(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】サファイア基板の表面処理方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/20 20060101AFI20240606BHJP
C30B 33/12 20060101ALI20240606BHJP
C30B 29/16 20060101ALI20240606BHJP
C30B 25/18 20060101ALI20240606BHJP
C23C 16/02 20060101ALI20240606BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20240606BHJP
H01L 21/306 20060101ALI20240606BHJP
H01L 21/302 20060101ALI20240606BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20240606BHJP
H01L 21/208 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
C30B29/20
C30B33/12
C30B29/16
C30B25/18
C23C16/02
C23C16/40
H01L21/306 Z
H01L21/302 201A
H01L21/205
H01L21/208 Z
(21)【出願番号】P 2020067700
(22)【出願日】2020-04-03
【審査請求日】2023-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】511187214
【氏名又は名称】株式会社FLOSFIA
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 勲
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-142637(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106783528(CN,A)
【文献】特開2019-016721(JP,A)
【文献】特開2003-347226(JP,A)
【文献】特開2011-181784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/20
C30B 33/12
C30B 29/16
C30B 25/18
C23C 16/02
C23C 16/40
H01L 21/306
H01L 21/302
H01L 21/205
H01L 21/208
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にα-Ga
2
O
3
膜を有するサファイア基板を、表面処理剤を用いて表面処理する方法であって、前記表面処理剤がハロゲン化水素酸を少なくとも含
み、前記ハロゲン化水素酸は、臭素またはヨウ素を含む、サファイア基板の表面処理方法。
【請求項2】
前記ハロゲン化水素酸が、臭化水素酸またはヨウ化水素酸である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記表面処理剤が霧化液滴の形態である、請求項1または2に記載の方法
【請求項4】
前記表面処理温度が、200℃以上である請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記霧化液滴が、前記表面処理剤を霧化して浮遊させ、ついで、キャリアガスを用いて搬送されるものである請求項3記載の方法。
【請求項6】
前記キャリアガスが、不活性ガスである請求項5記載の方法。
【請求項7】
表面にα-Ga
2
O
3
膜を有するサファイア基板を、ハロゲン化水素酸を少なくとも含む表面処理剤を用いて表面処理すること、表面処理した前記サファイア基板の表面の少なくとも一部を結晶成長面として結晶成長させることにより、結晶膜を成膜すること、を含
み、前記ハロゲン化水素酸は、臭素またはヨウ素を含む、結晶膜の製造方法。
【請求項8】
前記結晶膜がコランダム構造を有する、請求項7記載の結晶膜の製造方法。
【請求項9】
結晶膜の製造方法を用いて半導体装置を製造する方法であって、前記結晶膜の製造方法が、請求項8記載の結晶膜の製造方法である半導体装置の製造方法。
【請求項10】
