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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】ガラス物品の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 17/06 20060101AFI20240606BHJP
【FI】
C03B17/06
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020182562
(22)【出願日】2020-10-30
(65)【公開番号】P2022072879
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100129148
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 淳也
(72)【発明者】
【氏名】青木 寛典
(72)【発明者】
【氏名】大庭 直樹
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-024956(JP,A)
【文献】特開2016-069226(JP,A)
【文献】特開2003-081653(JP,A)
【文献】特開2019-026489(JP,A)
【文献】国際公開第2018/151166(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形体によって溶融ガラスを板状にしてガラスリボンを成形する成形工程と、前記成形体によって成形された前記ガラスリボンを縦方向に沿って搬送しながら冷却する冷却工程と、を備えるガラス物品の製造方法において、
前記成形体は、前記溶融ガラスが供給されるオーバーフロー溝と、前記オーバーフロー溝から流れ出た前記溶融ガラスを流下させる側面と、を備え、
前記成形工程では、一方の表面が前記側面による形成面であると共に他方の表面が火造り面である前記ガラスリボンを成形し
前記ガラスリボンから、一方の表面が前記側面による形成面であると共に他方の表面が火造り面であるガラス物品を得ることを特徴とするガラス物品の製造方法。
【請求項2】
前記側面は、縦方向に延びており、
前記成形体は、前記側面の下端部と繋がり、前記溶融ガラスを前記成形体から離れさせる離間部を備える請求項1に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項3】
前記成形体の下部は、支持部材によって支持される請求項1又は2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項4】
前記成形体は、前記板状の溶融ガラスにおける幅方向の端部を案内するガイド部を備え、前記側面と前記ガイド部とが同じ耐火物に設けられる請求項1から3のいずれか一項に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項5】
前記成形工程では、前記側面の前記離間部を加熱装置によって加熱する請求項2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項6】
前記側面は、前記成形体の片側に位置する第一側面と、前記第一側面の反対側に位置する第二側面とを含み、
前記ガラスリボンは、前記第一側面による形成面を有する第一ガラスリボンと、前記第二側面による形成面を有する第二ガラスリボンとを含む請求項1から5のいずれか一項に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項7】
溶融ガラスを板状にしてガラスリボンを成形する成形体を備えるガラス物品の製造装置において、
前記成形体は、前記溶融ガラスが供給されるオーバーフロー溝と、前記オーバーフロー溝から流れ出た前記溶融ガラスを流下させる側面と、を備え、
前記成形体は、一方の表面が前記側面による形成面であると共に他方の表面が火造り面である前記ガラスリボンを成形するように構成され
