Peptides, 2014年, 第57巻, p. 118-21に記載のアミド連結型アドレノメデュリン誘導体と比較して、より高いアドレノメデュリン活性を有する。それ故、本発明の式(X)で表される化合物は、公知のアドレノメデュリン誘導体と比較してより高いアドレノメデュリン活性を、生体内において持続的に発揮することができる。
【0099】
特に好適な式(X)で表される化合物は、以下:
A'が、式(XI-1-1)、(XII-1-1)又は(XII-2-1)で表される、PEG基を含む修飾基であり、
Bが、以下:
(a)配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号1のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(b)配列番号3のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号3のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(c)配列番号5のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号5のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(d)配列番号7のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号7のアミノ酸配列からなり、且つ16位のシステイン残基と21位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(e)配列番号9のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号9のアミノ酸配列からなり、且つ14位のシステイン残基と19位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(f)配列番号11のアミノ酸配列からなるペプチド、又は配列番号11のアミノ酸配列からなり、且つ14位のシステイン残基と19位のシステイン残基とがジスルフィド結合を形成しているペプチド;
(i)(a)~(f)のいずれかのペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド;及び
(j)(a)~(f)のいずれかのペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド;
からなる群より選択されるペプチドであるか、或いは、
以下:
(h')(a)~(d)のいずれかのペプチドにおいて、N末端側から1~15位、1~10位又は1~5位のアミノ酸残基が欠失されており、且つアドレノメデュリン活性を有する、或いは、(e)又は(f)のペプチドにおいて、N末端側から1~13位、1~8位又は1~5位のアミノ酸残基が欠失されており、且つアドレノメデュリン活性を有するペプチド;
(i)(h')のペプチドにおいて、C末端がアミド化されているペプチド;及び
(j)(h')のペプチドにおいて、C末端にグリシン残基が付加されているペプチド;
からなる群より選択されるペプチドである、アドレノメデュリン又はアドレノメデュリン活性を有するその修飾体から誘導されるペプチド部分である。前記特徴を有する式(X)で表される化合物は、公知のアドレノメデュリン誘導体と比較してより高いアドレノメデュリン活性を、生体内において持続的に発揮することができる。
【0100】
本発明において、アドレノメデュリン及びその修飾体、並びに式(I)及び(X)で表される化合物は、該化合物自体だけでなく、その塩も包含する。前記化合物が塩の形態である場合、薬学的に許容し得る塩であることが好ましい。