結晶膜の製造方法を用いて製品を製造する方法であって、前記結晶膜の製造方法が、請求項8記載の結晶膜の製造方法である製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置や電子機器等の製造等に有用なサファイア基板の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高耐圧、低損失および高耐熱を実現できる次世代のスイッチング素子として、バンドギャップの大きな酸化ガリウム(Ga2O3)を用いた半導体装置が注目されており、インバータなどの電力用半導体装置への適用が期待されている。しかも、広いバンドギャップからLEDやセンサー等の受発光装置としての応用も期待されている。当該酸化ガリウムは、インジウムやアルミニウムをそれぞれ、あるいは組み合わせて混晶することによりバンドギャップ制御することが可能であり、InAlGaO系半導体として極めて魅力的な材料系統を構成している。ここでInAlGaO系半導体とはInXAlYGaZO3(0≦X≦2、0≦Y≦2、0≦Z≦2、X+Y+Z=1.5~2.5)を示し、酸化ガリウムを内包する同一材料系統として俯瞰することができる。
【0003】
しかしながら、酸化ガリウムは成膜時や研摩時において、SiCの研摩時等に生じる「潜傷」と同様の潜傷が発生することがあり、酸化ガリウムの結晶成長用基板であるサファイア基板内にも同様の潜傷があって、酸化ガリウムの特性が十分に発揮されないという問題があった。SiCの場合に比べて、酸化ガリウムはHF等のエッチング液を用いてエッチング処理に付してもなかなかエッチングできないという問題があった。ここで、基板等のエッチング対象物に、エッチング処理を、液体材料を用いて行う技術が知られており、例えば、浸漬法やスプレー法等を用いたエッチング処理方法が一般的に知られている。また、近年においては、半導体装置や電子機器等の製造工程で、サブミクロンオーダーのパターン形成が行われるため、半導体装置や電子機器等の製造に有用な、対象物への表面処理をナノレベルで制御できる処理方法が待ち望まれていた。
【0004】
特許文献1には、200℃以上に加熱したリン酸、硫酸又はこれらの混酸中にサファイア基板を浸漬して、サファイア基板の表面を溶解除去するエッチング方法が開示されている。しかしながら、強酸を用いることから、より安全な処理方法が待ち望まれていた。
【0005】
特許文献2には、10μm以下の平均粒径を有するマイクロミストを半導体ウエハの表面に噴霧して、ウエハ上の既存構造物を溶解除去するエッチング処理を行うことが記載されている。しかしながら、特許文献2に記載のエッチング処理方法では、酸化ガリウムをエッチングするにはまだまだ不十分であり、酸化ガリウムを良好にエッチングできるエッチング処理方法が待ち望まれていた。
【0006】
特許文献3は、ファインチャネル方式のミストエッチング装置が記載されており、塩酸あるいは塩酸と硝酸の混合物からなるエッチング原料と純水からなる溶媒とから構成されたエッチング液を用いて酸化亜鉛等のエッチング対象物にエッチング処理を施すことが記載されている。しかしながら、特許文献3に記載のエッチング処理方法では、酸化ガリウムを良好にエッチングすることが困難であり、エッチング量も少なく工業的に適用可能なエッチング処理方法が待ち望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-137736号公報
【文献】特開2009-010033号公報
【文献】特開2011-181784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、工業的有利に、サファイア基板の表面を改質する表面処理方法を提供することを目的の1つとする。また、本発明はより安全なサファイア基板の表面処理方法を提供することを目的の1つとする。さらに、高品質な結晶膜を得ることが出来るように、サファイア基板の表面を改質する表面処理方法を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、サファイア基板を、表面処理剤を用いて表面処理する方法であって、前記表面処理剤がハロゲン化水素酸を少なくとも含む、サファイア基板の表面処理方法により、工業的有利に、高品質な結晶膜を得ることが出来る下地基板として有用なサファイア基板が得られることを知見した。また、このようなサファイア基板の表面処理方法が、上記した従来の問題を一挙に解決できるものであることを見出した。
また、本発明者らは、上記知見を得た後、さらに検討を重ねて、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
[1] サファイア基板を、表面処理剤を用いて表面処理する方法であって、前記表面処理剤がハロゲン化水素酸を少なくとも含む、サファイア基板の表面処理方法。
[2] 前記ハロゲン化水素酸が、臭化水素酸またはヨウ化水素酸である、前記[1]記載の方法。
[3] 前記表面処理剤が霧化液滴の形態である、前記[1]または[2]に記載の方法。
[4] 前記表面処理温度が、200℃以上である前記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 前記霧化液滴が、前記表面処理剤を霧化して浮遊させ、ついで、キャリアガスを用いて搬送されるものである前記[3]記載の方法。
[6] 前記キャリアガスが、不活性ガスである前記[5]記載の方法。
