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特許7498933吸着クロマトグラフィー用の静相媒質及びその調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】吸着クロマトグラフィー用の静相媒質及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/281 20060101AFI20240606BHJP
   B01J 20/285 20060101ALI20240606BHJP
   B01J 20/283 20060101ALI20240606BHJP
   B01D 15/36 20060101ALI20240606BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
B01J20/281 G
B01J20/281 X
B01J20/285 S
B01J20/285 M
B01J20/283
B01D15/36
B01J20/26 L
B01J20/30
【請求項の数】 12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023057718
(22)【出願日】2023-03-31
(65)【公開番号】P2023159869
(43)【公開日】2023-11-01
【審査請求日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】111114908
(32)【優先日】2022-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】518213374
【氏名又は名称】台灣創新材料股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100143720
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】杜宗翰
(72)【発明者】
【氏名】林嘉偉
(72)【発明者】
【氏名】王斯瑜
(72)【発明者】
【氏名】陳暉
(72)【発明者】
【氏名】許銘賢
(72)【発明者】
【氏名】楊適弘
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特許第7049021(JP,B2)
【文献】特開2016-070937(JP,A)
【文献】特開2017-037070(JP,A)
【文献】特表2016-538128(JP,A)
【文献】特表2017-512132(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0032246(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/281
B01J 20/285
B01D 15/36
B01J 20/30
G01N 30/88
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質粒子からなる吸着クロマトグラフィーで使用するための静相媒質であって
前記多孔質粒子は、
25μm~500μmの範囲のフェレット径 (Feret diameter)を有し、気孔率が70%~90%である架橋高分子材料からなり、3μm~10μmの範囲の直径を有する多数の球状巨大孔を形成しており、球状巨大孔は接続孔を介して相互に連結されて多孔質ネットワークを構成し、該多孔質ネットワークの平均直径は0.2μm~6μmの範囲にあり、
ある多孔質粒子の長軸の長さをその短軸の長さで割った商として計算される縦横比が1.0~3.5の範囲であり、1.2~2.2の範囲の標準偏差を有する不規則な粒子形状を呈す
ことを特徴とする吸着クロマトグラフィーで使用するための静相媒質。
【請求項2】
請求項1に記載の静相媒質において、
水銀圧入法により測定された前記多孔質粒子は実質的に直径は100ナノメートル以下の細孔を有していない
ことを特徴とする静相媒質。
【請求項3】
請求項2に記載の静相媒質において、
この多孔質ネットワークは0.5μm~3.0μmの範囲内にある平均直径を有する
ことを特徴とする静相媒質。
【請求項4】
請求項3に記載の静相媒質において、
この多孔質ネットワークは1.2μm~2.4μmの範囲内にある平均直径を有する
ことを特徴とする静相媒質。
【請求項5】
請求項2に記載の静相媒質において、
この静相媒質は、イオン交換官能基によって表面改質されている
ことを特徴とする静相媒質。
【請求項6】
請求項5に記載の静相媒質において、
前記イオン交換官能基は四級アンモニウム、ジエチルアミンエチル、スルホニル基及びカルボキシメチル基からなる群から選択される
ことを特徴とする静相媒質。
【請求項7】
請求項6に記載の静相媒質において、
この架橋高分子材料は、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリピロール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル及びポリ珪酸からなる群から選択される
ことを特徴とする静相媒質。
【請求項8】
請求項7に記載の静相媒質において、
この架橋高分子材料はポリメタクリレートから選択される
ことを特徴とする静相媒質。
【請求項9】
請求項2に記載の静相媒質において、
前記多孔質粒子の球状巨大孔の少なくとも70%が最密に堆積した形で配列されている
ことを特徴とする静相媒質。
【請求項10】
求項1に記載の静相媒質を充填した中空長尺カラムを含む
ことを特徴とするクロマトグラフィーカラム。
【請求項11】
請求項1に記載の静相媒質の調製方法において、
架橋された高分子材料からなり、気孔率が70%~90%である多孔質モノリスカラムを調製し、ここで、この多孔質モノリスカラムは複数の球状巨大孔を形成し、直径が3μm~10μmの範囲にあり、且つ前記球状巨大孔が接続孔を介して相互に連結され、平均直径が0.2μm~6μmの範囲にある多孔質ネットワークを構成するステップAと
この多孔質モノリスカラムに機械的な粉砕を受けさせ、1000μm未満の粒子サイズ分布を有する第1の多孔質粒子群に粉砕するステップBと、
