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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】光吸収材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/188 20170101AFI20240606BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20240606BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20240606BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20240606BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
C01B32/188
G02B5/22
B82Y20/00
B82Y40/00
C09K3/00 105
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020046012
(22)【出願日】2020-03-17
(65)【公開番号】P2021147249
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000175766
【氏名又は名称】三恵技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】古林 宏之
(72)【発明者】
【氏名】池田 直
(72)【発明者】
【氏名】狩野 旬
(72)【発明者】
【氏名】青柳 佑海人
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-099989(JP,A)
【文献】特開2016-218301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
G02B 5/22
B82Y 20/00
B82Y 40/00
C09K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜状炭素構造体を分断した炭素構造体を含み、
前記膜状炭素構造体は、グラフェンからなる膜状炭素構造体であり、前記グラフェンは板状集合体を構成し、前記グラフェンからなる前記板状集合体は前記膜状炭素構造体の膜厚方向に対して略水平に配列し、前記板状集合体は基板面鉛直に対して様々な方位を持つことから、全方位を示す向きとなっており、前記膜状炭素構造体は金属元素を含まず、
前記膜状炭素構造体の可視光~赤外線(波長:250~2500nm)の反射率が1%以下であること、
を特徴とする光吸収組成物。
【請求項2】
前記膜状炭素構造体の可視光(波長:250~830nm)の反射率が0.05%以下であること、
を特徴とする請求項1に記載の光吸収組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は物体の黒色化に使用可能な光吸収材料及びその効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
あらゆる波長にわたる可視光線を吸収する物体を見て感じられる色が黒とされており、完全な黒は現実には存在しないが、種々の産業用途において、黒色化は極めて重要である。具体的には、意匠性、反射防止性、防眩性及び熱伝導性等を付与するために、より優れた黒色を目指して、様々な黒色化技術が盛んに検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2014-084385号公報)においては、プラズモン吸収を持つ6ホウ化ランタン微粒子や複合タングステン酸化物微粒子等を用いながら、近赤外域における吸収ピークを短波長側若しくは長波長側にシフトさせることが可能な光吸収材を提供することを目的として、近赤外領域においてプラズモン吸収による光の吸収ピークを持つ微粒子と、可視光を透過しかつ当該微粒子を分散させる媒体とを有する光吸収材において、屈折率が1.0以上1.4以下の材料で媒体を構成すると共に、屈折率が1.4を越え1.6未満の材料で媒体を構成した場合と比べて吸収ピークが短波長側にシフトしていることを特徴とする光吸収材、が提案されている。