[7] サファイア基板を、ハロゲン化水素酸を少なくとも含む表面処理剤を用いて表面処理すること、表面処理した前記サファイア基板の表面の少なくとも一部を結晶成長面として結晶成長させることにより、結晶膜を成膜すること、を含む、結晶膜の製造方法。
[8] 前記結晶膜がコランダム構造を有する、前記[7]記載の方法。
[9] 結晶膜の製造方法を用いて半導体装置を製造する方法であって、前記結晶膜の製造方法が、前記[8]記載の結晶膜の製造方法である半導体装置の製造方法。
[10] 結晶膜の製造方法を用いて製品を製造する方法であって、前記結晶膜の製造方法が、前記[8]記載の結晶膜の製造方法である製品の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のサファイア基板の表面処理方法によれば、工業的有利に、高品質な結晶膜を得ることが出来るように、サファイア基板の表面を改質する表面処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例において用いた表面処理装置の概略構成図である。
【
図2】実施例における表面処理前の潜傷を、顕微鏡を用いて観察した結果を示す。
【
図3】実施例における、表面処理後の顕微鏡像を示す図である。
【
図4】実施例として、表面処理剤として臭化水素酸を用いた場合の対象物のエッチング量とエッチング条件との関係を示す。
【
図5】実施例として、表面処理剤としてヨウ化水素酸を用いた場合の対象物のエッチング量とエッチング条件との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のサファイア基板の表面処理方法は、サファイア基板を、表面処理剤を用いて表面処理する方法であって、前記表面処理剤がハロゲン化水素酸を少なくとも含むことを特長とする。
【0014】
(表面処理剤)
前記表面処理剤は、公知の表面処理剤であってもよい。前記表面処理剤は、無機材料を含んでいてもよいし、有機材料を含んでいてもよい。本発明の実施態様においては、前記表面処理剤がエッチング剤であるのが好ましい。本発明の第1の態様においては、前記表面処理剤が臭素またはヨウ素を含むのが、より良好に表面処理を行うことができるので、好ましく、臭化水素酸(HBr)またはヨウ化水素酸(HI)を含むのがより好ましく、ヨウ化水素酸(HI)を含むのが最も好ましい。また、本発明の第2の態様においては、前記表面処理剤が、水酸化物を含むのも好ましい。なお、前記表面処理剤の溶媒は、特に限定されないが、無機溶媒であるのが好ましく、極性溶媒であるのがより好ましく、水であるのが最も好ましい。前記表面処理剤の濃度は、特に限定されないが、体積比で前記表面処理剤の溶媒に対して5%以上であるのが好ましく、10%以上であるのがより好ましく、20%であるのが最も好ましい。前記濃度の上限は、霧化が可能な範囲であれば、特に限定されない。本発明の実施態様においては、表面処理剤が霧化液滴の形態であるのが好ましい。
【0015】
(霧化液滴)
本発明の実施態様で用いられる霧化液滴は、空中に浮遊するものであり、例えば、スプレーのように吹き付けるのではなく、初速度がゼロで、空間に浮かびガスとして搬送することが可能なミストであるのがより好ましい。ミストの液滴サイズは、特に限定されず、数mm程度の液滴であってもよいが、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは1~10μmである。本発明の実施態様においては、霧化液滴を発生させる方法が、超音波振動を用いる霧化方法であるのが好ましい。超音波を用いて得られた霧化液滴は、初速度がゼロであり、空中に浮遊するので好ましく、例えば、スプレーのように吹き付けるのではなく、空間に浮遊してガスとして搬送することが可能な霧化液滴であるので衝突エネルギーによる損傷がないため、非常に好適である。本発明においては、前記霧化液滴が、前記エッチング液を霧化し、ついで、キャリアガスを用いて搬送されるものであるのが好ましい。
【0016】
(表面処理の対象物)
前記表面処理の対象物は、前記霧化液滴を用いてエッチング処理可能なエッチング対象物が好ましい。前記エッチング対象物の材料も本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、公知の材料であってよく、有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。前記エッチング対象物の形状は、どのような形状のものであってもよく、あらゆる形状に対して有効であり、例えば、平板や円板等の板状、膜状、繊維状、棒状、円柱状、角柱状、筒状、螺旋状、球状、リング状などが挙げられる。本発明の実施態様においては、前記対象物が、基板であるのが好ましい。また、本発明の別の実施態様においては、前記対象物が膜状であるのが好ましい。また、本発明の実施態様においては、前記対象物が積層構造体であってもよい。本発明の態様においては、前記対象物が、アルミニウムまたは/およびガリウムを少なくとも含むのが好ましく、アルミニウムまたは/およびガリウムを含有する酸化物を含むのがより好ましい。また、本発明の実施態様によれば、前記対象物がサファイア基板であるのが好ましい。また、本発明の実施態様によれば、前記対象物が酸化アルミニウムおよび/または酸化ガリウムを含んでいてもよいし、前記対象物が酸化ガリウムを含むのも好ましい。また、前記対象物は、結晶であるのが好ましく、コランダム構造、β―ガリア構造、または六方晶構造を有するのがより好ましく、コランダム構造を有するのが最も好ましい。
