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特許7499009エアゾール製品及びこれを用いた建設系構造物の表面保護方法、並びにこれに表面保護された建設系構造物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】エアゾール製品及びこれを用いた建設系構造物の表面保護方法、並びにこれに表面保護された建設系構造物
(51)【国際特許分類】
   B65D 83/66 20060101AFI20240606BHJP
   B65D 83/14 20060101ALI20240606BHJP
   B65D 83/60 20060101ALI20240606BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240606BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20240606BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20240606BHJP
   B05D 1/02 20060101ALI20240606BHJP
   E04G 23/00 20060101ALI20240606BHJP
   C04B 41/63 20060101ALI20240606BHJP
   E21D 11/10 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
B65D83/66 200
B65D83/14 100
B65D83/60
B05D7/24 301E
B05D7/14 P
B05D7/00 C
B05D7/00 D
B05D7/24 301U
B05D1/02 D
E04G23/00
C04B41/63
E21D11/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019091677
(22)【出願日】2019-05-14
(65)【公開番号】P2020186029
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】森田 裕夫
(72)【発明者】
【氏名】北川 一希
(72)【発明者】
【氏名】太田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】久保原 猛
(72)【発明者】
【氏名】藤間 誠司
(72)【発明者】
【氏名】高安 政春
【審査官】植前 津子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-158073(JP,A)
【文献】特開2011-168440(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0011524(KR,A)
【文献】特開2000-319550(JP,A)
【文献】実公平03-004374(JP,Y2)
【文献】特開2009-106813(JP,A)
【文献】特開2004-075819(JP,A)
【文献】特開2001-253484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 83/14-83/74
B05D 1/00- 7/26
B05B 7/04
B05B 9/04
E04G 23/00-23/08
C04B 41/00-41/72
E21D 11/00-19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の液剤及び液体である噴射剤の混合物を封入する外容器と、
前記外容器から分離され、かつ第二の液剤を封入する内容器と、
前記内容器を外部から開封することで前記混合物と前記第二の液剤との混合を可能とする機構と
を含む携行用エアゾール容器であって、
前記第一の液剤と前記第二の液剤がそれぞれ、2液型反応硬化性液状樹脂の各成分に相当し、
前記第一の液剤及び前記第二の液剤の体積を100とするときの前記噴射剤の体積の比率が、100に対して65~230の範囲であり、
前記2液型反応硬化性液状樹脂が(メタ)アクリル酸エステル類を主成分とする2液主剤型反応硬化性液状樹脂であり、
前記第一の液剤又は前記第二の液剤のうちの片方に少なくとも(メタ)アクリル酸エステル類及びラジカル源を含有し、もう片方に少なくとも(メタ)アクリル酸エステル類及び前記ラジカル源と反応しラジカルを発生させることができる還元剤を含有する
ことを特徴とする携行用エアゾール容器
【請求項2】
前記第一の液剤又は前記第二の液剤のうちの前記ラジカル源を含む液剤について、前記ラジカル源の量がその液剤中の5質量%未満であることを特徴とする請求項1に記載の携行用エアゾール容器
