(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】水生生物模型
(51)【国際特許分類】
A63H 23/10 20060101AFI20240606BHJP
A63H 23/08 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
A63H23/10 Z
A63H23/08 D
(21)【出願番号】P 2019192167
(22)【出願日】2019-10-21
【審査請求日】2022-10-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 共創の場形成支援(産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム)「有機材料の極限機能創出と社会システム化をする基盤技術の構築及びソフトマターロボティクスへの展開に関する国立大学法人山形大学による研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】古川 英光
(72)【発明者】
【氏名】川上 勝
(72)【発明者】
【氏名】小川 純
(72)【発明者】
【氏名】山田 直也
【審査官】清藤 弘晃
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0361534(US,A1)
【文献】特開2017-165040(JP,A)
【文献】登録実用新案第3184633(JP,U)
【文献】登録実用新案第3018555(JP,U)
【文献】特開2019-136894(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63H 1/00-37/00
G09B 23/00-25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロゲル材料からなる水生生物模型であって、
前記水生生物模型は、縁部
と空洞部とを
有し、外径と内径とを有する略半球形の中空の胴体部、及び該胴体部の外縁から延在する触手部を有し、
前記胴体部は、前記縁部と前記空洞部との間に前記外径と前記内径との差に相当する厚みを有し、
前記触手部は、所定の厚みを有する板状であって、
前記胴体部の厚みと前記触手部の厚みとの比が、0.05≦(触手部の厚み)/(胴体部の厚み)<1である、
ことを特徴とする、前記水生生物模型。
【請求項2】
前記ハイドロゲル材料が、光重合性ポリマーであるポリマー(A)を含む、請求項1に記載の水生生物模型。
【請求項3】
前記ハイドロゲル材料が、さらに、網目構造を有するポリマー(B)を含み、
前記ハイドロゲル材料が、前記ポリマー(B)の前記網目構造に前記ポリマー(A)が侵入する構造を有する、
請求項2に記載の水生生物模型。
【請求項4】
前記ポリマー(A)が網目構造を有し、
前記ハイドロゲル材料が、前記ポリマー(B)と前記ポリマー(A)とが相互に侵入する網目構造を有する、
ことを特徴とする、請求項3に記載の水生生物模型。
【請求項5】
前記ポリマー(B)が、粒径が100μm以下の微粒子であることを特徴とする、請求項3又は4に記載の水生生物模型。
【請求項6】
前記ハイドロゲル材料中の前記ポリマー(A)と前記ポリマー(B)との重量比が、60:1~100:1であることを特徴とする、請求項3~5のいずれか1項に記載の水生生物模型。
【請求項7】
前記胴体部の外縁の直径が10cm以下であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の水生生物模型。
【請求項8】
前記触手部の前記胴体部の前記外縁からの長さが1cm以上であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の水生生物模型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロゲル材料からなる水生生物模型、特にクラゲ模型に関する。特に、本発明は、観賞用の水槽内で、大きく変形しながら浮遊することが可能な、ハイドロゲル材料からなる水生生物模型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レストラン等の店舗や家庭内において、水槽内で水生生物を飼育して鑑賞することに代えて、餌やりや水槽の掃除、水温管理などが不要な水生生物模型を水中に浮遊させたディスプレイ水槽を使用することが検討されてきた。
