IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太陽誘電株式会社の特許一覧

特許7498912セラミック電子部品、実装基板およびセラミック電子部品の製造方法
<>
  • 特許-セラミック電子部品、実装基板およびセラミック電子部品の製造方法 図1
  • 特許-セラミック電子部品、実装基板およびセラミック電子部品の製造方法 図2
  • 特許-セラミック電子部品、実装基板およびセラミック電子部品の製造方法 図3
  • 特許-セラミック電子部品、実装基板およびセラミック電子部品の製造方法 図4
  • 特許-セラミック電子部品、実装基板およびセラミック電子部品の製造方法 図5
  • 特許-セラミック電子部品、実装基板およびセラミック電子部品の製造方法 図6
  • 特許-セラミック電子部品、実装基板およびセラミック電子部品の製造方法 図7
  • 特許-セラミック電子部品、実装基板およびセラミック電子部品の製造方法 図8
  • 特許-セラミック電子部品、実装基板およびセラミック電子部品の製造方法 図9
  • 特許-セラミック電子部品、実装基板およびセラミック電子部品の製造方法 図10
  • 特許-セラミック電子部品、実装基板およびセラミック電子部品の製造方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】セラミック電子部品、実装基板およびセラミック電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20240606BHJP
   H01G 2/06 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
H01G4/30 515
H01G4/30 516
H01G4/30 517
H01G4/30 201L
H01G4/30 201D
H01G4/30 311Z
H01G2/06 501
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019221612
(22)【出願日】2019-12-06
(65)【公開番号】P2021093404
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武井 重人
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-248622(JP,A)
【文献】特開平04-251908(JP,A)
【文献】国際公開第2015/072277(WO,A1)
【文献】特開平06-340472(JP,A)
【文献】特開2017-183574(JP,A)
【文献】特開2019-083316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
H01G 2/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックを主成分とする誘電体層と、内部電極層と、が積層され、略直方体形状を有し、積層された複数の前記内部電極層が対向する2端面の少なくとも一方に露出するように形成された積層構造を備え、
異なる端面に露出する前記内部電極層同士が対向する容量領域において、水素濃度をxとし、チタン濃度をyとした場合に、x/yは0.143以下であることを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項2】
前記2端面に形成された1対の外部電極を備え、
前記外部電極は、めっき層を備えることを特徴とする請求項1記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記誘電体層の積層方向において、前記誘電体層のそれぞれの電気抵抗は、100MΩ以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記誘電体層の積層方向において、前記セラミック電子部品の高さは、0.3mm以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項5】
前記水素濃度xおよび前記チタン濃度yは、SIMS分析により同一の領域を分析して得た値であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項6】
前記内部電極層は、ニッケルを主成分とし、
前記誘電体層は、チタン酸バリウムを主成分とすることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項7】
前記x/yは0.126以下であり、
前記誘電体層の積層方向において、前記セラミック電子部品の高さは、0.3mm以下であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のセラミック電子部品が実装された実装基板。
【請求項9】
複数の絶縁層を備え、
前記セラミック電子部品は、前記複数の絶縁層の間に配置されていることを特徴とする請求項8記載の実装基板。