【請求項3】
前記噴射剤が液化天然ガス又はジメチルエーテルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の携行用エアゾール容器
【請求項4】
前記第一の液剤及び前記第二の液剤の体積を100とするときの前記噴射剤の体積の比率が、100に対して150~230の範囲であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の携行用エアゾール容器
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の携行用エアゾール容器からエアゾールを噴射して、コンクリート、モルタル、レンガ、軽量発泡コンクリート、スレート、ケイ酸カルシウム板、及び金属からなる群から選択される一種以上の表面に、前記2液型反応硬化性液状樹脂からなる塗膜を形成する建設系構造物の表面保護方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法で表面保護された建設系構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外容器と内容器を有する二重容器構造のエアゾール製品であって、外容器に第一の液剤を噴射剤と混合溶解して封入し、かつ内容器に第二の液剤を封入したものに関する。本発明はさらに、当該エアゾールを建設系構造物に吹き付けて表面に樹脂皮膜を形成する表面保護方法、および表面保護された建設系構造物にも関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルのコンクリート剥離・剥落への対策として日々の検査の中で、目地部やジャンカ部等の不安定箇所や小さい浮きの叩き落としを実施している。しかしながら、一度叩き落とした箇所は、次回の検査以降、再び叩き落としが必要な箇所となることが多く、次第に叩き落とした範囲そのものが広がる。そのため、こうした箇所に補修材料を塗布し、樹脂皮膜を形成して表面を保護できれば、当面の剥落対策に充分な効果を発揮できると考えられており、多様な材料や資材、機材を用いた方法で対策が取られている。
【0003】
しかしながら、現在広く行われている対策方法には以下の課題がある。
(1)補修材料の取扱いには、計量や混合、塗布といったある程度の専門性が必要である。
(2)一般に入手可能な補修材料を使用する場合には、通常の保護養生資材の他に、計量機械、混合機械、混合容器、及びローラーや刷毛等が必要で、検査に持ち歩く場合に携行荷物が多くなる。また洗浄に使用する溶剤やウェスも必要になり、廃棄物も多く発生する。
(3)被施工箇所は点在している場合が多く、その都度補修材料の計量混合、器具による施工、洗浄が必要で、その都度、廃棄物が発生する。
(4)補修材料を凹凸のある面に斑なく塗布するには吹き付け施工が好ましいが、このような施工は一般的に動力を必要とするために、簡便さが失われ工事発注が必要となりコストが高くなる。
【0004】
近年、これらの課題解消を目的として補修材料をエアゾール化した製品が開発され、実際に点検現場で用いられている。特許文献1は、いわゆる2液主剤型と呼ばれるアクリル系反応硬化性樹脂の2つの液剤をそれぞれエアゾール化した2缶タイプの補修材料である。この補修材料はそれぞれのエアゾールを被補修箇所に順番に噴射して接触混合させるか、2つのエアゾール缶を専用のアタッチメントに取り付けて同時に噴射し2つの液剤を大気中で衝突混合させるもので、比較的簡便な方法で表面保護が可能である。しかしながら、常に2つのエアゾール缶と専用アタッチメントを携行しなくて良いといった簡便さを有すること、2つの液剤の混合比が所定比からずれにくいこと、大気中での衝突によらずに混合できるので信頼性が高いこと、といった特徴を有する本発明については記載がない。
【0005】
非特許文献1は、湿気硬化型の1液型のエポキシ樹脂をエアゾール化した製品に関し、この製品は被補修箇所に単純に噴射するだけで表面保護が可能である。しかしながら、こうした製品を実際に保存・使用する環境は高温多湿など苛酷であることが多い。このため製品内に湿気が侵入するのを防止するのは困難であり、開封して一度でも使用したエアゾールは時間経過とともにエアゾール先端のノズルが硬化閉塞して使用できなくなり未使用分がロスとなる問題が発生する(すなわち、ハンドリングタイムが短い)。また、未使用製品であっても保管中にエアゾール先端ノズルから湿気が侵入して硬化閉塞を起こしてしまうこともあり、いざ点検時に使おうとしたときに噴射ができず、しかもその使用可否が外見からは判らないといった課題もあった。