(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】材料発泡方法
(51)【国際特許分類】
B05D 1/02 20060101AFI20240606BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20240606BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
B05D1/02 Z
B05D5/00 J
B05D7/24 301L
(21)【出願番号】P 2023060556
(22)【出願日】2023-04-04
(62)【分割の表示】P 2020098981の分割
【原出願日】2019-12-10
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】309017611
【氏名又は名称】株式会社ペイントサービス
(74)【代理人】
【識別番号】100107674
【氏名又は名称】来栖 和則
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 栄次
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-091677(JP,A)
【文献】特開2019-199493(JP,A)
【文献】特開平10-279850(JP,A)
【文献】特開2011-016854(JP,A)
【文献】米国特許第04619711(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘性を有する液状の材料を標的表面上で発泡させる方法であって、
前記材料が0.1Pa・sより高い粘度を有する状態で、ノズルを有するエアレススプレーガンを用いて前記材料を
前記ノズルから、前記材料が微粒子化せずに前記標的表面に到達するように設定された高さの噴射圧で噴射することにより、前記材料を複数の液滴に分断されるように液滴化して前記標的表面に衝突させ、それにより、その標的表面上で前記複数の液滴がそれぞれ大気中のエアを巻き込むことによって前記材料を前記標的表面上で発泡化または泡状化する材料発泡方法。
【請求項2】
前記
粘度は、
5-16Pa・s(20℃)の高粘度である請求項1に記載の材料発泡方法。
【請求項3】
前記
噴射圧は、
80-200kg/cm
2
である通常圧より低圧である請求項1に記載の材料発泡方法。
【請求項4】
前記ノズルの等価口径は、0.4
-0.8mmの範囲内の値に設定される請求項1に記載の材料発泡方法。
【請求項5】
前記噴射圧は、30-60kg/cm
2
の範囲内の高さを有する請求項1に記載の材料発泡方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状の材料を標的表面上で発泡化または泡状化する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、建築物(家屋、ビル等)、土木構造物(橋梁等)、船舶、車両(自動車、列車等)、飛行機等の構造体の表面を塗り替えるために、その表面にすでに被着されている既存塗膜を構造体の表面から剥離し、その後、新たな塗料を構造体の同じ表面上に塗布する種類の施工が行われている。
【0003】
ここに、既存塗膜を剥離する方法としては、例えば特許文献1に記載されているように、物理的手法と化学的手法とが存在する。物理的手法は、スクレーパなどの手工具、ワイヤーブラシなどの電動工具または回転工具、高圧水噴射機などの剥離機械などを作業者が用いて既存塗膜を構造体から剥離する手法である。
【0004】
これに対し、化学的手法は、薬剤を含む剥離剤を既存塗膜に塗布してその既存塗膜を溶解または膨潤させ、それにより、既存塗膜を構造体から剥離する手法である。この手法は、例えば特許文献1に記載されているように、塗膜剥離剤を用いた湿式による塗膜除去方法すなわち湿式剥離方法とも称される。
【0005】
その湿式剥離方法については、種々の要望が存在する。例えば、剥離剤が環境に対して与える悪影響が少ないという要望(環境対応能力の向上)、剥離剤が作業者の健康に対して与える悪影響が少ないという要望(作業者の健康被害の防止)、作業者が剥離作業を行う際の効率が高いという要望(作業者の剥離作業の効率化)、剥離剤が既存塗膜を剥離する能力が高いという要望(剥離剤の剥離性能の向上)などが存在する。
【0006】
湿式剥離方法につき、特許文献1は、既存塗膜上に被着される剥離剤の層(以下、「剥離剤層」または「剥離剤の塗膜」ともいう。)の膜厚(以下、「塗膜厚」ともいう。)を増加させることを目的として、剥離剤のディッピング前にその剥離剤に界面活性剤を起泡剤として添加し、その状態で剥離剤を撹拌することによって剥離剤に微小な気泡を混入させる技術を開示している。ディッピングによって既存塗膜上に塗布される剥離剤の塗膜厚が増加して塗布量が増加すれば、剥離作業の効率化および剥離性能の向上という要望が満たされる可能性がある。
【0007】