前記化合物の塩の対イオンとしては、限定するものではないが、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、若しくは置換若しくは非置換のアンモニウムイオンのようなカチオン、又は塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、リン酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、過塩素酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、プロピオン酸イオン、乳酸イオン、マレイン酸イオン、ヒドロキシマレイン酸イオン、メチルマレイン酸イオン、フマル酸イオン、アジピン酸イオン、安息香酸イオン、2-アセトキシ安息香酸イオン、p-アミノ安息香酸イオン、ニコチン酸イオン、ケイ皮酸イオン、アスコルビン酸イオン、パモ酸イオン、コハク酸イオン、サリチル酸イオン、ビスメチレンサリチル酸イオン、シュウ酸イオン、酒石酸イオン、リンゴ酸イオン、クエン酸イオン、グルコン酸イオン、アスパラギン酸イオン、ステアリン酸イオン、パルミチン酸イオン、イタコン酸イオン、グリコール酸イオン、グルタミン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、シクロヘキシルスルファミン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、エタンスルホン酸イオン、イセチオン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、p-トルエンスルホン酸イオン、若しくはナフタレンスルホン酸イオンのようなアニオンが好ましい。前記化合物が前記の対イオンとの塩の形態である場合、該化合物のアドレノメデュリン活性を、天然型アドレノメデュリンと実質的に略同等のものとすることができる。
【0101】
アドレノメデュリン及びその修飾体、並びに式(I)及び(X)で表される化合物は、前記の化合物自体だけでなく、該化合物又はその塩の溶媒和物も包含する。前記化合物又はその塩が溶媒和物の形態である場合、薬学的に許容し得る溶媒和物であることが好ましい。前記化合物又はその塩と溶媒和物を形成し得る溶媒としては、限定するものではないが、例えば、水、或いはメタノール、エタノール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、酢酸、エタノールアミン、アセトニトリル又は酢酸エチルのような有機溶媒が好ましい。前記化合物又はその塩が前記の溶媒との溶媒和物の形態である場合、該化合物のアドレノメデュリン活性を、天然型アドレノメデュリンと実質的に略同等のものとすることができる。
【0102】
アドレノメデュリン及びその修飾体、並びに式(I)及び(X)で表される化合物は、前記又は下記の化合物自体だけでなく、その保護形態も包含する。本明細書において、「保護形態」は、1個又は複数個の官能基(例えばリジン残基の側鎖アミノ基)に保護基が導入された形態を意味する。また、本明細書において、「保護基」は、望ましくない反応の進行を防止するために、特定の官能基に導入される基であって、特定の反応条件において定量的に除去され、且つそれ以外の反応条件においては実質的に安定、即ち反応不活性である基を意味する。前記化合物の保護形態を形成し得る保護基としては、限定するものではないが、例えば、t-ブトキシカルボニル(Boc)、2-ブロモベンジルオキシカルボニル(BrZ)、9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)、p-トルエンスルホニル(Tos)、ベンジル(Bzl)、4-メチルベンジル(4-MeBzl)、2-クロロベンジルオキシカルボニル(ClZ)、シクロヘキシル(cHex)、及びフェナシル(Pac);アミノ基の他の保護基として、ベンジルオキシカルボニル、p-クロロベンジルオキシカルボニル、p-ブロモベンジルオキシカルボニル、p-ニトロベンジルオキシカルボニル、p-メトキシベンジルオキシカルボニル、ベンズヒドリルオキシカルボニル、2-(p-ビフェニル)イソプロピルオキシカルボニル、2-(3,5-ジメトキシフェニル)イソプロピルオキシカルボニル、p-フェニルアゾベンジルオキシカルボニル、トリフェニルホスホノエチルオキシカルボニル、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル、t-アミルオキシオキシカルボニル、ジイソプロピルメチルオキシカルボニル、イソプロピルオキシカルボニル、エチルオキシカルボニル、アリルオキシカルボニル、2-メチルスルホニルエチルオキシカルボニル、2,2,2-トリクロロエチルオキシカルボニル、シクロペンチルオキシカルボニル、シクロヘキシルオキシカルボニル、アダマンチルオキシカルボニル、イソボルニルオキシカルボニル、ベンゼンスルホニル、メシチレンスルフォニル、メトキシトリメチルフェニルスルホニル、2-ニトロベンゼンスルホニル、2-ニトロベンゼンスルフェニル、4-ニトロベンゼンスルホニル、及び4-ニトロベンゼンスルフェニル;カルボキシル基の他の保護基として、メチルエステル、エチルエステル、t-ブチルエステル、p-メトキシベンジルエステル、及びp-ニトロベンジルエステル;Argの他の側鎖保護基として、2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロベンゾフラン-5-スルホニル、4-メトキシ-2,3,6-トリメチルベンゼンスルホニル、2,2,5,7,8-ペンタメチルクロマン-6-スルホニル、及び2-メトキシベンゼンスルホニル;Tyrの他の保護基として、2,6-ジクロロベンジル、t-ブチル、及びシクロヘキシル;Cysの他の保護基として、4-メトキシベンジル、t-ブチル、トリチル、アセトアミドメチル、及び3-ニトロ-2-ピリジンスルフェニル;Hisの他の保護基として、ベンジルオキシメチル、p-メトキシベンジルオキシメチル、t-ブトキシメチル、トリチル、及び2,4-ジニトロフェニル;並びに、Ser及びThrの他の保護基として、t-ブチル等を挙げることができる。前記化合物が前記の保護基による保護形態である場合、該化合物のアドレノメデュリン活性を、天然型アドレノメデュリンと実質的に略同等のものとすることができる。
【0103】
また、アドレノメデュリン及びその修飾体、並びに式(I)及び(X)で表される化合物は、該化合物の個々のエナンチオマー及びジアステレオマー、並びにラセミ体のような、該化合物の立体異性体の混合物も包含する。
【0104】
前記特徴を有することにより、式(I)及び(X)で表される化合物は、天然型アドレノメデュリンの薬理作用を維持しつつ且つ望ましくない副反応を実質的に抑制して、生体内において、持続的にアドレノメデュリン活性を発揮することができる。
【0105】
本発明の式(I)及び(X)で表される化合物は、生体内において、親分子であるアドレノメデュリンと実質的に略同等の生物活性(すなわちアドレノメデュリン活性)を、持続的に発現することができる。
【0106】
上述したようなアドレノメデュリンの誘導体や、国際公開第2012/096411号、国際公開第2015/141819号、国際公開第2017/047788号、或いは国際公開第2018/181638号に記載されたアドレノメデュリンの誘導体等は、上記出願における実施例から理解できるように、生体においてアドレノメデュリンを誘導し得るため、本発明の治療剤等に含まれる成分として適している。
【0107】
本発明の剤は、経口的又は静脈内、動脈内、筋肉内、皮下、皮内、腹腔内、経鼻、直腸内、口腔内、眼内、耳内、舌下等の非経口的に全身又は局所へ末梢投与することができる。本明細書において、末梢投与とは脳内投与以外の投与ルートを意味する。また、本発明の剤は、脳室内ポンプによって脳へ直接的に投与してもよい。経口的に投与する場合には、食前、食後、食間を問わない。本発明の剤の好ましい投与経路としては、経鼻による投与が好ましい。
【0108】
本発明の剤の剤形としては、例えば、水、生理食塩水等の希釈液又は分散媒に有効量のアドレノメデュリン若しくはその修飾体、若しくはそれらの誘導体、又はそれらの塩等を溶解、分散、乳化させた注射剤、クリーム、軟膏、飲料剤、エアロゾル、皮膚ゲル、点眼剤、点鼻剤等の液剤;錠剤、カプセル剤、散剤、粉末製剤、顆粒剤、徐放剤、坐薬等の固形剤などを用いることができ、これらは有効成分がリポソームや徐放性材料等に封入された封入体や担体に担持された担持体などの形態であってもよい。本発明の剤はその剤形に格別の制限はなく、経口製剤、非経口製剤のいずれでもよいが、好ましくは、非経口製剤であり、より好ましくは経鼻投与用の非経口製剤である。本発明の剤の剤形は、単位用量形態の製剤であってもよく、複数投与形態の製剤であってもよい。
【0109】
経口剤としては、錠剤、散剤、粉末製剤、顆粒剤、細粒剤、丸剤、カプセル剤、トローチ剤、チュワブル剤、液剤、乳剤、マイクロカプセル剤、懸濁剤、エリキシル剤、シロップ剤、徐放性製剤等が挙げられ、これらは有効成分がリポソームや徐放性材料等に封入された封入体や担体に担持された担持体などの形態であってもよい。
【0110】
