(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】法面安定化グラウンドアンカー工法
(51)【国際特許分類】
E02D 17/20 20060101AFI20240606BHJP
E02D 5/80 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
E02D17/20 103H
E02D17/20 104B
E02D17/20 104C
E02D5/80 Z
(21)【出願番号】P 2024008234
(22)【出願日】2024-01-23
【審査請求日】2024-01-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524034981
【氏名又は名称】株式会社伊藤組
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西棟 慶悟
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-100344(JP,A)
【文献】特開2016-094783(JP,A)
【文献】特開2009-243229(JP,A)
【文献】特開2018-193666(JP,A)
【文献】特開2022-067519(JP,A)
【文献】特許第2539888(JP,B2)
【文献】特開2002-054151(JP,A)
【文献】特開2001-055739(JP,A)
【文献】特許第5907443(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/20
E02D 5/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
山肌、河川の土手等の傾斜面を安定化させるための法面安定化グラウンドアンカー工法であって、
不陸調整領域を有する法面上における緊張・定着用アンカーの打設位置を決定する工程と、
前記不陸調整領域とその上に位置する平板ブロック領域との合計高さに相当する、前記緊張・定着用アンカーの天端部分に取り付けられる頭部プレートの位置から法面までの高さ寸法を記録に残す工程と、
後に前記平板ブロック領域に組立てられる補強鉄筋枠と、この補強鉄筋枠を充填しかつ周囲を取り囲むモルタルとからなる平板ブロック体
の寸法およびこの平板ブロック体に対して緊張・定着用アンカーを介して
作用する設計アンカー力に基づいて平板ブロック体の最大曲げモーメント、最大せん断力および押し抜きせん断力を計算し、この強度を維持し得る
前記補強鉄筋枠の鉄筋量を
算出する工程と、
後に組立てる前記補強鉄筋枠の鉄筋量が前記算出した鉄筋量を上回る量となるように、
前記補強鉄筋枠の組立てに使用する鉄筋の直径、長さ及び本数を決定し、その決定に合致するように複数の鉄筋を準備する工程と、
前記緊張・定着用アンカーの打設位置を取り囲む位置に
前記補強鉄筋枠を組み立てるために、先行して複数本の鉄筋枠固定用アンカーを所定の位置関係で法面に打設する工程と、
準備した複数の鉄筋を所定の位置関係及び配置間隔で互いに連結固定して
前記補強鉄筋枠を組立て、この補強鉄筋枠を
前記平板ブロック領域内で前記鉄筋枠固定用アンカーに連結固定する工程と、
前記緊張・定着用アンカー用に削孔する孔径に合わせて適切な保孔管を選定し、この保孔管を
前記補強鉄筋枠の所定位置に連結固定する工程と、
施工現場で前記不陸調整領域と、前記補強鉄筋枠を含む平板ブロック領域とにモルタルを連続的または段階的に吹き付けて所定の高さになるまで充填し、法面上の不陸調整部の上に平板ブロック体を作製する工程と、
前記保孔管を通してボーリングを行い、
前記緊張・定着用アンカーを受け入れるためのアンカー用孔を形成する工程と、
前記アンカー用孔内に前記緊張・定着用アンカーを挿入し、グラウト材を注入して