【0017】
前記対象物は、基体であってもよいし、基体等と一体化された層であってもよい。本発明の一つの実施態様においては、対象物が基板であるのが好ましい。また、本発明の別の実施態様においては、基体上に直接または他の層を介して、積層されているものを対象物として用いることができる。前記基体は、前記エッチング対象物を支持できるものであれば特に限定されない。また、前記基体の少なくとも一部がエッチング対象物に含まれていてもよい。前記基体の材料も、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、公知の基体であってよく、有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。前記基体の形状としては、どのような形状のものであってもよく、あらゆる形状に対して有効であり、例えば、平板や円板等の板状、繊維状、棒状、円柱状、角柱状、筒状、螺旋状、球状、リング状などが挙げられるが、本発明においては、基板が好ましい。基板の厚さは、本発明においては特に限定されない。
【0018】
本発明の実施態様において、前記基板が前記対象物であってもよいし、前記基板上に形成された結晶層が前記対象物であってもよく、また前記基板上に形成された結晶層と前記基板の少なくとも一部が前記対象物であってもよい。前記結晶層は単層であってもよいし、二層以上からなる多層であってもよい。本発明の実施態様においては、前記基板は、板状であるのが好ましい。また、前記対象物が基板上に形成された結晶層である場合、前記基板は、前記対象物の支持体となるものであれば特に限定されない。絶縁体基板であってもよいし、半導体基板であってもよいし、導電性基板であってもよいが、前記基板が、絶縁体基板であるのが好ましく、また、表面に金属膜を有する基板であるのも好ましい。前記基板としては、好適には例えば、コランダム構造を有する基板などが挙げられる。基板材料は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、公知のものであってよい。前記のコランダム構造を有する基板としては、例えば、コランダム構造を有する基板材料を少なくとも表面の一部に有する基板であってもよい。また、コランダム構造を有する基板材料を主成分とする下地基板であってもよく、より具体的には例えば、サファイア基板(好ましくはc面サファイア基板)やα型酸化ガリウム基板などが挙げられる。ここで、「主成分」とは、前記特定の結晶構造を有する基板材料が、原子比で、基板材料の全成分に対し、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上含まれることを意味し、100%であってもよいことを意味する。前記基体上に前記エッチング対象物を積層する方法は、公知の方法であってもよい。
【0019】
本発明の実施形態においては、前記基体上に応力緩和層等を含むバッファ層を設けてもよい。また、本発明の実施形態の一つとして、前記基体が、表面の一部または全部に、バッファ層を有しているのが好ましい。なお、前記バッファ層は、本発明の製法の実施態様の一つにおいて、結晶層であってもよい。また、前記バッファ層は、本発明の実施態様の一つにおいて、結晶膜であってもよい。本発明の実施態様において、結晶層および/または結晶膜の形成方法は、特に限定されず、公知の方法を用いてもよい。なお、本願明細書において、「結晶膜」の用語は、表面処理が必要な対象物よりも潜傷が低減または消滅した膜または層として、区別するために便宜的に使用している。前記形成方法としては、例えば、スプレー法、ミストCVD法、HVPE法、MBE法、MOCVD法、スパッタリング法等が挙げられる。本発明においては、前記結晶層および/または結晶膜が、ミストCVD法により形成されているのが、前記結晶層および/または結晶膜の膜質をより優れたものとでき、特に、チルト等の結晶欠陥を抑制できるため、好ましい。以下、前記バッファ層をミストCVD法により形成する好適な態様を、より詳細に説明する。
【0020】
前記結晶層および/または結晶膜は、好適には、例えば、原料溶液を霧化し(霧化工程)、得られた霧化液滴(ミストを含む)を、キャリアガスを用いて前記基板まで搬送し(搬送工程)、ついで、前記基板の表面の一部または全部で、前記霧化液滴を熱反応させる(結晶層および/または結晶膜形成工程)ことにより形成することができる。
【0021】
(霧化工程)