非経口剤としては、水、生理食塩水等の希釈液又は分散媒に有効量のアドレノメデュリン若しくはその修飾体、若しくはそれらの誘導体、又はそれらの塩を溶解、分散、乳化させた注射剤、輸液、クリーム、軟膏、エアロゾル、皮膚ゲル、点眼剤、点鼻剤等の液剤が挙げられる。或いは、粉末製剤、経皮パッチ剤、ローション剤、軟膏剤、パップ剤又は坐剤の形態であってもよい。
【0111】
発明の剤は、必要に応じて、担体、結合剤、賦形剤、膨化剤、滑沢剤、流動性改善剤、粘稠性剤、甘味剤、香味剤、防腐剤、乳化剤、被覆剤、希釈剤等を含有することができる。
【0112】
本発明の剤において、含有することができる具体的な成分としては、例えば、トラガント、アラビアゴム、コーンスターチ及びゼラチンのような結合剤;D-マンニトール、エリスリトール、マルチトール、キシリトール、パラチノース、トレハロース、ソルビトール、デンプン、微晶性セルロース、結晶セルロース、デキストランのような賦形剤;コーンスターチ、前ゼラチン化デンプン、アルギン酸、デキストリンのような膨化剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムのような滑沢剤;微粒二酸化ケイ素、メチルセルロースのような流動性改善剤;ショ糖、乳糖、アスパルテーム、サッカリン、サッカリンナトリウムのような甘味剤;パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤;ペパーミント、メントール、レボメントール、バニラ香料及びチェリー又はオレンジのような香味剤;モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチンなどの乳化剤;グリセリン脂肪酸エステルのような被覆剤;炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウムなどの希釈剤等が挙げられる。
【0113】
また、種々の他の材料を、製剤の物理的形態を変化させるために含有させることができる。錠剤の被覆剤としては、例えば、シェラック、砂糖又はその両方などが挙げられる。シロップ剤又はエリキシル剤は、例えば、甘味剤としてショ糖、防腐剤としてメチルパラベン及びプロピルパラベン、色素及びチェリー又はオレンジ香味等などを含有することができる。その他、各種ビタミン類、各種アミノ酸類を含んでもよい。腸溶製剤とするときは、例えば、ヒドロキシメチルセルロースの水溶液を被覆前処理剤とし、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートの水溶液及びポリアセチンの水溶液を被覆剤として常法により腸溶製剤とすればよい。
【0114】
本発明の剤の剤形としては、エアロゾル剤(特に、経鼻吸入用エアロゾル剤)、点鼻剤(特に、点鼻液剤)、粉末製剤(特に、粉末状経鼻製剤)が好ましい。
粉末製剤の場合、例えば、吸入器を用いて、鼻腔内に乾燥粉末を投与してもよく、これは、有効成分を単独で含んでもよく、有効成分とラクトースなどの希釈剤との粉末混和物、又は有効成分と、ホスファチジルコリンなどのリン脂質とを含有する混合成分粒子を含んでもよい。鼻腔内使用のために、粉末は、例えば、キトサン又はシクロデキストリンなどの生体付着剤を含んでもよい。粉末製剤は、吸入器や吹き付け器(insufflator)において使用する際、カプセル、ブリスター及びカートリッジ(例えば、ゼラチン又はヒドロキシプロピルメチルセルロース製のもの)に充填して使用してもよい。上記カプセル等に充填する場合、本発明の剤は、アドレノメデュリン若しくはその修飾体、若しくはそれらの誘導体、又はそれらの塩と、ラクトースやデンプンなどの好適な粉末基剤、及びL-ロイシン、マンニトール、ステアリン酸マグネシウムなどの性能調節剤の粉末混合物として製剤化してもよい。ラクトースは、無水物であってもよいし、一水和物の形態にしてもよい。他の好ましい基剤としては、デキストラン、グルコース、マルトース、ソルビトール、キシリトール、フルクトース、スクロース、トレハロースなどが挙げられる。
【0115】
エアロゾル剤の場合、加圧コンテナ、ポンプ、スプレー、噴霧器、若しくはネブライザーを用いて、有効成分と、有効成分の分散、可溶化、若しくはその延長放出のための1種又は複数の薬剤(例えば、含水若しくは非含水エタノール、推進剤の役割を果たす1種又は複数の溶媒(例えば、1,1,1,2-テトラフルオロエタン若しくは1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン)、並びにトリオレイン酸ソルビタン、オレイン酸、若しくはオリゴ乳酸などの任意選択の界面活性剤を含む溶液又は懸濁液からエアロゾルを生成させて、鼻腔内に投与してもよい。電気流体力学を使用する噴霧器を用いて、霧状ミストを生成させて、鼻腔内に投与してもよい。