前記緊張・定着用アンカーを固定する工程と、
緊張ジャッキを用いて
前記緊張・定着用アンカーを引張り、所要の残存引張力が得られるように初期緊張力を導入し、緊張力を維持した状態で
前記緊張・定着用アンカーの位置を固定する
ことによって、不陸調整一体型独立受圧板とする工程とを備える、法面安定化グラウンドアンカー工法。
【請求項2】
前記補強鉄筋枠を
前記鉄筋枠固定用アンカーに固定連結する工程の後で、かつ、前記モルタルを
吹き付ける工程の前に、
前記補強鉄筋枠の周囲を取り囲む型枠を設置する工程を備える、請求項1に記載の法面安定化グラウンドアンカー工法。
【請求項3】
前記緊張・定着用アンカーを前記アンカー用孔に固定する工程の後で、かつ、
前記緊張・定着用アンカーを引張る前に、露出している
前記緊張・定着用アンカーを取り囲む頭部プレートを設置する工程を備え、
前記緊張・定着用アンカーの位置を固定する工程は、
前記緊張・定着用アンカーの緊張力を維持した状態でくさびを打ち込み、
前記緊張・定着用アンカーの頭部と、
前記頭部プレートとを強固に固定することを含む、請求項1に記載の法面安定化グラウンドアンカー工法。
【請求項4】
前記緊張・定着用アンカーの頭部と
前記頭部プレートとを強固に固定した後に、
前記頭部プレートから突出するアンカー材の部分を切断し、その後に
前記緊張・定着用アンカーの切断頭部を覆うように頭部保護キャップを
前記頭部プレートに取り付ける工程を備える、請求項3に記載の法面安定化グラウンドアンカー工法。
【請求項5】
前記補強鉄筋枠は、相対的に低い高さ位置で縦横に交差する複数の縦鉄筋及び複数の横鉄筋を含む下部鉄筋枠と、下部鉄筋枠の上方位置で縦横に交差する複数の縦鉄筋及び複数の横鉄筋を含む上部鉄筋枠と、下部鉄筋枠および上部鉄筋枠を連結する結合部材とを備える、請求項1に記載の法面安定化グラウンドアンカー工法。
【請求項6】
前記平板ブロック体にポリウレア樹脂を吹き付ける工程をさらに備える、請求項1に記載の法面安定化グラウンドアンカー工法。
【請求項7】
前記平板ブロック体を構成するモルタル中に、着色剤又は補強繊維が含有されている、請求項1に記載の法面安定化グラウンドアンカー工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
山肌、河川の土手等の傾斜面(切土法面を含む)を安定化させるための工法に関する。
【背景技術】
【0002】
山肌や河川の土手等の傾斜面(法面)を補強、安定化する工法として、削孔したアンカー孔に挿入した引張材(アンカー又はボルト)をグラウティングし、この引張材で受圧板を法面に対して圧接させるグラウンドアンカー工または鉄筋挿入工が知られている。
【0003】
例えば特許第5907443号公報(特許文献1)は、受圧板施工用不陸調整枠体を用いて受圧板を設置する工法を開示している。この特許文献1に開示された工法は、概ね以下の工程からなる。
【0004】
a)施工現場から離れた工場で受圧板施工用不陸調整枠体を組み立てる。不陸調整枠体の1基当たりの重量は比較的軽量であり、吊り下げ用の特別なクレーン装置等を必要とせずに、人力での設置が可能である。
【0005】
b)組立てた受圧板施工用不陸調整枠体を施工現場にまで運ぶ。
【0006】
c)施工現場の法面に複数の補助アンカー孔を削孔し、これらの補助アンカー孔に補助アンカーを挿入し固定する。
【0007】
d)固定した補助アンカーと受圧板施工用不陸調整枠体とを結束部材等で連結する。
【0008】
e)受圧板施工用不陸調整枠体内のアンカー削孔位置に挿抜管を設置する。
【0009】
f)圧送ポンプを用いて不陸調整枠体内部にモルタルまたはコンクリートを打設し、表面をコテで仕上げることで不陸調整用吹き付け台座を形成する。
【0010】
g)挿抜管を通して専用機械によって所定の深度まで削孔し、PC鋼線等のアンカー材を挿入する。