また、特許文献2は、剥離剤の塗布面積を拡大するために、エアレススプレー塗装機を用いる技術を開示している。しかし、この特許文献2は、剥離剤の塗膜厚を厚くするためにエアレススプレー塗装機を用いることが有用である点については開示も示唆もしていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭62-20575号公報
【文献】特許第6442101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の従来技術を背景に、本発明者は、前述の4つの要望、すなわち、環境対応能力の向上という要望と、作業者の健康被害の防止という要望と、剥離作業の効率化という要望と、剥離剤の剥離性能の向上という要望とのうちの少なくとも二つを同時に達成するために、剥離剤の塗布時にその剥離剤が飛散しないようにすることと、既存塗膜の表面上に塗布された剥離剤が既存塗膜から垂れることなくその剥離剤の塗膜厚ひいては塗布量を増加させることとを同時に行うことが重要であることに気が付いた。
【0010】
そして、本発明者は、湿式剥離剤塗布技術につき、剥離剤の塗布時にその剥離剤が飛散しないようにすることと、既存塗膜の表面上に塗布された剥離剤が既存塗膜から垂れることなくその剥離剤の塗膜厚を極大化して塗布量ひいては塗布量を増加させることとを同時に行うことを可能にするための研究開発を行った。
【0011】
それらの事情を背景にして、本発明は、液状の材料を標的表面上で発泡化または泡状化する技術であって、材料の塗布時にその材料が飛散し難くなるようにすることと、標的表面上に塗布された材料がその標的表面から垂れ難くなるようにしてその材料の塗膜厚ひいては塗布量を増加させることとを同時に行うことを可能にするものを提供することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
その課題を解決するために、本発明のあるアスペクトによれば、粘性を有する液状の材料を標的表面上で発泡させる方法であって、
前記材料が0.1Pa・sより高い粘度を有する状態で、ノズルを有するエアレススプレーガンを用いて前記材料を前記ノズルから、前記材料が微粒子化せずに前記標的表面に到達するように設定された高さの噴射圧で噴射することにより、前記材料を複数の液滴に分断されるように液滴化して前記標的表面に衝突させ、それにより、その標的表面上で前記複数の液滴がそれぞれ大気中のエアを巻き込むことによって前記材料を前記標的表面上で発泡化または泡状化する材料発泡方法が提供される。
また、本発明の別のアスペクトによれば、粘性を有する液状の材料を標的表面上で発泡させる方法であって、
ノズルを有するエアレススプレーガンを用いて前記材料を加圧して前記ノズルから噴射することにより、前記材料を複数の液滴に分断されるように液滴化して前記標的表面に衝突させ、それにより、その標的表面上で前記複数の液滴がそれぞれ大気中のエアを巻き込むことによって前記材料を前記標的表面上で発泡化または泡状化する材料発泡方法が提供される。
【0013】
その材料発泡方法の一態様においては、前記材料が、0.1Pa・sより高い粘度を有する。
【0014】
別の態様においては、前記材料が、前記ノズルから80kg/cm
2
を超えない噴射圧で噴射される。
【0015】
さらに別の態様においては、前記ノズルの等価口径が、0.4mm以上の値に設定される。
【0016】
また、本発明の別のアスペクトによれば、液状の剥離剤が標的表面上に発泡状態で塗布されて成る剥離剤層を形成する方法であって、
ノズルを有するエアレススプレーガンを用いることにより、前記剥離剤自体を加圧して前記剥離剤を前記ノズルから噴射し、それにより、前記剥離剤は複数の液滴に分断されて前記標的表面に衝突する噴射工程と、
その噴射された剥離剤を前記標的表面上に塗布する塗布工程であって、その塗布に際し、前記剥離剤の前記複数の液滴が前記標的表面に衝突し、それにより、前記複数の液滴がそれぞれ大気中のエアを巻き込んで発泡化し、それにより、前記複数の液滴が複数のエアバブルとして前記標的表面上に被着されて固定されるものと
を含む剥離剤層形成方法が提供される。
【0017】
また、本発明の一側面によれば、構造体から既存塗膜を剥離剤を用いて湿式で剥離する方法であって、
前記剥離剤は、0.1Pa・sより高い粘度を有する高粘度のものであり、
当該方法は、
ノズルを有するエアレススプレーガンを用いることにより、前記剥離剤自体を加圧して前記剥離剤を前記ノズルから噴射し、それにより、前記剥離剤は複数の液滴に分断されて前記塗膜表面に衝突する噴射工程と、
その噴射された剥離剤を前記塗膜表面上に塗布する塗布工程であって、その塗布に際し、前記剥離剤の前記複数の液滴が前記塗膜表面に衝突し、それにより、前記複数の液滴がそれぞれ大気中のエアを巻き込んで発泡化し、それにより、前記複数の液滴が複数のエアバブルとして前記塗膜表面上に被着されて固定されるものと
を含む塗膜剥離方法が提供される。
【0018】
本発明によって下記の各態様が得られる。各態様は、項に区分し、各項には番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、本発明が採用し得る技術的特徴の一部およびそれの組合せの理解を容易にするためであり、本発明が採用し得る技術的特徴およびそれの組合せが以下の態様に限定されると解釈すべきではない。すなわち、下記の態様には記載されていないが本明細書には記載されている技術的特徴を本発明の技術的特徴として適宜抽出して採用することは妨げられないと解釈すべきなのである。