またエポキシ樹脂は硬化時間が長いため、噴射後の樹脂皮膜の硬化までに長時間を要するために液だれが発生し、車両や軌道等を汚染する可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-168440号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】オバナヤ・セメンテックス社による製品パンフレット、コンクリート・レンガ・鉄さび等浸透固化材潜在硬化型エポキシ樹脂かため太郎(登録商標)、2015年9月発行 https://www.o-cc.com/pdf/cementex/catalog/ctlg_k.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の各課題を鑑み、2つの液剤を所定比に混合可能で、混合の信頼性も高く、かつハンドリングタイムの長い1缶タイプのエアゾール製品を提供することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、以下を提供できる。
【0010】
[1]
第一の液剤及び液体である噴射剤の混合物を封入する外容器と、
前記外容器から分離され、かつ第二の液剤を封入する内容器と、
前記内容器を外部から開封することで前記混合物と前記第二の液剤との混合を可能とする機構と
を含むエアゾール製品であって、
前記第一の液剤と前記第二の液剤がそれぞれ、2液型反応硬化性液状樹脂の各成分に相当する
ことを特徴とするエアゾール製品。
【0011】
[2]
前記2液型反応硬化性液状樹脂が(メタ)アクリル酸エステル類を主成分とする2液主剤型反応硬化性液状樹脂であり、
前記第一の液剤又は前記第二の液剤のうちの片方に少なくとも(メタ)アクリル酸エステル類及びラジカル源を含有し、もう片方に少なくとも(メタ)アクリル酸エステル類及び前記ラジカル源と反応しラジカルを発生させることができる還元剤を含有することを特徴とする[1]に記載のエアゾール製品。
【0012】
[3]
(メタ)アクリル酸エステル類を主成分とした2液型反応硬化性液状樹脂の大気中5℃におけるバルクの硬化時間が30分以下であり、前記噴射剤が液化天然ガス又はジメチルエーテルであることを特徴とする[1]又は[2]に記載のエアゾール製品。
【0013】
[4]
前記第一の液剤及び前記第二の液剤の体積を100とするときの前記噴射剤の体積の比率が、100に対して65~230の範囲であることを特徴とする[1]~[3]のいずれか一項に記載のエアゾール製品。
【0014】
[5]
[1]~[4]のいずれか一項に記載のエアゾール製品からエアゾールを噴射して、コンクリート、モルタル、レンガ、軽量発泡コンクリート、スレート、ケイ酸カルシウム板、及び金属からなる群から選択される一種以上の表面に、前記2液型反応硬化性液状樹脂からなる塗膜を形成する建設系構造物の表面保護方法。
【0015】
[6]
[5]に記載の方法で表面保護された建設系構造物。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、単独容器だけ携行すれば簡便に補修材料を被補修箇所へ噴射し硬化した液剤から塗膜形成が可能であり、噴射の際に二種の液剤の混合比を正確に設定でき、しかも混合の信頼性が高いという効果が得られる。またハンドリングタイムが長いため容器内の材料を使い切ることが可能で無駄がない。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書における数値範囲は、別段の断わりがない限りはその上限値と下限値を含むものとする。
【0018】
本エアゾール製品の容器としては、二種の液体をそれぞれに分離封入可能な外容器と内容器の二重容器構造を有し、かつ内容器を外部から開封することでその二種の液体の混合を可能とする機構を持つものであれば使用できる(以下、「外容器」と「内容器」の組み合わせをまとめて、製品としての単独の「容器」と称することがある)。容器は例えば缶やプラスチック容器であってよく、その材質は内容物に応じて任意に選択でき、例えば鉄、鉄合金、PET樹脂などであってもよく、またその内部や外部には容器保護や使用者の注意を惹く目印のために何らかのコーティングを有していてもよい。また内容器を開封する機構としては、内容器を破壊する手段(内容器を刺したり内容器に捩じ込んだりして内容器を不可逆的に破壊するための手段や、内容器を可逆的に開閉する弁等)と、それを外部から使用者が操作できる手段(容器の外部に露出するダイヤルやスイッチ等)とを含むことが好ましい。安価に実現できるという経済性の観点からは内容器を不可逆的に破壊する手段を使うことが好ましい。また誤操作の防止という観点からは内容器を可逆的に開閉する手段を用いるのが好ましい。
【0019】