【0003】
例えば、実用新案登録第3184633号公報(特許文献1)には、人工的に作られた水生生物のディスプレイであって、透明若しくは半透明の中空容器の中空部内に、軟質プラスチックにより成形された人工水生生物を適宜配置若しくは装入すると共に、略透明のオイル材を充満して密閉されて成ることを特徴とするものが開示されている。
【0004】
同様に、実開平7-23599号公報(特許文献2)には、水槽の壁面近傍の上部に循環ポンプに接続した吐出口を水面より下方に設け、水槽の底部側に前記循環ポンプに接続した吸水口を設けて、内部の水が槽内を対流する対流水槽を形成すると共に、プラスチックで魚や昆虫、円盤などの形状に成型され、この内部に中空部を設け、底部側に前記中空部と連通する通水口を開口して比重を水とほぼ等しくした人工浮遊物を前記対流水槽内に浮遊させたことを特徴とする人工浮遊物鑑賞槽が開示されている。
しかしながら、これらのディスプレイないし鑑賞槽中の水生生物模型は、それ自体ほとんど変形することなく水中を浮遊するものであって、見た目も硬質で実際のクラゲとは全く異なるものであり、水中での移動も限定的なものであった。
【0005】
また、特開2002-28380号公報(特許文献3)には、全体がクラゲ型の形状を有し、頭部は、頭部本体と、頭部本体の周囲に放射状に配置されかつ上下方向に揺動可能に設けられた複数の揺動アームと、頭部本体と揺動アームの上部に設けられた薄膜の傘状体とにより形成され、頭部には、傘状体を上下動させる駆動機構が設けられ、頭部本体には上記駆動機構を作動させるモータと、モータを作動させる乾電池とを収納する収納部が設けられている、クラゲ型水中遊泳玩具が開示されている。
このクラゲ型水中遊泳玩具は、揺動アームの動きにより傘状体が上下動するなどの動きが可能であるものの、揺動アームなどの機械的要素を備えるものであるため、実際のクラゲとは著しく異なる外観を有するものである。
【0006】
さらに、実用新案登録第3160680号公報(特許文献4)には、本体と、先端がそれぞれ本体の一端に接続される複数の軟質な長尺形状の触手と、外表面と内腔を囲んでいる内表面とを有する傘状体と含み、前記本体は、傘状体の内腔に収容され、その先端が傘状体の内表面の中央位置に接続され、各触手は、先端がそれぞれ本体の底端に接続されることを特徴とする、クラゲ模擬玩具が開示されている。触手は、プラスチック製の軟質な長尺物であるが、ポリウレタン(PU)のような材質でもよく、傘状体は、プラスチックの射出成形によるフィルムである、とされている。
しかしながら、このクラゲ模擬玩具の傘状体は硬質で水流などでは変形しにくいものであり、またクラゲ模擬玩具も水中で大きく移動し得るようなものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】実用新案登録第3184633号公報
【文献】実開平7-23599号公報
【文献】特開2002-28380号公報
【文献】実用新案登録第3160680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来の水生生物模型とは異なり、実際の生物に似た外観を有するものであって、観賞用の水槽内の水流によって変形しながら、大きな移動をして浮遊することが可能な、ハイドロゲル材料からなる水生生物模型を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、水生生物模型をハイドロゲル材料からなるものとするとともに、水生生物模型が、略半球形の中空の胴体部に加えて、胴体部の外縁から延在する触手部を有するものとし、その際、胴体部の厚みと触手部の厚みとの比を所定の範囲内のものとすることにより、上記課題を解決することができることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、ハイドロゲル材料からなる水生生物模型であって、前記水生生物模型は、縁部を有する略半球形の中空の胴体部、及び該胴体部の外縁から延在する触手部を有し、前記胴体部の厚みと前記触手部の厚みとの比が、0.05≦(触手部の厚み)/(胴体部の厚み)<1であることを特徴とする、水生生物模型である。
【0011】
本発明の水生生物模型において、ハイドロゲル材料が、光重合性ポリマーであるポリマー(A)を含むのが好ましい。
また、ハイドロゲル材料が、さらに、網目構造を有するポリマー(B)を含み、ハイドロゲル材料が、ポリマー(B)の網目構造にポリマー(A)が侵入する構造を有するのが好ましい。