【0004】
前記特許文献1に記載の光吸収材では、プラズモン吸収を持つ微粒子を分散させる媒体として、屈折率が1.4を越え1.6未満の一般的な媒体と大きく異なる屈折率を有しかつ透明である物質を選択することで、プラズモン吸収を持つ微粒子は同一でありながら、屈折率が1.4を越え1.6未満である一般的な媒体中で示す波長吸収特性から、より優れた波長吸収特性へ選択操作できる、とされている。
【0005】
また、特許文献2(特開2004-198665号公報)においては、耐熱性に優れた可視光及び近赤外光に対する選択的な吸収機能を有する光吸収材とその形成用組成物を提供することを目的として、長軸が400nm未満であってアスペクト比が1より大きいロッド状の金属ナノロッドと、染料およびバインダーを含有することを特徴とし、波長400nm~2000nmの可視光・近赤外光領域の特定波長に対して選択的な吸収機能を有し、塗料組成物、塗膜、フィルム、または板材など多様な形態で使用することができる光吸収材形成用組成物、およびこの組成物によって形成されたフィルター層を有する光吸収材、が提案されている。
【0006】
前記特許文献2に記載の光吸収材形成用組成物では、長軸が400nm未満であって、アスペクト比が1より大きい金属ナノロッドを用いることにより、金属ナノロッドの長軸による波長吸収能によって波長400nm~2000nmの可視光・近赤外光の波長に対して選択的な光吸収効果を有することができ、また、染料によって可視光域における光吸収を補正することによって無彩色の光吸収材を得ることができる、とされている。また、金属ナノロッドを用いることによって、耐熱性に優れた光吸収材を得ることができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-084385号公報
【文献】特開2004-198665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、黒色化に求められるレベルは日増しに高くなっているところ、上記特許文献1や上記特許文献2に記載の光吸収材で得られる黒色では、多くの用途において要求を十分に満たすことができない。また、光吸収材料には、優れた耐光性及び耐候性が求められる。
【0009】
以上のような状況に鑑み、本発明の目的は、可視光に対して極めて低い反射率を示す優れた耐光性及び耐候性を有する光吸収材料であって、従来の光吸収材料を用いた場合以上の黒色化を達成できる光吸収材料、及びその効率的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成すべく、種々の物質の可視光に対する反射率について鋭意研究を重ねた結果、グラフェンで構成された膜状炭素構造体が極めて低い反射率を示すことを見出し、本発明に到達した。
【0011】
即ち、本発明は、
グラフェンからなる膜状炭素構造体であり、前記グラフェンは板状集合体を構成し、前記板状集合体は基板面鉛直に対して様々な方位を持つことから、全方位を示す向きとなっており、前記膜状炭素構造体は金属元素を含まないこと、を特徴とする光吸収材料、を提供する。
【0012】
本発明の光吸収材料が可視光に対して極めて低い反射率を示す理由は必ずしも明らかになっていないが、グラフェンで構成された板状集合体がランダムかつ密に存在する層状構造が大きく寄与していると考えられる。加えて、本発明の光吸収材は化学的に安定な炭素材から構成されており、優れた耐光性及び耐候性を備えている。グラフェンで構成された層状構造体は基材の表面に形成されていてもよいが、使用態様の自由度の高さを鑑みると、単独で存在することが好ましい。
【0013】
本発明の光吸収材料では、グラフェンから構成される板状集合体が膜状炭素構造体の膜厚方向に対して略水平に配列しており、当該板状集合体の板面はランダムな方向となっている。グラフェンが膜状炭素構造体の膜厚方向に対して略水平かつランダムに密に配列していることで、可視光に対して極めて低い反射率を得ることができる。
【0014】
即ち、本発明の光吸収材料によって得られる黒色は、所謂構造色的な効果が大きいと思われる。なお、本発明において、板面がランダムな方向となっている状態は、板状集合体の板面が同一方向となるように規則的に配列していないことを意味している。例えば、板面に鉛直な方向を基準として、この方位に対して各々の板状物質が示す方位が、立体角で4ステラジアン全体に存在している状態であれば、ランダムな状態であると言える。