前記ガラスリボンから、一方の表面が前記側面による形成面であると共に他方の表面が火造り面であるガラス物品を得るように構成されることを特徴とするガラス物品の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板等のガラス物品を製造する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどのパネルディスプレイ用のガラス板を製造する方法として、オーバーフローダウンドロー法が公知である。
【0003】
オーバーフローダウンドロー法は、断面が略くさび形の成形体の上部に設けられたオーバーフロー溝に溶融ガラスを流し込み、このオーバーフロー溝から両側に流れ出た溶融ガラスを成形体の二つの側面に沿って流下させ、これらの溶融ガラスを成形体の下端部で融合一体化することで、一枚のガラスリボンを連続成形するというものである(例えば特許文献1参照)。なお、この融合一体化に伴い、ガラスリボンの厚さ方向の中間部分には、合わせ面が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/163063号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のオーバーフローダウンドロー法では、成形されたガラスリボンの表裏両面が、成形過程において、成形体の如何なる部位とも接触せずに成形されるので、傷等がない平滑な火造り面となる。
【0006】
しかしながら、成形体における二つの側面を流れる溶融ガラスを融合させることから、成形体の直下におけるガラスリボンの厚さ寸法を小さくすることが困難であった。このため、成形体の離間(離脱)後にガラスリボンの冷却速度が不足してガラスが失透しやすい。つまり、失透しやすい溶融ガラスの成形が困難であるという第一の問題があった。
【0007】
また、成形体の側面を流れる溶融ガラスの厚さ寸法を小さくすると、成形体の長手方向の両端に溶融ガラスが流れにくくなる。これに伴い、成形体の長手方向の両端において、溶融ガラスが停滞したり、失透したりする第二の問題があった。
【0008】
そこで本発明は、上記のような従来のオーバーフローダウンドロー法における第一及び/又は第二の問題を克服することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の課題を解決するためのものであり、成形体によって溶融ガラスを板状にしてガラスリボンを成形する成形工程と、前記成形体によって成形された前記ガラスリボンを縦方向に沿って搬送しながら冷却する冷却工程と、を備えるガラス物品の製造方法において、前記成形体は、前記溶融ガラスが供給されるオーバーフロー溝と、前記オーバーフロー溝から流れ出た前記溶融ガラスを流下させる側面と、を備え、前記成形工程では、一方の表面が前記側面による形成面であると共に他方の表面が火造り面である前記ガラスリボンを成形することを特徴とする。
【0010】
上記のように、本方法によって製造されたガラスリボンは、一方の表面が成形体の側面によって形成された形成面となり、他方の表面が火造り面となる。本方法では、ガラスリボンの一方の表面を、他の溶融ガラスと融合させることなく形成される形成面とすることで、二つの側面によって流下させた溶融ガラスを融合させてガラスリボンを成形する従来のオーバーフローダウンドロー法と比較して、成形体の直下(成形体からの離間時)におけるガラスリボンの厚さ寸法を小さくすることが可能となる。このため、成形体から離間後のガラスリボンの冷却速度を増大させることができる。これにより、従来のオーバーフローダウンドロー法で成形が困難な失透しやすいガラスであっても、本方法によれば、ガラスの失透を抑制しながら成形可能となる。
【0011】
また、成形体の直下(成形体からの離間時)におけるガラスリボンの厚さ寸法が同じであれば、従来のオーバーフローダウンドロー法と比較して、本方法では、成形体の側面を流下する溶融ガラスの厚さ寸法を大きくすることができる。このため、成形体の長手方向の両端に溶融ガラスが流れやすくなる。これに伴い、成形体の長手方向の両端において、溶融ガラスが停滞したり、失透したりする問題を抑制できる。
【0012】
上記の製造方法において、前記側面は、縦方向に延びており、前記成形体は、前記側面の下端部と繋がり、前記溶融ガラスを前記成形体から離れさせる離間部を備えてもよい。
【0013】
従来のガラス物品の製造方法では、成形体の二つの側面を流れる溶融ガラスを融合させるために、成形体の下端部において二つの側面が一致するように、各側面の下部を傾斜させる必要がある。このように側面の一部を傾斜させると、各側面に流れる溶融ガラスの幅寸法や厚さ寸法を制御することが困難となる。これに対し、本方法によれば、成形体の側面を縦方向に延びる面とすることで、溶融ガラスの寸法を容易に制御することが可能となる。したがって、寸法精度の高いガラスリボンを成形することができる。また、離間部によって、溶融ガラスを成形体の側面の下端部に残留させることなくこの下端部から離すことで、溶融ガラスの成形不良の発生を防止することができる。
【0014】
前記成形体の下部は、支持部材によって支持されてもよい。成形体の下部を支持部材によって支持することで、成形工程における成形体のクリープ変形を防止することが可能となる。
【0015】
前記成形体は、前記板状の溶融ガラスにおける幅方向の端部を案内するガイド部を備え、前記側面と前記ガイド部とが同じ耐火物に設けられてもよい。
【0016】
側面とガイド部材を異なる材料で構成する場合、側面とガイド部との間に隙間が生じ、この隙間に溶融ガラスが侵入する。この溶融ガラスはガイド部から垂れ下がり、溶融ガラスの成形不良を発生させるおそれがある。本発明では、側面とガイド部とを同じ耐火物に設けることで、側面とガイド部との隙間をなくし、成形不良の発生を効果的に防止できる。
【0017】
前記成形工程では、前記側面の前記離間部を加熱装置によって加熱してもよい。
【0018】
かかる構成によれば、成形体によって成形されたガラスリボンの表面と裏面との温度差を低減することができる。これにより、ガラスリボンの反りを防止することが可能となる。また、ガラスリボンの失透を防止することも可能となる。さらに、溶融ガラスの粘度を可及的に低下させることが可能となり、側面の下端部から溶融ガラスが離れ易くなる。
【0019】
本方法において、前記側面は、前記成形体の片側に位置する第一側面と、前記第一側面の反対側に位置する第二側面とを含み、前記ガラスリボンは、前記第一側面による形成面を有する第一ガラスリボンと、前記第二側面による形成面を有する第二ガラスリボンとを含んでもよい。
【0020】
かかる構成によれば、二枚のガラスリボンを同時に成形することが可能となる。これにより、ガラス物品を効率良く製造することができる。
【0021】
本発明は上記の課題を解決するためのものであり、溶融ガラスを板状にしてガラスリボンを成形する成形体を備えるガラス物品の製造装置において、前記成形体は、前記溶融ガラスが供給されるオーバーフロー溝と、前記オーバーフロー溝から流れ出た前記溶融ガラスを流下させる側面と、を備え、前記成形体は、一方の表面が前記側面による形成面であると共に他方の表面が火造り面である前記ガラスリボンを成形するように構成されることを特徴とする。
【0022】
かかる構成によれば、成形体に形成された側面によって溶融ガラスを成形することによって、一方の表面が側面による形成面であると共に他方の表面が火造り面であるガラスリボンを製造することができる。これにより、二つの側面によって流下させた溶融ガラスを融合させていた従来のオーバーフローダウンドロー法と比較して、成形体の直下(成形体からの離間時)におけるガラスリボンの厚さ寸法を小さくすることが可能となる。このため、成形体から離間後のガラスリボンの冷却速度を増大させることができる。これにより、従来のオーバーフローダウンドロー法で成形が困難な失透しやすいガラスであっても、本方法によれば、ガラスの失透を抑制しながら成形可能となる。
【0023】
また、成形体の直下(成形体からの離間時)におけるガラスリボンの厚さ寸法が同じであれば、従来のオーバーフローダウンドロー法と比較して、本方法では、成形体の側面を流下する溶融ガラスの厚さ寸法を大きくすることができる。このため、成形体の長手方向の両端に溶融ガラスが流れやすくなる。これに伴い、成形体の長手方向の両端において、溶融ガラスが停滞したり、失透したりする問題を抑制できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、従来のオーバーフローダウンドロー法で成形が困難な失透しやすいガラスであっても、ガラスの失透を抑制しながら成形可能となる。また、成形体の長手方向の両端において、溶融ガラスが停滞したり、失透したりする問題を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第一実施形態におけるガラス物品の製造装置の断面図である。