【0019】
さらに、各項を他の項の番号を引用する形式で記載することが必ずしも、各項に記載の技術的特徴を他の項に記載の技術的特徴から分離させて独立させることを妨げることを意味するわけではなく、各項に記載の技術的特徴をその性質に応じて適宜独立させることが可能であると解釈すべきである。
【0020】
(1) 構造体から既存塗膜を剥離剤を用いて湿式で剥離する方法であって、
ノズルを有するエアレススプレーガンを用いることにより、圧縮エアを用いることなく、前記剥離剤自体を加圧して前記剥離剤を前記ノズルから噴射し、それにより、前記剥離剤を複数の液滴に分断する噴射工程と、
その噴射された剥離剤を前記塗膜表面上に塗布する塗布工程であって、その塗布に際し、前記剥離剤の前記複数の液滴が前記塗膜表面に衝突し、それにより、前記複数の液滴がそれぞれ大気中のエアを巻き込んで発泡化し、それにより、前記剥離剤が発泡状態で前記塗膜表面上に塗布されるものと、
その塗布完了から所要時間の経過後、前記剥離剤によって軟化した既存塗膜を前記構造体から物理的に剥離する剥離工程と
を含む塗膜剥離方法。
【0021】
(2) 前記剥離剤は、高粘度を有する(1)項に記載の塗膜剥離方法。
【0022】
(3) 前記剥離剤は、主成分と水とが界面活性剤を用いて乳化された水系剥離剤エマルジョンである(1)または(2)項に記載の塗膜剥離方法。
【0023】
(4) 前記剥離剤は、溶剤系剥離剤である(1)または(2)項に記載の塗膜剥離方法。
【0024】
(5) 前記塗布工程は、前記発泡状態にある剥離剤が平均直径が約0.1mmから約0.5mmまでの範囲内にある複数の泡を有するように、前記剥離剤を前記塗膜表面上に塗布する(1)ないし(4)項のいずれかに記載の塗膜剥離方法。
【0025】
(6) 前記塗布工程は、前記剥離剤が前記塗膜表面上に被着されることによって形成される塗膜の平均塗膜厚が約1mmであるように、前記剥離剤を前記塗膜表面上に塗布する(1)ないし(5)項のいずれかに記載の塗膜剥離方法。
【0026】
(7) 前記塗布工程は、前記剥離剤が前記塗膜表面上に被着されることによって形成される塗膜の平均塗膜厚が約2mmから約5mmまでの範囲内にあるように、前記剥離剤を前記塗膜表面上に塗布する(1)ないし(5)項のいずれかに記載の塗膜剥離方法。
【0027】
(8) 前記塗布工程は、前記剥離剤が前記塗膜表面上に被着されることによって形成される塗膜が前記既存塗膜の表面粗度が小さいほど大きい塗膜厚を有するように、前記剥離剤を前記塗膜表面上に塗布する(1)ないし(7)項のいずれかに記載の塗膜剥離方法。
【0028】
(9) 前記噴射工程は、前記剥離剤の粘度とその剥離剤の前記ノズルからの吐出量とに応じて変化する高さを有する噴射圧で前記剥離剤を加圧して前記ノズルから噴射する(1)ないし(8)項のいずれかに記載の塗膜剥離方法。
【0029】
(10) 前記剥離剤は、揮発性を有し、
当該塗膜剥離方法は、さらに、
前記剥離剤の塗布完了後に、前記剥離剤に対して不透過性を有する保護シートで前記塗膜表面をラッピングし、それにより、前記剥離剤から発生した気化ガスが前記塗膜表面から大気に放出されることを防止するラッピング工程を含み、
前記剥離工程は、前記所要時間の経過後、前記保護シートを前記既存塗膜から剥離する工程を含む(1)ないし(9)項のいずれかに記載の塗膜剥離方法。
【0030】
(11) 前記噴射工程は、圧縮エアの流れに前記剥離剤を接触させてその剥離剤を霧吹きの原理で霧化する工程を含まず、さらに、前記剥離剤を前記ノズルから噴射する前に前記剥離剤を発泡させる工程を含まない(1)ないし(10)項のいずれかに記載の塗膜剥離方法。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、本発明の例示的な一実施形態に従う塗膜剥離方法を実施するために使用される例示的なエアレス塗布機を概念的に表す系統図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すエアレス塗布機において選択的に使用される複数種類の剥離剤すなわちリムーバのそれぞれの組成および使用温度を表す表である。
【
図3】
図3は、前記塗膜剥離方法における例示的な準備工程を示す工程図である。
【
図4】
図4は、前記塗膜剥離方法における例示的な施工工程を示す工程図である。
【
図5】
図5は、
図1に示すエアレススプレーガンのうちのノズルから噴出したリムーバの性状の時間的変遷を概念的に表す図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施例によって既存塗膜上に塗布されたリムーバの塗着性の試験結果を比較例と対比して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明のさらに具体的な例示的な一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0033】
