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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】電気接点部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 15/02 20060101AFI20240606BHJP
   C23C 18/31 20060101ALI20240606BHJP
   C23C 18/32 20060101ALI20240606BHJP
   C23C 18/50 20060101ALI20240606BHJP
   C23C 18/52 20060101ALI20240606BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20240606BHJP
   H01R 13/03 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
C25D15/02 F
C23C18/31 A
C23C18/32
C23C18/50
C23C18/52 A
C23C28/00 B
H01R13/03 D
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021204988
(22)【出願日】2021-12-17
(65)【公開番号】P2023090169
(43)【公開日】2023-06-29
【審査請求日】2022-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】591065549
【氏名又は名称】福岡県
(73)【特許権者】
【識別番号】512110307
【氏名又は名称】株式会社九州電化
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】中野 賢三
(72)【発明者】
【氏名】古賀 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】▲吉▼田 智博
(72)【発明者】
【氏名】吉村 浩司
(72)【発明者】
【氏名】中野 寛文
(72)【発明者】
【氏名】山元 亮平
(72)【発明者】
【氏名】淵上 貴也
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-164966(JP,A)
【文献】特許第4999072(JP,B2)
【文献】特開2020-152929(JP,A)
【文献】特開2007-042391(JP,A)
【文献】特開2006-257460(JP,A)
【文献】国際公開第2018/221087(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 15/02
C23C 18/31
C23C 18/32
C23C 18/50
C23C 18/52
C23C 28/00
H01R 13/03
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性炭素粒子と陽イオン界面活性剤とを含む水分散液中に、被めっき物と陽極とを浸漬させ、前記被めっき物と前記陽極との間に電圧を印加して、前記被めっき物の表面に前記導電性炭素粒子を堆積させる第1工程と、
前記導電性炭素粒子が表面に堆積した前記被めっき物に、ニッケルまたはニッケル合金を析出させる無電解めっき処理を行って、前記被めっき物上に、前記ニッケルまたはニッケル合金と、前記導電性炭素粒子とを含有する複合ニッケルめっき膜を形成する第2工程と、を有する、電気接点部材の製造方法。
【請求項2】
前記被めっき物が、導電性基材と、前記導電性基材の上に形成された下地金属層とを有し、
前記第1工程において、前記下地金属層の表面に前記導電性炭素粒子を堆積させる、請求項に記載の電気接点部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気接点部材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、国際的な環境保全の取り組みとして、温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)の削減が必要とされている。また、日本政府においても「2050年カーボンニュートラル」におけるグリーン成長戦略を策定しており、成長が期待される14分野でCO2を削減する技術が求められている。そのため、IoTやDXが推進され、電気・電子部品の需要が高まっている。また、CO2を生成しない電池として水素燃料電池の利用拡大が見込まれる。
【0003】
このような中、電気・電子部品や水素燃料電池に用いられる電気接点の表面処理には、接触抵抗が低く、高温高湿条件で化学的に安定なAuめっきが使用されている。しかし、Au自体の原価が高いことから、Auめっきに代わる安価な表面処理が望まれている。Au代替めっきとしては、PdやRuなどの貴金属めっきが検討されているものの、接触抵抗や化学的安定性、生産コストは十分ではなかった。