フェレット径が25μm~500μmの範囲にある第2の多孔質粒子群を得るために、この第1の多孔質粒子群を粒子サイズ別に選別し、ここの、前記第2の多孔質粒子群において、ある多孔質粒子の長軸の長さをその短軸の長さで割った商として計算される縦横比が1.0~3.5の範囲にあり、標準偏差が1.2~2.2の範囲にある不規則な粒子形状を呈するステップCとを含む
ことを特徴とする静相媒質の調製方法。
【請求項12】
請求項11に記載の静相媒質の調製方法において、
ここのステップCの粒子サイズによる選別は、前記第1の多孔質粒子群の多孔質粒子を一連のタイラー標準篩を通過させてふるい分けすることを含む
ことを特徴とする静相媒質の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着クロマトグラフィー用の静相媒質に関し、特に、高スループット、高効率、低背圧で高分子を分離するためにクロマトグラフィーカラムに充填するのに適した高分子多孔質粒子の形態に調製された静相媒質に関する。
【背景技術】
【0002】
吸着クロマトグラフィーとは、混合物中のある成分を移動相から固体静相に選択的に吸着させて分離する液相クロマトグラフィーの1種である。多孔性樹脂ビーズは吸着クロマトグラフィーの静相として広く使用されている。典型的な樹脂ビーズは直径が数ナノメートルから数十ナノメートルの蛇行した細孔網を形成し、移動相中に存在する低分子量溶質が細孔内に拡散することを許容する。図1に示すように、これらの微細孔は通常、樹脂ビーズの外側の表面の近くにあり、互いにつながっていない。吸着面の多くは樹脂ビーズの内側にあり、拡散作用でしか到達できない。樹脂ビーズの慣用化は小分子の分離に非常に有用であることが実証されているが、高分子が小さな微細孔に入ることができないため、これらの微細孔の分離には不十分である。言い換えれば、高分子は樹脂ビーズの表面に結合して薄い層になり、結合容量が低下する。酵素分解やその他の破壊的な状况の影響を受けやすい生体分子にとって、分離速度の低下は特に有害である。樹脂をベースとするクロマトグラフィーにはその他の欠点がある。ビーズ内の拡散作用は吸着過程の速度決定段階であるため、流速の上昇に伴って分解度が低下する。また、樹脂ビーズ間の対流が不十分であるため、全カラムにまたがる高圧が低下する。これらの欠点は、分離効率の低下と十分な高分子生産性をもたらさない。一般的に、従来の樹脂ビーズを静相媒質とするクロマトグラフィーは完成までに数日を要するため、非常に時間がかかり、コストも高い。
【0003】
業界はこれらの欠点に対処するために多くの努力を払ってきた。米国特許第5,228,989号は、物質の対流転送のための直径0.6-0.8ミクロンの巨大孔と、吸着容量を提供するための多数の拡散細孔を含み、いわゆる灌流型クロマトグラフィー樹脂を提案した。しかし、吸着の過程では、灌流型樹脂ビーズの出し入れを拡散と転送し、全体の生産速度が低下させた。また、灌流型樹脂ビーズは通常、球状粒子の形に作られ、しかも狭い寸法分布の特徴を持つ。これらのビーズが一緒にカラム内に密実に充填され、例えば高速液体クロマトグラフィーに応用されると、樹脂ビーズ間の対流路が非常に狭くなり、それによって背圧を高くなってしまう。
【0004】
微粒子状に調製された樹脂ビーズとは異なり、ブロック状に形成された多孔質モノリスカラムは、吸着クロマトグラフィーの静相媒質として使用され、例えば米国特許第7,026,364号、第11,118,024号及び第11,236,184号に開示されている。これらの多孔質モノリスカラムの内部に形成された対流マクロポーラスによる迅速な物質転送能力により、これらの多孔質モノリスカラムは、高分子分離の基質として好適に使用されている。これらの多孔質モノリスカラムは、高内相エマルションテンプレート法 (high internal phase emulsion templating) やコロイド結晶テンプレート法 (colloidal crystal templating)などの慣用的な方法で調製することができる。前者の技術は油中水型エマルションを調製し、モノマーを含む外相を重合化して内相を除去するものであるが、後者の技術はモノマーをコロイド結晶テンプレートの隙間空間に浸透させ、モノマーを高分子マトリックスに重合化してからテンプレートを除去するものである。しかし、欠陥のない高分子モノリスカラムを調製することは、重合反応の際の熱膨張の不均一性により破裂しやすいため困難である。複数の欠陥があるモノリスカラムは、解析度が失われ、目的物質の回収率が低下する可能性がある。
【0005】
そのため、関連業界では、クロマトグラフィーカラムに充填するのに適した低背圧の高分子多孔質粒子の形に調製されただけでなく、主に対流巨大孔で構成されているだけでなく、実質的に細孔の拡散を持たないため、高分子が粒子内部に接近しやすく、物質が粒子を対流転送することを許容する静相媒質が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記の欠点を克服するために、本発明は、クロマトグラフィーカラムに充填するのに適した多孔質粒子の集合体の形態を呈し、吸着クロマトグラフィー用の静相媒質を提供する。各多孔質粒子は、架橋高分子材料からなり、移動相流体が対流的に流れることができる多孔質ネットワークを構成する多数の結合した巨大孔を形成している。本実例の多孔質粒子は実質的に拡散孔を有していないため、移動相流体に乗せられた溶質や分析物は対流作用によってこの多孔質ネットワークを通過するだけである。この多孔質ネットワークは移動相流体の対流を許容するのに十分な大きさの直径を有し、しかも大きな比表面積を吸着面として有し、高分子が接近しやすく、付着しやすい。さらに重要なのは、本実例の多孔質粒子は、クロマトグラフィー過程において、多孔質粒子間の対流が妨げられたり速度が低下したりすることがないように、不規則な粒子形状を有し、粗い外表面を有するように調製されたため、均一な球体形状を呈する従来の樹脂ビーズで発生していた不利な状況とは異なっている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明の第1形態では、高分子を分離するのに特に適した吸着クロマトグラフィー用の静相媒質を提供する。この静相媒質は、
25μm~500μmの範囲内のフェレット径(Feret diameter)を有し、気孔率(porosity)が70%~90%である架橋高分子材料から調製された複数の多孔質粒子は、3μm~10μmの範囲内の直径を有する多数の球状巨大孔を形成し、球状巨大孔は接続孔を介して相互に連結され、それによって1つの多孔質ネットワークを構成し、その平均直径は0.2μm~6μmの範囲内にある;および