本発明の例示的な一実施形態は、構造体(または構造物)から既存塗膜を剥離剤(以下、「リムーバ」ともいう。)を用いて剥離する湿式剥離方法に関するものである。具体的には、その湿式剥離方法は、剥離剤を既存塗膜上に発泡型エアレス(無気噴射、無気噴霧)塗布して剥離する発泡型エアレス塗布剥離方法である。
【0034】
その発泡型エアレス塗布剥離方法の一例は、高粘度の剥離剤を既存塗膜上に発泡型エアレス塗布して剥離する方法である。
【0035】
ここに、「高粘度」は、例えば、塗料粘度で表現すると、一般的な塗装が可能な粘度限界(例えば、0.1Pa・s)より高い粘度を意味する。例えば、「高粘度」は、ゲルコート塗料に相当する粘度(3Pa・s)またはそれより高い粘度を意味する場合や、マヨネーズ(23℃)に相当する粘度(8Pa・s)またはそれより高い粘度を意味する場合がある。
【0036】
発泡型エアレス塗布剥離方法の別の一例は、高粘度かつ乳化状態の剥離剤を既存塗膜上に発泡型エアレス塗布して剥離する方法である。高粘度かつ乳化状態の剥離剤の一例は、後述のように、
図2に示す第1リムーバである。
【0037】
上述の発泡型エアレス塗布剥離方法(以下、「本剥離方法」という。)は、後に
図4を参照して詳述するように、化学的な剥離工程としての発泡型エアレス塗布工程S201と、物理的な(機械的な)剥離工程としての剥離工程S203とを、それらの順に実施される複数の工程として有する。
【0038】
図1には、上述の発泡型エアレス塗布工程S201を実施するために使用される例示的なエアレス塗布機10が概念的に系統図で表されている。
【0039】
エアレス塗布機10は、構造体12から既存塗膜14を湿式で剥離するために既存塗膜14上に塗布される剥離剤20を保存するタンク30と、エアレス型の圧送ポンプ40(圧送機)と、エアレススプレーガン(以下、単に「スプレーガン」という。)50と、圧送ポンプ40の駆動源としてのエアコンプレッサ60とを有する。
【0040】
具体的に、エアコンプレッサ60は、後述のプランジャまたはピストンの背後に位置する加圧室76に高圧を作用させ、それにより、それらプランジャまたはピストンの前方に位置する吐出室(吐出されるべき高粘性の剥離剤20がタンク30から送り込まれる部屋)80を加圧するために使用される。
【0041】
スプレーガン50を用いたエアレススプレー方式は、後に
図5を参照して詳述するが、簡単に説明すると、剥離剤20に高圧をかけて液膜を作り、その液膜を大気(静止空気)と衝突させて、剥離剤20を液滴化する方式である。
【0042】
タンク30は、ホース70を介して、圧送ポンプ40の供給口72に接続されている。その供給口72は、吐出口80に流体的に接続されている。エアコンプレッサ60は、エアホース74を介して、圧送ポンプ40の加圧室76に接続されている。スプレーガン50は、高圧ホース78を介して、圧送ポンプ40の吐出室80に接続されている。エアレス塗布機10において、ホース70は供給ラインを構成し、エアホース74は圧縮エアラインを構成し、高圧ホース78は圧送ラインを構成する。
【0043】
スプレーガン50は、圧縮エアを直接、剥離剤20に接触させることなく、前記プランジャまたはピストンによって剥離剤20自体を加圧してその剥離剤20をノズルから噴射し、それにより、剥離剤20を複数の液滴に分断するように構成される。
【0044】
スプレーガン50においては、剥離剤20に作用する圧力(例えば、後述の噴射圧)は、通常は、80-200kg/cm2程度であるが、本実施形態においては、後述のように、例えば30-40kg/cm2というように、通常値より低圧である。
【0045】
スプレーガン50は、材料としての剥離剤20をスプレーガン50のノズルから吐出する方式として、ダイヤフラム式、プランジャーを用いたプランジャーポンプ式またはピストンを用いたピストンポンプ式のいずれを採用してもよいが、剥離剤20が高粘度である場合には、プランジャーポンプ式またはピストンポンプ式を採用することが望ましい。
【0046】
また、スプレーガン50は、上述のように、噴射圧が低圧であることから、材料としての剥離剤20をスプレーガン50内の吐出室内に送給する方式として、圧送式(剥離剤20を加圧して押し出す)よりむしろ、重力式(自然落下を利用して剥離剤20を噴射する)または吹上げ式(空気の流れを利用して剥離剤20を吹き上げて噴射する)を採用してもよいが、圧送式を採用してもよい。
【0047】
いずれの方式を採用しても、スプレーガン50は、本体部90と、その本体部90に対して着脱可能に装着されるノズルチップ92とを有するように構成される。本体部90は、作業者によって握られるグリップ94と、作業者によって操作されるトリガ96とを含むように構成される。
【0048】
ノズルチップ92は、剥離剤20が噴射されるノズルを有する。そのノズルの断面形状は、例えば、円形としたり、楕円形としたり、スリット形とすることが可能である。本実施形態においては、ノズルの断面形状が楕円形であり、また、ノズルの等価口径は、0.59mm(0.4-0.8mmの範囲内)である。ここに、「等価口径」は、ノズル開口部の開口領域を、それと同じ面積を有する円状領域に置換した場合のその円状領域の外形の直径を意味する。