前記霧化工程では、前記原料溶液を霧化して霧化液滴を得る。前記原料溶液の霧化方法は、前記原料溶液を霧化できさえすれば特に限定されず、公知の方法であってよいが、本発明の前記実施態様においては、超音波振動を前記原料溶液に伝播させて霧化液滴を得るのが好ましい。超音波振動を伝播させて得られた霧化液滴は、初速度がゼロであり、空中に浮遊するので好ましく、例えば、スプレーのように吹き付けるのではなく、空間に浮遊してガスとして搬送することが可能な霧化液滴であるので衝突エネルギーによる損傷がないため、非常に好適である。霧化液滴の液滴サイズは、特に限定されず、数mm程度の液滴であってもよいが、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは0.1~10μmである。
【0022】
(原料溶液)
前記原料溶液は、ミストCVDにより、前記結晶層および/または結晶膜が得られる溶液であれば特に限定されない。実施態様の一つとして、前記結晶層の原料溶液の組成と前記結晶膜の原料溶液の組成が同じであってもよい。また、実施態様の一つとして、前記結晶層の原料溶液の組成と前記結晶膜の原料溶液の組成が異なっていてもよい。前記原料溶液としては、例えば、霧化用金属の有機金属錯体(例えばアセチルアセトナート錯体等)やハロゲン化物(例えばフッ化物、塩化物、臭化物またはヨウ化物等)の水溶液などが挙げられる。前記霧化用金属は、特に限定されず、このような霧化用金属としては、例えば、アルミニウム、ガリウム、インジウム、鉄、クロム、バナジウム、チタン、ロジウム、ニッケル、コバルトおよびイリジウム等から選ばれる1種または2種以上の金属等が挙げられる。本発明の実施態様においては、前記霧化用金属が、ガリウム、インジウムまたはアルミニウムを少なくとも含むのが好ましく、ガリウムを少なくとも含むのがより好ましい。原料溶液中の霧化用金属の含有量は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、好ましくは、0.001モル%~50モル%であり、より好ましくは0.01モル%~50モル%である。
【0023】
また、実施態様の一つとして、原料溶液には、ドーパントが含まれているのも好ましい。原料溶液にドーパントを含ませることにより、イオン注入等を行わずに、結晶構造を壊すことなく、結晶層および/または結晶膜の導電性を容易に制御することができる。本発明においては、前記ドーパントがスズ、ゲルマニウム、またはケイ素であるのが好ましく、スズ、またはゲルマニウムであるのがより好ましく、スズであるのが最も好ましい。前記ドーパントの濃度は、通常、約1×1016/cm3~1×1022/cm3であってもよいし、また、ドーパントの濃度を例えば約1×1017/cm3以下の低濃度にしてもよいし、ドーパントを約1×1020/cm3以上の高濃度で含有させてもよい。本発明においては、ドーパントの濃度が1×1020/cm3以下であるのが好ましく、5×1019/cm3以下であるのがより好ましい。
【0024】
原料溶液の溶媒は、特に限定されず、水等の無機溶媒であってもよいし、アルコール等の有機溶媒であってもよいし、無機溶媒と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。本発明においては、前記溶媒が水を含むのが好ましく、水または水とアルコールとの混合溶媒であるのがより好ましく、水であるのが最も好ましい。前記水としては、より具体的には、例えば、純水、超純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水、海水などが挙げられるが、本発明においては、超純水が好ましい。
【0025】
(搬送工程)
搬送工程では、キャリアガスでもって前記霧化液滴を成膜室内に搬送する。前記キャリアガスは、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、例えば、酸素、オゾン、窒素やアルゴン等の不活性ガス、または水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスが好適な例として挙げられる。また、キャリアガスの種類は1種類であってよいが、2種類以上であってもよく、流量を下げた希釈ガス(例えば10倍希釈ガス等)などを、第2のキャリアガスとしてさらに用いてもよい。また、キャリアガスの供給箇所も1箇所だけでなく、2箇所以上あってもよい。キャリアガスの流量は、特に限定されないが、0.01~20L/分であるのが好ましく、1~10L/分であるのがより好ましい。希釈ガスの場合には、希釈ガスの流量が、0.001~2L/分であるのが好ましく、0.1~1L/分であるのがより好ましい。
【0026】
(結晶層および/または結晶膜の形成工程)