【0116】
電気流体力学を使用して霧状ミストを生成する噴霧器に用いるための好適なエアロゾル剤は、作動毎に約1μg~約20 mgの有効成分を含有してよく、作動容量は、約1μl~約100μlまで変動し得る。典型的なエアロゾル剤は、アドレノメデュリン若しくはその修飾体、若しくはそれらの誘導体、又はそれらの塩、プロピレングリコール、滅菌水、エタノール、及びNaClを含んでもよい。プロピレングリコールの代わりに使用することができる別の溶媒としては、グリセロール及びポリエチレングリコールが挙げられる。
【0117】
経鼻吸入による投与、鼻腔内投与、又はその両方のための製剤は、例えば、PGLAを用いた即時又は調節放出となるように製剤化してもよい。また、メントール、レボメントールなどの好適な香味料、又はサッカリン、サッカリンナトリウムなどの甘味料を、経鼻吸入/鼻腔内投与が意図される製剤に添加してもよい。
【0118】
本発明の剤の投与対象としては、ヒト、ヒト以外の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル等)等が挙げられる。なお、ヒト以外の哺乳動物に適応する場合、本発明の剤の投与量は、動物の体重や大きさに応じて適宜加減すればよい。
【0119】
本発明の剤について、成人1日あたりの有効成分であるアドレノメデュリンの投与量は、性別、年齢、体重、その症状、投与経路、剤型等によって適宜調整が必要であるが、経口剤の場合には、通常、約0.1μg/kg~約100 mg/kgの範囲であり、0.6μg/kg~6 mg/kgの範囲が好ましい。非経口剤の場合には、通常、約0.01μg/kg~約100 mg/kgの範囲であり、0.06μg/kg~600μg/kgの範囲が好ましい。特に、経鼻投与用の非経口剤の場合、例えば、製剤中のアドレノメデュリンの濃度は、通常、約60μg/ml~約180μg/ml、好ましくは、約80μg/ml~約160μg/ml、より好ましくは、約120μg/mlである。
【0120】
本発明の剤は、上記1日あたりの投与量を、一度に、又は複数回に分けて投与してもよい。また、投与のタイミングは、食前、食後、食間を問わない。また投与間隔は特に限定されないが、毎日でも、隔日でも、間欠投与であってもよい。投与期間は特に限定されないが、長期投与が可能である。
【0121】
本発明の剤は、他の薬剤と併用して使用することができる。併用に際しては、本発明の剤と、他の薬剤とを単一の医薬の形態で提供されてもよく、別々に製剤化された複数の製剤を含む医薬組合せ又はキットの形態で提供されてもよい。本発明の剤と併用する薬剤の投与時期は限定されず、本発明の剤と併用する薬剤とを、投与対象に対し、同時に投与してもよいし、別々に(例:連続、時間を置いて等)投与してもよい。併用する薬剤の投与量は、臨床上用いられている投与量に準ずればよく、投与対象、投与経路、疾患、組み合わせ等により適宜選択することができる。
【0122】
本発明の剤と併用し得る薬剤としては、アルツハイマー病、軽度認知機能障害(MCI)筋委縮性側索硬化症、ハンチントン病、脊髄小脳変性症、多発性硬化症、クロイツフェルト・ヤコブ病、進行性多巣性白質脳症、レビー小体型認知症、皮質基底核変性症、筋委縮性側索硬化症、パーキンソン病、パーキンソン症候群、前頭側頭型認知症、脊髄小脳変性症、痙性対麻痺、脊髄小脳変性症、多発性硬化症、進行性多巣性白質脳症、非ヘルペス性急性辺縁系脳炎、加齢黄斑変性(前駆病変、萎縮型、滲出型を含む)の治療及び/又は予防に使用される薬剤であれば特に限定されない。
【0123】
具体的には、アルツハイマー病であれば、例えば、コリンエステラーゼ阻害薬、NMDA受容体拮抗薬、アミロイドβ除去薬及び産生抑制薬、並びにタウタンパク質除去薬及び産生抑制薬が挙げられる。
コリンエステラーゼ阻害薬としては、例えば、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、フペルジンA、及びタクリンが挙げられる。
NMDA受容体拮抗薬としては、例えば、メマンチンが挙げられる。