さらに、ポリマー(A)が網目構造を有し、ハイドロゲル材料が、ポリマー(B)とポリマー(A)とが相互に侵入する網目構造を有するのが望ましい。
また、ポリマー(B)が、粒径が500μm以下の微粒子であるのが望ましい。
さらに、ハイドロゲル材料中のポリマー(A)とポリマー(B)との重量比が、60:1~100:1であるのが好ましい。
【0012】
本発明の水生生物模型において、水生生物模型の作製後平衡潤前の寸法として、胴体部の外縁の直径が10cm以下であるのが好ましい。
また、水生生物模型の作製後平衡膨潤前の寸法として、触手部の胴体部の外縁からの長さが1cm以上であるのが好ましい。触手部の長さは胴体部の外縁の直径の3倍以下とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来の水生生物模型とは異なり、実際の生物に似た外観を有するものであって、観賞用の水槽内の水流によって変形しながら、大きな移動して浮遊することが可能な、ハイドロゲル材料からなる水生生物模型を提供することが可能となる。
本発明による水生生物模型は、ハイドロゲルを材料に使うものであることから、実際の水生生物と同じような水分を有し比重を有するものとして実現できるため、水生生物が持つ中性浮力を、自然に実現できる。すなわち、本発明によれば、中性浮力を付加するために、浮き袋のような構造を新たに水生生物模型に入れる必要が無いという利点がある。
また、本発明では、ハイドロゲルを材料に使うことで、実際の水生生物と同じような水分や柔らかさを有する水生生物模型を実現できる。このため、本発明によれば、実際に模型を触った時にも水生生物と同じような感覚が得られる、水生生物をよりリアルに表現した模型とすることができる。
さらに、本発明では、ハイドロゲルを材料に使うことで、水槽の外では自重に耐えられないような柔らかさでありながら、浮力で水槽中を漂うことができ、水流による変形によってだけでも、水生生物の泳ぐ動きを表現することができる、水生生物模型を実現できる。
本発明による水生生物模型は、例えば医療福祉分野における心理療法の手段や、擬似愛玩生物として使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】本発明の水生生物模型を水槽内に浮遊させて鑑賞することのできるシステムの例を示す図である。
【
図3】本発明の水生生物模型の胴体部を作製する手順の例を示す図である。
【
図4】本発明の水生生物模型を作製する手順の例を示す図である。
【
図5】実施例及び比較例で作製した水生生物模型の水中での変形の様子を示す図である。
【
図6】実施例及び比較例で作製した水生生物模型の水中での様子を画像解析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0016】
図1を参照して、本発明の水生生物模型1は、ハイドロゲル材料からなるものであって、略半球形の中空の胴体部11、及び胴体部11の外縁12から延在する触手部13を有する。
胴体部11及び触手部13は、同一の材料からなるものであってもよく、異なる材料からなるものであってもよい。
水生生物模型1の特に胴体部11は、水中から取り出して置くと自重により形状を維持することができないが、水流のない水中では形状を維持することができ、水流を受けて変形することが可能な硬さのハイドロゲル材料からなるものとするのが好ましい。
水生生物模型1の特に胴体部11が、変形することが可能な硬さのハイドロゲル材料からなるものとするのが好ましい。具体的には、ダンベル状8号形の試験片を用いたJIS K 6251:2017に準拠した引張試験において、0.1kPa~10kPa程度の柔らかさ、特に2kPa以下の柔らかを有するハイドロゲル材料からなるものとすると、水生生物模型1の特に胴体部11が水流で大変形するようになる。
また、水生生物模型1を構成するハイドロゲル材料は、水生生物模型1の鑑賞のし易さの観点から、その屈折率が水とはわずかに異なるものであるのが好ましい。
具体的には、水の屈折率nが1.33程度であることを考慮すると、水と水生生物模型1との屈折率差Δnが0.002~0.2程度となるのが好ましいと考えられ、ハイドロゲル材料のモノマー成分として、屈折率が1.4~1.6程度のものを使用するのが好ましいと考えられる。
【0017】
本発明の水生生物模型1において、胴体部11の厚みと触手部13の厚みとの比は、0.05≦(触手部13の厚み)/(胴体部11の厚み)<1である。