結晶層および/または結晶膜の形成工程では、成膜室内で前記霧化液滴を熱反応させることによって、基板上に、前記結晶層または結晶膜を形成する。熱反応は、熱でもって前記霧化液滴が反応すればそれでよく、反応条件等も本発明の目的を阻害しない限り特に限定されない。本工程においては、前記熱反応を、通常、溶媒の蒸発温度以上の温度で行うが、高すぎない温度(例えば1000℃)以下が好ましく、650℃以下がより好ましく、400℃~650℃が最も好ましい。また、熱反応は、本発明の目的を阻害しない限り、真空下、非酸素雰囲気下、還元ガス雰囲気下および酸素雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよく、また、大気圧下、加圧下および減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、本発明においては、大気圧下で行われるのが好ましい。なお、形成される層や膜の厚みは、形成時間を調整することにより、設定することができる。
【0027】
また、前記結晶層および/または結晶膜は、特に限定されないが、本発明の実施態様においては、金属酸化物を主成分として含んでいるのが好ましい。前記金属酸化物としては、例えば、アルミニウム、ガリウム、インジウム、鉄、クロム、バナジウム、チタン、ロジウム、ニッケル、コバルトおよびイリジウム等から選ばれる1種または2種以上の金属を含む金属酸化物などが挙げられる。本発明においては、前記金属酸化物が、インジウム、アルミニウムおよびガリウムから選ばれる1種または2種以上の元素を含有するのが好ましく、少なくともインジウムまたは/およびガリウムを含んでいるのがより好ましく、少なくともガリウムを含んでいるのが最も好ましい。なお、本発明において、「主成分」とは、前記金属酸化物が、原子比で、前記バッファ層の全成分に対し、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上含まれることを意味し、100%であってもよいことを意味する。
【0028】
なお、本願に記載の結晶層および/または結晶膜の形成方法を用いて成膜した場合に、基体の条件等により、潜傷の少ないまたは潜傷のない結晶層が得られた場合は、以下に記載するエッチング処理を不要としてもよいことは言うまでもない。また、結晶層を基体上に形成する前に基体の表面処理を行っておくこともできる。あらかじめ表面処理を行った潜傷のない基体上に結晶層を形成すれば、潜傷の低減された結晶膜や無潜傷膜を得ることも可能である。潜傷のない結晶層は、バッファ層として用いてもよいし、結晶膜として用いることができる。一方で、結晶層を成膜して初めて潜傷の存在が明らかになる場合があり、本発明の実施態様の一つとして、エッチング対象物を結晶層としてもよい。この場合、エッチング対象物が、基体上に形成された結晶層と基体の少なくとも一部となってもよい。
【0029】
本発明の実施態様においては、表面処理として、前記対象物に前記エッチング液を含む前記霧化液滴を用いて200℃以上の温度で表面処理を行う。本発明の実施態様においては、200℃以上の表面処理温度でエッチング処理できさえすれば、特に限定されない。本発明の実施態様においては、前記処理温度が、300℃以上であるのが好ましい。また、本発明の実施態様においては、前記表面処理を、前記霧化液滴を前記エッチング対象物に反応させることにより行うのが好ましい。なお、ここでの表面処理温度は、エッチング対象物の温度をいう。
【0030】
本発明の実施態様においては、前記霧化液滴を、キャリアガスを用いて搬送するのが好ましい。前記キャリアガスは、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、例えば、酸素、オゾン、窒素やアルゴン等の不活性ガス、または水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスなどが好適な例として挙げられる。また、キャリアガスの種類は1種類であってよいが、2種類以上であってもよく、流量を下げた希釈ガス(例えば10倍希釈ガス等)などを、第2のキャリアガスとしてさらに用いてもよい。また、キャリアガスの供給箇所も1箇所だけでなく、2箇所以上あってもよい。キャリアガスの流量は、特に限定されないが、0.01~20L/分であるのが好ましく、1~10L/分であるのがより好ましい。希釈ガスの場合には、希釈ガスの流量が、0.001~2L/分であるのが好ましく、0.1~1L/分であるのがより好ましい。
【0031】
前記反応は、前記霧化液滴を用いて前記エッチング対象物をエッチング処理可能な反応であればそれでよく、化学的な反応を含んでいてもよいし、熱による熱反応を含んでいてもよい。本発明の実施態様では、通常、対象物の温度(表面処理温度)を200℃以上の温度にして表面処理を行うが、本発明の実施態様においては、表面処理温度を300℃以上として行うのが好ましい。また、本発明の別の実施態様においては、表面処理温度を350℃以上で行うのが好ましく、400℃以上がより好ましい。本発明の実施態様においては、このように高温であっても、強酸のエッチング液を高温にするのではなく、エッチング対象物の温度を高めてエッチング処理することから、安定的且つ良好に前記エッチング対象物をエッチング処理することができる。