なお本発明の実施形態において内容器に液剤(液状樹脂)のみを充填し、その一方で外容器に液剤と噴射剤を混合して充填する構成を採るのは、以下の理由による。すなわち、エアゾール分野で使われる噴射剤は一般に沸点が低く、開放されると断熱膨張する。また容器の構造上、内容器の大きさは外容器に比べて相当に小さくせざるをえない。すると、小さい内容器に噴射剤が入っていると、内容器を開封した際に、まだ外容器から外気へと噴射する前にもかかわらず外容器内の温度が下がりすぎ、噴射操作時に支障をきたす場合がある。本発明者はこの問題を踏まえ、上記の構成を採用した。
【0020】
内容器を開封した後には、内容器とつながった外容器を使用者がよく振り混ぜることで、2液型反応硬化性液状樹脂の硬化反応を開始できる。
【0021】
そのようなエアゾール容器の具体例としては、スズカファイン社製の外容器と内容器を組み合わせ、内容器開封手段を設けたものが挙げられる。また別の具体例としては、単独の容器内で二種の液体を分離封入でき、かつ、その二種の液体を混合可能な機構を有するエアゾール容器等が挙げられる。
【0022】
本エアゾール製品が含む2液型反応硬化性液状樹脂は、二種の液剤に分けられており、それらを混合することで重合硬化反応が開始する特徴を有する。このような液状樹脂としては、主剤と硬化剤が全く異なる消防法危険物第四類に分類される組成物からなるエポキシ樹脂(例えば主剤がエポキシ樹脂化合物で硬化剤がポリアミン化合物)、ウレタン樹脂(例えば主剤がポリオール化合物で硬化剤がポリイソシアネート化合物)、ポリウレア樹脂(例えば主剤がポリイソシアネート化合物で硬化剤がポリアミン化合物)、主剤が消防法危険物第四類で硬化剤が消防法危険物第五類である有機過酸化物そのものあるいは有機過酸化物を多く含有する不飽和ポリエステル樹脂及びビニルエステル樹脂、いわゆる2液主剤型と呼ばれる(メタ)アクリル酸エステル類(消防法危険物第四類)を主成分とする硬化性アクリル樹脂などが挙げられる。
【0023】
2液型反応硬化性液状樹脂としては、これらの中ではハンドリングタイム(硬化時間)や液剤の粘性を調整しやすく、硬化時間が速い(メタ)アクリル酸エステル類を主成分とする2液主剤型硬化性アクリル樹脂(以下、2液主剤型反応硬化性液状樹脂ということもある。)が好ましい。2液主剤型硬化性アクリル樹脂の一般的な形態は2つの液剤で構成され、両液剤には主成分としてそれぞれ(メタ)アクリル酸エステル類を含有し、片方の液剤には更に有機過酸化物等のラジカル源を含有し、もう片方の液剤に更に当該ラジカル源と反応しラジカルを発生させることができる還元剤を含有するものが挙げられる。2液主剤型硬化性アクリル樹脂では、消防法危険物第五類に分類される有機過酸化物等のラジカル源は、それを含む液剤中の概ね5質量%未満であるのが好ましい。片方の液剤を第一の液剤といい、もう片方の液剤を第二の液剤ということもある。片方の液剤を第二の液剤といい、もう片方の液剤を第一の液剤ということもある。
【0024】
2液主剤型硬化性アクリル樹脂の例としてはデンカハードロックII(デンカ社製)が挙げられる。デンカハードロックIIの中ではエアゾールにした場合に、噴射剤に溶解して缶内封入した場合でも沈降や分離の恐れが小さく、エアゾールとして噴射したときにノズル先端の詰まりを防ぐために無機充填剤を含有しない品種である製品名DK550-003やER153-005が好ましい。
【0025】
被補修箇所に噴射されたエアゾールから得られる塗膜は速く硬化することが好ましい一方、2液型反応硬化性樹脂の二種の液剤を単独容器内で混合して使用し、かつ液剤を使い切るためには、容器内におけるハンドリングタイムができるだけ長いことが好ましい。本発明者らはこれら相反する要求を満足させるために、2液主剤型硬化性アクリル樹脂の大気中における硬化時間及び容器内での噴射剤と液剤の混合溶解比をある範囲内とするのが好ましいことを見出した。
【0026】
ラジカル重合性樹脂である2液主剤型硬化性アクリル樹脂を用いる場合には、酸素による硬化遅延作用を受けるため、特に塗膜(薄膜)を得ようとした場合には、バルク(容器内で混合した)の場合よりも硬化時間が大きく遅れる傾向がある。したがって2液主剤型硬化性アクリル樹脂の大気中における硬化時間は短い方が好ましい。非特許文献1のエポキシ樹脂エアゾールの樹脂皮膜より短時間で硬化させる(硬化時間を8時間未満にする)ためには、5℃の環境でのバルクの硬化時間を30分以下とするのが好ましい。
【0027】
なお、本明細書におけるバルクでの硬化時間の測定は、JIS A 6024:2015「建築補修用及び建築補強用エポキシ樹脂」5.31節「可使時間」に規定される試験方法に準拠して行い、硬化時の温度-時間曲線における温度が最大となったときに硬化したと判断し、その温度が最大となったときの時間を硬化時間とする。