【0004】
上記の課題のうち、生産コストや低接触抵抗について解決するため、カーボンなどの導電性材料をめっき金属に組み込む複合めっきが検討されている。
【0005】
特許文献1では、電子部品の端子・コネクタ、スイッチ材料用として、Sn、Agまたはその合金中に黒鉛を含有させた複合めっきが提案されている。
【0006】
特許文献2では、少なくとも電池ケース内側になる面に、黒鉛を分散した黒鉛分散ニッケルめっき層が形成されている電池ケース用表面処理鋼板が提案されている。
【0007】
非特許文献1では、無電解Ni-Bめっき中に黒鉛を複合化させ、膜の硬さ、摩擦摩耗特性、接触電気抵抗について検討している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-057212号公報
【文献】国際公開第00/05437号
【非特許文献】
【0009】
【文献】表面技術,一般社団法人 表面技術協会,1993 年,第44 巻,第11 号 ,p. 961-965
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来、複合めっき膜において、化学的安定性は十分に検討されてはいなかった。特に、高温高湿下での接触抵抗については着目されておらず、高温高湿下での接触抵抗に関しては十分に検討されていなかった。
【0011】
かかる状況下、本発明は、接触抵抗が低く、化学的に安定な、複合ニッケルめっき膜を有する電気接点部材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0013】
<1> 被めっき物と、前記被めっき物の上に形成された複合ニッケルめっき膜と、を有し、前記複合ニッケルめっき膜が、ニッケルまたはニッケル合金と、前記ニッケルまたはニッケル合金中に分散した導電性炭素粒子とを含有し、前記複合ニッケルめっき膜の表面における前記導電性炭素粒子の面積率が20面積%以上である、電気接点部材。
<2> 前記複合ニッケルめっき膜の表面における前記導電性炭素粒子の含有率が10質量%以上である、前記<1>に記載の電気接点部材。
<3> 前記ニッケルまたはニッケル合金が、ニッケルとリンを含むニッケルリン合金である、前記<1>または<2>に記載の電気接点部材。
<4> 前記導電性炭素粒子が、黒鉛である、前記<1>から<3>のいずれかに記載の電気接点部材。
<5> 前記被めっき物が、導電性基材と、前記導電性基材の上に形成された下地金属層とを有し、前記下地金属層の上に前記複合ニッケルめっき膜が形成された、前記<1>から<4>のいずれかに記載の電気接点部材。
【0014】
<6> 導電性炭素粒子と陽イオン界面活性剤とを含む水分散液中に、被めっき物と陽極とを浸漬させ、前記被めっき物と前記陽極との間に電圧を印加して、前記被めっき物の表面に前記導電性炭素粒子を堆積させる第1工程と、前記導電性炭素粒子が表面に堆積した前記被めっき物に、ニッケルまたはニッケル合金を析出させる無電解めっき処理を行って、前記被めっき物上に、前記ニッケルまたはニッケル合金と、前記導電性炭素粒子とを含有する複合ニッケルめっき膜を形成する第2工程と、を有する、電気接点部材の製造方法。
<7> 前記被めっき物が、導電性基材と、前記導電性基材の上に形成された下地金属層とを有し、前記第1工程において、前記下地金属層の表面に前記導電性炭素粒子を堆積させる、前記<6>に記載の電気接点部材の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、接触抵抗が低く、化学的に安定な、複合ニッケルめっき膜有する電気接点部材およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の電気接点部材の模式図である。
図2】本発明の電気接点部材の模式図である。
図3】実施例1の供試体の断面のSEM画像である。
図4】実施例1の供試体のめっき膜の表面のSEM画像である。
図5】実施例2の供試体のめっき膜の表面のSEM画像である。
図6】実施例3の供試体のめっき膜の表面のSEM画像である。
図7】比較例1の供試体のめっき膜の表面のSEM画像である。
図8】比較例2の供試体のめっき膜の表面のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0018】
<電気接点部材>
本発明は、被めっき物と、被めっき物の上に形成された複合ニッケルめっき膜と、を有し、複合ニッケルめっき膜が、ニッケルまたはニッケル合金と、ニッケルまたはニッケル合金中に分散した導電性炭素粒子とを含有し、複合ニッケルめっき膜の表面における導電性炭素粒子の面積率が20面積%以上である、電気接点部材(以下、「本発明の電気接点部材」と記載する場合がある。)に関するものである。
【0019】
<電気接点部材の製造方法>