【請求項10】
セラミックを主成分とする誘電体層と、内部電極層と、が積層され、略直方体形状を有し、積層された複数の前記内部電極層が対向する2端面の少なくとも一方に露出するように形成された積層構造を準備する工程と、
前記積層構造に対して熱処理を行うことで、異なる端面に露出する前記内部電極層同士が対向する容量領域における水素濃度をxとしてチタン濃度をyとした場合に、x/yを0.143以下に調整することを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【請求項11】
前記熱処理において、雰囲気ガス中のH濃度を0.1%以上3.0%未満とし、熱処理時間を100分以上150分以下とすることを特徴とする請求項10記載のセラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品、実装基板およびセラミック電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサなどのセラミック電子部品において、内部電極層に吸蔵された水素は、誘電体層の絶縁抵抗を劣化させる。そこで、貴金属(例えば、Ag-Pd合金)を主成分とする内部電極を用いた場合に、内部電極に水素の吸収を抑制する金属(例えば、Ni)を添加する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、内部電極と導通するように積層体表面に形成された外部電極本体と、その外側に形成されためっき層との間にCuOを含む保護層を導入する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平1-80011号公報
【文献】特開2016-66783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記技術では、十分な絶縁抵抗を実現できないおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、十分な絶縁抵抗を実現することができるセラミック電子部品、実装基板およびセラミック電子部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るセラミック電子部品は、セラミックを主成分とする誘電体層と、内部電極層と、が積層され、略直方体形状を有し、積層された複数の前記内部電極層が対向する2端面の少なくとも一方に露出するように形成された積層構造を備え、異なる端面に露出する内部電極層同士が対向する容量領域において、水素濃度をxとし、チタン濃度をyとした場合に、x/yは0.143以下であることを特徴とする。
【0007】
上記セラミック電子部品において、前記2端面に形成された1対の外部電極を備え、前記外部電極は、めっき層を備えていてもよい。
【0008】
上記セラミック電子部品において、前記誘電体層の積層方向において、前記誘電体層のそれぞれの電気抵抗は、100MΩ以上であってもよい。
【0009】
上記セラミック電子部品において、前記誘電体層の積層方向において、前記セラミック電子部品の高さは、0.3mm以下としてもよい。
【0010】
上記セラミック電子部品において、前記水素濃度xおよび前記チタン濃度yは、SIMS分析により同一の領域を分析して得た値としてもよい。
【0011】
上記セラミック電子部品において、前記内部電極層は、ニッケルを主成分とし、前記誘電体層は、チタン酸バリウムを主成分としてもよい。
【0012】
本発明に係る実装基板は、上記いずれかのセラミック電子部品が実装された実装基板である。
【0013】
上記実装基板において、複数の絶縁層を備え、前記セラミック電子部品は、前記複数の絶縁層の間に配置されていてもよい。
【0014】
本発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、セラミックを主成分とする誘電体層と、内部電極層と、が積層され、略直方体形状を有し、積層された複数の前記内部電極層が対向する2端面の少なくとも一方に露出するように形成された積層構造を準備する工程と、前記積層構造に対して熱処理を行うことで、異なる端面に露出する内部電極層同士が対向する容量領域における水素濃度をxとしてチタン濃度をyとした場合に、x/yを0.143以下に調整することを特徴とする。
【0015】
上記セラミック電子部品の製造方法における前記熱処理において、雰囲気ガス中のH濃度を0.1%以上3.0%未満とし、熱処理時間を100分以上150分以下としてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、十分な絶縁抵抗を実現することができるセラミック電子部品、実装基板およびセラミック電子部品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
図2図1のA-A線断面図である。
図3図1のB-B線断面図である。
図4】(a)はサイドマージンの断面の拡大図であり、(b)はエンドマージンの断面の拡大図である。
図5】外部電極の断面図であり、図1のA-A線の部分断面図である。