【0015】
ここで、膜状炭素構造体を構成する板状集合体は、グラフェン同士の面が略平行に配列し、グラフェン同士の間隔が略同一となることが好ましい。しかしながら、膜状炭素構造体の全ての領域においてこのような規則的な配列が実現されている必要はない。
【0016】
また、本発明の光吸収材料においては、膜状炭素構造体に金属元素が含まれていない。一般的に、炭素のナノ材料を気相法で形成させる場合は金属粒子が触媒として使用されるが、本発明の光吸収材における膜状炭素構造体は、炭素材のCの切断及び再結合によって形成したものであり、金属触媒を使用していないことから金属元素は含まれていない。金属元素を含まないグラフェンで構成された膜状炭素構造体が可視光に対して極めて低い反射率を示す理由は必ずしも明らかになっていないが、膜状炭素構造体として均質な状態となっていることが寄与していると考えられる。
【0017】
また、本発明の光吸収材料においては、前記膜状炭素構造体の可視光~赤外線(波長:250~3000nm)の反射率が1%以下であること、が好ましい。
【0018】
膜状炭素構造体の可視光~赤外線(波長:250~3000nm)の反射率が1%以下であることで、視認できる程度において可視光の反射を完全に抑制し、極めて良好な黒色化を実現することができる。また、赤外線の反射も極めて効率的に抑制されるため、リモートセンシング、光通信、医療・診断装置、温度測定、物体検知、人体検知、リモコン、赤外線通信、遠赤外線加熱、赤外線分光計等の赤外線が使用される分野においても、好適に使用することができる。
【0019】
また、本発明の光吸収材料においては、膜状炭素構造体の可視光(波長:250~830nm)の反射率が0.01%以下であること、がより好ましい。可視光の反射率が0.01%以下となることで、従来は実現することができなかった究極の黒色化を達成することができる。ここで、最も好ましい反射率は0.005%以下である。
【0020】
また、本発明は、本発明の膜状炭素構造体を分断した炭素構造体を含むこと、を特徴とする光吸収組成物、も提供する。
【0021】
本発明の膜状炭素構造体は外部応力の印加によって分断することができることから、例えば、分断して得られる炭素構造体を塗料に分散させることで黒色化用塗料を得ることができ、樹脂材に分散させることで黒色化された樹脂部材を得ることができる。ここで、本発明の効果を損なわなり限りにおいて、塗料や樹脂材は特に限定されず、従来公知の種々の塗料や樹脂材を使用することができる。
【0022】
更に、本発明は、ガス雰囲気下で炭素材及び基材にマイクロ波を照射して、前記炭素材及び前記基材をマイクロ波加熱し、前記マイクロ波によって前記ガスの励起状態を誘導し、前記ガスの発光過程で発生する紫外線で前記炭素材のC=C結合を切断し、前記炭素材から分離してプラズマ化した炭素を原料として、前記基材の表面にグラフェンからなる膜状炭素構造体を生成させ、前記膜状炭素構造体の生成時に波長が386nm及び589nmの発光をするプラズマの発生を伴うこと、を特徴とする光吸収材料の製造方法、も提供する。
【0023】
本発明の光吸収材料の製造方法においては、炭素材がマイクロ波加熱さると同時にガスの発光過程で発生する紫外線によって当該炭素材の表面近傍のC=C結合が切断される。その結果、炭素材から分離してプラズマ化した炭素が、マイクロ波によって加熱された基材の表面に供給され、当該基材の表面においてグラフェンからなる膜状炭素構造体が生成する。ここで、理由については必ずしも明らかになっていないが、当該プロセスで発生するプラズマの波長と生成する膜状炭素構造体の関係について鋭意検討したところ、波長が386nm及び589nmの発光を伴うプラズマが発生する場合に、膜状炭素構造体の膜厚方向に対してグラフェンからなる板状集合体が略水平で、板状集合体の板面がランダムな向きになるように密に存在した良好な膜状炭素構造体が効率的に得られることが明らかとなった。即ち、本発明の光吸収材料の製造方法においては、波長が386nm及び589nmの発光を伴うプラズマの発生が必須である。
【0024】
また、本発明の光吸収材料の製造方法においては、前記ガスが空気、アルゴン、窒素、二酸化炭素の少なくとも1つを含むこと、が好ましい。空気、アルゴン、ヘリウム、窒素及び二酸化炭素のいずれかにマイクロ波を照射することで、炭素材表面近傍のC=C結合の切断に寄与する紫外線を効率的に発生させることができる。