【0049】
スプレーガン50からの剥離剤20の吐出量(噴出量ともいい、例えば、ノズルから一定時間当たりに吐出される剥離剤20の重量として定義される)および散布パターンは、ノズルの形状に依存する。
【0050】
本実施形態においては、スプレーガン50の楕円形ノズルからの剥離剤20の目標散布パターンが、例えば、真横(楕円形ノズルの断面形状のうちの長軸に対して直角な方向)から見ると、噴射方向に進むにつれて幅広となる二等辺三角形状(扇形)であり、その三角形においては、例えば、高さ(スプレー距離)が約25cm、底辺の長さ(パターン幅)が約15-約20cmである。
【0051】
さらに、本実施形態においては、上記楕円形ノズルを採用する場合、前記噴射圧が60kg/cm2のとき、噴出量が1490mL/minであり、また、前記噴射圧が30-40kg/cm2のとき、噴出量が750-1000mL/minである。
【0052】
スプレーガン50の特徴
【0053】
スプレーガン50は、空気吹付けに依存せずに、剥離剤20自体に圧力を作用させて強制的にノズルから剥離剤20を噴出させて塗布する。
【0054】
スプレーガン50を用いたエアレススプレー方式によって剥離剤20が液滴化する原理を説明するに、
図5に示すように、まず、剥離剤20が、ノズルから高圧で液膜として噴射される。その液膜の先端部が周辺の静止空気と衝突し、それにより、液膜の先端部の速度が次第に低下する。これに対し、剥離剤20を噴出させる圧力は一定であるため、液膜は波状化する。その波状化した液膜は、静止空気内を進行するにつれて、その静止空気から抵抗を受け、波状化した液膜は、それの進行方向に並んだ複数の部分に分裂する。
【0055】
その後、各分裂した液膜は、進行方向に対して交差する方向に延びるとともに、その延びる方向に凹部と凸部とを繰り返すように、凹凸ひも状化する。
【0056】
その凹凸ひも状部は、その後、自身の延びる方向に並んだ複数の液滴に分断し、それにより、剥離剤20の液滴化が行われることになる。
【0057】
ところで、スプレーガン50は、高圧の剥離剤20を直接噴霧するため、エアスプレーガンに比べて剥離剤20の飛散量が少なく、塗着効率(例えば、噴霧した剥離剤20の全重量Weに対する、その噴霧された剥離剤20のうち、既存塗膜14上に塗着した部分(飛散した部分を除く)の量Wの比率として定義される)が高い。
【0058】
すなわち、スプレーガン50は、空気を使わずに剥離剤20を液滴化して塗布を行うため、剥離剤20が空気中に霧状化して飛散する量が少なく、環境および作業者に対する健康被害が少なく、かつ、剥離剤20の塗布効率(例えば、塗着効率)が高い。
【0059】
さらに、スプレーガン50への剥離剤20の補給を行いながら剥離剤20の塗布を行うことができるため、剥離作業のストリームライン化に向いている。
【0060】
スプレーガン50は、エアスプレーガンに比べて高圧で剥離剤20を既存塗膜14上に塗布できるため、剥離剤20の厚い膜を既存塗膜14上に形成できる。
【0061】
しかし、スプレーガン50は、エアスプレーガンに比べて剥離剤20の噴出量が多いため、既存塗膜14上に塗布された剥離剤20は、追加の対策を講じないと、垂れが発生し易い。
【0062】
そこで、本実施形態においては、既存塗膜14上への剥離剤20の塗着性(固着性、付着性など)を向上させるために、いくつかの対策が追加された。
【0063】
(1)剥離剤20の泡状化
【0064】
本発明者の実験により、スプレーガン50からの剥離剤20の噴射圧が高いほど(例えば、エアコンプレッサ60からスプレーガン50に作用する圧力が高いほど)、スプレーガン50からの剥離剤20の噴射速度が高速化するとともに散布パターン(例えば、円錐状)の断面直径(散布直径)が小径化するという事実が判明した。
【0065】
噴射速度の高速化により、前述の各液滴が既存塗膜14上に衝突する際の衝撃エネルギーが増加し、各液滴が衝突によって微細化して液滴の総数が増加し、その結果、それら液滴全体としての表面積すなわち静止空気との接触面積が増加する。それにより、それら液滴がより多くの静止空気を巻き込んで泡状化する。その結果、各液滴がより微細化され、それにより、全体として、より多数の泡(エアバブル)が剥離剤20内に形成されることになる。
【0066】
一方、同じ塗膜厚の剥離剤20において、エアバブルの数が多いほど、各エアバブルが軽量化し、各エアバブルが自重によって既存塗膜14上を流れ難くなる。その結果、既存塗膜14上への剥離剤20の塗着性が向上し、それにより、既存塗膜14上における剥離剤20の塗膜厚が厚くなったと推定される。また、剥離剤20の塗膜厚が厚いほど、既存塗膜14への剥離剤20の塗布量(塗着量ともいい、例えば、一定面積(または一定時間)当たりに塗布される剥離剤20の重量として定義される)が増加する。
【0067】
本発明者の実験により、前記噴射圧としては、30-60kg/cm2の範囲または30-40kg/cm2の範囲が望ましいことが判明した。その数値は、スプレーガン50から剥離剤20が散布されるパターンが前述の目標散布パターンとなり、かつ、スプレーガン50から剥離剤20が十分に霧化せずに(微粒子化せずに)既存塗膜14上に到達するように、設定することが望ましい。