アミロイドβ除去薬及び産生抑制薬としては、例えば、アミロイドβワクチン、アミロイドβ除去抗体、アミロイドβ産生酵素阻害剤、アミロイドβ凝集抑制剤及びアミロイドβ分解促進剤が挙げられる。具体的には、CNP-520、E-2609、aducanumab、solanezumab、gantenerumab、crenezumab、amilomotide、ASD-005、HSH-971、ELND-005、ALZT-OP1、nilvadipine、ACI-24、UB-311、AFFITOPE AD-02、LY-3002813、BAN-2401、Neurostem-AD、CT-1812、ID-1201、NIC5-15、BI-425809、Posiphen、PQ-912、bryostatin-1、Apabetalone、PBT-2、RIV-1061-IR、MEDI-1814、PF-05236812、SAR-228810、Lu-AF20513、PRI-002、IRX-4204、GC-021109、AAD-2004、CTS-21166、LY-3323795、benfotiamine、bisnorcymserine、MDR-1339、KHK-6640、及びNPT-088が挙げられる。
タウタンパク質除去薬及び産生抑制薬としては、例えば、タウタンパク質ワクチン、タウタンパク質除去抗体、タウタンパク質修飾抑制剤、タウタンパク質凝集抑制剤、及びタウタンパク質分解促進剤が挙げられる。具体的には、TRx-237、TPI-287、ABBV-8E12、RG-6100、AADvac1、RO7105705、PTI-80、JNJ-63733657、UCB-0107、BIIB-076、MC-1、ACI-35、及びAZP-2006が挙げられる。
上記薬剤は、対象の症状に合わせて、適宜組み合わせて使用してもよい。
【0124】
また、具体的には、加齢黄斑変性であれば、Aflibercept、Verteporfin、Pegaptanib sodium、Ranibizumab等が挙げられる。該薬剤は、対象の症状に合わせて、適宜組み合わせて使用してもよい。
【0125】
本発明において上記併用剤の投与量は、副作用が問題とならない範囲でどのような量を設定することも可能である。併用する薬剤の1日投与量は、症状の程度、投与対象の年齢、性別、体重、感受性差、投与の時期、間隔、医薬製剤の性質、調剤、種類、有効成分の種類などによて異なり、特に限定されない。
【0126】
2.異常タンパク質蓄積性神経変性疾患の治療及び/又は予防方法
本発明の異常タンパク質蓄積性神経変性疾患の治療及び/又は予防方法(以下、「本発明の方法」ともいう)は、該疾患に罹患する対象に、有効量のアドレノメデュリン又はアドレノメデュリン活性を有するその修飾体、若しくはそれらの誘導体、又はそれらの塩等を投与する工程を含む。本発明の方法における治療等の対象疾患、投与されるアドレノメデュリン、その投与量、投与経路、投与レジメン、併用療法等に関するすべての必要な内容については、上記「1.異常タンパク質蓄積性神経変性疾患の治療及び/又は予防剤」の内容をすべて援用し得る。
【実施例】
【0127】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0128】
実施例1:Aβ脳室内単回投与マウスの学習記憶障害に対するAMの改善作用の検討
アルツハイマー病モデル動物であるアミロイドβ脳室内単回投与マウスの学習記憶障害に対するアドレノメデュリンの改善作用を、Y迷路試験を用いて評価した。
【0129】
(試験動物)
上記試験では、5週齢のSlc:ddY雄性マウス(日本エスエルシー株式会社)を入手し、5日間の検疫期間と、その後3日の馴化期間を設けた。この間に体重測定(電子天秤:PB3002-S/FACT、ME3002、メトラー・トレド株式会社)を3回、及び一般状態の観察を1日1回行った。体重推移及び一般状態に異常の認められない動物を群分けに用いた。群分けを、コンピュータプログラム(IBUKI、株式会社日本バイオリサーチセンター)を用いて、体重を層別に分けたのち、無作為抽出法により各群の平均体重がほぼ等しくなるように行った。
【0130】
(試験における群構成)
群構成は、各群8匹で、以下:
(1)コントロールとして、注射用水を脳室内投与し、媒体(0.5%メチルセルロース(メトローズ(登録商標)SM-100(信越化学工業株式会社))(以下、「MC」ともいう)を経口投与し、生理食塩液を経鼻投与する偽手術群(Sham-operation)、