ここで、多孔質粒子は、1.0~3.5の範囲のフェレット縦横比分布(Feret aspect ratio distribution)と1.2~2.2の範囲の標準偏差とを有する不規則な粒子形状を呈することとを含む。
【0008】
本発明の第2形態では、前記の静相媒質を調製するための方法を提供し、その方法は以下のステップ:
ステップ A.架橋された高分子材料からなり、気孔率が70%~90%である多孔質モノリスカラムであって、直径が3μm~10μmの範囲にある多数の球状巨大孔が形成され、球状巨大孔が接続孔を介して相互に連結され、平均直径が0.2μm~6μmの範囲にある多孔質ネットワークを構成することと、
ステップB.多孔質モノリスカラムに機械的な粉砕を受けさせ、1000 μm未満の粒子サイズ分布を有する多孔質粒子の第1群に粉砕することと、
ステップC.粒子径が25μm~500μmの範囲にある第2の粒子群を粒子サイズ別に選別し、フェレット径分布(Feret aspect ratio distribution)が1.0~3.5の範囲にあり、標準偏差が1.2~2.2の範囲にある不規則な粒子形状を示すこととを含む。
【0009】
好ましい実例において、水銀圧入法(mercury intrusion porosimetry)で測定した多孔質粒子は、直径が100ナノメートル以下の細孔を実質的に有していないことが示されている。
【0010】
好ましい実例において、多孔性ネットワークは、0.5μm~3.0μmの範囲内にある平均直径を有する。更に好ましい実例において、この多孔性ネットワークは、1.2μm~2.4μmの範囲内にある平均直径を有する。
【0011】
好ましい実例において、この静相媒質は表面改質されてイオン交換機能基を有する。更に好ましい実例において、このイオン交換機能基は、4級アンモニウム、ジエチルアミノエチル、スルホニル基、カルボキシメチル基からなる群から選択される。
【0012】
好ましい実例において、この架橋高分子材料は、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリピロール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル及びポリ珪酸塩からなる群から選択される。更に好ましい実例において、この架橋高分子材料はポリメタクリレートからなる群から選択される。
【0013】
好ましい実例において、個々の多孔質粒子の球状の巨大孔に、少なくとも70%が最も密に堆積した形で配列されている。
【0014】
また、従来の方法で調製された静相媒質と比較し、前記の方法で調製された静相媒質は、多孔質モノリスカラムの調製過程で形成された内部の多孔質ネットワーク、及び機械式粉砕工程で与えられた不規則な粒子形状及び粗面化された外表面という構造的特徴を有する。したがって、本発明の第3形態において、前記の方法で調製された静相媒質を提供する。
【0015】
本発明の第4形態において、前記の静相媒質を充填した中空長尺カラムを含むクロマトグラフィーカラムを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明の前記及び他の目的、特徴と効果は、添付図面と共に、次の好ましい実例を参照する説明において明らかになるであろう。そのうち:
【0017】
図1】慣用樹脂ビーズの模式図。
【0018】
図2】本発明に係わる吸着クロマトグラフィー模式図。
【0019】
図3】異なる吸着特性を持つ高分子がカラムから離れる時間の違いを示す模式図である。
【0020】
図4A】ふるい分け後に得られた2つの粒子群のサイズ分布を示す。
図4B】本発明の実例に係わる多孔質粒子の走査型電気画像である。
図4C】本発明の実例に係わる多孔質粒子の走査型電気画像である。
図4D】本発明の実例に係わる多孔質粒子の走査型電気画像である。
図4E】本発明の実例に係わる多孔質粒子の走査型電気画像である。
図4F】本発明の実例に係わる多孔質粒子の走査型電気画像である。
【0021】
図5】本発明の実例に係わる多孔質粒子の内部を表示する走査型電気画像である。
【0022】
図6】本発明の実例に係わる多孔質粒子を介した物質の転送を示す模式図。
【0023】
図7】本発明の実例に係わる多孔質粒子の調製方法のフローチャート。
【0024】
図8】水銀圧入法により測定された多孔質粒子の孔径分布グラフ。
【0025】
図9】本発明の実例に係わるクロマトグラフィーカラムと2種類の慣用イオン交換カラムの動的結合容量を比較した正方形図。および
【0026】
図10A】本発明の実例に係わるクロマトグラフィーカラムと2種類の慣用イオン交換カラムの血球凝集素(HA)回収率を比較した正方形図。及び
図10B】本発明の実例に係わるクロマトグラフィーカラムと2種類の慣用イオン交換カラムのDNA除去能力を比較した正方形図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
別段の記載がない限り、本出願の明細書及び特許出願の範囲内で使用される下記の用語は、下記の定義を有する。本出願の明細書及び特許出願の範囲内で使用される単数形の用語「1」は、少なくとも1つ、2つ又は少なくとも3つの記載事項を含むことを意図したものであって、単一の記載事項のみを有することを意味するものではないことに留意されたい。また、特許出願の範囲内で使用される「含む」、「有する」などのオープン的接続詞は、請求項に記載された部品又は成分の組み合わせにおいて、請求項に記載されていないその他の部品又は成分を排除しないことを示している。また、用語「又は」は一般的に意味上「及び/又は」も含むことに注意すべきである。ただし、内容が別途明確に示されていない限り、本出願の明細書及び特許出願の範囲内で使用される用語「約」又は「実質的に」は、多少変化する誤差を修飾するためのものであるが、このような多少の変化はその本質を変えるものではない。
【0028】