【0068】
(2)剥離剤20の高粘度化
【0069】
一般に、高粘度の剥離剤を塗布する場合には、低粘度の剥離剤を用いる場合とは異なり、剥離剤の塗膜に厚さを必要とする場合に、その塗膜において剥離剤が流れて垂れてしまうことが防止される。
【0070】
本発明者の実験により、剥離剤20の塗料粘度が高いほど、既存塗膜14上への剥離剤20の塗着性が向上するという事実が判明した。
【0071】
さらに、本発明者の実験により、剥離剤20の塗料粘度として、約5-約16Pa・s(20℃)という程度の高粘度であることが望ましいことが判明した。
【0072】
(3)剥離剤20の高乳化度
【0073】
本発明者の実験により、剥離剤20の乳化度が高いほど、既存塗膜14との衝突によって剥離剤20に発生する泡の数が増加するとともに泡が微細化し、その結果、既存塗膜14上への剥離剤20の塗着性が向上するという事実が判明した。
【0074】
この知見に従い、剥離剤20は、エマルジョンすなわち水系剥離剤(例えば、
図2における第1リムーバ)が採用された。
【0075】
とはいえ、本発明者の実験により、剥離剤20が非エマルジョンすなわち溶剤系剥離剤(例えば、
図2における第2-第4リムーバ)であっても、剥離剤20の塗膜厚が、従来の塗布方法すなわちエアスプレーガンを用いるか刷毛塗りによる方法の場合より厚くなるという事実が判明した。
【0076】
<剥離剤20の成分構成>
【0077】
剥離剤20は、種類の如何を問わず、主成分と、補助剤と、増粘剤とを含有する。
【0078】
主成分は、既存塗膜14を膨潤させて構造体12の表面から剥がれ易くするために、有機溶剤を含有する。有機溶剤としては、アルコール系高沸点溶剤、エステル系有機溶剤、複素環状有機溶媒などがある。
【0079】
補助剤は、剥離剤20の性質安定化のために存在し、例えば、芳香族炭化水素系溶剤、テルペン類等がある。
【0080】
増粘剤は、剥離剤20を所定の塗付け量で既存塗膜14上に塗布でき、垂れ難くするために存在し、例えば、珪酸塩化合物、有機ベントナイトなどがある。
【0081】
<剥離剤20の組成のバリエーション>
【0082】
図2に示すように、本実施形態においては、スプレーガン50によって既存塗膜14上に塗布することが可能な剥離剤20として、第1-第4リムーバというように、4種類が存在する。
【0083】
それらのうち、第1リムーバは、水系剥離剤(エマルジョン)であるのに対し、第2-第4リムーバは、溶剤系剥離剤(非エマルジョン)である。
【0084】
さらに、第1-第2リムーバは、平均気温が約10℃より高い高温期において、正常な反応性を示し、使用が推奨されるのに対し、第3リムーバは、平均気温が約10℃未満である低温期であっても、正常な反応性を示し、使用が推奨される。
【0085】
第4リムーバは、ジクロロメタンを含有するため、作業者の健康被害を予防するための安全管理対策が必要であるが、他のリムーバより速乾性があり、かつ、強力な剥離力を発揮する。この第4リムーバは、部分補修用として使用することが推奨される。
【0086】
1.溶剤系剥離剤
【0087】
主成分(20-90%)として有機溶剤を含有し、また、補助成分として、補助剤、増粘剤等を含有する。
【0088】
2.水系剥離剤
【0089】
主成分(30-50%)として有機溶剤を含有し、また、補助成分として、補助剤、増粘剤等と水(35-50%)とを含有する。
【0090】
一般に、水系剥離剤のほうが溶剤系剥離剤より危険有害性が低い。
【0091】
水系剥離剤は、主成分と水とが界面活性剤を用いて乳化されて成るエマルジョンである。
【0092】
<発泡型エアレス塗布剥離方法>
【0093】
本実施形態に従う発泡型エアレス塗布剥離方法は、
図3に示す準備工程S100と、
図4に示す施工工程S200とを、それらの順に実施されるように有する。
【0094】
<準備工程>
【0095】
図3に示すように、まず、ステップS101において、作業者が、剥離対象である既存塗膜14を調査する。具体的には、既存塗膜14の材質、塗膜厚、表面性状などの既存塗膜ファクターや、構造体12の構造、形状などの構造体ファクターを調査する。
【0096】
次に、ステップS102において、作業者が、既存塗膜14を剥離するための施工時期を選択する。施工時期が選択されれば、その施工時期における環境の平均気温が予測される。その平均気温は、前述の4種類のリムーバのうちいずれのものが最適であるかを決定するために参照される。
【0097】
続いて、ステップS103において、作業者が、剥離条件を選択する。具体的には、既存塗膜14についての前述の既存塗膜ファクターおよび/または構造体ファクターに基づき、
図2における第1-第4リムーバのうちのいずれかを今回使用する剥離剤20として選択する。
【0098】
さらに、調査した塗膜厚を含むファクターに応じ、今回の剥離剤20を用いた剥離作業を何回反復するかを決定する。さらに、前述の既存塗膜ファクターおよび/または構造体ファクターに基づき、各回の剥離作業における剥離剤20の塗布量を決定する。