(触手部13の厚み)/(胴体部11の厚み)の比が0.05以上であれば、触手部13が薄くなり過ぎず、水生生物模型1を作製するのが容易になる。また、この比が1未満であれば、水生生物模型1の水中での動きが良好なものとなる。
【0018】
本発明の水生生物模型1は、光重合性ポリマーであるポリマー(A)を含むハイドロゲル材料からなるものとすることができる。
本発明で使用するポリマー(A)を形成するモノマーとしては、光重合開始剤を用いて重合することができるものとすることができ、例えば、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPs)、N、N-ジメチルアクリルアミド(DMAAm)、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル、ラウリルアクリル酸(LA)、ステアリルアクリル酸(SA)、アクリル酸(AA)、メタクリル酸、スチレンスルホン酸、又はそれらの塩、例えば2-アクリルアミド-2ーメチルプロパンスルホン酸ナトリウム、アクリル酸ナトリウム、スチレンスルホン酸ナトリウム等を使用することができる。
【0019】
本発明において、ポリマー(A)の好ましい例としては、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPs)をモノマーとして重合させたポリアクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2ーメチルプロパンスルホン酸ナトリウム(NaAMPs)をモノマーとして重合させたポリアクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム、N、N-ジメチルアクリルアミド(DMAAm)をモノマーとして重合させたポリN、N-ジメチルアクリルアミド(PDMAAm)などを挙げることができる。
ポリマー(A)は、網目構造を有するのが望ましい。
【0020】
本発明で使用する光重合開始剤は、紫外線、可視光などの光によって上記モノマーの重合を開始させるものであればよく、例えば、α-ケトグルタル酸、ベンゾフェノン、アセトフェノンベンジル、ベンジルジメチルケトン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ジメトキシアセトフェノン、ジメトキシフェニルアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、ジフェニルジサルファイト、オルトベンゾイル安息香酸メチル、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、2,4-ジエチルチオキサンソン、2-メチル-1-[4-(メチル)フェニル]-2-モルホリノプロパノン-1、テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、ベンジル、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、4,4-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、2,2'-ビス(2-クロロフェニル)-4,5,4’,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾ-ル等であってよい。
【0021】
本発明の水生生物模型1を構成するハイドロゲル材料は、また、ポリマー(A)を架橋するための架橋剤を含んでいてよい。架橋剤としては、ラジカル重合性の不飽和基を2個以上有する多官能ビニル系モノマーなどを使用することができる。N,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAA)やエチレングリコールジメタクリレート(EDMA)、N,N’-ジエチレングリコールジメタクリレート(DEGDMA)などのジビニル化合物を好適に使用することができる。
【0022】
本発明の水生生物模型1を構成するハイドロゲル材料は、さらに、網目構造を有するポリマー(B)を含み、ポリマー(B)の網目構造にポリマー(A)が侵入する構造を有するものとすることができる。
さらに、ポリマー(A)が網目構造を有し、ハイドロゲル材料が、ポリマー(B)とポリマー(A)とが相互に侵入する網目構造を有するものとすることができる。
【0023】