【0025】
また、本発明の光吸収材料の製造方法においては、前記基材を銅板とすること、が好ましい。基材を銅板とすることで、グラフェンで構成された膜状炭素構造体を基材から容易に分離することができる。
【0026】
更に、本発明の光吸収材の製造方法においては、金属触媒を使用しないこと、が好ましい。本発明の光吸収材料の製造方法においては、炭素材のCの切断及び再結合によって膜状炭素構造体が形成することから、高価な金属触媒を使用することなく、高効率に膜状炭素構造体を得ることができる。また、金属触媒を構成する元素が混入しないため、均質な膜状炭素構造体を得ることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、可視光に対して極めて低い反射率を示す優れた耐光性及び耐候性を有する光吸収材料であって、従来の光吸収材料を用いた場合以上の黒色化を達成できる光吸収材料、及びその効率的な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の光吸収材料の模式図である。
図2】本発明の光吸収組成物(光吸収樹脂成型体)の概略断面図である。
図3】光吸収材料の製造方法の状況の一例を示す模式図である。
図4】実施例1で発生したマイクロ波のプラズマ発光スペクトルである。
図5】実施例1で得られた処理後のガラス板の外観写真である。
図6】実施例1で得られた処理後のガラス板の反射率を示すグラフである。
図7図6で対象波長が250~850nmの範囲を拡大したグラフである。
図8図6で反射率が~2の範囲を拡大したグラフである。
図9】実施例2で得られた処理後の銅板の外観写真である。
図10】実施例2で得られた膜状炭素構造体の側面のSEM像である。
図11】実施例2で得られた膜状炭素構造体の正面のSEM像である。
図12】実施例2で得られた膜状炭素構造体のTEM像である。
図13】実施例3で得られた膜状炭素構造体のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の光吸収材料及びその製造方法の好適な一実施形態について、詳細に説明する。なお、以下の説明では、本発明の一実施形態を示すに過ぎず、これらによって本発明が限定されるものではなく、また、重複する説明は省略することがある。
【0030】
(1)光吸収材料
本発明の光吸収材料は、グラフェンで構成された膜状炭素構造体であり、グラフェンからなる板状集合体は膜状炭素構造体の膜厚方向に対して略水平に配列し、板状集合体の板面はランダムな向きとなっており、膜状炭素構造体は金属元素を含まないこと、を特徴とするものである。
【0031】
図1に、本発明の光吸収材料の模式図を示す。図1においては、基材の表面に膜状炭素構造体が形成されている状態を示している。膜状炭素構造体1は、グラフェンからなる板状集合体2で構成されており、板状集合体2は膜状炭素構造体1の膜厚方向に対して略水平に配列している。また、板状集合体2は、板状集合体2の板面がランダムな向きになるように密に存在している。ここで、膜状炭素構造体1の膜厚(板状集合体2の高さ)は特に限定されないが、膜状炭素構造体1の面方向の長さと比較すると、大幅に小さくなっている。
【0032】
板状集合体2は、板状をなすグラフェンの集合体であり、高さは数nm~50μm、幅は数nm~1μm、厚みはグラフェン層1枚の0.1nmから10nm程度までとなっている。板状集合体2におけるグラフェンの層間は必ずしも全て一定になっている必要はないが、約3オングストロームの層間距離を有している領域が存在することが好ましい。
【0033】
膜状炭素構造体1の可視光~赤外線(波長:250~3000nm)の反射率は1%以下であることが好ましく、可視光(波長:250~830nm)の反射率は0.01%以下であることがより好ましく、0.005%以下であることが最も好ましい。なお、これらの反射率の測定方法は特に限定されず、従来公知の種々の測定方法を用いることができるが、例えば、ガラス基板上に膜状炭素構造体1を形成させ、ガラスから膜状炭素構造体1を剥離し、剥離したものを樹脂基材6と混ぜ塗料とし、これをガラス板状に塗布した後に、光反射率を測定すればよい。
【0034】
(2)光吸収組成物