上限については、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、1900℃以下が好ましく、1400℃以下がより好ましい。また、前記反応は、本発明の目的を阻害しない限り、真空下、非酸素雰囲気下、還元ガス雰囲気下および酸素雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよいが、非酸素雰囲気下または酸素雰囲気下で行われるのが好ましく、不活性ガス雰囲気下で行われるのがより好ましい。また、大気圧下、加圧下および減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、本発明の実施態様においては、大気圧下で行われるのが好ましい。なお、エッチング量は、エッチング処理時間を調整することにより、設定することができる。
【0032】
前記エッチング処理方法は、例えば、エッチング液を霧化して液滴を浮遊させることにより霧化液滴を生成する霧化部、前記霧化部で発生した霧化液滴をキャリアガスでもって搬送する搬送部、および該霧化液滴でもって前記エッチング対象物をエッチングするエッチング部を備えるエッチング処理装置において、前記エッチング部に前記エッチング対象物を200℃以上の温度で加熱するヒーターが備えられているエッチング処理装置を用いて実施される。本発明の実施態様の一つにおいては、前記エッチング部に前記エッチング対象物を400℃以上の温度で加熱できるヒーターが備えられているのが好ましい。前記エッチング対象物は、前記ヒーター上に直接配置されていてもよいし、他の層や空間を介して間接的に配置されていてもよい。また、本発明の実施態様においては、前記ヒーターが、ホットプレートであるのも好ましい。また、本発明の実施態様においては、前記エッチング部が、前記霧化液滴を滞留させる滞留構造を有しているのが好ましい。この好ましい態様によれば、ファインチャネル方式よりも優れたエッチング量およびエッチング品質を奏することができる。
【0033】
本発明の実施態様の一つとして、サファイア基板を、ハロゲン化水素酸を少なくとも含む表面処理剤を用いて表面処理すること、表面処理した前記サファイア基板の表面の少なくとも一部を結晶成長面として結晶成長させることにより、結晶膜を成膜すること、を含む、結晶膜の製造方法であることが好ましい。前記結晶膜がコランダム構造を有していてもよい。前記結晶膜はバッファ層であってもよいし、半導体層、絶縁層、または導電層であってもよい。前記結晶膜は、結晶性酸化物半導体膜であるのが好ましい。また、前記結晶膜と前記バッファ層とは、本発明の目的を阻害しない限り、前記結晶膜の構成材料とは特に限定されず、前記バッファ層の構成材料と同様であってもよい。前記結晶膜の形状等も特に限定されず、前記バッファ層の形状等と同様であってもよい。前記結晶膜の結晶構造は、特に限定されないが、本発明の実施態様においては、コランダム構造であるのがより好ましい。前記結晶膜の形成には上記の方法を用いることができる。
【0034】
本発明の実施態様における前記結晶膜の製造方法は、種々の製品の製造工程において適用することが可能であり、好適には、半導体装置の製造工程等に用いられる。前記半導体装置としては、例えば、ダイオード、トランジスタ、JBSなどが挙げられる。前記製品としては、前記半導体装置以外には、例えば、デジタルカメラ、プリンタ、プロジェクタ、パーソナルコンピュータ、携帯電話等のCPU搭載電子装置や、掃除機、アイロン等の電源ユニット搭載電子装置等、モータ、駆動機構、電気自動車、電機飛行機、小型電動機器やMEMS等の駆動電子装置等が挙げられる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
1.表面処理装置
図1を用いて、本実施例で用いた表面処理装置19を説明する。
図1の表面処理装置19は、キャリアガスを供給するキャリアガス供給源22aと、キャリアガス供給源22aから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁23aと、キャリアガス(希釈)を供給するキャリアガス(希釈)源22bと、キャリアガス(希釈)源22bから送り出されるキャリアガス(希釈)の流量を調節するための流量調節弁23bと、エッチング液24aが収容されるミスト発生源24と、水25aが入れられる容器25と、容器25の底面に取り付けられた超音波振動子26と、エッチング部であるエッチング処理室30と、ミスト発生源24からエッチング処理室30までをつなぐ石英製の供給管27と、エッチング処理室30内に設置されたヒーターであるホットプレート28とを備えている。ホットプレート28上には、対象物として、表面に結晶層が形成されたサファイア基板20が設置されている。なお、前記結晶層の形成は、ガリウムアセチルアセトナート溶液(0.025M)を原料溶液とし、臭化水素酸(HBr)5%を添加剤とし、N