図6】(a)は第2実施形態に係る積層セラミックコンデンサを例示する模式的断面図であり、(b)は実装基板を例示する図である。
図7】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
図8】(a)および(b)は積層工程を例示する図である。
図9】積層工程を例示する図である。
図10】積層工程を例示する図である。
図11】実施例および比較例の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。図2は、図1のA-A線断面図である。図3は、図1のB-B線断面図である。図1図3で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、直方体形状を有する積層チップ10と、積層チップ10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、積層チップ10の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。外部電極20a,20bは、積層チップ10の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、互いに離間している。
【0020】
積層チップ10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、金属材料を含む内部電極層12とが、交互に積層された構成を有する。各内部電極層12の端縁は、積層チップ10の外部電極20aが設けられた端面と、外部電極20bが設けられた端面とに、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、誘電体層11と内部電極層12との積層体において、積層方向の最外層には内部電極層12が配置され、当該積層体の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13の材料は、誘電体層11とセラミック材料の主成分が同じであってもよい。
【0021】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。なお、高さとは、誘電体層11の積層方向における高さのことである。
【0022】
内部電極層12は、Ni(ニッケル),Cu(銅),Sn(スズ)等の卑金属を主成分とする。内部電極層12として、Pt(白金),Pd(パラジウム),Ag(銀),Au(金)などの貴金属やこれらを含む合金を用いてもよい。誘電体層11は、例えば、一般式ABOで表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主成分とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。本実施形態では、当該セラミック材料として、Bサイトに少なくともTi(チタン)を含むものを用いる。例えば、当該セラミック材料として、BaTiO(チタン酸バリウム),CaTiO(チタン酸カルシウム),SrTiO(チタン酸ストロンチウム),ペロブスカイト構造を形成するBa1-x-yCaSrTi1-zZr(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等を用いることができる。
【0023】
図2で例示するように、外部電極20aに接続された内部電極層12と外部電極20bに接続された内部電極層12とが対向する領域は、積層セラミックコンデンサ100において電気容量を生じる領域である。そこで、当該領域を、容量領域14と称する。すなわち、容量領域14は、異なる外部電極に接続された2つの隣接する内部電極層12が対向する領域である。
【0024】
外部電極20aに接続された内部電極層12同士が、外部電極20bに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域を、エンドマージン15と称する。また、外部電極20bに接続された内部電極層12同士が、外部電極20aに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域も、エンドマージン15である。すなわち、エンドマージン15は、同じ外部電極に接続された内部電極層12が異なる外部電極に接続された内部電極層12を介さずに対向する領域である。エンドマージン15は、容量を生じない領域である。
【0025】
図3で例示するように、積層チップ10において、積層チップ10の2側面から内部電極層12に至るまでの領域をサイドマージン16と称する。すなわち、サイドマージン16は、上記積層構造において積層された複数の内部電極層12が2側面側に延びた端部を覆うように設けられた領域である。
【0026】
図4(a)は、サイドマージン16の断面の拡大図である。サイドマージン16は、誘電体層11と逆パターン層17とが、容量領域14における誘電体層11と内部電極層12との積層方向において交互に積層された構造を有する。容量領域14の各誘電体層11とサイドマージン16の各誘電体層11とは、互いに連続する層である。この構成によれば、容量領域14とサイドマージン16との段差が抑制される。