図2に、本発明の光吸収組成物の一態様について、光吸収樹脂成型体の概略断面図を示す。光吸収樹脂成型体4では、任意のサイズに分断された膜状炭素構造体1(炭素構造体)が樹脂基材6に分散されている。
【0035】
本発明の効果を損なわない限りにおいて、膜状炭素構造体1のサイズ、形状及び含有量は特に限定されず、所望の光吸収特性及び光吸収樹脂成型体4の機械的性質及び成形性等を考慮して、適宜調整すればよい。ここで、比較的大きな膜状炭素構造体1を用いることで、膜状炭素構造体1の配向により光吸収樹脂成型体4の光吸収特性及び機械的性質を制御することができ、微細に分断した膜状炭素構造体1を用いることで、光吸収樹脂成型体4に等方的な光吸収特性及び機械的性質を付与することができる。
【0036】
樹脂基材6は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、従来公知の種々の樹脂材料を用いることができる。樹脂基材6としては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル系樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルアルコール(PVA)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、ポリスチレン(PS)、シクロオレフィンポリマー(COP)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル-スチレン-アクリレート共重合(ASA)、アクリロニトリル-エチレンプロピルラバー-スチレン共重合体(AES)、等の1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができ、又、添加剤を含有させてもよい。
【0037】
光吸収樹脂成型体4は膜状炭素構造体1の分散によって、可視光~赤外線(波長:250~3000nm)の反射率が小さくなり、特に、可視光(波長:250~830nm)の反射率は極めて小さくなる。樹脂基材6に分散させる膜状炭素構造体1の大きさは、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、光吸収樹脂成型体4の物性を均質化する等の観点から、100nm~1μmとすることが好ましい。なお、膜状炭素構造体1のサイズは粉砕等の処理によって容易に調整することができる。
【0038】
なお、光吸収樹脂成型体4の製造方法は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、従来公知の種々の樹脂成型体の製造方法を用いることができる。この際、適当な方法で樹脂基材6に膜状炭素構造体1を分散させればよい。
【0039】
(3)光波吸収材料の製造方法
本発明の光吸収材料(膜状炭素構造体1)の製造方法は、ガス雰囲気下で炭素材及び基材にマイクロ波を照射して、炭素材及び基材をマイクロ波加熱し、マイクロ波によってガスの励起状態を誘導し、当該ガスの発光過程で発生する紫外線で炭素材のC=C結合を切断し、炭素材から分離してプラズマ化した炭素を原料として、基材の表面にグラフェンからなる膜状炭素構造体を生成させ、膜状炭素構造体の生成時に波長が386nm及び589nmの発光をするプラズマの発生を伴うこと、を特徴としている。以下、これらの各構成要件について詳しく説明する。
【0040】
光吸収材料(膜状炭素構造体1)の製造方法の状況の一例を模式的に図3に示す。マイクロ波発生装置8にガラス管10が挿入され、アルミナボート12に入れられた炭素材14と基材16がガラス管10の内部に配置されている。また、ガラス管10にはガス流入口18及びガス流出口20が設けられ、ガラス管10の内部はガス雰囲気となっている。
【0041】
アルミナボート12内の炭素材14と基材16の位置は、基材16の表面に形成される膜状炭素構造体1の状態に応じて適宜調整すればよいが、基本的には、炭素材14の横に基材16を並べて配置すればよい。
【0042】
(3-1)炭素材
炭素材14は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の炭素材を用いることができる。炭素材14としては、例えば、黒鉛、活性炭、炭素繊維及びカーボンフェルト等を用いることができる。
【0043】
(3-2)基材