【0011】
h)数日間のセメント硬化の養生期間を経た後、施工現場に運ばれた二次製品受圧板(鋼製またはプレキャスト製等)をクレーン等で吊上げて不陸調整用吹き付け台座の上面に設置し、専用ジャッキでアンカー材を緊張して定着させることで、アンカー荷重に応じた受圧板を不陸調整用吹き付け台座上に固定する。これにより、受圧板設置までの全ての施工が完了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1に開示されたようなグラウンドアンカー工または鉄筋挿入工では、法面上に不陸調整用枠体を設置し、モルタルまたはコンクリートを打設して不陸調整用吹き付け台座を形成し、その後、数日間の養生期間を経て二次製品受圧板(以下、受圧板と称す)をクレーン等で吊上げて不陸調整吹き付け台座上の所定位置に設置して固定している。
【0014】
受圧板は、工場製作品であり、アンカー荷重に応じた耐力を必要とし、製作工程は工場生産能力に左右される。また、数100kgの重量であり、このような重い受圧板をクレーン等で吊上げて、傾斜した法面上の不陸調整用吹き付け台座上の所定の位置に設置する作業は人力では不可能であり、製品価格共々高値となる。
【0015】
また、受圧板を設置する前に、必ず不陸調整用吹き付け台座の養生期間として数日間を必要とするので、全体の工期も比較的長くなる。
【0016】
特許文献1に開示された不陸調整枠体は、不陸調整用吹き付け台座を形成するためのモルタルまたはコンクリートを強固に固定保持するためのものであり、枠体自身が法面の構造を強化するように作用していない。法面の構造を強化しているのは、アンカー材を緊張状態で定着しつつ不陸調整用吹き付け台座の上面上に圧接している二次製品受圧板である。
【0017】
本発明の目的は、二次製品受圧板を用いずに、法面を安定化させる工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る法面安定化工法は、山肌、河川の土手等の傾斜面を安定化させるための工法であって、下記の工程を備える。
【0019】
a)法面上の、緊張・定着用アンカーの打設位置を決定する工程。
【0020】
b)補強鉄筋枠と、この補強鉄筋枠を充填しかつ周囲を取り囲むモルタルとの平板状鉄筋構造体の板厚および接地面積から、法面を安定化させるのに必要な強度を維持し得る鉄筋量を計算する工程。
【0021】
c)強度計算に基づいて算出された必要な鉄筋量(上記のb)で計算した必要な強度を維持し得る鉄筋量)を上回る量となるように、使用する鉄筋の直径、長さ及び本数を決定し、その決定に合致するように複数の鉄筋を準備する工程。
【0022】
d)緊張・定着用アンカーの打設位置を取り囲む位置に補強鉄筋枠を組み立てるために、先行して複数本の鉄筋枠固定用アンカーを所定の位置関係で法面に打設する工程。
【0023】
e)準備した複数の鉄筋を所定の位置関係及び配置間隔で互いに連結固定して補強鉄筋枠を組立て、この補強鉄筋枠を鉄筋枠固定用アンカーに連結固定する工程。
【0024】
f)緊張・定着用アンカー用に削孔する孔径に合わせて適切な保孔管を選定し、この保孔管を補強鉄筋枠の所定位置に連結固定する工程。
【0025】
g)補強鉄筋枠を充填しかつ取り囲むようにモルタルを吹き付け、法面上に平板状鉄筋構造体(平板ブロック体)を作製する工程。
【0026】
h)保孔管を通してボーリングを行い、緊張・定着用アンカーを受け入れるためのアンカー用孔を形成する工程。
【0027】
i)アンカー用孔内に緊張・定着用アンカーを挿入し、グラウト材を注入して緊張・定着用アンカーを固定する工程。
【0028】
j)緊張ジャッキを用いて緊張・定着用アンカーを引張り、所要の残存引張力が得られるように初期緊張力を導入し、緊張力を維持した状態で緊張・定着用アンカーの位置を固定し、不陸調整一体型独立受圧板とする工程。