(2)Aβ(PolyPeptide Laboratories)を脳室内投与し、媒体(0.5%MC)を経口投与し、生理食塩液を経鼻投与する媒体対照群(Vehicle)、
(3)Aβを脳室内投与し、AM(ペプチド研究所)を経鼻投与し、媒体(0.5%MC)を経口投与する、AM 1.2μg/body群、
(4)Aβを脳室内投与し、AMを経鼻投与し、媒体(0.5%MC)を経口投与する、AM 12μg/body群、及び
(5)Aβを脳室内投与し、陽性対照群としてドネペジル塩酸塩を経口投与し、生理食塩液を経鼻投与するドネペジル0.5 mg/kg群
を設けた。
【0131】
(試験における動物モデル作製用物質及び被験物質等)
アミロイドβタンパク質(25-35)(PolyPeptide Laboratories)に、注射用水を2 mMとなるように加えて溶解し、動物モデル作製用物質であるAβ溶液を調製した。
AM(10mg/バイアル(ペプチド含有量83.6 %)(ペプチド研究所))を、1 mlの注射用水に完全に溶解させて均一な溶液とした(8.36 mg/ml)。その後、生理食塩水で希釈(69.2倍、692倍)し、被検物質である、AM(12μg/ml)とAM(120μg/ml)を調製した。
上記被験物質に対する陽性対照物質として、ドネペジル塩酸塩(エーザイ株式会社)をメノウ乳鉢に入れて磨砕し、0.5% MCを少量ずつ加えて、所定濃度とした。なお、陽性対照物質は、塩換算(換算係数:1.10)をして調製した。
【0132】
(試験における投与プロトコール)
0.5%MC、及び陽性対照物質の投与液量を、投与日のマウスの体重を基に、10 ml/kgで設定した。投与経路は経口、投与回数は、1日1回、合計9回とした。なお、Aβ注入日は、Aβ注入後に投与を行った。また、Y迷路試験日は、該試験を行う1時間前に投与を行った。
生理食塩液、並びに被験物質の投与液量及び投与経路は、マウス1匹あたり片鼻5μlで、両鼻腔内(10μl/両鼻)に投与した。投与回数は、1日1回、合計9回とした。なお、Aβ注入日は、Aβ注入後に投与を行った。また、Y迷路試験日は、該試験を行う1時間前に投与を行った。
【0133】
(試験スケジュール)
投与開始日を投与1日とし、投与3日にAβ溶液を注入した。その後、投与9日にY迷路試験を行った。
【0134】
(一般状態の観察及び体重測定)
マウスの一般状態を、1日1回、投与前に観察した。体重を、投与日ごとに測定(電子天秤:ME3002、メトラー・トレド株式会社)した。なお、体重測定は、投与前に行なった。
【0135】
(試験におけるAβの注入方法等)
ソムノペンチル(ペントバルビタールナトリウムとして64.8 mg/mL、共立製薬株式会社)を、40 mg/kgでマウスの腹腔内に投与(投与液量:10 mL/kg)して、麻酔した。麻酔後、頭皮にレボブピバカイン塩酸塩(ポプスカイン(登録商標)0.25%注、丸石製薬株式会社)を、皮下投与(0.1 ml)した。マウスの頭頂部の毛を刈り、頭部を脳定位固定装置に固定した。頭皮をイソジンで消毒後に切開して、頭蓋骨を露出させ、頭蓋骨上の結合組織を綿棒で取り除いた後、ブロワーで乾燥させてbregmaの位置を見易くした。歯科用ドリルを用いてbregmaより側方1 mm(右側)、後方0.2 mmの頭蓋骨にステンレス製パイプ刺入用の穴を開けた。骨表面から2.5 mmの深さまで外径0.5 mmのシリコンチューブ及びマイクロシリンジに接続されたステンレス製パイプを垂直に刺入した。脳室内に3μl(6 nmol/3μL)のAβ溶液(偽手術群は注射用水を3μl)をマイクロシリンジポンプで3分間かけて注入した。注入後は、ステンレス製パイプを挿入したまま3分間静置し、ステンレス製パイプをゆっくりと抜去した。頭蓋穴を非吸収性骨髄止血剤(ネストップ(登録商標)アルフレッサファーマ株式会社)で塞ぎ、頭皮を縫合した。マウスを脳定位固定装置から外し、飼育ケージに戻した。なお、ステンレス製パイプ及びシリコンチューブは、滅菌済みのものを使用した。
【0136】
(Y迷路試験(自発的交替行動試験)プロトコール)
試験には、1本のアームの長さが39.5 cm、床の幅が4.5 cm、壁の高さが12 cmで、3アームがそれぞれ120度に分岐しているプラスチック製のY字型迷路(有限会社ユニコム)を用いた。