基材16についても、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の基材を用いることができる。基材16としては、例えば、銅板、シリコン板、ガラス板及び石英板等を用いることができるが、形成した膜状炭素構造体1を基材16から分離する観点からは、銅板又は石英板を用いることが好ましい。
【0044】
(3-3)ガス雰囲気
膜状炭素構造体1の形成は、炭素材14と基材16のマイクロ加熱のみでは達成されず、ガスプラズマを利用することが必要である。炭素材14及び基材16がマイクロ波加熱さると同時にガラス管10の内部に存在するガスの発光過程で発生するガスプラズマによって、炭素材14の表面近傍のC=C結合が切断される結果、炭素材14から分離してプラズマ化した炭素を原料として、基材14の表面にグラフェンからなる膜状炭素構造体1が生成する。
【0045】
ここで、波長が386nm及び589nmのプラズマの発生を伴う場合に、グラフェンで構成された膜状炭素構造体1であって、グラフェンからなる板状集合体2が膜状炭素構造体1の膜厚方向に対して略水平に密に配列した良好な膜状炭素構造体1を効率的に得ることができる。
【0046】
ガスの発光過程で発生する紫外線によって炭素材14の表面のC=C結合が切断され、波長が386nm及び589nmで発光するプラズマの発生を伴う限りにおいて、ガラス管10に充填又は流通させるガスの種類は限定されないが、空気、アルゴン、ヘリウム、窒素及び二酸化炭素のうちの少なくとも一つを含むことが好ましい。これらのガスは1種で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。空気、アルゴン、ヘリウム、窒素及び二酸化炭素のいずれかにマイクロ波を照射することで、炭素材14表面近傍のC=C結合の切断に寄与する紫外線を効率的に発生させることができる。
【0047】
ガラス管10内部のガス圧力やガス流量は特に限定されず、所望する膜状炭素構造体1の状態に応じて適宜調整すればよいが、ガラス管10内部の総圧を1000Pa未満とすることが好ましい。ガラス管10内部を1000Paとしてマイクロ波を照射することで、炭素材14表面近傍のC=C結合の切断に寄与する紫外線を効率的に発生させることができる。
【0048】
(1-3)マイクロ波照射条件
マイクロ波発生装置8によってマイクロ波を発生させ、炭素材14、基材16及びガラス管10内部のガスに照射する。ここで、マイクロ波とは、波長が100μm~1mの範囲内であり、周波数が30MHz~3THzの電磁波を意味する。マイクロ波発生装置8としては、例えば、汎用の電子レンジを用いることができる。
【0049】
マイクロ波の出力については特に限定されず、炭素材14の挿入量、膜状炭素構造体1の生成速度及び所望の状態等に応じて適宜調整すればよいが、例えば、10mgの炭素材14を処理する場合は10~1000Wとすることが好ましく、100~800Wとすることがより好ましい。
【0050】
マイクロ波の照射時間についても特に限定されず、炭素材14の挿入量、膜状炭素構造体1の生成速度及び所望の状態等に応じて適宜調整すればよいが、10秒~10分とすることが好ましく、1分~5分とすることがより好ましい。処理時間を10秒~10分の範囲で長くすると、膜状炭素構造体1の生成量が増加して密度が高くなるが、処理時間を10分以上とすると膜状炭素構造体1の均質性が損なわれる場合がある。
【0051】
一般的に、気相法では金属粒子を触媒として炭素からなるナノ構造体が形成されるが、膜状炭素構造体1は、炭素材14のCの切断及び再結合によって形成したものであり、金属触媒を使用していないことから、膜状炭素構造体1に金属元素は含まれていない。
【0052】
以下、実施例において本発明の光波吸収材料及びその製造方法について更に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例
【0053】
≪実施例1≫
炭素材として炭素繊維から構成されるカーボンフェルト(有限会社 筑波物質情報研究所,e-4-1 carbon felt, A4 size, 2t)及び活性炭を用い、図3に示す状態で処理を施した。具体的には、アルミナボートに幅20mm×長さ80mm×厚さ2mmのカーボンフェルト表面に活性炭粉末50mgをふりかけたものを入れ、その横に基材(ガラス板)を配置した状態で、当該アルミナボートをガラス管に挿入し、市販の電子レンジを用いて出力700Wでマイクロ波を照射させた。ここで、ガラス管の内部は約1Paのアルゴン置換雰囲気とし、マイクロ波の照射時間は5分とした。なお、マイクロ波の照射中は発光が認められた。