【0029】
なお、本発明の実施形態に係る説明では、モルタルまたはコンクリートを表現する用語として、統一して「モルタル」の用語を使用する。したがって、「モルタル」と表現されていても、モルタルに代えてコンクリートを使用することも含む。また、定着用アンカーについては、鉄筋アンカーも含む。
【0030】
本発明の好ましい実施形態では、補強鉄筋枠を鉄筋枠固定用アンカーに固定連結する工程の後で、かつ、モルタルを吹き付け、法面上に平板状鉄筋構造体(平板ブロック体)を作製する工程の前に、補強鉄筋枠の周囲を取り囲む枠用型枠(梁高15cm以下では不要とすることあり得る)を設置する工程を備える。
【0031】
好ましくは、緊張・定着用アンカーをアンカー用孔に固定する工程の後で、かつ、緊張・定着用アンカーを引張る前に、露出している緊張・定着用アンカーを支持する頭部プレートを設置する工程を備える。また、緊張・定着用アンカーの位置を固定する工程は、緊張・定着用アンカーの緊張力を維持した状態でくさびを打ち込み、緊張・定着用アンカーの頭部と、頭部プレートとを強固に固定することを含む。
【0032】
さらに好ましくは、緊張・定着用アンカーの頭部と頭部プレートとを強固に固定した後に、頭部プレートから突出するアンカー材の部分を切断し、その後に緊張・定着用アンカーの切断頭部を覆うように頭部保護キャップを頭部プレートに取り付ける工程を備える。
【0033】
好ましい実施形態では、補強鉄筋枠(下部鉄筋枠単独設置もあり得る)は、相対的に低い高さ位置で縦横に交差する複数の縦鉄筋及び複数の横鉄筋を含む下部鉄筋枠と、下部鉄筋枠の上方位置で縦横に交差する複数の縦鉄筋及び複数の横鉄筋を含む上部鉄筋枠と、下部鉄筋枠および上部鉄筋枠を連結する結合部材とを備える。これらを総称した完成構造物として、以下「平板ブロック体」と称す。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係る法面安定化工法によれば、補強鉄筋枠と、補強鉄筋枠を充填し、かつそれを取り囲むモルタルとからなる平板ブロック体は、強度を維持するのに必要な鉄筋量、板厚、接地面積を確保するように設けられているので、幅広いアンカー荷重に対応できる。また、二次製品受圧板を使用せずに、不陸調整部および本体部をモルタルで連続的に吹付けることによって、法面を安定化する構造を実現できる平板ブロック体を形成することで、作業効率が大幅に上昇する。また、クレーン等を必要としないことから、多様な現場条件に対応し、安価とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】緊張・定着用アンカーの打設位置を決定する工程を説明するための図である。
【
図2】補強鉄筋枠を組立てて鉄筋枠固定用アンカーに取り付ける工程を説明するための図である。
【
図3】保孔管を設置する工程を説明するための図である。
【
図4】枠用型枠を設置する工程を説明するための図である。
【
図5】モルタルを吹き付ける工程を説明するための図である。
【
図8】頭部保護キャップの取付けを説明するための図である。
【
図12】補強鉄筋枠の鉄筋の配置関係および連結関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明に係る法面安定化工法は、二次製品受圧板を使用せずに、法面を安定化させる構造を得るための工法である。本発明に係る工法の一実施形態を、図面を参照しつつ以下に説明する。
【0037】
[1.緊張・定着用アンカーの打設位置の決定]
まず、
図1を参照する。法面を適宜整形し、ラス張り工等を施した後に、緊張・定着用アンカーの打設位置の検測を実施し、打設位置を決定する。その際、アンカー3の天端部分に取り付けられる頭部プレート4の位置から法面1の表面までの高さ寸法