図2】成形体の斜視図である。
図3】ガラス物品の製造方法を示すフローチャートである。
図4】第二実施形態におけるガラス物品の製造装置の断面図である。
図5】成形体の斜視図である。
図6】第三実施形態に係るガラス物品の製造装置の断面図である。
図7】第四実施形態に係るガラス物品の製造装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。図1乃至図3は、本発明に係るガラス物品の製造方法及び製造装置の第一実施形態を示す。
【0027】
図1は、ガラス物品の製造装置を示す。本実施形態では、ガラス物品として透明なガラスリボン及びガラス板を製造するための製造装置を例示する。製造装置1は、溶融ガラスGMからガラスリボンGRを成形する成形炉2と、成形されたガラスリボンGRを冷却する徐冷炉3と、を主に備える。
【0028】
成形炉2は、成形体4と、成形体4を支持する支持部材5と、成形体4を加熱する加熱装置6と、成形体4によって成形された溶融ガラスGMを挟持するエッジローラ7と、を備える。この他、成形炉2は、成形体4を囲む炉壁(図示しない)を備える。炉壁には、成形体4及びその周囲の空間を加熱するための加熱装置が設けられている。
【0029】
成形体4は、溶融ガラスGMを薄板状に成形することにより、ガラスリボンGRを形成する。成形体4は、デンスジルコンやアルミナ系、ジルコニア系等の耐火煉瓦により構成される。成形体4は、貴金属(例えば白金)の被膜を備えてもよい。貴金属の被膜は、例えば溶射により形成することができる。貴金属の被膜は、例えば成形体4の表面の全部に形成してもよく、溶融ガラスGMと接触する部分だけに形成してもよい。成形体4は、上部4aと、側部4bと、下部4cとを含む。
【0030】
成形体4の上部4aは、上面8と、溶融ガラスGMが供給されるオーバーフロー溝9と、オーバーフロー溝9に溶融ガラスGMを供給する供給部10と、を含む。
【0031】
上面8は、オーバーフロー溝9と側部4bとの間に位置する。上面8は、水平状に構成されてもよく、オーバーフロー溝9から側部4bに向かうにつれて下方に傾斜する傾斜面として構成されてもよい。
【0032】
オーバーフロー溝9は、溶融ガラスGMを流出させる縁部11と、溶融ガラスGMの流出を阻止する流出防止壁部12とを含む。縁部11は、直線状に構成されているが、この形状に限定されるものではない。縁部11は、上面8と繋がっている。流出防止壁部12は、縁部11及び上面8よりも上方に延びる壁面13を有する。
【0033】
供給部10は、白金、白金合金等の金属により構成される。図2に示すように、供給部10は、管状に構成されている。供給部10は、溶融ガラスGMを吐出する開口部14を有する。開口部14は、オーバーフロー溝9の長手方向の一端部と繋がっている。
【0034】
成形体4の側部4bは、オーバーフロー溝9から流出した溶融ガラスGMを下方に案内する側面15と、溶融ガラスGMにおける幅方向の端部を下方に案内(規制)するガイド部16a,16bとを備える。
【0035】
図1及び図2に示すように、側面15は、縦方向に延びる単一の平坦面により構成されるが、側面15の形状は本実施形態に限定されない。側面15は、鉛直方向に沿って形成される鉛直面であってもよく、鉛直方向に対して±40°の範囲内で傾斜する面であってもよく、鉛直面と傾斜面を組み合わせてもよい。
【0036】
ガイド部16a,16bは、側面15と同じ耐火物によって構成される。すなわち、ガイド部16a,16bは、側面15と同様に、成形体4を構成する耐火煉瓦を切削等することによって形成される。ガイド部16a,16bは、溶融ガラスGMにおける幅方向の一端部の流動を規制する第一ガイド部16aと、溶融ガラスGMにおける幅方向の他端部の流動を規制する第二ガイド部16bとを含む。
