(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】ろ過処理方法
(51)【国際特許分類】
B01D 24/00 20060101AFI20240606BHJP
【FI】
B01D29/08 520C
B01D29/08 530D
(21)【出願番号】P 2021136792
(22)【出願日】2021-08-25
【審査請求日】2023-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000197746
【氏名又は名称】株式会社石垣
(72)【発明者】
【氏名】氏家 秀隆
(72)【発明者】
【氏名】富澤 仁貴
(72)【発明者】
【氏名】西山 優
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-031356(JP,A)
【文献】特開2011-212645(JP,A)
【文献】国際公開第2020/261883(WO,A1)
【文献】特開平09-234309(JP,A)
【文献】特開2005-144230(JP,A)
【文献】中国実用新案第201760139(CN,U)
【文献】韓国登録特許第10-1150675(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D24/00-37/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろ過処理工程(S4)の前段で沈降性の粒状繊維ろ材(3)を圧密するろ過処理方法において、
ろ過槽(2)に貯留した圧密水を底部から排水し、繊維ろ材(3)を圧縮してろ材層(5)を形成する圧密工程(S2)と、
ろ過槽(2)に垂設したスクリュー軸(10)を回転し、スクリュー軸(10)に螺合した戻り防止部材(11)を下降させ、圧密工程(S2)で圧縮されたろ材層(5)による開放面への戻りが発生する前に、ろ材層(5)表層に戻り防止部材(11)を静置させてろ材層(5)の圧密を維持する戻り防止工程(S3)と、
を実施した後、
ろ過処理工程(S4)を開始する
ことを特徴とするろ過処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒状繊維ろ材を用いて被処理液のろ過を行う下向流式ろ過装置に関し、ろ過処理工程前段でろ材層を圧密させ、効率よくろ過を行うろ過装置およびろ過処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、沈降性の粒状繊維ろ材を内部に充填したろ過装置の上部から被処理液を供給して、被処理液中の夾雑物を除去するろ過処理方法が知られている。このろ過処理方法において、ろ過槽内に形成されたろ材層の空隙率が高い場合、被処理液中の夾雑物の粒子径が小さいと被処理液がろ材間を通過しやすくなり、被処理液中の夾雑物がろ材層で十分に捕捉されない。そのため、ろ過処理工程の前段でろ材層を圧密して層内の空隙率を低くし、ろ過能力を高める必要があった。
【0003】
特許文献1には、濾過工程の前段で濾過装置に供給した洗浄用水を濾過装置底部より排水させて濾層を濾過装置下部に圧縮させる技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には繊維ろ材層の一方に原水が流通可能で繊維ろ材の流出を防止するメッシュが張設された通水孔を有するろ材操作部材を備えたろ過装置が開示されている。このろ過装置は、ろ材支持部材側から供給する原水の流れの圧力によって繊維ろ材をろ材支持部材側へ摺動させ、繊維ろ材をろ材支持部材との間に挟みつけて圧縮した状態でろ過操作を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-234309号公報
【文献】特許第4475924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のろ過処理方法では、ろ過装置内に積層された粒状繊維ろ材同士が十分に圧密していないため、ろ材層の空隙率が高くなっている。これに伴い、上部より供給された被処理液に微小な粒子の割合が多く含まれていた場合には、含有する夾雑物がろ材層で十分に捕捉されないまま下部より排出されるため、ろ過精度を高めることができなかった。
【0007】
