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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】薄膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 17/235 20200101AFI20240606BHJP
   B01J 23/10 20060101ALN20240606BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20240606BHJP
【FI】
C01F17/235
B01J23/10 M
H01M8/12 101
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020036782
(22)【出願日】2020-03-04
(65)【公開番号】P2021138568
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-01-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度国立研究開発法人科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(さきがけ)「[反応制御]電子やイオン等の能動的制御と反応」に係る委託業務、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 瑛祐
(72)【発明者】
【氏名】長田 実
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮
(72)【発明者】
【氏名】林 浩平
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-280802(JP,A)
【文献】特開2011-129380(JP,A)
【文献】特開2004-263066(JP,A)
【文献】特開2017-226580(JP,A)
【文献】特開2014-091646(JP,A)
【文献】特開2004-031550(JP,A)
【文献】特開2007-311194(JP,A)
【文献】E.YAMAMOTO et al.,"Bottom-up preparation of ceria based nanosheet using solid surfactant crystals",第58回セラミックス基礎科学討論会 講演要旨集,2020年01月09日,p.113,2A03
【文献】Jia Cai NIE et al.,“Quantum confinement effect in high quality nanostructured CeO2 thin films”,Journal of Applied Physics,2008年03月06日,Vol. 103, No. 5,054308,DOI: 10.1063/1.2841719
【文献】Haruo IMAGAWA et al.,“Controlled Synthesis of Monodisperse CeO2 Nanoplates Developed from Assembled Nanoparticles”,The Journal of Physical Chemistry C,2012年01月03日,Vol. 116, No. 4,p.2761-2765,DOI: 10.1021/jp210324x
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 17/00
C01F 17/235
B01J 23/10
B01J 37/02
H01M 8/12
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤の層状結晶の層間にセリウムイオンが含まれた複合体を生成するステップと、
前記複合体とアンモニウム塩の固体又は水溶液とを容器内に並置して前記複合体にアンモニアの蒸気を作用させることにより前記層間に酸化セリウム(IV)を生成するステップと、
前記界面活性剤を溶媒に溶解させることにより酸化セリウム(IV)を含む薄膜を生成するステップと、
前記薄膜を熱処理することにより酸化セリウム(IV)の結晶構造を蛍石型に変換するステップと、
を備える薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記アンモニウム塩は炭酸アンモニウム又は炭酸水素アンモニウムである請求項に記載の薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記層間に酸化セリウム(IV)を生成するステップにおいて、前記複合体と炭酸アンモニウム又は炭酸水素アンモニウムの固体とを容器内に並置して炭酸アンモニウム又は炭酸水素アンモニウムの分解温度以上の温度に加熱する請求項に記載の薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記熱処理は、900℃以上の温度で6時間以上実施する請求項1から3のいずれかに記載の薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、薄膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セリア(酸化セリウム(IV)、CeO)は、高いイオン伝導性を有することから、固体酸化物形燃料電池(SOFC)などへの応用が注目されている。