(不陸調整領域と平板ブロック領域との合計高さ)を記録に残しておく。
【0038】
図1では、後に配置される保孔管2、保孔管2を通して法面1内に打設される緊張・定着用アンカー3および緊張・定着用アンカーの頭部に装着される頭部プレート4を想像線で示している。
【0039】
[2.必要な鉄筋量の計算]
後に平板ブロック領域に組立てられる補強鉄筋枠と、この補強鉄筋枠を充填しかつ周囲を取り囲むモルタルとからなる平板状鉄筋構造体(平板ブロック体)によって法面を安定化させるのに必要な強度を維持し得る鉄筋量を計算する。ここで必要な強度を維持し得る鉄筋量は、地盤支持力および設計アンカー力を考慮し算出された平板ブロック体構造により明白となる。この鉄筋量の計算に関しては、後に再度記載する。
【0040】
[3.使用する鉄筋径および本数の決定]
上記の計算に基づいて算出された必要な鉄筋量を上回るように、使用する鉄筋の長さ(規格)、直径、形状および本数を決定し、その決定に合致するように複数の鉄筋を準備する。
【0041】
[4.補強鉄筋枠固定用アンカーの先行打設]
図2に示すように、緊張・定着用アンカー3の打設位置を取り囲む位置
(平板ブロック領域)に補強鉄筋枠10を組み立てるために、先行して複数本の鉄筋枠固定用アンカー5を所定の位置関係で法面1に打設する。
【0042】
[5.補強鉄筋枠の組立て]
法面1の凹み部
(不陸調整領域)には、その凹み部をモルタル(又はコンクリート)で埋める不陸調整部20を設ける必要がある。用意した複数の鉄筋で補強鉄筋枠10を組立てるに際し、図示するように不陸調整部20を考慮して、補強鉄筋枠10の高さを決定する。
図2に示すように、用意した複数の鉄筋を所定の位置及び配置間隔で互いに固定連結して鉄筋枠10を組立て、この鉄筋枠10を鉄筋枠固定用アンカー5に結束部材等を用いて連結固定する。
【0043】
補強鉄筋枠10は、上部枠11と下部枠12とを備えるが、その具体的な構造については、後に記載する。
【0044】
[6.保孔管の設置]
図3に示すように、緊張・定着用アンカー3の挿入固定のために削孔する孔径に合わせて適切な保孔管2を選定し、この保孔管2を補強鉄筋枠10の所定位置に設置する。保孔管2は、後に挿入されるアンカー材3の保護管としての役割を果たす。保孔管2を設置する際、緊張時の方向取りに注意し、アンカー材3の頭部の垂れを修正した位置に補強鉄筋16を配置固定し、保孔管6を補強鉄筋枠10に固定する。
図11に、保孔管2を補強鉄筋16を用いて補強鉄筋枠10に固定している状態を示している。
【0045】
[7.枠用型枠(金網製)の設置]
図4に示すように、鉄筋枠固定用アンカー5に取付けた補強鉄筋枠10の周囲を取り囲み、所定のかぶりを確保して型枠17を設置する。法面の凹部に設ける不陸調整部20の高さが大きくなる面に固定用アンカー13を増打ちし、新たに補強鉄筋14を加えて専用の補修金網15を設置して結束固定する。
【0046】
[8.枠吹付工]
枠吹付工に用いるモルタルは、
強度試験等によって強度の要求性能を満たすように準備する。
図5に示すように、準備したモルタルを型枠17内に密実に充填するように吹き付ける。吹付け時は、型枠17が変形しないように
不陸調整領域および平板ブロック領域を下方から充填し、所定の高さになるまで連続して吹き上げてゆく。
【0047】
不陸調整部20の高さが大きい場合には、吹付けを段階的に施工するように切り替える。具体的には、一次吹付けとして不陸調整部20だけにモルタルを充填し、下地処理を実施する。吹付け面の仕上げは、コテ作業を基本とする。
【0048】
その後に、二次吹付けとして、補強鉄筋枠10を埋める本体吹付けを行う。
【0049】
[9.頭部面調整]
補強鉄筋枠10を充填しかつ周囲を取り囲むモルタルの平板ブロック体30の上面と、アンカー材3の角度が直交しない場合には、