【0099】
さらに、その決定された塗布量に応じ、スプレーガン50からの剥離剤20の吐出量を決定し、場合によっては、今回使用するノズルチップ92を選択する。
【0100】
さらに、今回の剥離剤20の粘度とその剥離剤20の前記ノズルからの吐出量とに応じ、スプレーガン50が今回の剥離剤20を加圧して前記ノズルから噴射する際の噴射圧を決定する。
【0101】
<施工工程>
【0102】
図4に示すように、まず、ステップS201において、作業者が、既存塗膜14に対し、前述の発泡型エアレス塗布方法を実施する。
【0103】
その発泡型エアレス塗布方法は、作業者が、今回の剥離剤20を調製するかまたは調達し、それをタンク30内に投入する準備工程と、作業者が圧送ポンプ40を起動させ、それにより、今回の剥離剤20をタンク30からスプレーガン50にエアレス状態で圧送する圧送工程とを有する。
【0104】
上記発泡型エアレス塗布方法は、さらに、作業者が、スプレーガン50を把持して標的すなわち既存塗膜14に向け、その状態でトリガ96を引き、それにより、スプレーガン50から剥離剤20を複数の液滴に分断して標的に向けて噴射する噴射工程を有する。
【0105】
その噴射工程は、圧縮エアの流れに剥離剤20を接触させてその剥離剤20を霧吹きの原理で霧化する工程を含まず、さらに、剥離剤20をノズル92から噴射する前に剥離剤20を発泡させる工程を含まない。
【0106】
前記発泡型エアレス塗布方法は、さらに、作業者が、前記噴射された剥離剤20を既存塗膜14の表面上に塗布する塗布工程を有する。
【0107】
その塗布工程においては、その塗布に際し、剥離剤20の前記複数の液滴が既存塗膜14の表面に衝突し、それにより、前記複数の液滴がそれぞれ大気中のエアを巻き込んで発泡化し、それにより、剥離剤20が発泡状態で既存塗膜14の表面上に塗布される。
【0108】
一例においては、前記塗布工程が、前記発泡状態にある剥離剤20が平均直径が約0.1mmから約0.5mmまでの範囲内にある複数の泡を有するように、剥離剤20を既存塗膜14の表面上に塗布するように実施される。
【0109】
別の例においては、前記塗布工程が、剥離剤20が既存塗膜14の表面上に被着されることによって形成される塗膜の平均塗膜厚が約1mmであるように、剥離剤20を既存塗膜14の表面上に塗布するように実施される。
【0110】
さらに別の例においては、前記塗布工程が、剥離剤20が既存塗膜14の表面上に被着されることによって形成される塗膜の平均塗膜厚が約2mmから約5mmまでの範囲内にあるように、剥離剤20を既存塗膜14の表面上に塗布するように実施される。
【0111】
いずれの例においても、既存塗膜14が剥離剤20によって膨潤軟化し、構造体12の表面への付着力が低下し、その結果、既存塗膜14は構造体12の表面から浮き上がる。
【0112】
次に、ステップS202において、剥離剤20の塗布完了後に、作業者が、剥離剤20に対して不透過性を有する保護シートで既存塗膜14の表面をラッピングし、それにより、剥離剤20(揮発性を有する場合)から発生した気化ガスが既存塗膜14の表面から大気に放出されることを防止する。前記保護シートは、例えば、柔軟性を有するポリエチレン製シート、ポリプロピレン製シートなどである。
【0113】
本発明者の実験により、前記ラッピングの効果として、既存塗膜14上に塗布された剥離剤20からの蒸気(気化ガス)の放出が防止され、それにより、約90%の蒸気が既存塗膜14内に浸透して剥離作業の効率化が推進されたことが確認された。
【0114】
続いて、ステップS203において、その塗布完了から所要時間(例えば、16-48時間)の経過後、作業者が、前記保護シートを既存塗膜14から剥離して除去する。その後、作業者が、剥離剤20によって付着力が低下して構造体12の表面から浮き上がった既存塗膜14を構造体12から物理的に剥離して除去する。
【0115】
既存塗膜14を構造体12から物理的に剥離するために、作業者は、手工具としてのスクレーパを用いてもよい。
【0116】
さらに、その最初の剥離作業後に構造体12の表面上に残存する既存塗膜14の一部である塗膜残渣物を除去するために、電動回転工具としてのワイヤーブラシ(例えば、カップ状ワイヤーブラシ)やエア・グラインダを用いてもよい。
【0117】
この除去作業が作業者にとっての大きな負担となるため、前記電動回転工具は可及的に軽量であること、剥離した塗膜残渣物が飛散しないことなどが重要である。よって、電動回転工具は、小型で、かつ、回転部が通常より低速で回転するものであることが望ましい。
【0118】
さらに、必要に応じ、作業者は、高圧洗浄機を追加的にまたは代替的に用いて既存塗膜14および/または塗膜残渣物を除去してもよい。
【0119】
なお、本実施形態によれば、剥離剤20の目標塗膜厚を実現するために、刷毛やローラーであると、複数回の塗布作業が必要であったところ、目標塗膜厚を一回の塗布作業で実現可能となり、作業効率が向上する。
【0120】
さらに、本実施形態においては、剥離剤20を設置場所(