図2および図3は、固体の静相2および液体の移動相3を使用し、種々の高分子4と静相2との吸着性相互作用によって高分子4を分離する本発明による吸着クロマトグラフィー方法が示されている。前記の吸着クロマトグラフィーは、関連技術分野で知られているタイプであり、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーおよび逆相クロマトグラフィーを含むがこれに限定されない。本発明で使用されている用語「静相」は、クロマトグラフィー中に移動相3が流れて高分子4が静相2に保持されることを可能にする固定化された固相担体を指すことができる。ここで、静相2は、クロマトグラフィーカラム内に充填された多孔質粒子群に含まれている。この場合の「静相媒質」という用語は、充填された状態または充填されていない状態の多孔質粒子を含むことが望ましい。図2に示すように、移動相3はカラムの上部から供給され、カラムの底部まで流下する。 図3に示すように、静相2に比較的に吸着されやすい高分子4は比較的長い時間でカラム中に滞留し、比較的静相2に吸着されにくい高分子4は比較的早くカラムから離れる。その結果、これによってそれぞれ異なる吸着特性を持つ高分子4を収集することができる。この場合の吸着クロマトグラフィーは結合-溶出モード(bind-and-elute mode)で行い、そのうち、標的高分子を静相媒質に留置し、その後適切な溶出液で洗い出すか、あるいは流経モード(flow-through mode)で行い、不必要な分子や不純物が静相媒質に吸着され、標的高分子の流出を許容することができる。
【0029】
図4B-4F及び図5は、本発明に係わる多孔質粒子を示している。これらの多孔質粒子は、図5の実線の円で示すように、多数の球状巨大孔が積層して形成されていることが明らかである。これらの巨大孔は、図5の破線の円で示すように、接続孔を介して相互に接続され、流体連通を呈している。電子顕微鏡で測定すると、これらの多孔質粒子のフェレット径は25μm~500μm、好ましくは25μm~300μm、例えば25μm~100μmの範囲にあり、球状の巨大孔の直径は3μm~10μmの範囲にある。 本発明に使用されている用語「フェレット径」とは、ある粒子の外側輪郭上の最も遠い2点間の最も長い距離を意味する。個々の多孔質粒子において、これらの接続した巨大孔とそれに接続した接続孔は、連続した多孔質ネットワークを構成しており、毛細管流動細孔測定法 (capillary flow porometry)によって測定されるこの多孔質ネットワークの平均直径は、0.2μm~6.0μm、好ましくは0.5μm~3.0μmの範囲に、例えば1.2μm~2.4μmの範囲にある。後に記載されるように、多孔質粒子の粒子サイズ、巨大孔と多孔質ネットワークの直径は、多孔質粒子の調製方法のパラメータと条件を制御することによって調整することができる。
【0030】
前記の電子顕微鏡と毛細管フロー測定法の測定によると、それぞれ多孔質粒子の中で形成された多孔質ネットワークは十分に大きく、移動相流体の対流がこの多孔質ネットワークを通過することを許容する。これらの多孔質粒子は実質的に拡散孔を持っていなく、ここでは水銀圧入法で測定したところ、90%を超え、好ましくは95%を超え、更に好ましく98%を超え、例えば99%を超える完全な多孔質粒子と、その中に形成された多孔質ネットワークは、実質的に直径100ナノメートル以下の細孔を持っていないことを意味する。得られた有利な結果は、多孔質ネットワークを介した物質の転送が完全に対流作用によって行われ、実例5と図9に示す結果である。図4B-4Fに示すSEM画像と図6の模式図に示すように、前記多孔質ネットワークは周囲環境に開放的で、高分子が接近しやすく滞留しやすい比表面積を提供している。これらの構造的特徴により、本発明に明らかになった静相媒質は移動相が高速でその中を流れることを許容すると同時に、高分子に対して高い吸着容量を提供するようになっている。
【0031】
本発明で明らかになった粒子は高い気孔率を有し、巨大孔が粒子中に均一に分布しているため、分離過程における物質の転送が高く、背圧が低くなることを確保した。多孔質粒子の気孔率(porosity)は、粒子の全体積に対する気孔の体積の割合として定義され、次式で計算できる:
1-[(多孔質粒子の重さ/連続相の密度)/多孔質粒子の外観体積]
また、多孔質粒子の断面映像を走査型電子顕微鏡で撮影し、ImageJソフト(米国科学アカデミー、メリーランド州Bethesda市)を介して気孔率を算出することもできる。ある実例において、これらの粒子の気孔率は約70%~約90%の範囲にあり、好ましくは74%~90%である。
【0032】
さらに図4B-4Fに示すように、本発明の多孔質粒子は、粗い外表面を有する不規則な粒子形状に調製された。本発明で使用されている「不規則」という用語は、多孔質粒子が球形からある程度逸脱することを意味する。本発明によれば、不規則の程度は、フェレット縦横比(Feret aspect ratio)で表され、ある特定の多孔質粒子の長軸の長さをその短軸の長さで割った商として計算される。完全な球体のフェレット縦横比は1であるため、計算される数値は通常1よりも大きい。粒子の不規則性は粒子映像分析により計算し、本発明の多孔質粒子は1.0~3.5の範囲のフェレット縦横比分布は1.2~2.2の範囲内の標準偏差を持っていることが示されている。後述のように、多孔質粒子の不規則な構造は多孔質モノリスカラムを機械的に粉砕して粒子にすることによって達成され、そしてそれによっていくつかの利点をもたらした。第1に、同じタイプで不規則な構造を呈する多孔質粒子は、ブロック状のモノリスカラムと丸球形粒子に比べて、より大きな表面積を持ち、したがってより高い吸着容量を持っている。 第2に、直観的には、本発明の不規則粒子は粗い外表面を持っているため、クロマトグラフィーカラム内に充填された時に互いに固定しやすく、高い機械的強度を持つ充填層が得られ、分離過程で発生する背圧に耐えられる。第3に、充填される状態の円形球状粒子に比べて、充填層中の不規則粒子の間にはより広い対流流路がある。したがって、分離過程において、本件の不規則粒子の間の対流流動が妨げられたり速度が低下したりすることはない。いくつかの実例では、粒子間の流路の平均直径は2ミクロン~110ミクロンの範囲内にある。
【0033】
本発明の多孔質粒子は架橋高分子材料から調製された。本発明に適用される高分子材料は関連技術分野でよく知られており、これにはポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリピロール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル及びポリシリコンオキシドが含まれるが、これらに限定されない。好ましい実例において、前記多孔質粒子はポリメタクリレートから調製された。
【0034】