【0037】
成形体4の下部4cは、支持部材5によって支持される支持面19と、側面15の下端部18と支持面19との間に形成される離間部20とを備える。
【0038】
支持面19は、オーバーフロー溝9の下方位置に形成されている。支持面19は、側面15の下端部18よりも上方に位置している。支持面19は、下方に面する平坦面であるが、支持面19の形状は本実施形態に限定されない。支持面19は、成形体4の幅方向の一端部から他端部にわたって形成されている。すなわち、支持面19は、成形体4の幅方向の一端部及び他端部のみならず、それらの中間の部分にも形成されている。
【0039】
離間部20は、溶融ガラスGMを側面15の下端部18から離れさせるためのものである。離間部20は、側面15の下端部18に繋がる第一の面21と、第一の面21に繋がる第二の面22とを含む。第一の面21は、下方に凸となる円弧状の曲面(逃げ部)により構成される。第二の面22は、鉛直方向に対して所定の角度で傾斜する平坦面により構成される。第二の面22を傾斜状に構成することによって、支持面19を支持する支持部材5と第二の面22との間に、加熱装置6を配置することが可能な空間が形成されている。
【0040】
支持部材5は、四角柱状に構成されるが、この形状に限定されない。支持部材5は、例えば耐火物等により構成される。支持部材5は、成形体4の下部4cに形成された支持面19に接触することにより、この成形体4を支持する。具体的には、支持部材5は、成形体4の幅方向における支持面19の一端部及び他端部のみならず、それらの中間の部分にも接触することにより、この成形体4を支持する。
【0041】
加熱装置6は、例えば棒状のヒータにより構成されるが、加熱装置6の構成は本実施形態に限定されず、複数のパネル状のヒータにより構成されてもよい。加熱装置6は、成形体4の幅方向の長さ寸法よりも大きな長さ寸法を有する。加熱装置6は、支持部材5と、成形体4の離間部20との間に配置されている。加熱装置6は、成形体4における離間部20と、下端部18から離れた直後の溶融ガラスGMとを加熱する。
【0042】
エッジローラ7は、対のローラにより構成されている。エッジローラ7は、成形体4で成形されたガラスリボンGRの幅方向の端部を挟持しながら引き出すためのものである。
【0043】
徐冷炉3は、成形炉2を経て下方に搬送されるガラスリボンGRを徐冷することで、その内部歪の発生を抑制する。すなわち、徐冷炉3内には複数のヒータが上下方向に沿って配置され、各ヒータにより、徐冷炉3内に所定の温度勾配が形成されている。これにより、徐冷炉3では、ガラスリボンGRが下降するにつれて徐々に温度が低下し、ガラスリボンGRの内部歪の発生が抑制される。
【0044】
徐冷炉3は、成形炉2の下方に配置される。徐冷炉3は、上下方向に間隔をおいて配置される複数段の搬送ローラ23を有する。搬送ローラ23は、ガラスリボンGRを挟持可能なローラ対とされている。搬送ローラ23は、成形炉2によって成形されたガラスリボンGRを挟持した状態で回転することで、ガラスリボンGRを縦姿勢で下方に搬送する。
【0045】
以下、上記構成の製造装置1によってガラス物品(ガラスリボンGR、ガラス板)を製造する方法について説明する。
【0046】
図3に示すように、本方法は、準備工程S1と、成形工程S2と、冷却工程S3と、切断工程S4とを備える。
【0047】
準備工程S1では、ガラス溶融炉によってガラス原料を加熱することにより溶融ガラスGMを生成する。必要に応じて、溶融ガラスGMには、清澄処理、撹拌処理、状態調整処理が施される。溶融ガラスGMは、ガラス供給路を通じて成形炉2に供給される。
【0048】
成形工程S2では、供給部10を通じて成形体4のオーバーフロー溝9に溶融ガラスGMが供給される。オーバーフロー溝9に供給された溶融ガラスGMは、縁部11を越えてオーバーフロー溝9から流出する。縁部11を越えた溶融ガラスGMは、成形体4の上面8を伝って側面15へと向かう。
【0049】
溶融ガラスGMは、上面8から側面15に移ると、この側面15を伝って下方に流動する。この際、溶融ガラスGMにおける幅方向の端部は、ガイド部16a,16bによって規制されつつ下方に流れる。側面15は、上端部17から下端部18に向かって溶融ガラスGMを流下させる。溶融ガラスGMは、側面15に沿って流れる間に板状となる。