本発明は、導電性炭素粒子と陽イオン界面活性剤とを含む水分散液中に、被めっき物と陽極とを浸漬させ、被めっき物と陽極との間に電圧を印加して、被めっき物の表面に導電性炭素粒子を堆積させる第1工程と、導電性炭素粒子が表面に堆積した被めっき物に、ニッケルまたはニッケル合金を析出させる無電解めっき処理を行って、被めっき物上に、ニッケルまたはニッケル合金と、導電性炭素粒子とを含有する複合ニッケルめっき膜を形成する第2工程と、を有する、電気接点部材の製造方法(以下、「本発明の電気接点部材の製造方法」と記載する場合がある。)に関するものである。
【0020】
本発明者らは、めっき膜の表面に露出した導電性炭素粒子の量に着目した。導電性炭素粒子は、化学的安定性が高く、金属に比べ酸化されにくいため、導電性炭素粒子がめっき膜表面に高密度に露出した構造とすることで、高温高湿環境においても接触抵抗が増加しにくい複合めっき膜とできると考え、鋭意研究した。しかしながら、あらかじめ導電性炭素粒子を分散させためっき浴を用いて無電解めっき処理を行ったところ、めっき膜への導電性炭素粒子の取り込み量が少なく、めっき膜表面に導電性炭素粒子が高密度に露出した構造は得られなかった。めっき膜への導電性炭素粒子の取り込み量を増やすためにめっき浴への導電性炭素粒子の添加量を増やすと、凝集沈殿する等の問題があることがわかった。また、導電性炭素粒子を分散させためっき浴を用いて電解めっき処理する方法では、めっき膜に接触した導電性炭素粒子上にめっきが成長し、突起状のめっきになり、導電性炭素粒子がめっき膜の表面に露出しにくいという問題があることがわかった。そのため、めっき膜への導電性炭素粒子の取り込み量を増やしても、めっき膜の表面における導電性炭素粒子の量を増やすことは困難であった。
【0021】
さらに研究を重ねた結果、陽イオン界面活性剤により導電性炭素粒子を分散させた水溶液中で、電気泳動により黒鉛を陰極表面に高密度に堆積した後、無電解めっきにより析出させたニッケル合金で導電性炭素粒子間隙を埋めながらめっき膜を形成させることで、めっき膜表面に導電性炭素粒子が高密度に露出した構造体を得られることが分かった。また、この構造体は、高温高湿試験においても接触抵抗が増加しにくいことがわかった。本発明は、これらの知見に基づくものである。
【0022】
ニッケルまたはニッケル合金の表面酸化が進むと、酸化ニッケルは抵抗が高いため、導電性炭素粒子が導電パスとなる。複合ニッケルめっき膜の表面において導電性炭素粒子が少なすぎると、導電パスが少なくなり、ニッケルまたはニッケル合金の表面酸化により抵抗が増加しやすくなる。特に、高温高湿下では、ニッケルまたはニッケル合金が表面酸化されやすいため、抵抗が増加しやすくなる。本発明の電気接点部材は、複合ニッケルめっき膜の表面における導電性炭素粒子の面積率が20面積%以上であり、化学的安定性が高く、金属に比べて酸化されにくい導電性炭素粒子が表面に高密度に露出した構造となる。このため、接触抵抗が低く、化学的安定性に優れたものとできる。このような本発明の電気接点部材は、本発明の電気接点部材の製造方法により好適に得ることができる。
【0023】
特に、本発明の電気接点部材は、高温高湿下においても接触抵抗が増加しにくく、化学的安定性に優れるものとすることができる。
【0024】
以下、本発明の電気接点部材および本発明の電気接点部材の製造方法について、より詳しく説明する。
【0025】
<電気接点部材>
図1は、本発明の電気接点部材の一例を示す模式図である。図1に示すように、電気接点部材1は、ニッケルまたはニッケル合金12と、ニッケルまたはニッケル合金12中に分散した導電性炭素粒子14を含有する複合ニッケルめっき膜10と、被めっき物20と、を有する。
【0026】
[複合ニッケルめっき膜10]
本発明の電気接点部材を構成する複合ニッケルめっき膜10は、被めっき物20の上に形成された膜であり、ニッケルまたはニッケル合金12と、導電性炭素粒子14とを主体とする膜である。複合ニッケルめっき膜10の厚さは、導電性炭素粒子14の大きさや、使用用途等に応じて適宜選択されるものである。例えば、0.5~20μmや、1~10μm、1~5μmなどとすることができる。なお、複合ニッケルめっき膜10の厚さは、ニッケルまたはニッケル合金12のめっきの厚みであり、導電性炭素粒子14の一部はこの厚みより露出している部分もある。
【0027】
(ニッケルまたはニッケル合金12)
複合ニッケルめっき膜10は、ニッケルまたはニッケル合金12を含む。ニッケルまたはニッケル合金12は、硬さや耐摩耗性に優れ、安価であり、無電解めっきを利用することで均一性の高い膜を形成させることができる。
【0028】
ニッケルまたはニッケル合金12は、ニッケル単体、または、ニッケルとニッケル以外の元素を含むニッケルを主体とする(ニッケルを50質量%以上含む)合金である。ニッケル合金としては、ニッケル(Ni)と、リン(P)、ホウ素(B)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)およびスズ(Sn)からなる群から選択される1以上とを含むニッケル合金などが挙げられる。ニッケルまたはニッケル合金12は、ニッケルと、リンおよび/またはホウ素とを含むニッケル合金であることが好ましく、ニッケルとリンとを含むニッケルリン合金(NiP合金)であることがより好ましい。リンを含むことで、めっき膜は、耐食性に優れ、高温高湿環境下で表面酸化膜の膜厚が厚くなりにくい。