また、表面におけるプロトンホッピングを利用して、触媒、センサーなどへの応用が注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】Aqueous-Phase Synthesis of Single-Crystal Ceria Nanosheets、Taekyung Yu,Byungkwon Lim,Younan Xia、Angewandte Chemie International Edition、2010、第49巻、第4484-4487頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
セリアをSOFCや触媒などとして好適に利用するために、優れた特性を有するセリアの薄膜を製造する技術が求められている。また、その他の金属酸化物や金属水酸化物などの金属化合物についても、薄膜にすることによって特性が向上することが期待される。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みてなされ、その目的は、優れた特性を有する金属化合物の薄膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のある態様は、薄膜の製造方法である。この方法は、界面活性剤の層状結晶の層間に金属イオンが含まれた複合体を生成するステップと、複合体に塩基の蒸気を作用させることにより層間に金属化合物を生成するステップと、界面活性剤を溶媒に溶解させることにより金属化合物の薄膜を生成するステップと、薄膜を熱処理することにより金属化合物の結晶構造を変換するステップと、を備える。
【0007】
本開示の別の態様もまた、薄膜の製造方法である。この方法は、界面活性剤の層状結晶の層間に金属イオンが含まれた複合体を生成するステップと、複合体とアンモニウム塩の固体又は水溶液とを容器内に並置して複合体にアンモニアの蒸気を作用させることにより層間に金属化合物を生成するステップと、界面活性剤を溶媒に溶解させることにより金属化合物の薄膜を生成するステップと、を備える。
【0008】
本開示のさらに別の態様は、薄膜である。この薄膜は、蛍石型の結晶構造を有する酸化セリウム(IV)を含み、膜厚が2nm未満である。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、優れた特性を有する金属化合物の薄膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態に係る薄膜の製造方法を模式的に示す図である。
図2】化合物1のSEM像及びTEM像を示す図である。
図3】化合物1を対象とする各種の測定データを示す図である。
図4】化合物1の予想される構造を示す図である。
図5】化合物2のSEM像とX線回折パターンを示す図である。
図6】化合物2を対象とする各種の測定データを示す図である。
図7】化合物2の予想される構造を示す図である。
図8】化合物2から界面活性剤を除去して得られた薄膜のCryo-TEM像及び電子線回折パターンを示す図である。
図9】熱処理を実施した後の薄膜を対象とする各種の測定データを示す図である。
図10】熱処理を実施した後の薄膜の共焦点レーザー顕微鏡画像及び原子間力顕微鏡画像を示す図である。
図11】薄膜の予想される構造を示す図である。
図12】櫛形電極を薄膜の上に載置した様子を模式的に示す図である。
図13】測定されたインピーダンスのナイキストプロットを示す図である。
図14】薄膜におけるプロトンの伝導性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示では、セリアの特性を高めるために、ナノメーターオーダーの薄膜(ナノシート)を製造する技術を開示する。セリアを薄膜化することにより、蛍石型の結晶構造が歪んで、酸化物イオンが移動する際の活性化エネルギーが変化すると考えられるので、イオン伝導性の向上が期待できる。また、セリアを薄膜化することにより、表面積を増加させることができるので、表面におけるプロトンホッピングによる触媒効果の向上が期待できる。
【0012】
これまでの研究により、セリアのイオン伝導性が薄膜の膜厚に強く依存することが示唆されているが、膜厚が2nm未満のナノシートは報告されていない。蒸着法やゾル-ゲル法などによって作製可能なセリアのナノシートの膜厚はせいぜい2~3nm程度であり、それよりも薄いセリアのナノシートを作製するのは困難であった。また、横幅も数μm程度であり、SOFCや触媒などの応用に好適な、大きなナノシートを作製するのは困難であった。
【0013】
界面活性剤のラメラー型の液晶をテンプレートとして、層間にナノシートを作製する技術が知られているが、2nm未満のナノシートを作製する場合には適用できない。
【0014】
したがって、本開示に係る薄膜の製造方法では、界面活性剤の層状結晶をテンプレートとして薄膜を製造する。液晶相よりも狭い界面活性剤の層間で薄膜を生成するので、厚み方向への成長を制限することができ、2nm未満のナノシートを製造することができる。また、横サイズの大きな界面活性剤の層状結晶をテンプレートとして使用することにより、数十μm以上の横サイズを有する大きなナノシートを製造することができる。