本発明で使用するポリマー(B)は、原料モノマーとして、例えば2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム塩溶液(NaAMPS)、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、アクリルアミド(AAm)、アクリル酸(AA)、メタクリル酸、N-イソプロピルアクリルアミド、ビニルピリジン、ヒドロキシエチルアクリレート、酢酸ビニル、ジメチルシロキサン、スチレン(St)、メチルメタクリレート(MMA)、トリフルオロエチルアクリレート(TFE)、スチレンスルホン酸(SS)またはN,N-ジメチルアクリルアミド(DMAAm)などのジメチルアクリルアミド等を使用して得られるものとすることができる。
また、2,2,2-トリフルオロエチルメチルアクリレート、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルメタクリレート、3-(ペルフルオロブチル)-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、1H,1H,9H-ヘキサデカフルオロノニメタクリレート、2,2,2-トリフルオロエチルアクリレート、2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレンまたはフッ化ビニリデン等のフッ素含有モノマーを使用して得られるものであってもよい。
さらに、ジェラン、ヒアルロン酸、カラギーナン、キチンまたはアルギン酸等の多糖類、あるいはゼラチンやコラーゲン等のタンパク質を、ポリマー(B)として使用してもよい。
ポリマー(B)は、網目構造を有するのが望ましい。
【0024】
ポリマー(B)は、粒径が100μm以下の微粒子とすることができる。
本発明の水生生物模型1を構成するハイドロゲル材料中のポリマー(A)とポリマー(B)との重量比は、60:1~100:1とすることができる。
【0025】
本発明の水生生物模型1において、胴体部11の外縁12の直径を10cm以下とすることができる。
また、触手部13の胴体部11の外縁12からの長さを1cm以上とすることができる。
【0026】
図2を参照して、本発明の水生生物模型1は、水生生物模型1が水中で浮遊する様子を鑑賞することのできるシステム2であって、水槽21、水槽を載置するための随意の台22、水槽21の側面に接続されたエアホース23、エアホース23に空気を送出するエアポンプ24を備えるものとともに使用することができる。エアポンプ24からエアホース23に送出した空気は、エアホース23の吐出口25から水槽21内の水中に流入し、水槽21内に水流を発生させる。エアポンプ24に制御装置26を接続して、エアホース23に送出する空気の量を調節することができる。水槽21内の水中に空気を流入させる吐出口25を、水槽21の複数個所に設けてもよい。その場合、複数の吐出口25から水槽21内の水中に流入する空気の量を互いに異なるものとしてもよい。
【0027】
あるいは、空気を水槽21内の水中に流入させて水槽21内に水流を発生させることに代えて、またはこれと併用して、ポンプ(図示せず)により水槽21内の水が循環するようにして、水槽21内に水流を発生させてもよい。
【0028】
本発明の水生生物模型1を作製する場合、胴体部11と触手部13を一体のものとして作製してもよいが、胴体部11と触手部13を一旦別体のものとして作製して、その後胴体部11と触手部13を接合して水生生物模型1とするのが便宜である。胴体部11と触手部13を別体のものとして作製する場合、作製の順序は問わない。
【0029】
図3を参照して、
図3は、本発明の水生生物模型1の胴体部11を作製する手順の例を示している。
図3(a)は、本発明の水生生物模型1の胴体部11を作製するための上型31と下型32とを組み合わせた様子を示す概略斜視図、
図3(b)はこれに対応する概略断面図である。上型31及び下型32はいずれもシリコーンなどの材料により作ることができる。上型31は、略半球形の外側面33、これに対応する内側面34、及び、外側面33から内側面34に通じる湯口35を備えている。下型32は略円筒形の側面36を有するとともに、上型31の内側面34と離間して対向する表面を有する底面の凸部37を有する。