この静相媒質は、高速な動力学的表現、高い空隙率、高い機械的性質と低い背圧により、巨大な分子サイズを有する高分子を分離するために使用することができる。流体動力学的半径が10ナノメートルを超え、好ましくは50ナノメートルを超える高分子が含まれる。これらには、タンパク質、核酸、ウイロイド(viroids)、ウイルス、ウイルスベクター、ウイルス様粒子(virus-like particles, VLPs)、細胞外小胞(Extracellular Vesicles, EVs)、およびマイクロリポソームが含まれるが、これらに限定されない。
【0035】
本発明はさらに、本出願の静相媒質を充填したクロマトグラフィーカラムに注目した。このクロマトグラフィーカラムは、充填層を収容するための中空長尺カラムを含む。この中空長尺カラムに適した材料と構造は、クロマトグラフィー技術の分野でよく知られている。ある実例において、このカラムは、ステンレス鋼、チタン、石英、ガラス及びポリプロピレン等の硬質プラスチックからなる群から選択された材料になり、円筒形、矩形又は多角形カラムの形態に形成された。
【0036】
いくつかの実例において、静相媒質が化学的に改質されて、高分子を吸着するための官能基または配位子を有する。例えば、静相媒質がイオン交換体として使用される実例では、強いアニオン交換体として4級アンモニウム、弱アニオン交換体としてジエチルアミンエチル(DEAE)は、強カチオン交換体としてスルホニル基、弱カチオン交換体としてカルボキシメチル基などのように、多孔性ネットワークを形成した多孔質粒子が表面改質されてイオン交換官能基を有する。
【0037】
図7に示す本発明による静相媒質の調製方法のフローチャートであって、ステップA:多孔性高分子モノリスカラムの調製と;ステップB:モノリスカラムを粉砕して多孔質粒子の第1群にすることと;ステップC:この第1多孔質粒子群を粒子サイズ別に選別し、フェレット径が25μm~500μmの第2多孔質粒子群を得ることとを含む調製方法である。
【0038】
ステップAは、前記の多孔質粒子と同じ気孔特性を有する多孔質高分子モノリスカラムを調製することである。すなわち、この多孔質モノリスカラムは、架橋高分子材料からなり、気孔率が70%~90%の範囲にあり、直径が3μm~10μmの範囲にある多数の球状巨大孔が形成されている。これらの球状巨大孔は、接続孔を介して相互に連結され、1つの多孔質ネットワークを構成し、この多孔質ネットワークの平均直径は0.2μm~6.0μmの範囲にあり、好ましくは0.5μm~3.0μmの範囲にあり、例えば1.2μm~2.4μmの範囲にある。
【0039】
「モノリスカラム」という用語は固体の多孔性三次元構造を意味し、本質的には顆粒状ではなく、多孔性高分子モノリスカラムの調製に適した方法は関連技術分野で知られている。
【0040】
好ましい実例において、ステップAは高内相エマルションテンプレート法を用いて行われる。高内相エマルションテンプレート法の一般的なステップ基準は、乳化微小滴で構成された内相(または分散相)が外相中(または連続相)に分散された高内相エマルション(HIPE)を調製し、内相の体積分率が74.05%を超えた後、モノマーを含む外相を重合させ、内相テンプレートを除去することである。
【0041】
実用的な方法は、例えば、本発明の出願人に譲渡された米国特許第11,236,184号に見られるように、連続相組成物と混和しない分散相組成物を、高回転のホモジナイザーで激しく攪拌し、分散相を連続相中に均一に分散させることにより、油中水型エマルションを得ることを含む。選択的に前記油中水型エマルションに外力を受けて沈降させることにより、エマルション中の連続相に対する分散相の体積分率を高めることができ、高内相エマルションを得ることができる。本発明において、連続相は通常、重合反応を起こす相であり、少なくとも1種のモノマー及び架橋剤を含み、かつ開始剤及び乳化安定剤を選択的に含むことができ、分散相は溶媒及び電解質を含むことができる
【0042】
少なくとも1つのモノマーは、重合反応によって高分子を形成することができる任意のモノマー(monomers)およびオリゴマー(oligomers)を含むことが意図される。好ましい実例では、少なくとも1つのモノマーは、ラジカル重合反応に適したエチレン性不飽和モノマー(ethylenically unsaturated monomer)またはアセチレン性不飽和モノマー(acetylenically unsaturated monomer)、すなわち、アクリル酸およびそのエステル系、例えばヒドロキシエチルアクリレートを含むがこれに限定されない炭素-炭素二重結合または参照結合を有する有機モノマーを含む;メタクリル酸及びそのエステル系、例えば、グリセリルメタクリレート(GMA)、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、メチルメタクリレート(MMA);アクリルアミド系;メタクリルアミド系;スチレンおよびその誘導体。例えば、クロロメチルスチレン、ジビニルベンゼン(DVB)、スチレンスルホン酸塩;ジクロロジメチルシランなどのシラン系;ピロール系;ビニルピリジン及びそれらの組み合わせ。
【0043】
本発明に使用される用語「架橋剤」とは、前記の少なくとも1種のモノマーが重合反応を経て形成される高分子主鎖間に化学的架橋を形成するための試薬を意味する。好ましい実例において、「架橋剤」は、前記の少なくとも1種のモノマーと連続相中に共溶することができ、通常は複数の官能基を有し、前記の少なくとも1種のモノマーが重合反応を経て形成される高分子主鎖間に共有結合を形成するための架橋モノマーである。 適用可能な架橋剤は、本発明の属する技術分野において周知であり、かつ、油溶性架橋剤を含むがこれに限定されなく、ジエチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、ジエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)、ジエチレングリコールジアクリレート(EGDA)、ジエチレングリコールジアクリレート(TriEGDA)、ジビニルベンゼン(DVB)のような少なくとも1種のモノマーの種類によって選択することができる。水溶性架橋剤、例えばN,N-ジアリルアクリルアミド、N,N'-メチレンビスアクリルアミド(MBAA)。本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が知っているように、架橋剤の使用量は、調製される多孔質モノリスカラムの機械的強度と正の相関を示し、すなわち、架橋の程度が高いほど、多孔質モノリスカラムの機械的強度が高くなる。好ましくは、架橋剤が連続相中に約5~50重量%、例えば約5~25重量%の含有量を占めることである。