【0054】
発生したマイクロ波のプラズマ発光スペクトルを図4に示す。また、比較として、炭素材及び基材を挿入しない状態におけるプラズマ発光スペクトルも示している。図4より、本発明の光吸収材料の製造方法においては、波長が386nm及び589nmのプラズマが特徴的に発生していることが分かる。なお、プラズマ発光スペクトルの測定には浜松ホトニクス株式会社製のPMA-12を用いた。
【0055】
マイクロ波の照射後におけるガラス板の外観写真を図5に示す。膜状炭素構造体の形成により、ガラス板の表面は完全に黒色化している。当該状態のガラス板の反射率を図6に示す。また、対象波長が250~850nmの範囲を拡大して図7に、反射率が~2%の範囲を拡大して図8に、それぞれ示す。なお、比較として、市販の黒色材(システムズエンジニアリング社製のスーパーブラックIR)の反射率を図6に示している。当該黒色材は、入手可能な物質では最高レベルの光吸収性能を有しているものである。反射率の測定にはSHIMADZU社製のSolidSpec 3700型を用いた。
【0056】
図6に示すように、処理後のガラス板は広い波長域に関して市販の黒色材よりも低い反射率を有している。図8に示すように、可視光~赤外線(波長:250~3000nm)の処理後のガラス板の反射率は1%以下となっている。また、図7に示すように、可視光(波長:250~830nm)の反射率は0.005%以下と極めて低い値となっている。
【0057】
≪実施例2≫
基材を銅板としたこと以外は実施例1と同様にして、当該銅板の表面に膜状炭素構造体を形成させた。処理後の銅板の外観写真を図9に示すが、銅板の表面は黒色化していることが分かる。なお、処理中には、波長が386nm及び589nmの発光をするプラズマの発生が確認された。
【0058】
膜状炭素構造体は銅板から容易に分離することができ、分離後の膜状炭素構造体をカーボンテープの表面に固定し、側面からSEM観察を行った。得られたSEM像を図10に示す。膜状炭素構造体は多数のグラフェンから構成されており、グラフェンからなる板状集合体が膜状炭素構造体の膜厚方向に対して略水平に配列していることが分かる。なお、SEM観察には株式会社日立ハイテクノロジーズ社製のS-5200を用いた。
【0059】
膜状炭素構造体を正面からSEM観察して得られたSEM像を図11に示す。ヒダ状に見えるのがグラフェンからなる板状集合体であり、当該板状集合体はランダムな方向に形成されていることが分かる。
【0060】
膜状炭素構造体の一部分を分離し、TEM観察を行った。得られたTEM像を図12に示す。図12において、原子層間が構成する3オングストローム間隔の縞模様が見えることから、グラフェンが層間方向に積層していることが確認できる。なお、TEM観察には株式会社日立ハイテクノロジーズ社製のH-9000NARを用い、膜状炭素構造体をメッシュ表面に担持させて観察を行った。
【0061】
≪実施例3≫
基材をシリコン板としたこと以外は実施例1と同様にして、当該シリコン板の表面に膜状炭素構造体を形成させた。なお、処理中には、波長が386nm及び589nmの発光をするプラズマの発生が確認された。
【0062】
シリコン板の表面に形成された膜状炭素構造体を側面からSEM観察して得られたSEM像を図13に示す。膜状炭素構造体は多数のグラフェンから構成されており、グラフェンからなる板状集合体が膜状炭素構造体の膜厚方向に対して略水平に配列していることが分かる。
【符号の説明】
【0063】
1・・・膜状炭素構造体、
2・・・板状集合体、
4・・・光吸収樹脂成型体、
6・・・樹脂基材、
8・・・マイクロ波発生装置、
10・・・ガラス管、
12・・・アルミナボート、
14・・・炭素材、
16・・・基材、
18・・・ガス流入口、
20・・・ガス流出口。
図1
図2
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図5
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図8
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図13