【0029】
(導電性炭素粒子14)
複合ニッケルめっき膜10は、導電性炭素粒子14を含む。導電性炭素粒子14は、ニッケルまたはニッケル合金12中に分散している。また、導電性炭素粒子14の一部は複合ニッケルめっき膜10の表面に露出しており、複合ニッケルめっき膜10の表面において、導電性炭素粒子14は点在(分散)している。
【0030】
導電性炭素粒子14としては、黒鉛、グラフェン、カーボンブラック、カーボンナノチューブなどが挙げられる。中でも、安価で、低接触抵抗であり、化学的安定性に優れるため、黒鉛が好ましい。
【0031】
黒鉛は、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、球状黒鉛、膨張黒鉛、膨張化黒鉛、土状黒鉛などの天然黒鉛や、人造黒鉛などが挙げられ、人造黒鉛が好ましい。
【0032】
導電性炭素粒子14の形状は特に限定されないが、非球状であることが好ましい。非球状のものを用いることで接地面積を大きくし、被めっき物との接着力を大きくすることができる。球状の導電性炭素粒子14は、被めっき物から脱落しやすい傾向にある。なお、非球状とは、真球状以外の形状であり、鱗片状、針状、無定形などの形状である。非球状の導電性炭素粒子14は、例えば、導電性炭素粒子の最大径(長径)を最小径(短径)で除した値が1.2以上(最大径/最小径>1.2)である。
【0033】
導電性炭素粒子14の平均粒径は、0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、0.5μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。また、導電性炭素粒子14の平均粒径は、20μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。導電性炭素粒子14が大きすぎると、複合ニッケルめっき膜10の膜厚が厚くなり、不経済である。また、導電性炭素粒子14が小さすぎると、他の導電性炭素粒子と連結していない導電性炭素粒子が多くなり、ニッケルと炭素との複合化の効果が発揮されにくく、高温高湿下での複合ニッケルめっき膜10の化学的安定性が低下する傾向にある。なお、導電性炭素粒子14の粒径は、球状である場合はその直径であり、非球状である場合はその最大径である。導電性炭素粒子14の平均粒径は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)による部材の断面画像から求めることができ、100個の導電性炭素粒子14の平均値として算出することができる。
【0034】
(複合ニッケルめっき膜10の表面における導電性炭素粒子14の面積率)
複合ニッケルめっき膜10の表面における導電性炭素粒子14の面積率は20面積%以上である。このように複合ニッケルめっき膜10の表面における導電性炭素粒子14の面積率が高い構成であるため、抵抗が増加しにくく、化学的な安定性に優れたものにできる。複合ニッケルめっき膜10の表面における導電性炭素粒子14の面積率は、30面積%以上が好ましく、35面積%以上がより好ましい。複合ニッケルめっき膜10の表面における導電性炭素粒子14の面積率が小さすぎると、化学的安定性が低下する傾向にある。また、複合ニッケルめっき膜10の表面における導電性炭素粒子14の面積率の上限は特に制限はないが、90面積%以下や、80面積%以下、70面積%以下、60面積%以下などとすることができる。
【0035】
なお、複合ニッケルめっき膜10の表面における導電性炭素粒子14の面積率は、走査型電子顕微鏡(SEM)による複合ニッケルめっき膜10の表面観察により得られる組成像(COMPO像)における導電性炭素粒子14の面積の割合であり、組成像を画像解析ソフトにより解析し算出した導電性炭素粒子14の総面積を組成像全体の面積で除した値の百分率である。具体的には、まず、走査型電子顕微鏡によりめっき膜の表面の組成像を取得する。撮影は、適切な観察領域となるように導電性炭素粒子14の平均粒径に応じて観察倍率を調整して行えばよく、例えば、500倍の倍率で組成像(面積172μm×240μm)を撮影する。次いで、組成像をEDXの画像解析ソフト(GENESIS Spectrum)により二値化処理し、黒色領域の面積を導電性炭素粒子14の面積として算出する。算出された黒色領域の総面積と組成像全体の面積を用いて、複合ニッケルめっき膜10の表面における導電性炭素粒子14の面積率を求めることができる。
【0036】
(複合ニッケルめっき膜10の表面における導電性炭素粒子14の含有率)