特許文献1では一時的に濾層を濾過装置下部に圧縮させることは可能であるが、濾過工程に移行する際あるいは濾過工程中に、濾層に作用する圧力が前記圧縮圧力以下となると、特に開放面近傍の濾層が緩んで上方に展開され、均一な圧密が維持できないことがある。被処理液は空隙率の高い濾層上部をすり抜けて濾層下部で集中的にろ過されるため、濾層全体を有効活用できず、長時間安定したろ過処理を行うことができないという課題がある。
【0008】
特許文献2では繊維ろ材を原水により圧縮するため、ろ過処理工程の初期は十分な圧密ができていない状態であり、原水中の懸濁物質がろ材層を通過して処理水とともに排出されるという課題がある。
【0009】
また、本出願人の実験により、押圧部材により繊維ろ材層を一方から押圧した場合、ろ材同士やろ材槽との摩擦力等によりろ材層の押圧部材側のみが圧密されることが判明している。先行文献2では繊維ろ材は原水の流れによる圧力で圧縮されるとともに、原水の流れによる圧力を受けたろ材支持部材により一方から押圧されている。しかし、流れによる圧縮作用よりろ材支持部材の面圧による圧縮作用が大きいため、繊維ろ材層ではろ材支持部材側の圧密度が高くなり、均一に圧縮されていないと推測できる。そのため、ろ過処理の早期に目詰まりが発生する可能性がある。
【0010】
さらに、繊維ろ材の洗浄時には処理水の排出側から供給した洗浄処理液の流れによる圧力でろ材支持部材を原水供給側に移動させている。つまり、ろ材支持部材は原水や洗浄処理液の流れによる圧力で移動自在に構成してあり、位置を固定させる手段を持ち合わせていない。ろ過処理工程で原水の供給圧力に応じてろ材支持部材が移動し、繊維ろ材層の圧密度が変動するため安定したろ過処理を行うことができないという課題がある。
【0011】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたもので、粒状繊維ろ材を使用したろ過装置を用いてろ過処理を行う場合に生じる従来の課題をすべて解決し、且つ高精度のろ過処理を長時間安定して行うことができるろ過装置及びろ過処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ろ過処理工程の前段で沈降性の粒状繊維ろ材を圧密するろ過処理方法において、ろ過槽に貯留した圧密水を底部から排水し、繊維ろ材を圧縮してろ材層を形成する圧密工程と、ろ過槽に垂設したスクリュー軸を回転し、スクリュー軸に螺合した戻り防止部材を下降させ、圧密工程で圧縮されたろ材層による開放面への戻りが発生する前に、ろ材層表層に戻り防止部材を静置させてろ材層の圧密を維持する戻り防止工程と、を実施した後、ろ過処理工程を開始するもので、ろ材層全体が均一で圧密度が高い安定した状態を形成でき、運転初期から長時間安定して清澄な処理水を得ることができる。また、ろ材層表層に戻り防止部材を静置させるので、圧密後のろ材層の緩みを防止した状態でろ過処理運転を開始できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のろ過処理方法は、特に、空隙率が高く圧縮性の大きい繊維ろ材に有効で、ろ材層形成時に発生する緩みを防止できる。そのため、ろ過処理工程の前段で均一で高い圧密度のろ材層を形成するため、運転初期から安定したろ過処理を行い、ろ過終了時まで安定した水質の処理水を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3】本発明に係る他の実施例の戻り防止部材の平面図である。
【
図5】同じく、ろ過処理の運転立上時の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明に係るろ過装置の縦断面図である。
ろ過装置1は、円筒状のろ過槽2を立設し、内部に繊維ろ材3…を充填してろ過槽2下方の流出防止スクリーン4上にろ材層5を形成している。繊維ろ材3は沈降性の粒状繊維ろ材であって、球状や柱状等、形を限定しない。上部の供給管6から被処理水を供給し、ろ材層5にて懸濁物質を捕捉して処理水を下方の排出管7から外部に排出する。なお、ろ過槽2は多段に連設する構成としてもよい。また、必要に応じて供給管6側への繊維ろ材3の流出を防止するスクリーン
4をろ過槽2の上方に張設してもよい。
【0017】
ろ過槽2の内部には、圧縮したろ材層5が上方の開放方向に緩み、ろ材層5の空隙率が不均一となることを防止する戻り防止機構を備える。
【0018】
戻り防止機構は、ろ過槽2頂部に載置した駆動機9と、駆動機9に連結したスクリュー軸10と、スクリュー軸10に螺合して昇降する戻り防止部材11と、戻り防止部材11を挿通するガイドバー12と、スクリュー軸10およびガイドバー12の端部を固定する支持杆13で構成している。
【0019】