【0015】
図1は、実施の形態に係る薄膜の製造方法を模式的に示す。まず、界面活性剤の層状結晶の層間に金属イオンが含まれた複合体を生成する。この複合体を化合物1とする。つづいて、複合体に塩基の蒸気を作用させることにより層間に金属化合物を生成する。この複合体を化合物2とする。界面活性剤を溶媒に溶解させることにより金属化合物を含む薄膜を生成する。最後に、薄膜を熱処理することにより金属化合物の結晶構造を変換する。
【0016】
界面活性剤は、層状結晶を形成可能な任意のアニオン界面活性剤であってもよく、例えば、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルリン酸塩などであってもよい。界面活性剤は、結晶構造、層間のサイズ、製造する薄膜の膜厚や特性、金属化合物の種類や量などに応じて選択されてもよい。
【0017】
複合体は、界面活性剤の水溶液と、金属イオンを含む水溶液とを混合して、界面活性剤に含まれていた陽イオンを金属イオンに置換することにより生成されてもよい。複合体に含まれる金属イオンは、水溶液中で安定な任意の金属イオンであってもよく、例えば、セリウムイオン、ランタンイオン、ガリウムイオン、ジルコニウムイオン、バリウムイオン、ガドリニウムイオン、又はそれらの2以上の組合せであってもよい。複合体に含まれる金属イオンは、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ランタノイドイオン、アクチノイドイオン、遷移金属イオンなどであってもよい。アニオン界面活性剤の対イオンは、置換する金属イオンの価数よりも低い価数の陽イオンであってもよい。これにより、金属イオンを含む界面活性剤の複合体を析出しやすくすることができる。界面活性剤に対して過剰量の金属イオンを含む水溶液が界面活性剤の水溶液に混合されてもよい。これによっても、金属イオンを含む界面活性剤の複合体を析出しやすくすることができる。
【0018】
複合体に作用させる塩基は、アンモニアであってもよい。複合体と、アンモニア又はアンモニウム塩の水溶液を入れた容器とを、より大きな容器内に並置して静置することにより、複合体にアンモニアの蒸気を作用させてもよい。アンモニアの蒸気と水蒸気が複合体に作用することにより、層間の金属イオンを加水分解して、金属酸化物や金属水酸化物などの金属化合物を層間に析出させることができる。アンモニアと水を蒸気で複合体に作用させることにより、複合体の層状構造を崩さずに層間に金属化合物を生成することができる。
【0019】
複合体と、炭酸アンモニウム又は炭酸水素アンモニウムの固体とを容器内に並置して、炭酸アンモニウム又は炭酸水素アンモニウムの分解温度以上の温度に加熱してもよい。炭酸アンモニウム及び炭酸水素アンモニウムは、分解温度以上の温度に加熱すると、アンモニア、水、二酸化炭素に分解する。したがって、複合体に作用させるアンモニアと水の量を制御することができる。このような方法により、特性の良好な薄膜が製造できることが本発明者らの実験により明らかになっている。
【0020】
界面活性剤を溶解させて除去するための溶媒の種類や量は、界面活性剤の種類や量などに応じて任意に選択されてもよい。
【0021】
熱処理は、金属化合物を所望の結晶構造に変換させるのに必要な温度、時間、雰囲気などの条件で実施されてもよい。例えば、蛍石型の結晶構造を有するセリアのナノシートを製造する場合、熱処理は、900℃以上の温度で6時間以上実施されてもよい。熱処理は、溶媒に溶解しなかった界面活性剤を除去するために実施されてもよい。複合体の層間で生成された金属化合物が、界面活性剤を除去した段階で既に所望の結晶構造を有している場合は、熱処理は実施されなくてもよい。
【0022】
[実施例]
実施の形態に係る薄膜の製造方法にしたがってセリアのナノシートを製造し、特性を評価した。
【0023】
[化合物1の調整]
アニオン界面活性剤である硫酸ナトリウムオクタデシル(Sodium Octadecyl Sulfate:SOS)の水溶液に、過剰量(Ce:SOS=20:1)の硝酸セリウム(III)六水和物(Ce(NO・6HO)の水溶液を加えた。生成した沈殿を洗浄して乾燥し、化合物1を得た。
【0024】
[化合物2の調整]
化合物1の結晶を入れたバイアル瓶と、アンモニア水を入れたバイアル瓶を、それぞれ蓋を開けた状態で容器中に封入し、室温で2日静置した。生成した化合物2を80℃で乾燥した。
【0025】
[ナノシートの生成]
化合物2をホルムアミドに分散させて化合物2に含まれる界面活性剤を溶解させ、ナノシートを得た。
【0026】
[結晶構造の変換]
ナノシートをシリコン基板の上に載置し、900℃で6時間熱処理した。これにより、後述するように、蛍石型の結晶構造を有するセリアの薄膜が製造された。
【0027】
図2は、化合物1のSEM像及びTEM像を示す。図2(a)に示したSEM像から、化合物1が板状の結晶であることが分かる。図2(b)に示したTEM像において、直線状の黒い部分はセリウムイオン、直線間のやや白い部分は界面活性剤であると考えられる。これらから、化合物1が約5nm周期の層状構造を有することが分かる。
【0028】