複合ニッケルめっき膜10の表面における導電性炭素粒子14の含有率は10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。また、その上限は特に限定されない。耐久性などの観点から、複合ニッケルめっき膜10の表面における導電性炭素粒子14の含有率は、90質量%以下とすることが好ましく、80質量%や、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下などとしてもよい。なお、複合ニッケルめっき膜10の表面における導電性炭素粒子14の含有率は、加速電圧15kVで走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析(SEM-EDX)により測定したときの、ニッケルまたはニッケル合金12と導電性炭素粒子14との合計に対する導電性炭素粒子14の質量比である。
【0037】
複合ニッケルめっき膜10における、ニッケルまたはニッケル合金12と導電性炭素粒子14との合計は、97質量%以上であることが好ましく、98質量%以上であることがより好ましい。複合ニッケルめっき膜10は、ニッケルまたはニッケル合金12と導電性炭素粒子14とから実質的になることがさらに好ましいが、製造工程で不可避的に含まれる不純物や、物性上影響を与えない不純物は含んでもよい。また、複合ニッケルめっき膜10は、ニッケルまたはニッケル合金12が、ニッケルと、リンおよび/またはホウ素とを含むニッケル合金であり、導電性炭素粒子14が黒鉛であることが好ましい。より好ましくは、ニッケルまたはニッケル合金12がニッケルとリンとを含むニッケルリン合金であり、導電性炭素粒子14が黒鉛である。
【0038】
好適な複合ニッケルめっき膜10のひとつは、Cが10~90質量%、Pが11質量%以下、Bが6質量%以下であり、残部がNiおよび不可避的不純物である膜である。また、別の好適な複合ニッケルめっき膜10として、Cが10~90質量%、Pが1~11質量%、残部がNiおよび不可避的不純物である膜が挙げられる。
【0039】
[被めっき物20]
被めっき物20は、特に限定されず、銅やアルミニウム、チタンなどの各種金属素材などを用いることができる。また、被めっき物20の形状は、板材に限定されず、線材、棒材、管材、角材、各種部材形状など、用途に適した形状とすることができる。
【0040】
被めっき物20の上に複合ニッケルめっき膜10を形成しやすいため、被めっき物20は、導電性基材と、導電性基材の上に形成された下地金属層を有することが好ましい。
【0041】
図2は、導電性基材22と、導電性基材22の上に形成された下地金属層24を有する被めっき物20aと、下地金属層24の上に形成された複合ニッケルめっき膜10とを有する電気接点部材1aの模式図である。電気接点部材1aは、被めっき物20aの構成以外は、電気接点部材1と同じである。
【0042】
(導電性基材22)
導電性基材22としては、銅、アルミニウム、チタンなどの金属基材などが挙げられる。また、導電性基材22の形状に特に制限はなく、用途に適したものを適宜選択して用いることができる。
【0043】
(下地金属層24)
下地金属層24は、導電性基材22の表面に形成される層であり、金属から形成される層である。下地金属層24は、複合ニッケルめっき膜10を形成するときに触媒として寄与できる金属から形成されていればよく、ニッケルまたはニッケル合金12と同一の金属であってもよく、異なる金属であってもよい。下地金属層24を構成する金属が、複合ニッケルめっき膜10を構成するニッケルまたはニッケル合金12と同一である場合、導電性炭素粒子の有無によって、下地金属層24と複合ニッケルめっき膜10とは判断できる。
【0044】
下地金属層24としては、例えば、ニッケル、ニッケル合金、コバルト、コバルト合金、鉄、鉄合金などの層が挙げられる。耐食性の観点から、下地金属層24は、ニッケルまたはニッケル合金の層であることが好ましい。ニッケル合金としては、ニッケル(Ni)と、リン(P)、ホウ素(B)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)およびスズ(Sn)からなる群から選択される1以上とを含むニッケル合金などが挙げられる。
【0045】
下地金属層24の厚みは特に限定されないが、10nm以上や、100nm以上、1μm以上などとすることができる。また、その上限は、100μm以下や、50μm以下などとすることができる。
【0046】
導電性基材22と、導電性基材22の上に形成された下地金属層24を有する被めっき物20aは、公知のめっき方法を利用して、導電性基材22に対して、下地金属層24を構成する金属が析出するようにめっき処理することで得ることができる。
【0047】
<電気接点部材の用途>
本発明の電気接点部材は、具体的には、電子部品の端子やコネクタ、スイッチ材料(リレー端子)、電池ケース、燃料電池のセパレータや集電板、配電盤の端子、ブスバーなどに用いることができる。
【0048】
<電気接点部材の製造方法>
本発明の電気接点部材の製造方法は、上記の通り、導電性炭素粒子と陽イオン界面活性剤とを含む水分散液中に、被めっき物と陽極とを浸漬させ、被めっき物と陽極との間に電圧を印加して、被めっき物の表面に導電性炭素粒子を堆積させる第1工程と、導電性炭素粒子が表面に堆積した被めっき物に、ニッケルまたはニッケル合金を析出させる無電解めっき処理を行って、被めっき物上に、ニッケルまたはニッケル合金と、導電性炭素粒子とを含有する複合ニッケルめっき膜を形成する第2工程と、を有する。