図6に示すようにアンカー方向に対する頭部面の調整を行う。調整具は、鋼製台座31であり、平板ブロック体30の上面に設置する。調整具31の上面とアンカー材3とは直交した関係となる。
【0050】
調整具31を用いるのは、不陸調整部20の肥大化を抑制するためである。
【0051】
[10.ボーリング]
保孔管2を通してボーリングを行い、アンカー材3を挿入固定するための孔を形成する。
【0052】
[11.アンカー材の固定]
図7に示すように、アンカー材固定用の孔にアンカー材3を挿入し、グラウト材を注入してアンカー材3を固定する。
【0053】
[12.緊張定着工]
緊張定着工は、材齢日等によりモルタルが所定の強度に達したことを確認した後に行う。露出しているアンカー材3の頭部を取り囲む頭部プレート4を設置し、緊張ジャッキ32を用いてアンカー材3を引張り、所要の残存引張力が得られるように初期緊張力を導入する。
【0054】
そして、緊張力を維持した状態でくさびを打ち込み、アンカー材3の頭部と頭部プレート4とを強固に固定する。こうして、施工現場で不陸調整部20と平板ブロック体30とを一体にした不陸調整一体型独立受圧板を得ることができる。
【0055】
[13.頭部保護キャップの取付]
頭部プレート4から大きく突出するアンカー材3の部分を切断し、その後にアンカー材3の切断頭部を覆うように頭部保護キャップ33を頭部プレート4に取付ける。
【0056】
以上で全体の工程が終了する。従来技術とは異なり、数100kgの重量のある二次製品受圧板を必要としないので、現場での適用範囲が向上し、安価となる。
【0057】
より詳しく説明する。補強鉄筋枠10と、補強鉄筋枠10を充填し、かつそれを取り囲むモルタル(又はコンクリート)とからなる平板ブロック体30は、躯体強度を維持するのに必要な鉄筋量、板厚、接地面積を確保するように設けられている構造物成果品となるので、重い二次製品受圧板の使用を省略できる。
【0058】
二次製品受圧板を使用せずに、施工現場でモルタルを連続的に吹付けることによって形成され、法面を安定化する不陸調整一体型独立受圧板は、幅広いアンカー荷重と現場条件に対応することで、万能独立板となり得る。
【0059】
[平板ブロック体の強度計算の一例]
図9および
図10は、平板ブロック体の形状および寸法を示している。
【0060】
a)計算条件
強度計算のための条件は、例えば以下の通りである。
【0061】
外力(設計アンカー力):1本あたりの緊張・定着用アンカーに対してTd=400kN/本
許容支持力:qa=300kN/m2
平板ブロック体30の縦長寸法L1:1.50m
平板ブロック体30の横長寸法L2:1.50m
頭部プレート2の幅u:280mm
仮想梁幅(梁高h×梁幅b):500mm×1080mm
梁断面(有効高d):400mm
許容応力度(コンクリート)
設計基準強度:σ ck=18.0N/mm2
許容圧縮応力度:σ ca=7.0N/mm2
許容せん断応力度:τ ca=0.400N/mm2
許容押し抜きせん断応力度:τ pa=0.800N/mm2
許容付着応力度:τ oa=1.40N/mm2
許容引張応力度(鉄筋):σ sa=196.0N/mm2
b)計算結果
上記条件での計算結果は、次の通りである。
【0062】
最大曲げモーメント:38.76kN・m
最大せん断力:127.08kN
c)鉄筋の条件
上記の条件および計算結果を満足する主鉄筋の条件の一例は、例えば、以下の通りである。
【0063】
使用する主鉄筋の直径:22mm
補強鉄筋枠の形状:縦横に鉄筋を配置した枠を上方および下方に配置する。
【0064】
上方枠中の縦鉄筋の量および本数:1548.4mm
2以上および4本以上
上方枠中の横鉄筋の量および本数:1548.4mm
2以上および4本以上
下方枠中の縦鉄筋の量および本数:1548.4mm
2以上および4本以上
下方枠中の横鉄筋の量および本数:1548.4mm