スクリュー軸10の周面は、少なくとも戻り防止部材11の昇降範囲に亘って螺旋状のスクリューネジで形成されている。ろ過槽2の軸心と平行となるよう鉛直方向に垂設してあり、一端を駆動機9と連結して正逆自在に回転する。他端はろ過槽2内にて支持杆13に回転自在に支持される。スクリューネジのピッチや駆動機9との連結方式(直結またはウォームギア等)は、ろ過装置1の仕様や昇降速度に応じて適宜選択する。
【0020】
ろ過槽2の中心部(軸心)から偏心する位置にガイドバー12を垂設している。ガイドバー12の一端をろ過槽2の頂部に固定し、他端を支持杆13に固定する。ガイドバー12の位置や数量はろ過槽2の仕様に応じて適宜決定する。
【0021】
図2は戻り防止部材の平面図である。
戻り防止部材11は円盤状に形成してあり外周をろ過槽2内壁に近接させている。ろ過槽2とはろ材が通過できない間隙に設定してあり、外周に摺動部材を周設してもよい。
【0022】
また、戻り防止部材11には全面に微小な通水孔14…を有している。通水孔14は供給管6からの被処理水をろ材層5へ通水するとともに、上方へのろ材の流出を防止する。板材に微小孔を貫設、あるいは環状枠にメッシュ部材を張設してもよい。
【0023】
戻り防止部材11の中心部にはスクリュー軸10と螺合する螺旋状のスクリュー溝15を形成するとともに、中心部から偏心する位置にガイドバー12を摺動自在に挿通する案内孔16を形成してある。スクリュー軸10およびガイドバー12が挿通する位置には、面圧を増加して戻り防止部材11のブレを防止するために筒状部材を補強してもよい。
【0024】
ガイドバー12にて回転を抑止された戻り防止部材11は、駆動機9にてスクリュー軸10を回転させることで、ろ過槽2内を昇降自在に揺動する。
【0025】
なお、戻り防止部材11の鉛直方向には必要に応じて補強用のリブを設けてもよい。また、通水孔14を有する戻り防止部材11を所定の間隔を設けて上下2段で設けると、下段の戻り防止部材11から流出した繊維ろ材3を上段の戻り防止部材11で防止できる。
【0026】
図3は他の実施例の戻り防止部材の平面図である。
ガイドバー12を用いることなく戻り防止部材11を水平な状態で昇降させる手段として、戻り防止部材11の中心から偏心する位置に、複数のスクリュー軸10…を均等に配置し、スクリュー軸10の回転を同期させて戻り防止部材11を昇降させる。この場合、スクリュー軸10がガイドバー12を兼任し、戻り防止部材11の前後左右へのフレを軽減するため、安定して昇降することができる。
【0027】
図4はA-A断面図である。
ろ過槽2にて圧密するろ材層5高さの中心位置近傍に支持杆13を架設する。支持杆13はスクリュー軸10の端部を回転自在に支持するとともに、ガイドバー12の端部を固定する。支持杆13の構成は限定しないが、ろ過槽2中心部から放射状に形成することが望ましい。ろ過処理工程S4中はろ材層5の内部に位置するため、最低限の腕木部材にて十分な開口を確保し通水抵抗を減少させる。
【0028】
なお、
図3に示すスクリュー軸10を用いる場合は、各スクリュー軸10…の支持部にろ過槽
2の内壁から支持杆13…を突設する。
【実施例】
【0029】
図5はろ過処理の運転立上時の模式図である。
ろ過槽2に新たにろ材を投入、あるいはろ過処理工程S4後に繊維ろ材3洗浄を行った後、ろ過槽2の水を排水した際、繊維ろ材3が流出防止スクリーン4上に堆積した状態となっている。戻り防止部材11はろ過槽2の上方に上昇させてあり、繊維ろ材3の交換時や洗浄工程S5時に邪魔とならない位置で静置している。
【0030】
ろ材層5は自然沈降した状態であり、繊維ろ材3,3間で大きな空隙を有している。この状態で被処理液を通水すると、被処理液中の懸濁物質が繊維ろ材3で捕捉されずにろ材層5を通過して処理水とともに排出されてしまうため、ろ過処理工程S4の前段にろ材層5を圧密する各工程S1~S3を行う。
【0031】
図6は圧密水貯留工程の模式図である。
圧密水貯留工程S1ではろ過槽2内に圧密水の貯留を行う。供給管6からろ過槽2内に圧密水を供給する。排出管
7に介装する弁(図示せず)は閉止してあり、圧密水はろ過槽2内に貯留されていく。所定の水位まで圧密水を貯留すると圧密水の供給を停止する。この時、戻り防止部材11はろ材層5の表層近傍まで近接させておくことが望ましい。
【0032】
本実施例では、圧密水として新たに外部からろ過槽2に供給しているが、洗浄工程S5後にろ過槽2に貯留している洗浄水を圧密水として利用してもよい。
【0033】
図7は圧密工程の模式図である。