【0050】
板状の溶融ガラスGMは、側面15の下端部18まで到達した後も、下方に移動し続けるので、離間部20で成形体4から離間(離脱)する。その結果、溶融ガラスGMから薄板状のガラスリボンGRが成形される。エッジローラ7は、成形されたガラスリボンGRの幅方向の端部を挟持しながら下方に搬送する。
【0051】
冷却工程S3は、徐冷炉3による徐冷工程と、徐冷炉3を通過した溶融ガラスGMを自然冷却(放冷)する自然冷却工程とを含む。
【0052】
徐冷工程において、成形炉2を通過したガラスリボンGRは、搬送ローラ23によって縦姿勢となって下方に搬送されながら、徐冷炉3内で徐冷される。その後、自然冷却工程において、ガラスリボンGRは、徐冷炉3の下方に配置される冷却室を通過する。これにより、ガラスリボンGRは、室温まで自然冷却される。
【0053】
切断工程S4では、冷却室を通過したガラスリボンGRが、レーザ切断、スクライブ切断等の切断方法によって切断される。これにより、矩形状のガラス板が形成される。必要に応じて、ガラス板の端面を研削・研磨する端面加工工程や洗浄工程、検査工程、梱包工程を設けてもよい。これらの各工程では、従来のオーバーフロー法やフロート法によるディスプレイ用ガラス基板やカバーガラスの製造と同様の態様を採用できる。
【0054】
以上説明した本実施形態に係るガラス物品の製造方法及び製造装置1によれば、成形工程S2において、成形体4に形成された側面15によって溶融ガラスGMを成形することにより、成形体の二つの側面によって溶融ガラスを融合させていた従来の製造方法と比較して、成形体4の直下(成形体4からの離間時)におけるガラスリボンGRの厚さ寸法を小さくすることが可能となる。このため、成形体4から離間後のガラスリボンGRの冷却速度を増大させることができる。これにより、従来のオーバーフローダウンドロー法で成形が困難な失透しやすいガラスであっても、本方法によれば、ガラスの失透を抑制しながら成形可能となる。
【0055】
また、成形体4の直下(成形体4からの離間時)におけるガラスリボンの厚さ寸法が同じであれば、従来のオーバーフローダウンドロー法と比較して、本方法では、成形体4の側面15を流下する溶融ガラスGMの厚さ寸法を大きくする(例えば2倍にする)ことができる。このため、成形体4の長手方向の両端に溶融ガラスGMが流れやすくなる。これに伴い、成形体4の長手方向の両端において、溶融ガラスGMが停滞したり、失透したりする問題を抑制できる。
【0056】
本方法によって製造されるガラスリボンGRは、成形体4の側面15に接触することなく成形された火造り面としての第一主面GRaと、側面15に接触することにより形成された形成面としての第二主面GRbとを有する。ガラスリボンGRの成形過程で、溶融ガラスを融合一体化させないので、厚さ方向の中間部分に合わせ面が存在しない。第一主面GRaの表面粗さ(算術平均粗さ)Raは、1~0.2nmである。第二主面GRbの表面粗さRaは、1~0.2nmである。このように第二主面GRb(形成面)は、無研磨面であるにもかかわらず、第一主面GRa(火造り面)と同程度の表面性状を有する。なお、成形体4の側面15の表面粗さRaに応じて第二主面GRbの表面粗さRaが変化する。第二主面GRbの表面粗さを上述の範囲とする観点では、側面15の表面粗さRaを1~0.6nmとすることが好ましい。
【0057】
本方法によって製造された(冷却室を通過した)ガラスリボンGRの厚さ寸法は、例えば3000~25μmであるが、500~100μmとすることが好ましい。
【0058】
本方法では、冷却工程S3で縦姿勢のガラスリボンGRを縦方向に沿って搬送しながら冷却するので、ガラスリボンGRの幅方向の中間部をエッジローラ7や搬送ローラ23と接触させることなく、ガラスリボンGRを搬送できる。エッジローラ7等と接触するガラスリボンGRの幅方向の両端部を切断等によって除去すれば、搬送による傷が抑制されたガラス物品を製造することができる。
【0059】