2をキャリアガスとし(キャリアガス流量1L/分、希釈キャリアガス流量1L/分)とし、成膜時間を10分間としてミストCVD法を用いて行った。サファイア基板および結晶層20は潜傷を有していた。前記潜傷は、サファイア基板に由来する潜傷だけでなくバッファ層形成時に起因して生じたバッファ層の潜傷も含まれる。なお、エッチング処理前の潜傷を、顕微鏡を用いて観察した結果を
図2に示す。また、エッチング処理室30には、側壁の高い位置に排気口が設けられ、霧化液滴がエッチング対象物20周辺で滞留するように構成されている。
【0037】
2.エッチング液の作製
超純水に臭化水素酸を体積比で20%となるように混合し、これをエッチング液とした。
【0038】
3.エッチング準備
上記2.で得られたエッチング液24aをミスト発生源24内に収容した。次に、バッファ層としてα―Ga2O3膜が表面に形成されたサファイア基板20をホットプレート28上に設置し、ホットプレート28を作動させて、結晶層としてα―Ga2O3膜が表面に形成されたサファイア基板を対象物20として、前記対象物20の温度を500℃にまで昇温させた。なお、キャリアガスとして窒素を用いた。
【0039】
4.表面処理
次に、超音波振動子26を2.4MHzで振動させ、その振動を、水25aを通じてエッチング液24aに伝播させることによって、エッチング液24aを霧化させて霧化液滴(ミストを含む)24bを生成させた。この霧化液滴24bが、キャリアガスによって、供給管27内を通って、処理室30内に導入され、大気圧下、表面処理温度を500℃として、結晶層としてα―Ga
2O
3膜が表面に形成されたサファイア基板(対象物20)上で霧化液滴が反応して、対象物20の表面処理を行った。処理時間は6時間であった。前記表面処理した対象物の表面の少なくとも一部を結晶成長面として、再度前記結晶層と同じ条件で結晶膜を形成した。
図2に示される潜傷の位置に対応する個所を顕微鏡にて観察し、潜傷の有無を確認した。観察結果を
図3に示す。
図2および
図3から明らかなように、前記表面処理として、エッチング処理後にエッチング処理面に形成した前記結晶膜においては潜傷が消滅して無潜傷膜となっていることが分かる。
【0040】
(実施例2)
また、表面処理剤として臭化水素(HBr 20%)の臭化水素酸を用いて、
図4に示すエッチング量とエッチング条件としたこと以外は、実施例1と同様にして、面方位の異なるサファイア基板上にα―Ga
2O
3膜を結晶層として形成したものを対象物とし、対象物の表面処理としてエッチング処理を行った。エッチング処理のエッチング量と条件との関係を
図4に示す。
図4中の「c」「m」「r」はそれぞれ、サファイア基板の面方位を示す。本実施例において、いずれの面方位においても、対象物の表面処理が良好に行われたが、特に、表面処理温度が300℃以上になると、いずれの面方位においても表面処理が良好に行われたことが分かる。
【0041】
(実施例3)
また、表面処理剤として、臭化水素酸の代わりに、ヨウ化水素(HI 20%)のヨウ化水素酸を用いたことおよび
図5に示されるエッチング条件以外は、実施例1と同様にして、面方位の異なるサファイア基板上にα―Ga
2O
3膜を結晶層として形成したものを対象物とし、対象物の表面処理としてエッチング処理を行った。エッチング処理のエッチング量と条件との関係を
図5に示す。
図5中の「c」「m」「r」はそれぞれ、サファイア基板の面方位を示す。いずれの面方位においても、対象物の表面処理が良好に行われたことが分かる。エッチング処理後、実施例1と同様にして、表面処理した対象物の表面処理面に結晶膜を形成した。その結果、対象物に潜傷があったものについては、実施例1と同様に潜傷が消滅した無潜傷の結晶膜が得られた。
【0042】
なお、基板を対象物として上記の表面処理を行うことも可能であって、基板上に前記結晶層がない分、より短い時間で表面処理を行うことができることから、本発明の実施態様によれば、基板を対象物として表面処理を行うことで、工業的有利に、基板の表面を改質することができ、より高品質の基板を得ることができる。
【0043】
(比較例1)
臭化水素酸を、硫酸とリン酸とを1:1の体積比で混合したエッチング液に代えて用いたこと以外実施例1と同様にして対象物のエッチング処理を行った。エッチング処理後、実施例1と同様にして、エッチング処理面に結晶膜を形成したところ、成膜開始後15分で前記結晶膜が白濁した。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の実施態様における結晶膜の製造方法は、工業的有利に高品質の結晶膜が製造できるため、半導体装置、電子機器等の種々の製造分野に利用可能である。また、本発明の実施態様によれば、基板および/または結晶層を含む対象物の表面処理をより安全に行うことができる。
【符号の説明】
【0045】
19 表面処理装置
20 対象物
22a キャリアガス供給源
22b キャリアガス(希釈)供給源
23a 流量調節弁
23b 流量調節弁
24 ミスト発生源
24a エッチング液
24b 霧化液滴
25 容器
25a 水
26 超音波振動子
27 供給管
28 ヒーター(ホットプレート)
30 処理室