圧密工程S2では繊維ろ材3を圧密してろ材層5を形成する。所定の水位まで圧密水を貯留した後、排出管7に介装する弁を開放し、圧密水を一気に下方へ向かって排水する。この時、圧密水をろ過槽2の底部方向へ流す際に生じる動圧によって、ろ材は流出防止スクリーン4の上方で圧密され、充分な圧密度を有するろ材層5を形成する。圧密工程S2を行うと繊維ろ材3,3間の間隙が狭くなり、自然沈降時と比較してろ材層5の高さが低くなる。必要に応じてろ過槽2に圧密水を貯留して排水する圧密工程S2を複数回行ってもよい。
【0034】
ろ材層5の形成後、開放面近傍のろ材層5が緩んで上方に展開することにより、均一な圧密が維持できないことがある。そこで、ろ材層5の圧密を維持する戻り防止工程S3を行う。
【0035】
図8は戻り防止工程の模式図である。
戻り防止工程S3では戻り防止部材11をろ材層5の表層に静置させてろ材層5の圧密を維持する。圧密工程S2と同時に駆動機9を作動し、駆動機9と連結するスクリュー軸10を正転させる。スクリュー軸10と螺合しつつガイドバー12により回転が抑制された戻り防止部材11が下降を開始する。
【0036】
圧密水により適度に圧縮されたろ材層5の表層まで戻り防止部材11が下降したことを検知すると、駆動機9を停止して戻り防止部材11をその位置にて静置させる。戻り防止部材11の下降検知は、ろ過槽2に配した回転計17や位置検知装置18、駆動機9の連結部に配したトルク計19等により判断する。
【0037】
回転計17はスクリュー軸10あるいは駆動機9の回転数を計測するもので、予め定めた回転数に到達すると駆動機9に停止信号を送信する。
【0038】
また、位置検知装置18は公知の接触あるいは非接触型の装置を用いて、予め定めた位置に戻り防止部材11が到達すると駆動機9に停止信号を送信する。
【0039】
さらに、トルク計19は戻り防止部材11がろ材層5の表層に到達した際に急増するトルクを計測するもので、予め定めた計測値以上のトルクを計測すると駆動機9に停止信号を送信する。
【0040】
戻り防止部材11の下降速度は、圧密工程S2時の圧密水による繊維ろ材3の下降速度より遅くすることが望ましい。繊維ろ材3が圧密水により圧縮されるより早く戻り防止部材11で圧縮されると、特に上方のろ材層5の圧縮率のみが高くなり、均一な空隙率のろ材層5の形成を阻害する。
【0041】
ろ材層5の表層に静置する戻り防止部材11はスクリュー軸10と螺合しているため、圧縮されたろ材層5からの圧力で上方に移動することはない。同様に、ろ過処理工程S4時に被処理液を通水する際に下方のろ材層5を押圧することがない。
【0042】
本実施例では、圧密工程S2と戻り防止工程S3を同時に行っているが、ろ材層5が圧密された直後に戻り防止部材11をろ材層5の表層まで下降させるものであれば問題ない。例えば、圧密工程S2より前に戻り防止工程S3を開始する場合、ゆっくりと戻り防止部材11を下降させつつ圧密水によりろ材層5を圧密し、圧縮されたろ材層5による開放面への戻りが発生する前に戻り防止部材11をろ材層5表層に到達するようにしてもよい。
【0043】
圧密水にてろ材層5を圧密し、通水可能な戻り防止部材11をろ材層5の表層に摺接させて、圧縮したろ材層5による開放面への戻りを防止した状態でろ過処理工程S4を開始する。圧密水により均一で高い圧密度のろ材層5を形成しているため運転初期から安定したろ過処理が可能となる。
【0044】
長時間のろ過処理工程S4でろ材層5に目詰まりが発生した際には繊維ろ材3の洗浄を行う。洗浄工程S5では
図5に示すように、ろ材層5の表層に摺接している戻り防止部材11を上方に上昇させる。具合的には、スクリュー軸10を逆転させて戻り防止部材11を所定位置まで引き上げ、ろ過槽2に洗浄水を供給して繊維ろ材3の洗浄を行う。
【0045】
洗浄水および懸濁物質を排出した後、
図6に示す圧密水貯留工程S1を開始する。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、ろ過処理工程の前段でろ材層を圧密し、運転初期から安定したろ過処理を行うことができる。表層ろ過になりやすい凝集ろ過や高濁度水、あるいはプール等の高清澄度が要求される特殊な用途にも捕捉率の高い繊維ろ材を使用でき、深層ろ過を行うことで洗浄頻度が少なく長時間のろ過処理工程を行うことができる有益なろ過処理方法となる。
【符号の説明】
【0047】
1 ろ過装置
2 ろ過槽
3 繊維ろ材
5 ろ材層
10 スクリュー軸
11 戻り防止部材
S2 圧密工程
S3 戻り防止工程
S4 ろ過処理工程