本方法では、成形工程S2において、成形体4の離間部20と、側面15の下端部18を離れた直後の溶融ガラスGMとを加熱装置6によって加熱することで、溶融ガラスGMの表面(成形体4に接触しない面、第一主面GRaに相当)と裏面(成形体4に接触する面、第二主面GRbに相当)との温度差を小さくすることができる。これにより、成形後のガラスリボンGRの反りを防止することができる。また、ガラスリボンGRの失透を防止することができ、高品質のガラス物品を製造することが可能となる。さらに、加熱装置6の加熱により、溶融ガラスGMの粘度を可及的に低下させることができる。これにより、溶融ガラスGMが側面15の下端部18から離れ易くなり、下端部18に溶融ガラスGMが残留すること、又は離間部20の第一の面21に溶融ガラスGMが残留することを確実に防止できる。
【0060】
また、成形体4の下部4c(支持面19)を、その幅方向の中間部を支持部材5によって支持することで、成形工程S2における成形体4のクリープ変形を防止することが可能となる。
【0061】
図4及び図5は、本発明の第二実施形態を示す。本実施形態に係る製造装置1は、成形炉2の構成が第一実施形態と異なる。本実施形態において、成形炉2の成形体4は、成形体4の片側に位置する第一側面15aと、第一側面15aの反対側に位置する第二側面15bを有する。
【0062】
成形体4のオーバーフロー溝9は、第一側面15aに溶融ガラスGMを供給する第一縁部11aと、第二側面15bに溶融ガラスGMを供給する第二縁部11bと、を含む。成形体4の上面8は、第一縁部11aと第一側面15aとを繋ぐ第一上面8aと、第二縁部11bと第二側面15bとを繋ぐ第二上面8bと、を含む。なお、成形体4の上部4aは、第一実施形態における流出防止壁部12を備えていない。
【0063】
離間部20a,20bは、第一側面15aの下端部18から溶融ガラスGMを離れさせる第一離間部20aと、第二側面15bの下端部18から溶融ガラスGMを離れさせる第二離間部20bと、を含む。
【0064】
成形体4の下部4cに形成される支持面19は、第一離間部20aと第二離間部20bとの間であって、オーバーフロー溝9の下方位置に形成されている。
【0065】
加熱装置6a,6bは、成形体4の第一離間部20aと、第一側面15aの下端部18から離れた直後の溶融ガラスGMとを加熱する第一加熱装置6aと、成形体4の第二離間部20bと、第二側面15bの下端部18から離れた直後の溶融ガラスGMとを加熱する第二加熱装置6bと、を含む。
【0066】
エッジローラ7a,7bは、第一側面15aによって成形された溶融ガラスGMの幅方向の端部を挟持する第一エッジローラ7aと、第二側面15bによって成形された溶融ガラスGMの幅方向の端部を挟持する第二エッジローラ7bと、を含む。
【0067】
以下、第一側面15aによって溶融ガラスGMから成形されるガラスリボンを第一ガラスリボンGR1といい、第二側面15bによって溶融ガラスGMから成形されるガラスリボンを第二ガラスリボンGR2という。
【0068】
徐冷炉3は、第一ガラスリボンGR1を縦姿勢で搬送する第一搬送ローラ23aと、第二ガラスリボンGR2を縦姿勢で搬送する第二搬送ローラ23bと、を含む。
【0069】
本実施形態に係るガラス物品の製造方法では、成形工程S2において、第一側面15aを流れる板状の溶融ガラスGMと、第二側面15bを流れる板状の溶融ガラスGMとは融合しない。すなわち、成形体4の第一側面15aは、オーバーフロー溝9の第一縁部11aから流出した溶融ガラスGMを成形することで、第一ガラスリボンGR1を形成することができる。第二側面15bは、オーバーフロー溝9の第二縁部11bから流出した溶融ガラスGMを成形することで、第二ガラスリボンGR2を形成することができる。各ガラスリボンGR1,GR2は、火造り面となる第一主面GRaと、各側面15a,15bによって形成される形成面としての第二主面GRbとを含む。
【0070】
以上説明した本実施形態によれば、一つの成形体4によって二枚のガラスリボンGRを同時に成形することが可能となる。これにより、ガラス物品を効率良く製造することができる。
【0071】