【0027】
図4(b)は、エンドマージン15の断面の拡大図である。サイドマージン16との比較において、エンドマージン15では、積層される複数の内部電極層12のうち、1つおきにエンドマージン15の端面まで内部電極層12が延在する。また、内部電極層12がエンドマージン15の端面まで延在する層では、逆パターン層17が積層されていない。容量領域14の各誘電体層11とエンドマージン15の各誘電体層11とは、互いに連続する層である。この構成によれば、容量領域14とエンドマージン15との段差が抑制される。
【0028】
図5は、外部電極20aの断面図であり、図1のA-A線の部分断面図である。なお、図5では断面を表すハッチを省略している。図5で例示するように、外部電極20aは、下地層21上に、Cuなどの第1めっき層22、Niなどの第2めっき層23、およびSnなどの第3めっき層24が形成された構造を有する。下地層21は、Cu,Ni,Al(アルミニウム),Zn(亜鉛)などの金属を主成分とし、下地層21の緻密化のためのガラス成分や、下地層21の焼結性を制御するための共材が含まれている。下地層21、第1めっき層22、第2めっき層23および第3めっき層24は、積層チップ10の両端面から4つの側面に延在している。外部電極20bも、外部電極20aと同様の構造を有している。
【0029】
積層セラミックコンデンサ100の製造過程で、容量領域14に水素が吸蔵されることがある。容量領域14に吸蔵された水素は、誘電体層11内に拡散して存在しており、誘電体層11の絶縁抵抗を劣化させるおそれがある。誘電体層11の絶縁抵抗劣化を抑制する観点から、誘電体層11における水素含有量は、少ないほど好ましい。特に、容量領域14における誘電体層11の絶縁抵抗が劣化すると積層セラミックコンデンサ100の性能が劣化するため、容量領域14における水素含有量は少ないほど好ましい。
【0030】
本発明者らは、容量領域14において、当該誘電体層11を構成するペロブスカイト構造の主成分セラミックのBサイトに含まれるチタン濃度に対する水素濃度を所定値以下とすることで、積層セラミックコンデンサ100のサイズによらずに、誘電体層11に十分な絶縁抵抗を実現できることを見出した。
【0031】
容量領域14に含有される水素量およびチタン量は、例えば、予め誘電体層11に水素を含有させた積層セラミックコンデンサのサンプルを用意し、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)を用いて測定することができる。測定範囲は、容量領域14の断面における100μm×100μmの範囲とすることができる。測定範囲は、50μm×50μm、150μm×150μm等、このサイズに限定されるものではなく、容量領域14の領域を測定するように選択すればよい。なお、SIMSで測定することで、外部電極を除去したうえで測定する必要がない。したがって、容易に水素濃度を測定することができる。SIMSを用いた測定は、外部電極を除去することが困難な小サイズの積層セラミックコンデンサ100に対して特に有効である。
【0032】
SIMS測定には、例えば、カメカ社製IMS-7fを用いることができる。一次イオン種をCe(セシウム)、一次加速電圧を15kVとする条件で実施することができる。なお、一次イオン種は、O(酸素)等の化学的に活性なイオンを用いてもよい。測定範囲は、例えば、容量領域14内の積層方向における100μm×100μmの断面とすることができ、図2の範囲αで例示するように誘電体層11に加えて内部電極層12も含まれていてもよい。測定範囲における水素濃度の平均濃度を平均濃度xとする。測定範囲におけるチタン濃度の平均濃度を平均濃度yとする。平均濃度xと平均濃度yとから、規格化された水素濃度x/yが求められる。本発明者らは、x/yを0.143以下とすることで、誘電体層11のIR(絶縁抵抗)が十分に大きくなることを見出した。例えば、誘電体層11の積層方向において、各誘電体層11の電気抵抗を100MΩ以上とすることができる。誘電体層11の絶縁抵抗劣化を抑制する観点から、x/yは、0.143以下であることが好ましく、誘電体層11の電気抵抗を1GΩと想定すると0.113以下であることがより好ましい。
【0033】
(第2実施形態)
図6(a)は、第2実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100を例示する模式的断面図である。本実施形態においては、積層セラミックコンデンサ100は、低背タイプである。例えば、低背中タイプの積層セラミックコンデンサ100の高さは、0.3mm以下である。または、低背タイプの積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.3mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.15mmであり、または、長さ1.0mm、幅0.6mm、高さ0.064mmである。なお、高さとは、誘電体層11の積層方向の高さのことである。