【0049】
導電性炭素粒子を陽イオン界面活性剤により正に帯電させ、被めっき物が陰極となるように電圧を印加することで、被めっき物上に導電性炭素粒子を堆積させることができる。この状態でさらに無電解めっき処理を行うことで、膜表面の導電性炭素粒子の面積率が高い複合ニッケルめっき膜を形成させることができる。このような方法とすることで、めっき膜の厚さのバラツキを抑えて、再現性高く、製造することができる。また、本発明の電気接点部材の製造方法により、本発明の電気接点部材を好適に得ることができる。
【0050】
(第1工程)
第1工程は、導電性炭素粒子と陽イオン界面活性剤とを含む水分散液中に、被めっき物と陽極とを浸漬させ、被めっき物と陽極との間に電圧を印加して、被めっき物の表面に導電性炭素粒子を堆積させる工程である。
【0051】
(水分散液)
水分散液は、導電性炭素粒子と陽イオン界面活性剤を含み、導電性炭素粒子が水に分散した液である。陽イオン界面活性剤の存在により、導電性炭素粒子の凝集を抑えられ、水分散液中での導電性炭素粒子の分散性が向上する。また、陽イオン界面活性剤を用いて導電性炭素粒子を分散させることで、導電性炭素粒子が正に帯電するため、電圧を印加したときに、導電性炭素粒子を陰極側(被めっき物側)に移動させることができる。これにより、導電性炭素粒子を被めっき物の表面に高密度に堆積させることができる。また、水系であるため、環境負荷も小さく、実用的である。
【0052】
水分散液は、導電性炭素粒子の被めっき物上への堆積を阻害しない限り、導電性炭素粒子、陽イオン界面活性剤以外の成分を含んでもよい。例えば、酢酸、クエン酸、酒石酸、コハク酸およびこれらの塩(ナトリウム塩や、カリウム塩、マグネシウム塩)などpH緩衝作用を有する成分を含んでもよい。
【0053】
(陽イオン界面活性剤)
陽イオン界面活性剤は特に制限なく、公知のものを使用することができる。例えば、陽イオン界面活性剤として、アンモニウム塩型の陽イオン界面活性剤(アルキルトリメチルアンモニウムハライド、ジアルキルジメチルアンモニウムハライド、ベンジルジメチルアルキルアンモニウムクロライド等)、アミン型の陽イオン界面活性剤(モノアルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、トリアルキルアミン塩等)、ピリジニウム型の陽イオン界面活性剤、イミダゾリウム塩型の陽イオン界面活性剤、ホスホニウム塩型の陽イオン界面活性剤などが挙げられる。
【0054】
水分散液中における陽イオン活性剤の濃度は、例えば、0.01~20g/Lや、0.1~15g/Lである。
【0055】
(導電性炭素粒子)
導電性炭素粒子は、上記の通り、黒鉛が好ましい。水分散液中における導電性炭素粒子の濃度は、例えば、1~100g/Lや、10~50g/Lである。
【0056】
(陽極)
陽極は、特に限定されず、被めっき物等に応じて適宜選択して用いればよい。例えば、ステンレスや、鉄、アルミニウム、銅などの金属板を用いることができる。
【0057】
(電圧の印加)
第1工程では、水分散液中で被めっき物と陽極とを間隔をあけて対向配置し、被めっき物と陽極との間に被めっき物が陰極となるように電圧を印加する。これにより、導電性炭素粒子が被めっき物側に移動し、被めっき物の陽極と対向する側の表面に導電性炭素粒子が堆積する。なお、導電性炭素粒子を負に帯電させ、被めっき物が陽極となるように電圧を印加すると被めっき物の表面が酸化される場合がある。例えば、下地金属層としてニッケル層を有する被めっき物を陽極となるように電圧を印加した場合には、ニッケルが酸化されるおそれがある。第1工程では、導電性炭素粒子を正に帯電させ、被めっき物が陰極となるように電圧を印加することで、被めっき物の表面も酸化されにくい。
【0058】
印加電圧や印加時間は、目的とする導電性炭素粒子の堆積量等に応じて適宜選択すればよく特に限定されない。例えば、電圧は、5~200Vや、5~100V、10~50V等とすることができる。また、このような電圧の範囲となれば、定電流を印加してもよい。電圧または電流の印加時間は、5秒~10分や10秒~5分程度である。
【0059】
(第2工程)
第2工程は、導電性炭素粒子が表面に堆積した被めっき物に、ニッケルまたはニッケル合金を析出させる無電解めっき処理を行って、被めっき物上に、ニッケルまたはニッケル合金と、導電性炭素粒子とを含有する複合ニッケルめっき膜を形成する工程である。
【0060】
ニッケルまたはニッケル合金の析出によって、導電性炭素粒子が被めっき物上に固定され、また、導電性炭素粒子の間隙がニッケルまたはニッケル合金で充填され、複合ニッケルめっき膜が形成される。無電解めっきを用いることで、電解めっきとは違い電流分布の影響を受けないため、膜厚を均一に形成することができる。また、無電解めっきとすることで、ニッケルまたはニッケル合金は導電性炭素粒子の上に析出しないため、ニッケルまたはニッケル合金と導電性炭素粒子との複合化の効果が十分に発揮できる。また、導電性炭素粒子の間隙を充填するようにニッケルまたはニッケル合金が析出するため、ノジュールも析出しにくい。
【0061】