【0044】
本発明に使用されている用語「乳化安定剤」は、分散相中の微小滴ユニットが互いに合流しないように、高内相エマルションを安定化するのに適した界面活性剤を意味する。乳化安定剤は、エマルションを調製する前に、連続相組成物又は分散相組成物に添加することができる。本発明に適した乳化安定剤は、非イオン界面活性剤、又はアニオン界面活性剤又はカチオン界面活性剤であってもよい。高内相エマルションが油中水エマルションである具体的な例において、乳化安定剤は、好ましくは3~14の親水親油平衡値 (hydrophilic-lipophilic balance; HLB)、好ましくは4~6のHLB値を有する。 好ましい実例において、本発明は非イオン性界面活性剤を乳化安定剤として使用し、適用されるタイプには、ポリオキシエチレンアルカノール系、ポリオキシエチレン直鎖アルカノール系、ポリオキシエチレンポリプロピレングリコール系、ポリオキシエチレンメルカプタン系、長鎖カルボン酸エステル系、アルカノールアミン縮合物、第四級アセチレンジオール系、ポリオキシエチレンポリシリコンオキシド系、N-アルキルピロリドン系、フルオロカーボン含有液、及びアルキルポリグリコシドが含まれるが、これらに限定されない。 乳化安定剤の特定の例としては、ソルビタンモノラウレート(商品名Span(R)20)、ソルビタントリステアリン酸エステル(商品名Span(R)65)、ソルビタンモノオレイン酸エステル(商品名Span(R)80)、モノオレイン酸グリセリド、ポリエチレングリコール200ジオレイン酸エステル、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー(例えば、Pluronic(R)F-68、Pluronic(R)F-127、Pluronic(R)L-121、Pluronic(R)P-123)、ヒマシ油、モノリシノール酸グリセリド、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、及び塩化ジオレインジメチルアンモニウムが挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
「開始剤」とは、前記の少なくとも1種のモノマー及び/又は架橋剤の重合反応及び/又は架橋反応を開始させることができる試薬を意味する。本発明で使用される開始剤は、加熱開始剤、すなわち、加熱後に前記の重合反応及び/又は架橋反応を開始させることができる開始剤であることが好ましい。開始剤は、高内相エマルションを調製する前に、連続相組成物または分散相組成物に添加することができる。本発明によれば、連続相組成物に添加するのに適した開始剤は、アゾジイソブチロニトリル(AIBN)、アゾジイソヘプタニトリル(ABVN)、アゾジイソアミロニトリル、2,2-ジ[4,4-ジ(tert-ブチルペルオキシ)シクロヘキシル]プロパン(BPO)、および過酸化ラウロイル(LPO)を含むが、これらに限定されない。分散相組成物に添加するのに適した開始剤は、過硫酸アンモニウムおよび過硫酸カリウムなどの過硫酸塩を含むが、これらに限定されない。本発明の高内相エマルションには、紫外光又は可視光により活性化された光開始剤により、前記の重合反応及び/又は架橋反応を開始することもでき、更には、適切な光開始剤が前記の熱開始剤に取って代わることもできる。
【0046】
分散相は、連続相と混和しない任意の液体であってもよく、連続相が高い疎水性を有する具体的な例では、水、フルオロカルボン液体(fluorocarbon liquids)、および連続相と混和しない他の有機溶媒を含むが、これらに限定されない溶媒を主に含んでいる。溶媒は水であることが好ましい。この例において、分散相は、溶媒中で自由イオンを実質的に解離する電解質を含んでいてもよく、この溶媒に溶解可能な塩、酸、アルカリを含んでいてもよい。この電解質は、硫酸カリウムなどのアルカリ金属の硫酸塩と、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどのアルカリ金属およびアルカリ土類金属塩素塩を含んでいてもよい。
【0047】
高内相エマルションは、重合反応促進剤を添加することができる。「促進剤」とは、少なくとも1つのモノマー及び/又は架橋剤の重合反応及び/又は架橋反応を促進することができる試薬を意味する。促進剤の代表的な例としては、N,N,N',N'‐テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)、N,N,N',N",N"-ペンタメチルジエチリデントリアミン(PMDTA)、トリス(2-ジメチルアミン)エチルアミン、1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチリデンテトラミン、1,4,8,11-テトラメチル-1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカンを含むが、これらに限定されない。これは、例えば、過硫酸アンモニウムのような開始剤をラジカルに分解させ、それによって前記の重合反応および添加量は、開始剤の添加量に対して10~100モル%であることが好ましい。
【0048】
調製されたHIPEを熱及び適当な波長の光線に露出し、少なくとも1つのモノマー及び架橋剤に重合反応及び架橋反応を完成させ、HIPEを固化させてモノリスカラムになる。次いで、例えばイソプロピルアルコール、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、アセトン又はメチルエチルケトンによるソックスレットエクストラクト(Soxhlet extraction)により、モノリスカラムから分散相及び未反応試薬を除去する。モノリスカラムは、直接乾燥することができ、好ましくは真空下で乾燥することにより、分散相中の微小滴の破泡を促進して接続孔を形成する。 多孔質モノリスカラムがHIPEから調製された場合、モノリスカラム中の巨大孔の大きさは、HIPEの調製過程で攪拌速度及び/又は攪拌温度を変えることによって調整することができ、接続孔の大きさ、モノリスカラム中に形成された多孔質ネットワークの最小直径は、連続相に対する分散の体積比を変えることによって調整することができる。
【0049】