図6は、本発明の第三実施形態を示す。本実施形態に係るガラス物品の製造装置1は、成形炉2における成形体4及び加熱装置6の構成が第一実施形態と異なる。加熱装置6は、成形体4に貫通形成された孔24に挿入されている。成形体4の孔24は、側面15の下端部18の近傍位置に形成される。孔24は、成形体4の幅方向の全長にわたり貫通している。
【0072】
加熱装置6は、第一実施形態と比較して、成形体4の側面15の下端部18に近い位置で、この下端部18と、離間部20と、この下端部18から離れた直後の溶融ガラスGMを加熱することができる。
【0073】
図7は、本発明の第四実施形態を示す。本実施形態に係る製造装置1は、成形炉2の構成が第二実施形態と異なる。
【0074】
成形体4の上部4aは、流出防止壁部12によって隔てられた第一オーバーフロー溝9a及び第二オーバーフロー溝9bを有する。
【0075】
流出防止壁部12は、第一オーバーフロー溝9aの溶融ガラスGMの流出を防止する第一壁面13aと、第二オーバーフロー溝9bの溶融ガラスGMの流出を防止する第二壁面13bとを含む。第一壁面13aは、第一オーバーフロー溝9aに供給された溶融ガラスGMが第二オーバーフロー溝9bに流入することを防止する。第二壁面13bは、第二オーバーフロー溝9bに供給されたGMが第一オーバーフロー溝9aに流入することを防止する。
【0076】
加熱装置6a1,6a2,6b1,6b2は、複数の第一加熱装置6a1,6a2と、複数の第二加熱装置6b1,6b2と、を含む。
【0077】
第一加熱装置6a1,6a2は、主として成形体4の第一離間部20aを加熱する上側加熱装置6a1と、主として第一側面15aの下端部18から離れた直後の溶融ガラスGMを加熱する下側加熱装置6a2と、を含む。
【0078】
第二加熱装置6b1,6b2は、主として成形体4の第二離間部20bを加熱する上側加熱装置6b1と、主として第二側面15bの下端部18から離れた直後の溶融ガラスGMを加熱する下側加熱装置6b2と、を含む。
【0079】
なお、供給部は、第一オーバーフロー溝9aに溶融ガラスGMを供給する第一供給部と、第二オーバーフロー溝9bに溶融ガラスGMを供給する第二供給部とを含む。
【0080】
本実施形態に係るガラス物品の製造方法では、成形工程S2において、第一供給部及び第二供給部を介して第一オーバーフロー溝9aと第二オーバーフロー溝9bとに個別に溶融ガラスGMを供給することによって、第一ガラスリボンGR1及び第二ガラスリボンGR2を成形する。これにより、例えば組成の異なる第一ガラスリボンGR1及び第二ガラスリボンGR2を成形することが可能となる。
【0081】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0082】
上記の実施形態における成形体4の側面15,15a,15bは、上端部17から下端部18にわたり平坦な面として構成されていたが、本発明はこの構成に限定されるものではない。成形体4の側面15,15a,15bは、曲面状その他の形状に構成されてもよい。
【0083】
上記の実施形態では、ガラスリボンGRを切断する切断工程S4を例示したが、本発明はこの構成に限定されるものでない。本発明に係るガラス物品の製造方法は、切断工程S4に替えて、ガラスリボンGRをロール状に巻き取る巻取工程を備えてもよい。巻取工程により、ガラスリボンGRをロール状に巻き取ってなるガラスロールを製造することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 製造装置
4 成形体
4c 成形体の下部
5 支持部材
6 加熱装置
6a 第一加熱装置
6a1 第一加熱装置
6a2 第一加熱装置
6b 第二加熱装置
6b1 第二加熱装置
6b2 第二加熱装置
9 オーバーフロー溝
9a 第一オーバーフロー溝
9b 第二オーバーフロー溝
15 側面
15a 第一側面
15b 第二側面
16a 第一ガイド部
16b 第二ガイド部
18 側面の下端部
20 離間部
GM 溶融ガラス
GR ガラスリボン
GR1 第一ガラスリボン
GR2 第二ガラスリボン
GRa ガラスリボンの第一主面(火造り面)
GRb ガラスリボンの第二主面(形成面)
S2 成形工程
S3 冷却工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7