2以上および4本以上
[補強鉄筋枠の構造の一例]
図11および
図12に補強鉄筋枠10の構造の一例を示す。図示した実施形態では、補強鉄筋枠10は、相対的に低い高さ位置で縦横に交差する複数の縦鉄筋41aおよび複数の横鉄筋42aを含む下部鉄筋枠と、下部鉄筋枠の上方位置で縦横に交差する複数の縦鉄筋41bおよび複数の横鉄筋42bを含む上部鉄筋枠と、下部鉄筋枠と上部鉄筋枠とを連結する結合部材とを備える。強度上必要とされる鉄筋量を上回るようにするために、下部縦鉄筋41a、下部横鉄筋42a、上部縦鉄筋41b、上部横鉄筋42bの本数は、それぞれ8本であり、各鉄筋の直径は19mmである。
【0065】
図12に示すように、下部鉄筋41a,42aは、それぞれ、その両端部分が上方に屈曲し、上部鉄筋41b、42bは、それぞれ、その両端部分が下方に屈曲している。上下の枠体の鉄筋の両端部同士を結合部材で連結固定する。また、縦鉄筋41a,41bと横鉄筋42a,42bとが交差する部分も結合部材で連結固定する。
【0066】
上記の構造とすることにより、必要な強度を維持し得る鉄筋量を上回るようになり、受圧板を使用しなくとも、平板ブロック体によって法面を安定化させることが可能になる。
【0067】
なお、高品質のオプション仕上げとして、平板ブロック体にポリウレア樹脂を吹付けることによって、躯体の耐用年数を大幅に増加させることができる。また、国定公園内などで景観色を求められる場合には、吹き付けるモルタルに着色剤を添加するようにしてもよい。さらに、塩害や凍結融解に対する長期耐久性が求められる場合には、モルタルに補強材(例えば、ビニロン繊維)を含ませるようにしてもよい。
【0068】
図示した実施形態では、補強鉄筋枠は、下部鉄筋枠と上部鉄筋枠とを備える構造であったが、例えば下部鉄筋枠だけ、または上部鉄筋枠だけを単独設置することもあり得る。その場合には、適正な鉄筋量とするために、各縦鉄筋および各横鉄筋を、それぞれ、平行に延びる2本の鉄筋対で構成してもよい。
【0069】
以上、図面を参照して本発明の一実施形態を例示的に説明したが、この発明の範囲内において、または均等の範囲内において、図示し説明した実施形態に対して種々の修正や変更を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、効率的かつ安価に法面を安定化させる工法として有利に利用され得る。
【符号の説明】
【0071】
1 法面、2 保孔管、3 緊張・定着用アンカー、4 頭部プレート、5 鉄筋枠固定用アンカー、10 補強鉄筋枠、11 上部枠、12 下部枠、13 固定用アンカー、14 補強鉄筋、15 補修金網、16 補強鉄筋、17 型枠、20 不陸調整部、30 平板ブロック体、31 鋼製台座(調整金具)、32 緊張ジャッキ、33 頭部保護キャップ、41a 下部縦鉄筋、42a 下部横鉄筋、41b 上部縦鉄筋、42b 上部横鉄筋。
【要約】 (修正有)
【課題】受圧板を用いずに、法面を安定化させる工法を提供する。
【解決手段】緊張・定着用アンカー3の打設位置を決定し、平板ブロック体30によって法面1を安定化させるのに必要な強度を維持し得る鉄筋量を計算し、その決定に合致するように複数の鉄筋を準備し、複数本の鉄筋枠固定用アンカー5を法面に打設し、準備した複数の鉄筋を互いに連結固定して補強鉄筋枠10を組立て、この補強鉄筋枠を鉄筋枠固定用アンカーに連結固定し、保孔管を補強鉄筋枠の所定位置に連結固定し、補強鉄筋枠を充填しかつ取り囲むようにモルタルを吹き付け、法面上に平板ブロック体を作製し、ボーリングを行いアンカー用孔を形成し、アンカー用孔内に緊張・定着用アンカーを挿入し、グラウト材を注入してアンカーを固定し、アンカーを引張り、所要の残存引張力が得られるように初期緊張力を導入し、緊張力を維持した状態でアンカーの位置を固定することを特徴とする。
【選択図】
図5