別の好ましい実例において、ステップAはコロイド結晶テンプレート法を採用して行われ、これは均一な大きさの高分子ナノボール体を自己組織化して、三次元的に秩序のある微細構造を有するテンプレートを生成し、次いで単量体を含む組成物をこのテンプレートの隙間空間に浸透させ、単量体を重合化してモノリスカラムとし、最後にソックスレー抽出法又は超臨界流体抽出法(supercritical fluid extraction) を用いてテンプレートをモノリスカラムから除去することを含む。ここでいう単量体を含む組成物は前記の連続相組成物と同じ組成物を有することができる。コロイド結晶テンプレート法の実行可能な方法は、例えば米国特許第6414043号及び第11,118,024号に参考される。
【0050】
コロイド結晶テンプレート法により調製された多孔質モノリスカラムの利点は、均一な大きさの巨大孔が最も密に重なった形で配列され、それぞれの巨大孔が12個の接続孔を介して隣接する巨大孔と相互に連結された規則性の高い多孔質構造を有することにある。 多孔質のモノリスカラムの中に少なくとも70%の巨大孔があることが好ましく、より好ましくは少なくとも80%の巨大孔があり、最も好ましくは少なくとも90%の巨大孔があり、例えば少なくとも95%の巨大孔が最も密な堆積の形で配列されている。最も密な堆積構造の例には、三次元六方最密充填構造(hexagonal closest packing;hcp)があり、3D面心立方体パッキング(face centered cubic packing; fcc) またはそれらの組み合わせを含む。米国特許第11,118,024号で明らかにされているように、モノリスカラム中の巨大孔の大きさは、テンプレートを生成するのに使用されるナノボールの大きさを変えることによって調整することができ、また、接続孔の大きさ、及びモノリスカラム中に形成される多孔性ネットワークの最小直径は、規則的に配列されたナノボールの変形を制御して互いの接触面積を増加させることによって拡大することができる。
【0051】
ステップAで得られた多孔質モノリスカラムは、重合反応が起こる反応容器と形状が一致している。通常、多孔質モノリスカラムは体積が200立方センチ以下の高分子ブロックの形をしている。ステップBにおいて、多孔質モノリスカラムに機械的な粉砕を受けさせ、それが粉砕され、第1の多孔質粒子群になるように粉砕する。多孔質粒子の第1群は1000ミクロン以下の大きさ分布を有する。これらの粒子の少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、例えば少なくとも90%が1,000μm以下のフェレット径を有することを表している。本発明で使用される用語「機械的な粉砕」は、摩擦、衝突、衝撃、せん断またはその他の機械的作用により固体のサイズを減少させることを意味することができる。前記の機械式研削は通常、従来の研削装置における高エネルギー研削を通して行われ、例えば、円盤式研削盤、ボール研削盤、回転ナイフ式研削盤、ダブルロール研削盤、造粒盤、タービン式研削盤及びその他の組み合わせで行われる。機械式研削の過程において、多孔質粒子の第1群は不規則な構造と粗い外表面が与えられる。
【0052】
ステップCにおいて、ステップBで得られた多孔質粒子の第1群をサイズによって分離させ、フェレット径が25μm~500μmの範囲にある多孔質粒子の第2群を分離する。これは、分離された粒子のうち少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、例えば少なくとも95%が25~500μmのフェレット径を有することを意味する。好ましい実例において、多孔質粒子の第1群は、タイラー標準篩でふるい分けられ、所望の大きさの範囲内にある粒子、例えば、25μm未満、25~75μm、75~150μm、150~500μmの範囲内にある粒子を収集する。好ましい実例において、前記のふるい分けは、少なくとも3層のスクリーンを上下に重ねて設け、上層のスクリーンは下層のスクリーンよりも大きな孔目を有する振動式のふるい分け機で行われる。第1の多孔質粒子群を上から振動式ふるい分け機に送ることができる。ふるい分け後、1つのふるいスクリーンから所望の大きさ分布を持つ第2の多孔質粒子群を得ることができる。場合によっては、個々のふるいスクリーンにジルコニアやガラスなどの硬質材料で調製された研磨ボールを加え、多孔質粒子をより小さい大きさに粉砕し、収率を向上させることができる。電子顕微鏡による粒子画像分析で測定したところ、前記第2の多孔質粒子群は統計学的に1.0~3.5のフェレット縦横比分布と1.2~2.2の範囲内の標準偏差を持っている。
【0053】
下記の実例は、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明を例示するためにのみ使用されるものである。
【0054】
実例1: 多孔質モノリスカラムの調製方法
【0055】
グリセリルメタクリレート(GMA; Sigma-Aldrich Corporation、米国)、ジビニルベンゼン(DVB; Sigma-Aldrich Corporation、米国)および過酸化ラウロイル基(LPO; Sigma-Aldrich Corporation、米国)を50:25:2(w/w/w)の割合で混合して連続相組成物を調製し、連続相組成物の総重量に対して6重量%のPluronic(R)L-121を添加する。CaCl2とテトラメチルエチレンジアミン(TMEDA; Sigma-Aldrich Corporation、米国)を二次蒸留水に約11:2:1100(w/w/w)の割合で溶解し、連続相組成物に水性非連続相組成物を3:1(v/v)の割合で加え、高速ホモジナイザー(型番T25;IKA,ドイツ)油中水型エマルションを5分間激しく混ぜて調製した。エマルションをオーブン(型番DENG YNG DO60)に入れ、4時間以内に室温から80℃まで徐々に温度を上げ、80℃になって、24時間保持して重合反応を行い、エマルションを固化させてモノリスカラムとした。イソプロピルアルコールを用いたソックスレー抽出法によりモノリスカラムを洗浄し、水と未反応試薬を除去した後、真空下で多孔質モノリスカラムを乾燥し、乾燥した多孔質モノリスカラムを得る。キャピラリフローホール測定法(PMI Porous Materials Inc.,CFP-1100AE)によりモノリスカラム内の多孔質ネットワークの最小直径を測定する。
【0056】
実例2: モノリスカラムから多孔質粒子を調製する
【0057】