一方、電解めっきでは、めっき膜の膜厚を均一に形成することが困難であったり、導電性炭素粒子の上にもニッケルまたはニッケル合金が析出できるため、形成されためっき膜の表面における導電性炭素粒子の面積率を上げることが困難で、複合化の効果を得にくかったりする。
【0062】
無電解めっきの方法は、公知の方法を採用することができる。めっき浴は、ニッケルを主体として析出させることができるものであれば特に限定されず、ニッケル塩や、還元剤、錯化剤、pH調整剤を含む公知の無電解ニッケルめっき浴を使用することができる。例えば、一般的な無電解NiPめっき浴や無電解NiBめっき浴などを適宜選択することができる。無電解NiPめっき浴には、めっき膜中のリン含有量の違いにより、低リン浴、中リン浴、高リン浴などと呼ばれる液があり、これらを使用することができる。また、ニッケルまたはニッケル合金の組成や無電解めっき反応の反応性等を考慮して、これらの一般的なめっき浴にCuやSnなどの第3の成分を加えたり、pH調整剤を加えてpHを調整するなどして使用してもよい。
【0063】
無電解めっきの条件は特に限定されないが、例えば、めっき浴のpHは3~5、めっき浴の温度は50~90℃や60~80℃、めっき時間は、10~120分や15~60分などとすることが好ましい。
【0064】
無電解めっき処理は、形成される複合ニッケルめっき膜の表面における導電性炭素粒子の面積率が20面積%以上となるように処理することが好ましい。また、無電解めっき処理は、形成される複合ニッケルめっき膜の表面における導電性炭素粒子の含有率が10質量%以上となるように処理することが好ましい。
【0065】
第2工程において、無電解めっき処理は、ニッケルと、リンおよび/またはホウ素とを含むニッケル合金を析出させる無電解ニッケルめっきであることが好ましく、ニッケルとリンとを含むニッケルリン合金を析出させる無電解ニッケルリンめっき(無電解NiPめっき)であることがより好ましい。無電解NiPめっきは、めっき金属として均一膜厚性や、めっき浴の安定性に優れ、さらに電解ニッケルめっきよりも耐食性に優れた膜を形成させることができる。無電解NiPめっきを行うことで、ニッケルとリンを含むニッケルリン合金と、導電性炭素粒子とを含有する複合ニッケルめっき膜を形成させることができる。
【0066】
本発明の電気接点部材の製造方法は、第1工程および第2工程以外の工程を有してよい。例えば、第1工程と第2工程の間に、洗浄工程を設けてもよい。
【0067】
本発明の電気接点部材の製造方法は、第2工程の後に、間隙にニッケルまたはニッケル合金が充填されていない導電性炭素粒子を除去する工程を有することが好ましい。これにより、より安定な膜が形成できる。
【実施例
【0068】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
1.めっき膜の作製
(実施例1)
厚み1mmの銅板(30mm×40mm)上にワット浴を用いて下地処理としてNiめっきを施し、Niめっき付き銅板を作製した。
純水中に陽イオン界面活性剤(ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムクロリド、濃度1g/L)と黒鉛粒子(濃度40g/L、伊藤黒鉛工業(株)製、AGB-5、平均粒径5μm)を添加して撹拌した水溶液に、陽極としてSUS304板、陰極としてNiめっき付き銅板を挿入して20Vで30秒間電解し、黒鉛粒子を陰極上に堆積させた。
次いで、流水で洗浄した後、80℃の無電解NiPめっき液(低リンタイプ)に30分間浸漬することで無電解めっき反応により、黒鉛粒子間隙をNiP合金で充填させた。無電解NiPめっき液は、低リンタイプの無電解ニッケルめっき液(奥野製薬工業製、トップニコロンLPH-LF)をpH4.0に調整して用いた。
次いで、粒子間隙を充填されていない余分な黒鉛粒子を刷毛で除去し、黒鉛複合無電解NiP合金めっき膜(複合ニッケルめっき膜)を有する供試体を得た。黒鉛複合無電解NiP合金めっき膜の膜厚は2μmであり、黒鉛複合無電解NiP合金めっき膜中のP濃度は6.2wt%であった。
【0070】
図3に、走査型電子顕微鏡(株式会社日本電子製JSM-7001F)により実施例1で得られた供試体の断面を観察した断面SEM画像を示す。
【0071】
(実施例2)
厚み1mmの銅板(30mm×40mm)上にワット浴を用いて下地処理としてNiめっきを施し、Niめっき付き銅板を作製した。
純水中に陽イオン界面活性剤(ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムクロリド、濃度1g/L)と黒鉛粒子(濃度40g/L、伊藤黒鉛工業(株)製、AGB-5、平均粒径5μm)を添加して撹拌した水溶液に、陽極としてSUS304板、陰極としてNiめっき付き銅板を挿入して20Vで30秒間電解し、黒鉛粒子を陰極上に堆積させた。
次いで、流水で洗浄した後、80℃の無電解NiPめっき液(中リンタイプ)に30分間浸漬することで無電解めっき反応により、黒鉛粒子間隙をNiP合金で充填させた。無電解NiPめっき液は、中リンタイプの無電解ニッケルめっき液(奥野製薬工業製、トップニコロンSDB-LF)をpH4.0に調整して用いた。