【0034】
図6(b)で例示するように、低背タイプの積層セラミックコンデンサ100は、例えば、実装基板30に埋め込まれて実装される。すなわち、積層セラミックコンデンサ100は、実装基板30に内蔵される。
【0035】
実装基板30は、複数の絶縁層31が積層されることにより構成されている。絶縁層31は、セラミックまたは樹脂などの絶縁性材料からなり、接着などにより互いに一体化されている。積層セラミックコンデンサ100は、実装基板30に形成された収容部に配置されており、収容部に充填された樹脂32により、実装基板30に固定されている。これにより、積層セラミックコンデンサ100が、実装基板30内に埋め込まれる。積層セラミックコンデンサ100は、実装基板30の表面に配置された電極33,34と、ビア導体35,36とを通して、電気的に接続されている。すなわち、外部電極20aは、ビア導体35を通して電極33と電気的に接続され、外部電極20bは、ビア導体36を通して電極34と電気的に接続されている。
【0036】
このような低背タイプの積層セラミックコンデンサ100においても、x/yを0.143以下とすることで、誘電体層11の絶縁抵抗を十分に大きくすることができる。
【0037】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。図7は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0038】
(原料粉末作製工程)
まず、誘電体層11を形成するための誘電体材料を用意する。誘電体材料は、誘電体層11の主成分セラミックを含む。誘電体層11に含まれるAサイト元素およびBサイト元素は、通常はABOの粒子の焼結体の形で誘電体層11に含まれる。例えば、BaTiOは、ペロブスカイト構造を有する正方晶化合物であって、高い誘電率を示す。このBaTiOは、一般的に、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを反応させてチタン酸バリウムを合成することで得ることができる。誘電体層11の主成分セラミックの合成方法としては、従来種々の方法が知られており、例えば固相法、ゾル-ゲル法、水熱法等が知られている。本実施形態においては、これらのいずれも採用することができる。
【0039】
得られたセラミック粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、Mg(マグネシウム)、Mn(マンガン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、希土類元素(Y(イットリウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホロミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)およびYb(イッテルビウム))の酸化物、並びに、Co(コバルト)、Ni、Li(リチウム)、B、Na(ナトリウム)、K(カリウム)およびSiの酸化物もしくはガラスが挙げられる。
【0040】
次に、エンドマージン15およびサイドマージン16を形成するための逆パターン材料を用意する。逆パターン材料は、エンドマージン15およびサイドマージン16の主成分セラミックを含む。主成分セラミックとして、例えば、BaTiO粉を作製する。BaTiO粉は、誘電体材料と同様の手順により作製することができる。得られたBaTiO粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、Mg、Mn、V、Cr、希土類元素(Y、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびYb)の酸化物、並びに、Co、Ni、Li、B、Na、KおよびSiの酸化物もしくはガラスが挙げられる。なお、逆パターン材料として、上述した誘電体材料を用いてもよい。
【0041】
次に、カバー層13を形成するためのカバー材料を用意する。カバー材料は、カバー層13の主成分セラミックを含む。主成分セラミックとして、例えば、BaTiO粉を作製する。BaTiO粉は、誘電体材料と同様の手順により作製することができる。得られたBaTiO粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、Mg、Mn、V、Cr、希土類元素(Y、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、TmおよびYb)の酸化物、並びに、Co、Ni、Li、B、Na、KおよびSiの酸化物もしくはガラスが挙げられる。なお、カバー材料として、上述した誘電体材料を用いてもよい。
【0042】
(積層工程)
次に、原料粉末作製工程で得られた誘電体材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリーを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上に誘電体グリーンシート51を塗工して乾燥させる。