【0028】
また、本明細書における樹脂皮膜の硬化時間は、JIS A 5371:2016「プレキャスト無筋コンクリート製品」附属書B、推奨仕様B-1平板、普通平板N300に規定されるコンクリート板の表面に液剤が0.5kg/m2の樹脂皮膜(約500μmの厚さ)となるようにエアゾールを噴射し、噴射からの時間計測を行い、樹脂皮膜を指触して、指とコンクリート表面との直接接触が感じられなくなる程度となった時間と定義する。
【0029】
本エアゾール製品が含む2液型反応硬化性液状樹脂のうちの一方の液剤を混合溶解する噴射剤は、JIS Z 8703:1983で規定する常温において液体である。噴射剤としては、液剤の溶解性の点からは液化天然ガスまたはジメチルエーテルが好ましいが、これらに限定はされず、エアゾール分野で用いられる任意の物質を使用可能である。
【0030】
噴射剤と2液型反応硬化性液状樹脂の各液剤の合計との混合溶解比は、エアゾールとして機能させることと経済性の観点に加え、液剤を使い切るために容器内におけるハンドリングタイムをできるだけ長くする観点を踏まえると、各液剤の合計の体積100に対する噴射剤の体積の比率(容量比)が、液剤100に対して65~230の範囲であるのが好ましく、150~230の範囲であるのがより好ましい。
【0031】
噴射剤の容量比が2液型反応硬化性液状樹脂の各液剤の合計100に対して230以下であるとエアゾール内の液材料が少なすぎず、単独容器のエアゾールで噴射施工可能な補修面積が適度に確保でき、経済性が優れるばかりでなく、点検に複数のエアゾールを携行しなければならない煩雑さを回避しやすい効果が得られる。
【0032】
また噴射剤の容量比が2液型反応硬化性液状樹脂の液剤100に対して65以上であると、容器内におけるハンドリングタイムを長くできる効果が得られる。これは噴射剤の量が適切であると液剤を十分に希釈する役割を果たすため、内容器を開封した後にもハンドリングタイムを十分に確保できるためと考えられる。
【0033】
本開示に係る実施形態では、エアゾール製品からエアゾールを噴射して、コンクリート、モルタル、レンガ、軽量発泡コンクリート、スレート、ケイ酸カルシウム板、及び金属からなる群から選択される一種以上の表面に、前記2液型反応硬化性液状樹脂からなる塗膜を形成して、建設系構造物の表面を保護できる。
【実施例
【0034】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0035】
<使用材料>
2液型反応硬化性液状樹脂:2液主剤型硬化性アクリル樹脂、製品名デンカハードロックIIDK550-003WのA剤及びB剤(A剤は熱ラジカル重合開始剤を含有、B剤は還元剤を含有)(液剤イ)、デンカハードロックIIER153-005F(液剤ロ)(いずれもデンカ社製)
噴射剤:ジメチルエーテル(噴射剤イ)(市販品)、液化天然ガス(噴射剤ロ)(市販品)
エアゾール容器:スズカファイン社製、外容器と内容器を用い、内容器を外部から破壊するためのバルブを操作するダイアルを外容器の外部に露出するように設けたもの
【0036】
<比較例>
非特許文献1に記載のエポキシ樹脂エアゾール(製品名かため太郎、オバナヤ・セメンテックス社製)
【0037】
表1に示すような8種類のエアゾール製品を調製、試作した。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に示したエアゾール製品と比較例について、5℃での皮膜の硬化時間、容器内におけるハンドリングタイムを測定し、比較し結果を表2に示した。
【0040】
【表2】
※1: 噴射形態が霧状となり、コンクリート板表面に良好な塗膜形成ができなかった。
※2: 比較品は一液型のエポキシ樹脂のため、エアゾール容器内で硬化することはない。
【0041】
樹脂皮膜の硬化時間は前記の方法により測定した。
【0042】
容器内でのハンドリングタイムは、内容器を開封して外容器内で2つの液剤を混合開始したときから時間計測を行い、30分毎にエアゾールを噴射し、噴射ができなくなる直前までの時間をハンドリングタイムとした。
【0043】
本発明のエアゾール(実施例)では、内容器を開封した後に混合して、エアゾール噴射が可能であった。また好ましい実施例では特に、樹脂皮膜の硬化が速いにもかかわらず、エアゾール缶内における硬化時間が長いため、長時間のハンドリングタイムが確保され、かつ噴射状況も良好であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のエアゾール製品によれば、簡便に構造物表面に樹脂皮膜を形成可能で、皮膜の硬化時間が早く、かつハンドリングタイムが長い使用が可能な表面保護が可能であり、構造物点検時の簡易的な応急対策が可能である。