試験における測定方法について、まず測定前に、迷路の床面の照度を、10~40 lx(実測値:10.0~12.9 lx)になるように調節した。測定は、投与9日の投与1時間後に行った。マウスを、Y字型迷路のいずれかのアームに置き、8分間迷路内を自由に探索させた。マウスが測定時間内に移動したアームの順番を記録し、アームに移動した回数を数え、総エントリー数とした。次に、この中で連続して異なる3つのアームを選択した組み合わせを調べ、この数を自発的交替行動数とした。さらに以下の式:
【0137】
【0138】
を用いて自発的交替行動率を算出した。計算例としては、Y字型迷路の各アームをA、B、Cとし、動物がACBABACBABの順で移動した場合は、自発的交替行動数はACB、CBA、BAC、ACB、CBAの5となり、これを総エントリー数10から2を引いた8で割った値に、100を掛けた数値62.5を、自発的交替行動率(自発的交替行動率(%)=[5/(10-2)]×100 = 62.5)とした。
【0139】
(試験結果1)
Y迷路試験(総エントリー数、自発的交替行動数、自発的交替行動率)において、各群の平均及び標準誤差を算出した。
有意差検定を、偽手術群と媒体対照群、媒体対照群とドネペジル群の2群間比較検定、媒体対照群とAM投与群の多重比較検定を行った。2群間比較検定は、F検定による等分散性の検定を行い、等分散を確認したため、Studentのt検定を行った。多重比較検定は、Bartlett検定による等分散性の検定を行い、等分散を確認したため、Dunnett検定を行った。
有意水準は5 %とし、5 %未満(p<0.05)と1%未満(p<0.01)に分けて表示した。なお、有意差検定には、市販の統計プログラム(SASシステム、SAS Institute Japan株式会社)を使用した。
【0140】
(試験結果2)
上記Y迷路試験の結果を、表1に示す。表中の数値は、平均±標準誤差(標準偏差)である。
【0141】
【0142】
表1に示されるように、媒体対照群は、偽手術群と比較して、自発的交替行動率(%)が有意に低下しており、短期記憶障害が認められた。また、陽性対照物質であるドネペジル0.5 mg/kg群は、媒体対照群と比較して、自発的交替行動率(%)が有意に上昇しており、短期記憶障害の改善が認められた。上記結果から、まず、本Y迷路試験系が成立していることが確認された。
【0143】
次に、AM 1.2μg/body群は、媒体対照群と比較して、自発的交替行動率(%)の有意な上昇がみられ、短期記憶障害の改善作用の再現性が認められた。高用量の12μg/body群においても自発的交替行動率(%)の有意な上昇がみられ、短期記憶障害の改善作用が示された。AM群はいずれの群においても、媒体対照群と比較して、自発的交替行動率(%)の有意な上昇がみられたが、AM 1.2μg/body群とAM 12μg/body群の間で用量間の差は小さかった。
以上の結果より、βアミロイド脳室内単回投与マウスの学習障害に対するAMの短期記憶障害の改善作用は、1.2μg/bodyで認められた。用量反応性については、AM 1.2μg/body群でプラトーに達している可能性があり、より少量での用量反応性が示唆された。また、経鼻投与により明確な効果が示されことは、今後のAMの普及にとって大きなメリットと考えられる。
【0144】
さらに、本試験系では、Aβを直接脳室内に直接投与し、蓄積させてアルツハイマー病の症状を模倣しており、コリンエステラーゼ阻害作用やNMDA受容体拮抗作用を有しないと考えられるアドレノメデュリンの投与により、該アルツハイマー病における短期記憶障害が改善した点を考慮すると、アドレノメデュリンは、Aβの脳室内での蓄積を阻害或いはAβ自体を分解していることが示唆された。それ故、本発明の剤は、アルツハイマー病だけではなく、Aβの蓄積に起因する神経変性に基づく疾患である、例えば、加齢黄斑変性にも有効であることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明の剤を用いることで、異常タンパク質蓄積性神経変性疾患の治療及び/又は予防が可能となる。また、本発明の剤は、既存のアルツハイマー病の治療剤であるコリンエステラーゼ阻害剤及びNMDA受容体拮抗剤、或いは既存の加齢黄斑変性の治療剤であるVEGF阻害剤等とは異なる作用機序で作用すると考えられるため、上記薬剤では効果が期待できなかった患者に対する新たな薬剤となり得る。
【0146】
本出願は日本で出願された特願2019-220695を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
【配列表】