【0043】
次に、図8(a)で例示するように、誘電体グリーンシート51の表面に、有機バインダを含む内部電極形成用の金属導電ペーストをスクリーン印刷、グラビア印刷等により印刷することで、内部電極層用の第1パターン52を配置する。金属導電ペーストには、共材としてセラミック粒子を添加する。セラミック粒子の主成分は、特に限定するものではないが、誘電体層11の主成分セラミックと同じであることが好ましい。
【0044】
次に、原料粉末作製工程で得られた逆パターン材料に、エチルセルロース系等のバインダと、ターピネオール系等の有機溶剤とを加え、ロールミルにて混練して逆パターン層用の逆パターンペーストを得る。図8(a)で例示するように、誘電体グリーンシート51上において、第1パターン52が印刷されていない周辺領域に逆パターンペーストを印刷することで第2パターン53を配置し、第1パターン52との段差を埋める。
【0045】
その後、図8(b)で例示するように、内部電極層12と誘電体層11とが互い違いになるように、かつ内部電極層12が誘電体層11の長さ方向の両端面に端縁が交互に露出して極性の異なる一対の外部電極20a,20bに交互に引き出されるように、誘電体グリーンシート51、第1パターン52および第2パターン53を積層していく。例えば、誘電体グリーンシート51の積層数を100~500層とする。
【0046】
次に、原料粉末作製工程で得られたカバー材料に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリーを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上に例えば厚み10μm以下の帯状のカバーシート54を塗工して乾燥させる。図9で例示するように、積層された誘電体グリーンシート51の上下にカバーシート54を所定数(例えば2~10層)だけ積層して熱圧着させ、所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)にカットし、その後に下地層21となる金属導電ペーストを、カットした積層体の両側面にディップ法等で塗布して乾燥させる。これにより、セラミック積層体が得られる。なお、所定数のカバーシート54を積層して圧着してから、積層された誘電体グリーンシート51の上下に貼り付けてもよい。
【0047】
図8(a)、図8(b)および図9の手法では、誘電体グリーンシート51のうち第1パターン52に対応する部分と、第1パターン52と、が積層された領域が、BaTiO粒子を主成分セラミックとするシートと金属導電ペーストのパターンとが交互に積層された積層部分に相当する。誘電体グリーンシート51のうち第1パターン52よりも外側にはみ出した部分と、第2パターン53と、が積層された領域が、積層部分の側面に配置されたサイドマージン領域に相当する。
【0048】
サイドマージン領域は、上記積層部分の側面に貼り付けまたは塗布してもよい。具体的には、図10で例示するように、誘電体グリーンシート51と、当該誘電体グリーンシート51と同じ幅の第1パターン52とを交互に積層することで、積層部分を得る。次に、積層部分の側面に、逆パターンペーストで形成したシート55を貼り付ける、または逆パターンペーストを塗布することで、サイドマージン領域を形成してもよい。
【0049】
(焼成工程)
このようにして得られたセラミック積層体を、N雰囲気で脱バインダ処理した後に外部電極20a,20bの下地となるNiペーストをディップ法で塗布し、酸素分圧10-5~10-8atmの還元雰囲気中で1100~1300℃で10分~2時間焼成する。このようにして、積層セラミックコンデンサ100が得られる。
【0050】
(再酸化処理工程)
その後、Nガス雰囲気中で600℃~1000℃で再酸化処理を行ってもよい。
【0051】
(水素濃度調整工程)
次に、容量領域14における水素濃度を調整する。例えば、Hガス濃度が調整された雰囲気中で熱処理を行うことで、容量領域14における水素濃度を調整することができる。例えば、熱処理温度を150℃以上、580℃以下とし、熱処理時間を100分以上、150分以下とする。また、雰囲気ガス中のH濃度を3.0%未満とする。それにより、容量領域14におけるx/yを0.143以下とすることができる。なお、雰囲気ガス中のH濃度が低すぎると、表面酸化物の影響でめっき液が付着しにくくなる。そこで、雰囲気ガス中のH濃度は、0.1%以上とすることが好ましい。例えば、雰囲気ガス中のH濃度を、0.15%とすることがより好ましい。
【0052】
(めっき処理工程)
その後、めっき処理により、下地層21上に、第1めっき層22、第2めっき層23、および第3めっき層24を形成してもよい。
【0053】
本実施形態に係る製造方法によれば、容量領域14におけるx/yを0.143以下に調整することができる。この場合、容量領域14における水素含有量を十分に少なくすることができる。それにより、誘電体層11の絶縁抵抗を十分に大きくすることができる。
【0054】