次いで、粒子間隙を充填されていない余分な黒鉛粒子を刷毛で除去し、黒鉛複合無電解NiP合金めっき膜(複合ニッケルめっき膜)を有する供試体を得た。黒鉛複合無電解NiP合金めっき膜の膜厚は2μmであり、黒鉛複合無電解NiP合金めっき膜中のP濃度は8.0wt%であった。
【0072】
(実施例3)
めっき液を、無電解NiPめっき液(中リンタイプ)から、高リンタイプの無電解ニッケルめっき液(奥野製薬工業製、トップニコロンSA-98-LF)をpH4.0に調整した無電解NiPめっき液(高リンタイプ)に変更した以外は、実施例2と同様にし、黒鉛複合無電解NiP合金めっき膜(複合ニッケルめっき膜)を有する供試体を得た。黒鉛複合無電解NiP合金めっき膜の膜厚は3μmであり、黒鉛複合無電解NiP合金めっき膜中のP濃度は9.4wt%であった。
【0073】
(比較例1)
厚み1mmの銅板(30mm×40mm)上にワット浴を用いて下地処理としてNiめっきを施し、Niめっき付き銅板を作製した。
中リンタイプの無電解ニッケルめっき液(奥野製薬工業製、トップニコロンSDB-LF)をpH4.5に調整し、陽イオン界面活性剤(ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムクロリド、濃度0.1g/L)と黒鉛粒子(濃度10g/L、伊藤黒鉛工業(株)製、AGB-5、平均粒径5μm)を添加して撹拌して調製した液に、80℃で30分間浸漬することで、黒鉛複合無電解NiP合金めっき膜を有する供試体を得た。黒鉛複合無電解NiP合金めっき膜の膜厚は3μmであり、黒鉛複合無電解NiP合金めっき膜中のP濃度は7.9wt%であった。
【0074】
(比較例2)
厚み1mmの銅板(30mm×40mm)上にワット浴を用いて下地処理として膜厚4μmのNiめっきを施し、Niめっき付き銅板を作製した。
中リンタイプの無電解ニッケルめっき液(奥野製薬工業製、トップニコロンSDB-LF)をpH4.5に調整し、80℃に保持し30分間浸漬することで無電解NiP合金めっき膜を有する供試体を得た。無電解NiP合金めっき膜の膜厚は4μmであり、無電解NiP合金めっき膜中のP濃度は8.9wt%であった。
【0075】
2.評価
(黒鉛含有率)
実施例1~3、比較例1、2の供試材表面(観察倍率×100、面積940μm×1200μm)を、加速電圧15kVで、走査型電子顕微鏡(株式会社日本電子製JSM-7001F)により3か所観察して、EDX(アメテック社製GENESIS)により測定し、解析ソフト(GENESIS Spectrum)を用いてZAF法によるC,Ni,Pの重量比から黒鉛含有率(wt%)の平均値を算出した。結果を表1に示す。
【0076】
(黒鉛面積率)
実施例1~3、比較例1、2の供試材表面を、加速電圧15kVで、走査型電子顕微鏡(株式会社日本電子製JSM-7001F)により観察して、表面(観察倍率×500、面積172μm×240μm)の組成像(COMPO像)を撮影し、その画像をEDX(アメテック社製GENESIS)の画像解析ソフト(GENESIS Spectrum)で二値化処理して、画像中に占める黒鉛粒子の総面積を画像全体の面積で除した値を黒鉛粒子の面積率として求めた。
図4図8に、実施例1~3、比較例1、2のSEI像と、組成像(COMPO像)を示す。また、表1に、算出した黒鉛粒子の面積率を示す。
【0077】
(接触抵抗)
供試材表面の接触抵抗を、抵抗率計(三菱化学(株)製ロレスタEP)を用いて、2短針法により5か所測定し平均値を算出した。結果を表1に示す。
【0078】
(耐湿性)
耐湿性評価のため、150℃、98%RHの条件下で240時間保持するプレッシャークッカー試験(PCT)を実施した後、接触抵抗を評価した。結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
実施例1~実施例3の供試体を目視で観察したところ、実施例1~実施例3の供試体の黒鉛複合無電解NiP合金めっき膜は、バラつきが少なく、均一に形成されていた。また、Niめっき付き銅板を、50mm×50mmのアルミニウム合金板(材質A5052、厚さ3mm)上のNiめっきを施したNiめっき付きアルミニウム合金板に変更した以外は、実施例1~3と同様の実験を行った場合も、バラつきが少なく、均一に黒鉛複合無電解NiP合金めっき膜を形成できた。本発明の電気接点部材の製造方法は、被めっき物の大きさが大きい場合にも、均一にめっき膜を形成できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の電気接点部材およびその製造方法は、電気・電子機器や燃料電池の分野において利用することができ、産業上有用である。
【符号の説明】
【0082】
1,1a 電気接点部材
10 複合ニッケルめっき膜
12 ニッケルまたはニッケル合金
14 導電性炭素粒子
20,20a 被めっき物
22 導電性基材
24 下地金属層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8