図3は、化合物1を対象とする各種の測定データを示す。図3(a)は、化合物1の元素分析結果を示す。図3(b)は、化合物1の熱重量分析結果を示す。図3(c)は、化合物1のXPSスペクトルを示す。SOSに含まれていたNaは、化合物1では失われており、代わって、界面活性剤に由来するSの1/3の量のCeが含まれている。XPSスペクトルでは、Ce3+に対応するピークが観測されている。熱重量曲線における100℃付近の重量減少は、結晶水の離脱に由来すると考えられる。
【0029】
図4は、化合物1の予想される構造を示す。化合物1は、界面活性剤の層状構造の層間に、Ce3+をCe3+:OS=1:3の比で含む構造を有すると考えられる。また、HO:OS=1:2の比で結晶水が含まれていると考えられる。
【0030】
図5は、化合物2のSEM像とX線回折パターンを示す。図5(a)に示したSEM像から、化合物2も板状の結晶であることが分かる。図5(b)に示したX線回折パターンから、化合物2が約4.2nm周期の層状構造を有することが分かる。化合物2では、約5nmの周期に対応するブロードなピークも観測されている。なお、化合物1にアンモニアの蒸気を作用させる際に、炭酸アンモニウムを加熱することによりアンモニアの蒸気を生成した場合は、このブロードなピークは観測されなかった。なお、化合物2は不安定であり、TEM像を撮影することはできなかった。
【0031】
図6は、化合物2を対象とする各種の測定データを示す。図6(a)は、化合物2の元素分析結果を示す。図6(b)は、化合物2の熱重量分析結果を示す。図6(c)は、化合物2のXPSスペクトルを示す。化合物2に含まれるCとSの比は化合物1と同じであり、界面活性剤はそのまま化合物2にも含まれていると考えられる。化合物2には、アンモニアに由来すると考えられるNが含まれる。XPSスペクトルにおいて、Ce3+に対応するピークに加えて、Ce4+に対応するピークも観測されている。
【0032】
図7は、化合物2の予想される構造を示す。化合物2は、界面活性剤の層状構造の層間に、対イオンとしてアンモニウムイオンがNH4+:OS-=0.9:1の比で含み、さらに、Ce3+及びCe4+を含む層状のセリウム化合物を含む構造を有すると考えられる。
【0033】
図8は、化合物2から界面活性剤を除去して得られた薄膜のCryo-TEM像及び電子線回折パターンを示す。図8(a)に示すCryo-TEM像及び図8(b)に示す電子線回折パターンから、薄膜が蛍石型ではない単結晶性材料であることが示唆される。
【0034】
図9は、熱処理を実施した後の薄膜を対象とする各種の測定データを示す。図9(a)は、薄膜のラマンスペクトルを示す。蛍石型のセリアのCe-O振動に対応するピークが観測されている。図9(b)は、薄膜のIn-Plane X線回折パターンを示す。蛍石型のセリアの(200)に対応するピークが観測されている。蛍石型のセリアの(111)に対応するピークが観測されていないが、これは、セリアが二次元平面構造を有することを示唆している。図9(c)は、薄膜のXPSスペクトルを示す。Ce4+に対応するピークが観測されている。これらから、薄膜を熱処理することによりセリアの結晶構造が蛍石型に変換されたことが示された。
【0035】
図10は、熱処理を実施した後の薄膜の共焦点レーザー顕微鏡画像及び原子間力顕微鏡画像を示す。図10(a)は、薄膜の共焦点レーザー顕微鏡画像を示す。薄膜は、折り畳まれたシート状の形状を有する。図10(b)は、図10(a)の破線で囲った部分を拡大した原子間力顕微鏡画像を示し、図10(c)は、図10(b)の破線で囲った部分を更に拡大した原子間力顕微鏡画像を示す。薄膜は、多数の微少な結晶を含む多結晶体であることが示唆される。図10(d)は、原子間力顕微鏡によって測定された薄膜の表面形状を示す。折り畳まれた部分における厚みの差から、薄膜の膜厚は約1.5nmであることが示された。表面吸着水などの影響を加味すると、セリアの単位格子1~2個分の膜厚であると予想される。
【0036】
図11は、薄膜の予想される構造を示す。薄膜は、膜厚が約1.5nmで、幅が数十nmのセリアの多結晶を含む、幅数十μmのシート状の構造を有すると考えられる。
【0037】
蛍石型のセリアのナノシートのイオン伝導性を評価するために、金の櫛形電極を作製し、実施例の薄膜の上に櫛形電極を載置して、電気化学インピーダンス測定を行った。図12は、櫛形電極を薄膜の上に載置した様子を模式的に示す。櫛形電極のそれぞれの櫛の間における薄膜のイオン伝導性が測定される。図13は、測定されたインピーダンスのナイキストプロットを示す。実施例の薄膜がイオン伝導性を有することが示唆される。薄膜における伝導の形態として、薄膜に含まれるセリアの多結晶の粒子内及び粒子間におけるプロトン及び酸化物イオンによる伝導が考えられるが、表面におけるプロトンのグロッタス機構による伝導が支配的であると仮定して、プロトンの伝導性を解析した。
【0038】
図14は、薄膜におけるプロトンの伝導性を示す。図14(a)は、プロトンの電気伝導率の温度依存性を示す。図14(b)は、アレニウスプロットを示す。プロトン移動の活性化エネルギーは、0.21eVであった。蛍石型のセリアのナノシートがバルクの同等物よりも高いイオン伝導性を有することが示された。
【0039】
以上、本開示を、実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14