なお、上記各実施形態においては、セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、それに限られない。例えば、バリスタやサーミスタなどの、他の電子部品を用いてもよい。
【実施例
【0055】
(実施例1~4および比較例1,2)
チタン酸バリウム粉末に対して添加物を添加し、ボールミルで十分に湿式混合粉砕して誘電体材料を得た。チタン酸バリウム粉末に対して添加物を添加し、ボールミルで十分に湿式混合粉砕して逆パターン材料を得た。チタン酸バリウム粉末に対して添加物を添加し、ボールミルで十分に湿式混合粉砕してカバー材料を得た。
【0056】
誘電体材料に有機バインダとしてブチラール系、溶剤としてトルエン、エチルアルコールを加えてドクターブレード法にて誘電体グリーンシート51を作製した。得られた誘電体グリーンシート51に金属導電ペーストの第1パターン52を印刷した。逆パターン材料に、エチルセルロース系等のバインダと、ターピネオール系等の有機溶剤とを加え、ロールミルにて混練して逆パターンペーストを作製し、誘電体グリーンシート51において第1パターン52が印刷されていない領域に、第2パターン53として印刷した。第1パターン52および第2パターン53が印刷された誘電体グリーンシート51を70枚重ねた。
【0057】
カバー材料に有機バインダとしてブチラール系、溶剤としてトルエン、エチルアルコールを加えてドクターブレード法にてカバーシートを作製した。誘電体グリーンシートの積層体の上下に、カバーシートを積層して熱圧着した。カバーシートの厚みは、20μmとした。
【0058】
その後、N雰囲気で脱バインダ処理した。得られた積層体にNi外部電極をディップ法で形成し、還元雰囲気下(O分圧:10-5~10-8atm)で焼成して焼結体を得た。形状寸法は、長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.2mmであった。焼結体をN雰囲気下800℃の条件で再酸化処理を行った。なお、焼成後において、誘電体層11の厚みは、1μmであった。
【0059】
その後、H含有雰囲気で熱処理することで容量領域14における水素濃度を調整した。実施例1では、雰囲気ガス中のH濃度を0.0%とした。実施例2では、雰囲気ガス中のH濃度を0.15%とした。実施例3では、雰囲気ガス中のH濃度を1.0%とした。実施例4では、雰囲気ガス中のH濃度を2.0%とした。比較例1では、雰囲気ガス中のH濃度を3.0%とした。比較例2では、雰囲気ガス中のH濃度を4.0%とした。熱処理温度は、300℃とした。熱処理時間は、120分とした。
【0060】
その後、めっき処理して外部電極端子の表面にCu,Ni,Snの金属コーティングを行い、積層セラミックコンデンサ100を得た。
【0061】
実施例1~4および比較例1,2の積層セラミックコンデンサ100に対して、容量領域14における水素濃度およびチタン濃度を、SIMSを用いて測定した。SIMS測定には、カメカ社製IMS-7fを用いた。一次イオン種をCe(セシウム)、一次加速電圧を15kVとする条件で実施した。測定範囲は、100μm×100μmとした。
【0062】
測定結果を表1に示す。表1に示すように、実施例1では、容量領域14のx/yは0.103であった。実施例2では、容量領域14のx/yは0.107であった。実施例3では、容量領域14のx/yは0.110であった。実施例4では、容量領域14のx/yは0.126であった。比較例1では、容量領域14のx/yは0.144であった。比較例2では、容量領域14のx/yは0.161であった。
【表1】
【0063】
図11は、実施例1~4および比較例1,2の結果について、誘電体の電気抵抗率をx/yでプロットした図である。誘電体の電気抵抗率は、定格電流で60秒間保持した時の1層あたりの誘電体層11のIR(絶縁抵抗)と、誘電体層11の積層数と、各誘電体層11の厚みと、容量領域14において誘電体層11と内部電極層12とが対向する面積とから算出した。例えば、1.0×0.5×0.2mmサイズで内部電極層12の層数が70である積層セラミックコンデンサ100の製品規格として必要なIRは、100MΩ以上である。これを満たすため、誘電体の電気抵抗率は210MΩ・cm以上が求められる。プロットした結果について回帰直線を算出したところ、x/yを0.143以下とすることが求められることが確かめられた。比較例1,2では、x/yが0.143を上回ったためにIRを十分に大きくできず、実施例1~4では、x/yを0.143以下としたことで、IRが十分に大きくできたと考えられる。
【0064】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0065】
10 積層チップ
11 誘電体層
12 内部電極層
13 カバー層
14 容量領域
15 エンドマージン
16 サイドマージン
20a,20b 外部電極
30 実装基板
31 絶縁層
32 樹脂
33,34 電極
35,36 ビア導体
100 積層セラミックコンデンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11