図1において、エアレス塗布機10のうちスプレーガン50を除く本体部が固定設置されている場所)からインラインで(前記本体部と、作業場所であるスプレーガン50とが、連続した圧送ライン78で互いに接続される状態で)作業場所に送給することが可能となる。
【0121】
具体的には、エアレス塗布機10のうちの本体部(特に、圧送ポンプ40)とスプレーガン50とが、圧力伝達経路と材料供給経路との双方を兼ねるホース(ライン)78で互いに接続される。その結果、エア塗装(吹き付け塗装)の場合とは異なり、本体部(特に、圧送ポンプ40)とスプレーガン50とを、互いに独立した圧力伝達経路と材料供給経路との双方によって互いに接続することが不要となる。
【0122】
それにより、剥離剤20を確実にスプレーガン50に送給することが可能となり、具体的には、剥離剤20が本体部からスプレーガン50に送給される途中で、剥離剤20が予定外に漏れて作業床等にこぼれてその箇所が剥離剤20で汚染されてしまうことがなくなる。
【0123】
<塗着性試験>
【0124】
塗着性試験に使用した剥離剤20の種類
【0125】
塗着性試験に使用した剥離剤20の種類は、
図2に示す第1リムーバ(高粘度エマルジョン)である。その第1リムーバの一具体例は、次のような成分構成を有する。
【0126】
水分: 40-50重量%
アルコール系溶剤:40-50重量%
石油系溶剤: 1- 5重量%
界面活性剤: 1- 5重量%
増粘剤: 1- 5重量%
防錆類: 1重量%未満
ワックス類: 1重量%未満
【0127】
また、その具体例は、次のような性状を有する。
【0128】
外観:白色または淡黄色を呈する粘稠液体
粘度:5-16Pa・s(20℃)
【0129】
実施例
【0130】
試験片としての500×500mmの塗装用鋼板に剥離剤20を260g、スプレーガン50を用いてエアレス塗布し、それにより、試験片において1.0kg/m2の塗布量(塗布密度、散布密度)を実現した。
【0131】
その塗布後、試験片を垂直に吊るし、剥離剤20の垂れ具合を観察するために、5分経過後に試験片を撮影した。その写真を
図6の上部に貼り付けた。
【0132】
比較例
【0133】
試験片としての500×500mmの塗装用鋼板に剥離剤20を260g、刷毛(図示しない)を用いて塗布し、それにより、試験片において、1.0kg/m2の塗布量(塗布密度、散布密度)を実現した。
【0134】
その塗布後、試験片を垂直に吊るし、剥離剤20の垂れ具合を観察するために、5分経過後に試験片を撮影した。その写真を
図6の下部に貼り付けた。
【0135】
対比観察
【0136】
実施例においては、剥離剤20の垂れ(例えば、剥離剤20が流れた痕跡、剥離剤20の落下など、重力に起因する予定外の剥離剤20の挙動)は全く観察できなかった。また、試験片に塗布された剥離剤20の表面は平滑であった。
【0137】
図6の上部の写真から明らかなように、実施例においては、試験片に塗布された剥離剤20が全く試験片から流れ落ちなかったことが確認された。
【0138】
さらに、試験片から垂れずに試験片に被着して固定された剥離剤20の平均塗膜厚(例えば、重ね塗りせずに一回のみ塗布した場合の塗膜厚)が約2mmから約5mmまでの範囲内にあったことも確認された。
【0139】
さらに、試験片上において発泡状態にある剥離剤20が平均直径が約0.1mmから約0.5mmまでの範囲内にある複数の泡を有することも確認された。
【0140】
これに対し、比較例においては、試験片全域に剥離剤20の垂れ(または流れ、フローライン)が観察された。また、試験片に塗布された剥離剤20の表面には、材料流れが生じて筋状の凹凸模様が存在していた。
【0141】
図6の下部の写真から明らかなように、比較例においては、試験片に塗布された剥離剤20の一部が試験片から流れ落ちたことが確認された。
【0142】
なお付言するに、本発明者は、本実施形態の効果を確認するために、建築物としての鉄塔であって、形状が複雑であるために剥離剤が拡布し難い表面を有するものについて、本実施形態に従う発泡型(発泡促進型)エアレス塗布剥離方法を用いて実際に剥離作業を行った。その結果、剥離作業の確実化、すなわち、例えば、隅々まで既存塗膜が剥離されることと、効率化、すなわち、剥離作業の時間が短縮されることとが確認できた。
【0143】
さらに付言するに、本実施形態に関する前述の説明においては、剥離剤20が泡状化する現象が、スプレーガン50から噴射された剥離剤20が静止空気中を飛行する行程においては、静止空気との衝突によって剥離剤20から分裂した複数の液滴がエアバブル化せず、既存塗膜14と衝突したときにはじめて複数の液滴がエアバブル化して剥離剤20が既存塗膜14上で泡状化する態様として説明された。
【0144】
しかし、剥離剤20の複数の液滴が静止空気中を飛行する行程において、それら液滴のうちの少なくとも一部が静止空気との衝突によってエアバブル化する態様で本発明が実施される可能性を排除しない。
【0145】
以上、本発明の例示的な実施の形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、前記[発明の概要]の欄に記載の態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。