上型31と下型32とを組み合わせた状態で、上型31の湯口35から、上型31の内側面34と下型32の底面の凸部37の表面との間の間隙38に、あらかじめ用意したハイドロゲル材料の原料(プレゲル溶液)を、流し込むことができるようになっている。この状態を維持したまま外部からUV光を照射することなどにより、上型31と下型32との間のプレゲル溶液を硬化(重合)させることができる。上型31を下型32から分離した際、硬化後のハイドロゲル材料が上型31と一体となって下型32から離れることができるように、下型32のハイドロゲル材料と接する部分の表面の離型性を良好なものとしておくのが好ましい。
【0030】
図3(c)は上型31を下型32から分離した様子を示す概略斜視図、
図3(d)はこれに対応する概略断面図である。
上型31の内側面34には、水生生物模型1の胴体部11となる硬化したハイドロゲル材料39が形成されている。胴体部11となる硬化したハイドロゲル材料39は、上型31の内側面34と下型32の底面の凸部37の表面との間の間隙38に対応する形状及び厚み、例えば、上型31の内側面34の径に対応する外径を有する縁部や、下型32の底面の凸部37の表面の径に対応する内径を有する空洞部を備えるものである。
【0031】
図4を参照して、
図4は、本発明の水生生物模型1を作製する手順の例を示している。
図4(a)を参照して、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの材料の、平板41と、中央付近に穴を有する穴あきの板42、アクリルなどの材料の、穴あきの板42の穴の径に対応する外径を有する円柱43を用意する。なお、円柱43の外径は、本発明の水生生物模型1の胴体部11を作製する際に使用する下型32の底面の凸部37の表面の外径と、略一致させておく。平板41の中央付近に円柱43を配置し、円柱43の周囲にプレゲル溶液を滴下した後、穴あきの板42を、穴に円柱43が通るようにして平板41の上に配置して、穴あきの板42と平板41とが所定の間隔をもって離間するように保持することにより、円柱43の周囲のプレゲル溶液44が平板41と穴あきの板42との間に挟み込まれるようにする。
【0032】
図4(b)を参照して、円柱43の周囲のプレゲル溶液44が平板41と穴あきの板42との間に挟み込まれた状態を維持したまま外部からUV光45を照射することなどにより、平板41と穴あきの板42との間に挟み込まれたプレゲル溶液44を硬化させることができる。
【0033】
図4(c)を参照して、穴あきの板42及び円柱43を取り除くと、平板41の上に、水生生物模型1の触手部13となる硬化したハイドロゲル材料46が形成されている。ハイドロゲル材料39は、穴あきの板42と平板41とを離間して保持していた際の所定の間隔に対応する厚みと、中央に円柱43の外径に対応する径を有する穴部47を有するものである。
【0034】
図4(d)を参照して、別途作製した水生生物模型1の胴体部11となる硬化したハイドロゲル材料39であって、例えば
図3(d)に示されているように上型31の内側面34に形成されているものを、胴体部11となる硬化したハイドロゲル材料39の空洞部分が水生生物模型1の触手部13となる硬化したハイドロゲル材料46の穴部47と略一致するように配置する。その際、胴体部11となる硬化したハイドロゲル材料39と触手部13となる硬化したハイドロゲル材料46との間に、プレゲル溶液を塗布しておく。外部からUV光45を照射することなどにより、プレゲル溶液を硬化させることができる。
【0035】
図4(e)を参照して、上型31を取り除く。その際、上型31の湯口35から気体あるいは液体を導入することなどにより、胴体部11となる硬化したハイドロゲル材料39が上型31の内側面34から離れるのを容易にすることができる。
【0036】
図4(f)を参照して、最後に平板41から触手部13となる硬化したハイドロゲル材料46を剥離することにより、胴体部11と触手部13を有する水生生物模型1が得られる。
【実施例】
【0037】
以下に実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
イ.水生生物模型の胴体部作製用の上型及び下型の用意
略半球状の形状を有し、厚みが2mm、縁部の直径が30mmである胴体部を作製することができるような上型及び下型を、シリコーン樹脂を用いて作製した。
【0039】
ロ.プレゲル溶液の用意
ポリマー(B)と、ポリマー(A)が相互に侵入する構造を有するハイドロゲルを作製した。