ステンレスグラインダー(輝緑科技有限公司、型番NBM-200、台湾)において、実例1で調製された多孔質モノリスカラムを研磨し、粒子サイズ分布が1,000ミクロン以下の多孔質粒子の第1群を得る。 次に、積層型多孔性ふるい板を搭載した振動式ふるい機(フォーリッツ社、型番Analysette 3 Pro、バンホーフ通り、ドイツ)で多孔質粒子をふるいにかけ、直径25~100μmの粒子を第2の多孔質粒子群として分離する。図4Aに示す実例によれば、第2の多孔質粒子群は常態分布を示す粒子サイズ分布を有し、中央値直径(D50)は56μmである。多孔質粒子を走査型電子顕微鏡(Thermo Fisher Scientific Inc., Phenom Pro)で撮影した画像の一部を図4B-4Fに示される。ランダムに選んだ45個の粒子のSEM画像を用いて粒子の不規則性を計算し、第2の多孔質粒子群は1.75±0.59のフェレット縦横比を示している。
【0058】
実例3: 多孔質粒子の細孔同定方法
【0059】
例2で得られた多孔質粒子の細孔径分布曲線をASTMD-4284標準(2003)に基づいて水銀圧入法により測定した。図8に示すように、多孔質粒子内に形成された多孔質ネットワークは平均直径1.26μmであった。図8からさらに分かるように、90%以上の多孔質ネットワークは500~2000ナノメートルの範囲内にあり、500ナノメートル以下の直径を有するのはごく少数である。これらの結果から、本発明の多孔質粒子は実質的に直径100ナノメートル以下の拡散孔を有しておらず、しかも粒子内に形成された多孔質ネットワークは物質の対流転送が前記粒子を通過するのに十分な大きさであることが指摘されている。
【0060】
実例4: 多孔質粒子の表面改質方法
【0061】
実例2で調製された多孔質粒子をテトラエチリデンペンタミンの1%水溶液に加え、70℃で少なくとも5時間加熱した後、この多孔質粒子を濾過し、さらに塩化グリシジルトリメチルアンモニウムの1%水溶液に加え、70℃で少なくとも5時間加熱した後、この多孔質粒子を水で洗浄し、強力なアニオン交換体を得、後記ではDuloCoreTM QAと呼ぶ。
【0062】
1mLの強陰イオン交換剤DuloCoreTM QAを1つの内径7.4mmのポリプロピレンクロマトグラフィーカラムに充填した。
【0063】
実例5: 動的結合容量 (Dynamic Binding Capacity)
【0064】
実例4で調製したクロマトグラフィーカラムのウシ血清アルブミン(BSA)に対する動的結合容量を測定し、2種類の市販のアニオン交換カラムを使用した結果と比較した。CaptoTM Q(GE Healthcare Life Science社から購入、米国)はデキストラン基質を含み、90ミクロンの粒子サイズと50ナノメートルの拡散細孔を有し、CIMmultusTM QA(BIA Separations社から購入)はポリメチルメタクリレートを主とし、2ミクロンの孔径を有するモノリスカラムである。本実例で使用した移動相は50mM Tris-HCl,pH8.5であり、この移動相に1mg/mL BSAを加えて分析物とする。A KTATM Pureクロマトグラフィーシステム(Cytiva Sweden AB,ウプサラ,スウェーデン)を用いて動的結合容量を検出した結果を図9に示される。
【0065】
図9に示すように、CaptoTM Qカラムの場合、その動的結合容量は移動相の流速の増加に伴って明らかに低下し、流速の増加は、このカラム内に充填されたデキストラン粒子が移動相から高分子を吸着するのに不利であることを示している。これは次のような事実に起因しているように見える。即ちこの慣用カラム中の物質の粒子内部への転送は拡散作用のみによって達成され、拡散作用の効率は流速の増加に伴って低下する。CIMmultusTM QAの場合、その動的結合容量は流速の増加に伴って少し上昇するが、カラムの制造メーカーは流速が毎時600センチを超えて操作することを推奨しない。実例4のクロマトグラフィーカラムについては、充填された多孔質粒子は移動相からBSA分子を吸着する上で安定した能力を示し、例えば毎時2400センチの超高流速でも安定した性能を示す。言い換えれば、本発明の多孔質粒子のBSA分子に対する吸着能力は、移動相の流速とは関係なく、BSA分子が対流する形で多孔質粒子の内部に転送されることを示している。この結果は、本発明の充填されたクロマトグラフィーカラムにおいて、BSAの粒子内部への転送は対流作用によってのみ支配されていることを示し、このことは、本発明の多孔質粒子及びその中に形成された多孔質ネットワークは、実質的に拡散孔を有していないことを示している。すなわち、実質的に直径が100ナノメートル未満の微細孔を有していないことを示している。
【0066】
実例6: ウイルスの精製
【0067】
この実例において、実例4で調製したイオン交換クロマトグラフィーカラムは、CaptoTM QやCIMmultusTM QAなどの慣用カラム製品とともに、Tseng Y.F.et al., Vaccine 36(2018),p.3146-3152本論文で提案した方法により、ヒトの感染性鳥インフルエンザウイルス(H7N9)を収穫する能力についてテストを受けた。ウイルスサンプルは、図10A-10Bに示す流速で各カラムに装填された。カラムを通る分離部分を収集し、ウイルス回収率を測定し、宿主細胞DNAsはカラムに吸着された。
【0068】
図10Aに示すように、CIMmultusTM QAカラムのウイルス回収効率は流速の増加に伴い急激に低下した。一方、DuloCoreTM QAカラムの回収率は測定された流速範囲全体で75%より高く維持された。さらに図10Bに示すように、DuloCoreTM QAカラムはほぼ一定のDNA除去率を示し、流速が毎時2400センチまで増加しても、このDNA除去率は依然として高く維持され、相対的に、CaptoTM QとCIMmultusTM QAカラムは流速が毎時600センチを超える場合に使用しないように提案された。
【0069】
本発明は前記の好ましい実例の説明を参照したが、好ましい実例の例示の目的のために与えられたものであって、本発明の範囲を限定する意図はなく、本発明の精神と範囲を逸脱することなく、関連技術に精通している者にとって極めて明白な様々な変更と変更を行うことができることを認識すべきである。
【符号の説明】
【0070】
静相………2
移動相……3
高分子……4

[生体材料の寄託]
なし
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B