ポリマー(B)を作製するためのモノマー溶液として、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム塩溶液(NaAMPS)モノマー1モル/Lに対し、このモノマーを架橋する架橋剤として、4モル%のN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAA)を、また光重合開始剤として、0.1モル%のα-ケトグルタル酸(α-keto)を含むものを準備した。このモノマー溶液にUVランプを用いてUV光(波長365nm)を1時間照射して重合を行い、ポリマー(B)を作製した。
得られたポリマー(B)を熱乾燥機に1日入れて乾燥させ、乳鉢に入れて粉砕し、粒径が100μm以下のポリマー(B)の微粒子を得た。
ポリマー(A)を作製するためのモノマー溶液として、N,N-ジメチルアクリルアミド(DMAAm)モノマー1モル/Lに対し、このモノマーを架橋する架橋剤として、0.05モル%のMBAAを、また光重合開始剤として、1モル%のジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(TPO)を含むものを準備した。
ポリマー(B)とポリマー(A)のためのモノマー溶液との比率が重量比で1:75となるように混合して、プレゲル溶液を調製した。
【0040】
ハ.水生生物模型の胴体部の作製
上記のように調製したプレゲル溶液を、上で用意した上型及び下型を組み合わせた型に流し込み、UVランプを用いてUV光を1時間照射して、水生生物模型の胴体部となる部分を作製した。
作製した水生生物模型の胴体部は、平衡膨潤するまで純水に48時間以上浸漬した。
【0041】
ニ.水生生物模型の触手部の作製及び触手部と胴体部との接合
ポリエチレンテレフタレート(PET)のシートを2枚用意した。2枚のシートのうち一方はシートの中央付近に円形の穴を有するものとした。この穴と略同じ径を有するアクリル樹脂の円柱を用意し、これを他方のPETのシートの上に載置した。上記のように調製したプレゲル溶液を円柱の周囲に滴下した後、円柱をもう一方のPETのシートの穴に差し込み、プレゲル溶液を1mm間隔の2枚のPETのシートで挟み込んだ。これにUV光を1時間照射して重合を行った後に、穴を有するPETのシートを取り除くことにより、穴からの長さが5cmの水生生物模型の触手部となる部分を作製した。
次いで、触手部となる部分の中央の穴部の周囲に、上記のように調製したプレゲル溶液を塗布した。プレゲル溶液を塗布した領域に、上で作製した胴体部となる部分を密着させ、UV光で1時間重合を行った。
上型及びPETのシートを取り除いて、水生生物模型を得た。
【0042】
ホ.観賞用システムの作製
内径340mm、長さ95mmのアクリルパイプの両端にアクリル平板を取り付けて、円筒状水槽を作製した。水槽には空気吐出口として直径5mmの穴を開け、エアポンプによってこの吐出口から水槽内の水中へ空気を吐出させた。吐出された空気は水槽縁部に沿って上昇し、これにより水槽内に循環水流を生み出すことができた。
【0043】
ヘ.水生生物模型の評価
上で作製した観賞用システムの水槽に、上記のようにして得られた水生生物模型を入れ、水生生物模型の浮遊を定点カメラで撮影した。結果を
図5(a)に示す。
次いで、水槽の画像に占める水生生物模型の投影面積を二値化画像処理によるピクセル計測することで、定量的な形状変化の評価を行った。その際、半透明の水生生物模型と水を適切に2値化処理するために、水生生物模型を赤色染料で着色しておいた。結果を
図5(b)に示す。
【0044】
(参考例)
触手部の作製及び触手部と胴体部との接合を省略した(すなわち、胴体部のみからなる水生生物模型とした)ことを除き、実施例1と同様に水生生物模型を得、観賞用システムを使用して評価を行った。
結果を
図5(c)及び
図5(d)に示す。
【0045】
(比較例1)
プレゲル溶液を調製する代わりに、市販の自己修復ハイドロゲル(ユシロ化学工業株式会社製の商品名ウィザードゲル)を使用したことを除き、参考例と同様に水生生物模型を得、観賞用システムを使用して評価を行った。
結果を
図5(e)及び
図5(f)に示す。
【0046】
実施例1、参考例及び比較例1について得られた結果を、経過時間に対する水槽の画像に占める水生生物模型の面積割合として、
図6に示した。
図6から、比較例1の水生生物模型は、小さく単純な動きを繰返すものであるのに対し、実施例1の水生生物模型は、比較例1の水生生物模型よりもはるかに大きく動き、さらに、参考例の水生生物模型の場合には認められないゆらぎをもった動きをすることがわかる。